第八章 知的財産権とリスク
- 1.国際出願の方法
- (1)パリ条約ルート出願(特許権・実用新案権、意匠権と商標権)
- (2)PCT出願(特許権・実用新案権)
- (3)ハーグ出願(意匠権)
- (4)マドプロ出願(商標)
- 2.知的財産権の種類
- (1)特許権
- (2)意匠権
- (3)商標は重要なマーケティングのツール
- (4)著作権の効用
- (5)食品業者は育成者権に注意
第八章 知的財産権とリスク
知的財産権は、パリ条約、ヘーグ条約、世界貿易機関(WTO)や世界知的所有権機関(WIPO)などの国際的な枠組みに沿って、各国がそれぞれ自国の国内法で関連法令を制定しています。
そのため、日本で知的財産権の登録をしても、それは日本国内で有効なだけで、海外にはその効力は及びません。
輸出をしようとするターゲット国(地域)で、知的財産権を確立するためには、原則としてターゲット国(地域)での国内法に基づいて、権利を取得しなければなりません。
ターゲット国(地域)が多いほど、申請登録費用がかかるので、企業にとっては大きな負担になります。
特許庁は、県レベルの支援機関と日本貿易振興機構(JETRO)に予算をおろして、中小企業が外国に出願する際の費用を安く設定したり、補助金を支給したりしています。
両組織とも、申請を随時受け付ける方式でなく、年度内の一定期間を区切って、申請を受理する形をとっていますが、募集受付期間は必ずしも同一ではありません。
県レベルの支援機関と日本貿易振興機構(JETRO)に問い合わせて、対応されることをお勧めします。
1.国際出願の方法海外への知財権の出願手続きは、弁護士または弁理士が行っています。
全国各地の弁理士は、日本弁理士会の「弁理士ナビ」(http://www.benrishinavi.com/)で探すことができます。
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、植物育成者権などでは、最も早く出願した人に権利が与えられる「先願主義」が採用されています。
先願主義が適用される知財権の権利を取得するには、「先手必勝」で、誰よりも早く出願することが肝要です。
(国際出願の方法)
特許権・実用新案権、意匠権と商標権の国際出願では、「一ヵ国ごとに直接出願する方法」と、「日本から複数の国に出願する方法」がありますが、「一ヵ国ごとに直接出願する方法」は、更に、文字どおり権利を確立したい国を対象に、一ヵ国ずつ出願していく方法と、パリ条約に基づいて「優先権を確保しながら」一ヵ国ずつ出願していく方法があります。
(1)パリ条約ルート出願(特許権・実用新案権、意匠権と商標権)特許権・実用新案権、意匠権と商標権を一ヵ国ごとに、直接出願する方法で、パリ条約に基づく出願方法です。
パリ条約では、国内出願または国内で優先の権利を取得した日(優先日)から、一定期間を「優先期間」として扱い、優先期間内に外国で出願をすれば、優先日にその国で出願が行われたとみなして、先願主義の原則のもとで審査が行われます。
ですから、海外展示会に出展するのに、まだその国で商標権や意匠権の登録ができていないと悩むことはありません。
展示会に行く前に、同一または類似のものがすでに登録されていないか、同一または類似のものが申請されていないかを、弁理士に頼んで調査し、該当するものが登録も申請もされていなければ、展示会に行く前に出願しておけば良いのです。
ただし、同一または類似のものが、すでに登録されていたり、申請されていたりした場合、係争になる可能性があります。
その場合は、弁理士や弁護士と相談して、対策を練る必要があります。
「先願主義」の下では、二番手以降に出願した人に権利は与えられません。
ですから、いつ出願したかは重要なポイントです。
ところが、権利を取りたい国に対して、一ヵ国ずつ手続きをしていこうとすれば、すべての国に対して同じ日に、それぞれの国が要求する言語で作成した書類を提出することは、不可能に近いと言えます。
「優先期間」中に、優先権を主張して出願できることは、出願者にとって大きなメリットです。
なお、優先権を主張して出願できる対象国は、パリ条約の加盟国だけでなく、世界知的所有権機関(WorldIntellectualPropertyOrganization:WIPO)と世界貿易機関(WorldTradeOrganization:WTO)の加盟国も含まれます。
(2)PCT出願(特許権・実用新案権)特許協力条約(PCT:PatentCooperationTreaty:PCT)に基づいて、特許権・実用新案権を、特許庁を経由して複数国に同時出願する方法です。
