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第1章貿易取引の流れと書類の役割

目次

はじめに

貿易実務を学ぶアプローチにはいろいろあります。

なかでも本書のように、書類を切り口として輸送、通関、保険、決済など各業務の流れを把握する方法は、地道な努力を必要としますが、確固たる貿易実務の知識を身に付けるには有効な手段です。

貿易実務の現場では、各業務を実行した証として確認書や証明書など数多くの書類が作成されています。

これら書類に記載された事項や書類の流れを理解することで、貿易実務における各業務の基礎知識が自然に培われます。

貿易書類の電子化の流れは今後も進んで行くと考えられますが、情報伝達の手段が紙から電子データに置き換わった場合でも、それぞれの書類がもっている機能に変わりはありません。

貿易書類のEDI(電子データ交換)化がさらに進むこれからの時代においては、書類の記載事項や流れを把握しておくことがより求められます。

そのためにも、内容を確認しやすい紙の書類で各業務を理解しておくことが、確実な備えとなります。

本書では、貿易実務における基本的で使用頻度の高い約50種類の書類を選び、その書類が作成される手順や流れを説明することで、より現場に近い感覚で貿易実務を理解いただけるように努めました。

本書がこれから貿易実務を学ばれる方や、もう一度知識を整理しようと考えられている方のお役に立てることを祈念しております。

2021年5月黒岩章

CONTENTS

 

第1章貿易取引の流れと書類の役割

  • ①貿易書類の機能と役割とは
  • ②貿易の流れ①取引先探し
  • ③貿易の流れ②契約交渉
  • ④貿易の流れ③船積準備
  • ⑤貿易の流れ④輸出業務
  • ⑥貿易の流れ⑤輸入業務
  • ⑦インコタームズとは
  • ⑧インコタームズすべての運送手段に適した規則とは
  • ⑨インコタームズ船舶運送にのみ適した規則とは

第1章貿易取引の流れと書類の役割

①貿易書類の機能と役割とは

書類の役割貿易とは、国をまたがって商品とお金を交換する取引のことです。

国をまたがってモノ(商品)やカネ(代金)を移動させる貿易実務の現場では、メーカー、商社、省庁、税関、輸送会社、海貨業者、通関業者、銀行など多くの関係者が関連しながら業務を行います。

貿易の業務は多岐にわたり、行政機関や税関への輸出入申請や許可、輸出者と輸入者の間で交わすオファー、契約、船積通知、支払指示、その他にも銀行との決済、輸送人との船積みや貨物の引き取り、保険会社への付保や求償などとさまざまです。

これらの業務は、対面交渉や電話、Eメール、ファックス、レターなどを介して行われますが、その結果を記録し相手方に伝える証拠として、それぞれの目的に応じた書類が作成され、重要な役割を果たしています。

貿易実務における書類は、モノとカネの動きを確実にまた円滑に進めるため、依頼や保証、権限、補償、確約、証明、指示などさまざまな役割を果たしているのです。

船積書類貿易実務で作成される多くの書類のなかでも「船積書類(→第2章①)」(ShippingDocuments)と呼ばれる一群の書類は、輸出者が船積みを行った証拠書類として輸入者に送付するもので、代金の決済業務で重要な役割をもちます。

貿易取引では、モノとカネを直接交換するのは現実的ではないため、モノの代わりに書類を売買することによって権利を移転させるからです。

輸出者は、契約履行の証である船積書類を輸入者に渡すことと引き換えにカネを受け取り、輸入者は受け取った船積書類を使ってモノを引き取ります。

②貿易の流れ①取引先探し

市場調査から信用調査まで①

市場調査貿易取引の準備段階では、商品の市場調査(Marketing)を行います。

市場調査では、商品の輸出先(輸入国)の文化、気候、政治や金融情勢などの基礎情報から、ターゲット市場の規模、消費者の好み、購買力について、商品(Products)を販売する流通ルート(Place)、価格(Price)、販売戦略(Promotion)など、マーケティングの4Pと呼ばれる要素を組み合わせて調査を行います。

