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営業マンのための貿易実務~最新の「インコタームズ2020」に対応!~

目次

はじめに

海外に市場を広げたいと思っても、契約破棄されたとか、輸出したのに代金回収に失敗したという話を聞くと、ついつい躊躇してしまいます。

一方で、「貿易なんて国内取引と基本的に変わることはない」と思い込んで、貿易の基本を学ぶことなく、いきなり海外展示会や海外バイヤーとの商談会に参加し、なぜ成果があがらないのかと、悩んでいる人も少なくありません。

このように貿易に躊躇する人や勇ましく挑戦する、多くの人たちに出逢いながら、中堅・中小企業の皆様の海外展開を支援する仕事を、長年行ってきました。

幸いにも、かつて、貿易の最前線で、百戦錬磨の経験から修得した知識と知恵、そして貿易で生じるさまざまなリスクとその回避策を中心とした、貿易のアドバイスや講演、業界紙誌への執筆等は、多くの企業や支援組織の皆様から、高い評価をいただいてきました。

そして、「目からウロコだ」と新鮮な驚きの声とともに、ぜひ本にして出版してほしいとの要望も数多くいただいてきました。

このほど、その解説内容を、関係する皆様のご協力を得て、「営業マンのための貿易実務」としてまとめることができました。

本書は、国際ビジネスの第一線でご活躍される皆様が安全に貿易を行ううえで、直接的に役立つ内容を網羅したものと思います。

実は、企業の海外展開を支援する仕事に携わって間もなくして、営業マンの役に立つ、本書のような貿易実務書を、多くの人たちが必要としていることを知ったのですが、構想と執筆を経て、上梓するまでに、長い時間が経過してしまいました。

より完璧なものとしていくためにも、皆様の忌憚のないご意見、ご指導を賜ることができれば幸甚です。

目 次

はじめに

第一章 貿易実務とは何か?

  • 1.国内取引と海外取引との取引環境の違い
  • (1)国内取引の取引環境
  • (2)共通の取引環境がなかった海外取引
  • (3)整えられてきた世界共通の貿易環境と貿易のツール
  • 2.契約までの貿易実務
  • (1)誘引
  • (2)引き合い(Inquiry)
  • (3)商談
  • (4)契約してからの貿易実務

第二章 国際物流の基礎知識

  • 1.物流業者の呼称
  • (1)海貨業者と乙仲
  • (2)NVOCC
  • (3)貿易の現場での呼称
  • (4)フォワーダーの業務
  • 2.国際間を輸送される貨物の種類
  • (1)バラ積み貨物(BulkCargo)
  • (2)コンテナ貨物(ContainerCargo)~LCL貨物とFCL貨物~
  • (3)航空貨物(AirCargo)
  • 3.貨物の種類による物流パターン
  • (1)バラ積み貨物
  • (2)LCL貨物
  • (3)FCL貨物
  • (4)航空貨物
  • 4.物流に関わる重要な書類
  • (1)船荷証券(B/L)
  • (2)船積書類
  • (3)為替手形
  • (4)荷為替手形
  • (5)航空貨物運送状(AWB)

第三章 インコタームズ

  • 1.インコタームズの定型取引条件で決まること
  • (1)義務が決まる
  • (2)貨物の引渡地点が決まる
  • (3)負担するコストが決まる
  • 2.「インコタームズ2020」の構成
  • 3.「インコタームズ2020」に定められている11の定型取引条件
  • (1)EXW(工場渡し)~ Ex.Works~
  • (2)FCA(運送人渡し)~ FreeCarrier~
  • (3)CPT(輸送費込み)~ CarriagePaidto~
  • (4)CIP(輸送費保険料込み)~ Carriage,InsurancePaidto~
  • (5)DAP(仕向地持込渡し)~ DeliveredatPlace~
  • (6)DPU(荷卸込持込渡し)~ DeliveredatPlaceUnloaded~
  • (7)DDP(関税込持込渡し)~ DeliveredDutyPaid~
  • (8)FAS(船側渡し)~ FreeAlongsideShip~
  • (9)FOB(本船渡し)~ FreeonBoard~
  • (10)CFR(運賃込み)~ CostandFreight~
  • (11)CIF(運賃保険料込み)~ Cost,InsuranceandFreight~
  • 4.「インコタームズ2010」から「インコタームズ2020」への主な変更点
  • (1)FCAでの買主の費用負担による「積み込み証明付記」(OnBoardNotation)のオプション追加
  • (2)CIF・CIPで付保する保険の種類
  • (3)FCAとDで始まる用語における売主または買主による輸送手段の手配
  • (4)DATのDPUへの表記変更
  • 5.定型取引条件は何を使えば良いか?
  • (1)売主が使うべき定型取引条件
  • (2)買主が使うべき定型取引条件
  • 6.定型取引条件の誤用例と慣習的な使用例
  • (1)誤用例
  • (2)慣習的に使われている定型取引条件
  • 4.物流に関わる重要な書類
  • (1)船荷証券(B/L)
  • (2)船積書類
  • (3)為替手形
  • (4)荷為替手形
  • (5)航空貨物運送状(AWB)

第四章 貿易の商慣習

  • 1.貿易の商慣習はなぜ生まれたのか?
  • 2.貿易の商慣習とは?
  • (1)貿易商談は「オファー」と「ビッド」の繰り返しで進行、アクセプト(受諾)で契約成立!
  • (2)多くの貿易実務書での解説、「オファー」、「カウンターオファー」
  • 3.オファー・ビッド
  • (1)サブコンオファー・サブコンビッド
  • (2)ファームオファー・ファームビッド
  • (3)先売りご免(OfferSubjecttoPriorSale)のオファー
  • 4.オファー・ビッドの方法
  • (1)面談や電話でのオファー・ビッド
  • (2)オファーシートのメール添付・ファックス・郵送
  • 5.貿易の商慣習の規範性

第五章 物流リスク

  • 1.貿易物流におけるさまざまなリスク
  • (1)自然災害のリスク
  • (2)交通事故、人為的ミス、水濡れ、盗難等のリスク
  • (3)船舶の衝突、座礁、船火事、機関故障による航行不能
  • 2.運送人の責任限度
  • 3.損害保険の種類
  • (1)国内の運送保険
  • (2)協会貨物約款(InstituteCargoClauses:ICC)
  • (3)国内保険と外航貨物海上保険の補償内容
  • (4)売主・買主がかけるべき保険
  • 4.保険のかけ方
  • (1)予定保険
  • (2)保険金額の算定
  • (3)保険対象とならないケース
  • (4)保険料の割増

第六章 貿易決済の基礎知識

  • 1.送金
  • (1)電信送金(TelegraphicTransfer:T/T)
  • (2)「小切手」や「為替証書」(DemandDraft)を介した送金方法
  • 2.D/P決済とD/A決済
  • (1)D/P・D/A決済の仕組み
  • 3.信用状付きの荷為替手形決済
  • (1)信用状決済の仕組み
  • (2)回転信用状(RevolvingL/C)
  • 4.国際ファクタリング
  • (1)国際ファクタリングの仕組み
  • (2)国際ファクタリングの利用方法

第七章 決済リスク

  • 1.貨物代金を取りはぐれ
  • (1)泣き寝入りして諦める
  • (2)裁判で解決
  • (3)商事仲裁で解決
  • (4)裁判も仲裁もカネがかかる
  • (5)話し合いで解決
  • 2.送金決済のリスクとそのヘッジ方法
  • (1)前払送金と後払送金
  • (2)貿易ではあり得ない「月末締め翌々月送金受領」条件
  • (3)蔓延する「一部は前払送金、残金は後払送金」
  • (4)第三者同士の取引で出荷後送金支払条件は不可
  • (5)送金決済のリスクヘッジ方法
  • 3.D/P・D/A決済のリスクとそのヘッジ方法
  • (1)銀行に支払保証義務はない
  • (2)D/PよりD/Aの方がリスクは高い
  • (3)スタンドバイL/Cの開設
  • (4)貿易保険へのリスクヘッジ
  • 4.信用状決済のリスクとそのヘッジ方法
  • (1)信用状開設銀行倒産のリスク
  • (2)ディスクレのリスク
  • (3)B/Lの危機への対応
  • 5.国際ファクタリングのリスク
  • (1)時間がかかる
  • (2)非常危険は免責
  • (3)ファクターの倒産リスク
  • (4)ディスピュートによるファクタリング停止
  • (5)買主による減額支払
  • (6)ファクタリングに適した取引
  • 6.日本貿易保険(NEXI)へのリスクヘッジ
  • (1)NEXIの利用方法
  • (2)主な貿易保険の種類
  • 7.輸出取引信用保険
  • 8.各決済方法と推奨利用当事者

第八章 知的財産権とリスク

1.国際出願の方法(1)パリ条約ルート出願(特許権・実用新案権、意匠権と商標権)(2)PCT出願(特許権・実用新案権)(3)ハーグ出願(意匠権)(4)マドプロ出願(商標)2.知的財産権の種類(1)特許権(2)意匠権(3)商標は重要なマーケティングのツール(4)著作権の効用(5)食品業者は育成者権に注意第九章 輸出オファー価格の算定方法とオファーシート・価格表1.輸出オファー価格の算定方法(1)商品の製造・販売原価(2)表示ラベルの費用を算定する(3)輸出梱包コスト(4)各種許可証・証明書等取得費用(5)原産地証明書(6)引渡場所までの運送費(EXW・FCA・FAS・FOBの場合)(7)検査費用・輸出通関費用・船積諸掛りおよび仕向地までの運送費(CPT・CIP・DAP・DPU・DDP・CFR・CIFの場合)(8)銀行決済諸掛り(9)貿易保険料(10)PL保険料(11)損害保険料(12)仕入れに関わる還付消費税(13)費用発生から代金回収までの金利(14)利益(15)米ドル建て価格2.オファーシートと価格表(1)オファーシート(2)価格表第十章 契約書の基礎知識1.契約書とは?(1)契約書はあれば良いのか?(2)良い契約書とは?2.契約書式の戦い3.契約書式の戦いに対する救護策(1)ユニドロワ原則

(2)裏面約款(3)定型書式提供側に不利とならないための防御策4.買手有利のウィーン売買条約(1)瑕疵担保責任の期間は最長2年間(2)瑕疵による代金の減額(3)支払義務の発生(4)契約違反に対する予防的救済手段5.英米法書式と非英米法の契約書6.契約書の種類(1)売買契約書(2)その他の契約書7.売買契約のビジネス条項(1)商品名(CommodityName)(2)品質・規格(Quality&)(3)数量(Quantity)(4)単価と定型取引条件(UnitPriceandTradeterms)(5)支払条件(Payment)(6)包装(Packing)(7)船積時期(TimeofShipment)(8)船積港・荷揚港(PortofLoading・PortofDischarging)(9)引渡地と仕向地(PlaceofDelivery&n)(10)積み替えと分割船積(Transshipment&PartialShipment)(11)買主が必要とする船積書類(Buyer’sRequiredDocuments)(12)シッピングマーク(荷印)(ShippingMark)(13)最終条件(Final)8.売買契約の一般条項(GeneralTerms&Conditions)(1)個別契約書(IndividualContract)(2)増加費用(IncreasedCost)(3)検査と品質保証(Inspection&Warranty)(4)インコタームズ(Incoterms)(5)銀行費用(BankingCharges)(6)製造物責任(Productliability:P/L)(7)支払遅延損害金(LatePaymentInterest)(8)相殺禁止(Offsetting)(9)知的財産権(IntellectualPropertyRights)(10)譲渡禁止(Assignment)(11)不可抗力(ForceMajeure)(12)完全合意(EntireAgreement)(13)準拠法(GoverningLaw)(14)紛争処理(DisputeSettlement)

(15)違約賠償(LiquidatedDamages)(16)守秘義務(Confidentiality)(17)通知(Notice)(18)契約解除(Termination)(19)期限の利益逸失(Acceleration)(20)契約言語(Language)(21)契約発効と自動更新(Effectuation&AutomaticalExtension)(22)存続条項(Survival)9.販売店契約書(DistributorshipAgreement)と代理店契約書(AgencyAgreement)(1)販売店と代理店の違い(2)販売店契約と代理店契約のどちらが良いか(3)販売権・代理権の種類(4)独占権の要求(5)権利に見合う義務の賦課(6)販売店契約に必要な条項第十一章 貿易における22種類のリスク1.コミュニケーションリスク(1)「共通の言語」を欠くリスク(2)「コミュニケーションの基本動作」ができないリスク2.貿易の基礎知識と能力を欠くリスク3.安全保障貿易管理違反のリスク(1)リスト規制(2)キャッチオール規制(3)違反すると……(4)買い引き合いがきたり、売り込んだりする場合(5)該否判定の方法4.カントリーリスク(非常危険)(1)カントリーリスクを知る方法(2)カントリーリスクの回避策5.信用リスク(1)信用調査の方法(2)最終的には、日常のコミュニケーション、企業訪問、商談交渉を通じての見極め6.クレームリスク(1)品質クレーム(2)ディレイシップメントのクレームリスク(3)ショーテージのリスク(4)マーケットクレーム7.ロング・ショートのリスク(1)ロングとは?

(2)ショートとは?(3)ロング・ショートが生じるリスク(4)ロング・ショートが生じるリスクを最小限にするには?8.(1)動植物の検疫リスク(2)放射性物質の規制のリスク9.認証とラベル表示のリスク(1)基準認証の取得(2)ラベル表示10.輸送開始前に滅失・損傷の原因があるリスク(1)輸出梱包の強度(2)コンテナの故障(3)コンテナ内での積付不備11.対価確保前にモノやサービスを提供するリスク(1)対価確保前にやりがちなこと(2)相手を信じるのでなく、リスク回避をする12.商習慣・契約観念の違いからくるリスク13.温度変化のリスク14.不適切な荷扱いのリスク15.為替リスク(1)為替先物の予約(2)為替予約の手順16.輸出入関連法令違反のリスク17.海外課税のリスク(1)PE認定のリスク(2)個人所得税課税のリスク(3)移転価格税制のリスク(4)独占禁止法違反のリスク18.輸入ビジネスのリスク(1)社会経済発展段階のギャップ(時代差)からリスクを判断(2)時代差を埋めてリスクの低い輸入取引を実現するには?(3)製造立ち合いは買主が売主に提供する生産支援のサポートあとがき

第一章 貿易実務とは何か?

国内取引と海外取引とでは取引環境が違います。

また、貿易をするには、「貿易に特有のツール」があります。

また、貿易には、「貿易特有の取引環境」があります。

貿易実務とは、こうした「貿易に特有のツール」と「貿易特有の取引環境」の内容を知って、使いこなせる実務能力を身につける以外の何物でもありません。

貿易実務を、通関のための実務知識だとか、決済のための実務知識だと捉えていて、そうした実務知識を覚えれば、貿易できると思われているとすれば、それは大きな間違いです。

「貿易実務」には、二つの段階の実務があります。

一つは、国際ビジネスの第一線に立って商売をする人が必要とする貿易知識、もう一つは、契約が成立してから、貨物の輸送、通関、代金決済など、契約を履行するために必要な貿易知識です。

前者は「契約までの貿易実務」、後者は貿易のバックヤードで仕事をする人が必要とする「契約してからの貿易実務」、つまり「貿易事務」です。

「貿易実務」とは、「契約までの貿易実務」と「契約してからの貿易実務」(貿易事務)の両方を指す言葉ですが、「貿易実務=貿易事務」と思っている人が少なくありません。

貿易実務本の多くは、「貿易事務」を解説するものであったり、あるいは貿易事務の説明に偏重するものであったりして、「契約までの貿易実務」を徹底的に解説した貿易実務の書籍を、見ることはありませんでした。

それは、止むを得ないとしても、新規に貿易を始めようとする人が、「貿易事務」の書籍や1~2時間の貿易セミナーを受講して、「貿易実務の勉強をしたから、もう大丈夫だ!」と勘違いして、貿易で思いもかけないトラブルに遭うことがあります。

あってはならないことですが、このようなことが、全国津々浦々でかなり頻繁に起きてきました。

「貿易実務」と称する「貿易事務」本の多くは、貿易のバックヤードで仕事をする人が勉強するためのもので、貿易の第一線で活躍する営業マンのためのものではありません。

そうした「貿易事務」を学んで、貿易の商売をするのは危ないことです。

「契約までの貿易実務」は、貿易をしている会社の中で、主として先輩から後輩へと伝えられていくだけで、世間一般に広く詳しく開示される機会は多くありませんでした。

これが、貿易に新規参入する人たちが、「迷える羊」になってきた背景にある原因です。

「貿易実務」とは、「契約までの貿易実務」と「貿易事務」の両方を包含する言葉です。

貿易事務を覚えたところで、貿易のビジネスはできませんが、契約までの貿易実務を覚えれば、通関や船積業務を専門の業者を目指す人は別として、通常の貿易を行う企業での貿易事務であれば、基本的に、通関や船積業務を行う専門業者に依頼するだけですから、「貿易事務」はそう難しいことではありません。

1.国内取引と海外取引との取引環境の違い海外取引には、国内取引と違った取引環境と、世界の貿易人が共通に使っている二つのツール(道具)があります。

国内取引とは異なる取引環境を学び、貿易をするのに必要なツールを修得すること、それが「貿易実務」の内容です。

(1)国内取引の取引環境日本国内での国内取引では、売手も買手も同じ環境で取引しています。

民法・商法は、売手にも買手にも共通して適用されます。

荷渡ししても期日までに商品代金を払ってこなければ、裁判所に訴えることもできます。

倒産寸前で商品代金を支払ってこない場合は、差し押さえもできます。

言語は、基本的に売手も買手も日本語です。

その他、経済制度や文化も、売手、買手ともに共通です。

つまり、国内取引は、どこの国でも、売手・買手は共通の取引環境(インフラ)の中に身を置き、取引当事者はそうした共通の取引環境の中で取引しているのです。

(2)共通の取引環境がなかった海外取引ところが、国際間の取引では、売手の国の民法・商法などの法令の効力は、買手の国には及びません。

荷渡しして期日までに商品代金を支払わない場合、どちらの国の裁判所に訴えるのでしょうか? 裁判で勝っても、強制執行できないかもしれません。

商品代金を払わないからと、相手の資産を差し押さえに行けば、その国の法律では「強盗罪」に該当するかもしれません。

相手が話す言葉は、日本語でないことが大半でしょう。

その他、相手国の経済制度、文化や習慣も、常識さえも、日本と同じとは限りません。

むしろ、違っていることの方が普通です。

このように、貿易では、売手と買手は、お互いに自国での国内取引の環境はそれぞれ整っていても、貿易では共通の取引環境など存在していませんでした。

売手の国の常識は、買手の国では非常識なこともあり、逆もそうであることが少なくなかったでしょう。

常識の異なる人同士が取引すれば、トラブルが起きるのは当然です。

実際に、19世紀末までは、貿易では紛争が絶えず、国際間の取引はとてもリスクが高かったのです。

それは、当時では、取引当事者に共通する「貿易の取引環境(インフラ)」がほとんど存在していなかったからです。

(3)整えられてきた世界共通の貿易環境と貿易のツールそこで、貿易が活発になるにつれ、20世紀に入ってから、特に20世紀後半から現在に至るまでの間に、「ウィーン売買条約」、「自由貿易協定」など、国際レベルでの環境整備が進むとともに、貿易を支える国際物流や国際決済、リスクヘッジのできる保険などのインフラも、飛躍的に充実してきました。

今や、「貿易の取引環境」は、ほぼ完備していると言っても過言ではありません。

また、貿易取引をしている人の間では、「貿易の商慣習」が形作られ、取引条件を決める時に使う「定型取引条件」も、国際商業会議所(InternationalChamberofCommerce:ICC)によって整備充実されてきました。

「貿易の商慣習」と「定型取引条件」は、世界の貿易人が共有する、貿易を行うための重要なツールです。

このように、現在では、世界共通の貿易環境と貿易のツールが整えられていて、それらをしっかり学び、習得したうえで貿易をすれば、安心して取引できる時代になっています。

これらは、先人たちのたゆまぬ知恵と努力のお蔭です。

(世界共通の貿易環境と貿易のツールがあっての貿易)

そして、この全世界の貿易業界にほぼ共通する「貿易取引の環境」と「貿易取引のツール」の二つこそが、「貿易実務」の内容でもあるのです。

貿易実務を知らないで貿易をすることは、先人たちの知恵と努力の結晶を学ばないで、国内取引の常識だけで海外と取引しようとすることです。

それは、21世紀の現在、19世紀に立ち戻って貿易しようとするくらい、無謀で危険なことに他なりません。

現実には、多くの企業が「貿易実務」を学ぶ必要性さえ認識せず、海外展示会や海外バイヤーとの商談会といったイベントに参加しています。

こうしたイベントに参加すると、必ず「値段は幾らですか?」と聞かれます。

貿易の知識がなければ、「国内卸売価格」や「工場出荷価格」、あるいは「国内での末端販売価格」程度しか答えようがありません。

海外側が、日本の流通事情にある程度詳しければ、それでも商談になることは稀にありますが、「国内卸売価格」や「工場出荷価格」を相手に伝えて、海外側と具体的な商談になることは、通常ではまず考えられません。

その結果、企業は経費を無駄使いするだけに終わるのですが、その原因に思い至ることなく、何年間も「頑張って」いる企業が少なくないのです。

貿易実務とは、全世界の貿易に携わっている人が共有する「貿易取引の環境」と「貿易取引のツール」であることをご説明しました。

次に、貿易がどのようなプロセスを経て行われるかを理解して、貿易実務には、「契約までの貿易実務」と「契約してからの貿易実務」の二種類があることを認識するようにしましょう。

2.契約までの貿易実務貿易営業マンの主な業務は、「誘引」、「引き合い」、「商談」、「契約成立」、「契約書締結」までで、この部分が「契約までの貿易実務」です。

会社の規模が比較的大きければ、営業部門が「契約までの貿易実務」を担当し、運輸や財務などの管理支援部門が「契約してからの貿易実務」(貿易事務)を行うでしょうし、小規模な企業であれば、一人で営業から契約履行の仕事まで行うでしょう。

(1)誘引「この商品を海外に売りたい」、あるいは「この商品を海外から買いたい」と考えた場合、まず、取引に応じてくれそうな取引先候補を見つける必要があります。

そのために、海外展示会を見に行ったり、出展したり、あるいは国内商社とコンタクトしたり、支援組織が開催する海外バイヤーとの商談会に参加したりするのが一般的です。

最近では、ウェブに掲出してある企業のホームページを見て、コンタクトしてくる海外の業者も少なくありません。

商品を買ってもらいたいと考えて、売手が買ってくれそうな相手に、商品のPRをすることもありますし、買手がある商品に興味を持って、商品情報の提供を売手に求めることもあります。

これらはすべて、相手の注意や興味を引くための「誘引」活動です。

「誘引」の目的は、「取引先候補の発掘」活動に他なりません。

(2)引き合い(Inquiry)「誘引」の結果、こういう商品を売りたい、あるいはこういう商品を買いたいという意向を相手に伝えることを、「引き合い」(Inquiry)と言います。

売手が売り意向を示すことを「売り引き合い(Selling」、「買手が買い意向を示すことを」買い引き合。

「Buying」、引き合い、と言うと。

(3)商談「引き合い」の結果、お互いに取引を実現したいと考えれば、次に取引条件を詰めるための「商談」に入ります。

商談では、取引対象とする商品、品質・規格、単価、数量、包装条件、船積時期、輸送方法、決済方法などの取引主要条件や、その他の契約条項について交渉と確認を行います。

①価格の表示に必要な「インコタームズ」の定型取引条件貿易では取引する価格を、国際商業会議所(InternationalChamberofCommerce:ICC)が定めている「インコタームズ」(INCOTERMS)というローマ字三文字(例:、、。

、「」。

、「」。

詳しくは、「第三章 インコタームズ」で解説します。

②「貿易の商慣習」に従って商談また、貿易では、商談を進めるための「商談のスタイル」と言うべき「貿易の商慣習」が確立されています。

この商慣習を知らなければ、「貿易を知らない素人」と判断されて、商談相手にされないことが起きてしまうことがあります。

商慣習にのっとって商談した結果、お互いに合意して契約が成立すると、契約書を作って双方が署名します。

このように、「誘引」、「引き合い」、「商談」、「契約成立」、「契約書締結」までの一連の仕事が、海外営業に携わる貿易マンの主な仕事で、「契約までの貿易実務」です。

この仕事で最も大事なことは、言うまでもなく「自社が負うリスクを最小限あるいはゼロにして契約に持ち込む」ことです。

詳しくは、「第四章 貿易の商慣習」でご説明します。

(4)契約してからの貿易実務契約が締結されると、次は契約履行です。

契約履行で必要な貿易実務が「契約してからの貿易実務」(貿易事務)です。

この実務も、取引を円満に完遂させるために欠くことのできない大切な仕事です。

貿易の第一線に出て行う仕事ではありませんから、「貿易のバックヤード業務」と呼ばれることもあります。

「貿易事務」で大事なことは、輸出では「契約のとおりに、代金を確保して、貨物(またはサービス)を安全に引き渡す」ことです。

そのためには、貨物の輸送、通関、代金決済などの実務を正確にこなす必要があります。

それは、煩雑で神経を使う専門分野の仕事だと思うかもしれません。

しかし、恐れる必要はありません。

輸送や通関は、フォワーダー(後述する物流手配業者)と呼ばれる専門の業者にお願いすればやってくれます。

決済は銀行に頼めばやってくれます。

「貿易事務」では、実は売買当事者が自ら行う必要のある仕事は限られています。

大半の仕事は、それぞれ専門領域の業者がやってくれます。

貿易のバックヤード業務の環境は、今やほぼ完備されています。

それらを知って、利用することで「契約してからの貿易実務」は遂行できるのです。

貿易実務書では、主として通関業者が行う「通関業務」、港湾内での「船積業務」や銀行の「決済業務」などについて詳しく解説していますが、実は、それぞれの専門業者が行う段取りや、書類などの作成方法を解説しているのです。

それらの書類のほとんどは、売主自らが作るものではありません。

さらに、現在では、輸出入・港湾関連情報処理システム(NipponAutomatedCargoandPortConsolidatedSystem:NACCS)という貿易情報管理システムで、貨物の輸送や通関手続きの情報がデータ処理されています。

NACCSは、入出港する船舶、航空機と輸出入貨物について、税関(財務省)、港湾(国土交通省)、外国為替および外国貿易法に基づく輸出入手続き(経済産業省)などの情報が、行政機関、フォワーダーと言われる貨物の輸送を手配してくれる業者や、損害保険会社などの民間企業とオンラインで結ばれていて、港湾・空港における物流情報などを総合的に管理する一大プラットフォームとなっています。

多くのフォワーダー(物流手配業者)は、このシステムの端末を事務所に設置し、インボイスやパッキングリスト情報などをシステムに入力することで、あとはNACCSの中で必要な情報が処理されます。

ですから、売主がフォワーダーに提出する書類は、通常、インボイス()、、:、。

、「」、「」「」。

インボイス、パッキングリスト、シッピングインストラクションの様式と書き方については、貿易のバックヤードの仕事をされておられる方々が、ウェブ上で、詳しく紹介しておられますし、また今までの多くの「貿易実務」の書籍にも必ず掲載されていますので、本書では割愛しますが、「貿易事務」を遂行するうえで必要な、インボイス、パッキングリスト、シッピングインストラクションの様式と書き方以外の、その他の必要な情報や知識は、本書で詳しく解説します。

貿易の営業マンが、真剣に学ばなければならないのは、専門の業者が種々サポートしてくれる「貿易事務」よりも、むしろ商社以外に専門業者のいない「契約までの貿易実務」の分野です。

(二つの貿易実務)

第二章 国際物流の基礎知識国際物流では、陸上輸送や海上輸送、航空機輸送といった、異なる輸送手段を連続的に利用する「複合一貫輸送」が普及しています。

一方、輸送の大量化と迅速化が格段に進んでいます。

本章では、貿易ビジネスの第一線に立つ営業マンが、知っておくべき国際物流の基礎知識について、解説します。

1.物流業者の呼称「通関業者」、「海貨業者」、「NVOCC」、「混載業者」、「フォワーダー」、「コンソリデーター」、「乙仲」……、貿易に関わる物流業者は、このようにさまざまな呼び方をされていて、混乱しています。

混乱の原因は、もともと、物流を担うそれぞれの業者が行っていた仕事内容が、本来の「業種名」と一致していたのですが、主として行政主導による、物流業界の自由化が進むにつれ、どの「業種名」も、現実に行っている仕事の一部になってしまったことにあります。

つまり、「業種名=業務内容」であったのが、「業種名<業務内容」になったことが、物流業者の呼び方が混乱している原因なのです。

(貿易物流業者の呼称・本来の業務・加盟組織・関連法令等)

貿易実務書では、貿易の物流業者を「海貨業者」と呼ぶことが多いのですが、「海貨業者」とは、「港湾運送事業法」に基づいて認可された「港湾内の荷役(船積み・荷卸・はしけ運送など)を請け負う業者」を指す言葉でした。

この業者は、「日本海運貨物取扱業会」に加盟していることから、「海貨業者」と言われてきました。

しかし、今では「海貨業者」の多くが、本来の「海貨業者」の枠を超え、国内運送手配、通関、倉庫業など貿易、輸送に関わる幅広い業務を行っています。

また、通関代行業者や貿易貨物の輸送手配をする業者の意味で、「乙仲」と呼ぶことがあります。

戦前、戦時立法で施行された海運組合法(1939~1947年)という法律で、「定期船貨物の取次ぎをする仲介業者」を「乙種仲立業」と呼んでいたことが、「乙仲」の言葉の起源です。

この法律では「不定期船貨物の取次ぎをする仲介業者」を「甲種仲立業」、その俗称として「甲仲」と呼びましたが、戦後、この法律がなくなり、今では「甲仲」の言葉は死語になっています。

ただ、「乙仲」の方は、その後も貿易の現場で使われ続けて現在に至っていますが、かつて「定期船貨物の取次ぎをする仲介業者」の意味であったのが、現在では「海上輸送貨物の通関代行業者」あるいは「貿易貨物の輸送手配をする業者」の意味で「乙仲」と呼ばれています。

(2)NVOCC「NVOCC」(エヌヴイオーまたはエヌヴイオーシーシー)とは、「貨物利用運送事業法」に基づく「貨物利用運送事業者」で、自らは運送手段を持っていませんが、実際に運送手段を持っている運送事業者の船舶、航空、鉄道、自動車などを利用して、荷主からの依頼を受けて輸送を手配している業者を指します。

NVOCCとは、「非船舶運航一般輸送人(NONVESSELOPERATINGCOMMONCARRIER:NVOCC)」の略称です。

NVOCCは、NONVESSELOPERATINGCOMMONCARRIER(船舶での運航業務はしていない一般輸送人)であることから、海上輸送に限定された業者であるかのように思われがちです。

しかし、「貨物利用運送事業法」では、「実運送事業者が経営する船舶(外航・内航)、航空(国内・国際)、鉄道、自動車の運送事業を利用して、荷主の貨物を運送するものを指す」と規定しているので、NVOCCは海上輸送に限定したものではありません。

「混載業者」とは、複数の荷主が持つ「少量のコンテナ輸送貨物」(LCL貨物:、。

「ContainerLo」d)コを、集テ荷ナし単て位に仕立てて輸送を手配する事業者を「しま」す。

「NVOCC」で、、、、FCL:。

混載業者(「NVOCC」の業界団体は、(社)国際フレートフォワーダーズ協会(JIFFA)で、同協会のホームページから、業者の住所や電話番号などを調べることができます。

(3)貿易の現場での呼称以上のように、「海貨業者」、「乙仲」、「NVOCC」、「混載業者」と、そのどれをとっても、現在の業務内容を正確に表現できる言葉ではなく、本来の業務を指しているにすぎません。

このような中で、貿易事務書の中でどのように呼ばれているかに関わらず、貿易の営業マンとして肝心なことは、貿易の現場でどう呼ばれているかです。

教科書の中から出てきた言葉は、貿易の現場で使うには違和感があるものです。

現場で使われている言葉を使えば、すんなりと相手に受け入れられます。

貿易の現場では、主たる輸送が海上輸送の場合、「フォワーダー」(Forwarder)または「乙仲」と言っています。

(貿易の現場での一般的な呼称)

フォワーダーとは、輸送業者を意味する言葉ですが、売主にとっては、NVOCC(利用船舶運送事業者)である混載業者や海貨業者に頼めば、貨物の国際輸送を手配してくれることから、混載業者も海貨業者も「フォワーダー」と呼ぶ方がしっくりきます。

海上輸送の場合は、正式には「海上輸送フォワーダー」ですが、海上輸送と航空輸送を区別する必要がない場合は、単に「フォワーダー」で良いでしょう。

また、海上輸送の場合は、昔から使われている「乙仲」でも構いません。

主たる輸送方法が航空機輸送の場合は、幾つかの呼び方がされています。

一つは、「コンソリデーター」(Consolidator)です。

Consolidateとは、混載するという意味ですので、コンソリデーターは、「混載業者」と同義です。

次は、「フォワーダー」です。

「海上輸送フォワーダー」と区別する必要がある場合は、「エアーフォワーダー」または「エアーフレートフォワーダー」(AirFreightForwarder:航空輸送フォワーダー)」と言いますが、その必要がない時は、単に「フォワーダー」で構いません。

商社業界では、航空輸送の場合も、海上輸送の場合と同じ「乙仲」と呼んでいますが、コンソリデーター(エアーフォワーダー)から言わせると、「乙仲」と呼ばれるのは違和感があるようです。

航空輸送の場合は、コンソリデーターまたはフォワーダーと言う方が無難でしょう。

以上のように、さまざまな呼称があるわけですが、簡単に海も空も「フォワーダー」と言うか、あるいは海上輸送の場合は「乙仲」、航空輸送の場合は「コンソリデーター」か「フォワーダー」と覚えておけば良いでしょう。

コンソリデーター(エアーフォワーダー)は、航空機を持っていないNVOCCで、日通航空、近鉄エクスプレス、郵船航空サービスが3大大手です。

航空輸送分野と海上輸送分野では、以前はNVOCCの棲み分けがありましたが、現在では実質的な「自由化」が進み、コンソリデーター・エアーフォワーダーも、海上輸送フォワーダー・乙仲として海上輸送分野に進出しています。

この趨勢から、貿易の現場での呼称は「フォワーダー」に一本化される方向とみて良いでしょう。

(4)フォワーダーの業務一般的にフォワーダーは、次に掲げるような仕事をします。

「契約してからの貿易実務」における重要なインフラ部分を担っていることが分かります。

輸送や通関などを含む幅広い仕事をフォワーダーが手配してくれますので、所謂「貨物の物流」面では、輸出業者が自ら身体を動かして物流に参画する場面は、余り多くありません。

(フォワーダーの主な業務)・国内輸送(トラック・ドレー・鉄道等)・保税蔵置・保管・検査証等の取得・輸出入通関・検数・検量・海上・航空輸送の手配・貨物利用運送(NonVesselOperatingCommonCarrier:NVOCC)・貨物保険手配・検品・検針・その他関連する一切の業務