知的財産権の関連する条約では、特許庁に対して、国際的に統一された様式の出願願書を提出すると、その日が全加盟国への出願日になることが定められています。
出願時点で、その日がすべてのPCT条約加盟国に対する出願日(これが優先日です)として確定します。
特許庁を通じて複数の国に出願することは、全条約加盟国に対して、優先日を確保する手続きでもあるのです。
PCT出願により優先日が決まれば、優先日から30ヶ月以内(異なる期間を定めている国もあります)に、権利を取りたいPCT加盟国が認める言語に翻訳した翻訳文を、その国の特許庁に提出して国内手続きに移行し、国内審査に通れば、その国での特許権が認められます。
特許権では、現地代理人の費用と翻訳代が必要です。
(3)ハーグ出願(意匠権)意匠権の場合、同時に複数の国に出願する方法として、直接出願と間接出願があります。
直接出願の場合は、世界知的所有権機関(WIPO)に願書を提出するか、あるいはハーグ条約加盟国が作っているハーグシステムを通じて、オンラインで直接出願することもできます。
また、特許庁に願書を提出して出願することも可能で、これを間接出願と呼んでいます。
約70の国に出願できます。
(4)マドプロ出願(商標)商標を同時に複数の国に出願する方法は、マドプロ出願と呼ばれています。
「標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書(ProtocolRelatingtotheMadridAgreementConcerningtheInternationalRegistrationofMarks:マドリッド協定議定書、マドリッド・プロトコまたはマドプロ)」の締約国が対象です。
マドプロのメリットは、経費節約です。
各国に直接出願する場合、それぞれの国の代理人を介して手続を行わなければならないので、不可避的に「現地代理人費用」が必要ですが、マドプロ出願の場合は現地代理人を選任することなく手続できます。
また、各国の言語に翻訳する必要もないので、翻訳料も原則不要です。
ただし、各国の審査の結果、「登録を拒絶する旨の通知」がなされて、その通知に対応する場合は、現地代理人を選任する必要があり、それに伴って「現地代理人費用」や「翻訳料」が発生することがあります。
2.知的財産権の種類知的財産権には、知的創造物を保護することによって、創作意欲を増大させる効果と、営業に使用する標識の権利を排他的に保護することによって、商品やサービスの信用を維持できる効果があります。
(知的財産権の種類)
知的財産権のうち、発明を対象とする特許権、物品の形状などの考案を対象とする実用新案権、物品のデザインを対象とする意匠権、商品やサービスマークなどを対象とする商標権の四つは、産業財産権と呼ばれています。
これらは、いずれも経済産業省の特許庁が管轄している知的財産権です。
産業財産権以外に、半導体回路配置利用権も経済産業省の管轄ですが、これは同省の特許庁ではなく、商務情報政策局の所管なので、特許庁は産業財産権の範囲に半導体回路配置利用権を入れていません。
つまり、産業財産権は、特許庁に出願し登録することによって、一定期間、独占的に実施(使用)できる知財権を指しているのです。
これら以外にも、文部科学省が管轄する著作権、農林水産省が管轄する育成者権、法務省管轄の商号も知的財産権です。
登録や登記制度はありませんが、営業秘密(ノウハウや顧客リストなど)の盗用、商品表示などで混同・誤認をもたらす行為は、経済産業省が管轄する不正競争防止法で規制されています。
工業所有権という言い方を聞くことがありますが、この言葉の厳密な定義はありません。
工業所有権は、この言葉を使う人によって、産業財産権を指すこともあれば、それ以外も含めた知財権全体を指すこともあります。
(1)特許権自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、特許庁の審査を経て、高度の発明と認められたものに、特許権が与えられます。
①公開される特許情報優先権を主張して海外に特許権を申請するには、パリ条約ルート出願で特定の国に申請する方法と、特許庁を通じて複数の国に出願するPCT出願の方法がありますが、日本で特許庁に特許権の申請をして、一年六ヶ月が経過すると、特許庁の特許公報で特許情報が公知されます。
特許庁の特許公報で特許情報が公開されれば、海外で特許情報が利用されるリスクが生じます。
ある国では、特許庁の特許公報を日々チェックする専門の組織が、新しい知財の取り込みをしているとのことです。
