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売上最小化、利益最大化の法則

はじめに年商100億円で利益1000万円のA社。年商1億円で利益1000万円のB社。あなたは、どちらの会社を経営したいだろう?利益はどちらも1000万円だが、A社の売上はB社に比べ100倍。だから、売上重視の人はA社を好むかもしれない。だが、見方を変えれば、A社のほうが100倍仕事をしている。100倍苦労しているとも言える。最終利益が同じなら、労力100分の1で効率よく利益を上げたB社のほうがいい。売上100倍は手間も100倍。経営していれば常にトラブルが起こるが、トラブルは売上に比例して多くなる。利益が同じなら、売上が大きいほうがリスクは高い。経営における最大の目的は利益を上げること。利益は会社がどれだけ社会に役立っているかを示す。利益から税金が支払われ、国のために使われる。利益があれば会社経営は安定し、トラブルに襲われてもつぶれない。経営者の最大の使命は「永続的経営」に力を尽くすこと。何事にも動じない盤石な会社をつくること。そのためには、できるだけトラブルやリスクを軽減する経営に努める。景気は必ず好不況を繰り返す。災害、感染症などのアクシデントに見舞われる可能性も高い。だからこそ不況を前提にした企業づくりが必要だ。経営者は、たとえ売上ゼロになっても、全社員に給料を払い、家賃を払い、毎日安心して働ける環境をつくる。身の丈を超えた大きな投資をする前に、何があっても社員を守る財務状況をつくるべきだ。私が経営する「北の達人コーポレーション」は売上約100億円、営業利益約29億円(2020年2月期)。営業利益29億円の会社は珍しくないが、業界内では「営業利益率29%はかなり高い」と言われる。実際、日本のeコマース専業上場企業の中では、2021年2月期はやや落ち込んだものの、営業利益率は依然トップだ。また、利益率の高さは、「商品の原価率が低いせいではないか」「社員の給料が安いためではないか」と言われることがある。しかし、原価率は業界標準の2~3倍かけており、新卒初任給は日本で2番目(2021年実績)の高さだ(日本経済新聞「初任給ランキング2021」)。私は創業以来、利益重視の経営をしてきた。2000年に、当時住んでいた大阪の自宅マンションで、北海道特産品のネット通販「北海道・しーおー・じぇいぴー」をスタート。軌道に乗った2002年に北海道に渡り、「株式会社北海道・シーオー・ジェイピー」を設立(2009年に株式会社「北の達人コーポレーション」に商号変更)。現在は、のちに立ち上げた健康食品、化粧品の自社ブランド「北の快適工房」のネット販売が主業務となっており、東京、札幌、台湾、韓国に拠点を置いている。本書では、手元資金1万円からスタートした事業が、売上100億円、利益29億円となった秘密、高利益体質になったノウハウを初めて公開する。私の考えはシンプルだ。利益につながらない業務はやめる、もしくは変える。そのためには、会社の全活動が利益につながっているかを把握する必要がある。それが「5段階利益管理」という独自の手法だ。私は20年間、毎月、5段階利益管理表を見ながら業務改善を行い、強い会社をつくってきた。本書の構成は図表1のとおりだ。

机上の空論ではなく、具体的なノウハウを紹介するので、うまく取り入れれば、あなたの会社は高利益体質に変わる。どんな業種でも、拠点が大都市でも地方でも、実践可能だ。この本には44の図表があるが、図表は文章の補足ではなく、図表そのものに単独の解説が入っているので図表部分を飛ばさずにしっかり読み込んでほしい。そうすることで面白さが倍増することを保証する。第1章では、なぜ売上より利益が大切かを説明する。新型コロナ禍で事業継続の難しさを多くの人が実感しているだろう。当社も大きなダメージを受けた。当社はそうした事態に備え、「無収入寿命」をのばす戦略を取ってきた。無収入寿命とは、売上ゼロになっても経営の現状維持ができる期間を指す。減給などのコスト削減なしで全従業員の雇用を維持し、家賃を支払い、その間に会社を立て直す。ここでは、売上ゼロでも生き残れる「無収入寿命」のつかみ方を紹介する。第2章では、売上OSが利益OSに変わる!売上最小化、利益最大化の法則に触れる。売上はコストをかければ簡単に上がる。100億円の売上を上げたいなら大量に広告を打てばいい。しかし、変化の激しい時代、先行投資期に売上が上がっても、回収期には市場が変わって利益が回収できないことはよくある。だからこそ売上と利益をセットで管理する経営方式を採用しなくてはならない。よって、今回のようなコロナ禍にも負けない盤石経営のために、「売上を下げることで利益を増やす」という経営手法も紹介する。さらに、会社を利益体質にするには、社員が利益志向でなくてはならない。そこで私自身が社員に行っている研修「何のために利益を出すのか」を実況中継する。第3章では、会社の弱点が一発でわかる「5段階利益管理」について解説する。私のセミナーで5段階利益管理を知った人は、「利益に貢献している商品、していない商品がはっきりした」「事業部ごとに5段階利益管理をやった結果、どの事業部がうまくいっているかがわかった」「それまでコストをひとまとめに考えていたので、目からウロコだった」と興奮ぎみに語ってくれる。コストには、利益に貢献するコストと貢献しないコストがある。隠れたコストをあぶり出し、無駄なコストを低減させ、利益率を高くしていく。第4章では、小さい市場で圧勝する商品戦略を紹介する。年々、高品質商品でロングセラーを狙うビジネスモデルが主流になってきているが、当社の定期購入(サブスクリプション)による売上比率は約7割。これが利益を生み出す源泉になっている。第5章では、利益率29%を実現する販売戦略に触れる。販促費をかければ売上は上がる。だが、かけすぎると利益は減る。そこで「CPO(CostPerOrder:一件受注するのにかかるコスト)をマネジメントする方法」をお伝えする。さらに、売上を半減させ、利益を1・5倍、利益率を3倍にする方法を解説する。第6章では、ファンの心をつかんで離さない「演歌の戦略」(顧客戦略)を紹介する。「モノが売れる」と「モノが売れ続ける」とは違う。商品に興味のある人だけにアプローチし、一度買っていただいたお客様とは一生おつき合いする「演歌の戦略」を初めて公開する。第7章では、未経験者でも利益を上げ続ける人材戦略に触れる。未経験者や新入社員を即戦力化する業務体制のつくり方、組織全体にコスト意識が芽生える「たった一つの方法」について紹介する。これまで多くの人から受けた質問、「なぜ、そんな小さな会社が時価総額1000億円もあるのか」「なぜ、若い社員がイキイキと働いているのか」などにも、きっちり答えるつもりだ。第8章(終章)では、売上1000億・利益300億円を実現する戦略を紹介する。私は社長業とマーケティング責任者を兼務している。経営直結型のマーケティングを行い、マーケティング数字はすべて経営数字に直結する。圧倒的なデータ量、各ウェブ広告メディアのアルゴリズム、ユーザー状況を徹底分析することで、商品開発と効果的な広告宣伝が両輪となり、これまで高収益を上げてきた。本書は私にとって初の著書となる。この本を読んだ人が1円でも多く利益を増やし、1円でも多く納税することでこの国の発展につながることを願って書いた。そのために、当社が高収益を上げる秘密を、出し惜しみすることなく公開することを、ここに約束する。2021年6月

目次売上最小化、利益最大化の法則はじめに目次

目次

1章売上ゼロでも生き残れる「無収入寿命」という考え方

1何事にも動じない盤石な会社に生まれ変わる不況とは無縁の経営を行う3つの方法売上ゼロでも現状維持できる「無収入寿命」とは「無収入寿命」をのばす4つの考え方松下式「ダム経営」と「無収入寿命」の関係無収入寿命を正確に算出する無収入寿命目標を達成する裏技2手持ち資金ゼロからの出発中3の公民の授業で習った会社のつくり方ネット通販で起業した3つの理由なぜ、北海道の特産品を扱ったのか資本金1万円、PC1台でスタート取り込み詐欺で全財産喪失!「無収入寿命0か月」と無一文からの再出発

第2章売上OSが利益OSに変わる!売上最小化、利益最大化の法則

1売上と利益をセットで管理する思考法

売上は上がっても利益が上がらない理由同じ利益なら売上は少ないほうがいい売上が少ないほうが経営が圧倒的に安定する理由売上10倍は「リスク10倍」を意味する2利益体質の会社をつくり史上初の4年連続上場メルマガ発行数は3倍なのに、売上は1・3倍のワケ「多産多死」から「少産少死」の経営へ矢沢永吉に触発された「DtoC」×「サブスクリプション」モデル利益は目的、売上はプロセス東証一部上場に売上と従業員数は関係ない3新入社員に社長がしている「利益」の話お金を儲けることは不道徳か稼いでいる会社は多くの人に役立っているそもそも利益とは何か利益を上げた会社は何をすべきか従業員一人あたり利益対決!「北の達人」vs「トヨタ」「NTT」「三菱UFJ」「KDDI」「三井住友」では、どっちが高い?売上OSを「利益OS」にする

第3章会社の弱点が一発でわかる「5段階利益管理」

1売上は高いが利益は低い商品、売上は低いが利益は高い商品の見分け方「隠れコスト」が見える化され、利益体質になる「5段階利益管理」商品別に利益を確認する【利益①】売上総利益(粗利)【利益②】純粗利(造語)【利益③】販売利益(造語)【利益④】ABC利益【利益⑤】商品ごと営業利益25段階利益管理の導入法

利益の分類はどうするか5段階利益管理の経費項目を決める経営者が率先して導入し、月次で共有する

第4章小さい市場で圧勝する商品戦略

1品質重視、ロングセラーを狙う商品開発ビジネスモデルを「特産品」から「健康食品」に変えた理由「長年の苦痛から解放される喜び」に大反響基本方針に「新規事業、新商品開発を行うときは必ずGDPが上がること」と書き込む小さな市場で圧勝する戦略「品質」に集中する理由「生活者の観点での品質」を評価する750項目徹底的な落下テストで破損原因を追及当社基準でNGなら発売中止全役員・従業員で1か月使って最終チェック2サブスクリプション(定期購入)を促す秘策効果を感じない盲点は「使い方」にあり知識ゼロを逆手に取ったマニュアルづくりおいしいものでも、食べ方を間違えたらおしまい最終的には、社員がその商品にほれ込めるかどうか10億円の商品を10個つくって売上100億円の発想

第5章利益率29%を実現する販売戦略

1「上限CPO」と「時系列LTV」をマネジメントする発想法上限CPOは「ここまでかけていい」販促費「時系列LTV」とは顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益なぜ、商品×広告媒体ごとに「時系列LTV」を出すのか上限CPOを厳守する2CPOと新規顧客獲得件数の相関性をどう見極めるか営業すればするほど顧客は増える?「イノベーター理論」に見る顧客獲得戦略最適「上限CPO」の算出法と9割の社長がハマる罠広告投資バランス指標で「機会ロス」「採算割れ」をチェック3売上最小化、利益最大化の法則売上半減でも、利益1・5倍、利益率3倍上限CPOを決め、それ以上は広告を出さない採算が合わない時間帯の広告は全部やめる「親広告」と「子広告」のマネジメント法たった8文字追加しただけで売上1・5倍

第6章ファンの心をつかんで離さない「演歌の戦略」

1目立つプロモーションはメリットゼロ「売れる」と「売れ続ける」は違うテレビ取材が殺到した理由比較検討されたうえで選ばれる商品をなぜ、ブームが去っても定期購入されるのか行列のできる店が成功したと言えない理由プロモーションは目立たないほうがいい知名度がなくても実力があれば売れる2必要な人だけに広告を届ける「マーケティングファネル」の思考法DtoCを制する「マーケティングファネル」とは1億円の認知コストで10億円の利益「誰に、何を、どう、伝えるか」の「何を」がクリエイティブのカギ3一回買ってくれた人とは一生つき合うお客様に愛され続ける「演歌の戦略」とは毎日30分、ファンにバースデーコメントを書くGLAYの戦略

社内に「商品カウンセリング課」をつくった理由AKB48も「演歌の戦略」で大ヒット

第7章未経験者でも利益を上げ続ける人材戦略

1未経験者でもすぐ成果が挙がる業務改善他の東証一部企業と「北の達人」との違い「ABC利益率」を把握し、新卒を即戦力化するパンクで痛感したオペレーションの大切さセル方式、ベルトコンベア方式のメリットとデメリット総合職社員中心とアルバイト・一般職社員中心では組織のつくり方は異なるカスタマー部門の改善ビフォー・アフター未経験でも入社1週間で即戦力化する方法優秀な人がくるように会社を大きくする成長スパイラル改善の第一歩は、鳥の目で業務を俯瞰すること部下を変えようとしない。作業を変えよう2優秀な人材の見極め方求人広告「しゃべらない接客業」への意外な反応「IQ130」の人材を採る方法仕事に対する価値観は多種多様と思い知った倉庫アルバイトでの会話「給料が1万2000円高い」より「ランチ無料」が響く人3社員と会社の理念を共有する「GOOD&NEW」の何が効果的か人を育てる毎朝30分の「クレド」の習慣人は同じ時間に同じ内容を6回聞くと理解する4組織全体にコスト意識が芽生える「コスト削減キャンペーン」月間150万円、年間1800万円のコストを削減した秘策「応接室の花は2万円の赤字」仮説を検証する1億円のコストダウンをする方法「コスト削減キャンペーン」の真の狙い

第8章売上1000億・利益300億円を実現する戦略

1徹底的に無駄を排除するデジタルマーケティング戦略「数値化」と「ターゲティング」ウェブ集客を内製化する4つのメリットAIを活用したデジタルプロダクトマーケティングAIにできること、人間にできることターゲットにピンポイントで訴求する方法サイコグラフィックデータで「購買理由」がまるわかり三方よしの「ハッピートライアングル」を目指そう2日本を代表する次世代のグローバルメーカーとなるDtoCの代表格として世界ブランドにアメリカのアマゾンで日本発の商品を売るリアルとネットのマーケティング調査法企業の成長段階に応じた利益戦略人生を変えた「NTTのテレホンカード」事件5段階利益管理の項目と施策を連動させるおわりに

1「」「」上限CPOは「ここまでかけていい」販促費販促費の管理は、利益を上げるうえで重要だ。5段階利益管理では、利益②「純粗利」から利益③「販売利益」を導き出す過程で販促費を管理している。「販売利益」が対前月や他の商品に比べて悪化している場合、「販促費の投資効率が悪くなっている場合」と「販促費の先行投資を強化した場合」の2つの要因が存在する。しかし、後者の要因であった場合、「先行投資をしたのだから一時的に販売利益率が悪化するのは仕方がない」で終わらせていいわけではない。先行投資をしたなら、その投資がいつ、いくらになって回収できるのかを明確に把握しておく必要がある。そのためのマネジメント指標が「上限CPO」と「時系列LTV」だ。ここでは、売上最小化、利益最大化の法則を実践できるよう専門的に解説していく。マーケティングや広告に不慣れな人は、やや難しく感じるかもしれないが、まずは考え方を大まかに理解してほしい。また、経営者とマーケティング担当者とともに読み進めたりしてもいいだろう。実務では、「純粗利」から販促費を引いて「販売利益」を求めるが、ここでは計算を簡単にするために、純粗利率が100%と仮定して話を進めていく。まずは上限CPOの管理から話そう。CPOとは、コスト・パー・オーダー(CostPerOrder)の略で、一人のお客様を獲得(受注)するのにかかるコストを指す。どんな業種でも注文を取ろうとすれば、広告を出したり、営業したり、何らかの販売活動が必要だ。CPOをかければ売上は上がるが、5段階利益管理の経費項目にある販促費などのコストがかかり、利益は減る。売上は大きいが、利益の少ない会社はたいていCPOが過剰だ。だからこそCPOのマネジメントが必要となる。当社のようなネット通販では、CPOの大部分を広告費が占めるが、CPOを管理する仕組みができているので、入社半年の新人でも運用できる。一般的にCPOは「一件の受注に対してかかるコスト」と考えられるが、私は「一人のお客様と出会うのにかかるコスト」と定義している。一人のお客様に繰り返し注文いただくからだ。一人のお客様と長くおつき合いし、定期購入していただく。これは販促費の削減と高い利益につながる。では、具体的にCPOについて考えていこう。前述のように、当社のようなeコマース事業の場合、おもな販売活動は広告である。たとえば、100万円の広告費をかけた結果、100人のお客様を獲得できた場合、広告費100万円÷獲得したお客様100人=CPO1万円となる。一人のお客様が定期的に購入してくれる場合、CPOが何か月後に回収できるかを考えよう。たとえば、純粗利が3000円の商品で、CPOが1万円だと7000円の赤字だ(図表26)。