2.国際間を輸送される貨物の種類国際間を輸送される貨物には、「バラ積み貨物」(BulkCargo)、「コンテナ貨物」(ContainerCargo)、「航空貨物」(AirCargo)の三つがあります。

(貨物の種類と輸送手段)

*LCL:、

*FCL:

(1)バラ積み貨物(BulkCargo)

「バラ積み貨物」の範囲は非常に広く、コンテナに入らないような大型の機械や、バラの状態のまま船倉に流し込んで輸送される穀物、石炭、原糖などは「在来船(ConventionalShip)」で輸送されます。

鉄鉱石や石油は、専用船に積まれて国際間を輸送されます。

袋詰めした肥料を船倉に入れて、「在来船」で運ぶこともあります。

船の大きさによって、ハンディサイズ(2~5万トン)、パナマ運河を通れるパナマックス型(6~8万トン・船幅32.2m以内)、ケープタウン回りとなるケープサイズ(8万トン以上)があります。

(2)コンテナ貨物(ContainerCargo)~LCL貨物とFCL貨物~

文字どおり、貨物をコンテナに積んで輸送される貨物が、「コンテナ貨物」です。

「国際標準化機構」(InternationalOrganizationforStandardization:O)は、非政府系独立組織で、ここが海上コンテナの規格を決めています。

長さにより、主に20フィート(6,058mm)と40フィート(12,192mm)の2種類があります。

幅は8フィート(2,438mm)、高さは8フィート6インチ(2,591mm)ですが、9フィート6インチ(2,896mm)のハイ・キューブ・コンテナ(背高コンテナ)も普及しています。

欧米などでは、45フィートコンテナが普及していますが、日本では道路交通法の規制から、45フィートコンテナを一般道路で見かけることはほとんどありません。

輸送貨物の温度帯により、ドライ(Dry)コンテナ、冷蔵(Chilled)・冷凍(Frozen)コンテナがあります。

温度帯は、必ずしも各社統一ではありませんが、一例をあげると、ドライは10~20℃、冷蔵は5~マイナス5℃、冷凍はマイナス15℃以下で、貨物の種類によって、最も適した温度に設定できるようになっています。

上から出し入れできる「オープントップコンテナ」(OpenTopContainer)、上とサイドが空いた「フラットラックコンテナ」(FlatRackContainer)などもあります。

「コンテナ貨物」には、LCL貨物とFCL貨物があります。

なお、コンテナに貨物を積載することを、「バンニング」(Vanning)あるいは「バン詰め」と言い、逆にコンテナから貨物を下すことを「デバンニング」(Devanning)、「デバン」(Devan)、「バン出し」と言います。

①LCL貨物LCLとは、LessThanContainerLoadの略で、一社の貨物だけでコンテナに積載して輸送するには、輸送コストが高くついてしまう「少量のコンテナ輸送貨物」のことです。

このような「少量のコンテナ輸送貨物」を持つ売主が、単独で一本のコンテナを借り切れば、輸送賃が割高になってしまい、採算に合いません。

そこで、「LCL貨物」を持つ複数の輸出業者から貨物を集荷して、それらを同一の仕向地(最終輸送目的地点のこと)に、同時期に輸送される貨物ごとに、コンテナ単位に仕立てて、輸送手配をする業者があります。

それが「混載業者」です。

混載業者は、船会社からコンテナをまとめて借り受け、それをLCL貨物の荷主に小分けして貸し出します。

大手メーカーから大口で仕入れ、それを消費者に小口販売するのと似ています。

②FCL貨物「FCL貨物」の「FCL」とは、FullContainerLoadの略で、一社の貨物だけで一つのコンテナを利用できるだけの量がある貨物を言います。

(3)航空貨物(AirCargo)

航空機で輸送される貨物は、「航空貨物」または「空輸貨物」と言われます。

航空貨物の輸送には、貨物専用機もありますが、旅客機の貨物室スペースも、商用貨物の輸送に使われます。

航空機への積込は、航空貨物用のコンテナに入れて航空機に積載する方法、硬質アルミ製の板でできたパレットに載せる方法(これをパレッタイズPalletizeと言います)と、バルクのまま航空機に積載する方法の三通りの方法があります。

3.貨物の種類による物流パターン国際物流貨物には、「バラ積み貨物」、「コンテナ貨物」、「航空貨物」の三種類があって、「コンテナ貨物」はさらに、LCL貨物とFCL貨物があることは、すでにご説明しました。

実は、輸出入の際、それらの貨物の種類によって、物流のパターンが異なっています。

船積みや船からの荷下ろし、輸出入の通関手続きなどは、フォワーダーに依頼すればやってくれます。

売主自らが実際に動かなければならない場面は、あまりありません。

ただ、おおよその輸出入の物流の流れだけは、次章で説明する「インコタームズ」を理解するための必須の知識ですから、覚えておきましょう。

(貿易の物流パターン)

(1)バラ積み貨物1960年代にコンテナが普及し始めるまで、通常の貨物船であった「在来船」が主な貨物輸送手段でした。

在来船は、コンテナ輸送と違って、貨物の積み降ろしに多くの人手がかかるうえに、天候次第で積み降ろし作業ができないことがあります。

輸送効率や輸送コストの点で、コンテナの優位性は明らかです。

しかし、現在でも、コンテナ輸送に適さない穀物、肥料、石炭などの貨物を輸送する場合と、船積港や荷揚港にコンテナを積み降ろしする港湾設備がない場合には、在来船による輸送が行われています。

大型の在来船では、水深の関係で船が埠頭に接岸できないことがあります。

その場合、沖合に本船を停泊させておき、平底で幅の広い艀という船に埠頭で貨物を積み、それをタグボートで引っ張ったり押したりして、沖合に停泊している本船の下まで持って行き、本船のクレーンを使って貨物を積み込みます。

「本船」とは、外洋に出て航海する船のことで、艀に相対する言葉です。

在来船に積まれる貨物は、「バラ積み貨物」で、工場や倉庫からトラックなどで、フォワーダーが指定する港にある保税蔵置場に運ばれます。

保税蔵置場では、フォワーダーによる税関への輸出申告、税関による輸出貨物の検査などが行われ、輸出が許可された貨物は、その時点で「内国貨物」から「外国貨物」になります。

その後、港湾内での短距離輸送を意味する「横持ち」をかけて、在来船に積み込みます。

(2)LCL貨物コンテナ専用埠頭でコンテナ専用船が停泊する位置(バース:Berth)に隣接した場所に「コンテナターミナル」が設けられています。

コンテナターミナル内には、コンテナを積み揚げするための大型のガントリークレーン(GantryCrane)が設置されています。

コンテナターミナル内には、輸出入コンテナ貨物の一時保管と荷捌きを行うためのコンテナヤード(ContainerYard:CY)があります。

CYには、破損したコンテナの修理を行う場所もあります。

CYとは、船会社が管理しているスペースで、出入口であるゲートと管理棟などが設けられています。

(港におけるCY・CFS等の配置)

コンテナターミナルに隣接した場所には、LCL貨物を扱う「コンテナフレートステーション」(ContainerFreightStation:CFS)が設けられています。

CFSは、船会社または船会社が指定した港湾運送事業者が所有・運営しています。

LCL貨物は、フォワーダー(混載業者)が指定するCFSまで、売主が手配したトラックなどで運ぶか、あるいはフォワーダーがトラックを手配して、工場や倉庫に取りに来ることもあります。

CFSでは、フォワーダーが各社のLCL貨物ごとに、NACCSを通じて税関に輸出申告をして輸出許可を取得します。

輸出許可が下りたLCL貨物は、フォワーダーの手によってバンニングされ、CFSから船会社のCYを経由して、コンテナ専用船に積み込まれます。

輸入国に到着すると、やはり港湾内にあるCFSまで運ばれ、CFSでデバン(コンテナから荷下ろしすること:Devan)され、それぞれの引取先ごとに輸入通関して、引き取られて行きます。

ただ、LCL貨物の場合、常温で輸送できるドライカーゴ(DryCargo)を扱う混載業者は多いのですが、冷蔵や冷凍のLCL貨物を混載してくれる業者は多くありません。

冷蔵や冷凍の貨物の場合、個々の輸出業者が自力で他社のLCL貨物を集荷して、コンテナに仕立てて輸出しているケースもあります。

また、海外の輸入業者が、日本にあるフォワーダーを指定して日本での貨物の集荷を委託、あるいは子会社を日本に作って、そこが複数の業者の貨物を集荷して、コンテナに仕立てて輸出しているケースもあります。

LCLでは、CFSでの貨物取扱料金として、「CFSチャージ」が課金されます。

(3)FCL貨物FCL貨物は、一社の貨物だけで一つのコンテナを利用できる貨物です。

一社の輸出業者だけで、コンテナを借り切ります。

FullContainerCargoから「フルコン」と言われることもあり、また、CYを通る貨物ですから「CYCargo」あるいは、「FCL貨物」、「FCLCargo」と呼ばれることもあります。

通常は、空のコンテナを工場・倉庫までドレー(コンテナ専用のトレーラーでコンテナを陸上輸送すること:DrayまたはDrage)し、そこで工場(または倉庫)側がバンニングします。

バンニングされたコンテナは、そこでシーリング(密封)され、積出港の港湾内にあるCYまで運びます。

フォワーダーはNACCSを通じて輸出申告をして許可を取り、コンテナはコンテナターミナル内のガントリークレーンを使ってコンテナ専用船に積載されます。

輸入国では、荷揚げされたコンテナは、CYに運ばれ、輸入通関を行ったうえで、輸入側の引取手が指定する場所までドレーします。

コンテナの大きさ(内法寸法)は、通常、20フィートコンテナで、約2.3m(幅)x約6m、(縦)x約2.4m(高さ)、40フィートコンテナで。

約2.3m(幅)x約12m(縦)x約2.4mです、重量の上限は20フィートコンテナで。

約20トンFCLでは、バンプールから工場までコンテナをドレーしてくるドレー料金と、工場から港までコンテナをドレーする料金、つまり往復のドレー料金がかかります。

(4)航空貨物「航空貨物」(AirCargo)は、機械、電化製品の部品・完成品、自動車部品、化学品や生鮮食料品などで、迅速な輸送を必要とする貨物の輸送に使われています。

海上輸送に比べ、航空輸送は相対的に高いので、高単価、高付加価値な商

品の輸送に使われます。

航空貨物は、航空会社の代理店が、エアーフォワーダーとしてNACCSを通じて輸出申告をし、輸出許可が下りると航空会社の上屋のある保税蔵置場に運ばれ、航空会社の手で航空機に積み込まれます。

また、通常、貨物とは呼びませんが、航空機で輸送されるものに、エアークーリエによる小口輸送品があります。

このサービスには、日本郵便のEMS(国際スピード郵便)、ヤマト運輸の国際宅急便などがあり、常温品の他、行く先は限定されていますが、冷蔵・冷凍品も送ることができます。

料金は、宛先国によって異なりますが、基本的に、近距離の国(地域)ほど安く、遠距離の国ほど高くなります。

(小口輸送の業者と種類)

4.物流に関わる重要な書類モノの流れ(物流)に伴って、書類の流れがあります。

ここでは、物流に関わる幾つかの重要な書類について解説します。

(1)船荷証券(B/L)船荷証券(BillofLading:L)は、売主が貨物を運送人(フォワーダーや船会社)に引き渡すと、運送人が発行する書類です。

B/Lの原本は通常フルセットで三通発行されます。

①B/Lの機能B/Lは、船会社と売主との間では、貨物を引き受けた受取証と運送契約書をかね備えています。

売主と買主との間では、売主がB/Lに裏書きすることで、買主に譲渡できる有価証券の機能があります。

この譲渡可能な有価証券としての機能を利用して、B/L上の受荷主(貨物を受け取る人:はConsignee)を買主側の銀行にすると、その銀行はB/Lを担保として、買主に貨物代金を銀行に支払わせることができます。

買主が貨物代金を銀行に支払えば、銀行はB/Lを含む船積書類を買主に引き渡します。

B/Lは、買主と船会社との間では、船会社に対する貨物引渡請求権を明記した権利証券として、輸入地で買主が貨物を引き取るための貨物引換証として機能します。

船会社は、B/Lの持参者に貨物を引き渡さなければなりません。

B/Lは三通のうちの一通を使って貨物を受領すると、他の二通は無効となります。

船会社が何らかの手違いで、B/L持参者でない人に貨物を渡してしまい、その後でB/Lを持った人が貨物の引渡を請求してきた場合、船会社は損害賠償をする責務があります。

B/Lは売主・買主、銀行、船会社のいずれにとっても大事な書類です。

②受取船荷証券と船積船荷証券コンテナ貨物の場合、貨物がコンテナヤード(CY)またはコンテナ・フレート・ステーション(CFS)で運送人に引き渡されると、運送人が貨物を受け取ったことを証明する「受取船荷証券(ReceivedB/L)」が発行されます。

コンテナが船積みされると、船会社は、船積みされたことの文言を「受取船荷証券(ReceivedB/L)」に追記します。

この追記を「OnBoardNotation」(積み込み証明付記)と言います。

この注釈がなされることで、受取船荷証券(ReceivedB/L)は、船積船荷証券(OnBoardB/L)となり、上述「①船荷証券(B/L)」で述べた機能を持つ書類として扱われます。

バラ積み貨物の場合、在来船に船積みされると、船会社は船積船荷証券(ShippedB/L、またはOnBoardB/L)を売主に発給します。

(2)船積書類売主は、船荷証券(B/L)、インボイス、梱包明細書、原産地証明書、重量容積証明書、品質証明書、保険証券、船積通知書のコピーなど、買主が輸入するのに必要な「船積書類」(ShippingDocuments)を取り揃えます。

後述する信用

状(LetterofCredit:、、。

①クリーンB/L船会社または運送人に貨物を引き渡す際、外見上、貨物に損傷が無く、数量に過不足がなければ、クリーンB/L(無故障船荷証券:CleanB/L)が発行されます。

包装が汚れている、あるいは破損していたり、数量が少なかったりすれば、船会社やフォワーダーは、クリーンB/Lでなく、ダーティB/L(:)DirtyB/Lまたは。

ouをB発L行、銀行は。

クリーンB/Lは、正常な貨物が数量の欠減なく、船会社やフォワーダーに引き渡されたことを証明するものです。

ダーティB/Lでは、貨物代金の回収ができないリスクがありますから、売主はクリーンB/Lが発行されるように、荷揃いをする必要があります。

②インボイス通常は、コマーシャルインボイス(商業送り状:e)だけで良いのですが、輸出先国によっては、カスタムズインボイス(税関送り状:e)、コンシュラーインボイス(領事送り状:ConsularInvoice)が必要な国もあります。

実際に輸入する貨物の値段よりも安い価格のインボイス(UnderValueのインボイス)で輸入申告すれば、関税や流通税の一部を脱税できてしまいます。

コンシュラーインボイスとは、売主が作成したインボイスに、輸出国に在住する輸入国の領事が署名したインボイスを、輸入通関に必要なインボイスとすることで、買主が真実でないアンダーバリューのインボイスを使って輸入申告することを、防止しようとするものです。

インボイスは、売主が自社のレターヘッド(ヘッダー・フッターに社名、住所などを記載した用紙)を使って作成します。

(インボイスの種類)

③パッキングリストパッキングリスト(梱包明細書:t)は、売主が自社のレターヘッドを使って作成する「梱包ごとの商品明細書」で、梱包形態、個数、重量(貨物重量:NetWeight、総重量:GrossWeight)、容積、シッピングマーク(荷印)などが記載されます。

運送人、買主、輸入地の税関にとっては、貨物の現物を確認するためのチェックリストです。

インボイスと違って、価格や決済条件などは、通常は記載しません。

④原産地証明書原産国を証明する書類には、日本が締結している経済連携協定(EconomicPartnershipAgreement:EPA)に基づいて作成される証明書と、EPAとは関係なく、買主側の要請で、売主が手配して発給する証明書の二種類があります。

前者のEPAに基づく証明書は、「特定原産地証明書」と「特定原産品申告書」に分かれ、「特定原産地証明書」は、更に「第一種特定原産地証明書」と「第二種特定原産地証明書」に分かれます。

(原産国を証明する文書の種類)

・一般原産地証明書買主から「一般原産地証明書」(CertificateofOrigin:C/O)の発給を求められた場合、売主は、各地に所在している商工会議所に発給を依頼します。

ただし、日本が経済連携協定(EconomicPartnershipAgreement:EPA)を締結しているシンガポール向けの輸出に関しては、各地に所在している商工会議所が「原産地証明書」を発給します。

・特定原産地証明書日本が締結しているEPAに基づいて、優遇関税で輸入するための証明書が、「特定原産地証明書」(CertificateofOrigin:C/O)です。

特定原産地証明書は、ASEANおよびメキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、ベトナム、インド、モンゴル向け輸出の場合、日本商工会議所が、売主の求めに応じて、「第一種特定原産地証明書」を発給します。

スイス、ペルー、メキシコ向けの輸出では、経済産業大臣が認定した「認定売主」が、自ら特定原産地証明書(これを「第二種特定原産地証明書」と言う)を作成することができます。

「認定売主」になるには、経済産業大臣の認定が必要で、認定条件の一つとして、日本商工会議所が「第一種特定原産地証明書」を個別に8回以上発給した実績が必要です。

オーストラリアとの経済連携協定では、「日本商工会議所による第一種特定原産地証明書」または「売主・生産者・買主のいずれかによる自己申告」または「売主・生産者・買主のいずれかによる自己証明」のいずれかを選択できます。

・完全自己証明制度環太平洋パートナーシップ協定(TransPacificPartnershipAgreement)と日欧経済連携協定(JapanEUEconomicPartnershipAgreement)では、売主、生産者または買主が、自ら証明書を作成できる、「完全自己証明制度」が導入されています。

これら二つの協定の下での原産地証明書は、「原産地証明文書」(OriginCertificationDocument)」と呼ばれますが、日本の国内法令上は「特定原産品申告書」と称しています。

⑤品質証明書買主は、往々にして第三者の分析機関が発行する品質証明書(CertificateofQuality)を要求してきます。

しかし、第三者の分析機関に頼むとかなり費用がかかります。

日本企業の場合、海外企業からの信頼度が一般的に高いことから、ほとんどの場合、売主が作成する品質証明書を受け入れています。

どうしても、第三者の分析機関が発行する証明書を求められた場合は、証明書発行に関わる費用を負担するように相手方に要求すれば、ほとんどの場合、売主が発行する品

質証明書で構わないと、同意してくるでしょう。

⑥船積通知コピー本船の出港日が確定した段階で、売主はメールかファックスで、「船積通知」(ShippingA)を買主に送ります。

船積通知には、契約番号、商品名、数量、船会社名、船名、出港予定日(EstimatedTimeofDeparture:D)、船積港、入港予定日(EstimatedTimeofArrival:A)、荷卸港、シッピングマーク、コンテナ番号などの情報を記載します。

これらの情報は、フォワーダーや船会社から入手します。

船積通知を出さなかったために、輸入側で実損が生じれば、損害賠償を求められることがあります。

⑦その他輸出品目と輸出先の国(地域)によっては、放射線物質検査証明書や衛生証明書などが必要で、その場合、これらの証明書も船積書類の中に含まれます。

(3)為替手形為替手形(BillofExchange)とは、後述する逆為替の決済方式であるL/C決済、D/P・D/A決済の際、銀行所定の為替手形の様式に、売主が必要事項を記載して作成するもので、銀行に対して、買主からの輸出代金取立を依頼するための書類です。

2枚1組になっています。

日本で発行する場合、額面10万円未満は印紙税非課税、10万円以上は一律200円の印紙を第1券のみに貼って消印をします。

第1券が使われると、第2券は無効になります。

「為替手形」は、銀行ごとに定型フォーマットがあって、売主はそれに必要事項を書き込んで作成します。

(為替手形の例)

(4)荷為替手形荷為替手形(DocumentaryBill)とは、上記(3)の為替手形に、(2)の船積書類を添付したものです。

為替手形に船積書類が添付された荷為替手形が、輸出地の銀行から輸入地の銀行に送付され、買主が取立手形に対して決済したり、手形引受(支払人が手形に引き受けの文言を記載、署名をして支払義務があることを確認すること)をしたりすると、輸入地の銀行は船積書類を買主に渡します。

買主は、受領した船積書類の中のB/Lと交換に、到着した貨物を船会社から引き取ることができます。

(5)航空貨物運送状(AWB)海上輸送では、船積みが完了すると、船会社が船荷証券(B/L)を発行しますが、航空貨物の場合、航空会社は、航空貨物運送状(AirWaybill:B)を売主に発行します。

①AWBの機能AWBは、航空会社が貨物を引き受けたことを証する「貨物受領証」と、航空会社と荷主との間の「運送契約書」としての機能があります。

B/Lと違って、荷卸地で、買主が航空会社に貨物の引渡請求することができる貨物引換証の機能はありませんし、裏書きすることで流通する有価証券でもありません。

AWBでは、受荷主が指定されます。

受荷主は、航空会社や航空貨物代理店に対して、自らが受荷主であることを証明すれば、貨物の引き取りができます。

運送状原本を航空会社などに呈示する必要はありません。

②AWBの仮想担保価値AWBは、有価証券でなく譲渡もできませんから、担保にはなりませんが、AWB記載の受荷主を、仕向地の銀行にすれば、貨物は銀行の占有下に置かれるため、受荷主は銀行に代金決済をしないと、貨物を受け取ることができません。

受荷主を輸入地の銀行にすることで、銀行は貨物を仮想担保にすることができるのです。

このことによって、航空貨物の取引では、AWBを第三者間の取引で利用することが可能になっています。

第三章 インコタームズインコタームズは、国際商業会議所(InternationalChamberofCommerce:C)によって、1936年に初めて制定されました。

それ以前でも、貿易ではローマ字を組み合わせたコードを使って、取引条件を決める方法が行われてきましたが、コードの解釈が国によって一致していなかったことから、貿易をめぐるトラブルが起きていました。

こうした弊害を除くため、国際商業会議所は、世界共通に使用するインコタームズというコードと、それぞれのコードの統一した定義を作る必要があったのです。

国際商業会議所は、その後も、国際物流や輸出入通関手続きの変化などに対応して、1953年、1967年、1976年の改定を経て、1980年以降は、「インコタームズ1980」、「インコタームズ1990」、「インコタームズ2000」、「インコタームズ2010」と、近年では10年に一回改定されてきています。

最新版は、2019年9月に発表された「インコタームズ2020」です。

インコタームズとは、「InternationalCommercials」を略した「国際通商定型条件」を意味する言葉です。

「Terms」は、複数の条件が定義されている用語の意味で、「定型条件」と翻訳されています。

インコタームズは、「インコタームズ2010」からは、「国内および国際取引の定型条件使用のための国際商業会議所規則」(ICCRULESFORTHEUSEOFDOMESTICANDINTERNATIONALTRADETERMS)となっています。

「TRADETERMS」とは、「取引用語」でもあり、それぞれの取引用語には、複数の条件が定義されていて、しかも定型の用語ですから、「定型取引条件」と訳されています。

一部の用語は、国内取引に使われるので、「国内および国際取引の定型条件使用のための国際商業会議所規則」となっています。

世界の貿易業者は、インコタームズの「定型取引条件」を使って、ビジネスをしています。

インコタームズというツールを使えなければ、貿易をしたくても、値段さえ決められないほど、重要なものです。

インコタームズは、英語版が原文ですが、邦訳付きの「インコタームズ2020」が、国際商業会議所日本委員会から発行されています。

貿易の仕事に従事されている方々は、机上に常備しておかれることをお勧めします。

1.インコタームズの定型取引条件で決まること「インコタームズ2020」には、ローマ字三文字を組み合わせたコードで表示される11の定型取引条件があります。

インコタームズの定型取引条件ごとに、複数の定義が定められていますから、どの定型取引条件を使うかがで決まると、自動的に幾つかのことが決まります。

(1)義務が決まる売主・買主のそれぞれが何を行う義務があるかが決まります。

何処から何処までの輸送を手配するか、損害保険をかける義務は? 輸出許可を取得する義務は? 輸入許可を取得する義務は?、。

(2)貨物の引渡地点が決まる定型取引条件によって、売主から買主に貨物が何時どこで引き渡されるか、つまり売主から買主への「リスクの移転時点」が決まります。

貿易では、貨物の引渡し前の区間は、売主は自らのために損害保険を掛け、買主は引渡し以降の区間に対して、買主自身のために損害保険を掛けます。

つまり、売主も買主も、国際間の物流リスクは損害保険にリスクヘッジします。

国際間の物流は、売主も買主もノーリスクで行う、これは、貿易の基本です。

貨物の引渡地点は、輸出国の場合と輸入国の場合に分かれます。

輸入国で引渡が行われるのは「Dで始まる取引条件(到着ベースの取引条件)」で、その他は全部、輸出国で貨物が買主に引き渡されます。

輸出国のどの場所で引き渡されるかは、それぞれの定型取引条件によって決まっています。

ここで注目していただきたいのは、国内取引では、買主または買主が手配した運送業者が買主を代表して、実際に引き取る貨物を見たうえで貨物の引渡が行われます。

これはどの国の国内取引でも同じです。

ところが、貿易では、「Dで始まる取引条件」は別ですが、その他の定型取引条件で契約すれば、貨物は輸出国で売主から買主に引き渡されます。

つまり、買主がまだ貨物を見ていない段階で、貨物が買主に引渡される、この点が国内取引と貿易取引との大きな違いの一つです。

(3)負担するコストが決まるどの定型取引条件を使うかを決めると、売主・買主のそれぞれが、どの費用を負担するかが決まります。

輸送費用、輸出通関費用、船積費用、荷揚費用、輸入通関費用……、これらの諸費用はどちらが負担するかが、定型取引条件を決めることによって、自動的に定まります。

インコタームズでは、これらの他にも、相手方への通知義務や情報提供による助力義務等、貨物の輸送や荷渡し、通関に必要な事項が定められています。

2.「インコタームズ2020」の構成「インコタームズ2020」(「インコタームズ2010」も同様)の11ある定型取引条件は、「いかなる単一または複数の輸送手段にも適した規則」と「海上および内陸水路輸送のための規則」の二つの分類構成に分かれています。

そして、「いかなる単一または複数の輸送手段にも適した規則」は、更に「引渡が輸出国で行われる規則」と「輸入国で行われる規則」に分かれます。

「海上および内陸水路輸送のための規則」は、すべて輸出国で引渡が行われます。

この分類構成を直感的に理解するには、「いかなる単一または複数の輸送手段にも適した規則」の中の「引渡が輸出国で行われる規則」(EXW・FCA・CPT・CIP)を「コンテナ・空輸貨物の取引に使う「コンテナ・空輸用語」、「いかなる単一または複数の輸送手段にも適した規則」の中の「輸入国で行われる規則」(DAP・DPU・DDP)を「到着ベースの用語」または「D用語」、「海上および内陸水路輸送のための規則」(FAS)・FOB・CFR・CIF」を、バラ積み貨物の取引をする時に使う「在来船用語」または「バラ積み用語」と理解すると、すっきり整理して覚えることができます。

日本の場合は、四方が海に囲まれていますから、貨物は「コンテナか航空機で運ぶ」か、あるいは「在来船でバラ積みして運ぶ」かのいずれかしかありません。

「コンテナ・空輸用語」と「在来船用語」を対比するようにして覚え、それ以外にDで始まる「到着ベースの用語」(D用語)があると捉えれば、すっきりと分類構成を理解することができます。

欧米の陸続きの国同士であれば、トラック輸送や鉄道輸送等も、「いかなる単一または複数の輸送手段」の中に入ってきますから、「コンテナ・空輸用語」のひとことで捉えるわけにはいきませんが、日本の場合の貿易貨物は、コンテナで運ぶか、航空機で運ぶか、あるいは在来船に載せて運ぶかしか方法はありません。

単一の輸送手段で運ぶ貨物なのか、あるいは複数の輸送手段で運ぶ貨物なのかを考えるよりも、コンテナまたは空輸で運ぶ貨物か、在来船にバラ積みする貨物かを考えることで、直感的に輸送形態の違いを理解することができます。

インコタームズの定型取引条件には、「コンテナ・空輸用語」、「在来船用語」(バラ積み用語)および「到着ベースの用語」(D用語)の三つがあると覚えておきましょう。

(インコタームズ2020の定型取引条件)

*EXWを除く10の定型取引条件では、上記「引渡の時点」以外に、輸送途上で貨物を転売する場合(「洋上転売」も含みます)は、貨物の売買契約を締結した(これを「調達」と言います)時に、売主から買主に貨物の危険が移転する

(貨物が引き渡されること)としています。

3.「インコタームズ2020」に定められている11の定型取引条件それでは、「インコタームズ2020」で定められている、それぞれの定型取引条件について詳しく解説します。

(1)EXW(工場渡し)~EXWは、インコタームズの中でも、売主の義務が一番少ない用語です。

貨物を置いてある場所が、工場であれば「工場渡し」、倉庫であれば「倉庫渡し」となります。

①引渡時点EXWでは、売主は、貨物を買主が手配した、貨物受領のための車両に積み込む必要はありません。

工場または倉庫に置いてある貨物を、売主が「そこに置いてある貨物を積んでいってください!」と言えば、売主から買主への貨物の引渡しが完了します。

ただ、買主の車両に、売主が貨物を積み込まなければならない事情があれば、売主・買主のどちらが、積込みのリスクと費用を負担するかを明確に決めておく必要があります。

どうしても、売主のリスクと費用負担で、車両に貨物を積み込む必要があるのであれば、EXWでなく、次に説明するFCAを使って契約すべきです。

②輸出許可取得義務EXWでは、売主には輸出国での輸出許可を取得する義務がありません。

当然、EXW価格には、輸出通関諸費用も含んでいません。

となると、貨物の引渡しを受けた後、買主は自らの費用で、国内運送をかけ、輸出手通関手続きをし、その費用も負担しなければなりません。

日本では、関税法によって、海外の買主側が、日本のフォワーダーを税関事務管理人として任命し、委託を受けた日本のフォワーダーが、買主の名義で輸出通関手続きを行うことができます。

米国でも、米国から輸出する場合、海外の買主側が、米国の通関業者を買主の輸出代理人として任命すれば、米国の通関業者が輸出通関手続きを行ってくれる仕組みになっています。

この方法はどこの国でもできる訳ではなく、関連法制度が整備されている日本や欧米の先進国に限られます。

EXWは、買主にとっては「貿易取引」用語ですが、売主にとっては「国内取引」用語です。

③用語の使い方EXWの後ろに引渡地、続いて単価を表示します。

引渡地は、通常、売主の工場(Works)か、自社倉庫(Warehouse)のことが多いと思いますが、外部倉庫でも構いません。

引渡地が工場の場合、「EXW▲▲▲Warehouse.○○」。

、「○○▲▲▲、、、、」。

④消費税EXWで取引した場合、販売した貨物が輸出されても、売主にとっては国内取引ですから、消費税課税業者であっても消費税の還付は受けられません。

通常、日本の消費税課税業者が輸出をすれば、輸出貨物の売上に対して、消費税は免税です。

一方、輸出貨物の仕入れ控除することで、輸出された貨物の消費税が、売主企業に戻る仕組みになっています。

しかし、輸出したことを証明するために、輸出貨物の輸出通関関連の書類を保存しておかなければなりません。

しかし、EXW条件で取引した場合、売主は輸出通関手続きを行いませんので、輸出通関書類も手元に一切ないことになります。

輸出通関関連の書類がなければ、消費税の還付を受けることはできません。

EXW以外の定型取引条件を使って契約をするのであれば、売主は必ず輸出通関手続きを行いますから、消費税課税業者であれば、輸出貨物に関わる消費税は、仕入れ控除を起こすことで還付されます。

消費税非課税業者には、輸出貨物の消費税還付はありません。

(2)FCA(運送人渡し)~貨物の運送契約を締結して、運送を請け負う業者を「運送人」(Carrier)と言います。

実際に貨物を輸送する船会社や航空会社は実運送人ですから、まぎれもない運送人ですが、実運送人の輸送を手配するフォワーダーも、運送人です。

LCL貨物であれば、売主や買主が運送契約を結ぶのはフォワーダーですから、フォワーダーが運送人になります。

LCL貨物の集荷場所であるCFSは、運送人の施設ですから、CFSも運送人とみなされます。

FCL貨物の場合は、船会社と直接運送契約を結べば運送人は船会社となり、その船会社が特定のCYを指定すれば、そのCYも船会社の施設ですから運送人です。

航空貨物の場合、航空会社は実運送人でまぎれもなく運送人ですが、航空貨物を集荷するコンソリデーター(航空貨物代理店)も運送人です。

「Free」Carrie、「、」。

、、、。

①FCAの使い方FCL貨物の場合、空のコンテナを自社工場か、自社倉庫に持って来て、バンニングするのが普通でしょう。

この場合の価格表示は、FCAの後ろに具体的な工場の所在地と工場の名称を記載して、価格を表示します。

例えば、「FCAXXFactory,○○」、「○○は、、」。

LCL貨物の場合の価格設定は、○○倉庫㈱東京港の△△CFSで貨物を買主に引き渡すのであれば、「FCATokyo△△CFS,○○Warehouse,」Ltd.。

US$150pe、k「logra○△△、、CFSに」貨物を持ち込む。

での費用込みでFCAの場合、売主が貨物を買主に引き渡した後、売主は売主の費用と責任で輸出国での輸出許可を取得する義務がありますから、輸出に必要な諸掛はFCA価格の中に、コスト算入しておかなければなりません。

②引渡地点売主と買主が、LCL貨物の引渡地点を、輸出港の特定のCFSとすることで合意した場合、売主は、売主が手配するトラックなどで、貨物をCFSに持って行くことが多いでしょう。

この場合、トラックがCFSに到着して、トラックから貨物が

卸せる状態で、CFS側に貨物の処分を委ねた時に、貨物は売主から買主に引き渡しとなり、貨物のリスクは買主に移転します。

FCAでは、CFSのような外部の場所が引渡地の場合、売主はトラックなどの積載車両から、自ら貨物を降ろす手段を持ちませんから、運送人の施設であるCFS側に貨物の処分を委ねた時に、売主から買主に引き渡しが完了するのです。

FCL貨物であれば、売主の工場や倉庫で、買主が手配した空のコンテナに、売主が貨物を積み終えた時に、貨物は売主から買主に引き渡されます。

コンテナに貨物を積み込むためのフォークリフトなどを、実運送人が売主の工場や倉庫に持参するのは非現実的です。

ですから、売主の施設が引渡地の場合、買主が手配した輸送手段に、売主が貨物を積み込んだ時点で、売主から買主への貨物の引渡が完了します。

③損害保険貨物が売主の工場(または倉庫)に置かれていて、そこで貨物をコンテナに積む場合、売主は貨物を置いてある場所からコンテナに積むまでの区間は保険をかける必要はありません。