②立証しにくい特許権の侵害狙った海外の国で特許権を取得できても、「物の特許」であれば、その物を見れば、特許違反かどうかの判断はつきやすいのですが、「製造特許」の場合、製造している現場を見ない限り、「製造特許」が使われているかどうかの立証は、たやすくありません。
製造特許が侵害されていても、それを発見できるのは、内部告発があれば別ですが、なかなか困難ですし、裁判や商事仲裁で決着をつけようとすれば、技術的に詳しい専門家同士の議論にならざるを得ません。
体力のある大企業であればともかく、それ以外の企業にとって、特許権で権利侵害から自らの権利を守るのは、ハードルが高いと言えます。
③特許権を取得しても良い発明特許権は、特許情報が公開されるため、必ずしも特許を取れば良いとは限りません。
しかし、製造特許技術の中の一部に、ブラックボックスを作ることが可能であれば、特許出願する価値はあります。
ブラックボックスを設けることができない場合、特許を出願すること自体に、リスクが伴うかもしれません。
製造技術によっては、「意図的に特許を取らない」選択肢があることを覚えておきましょう。
税理士や弁護士に相談すれば、的確なアドバイスをもらえるかもしれませんが、一方で税理士や弁護士は、申請・登録の手続きを行うことで、自らの生業にしていることも認識しておく必要があります。
勧められるままに特許を出願するのではなく、最終的には、自社の判断で決めるべきことです。
(2)意匠権工業製品の形状、模様、色彩またはこれらを結合したもので、美感を感じさせるデザインとして、特許庁の審査を経て登録されたものは、意匠権として保護されます。
物品の部分における形状・模様・色彩も意匠権の対象となり、物品の
操作のために使われる画面デザインも含みます。
特許と実用新案が、自然法則を利用した技術的思想の発明・考案であるのに対し、意匠は、独創性のあるデザインを保護するものです。
化粧品の容器、ペットボトル、体重計、携帯電話、文房具類、玩具、かばん、靴、机、椅子、メガネ、機械部品、農機具、車両など、さまざまな分野で意匠権が活用されています。
①国によって同一ではない意匠権の対象日本は、意匠権の範囲を最も狭くしている国で、逆に欧州は、意匠権の対象範囲を日本より広くしています。
意匠権の対象範囲の広さは、米国が欧州に次ぎ、中国は日本並みに対象を厳しく限定しています。
ですから、日本で意匠権が登録できなくても、欧州や米国では認められることがあり得ます。
日本の場合、意匠権の対象は「物品のデザイン」で、物品と直接関連しない「デザインそのもの」は、意匠権の対象ではありません。
「物品」とは、持ち運び移動できる動産ですから、意匠権を確立できる対象物品は、動産と関連している必要があります。
スマホにインストールされたアプリの画像は、スマホのアプリ画像ですから、意匠権の対象ですが、サーバーに保存され、クライアントの端末にアクセスの都度送信されるウェブアプリの画像や、機器以外の場所に投影されるデザインは、端末や機器に付随したデザインではないため、意匠権の対象ではありません。
また、土地に定着している不動産の外装や内装のデザインも、意匠権の対象ではありません。
不動産の一部として使われるものでも、反復生産され、動産として販売されるものは、意匠権の対象となります。
「デザイン」は「物品」と切り離して考えないというのが、日本の意匠権の特徴です。
②多数を占める無審査制の国特許庁は、意匠権の出願があると、出願書類が所定書式を満たしているかどうかの形式的な「方式審査」を行い、方式審査を通過した出願に対して、意匠登録要件を満たしているかどうかの「実体審査」を行います。
登録要件を満たせば、登録が認められて意匠権が確立します。
これが「審査登録制度」です。
審査登録制度のメリットは、登録が認められれば、権利者の権利が確定することです。
デメリットは、調査から登録までに長い時間を要することで、登録されるまでの期間は、権利が不確定な状態に置かれることです。
一方、世界には「無審査制」を採用している国が、少なくありません。
無審査制とは、出願書類が所定書式を満たしているかどうかの「方式審査」と、明らかに不登録事由に該当するかどうかの「予備審査」は行われますが、意匠要件を満たしているかどうかの「実態審査」は行わず、「方式審査」と「予備審査」だけで、意匠権付与が公告され、意匠権が公告の日から有効となる制度です。
意匠権を巡って紛争が生じた時、その意匠権が誰のものかの判断は、当事者同士が司法の場で争うことになります。