だが、その商品が定期購入の場合、4回目の購入で1万2000円の純粗利となり、黒字化する。だから一回の受注に対するコストというより、一人のお客様を獲得するコストと考えるのだ。「時系列LTV」とは顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益しかし、すべてのお客様が必ず4回購入するわけではないし、購入したとしても、いつ4回目の購入をするのかも人によって違う。よって収益を計算する際に必要となる指標が「時系列LTV」だ。LTVはライフ・タイム・バリュー(LifeTimeValue=顧客生涯価値)の略で、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益を指す。一般的には顧客の商品・サービスに対する愛着(顧客ロイヤリティ)が高いほど、LTVは高くなる。生涯といっても、通常、数か月から1年単位で区切って計算する。当社では、LTVを月ごとに時系列管理している。よって「時系列LTV」と呼んでいるのだ(図表27/ただし、図表27では3〜6か月目、6〜11か月目、11〜12か月目、12〜24か月目をまとめている)。

そのため1か月ごとの売上、コスト、利益とLTVを対応させることができる。多くのDtoC企業は、1回目、2回目、3回目のサブスク継続率だけ見ているが、この場合、1か月ごとの売上、コスト、利益とLTVを連動して見ることができない。たとえば、数か月間継続していたお客様が1か月休んだ、もしくは初回に3か月分まとめて購入したお客様が、3か月後に2回目の購入があった場合、単一の計算式では正確なデータが算出できない。だから、LTVを月ごとで時系列管理する。図表27で時系列LTVを見てみよう。商品AとBがある。価格は両方とも3000円だ。前述の例のとおり、100万円の広告で100人のお客様を獲得した(CPOは1万円)。この100人のお客様の初回注文では、商品A、Bともにお客様一人あたり平均購入額は3000円。ある人は1か月後に1個買い、ある人は2個買い、ある人は買わなかった。こうして100人の1か月後の購入額を平均すると、商品Aのお客様一人あたり平均追加購入額は1900円となる。初回の3000円と1か月後の1900円を足すと、時系列LTV(平均累計購入額)は4900円となる。これが1か月後の時系列LTVである。商品Aの2か月後を見ると、時系列LTVは6300円、さらに3か月後は7500円になった。定期購入を中止する人もいるので、少しずつ「のび率」が減少している。商品Aでは、一人のお客様を獲得するのに1万円かかっているので(CPOは1万円)、初回から11か月後までは赤字だが、12か月後にCPOが回収でき、これ以降はまるまる利益になる。これがCPOと時系列LTVの関係だ。時系列LTVは商品によって変わる。もう一度、図表27を見てほしい。1か月後の商品Aの時系列LTVは4900円、商品Bは4400円。2か月後の商品Aは6300円、商品Bは5500円。3か月後の商品Aは7500円、商品Bは6600円。だが11か月後を見ると、商品Aは9800円、商品Bは1万2000円と逆転している。商品Bはリピートするお客様の数は少ないが、それでもコアなファンを獲得していて、一度購入した人が繰り返し購入している。図表27にある一定期間の販売利益は、時系列LTVからCPOを引くと出てくる。一定期間の販売利益=時系列LTV(×純粗利率)-CPO※ここではLTVは売上(購入額)で算出している。実際の一定期間の販売利益を出す際はLTVに純粗利率をかけて算出するが、計算式が複雑になるので、ここでは純粗利率が100%の前提で説明する。たとえば、商品Aの12か月後の一定期間の販売利益は、時系列LTV1万1000円-CPO1万円=一定期間の販売利益1000円となる。当社では、あらかじめ得るべき一定期間の販売利益を決めている。1年間でどれくらい販売利益を出したいかを決めると、自然とCPOの上限が決まる。ここをきちんとコントロールすることが大事だ。たとえば、まず、商品Aで1年間に一人あたり1000円の販売利益を出すと決めると、CPOの上限は1万円と決まる。仮に100万円の広告費で、お客様を80人しか獲得できなかったら、CPOは約1万2500円になり、一定期間の販売利益1000円は達成できない。その場合、その広告はストップする。これが基本的な考え方だ。一人の顧客を獲得する経費内容は、企業によって異なる。広告以外にも営業など様々な販売活動がある。販促費はかければかけるほど売上が上がるが、効率の悪い広告や販売活動は一定期間の販売利益を圧迫する。ときおり、「グーグル検索したときに、自社の広告が一番上に表示されていればいい」という声を聞くが、それには大量の広告費がかかっているわけだ。もし一定期間の販売利益に結びついていなければ、まったく意味がない。施策の効果を数字で見ていくことが大切だ。なぜ、商品×広告媒体ごとに「時系列LTV」を出すのか当社では、商品と広告媒体ごとに時系列LTVを出している。当社は様々な広告媒体を使っている。同じ商品でも、広告媒体によってCPO、時系列LTVは変わる。たとえば、商品Aをグーグル広告で宣伝したとする。このときCPOは3000円。一方、別のポイント系サイト(ここで商品Aを買うとポイントがつく)ではCPOは1000円だった。ここだけ見ると、ポイント系サイトのほうがCPOが低いので、一定期間の販売利益が出やすそうに見える。しかし、1年後の時系列LTVを見ると、グーグル広告は7500円、ポイント系サイトは3000円だった。ポイント目当てで買った人はリピート率が低く、時系列LTVが低かったと考えることができる。1年間の販売利益は、グーグル広告:時系列LTV7500円-CPO3000円=一定期間の販売利益4500円ポイント系サイト:時系列LTV3000円-CPO1000円=一定期間の販売利益2000円グーグル広告のほうがCPOは高くても、一定期間の販売利益が多く出ていることがわかる。仮にこの商品の上限CPOを3000円と設定し、ポイント系サイトで販売すると、CPOは低いものの、赤字になってしまう。そのため、商品と広告媒体の組合せごとに時系列LTVを算出し、上限CPOを決めるのだ。また、「顧客獲得人数」をかけると、さらに正確な利益数字が計算できる。たとえば、グーグル広告とヤフー広告に100万円ずつ広告を出した。ヤフーでは100人のお客様を獲得し、グーグルでは80人だったとする。ヤフーのCPOは1万円だが、グーグルのCPOは1万2500円となり、この時点ではヤフーのほうが効率がいい。だが、継続して見る必要がある。その後、1年間の時系列LTVを見ると、ヤフーで獲得したお客様は一人平均2万円購入した。一方、グーグルで獲得したお客様は一人平均3万円購入した。まとめると次のようになる。ヤフー広告に100万円を払い、100人のお客様を獲得したので、CPOは1万円となる。ヤフー広告:広告費100万円÷獲得したお客様100人=CPO1万円その後1年間で、一人あたり2万円の売上が上がったので、一定期間の販売利益は1万円。ヤフー広告:時系列LTV2万円-CPO1万円=一定期間の販売利益1万円そして、この広告は100人のお客様を獲得しているので、全体で100万円の利益が出たことがわかる。

ヤフー広告:一定期間の販売利益1万円×100人=全体利益100万円一方、グーグル広告に100万円を払い、80人のお客様を獲得したので、CPOは1万2500円。グーグル広告:広告費100万円÷獲得したお客様80人=CPO1万2500円その後1年間で、一人あたり3万円の売上が上がったので、一定期間の販売利益は1万7500円。グーグル広告:時系列LTV3万円-CPO1万2500円=一定期間の販売利益1万7500円そして、この広告は80人のお客様を獲得しているので、140万円の全体利益が出たことがわかる。グーグル広告:一定期間の販売利益1万7500円×80人=全体利益140万円この場合だと、グーグル広告のほうが効率がいいことがわかる。広告媒体ごとにこのようなデータを出し、広告媒体ごとに上限CPOを設定する。まず、1年で一人のお客様からいくらの販売利益を出すのかを決め、逆算して広告媒体ごとの上限CPOを決めてみるのだ。上限CPOを厳守する多くの会社がCPOの目標を定めている。だが、その目標は揺らぎやすい。LTVが上がっていなくても、「続ければ結果が出るだろう」「今は赤字でも後から利益がついてくるはず」と楽観的に考え、販促費をふんだんにつぎ込む。しかし、いつ、いくらになって返ってくるのだろうか。CPOをかけ続ければ売上は上がる。しかし販促費もかかり続ける。これでは販売利益は出ない。しまいには赤字になる。仮に1年の販売利益を3500円と定めたら、図表27の商品Aの場合、12か月後の時系列LTVが1万1000円なので、上限CPOは7500円となる。これは時系列LTVの3か月後の数字と同じであり、3か月でCPO分が回収でき、トントンになることを示している。上限CPOを厳守することが重要だ。冒頭で、当社は新入社員でも広告を運用できると言ったが、上限CPOを決めていればこそだ。これを決めるとビジネスがシンプルになる。

2CPOと新規顧客獲得件数の相関性をどう見極めるか営業すればするほど顧客は増える?次に、CPOと新規顧客獲得件数の相関性について考えてみよう。ある商品を発売したとき、その商品の全体利益は、新規顧客獲得件数×顧客一人あたり利益(LTV-CPO)=全体利益で決まるから、新規顧客をいかに獲得するかが重要だ。お客様を獲得するコストがこれまで再三出てきた「CPO」だ。だが、CPOをかければ、新規顧客が無尽蔵に増え続けるというわけではない。広告費と新規顧客獲得件数の関係は「収穫逓減の法則」に当てはまる。収穫逓減とは、同じ投資をしても、利益の増加分がだんだん小さくなる状態を指す。たとえば、やせた土地に肥料を与えると、土が肥えて農作物の収量は増える。だが、一定水準以上の肥料を与え続けると、肥料を購入した金額に対して収量が見合わなくなる。また、所有する農地を広げれば耕作農地が増え、収量も増加するはず。ところが、農地の追加取得を続けていくと、肥沃な農地だけでなく、農業に適さない土地も取得するので収量が下がる。一定条件の下で、ある生産要素を増加させると、生産量は全体としては増加するが、その増加分は次第に小さくなる。つまり、営業活動を増やせば増やすほど新規顧客が獲得できるというわけではない。適正な営業活動は利益を最大化する。だが、それを超えると、利益を圧迫するコストになるのだ。「イノベーター理論」に見る顧客獲得戦略新規顧客獲得件数の増加に伴い、CPOは上がっていく。これは「イノベーター理論」で説明できる。イノベーター理論とは、新しい製品・サービス市場への普及率を示したマーケティング理論だ。1962年、スタンフォード大学のエベレット・ロジャーズ教授が『DiffusionofInnovations』(邦題『イノベーション普及学入門』宇野善康監訳、産業能率大学出版部、1981年。『イノベーション普及学』青池愼一・宇野善康監訳、産業能率大学出版部、1990年。『イノベーションの普及』三藤利雄訳、翔泳社、2007年)で提唱した。イノベーター理論では、普及の過程を次の5つの層に分類している(図表28)。

◎イノベーター(革新者)【市場全体の約2・5%】……最初期に製品・サービスを採用する層。情報感度が高く、新しいものを積極的に導入する好奇心を持つ。「新しい」ことに価値を感じ、市場にまだ普及していない、コストが高い製品・サービスでも、価値観に合致すれば即購入する。◎アーリーアダプター(初期採用者)【市場全体の約13・5%】……イノベーターほど急進的ではないが、これから普及するかもしれない製品・サービスにいち早く目をつけ、購入するユーザー層。世間や業界のトレンドに敏感で、常にアンテナを高く張って情報を判断し、これから流行りそうなものを採用するので、世間や業界のオピニオンリーダーやインフルエンサーになりやすい。◎アーリーマジョリティ(前期追随者)【市場全体の約34%】……情報感度は比較的高いものの、新しい製品・サービスの採用に慎重な層。アーリーアダプターの意見に大きく影響を受ける。◎レイトマジョリティ(後期追随者)【市場全体の約34%】……新しい製品・サービスについては消極的で、なかなか導入しない層。多くのユーザーがこの製品・サービスを採用していると確証を得てから採用する。◎ラガード(遅滞者)【市場全体の約16%】……市場の中で最も保守的な層。その製品・サービスがただ普及するだけではなく、伝統的、文化的なレベルまでそれを採用することが一般的にならないと採用しない。新しいものを積極的に導入する好奇心のあるイノベーターを獲得するためのCPOは低い。購入のハードルも低く、イノベーターが5人いれば一人は購入してくれる。ワンクリック100円とすると、5クリックで1購入なのでCPOは500円。一人のお客様が500円で獲得できる。ただし、イノベーターは市場全体の約2・5%しかいない。イノベーターを獲得してしまうと、次はアーリーアダプターになる。アーリーアダプターはこれから普及するかもしれない製品・サービスにいち早く目をつける。この人たちは10人に一人が購入する。ワンクリック100円とすると、10クリックで1購入なので、CPOは1000円。イノベーターに比べ、アーリーアダプターを獲得するためのCPOは高くなる。このように、図表28の右へ行くほど新規顧客獲得は難しくなり、CPOは高くなる。アーリーマジョリティのCPOは5000円、レイトマジョリティのCPOは1万円、ラガードはCPOをいくらかけても獲得は難しい。購入意欲が高い層を対象にしているうちは低いCPOで新規顧客が獲得できるが、対象が広がるとCPOは上がっていく。図表29を見てほしい。

1000人の市場にイノベーター理論の5つの層を当てはめてみた。イノベーターは25人、アーリーアダプターは135人、アーリーマジョリティとレイトマジョリティは340人ずつ、ラガードは160人いる。1日25人の新規顧客を獲得しようとすると、イノベーターだけが対象になるのでCPOは500円。さらに新規顧客を獲得しようとするとCPOは増える。イノベーターとアーリーアダプターを獲得しようとすると平均CPOは図表29のとおり922円、イノベーターとアーリーアダプターとアーリーマジョリティを獲得しようとすると平均CPOは3695円。獲得件数が増えるほど平均CPOは上がる。つまり、どれくらいの顧客を獲得しようとするかによってCPOは変わるのだ。また、商品発売からある程度時間が経つとCPOは上がる。発売直後と1年後を比べるとCPOは上がっている。購入意欲が高い人から獲得し、その後、意欲が低い人を新規獲得しようとするからだ。最適「上限CPO」の算出法と9割の社長がハマる罠CPOと顧客一人あたり利益、新規顧客獲得件数の関係を整理すると、次のようになる。CPOを下げる→新規顧客獲得件数は減、顧客一人あたり利益は増CPOを上げる→新規顧客獲得件数は増、顧客一人あたり利益は減したがって、最も全体利益が多くなる最適な上限CPOを見つけることが大切だ。全体利益は、新規顧客獲得件数×顧客一人あたり利益(LTV-CPO)で算出されるからだ。図表30を見てほしい。

ここでは1年のLTVが1万円の商品で、CPO、新規顧客獲得件数、1年売上、顧客一人あたり利益、全体利益を比較している。この商品の場合、CPOを3000円にすると、1年の新規顧客獲得件数は100件。CPOを9000円に引き上げると新規顧客獲得件数は一気に300件になる。CPOを上げれば上げるほど新規顧客獲得件数は増え、売上も上がる。だが、顧客一人あたり利益はどうか。LTVが1万円の商品だから、CPOが3000円なら、顧客一人あたり利益は7000円。CPOが4000円になると、新規顧客獲得件数は増えるが、顧客一人あたり利益は6000円に減る。CPOが9000円になると、新規顧客獲得件数は300件に増え、売上は300万円と最も増えるが、顧客一人あたり利益は1000円に減ってしまう。図表30で注目すべきなのは、全体利益が最も多くなるのはどこかだ。全体利益=新規顧客獲得件数×顧客一人あたり利益(LTV-CPO)顧客一人あたり利益が一番多いのは、CPOが3000円のとき、新規顧客獲得件数が一番多いのはCPOが9000円のときだ。だが、全体利益となると、CPOが3000円のときは70万円、CPOが9000円のときは30万円。全体利益が一番多いのは、CPOが6000円のときで80万円となる。全体利益を最大化するには、上限CPOを6000円にするのがベスト。CPOを6000円以上にすると、新規顧客獲得件数が増え、売上は上がる。しかしながら、「収穫逓減の法則」にハマって、全体利益は減っていく。多くの会社がこの〝罠〟に陥っている。レイトマジョリティやラガードまで振り向かせようと、無駄な投資を重ねているのだ。「収穫逓減の法則」や「イノベーター理論」を知らないと、CPO3000円で新規顧客を100件獲得し、全体利益が70万円出るなら、CPOを3倍の9000円に増やせば、新規顧客も3倍の300件、全体利益も3倍の210万円になると安易に考えてしまいがちだ。しかし、そうはならないことを図表30は教えてくれる。広告投資バランス指標で「機会ロス」「採算割れ」をチェックただし、CPOは低ければ低いほどいいわけではない。減りすぎると機会ロスになる。広告の投資効率の指標の一つに、ROAS(ReturnOnAdvertisingSpend)がある。広告費に対してどれだけ広告経由で売上があったかを計る指標だ。算出式はこうなる。ROAS=広告経由の売上÷広告費たとえば100万円の広告費を出して、売上が200万円だったら、広告経由の売上200万円÷広告費100万円=ROAS2・0(もしくは200%)となる。同じ100万円の広告費でも、広告経由の売上300万円→ROAS3・0(もしくは300%)広告経由の売上500万円→ROAS5・0(もしくは500%)と高ければ高いほうがいいと考える。では、単純にROASを高めていこうとすると、どうなるか。ROASの低い広告をやめればいい。すると機会ロスが増える。顧客一人あたり利益は増えるが、全体利益は減る。ROASは上がり効率はよくなるが、全体利益額は減る現象が起きる。ROASには最適値がない。リピート前提の定期購入(サブスク)の場合、1を割っても利益が出る。1以上なら黒字、1未満なら赤字という単純なものではない。ROASは「広告Aは広告Bに比べてROASが悪い」「広告Aは先月に比べて今月のほうがROASがよい」と、広告同士や同じ広告の時期別レスポンスを比較するためのものだ。そこで当社では機会ロス、採算割れチェックを「広告投資バランス指標(造語)」を用いて行う。商品が複数あればCPOもそれぞれ変わる。これらをまとめ、機会ロスあるいは過剰投資になっていないかを見る。広告投資バランス指標=CPO実績÷上限CPOこれを算出し、1を下回れば機会ロス、1を上回れば過剰投資、1が適切となる。たとえば、上限CPOが6000円で、結果的にCPO実績が5000円の場合、CPO実績5000円÷上限CPO6000円=0・83となり、機会ロスしていることがわかる。これを週一回確認し、1を上回る場合は広告を抑えぎみに、1を下回る場合は少し出稿量を増やそうと指示する。以前から1を超えた部分について「過剰投資だから広告をやめる」と指示していた。しかし、過剰投資のみを指摘されると、社員は広告を出さなくなる。過剰投資もいけないが機会ロスもいけないので、この指標を用いるようになった。