なぜなら、FCA契約の場合、買主は「外航貨物海上保険」(損保会社によって「貨物海上保険」というところもある)をかけて、リスクを保険にヘッジします。

この時に、買主がかける保険は、売主の工場や倉庫でコンテナなどに貨物を積み込むために、最初に動かされた時に保険が開始し、通常の輸送過程を経て、仕向地の買手の倉庫で荷卸しが完了した時に終了します。

貨物をコンテナに積もうとした時に、貨物がフォークリフトから落ちて破損しても、買主がかける外航貨物海上保険でカバーされますから、保険などかけないなどという貿易の素人を相手に取引すると、売主は思わぬリスクを背負い込むことになります。

CFSを引渡場所とした場合、売主はCFSまでの国内運送保険をかけ、買主はCFS以降をカバーする「外航貨物海上保険」をかけます。

「外航貨物海上保険」がスタートする起点は、貨物がCFSの門をくぐった時からです。

引渡地点が必ずしも保険の起点と一致するわけでないことを覚えておきましょう。

(3)CPT(輸送費込み)~CPTでは、仕向地またはあらかじめ売主と買主が合意した、仕向地の特定の地点までの輸送費を、売主が負担します。

仕向地とは、貨物の輸送先のことで、通常は輸入国の港、CYなどを指します。

①CPTの使い方CPTの後ろに仕向地、続いて単価を表わします。

売主と買主は、どの仕向地までの貨物の輸送を売主が手配するか、あるいは仕向地のどの特定の地点まで、売主が輸送を手配するかを決めたうえで、売主は運送人と運送契約を結びます。

コンテナを輸送する船は、ほとんどが特定の港から特定の港まで、定期的に就航する定期船と呼ばれる船で、この場合、輸出港のCYから輸入港のCYまでの輸送契約となります。

LCL貨物の場合、フォワーダーとの輸送契約で、輸出港のCFSから輸入港のCFSまでの輸送とすることが一般的です。

コンテナを定期船で輸送する場合、単に「CPTHongKongUS$1,200percase」で値決めすれば、「香港のコンテナヤード(CY)まで、コンテナで輸送するための輸送費込みの値段で、1,200米ドル」という意味になります。

香港のコンテナヤード(CY)に貨物が到着した後、売主はコンテナをデバン(貨物をコンテナから降ろすこと:Devan)する義務はありません。

デバンは、買主の仕事です。

②引渡地点CPTの場合、引渡地点は、売主が自ら契約した運送人に、貨物を引き渡した時、または貨物の物理的な占有を、運送人に移した時となります。

CPTの場合、「仕向地または仕向地の特定の地点」はCPTの右側に表示しますが、引渡地点は

表示する場所がありません。

契約書には「PlaceofDelivery」として、売主と買主が合意する引渡場所を明記すると良いでしょう。

③損害保険売主の工場や売主の倉庫で貨物をコンテナに積む場合、FCAと同様、売主は保険をかける必要はありません。

買主が外航貨物海上保険をかけます。

CFSを引渡場所とする場合、売主はCFSまでの国内運送保険をかけ、買主はCFS以降の「外航貨物海上保険」をかけます。

貿易では、物流リスクは、売主も買主も損害保険にリスクヘッジするのが基本です。

保険料率は、気にするほどのものではありませんし、すべてのコストは、値段にコストインしておけば、最終的に買主が負担することになります。

損害保険をかけるのはもったいないとか、今まで一度も事故に遭ったことがないから保険はかけないと言うのであれば、「ノーリスクの貿易」ではなくなってしまいます。

貿易は、リスクを冒してまでするものではないことを覚えておきましょう。

上記のとおり、CPT契約で注意することは、仕向地と引渡地の具体的な地点を明確にしておくことです。

この二つが不明確だと、運送契約と保険付保を的確に行うことができません。

(4)CIP(輸送費保険料込み)~CIPでは、売主が、仕向地または合意された仕向地の特定の地点までの輸送費を負担する以外に、損害保険(外航貨物海上保険)も売主の費用負担でかけます。

①CIPの使い方CPTと同じく、CIPの後ろに仕向地、続けて単価を表示します。

「CIPShanghaiUS$1,500perM/T」の価格は、通常の定期船輸送の場合、上海のコンテナヤード(CY)まで、コンテナで輸送するための運賃と保険料込みで、1M/T当たり1,500米ドル」という意味になります。

②引渡地点CIPの場合も、CPTと同様に、引渡地点は、売主が自ら契約した運送人に、貨物を引き渡した時、または貨物の物理的な占有を、運送人に移した時です。

CIPでも、「仕向地または仕向地の特定の地点」はCIPの右側に表示しますが、引渡地点は表示する場所がないので、契約書には「PlaceofDelivery」として、売主と買主が合意する引渡場所を記載します。

③損害保険CIPは、売主が買主に対して保険をかける義務を負います。

FCAやCPT契約でも、売主は保険をかけますが、それは物流リスクをヘッジするために、自らのためにかけるものです。

例え、保険をかけなくても、買主との間では保険をかける約束はしていませんから、買主から文句を言われることはありません。

しかし、CIPでは、買主がリスクを負う区間に対して、売主が買主に保険付保の義務を負います。

売主が買主のために付保する保険は、「インコタームズ2010」では最小限の保険である、外航貨物海上保険の協会貨物約款(InstituteCargoClause:ICC)の「ICC(C)」で良いとなっていましたが、「インコタームズ2020」では、別途合意または慣習があれば、ICC(A)以外の損害保険をかけても良いものの、そうでなければ、売主は最大限のカバー範囲である「ICC(A)」を付保しなければならないことに変更されました。

ただし、買主が戦争保険やストライキ保険を要求する場合、売主は買主の費用で、それ(ら)を付保することが、インコタームズで規定されています。

CIPは、工業製品の取引で多く使われる定型取引条件です。

ICC(A)は、水濡れや自然災害による損失も補償対象となります。

CIPで契約すると、売主は、買主に貨物が引き渡されて以降の輸送区間に対して、ICC(A)をかける義務を、買主に対して負います。

従って、貨物を運送人に引き渡すまでは売主が国内運送保険をかけても、あるいはかけなくても良く、運送人に貨物を引き渡して以降の区間に対して、買主のために外航貨物海上輸送保険をかければ、インコタームズの規定に合致することになります。

しかし、貿易の実務では、売主も買主も、自らにリスクがある輸送区間を対象に、損害保険をかけて、物流リスクを保険にヘッジするのが常識です。

LCL貨物で、CFSを貨物の引渡場所とするのであれば、CFSまでは、売主が国内運送保険をかけ、CFS以降は売主が買主のために外航貨物海上輸送保険のICC(A)をかけます。

FCL貨物で、自社工場(倉庫)でバンニングするのであれば、売主は、自社工場(倉庫)で貨物積込みのために、貨物が最初に動かされた時に開始し、仕向地の買手の倉庫で荷卸しが完了した時に終了する外航貨物海上保険をかけます。

(5)DAP(仕向地持込渡し)~DAPと次に述べるUで共通している点は、引渡場所となる仕向地または合意された引渡地点は、輸入通関前の地点であっても、輸入通関後の地点であっても構わない点です。

ただし、DAPも次に述べるUも、輸入国での輸入通関義務は、買主にあります。

ですから、輸入通関後の地点を引渡地点とする場合、輸入通関を行っている間の貨物の滅失・損傷等のリスクは、買主に移ります。

つまり、貨物が輸入通関する場所に着いてから、通関が終わって輸送が始まるまで、売主の貨物に対するリスクは、一時的に買主に移り、輸入通関後に輸送が開始されると、貨物のリスクは再び売主に移ります。

DAP、DPUともに、輸入国に貨物が輸送されるまでに、経由する国(地域)があって、もし経由地で徴収される費用や税金等があれば、売買契約で別段の合意がない限り、それらは全て売主の負担になります。

一方、DAPとDPUで異なるのは、DAPでは輸送車両の上に貨物が積載されたままの状態で、買主に引き渡されますが、DPUでは輸送手段から荷卸しされて買主に引き渡される点です。

買主が、輸送車両の上に貨物を積んだままの状態で、買主が輸入通関を切って、さらに別の場所にそのまま移送するのであれば、DAPの定型取引条件で契約します。

①DAPの使い方DAPの後ろに、仕向地または合意された引渡地点を記載し、次に単価を表示します。

「DAPXXXRailwayStationUS$1,800perM/T」と表示すれば、「国境を接するXXX鉄道駅で、貨車に貨物が載ったままの状態で貨物を引き渡す、そこまでの費用込みで、1M/T当たり1,800米ドル」ということになります。

XXX鉄道駅は、輸入通関前の駅でも、輸入通関後の駅でも構いません。

②引渡地点貨物が、仕向地または合意された引渡地点に到着し、輸送手段から荷卸しする準備ができている状態で、貨物の処分が買主に委ねられた時が、売主から買主への貨物引渡となります。

具体的には、仕向港のCYを引渡地点とすることもできますし、鉄道の駅を引渡地点とすることも可能です。

貨物は荷卸しされないで買主に引き渡されますから、買主がそこから別の場所に貨物を輸送することもできます。

③損害保険損害保険は、貨物が自社工場・倉庫で、輸送車両に貨物を積載する動作を開始した時に保険がスタートし、あらかじめ合意されている仕向地または合意された引渡地点に到着するまでの区間に対して、売主が外航貨物海上保険をかけます。

仕向地内の特定の地点以降は、買主が必要により国内運送保険をかけます。

売主がかける外航貨物海上保険は、水濡れも自然災害もカバーするICC(A)をお勧めします。

(6)DPU(荷卸込持込渡し)~この定型取引条件は、「インコタームズ2010」では、DAT(DeliveredT)の名称でした。

「インコタームズ2010」におけるDATの「ターミナル」は、必ずしも一般的に認識されている終着地点としてのターミナ

ルだけでなく、それ以外に売主と買主が合意する特定の「場所(Place)」もターミナルとすることができるようになっていましたが、狭い意味でターミナルが解釈される懸念をなくすために、「インコタームズ2020」ではDPU(DeliveredatPlaceUnloaded)に変更されました。

この場合の「Place」には「ターミナル」も含む「場所」という意味なので、定型取引条件としての定義には、何ら変更はありません。

「Unloaded」とは、「輸送車両から荷卸しして」貨物を引き渡すという意味です。

売主は、輸入国の仕向地または仕向地内で合意した特定の場所があれば、そこで輸送手段から貨物を荷卸しして買主に引き渡します。

それまでのリスクと費用は売主の負担です。

合意されたターミナルがなければ、売主は仕向地または仕向地における場所を決めることができます。

①DPUの使い方DPUの後ろに、仕向地または仕向地における特定の場所を記載し、続いて単価を表示します。

「DPUSanFranciscoCFSe」は、「売主が、サンフランシスコのSまでの運送費用を負担し、CFSで荷卸しして引き渡す条件で、1個当たり100米ドル」という意味です。

②引渡地点輸送手段から貨物が荷卸しされ、買主の処分に委ねられた時に、売主から買主に貨物が引き渡されます。

貨物は荷卸しして買主に引き渡されますから、買主がそこから別の場所に貨物を輸送することを企図するのであれば、DPUでなくDAPで契約すべきです。

引渡地点は、DAPの場合と同じく、輸入国の通関前の場所でも、通関後の 場所でも、どちらでも構いませんが、輸入通関後の場所を引渡地点とする場合、輸入通関中の貨物のリスクは、一時的に買主に移ります。

③損害保険損害保険は、貨物が自社工場・倉庫で、輸送車両に貨物を積載する動作を開始した時から、仕向地または合意されている仕向地内の特定の場所に到着するまでの間、売主が外航貨物海上保険をかけます。

引渡地点以降は、買主が必要により国内運送保険をかけます。

売主がかける外航貨物海上保険は、水濡れも自然災害もカバーするICC(A)をお勧めします。

(7)DDP(関税込持込渡し)~EXWは、売主にとって最も義務の少ない定型取引条件でしたが、DDPは、逆に、売主の義務が最大となる用語です。

売主は、輸出国での通関手続きだけでなく、輸入国での輸入手続きも行わなければなりませんが、売主が、輸入国(地域)での輸入通関手続きを行うことは、どこの国でもできる訳ではありません。

関連法令が整っている日本や欧米等の先進国に限定されます。

売主にとって注意を要するのは、日本の消費税に相当する付加価値税(ValueAddedTax:)や輸入関税はもちろんのこと、経由地で徴収されるその他の税金も含めて、売買契約で別段の合意がなければ、全て売主の負担になることです。

①引渡時点DDPは、売主が、輸入国での通関手続きを行い、仕向地または仕向地内のあらかじめ合意された地点まで貨物を輸送し、荷卸しの準備ができている輸送手段の上で、貨物を買主の処分に委ねた時に、リスクと費用の負担が売主から買主に

移転して、貨物の引渡しが完了します。

②用語の使い方DDPの後ろには、仕向地または仕向地内のあらかじめ合意された地点を記載し、その次に単価を表示します。

「DDPXXFactory,○○Company,Ltd,U.S.A.US$2,500perpound」は、「売手は、米国の○○会社のXX工場までのリスクと輸送費用を負担する条件で、1ポンド当たりの単価は2,500米ドル」という意味です。

③損害保険損害保険は、貨物が自社工場・倉庫で、輸送車両に貨物を積載する動作を開始した時に保険がスタートし、あらかじめ合意されている仕向地に到着するまでの区間に対して、売主が外航貨物海上保険をかけます。

仕向地での貨物引渡以降は、買主が必要により国内運送保険をかけます。

売主がかける外航貨物海上保険は、水濡れも自然災害もカバーするICC(A)をお勧めします。

以上が、輸出国で引渡が行われる「コンテナ・空輸用語」と、輸入国で引渡が行われる「あらゆる貨物」の取引に使える「到着ベースの用語」(D用語)の定型取引条件でした。

次は、バラ積み貨物の取引に使う定型取引条件について、ご説明します。

(8)FAS(船側渡し)~貨物の引渡時点は、売主が本船の船側に貨物を置いた時です。

売主は、そこまでのリスクと費用を負担し、買主はそれ以降のリスクと費用を負担します。

①FASの使い方「FASYokohamaIncoterms」2010US$1,50、pのrよ/Tうに、FASの後ろには。

船積港を挿入、し「て単価を表示します、横浜港で本船の船側に、バラ積みの契約貨物」1M/T当。

たでりの1,500米ドル用を売主が負担する条件で②引渡地点本船船側に貨物を置いた時点で、売主から買主に貨物が引き渡されます。

③損害保険売主は、本船船側までは国内運送保険をかけ、買主はそれ以降の区間に対して、外航貨物海上保険をかけてリスクヘッジします。

(9)FOB(本船渡し)~「FreeonBoard」とは、売主の責任は、貨物を本船船上に置くとなくなるという意味です。

バラ積み貨物の取引に使われる用語の一つです。

コンテナ・空輸貨物の取引に使うことは、適切ではありません。

①FOBの使い方FOBの後ろに、船積港を挿入して単価を表示します。

「FOBTokyoUS$1,500perM/T」とすれば、「東京港で本船にバラ積みの貨物を置くまでの費用とリスクを売主が負担する条件で、1M/T当たり1,500米ドル」の意味です。

本船に貨物を置いて以降、貨物のリスクは買主に移ります。

②引渡地点貨物の引渡地点は、「インコタームズ2000」までは、貨物が「輸出港で本船の手すりを通過した時」となっていましたが、「インコタームズ2010」から、貨物が「輸出港で本船に置かれた時」に変更されました。

「インコタームズ2000」までは、貨物をクレーンで吊り上げて、本船への積込作業をしていた時に、クレーンから貨物を落下して、貨物が本船の欄干に当たって……、さて船の上に落ちたか(引渡済み)、あるいは海没したか(引渡前)」などと、クイズみたいな想定問答が行われていたものです。

「インコタームズ2010」以降は、輸出港で本船に貨物が置かれるまでは、売主の責任となって、売主の責任範囲は若干拡大されましたが、すっきりした形になりました。

③保険売主も買主も、相手に対して保険をかける義務は負っていないのですが、売主は、本船船上に貨物を置くまでの輸送区間に対して、国内保険の一種である「輸出FOB保険」(内航貨物海上保険)をかけます。

買主は、本船船上に貨物を置いて以降の区間に対し、外航貨物海上保険をかけて、リスクヘッジします。

内航貨物海上保険は、艀輸送に対応した国内保険の一種で、やはり自然災害に対しては、保険会社は自らを免責としています。

(10)CFR(運賃込み)~CFRでは、売主が仕向港までの海上輸送賃を負担します。

換言すると、買主は、仕向港までの海上輸送賃込の値段で貨物を売主から買います。

「CostandFreight」のCostとは貨物本体の価格のことで、Freightは海上輸送賃を指します。

売主は契約で指定された仕向港まで、あるいはあらかじめ、売主と買主が合意していれば、仕向港の特定の地点までの輸送費用を、CFR価格の中に織り込んでおきます。

①CFRの使い方CFRでは、CFRの後ろに仕向港を挿入し、単価を表わします。

例えば、「CFRDalian」US、90「perM/T、売主は、バラ積みの貨物が大連港に、貨物滅失・損傷のリスクはるが、輸出港で本船に貨物を置くまでは売主が負担、それ以降のリスクは」買1M/T当がた負りう900米い。

ドうル条件で②引渡地点CFRでの引渡地点は、FOBとまったく同じで、「輸出港で貨物が本船上に置かれた時」です。

売主がどこまで輸送費用を負担するかということと、リスクの負担範囲とは、関連性がありません。

買主から、「売主が輸入国までの海上運賃を負担するのだから、リスクも輸入国に貨物が着くまで売主が負って当然ですね?」と言われて、思わず納得してしまいそうですが、貿易では、「輸送運賃の負担範囲」と「リスクの負担範囲」には関連性がありません。

③損害保険前述のFOBと同じく、売主も買主も、相手に対して保険をかける義務はありませんが、売主は、本船船上に貨物を置くまでの輸送区間に対して、国内保険の一種である「輸出FOB保険」(内航貨物海上保険)をかけます。

買主は、本船船上に貨物が置かれて以降の区間に対し、外航貨物海上保険をかけて、買主が負うリスクをヘッジします。

(11)CIF(運賃保険料込み)~

CIFでは、価格の中に、運賃だけでなく、海上保険料も含みます。

つまり、仕向港または、あらかじめ合意していれば、仕向港の特定の地点までの運賃と保険料を、売主が負担し、買主はそれらのコスト込みの価格で、売主から買うことになります。

①CIFの使い方CIFの後ろに仕向港を挿入して、単価を表示します。

「CIFSingaporeUS$950perM/T」は、「シンガポール港に到着するまでの運賃と海上保険料込の価格で1M/T当たり950米ドル」の意味になります。

②引渡地点貨物の引渡地点は、FOB、CFRと同じで、貨物が「輸出港で本船に置かれた時」です。

③損害保険売主は、貨物が自社工場・倉庫で、輸送車両に貨物を積載する動作を開始した時に保険がスタートし、仕向港または、あらかじめ合意していれば、仕向港の特定の地点までを保険対象区間とする外航貨物海上保険を、一気通貫でかけます。

付保する外航貨物海上保険の種類は、別途合意または慣習になっている取引であれば、ICC(C)以外でも良いのですが、そのような合意も慣習もなければ、ICC(C)を付保することにより、インコタームズでは、売主の買主に対する保険付保義務が履行されたとみなします。

買主がICC(C)以上のカバー範囲の保険を要求する場合、例えば、ICC(A)やICC(B)、あるいは、戦争保険やストライキ保険を要求するのであれば、売主は買主の費用で、それ(ら)を付保しなければならないと、「インコタームズ2020」は規定しています。

ただし、売主のリスク負担区間を含む保険を一気通貫でかけることになるため、果たして売主にとってICC(C)が適切かどうかは、一考の余地があります。

台風による水濡れ、地震、津波など自然災害による貨物の被災事故の多くは、輸出港で貨物が船積み待ちをしている状態で発生しています。

CIFでは、本船船上に貨物が置かれるまでは売主が危険を負担しています。

水濡れ、地震、津波などの自然災害による損失がカバーされないICC(C)では、売主自身が危険にさらされます。

インコタームズの規定は、一つの基準にすぎず、それを厳守することが、必ずしも安全な貿易に直結しないことがあることに留意しましょう。

CIFは、木材、鉱石等のバラ積み貨物の取引に使われることが多いことから、「インコタームズ2020」でも、売主の保険付保義務はICC(C)のまま据え置きとされました。

4.「インコタームズ2010」から「インコタームズ2020」への主な変更点2020年1月1日以降、「インコタームズ2020」が「インコタームズ」の最新版です。

「インコタームズ2020」は、その前のバージョンである「インコタームズ2010」からの大きな変更点は、次のとおりです。

(1)FCAでの買主の費用負担による「積み込み証明付記」(OnBoardNotation)のオプション追加コンテナ貨物は、貨物がCYやCFS等で、フォワーダー等の運送人に引き渡されると、受取船荷証券が発行され、受取船荷証券に「積み込み証明付記」(OnBoardNotation)が記されると、受取船荷証券は船積船荷証券として扱われます。

CFRとCIP契約では、売主が運送契約を結びます。

この場合、運送人にコンテナ貨物が引き渡されれば、売主の費用負担で受取船荷証券が発行され、コンテナが本船に積載された後に、売主の費用負担で、受取船荷証券にOnBoardNotationが記されます。

運送契約が、売主と運送人との間で結ばれますから、運送人に貨物が物理的に引き渡されると、運送人が受取船荷証券を売主に発行し、貨物が船積みされると、受取船荷証券にOnBoardNotationが付記されることに、何ら矛盾点はありません。

しかし、FCA契約では、通常、買主が、輸出国の貨物の引渡場所から輸入国までの運送契約を、運送人と結びます。

売主が、買主が手配した運送人に貨物を物理的に引き渡すと、貨物引渡しの証として、運送人は「受取船荷証券」を売主に発行します。

売主の次の責務は、輸出手続きをとって輸出許可を取得することです。

輸出許可が出れば、買主が契約した運送契約に基づいて、船積が行われ、船積みされると、受取船荷証券にOnBoardNotationが付記されます。

しかし、OnBoardNotationの付記が行われるのは、売主がすべての責務を完了してからですから、売主は「受取船荷証券」へのOnBoardNotationの付記に、必ずしも関与する必要がないかもしれないのです。

一方で、L/C、D/P・D/A決済であれば、売主は、OnBoardNotation付きの船荷証券(船積船荷証券)を銀行に提出しなければ、貨物代金の支払いを銀行から受けられないという問題があります。

送金決済であれば、売主はOnBoardNotationを取らないかもしれません。

しかし、買主は、輸入国で貨物を運送人から引き取るために、OnBoardNotation付きの船荷証券(船積船荷証券)が絶対に必要です。

FCAの定型取引条件の定義と貿易の実務との間で起きる、このチグハグな現実。

この問題への対応策として、「インコタームズ2020」で、次のような趣旨のオプションを追加したのです。

:「売主・買主が合意して、買主が運送人に対し、買主の費用と危険負担で、貨物が船積みされた旨記載された運送書類(例えば、OnBoardNotationが付記されたB/L)を売主に発行するように指示した場合、売主は、典型的には銀行を通じて買主にそのような船荷証券を提供する義務を負う」。

(2)CIF・CIPで付保する保険の種類「インコタームズ2010」では、CIP契約で売主が買主に対して負う保険付保義務は、最小限の保険であるICC(C)をかければ良いとしてきましたが、「インコタームズ2020」では、別途合意または慣習になっていない限り、売主はICC(A)を付保することに変更されました。

買主が戦争保険やストライキ保険を要求する場合、売主は買主の費用で、それ(ら)を付保します。

CIPは、コンテナや空輸で輸送されることの多い工業製品の取引で使われる定型取引条件なので、水濡れや自然災害による損失も補償対象となるICC(A)を付保することは、現実にかなった変更だと思われます。

(3)FCAとDで始まる用語における売主または買主による輸送手段の手配今までの「インコタームズ」は、サードパーティの運送人と運送契約を結んで、貨物の輸送を行うことを想定して書かれていましたが、陸続きの国の企業同士では、FCAで契約した買主が、自社の輸送車両で取りに行って、貨物を運んで来るケースもあり、またDAP、DPU、DDPでは、売主が自社の輸送手段に貨物を積載して運ぶケースもあります。

「インコタームズ2020」では、このように、サードパーティとの運送契約をまったくしないで、輸送を行うことが現実にあることを考慮して、FCAでは「買主による貨物の運送契約の締結」に「買主による運送手段の手配」を加え、DAP、DPU、DDPでは「売主による貨物の運送契約の締結」以外に「売主による運送手段の手配」を挿入しました。

(4)DATのDPUへの表記変更「インコタームズ2010」でのDAT(DeliveredT)が、「インコタームズ2020」で、DPU(DeliveredatPlaceUnloaded)に変更となりました。

「ターミナル」(終着地点)の言葉が、世間一般に認識されている「ターミナル」と理解されることがあったため、誤解を避けるために、そのような「ターミナル」も含め、それ以外に売主と買主が合意する特定の「場所(Place)」であることを明確にするために、DPUの表記にしたものです。

「Unloaded」とは、「輸送車両から荷卸しして」貨物を引き渡すという意味ですから、売主は、輸入国の仕向地または仕向地においてあらかじめ合意した特定の場所があれば、そこで輸送手段から貨物を荷卸しして買主に引き渡します。

5.定型取引条件は何を使えば良いか?それでは、インコタームズの11ある定型取引条件の中で、どれを使うのが良いのでしょうか? 売主と買主とでは、自ずと違います。

(1)売主が使うべき定型取引条件売主にとって、貨物の引渡ができるだけ早い時点で行われること(リスクが早く買主に移転する)と、売主がリスクを負っている輸送区間に対して、自然災害もカバーされる「外航貨物海上保険」を、売主がかけられる定型取引条件が望ましいと言えます。

これらの条件にかなうのは、コンテナ・空輸貨物の取引であればCIP、バラ積み貨物の取引であればCIFです。

「インコタームズ2020」では、CIPの場合はICC(A)、CIFの場合はICC(C)を売主がかければ、売主が買主に対して負う保険付保義務は履行されると規定しています。

「インコタームズ2020」でも、また「インコタームズ2010」でも、買主がそれ以上の補償範囲の保険や追加の補償を求める場合、売主は買主の費用でそれに応じるべきだとしています。

しかし、CIP、CIFで売主がかける保険が、「貨物を買主に引き渡す前の売主にリスクがある区間」も含む場合、最低限の補償範囲の保険であることが、売主にとって不利になってしまいます。

CIP、CIFで売主がかける保険は、「貨物を買主に引き渡す前の売主にリスクがある区間」を含んで付保する場合、売主自身のためにも、最大範囲の保険が最も望ましいと言えます。

従って、売主が使うべき最善の定型取引条件は、CIPまたはCIFで、付保する保険をICC(A)とすることが、最善ということになります。

CIP、CIFに次ぐ定型取引条件としては、貨物の引渡ができるだけ早い時点で行われる定型取引条件です。

この条件を満足させるのは、コンテナ・空輸貨物の取引であればFCAまたはCPTです。

バラ積み貨物の取引に使うFOBとCFRは、売主が一番使ってはいけない定型取引条件です。

この二つは、貨物の引渡が最も遅いうえに、売主は自然災害による被害をカバーしない「国内運送保険」か「内航貨物海上保険」しかかけられません。

売主にとっては、最悪の定型取引条件です。

(2)買主が使うべき定型取引条件買主にとっては、輸出国での貨物の引渡ができるだけ遅い時点で行われることと、買主が日本の保険会社に「外航貨物海上保険」のICC(A)をかけることができる定型取引条件が望ましいと言えます。

日本の保険会社に保険をかけるのは、諸外国と比べて支払が迅速で公正な支払がされるためです。

この二つの条件にかなうのは、FOBとCFRです。

輸出では最悪だった定型取引条件が、輸入では最善の定型取引条件となります。

次善の定型取引条件は、貨物が輸出国で、最も早く買主に引き渡されるFCAかCPTです。

自然災害をカバーする外航貨物海上保険、ICC(A)をかければ問題ありません。

絶対に避けるべき定型取引条件は、CIP、CIFの二つです。

CIPかCIFで契約すれば、売主は必ず自国の保険会社に保険をかけます。

その保険会社が迅速に支払に応じるか、公正に対応してくれるかどうかは分かりません。

さらに、貨物が買主に引き渡されて以降に事故が起きれば、買主は売主の国の保険会社に直接保険求償しなければなりません。

もちろん、売主に手助けをお願いすれば、売主は善意で便宜を協力するかもしれませんが、CIP、CIF契約では、売主は買主に対して保険をかける義務を負うだけで、保険をかけおわって保険証券に裏書きして買主に送れば、それ以上の義務はありません。

「インコタームズ」は、売主が掛けた保険であっても、売主が買主のために保険求償をする義務までは課してい

ないのです。

それでも、CIPやCIFで輸入契約をしますか? リスク回避の観点からすれば、すべきでないことは明白です。

6.定型取引条件の誤用例と慣習的な使用例定型取引条件をしっかり学んだことがなかったり、以前の古いバージョンのインコタームズの知識のままで新しい情報に更新されていなかったりして、正しくない定型取引条件を使っているケースが散見されます。

(1)誤用例①EXW(工場渡し:ExWorks)「インコタームズ2010」でも「インコタームズ2020」でも、EXWは、買主にとっては「貿易に使う用語」ですが、売主にとっては「国内取引用語」です。

良く見られる誤用例は、FCAとEXWを混同しているケースです。

「インコタームズ」では、EXWを使った場合、売主には輸出許可を取得する義務がありません。

工場や倉庫に置いてある包装済みの貨物を、買主に「持って行ってくれ!」と言うだけで、売主の義務は完了します。

従って、EXW価格には輸出通関費用を含みません。

売主が輸出許可を取得する義務を負うのであれば、EXWではなく、FCA(運送人渡し)を使って契約すべきです。

②EXGODOWN(倉庫渡し)倉庫渡しの意味で使っている人を散見します。

これは、インコタ-ムズにない定型取引条件です。

倉庫渡しであれば、「FCA〇〇Warehouse」を使いましょう。

③ExFactoryまたはExMill(工場渡し)工場渡しの意味で使わっている人がいます。

これも、インコタ-ムズにはない定型取引条件です。

工場渡しであれば、「FCA〇〇Factory」を使いましょう。

④FOB○○工場「工場渡し」のつもりであることは想像できますが、FOB(本船渡し)の使い方としてはまったく正しくありません。

正しくは「FCA○○factory」です。

⑤CNF(Cost&Freight)C&Fの意味でCNFと表記して使っている人が、海外でも国内でも散見されます。

CNFは、C&Fから派生して自然発生的にCNFと表記するようになったもので、正しくは、CFRです。

⑥C&F(Cost&Freight)1990年のインコタームズで、それまでのC&F(CostandFreight)が、EDI(ElectronicDataInterchange:電子データ交換)時代の到来に対応し、コンピューターに打ち込みやすいように「CFR」に変更されました。

それから、何十年経っているのでしょうか? いまだにC&Fを使っている人も少なくありません。

正しくは、CFRです。

⑦FOBAirport・CFRAirport・CIFAirport

「インコタームズ1976」でFOA(FOBAirport)が創設され、航空貨物の取引で、FOBの定型取引条件を使った時代はありましたが、「インコタームズ1990」でFOBAirport(FOA)は廃止され、空輸貨物の場合もFCA()。

それから、何十年も経つのに、いまだに「FOBNaritaAirport」を使っている人が、少なくありません。

古いままの貿易知識がアップデートされていないのです。

正しくは、「FCANaritaAirport」、「CPT」、「Airport」。

(2)慣習的に使われている定型取引条件慣習的に使われている定型取引条件もあります。

費用負担と引渡時点が不明瞭になりがちですから、費用負担と引渡時点を明確にして使えば、問題ありません。

①C&IまたはCNI(CostandInsurance)インコタームズは、民間の団体である国際商業会議所が策定している取引のための規則で、国際条約でも法令でもありませんから、自動的にすべての貿易取引に適用されるものではありません。

売買当事者がインコタームズを使って取引することに合意することによって、取引当事者はインコタームズに拘束されます。

「インコタームズ2020」は、貿易の当事者によるインコタームズ規則の変更を禁止はしていませんが、規則を変更する場合は、売買契約書の中で、変更が意図する効果を明確にすることを求めています。

C&IまたはCNI(CostandInsurance)は、貨物の引渡と運送費の負担はFOBまたはFCAと同じですが、売主が買主に対して外航貨物海上保険をかける義務を負うという意味で、第三者間の取引でも、親子関係やグループ内企業同士の取引でも、慣習的に使っている人が少なくありません。

FOBまたはFCAで輸出した場合、外航貨物海上保険は、通常、買主が自国の保険会社を通じて付保しますが、海外の保険会社は往々にして審査に時間がかかりすぎたり、十分な損害補償をしてくれなかったりしがちです。

売主が、日本の保険会社に付保すれば、迅速な審査と円滑な保障が得られやすいことを期待して、実質的にはFOBまたはFCA条件での取引ですが、保険は日本側でかけるという意味で使われています。

C&IまたはCNI(CostandInsurance)は、インコタームズの11の規則にはない用語で、その定義もインコタームズには書かれていませんし、そのままでは、C&I(CNI)が「FOB+Insurance」の意味で使われているのか、あるいは「FCA+Insurance」の意味で使われているかも、不明瞭です。

コンテナ貨物を輸出する場合、定型取引条件を「FCA」としたうえで、「Insuranceshallbe」effectedbySellerat。

Seller’s、「」、。

②EXWLoaded車載費込みの工場渡し条件という意味ですが、「EXWloadedatSeller’s」expensebut、trisk.’s。

③FOBStowed&TrimmedFOBは、貨物が本船に置かれるまでが売手のリスクと費用負担ですが、「積付(Stowage)費用と馴らし(Trimming)費用込み」という意味で、バラ積みの穀物や石炭などの取引に使われます。

売手が積付けと馴らしの費用とリスクを負担する場合であれば、「Cargo」shallbestowedan。

trimmedatSeller’s④CFR(CIF)LinerTermまたはBerthTerm

バラ積み船の「不定期船」の場合、運賃は、船会社が船に積んでから、仕向地の港に輸送するまでが基本です。

が、LinerTermまたはBerthTermの文言が入ると、「定期船条件」の意味になり、積地での積込費用と揚地の荷揚費用込みの運賃となります。

荷揚時の危険負担について、売主・買主のどちらにするかを決めておくのが良いでしょう。

貿易では、費用を持つかどうかと、リスクを持つかどうかは、まったく別の問題です。

⑤CFRLandedまたはCIFLanded「陸揚費用込みの運賃込み」または「陸揚費用と運賃保険料込み」の意味で使われています。

危険負担が不明なので、「CFRlandedatdestinationatSeller’s」、「risk.’」CIFlandeda、dexpenseibutaatSBuyer’s。