②法規制チェック

輸出入者は、取り扱おうとする商品が自国の貿易関連法に抵触しないか、また国際条約での規制を受けないかを調べて、規制を受ける商品であれば関係省庁から輸出入の許可を取得できるかどうかなど、詳細を検討します。

③取引先探し

貿易取引は、地理的に遠く離れた商習慣の異なる相手との商取引なので、輸送中の事故や代金決済のリスクは国内取引に比べて格段に高くなります。

そのため、信頼できる相手を選ぶことが、取引を円滑に進めるための重要な要素といえます。取引先探しは、銀行や公的機関の紹介、業界情報、見本市などの機会を利用して行います。

④信用調査

取引先の信頼度は、営業活動や財務状況など複数の側面からチェックする必要があります。

これらの調査は、訪問による直接面談や銀行や同業者からの情報の他、専門の調査機関による信用調査も一般的に行われています。

③貿易の流れ②契約交渉

引き合いから契約まで

①引き合い貿易取引の商談は、相手先の意向を照会する「引き合い(Inquiry)から始まります。

輸出者であれば自社商品のカタログや価格表を取引先候補に送付したり、輸入者であれば購入希望商品を取り扱うメーカーや商社に出荷可能数量や販売価格の問い合わせなどをします。

輸出者か輸入者にかかわらず、通常は複数の取引先候補と引き合いを行って、取引交渉をする相手を絞り込んでいきます。

②オファー

引き合いによって、おたがいの売りと買いの意思が確認できれば、次は具体的な交渉を始めます。

一般的には、輸入者が希望商品と数量や船積時期などの付帯条件を伝えて、輸出者が価格や取引条件などの輸出者案を「オファー(Offer)」として輸入者に伝えます。

オファーとは、相手に対する確約のことで、相手がそのオファーを承諾すれば契約が成立する拘束力をもちます。

③カウンターオファー

輸出者のオファーを輸入者が承諾しない場合は交渉は成立しませんが、輸入者側が別の案を輸出者に返答する「カウンターオファー」(CounterOffer)を出して交渉を続けることもできます。

カウンターオファーは新たなオファーとみなされるので、受け取った側が承諾すれば契約が成立します。通常の取引交渉では、カウンターオファーを繰り返し、成約か決裂かの決着がつけられます。

④契約の成立

輸出入者間でオファーをやり取りし、最後のカウンターオファーを他方が承諾すれば貿易取引は成立します。

その確認として価格や条件など合意事項を記載した契約書(Contract)が作成されます。

④貿易の流れ③船積準備

輸出者の船積準備とは

輸出者の船積準備は次の手順で進められます。

①信用状の受け取り……L/C決済(→第6章⑤)で契約する場合は、銀行から信用状を受け取り、契約どおりの条件で開設されているかどうかを確認します。

②輸出許認可の取得……国際条約や国内法で輸出許認可を必要とする商品の場合、関係省庁に申請して輸出許可や承認を取得します。

③輸送の手配……輸出者が輸送を手配する取引条件の場合、海上輸送では船会社に船腹予約(ブッキング)や用船(チャーター船の手配)を行い、航空輸送では航空会社やフォワーダー(航空貨物混載業者)に輸送手配を依頼します。