3売上最小化、利益最大化の法則売上半減でも、利益1・5倍、利益率3倍図表31を見てほしい。

1年LTV(ライフ・タイム・バリュー)が1万1000円の商品があったとする。この商品の販売にかけるCPOの上限(上限CPO)を1万円に設定した。一人のお客様を獲得するのに1万円かかり、1年間で1万1000円売れ、顧客一人あたり1年目標利益は1000円になる。新規顧客を1000件獲得した場合、CPOは1万円なので広告費は1000万円となる。新規顧客による1年間の売上は、1年LTV1万1000円×新規顧客1000件=1年売上1100万円となる。商品の純粗利率が仮に100%だったとすると、売上1100万円-広告費1000万円=1年間の販売利益100万円*利益率9%となる。これを見た多くの経営者は、「目標どおりだ」「特に問題ない」と考えるだろう。ただし、この場合は広告費全体を見ているだけなので、広告ごとの内訳を見ないといけない。図表32を見てほしい。

もともとは広告をグロスで管理していたが、個別に管理することにした。図表32の上の表では、新規顧客獲得件数は全体で1000件だが、広告A、Bともに500件ずつだった。CPOを見ると、広告Aは8000円、広告Bは1万2000円だ。平均すると1万円だが、広告B単体では上限CPO1万円を超えている。広告Aの費用は400万円、Bは600万円。1年売上は同じ550万円だが、1年利益はどうだろう。Aは150万円、Bはマイナス50万円となっている。個別に分析すると、利益につながっている広告とそうでない広告がわかる。そして、図表32の下の表のように、広告Bをやめるとどうなるか。A、B両方やった場合と、Aだけやった場合を比較してみよう。広告A、B売上1100万円1年間の販売利益100万円*利益率9%広告Aだけ売上550万円1年間の販売利益150万円*利益率27%売上は半減するが、利益は1・5倍、利益率は3倍となった。上限CPOを決め、それ以上は広告を出さない多くの会社は、広告効果を全体総量の平均で管理する。現実には広告代理店に丸投げし、「上限CPO1万円以内で新規顧客を最大限獲得してほしい」と依頼する。広告代理店は様々な広告を組み合わせ、CPO1万円以内に合わせてくる。その中には、1万円を超えているものもあれば、1万円以下のものもあり、平均で1万円になるようにしている。しかし、当社は鉄則として、個別でCPOを計測し、上限CPO以上の広告を絶対に出さない。広告原稿もしくはキャンペーンごとにデイリーで採算が合わない広告をやめる。まず、いったんやめてから再調整する。採算が合っていない場合、入札額が高いのか、クリック率(広告が表示された回数のうちクリックされた率)が低いのか、コンバージョン率(商品の購入や資料請求などの「広告主が設定したゴール」を達成する率)が低いのかなどをチェックし、再調整したうえで出稿する。たとえば、前日より受注が減ったとしよう。そのとき広告媒体別では何が何件減ったか。商品別では何が何件減ったか。広告の表示回数が減ったのか、コンバージョン率が下がったのか。当社ではこれらを一覧表示しながら、毎朝対策を話し合っている。販促費さえかければ誰でも売上を上げられる。だから売上を競う意味はない。広告で言えば、CPOを10万円出せば、誰でも100億円や200億円の売上は上がる。しかし、全体利益は赤字だ。売上を上げることを目標にするのではなく、全体利益を出すことを目標にする。出した広告を項目ごとに分けて管理し、赤字の広告は全部やめる。そうなると売上は減るが、利益は増える。採算が合わない時間帯の広告は全部やめるネット広告は1日単位で見ると採算が合っていても、時間帯で見ると黒字の時間、赤字の時間がある。日中は採算が合わないのに、夜間は採算が合うときがある。時間帯によってコンバージョン率はめまぐるしく変わる。昼間、電車に乗っている人がスマホで当社の広告を見てクリックしたとしよう。この段階で「クリック課金」で当社にコストが発生する。だが、クリック後に飛んだ先のページを見て商品を購入するかどうかが肝心だ。ビジネスパーソンなら昼は忙しいので、広告をクリックしても、飛んだ先のページをじっくり読んで購入することは少ない。一方、夜はじっくり読んで、気に入ったら購入するケースが多い。当社の場合、夜のほうが購入に至る率(コンバージョン率)が高いことがわかっている。採算が合わない時間帯の広告を全部やめると、採算が合っているところだけが残る。こうすると、売上が下がるので、多くの経営者は嫌がるが、利益率、利益額は上がる。当社では、5000本の広告を毎日確認する。上限CPOを超えた広告はフィルターがかかる仕組みになっているので、すぐチェックできる。細かく言えば、商品ごとにインプレッション数、クリック数、使用金額基準があり、基準に満たないものをシステムがピックアップしてくれる。それをいったんやめ、採算が合わない理由を考え、再調整して出稿する。「親広告」と「子広告」のマネジメント法どんな事業でも細かく見ると、赤字の受注はかなりある。それを精査してやめ、売上を最小化しながら利益を最大化する。少し応用的な話になるが、私たちは通常の広告を「親広告」、指名検索広告、リターゲティング広告を「子広告」と呼んでいる。指名検索広告とは、当社の「商品名」で検索した人に対して表示する広告のことだ。リターゲティング広告とは、親広告をクリックした人を特定して、その人に繰り返し表示する広告だ。子広告は、すでに興味がある人への広告なのでコンバージョン率が高いのに対し、親広告はそれに比べると低い。ただ、子広告は、親広告があったからこそ生まれる広告だ。だから、親広告の採算が悪いからとやめてしまうと、子広告は発生しない。そこで「この指名検索をした人(もしくは、このリターゲティング広告をクリックした人)は、その前にどんな親広告をクリックしていたのか」などの親子関係をシステムで把握し、親子の連携を考えてCPOのマネジメントを行う。たとえば、上限CPO1万円の場合、親広告1万2000円、子広告8000円なら親子で上限CPO以下と考えるのだ。たった8文字追加しただけで売上1・5倍本章の最後に、たった8文字追加しただけで売上が1・5倍になった広告施策を紹介しよう。特産品のネット通販をしていたとき、一番売れていたのが毛ガニ、ホタテ、甘エビの「お試しセット」(送料込2980円)だった。当時はネット上に広告媒体はほとんどなかった。そもそも資金がないので、「コストをかけて売る」ことはできない。知恵で売る以外の方法はなかった。そこで商品の個数を選ぶプルダウンのそばに「お一人様2個まで」と「8文字」つけ加えた。すると購入者の約半数が2個買うようになった。ほとんどの人はモノを買うときに「何個にしよう」と考えず、たいてい「1個」と思っている。「お一人様2個まで」とあるだけで、「何個にしよう?」「2個までしか買えないなら、今2個買っておいたほうがいいかな」と思う。当時は規模が小さかったので売上インパクトは月間数十万円程度だったが、もし月商1000万円の商品なら「8文字」で月500万円、年間6000万円の売上増になっただろう。広告コストを使うから売れるわけではなく、「知恵を使うのが王道」ということを書き添えておきたい。

1目立つプロモーションはメリットゼロ「売れる」と「売れ続ける」は違う「北の達人」の事業をひと言で言えば、「DtoC」×「サブスクリプション」だと前述した。お客様の悩みを解決する高品質商品(第4章)を、ネット広告で宣伝して新規顧客を獲得(第5章)し、その後も定期購入(第4章)してもらう。そもそも「モノを買う」といっても、1回目の購入と2回目以降の購入では異なる。1回目の購入はマーケティング力が大きい。使ったことのないモノを買うのだから、必ずしも「品質のよいモノ」が売れるわけではない。「よさそうなモノ」が売れるのだ。よさそうかどうかは、デザイン、コピーライティング、商品の写真など「売り方」の部分が大きい。ただ、「売り方」がうまいだけでは、そこで終わり。「よさそうな」だけで、品質がよくなければリピートされることはない。一方、2回目以降のリピート購入の場合は、品質力が大きい。「品質のよいモノ」だけが売れ続ける。当社の健康食品、化粧品などはだいたい1か月で使い終わる。気に入った方は毎月購入する。定期購入の売上比率は約7割。当社のお客様は約30万人。一度獲得したお客様が繰り返し買ってくれるから、CPOがかからない。よって5段階利益管理の販促費などが減り、販売利益が増える。そして、その分を原価にかけている。つまり「品質」に投資をしているのだ。結果、当社の原価率は同業の2〜3倍だが、営業利益率も数倍となっている。売上を向上させるには、既存顧客の定着と維持が重要だ。しかし、実状は多額の広告費をかけて新規顧客の獲得に注力しているだけの会社が多い。それで獲得した顧客も一度離れてしまうと、新たな顧客を開拓する必要があり、常にCPOがかかる。商品品質に投資し、既存顧客との関係を維持すると、結果的に一人の顧客がその企業に支払う総額=LTV(顧客生涯価値)の向上につながり、高利益体質になる。テレビ取材が殺到した理由「北海道・しーおー・じぇいぴー」で北海道の特産品を扱っていた2008年、ある仕入れ先から、「足の折れたカニや端の切れたタラコを安くするから仕入れてくれないか」と言われた。品質はいいのに、わけあって安い。食品版アウトレットといったところだ。そこで私は、「わけありグルメ」専門の通販サイトを立ち上げ、サイズが不揃いのために正規品として販売できない道産品を2〜7割引で販売した。当時は、リーマンショック後の不景気の時期だった。「見た目はちょっと悪いが、味はまったく変わらない安いカニ」「不揃いだけど激安でおいしいタラコ」などが受け、「お財布にやさしいグルメ」としてメディアに取り上げられた。eコマース普及に貢献したサイトを表彰する「日本オンラインショッピング大賞」(EC研究会主催)の最優秀賞に選ばれたことも手伝い、メディアでの取材依頼はさらに増えた。『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS系)、『newsevery.』(日本テレビ系)、『はなまるマーケット』(TBS系)など当時の情報番組で次々と紹介され、その数は1年で30回に及んだ。極めつきは『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)だった。「眠れる在庫を〝宝〟に」というテーマで、当社の副社長が「見栄えの悪い夕張メロン」など、様々なわけあり商品を販売に結びつける様子が放送され、全国的なブームとなった。最初のうちは取材を受けながら、「一発当てたかな。メディアがこれだけ宣伝してくれたら大ヒット間違いなしだ」と思っていた。だが、その期待はあっけなく裏切られた。売上も利益も上がらないことにすぐに気づいた。比較検討されたうえで選ばれる商品をそれはなぜか。テレビで紹介されることでお客様は確かに増えた。だが、同時にマネる同業者も増えた。中小だけでなく、大手企業も「わけあり」市場に参入してきた。あっという間のことだった。「わけありグルメ」で検索すると、似たサイトがずらっと並ぶため、お客様はテレビで見た当社のサイトがどれかわからない。検索した中で一番よさそうな商品、一番安い商品を探す。「わけありサイト」は食料品だけでなく、「わけあり家電」「わけあり家具」「わけあり客室」「わけありツアー」など大きなブームとなった。この状況を冷静に見て、「わけありグルメ」のサイトは当社の成長エンジンにはならないと判断した。今の時代は、ブームを起こした人にその恩恵はもたらされない。ネットが普及する前、ブームの果実は起こした当人に集中した。しかし、現在は検索エンジンやネットですぐに調べられる。ブームが起きると便乗する会社がたくさん出てくる。アイデア勝負のビジネスはすぐにマネされ、ブルーオーシャンはすぐにレッドオーシャンに変わる。検索エンジンで比較検討されたうえで選ばれる商品をつくらなければならないのだ。なぜ、ブームが去っても定期購入されるのかブームは一過性のもので、すぐにマネされる。売れ続けることはない。様々な学びから、商品の品質で勝負するオンリーワンでなければならないと考えた。ベーシックな商品をロングで売り、本当に気に入ってくれたお客様とだけおつき合いする。健康食品、化粧品には、酵素、水素水、CoQ10、レスベラトロールなどブームになる素材がたくさんあるが、話題になっては消えていく。ブームで買ったお客様は、次のブームの商品に乗り移っていくので、固定客になりにくい。

当社はオリゴ糖、梅肉エキス、竹酢液、ヒアルロン酸など、ブームに左右されないベーシックな素材を使い、効果が高いかどうかで商品開発を行っている。ブームになっている素材を採用した場合でも、それを前面には出さずに商品開発する。それを買ったお客様はブームだから買ったのではなく、商品を気に入って買っている。そんなお客様はブームが去っても定期購入してくれることがわかっている。行列のできる店が成功したと言えない理由ブームという点で、「行列のできる店」を考えてみたい。行列ができている現実を経営的観点で考えてみると、「機会ロス」だ。需要に対応できない=対応できれば取れる売上を上げられていないことになる。その際、店舗を拡大したり、人を増やしたりして供給量を上げて行列をなくしたらどうなるだろう?ここで別れ道が待っている。一つは機会ロスをなくしたことで売上が上がる店。もう一つは行列がなくなったことで希少価値が下がり、売上が下がる店だ。同じ行列でも意味が違う。前者は「品質」でできた行列であり、後者は「話題」でできた行列だ。「なぜこの商品を買ったのですか」「今すごく人気なので」ということはある。「人気なので」とは「売れているから買う」ので、「なぜ人気になったか」は誰もわからない。それがブームだ。話題でできた行列は、供給量を上げるとすぐにダメになる。だから、まずは品質の行列をつくる。その後、行列がなくなるように、品質を維持・向上しながら徐々に供給量を上げていく。行列のできるラーメン店が多店舗展開して行列がなくなり、メディアに取り上げられなくなっても味がよければ売れ続ける。多店舗のチェーン展開をしたほうが利益は増える。話題になることと利益が出ることは別だ。品質勝負で、店舗数を増やしたときにお客様も増えるなら、店舗数を増やしたほうがいい。希少価値で勝負するなら、席数は少ないままでいい。行列ができたら成功ではない。行列がなくなった後に本当の成功かどうかが決まる。プロモーションは目立たないほうがいいさて、プロモーションには2種類ある(図表33)。