第四章 貿易の商慣習世界の貿易業者は、「契約条件を詰めるための確立された商談方法」にのっとって商談をしています。

貿易特有の「商談のスタイル」が世界的に共通化したもの、それが「貿易の商慣習」です。

これも、インコタームズと並んで、重要な貿易のツールです。

貿易の商慣習を知らなければ、まともに商談もできませんし、商談相手として認められないこともしばしば起きます。

「貿易の商慣習」は、貿易人としての常識です。

1.貿易の商慣習はなぜ生まれたのか?国内商売の商談は、通常、売主と買主が会って話をすることも、電話で商談することも、それほど費用をかけないで行うことができます。

しかし、国際間での商談では、売主と買主は遠隔地にいる人同士です。

会って話をするには、遠距離の移動が必要ですし、国際電話は、今でこそインターネット電話の普及で、安価なコストで通話できるようになっていますが、ひと昔前までは、コストの高い通信手段でした。

今や、、、、。

、。

、。

、、、。

このような背景で、商談相手に対して「この取引条件で受諾するかしないか」の二者択一を、常に迫る「貿易の商慣習」が生まれたことは、必然だったと言えるでしょう。

2.貿易の商慣習とは?「貿易の商慣習」とは、主に「契約条件を詰めるための商談のスタイル」を指しています。

「貿易の商慣習」では、売主が自分の売りたいと考える、品名、規格、数量、単価、梱包、船積時期、決済などの主な取引条件を、一括条件(OnePackage)で、買主に提示することをオファー(Offer)と言います。

「一括条件(OnePackage)で」と言うことは、例えば「オファーされた値段は問題ないが数量は受諾できない」というように、オファー条件の中の一部だけを受諾したり、一部だけを受諾しなかったりすることは認められません。

買主の選択枝は、提示された条件全部を、受諾するか、拒絶するか、あるいは買主が自分の買いたいと考える、品名、規格、数量、単価、梱包、船積時期、決済などの主な取引条件を、一括条件(OnePackage)で、売主にビッド(Bid)を提示するかです。

「貿易の商慣習」では、売主が自分の売りたいと考える、価格、単価、数量、包装、船積時期、決済条件などの取引条件を、一括条件(OnePackage)で、買主に提示することをオファー(Offer)と言い、逆に、買主が自分の買いたいと考える、価格、単価、数量、包装、船積時期、決済条件などの取引条件を、一括条件(OnePackage)で、売主に提示することをビッド(Bid)と言います。

(1)貿易商談は「オファー」と「ビッド」の繰り返しで進行、アクセプト(受諾)で契約成立!オファーとは、日本語で言えば「売り申込み」、ビッドは「買い申込み」ですが、貿易の第一線で、「売り申込み」や「買い申込み」と日本語で言う人は皆無です。

貿易の現場では、「オファー」、「ビッド」と言っています。

なお、「オファー」は「オファー価格」という意味で使われることがあります。

この場合、「オファー」は「値段」という狭義の意味になります。

貿易では、売主が買主に対して「これを売りたいのだけど……」と意思表示をする「売り引き合い」(SellingInquiry)か、買主が売主に対して「それを買いたいのだけど……」と意思表示をする「買い引き合い」(BuyingInquiry)を端緒に、具体的な商談が始まります。

商談のスタイルは、売主が提示するオファー、または買主が提示するビッドに対して、提示を受けた側が提示内容に受諾できない部分があれば、相手方に対してカウンター(反対提示)をします。

商談は、オファーとビッドの繰り返しで進展していきますが、いずれかの時点で、提示を受けた側が「アクセプト」(ACCEPT:受諾)の回答をすれば(正確には、アクセプトの回答が提示した側に到着すれば)、その時点で「契約成立」となります。

売主と買主は、成立した契約条件のとおりに契約書を作成して、双方はそれに署名しなければならない、これが、「貿易の商慣習」です。

(商談の進行)

(2)多くの貿易実務書での解説、「オファー」、「カウンターオファー」貿易の第一線で仕事をした経験のない貿易の専門家が書いた貿易実務書では、最初の「申込み」は「オファー」と言うが、相手からの「反対申込み」は「カウンターオファー」、それに続く「反対申込み」もすべて「カウンターオファー」と称すると、解説しています。

確かに、「国際物品売買契約に関わる国際連合条約」(通称、ウィーン売買条約、UnitedNationsConventiononContractsfortheInternationalSaleofGoods:CISG)」では、「オファー」と「カウンターオファー」の言葉が使われています。

しかし、この「ウィーン売買条約」では最優先に適用されるのは、「合意した慣習および当事者間で確立した慣行」(第9条第1項)で、合意した慣習や当事者間で確立した慣行は、ウィーン売買条約の規定より優先して適用されるのです。

そして、貿易の第一線で確立している「貿易の商慣習」では、売主が買主に呈示する「オファー」に対して、買主が売主に呈示するのは「ビッド」です。

その後も、オファーとビッドの繰り返しで商談が進行します。

ウィーン売買条約や多くの貿易実務書が言うような「オファー」→「カウンターオファー」→「カウンターオファー」→「カウンターオファー」で、商談が進行するのではありません。

貿易の第一線での商談は、「オファー」→「ビッド」→「オファー」→「ビッド」で進行しています。

ところで、オファー・ビッドには、次に説明するように、「サブコン付き」のオファー・ビッドと「ファーム」のオファー・ビッドの二種類があります。

3.オファー・ビッド(1)サブコンオファー・サブコンビッドサブコン付きオファーとは、「当方の最終確認条件付き(subjecttoourfinalconfirmation)」の条件をつけた売主が買主に呈示するオファーのことです。

サブコン付きビッドは、当方の最終確認条件付き(subjecttoourfinalconfirmation)」の条件をつけた買主が売主に呈示するビッドです。

「当方の」とは、オファーなりビッドを提示した側ですから、「貴方が、私の提示した条件をアクセプト(ACCEPT:受諾)しても、私がそれを最終的に確認(finalconfirmation)しなければ、契約は成立しない」という付帯条件付きでのオファーなりビッドだということです。

①出した側が持つ契約成立・不成立のオプションサブコンオファーやサブコンビッドを出して、相手がすんなりそれをアクセプトした場合、それを提示した側が、「契約を確認します」(Confirmedthe、Contra「t)逆とに伝えて契約することもできますし」ご免なさい! 契約は確認できま」せ(んSorry,、IcannotconfirmtheContract)。

初めて商談する相手であったり、初めて取引したりする商品であったりする場合、相手の値ごろ感が分からないものです。

このような時に、商談の最初の段階で、相手の値ごろ感を探るために、サブコンオファー、サブコンビッドを提示します。

サブコンでのオファーやビッドで、相手方の反応を見て「行けそうだ!」という感触を得た段階で、ファームでのオファーやビッドに切り替えて、真剣勝負の商談に移ります。

通常は、サブコンでのオファーやビッドの段階では、売主・買主ともに「まだまだ商談が本格化する前のジャブ段階だ」と理解しているのが普通なので、サブコン条件付きのオファーやビッドをアクセプトすることは、ほとんどないと思われます。

が、安すぎる値段でオファーしてしまったり、高すぎる値段でビッドしたりした時は、「当方の最終確認条件付き(subjecttoourfinalconfirmation)」の条件をつけておけば、提示した側は、相手がアクセプトしても、契約不成立とすることができますから、救われることになります。

②展示会や商談会に参加する際の価格表(PriceList)サブコンでのオファーは、展示会出展や海外バイヤーとの商談会に参加する時に用意する「価格表」(PriceList)に、脚注の一つとして「上記価格は、サブコンのオファー価格です」(Alltheabovementionedpricesaresubjecttoourfinalconfirmation.)と記載しておくことも行われています。

「価格表」に書かれている価格を有効期限なしのファームオファーだと誤解されないために、サブコン条件付きであることを明示しておきます。

(2)ファームオファー・ファームビッドサブコンでのオファーやビッドは、相手がアクセプトしても、それを提示した側が「確認」しない限り契約は成立しないのですが、これに対して、「ファームオファー」(FirmOffer:確定売り申し込み)と「ファームビッド」(FirmBid:確定買い申し込み)というオファー・ビッドの種類があります。

ファームでのオファーやビッドでは、相手がアクセプトの回答をして、その回答が、提示した側に届いた時点で、契約が成立します。

(貿易商談のスタイル)

取引が成立したら、双方は、成立した契約条件のとおりに契約書を作成し、それに署名しなければなりません。

①ファームオファー・ビッドでの有効期限ファームオファーもファームビッドも、いったん相手方に提示すると、相手が同意しない限り、取り消しできません。

しかも、相手がアクセプトすれば取引が成立しますから、通常は有効期限(Expiration、Date)を明示して。

有効期限をつけないで、ファームオファーやファームビッドを出すと、経済情勢に急激な大変動が起きた際、窮地に陥ることがあります。

1973年8月に起きた第一次オイルショックの時には、多くの商社が、有効期限をつけないで海外側にファームオファーしていたため、海外側が軒並み受諾してきて、赤字取引を余儀なくされたケースが頻発しました。

これを機に、日本の貿易業界では、ファームオファーやファームビッドには、必ず有効期限をつける習慣が定着しました。

有効期限は、20XX年X月X日のX時XX分(日本時間)のように、特定の国(地域)の標準時間を基準に何時までなのかを明示します。

有効期限を明示したファームオファーやファームビッドに対して、相手方から有効期限内にアクセプトする旨の回答が、提示した側に到着すれば、その時点で契約が成立します。

契約の成立は、回答が発出された時点でなく、到着した時点です。

厳密に言うと、アクセプトの回答がメールで行われた場合、オファー・ビッドを提示した本人がそのメールを見た時点ではなく、メールボックスにそのメールが届いた時点が契約成立の時点です。

郵送であれば、オファー・ビッドを提示した本人が所属する会社の郵便受けにアクセプトを伝える郵便物が入った時に契約成立となります。

②ファームオファー・ファームビッドの発効と取り消しファームオファーやファームビッドを出した後、値段表示のゼロが一つ足りなかったり、多すぎたりといった間違いに気づいたら、どうすれば良いでしょうか?ファームオファーやファームビッドは、相手方にそれが届いた時に発効します。

発効前であれば、ファームオファーやファームビッドを出したこと自体を取り消すことができます。

例えば、メールで相手方にオファーした直後に、オファー内容に誤りを発見したとしましょう。

すぐ相手方に電話をして、「メール届いていますか?」と聞き、「いいや! 届いてないです」と言う返事であれば、「ご免! オファーをメールで出したのだけど、間違っていたので取り消します」と伝えれば、オファーは取り消すことができます。

しかし、「メール届いていますか?」と電話して聞いた時に、「今、届きました!」と言われれば、オファーは発効済みです、それを一方的に撤回することはできません。

撤回するには相手の同意が必要で、相手が同意しなければ撤回できないのです。

ちなみに、まだ発効していないオファー・ビッドの場合は、「取り消し」という言葉を使いますが、すでに発効したオファー・ビッドは、「撤回」という言葉を使います。

このように、間違った内容でのオファー・ビッドが、相手に到着し(発効して)、相手がアクセプトすれば、契約成立となります。

救済されるのは、相手が許してくれる場合だけです。

貿易の世界でも、囲碁や将棋の世界と同じく、勝負が始まってしまえば、「待った」や「もとい」は許されないのです。

③有効期限のないファームオファー・ファームビッドの撤回すでにご説明したとおり、ファームオファー・ファームビッドは、まだ有効期限内であれば、提示した側が一方的に撤回することは許されません。

それでは、有効期限をつけないで、ファームオファー・ファームビッドした場合はどうでしょうか? この場合は、相手方がアクセプトの回答を発する前に、オファー・ビッドを出した側が撤回することを相手に伝えれば、ファームでの

オファー・ビッドであっても撤回することができます。

逆に、有効期限をつけないで、ファームでオファーやビッドをしてしまい、その後も撤回しなければ、有効であり続けてしまいます。

アメリカでは、「アメリカ統一商法典」(UniformCommercialCode:、UCC)が、ファームオファー・ファームビッド。

撤回不能期間は中国や東南アジア諸国との取引では、日本と同じく、ファームのオファー・ビッドは、有効期限の長短に関わらず、有効期間中は取り消すことができません。

有効期間が示されていないファームのオファーやビッドは、相手方がアクセプトの回答を出す前であれば撤回可能です。

換言すれば、有効期間が明示されていないファームオファー・ファームビッドは、提示した側が撤回するまで有効であり続けます。

撤回しなければ、未来永劫に有効なオファー・ビッドになってしまいます。

ファームオファーやファームビッドを出す時は、必ず有効期限をつけるようにしましょう。

④ファームオファー・ファームビッドの失効通常、売主が出したファームオファーに対して、買主がいずれかの条件をアクセプトできない場合、ファームビッドを提示して相手に返します。

買主のファームビッドも、売主がどれかの項目を受けられない場合、買主にファームオファーを返します。

一括条件として提示したファームオファーに対して、例えば「値段を10ドル下げて欲しい」のように、一部条件の変更を買主側が要請したとします。

それは単なる「値下げ要請」ではなく、その要請をした時点で、売主が出した元のオファーは失効し、買手が「価格だけ元のオファーより10ドル値下げ、その他は元のオファーと同じ」でビッドしたことになります。

オファーやビッドの有効期限内に、相手方がビッドやオファーを返せば、元のオファーやビッドはその時点で失効します。

ですから、売主がファームオファーを出し、買主がそれに対してファームビッドを返し、売主がさらにそれに対して、今度は値上げしてファームオファーを出した場合、買主が「今度のオファーはアクセプトできないけれど、最初のオファーをアクセプトします」ということは、成立しないのです。

また、有効期限をつけたファームのオファー・ビッドは、有効期限が過ぎれば当然のことですが失効します。

有効期限が過ぎた後に、アクセプトするという回答が来ても、あくまでも「到着ベース」ですから、契約は成立しません。

この場合、契約を成立させたいのであれば、期限切れ後に来たオファー・ビッドは、新規のものとみなし、それをアセクプトして契約を成立させることになります。

貿易の商慣習では、会話形式の商談であっても、「一括条件としての提示」という考え方で考える必要があるのです。

(3)先売りご免(OfferSubjecttoPriorSale)のオファー供給可能な商品の数量が15トンあって、その全量をある海外バイヤーにファームオファーしたと仮定します。

売主は、そのオファーの有効期限が切れるか、当該バイヤーがビッドしてくるまでは、他の業者にオファーできません。

15トンしかない玉(ギョク:商品のこと)を、同時に二社に15トンずつファームオファーすれば、ダブルオファーとなり、一社には、玉の裏付けがないのにファームオファーしていることになってしまいます。

このようなダブルオファーは厳禁です。

玉の裏付けのないファームオファーは、ファームではないからです。

空オファーしないで、早く売りたいのであれば、先売りご免(OfferSubjecttoPriorSale)でオファーする手があります。

これであれば、「先に売れてしまったらご免なさい」という条件付きのオファーですから、二社といわず、何社にオファーしても構いません。

しかし、現実のビジネスの世界では、この「先売りご免」のオファーを使っているケースを目にするのは稀です。

やはり、バナナのたたき売りのような一人対多数の「先売りご免」では、情に欠けると感じる人が多いからかもしれません。

それよりも、「興味があればビッドして欲しい」と関係各社に連絡して、ビッドしてもらう方が穏当でしょう。

4.オファー・ビッドの方法オファーやビッドの方法は、商品により、業界により、実にさまざまです。

面談、電話、Eメール、オファーシートをファックスしたり、郵送したりする方法で、オファーやビッドが行われています。

(1)面談や電話でのオファー・ビッド面談して商談する場合、口頭でのオファー・ビッドのやりとりとなります。

オファーシートかビッドシートを相手方に提示して商談することもあります。

面談や電話で口頭によるオファーやビッドをする場合、言い間違いや聞き間違いを防ぐために、オファー・ビッドの内容を相手方に必ずメモしてもらい、そのメモを復唱してもらうことによって、正しく伝わったかどうかを確認します。

「伝達」、「メモ」、「復唱・確認」は、口頭商談での必須の手順です。

定期先物市場で相場が刻々と変わるような商品の場合、オファー・ビッドの有効期限は、長くても1~2日程度、商品によっては、数時間もあります。

こうした商品の商談は、国際電話を使って口頭でオファー・ビッドするのが普通です。

面談や電話でオファー・ビッドをした場合、後刻、オファー・ビッドの内容を確認するためのEメールを出しておきます。

(2)オファーシートのメール添付・ファックス・郵送価格が短期間に大きく動くことのない商品の場合は、オファーシートと呼ばれる書面を作って、郵送するか、ファックスで送達するか、あるいはEメールに添付してオファーします。

書面でオファーシートを作る場合、会社のレターヘッド用紙(ヘッダー・フッターにロゴ・社名・住所などを記した用紙)を使って、オファーの主要条件を明確に簡潔に記載します。

機械設備などのビジネスでは、詳細な規格が必要となるため、分厚い規格書が添付されます。

参考までに、「オファーでよく使う英語」と「オファーシートの例」を掲げておきます。

(オファーで良く使う英語)

(オファーシートの例)

5.貿易の商慣習の規範性随分前の話になりますが、某大手総合商社が、インターネット通販で、198,000円のパソコンを、ゼロが一つ少ない19,800円で表示し間違えたことがあります。

この情報は、またたくまに拡散して、気づいた時には、100台を超える注文が来ていたのです。

日本の民法の規定では、「錯誤無効」として、注文を無効とすることはできたのですが、この会社は、発注者に対して、19,800円で販売し、2億円以上の損失を蒙りました。

これは、この会社が、貿易商社であったことと無縁ではありません。

実際にちょうど同じ頃、別の会社がやはりインターネット通販で、価格表示を間違えてしまって、注文が殺到した出来事がありました。

この会社は、「錯誤無効」を理由に、注文を無効扱いにしました。

この企業は、貿易業界との接点はありませんでした。

会社が消費者にオファーしたのに対して、消費者がアクセプトしてきた以上、契約が成立したと考えるのは、貿易業界では常識の範囲内です。

貿易企業は、契約が成立した以上、何としてでも契約を守るのだという、強固な契約観念を持っていることを、この二つの出来事で窺い知ることができました。

「貿易の商慣習」は、世界中の貿易業者が遵守している、強固な規範性に裏打ちされたものです。

貿易では、国内取引よりもはるかに厳しい契約遵守観念、商道徳や倫理観が求められます。

貿易に新規に参入してくるすべての人が、強固な規範観念を持っているとは限りません。

オファー・ビッドのやりとりをした結果、契約が成立しても、次の日になると、「昨日はファームオファーをアクセプトしたけど、やっぱりアクセプトは取り消す!」とか、「まだ契約書にサインしてないから、契約はまだ成立していない!」などと言う人が現れるかもしれません。

このような場合、「貿易の商慣習」をとくと説明したうえで、「この商慣習に従わないのであれば、知っている限りの同業他社に、御社のプアなパーフォーマンスを伝えて、注意喚起をしておきます」と通告することです。

たいていの企業は、自らの言動を恥じて姿勢を正すはずです。

もちろん、そのようなことを言い出す相手は、次回以降、取引対象から外すのは言うまでもありません。

第五章 物流リスク国際物流には、さまざまな危険が伴います。

貨物が輸送中に滅失したり破損したりすれば、輸送を請け負った運送人が、本来は責任を負うべきです。

しかし、運送人が負う責任範囲と責任限度が国際条約で定められていて、運送人に貨物の損失のすべてを補償してもらうことは期待できません。

それは、幻想にすぎないと考える方が良いでしょう。

そこで、貿易では早くから損害保険が発達し、物流リスクを保険にヘッジする方法が確立しました。

「第三章 インコタームズ」で、それぞれの定型取引条件ごとに、保険に関しても解説しましたが、ここでは、より包括的に貿易物流におけるリスクと保険のかけ方について説明します。

1.貿易物流におけるさまざまなリスク国際間の貨物の移動では、さまざまな予期し得ないことが起こります。

(1)自然災害のリスク自然災害は、頻度は多くなくても、いつかどこかで必ず起きるものです。

しかも、自然災害の場合の被害は、一網打尽に近い広範囲なものとなり、被害金額は膨大なものになりがちです。

(貿易物流におけるさまざまなリスク)

1995年1月17日の阪神淡路大震災の時には、神戸港で船積み待ちだった貨物が地震で損壊しました。

2011年3月11日の東日本大震災では、多くのコンテナが倒壊したり、波にさらわれたりしました。

この時に被災したコンテナで、釧路の海岸に打ち上げられたものもありました。

2011年には、日本からタイに輸出した貨物が、保税区域で洪水のために水濡れの被害に遭いました。

2018年9月には関西空港の台風被害による輸出貨物の水濡れ事故も起きました。

インコタームズの定型取引条件を選択するうえで、地震や津波などの自然災害による損害を避けることができるかどうかは、重要なポイントです。

しかし、適切な定型取引条件を選んだとしても、他にまだ逃れられないリスクがあります。

それは、港で船積み待ちしていたコンテナが、地震や津波で、横倒しになったり水に浸かったりした後の、貨物の廃棄費用を巡っての問題です。

FCAやCPT条件で輸出契約をしていれば、貨物が被災した時点では、貨物は買主に引き渡し済みですから、インコタームズの定義からすれば、廃棄費用は、廃棄業者が買主に直接請求して支払ってもらうのが筋です。

しかし、それは現実には、不可能です。

フォワーダーが、被災したコンテナのひとつひとつについて、「被災した時点で、危険負担は売主だったのか、買主だったのか」を調べたり、「これは買主の危険負担中の被災だったから、〇〇国の買主に請求」したりするのは、実務的に無理です。

このような場合、フォワーダーは、荷主である売主に対して廃棄費用を支払うように求めます。

買主が負担すべき廃棄費用であっても、売主は、いったんフォワーダーに廃棄費用を立て替えて支払い、それを売主が買主に請求するしかありません。

問題は、その時に、買主が払ってくれるかどうかです。

買主が、インコタームズの定型取引条件を正確に理解していれば、買主が負担する費用であることは理解するでしょう。

しかし、買主が払ってくれなければ、売主が自腹を切るしかありません。

廃棄費用に関しては、輸送業者を対象とする保険はありますが、貿易での売買当事者を対象とする保険は、現状ではありません。

(2)交通事故、人為的ミス、水濡れ、盗難等のリスク輸出港に向かっていたトレーラーが、事故に遭って貨物が損傷。

船積みや荷卸しをする際に貨物がクレーンから落下して海没。

コンテナに穴が開いていて、中の貨物が水濡れ。

貨物をトラックで輸送していた時に、交通事故に遭って貨物が破損。

買主指定の倉庫まで運送中、貨物が盗難に遭って行方不明。

実に、国際物流の貨物には、さまざまな事故や事件のリスクがあります。

(3)船舶の衝突、座礁、船火事、機関故障による航行不能船の衝突や座礁、火災などが起きて、放っておくと船も貨物も滅失してしまう恐れがある場合、船長の判断で貨物の⼀部を投棄して沈没を防ぐことがあります。

一部の貨物を犠牲にすることで、他の貨物は損失を被らないで済みます。

また、船の機関故障で航行不能となり、他の船に曳航してもらうこともあります。

このような場合、生じる貨物の損害を「共同海損犠牲損害」、発生する費用を「共同海損費用」と言い、共同の海上危険から救うために犠牲となった損害は、「共同海損に関する統一的国際規則」(ヨーク・アントワープ規則:Y.A.ルール)によって、損失を被らずに済んだ貨物も含めて、船会社や船舶のチャーター会社、荷主などの関係者が公平に分担することが定められています。

最初のY.A.ルールは1887年に制定されました。

2.運送人の責任限度国内取引では、商品が買⼿に届くまでは売⼿の責任範囲で、配達途上に事故で商品が毀損すれば、第一義的には、売主が責任をもって弁償したり代替品を送ったりし、第二義的には、運送会社や保険会社との交渉となります。

しかし、貿易ではこの常識は通用しません。

運送人の賠償責任限度額は、「船荷証券統一条約」(1924年ヘーグ・ルール)で、過失・天災などは運送人を免責とし、「改正船荷証券条約」(1968年ヘーグ・ヴィスビールルール)では、1梱包(または1単位)当たり666.67SDR(SDRはSpecialDrawingRightsの略で国際通貨基金の通貨単位、666.67SDRは日本円で約10万円程度)か、1kgあたり2SDR(約300円)のいずれか高い方を責任限度としています。

日本もこの条約を批准済みです。

その後、より高い補償限度を定めた条約ができていますが、先進諸国は日本も含め、どこもまだ批准していません。

航空輸送に関しては、日本は、「モントリオール条約」を批准済みで、運送人の責任限度額は19SDR(約3,000円)/kgです。

つまり、輸送途上で事故が起きて損害賠償請求しても、運送人の責任限度が条約で決まっているため、貨物の損失すべてをカバーできることは期待できません。

このことから、ロンドン保険業者協会をはじめ世界の損害保険業界では、国際物流のリスクに対応した損害保険が発達し、現在では、貿易を支える重要なインフラ部分を構成するに至っています。

今では、物流リスクは、損害保険にヘッジすることが常識です。

国際間をモノが移動する際には、さまざまなリスクにさらされますから、こうしたリスクに対応する損害保険制度が、貿易を支える重要なインフラとして整っています。

3.損害保険の種類損害保険は、国内での輸送リスクに対応した「国内の運送保険」と、ロンドン保険業者組合が作成して世界的な標準約款になっている「協会貨物約款」((InstituteCargoClauses:C))に大別されます。

「国内の保険」では、地震・津波・噴火などの自然災害はカバーされませんが、「協会貨物約款」では、自然災害もカバーされる保険が用意されている点が、両者の大きな違いです。

(1)国内の運送保険「国内の運送保険」には、国内での陸送に対応した「国内運送保険」と艀(はしけ)輸送にも対応した「内航貨物海上保険」(輸出FOB保険)があります。

「内航貨物海上保険」は、FOB契約とCFR契約の時に売主がかける保険なので、「輸出FOB保険」とも言われています。

「国内運送保険」と「内航貨物海上保険」は、いずれも「オールリスク担保」とするか、「特定危険担保」とするかを選択できます。

「オールリスク担保」では、貨物の性質・欠陥と遅延などによる損害を除いて、すべての危険を担保します。

「特定危険担保」は、火災、爆発、輸送用具の衝突、転覆、脱線、墜落、不時着、沈没、座礁、座州の海上危険などが担保されます。

(2)協会貨物約款(InstituteCargoClauses:ICC)「協会貨物約款」(InstituteCargoClauses:C)は、ロンドン保険業者協会が定めた保険約款で、世界の標準約款となっています。

(協会貨物約款)には、ICC(1963)、ICC(1982)、ICC(2009)の各バージョンがあり、ICC(2009)を新協会約款、それ以前を旧協会約款と呼んでいます。

日本の損保会社は、新協会約款を「基本約款」として採用し、『外航貨物海上保険』(損保会社によって「貨物海上保険」)の保険名称で、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)と空輸貨物用のICC(AIR)として商品化しています。

(新旧協会約款対比表)

①外航貨物海上保険

外航貨物海上保険は「基本約款」を構成し、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)とICC(AIR)の4種類があります。

カバー範囲が最も広い保険はICC(A)とICC(Air)で、次がICC(B)。

ICC(C)は最少のカバー範囲です。

ICC(C)では、「地震、噴火、雷、船や保管場所への浸水、積込・荷卸しの際の水没・落下による梱包の全損」などの貨物の被害は、自然災害の特別約款をつけない限り、カバーされません。

自然災害による損害まで賠償対象としているのは、ICC(A)、ICC(B)とICC(Air)の三種類ですが、ICC(B)は水濡れをカバーしていません。

②特別約款基本約款である「外航貨物海上保険」に対し、必要な場合に追加でかけることができる特別約款があります。

特別約款には、協会戦争約款(InstituteWarClauses)と協会ストライキ約款(InstituteStrikesClauses)の二種類があります。

協会戦争約款は、基本約款で免責とされている戦争、捕獲、抑留などの危険を、貨物が本船上にある間に限って補償することを規定しています。

協会ストライキ約款は、基本約款で免責とされているStrikes(ストライキ)、Riots(暴動)、CivilCommotions(市民騒動)の危険(S.R.C.C.)を補償するものです。

いずれも、平常時にはかける必要はありません。

仕向地の国(地域)で、戦争が勃発しそうになっているとか、政情不安で暴動や港湾ストライキなどが起きそうになった時にかけます。

「ICC(A)+War&S.R.C.C.」が最強の保険のかけ方です。

CIPまたはCIF契約の時に、買主がWar&S.R.C.C.の付保を要求する場合は、「売主は買主の費用負担でそれに応じなければならない」と、「インコタームズ2020」は規定しています。

War&S.R.C.C.は、「外航貨物海上保険」の基本約款よりも保険料が比較的高いので、契約してからWar&S.R.C.C.を付保する必要が生じた際の保険料は、CIPまたはCIF契約以外の場合、どちらが負担するかを、契約書の「増加費用」の条項で決めておくと良いでしょう。

(3)国内保険と外航貨物海上保険の補償内容「外航貨物海上保険」のどの種類の保険が適しているかは、輸送するモノによって違います。

電子製品や家電製品などの製品類であれば、ICC(A)が適しているでしょうし、穀物などのバラ積み貨物であればICC(B)で良いでしょう。

水濡れしても大きな問題にならない木材、鉄鉱石、鉄屑などであれば、ICC(C)で十分かと思われます。

航空貨物の輸送リスクに対応したICC(Air)も、「外航貨物海上保険」の一つです。

貿易での物流リスクを回避するには、インコタームズの定型取引条件を選択する時に、「外航貨物海上保険」を付保する立場に立てるような定型取引条件を選択することがポイントです。

国内の運送保険をかける立場となる定型取引条件での契約をすると、自然災害に見舞われた時のリスクから逃れることができないからです。

どの定型取引条件を選択するかに関わらず、外航貨物海上保険は、貨物の引渡地点を保険の起点とするのではなく、自社工場・倉庫あるいはCFSを起点とすることをお勧めします。

(国内保険と外航貨物海上保険の補償内容)

自社工場・倉庫で輸送車両に貨物を積み込む場合、外航貨物海上保険は、貨物が輸送の目的で初めて動かされた時にスタートします。

外航貨物海上保険がCFSから開始する場合、貨物を積んだ輸送車両がCFSの門をくぐった時から保険がスタートすることになっています。

これは、国内運送保険や内航貨物海上保険(輸出FOB保険)でも同様です。

(4)売主・買主がかけるべき保険貿易貨物は、売主か買主、または両者がインコタームズの定型取引条件で決められている「貨物の引渡地点」を境目として、その前は売主が、その後は買主が保険をかけた状態で国際間を移動します。

FCAまたはCPTでの契約では、売主の工場や倉庫でバンニングしたり、トラックに積んだりする場合、買主が工場・倉庫を起点とする外航貨物海上保険をかけていれば、コンテナに貨物をバンニングする際に、貨物がフォークリフト等から落下して破損しても、買主が付保する外航貨物海上保険でカバーされるため、売主は「無保険」で構わないのですが、FCA・CPT契約では、買主は売主に対して、保険を掛ける義務は負っていないため、買主が保険をかけていなければ、売主も救済されないという問題点があります。

(売主・買主がかけるべき保険)

(貿易物流では売主・買主ともノーリスク)

4.保険のかけ方「予定保険」、「保険金額の算定」、「保険対象とならないケース」「保険料の割増」について解説します。

(1)予定保険損害保険会社に貨物の保険を申し込む場合、輸送がスタートする段階では、貨物の数量、保険金額、積載船名などの詳しい情報がまだ分かっていないことがあります。

特に輸入の場合は、売主からの船積情報は船積み後に来るのが一般的ですから、輸送が始まる前での保険契約ができないことが多いのです。

このような時に、船名が分からないまま、数量と金額を概算金額で保険申込みができるのが「予定保険」です。

予定保険は、取引ごとに申し込む「個別予定保険」(ProvisionalPolicy)と、一定期間内の全貨物を予定保険として扱う「包括予定保険」(OpenPolicy)があります。

取引の頻度次第でどちらかを選択します。

保険会社は、貨物の輸送が始まる前の段階で、保険付保の予約(予定保険)を受けつけ、貨物の輸送が始まってから、保険会社に連絡すると、予定保険を確定保険に切り替えてくれます。

(2)保険金額の算定保険金額とは、保険会社が1回の事故で損害の補償責任を負う最高限度額です。

通常、CIF金額またはCIP金額に10%相当の金額を加算した「CIF価額またはCIP価額」110%。

で保険金額を設定、しなまぜす110%なのかは、商慣習だとしか言いようがないのですが「取引が無事故」想定期待利益できた場合の。

保険金額は、あくまでも「上限」なので、必ずその金額で保険会社が賠償してくれるわけではありません。

(3)保険対象とならないケース保険会社は、次のような場合、保険支払に応じてくれません。

●青果物の腐敗等、貨物の性質や欠陥による損害●航海・輸送の遅延による損害●輸送に絶えきれない強度不足の包装、コンテナ内への積付不良による損害●輸送が開始される前に存在していた原因による損害●通常の輸送過程における水分の蒸発等に起因する重量不足による損害●原子力、放射能汚染危険、生物化学、生物、化学、電磁気兵器による損害

●通常の輸送過程にない保管中等におけるテロ危険による損害●別の貨物が被害に遭い、その影響で生じた危険による間接損害(4)保険料の割増貨物を輸送する船の船種・船齢・トン数・船級等の条件によって、保険料が割増になることがあります。

中でも、船齢16才以上の船舶に積載される貨物に保険が適用される場合、保険会社から老齢船割増料(OverageAdditionalPremium:.)の負担を求められます。

老齢船割増料は、船齢が16歳から20歳、21歳から25歳、26歳以上の順で増えていきます。

航海の安全度は船の加齢によって確実に減少するわけで、船齢と貨物の輸送安全度には、相当程度の関連性があることは明らかですから、保険会社が、船齢による保険上のリスクの大小を、保険料によって調整する老齢船割増は合理的と言えます。

海上輸送を手配する側は、輸送賃の多寡だけで使う船を決めがちですが、老齢船割増によるコスト増は無視できません。

EXW、FCA、CIP、FAS、FOB、CIFやDで始まる到着ベースの定型取引条件での契約であれば、海上輸送を手配する側と保険料を負担する側は同じなので、単にコストが増えた程度の認識で済むかもしれません。

しかし、海上輸送を手配する側と保険料を負担する側が互い違いになってしまうCPTとCFRでの契約では、老齢船割増による保険料の増加が、紛争の原因になる可能性があります。

契約書で、老齢船割増料の扱いについても、「増加費用」の条項で取り決めておくのが良いでしょう。

第六章 貿易決済の基礎知識貿易決済の方法には、代金を支払う側が、受け取る側に、金融機関を経由して支払う「順為替」決済(「並為替」・「平為替」とも言う)と、代金を受領する側が、金融機関を経由して、為替手形(BillofExchange:B/E)にB/L等の船積書類を付けた「荷為替手形」を使って、支払う側に取り立てにいく「逆為替」決済があります。