④貨物海上保険の申し込み……輸出者が貨物海上保険を手配する取引条件の場合は、損害保険会社に予定保険を申し込みます。

⑤輸入者への船積通知……輸入者に船積予定を連絡します。

輸入者の荷受準備とは

輸入者の荷受準備は次の手順で進められます。

①信用状の開設……L/C決済の契約の場合、銀行に信用状の開設を依頼し、信用状の要求書類として、輸入通関などに必要な書類を記載しておきます。

②輸入許認可の取得……輸入許可・承認や割当を必要とする場合は、関係省庁に申請して、許可・承認や割当などの許認可を取得します。

③輸送の手配と保険の契約……輸入者が輸送や保険を手配する取引条件の場合、輸出者に出荷準備完了予定を確認して、輸送手配や予定保険の申し込みをします。

⑤貿易の流れ④輸出業務

船積みから代金回収まで

①輸出通関と船積み

輸出者は、船積みする本船や航空機が決まれば、海貨・通関業者に、輸出通関に必要な書類(インボイス、パッキングリスト、輸出許可・承認証など)を送付し、通関や貨物搬入など諸手続きの代行を依頼します。

海貨・通関業者は、税関での輸出通関手続きを代行し、許可取得後に船会社や航空会社に貨物を引き渡し、船積みを実行します。

②船荷証券・航空運送状の取得

船積みが完了すれば、輸出者は、海上輸送の場合は船荷証券を、航空輸送の場合は航空運送状を、運送人から受け取ります。次いで輸出者は、船積日や数量などの確定情報と本船の仕向地到着予定などを輸入者に連絡します。

③貨物海上保険証券の取得

輸出者が貨物海上保険を手配する契約の場合、輸出者は保険会社に船積明細を伝えて確定保険を申し込み、保険証券を受け取ります。

④その他の船積書類を入手

輸出者は、輸入者との代金決済に必要な船積書類を準備します。L/C決済の場合はL/Cが要求する船積書類を準備します。

⑤船積書類の送付と代金回収

輸出者は、荷為替手形決済(→第6章①)の場合は、為替手形を振り出し、輸入者に銀行経由で荷為替手形を送付して代金を回収します。送金決済の場合は、船積書類を直接輸入者に送付して代金を回収します。

⑥貿易の流れ⑤輸入業務

代金支払いから貨物引き取りまで

①代金支払いと船積書類の入手

代金の支払いと船積書類の入手方法は、荷為替手形決済とそれ以外で次のように異なります。

荷為替手形決済の場合……輸入者は銀行から呈示される為替手形の支払いまたは引き受けを行い、船積書類を入手します。

送金決済とその他の決済の場合……輸入者は船積書類を輸出者から直接受け取ります。

代金の支払いは、契約で合意した支払期日に送金、あるいはネッティングによる相殺を行います。

②輸入手続きの委託

輸入者は入手した船積書類を海貨・通関業者に渡して、輸入通関や貨物の引き取り手続きを委託します。

③貨物の引渡請求

海上輸送の場合、輸入者(またはその委託を受けた海貨・通関業者)は船荷証券を船会社に差し入れて貨物の引き渡しを請求します。

航空輸送の場合、航空運送状の差し入れの必要はなく、航空運送状に記載されている荷受人に引き渡されます。

④輸入通関と関税の支払い

海貨・通関業者は、輸入者から受け取った船積書類を用いて税関で輸入通関の手続きを行います。税関の輸入許可は、輸入者が関税を支払った後に出されます。

⑤貨物の引き取り

輸入者は、自社工場や倉庫に輸入通関済みの貨物を引き取ります。

⑥クレーム処理

輸入者が貨物を受け取ったとき、輸送中に損傷を受けていることが発見されたら、保険会社に保険求償を行います。

⑦インコタームズとは

インコタームズ

インコタームズ(INCOTERMS)は、InternationalCommercialTermsの略称で、国際商業会議所(ICC:InternationalChamberofCommerce)が制定した貿易取引規則のことです。

インコタームズは1936年に制定されてから、コンテナ船の出現や航空輸送の活発化など、運送手段の変革に対応して、規則の追加や改訂が行われ、最新版はインコタームズ2020(2020年1月1日に発効)となっています。

インコタームズは、貿易輸送中の商品の「危険」と「費用」を売り手(輸出者)と買い手(輸入者)間でどのように分担するかなどそれぞれの義務について、11種類の規則を策定し、3文字のアルファベットで記号化しています。