意匠権の要件を充たすか否かの実態審査を行わない、無審査制のメリットは、出願から意匠権の発効までの時間が短期間で済むことですが、デメリットは、紛争になれば司法で解決することになる点です。
中国と欧州は無審査制を採用し、日本と米国は審査制をとっています。
国によっては、無審査で行くか審査制で行くかを、出願者の選択に委ねている国もあります。
(3)商標は重要なマーケティングのツール商標とは、事業者が自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用する識別標識のことです。
「商標権」によって、商品やサービスの「マーク」や「ネーミング」などが、排他的に保護されます。
商品を買ったりサービスを利用したりする時は、企業の名前や商品・サービスの「商標」を見て決める人がほとんどでしょう。
消費者が購買意欲を決めるのが商標の持つ力であれば、逆に買わないと決めるのも商標の力です。
商標はマーケティングのための重要なツールとして活用可能です。
また、商標は「言語の壁」を、いとも簡単に乗り越えることができます。
海外に商品やサービスのマーケティングを行う場合、商標は重要なツールになり得るのです。
ところで、商標は、一般的な普通名称では、商標として認められません。
例えば、「アップル」をリンゴの商標として登録することはできませんが、通信端末の商標であれば、通信端末では、自己と他人の商品の区別ができますから、商
標として認められたのです。
①商標の種類商標には、文字、図形、記号、立体的形状や、これらと色彩を組み合わせたものの他、動く文字や図形の「動き商標」、見る角度で図形などが変化して見える「ホログラム商標」、セブンイレブンの店舗で見かけるオレンジ、グリーン、レッドの三本の帯のような「色彩だけの商標」、パソコンの起動音のような「音商標」などがあります。
国によって商標として登録できる種類が異なることがあります。
日本で登録できても海外の国では登録対象でなかったり、逆に日本で登録できなくても、海外の国で登録できたりするケースもあり得ます。
②ある日本企業の実例日本のある企業に、中国の貿易会社から、「貴社の商品を中国国内で販売したい。
商談のため訪中して欲しい」と声がかかりました。
その会社の責任者は、喜び勇んで中国に行き、その会社との商談に臨みました。
中国側からは、「全中国における独占販売権を付与して欲しい」と要求が出されましたが、日本側は、当然のことながら断りました。
ところが、中国側から意外な発言があったのです。
曰く:「、。
、、」。
日本側が直ちに席を蹴って帰国したことは、言うまでもありません。
中国側が、日本の会社の商標を、事前に承諾を得ないで、勝手に中国で登録した行為(冒認登録と言います)は、確かに貿易以前の商道徳に反するマナーです。
しかし、一方で、日本側が訪中して商談するまで、知財対策を講じていなかったことは大問題です。
中国企業の冒認登録の体質は、日本の企業として正しようがありません。
日本人1人が、中国人10人の考えを変えることは不可能です。
それよりも、われわれ日本人のひとりひとりが、しっかりとした「貿易の基本」を会得する方が、手っ取り早くて即効性があります。
海外展開では、異文化を批判の対象とするのでなく、それを理解したうえで、対応策をとることが大切です。
③海外展開の基本、商標登録マーケティングの具体的なアクションを取る前に、知財対策を講じておくことは、「貿易の基本」です。
自社商品の商標が、輸出先の国で、誰かによって勝手に商標を登録されてしまえば、その国ではその人が権利者になります。
そうなれば、輸出したくても輸出できません。
冒認登録された人は、「その商標は、当社が作ったものだ! なぜ、海外の国で勝手に断りもなく登録するのだ!」と声をあげます。
しかし、作った人が権利を主張できるのは著作権です。
商標は、先に出願して登録した人が、正当な権利者になります。
商標権は、出願・登録されて、権利が発生するものです。
ただ、例外的に、誰でも知っている有名な商標であれば、登録していなくても、「著名商標」として、商標権が認められることがあります。
しかし、普通の企業の商標が、「著名商標」として認められることは、まず無理です。
登録申請をしていない段階で、海外バイヤーとの商談会や海外展示会のようなイベントに参加することは、知財リスクに自らをさらす無謀な行動です。
海外展示会に出展したり、海外バイヤーと商談したりする前に、知財対策を講じておくことは、海外展開の基本です。
④知財の出願登録費用は海外展開の必要経費申請登録には費用がかかります。