「逆為替」には、「信用状なしの荷為替手形決済」(D/P・D/A決済)と「信用状付きの荷為替手形決済」(L/C決済)があります。

1.送金「送金決済」は、最も多く利用されている方法です。

B/Lやインボイス、パッキングリストなどの船積書類は、銀行を通じないで、売主から買主に直接郵送されます。

(1)電信送金(TelegraphicTransfer:T/T)国際送金には、普通送金(MailTransfer:MT)と電信送金(TelegraphicTransfer:T/T)があります。

普通送金(M/T)は、郵送で送金処理が行われますから、相手方に資金が届くのに時間がかかってしまいます。

支払指示が即座に送られる電信送金(T/T)が、最も多く利用されています。

(2)「小切手」や「為替証書」(DemandDraft)を介した送金方法支払う側が、銀行や郵便局に代金を払って「小切手」や「為替証書」を発行してもらい、それを受け取る側に郵送し、受け取る側は、受領した「小切手」や「為替証書」を銀行や郵便局に呈示して、代金を受け取る方法です。

この方法のデメリットは、郵送時間がかるうえに、郵送途上で紛失するリスクがあることです。

そのため、小切手を介した送金決済は、貿易決済では余り行われていません。

2.D/P決済とD/A決済輸出代金決済のために、売主(売主)が振り出す為替手形(BillofExchange:B/E)に、B/Lなどの船積書類が添付されたものを「荷為替手形」と言います。

(D/P決済、D/A決済の正称・略称・契約書記載例)

(1)D/P・D/A決済の仕組み次にD/PとD/A決済の仕組みを解説します。

(D/P・D/A決済の仕組み)

①保険付保 契約後、船積時期になったら、売主は船積み前に保険を付保します。

インコタームズのどの定型取引条件を使って契約しているかで、売主がどの地点からどの地点まで保険をかけ、どの地点以降は買主が保険をかけるかが決まります。

輸送が始まってからでは、保険はかけられないことにご留意ください。

②保険証券発行保険会社から保険証券が発行されます。

③貨物船積み売主は、通常、フォワーダーに依頼して、輸出通関手続きと船積みを行います。

④B/L発行バラ積み貨物の場合、貨物が船会社に引き渡されて船積みされると、船会社からB/Lが発行されます。

コンテナ貨物の場合は、貨物がフォワーダー等の運送人に引き渡されると、受取船荷証券が発行され、受取船荷証券に船会社が「積み込み証明付記」(OnBoardNotation)を行うと、受取船荷証券は船積船荷証券として扱われるようになります。

船会社やフォワーダーに貨物を引き渡す際、貨物、包装、数量などに異常が認められたり、インボイスと齟齬があったりすれば、船会社から発行されるB/Lは、故障付船荷証券(FoulB/LまたはDirtyB/L)、()。

⑤取立依頼または買取依頼売主は、船積書類(ShippingDocuments)に、取立手形である「為替手形」を付して、取引銀行に「D/P(D/A)取立(買取)依頼書」を提出します。

この時、D/Pであれば、一覧払(atsight)の「為替手形」を、D/Aであれば、ユーザンス付きの「為替手形」を振り出します。

「一覧払」とは、「手形を呈示されたら、即支払う」という意味です。

「ユーザンス付き」とは、「支払猶予期間付き」です。

売主には、当然のことですが、ユーザンス期間中は、輸出代金の入金がありません。

そのため、ユーザンス期間中の利息をどうするかを、契約交渉の時に決めます。

ユーザンス金利は、通常買主負担ですが、金利部分を輸出価格込みとする方法もあります。

買主に金利を請求する時は、銀行に出す「D/A(D/P)買取/取立依頼書」に、その旨記載しておけば、銀行が買主から徴収してくれます。

銀行は、売主に対する与信枠があれば、その範囲内で書類の買取に応じてくれますが、与信枠がなかったり不足したりする場合は、取立依頼しか受け付けてくれません。

取立であれば、銀行にとって与信行為にならないからです。

銀行が荷為替手形を買い取った場合、数日のうちに売主の銀行口座に輸出代金が振り込まれます。

荷為替手形の買取を、日本語では「ネゴ」と言います。

英語のNegotiationからきています。

⑥船積書類と為替手形の買主側銀行への送達輸出地の銀行が売主から提出を受けた荷為替手形(船積書類+為替手形)は、買主側の取引銀行に送付されます。

⑦買主側銀行による買主への船積書類等の提示「D/P決済」であれば、買主側の銀行は、荷為替手形を買主に呈示します。

「D/A決済」の場合は、ユーザンス付きの「為替手形」と船積書類を、荷為替手形として買主に呈示します。

⑧買主による銀行への手形決済または手形引き受け「D/P決済」の場合、買主に荷為替手形の決済をさせると同時に、買主に対して、船積書類を引き渡します。

このように、銀行への決済と買主への書類の引渡が、同時に行われるのが「D/P決済」です。

「手形支払受書類渡」と言われる由縁はここにあります。

「D/A決済」の場合、買主は手形を引き受ける(手形支払を確約すること)旨の書類を銀行に提出すると、銀行は船積書類を買主に引き渡します。

いずれの場合も、買主が、銀行から入手する船積書類の中には、買主が船会社から貨物を引き取るためになくてはならないB/Lが含まれています。

⑨輸入側銀行から輸出側銀行への荷為替手形決済代金支払輸入側銀行は、買主が決済した貨物代金を輸出側の銀行に送金して支払います。

⑩輸出地の銀行から売主への貨物代金支払上記⑤で、取立依頼の場合、輸出地の銀行は売主に貨物代金を支払います。

⑪船会社へのB/L呈示買主は、船会社にB/Lを呈示します。

⑫買主の貨物引き取り買主は、貨物を引き取って輸入通関します。

⑬事故があれば保険求償輸送途中の事故などで、貨物に破損・滅失などが起きれば、買主は保険会社に求償します。

3.信用状付きの荷為替手形決済輸入側の銀行が支払保証をし、売主側にL/Cを開設して決済する方法を、「信用状付き荷為替手形決済」(DocumentaryLetterofCredit:L/C)と言います。

L/Cとは、買主の取引銀行が買主の依頼を受けて発行する、売主に対する支払保証状です。

具体的には、L/Cに記載されている荷為替手形が、L/Cに記載されている期限内に、L/Cの発行銀行に呈示されれば、代金の支払を確約したものです。

売主に対する買主の与信リスクを、L/Cの開設銀行が引き受けることになりますから、売主にとっては安心できる決済方法です。

売主が、記載されている船積期限までに船積みを実施し、買取書類提出期限内に、買取書類を銀行に提出すれば、船積みして数日で、買取銀行から輸出代金が入金されます。

L/Cが開設されれば、売主の同意がない限り、開設銀行はそれを取り消すことはできません。

つまり、L/Cが開設された時点で、売主は実質的に代金を確保できたことになり、「買主による一方的な契約破棄のリスク」もなくなることは、売主にとって安心なことです。

また、L/Cは、売買契約という実取引のための決済手段ですが、銀行にとっては、売買契約という実取引から独立した単独の金融取引です。

売買当事者間の実取引で、クレームなどの紛争が起きても、L/C決済がその影響を受けることはありません。

L/Cによる決済は、独立した金融取引として決済され、クレームなどの実取引での紛争は、銀行を介さず、売買当事者間で解決することになります。

この点も、売主にとって大きなメリットです。

ただ、L/C決済は、誰でもが利用できるわけではありません。

売主・買主ともに、取引銀行の与信審査に通らなければ、L/C決済はできません。

また、銀行は、売主が提出してきた荷為替手形が、L/Cに書かれている必要書類のとおりであることを、厳密にチェックし、不一致点があれば、齟齬(Discrepancy:ディスクレ)があるとして、銀行は買主の同意がない限り、代金を支払ってくれません。

売主は、L/Cに書かれているとおりの書類を作成、取り揃えることに細心の注意を払わなければなりません。

これには、ある程度の習熟が必要です。

一方、買主にとっては、L/C開設費用が割高なので、取引金額が数十万円程度の少額取引では、コスト倒れになります。

少なくとも、一回の取引の貨物価額が百数十万円以上でなければ、L/C決済はコスト的に選択肢に入らないでしょう。

買主にとっては、B/Lが銀行経由で来るため、契約した貨物が他人の手に渡ることなく、確実に確保できることがメリットです。

L/C決済は、売主・買主の双方にとって優れた決済方法で、同一企業グループに属していない企業同士、あるいは親子関係でない第三者間の取引では、安全で一般的な決済方法になっています。

L/C決済は、貿易では欠かすことのできない決済方法です。

(1)信用状決済の仕組み(荷為替信用状決済の仕組み)

①信用状開設依頼契約ができると、契約内容に基づいて、買主は自社の取引銀行に対して、L/Cを開設するように依頼します。

②銀行による買主に対する審査と与信の供与買主は、取引銀行が外国為替取扱銀行であるかどうかを、確認しておく必要があります。

L/Cを開設できるのは、外国為替取扱銀行のみです。

買主は、売主側と契約交渉を始める前に、取引銀行に対して、L/C決済で取引したい旨申し出て、与信審査を受けます。

L/Cとは、開設銀行が支払保証をする書状で、L/Cはいったん開設されると、一方的に取り消すことはできません。

これを取消不能のL/C(IrrevocableLetterofCredit)と言います。

銀行がL/Cを開いた後で、L/Cの有効期間中に、開設を依頼した業者(買主)が倒産したとします。

L/C開設銀行は、それでもいったん開設したL/Cを取り消すことはできません。

売主側が、L/Cに記載してある書類を銀行に出してくれば、支払保証をしていますから、払わざるを得ません。

ですから、L/C開設の依頼を受けた銀行は、買主に対して与信審査を行うのです。

創業後間もなくて、初年度の財務諸表さえまだない企業、経営状態や財務内容が良好でない企業などには、担保や保証人をつけない限り、与信枠の設定は無理でしょう。

日本からの輸出取引で、海外側の買主が「取引銀行の方で、L/Cを開かせてくれないのです!」などと言うのであれば、その企業は、取引銀行が与信を与えない企業の可能性があると見て良いでしょう。

取引先として注意を要すると判断すべきです。

③L/Cの発行買主が、L/Cを開設する銀行(OpeningBank、IssuingbankまたはEstablishingBank)に対して、L/C開設を依頼すると、銀行はあらかじめ設定した与信枠の範囲内であれば、売主を受益者(Beneficiary)とするL/Cを開設(Open、Issue、またはEstablish)します。

L/Cが開設されると、開設銀行は売主に近い場所にある自行と取引関係のある銀行(コルレス銀行という)、または売主の国にある本支店宛てに、L/Cを郵送または電信で送達します。

④信用状到着通知L/Cの送達を受けた銀行は、売主にL/Cが到着したことを通知します。

L/Cの到着を売主に通知する銀行を、通知銀行(AdvisingBank)と言います。

売主は、開設銀行と自社の取引銀行同士が取引関係にあれば、自社の取引銀行を通知銀行にすることを、契約時に買主との間で確認しておくのが良いでしょう。

開設銀行は、自社と取引関係にある輸出国の銀行か、輸出国における本支店を通知銀行にするので、その銀行が売主の取引銀行でないこともあり得ます。

売主の取引銀行でない銀行が、通知銀行として、売主にL/Cの到着を通知してきた場合、売主は通知銀行に通知料を払い、自社の取引銀行にL/Cを持って行って、L/Cの真贋の確認、開設銀行への紹介と確認をしてもらい、さらにL/Cとして輸出代金の支払に問題がないかどうかを確認してもらいます。

L/Cの真贋の確認と開設銀行への紹介と確認は有料となります。

開設銀行が、売主が指定する通知銀行と取引関係にない場合、開設銀行は、開設銀行と売主が指定する通知銀行の両方に取引関係がある銀行を探し、そこを経由して売主指定の銀行にL/Cが届くように手配します。

売主は、L/Cが到着したら、その内容を確認します。

確認するポイントは、L/Cに記載されている、売主が銀行に提出すべき必要書類が、全て船積みしてからすぐ揃えられるかどうかにあります。

通常、必要書類を銀行に提出すれば、数日以内に、売主の銀行口座に代金が振り込まれます。

L/Cに記載されている売主が用意すべき必要書類は、通常、「インボイス」、「パッキングリスト」、「原産地証明書」、「品質重量証明書」、「船荷証券(B/L)」、「船積通知書の写し」、「為替手形」などです。

⑤保険付保L/Cが到着し、L/Cに問題がなければ、船積準備に入りますが、その前に保険の手配をします。

インコタームズのどの定型取引条件を使って契約しているかで、どの地点からどの地点まで売主が保険をかけ、どの地点以降は買主が保険をかけるかが決まります。

輸送が始まってからでは、保険はかけられないことにご留意ください。

⑥保険証券発行売主が買主に対して保険をかける義務を負う定型取引条件(CIPまたはCIF)で契約していれば、売主が銀行に出す船積書類には、保険証券を含むことになります。

売主がかけた保険は、売主が保険証券に裏書したうえで、銀行を通じて、他の船積書類とともに買主の手に渡ります。

売主は、貨物の買主への引渡前に事故に遭えば、自らがかけた保険で損害を求償し、貨物が買主に引き渡されて以降に、貨物が事故に遭えば、買主は、銀行経由で送られてきた保険証券で、保険会社に求償することになります。

⑦貨物船積み保険を付保したら、次は貨物の船積みです。

売主は、通常、フォワーダーに依頼して、輸出通関手続きと船積みを行います。

⑧B/Lの発行バラ積み貨物の場合、貨物が船会社に引き渡されて船積みされると、船会社からB/Lが発行されます。

コンテナ貨物の場合は、貨物がフォワーダー等の運送人に引き渡されると、受取船荷証券が発行され、受取船荷証券に船会社が「積み込み証明付記」(OnBoardNotation)を行うと、受取船荷証券は船積船荷証券として扱われます。

船会社やフォワーダーに貨物を引き渡す際、貨物、包装、数量などに異常が認められたり、インボイスと齟齬があったりすれば、船会社から発行されるB/Lは、故障付船荷証券(FoulB/LまたはDirtyB/L)になりますから、必ず無故障船荷証券(CleanB/L)が発行されるように貨物を整えましょう。

フォワーダーや船会社等の運送人に貨物を引き渡す際、貨物、包装、数量などに異常が認められたり、インボイスと齟齬があったりすると、フォワーダーや船会社等の運送人は、B/Lに、「Remarks」(所見)または「Notation」(注釈)を記載して、不正常な状況であることを書き込みます。

このような記載のあるB/Lを、「故障付船荷証券(FoulB/LまたはDirtyB/L)」。

、「()」。

L/C決済では、「故障付船荷証券(FoulB/LまたはDirtyB/L)」の場合、銀行は支払に応じませんから、必ず「無故障船荷証券(CleanB/L)」が発行されるよう、インボイスどおりに、貨物、包装、数量などを用意しなければなりません。

「故障付船荷証券」でなく、「無故障船荷証券(CleanB/L)」を発行してもらうためには、貨物に多少の問題があっても、売主が船会社に対して、L/I(LetterofIndemnity)を差し入れ、一切の責任は売主が持つ条件で、「無故障船荷証

券」を発行してもらう方法はあります。

しかし、不正常な貨物であれば、買主との間で紛争が起きるリスクがありますから、やはり正常な貨物の状況を整えて、正攻法で「無故障船荷証券(CleanB/L)」が発行されるようにすべきです。

空輸の場合、航空会社は、B/Lでなく航空貨物運送上(AWB)を発行します。

⑨買取依頼売主は、船積船荷証券(「ShippedB/L」または「OnBoardB/L」)を含む荷為替手形を銀行に提出して買取を依頼します。

「買取書類」は、「船積書類」に取立手形である為替手形を加えた荷為替手形で、銀行の立場から、あたかも書類に問題がなければ貨物代金を支払う形になるため、書類の「買取」と呼ばれています。

⑩輸出代金の振り込みL/Cで要求されている書類と、売主が銀行に呈示した買取書類に齟齬(Discrepancy:ディスクレ)がなく、船積期限と買取書類の提出期限にも問題がなければ、買取銀行は、売主に対してL/Cに記載されている輸出代金を、数日のうちに振り込んで支払います。

つまり、売主は、船積み後数日で、輸出代金の入金を確認できます。

売主にとって、ディスクレさえ起こさなければ、L/Cは極めて安全な決済方法です。

⑪手形等書類の信用状開設銀行への送達とTTReimbursement輸出地の銀行が買い取った買取書類は、輸入地の開設銀行に回付されます。

買取銀行は、売主に輸出代金を払って、その代金をL/Cの開設銀行に補償するように請求しますが、L/Cに「TTReimbursementisacceptable」(テレトランスミッション補償受諾)の文言があると、買取銀行と開設銀行間の決済が電送で行われます。

電送で補償されれば、買取銀行での金利負担は発生せず、売主に金利が請求されることもありません。

しかし、L/Cに、「TTReimbursementisprohibited」(テレトランスミッション補償禁止)と書かれていると、買取銀行は、郵送で資金補償要求を行いますから、郵送期間中の金利が発生し、それは売主に「MailDaysInterest」(郵便日数立替金利)として請求されます。

ICCのUCP600では、「TTReimbursementisacceptable」(テレトランスミッション補償受諾)の文言が記載されていなくても、銀行間ではTTで補償されることになっています。

L/Cに「TTReimbursementisacceptable」(テレトランスミッション補償受諾)の文言がない場合、L/CがUCP600に基づくものであることを確認したうえで、銀行に確認を求めることをお勧めします。

自社が売主の場合、契約書の決済欄に「TTReimbursementisacceptable」の文言を挿入しておくと良いでしょう。

⑫開設銀行による買主への手形等書類の呈示開設銀行は、買主に船積書類と為替手形を呈示します。

⑬手形決済買主は、荷為替手形の呈示を受けると、取立手形である為替手形に対する決済を行います。

手形決済と同時に、銀行は買主にB/Lを含む船積書類を渡します。

⑭B/L呈示買主は、船会社にB/Lを呈示します。

⑮貨物の引き取りB/Lを呈示すると、船会社は買主に貨物を引き渡し、買主は輸入通関を行います。

買主は、L/C決済によって、極めて安全に、自社宛てに輸送されてきた貨物を確保することができるのです。

⑯開設銀行による買取銀行への代金支払開設銀行は、買取銀行に代金を送金します。

⑰事故があれば保険求償貨物のリスクが買主にある区間での事故などで、貨物に破損、滅失などが起きていれば、買主は保険会社に求償します。

⑱保険金受領買主は、保険会社から保険金を受領します。

(2)回転信用状(RevolvingL/C)同じ取引先と、かなりな頻度で、同じ商品の取引をする場合、回転信用状(リボルビングエルシー:。

一ヶ月間に何回かに分けて行う取引の総額を、多少余裕を持って、回転信用状の上限金額として設定します。

一回の取引が終了して決済されると、回転信用状の残額がその分だけ減って、次の取引では、その残額の中から支払が行われます。

そうして月が替わったら、回転信用状の金額は最初の金額に自動的に戻るように設定します。

回転信用状のメリットは、売主にとっては、最初に一度だけ、L/Cのチェックをやれば、あとは同じL/Cを使っていくため、チェックのための手間暇が省けることです。

また、買主にとってのメリットは、その都度L/Cを開くのに比べると、L/C開設手数料が相対的に安くつきます。

回転信用状は、同じ取引先と同じ商品を、頻繁に取引する際に使うと非常に便利です。

4.国際ファクタリング貿易の決済方法は、主として、T/T送金、D/P・D/A決済、L/C決済ですが、それらの他に、国際ファクタリング(InternationalFactoring)の方法があります。

(1)国際ファクタリングの仕組み日本では、ほとんどの大手の銀行がファクタリングを行う会社を子会社として設立したり、社内にファクタリングの部門を設けたりしています。

こうしたファクタリング業務を行う会社を「ファクター」(Factor)と呼びます。

国際ファクタリングとは、輸出国のファクターが、輸出企業の輸出売掛債権を買い取り、輸入国のファクター会社と連携して、輸入企業から代金を回収する金融業務です。

国際ファクタリングのメリットは、輸出での売主の売掛リスクを、輸入国の提携ファクターが管理して、代金を回収してくれることです。

船積書類の作成などのドキュメンテーションの範囲は、買主が輸入するために必要な書類を取り揃える範囲に限定されることで、契約を履行する際の貿易実務負担が大きく軽減されることは、売主にとってのメリットです。

世界各国のファクターは、「Factors」ChainInt「rnまtiたnaは」FactorInternationalGroup。

のいずれか、世界的にも参加しています、国際ファクタリング。

務を行う仕組みが(2)国際ファクタリングの利用方法国際ファクタリングでは、ファクターが買主企業の信用リスクを負担しますから、買主企業が倒産したり、支払不能になったりした場合でも、輸出国のファクターは、売主の売掛債権を買い取る義務があります。

通常であれば、国際ビジネスでの売掛など、売主としては絶対に行ってはいけないところですが、この国際ファクタリングを活用すれば、ファクターに信用リスクをヘッジできます。

(国際ファクタリングの仕組み)

①与信枠と与信期間の設定依頼売主は、日本のファクターに、買主に対する与信枠と与信期間(通常は180日以内)を設定するように依頼します。

②買主に対する信用保証依頼日本のファクターは、提携関係にある輸入国のファクターに、買主に対する信用保証を依頼します。

③買主に対する信用調査輸入国のファクターは、買主の信用状況を調査します。

通常、信用調査費は1万円程度で、売主の負担となります。

④買主に対する信用保証枠と期間を通知輸入国の提携ファクターは、日本側のファクターに対して、信用保証をする与信枠と与信期間を通知します。

⑤信用保証枠と期間を売主に通知日本のファクターは、信用保証枠と保証期間を、売主に連絡します。

保証料は、1ヶ月単位で発生しますが、おおよそインボイス金額の1%弱から2%くらいでしょう。

⑥国際ファクタリングの利用を通知売主は、買主に対して、国際ファクタリングを利用する旨連絡し、買主の同意を得ます。

⑦商談・売買契約締結売主と買主は、商談を経て売買契約を締結します。

⑧貨物の船積み売主は船積みを実施します。

⑨B/Lの発行船会社は、船積みが完了するとB/Lを発行します。

⑩船積書類の直送売主は船積書類を買主に直送します。

⑪船積書類のコピー送付

売主は、船積書類のコピーをファクターに送ります。

⑫買主の代金支払買主は、支払期日までに、輸入国のファクターに貨物代金を支払います。

⑬海外提携ファクターから日本のファクターに貨物代金送金海外提携ファクターから日本のファクターに、貨物代金が送金されます。

⑭日本のファクターから売主への代金支払日本のファクターは、売主に対して、インボイス金額の100%の金額を売主に支払います。

あるいは、輸出国のファクターは、ユーザンス期間中に、売主の求めに応じて、輸出債権を割り引いて買い取ることも可能です。

⑮買主はB/Lを呈示買主は、送られてきたB/Lを船会社に呈示します。

⑯貨物受領買主は、B/Lと引き換えに船会社から貨物を受け取ります。

第七章 決済リスク決済リスクは、物流リスクと並んで、貿易取引の中で最もリスクの高い部分です。

貿易決済の方法については、前章の「貿易決済の基礎知識」で学びましたが、それぞれの決済方法のメリットとデメリットを認識して、リスクのない決済方法やリスクの少ない決済方法を選ぶことが肝要です。

そしてリスクの高い決済方法であれば、必ず経済産業省傘下の株式会社日本貿易保険(NipponExportandInvestmentInsurance:NEXI)、「」。

、。

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、「」。

1.貨物代金を取りはぐれ貿易で貨物代金を回収できなくなった時は、どうすれば良いのでしょうか?(1)泣き寝入りして諦める体力のある大企業でなければ、ズバリ! 「泣き寝入り」が最善の方法です。

代金を取りはぐれて、それを回収できる唯一の方法は、相手に支払能力があって、支払う気になった時だけです。

国際間では、体力のある企業以外では、相手に確実に払わせる方法も、相手に強制的に支払わせる方法さえもありません。

もがけばもがくほど費用がかさんで、「損の上塗り」になります。

「泣き寝入りして諦める」のがベストです。

(2)裁判で解決裁判はどうでしょうか? 日本側が売主で、日本で裁判所に訴えて、日本側が勝訴した場合、係争相手の資産が日本にあれば、それを差し押さえて強制執行できます。

しかし、相手の資産が日本にない場合、相手国で強制執行できるかどうかは、国によって違います。

少なくとも新興国で強制執行できる国はほとんどありません。

相手国で裁判を起こして勝てば、相手国で強制執行することはできます。

しかし、新興国では、あからさまに自国企業に有利な裁定をします。

勝訴することが期待できないのです。

(3)商事仲裁で解決裁判がダメなら、民間の裁判所である商事仲裁組織による仲裁はどうでしょうか?商事仲裁は、ニューヨーク条約加盟国同士の企業であれば、仕組みとしては強制執行できるとされています。

しかし、現実には、特に新興国の企業との紛争では、強制執行拒絶のケースが数多くあります。

商事仲裁も最善な方策とは言えません。

(4)裁判も仲裁もカネがかかるところで、裁判にせよ商事仲裁にせよ、もう一つ大事なことがあります。

それは、どちらもかなりカネと時間がかかることです。

弁護士費用や仲裁裁定員の費用負担、紛争解決にかかる長い時間、そうして得られる結果を考えると、体力のある大企業は別として、ほとんどの企業にとって、裁判も仲裁も単なる「損の上塗り」になる選択肢でしかありません。

裁判や商事仲裁で争えば、弁護士費用も含めて、普通に数百万円単位の、それも次の桁に近い費用がかかります。

大企業でなければ、そうした費用負担に堪えられないでしょう。

次に掲げるのは、国際商業会議所の仲裁にかけた場合に、おおよそ必要な費用です。

係争金額15万ドルで、裁定員3人を立てて仲裁してもらい、首尾よく係争金額満額の回収に成功しても、62%は仲裁にかかる費用で持って行かれてしまいます。

手元に残るのは38%だけです。

一般的に、係争金額が100万ドル以下では、仲裁に訴えても割に合わないと言われています。

(国際商業会議所による仲裁費用の計算例)

*裁定費用中に、係争金額100万ドル未満は5万ドル、係争金額100万ドル以上は10万ドルの弁護士費用を加算して計算。

(5)話し合いで解決億単位の商売であれば、コストと時間をかけて、裁判や仲裁で相手と闘う価値があるかもしれません。

しかし、それほど金額の張らない取引であれば、話し合いで解決するのが一番です。

話し合いであれば、第三者に余分な金を払う必要がありませんから、弁護士や仲裁員の費用を負担したと思って、相手とある程度の痛み分けで決着する方が利口でしょう。

つまり、話し合い解決が、最も安上がりの解決法です。

ただし、これも相手に支払う能力と意思のあることが大前提で、それがなければ、「泣き寝入り」がベストということになります。

代金の取りはぐれが起きた場合のことを心配するよりも、取りはぐれない決済方法を選択し、取りはぐれる危険のある決済方法の場合は、貿易保険へのリスクヘッジができれば契約を行い、貿易保険へのリスクヘッジができなければ、契約しないことにします。

貿易で最もリスクの高い決済で、果敢に無謀にリスクを張ることは、お勧めできません。

2.送金決済のリスクとそのヘッジ方法送金決済は、何と言っても、手続きが簡便で、決済が迅速に完了することです。

送金の根拠となる契約書などがあれば、「外国送金依頼書」に記入するだけです。

大手の銀行であれば、インターネットを通じて、ウェブ上から銀行に送金依頼することができます。

L/C決済やD/P・D/A決済に比べて、決済実務面での負担が大きく軽減されることはメリットです。

しかし、送金には、メリットがある反面、リスクもある点を直視しなければなりません。

(1)前払送金と後払送金買主が、船積みより前に、貨物代金の一部または全額を、売主に支払うのが、前払い決済(AdvancedPayment)です。

この場合、売主が貨物を出荷しなければ、買主は丸損を被りますから、前払送金した時点で買主にリスクが生じます。

売主が船積みした後で、買主が貨物代金の一部または全額を支払うのが、後払い決済(DeferredPayment)です。

この場合、買主が貨物を出荷した後に、買主が支払わなければ、売主は貨物をタダで提供した結果になります。

(2)貿易ではあり得ない「月末締め翌々月送金受領」条件「月末締め翌々月送金受領」条件で、輸出している企業が少なくありません。

このため、「相手が代金を送金してこない」という相談が絶えません。

このような売掛での輸出は、「信義則」を前提とする国内取引では、どこの国でも標準的な決済方法になっています。

しかし、貿易では本来あり得ない決済条件です。

取りはぐれが起きた場合、買主側に強制的に代金を支払わせる、関連法令や司法機関等のビジネスインフラは、国内取引ではどの国にも揃っています。

しかし、国際間では、商事仲裁の仕組みを利用できる、体力のある大企業は別にして、その他の企業にとっては、買主に対して強制的に代金を支払わせるビジネスインフラは、現実には存在していません。

「月末締め翌々月送金受領」などと言う海外バイヤーがいたら、貿易知識を欠く不見識な人だと疑うべきです。

(3)蔓延する「一部は前払送金、残金は後払送金」「前払送金は買主にはリスクが高く、後払送金は売主にとってリスクが高い」となると、貨物代金の「60%は船積み前に送金支払、残金40%は着荷後に送金支払」や、「90%は船積み前に送金支払、残金10%は着荷後に送金支払」のように、代金の「一部を前払送金し、残金は貨物が輸入地に到着した後、後払送金してくる」というように、前払送金と後払送金を併用することで、お互いの妥協点を見出すのが一般的です。

ただ、この決済条件には、次の二つの重大な問題があります。

①前払送金のタイミング次第で生じる契約破棄のリスク前払送金部分が入金する前の段階で、輸出する商品の製造や調達に着手した場合、相手から契約破棄の通告がくれば、製造や調達のために費やした費用や買い込んだ原材料などが無駄になるかもしれません。

これが、「契約破棄のリスク」です。

「契約破棄のリスク」を防止するには、前払送金を受領してから船積みするまでに必要なリードタイムを十分考慮して、船積時期を決めるようにします。

あるいは、契約書で、「船積時期は、前払送金の入金を売主が確認した後、○●日

以内とする」(Shipmentshallbemadewithin○●「○●」、。

、「」。

、「」。

②後払送金部分で買主が握る最終価格決定権もう一つの問題は、残金の後払送金の部分についてです。

貿易は、売主と買主が合意した価格で売買が行われます。

しかし、残金の後払送金部分があることで、買主が最終価格決定権を握ることになりかねません。

理由は、何とでも言えるでしょう。

「到着した貨物を検品したが、品質が良くない」という理由で、買主が一方的に後払送金部分の金額を減額して送金してくる、あるいはまったく送金してこないということが起こり得ます。

実際、「後払送金部分を送金してこない」という相談は、かなりあるのです。

相手が送金してこなければ、打つ手はありません。

せいぜい、次の契約には応じないくらいしか、対抗策はないでしょう。

「泣き寝入り」だけが、それ以上の損を出さない最善の方法になってしまいます。

貿易は、「確定した価格」で取引するものです。

後払送金部分を設けることによって、取引価格が未確定状態にあることと同じ結果になってしまいます。

これは、売主にとって「何のために輸出しているのか」と疑問符がつくほど、不利なことです。

送金してこない理由が、貨物の品質に難があるということであれば、これも「貿易の基本」を踏み外す、由々しき問題です。

貿易では、「貨物代金は契約どおりの金額で100%決済を行って売主に支払い、貨物の品質などに問題があるのであれば、それは別途クレームという形で買主から売主に提起し、売主と買主の双方が協議のうえ、その解決方法を決める」のです。

貨物代金の支払とクレームは別物です。

これも「貿易の基本」です。

後払送金では、実質的に、最終価格決定権を買主に与える結果になりがちですが、それをさせない方法があります。

それは、契約書で次に掲げるような「相殺の禁止」と「延滞金利」の二つの条項を入れる方法です。

(記載例)相殺の禁止:、、、、、。

、。

延滞金利:、買主が支払期日までに商品代金を支払わなかった、支払期日から実際の支払日までの未払金額に対し、年率25.0%で計算した延滞金または適用される法、でい許ず容れさかれ低るい最利大率利で率計の算。

売主に支払うものとする、この延滞金利および商、売主の要求があり次第。

(4)第三者同士の取引で出荷後送金支払条件は不可送金決済は、本来、親会社と子会社間などの身内同士の取引であれば、何の問題もありません。

しかし、第三者同士の取引では、リスクの高い決済方法ですから、特に輸出取引の場合、売主としては、出荷後送金支払条件で取引してはなりません。

他社にない代替のきかない商品で、継続的に売れる商品であれば、前の取引の代金を買主が送金してこなければ、次の取引には応じないやり方で、売主は決済リスクを一定額の範囲内に抑えることは可能です。

ただ、売主との取引を手仕舞いしようとする意図を持つ買主であれば、最後にかなり多い数量を、代金後払いで輸入しておいて、その代金を送金してこないということは、十分起こり得ることです。

リスクのある決済方法で取引していれば、そのリスクは何時か必ず

牙を剥きます。

第三者同士の取引で出荷後送金支払条件は、リスクが高いことを認識しておきましょう。

(5)送金決済のリスクヘッジ方法船積み後の後払送金リスクを回避するにはどうすれば良いのでしょうか? ①貨物代金100%入金後のB/L送付船積み後の後払送金部分がある決済条件の場合、契約書で、「売主は、輸出代金の100%入金を確認後、直ちにB/Lを買主に送付する」と規定します。

船会社は、B/Lの呈示がない限り、貨物を引き渡さないので、B/Lが担保となって、買主の売主に対する送金を動機づけます。

買主は貨物が欲しい限り、船積み後すぐに送金してこざるを得ません。

この方法で、買主が後払送金してこないリスクはかなり軽減できるでしょう。

また、この決済方法は、買主が前払送金したのに、売主が貨物を輸出してこないという買主側のリスクを解消するためにも有効です。

この方法で取引するには、あらかじめ契約時に、相手と合意しておく必要があります。

②船積み後一定期間経過してからの後払送金リスク「船積み後90日以内の送金条件」で契約すれば、売主がB/Lを手元にホールドしておくわけにはいきません。

売主は、船積みの後、B/Lを買主に送付し、買主が船会社から貨物を引き取った後に、送金時期がくることになるでしょう。

この決済方法では、B/Lを担保として、買主に送金を動機づけることができません。

この場合、NEXI(日本貿易保険)の貿易保険にリスクヘッジできるのであれば、契約しても構いませんが、NEXIが貿易保険を引き受けてくれないのであれば、決済リスクのヘッジができませんから、この取引は契約してはなりません。