インコタームズ11規則は、次の2つのグループに分かれています。

1……すべての運送手段に適した規則陸、海、空、すべての運送モードと複数の運送手段を組み合わせた一貫運送にも対応している規則です。

2……船舶運送にのみ適した規則海上輸送や内陸水路の船舶運送にのみ対応している規則です。

インコタームズと契約

インコタームズは、国際条約ではないので強制力はありません。売買契約の当事者が採用の合意をすることによって、契約の取引条件として効力を発揮するものです。

採用する場合は「INCOTERMS2020」の文言を契約書に記載しておきます。

インコタームズに規定されていなかったり、予測できない事態が発生した場合は、売買契約にもとづいて当事者間の協議で解決します。

⑧インコタームズすべての運送手段に適した規則とは

すべての運送手段に適した規則

EXW……売り手の工場や倉庫などの「指定引渡地」で、危険と費用負担が移転する規則です。

トラックなどの車両への積み込み、および輸出通関、輸入通関ともに、買い手の負担になります。

FCA……買い手が輸送を手配し、売り手が商品を「指定引渡地で運送人に引き渡した時点」で、危険と費用負担が移転する規則です。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります。

CPT……売り手が輸送を手配し、商品を「運送人に引き渡した時点」で、危険が移転する規則です。売り手は、危険移転までの費用と「指定仕向地」までの輸送費を負担します。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担です。

CIP……売り手が、輸送と保険を手配し、商品を「運送人に引き渡した時点」で、危険が移転する規則です。売り手は、危険移転までの費用および「指定仕向地」までの輸送費と保険料を負担します。保険条件は最も広いてん補範囲のICC(A)条件と規定されています(→第1章⑨)。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります。

DAP……輸入国側の「指定仕向地」で、荷おろしの準備ができている到着した運送手段の上で、危険と費用が移転する規則です。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります。

DPU……輸入国側の「指定仕向地」で、到着した運送手段から荷おろし後、危険と費用が移転する規則です。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります*。

DDP……輸入国側の「指定仕向地」で、荷おろしの準備ができている到着した運送手段の上で、危険と費用が移転する規則です。輸出通関、輸入通関ともに売り手の負担になります。

⑨インコタームズ船舶運送にのみ適した規則とは

DPU:2010年版の「DAT」を改称した規則(→貿易資料1−2)。船舶運送にのみ適した規則○FAS……輸出国側の指定船積港で、買い手が手配した「本船の船側」に売り手が商品を置いた時点で、危険と費用負担が移転する規則です。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担です。

FOB……輸出国側の指定船積港で、買い手が手配した本船に売り手が商品を積み込み、「本船上」で危険と費用負担が移転する規則です。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります。

CFR……売り手が輸送を手配し、輸出国側の指定船積港で手配した本船に商品を積み込んだときに、「本船上」で危険が移転する規則です。売り手は危険移転までの費用と指定仕向港までの運賃を負担します。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担です。

CIF……売り手が輸送と保険を手配し、輸出国側の指定船積港で手配した本船に商品を積み込んだときに、「本船上」で危険が移転する規則です。売り手は、危険移転までの費用にくわえ、指定仕向港までの運賃と保険料を負担します。保険条件は、もっとも狭いてん補範囲のICC(C)条件(→第7章③)と規定されています。輸出通関は売り手、輸入通関は買い手の負担になります。

2020年版インコタームズのおもな変更点

2020年版インコタームズでは、下記を含めておもに7項目が変更されています(貿易資料1−2を参照)。

①CIPで、売り手が手配する保険補償の水準をICC(A)に変更。CIFは、ICC(C)のままで変更はありません。

②DPUで、仕向地をターミナルに限定せずに「いかなる場所でも可」とし、DATから名称を変更。

これにともない、荷おろし前に引渡しを行い危険を移転するDAPと順序を変更しました。

 

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