「目立つプロモーション」と「目立たないプロモーション」だ。目立つプロモーションは、テレビCMやイベントなど、不特定多数の人を対象に「目立つ」「話題になる」ことが目的だ。目立つプロモーションで、売上が上がらないケースは、自己満足、内輪受け、消費者不在になっている。一方、売上が上がると、競合に目をつけられ、競争が激しくなり、利益率は下がる。目立つプロモーションは会社にとってメリットがまったくない。テレビCMをたくさん打っても、売上も利益も出ないケースがある。それに対し、目立たないプロモーションは、ターゲットのみに認知されることが目的だ。目立たないプロモーションで売上が上がらないケースは、目立たなすぎてターゲットに認知されていないのだ。一方、目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。目指すべきはココだ。「北の達人」は目立たないプロモーションを行っている。ネット広告は商品ごとにターゲットを絞って出稿する。だから、ターゲットの外には認知されていない。たとえば、若い人でウェブマーケティングに興味のある人は、「北の達人」は知っていても、「北の快適工房」という健康食品、化粧品のブランドについてはほとんど知らない。また、株主総会のとき、ある年配の男性株主から、「『北の達人』はのびていると聞くけれど、実感がないな。おたくの商品を見たことも聞いたこともない。まだまだだな」と言われたことがある。それは「ほめ言葉」だ。なぜなら、その人がターゲット外だからだ。「目の下の加齢」に悩んでいない人が、それを解消するクリームを知っていても意味がない。「便秘」に悩んでいない人が、それを解決してくれる健康食品を知っていても意味がない。オリゴ糖の健康食品を扱い始めた頃、お客様はどんな言葉で検索するかを考えた。その際、妊娠した女性は便秘になりやすいが、便秘薬は飲みたくないという情報を得た。強い便秘薬を大量に服用すると、流産を誘発する可能性があるという。そうしたことから便秘にならない体質になりたいと思っている。オリゴ糖は腸内環境をよくし、便秘になりにくい体質に変える。そこで「妊娠」「便秘」と検索すると、当社の広告がヒットするようにした。でも、ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。それは競合が生まれにくいということでもある。広告の目的は目立つことではない。利益を生み出すことだ。目立たないプロモーションが一番利益を生む。スキルの低いマーケッターは、目立つプロモーションをやりたがる。なぜならテレビCMなどを指して、「あれは自分がやった」と言いたいからだ。広告代理店は目立つプロモーションをどんどん提案してくる。一時的な売上を上げることしか考えていないからだ。本当にスキルのある人は、目立たないプロモーションで利益を上げることを考えている。知名度がなくても実力があれば売れる今から30年くらい前、学生援護会の『DODA(デューダ)』のテレビCMが大ヒットし、「転職する」=「デューダする」と言われた。『DODA』は転職情報誌の代名詞だった。しかし実は、『DODA』よりリクルートの転職情報誌『ビーイング』のほうが売上(求人広告掲載費売上)は高かった。当時は『ビーイング』のほうが営業力でまさっていた。その経験から「知名度がなくても実力があれば売れる」と感じている。当社は知名度には無頓着だ。お客様は「本物」を見抜く目を持っている。「知名度がないのに売れている」が本物の証拠であり、誇るべき事象だ(「知名度は必要ない」というわけではなく、「知名度は必須条件ではない」という意味だ)。周りから有名でカッコいいと思われたいのか、利益を出したいのかによって、やるべきことは変わる。当社は、知名度を上げるためだけの無駄なことに、お金も時間もかけないから利益が上がっている。極論を言えば、購入者だけに商品の存在を知ってもらえればいい。むやみに知名度を上げようとするとコストがかかるので、買う人以外には認知されないようにしたい。商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くおつき合いする。少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想だ。

2必要な人だけに広告を届ける「」DtoCを制する「マーケティングファネル」とは「北の達人」はいわゆるDtoC企業である。自ら企画・生産した商品を、小売店等の一般流通を介さず、消費者にダイレクトに販売する。ソーシャルメディア、ECサイト、直営店舗で消費者とコミュニケーションを取り、自ら生産した商品を販売する。アパレルブランドや美容化粧品ブランドの多くが採用している形態だ。DtoCは顧客とダイレクトに接点を持つ。一方で、BtoCは一般的に小売店経由で商品を販売しているため、どのような人がどれほどの頻度で商品を購入しているのか把握しにくい。しかし、DtoCの場合は、自社に販売チャネルがあるので、顧客情報を蓄積でき、顧客に合わせたきめ細かいサービスを提供できる。ここでは、DtoCのマーケティングファネルについて考えていく。マーケティングファネルとは、お客様に認知され、興味・関心を持ってもらい、比較検討され、購入に至るまでのフローのことだ。仮に最初に100人に認知されると、割合として60人が興味・関心を持ち、30人が比較検討し、10人が購入するというように対象者が絞られていく。図表34を見ると、ある会社は認知コスト(広告費)として1億円を使い、売上1億1000万円、利益1000万円となった。では、利益を10倍の1億円にするにはどうしたらいいか。従来のマーケティングの考え方なら、認知コストを10倍の10億円にし、売上11億円、利益1億円を目指すだろう(図表35)。

だが、この方法では人口上限という壁にぶつかる。ネット広告でもテレビCMでも、見ている人の数には限りがある。そこでDtoCの場合は、目立たないプロモーションを行う。つまり認知を絞るわけだ。図表36のようなイメージだ。

認知コストを1億円から1000万円に下げ、「認知したけれど買わない人」を削り、「買いそうな人だけ」に認知させる。テレビCMを打ったところで見た人の大半は買わない。買わない人に認知してもらうのは無駄。買わない人へのアプローチを一切やめるのだ。1億円の認知コストで10億円の利益これにより売上はそのまま、コストを下げて利益を10倍にする。これはネット広告のように、ターゲットセグメント機能にすぐれている手法があるからできることだ。図表36を見れば、「商品は知らない」がほめ言葉という意味がわかるだろう。私に「『北の達人』という社名は聞くけれど、おたくの商品は知らない」と言った人は、図表36の逆三角形の中の黒いゾーンの人なのだ。これを10ジャンル(商品)に展開すれば、1億円の認知コストで10億円の利益を上げられる(図表37)。

広告に携わる人の中には、「広告は嫌われている」と思っている人がいる。「テレビCMはスキップされる」「ネットで広告が表示されると、うっとうしいと言われる」などと嘆くクリエイターもいる。そういった人たちには、なぜうっとうしいと思われるのかを考えてほしい。商品ターゲット外の人に伝えているから、うっとうしいと思われるのではないか。消費者にとって自分に関係のある商品広告は有益な情報だ。ただし、これができるかどうかは商品の性質と関係する。「北の達人」は「お客様の悩みごとを解決する」ニッチな商品を複数展開している。多くの人に気に入ってもらう商品ではなく、特定の悩みを抱える人なら高確率で購買される商品をつくってきた。たとえば、オリゴ糖からつくった健康食品は、発売当初、「妊娠」「便秘」とキーワード検索した人の100人に一人が買っていた。検索した人の10%が広告をクリックし、ページにきた人の10%は購入した。購入確率の高い人だけに広告を配信する。ネット通販はターゲットを絞り込んで展開できるので、比較的CPOが低い。テレビCMを打たないかという話はたくさんあるが、CPOが高いので当面やるつもりはない。「誰に、何を、どう、伝えるか」の「何を」がクリエイティブのカギ広告を考えるとき、多くの人は「どう、伝えるか」をいきなり考える。だが、その前段階として必要なのは、「何を」だ。たとえば、iPhoneについてユーザーに伝えようとしたとき、いきなりiPhoneのキャッチコピーを考えるのではなく、iPhoneの強み、他の商品との違いを考え、何を言うかをまず考える。iPhone発売初期の頃は、「まったく新しい便利なもの」と商品自体の普及活動をしていた。マーケットが変わり、スマホが当たり前になってくると、「カメラ性能のよさ」を伝えた。iPhoneで撮影した高画質映像を流し、「こんな映像も撮れます」「iPhoneで撮った映像を人に見せると感動された」などをアピールしていた。ユーザーは「何を」の部分に反応する。大手予備校の代々木ゼミナールのキャッチコピーに「志望校が母校になる。」がある。名作キャッチコピーとして注目を集めたが、だからといって代々木ゼミナールに行くかというと話は別だ。どの予備校でも当てはまるコピーであり、代々木ゼミナールならではの特徴、優位性がまったく含まれていないとも言える。一方で、ある予備校のコピーは「志望校合格率95%」と、キャッチコピーとしては平凡だが、これには予備校生から大きな反響があったという。その予備校は「その予備校でしか言えない実績」を言っているので「差別化」ができている。要するに「何を言うか」なのだ。「どう伝えるか」の部分は平凡でも、ターゲットにはダイレクトに刺さる。一般論だが、世間で広告が評価された商品はそれほど売れない。一方で、商品が売れた広告は、広告としてはあまり評価されない。売上につながる広告メッセージの多くは、差別化ポイントをストレートに表現しているので、広告としてはあまり面白みがなく、作品としては評価されないからだ。しかし、売上につなげるには、何を伝えるかが大事で、それでも差別化できないときに、「どう伝えるか」を工夫する。ウェブマーケティングは「誰に、何を、どう、伝えるか」の「誰に」の部分はウェブメディアのセグメント機能によって精度を上げ、「何を、どう、伝えるか」の部分を広告表現のクリエイティブでつくり上げる仕事だ。ウェブ以前のマーケティングでは、「誰に」というセグメントをまず考えた。主婦向けの商品なら、クリエイティブの中で「主婦向け」とわかるようにした。テレビCMの最初の1秒で、主婦の格好をした人が登場し、主婦の目を留める。CMを放送する時間帯も、主婦が多く見ている時間帯にする。一方、現在のウェブマーケティングでは、グーグルやフェイスブックのAIが「この人は主婦ではないか」と把握している。セグメントはウェブメディアが行う。より買ってくれそうな人に、買ってくれそうな時間帯に自動配信する。ただし、セグメント機能は、「誰に、何を、どう」の「誰に」の部分を肩代わりしたにすぎず、「何を」「どう」の部分は相変わらず、クリエイティブの役割だ。今後のウェブマーケティングにおいてクリエイティブの重要性はさらに高まる。さらに、「誰に」の部分が個人情報保護の観点から規制されてくる。ヨーロッパでは個人情報を無断で取ってはいけない法律(GDPR=EU一般データ保護規則)ができている。今後、ウェブマーケティングでターゲットをセグメントする機能がどんどん使えなくなるだろう。昔のテレビCMのように、クリエイティブで「誰に」をセグメントしていけるようにならないと広告効果は落ちる。よって、マーケッターは、原点回帰でターゲットを絞り込める広告表現のクリエイティブ力を身につけなければならない。

3一回買ってくれた人とは一生つき合うお客様に愛され続ける「演歌の戦略」とは利益を上げるには目立たないプロモーションで、必要としてくれるお客様に出会う。そして、そのお客様に愛され続ける。これが一番だ。私はこれを「演歌の戦略」と呼んでいる。子どもの頃、ランキング形式の歌番組を見ていて不思議に思ったことがあった。番組では、毎週ランキング10位から1位の曲を生放送で発表した。上位にランキングされるのは、若手の人気歌手が歌うポップスが中心だった。番組の途中に20位から11位の曲を紹介するコーナーがあった。ここに長い間ランキングされている演歌の曲があった。知らない曲だった。歌手も知らなかった(正確に言えば、子どもだったので演歌になじみがなかっただけなのだが)。ランキングが毎週大きく入れ替わる中で、その演歌は長期間20位以内をキープし続けた。そして驚いたことに、年末に発表された年間ランキングでは上位に入った。これが「テレビでの露出が多いことと売れることは違う」と感じた原点だったと思う。それ以来私は、「演歌歌手はなぜテレビに出ないのに売れるのか」と考え続けた。のちに音楽業界の人に聞いた話だが、演歌歌手は「お客様と直接会って握手をすること」を大事にしているという。テレビで見るだけの人気歌手より、実際に握手した歌手のほうが親近感が生まれるし、応援したくなる。「あの人が新曲を出したから買おう」と思う。「演歌歌手は3000人と握手したら一生食べていけると言われている」と教えてもらった。考えてみると、北海道出身の歌手はこの戦略を取る人が多い。北島三郎さんや細川たかしさんは演歌歌手なので言わずもがなだが、松山千春さん、中島みゆきさん、GLAYなどもあまりテレビに出ない。しかし、ライブをやり続け、お客様の心をつかんで何十年も活躍し続けている。毎日30分、ファンにバースデーコメントを書くGLAYの戦略GLAYは、ある時期まではテレビによく出ていた。あれはライブにお客様を呼ぶための広報戦略だったのだろう。1999年に幕張メッセ駐車場特設ステージで開催した『GLAYEXPO’99SURVIVAL』では、単独アーティストによる有料ライブ(一公演あたり)の世界記録(当時)となる20万人を動員した。これ以上ファンが増えても、ライブで受け入れられなくなったという時点でテレビに出るのをやめたのだと思う。2010年からは自主レーベルを設立して活動し、公式ストア「GDIRECT」が開設された。ファンクラブも自分たちで運営している。ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。それは大変なことだが、そのコメントをもらったファンは、一生GLAYのCDを買い続けるだろう。逆に考えると、1日30分やり続けるだけで、一生買い続けてくれるファンを毎日量産しているのである。これはとても効率的なマーケティングと言える。顧客に愛され続けるには「特別感」を提供し、ロイヤリティを持ってもらうこと。そのためには、一対一のコミュニケーションを提供することが重要。テレビで関係性の薄いファンをつくるより、関係性の濃いファンをつくるほうが効率的だ。社内に「商品カウンセリング課」をつくった理由「北の達人」には「商品カウンセリング課」がある。これは「カイテキオリゴ」の発売直後に創設された。商品を発売するときは、どんな問合せがきても答えられる状態にしてから発売する。商品に同封する「使い方の説明書」なども、商品カウンセリング課でつくり込む。最初は一般企業のようにカスタマー部門があり、そこのスタッフが商品について勉強し、お客様対応もしていた。だが、カスタマー部門の業務は多様だ。注文処理、配達日変更、決済方法の問合せなどもある。お客様の商品や健康、美容に関する問合せとは業務の種類が違う。そこで独立させることにした。商品カウンセリング課のメンバーは、管理栄養士、コスメコンシェルジュなどの資格所有者から構成されている。ここの部署にはルールがある。それは「商品を売ってはいけない」ことだ。お客様から商品の使い方に関する問合せがあったときに、「もう1個追加でほしい」と言われたら、「販売部に転送します」と言うよう徹底した。商品カウンセリング課は演歌歌手のファンとの交流の機能を果たしている。あるいはTERUさんのバースデーコメントのようなものだ。バースデーコメントが有料だったら意味合いが変わってしまう。お客様と商品カウンセリング課の担当者が直接対話することで、お客様の気持ちがわかる。お客様は、自分自身の悩み、暮らしの中で大切にしていること、価値観、家族の悩みなどを話してくれる。これでお客様の心理的な側面を理解することができる。商品開発やマーケティングを行ううえで、このプロセスはとても重要だ。お客様一人ひとりに割く時間と人件費はかかるが、得られる情報の質を考えると、利益につながる有用な投資となっている。AKB48も「演歌の戦略」で大ヒットマーケティングは、「ミュージシャンの戦略」がとても参考になる。GLAYはどうやってのびてきたか。シャ乱Q、LUNASEA、X(現XJAPAN)はどのようにファンを増やしてきたか。彼らの活躍はそのままマーケティング戦略の教本として使える。こうしたバンドも基本的に「演歌の戦略」を採用している。シャ乱Qは大阪城ホール前の路上で活動していた。路上ライブにきてくれた人と仲よくなる。楽曲だけでなく人間性も含めてファンをつくっていった。LUNASEAも、とことんファンを大事にする。Xもアマチュアのときからライブ終了後、きてくれたお客様を交えて懇親会を開いていた。こうしてお客様を少しずつ増やしていったのだ。この様子をじっくり見ていたレコード会社のプロデューサーは、「彼らの曲はよくわからないが、お客様を呼べる。デビューしたらCDは売れる」と考えただろう。

お客様をつかむという点がすごく大事だ。楽曲だけで勝負しているアーティストは、楽曲の出来不出来にヒットが左右される。「この曲はよかったが、この曲はよくなかった」というのでは常に不安定だ。一方、ファンとの関係性を築いているアーティストは常に安定している。秋元康さんがプロデュースしたAKB48のコンセプトは、「品質と満足度でお客様をつかむ」ことにあったと思われる。1980年代に秋元さんがプロデュースしたおニャン子クラブは、テレビで流行ったものの、一過性のブームで終わってしまった。このときに秋元さんは一対多のファンづくりは長続きしないと感じたのではないだろうか?そこでAKB48は、おニャン子クラブにはないコンセプトにした。秋元さんはマーケティングの本質が一対一であるとして、ファンを一人ずつつくっていこうとしたのだろう。だから直接会える劇場をつくった。一回目の公演のお客様が7人だったという伝説のエピソードがある。他のスタッフはテレビ業界の人たちなので、「失敗した」と思ったそうだが、秋元さん自身は最初からファンを一人ひとり増やしていく戦略で考えていたので、失敗とは思わなかった。そのほうが絶対根強いファンができると確信していた。すると実際、ファンがどんどん増えた。そして、AKB48の「一対一」を象徴する「握手会」は社会現象となった。AKB48も「演歌の戦略」なのだ。そして、一人で同じCDを何十枚、何百枚も買うファンまで現れた。ここまでくると行きすぎの感もあるが、そこまでしても応援したいという想いを持ったファンが出てきたのは、ある意味強烈である。「一対一のファンづくり」は絶大な影響力を生み出す。