商標は、登録しようとするモノやサービスのカテゴリーごとに費用がかかります。
申請する国(地域)ごとに費用がかかるため、企業にとって、負担は軽くありません。
「海外で売れるかどうか分からないうちに、多額の費用をかけて商標権を取るわけにはいかない」と言う声を良く聞きます。
それは、まるで「旅行に行くのに、交通費は一切払いたくない」と言うに等しいことです。
旅行に行くのに、交
通費が必要な費用であることと同じく、知財登録の費用は、海外展開をするために欠かせない、「必要経費」です。
⑤新興国に多い商標ブローカー新興国には、外国の会社の商標や意匠を冒認登録し、それを売りつけることをビジネスとする、知財ブローカーが数多く存在しています。
知的財産権を侵害しがちな国(地域)として、従前から、中国、韓国、台湾、香港が挙げられてきました。
しかし、最近ではタイ、ベトナム、インドネシアなどの東南アジア諸国でも、安心できません。
冒認登録の超大国は、言うまでもなく、中国です。
「青森」は、日本側の異議を受けて取り消しとなりましたが、「クレヨンしんちゃん」のキャラクター商品は、上海で、本家本元の本物が偽物だとして当局に撤去されました。
無印良品も、中国で長期間の法廷闘争を繰り広げました。
日本のお米の「こしひかり(越光)」、「一目惚」、「秋田小町」、焼酎の「森伊蔵」、「伊佐美」「村尾」……、全て抜け駆け登録されています。
地名は、本来登録できないのですが、日本の少しでも有名な地名は、すでにほとんど登録されていいます。
台湾では、「讃岐」がいったん登録されましたが、日本のうどん業者の取消請求が認められて、台湾企業の登録が取り消されました。
新興国には、外国の会社の商標や意匠を冒認登録して、それを売りつける、プロフェッショナルな知財ブローカーが存在しています。
知財意識の薄い日本の企業は、そうした知財ブローカーの格好の餌食です。
輸出しようとする企業は、「出願・登録費用がもったいない」などと、呑気なことを言っている場合ではありません。
冒認登録された場合、知財ブローカーが弁護士を通して要求してくることは、「ただちに輸出を停止し、すでに輸出したものおよび今後輸出するものに対して、商標使用料を支払うこと」、あるいは「当該商標を買い取ること」です。
商標買い取りの要求額は、数百万円から1千万円を超えると言われています。
こうした知財トラブルが原因で、輸出できている商品が輸出できなくなったり、商標買い取りに応じたりすることと、事前にある程度の費用をかけて商標登録をすることのいずれが、安くつくのでしょうか? 商売人であれば、答えは明白です。
⑥知財対策の限界それでは、万が一、海外の国(地域)で、自社が商標や意匠を登録してあるにも関わらず、他の業者が、まったく同一または類似した商標や意匠を使った商品を売り始めた場合、どうすれば良いでしょうか?まず、誰がどこで作っているかを調べる、実態調査をします。
通常は、現地の調査会社に、有償で調査を依頼します。
調査の結果、権利侵害品を製造、販売している証拠が固まったら、次は、現地の弁護士と相談して、弁護士名で警告書を出します。
相手がそれを無視するのであれば、知財や企業の営業権を管轄する行政当局に持ち込んで、違法行為を中止させ、それでも相手が違法行為を続ける場合は、裁判に提訴するのが、一般的な対応策です。
通常、弁護士名で警告書を出せば、大半の業者が違法行為をやめると言われています。
しかし、警告書を出しても効果がなければ、行政に訴えるか、裁判に訴えるかの選択肢しかありません。
そうなると、大企業を除けば、その費用負担に堪えられるかどうかは、厳しいものがあります。
模倣品対策の場合、売れ筋の商品であれば、一つの模倣品製造・販売業者を叩いても、次から次へと模倣業者が現れてきます。
大企業であれば、モグラ叩きをし続けることができますが、それでも模倣業者を撲滅できる保障はありません。
大企業でさえ、手を焼いています。
つまり、企業にとって、知財リスクをゼロにするのは無理かもしれないという認識を持つことも必要です。
数ある貿易のリスクの中で、知財リスクだけは、残念ながら、どんなに頑張っても、完全にリスクをゼロにすることはできません。
知財リスク対策に限界があることは自覚したうえで、それでも必要な知財対策を講じて、海外展開に乗り出さざるを得ないのが現状です。
⑦商標が冒認登録された場合の対応策海外展開の具体的なアクションを取る前に、必ずターゲットとする国(地域)で知財登録の申請をしておくよう、すでに申し上げました。
しかし、現地にある他の業者が、すでに商標を冒認登録していた場合、どう対処するのが良いでし