危惧することは、必ず現実のものになるものです。

3.D/P・D/A決済のリスクとそのヘッジ方法D/P・D/A決済のメリットは、買主にとって、比較的安価なコストで決済できることです。

しかし、売主にはリスクが潜んでいます。

(1)銀行に支払保証義務はないD/P・D/A決済で、買主側の銀行が果たす役割は、売主の取引銀行から送られてきた為替手形を買主に引き渡すこと、買主に為替手形に対して決済させたり(D/Pの場合)、あるいは為替手形を引き受けさせたり(D/Aの場合)すること、回収した代金を売主の取引銀行に送金すること、買主が倒産したり不払いしたりすれば、そのことを売主の銀行に連絡することなどです。

売主側の取引銀行は、買取方式では、荷為替手形を売主から買い取って、売主に代金を支払いますが、それでも、何らかの事情で、買主側の銀行が買主から代金回収できなければ、売主の取引銀行は、売主に支払い済みの貨物代金を返還するように要求してきます。

D/P・D/A決済では、銀行は何の支払保証もしませんから、買主の会社が倒産すれば、買主の取引銀行は、売主の銀行を通じて、買主が倒産したことを伝えてくるだけです。

荷為替手形が買主側の銀行に到着しても、買主が代金は払わないし、船積書類も要らないと言えば、売主は、銀行にお願いして船積書類を戻してもらい、フォワーダーに頼んで、貨物を引き戻すことになるでしょう。

相場商品で、契約した時点よりも相場が下がっていて、貨物を引き取れば損失が発生するような場面では、買主の意志次第で、このようなことが起きます。

D/P・D/A決済では、銀行は買主への代金取立の依頼は受けても、支払いたくない、支払わないと買主が言うのであれば、その意向に反して、買主から取り立てる義務はありません。

D/P・D/A決済は、売主にとってリスクの高い決済方法です。

(2)D/PよりD/Aの方がリスクは高いD/P決済の場合、決済と書類の引渡しが同時に行われますから、買主が貨物引取の意志がある限り、通常は問題が起こらないと考えて良いでしょう。

しかし、D/A決済では、買主は、ユーザンス付きの手形に対して、支払を確約すれば、銀行は船積書類を買主に渡し、貨物を引き取って輸入通関してしまいます。

その後、ユーザンス期間中に買主の会社が倒産すれば、貨物を引き戻す方法はありませんし、商品代金も回収できません。

売主にとって、D/A決済は、D/P決済よりもさらにリスクが高いのです。

通常、第三者同士の取引で、D/A決済で契約することは避けるべきです。

(3)スタンドバイL/Cの開設D/P・D/Aでの決済は、リスクが高いことから、D/P・D/A決済で契約する際に、買主に対して「スタンドバイL/C」(StandbyL/C)も開設するように売主が求めることがあります。

スタンドバイL/Cとは、D/PやD/Aで輸出代金が支払われなかった場合に、有効となるL/Cのことです。

第三者同士の企業の取引で、D/P・D/A決済、特にD/A決済で取引するのはリスクが高いことから、代金が支払われなかった時のために、念のためスタンドバイL/Cの開設を契約で義務付けます。

ただ、この方法の問題点は、スタンドバイ

L/Cの開設料です。

これが高ければ、買主は嫌がるでしょうし、買主がスタンドバイL/Cは開かないと言うのであれば、D/P決済やD/A決済のリスクは、貿易保険にヘッジするしかありません。

(4)貿易保険へのリスクヘッジNEXIの「中小企業・農林水産業輸出代金」、「輸出手形保険」などを付保し、D/P・D/A決済で、荷為替手形が決済されないリスクをヘッジします。

第三者間の取引で、NEXIの貿易保険にリスクヘッジできない場合、取引契約の締結は見送りとします。

グループ企業同士、親子関係の企業同士であれば、問題が起きても、企業同士の話し合いで解決できる可能性が高いでしょうから、D/P・D/A決済でも問題はないでしょう。

4.信用状決済のリスクとそのヘッジ方法信用状決済は、最も安全な決済方法と言われ、主として第三者同士の取引で利用されてきています。

しかし、信用状決済にも幾つかのリスクがあります。

(1)信用状開設銀行倒産のリスクL/C決済では、開設銀行が売主に対して支払保証をしますから、売主にとっては安心です。

開設銀行は、買主の与信リスクを負担してくれるのです。

しかし、L/Cの開設銀行が倒産してしまえば、支払保証の意味がなくなります。

倒産の危険が少ない一流銀行が開設するL/Cであれば安心ですが、すべての企業が一流銀行と取引できるものでもありません。

現実的には、L/C開設銀行の倒産はL/C決済のリスクとして認識しておき、倒産の危険のある銀行からL/Cを開いてくるのであれば、そのリスクを回避するように必要な手立てを講じます。

①確認信用状(ConfirmedL/C)L/C開設銀行倒産のリスクに巻き込まれないようにするには、売主は、買主との契約交渉の際、L/Cの開設予定銀行を確認し、その情報をもとに、売主の取引銀行である買取予定銀行に対して、L/C開設銀行として問題がないかどうかを確認します。

買取銀行が買取を拒絶するような銀行が、L/Cを開設するのであれば、買主に対して、他の一流銀行に支払を連帯保証させるように要求します。

この連帯保証付きのL/Cを「確認信用状」(ConfirmedL/C)と呼びます。

ただし、連帯保証をする銀行は、保証料を取りますから、買主のコストはその分増えます。

買取銀行は、確認信用状であれば、買取を拒絶する理由がなくなります。

②サイレントコンファーム(SilentConfirm)買主が確認信用状を手配できない場合、「サイレントコンファーム(SilentConfirm)」の方法があります。

サイレントコンファームとは、L/C発行銀行や買主に知らしめることなく、売主が取引銀行に保証してもらう方法です。

保証料は依頼主である売主が負担します。

③輸出手形保険NEXIの輸出手形保険に、リスクをヘッジする方法です。

この保険は、買取銀行が買い取った荷為替手形が、最終的に不払いになって、買取銀行が損失を被っても、NEXIが買取銀行に対して、損失額の95%を保険金で支払って、銀行の損失を補填します。

銀行は、荷為替手形を買い取って、買主に支払い済みの貨物代金の5%相当額を、銀行にリファンドさせますから、結果的に、銀行の損失はゼロとなります。

売主の損失は銀行に戻入する5%だけです。

通常、5%程度の利益は見込んで取引をするでしょうから、売主側でも、コストを割り込むような実損はほぼ生じないことになります。

輸出手形保険は、買取銀行がNEXIと契約し、保険料は売主が負担します。

買主が、確認信用状(ConfirmedL/C)の開設に同意せず、買取予定の銀行もサイレントコンファームを拒絶し、NEXIが輸出手形保険の付保を拒絶したり、他の貿易保険の付保を拒絶したりするのであれば、リスク回避策はありません。

この場合、売買契約の締結を諦めます。

リスクを冒してまで、無理して取引することはありません。

(2)ディスクレのリスク

通常、L/Cで要求されることは、①船積有効期限以前の日付を発行日とするB/Lが船積書類の一つとして含まれていること、②インボイス、パッキングリストなど、L/Cに記載されているとおりの船積書類であること、③前述の船積書類を含む荷為替手形が、L/Cの有効期限内に買取銀行に呈示されること、です。

これらの条件を満たしていない、あるいはこの条件に一致しないことを、ディスクレ(discrepancy)と言います。

ディスクレがある場合、L/C発行銀行の支払保証は無効となり、買主がディスクレを応諾しない限り、銀行は支払を拒否(Unpaidと言う)します。

つまり、ディスクレがあると、開設銀行が支払保障をしてくれるのが、売主にとって、L/Cのメリットだったのに、買主が同意しなければ払われなくなってしまいます。

L/C決済なのに、実質的にD/P決済と変わらなくなってしまいます。

売主が買取銀行に提出した書類が、L/Cに書かれている諸条件と完全に一致していれば、L/C発行銀行は確約どおり、支払を実行しなければなりません。

①L/Cのアメンド船積み前にL/Cの記載内容では、ディスクレが起きてしまうことがあらかじめ分かっている場合、売主は買主に対してL/Cをアメンド(修正)させます。

アメンドされたことを確認するまで、船積みしてはいけません。

買主によっては、ディスクレを理由に支払を拒絶して、貨物を引き取らなかったり、値下げした価格でアメンドするから、それを売主が受諾すれば、支払に応じると回答してきたりすることがあります。

中には、L/Cに、「FullsetB/L」を買取銀行に提出するように記載してある一方で、「1/3B/Lを直送」などという、誰がどうやってもディスクレが生じてしまう、自己矛盾を内包しているL/Cもあります。

L/Cの記載内容は仔細にチェックしましょう。

また、買主の「要求どおり、アメンドした」というだけの連絡をもらって、船積みしてはなりませんし、開設銀行へのアメンド依頼書のコピーがファックスやメール添付のpdfファイルで送られてきても、船積みしてはいけません。

銀行から「買主のアメンドを承諾するかどうか」の確認が来てから、それを応諾して、船積を実行するようにしてください。

買主によっては、アメンドしていないのに「アメンドした」と連絡してきたり、銀行にアメンド依頼書を出したあと、それを撤回していたりすることがあります。

相手を信用するのでなく、確実にアメンドされたという事実を自らが確認したうえで、船積みしなければなりません。

アメンドは、ディスクレが起きる原因を解消して、不払リスクを撲滅する、もっとも確実な方法です。

②書類差し替え買取銀行からディスクレを指摘された場合、どうすれば良いでしょうか? 例えば、L/Cで要求されている書類の一つに、「Commercial」InvoiCe。

と記載して、「たとします」CommercialInvoice。

のタイ、しかし、売主が「銀行に」CommercialInvoice、のタイトルの書類を出。

ディスクレとなります、「」Commercial、InvoiCe、と書かれた書類を提出し。

先の書類と差し替えれば、ディスクレは解消します。

③ケーブルネゴインボイスの綴りが多少違う程度であれば、売主は再度書類を作り直して、差し替えれば済みますが、そう簡単に作り直せない書類でディスクレが生じた場合、買取銀行を通じて、発行銀行に対してディスクレの内容を連絡し、買取に応諾して良いかどうかを、SWIFT(Society:forWorldwideInterbankFinancialTelecommunication、、。

、「」。

④アプルーバル扱い輸出地の銀行が買取も、ケーブルネゴもしないで、買取書類を開設銀行に送ります。

開設銀行が、買取書類をチェックのうえ、ディスクレを承諾して、買取銀行に支払を行い、買取銀行が売主に対して支払を実行する方法が、「アプルーバル(Approval)扱い」または「取立扱い」です。

⑤L/Gネゴ

「開設銀行が買取銀行への支払を拒否した場合、売主は輸出代金を買取銀行に弁済する」旨の「損害賠償念書」(LetterofGuarantee:L/G、またはLetterofIndemnity:L/I)を、売主が買取銀行に提出して、買い取ってもらう方法もあります。

この方法を「L/Gネゴ」(L/GNegotiation)と言います。

ディスクレが軽微な内容の場合に行われますが、発行銀行がディスクレを承諾せず、買取銀行に支払わなかった場合、買取銀行は売主に支払済みの代金をリファンドしてもらう必要が生じます。

売主にはリファンドできる余力が必要ですので、買取銀行が、L/G扱いに同意するかどうかは、買取銀行の売主に対する与信枠にかかっています。

⑥ディスクレ理由のアンペイド買主がディスクレを理由に支払拒絶(Unpaid)をすると、銀行は、貨物受領に必要なB/Lを買主に渡さないため、買主は貨物が欲しい限りは、ディスクレを承諾せざるを得ません。

しかし、契約した時から市況が大きく変化していて、買主が貨物を引き取ると損失を被るような状況であれば、買主が貨物引取を拒絶することもあり得ます。

貨物はすでに船積みされて出航しているでしょうし、輸入港に到着しているかもしれません。

その場合、売主は、貨物をシップバック(ShipBack)しなければならなくなり、売主に損失が発生します。

船積書類を揃える(ドキュメンテーションと言います)際、L/Cで要求された全ての書類でディスクレを起こさないように、細心の注意を必要とします。

売主にとって、L/C決済で最も神経を使うのがこのドキュメンテーション作業です。

(3)B/Lの危機への対応近隣国同士の貿易で、L/C決済やD/P・D/A決済のように、荷為替手形が伴う決済方式の場合、本船が出航してから数日で、輸入国の仕向地(港)に貨物が到着してしまいます。

L/C決済やD/P・D/A決済で、船積書類が輸出地の銀行を経由して買主の銀行に到着するには、通常一週間程度の時間がかかります。

買主側は、貨物が到着しているのに、B/Lが到着していないので、輸入通関手続ができないばかりか、港での保管料が発生することがあります。

買主にとっては、コスト増になる事態で、これを「B/Lの危機(B/LCrisis)」と言います。

海上輸送の迅速化によって、近年、B/Lの危機の発生が恒常的になってきたこともあり、貿易業界ではさまざまな対応策が取られています。

①B/Lなしで貨物を引き取るオーソドックスな方法買主が、買主の取引銀行と連帯保証をした保証状(LetterofGuarantee:L/G)を船会社に差し入れれば、B/Lがなくても、貨物を船会社から引き取ることができます。

この方法は、B/Lが未着でも貨物を引き取ることができる、最もオーソドックスな方法です。

通常であれば、買主は、銀行との間で、輸入代金を決済したうえで、B/Lを銀行から受領し、銀行から受け取ったB/Lを船会社に提出して、貨物を受け取るという手順を踏みます。

しかし、銀行が保証状(L/G)で船会社に対して連帯保証をする以上、後日到着したB/Lにディスクレがあっても、あるいは買主が引き取った貨物に、契約違反の事態が発見されたとしても、銀行は買主に対して貨物代金を支払わせます。

買主が貨物代金を銀行に支払えば、銀行はB/Lを買主に渡し、買主はB/Lを船会社に提出して、船会社に差入れた保証状(L/G)を回収し、それを銀行に提出します。

この方法は、B/Lの危機を輸入側だけで解決することができるうえに、輸出側では、ディスクレや着荷貨物に契約違反があっても、貨物代金が100%支払われるメリットがあります。

②船積書類の直送売主が、B/Lなどの船積書類を、DHLやEMSなどのエアークーリエで直送すれば、B/Lは1~2日で買主に届き、買主はB/Lの危機に直面することなく、貨物を引き取ることができます。

しかし、L/C決済やD/P・D/A決済では、B/Lが銀行を通じて買主に渡ることで、銀行が商品代金を取り立てる、あるいは支払を確約させる機能があるわけで、B/Lが、銀行を介在しないで買主に直送されれば、銀行が商品代金を取り立てる、あるいは支払を確約させることができなくなります。

L/C決済なのにB/Lの一通を直送し、残り二通を銀行経由で船積書類として送付した場合、L/Cにディスクレがあれば、買主はそれを理由にアンペイドとし、直送されたB/L一通を使って、船会社から貨物を受け取ることができます。

つまり、代金支払なしで(無料で)、貨物を手に入れることが可能になるのです。

D/PやD/A決済でも、買主が直送されたB/Lを使って貨物を受領してしまえば、銀行経由の取立手形である為替手形に対して、買主はアンペイドをすることも可能です。

従って、L/C、D/P・D/A決済の場合、船積書類の直送は、絶対にしてはなりません。

第三者同士の企業の取引では、船積み前あるいは船積み直後での貨物代金100%の送金決済条件の場合、売主は代金が100%入金したことを確認すれば、船積書類を直送しても問題ありません。

船積み後一定期間経過してからの送金条件での契約でも、貿易保険にリスクヘッジできていれば、船積書類を直送しても問題ありません。

身内同士の企業でも問題ないでしょう。

これらを除いた他のケースでは、船積書類は買主に直送してはなりません。

③船積書類の船長託送要求買主から、「B/Lを含む船積書類を、貨物船の船長に託送して買主側に届くようにして欲しい」という要請を受けることがあります。

「船長託送」という船積書類の送達方法は確かにあって、これを行えば、買主はB/Lの危機に直面せずに済みます。

しかし、「船積書類の船長託送」も、銀行を経由しないで船積書類が買主に渡る点では、船積書類の直送とまったく同じです。

L/C、D/P、D/A決済の場合、船積書類の船長託送などあり得ないことです。

第三者同士の企業では、100%船積み前の事前送金の決済条件であれば、船積書類の船長託送は問題ありません。

身内同士の企業でも問題ないでしょう。

これ以外のケースでは、船積書類の船長託送は不可です。

④売主によるL/G発行「B/Lなしでの買主への貨物引渡を指示する保証状(LetterofGuarantee、:L/G)を」売主から船会、という要請をうにして欲しい。

買主から、船会社ががあります、B/Lなし、その後引渡を行い、B/Lを持った人が現れて貨物引渡を求めた場合。

船会社、そこで償で対応するしかありません、損害賠償責任を明記した売主、船会社/Gに対して発、船会社は安心して。

売主、ただする買主企、船会社としてはすことができます、貨物の価額やL/G発行者の損害賠償能力。

どを考慮してこの方法であれば、買主は、B/Lの危機に遭わないで貨物を引き取れます。

しかし、売主にとっては、銀行を経由してのB/L送達と、銀行を経由する取立決済が連動しているL/C、D/P・D/A決済であれば、その意味を失いますから、L/Gの発行などあり得ないことです。

第三者同士の企業では、100%船積み前の事前送金の決済条件であれば、売主によるL/Gの発行は問題ないでしょう。

また、船積み後、売主がB/Lをホールドし、貨物代金が100%入金したことを確認できれば、船会社に対して売主がL/Gを差し入れても問題ないでしょう。

身内同士の企業の取引でも、売主がL/Gを差し入れても、問題は起こらないでしょう。

これら以外のケースでは、売主によるL/Gの発行は不可です。

買主側が船会社に保証状(L/G)を提出して貨物を引取った場合、買主は、後日到着した船積書類に、ディスクレがあっても支払拒絶はできませんが、売主が船会社にL/Gを差し入れた場合、買主は後日到着した船積書類にディスクレがあれば、支払拒否することができます。

現に、日本側の売主が、何年か取引実績を積んできた海外の買主を、すっかり信用してしまい、買主が出してきた「売主による船会社へのL/G差し入れ」の要求に応じたために、貨物を引き取られ、L/Cは些細なディスクレを理由にアンペイドされ、結果として、貨物をタダで盗られてしまったケースが起きています。

何のために、銀行経由で船積書類が回付されるのか、初心を忘れてはいけません。

海外との取引で、個人ベースで相手を信用することは構いませんが、個人ベースの信用で会社をリスクにさらしてはなりません。

個人格ベースでの信用で、法人格ベースのリスクが見えなくなってしまうのでは、国際ビジネスに携わる営業マンとして失格です。

⑤サレンダーB/LサレンダーB/L(Surrendered:B/L、「元地回収」荷証券)も。

元地回収船荷証券とは、B/Lの発行場所で回収されるB/Lを意味します。

輸出国で貨物が船積みされると、船会社は、売主にB/Lを発行します。

売主は、B/Lが発行されると、その場で船会社宛てに裏書して、B/Lを返却します。

船会社は、いったん発行して戻されたB/Lに、「SURRENDERED」(元地回収済み)のスタンプを押して、一枚目のコピーを売主側に渡します。

船会社は、輸入国(地域)側の自社の出先や代理店に対して、当該B/Lが元地回収済みであることを連絡します。

船会社は、B/Lは回収済みですから、第三者が出て来て、B/Lと引き換えに貨物を引き渡すように、要求されるリスクはありません。

船会社は安心して、買主に貨物を引き渡すことができます。

B/Lの元地回収は、決済とはまったく連動しない貨物引取の方法です。

L/C決済の条件で契約しても、買主が「サレンダーB/L」の要求を出して来て、売主がそれに同意すれば、L/C決済の意味がなくなってしまいます。

「サレンダーB/L」も、身内同士の取引でしか行ってはならない方法ですが、第三者同士の取引では、船積み後、売主がB/Lをホールドし、貨物代金が100%送金入金したことを確認できれば、「サレンダーB/L」化することは可能です。

もちろん、船積み前に100%貨物代金の送金を受ける条件であれば、B/Lが発行されると同時にサレンダー化することは問題ありません。

ところで、サレンダーB/Lは、「B/Lの危機」を解消する方法として編み出された変則的な「慣行」で、信用状統一規則(UCP600)にも規定されていません。

つまり、適用される国際ルールがないため、荷主と運送人との間で紛争が起きた場合、明示的に示された解決方法が存在しないことが、問題視されるようになってきました。

⑥「海上貨物運送状」(SeaWaybill:SWB)サレンダーB/Lは、現状では依然として利用されていますが、一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)では、リスクを低減させ、電子化を促進するために、「海上貨物運送状」(SeaWaybill:SWB)の利用を推奨しています。

SWBも高速化するコンテナ輸送に対応して登場したもので、身内同士の継続的な取引では、SWBを使うことが増えています。

SWBは、表面の記載事項はB/Lと同じですが、B/Lと違うのは、有価証券でないことが明示されていることです。

「貨物の受領書」と「運送引受条件記載書」の二つの機能はかね備えています。

SWBにも、B/L同様に、本船に貨物を積載した旨の「OnBoardNotation」(積み込み証明付記)が必要です。

船会社は、本船入港前に、SWB記載のNotifyParty(着荷通知先)宛に、「ArrivalNotice」(A/N:)貨物到着、を送付し、受荷主は、A/Nに署名して提出すれば、D/O(DeliveryOrder:。

SWBは、ICCの信用状統一規則(UCP600)では、L/C取引に使用される「流通性のない海上運送状」として、B/LやAWBとともに、関連規定があり、万国海法会(Comit「」、、、。

SWBでは、買主が貨物を引き取るのに、SWBそのものは不要で、正当な受荷主であることを証明できれば(通常、船会社にサイン登録をしてサイン照合で証明)、船会社は貨物を引き渡します。

AWBでは、買主の取引銀行を受荷主とすることで、当該銀行が貨物を仮想担保とすることができることから、第三者間の取引でも利用できるのですが、SWBは、銀行、フォワーダー、船会社などに浸透しきれていない嫌いがあります。

例えば、社内にまだSWBの取扱マニュアルがない、L/CやD/P・D/Aの申込書に、SWBの選択肢が設けられていない、SWBの仮想担保価値についての社内評価がまだできていない、といった状況が個別の物流と金融の関連企業にはあるようです。

そのため、SWBの採用には、念のため、それら関係者の事前確認の取得をお勧めします。

現状では、身内同士の取引での利用は問題ないので、元地回収船荷証券(サレンダーB/L)を使っているのであれば、その代わりにSWBを使うことを推奨します。

⑦B/Lと運送状(Waybill)の相違点B/LとSWB・AWBの相違点を次に掲げます。

(船荷証券・海上貨物運送状・航空貨物運送状の相違点)

5.国際ファクタリングのリスク国際ファクタリングにも、リスクが潜んでいます。

(1)時間がかかるファクタリングを利用するには、かなり前の段階から、買主側とファクターの両方とコンタクトしながら、事前準備をする必要があります。

輸入国側のファクターの信用保証を取るのに、通常、3週間程度かかります。

(2)非常危険は免責国際ファクタリングでは、相手先企業の信用リスクは担保されますが、非常危険は担保されません。

(3)ファクターの倒産リスク利用するファクターが倒産するリスクもあります。

ファクターが倒産すれば、買主側から代金を徴収することができなくなってしまいます。

(4)ディスピュートによるファクタリング停止着荷貨物に対して、買主から「品質が悪い」とか、「数量が足りない」、あるいは「着荷が遅延した」といったクレーム(国際ファクタリングでは、「ディスピュート(Dispute:係争)」と言う)が提起された場合、ファクターの信用保証はその時点で停止となります。

ディスピュートの場合、ファクターがすでに売主に支払済みであれば、いったんファクターにリファンドし、売主と買主がクレーム解決の方法について協議を行って両者が合意すれば、輸入国のファクターは、合意した価格で買主から貨物代金を徴収し、輸出国のファクターは、新たに合意した価格で、売主から売掛債権を買い取ります。

(5)買主による減額支払買主側が正式にディスピュート(Dispute)を提起しないで、着荷貨物の品質不良などを理由に、輸入国の提携ファクターに対して、貨物代金の一部を減額支払することが起きています。

この場合、輸出国のファクターが、輸出債権を売主から買い取り済みであれば、売主に対してすでに支払済みの金額との差額を戻し入れるように要求してくるでしょう。

本来、貿易とは、売主と買主が合意した契約価格で100%決済が行われ、品質などのクレーム問題は、決済とは絡めないで、別途売主と買主が協議して、解決方法を決めるべきものです。

少なくとも、L/C決済は、貨物自体の問題とは完全に独立して決済される仕組みになっています。

国際ファクタリングは、金融取引とはいえ、貨物自体の実取引と分離されていない点で、売主にとって不利です。

このことから、ファクタリングを利用できるのは、買主が理不尽なことを主張しない、信頼できる相手の場合に限られます。

やはり、貿易事務上の負担はありますが、L/Cが最も安心できる決済方法であることに、変わりありません。

(6)ファクタリングに適した取引ファクタリングは、ディスピュートが提起されるリスクを心配する必要が余りない、親会社と海外子会社、同一グループ内の企業間での決済に向いています。

第三者同士の企業間決済の方法としては不向きです。

6.日本貿易保険(NEXI)へのリスクヘッジリスクが高い決済方法で契約する場合、そのリスクを貿易保険にヘッジします。

保険会社が保険を引き受けないのであれば、その商取引契約はしてはいけません。

貿易は、博打ではありません。

大きなリスクを背負い込んでまで、行うものではありません。

政府が100%出資している、経済産業省傘下の株式会社日本貿易保険が、大企業向けだけでなく、中小事業者のための貿易保険も取り揃えています。

(1)NEXIの利用方法NEXIの貿易保険を利用するには、保険利用企業と海外の取引予定企業の登録が必要です。

①保険利用者のウェブユーザー登録NEXIのホームページ(https://www.nexi.go.jp/)から、ウェブ上で利用企業の企業情報を登録します。

②海外商社(バイヤー)登録貿易保険の利用には、海外の取引相手先が、NEXIの海外商社名簿で格付されている必要があります。

海外商社名簿に掲載されていない取引先の場合、信用調査書があれば、格付してくれます。

信用調査書は利用企業が手配することも可能ですが、NEXIに格付依頼をすれば、一件1万円くらいの費用で、NEXIが信用調査をして格付してくれます。

この場合、信用調査書は開示されませんが、格付結果は知ることができます。

中小企業基本法上の「中小企業者」であれば、8件まで無料で格付をしてくれます。

格付が決まれば、それぞれの決済条件による保険引き受けの可否や保険料率などが分かります。

(2)主な貿易保険の種類NEXIは、「中小企業・農林水産業輸出代金保険」を始め、さまざまな貿易保険を用意しています。

主なものを次に紹介します。

①中小企業・農林水産業輸出代金保険資本金10億円未満の中堅・中小企業、農林水産業従事者などが利用できる保険です。

船積み前の段階でのリスクには対応していませんが、船積み後の非常危険と信用危険に起因する代金回収不能リスクをカバーしています。

保険料率は、相手先の格付や船積日から代金決済日までのユーザンス期間(最長180日以内)の長短によって、おおよそ0.4%から4%程度ですが、最低保険料は3,000円です。

契約金額が5,000万円以下の日本からの輸出契約が対象で、NEXIが定めるバイヤーの与信枠内であることが付保要件です。

保険申込みができる期間は、輸出契約の締結日以降、船積日から起算して5営業日後までの間で、契約書などのコピーは、申込の段階では不要。

事前に、NEXIが提携する金融機関からNEXIに連絡があれば、保険料は10%割引です。

契約書のコピーは保険金を請求する際に必要です。

保険金は、原則として請求後1ヶ月以内に支払われますが、商品に対するクレームなど、バイヤーとの係争が原因で輸出代金が支払われない場合、仲裁手続などによって問題が解決するまでは保険金の請求はできません。

損失額の95%が補填されます。

②貿易一般保険(個別保険)中小企業・農林水産業輸出代金保険の要件を満たさない場合、つまり、資本金10億円以上の企業や中小企業法の要件を満たさない企業、契約金額が5,000万円超の日本からの輸出契約や、仲介貿易契約などでは、中小企業・農林水産業輸出代金保険は利用できませんが、貿易一般保険(個別保険)を利用することは可能です。

貿易一般保険は、船積み後の非常リスクと、信用リスクによる代金回収不能な事態に対応する点は、中小企業・農林水産業輸出代金保険と同じですが、それ以外に、船積み前であっても、輸出相手国の戦争や内乱などの非常リスクが原因で、船積み不能になって生じる損失もカバーします。

非常リスクによる損失のカバー率は任意で決めることができ、60~97.5%、信用リスクは非常リスクのカバー率を上限として、回収不能部分の60~90%が保証されます。

保険申込ができる期間は、中小企業・農林水産業輸出代金保険と同じく、輸出契約の締結日以降、船積日から起算して5営業日後までの間で、契約書などのコピーは、申込の段階では不要です。

契約書のコピーは保険金を請求する際に必要です。

③限度額設定型貿易保険限度額設定型貿易保険は、年間契約型の保険で、輸出契約ごとの保険申込みは不要です。

保険対象バイヤーが複数あれば、バイヤー毎に、一年間有効な保険金支払限度額を設定します。

保険料は年間保険料の一括前払いですが、申込者が中小企業の場合は2回分割払いもできます。

日本国内から貨物を輸出する契約と仲介貿易(日本以外から出荷される三国間貿易)契約が対象です。

ただし、輸出契約などの締結から決済までの期間が1年以内、船積日から決済期限までの期間が6ヶ月以内が条件です。

カバー範囲は、船積み前の輸出不能または船積み後の代金回収不能による、非常危険と信用危険で、いずれもカバー率は損害額の90%です。

④輸出手形保険輸出手形保険を利用するには、売主の取引銀行がNEXIとの間で「輸出手形保険契約」を締結している必要があります。

NEXIとの保険契約の当事者(被保険者)は、売主の取引銀行です。

保険料は、取引銀行が売主から徴収してNEXIに支払います。

輸出手形保険とは、日本からの輸出取引が対象で、D/P、D/AおよびL/C決済での代金回収不能をカバーします。

荷為替手形一本ごとに付保手続きする必要があり、保険料もその都度発生します。

銀行は、船積日から21日以内に、荷為替手形を売主から買い取り、買い取った日から5営業日以内にNEXIに、その旨通知します。

銀行は、手形不渡日から1ヶ月以内にNEXIあてに「輸出手形保険損失発生通知書」を提出します。

銀行が荷為替手形を買い取らず、手形取立方式で回収する場合、この保険の適用対象外です。

また、売主が買主に一部のB/Lを直送した場合も、この保険は不適用です。

B/Lでなく、AWBやSeaWaybillの場合は、受荷主(Consignee)が手形取立銀行になっている必要があります。

手形金額の95%の保険金がNEXIから銀行に支払われ、銀行は売主から5%分の買戻しを行うことで、銀行は一銭も損失を被らないで済みます。

また、売主は、手形が満期になって決済されれば、100%の商品代金受領が確定し、手形が満期になっても決済されなければ、銀行から買取方式で支払われた商品代金の5%を銀行に戻すことで、結果的には95%の商品代金受領が確定します。

売主は5%程度の利益は見込んだうえで取引するでしょうから、実質的な損害は発

生しないことになります。

売主が買主に対して損害保険をかける義務を負う定型取引条件(CIP・CIF)での輸出契約では、商品の種類により、必要かつ充分な外航貨物海上保険を付保し、さらに戦争保険約款とストライキ約款も付保しなければなりません。

⑤貿易一般保険(企業総合保険)すでに貨物の輸出実績があり、今後も継続的かつ反復的に輸出取引が見込める企業で、取引先バイヤーに極端な偏りのない企業であれば、会社全体で締結することが原則です。

保険対象を、1契約あたりの1千万円までの範囲で「すそ切り金額」として設定し、少額取引を保険対象から除外することができます。

100%仲介貿易契約や自社の子会社向け取引などを、オプションで追加または除外することもできます。

輸出契約と仲介貿易における非常危険または信用危険による、貨物の出荷不能と貨物代金回収不能による損失がカバーされます。

船積み前の輸出不能による損失は、非常危険・信用危険ともに80%、船積み後の代金回収不能による損失は、非常危険が97.5%(100%も可能)、信用危険が90%のカバー率です。

7.輸出取引信用保険NEXIの貿易保険が、幅広いリスク範囲をカバーしているのに対し、民間の損害保険会社が行っている貿易保険は、「輸出取引信用保険」と言って、保険対象を継続的な輸出取引を行っている企業に限定しています。

取引先の国の輸入制限、為替取引制限、戦争、地震などの非常危険による損失と、取引先の倒産や債務不履行などの信用危険による損失を、9割程度の一定割合でカバーします。

損害保険業務を行っている主要各社は、日本商工会議所が団体引き受けをして、各地の商工会議所会員企業が利用できる団体輸出取引信用保険と、企業規模に係らず利用できる一般の輸出取引信用保険を展開しています。

各社の団体輸出取引信用保険と一般向け輸出取引信用保険は、同じ内容ではありませんが、「輸出売上高」と「取引先数」で、各社それぞれ目安の基準を設けているようです。

一例として、ある損保会社は、団体輸出取引信用保険では、輸出売上高5億円未満、取引先数最少2社、一般向け輸出取引信用保険では、売上5億円以上、取引先数最少5社以上を付保できる基準としています。

団体輸出取引信用保険では、審査費用、保険期間中の売上高通知、四半期毎の輸出売上高の通知のいずれもが不要です。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、三井住友海上火災保険株式会社などが、日本商工会議所と組んで団体輸出取引信用保険の商品を展開しています。

8.各決済方法と推奨利用当事者決済方法によって、リスクのない方法もあれば、リスクのある決済方法でも、それぞれリスクの大小があります。

リスクの有無とリスクの大小によって、どのような契約当事者がどの決済方法を利用できるかを、目途として参考にできるようにしたのが次の表です。

第三者間同士の企業の取引では、代金の取りはぐれが起きても、大企業を除いて、代金を回収する手段はありませんが、親子関係にある企業同士の取引や同一グループ内の企業同士の取引であれば、話し合いで解決できることが多いと思われます。

特に、第三者間同士の企業の取引では、必ずリスクヘッジをしたうえで取引を進めるようにしなければなりません。

(決済方法と推奨利用当事者)

第八章 知的財産権とリスク知的財産権は、パリ条約、ヘーグ条約、世界貿易機関(WTO)や世界知的所有権機関(WIPO)などの国際的な枠組みに沿って、各国がそれぞれ自国の国内法で関連法令を制定しています。