1未経験者でもすぐ成果が挙がる業務改善他の東証一部企業と「北の達人」との違い当社は従業員一人あたり利益の大きさから、業務をアウトソーシングしているのではないかと思われることが多い。アウトソーシングして人数が減れば、一人あたり利益が増えるからだ。しかし、実際には、外部に出さず、ほぼ自前でやっている。コールセンター、広告運営も自前だ。数年前まで商品の梱包・出荷も自社で行っていたが、現在は倉庫のキャパシティがオーバーして、外部に委託している。アウトソーシングのデメリットは、全体最適を見たシームレスな業務改善ができなくなることだ。だから、外部委託していた業務でも、非効率になったら、自分たちで再度引き取って効率化を図っている。また、「利益が高いのは社員の給料を抑えているからだ」と言われることもある。これも固定費の削減、利益増加につながるからだ。しかし、当社の新卒社員の初任給は札幌本社で34万円、東京支社で38万円(勤務地による調整)で、日本で2番目(2021年実績)の高さだ。厚生労働省が発表した「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」では、大卒男女の平均初任給は21万200円。ただし、当社は賞与がないから、年収にすると札幌本社408万円、東京支社456万円になる。国税庁の「年齢階層別・勤続年数別の平均給与」によると、新卒の平均年収は約250万円だから、給料は決して低くない。さらに当社には、半年ごとに固定給が上がる制度、仕事の評価に応じて固定給が上がる制度がある。「ABC利益率」を把握し、新卒を即戦力化する当社では、新卒でも即戦力になるよう、業務体制の組み方を工夫している。これは経営者の重要な仕事だ。業務オペレーションの組み方によって、5段階利益管理のABC(アクティビティ・ベースド・コスティング)は変わる。ABC利益は、販売利益から商品ごとの人件費を引いて求める。ABC利益=販売利益-ABC(商品ごとの人件費)前に触れたように、当社がABCを意識し始めたのは、北海道の特産品を扱っていた「北海道・しーおー・じぇいぴー」から、健康食品や化粧品を扱う「北の快適工房」に移行する頃だ。北海道の特産品は、商品数が多かった。それぞれキャンペーンも行うため、商品ごとにかかる手間と利益に差があった。さらに、健康食品や化粧品と比べると、手間と利益に格段の差があった。そこで商品ごとのABCを計算してみた。商品・サービスの販売にかかる間接コスト(人件費)をその比率に応じて配分し、商品・サービスごとの収益を把握した。すると、北海道の特産品より「北の快適工房」のほうがABCが圧倒的に低く、ABC利益、ABC利益率が高いとわかった。少ない手間で大きな利益を出している。これを知ったとき、ABC利益率を把握する重要性を実感し、今日まで継続的に管理している。ABC利益率の動きを見ると、いかに適切な業務体制が構築されているかがわかる。ABC利益率を見ながら、業務オペレーションを改善し、人の配置を変えるのだ。パンクで痛感したオペレーションの大切さ特産品の通販をやっている頃、物流のパンクを経験し、オペレーションの大切さを思い知らされた。パンクには2種類ある。一つは宅配業者のパンク、もう一つは自社倉庫のパンクだ。宅配業者は荷物を拠点に集めて振り分けるが、拠点のキャパシティを超えるとパンクする。そうなると荷物を引き受けてさえもらえない。自社倉庫の場合、注文が多すぎて出荷が間に合わなくなる。年末になると、カニの注文が殺到する。嬉しい悲鳴だが、マンパワー不足で対応できない。当時は1件を梱包して出荷している間に3件注文が入るという感じだった。現場のキャパシティを超えると出荷遅滞が発生し、ヒューマンエラーの増加、スタッフのモチベーション低下など様々な問題が表面化する。結果的にお客様に迷惑をかけた。現場業務の改善が必要だと思った。しかし、1年目はどうしていいかわからない。ひたすら頑張るしかなかった。夜中までずっと現場で梱包していた。すると次第に、メンバーがもう無理だとあきらめていく。「社長、もう、これ、無理っすよ」「そうですよ。無理ですよ」そして無言になる。動きが止まる。一人、二人と座っていく。私と責任感の強いスタッフだけで夜中まで梱包を続けたが、パンクを防ぐことはできなかった。注文件数が少ないときであれば、一人で全工程をやるのがいい。注文票に「タラバガニ3個」「花咲ガニ2個」と書いてあったとしよう。その場合、一人で商品をピックアップし、梱包し、送り状を貼り、出荷棚に置く。では、注文件数が多くなったらどうなるか。仮にアルバイトを増やし、同じやり方で作業してもうまくいかない。新人はどれがタラバガニで、どれが花咲ガニかわからないからだ。実際、注文が急激に増えたとき、臨時のアルバイトに入ってもらったことがある。彼らはカニの種類がわからず、その場に立ち尽くしていた。ベテランアルバイトは、「この人たちは仕事ができない」と怒ったが、それは無理もないことだ。

そこで私は、業務の組立を変えた。注文件数が多い場合、作業工程を分け、分業にする。作業難易度に応じて人を割り振る。前述の工程を、次のように分解した。①注文票を印刷する②伝票に書かれた商品をピックアップする③ピックアップしたものを箱詰めする④送り状を貼り、出荷棚に置く①、③、④は誰でもすぐできる仕事。②はカニの種類がわからないとできない仕事だ。そこで②に経験者を集中的に配置し、①、③、④に臨時のアルバイトを配置する。急に注文が増えたら、注文票の印刷だけする人、商品のピックアップだけする人、箱に詰めるだけの人、出荷するだけの人と分けたほうが効率的だ。仕事には未経験でもすぐできるもの、熟練しないとできないものがある。そこに着目して人員を配置したのだ。セル方式、ベルトコンベア方式のメリットとデメリットこの考え方は様々な業務改善に応用できた。私が創業した頃は、ネット通販経験者がほとんどいない時代だった。そもそもネットでモノを買う人がいないのだから、ネットでモノを売る人はもっといない。採用しても経験者はいない。そこで、未経験者だけでも成果が挙がる組織づくりを考えた。Ⓐ、Ⓑ、Ⓒ、Ⓓの4つの部品から製品を組み立てる仕事があったとしよう。このとき、やり方は2つある。一つは図表38に示すセル方式だ。

一人ひとりが4工程をすべて受け持って製品をつくる。この場合、一人ひとりの裁量が大きく、仕事でモチベーションと責任感が高まる。同時に技能も大きく向上し、現場の活性化につながる。一方で、作業者が複数の技術を高いレベルで習得する必要があるので、教育に時間とコストがかかる。Ⓐ、Ⓑ、Ⓒを組み立てる3工程が得意でも、Ⓓを組み立てる工程が不得意だと作業の品質が下がる。もう一つは、図表39に示すベルトコンベア方式だ。

4工程の作業内容を分析し、それぞれ熟練者向きの仕事か、新人でもできる仕事か考える。また、各工程で求められる能力や技術を考える。適材適所で配置し、持ち場に特化して働いてもらう。この方式のメリットは、各人員が行う工程は範囲が狭いため、教育の時間とコストが抑えられる。4工程のうち一つできればいいので戦力化が早い。また、一つの工程に特化すると採用もしやすい。各自が得意な仕事に特化することで、全体のクオリティも高まる。その一方で、局所的な作業になるため、長い目で見たときに作業員の技量向上が望めない。単純作業になりがちなため、仕事への意欲が低下しやすいなどのデメリットもある。総合職社員中心とアルバイト・一般職社員中心では組織のつくり方は異なるセル方式、ベルトコンベア方式の考え方は、様々な業務で応用できる。そもそも総合職社員中心の場合と、アルバイト・一般職社員中心の場合では、目的や組織のつくり方は異なる。総合職社員が中心の場合、会社や個人の成長、やりがいを目的にする。個々人の得意分野、苦手分野を洗い出し、どの仕事を誰がやるかを決める。個人の個性を重視し、メンバーが変わったら組合せも変える。この場合のメリットは、それぞれが得意な仕事に集中できるので、全体のパフォーマンスがアップする。本人も仕事が楽しい。デメリットは、仕事が細分化され、本人が意識しないと全体を理解することができない。スペシャリストは育ちやすいが、ゼネラリストが育ちにくい。得意なことしかしないので、苦手部分が克服できず、成長にバラツキが出る。特に、新入社員には配慮が必要だ。新入社員でも、ある分野に突出した能力を持っていれば、すぐに活躍できる。ただ、その他の仕事についても基礎的な部分は習得するよう研修を行う必要がある。自分がつくっている商品、自分が販売している商品がどのようにお客様に届いているか、お客様にどう思われているかなどを理解してもらう。カスタマーや物流も体験し、仕事全体の流れ、自分がどの部分を担っているかを考えてもらう。アルバイト・一般職社員が中心の組織の場合は、業務を目的ベースではなく、作業ベースで細分化する。おもに次の3つに分ける。①入社3日でもできる作業②ある程度わかっていないとできない作業③得意・不得意がはっきりしている作業(事務処理能力、文章を書く能力、アドリブ会話力など)これに分けてフローを組む。メリットは、一つひとつの作業は簡単なので、業務量が急増した際に、人数さえ増やせば対応できること。メンバーが辞めても、すぐに代わりができる。デメリットは少ない。カスタマー部門の改善ビフォー・アフター具体的に当社の改善例をシェアしよう。当社のカスタマー部門の業務は多岐にわたっていた。受注処理、電話対応、メール返信、変更処理、解約処理、健康美容相談などだ。業務に必要なスキルが多く、社員の戦力化に時間がかかるのが悩みの種だった。電話対応のトーク力、メール対応の文章力、変更や解約処理を間違いなく行う事務処理能力、健康相談に答える知識などを身につけなくてはならない。注文が増えてくると、対応人数も増やさなくてはならない。新規採用した人がすべての仕事を身につけ、戦力になるまで1年半かかった。これでは注文を増やせない。ピーク時のカニの出荷と似た現象が起きた。私は業務の組立を考え直した。そもそもカスタマー部門の仕事をすべて一人でこなすのは無理だ。たとえば、電話対応はうまいが、メール対応は苦手な人。逆にメールではわかりやすい文章を書けるが、電話ではうまく話せない人もいた。人それぞれに得意・不得意がある。担当者によってサービスの質が違う。全仕事を一人でやるとミスが多発する。そこで次のように、カスタマー部門の仕事を作業ベースで分類し、各業務に適した能力を持つ人を配置した(図表40)。

【ビフォー】カスタマー部門スタッフ……受注処理、電話対応、メール返信、変更処理、解約処理、健康美容相談など↓【アフター】受注処理専門スタッフ……受注処理のみを行う。ミスが少なく事務処理ができる人を配属

メール対応専門スタッフ……ちょっと調べればわかる範囲の問合せメールに対応する。採用試験で文章力をチェックし、文章力がある人を配属。一方で話す能力は求めない電話対応専門スタッフ……ちょっと調べればわかる範囲の問合せ電話に対応する。人と話すのが苦にならない人を配属解約専門スタッフ……解約処理のみを行う。人と話すのが苦にならない人を配属。入社2〜3日でできるので、派遣スタッフが対応商品カウンセリング課……商品、健康に関する相談のみに対応。管理栄養士など専門知識のある人を配属変更・対応専門スタッフ……メール対応専門スタッフや、電話対応専門スタッフが受けた変更や対応を処理。ミスが少なく事務処理ができる人を配属調査専門スタッフ……メール対応専門スタッフや、電話対応専門スタッフが受けた案件の調査を行う。全体を把握していないとできない未経験でも入社1週間で即戦力化する方法分類してみると、商品カウンセリング課と調査専門スタッフは高度な知識、スキル、経験が必要だ。それ以外は未経験者でも入社1週間で戦力化できる。補充も簡単だ。調査専門スタッフを補充する際も、ゼロから育てなくても、他部署で経験した人を異動させると戦力化が早い。これにより、商品カウンセリング課のサービスレベルが格段に上がった。以前のお客様対応では、人によって商品や健康に関する知識にバラツキがあった。誰が対応するかによってサービスの質に差があったのだ。そこで管理栄養士などの専門家を採用し、お客様満足度を上げた。全員が得意なことに特化し、同じ業務量を少人数、短時間でこなせるようになった。作業ベースでの組織の構成は他部署でも行っている。システム部門では、「プログラムは書けるが、チェック漏れが多い人」が多かった。そこで既存メンバーはプログラム制作に専念してもらい、プログラムは書けないが、バグチェックが得意な人を採用して「チェック課」をつくった。広告部門の職種は広告制作、バナー制作、ウェブページ制作などがある。それぞれ求められる能力は異なる。広告制作では、キャッチコピーなどで目を惹く言葉を考えられること、ウェブページ制作では人を説得する文章力が必要だ。さらにウェブページ制作には「人目を惹くキャッチコピーや文章を考えるのは得意だが、デザインは苦手」「きれいなデザインはできるが、文章は苦手」という人がいたので、「ライティングディレクションチーム」と「デザインチーム」に分けた。重要なのは、目的ベースではなく、作業ベースで組織を構成すること。目的ベースで構成するのは幹部クラスのみだ。優秀な人がくるように会社を大きくする成長スパイラル私は創業から現在に至るまで、適正人数と適正業務量を常に考えてきた。適正人数とは業務量的に採算の合う適切な人数をいう。創業初期は売上も利益も低いので6人だった(図表41)。

職種を、①制作、②カスタマー、③商品開発、④システム、⑤経理、⑥集客の6つに分け、一職種を一人で行っていた。だが実際には、カスタマー一つを見ても、①問合せメール対応、②問合せ電話対応、③テンプレート作成など、10種類程度の業務がある。各職種に10ずつ業務があるとすれば、合計の対応業務数は60にもなる。一職種を一人で行う段階では、一人ひとりに要求する能力は10だ。10種類の仕事があり、すべてできてほしい。総業務量は少なくても、10種類くらいの仕事ができるオールマイティな能力が求められる。ところが、企業規模が小さく不安定で待遇も悪いため、そんなオールマイティな人はきてくれない。対応業務数が60の場合、仕事を回すのに適正な人数は60人。社員を60人まで増やす必要がある(図表42)。

各業務に担当が一人いる状態だ。一人は1種類の仕事ができればよく、そうすれば、一人に要求する能力は半分くらいに下がる。一方で、会社の規模が大きくなると、優秀な人が採用できるようになり、日常業務は問題なく回る。だから、「60人採用しても採算が合う」状態を目指さなければならないのだ。さらに、組織が大きくなり、社員180人になるとどうか(図表43)。

対応業務数60は変わらないから、一つの業務を3人で行える。一つの業務を3人で行うので、みんなでカバーし合える。企業規模が大きくなると、さらに応募者のレベルが上がる。一つの業務に3人いるので切磋琢磨、相乗効果が起きる。余剰能力が生まれ、さらなる成長の原動力になる。こうして考えてみると、組織をつくる手順がわかる。まず、社員に対する要求能力を下げる仕組みをつくることだ。要求能力が高いままだと、社員がパンクして定着しない。要求能力を下げるには、マニュアル化とともに、一業務一人状態を目指してなんとか会社を大きくするしかない。ここが一番の踏ん張りどころだ。6人から60人の時期は踏ん張るしかない。会社が大きくなり、優秀な人が入ってくると、組織で業務が回り出す。組織力で大きくなり、さらに優秀な人によってますます会社が大きくなる。優秀な人がきてくれれば、会社が大きくなるわけではない。優秀な人がきてくれるように会社を大きくするのだ。改善の第一歩は、鳥の目で業務を俯瞰すること業務改善を図る場合、業務全体の流れを鳥の目で俯瞰する必要がある。客観的な目で見るとわかりやすいので、第三者にチェックしてもらうのがいい。以前、当社のベテラン社員が諸事情で退職することになり、その人の業務をどう引き継ぐか問題になった。その人には「経験がないと判断できない」と思われる仕事が集中しており、経験の浅い社員が引き継ぐことは難しそうだった。仕方なく、私がいったん引き継ぐことになった。業務内容を聞いていると、その人が経験に基づいてケース・バイ・ケースで判断していることも、実はほとんどパターン化できることに気づいた。そこで、その人の仕事を全部洗い出してマニュアル化すると、アルバイトでもできる仕事になった。マニュアルをつくっていなかったから、ベテラン社員の経験値に基づく判断が必要なのであって、マニュアルをつくっていれば、実は誰にでもできる仕事だった。ベテランのせっかくの豊富な経験を、マニュアルをつくっていないことで無駄遣いしてしまっていたことに大変申し訳なく思った。このようにベテランにしかできないと思われる業務も、客観的に見直す機会をつくると、マニュアル化して誰でもできる仕事に変換できる可能性がある。5段階利益管理のABC利益率に注目すると、「ここに問題があるのではないか」と数字がアラートしてくれる。商品ごとに利益管理をすると、売上が高く販促費もかかっていないが、ABCが高いために利益が出ていない場合がある。これは社員の手間がかかりすぎているので、この部分を業務改善する必要がある。部下を変えようとしない。作業を変えよう業務がスムーズにいかない場合、マネジャーは担当者の能力のせいにしがちだ。だが、実際には「このやり方でいいのか」と考えたほうが解決は早い。私は新人マネジャーに「自分を変えることはできるけれど、他人を変えることはできない」と話している。マネジャーになると、部下に仕事を与える。たとえば、採用業務をしていたマネジャーがその仕事を部下に引き継いだとしよう。部下がなかなか仕事ができないときに、「いつまで経ってもできない」「変わらない」とイライラする。そんなとき、私はこんな話をする。「あなたは成長したけれど、私に変えられて成長したわけではないでしょう?自分で成長したと思っているでしょう?」人は自分の意志でしか変わらない。人が劇的に変わるのは多くて10年に一回。普通は20年に一回くらい。それが今年起きる確率は10分の1か、20分の1。そんな10分の1の確率にかけて仕事をするのはおかしい。「人は変わらない」という前提で、仕事の仕組みを考えるべきだ。一人に全部やってもらおうとしてもできないなら、その人が得意なことだけやる仕組みにする。部下が変わるのではなく、マネジャーが仕事を仕組み化する能力をつけることだ。採用業務には、「求人媒体社と商談する」「応募者の反応がいい求人広告をつくる」「大量の応募者を説明会、面接に振り分ける」「面接して人の資質や能力を見極める」などの実務があるが、それぞれ求められる能力は違う。それを一人の部下に任せるのではなく、4つの業務に分け、それぞれに適した人に振り分けてみる。常に業務を俯瞰的にとらえ、仕組みを再構築する能力がマネジャーには求められるのだ。