ょうか? その業者が不当に持っている権利を取り消すように、手続きを取ることができる場合もあるでしょう。
しかし、その解決には何年もの時間がかかって、その商標を使った商品のビジネスは、それまで一切できない状態が、長期間続かざるを得ません。
大企業を除けば、特に中小の企業が持つ商標は、余り名が知られていないことが多いと思われます。
日本で、知っている人がいても、海外では、まったく知られていない商標であることも少なくないでしょう。
これは、大企業にはない、中小の企業特有のメリットです。
そのメリットを生かして、その国(地域)では、日本とまったく違う商標をつけて売ることにすれば良いのです。
商標を冒認登録した業者と、商標買い取りの交渉をする必要などありません。
もちろん、可能ならば、日本国内と同一の商標を使えれば、それが最善なことは、言うまでもありません。
しかし、万が一、海外の国(地域)での商標が、手遅れになってしまった場合は、次善の策として、別の商標で売る方法が、最も安上がりで、冒認登録した業者に打撃を与える有効な方法です。
これは、大企業にはできません。
中小の企業だけができる特権です。
(4)著作権の効用著作権は、海外への商品やサービスの輸出とは、余り縁がなさそうな感じがしますが、実はそうではありません。
製造設備の取扱マニュアル、商品カタログ、商品の説明書、会社紹介のカタログ等々……、実はビジネスの世界には著作権のあるものが溢れています。
しかも、商標、意匠、特許、実用新案などは登録されなければ権利化されないのに対し、著作権は、著作物を創作した時に、その著作者の権利として、自然発生的に権利が生じます。
法人の場合は、法人がその著作物を作る企画をし、その法人の業務に従事する者が、職務命令を受けて創作したものが、法人名義で公表され、かつ、契約や就業規則で創作した職員を著作者と定めていない場合、「法人著作」と呼ばれ、個人の場合と同じように、著作権として保護されます。
①著作権と保護期間文字、音、絵、動画などで、「思想又は感情」を「創作的」に「表現したもの」が、「著作物」です。
その他、新聞、雑誌、百科事典などのように、素材の選択や配列によって創作性のあるものは、「編集著作物」として保護されます。
著作権の保護期間は、原則として著作者の生存している時とその死後70年間です。
団体名義の著作物の保護期間は、公表後70年(創作後70年以内に公表されなかった時は、創作後70年)です。
②著作者の権利内容著作者の権利内容には、「著作者人格権」と「著作者財産権」があります。
「著作者人格権」とは、著作者が公表するかどうかを決めることができる「公表権」、著作者が著作者名を公表するかどうかを決めることができる「氏名表示権」、著作者の了解がなければ作品を変えることができない「同一性保持権」の三つを言います。
「著作財産権」とは、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権等々で、著作物を利用、貸与、譲渡できる権利を言います。
③海外展開と著作権海外の模倣業者が、もともとは日本語で書かれていた商品説明書を、その国の言語に翻訳して、写真などを少し改変したものを、模倣商品に添付して販売すれば、著作権侵害です。
その商品説明書は、日本で制作された時から著作権のある著作物であったのですから、その一部を著作権者の同意を得ないで、勝手に改変したことで、「著作者人格権」の「同一性保持権」違反、次に著作者の同意を得ないで勝手に翻訳したことで、「著作財産権」の「翻訳権」違反です。
模倣品製造業者を追求するうえで、著作権は使える知財になるかもしれません。
日本の企業が海外の国で商標登録していなかったことに乗じて、海外のその国の業者が、勝手に当該日本企業の商標を登録してしまって、商標権を主張する事態が度々起きています。
このような事態に直面した某日本企業は、商標を「著作物」だとして、著作権違反で相手を追求し、商標登録の取消裁判を起こしました。
数年間の法廷闘争の末、裁判所は著作権法違反を認めて、その業者の商標登録を取り消しました。
このような例もあるのですが、一般的には、登録することで権利が認められる商標権の方が、創作した時に自然発生する著作権よりも、「強い」と言われています。
必ずしも、著作権を主張して商標権に勝てるとは限らないので、商標登録は、海外展開の具体的なアクションを起こす前に、必ず申請しておきましょう。