そのため、日本で知的財産権の登録をしても、それは日本国内で有効なだけで、海外にはその効力は及びません。

輸出をしようとするターゲット国(地域)で、知的財産権を確立するためには、原則としてターゲット国(地域)での国内法に基づいて、権利を取得しなければなりません。

ターゲット国(地域)が多いほど、申請登録費用がかかるので、企業にとっては大きな負担になります。

特許庁は、県レベルの支援機関と日本貿易振興機構(JETRO)に予算をおろして、中小企業が外国に出願する際の費用を安く設定したり、補助金を支給したりしています。

両組織とも、申請を随時受け付ける方式でなく、年度内の一定期間を区切って、申請を受理する形をとっていますが、募集受付期間は必ずしも同一ではありません。

県レベルの支援機関と日本貿易振興機構(JETRO)に問い合わせて、対応されることをお勧めします。

1.国際出願の方法海外への知財権の出願手続きは、弁護士または弁理士が行っています。

全国各地の弁理士は、日本弁理士会の「弁理士ナビ」(http://www.benrishinavi.com/)で探すことができます。

特許権、実用新案権、意匠権、商標権、植物育成者権などでは、最も早く出願した人に権利が与えられる「先願主義」が採用されています。

先願主義が適用される知財権の権利を取得するには、「先手必勝」で、誰よりも早く出願することが肝要です。

(国際出願の方法)

特許権・実用新案権、意匠権と商標権の国際出願では、「一ヵ国ごとに直接出願する方法」と、「日本から複数の国に出願する方法」がありますが、「一ヵ国ごとに直接出願する方法」は、更に、文字どおり権利を確立したい国を対象に、一ヵ国ずつ出願していく方法と、パリ条約に基づいて「優先権を確保しながら」一ヵ国ずつ出願していく方法があります。

(1)パリ条約ルート出願(特許権・実用新案権、意匠権と商標権)特許権・実用新案権、意匠権と商標権を一ヵ国ごとに、直接出願する方法で、パリ条約に基づく出願方法です。

パリ条約では、国内出願または国内で優先の権利を取得した日(優先日)から、一定期間を「優先期間」として扱い、優先期間内に外国で出願をすれば、優先日にその国で出願が行われたとみなして、先願主義の原則のもとで審査が行われます。

ですから、海外展示会に出展するのに、まだその国で商標権や意匠権の登録ができていないと悩むことはありません。

展示会に行く前に、同一または類似のものがすでに登録されていないか、同一または類似のものが申請されていないかを、弁理士に頼んで調査し、該当するものが登録も申請もされていなければ、展示会に行く前に出願しておけば良いのです。

ただし、同一または類似のものが、すでに登録されていたり、申請されていたりした場合、係争になる可能性があります。

その場合は、弁理士や弁護士と相談して、対策を練る必要があります。

「先願主義」の下では、二番手以降に出願した人に権利は与えられません。

ですから、いつ出願したかは重要なポイントです。

ところが、権利を取りたい国に対して、一ヵ国ずつ手続きをしていこうとすれば、すべての国に対して同じ日に、それぞれの国が要求する言語で作成した書類を提出することは、不可能に近いと言えます。

「優先期間」中に、優先権を主張して出願できることは、出願者にとって大きなメリットです。

なお、優先権を主張して出願できる対象国は、パリ条約の加盟国だけでなく、世界知的所有権機関(WorldIntellectualPropertyOrganization:WIPO)と世界貿易機関(WorldTradeOrganization:WTO)の加盟国も含まれます。

(2)PCT出願(特許権・実用新案権)特許協力条約(PCT:PatentCooperationTreaty:PCT)に基づいて、特許権・実用新案権を、特許庁を経由して複数国に同時出願する方法です。

知的財産権の関連する条約では、特許庁に対して、国際的に統一された様式の出願願書を提出すると、その日が全加盟国への出願日になることが定められています。

出願時点で、その日がすべてのPCT条約加盟国に対する出願日(これが優先日です)として確定します。

特許庁を通じて複数の国に出願することは、全条約加盟国に対して、優先日を確保する手続きでもあるのです。

PCT出願により優先日が決まれば、優先日から30ヶ月以内(異なる期間を定めている国もあります)に、権利を取りたいPCT加盟国が認める言語に翻訳した翻訳文を、その国の特許庁に提出して国内手続きに移行し、国内審査に通れば、その国での特許権が認められます。

特許権では、現地代理人の費用と翻訳代が必要です。

(3)ハーグ出願(意匠権)意匠権の場合、同時に複数の国に出願する方法として、直接出願と間接出願があります。

直接出願の場合は、世界知的所有権機関(WIPO)に願書を提出するか、あるいはハーグ条約加盟国が作っているハーグシステムを通じて、オンラインで直接出願することもできます。

また、特許庁に願書を提出して出願することも可能で、これを間接出願と呼んでいます。

約70の国に出願できます。

(4)マドプロ出願(商標)商標を同時に複数の国に出願する方法は、マドプロ出願と呼ばれています。

「標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書(ProtocolRelatingtotheMadridAgreementConcerningtheInternationalRegistrationofMarks:マドリッド協定議定書、マドリッド・プロトコまたはマドプロ)」の締約国が対象です。

マドプロのメリットは、経費節約です。

各国に直接出願する場合、それぞれの国の代理人を介して手続を行わなければならないので、不可避的に「現地代理人費用」が必要ですが、マドプロ出願の場合は現地代理人を選任することなく手続できます。

また、各国の言語に翻訳する必要もないので、翻訳料も原則不要です。

ただし、各国の審査の結果、「登録を拒絶する旨の通知」がなされて、その通知に対応する場合は、現地代理人を選任する必要があり、それに伴って「現地代理人費用」や「翻訳料」が発生することがあります。

2.知的財産権の種類知的財産権には、知的創造物を保護することによって、創作意欲を増大させる効果と、営業に使用する標識の権利を排他的に保護することによって、商品やサービスの信用を維持できる効果があります。

(知的財産権の種類)

知的財産権のうち、発明を対象とする特許権、物品の形状などの考案を対象とする実用新案権、物品のデザインを対象とする意匠権、商品やサービスマークなどを対象とする商標権の四つは、産業財産権と呼ばれています。

これらは、いずれも経済産業省の特許庁が管轄している知的財産権です。

産業財産権以外に、半導体回路配置利用権も経済産業省の管轄ですが、これは同省の特許庁ではなく、商務情報政策局の所管なので、特許庁は産業財産権の範囲に半導体回路配置利用権を入れていません。

つまり、産業財産権は、特許庁に出願し登録することによって、一定期間、独占的に実施(使用)できる知財権を指しているのです。

これら以外にも、文部科学省が管轄する著作権、農林水産省が管轄する育成者権、法務省管轄の商号も知的財産権です。

登録や登記制度はありませんが、営業秘密(ノウハウや顧客リストなど)の盗用、商品表示などで混同・誤認をもたらす行為は、経済産業省が管轄する不正競争防止法で規制されています。

工業所有権という言い方を聞くことがありますが、この言葉の厳密な定義はありません。

工業所有権は、この言葉を使う人によって、産業財産権を指すこともあれば、それ以外も含めた知財権全体を指すこともあります。

(1)特許権自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、特許庁の審査を経て、高度の発明と認められたものに、特許権が与えられます。

①公開される特許情報優先権を主張して海外に特許権を申請するには、パリ条約ルート出願で特定の国に申請する方法と、特許庁を通じて複数の国に出願するPCT出願の方法がありますが、日本で特許庁に特許権の申請をして、一年六ヶ月が経過すると、特許庁の特許公報で特許情報が公知されます。

特許庁の特許公報で特許情報が公開されれば、海外で特許情報が利用されるリスクが生じます。

ある国では、特許庁の特許公報を日々チェックする専門の組織が、新しい知財の取り込みをしているとのことです。

②立証しにくい特許権の侵害狙った海外の国で特許権を取得できても、「物の特許」であれば、その物を見れば、特許違反かどうかの判断はつきやすいのですが、「製造特許」の場合、製造している現場を見ない限り、「製造特許」が使われているかどうかの立証は、たやすくありません。

製造特許が侵害されていても、それを発見できるのは、内部告発があれば別ですが、なかなか困難ですし、裁判や商事仲裁で決着をつけようとすれば、技術的に詳しい専門家同士の議論にならざるを得ません。

体力のある大企業であればともかく、それ以外の企業にとって、特許権で権利侵害から自らの権利を守るのは、ハードルが高いと言えます。

③特許権を取得しても良い発明特許権は、特許情報が公開されるため、必ずしも特許を取れば良いとは限りません。

しかし、製造特許技術の中の一部に、ブラックボックスを作ることが可能であれば、特許出願する価値はあります。

ブラックボックスを設けることができない場合、特許を出願すること自体に、リスクが伴うかもしれません。

製造技術によっては、「意図的に特許を取らない」選択肢があることを覚えておきましょう。

税理士や弁護士に相談すれば、的確なアドバイスをもらえるかもしれませんが、一方で税理士や弁護士は、申請・登録の手続きを行うことで、自らの生業にしていることも認識しておく必要があります。

勧められるままに特許を出願するのではなく、最終的には、自社の判断で決めるべきことです。

(2)意匠権工業製品の形状、模様、色彩またはこれらを結合したもので、美感を感じさせるデザインとして、特許庁の審査を経て登録されたものは、意匠権として保護されます。

物品の部分における形状・模様・色彩も意匠権の対象となり、物品の

操作のために使われる画面デザインも含みます。

特許と実用新案が、自然法則を利用した技術的思想の発明・考案であるのに対し、意匠は、独創性のあるデザインを保護するものです。

化粧品の容器、ペットボトル、体重計、携帯電話、文房具類、玩具、かばん、靴、机、椅子、メガネ、機械部品、農機具、車両など、さまざまな分野で意匠権が活用されています。

①国によって同一ではない意匠権の対象日本は、意匠権の範囲を最も狭くしている国で、逆に欧州は、意匠権の対象範囲を日本より広くしています。

意匠権の対象範囲の広さは、米国が欧州に次ぎ、中国は日本並みに対象を厳しく限定しています。

ですから、日本で意匠権が登録できなくても、欧州や米国では認められることがあり得ます。

日本の場合、意匠権の対象は「物品のデザイン」で、物品と直接関連しない「デザインそのもの」は、意匠権の対象ではありません。

「物品」とは、持ち運び移動できる動産ですから、意匠権を確立できる対象物品は、動産と関連している必要があります。

スマホにインストールされたアプリの画像は、スマホのアプリ画像ですから、意匠権の対象ですが、サーバーに保存され、クライアントの端末にアクセスの都度送信されるウェブアプリの画像や、機器以外の場所に投影されるデザインは、端末や機器に付随したデザインではないため、意匠権の対象ではありません。

また、土地に定着している不動産の外装や内装のデザインも、意匠権の対象ではありません。

不動産の一部として使われるものでも、反復生産され、動産として販売されるものは、意匠権の対象となります。

「デザイン」は「物品」と切り離して考えないというのが、日本の意匠権の特徴です。

②多数を占める無審査制の国特許庁は、意匠権の出願があると、出願書類が所定書式を満たしているかどうかの形式的な「方式審査」を行い、方式審査を通過した出願に対して、意匠登録要件を満たしているかどうかの「実体審査」を行います。

登録要件を満たせば、登録が認められて意匠権が確立します。

これが「審査登録制度」です。

審査登録制度のメリットは、登録が認められれば、権利者の権利が確定することです。

デメリットは、調査から登録までに長い時間を要することで、登録されるまでの期間は、権利が不確定な状態に置かれることです。

一方、世界には「無審査制」を採用している国が、少なくありません。

無審査制とは、出願書類が所定書式を満たしているかどうかの「方式審査」と、明らかに不登録事由に該当するかどうかの「予備審査」は行われますが、意匠要件を満たしているかどうかの「実態審査」は行わず、「方式審査」と「予備審査」だけで、意匠権付与が公告され、意匠権が公告の日から有効となる制度です。

意匠権を巡って紛争が生じた時、その意匠権が誰のものかの判断は、当事者同士が司法の場で争うことになります。

意匠権の要件を充たすか否かの実態審査を行わない、無審査制のメリットは、出願から意匠権の発効までの時間が短期間で済むことですが、デメリットは、紛争になれば司法で解決することになる点です。

中国と欧州は無審査制を採用し、日本と米国は審査制をとっています。

国によっては、無審査で行くか審査制で行くかを、出願者の選択に委ねている国もあります。

(3)商標は重要なマーケティングのツール商標とは、事業者が自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用する識別標識のことです。

「商標権」によって、商品やサービスの「マーク」や「ネーミング」などが、排他的に保護されます。

商品を買ったりサービスを利用したりする時は、企業の名前や商品・サービスの「商標」を見て決める人がほとんどでしょう。

消費者が購買意欲を決めるのが商標の持つ力であれば、逆に買わないと決めるのも商標の力です。

商標はマーケティングのための重要なツールとして活用可能です。

また、商標は「言語の壁」を、いとも簡単に乗り越えることができます。

海外に商品やサービスのマーケティングを行う場合、商標は重要なツールになり得るのです。

ところで、商標は、一般的な普通名称では、商標として認められません。

例えば、「アップル」をリンゴの商標として登録することはできませんが、通信端末の商標であれば、通信端末では、自己と他人の商品の区別ができますから、商

標として認められたのです。

①商標の種類商標には、文字、図形、記号、立体的形状や、これらと色彩を組み合わせたものの他、動く文字や図形の「動き商標」、見る角度で図形などが変化して見える「ホログラム商標」、セブンイレブンの店舗で見かけるオレンジ、グリーン、レッドの三本の帯のような「色彩だけの商標」、パソコンの起動音のような「音商標」などがあります。

国によって商標として登録できる種類が異なることがあります。

日本で登録できても海外の国では登録対象でなかったり、逆に日本で登録できなくても、海外の国で登録できたりするケースもあり得ます。

②ある日本企業の実例日本のある企業に、中国の貿易会社から、「貴社の商品を中国国内で販売したい。

商談のため訪中して欲しい」と声がかかりました。

その会社の責任者は、喜び勇んで中国に行き、その会社との商談に臨みました。

中国側からは、「全中国における独占販売権を付与して欲しい」と要求が出されましたが、日本側は、当然のことながら断りました。

ところが、中国側から意外な発言があったのです。

曰く:「、。

、、」。

日本側が直ちに席を蹴って帰国したことは、言うまでもありません。

中国側が、日本の会社の商標を、事前に承諾を得ないで、勝手に中国で登録した行為(冒認登録と言います)は、確かに貿易以前の商道徳に反するマナーです。

しかし、一方で、日本側が訪中して商談するまで、知財対策を講じていなかったことは大問題です。

中国企業の冒認登録の体質は、日本の企業として正しようがありません。

日本人1人が、中国人10人の考えを変えることは不可能です。

それよりも、われわれ日本人のひとりひとりが、しっかりとした「貿易の基本」を会得する方が、手っ取り早くて即効性があります。

海外展開では、異文化を批判の対象とするのでなく、それを理解したうえで、対応策をとることが大切です。

③海外展開の基本、商標登録マーケティングの具体的なアクションを取る前に、知財対策を講じておくことは、「貿易の基本」です。

自社商品の商標が、輸出先の国で、誰かによって勝手に商標を登録されてしまえば、その国ではその人が権利者になります。

そうなれば、輸出したくても輸出できません。

冒認登録された人は、「その商標は、当社が作ったものだ! なぜ、海外の国で勝手に断りもなく登録するのだ!」と声をあげます。

しかし、作った人が権利を主張できるのは著作権です。

商標は、先に出願して登録した人が、正当な権利者になります。

商標権は、出願・登録されて、権利が発生するものです。

ただ、例外的に、誰でも知っている有名な商標であれば、登録していなくても、「著名商標」として、商標権が認められることがあります。

しかし、普通の企業の商標が、「著名商標」として認められることは、まず無理です。

登録申請をしていない段階で、海外バイヤーとの商談会や海外展示会のようなイベントに参加することは、知財リスクに自らをさらす無謀な行動です。

海外展示会に出展したり、海外バイヤーと商談したりする前に、知財対策を講じておくことは、海外展開の基本です。

④知財の出願登録費用は海外展開の必要経費申請登録には費用がかかります。

商標は、登録しようとするモノやサービスのカテゴリーごとに費用がかかります。

申請する国(地域)ごとに費用がかかるため、企業にとって、負担は軽くありません。

「海外で売れるかどうか分からないうちに、多額の費用をかけて商標権を取るわけにはいかない」と言う声を良く聞きます。

それは、まるで「旅行に行くのに、交通費は一切払いたくない」と言うに等しいことです。

旅行に行くのに、交

通費が必要な費用であることと同じく、知財登録の費用は、海外展開をするために欠かせない、「必要経費」です。

⑤新興国に多い商標ブローカー新興国には、外国の会社の商標や意匠を冒認登録し、それを売りつけることをビジネスとする、知財ブローカーが数多く存在しています。

知的財産権を侵害しがちな国(地域)として、従前から、中国、韓国、台湾、香港が挙げられてきました。

しかし、最近ではタイ、ベトナム、インドネシアなどの東南アジア諸国でも、安心できません。

冒認登録の超大国は、言うまでもなく、中国です。

「青森」は、日本側の異議を受けて取り消しとなりましたが、「クレヨンしんちゃん」のキャラクター商品は、上海で、本家本元の本物が偽物だとして当局に撤去されました。

無印良品も、中国で長期間の法廷闘争を繰り広げました。

日本のお米の「こしひかり(越光)」、「一目惚」、「秋田小町」、焼酎の「森伊蔵」、「伊佐美」「村尾」……、全て抜け駆け登録されています。

地名は、本来登録できないのですが、日本の少しでも有名な地名は、すでにほとんど登録されていいます。

台湾では、「讃岐」がいったん登録されましたが、日本のうどん業者の取消請求が認められて、台湾企業の登録が取り消されました。

新興国には、外国の会社の商標や意匠を冒認登録して、それを売りつける、プロフェッショナルな知財ブローカーが存在しています。

知財意識の薄い日本の企業は、そうした知財ブローカーの格好の餌食です。

輸出しようとする企業は、「出願・登録費用がもったいない」などと、呑気なことを言っている場合ではありません。

冒認登録された場合、知財ブローカーが弁護士を通して要求してくることは、「ただちに輸出を停止し、すでに輸出したものおよび今後輸出するものに対して、商標使用料を支払うこと」、あるいは「当該商標を買い取ること」です。

商標買い取りの要求額は、数百万円から1千万円を超えると言われています。

こうした知財トラブルが原因で、輸出できている商品が輸出できなくなったり、商標買い取りに応じたりすることと、事前にある程度の費用をかけて商標登録をすることのいずれが、安くつくのでしょうか? 商売人であれば、答えは明白です。

⑥知財対策の限界それでは、万が一、海外の国(地域)で、自社が商標や意匠を登録してあるにも関わらず、他の業者が、まったく同一または類似した商標や意匠を使った商品を売り始めた場合、どうすれば良いでしょうか?まず、誰がどこで作っているかを調べる、実態調査をします。

通常は、現地の調査会社に、有償で調査を依頼します。

調査の結果、権利侵害品を製造、販売している証拠が固まったら、次は、現地の弁護士と相談して、弁護士名で警告書を出します。

相手がそれを無視するのであれば、知財や企業の営業権を管轄する行政当局に持ち込んで、違法行為を中止させ、それでも相手が違法行為を続ける場合は、裁判に提訴するのが、一般的な対応策です。

通常、弁護士名で警告書を出せば、大半の業者が違法行為をやめると言われています。

しかし、警告書を出しても効果がなければ、行政に訴えるか、裁判に訴えるかの選択肢しかありません。

そうなると、大企業を除けば、その費用負担に堪えられるかどうかは、厳しいものがあります。

模倣品対策の場合、売れ筋の商品であれば、一つの模倣品製造・販売業者を叩いても、次から次へと模倣業者が現れてきます。

大企業であれば、モグラ叩きをし続けることができますが、それでも模倣業者を撲滅できる保障はありません。

大企業でさえ、手を焼いています。

つまり、企業にとって、知財リスクをゼロにするのは無理かもしれないという認識を持つことも必要です。

数ある貿易のリスクの中で、知財リスクだけは、残念ながら、どんなに頑張っても、完全にリスクをゼロにすることはできません。

知財リスク対策に限界があることは自覚したうえで、それでも必要な知財対策を講じて、海外展開に乗り出さざるを得ないのが現状です。

⑦商標が冒認登録された場合の対応策海外展開の具体的なアクションを取る前に、必ずターゲットとする国(地域)で知財登録の申請をしておくよう、すでに申し上げました。

しかし、現地にある他の業者が、すでに商標を冒認登録していた場合、どう対処するのが良いでし

ょうか? その業者が不当に持っている権利を取り消すように、手続きを取ることができる場合もあるでしょう。

しかし、その解決には何年もの時間がかかって、その商標を使った商品のビジネスは、それまで一切できない状態が、長期間続かざるを得ません。

大企業を除けば、特に中小の企業が持つ商標は、余り名が知られていないことが多いと思われます。

日本で、知っている人がいても、海外では、まったく知られていない商標であることも少なくないでしょう。

これは、大企業にはない、中小の企業特有のメリットです。

そのメリットを生かして、その国(地域)では、日本とまったく違う商標をつけて売ることにすれば良いのです。

商標を冒認登録した業者と、商標買い取りの交渉をする必要などありません。

もちろん、可能ならば、日本国内と同一の商標を使えれば、それが最善なことは、言うまでもありません。

しかし、万が一、海外の国(地域)での商標が、手遅れになってしまった場合は、次善の策として、別の商標で売る方法が、最も安上がりで、冒認登録した業者に打撃を与える有効な方法です。

これは、大企業にはできません。

中小の企業だけができる特権です。

(4)著作権の効用著作権は、海外への商品やサービスの輸出とは、余り縁がなさそうな感じがしますが、実はそうではありません。

製造設備の取扱マニュアル、商品カタログ、商品の説明書、会社紹介のカタログ等々……、実はビジネスの世界には著作権のあるものが溢れています。

しかも、商標、意匠、特許、実用新案などは登録されなければ権利化されないのに対し、著作権は、著作物を創作した時に、その著作者の権利として、自然発生的に権利が生じます。

法人の場合は、法人がその著作物を作る企画をし、その法人の業務に従事する者が、職務命令を受けて創作したものが、法人名義で公表され、かつ、契約や就業規則で創作した職員を著作者と定めていない場合、「法人著作」と呼ばれ、個人の場合と同じように、著作権として保護されます。

①著作権と保護期間文字、音、絵、動画などで、「思想又は感情」を「創作的」に「表現したもの」が、「著作物」です。

その他、新聞、雑誌、百科事典などのように、素材の選択や配列によって創作性のあるものは、「編集著作物」として保護されます。

著作権の保護期間は、原則として著作者の生存している時とその死後70年間です。

団体名義の著作物の保護期間は、公表後70年(創作後70年以内に公表されなかった時は、創作後70年)です。

②著作者の権利内容著作者の権利内容には、「著作者人格権」と「著作者財産権」があります。

「著作者人格権」とは、著作者が公表するかどうかを決めることができる「公表権」、著作者が著作者名を公表するかどうかを決めることができる「氏名表示権」、著作者の了解がなければ作品を変えることができない「同一性保持権」の三つを言います。

「著作財産権」とは、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権等々で、著作物を利用、貸与、譲渡できる権利を言います。

③海外展開と著作権海外の模倣業者が、もともとは日本語で書かれていた商品説明書を、その国の言語に翻訳して、写真などを少し改変したものを、模倣商品に添付して販売すれば、著作権侵害です。

その商品説明書は、日本で制作された時から著作権のある著作物であったのですから、その一部を著作権者の同意を得ないで、勝手に改変したことで、「著作者人格権」の「同一性保持権」違反、次に著作者の同意を得ないで勝手に翻訳したことで、「著作財産権」の「翻訳権」違反です。

模倣品製造業者を追求するうえで、著作権は使える知財になるかもしれません。

日本の企業が海外の国で商標登録していなかったことに乗じて、海外のその国の業者が、勝手に当該日本企業の商標を登録してしまって、商標権を主張する事態が度々起きています。

このような事態に直面した某日本企業は、商標を「著作物」だとして、著作権違反で相手を追求し、商標登録の取消裁判を起こしました。

数年間の法廷闘争の末、裁判所は著作権法違反を認めて、その業者の商標登録を取り消しました。

このような例もあるのですが、一般的には、登録することで権利が認められる商標権の方が、創作した時に自然発生する著作権よりも、「強い」と言われています。

必ずしも、著作権を主張して商標権に勝てるとは限らないので、商標登録は、海外展開の具体的なアクションを起こす前に、必ず申請しておきましょう。

(5)食品業者は育成者権に注意「植物の新品種の保護に関する国際条約」(InternationalConventionfortheProtectionofNewVarietiesofPlants)は、この条約に基づいて設立された国際機関のフランス語の名称、「植物新品種保護国際同盟」(Union:internationaleUPOV)pourlaprotect、onvdesobtentions。

①78年条約と91年条約UPOV条約は、各国が共通の基本的原則に従って、植物の新品種を保護することで、優れた品種の開発と流通を促し、農業の発展に貢献することを目的として、1961年に最初の条約が作られ、1968年に発効した後、1978年と1991年に比較的大きな改正が行われて、現在に至っています。

1978年の改正条約を「78年条約」といい、1991年の改正条約を「91年条約」または「新条約」と言っています。

91年条約は、78年条約と比較して、育成者権が強化され、保護対象作物は、各国ごとに定めた「特定の植物」から、全品種に拡大されました。

加盟国のうちの8割近い国々が、91年条約を批准していますが、2割強の国は78年条約に留まっています。

日本は91年条約の加盟国です。

78年条約の国の方が、91年条約の国よりも、植物新品種に対する保護が弱いのですが、実は植物新品種に対する保護の仕組みがない、条約未加盟国の方が、数から言えばはるかに多い現実にあります。

つまり、外国の植物新品種が保護されない国の方が多いことに、注意しなければなりません。

②各国独自の品種登録制度UPOV条約に加盟している国は、UPOV条約が定めている共通の枠組みの中で、国内法によって、それぞれ独自の品種登録制度を敷いています。

日本では、「品種登録制度」が種苗法で定められています。

米国では、特許法と植物品種法で、植物の新品種を保護しています。

欧州連合(EU)には、域内共通で権利を取得できる品種登録制度があります。

アジアでは日本、中国、韓国、シンガポール、ベトナムの五ヵ国がUPOV条約締約国です。

台湾は条約未加盟、香港は適用対象外、中国は78年条約の批准国なので、種苗の輸出には注意が必要です。

他のアジアの加盟国は、91年条約を批准しています。

③育成者権の存続期間育成者権には存続期間という権利保護期間があります。

存続期間は、品種登録された時期が、1998年12月24日~2005年6月16日であれば、草本性植物20年、果樹、林木、観賞樹などの木本性植物25年、2005年6月17日以降の登録であれば、草本性植物が20年、木本性植物が25年です。

④育成者権の効力種苗法に基づいて登録されている植物の苗や種子は、植物育成者権を持っている権利者の同意がなければ、その種や苗などを海外に持ち出すことも、海外で生産することも、その収穫物を輸入することもできません。

特に、食品業界で、海外とビジネスをしている人は、他人が保有している育成者権を侵害しないように気をつけなければなりません。

違反者は、個人の場合、10年以下の懲役または(および)1,000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が科されます。

場合によっては、刑事告発を受けて、懲役に処されることもあります。

⑤効果的な育成者権と商標権の取得育成者権は、25年や30年で存続期間が満了します。

育成者権を取得する際に、品種の名称を商標権として取得しておくと、育成者権の存続期間が終了してからも、ブランドの力で、マーケットを維持継続することができて、効果的です。

育成者権だけでなく、商標権も併用して活用することをお勧めします。

⑥育成者権侵害例育成者権の侵害例の多くは、種苗が、権利者の許諾を得ないで海外に密輸され、海外で栽培され、その収穫物や加工品が日本に輸入されたり、東南アジアの国に輸出されたりするケースです。

日本に輸入される場合、権利者は、税関に対して輸入指し止めを請求して、輸入を止めることができますが、日本以外の国に輸出された場合は、打つ手がありません。

今までに種苗法違反として摘発されたケースで、特に目立つのが、中国と韓国です。

韓国は、いちごの「あまおう」を日本の育成者権者の同意を得ないで、勝手に自国に持ち出して栽培し、香港向けに安値で輸出して、日本の市場を奪っています。

韓国は、91年UPOV条約締約国です。

(種苗密輸と収穫物の日本、東南アジアへの輸出事例)

海外で増殖して、日本に輸入する目的で、種苗を手持ちで海外に持ち出す場合、必ず育成者権の有無を確認し、権利者がいるのであれば、海外に持ち出すこと、海外の国で増殖すること、そしてその収穫物(または加工品)を日本に輸入することの許諾を権利者から書面でもらうようにしましょう。

第九章 輸出オファー価格の算定方法とオファーシート・価格表貿易知識のない企業が、海外バイヤーと商談して、バイヤー側から「この商品の値段はいくらですか?」と聞かれると、「工場出し値で○○円です」とか、「国内での卸値は○○円です」と、答えているケースを数多く見てきました。

しかし、これで成果があがるのは、ごく稀なケースでしかありません。

「貿易の基本」を知らずして、取引先候補と商談しても、会社経費の無駄使いに終わるだけです。

海外バイヤーと商談したり、具体的な取引を期待して、海外展示会に出展したりするのであれば、インコタームズの定型取引条件を使った価格を提示できなければ、商談になりません。

この章では、コンテナ貨物の輸出価格を算定する方法とオファーシート・価格表について学びます。

1.輸出オファー価格の算定方法輸出オファー価格の算定は、重要な貿易の実務です。

輸出商品に関わるコストは、売買契約が成立して契約が履行されれば、最終的には買主が全部負担することになります。

しかし、輸出オファー価格に、コスト算入漏れがあれば、その部分のコストは売主が自腹を切ることになります。

輸出オファー価格の算定は、遺漏のないように、すべてのコストが、織り込まれるようにしなければなりません。

(1)商品の製造・販売原価輸出する商品が自社製造品の場合は、「製造原価」に「販売費」と「一般管理費」を加算して「製造・販売原価」を算出します。

外部から購入した商品を輸出する場合は、仕入原価に販売費と一般管理費を加算した金額が、「仕入・販売原価」となります。

「販売費」と「一般管理費」のコスト算入を見落としていると、輸出すればするほど、赤字になってしまうこともあり得るので、これらは、必ずコストとして算入するようにしましょう。

(2)表示ラベルの費用を算定する商品によっては、輸出先国(地域)の法令によって、決められた項目を、その国(地域)の言語で、包装上に表示することが義務付けられています。

このような商品では、輸出商品の包装を新たに作るための費用がかかります。

これも工場出荷前にかかるコストとして、パッケージやラベルの印刷業者に見積もってもらい、工場出し値(EXW価格)の中に算入するようにします。

(3)輸出梱包コスト輸出梱包は、長距離の輸送に堪えることができる、丈夫な梱包でなければなりません。

強度が弱い梱包をして輸出し、輸送途上で荷崩れなどが起きても、保険会社は、荷崩れとなった原因は、輸送が開始する前からあったもので、輸送に起因するものではないとして、保険による賠償を認めてくれません。

ですから、国内販売で使っている梱包よりも、強度の高い梱包が必要です。

梱包資材の供給業者に、見積もってもらいます。

上記(1)~(3)(下記「輸出価格の算定」の表では①~③)の合計金額が、EXW(工場渡し)価格となります。

(輸出価格の算定)

(4)各種許可証・証明書等取得費用日本から輸出するために、日本の関連法令で、証明書や許可証を取得しなければならないものがあります。

例えば、経済産業省が行っている、安全保障貿易管理に抵触する恐れのある貨物を輸出するには、経済産業大臣の許可が必要です。

詳しくは「第十一章 貿易における22種類のリスク」で解説します。

その他、文化財保護法、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、狂犬病予防法、家畜伝染病予防法、植物防疫法、道路運送車両法などの法令が定める規制品目の貿易には、それぞれ関係官庁の認可が必要です。

これらの関連法令を、「その他法令」と総称しています。

「その他法令」が定める証明書等の中には、フォワーダーが手配してくれるものもありますが、基本的に税関への輸出申告をする前に、売主が取り揃えてフォワーダーに渡します。

また、国(地域)により、あるいは輸出アイテムにより、動物検疫合格証明書や植物検疫合格証明書、放射線物質検査証明書、衛生証明書などを必要とする場合もあります。

(5)原産地証明書原産地証明書については、「第二章 国際物流の基礎知識」→「4.物流に関わる重要な書類」→「(2)船積書類」→「④原産地証明書」で説明しましたとおり、「一般原産地証明書」、「特定原産地証明書」(第一種と第二種)および「特定原産品申告書」の3種類があります。

必要により、売主が手配します。

なお、EPA協定に基づく原産地証明書の発給は、手続きの煩雑さ等の要因で、利用可能なケースの約半分程度しか利用されていないようです。

買主側の仕入コストを低減して、商品の販売競争力を直接的に高めることができる重要な書類ですから、世界のコンペティタ-との競争力を最大限に発揮するためにも、EPA協定に基づく原産地証明書が活用できる時は、是非活用するようにしましょう。

(6)引渡場所までの運送費(EXW・FCA・FAS・FOBの場合)EXWまたはFCA契約の場合で、自社工場か自社倉庫でバンニングするのであれば、「引渡場所までの運送費」は発生しませんが、その場合であっても、FCA契約であれば、売主に積込費用が発生します。

積込費用も輸出コストの一部です。

EXW契約の場合は、買主が輸送車両に積み込みますから、売主に積込費用の発生はありません。

EXW契約やFCA契約で、貨物の「引渡場所」が、CFSやCY等の外部の場所であれば、そこまでの運送費は売主の負担です。

自社の運送手段で輸送するのであっても、そのコストは自社で計算します。

外部の運送会社に輸送を委託するのであれば、運送会社に輸送費用の見積もりを依頼します。

国内運送業もかねているフォワーダーであれば、フォワーダーに見積りを依頼します。

FAS契約の場合は、売主が、「引渡地点」である本船船側に貨物を置くまでの運送費用を負担します。

FOB契約であれば、貨物の引渡時点は、本船船上に貨物が置かれた時ですから、それまでの運送費用と船積費用は、売主の負担です。

フォワーダーが指定する港湾内の場所まで、自社の運送手段で輸送するのであれば、そのコストは自社で算出します。

外部の運送会社に輸送を委託するのであれば、運送会社にその費用の見積りを依頼します。

国内運送業をかねているフォワーダーであれば、フォワーダーの手配で、貨物を引き取りに来てもらうことも可能です。

この場合、フォワーダーに見積もってもらいます。

(7)検査費用・輸出通関費用・船積諸掛りおよび仕向地までの運送費(CPT・CIP・DAP・DPU・DDP・CFR・CIFの場合)EXW以外の定型取引条件で契約する場合、売主は、輸出通関手続きをして、輸出許可を取得する義務を負います。

売主は、通常、これらの業務をフォワーダーに委任します。

EXW契約の場合、売主は国内取引となりますから、フォワーダーからの見積もり取得は不要ですが、EXW以外の定型取引条件では、売主はフォワーダーに、輸出のための数量・重量などの「検査費用」、「輸出通関諸費用」、「船積諸掛り」の見積もりを依頼します。