2優秀な人材の見極め方求人広告「しゃべらない接客業」への意外な反応作業ベースでの業務分類を始めたのは2010年頃だった。前述したように、カスタマー業務が一人前にできるまでに時間がかかるのが悩みだった。一人ひとりの仕事の様子を見ると、電話対応はうまいが、メールは苦手という社員がいた。電話では言われたことにパッパッと答えているが、伝えるべきことを整理して相手にメールを書くのに時間がかかった。一方、わかりやすいメールは書けるのに、いつも電話では緊張してしまい、予期せぬ質問をされると、しどろもどろになる人もいた。そこでカスタマー業務を分類し、必要な能力のある人を募集した。メール対応スタッフは「しゃべらない接客業」とコピーを変えて募集してみた。「お客様に直接会わなくてもいい、電話もしない顧客対応スタッフです」という求人広告に予想を超える応募があり、優秀な人を採用できた。情報を整理して相手に伝わるよう構成する能力が必要なので、採用試験では「こういうトラブルが起きました。これについてお詫びのメールを書いてください」という課題を出した。採用した人たちはメールの文章がうまいので、今では総合職社員が文章をチェックしてもらうほどだ。商品カウンセリング課は、健康や美容の相談がおもな仕事なので、管理栄養士、コスメコンシェルジュなどの資格がある人を採用した。受注処理専門スタッフ、変更・対応専門スタッフなどは、事務処理能力の正確さが求められる。独自のケアレスミスチェックテストをつくり、その成績優秀者を採用した。たとえば、左右に並んだ、アルファベットと数字のランダムな文字列の違いを探すなどの課題を出す。ここでは注意力を試している。「IQ130」の人材を採る方法仕事がデジタル化するにつれ、従来より採用はとても重要になった。デジタルの世界で頑張っていこうという人は、旧態依然の「大手企業」に行きたいと思っていない。自分自身の活躍の場を求め、当社のような企業にくる。だからこそ、私はその期待に応えたい。当社には、広告運用を専門的に行う職種がある。各広告媒体が独自に持つAIのアルゴリズムを読み解き、広告運用を「北の達人流」に最適化する。言うなれば「AIに指示を出す人」だ。AIのアルゴリズムを理解してアドテクノロジーをうまく活用すれば、ターゲットにピンポイントで訴求できるので、無駄な広告配信を極限まで抑えられる。この職種に向いているのが、数学的アルゴリズム(計算や問題を解くための一定の手順)に秀でた人だ。広告が配信されるアルゴリズムを理解しながら、そこに合わせてチューニングする。アルゴリズム分析が得意な人を採用する際、私は並んだ数字や図形から法則性を見出すIQ(知能指数)テストに注目した。データから法則を見つけてチューニングする仕事に似ていると考え、社内の広告運用担当者たちにやってもらうと、IQの平均が134だった。このレベルの人をどうしたら採用できるか。一般に、IQが20離れると、会話がかみ合わなくなるという。IQ130の人は一般人と会話が合わない。おそらくこれまでに生きにくさを感じていたことだろう。そこでおもいきって「IQ130の仲間がいますよ」と求人広告を出してみた。すると優秀な人が集まってきた。IQテストを行い、面接して採用した。このように、どの職種にどんな能力が必要かを考えたうえで、その能力がある人を採用する方法を考える。テストは自社開発することもあるし、外部のテストを活用することもある。仕事に対する価値観は多種多様と思い知った倉庫アルバイトでの会話実は、特産品のネット通販を始める前に、別の事業で起業を志したことがあった。だが、それはうまくいかず、すぐに財布の中身が50円になってしまった。ごはんが食べられない。とにかく働かなくてはならない。ただし起業について考える脳の体力は温存したい。そこで倉庫でのアルバイトを選んだ。そこはアパレル会社の倉庫だった。半年に一回大量に入荷があり、営業の人の指示に従って梱包して百貨店などに送る。返品があれば処理する。昼間はアルバイトをして、夜はネット通販の準備をした。アルバイト仲間はいい人ばかりだった。だが、自分とは異なる仕事に対する価値観を持つ人も多かった。私は当時、「自分の仕事に対する価値観は普通」だと考えていた。「ちょっといい大学を出て、リクルートという大手企業に入った。中の上くらいの世界で生きている」だが、その感覚は普通でないということに気づかされた。アルバイト先には、25歳で一度も正社員として就職をしたことがない人がいた。高校を卒業するときに就職先を決めることなく、卒業後に「これからどうしようかと考えた」という。「あなたは就職しないの?」「将来は就職しようと思っている」私は内心「25歳って、もう『将来』じゃないのか」と思った。頭の回転の非常に速い19歳の女性がいた。倉庫は大阪の中心地から少し離れた場所にあったので、「あなたは大阪の中心地で働ける能力があるのに、なぜここで働いているの?梅田に行ったら、もっと給料の高い仕事があるよ」「だって自転車で行けないでしょ」私は驚いた。さらに彼女はこう続けた。「木下さんは神戸の出身なのに、なんで大阪の大学に行ったの?そんなに遠い大学に行くなんて意味がわかんない」その女性は自分の家の近所で活動するのが普通だと思っていた。私は自分が今まで狭い価値観の中で生きてきたことを感じた。

各自、全然価値観は違うが、みんないい人でみんな幸せそうだった。働き方は人それぞれでいい。自分が幸せを実感できるのが一番いいのだ。「給料が1万2000円高い」より「ランチ無料」が響く人この経験が現在の採用に活きていると思う。総合職、業務職、アルバイトを募集するとき、それぞれの価値観に合う募集広告をつくっている。一般的に求人広告を制作する人は総合職の人が多い。自分の価値観で募集広告をつくるから「キャリアアップできる」といったコピーを書く。しかし、アルバイトの中にはキャリアアップを求めていない人も多く、コピーに目が留まらない。通常、総合職募集時には「保険完備」というコピーは書かない。総合職の場合、保険完備は当たり前だからだ。だが、パート・アルバイト募集時には、「保険完備」が売りになる。パート・アルバイトなどの短時間労働者でも、法律上は条件を満たせば社会保険に加入することができるが、実際には加入していない人も多い。総合職、業務職、パート・アルバイトなど職種によって会社に求めるものは違う。そこで求人広告をつくるときには、福利厚生欄を職種によって変える。たとえば、総合職を募集する際は、「社長が直接教える研修制度」を目立たせる。すると、「一代で東証一部上場企業を創った当社社長が自ら講師となる一流のビジネスパーソンになるための『一流塾』」というコピーに興味を持った人、私から直接最新のウェブマーケティングを学びたい人が応募してくる。アルバイトを募集する際は、「勤務地が駅から近い」「ランチ無料」「保険完備」「残業なし」を目立たせる。特に「ランチ無料」は札幌でも話題になっている。東京都内ではランチ無料の会社は増えているが、地方ではまだまだ少ない。社員が知人に会社名を言ったら、「あのランチ無料の会社だね」と言われたという。新型コロナが流行する前はバイキング形式のランチだったが、コロナ禍で弁当にしている。生姜焼きやハンバーグなどの肉料理や、焼き魚やムニエルなどの魚料理の主菜と、野菜などの副菜もついているので、栄養バランスもいい。だから、お昼に「おいしくて温かいごはんが無料で食べられる」と社員に好評だ。ランチの原価は1食600円くらいなので、20営業日で月1万2000円ほど。給料が1万2000円高いより「ランチ無料」のほうが響く人もいる。私は、倉庫のアルバイトで出会った人たちの生活実態や話を聞いて、いろいろな学びがあった。人の価値観は時代とともに変わっていくから、常に聞き取りが大切だ。だからこそ、総合職、業務職、パート・アルバイトの人に募集広告のキャッチコピーを見てもらい、どんなところに興味が湧くかをいつも聞いている。

3社員と会社の理念を共有する「GOOD&NEW」の何が効果的か創業間もない頃、朝礼に「GOOD&NEW」と「クレド」を導入することにした。当時は私とアルバイト3人の計4人だった。「GOOD&NEW」は24時間以内に起きた「よかったこと(GOOD)」や「新しい発見(NEW)」を一人1分ずつ話して全員で共有し、拍手をする取り組みだ。組織やチームの活性化、アイスブレイクなどを目的に、アメリカの教育学者ピーター・クライン氏によって開発された。導入には理由があった。毎朝4人で打合せをしていたが、私とAさん、私とBさん、私とCさんという「社長と各アルバイト」の一対一の関係になってしまうので、個人的に直接指示された業務はきちんとやるが、全体への指示には関心が薄く、自分以外の人への指示は聞いていないという問題があった。たとえば、「今日はこんな注文が入るから気をつけてね」と言っても、「聞いていなかった」と言い出す。「いや、あなたの目の前で言いましたよ。Aさんは聞いていましたよね」「はい、聞いています」「自分には関係ないと思ったので、聞いていませんでした」こんな光景が日常茶飯事だったのだ。「GOOD&NEW」の手順は次のとおりだ。13〜5人のグループに分かれる2ボールなど手に持てるアイテムを誰か一人が持つ3ボールを持っている人が話す4話し終わったら話し手以外が拍手する5話していない人にボールを手渡す6全員が話すまで繰り返す7最後の人が「今日もよろしくお願いします!」と言って終了する「GOOD&NEW」をやり始めると、3日くらいで社内の雰囲気が変わった。それまで同僚に対する興味がみんな薄かったが、「GOOD&NEW」で情報共有すると、互いを仲間として認識し始めた。今までは私から指示されたことだけをやっていたが、アルバイト同士で会話をするようになった。「Aさん、この商品はどうなっていた?」「それは昼に納品されるよ」と質問や確認ができるようになり、ガラッと雰囲気が変わった。私は、スタッフがコミュニケーションを図る仕掛けは、会社が準備すべきことだと気づいた。「GOOD&NEW」には「何事もなかった日でも物事のよい面を見つける癖をつける」という目的もある。当社の場合、24時間以内に起きた面白かったことを共有するネタ合戦のようになっていたが、スタッフ間のつながりも強くなった。現在でも、朝礼の時間に全社員が6、7人のチームに分かれて「GOOD&NEW」を行っている。朝礼のときにタイマーを使い、一人1分ずつ話し、みんなで拍手する。最近では、多くの職場で人の動きが流動的だ。あまり知らない人、初めて出会った人と即席のチームをつくって働くこともある。そのような場合でも、「GOOD&NEW」をやってみると、コミュニケーションが取りやすくなる。人を育てる毎朝30分の「クレド」の習慣「GOOD&NEW」と同時期に「クレド」を導入した。クレドは「企業活動が拠りどころとする価値観・行動規範を簡潔に表した言葉」のこと。アメリカの大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソンが考案し、全世界に広まった。当社では、「北の達人コーポレーションが大切にすべき価値観」をクレドにまとめている。全社共通項目が18、部署別項目が2〜5ある。これを毎朝、各部署で1項目ずつ読み上げ、該当項目への自分の意見やエピソードを一人ずつ言い合う。代表的な項目に、「お客様からのご注文の一件一件は、我々から見れば数千件のうちの一件でも、そのお客様にとっては何日も悩んだ末に、多大な期待とともに申し込んだ思い入れのあるご注文です。よって今回のご注文がそのお客様にとって頼んでよかったと最高の出来事になるよう決して気を抜くことなく、いつまでも一期一会の精神と最高のサービスで接します」がある。創業し、初めて注文をいただいたとき、「この人はどうやってうちのサイトを見つけ、商品を買うためにお金を払ってもいいと思ってくれたのだろう」と考えた。注文が本当にありがたかった。だが、1日の注文数が増えてくると、そんな気持ちが薄れてくる。お客様からクレームがあったとき、「1000人のお客様のうちの一人がクレームを言っているだけ。0・1%だから問題ではない」と考えてしまう。でもそれは断じて違う。こちらから見たら0・1%だが、そのお客様から見れば100%だ。届いた一つの商品に不満があったら、100%不満だ。特にネットビジネスでお客様とダイレクトに接していないと、このことを忘れがちになる。

人は同じ時間に同じ内容を6回聞くと理解するお客様一人ひとりとの関係を、大切にすることを確認するためにクレドがある。クレドは経営理念を浸透させるのに有効だ。リクルートで企業研修の担当をしているとき、「経営理念が社員に伝わらない」と経営者の悩みをよく聞いていた。すでに言語化された経営理念を見てもピンとこない。言語にたどり着くまでに、どんな経営理念がいいかを考え、まとめていくプロセスに意味がある。だから社員全員で再度会社の理念をつくる。すると、そのプロセスに関わっている人は理念が腹落ちする。ただ、その後に入社してきた人はやっぱり他人ごとだ。理念を浸透させようと、いい方法を探していたときに知ったのがクレドだ。人は同じ時間に同じ内容を6回聞くと理解するという。当社のクレドは20項目あるので、1か月(20営業日)でクレドの全項目が一巡する。それを6か月やると、同じ内容を6回聞いたことになり、クレドが身についてくる。毎朝貴重な30分を、クレドと「GOOD&NEW」に使う。これはかなりの人件費を使ったことになるが、その分の効果を実感している。