(5)食品業者は育成者権に注意「植物の新品種の保護に関する国際条約」(InternationalConventionfortheProtectionofNewVarietiesofPlants)は、この条約に基づいて設立された国際機関のフランス語の名称、「植物新品種保護国際同盟」(Union:internationaleUPOV)pourlaprotect、onvdesobtentions。
①78年条約と91年条約UPOV条約は、各国が共通の基本的原則に従って、植物の新品種を保護することで、優れた品種の開発と流通を促し、農業の発展に貢献することを目的として、1961年に最初の条約が作られ、1968年に発効した後、1978年と1991年に比較的大きな改正が行われて、現在に至っています。
1978年の改正条約を「78年条約」といい、1991年の改正条約を「91年条約」または「新条約」と言っています。
91年条約は、78年条約と比較して、育成者権が強化され、保護対象作物は、各国ごとに定めた「特定の植物」から、全品種に拡大されました。
加盟国のうちの8割近い国々が、91年条約を批准していますが、2割強の国は78年条約に留まっています。
日本は91年条約の加盟国です。
78年条約の国の方が、91年条約の国よりも、植物新品種に対する保護が弱いのですが、実は植物新品種に対する保護の仕組みがない、条約未加盟国の方が、数から言えばはるかに多い現実にあります。
つまり、外国の植物新品種が保護されない国の方が多いことに、注意しなければなりません。
②各国独自の品種登録制度UPOV条約に加盟している国は、UPOV条約が定めている共通の枠組みの中で、国内法によって、それぞれ独自の品種登録制度を敷いています。
日本では、「品種登録制度」が種苗法で定められています。
米国では、特許法と植物品種法で、植物の新品種を保護しています。
欧州連合(EU)には、域内共通で権利を取得できる品種登録制度があります。
アジアでは日本、中国、韓国、シンガポール、ベトナムの五ヵ国がUPOV条約締約国です。
台湾は条約未加盟、香港は適用対象外、中国は78年条約の批准国なので、種苗の輸出には注意が必要です。
他のアジアの加盟国は、91年条約を批准しています。
③育成者権の存続期間育成者権には存続期間という権利保護期間があります。
存続期間は、品種登録された時期が、1998年12月24日~2005年6月16日であれば、草本性植物20年、果樹、林木、観賞樹などの木本性植物25年、2005年6月17日以降の登録であれば、草本性植物が20年、木本性植物が25年です。
④育成者権の効力種苗法に基づいて登録されている植物の苗や種子は、植物育成者権を持っている権利者の同意がなければ、その種や苗などを海外に持ち出すことも、海外で生産することも、その収穫物を輸入することもできません。
特に、食品業界で、海外とビジネスをしている人は、他人が保有している育成者権を侵害しないように気をつけなければなりません。
違反者は、個人の場合、10年以下の懲役または(および)1,000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が科されます。
場合によっては、刑事告発を受けて、懲役に処されることもあります。
⑤効果的な育成者権と商標権の取得育成者権は、25年や30年で存続期間が満了します。
育成者権を取得する際に、品種の名称を商標権として取得しておくと、育成者権の存続期間が終了してからも、ブランドの力で、マーケットを維持継続することができて、効果的です。
育成者権だけでなく、商標権も併用して活用することをお勧めします。
⑥育成者権侵害例育成者権の侵害例の多くは、種苗が、権利者の許諾を得ないで海外に密輸され、海外で栽培され、その収穫物や加工品が日本に輸入されたり、東南アジアの国に輸出されたりするケースです。
日本に輸入される場合、権利者は、税関に対して輸入指し止めを請求して、輸入を止めることができますが、日本以外の国に輸出された場合は、打つ手がありません。
今までに種苗法違反として摘発されたケースで、特に目立つのが、中国と韓国です。
韓国は、いちごの「あまおう」を日本の育成者権者の同意を得ないで、勝手に自国に持ち出して栽培し、香港向けに安値で輸出して、日本の市場を奪っています。
韓国は、91年UPOV条約締約国です。
(種苗密輸と収穫物の日本、東南アジアへの輸出事例)
海外で増殖して、日本に輸入する目的で、種苗を手持ちで海外に持ち出す場合、必ず育成者権の有無を確認し、権利者がいるのであれば、海外に持ち出すこと、海外の国で増殖すること、そしてその収穫物(または加工品)を日本に輸入することの許諾を権利者から書面でもらうようにしましょう。
コメント