4組織全体にコスト意識が芽生える「コスト削減キャンペーン」月間150万円、年間1800万円のコストを削減した秘策利益を上げるには、売上を上げるよりコスト削減のほうが早い。当社はもともとコスト意識が高いほうだと思うが、あることを始めてから一気に意識が高まった。それは「コスト削減キャンペーン」である。年一回、管理職(決裁者)7、8人が集まって「コスト削減委員会」を組織し、聖域なしでコスト削減の議論を行う。5段階利益管理の経費項目で言えば、原価、注文連動費、販促費、ABC、運営費の5つすべてが対象だ。当社は100億円の売上で利益は29億円。つまり、71億円の支払いがあるのだ。年間71億円、いろいろな経費を払っている。そこで年一回、一つひとつの支払いを全部見直している。支払台帳を管理職が見直し、削減できそうな経費をリストアップする。たとえば、物流部門では、月に約15万件出荷している。一件一件の梱包物には、納品書、定期購入案内、商品説明リーフレットなど、様々なものが同梱されている。1枚10円の同封物が2種類あったとき、合体させて1枚にし、一件につき10円の注文連動費を削減した。このとき事前に「合体させて問題ないか」を議論した。強引なコストカットが目的ではない。経費が利益に結びついているかを考えることが重要だ。一枚10円のチラシを入れた価値を、様々な角度でシミュレーションしながら徹底的に議論したが、「合体させることで問題が起きるかどうかは、やってみなければわからない」という結論になった。「この2枚を1枚に合体させ、1年経って問題あるなら戻そう」これで月間約150万円、年間1800万円程度のコスト削減になった。また、注文に関する説明書とFAX注文用紙を合体させ、5円のコスト削減を図ったこともある。FAXによる注文数を調べると、近年はほとんどなかった。だが、完全にFAXによる注文を受けつけなくなると機会ロスになるので、注文の説明書の裏側につけた。5円減るだけで、年間900万円もコストが減った。1年後に問題の有無を検証するが、今まで元に戻した施策はない。「応接室の花は2万円の赤字」仮説を検証する社内で応接室の花について議論したこともある。花には月1万円のリース代を支払っている。「なぜ花を置いているのだろうか」「花があると心地いいからだろう」「誰の心地よさがどのように会社のメリットとつながっているのだろうか」などと考える。すると、「採用面接で応接室を使うので、内定を出したときの受諾率が上がるかもしれない」といった仮説が出てきた。「何%くらい上がると思う?」「仮に1%上がるとすると、年間採用経費はいくらだ?」「年間採用経費は1000万円。内定受諾率が1%上昇すれば、10万円分、効率化される」「この花は年間10万円の価値を提供しているけれど、コストは月1万円だから年間12万円。ということは、2万円の赤字だ」「では、他にこの花が役立っていることはないか」と深掘りする。答えが完全にわかることはなくても、一つひとつ仮説を立て、投資効果を検証する癖をつける。何も考えず、なんとなくやり続けるのが一番いけない。1億円のコストダウンをする方法削減された項目を5段階利益管理で示された5つのコストに当てはめて考えてみよう。前述の同封物は注文連動費の削減につながり、花は運営費の削減につながった。ABCと運営費を同時に削減したのが次の例だ。当社には週一回、社員の自主清掃の時間がある。最初は雑巾で掃除をしていた。自分の身の回り、共有部分を雑巾で拭く。これが「コスト削減委員会」の協議事項に上がった。「雑巾で掃除すると、掃除後の洗う時間、干す場所の家賃がかかり無駄ではないか。使い捨ての掃除用ペーパータオルのほうがコスト削減できるのではないか」そこで両者を比較した。雑巾を使用した場合は、掃除後に洗う時間に対する人件費がかかる。その時間で利益に貢献する別の仕事ができるだろう。洗った雑巾が乾くまで干しているスペースの家賃がかかる。これは社屋の面積に占める割合、月間家賃に占める時間から算出できた。もしその時間、そのスペースに雑巾がなければ、もっと利益に貢献できる使い方ができるかもしれない。掃除用ペーパータオルは、一人が一回何枚使用するか、1か月では何枚使用するかでコストが計算できる。結局、後者のほうが安いとわかり、雑巾からペーパータオルに変えた。他にも、仕入れ先の見直しは原価削減につながる。だから定期的に行っている。規模が小さいときに取引を始めた仕入れ先は、小ロットが前提の高い単価であることが多い。そのまま発注数が増えると、支払いが高額になる。そこで見積りを取り直したり、仕入れ先を見直したりすることで、1億円程度の原価の削減ができることがある。また、決済手数料は大きな注文連動費だ。年間100億円の売上に対して実は莫大な決済手数料がかかっている。

2〜3%とすると、カード決済手数料を年間2〜3億円払っている。それを交渉し、0・1%減っただけでも、1000万円の注文連動費の削減になる。このように様々なコスト削減策を考え、年間1〜3億円のコスト削減アイデアが出る。「コスト削減キャンペーン」の真の狙いコスト削減キャンペーンを経験すると、社員のコスト意識が高くなる。無駄な発注が極端に減る。決裁者は、新しくコストをかける稟議申請が回ってきたとき、「これに経費を使ったら、今年のコスト削減キャンペーンの議題に上がるのではないか」とすぐ頭に浮かぶようになる。同時に、毎年様々なコスト削減手法を経験しているので、「この施策は、こうすることで経費をかけずにできないか」「この施策とこの施策を同時に行うことで、半分のコストでできないか」「この施策の費用対効果はどう考えているのか」など、稟議のたびに、コスト削減キャンペーンレベルで判断できるようになる。一度、コスト削減キャンペーンに本気で関わった管理職は、適切な決裁をするようになる。その姿勢により、全部署にコスト意識が伝わっていく。このようにして徹底して無駄金を使わない組織ができるのだ。この話を友人の経営者との情報交換や講演などでよく話す。そして多くの経営者が自社で実施したことで絶大な効果があったことを報告してくれる。この「コスト削減キャンペーン」は、ぜひ今すぐやってほしい。

1徹底的に無駄を排除するデジタルマーケティング戦略「数値化」と「ターゲティング」これまでの話で、当社がいかに「無駄」を排除しながら経営してきたかが伝わったと思う。これは「デジタルマーケティング」というある意味、ほとんどの事象を「数値化」しやすい業種だったからやりやすかった側面がある。私は社長とマーケティングの責任者を兼務している。経営直結型のマーケティングを行い、マーケティング数字はすべて経営数字につながっている。「数値」を見ていると「無駄」が浮き彫りになってくる。その「無駄」を排除するために、ターゲットをセグメントし、そこに集中したマーケティング活動を行う。最終章では、デジタルマーケティングにおいて当社がどのように無駄を排除しながら活動しているかについてお話ししたい。ウェブ集客を内製化する4つのメリットマーケティングとは、顧客や社会と企業の結合部分だ。企業は顧客がいて初めて成り立つ。マーケティングが企業の根幹になるのは当然のことだ。北海道の特産品をウェブ販売していた時代から、eコマースと広告を自前で構築してきた当社は、独自にデータ、アルゴリズム解析を積み重ねた。商品開発を先行させるため、一時はウェブ集客を広告代理店に任せたこともあったが、それでは「他社製品との違い」を訴求することは難しい。そこで再度ウェブ集客をインハウス化(内製化)した。つまり、自社の商品・サービスを宣伝する広告運用、広告枠のバイイングやレポーティング、クリエイティブ制作をすべて自社で行うのだ。一般論として、インハウス化のメリットは次のように4つある。①社内に蓄積された情報を活かし、深い視点でマーケティング施策を実施できる商品知識やユーザー理解など、社内でしか把握できない深い情報をマーケティングに活かすことができるので、広告代理店が運用するより深い視点でマーケティング施策が実行できる。②仕事のスピードが速くなる広告代理店に外注する場合、施策への反応の返答待ちがあり、時間ロスが生じる。広告代理店は通常、一人が複数のクライアントを担当しているので、リアクションが遅い。インハウス化すると、社内で完結するので決裁スピードが速くなる。当社ではデイリーで広告効果を把握し、調整している。③広告運用ノウハウを蓄積できる広告代理店に外注する場合は、施策を考えて実行するのは代理店で、自社では代理店から提供された運用結果の情報しか見られない。対して自社で運用すれば、配信するセグメント、入札単価など、運用に必要な全要素を考え、結果を蓄積できる。④広告代理店に外注する際の手数料を削減できる広告出稿金額の20〜30%程度が削減できる。AIを核にしたデジタルマーケティング戦略を行う場合、インハウス化のメリットを活かす意味は非常に大きい。その理由については後述する。次に、一般的にインハウス化には次の3つのデメリットがあるとされている。①広告メディアとのやり取り業務が煩雑になる②人材確保が必要になる③マーケティング施策に関する新しい情報を得るのが難しくなる一長一短ではあるので、インハウス化もしながら、外注も使う両建てがお勧めだが、当社の場合、前述のようにウェブ、マーケティング、クリエイティブのスキルを長年蓄積してきた。スキルを持った社員が多数在籍しているため、新しく入ったメンバーを短期間で同水準に引き上げられる。当社の特徴は、圧倒的なデータ量と、その背後にあるメディアの持つ思想(アルゴリズム)、ユーザー状況まで思考を結びつける分析力にある。当社のデータサイエンスマーケッターは、一般的な行動心理と実際のユーザーが取る動きが異なる事実や、深い洞察の末に立てた仮説を立証しながら、その共通項や法則性を見出し、ノウハウをシステム化していく。これによって、顧客特性などの細かい分析が可能となり、いつ、どのネット媒体に広告を出せば、購買につながりやすいかわかる。これまでお話ししてきたとおり、商品開発と効果的な広告宣伝が両輪となり、高収益を実現したのである。AIを活用したデジタルプロダクトマーケティング現在のアドテクノロジーは、いかにAIを活用するかにかかっている。当社のAIを活用したデジタルプロダクトマーケティングの大まかな流れは次のとおりだ。①利益から逆算した「上限CPO」を設定する前述したとおり、当社は利益から逆算して売上を考えている。利益から逆算して「上限CPO」を設定する。②デジタルプロダクトマーケティング戦略の立案利益から逆算して、デジタルプロダクトマーケティング(自社製品を製造する企業がプロモーションプラン、販売促進施策を実施する)を行う。デジタルプロダクトマーケティングの肝となるのが「差別化戦略」だ。AIにはそもそも差別化という概念がない。同じカテゴリーに属する自社商品Aと競合商品Bがあった場合、きちんと差別化しないで広告を出すと、同じような人に同じように広告が表示されることになり、広告効果はほとんどなくなる。「カーナビの渋滞理論」というものがあり、みんなが同じカーナビを使うと渋滞が起きる。グーグルやフェイスブックなどは、世界中で同じカーナビを使っているようなものなので、きちんと差別化していないと世界中が競合になる。

③教師データの供給AIは画像を認識する。これは画像から特徴をつかみ、対象物を識別するパターン認識技術の一つだ。人間は画像を見れば、何が映っているかを経験から推測できる。しかし、コンピュータには最初は記憶や経験がない。突然リンゴの画像を一枚見せても、リンゴと認識できない。画像認識では、コンピュータにデータベースから大量の画像を与え、対象物の特徴をコンピュータに自動的に学習させる。コンピュータは画像データからリンゴの特徴を学び、同じ特徴を持った画像が与えられれば、リンゴだと推測できるようになる。コンピュータは画像を表すピクセルデータに対し演算を行い、特徴量を算出する数学的方法でこれを可能にしている。この分野はAIにおけるディープラーニング技術の向上により、急速に発展した。この最初に与える画像データのことを「教師データ」という。この技術を活用するには、人間が「どんな教師データを与えるべきか」を考えなければならない。自社商品の特徴、誰に売るかを明確にしたうえで、AIの学習環境を整えていく。④広告出稿、AIによる運用広告を運用しながら成果を計測する。CPOなどの指標を見ながら、広告出稿のコントロールを行っている。AIにできること、人間にできることAI時代に考えなくてはならないのは、AIの仕事とは何か、人間の仕事とは何かを見極めることだ。マーケッターの中には、「AIに任せれば大丈夫」と言う人がいるが、そんなことはない。AIにできないが、人間にできることは2つある。①手作業……体を使って何かをすること②企画……新しい何かを考え出すことグーグルやフェイスブックに商品広告を出稿したとしよう。グーグルやフェイスブックは適切と思われるユーザーを選び、広告を表示する。そして広告をクリックした人、購入した人などのデータを蓄積する。「どんな人が購入しているか」をAIが学習し、その後、購入しそうな人に優先的に広告を表示する。AIの指示に従い、人間が手作業で広告を出稿する。これが現在の大きな流れで、「AIに任せれば大丈夫」という発言につながる。しかし、それでは利益につながる広告は打てない。AIは「AとBのどちらがいいか」はわかるが、「なぜAがいいか」「なぜBが悪いか」はわからない。まして「A、BよりもCのほうがいいのではないか」とは考えもしない。だから企画(クリエイティブ)が重要だ。とりわけ差別化戦略を図る必要がある。「AIに任せれば大丈夫」と考えると、次のようなことが起こる。「チーズケーキ」を売る広告を「20代女性」に配信しようとしたのに、甘いものが苦手な「20代女性」にも配信されてしまう。一方でチーズケーキが好きな40代男性はその広告に触れる機会すらない。AIのアルゴリズムを理解し、商品をターゲットにマッチングさせる戦略を立てる。これは人間の経験値がまさる領域だ。具体的に言えば、AIの学習環境を整える。学習は確率論から成り立っているため、スタートダッシュのコンバージョンが間違えていた場合、その要件が継続されてしまう。お茶飲料AとBがあった場合、「Aが好きな人」「Bが好きな人」と学習させずに、「お茶飲料が好きな人」と学習させてしまうと、AもBも同じ広告の動きをするので差別化が図れないのだ。ターゲットにピンポイントで訴求する方法私たちが自分たちで広告を運用するきっかけはそこにあった。広告代理店の担当者は複数のクライアントを扱っているので、一つの商品に深入りできない。商品の本質はメーカーのほうがわかっている。AIが広告の重要な部分を担うようになり、自分たちは本質的な差別化の部分を行うべきだと考えた。AIが学習し、広告表示するプロセスは次のとおりだ。①この商品はどんなものかを認識する②どんな人が買うかを学習する③その人を探して広告を表示するこのとき、AIは最初の20人くらいで概略を決める。この20人をどんな人にするかによってその後の動きは大きく変わる。写真3を見てほしい。

この商品を何ととらえるか。A、この商品を「スイーツ」ととらえ、「とてもおいしいスイーツです」という広告を打つ。それによって最初にマッチングした20人が「スイーツ好きな人」になると、グーグルやフェイスブックは「この商品はスイーツ好きな人が買う」と認識し、スイーツが好きな人に優先的に配信する。この場合、スイーツ好きではない人には配信されない。一見効率的に見えるが、一方で、どら焼きやザッハトルテなど、広い意味でスイーツ好きな人にも配信されてしまう。すると、この商品はどら焼きやザッハトルテと競合し、無駄が生じる。B、この商品を「チーズケーキ」ととらえ、「とてもおいしいチーズケーキです」という広告を打つ。最初にマッチングした20人が「チーズケーキ好きな人」になると、グーグルやフェイスブックは「この商品はチーズケーキ好きの人が買う」と認識し、優先的に配信する。どら焼きやザッハトルテ好きには配信されなくなる。C、この商品を「レアチーズケーキ」ととらえ、「とてもおいしいレアチーズケーキです」という広告を打つ。マッチングした20人が「レアチーズケーキ好きな人」になり、グーグルやフェイスブックは「レアチーズケーキ好きな人」に優先的に配信する。こうすると、同じチーズケーキでもベイクドチーズケーキ好きな人には配信されなくなる。D、この商品を「ゴルゴンゾーラレアチーズケーキ」ととらえ、「とてもおいしいゴルゴンゾーラレアチーズケーキです」という広告を打つ。マッチングした20人が「ゴルゴンゾーラレアチーズケーキ好きな人」になる。これはケーキ好きな人というより、ゴルゴンゾーラチーズ好きな人がターゲットで、チーズのサイトをよく見ている人がターゲットとグーグルやフェイスブックは学習する。このように最初に「この商品は一体何か」を人間が考える必要がある。商品の特徴を見極め、最初の20人を設定し、機械に学習してもらう。それがうまくいけば、効率的な広告が打てる。AIのアルゴリズムを理解してアドテクノロジーを活用すれば、ターゲットにピンポイントで訴求できるのだ。サイコグラフィックデータで「購買理由」がまるわかり多くのマーケッターは、デモグラフィック属性でターゲット設定をしている。一方、当社はサイコグラフィック属性でターゲット設定をしている。◎デモグラフィックデータ……お客様の性別、年齢、収入、独身/既婚など定量的データに基づいた変数◎サイコグラフィックデータ……お客様のライフスタイル、趣味、嗜好、価値観など内面を表す変数図表44を見てほしい。

デモグラフィックデータは定量的データに基づいた変数であるのに対し、サイコグラフィックデータは消費者の内面を表す変数であるのが両者の大きな違い。別言すれば、「誰が」買うのかを表すのがデモグラフィックデータ、「なぜ」買うのかを表すのがサイコグラフィックデータだ。人間の消費行動を想像し、仮説を立てながらやっていく。たとえば、スマホに広告を出したとする。時間帯によって購入される率が違う。昼12時から午後1時は、クリック後に購入まで至る率が高く、それ以外は高くない。なぜか。スマホは日常的に見ているが、昼休みの時間はクリック後の飛び先のページをじっくり読めるから、気に入ったら購入する。一方、それ以外の時間帯で電車での移動中に同じ広告を見ても、一つのページに対する集中力は薄いので、購入までには至らない。このように購買理由を考えることが重要だ。つまり、分布図を見て、購入率が高いところに集中させればいいとAI任せにするのではなく、「なぜこの時間帯に購入率が高い(低い)のか」を考えるべきだ。理由を考える力は、日常業務をやりながら経験を磨くしかない。あとは、恥ずかしがらずに人に聞くことだ。人間行動が数値化されているので、「こんな動きがあるけれど、なぜだと思う」と聞くと、ターゲットの人は即答できる。有名な話だが、アメリカのスーパーでおむつとビールを一緒に買う人が多いというデータが出た。理由を考えてもわからなかったが、レジの人に聞いたら一発でわかった。週末に夫婦で車できて、重いものをまとめ買いする。ビールとおむつに関連性があるわけではなく、「重いもの」という属性だった。よってそのスーパーでは、土日にはビール、おむつ、ミネラルウォーター、トイレットぺーパー、お米など、まとめ買いするものを集めたコーナーをつくり、売上を増大させた。当事者や現場の人はすぐにわかるので、どんどん聞いてみよう。三方よしの「ハッピートライアングル」を目指そうこれまで「利益」を意識した経営、マーケティングについてお話ししてきた。では、一社一社が利益を意識したデジタルマーケティングをやるとどうなるか。まず無駄な広告をやめるようになる。広告は限られた広告枠がオークション制で販売されているから、無駄な広告を出す会社が減ると、オークション価格が下がる。すると広告費全体の相場が下がる。無駄な広告をやめた段階で利益が出始め、さらに広告費の相場が下がれば、それに応じて利益がさらに増えるのだ。事業者(広告主)の立場で言えば、利益率が向上するだけでなく、多くの会社がやり始めれば、業界全体の利益率が上がってくる。一方、ネットユーザーの立場で考えると、無意味な広告が減る。採算の合わない広告は、ユーザーから価値を認められない。意味のない広告が減ることで、ユーザーの使い勝手がよくなる。そうなると、ユーザーの視聴時間が長くなり、メディアの販売広告枠が増え、売上が上がる。事業主(広告主)が利益を意識したデジタルマーケティングをやり始めると、同業者全員、ユーザー、メディア三方よしで利益が出る。これをハッピートライアングルという。私は同業者にも講演をしている。ある意味ライバルではあるが、一社一社が売上よりも利益を意識し始めると、当社にも同業者にもいいことがある。同業者が無駄な広告を出すのをやめると、同業者も利益が上がるし、広告費の相場が下がるから、当社にとってもメリットがあるのだ。

2日本を代表する次世代のグローバルメーカーとなるDtoCの代表格として世界ブランドに当社は「びっくりするほどよい商品をつくる」「ブームに乗らない方針」「世界最高峰のネットマーケティング集団」として株価上昇率日本一(2017年株価上昇率1164%:株価125円→1455円)の超効率経営を目指してきた。今後、当社がビジョンとして掲げるのが、日本を代表する次世代グローバルメーカーになることだ。消費財のグローバルメーカーというと、ネスレ、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ユニリーバ、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ペプシコ、コカ・コーラなどがある。こうしたグローバルメーカーに名を連ねたい。これまでのグローバルメーカーは、リアル店舗を通じた流通で成り立っている。しかし、これからはDtoCによるグローバルメーカーができてもおかしくない。世界中でそういったことが可能な世の中になっている。私たちがDtoCの代表格としてグローバルメーカーになっていきたい。現在は「北の快適工房」というブランドだが、これを世界展開するのではなく、対象国別にブランドを立ち上げる。当社の強みは、お客様の悩みを解決する商品を開発してダイレクトに販売すること。現在は日本人を対象に商品開発をしている。それをそのままアメリカに持っていって売るより、アメリカ人の悩みに合わせて商品開発するほうがいい。マーケットに対して商品をつくり、日本からネットで売るのがビジネスモデルの根幹だ。アメリカのアマゾンで日本発の商品を売るでは、お客様の悩みはどう抽出するか。社内会議で様々な悩みが挙がると、それを解決する商品があるかを調べる。「ヤフー知恵袋」などネット上の悩み相談サイトを見ると、既存商品で解決されている場合と、そうでない場合がある。同時に、その悩みがどれくらいキーワード検索されているかも調べる。悩みを「需要」と考えたときに、それに対する供給量がどれくらいあるかを観察して、空きがあれば商品開発を検討する。このやり方は海外マーケットに進出する場合も変わらないだろう。私たちが明確に区切っているのは「ネット上で」という部分だ。アメリカの実生活になじむのではなく、アメリカ人の悩みを解決する商品がネット上で売れるかどうかを見ている。逆に言えば、基本的にネット上でしか調べない。たとえば、アメリカのアマゾンで商品を販売するとしよう。この場合、現地のアマゾンでどんなものが売れていて、売れているものに対してどんなコメントがついているかを日本で調べる。アメリカのアマゾンで売れるには、アメリカのアマゾンを徹底的に調べるのがベストだ。現地に行って生活者にヒアリングするよりも彼らのネット上での行動を調べるほうが重要だ。ネット上のアマゾンこそが、商品購買のリアルな場所だからだ。リアルとネットのマーケティング調査法生活者に対するリアルなマーケティング調査をやった場合と、アマゾン上で調べる場合とで、必要とされている商品は異なる。たとえば、北海道の特産品を売る場合、新千歳空港で売れる商品とネットで売れる商品はまったく違う。新千歳空港でお客様が商品を買うときはどんな状態か。北海道旅行の帰りで結構テンションが高い。「北海道、楽しかったなあ。思い出に何か買おう」という場合、「北海道らしさ」は重要だ。一方、ネットで買うときはどんな心理状態か。旅行に行っていたわけではないので、テンションはそんなに高くない。新千歳空港ではついカニを衝動買いしてしまうが、ネットでは十分に比較検討する。タラバガニとズワイガニと毛ガニではどれがいいか。さらに松葉ガニと越前ガニと上海ガニと比べたらどうかなど、北海道の特産品を買おうと思っていたはずが、他の地域の特産品にも欲が出てくる。つまり、品質や価格を冷静に比較検討したうえで買う。これはある意味シビアだ。リアルでの販売とは異なり、ネット販売は、「比較検討されたうえで本当に売れるかどうか」が重要だ。その点、ネット販売の場合、取扱説明書をじっくり読んでもらえる。たとえば、当社の健康食品の競合商品はドラッグストアで売られている。ドラッグストアでは、有名メーカーのブランド商品が大きく展開されている。ブランド買いなのでほとんど説明書を読まずに買っていく。一方、ネット販売の場合、商品の隅々まで文章で説明できる。品質に自信があれば、しっかり説明を書いておけばいい。現在は日本を中心にやっているが、これからはGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のプラットフォームを通じて世界に展開していく。現在、ネットで広告を出す際も、広告メディアはたくさんあるが、海外展開しているプラットフォームを活用してノウハウを蓄積している。企業の成長段階に応じた利益戦略現在は一商品で売上50億〜100億円のマスマーケット商品の開発にチャレンジしている。売上1000億円の会社を目指すには、ニッチ商品を積み上げるより、マス商品を複数リリースするほうがいい。競合は増えるが、明確にすぐれた点を持つ商品にすれば、利益率は維持できる。売上100億円未満と100億円以上では事業に関する考え方がまったく違う。第4章で触れたように、売上100億円まではニッチトップ戦略でやってきた。大手が参入するには小さすぎるマーケット、かつ中小では絶対にマネできない品質で参入した。大きなマーケットは競合が多く、売上100億円にするにはコストがかかる。小さなマーケットは競合が少なく、売上10億、20億円程度にしかのびないが、競争コストがかからないので、利益率が高い。これにより売上100億円、利益29億円を達成した。だが、この方法で1000億円まで売上をのばすのは難しい。次は一つの商品で100億円の売上が狙えるマーケットに参入する。シャンプー、ハンドクリーム、オールインワンゲル(スキンケアに必要な機能がすべて詰まったゲル)など大きなマーケットがある。これまではニッチマーケットをほぼ

取ってきたが、今後は大きなマーケットの一部分を獲得する戦略を併用する。ターゲットは、第5章で触れた「イノベーター理論」のイノベーター(革新者)2・5%とアーリーアダプター(初期採用者)13・5%を合わせた16%だ。ここは比較的安いコストで獲得できる。数千億円市場ではトップシェアにならなくても、高い利益率が維持できる。たとえば、シャンプー市場が1000億円あるとしたら、160億円のイノベーターとアーリーアダプターマーケットがある。これを複数つくり、売上1000億円を目指す。もちろん、品質はこれまでどおり大前提になる。ヒットはイノベーターやアーリーアダプターから始まるが、対象物に対して造詣が深い両者に「着目」してもらうには、この両者を唸らせる商品をつくらなければ始まらない。人生を変えた「NTTのテレホンカード」事件私がマーケティングに最初に興味を持ったのは、高校生のときだった。父親が買ってきたビジネス誌をたまたま読んだ。そこに「テレホンカード」の収益性を高めるための「仕掛け」が書いてあったのだ。当時、公衆電話は3分10円で硬貨しか使えなかった。長時間使うには、硬貨をジャラジャラ用意しなければならなかった。そんな中、NTT(当時は日本電信電話公社=電電公社)が1枚500円程度のプリペイドカードを販売し、公衆電話の挿入口に入れれば通話できるようになった。これにより、ユーザーは劇的に便利になった。しかし、NTTにとっては同じ500円の通話売上でも、硬貨の場合:原価=回線使用コストカードの場合:原価=回線使用コスト+カード原価→利益減となる。そこでNTTは「カードを買っても使われなければ、回線使用コストはかからない。収益性が増す」という逆転の発想でアイデアを練った。それが「テレホンカードをコレクション対象にさせる戦略」だったのである。そのための仕掛けとして、最初は、グレーで無機質のデザイン性の乏しいテレホンカードをリリースした。それでも硬貨に比べると便利なので大ヒット。多くの人たちは「使う」ために買った。そして、それが浸透した頃、満を持して、芸術家、岡本太郎氏のデザインした4種類のカードを発売した。これも大ヒットした。このとき、人々は「使う」ためではなく「コレクション」のために買った。その後はアイドルのプロマイドのような「使うのではなく集めたくなる」カードを発売し続けた。感覚値ではあるが、世の中に出回ったテレホンカードの2〜3割は眠ったままではないか。それはすべてNTTの「回線使用コストという原価のかからない売上」となった。私はこの記事に衝撃を受けた。自分の手元にあるこのアイドルタレントのテレホンカードは、NTTの仕掛けによって自分の手元に使われないままあるのだと知った。高校生ながら、「世の中は仕掛けで成り立っている」と知った瞬間だった。そこからは、見るものすべて「どんな仕掛けでこうなったのか」と思うようになった。仕掛けが見えると世の中が変わって見える。そして、世の中が俄然面白くなる!あのときから、世の中はとても楽しいワンダーランドに見えるようになった。ヒットを生み出すには、①商品、作品等の対象物に対して造詣が深い②消費者に対する畏敬の念を持っている③世の中の「仕掛け」に精通しているこの3つの要素を持ったプロデューサーになる必要がある。今の私がこの3つをどれだけ兼ね備えられているかわからないが、少なくともこの3つの要素をこれからも磨き続けたいと思っている。5段階利益管理の項目と施策を連動させる今後も様々なマーケティングの施策を打っていくが、成否は常に数値で判断する。そのスタンスはこれまでも、これからも変わらない。重要数値は2つある。◎KPI(重要業績評価指標:目標の達成度合を計測するための指標)◎KGI(重要目標達成指数:最終目標が達成されているかを計測するための指数)適切なKPIを設定して計測していくには、どんな数値をどうやって取得し、どう分析していくかを突き詰めていかなければならない。すると計測システム開発の工程にたどり着く。最終的に適切なKGIを設定するには、「営業利益」を増やす設計になる。営業利益を突き詰めれば、マーケティングコストだけでなく、連動する販管費や人件費までも計算して最も費用対効果の高い施策をすべきだという「経営管理」の工程にたどり着く。本書では、5段階利益管理を掲げ、それらの項目と施策を連動させながら考えてきた。今後も利益に有効に作用する施策を行っていく。そして企業規模が大きくなれば、責任もそれだけ重くなる。利益を上げ、「無収入寿命」をのばし、永続的な企業をつくっていこうと思う。

おわりに最後までお読みいただきありがとうございました。高い利益率は社長一人で成し遂げられるものではない。社員が利益について正しく理解し、行動してくれた賜物だ。そのために私は、新卒社員や中途入社組には、第2章で触れた「利益は何のためにあるのか」という研修をしてきた。その後は、日々の業務を、利益を念頭に置きながら取り組んでいる。5段階利益管理を行いながら、利益につながらない仕事は潔くやめ、日々改善する。すると利益につながる仕事だけが残っていく。売上重視の施策を考える社員がいると、「それは利益につながるのか」と問いかける。無駄な投資をしそうな社員がいたら、「それはいつ、いくらになって戻ってくるのか」と問いかける。コスト削減で重視するのが時間だ。時間を無駄に使うのは、無駄に人件費を使うことになる。5段階利益管理では「ABC」がこれに当たる。よく社員に話すことだが、なぜ社長はタクシーで移動するのか。社長は偉いからタクシーで移動するわけではない。当社は1か月で約2億円の利益を出している。社長は月2億円の利益を出すための司令塔の役割をしている。つまり営業時間の10分間に換算すると約20万円の利益を出すので、その10分間を有効に活用するには、電車よりタクシーのほうがいい。タクシーに乗って時間を有効活用したほうが利益は出る。一方で、飛行機の場合は、ファーストクラスでもエコノミーでも時間は変わらないのでエコノミーに乗る。時間とお金の話は、ことあるごとに社員にする。たとえば、私との約束に10分遅刻した社員には、「今あなたは会社の利益20万円を無駄に使いましたよ」と言う。制作物のチェックを依頼され、ケアレスミスなどの文字訂正などに10分程度の時間を使ってしまったら、「今20万円のコストを使って文字を修正したことになるんですよ」と言う。普段から人件費や機会損失を金額に置き換えて話しているのだ。当社のクレドの中に「ピッと思ったらパッとやる」がある。この「ピッパの法則」に気づいたのは、リクルートに勤めているときだ。営業で何人もの中小企業の社長と話をして、生意気ながら「そんなにすごい人はいないなあ」と思っていた。対等に話ができていると思っていた。だが、「ちょっと待てよ」と思った。「この社長たちはみんな成功しているのに、自分は一介のサラリーマンにすぎない。この差は何か」あるとき気づいた。社長に「こんなことをやったら面白いですよね」と話すと、次に会ったときはすでに実行しているのだ。そして、「これはよかったけど、これはダメだった」と言う。自分は口先ばかりで実践していない。社長はこんなに忙しいのにすぐ実践している。私はなぜできるのかと尋ねてみた。「ピッと思ったらパッとやるからだ。君と話をしていて、こんなことをやったら面白いと感じる。君が帰った瞬間にやる。ピッと思ったらパッとやる癖をつけていくとキャパシティが増える」それからは、ピッと思ったらパッとやる癖をつけた。すると、仕事のキャパシティは4、5倍になった。「ピッパの法則」は社内研修でも行う。やるべきことが起きたとき、「できることは今すぐやる」「すぐできないことは、いつやるかを今すぐ決める」を習慣にする。この習慣をつけると、誰でも仕事をこなす量が3、4倍になる。当社が高収益になった秘密はこれですべてお話しした。出し惜しみは一切ない。あとは、あなたが「ピッパの法則」で実践に移すだけである。

本電子書籍は2021年6月30日にダイヤモンド社より刊行された『売上最小化、利益最大化の法則』(第2刷)を、一部加筆、修正の上、電子書籍化したものです。

著者]木下勝寿(KatsuhisaKinoshita)株式会社北の達人コーポレーション代表取締役社長1968年、神戸生まれ。株式会社リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、株式会社北海道・シーオー・ジェイピーを設立(2009年に株式会社北の達人コーポレーションに商号変更)。2012年札幌証券取引所新興市場「アンビシャス」、2013年札幌証券取引所本則市場(通常市場)、2014年東京証券取引所の市場第二部(東証二部)、2015年東証一部と史上初の4年連続上場。2017年、時価総額1000億円。2019年、「市場が評価した経営者ランキング」第1位(東洋経済オンライン)。日本政府より紺綬褒章7回受章。「びっくりするほどよい商品ができたときにしか発売しない」という高品質の健康食品・化粧品で絶対に利益が出る通販モデルを確立。「北の快適工房」ブランドで、機能性表示食品「カイテキオリゴ」やギネス世界記録認定・世界売上No.1となった化粧品「ディープパッチシリーズ」などヒットを連発。売上の7割が定期購入で18年連続増収。ここ5年で売上5倍、経常利益7倍。利益率29%は、上場しているおもなEC企業平均の12倍の利益率。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113・7倍、在任期間8・4年)。日本経営合理化協会セミナー「『北の達人』他社を突き放す5つの戦略」は参加費4万円超ながら327人が受講。本書が初の著書。【株式会社北の達人コーポレーションHP】https://www.kitanotatsujin.com/【ツイッターで最新情報配信中】https://twitter.com/kinoppirx78売上最小化、利益最大化の法則——利益率29%経営の秘密2021年6月15日プリント版第1刷発行2021年6月15日電子版発行著者——木下勝寿発行所——ダイヤモンド社〒150‐8409東京都渋谷区神宮前6‐12‐17http://www.diamond.co.jp/電話/03・5778・7233(編集)03・5778・7263(製作)装丁————————山影麻奈編集協力——————橋本淳司本文フォーマット——布施育哉本文図版——————渡邉和美校正————————加藤義廣、宮川咲DTP・製作進行——ダイヤモンド・グラフィック社編集担当——————寺田庸二

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