更に、CPT・CIP・DAP・DPU・DDP・CFR・CIF契約の場合、売主は仕向地までの運送費を負担しますから、フォワーダーに書面で見積もってもらいます。

税関に支払う「輸出申告費」などは定額ですから、どのフォワーダーの見積もりでも同じ料金ですが、運送費用やフォワーダーの手数料などは、フォワーダーによって同一料金とは限りません。

複数のフォワーダーから、見積書を取って、比較検討することをお勧めします。

CPTまたはCIP契約であれば、「指定仕向地までの運送費」を、フォワーダーに見積もってもらいます。

(8)銀行決済諸掛り決済のための費用は、銀行から見積書か料金表を取り寄せます。

決済方法によって、費用が大きく違いますから、決済方法を決めて相談するようにします。

契約書の銀行諸掛りの条項で、「すべての銀行費用は売主が負担する」となっていれば、買主が開設するL/Cの開設費用やアメンド費用まで、売主が負担することになります。

後述する契約書の記載内容にも注意が必要です。

(9)貿易保険料NEXIに貿易保険料を問い合わせます。

取引している金融機関が、NEXIと提携関係にある場合、その金融機関を通じて、NEXIに「中小企業・農林水産業輸出代金保険」を申し込めば、保険料が10%割引になります。

(10)PL保険料製造物責任(ProductLability:PL)保険をかける必要がある場合、各地にある商工会議所に加盟している中小企業であれば、商工会議所の「中小企業海外PL保険制度」を利用できます。

申込窓口は、損害保険会社となっていますから、所属している商工会議所に確認したうえで、その保険会社に見積もってもらうようにします。

(11)損害保険料「第五章 物流リスク」の「3.損害保険の種類」、「(4)売主・買主がかけるべき保険」にあるように、物流リスクをヘッジするための損害保険は、売主も買主も必ずかけます。

CIP・CIFとDで始まる定型取引条件(到着ベースの定型取引条件)を使って契約する場合は、売主が外航貨物海上保険をかけ、買主は(必要であれば)国内運送保険をかけて、貨物が国際間を移動している間は、必ず保険がかかっている状態にします。

FCA、CPT、FAS、FOB、CFRの場合は、売主が国内保険を付保し、買主が外航貨物海上保険をかけます。

但し、FCAまたはCPTでの契約で、売主の工場や倉庫でバンニングしたり、トラックに積んだりする場合、買主が工場・倉庫を起点とする外航貨物海上保険をかければ、バンニングする際に、貨物がフォークリフト等から落下して破損しても、買主が付保する外航貨物海上保険でカバーされます。

そのため、売主は「無保険」で構わないのですが、FCA・CPT契約では、買主は売主に対して、保険をかける義務は負っていないため、買主が保険をかけていなければ、売主も救済されないことになります。

損保会社に、荷渡場所(指定地)までの損害保険料の見積もりを依頼するか、あるいは、フォワーダーが損保会社の代理店をやっていれば、フォワーダーに見積もりをお願いすることもできます。

(12)仕入れに関わる還付消費税消費税課税業者は、輸出売上や国際輸送料に対する消費税が免除されます。

輸出免税を受けるためには、輸出許可書などの書類が輸出取引の証明として必要です。

輸出商品には、商品や原材料を仕入れる段階で、消費税と地方消費税が含まれています。

そのため、輸出した場合、消費税申告の際に、仕入税額の控除を起こすことによって、輸出商品のコストが減額となります。

(13)費用発生から代金回収までの金利輸出商品を製造あるいは調達した時から、輸出した商品の代金が入金するまでの期間の金利計算をします。

計算対象の期間は概算で構いません。

銀行から借り入れを起こしていなくても、仮想金利としてコスト算入します。

(14)利益以上(1)~(13)の合計額に、利益を加算すると、日本円建ての輸出オファー価格になります。

(15)米ドル建て価格想定レートを設定したうえで、米ドル価格を算出します。

①想定レートの設定円建ての価格が出たら、安全を見て、現状のドル/円の為替レートから3~5円程度円高の為替レートを想定レートとして設定します。

②米ドル価格算出上記(14)で算出した円建て価格を上記想定レートで割れば、米ドル建てのオファー価格が出ます。

商談中、実勢レートの方が、想定レートより円安で推移していれば、この想定レートで算出した米ドル建ての価格を維持しながら、商談を進めます。

2.オファーシートと価格表輸出オファー価格を算出したら、商談時に使う「オファーシート」(サブコン条件付き)を作成します。

単品の商売であれば、「オファーシート」の様式が便利ですが、商品が複数あったり、同じ商品でも梱包ごとに入り数が異なったりする場合、商品ごとあるいは梱包ごとの価格を算出して、一覧性のある価格表(Estimate)を作ると良いでしょう。

(1)オファーシート単品の場合、オファー価格が算出できたら、レターヘッドを使ってオファーシート(サブコン)を作ります。

レターヘッドとは、用紙のヘッダー(またはフッター)に社名、住所などを入れた用紙のことです。

(オファーシートの例)

(2)価格表商品が複数あったり、同じ商品でも梱包ごとに入り数が異なったりする場合は、商品ごとあるいは梱包ごとの価格を算出して、一覧性のある価格表(Estimate)を作成します。

やはり、レターヘッドを使います。

(価格表の様式例)

①MOQ(最少発注可能数量:MinimumOrderQuantity)売主には、モノにより「最少出荷数量」があるでしょうし、フォワーダー側でも、モノにより「最少輸送引受数量」を設けているでしょう。

ですから、少なくともフォワーダーの「最少輸送引受数量」を確認したうえで、自社としてこれ以下の数量の注文はお受けできませんというMOQ(MinimumOrderQuantity:。

②梱包(Packing)コンテナ輸送では、コンテナへの積載可能数量を算出するため、外包装(OuterCarton)のサイズと風袋込みの重量(GrossWeightperCarton)を明示すると便利です。

③サブコンオファー価格はサブコンであることを明記(Abovepricesaresubjecttoourfinalconfirmation)しています。

支払い条件と船積時期は、一つの例として記載してあります。

第十章 契約書の基礎知識貿易では、契約面からも、リスクを最小限に抑える必要があります。

そのために、売主に有利な契約条項とはどういう内容なのか、買主に有利な契約条項とはどのような内容なのか、あるいは売主と買主の双方に、対等あるいは相互主義的な内容の契約条項とはどういうものかを知っておけば、商談を有利に進めることができます。

国内取引では、契約書を交わさないで取引することが商慣習になっている業界もありますが、貿易では契約書を作らない商慣習になっている業種はありません。

貿易では、契約書を作成してそれに当事者が署名することが、「貿易の商慣習」です。

「商談」とは、契約条項を詰めていく過程のことです。

契約条件を詰め切った段階で、合意事項を確認するために、契約書を作るのは「貿易の基本」の一つです。

1.契約書とは?貿易商談では、「貿易の商慣習」に従って、オファー、ビッドのやり取りを経て、売主か買主のどちらかが、相手が提示した一括条件であるオファーまたはビッドをアクセプトして、その回答が相手方に届いた瞬間に、契約が成立します。

契約が成立すれば、契約書の有無に関わらず、契約は有効に存在することになります。

しかし、問題は、当事者間で契約を巡って紛争が発生した時、「商談で合意した」、「合意していない」の議論をしたところで、水かけ論に終わるでしょう。

契約書を作っていなければ、契約の内容を証明するものは、何もありません。

紛争が起きても、解決する拠り所がないことになります。

(1)契約書はあれば良いのか?「契約書は、特別に定義された言葉が必要だから難しいもの」という心理的な抵抗感からか、「契約書があれば良い」と考える人が少なくありません。

「英文の契約書の雛形が欲しい」という相談者は少なくないのですが、「英文契約書雛形の各条項の意味はお分かりでしょうか?」と質問すると、多くの人が「いいえ! 契約書があれば良いのです」と答えます。

契約書の雛型をそのまま使えば良いと考えているのでしょう。

しかし、取引の実態は、契約書の雛形より柔軟性に富んだものが多いので、ほとんどの場合、契約書の雛形のままでは、取引の実態を反映した内容になりません。

取引の実態を反映しない契約書は、好ましくありません。

雛形をベースとして、契約書の内容を商売の実態に即した形に手直しする、知識と能力を身につける必要があります。

そのためには、いきなり英文契約書の雛形を求めるのでなく、日本語で契約書の各条項の意味を、しっかりと理解しておくことが基本になります。

本章では、国際契約書に盛り込まれる契約条項について、「日本語」でその意味や重要度などを解説し、売主に有利な条項、買主に有利な条項、売主と買主の双方に対等あるいは相互主義的な内容の条項がある場合は、それらについての解説と例文も呈示しています。

これらを理解することで、英文契約書の雛形を見ても、各条項の意味が理解しやすくなるだけでなく、商談を有利に行うことができるようになります。

日本語で理解できていないものが、英語で理解できるはずがありません。

また、取引相手が出してくる契約書は、相手方に有利な、つまりこちらに不利な契約書の内容になっています。

この場合でも、自らに有利・不利、あるいは双方に対等か相互主義的な条項の表現の仕方を知っていれば、各条項に対して、修正意見を相手方に示して、交渉することができます。

これができなければ、相手が提示する契約書にそのまま署名して、不利な取引を強いられることになってしまいます。

ちなみに、「契約書は、特別に定義された言葉が必要だから難しいもの」ではありません。

契約当事者同士の理解に、齟齬の生じることのない文言を使った契約書であれば、立派な契約書です。

特別な言葉や難しい言葉を使った「立派な」契約書でも、契約当事者同士が、異なった解釈ができる契約書であれば、「良い契約書」とは言えません。

(2)良い契約書とは?大企業の場合は、紛争が起きても、体力がありますから、裁判でも商事仲裁でも、戦う方法はあります。

大企業が目指す契約書は、「戦って勝てる契約書」です。

しかし、紛争が起きても十分に戦う体力のない企業は、契約違反をしないような取引相手を選んで、契約違反しにくい契約書、相手が訴えを起こしにくい契約書、問題が起きても話し合いで解決するしかない契約書を目指すべきです。

つまり、「良い契約書」とは、「戦わない契約書」なのです。

①契約を守ってくれる取引相手選び相手が、契約違反ばかりするので、「契約は、守るのが当たり前ではないか!」と息巻く人がいます。

しかし、国際間の取引、特に新興国との取引では、契約が守られないことが起きるのも現実です。

現実を直視すれば、「契約は守られないことがある」という前提で契約すべきです。

この前提で考えると、契約書は、相手が契約を守らざるを得なくなるような、いささかの曖昧さも残さない、きっちりとした内容でなければなりません。

先進国との取引は別ですが、新興国とのビジネスで、相手が必ず契約を守ってくれるのであれば、これほど楽な商売はありません。

「契約は契約だ!」の考えは正しいのですが、一歩、日本の外に出れば、それは日本の常識に過ぎません。

契約を守らないつもりで、契約する人などいないと思われるかもしれません。

しかし、新興国では、「とりあえず契約をしておいて、有利な環境であれば契約を守ろう。

不利な状況になれば、契約は履行しない!」と考える人が少なくないのです。

明治大正期、当時のヨーロッパの古い記録文書の中に、「日本人は契約を守らないから気をつけるべし」という記述があるそうです。

1950~60年代、われわれの先輩たちが、「韓国、台湾は、契約を守らないから気をつけろ!」と言っていたことが記憶にあります。

今では、「韓国、台湾は、契約を守らないから気をつけろ!」という人はほとんどいません。

企業は、資産を蓄積して余裕が出てくれば、契約を守るようになります。

新しい取引先候補に対して、資産状況を調査したり、信用調書を取り寄せたりして、その企業に対する販売与信枠を設定します。

つまり、与信枠の大小を設定する重要な判断材料は、相手企業の資産の多寡であることを、国内ビジネスであれば、誰でも知っています。

これは、海外ビジネスでも同じです。

契約違反をしない取引相手選びの基本は、相手企業に十分な資産があるか否かを調べて、取引先を選別することです。

②契約違反しにくい契約書作り契約交渉で、遠慮なく、徹底して、お互いに議論を戦わせることが肝要です。

契約書に署名してから口論になる契約書は、最悪です。

いささかの曖昧さをも残さないようにすることが大切です。

「不良品については、双方協議のうえ解決する」という文言を契約書に書いても、何の意味もありません。

「双方協議のうえ解決する」とは、「解決方法は決めていない」と書いてあるのと同じです。

肝心なことは、不良品が出たら、具体的にどうするかを契約書の中で決めておくことです。

契約書作りでは、契約履行の過程で起こり得ることを想定し、それが起きた場合は、具体的にどのように解決するかを決めます。

お互いに、自らの主張に近い解釈ができるように、玉虫色の表現で妥協してはなりません。

十中八九、玉虫色にしたその部分で、揉め事が起きるものです。

国内取引の契約書で良く見られる「双方協議のうえ、解決する」は、国際契約書では、意味をなさないことを心に銘記しておきましょう。

③相手が訴えにくい契約書作り紛争を解決する最善の方法は、当事者同士が話し合いで解決することです。

裁判をしたり、商事仲裁をしたりすれば、弁護士などの第三者に支払う多額のカネが必要です。

話し合いで解決すれば、第三者への支払はゼロですから、裁判や仲裁に必要な第三者に払うカネの、何分の一で済むと考えれば、話し合いの結果、お互いに「痛み分け」で解決できるではありませんか。

「話し合い」、これが最も出費が少なくて、かつそのつもりであれば、最短の時間で解決を見ることができる最善の策です。

しかも、裁判や商事仲裁で戦えば、取引相手とは「戦闘モード」になりますから、それ以降の取引関係は切れてしまうでしょう。

「話し合い」で円満解決すれば、お互いの信頼関係が、従前にも増して強固になることさえあります。

契約書には、紛争処理条項と呼ばれる条項を入れますが、あくまでも、「戦う」ための条項ではなく、「戦わない」ための条項としての趣旨を、商談の際に相手に説明することです。

詳しくは、本章の「8.売買契約の一般条項(GeneralTerms&Conditions)」の「(14)紛争処理(DisputeSettlement)」で、詳しく説明します。

2.契約書式の戦い貿易には、「契約書式の戦い」(BattleofContractFormat)があります。

それは、契約書式を用意した側が、有利な条件で契約できるという「先手必勝」を意味する言葉です。

契約書式をあらかじめ作っておいて、主要条件の交渉が妥結すると同時に、自社の契約書式を相手方に提示して、署名を求めます。

契約書式は、通常、自社の権利はできるだけ多く、義務はできるだけ少なく、相手方の権利はできるだけ少なく、義務はできるだけ多い内容で作成するものです。

相手方は、契約書式を提示されると、契約書の各条項を理解できる人であれば、自社に不利な条項が数多く記載されているので、修正を要求するでしょう。

しかし、たいていの場合、主要条件の交渉で、お互いに粘りに粘って商談するため、売主が納期どおりに貨物を出荷して、買主が貨物を必要な期限までに輸入するだけの、余裕ある時間はそれほど残っていないものです。

契約書式をベースに、各条項の修正交渉をしても、最終的には時間切れになり、契約書式を提示された側は、満足のいく修正ができないまま、署名せざるを得なくなるのが「落ち」です。

結局、契約書式を出した側に有利な契約内容で契約が成立する、これが、先手必勝の「契約書式の戦い」です。

契約書の重要性を認識していないと、相手が提示してきた契約書を十分チェックしないで、そのまま署名してしまい、後で不利な状況に追い込まれてしまうことがあります。

商談に臨む前に、あらかじめ自社の契約書式を作っておくことが肝要ですが、仮に相手方が作った契約書式を提示しても、契約書の各条項の意味を理解し、売主に有利な書き方、買主に有利な書き方、対等あるいは相互主義の書き方を知っていれば、即座に対案を提示して、不利な条項を是正させることができます。

こうした知識がなければ、相手の出してきた契約書式に、そのまま署名するしかありません。

貿易の営業マンとして、契約書に関する知識と能力は必須です。

3.契約書式の戦いに対する救護策「契約書式の戦い」では、契約書式を用意した側が有利に契約できることが多いことから、ユニドロワ原則には、この弊害を緩和する考え方が明記されています。

(1)ユニドロワ原則日本の法務省を含む政府機関によって構成される「国際私法統一協会」(TheInternationalInstitutefortheUnificationofPrivateLaw:ユニドロワ)は、特定の国の法的伝統や政治経済状況に拘束されることなく、国際取引に適用される、均衡のとれた準則の確立を目的として、「ユニドロワ原則」(UPICC)を制定しています。

ユニドロワ原則とは、「国際商事契約原則」(UNIDROITPrinciplesofInternationalCommercialContracts:通称「ユニドロワ原則」:略称UPICC)のことです。

ユニドロワ原則の最新版は「ユニドロワ原則2010」です。

ユニドロワ原則(UPICC)では、定型約款を提示されて、その中身も良く読まないで契約してしまい、後日、契約書の文言をめぐって意見が対立した場合、「定型約款のうち、相手方が合理的に予期しえなかった性質の条項は効力を持たない」としています。

また、契約当事者双方が、お互いに自社の定型書式を提示してそれらに署名した場合を想定して、「当事者双方が、定型条項を使用し、これらの定型条項以外について合意した時は、契約はその合意された内容および定型条項のうち、内容的に共通する条項に基づいて締結されたものとする」としています。

商談が妥結して、相手側が先に契約書式を出してきた場合、自社の契約書式をベースに、契約の細部を詰めるように提案します。

相手方の契約書式をベースに細部を詰める場合、自社に不利な契約条項は、修正を求めるようにします。

あるいは、ユニドロワ原則に従って、売主が出した契約書式と買主が出してきた契約書式の両方にお互いが署名し、両契約書の記載内容が同一の条項だけを発効させるという方法もありますし、一般条項の交渉で、お互いに妥結できないのであれば、契約を見送る選択肢もあります。

契約条件は、売主と買主のビジネスでの力関係が大きく左右しますから、こちら側の力関係が相手よりも強いのであれば、強気に出ても問題ないでしょう。

ちなみに、中国は、国内法である「契約法」で、契約の解釈をめぐって意見が対立した際は、定型書式を用意した側に不利な裁定をすると明記しています。

これは、ユニドロワ原則の考え方を、国内法に反映したものです。

(2)裏面約款契約書の表側に契約の主要条件を、書き込むようにしてあって、その裏面に、一般条項を小さな文字で印刷してある契約書があります。

契約書の裏面に印刷してある契約条項を「裏面約款」と言います。

これも定型書式の一種です。

裏面約款付きの契約書の表側を「タイプ条項」、裏面約款を「印刷条項」と呼ぶこともあります。

(3)定型書式提供側に不利とならないための防御策紛争になった時に、契約書式を提示した側に不利な判断をされないようにするには、定型書式のまま、あるいは裏面約款のまま、修正なしで署名するのでなく、相手方に「修正しなくて良いか」と注意を喚起し、一ヵ所だけでも良いの

で、必ず手書きで修正し、その修正箇所に双方が署名するようにします。

こうすれば、一方的に契約書式を相手方に押しつけて契約したのではなく、相手方が契約の隅々まで吟味し、納得したうえで署名したという証左になります。

これによって、「定型約款のうち、相手方が合理的に予期しえなかった性質の条項は効力を持たない」というユニドロワ原則の前提条件を否定する論拠になることが期待されます。

4.買手有利のウィーン売買条約貿易環境を形作るものに、「国際物品売買契約に関わる国際連合条約」(通称、ウィーン売買条約、UnitedNationsConventiononContractsfortheInternationalSaleofGoods:CISG)」があります。

この条約には、申し込みと契約の成立、当事者の権利義務、危険の移転と契約違反に対する救済などの内容が盛り込まれています。

日本は、2008年の国会でこの条約を承認し、2009年8月1日から、この条約を発効させました。

締約国には欧米諸国が多く、アジアでは、中国、韓国、シンガポール、日本、モンゴル程度に留まっています。

ウィーン売買条約は、締約国の企業同士が締結した契約書であれば、条約が自動的に適用されます。

しかも、全体としてこの条約は、「売主不利」、「買主有利」の内容になっています。

ただし、ウィーン売買条約は、全条項が任意規定なので、契約書に条約と異なる記述があれば、その部分については、個別契約が優先適用となります。

欧米向けの輸出が多い日本の大企業の多くは、契約書で「国際物品売買契約に適用される国際連合条約の適用を全面排除する」としています。

これを「オプトアウト(適用除外)」といいます。

ウィーン売買条約の適用をすべて排除することも、あるいは一部だけ排除することも可能です。

なお、ウィーン売買条約は、物品の売買だけに適用されるもので、サービス貿易には適用されません。

(1)瑕疵担保責任の期間は最長2年間ウィーン売買条約は、「買主が、合理的な期間内に不適合の性質を特定した通知を売主に行わなければ、物品の不適合を援用する権利を失う。

ただし、物品交付の日から最長で2年以内」としています。

瑕疵担保責任の期間が、物品の引渡から最長2年間となっているので、2年間もの間、品質保証をすべきでない商品であれば、契約書で、適切な期間の瑕疵担保期間を決めておかなければなりません。

契約書を交わさないで取引していると、2年間の瑕疵担保責任を負うリスクに晒されているかもしれません。

(2)瑕疵による代金の減額条約では、「物品が契約に適合しない場合、代金がすでに支払われたか否かを問わず、買主は、代金を減額できる」としています。

これでは、買主が勝手に商品代金を減額することができてしまい、売主に不利です。

(3)支払義務の発生条約では、「当事者が別段の合意をしない限り、買主は、物品を検査する機会を有する時まで、代金支払の義務を負わない」としています。

当事者は、通常であれば契約で「別段の合意」をしますから、問題はないとしても、契約書さえ作らないで取引していれば、「別段の合意」があることを証明できません。

その場合、買主が物品を検査するまで、代金を払わなくても良いことになってしまいます。

(4)契約違反に対する予防的救済手段

条約は、「相手の契約違反が予想される場合、自己の義務履行を停止することができ、場合によっては履行前でも契約を解除できる」としています。

相手が契約違反しそうだと予想できれば、契約履行をやめても良いし、契約履行前に契約を解除できるのです。

これでは、契約が契約にならない可能性があります。

以上のように、ウィーン売買条約は、売主にとって無視できない問題点を含んでいます。

日本からの輸出の場合、自社の契約書式で「国際物品売買契約に適用される国際連合条約の適用を全面排除する」として、条約の適用を全面的にオプトアウトしておくべきです。

ただし、日本が輸入する立場であれば、ウィーン売買条約をオプトアウトする必要はありません。

5.英米法書式と非英米法の契約書契約書の構成は、欧米の正式な英文契約書の様式では、まず、契約書のタイトルに次いで、「この契約書は(ThisAgreement)」という主語で始まり、契約発効日ならびに契約当事者が、どこの国の法令の下で設立され存続している会社なのか、その社名と住所も含めて記載し、その次に、「以下のことを証明する(WITNESSETHTHAT)」の文言が来て、その次の「前文(Whereasclauses)」で、契約当事者それぞれが契約するに至った動機や目的を記載します。

そして、「そこで従って、両者は次のとおり合意する(NOW,THEREFORE,bothpartiesheretoagreeasfollows)」の文言で、いよいよ各契約条項の記述に入っていきます。

契約条項の冒頭には、「定義条項」(DefinitionsClause)がきます。

このように、正式な英文契約書は、定型様式が決まっていて、英米法の国同士の企業は、この書式に従って契約書を交わしています。

書式には、伝統的な書式に加え、簡易式の書式もあります。

(英米法の国の伝統的な契約様式)

(英米法の国の簡易式契約書式)

英米法以外の国の企業は、こうした英米法の国の様式にとらわれる必要はありません。

単刀直入に、「日本国・○○会社は、XX国・△△会社と、以下合意に達した」の出だしで、第一条という具合に、契約内容の記述に入っていくのが普通です。

複雑な契約の場合は、契約書の中で使う主な用語の定義を、冒頭で規定したうえで、契約条項を記載することも行われています。

(欧米以外の一般的な契約書式)

中国や東南アジアとの契約では、非英米法書式の契約書を多く見かけますが、最近では、中国やアジア諸国から欧米への留学経験者が増えている関係で、中国やアジア諸国でも、欧米式の契約書式で契約するケースが増加する傾向にあるようです。

6.契約書の種類契約書には、次のような種類があります。

(1)売買契約書契約書を作成する側が売主であれば、販売契約書(SalesContract)、買主が作成すると購入契約書(PurchaseContract)とすることが多いのですが、販売契約書であっても、購入契約書であっても、あるいは売買契約書(Sales&PurchaseContract)であっても、契約書のタイトル自体は、契約の内容に影響を与えないので、契約書のタイトルを巡って、相手と揉める必要はありません。

契約書は、当事者それぞれの「権利と義務」を記載するものなので、よしんば、契約書にタイトルがなくても、当事者それぞれの「権利と義務」が書かれていれば、立派な契約書と言えます。

契約書のスタイルには、スポット契約書と基本契約書の二つがあります。

①スポット契約書一回のビジネスだけのために作成する契約書を、「スポット契約書」と言います。

ビジネス条項と一般条項から構成されます。

ビジネス条項は、ビジネスの実態が忠実に反映されるように、取引対象の品名、規格、価格、数量、支払条件などを記載します。

一般条項とは、基本的にどの契約にも、共通して盛り込まれる条項を言います。

スポット契約書では、ビジネス条項も一般条項も、一つの契約書の中に書きこむ方法と、契約書の表面に、ビジネス条項のフォーマットを空欄で印刷し、契約書の裏面に、一般条項を印刷しておく裏面約款方式があります。

スポット取引の件数が多い場合、裏面約款方式が便利です。

②基本契約書同じ取引先と同じ商品を、繰り返し、頻繁に取引する場合、「基本契約書」という長期契約書を締結する方法が便利です。

「長期契約書」とは、通常、1年以上の有効期間の契約を言います。

基本契約書では、取引の基本的な事項を、契約書の本体で定め、具体的な取引の都度「個別契約書」を作成していく方法が一般的です。

基本契約書なしで、発注書と発注請書だけで取引しているケースも散見されますが、発注書と発注請書だけで商売するのは、国内取引の商慣習であって、国際取引にはこの商慣習はありません。

(2)その他の契約書

売買契約書の他に、「販売店契約書」や「代理店契約書」、加工賃を払って加工を委託する取引について取り決める「委託加工契約書」、特定の業務を外部の企業や個人に委託する「業務委託契約書」、自社の特許や商標などを、相手先が使うことを許諾する「ライセンス許諾契約書」、特定の技術を相手方に供与するための「技術供与契約書」、フランチャイザーと呼ばれるフランチャイズ事業者が、フランチャイジーと呼ばれる加盟者との間で締結する「フランチャイズ契約書」等々、それぞれの業態や取引形態に対応した契約書があります。

7.売買契約のビジネス条項ビジネス条項として契約書に記載する項目には、基本的に、品名、品質・規格、数量、単価、支払条件、包装条件、船積時期、船積港、荷揚港、(指定)引渡場所、(指定)仕向地、船積書類、マーキングおよび積替えと分割船積の可否等があります。

(1)商品名(CommodityName)契約が対象とする商品の名称を記載します。

(2)品質・規格(Quality&Specifications)品質・規格の決め方には、次に説明するような幾つかの方法がありますが、実際には、多くの場合、取引する品目によって、品質・規格を特定するための慣習的なやり方がほぼ決まっています。

その方法に従うことが、最も自然かと思われます。

①数値による条件長さ、幅、高さ、材質・材料、強度、色彩などで、主として数値で規格を記載します。

②国家規格等の条件JIS(日本工業規格)、JAS(日本農業規格)などの国家規格や業界団体が定めている等級で品質・規格を表示します。

品質・規格(Quality/Specifications)

③サンプル条件「品質・規格はサンプルと同じ」(aspersample)と規定します。

通常、売主と買主の双方が、契約時にサンプルを複数保管しておきます。

時間経過とともに、色や形、重量や容積などが変化するような商品の場合、サンプル条件で契約すると、紛争の原因になることがあります。

サンプル条件での契約は、契約する時には、簡単で便利ですが、紛争の起きやすさが欠点です。

サンプルは、あくまでも参考サンプルとしての位置づけとして、契約書では、できる限り、数値化した形で、品質・規格を定める方法が望ましいと言えます。

④特殊な業界基準穀物などの取引で使われるFAQ(平均中等品質条件:FairAverageQualityTerms)や、木材の取引で使われるGMQ(適正商品質条件:GoodMerchantableQualityTerms)といった品質・規格の決め方もあります。

ただし、FAQは、ほぼ無選別と同じ意味ですし、GMQは、品質規格を決めにくい木材の取引で使われるもので、売れることを売主が保証するようなものですから、他の業界では使えません。

一般的に広く使える規格の表示方法ではありません。

⑤ブランド・トレードマークブランドやトレードマークで、品質・規格を決める方法です。

ブランドやトレードマークが、高い品質や規格を保証していて、業界で不動のステータスを確立していれば、この方法で、品質・規格を表示することは可能ですが、通常の商品では使えません。

(3)数量(Quantity)数量の決め方も、それぞれの商品や業界によって、慣習がありますから、それに従います。

①数量単位の種類取引に使う数量単位は、商品によって、重量、容積、個数、包装数、長さ、面積などがあります。

重量では、トン(MetricTon:M/T)、キログラム(kilogram:kg)、ポンド(lb.)が使われることが多いのですが、トンには、M/T(MetricTon)の他に、国によっては、ロングトン(LongTon:L/T)やショートトン(ShortTon:S/T)を使うことがあるので、注意が必要です。

L/Tは1016.0469088kg、S/Tは907.18474kgです。

容積は、立米(m3)、バレル(barrel)など、個数では、個(piece)、ダース(dozen)。

包装数では、ケース(case)、バッグ(bag)。

長さでは、メートル(meter:m)、フィート(feet:ft.)、ヤード(yard:yd.)。

面積では平米(m2)、平方フィート(squarefeet:sift)などが使われています。

②増減の許容条件バラ積み貨物(在来船に積む貨物)の場合、契約どおりの数量や重量きっかりで、船積みすることは至難の業に近いので、契約書では、通常、数量の過不足を容認する条件を定めます。

「5%moreorlessatseller’soption」(5%以内の過不足は売主の任意)、あるいは「Quantity:5%moreorlessallowed」(数量:5%増減は許容される)といった文言を、数量条件欄に書き込みます。

5%は、商品によっては、3%や10%もあり得ますし、契約当事者の合意次第です。

なお、国際商業会議所(ICC)が定める信用状統一規則UCP600では、「L/Cが、包装単位の数または個々の品目数を記載しておらず、かつL/Cの金額を超えないことを条件として、物品数量の5%を超えない過不足が許容される」と規定して

います。

これは、平たく言えば、袋詰めの数が決まっていない、バラ積み貨物の場合、5%多く積むことも、少なく積むことも許容されるということです。

さらに、aboutとか、approximatelyと書いてあれば、10%までの過不足が許されることになっています。

これらは信用状統一規則のうえでの決まり事で、L/C決済で銀行が買取りを行う際の指針であっても、売買契約の当事者に向けてのものではありません。

従って、どこまでの増減が許されるかは、売買当事者同士の合意次第です。

③数量の齟齬を防止する方法バラ積み貨物の取引では、売主が船積みした数量よりも、買主の荷揚数量の方が少ないことが、頻繁に起きます。

水分の自然蒸発などで重量や容積が減るような商品特性がある場合、次のいずれかの方法で、紛争の発生を防ぐことができます。

・数量齟齬の許容率を決めておく(上記②の例)。

・減る分を予想して過積みする。

・輸出地での数量検査を以って確定とする積地最終条件(ShippedFinal)または仕向地に到着した時点での計量を以って確定とする揚地最終条件(LandedFinal)とする。

④重量測定方法重量の測定方法には、次に掲げるような方法があります。

・貨車貫:トラックや鉄道貨車車両に貨物を積んだままで、計量台の上で重量を計り、車両から貨物を降ろした後で、再び計量台の上で重量を計って、その差を貨物の重量とする方法が、貨車貫による計量方法です。

石炭や鉄鉱石のような在来船の船倉にバラ積みする貨物で利用される方法ですが、難点は車両の数が多いほど、誤差が大きくなりがちなことです。

・ドラフトサーベイ:船に貨物を積む前と貨物を積んだ後の、船の喫水線(船体が水面と交わる線)の差から、貨物の重量を算出する方法がドラフトサーベイ(喫水検査)です。

ドラフトサーベイによる計算は、比較的正確な重量が算出できるものの、世界各地の海水の比重は同じではありませんから、厳密に言えば、ある程度の誤差が生じることは避けられません。

・船上解袋:商品を数十キロ単位の定量で詰めた麻袋(GunnyBag)や、フレキシブルコンテナバッグ(FlexibleContainers:フレコン)を、船上で解袋しながらバルク積みする方法です。

解袋した麻袋やフレコンの数で積載重量を計算しますが、買主側が、解袋した袋が定量であったかどうかを、確認する方法がないことと、船上で解袋するため、どうしても袋の糸などの異物が貨物に混入することが、船上解袋の難点です。

・吊りベルト付きフレコン:クレーンで積み降ろしできるように、吊りベルトのついたフレコンに定量の商品を入れ、解袋しないでフレコンのまま、船倉に積み込み、積み込んだフレコンの数で重量を算出します。

フレコンを解袋しないこと、そのままの状態で仕向港(地)に輸送されることから、重量誤差が生じても、原因を確認しやすい特徴があります。

コンテナ貨物では、バンニングされた時点で、コンテナはシール(封印)されます。

税関検査でコンテナを開ける際、シールはいったん剥がされるものの、検査が終われば再びシールされ、シールされたまま輸入国に到着します。

コンテナ輸送の場合、輸送途上での抜き荷は、シールを壊さない限り不可能なため、積載した当初から数量が不足していたか、輸送途上で水分が蒸発して重量不足になるといった、自然欠減が原因で数量不足が起きる以外は、基本的に数量欠減になることはありません。

(4)単価と定型取引条件(UnitPriceandTradeterms)単価は、インコタームズの「定型取引条件」(TradeTerms)を使って取り決めます。

「定型取引条件」を「貿易条件」、「建値用語」と言う人もいます。

インコタームズの11ある用語の中には、売主にとって国内取引となるEXW、買主

にとって国内取引となるDDPがあるので、「貿易条件」の言葉ではすべての用語がカバーできませんし、「建値用語」では、標準価格設定に使う用語の意味になることから、インコタームズとはギャップがあります。

やはり、「定型取引条件」が良いでしょう。

(5)支払条件(Payment)

それぞれの支払方法の契約書記載例を紹介します。

①電信送金(TelegraphicTransfer:T/T)a)船積み前送金の場合:T/TRemittancebeforeshipment.  b)出荷後送金の場合:T/Tremittancewithin〇daysaftershipment(○の箇所には船積み後何日までの送金か、数字を入れます)c)契約後△日以内に代金の〇%を送金、残額は船積み後送金。

ただし、売主の銀行口座に代金が100%入金したことを確認後、直ちに売主はB/LをEMSで送付:T/Tremittanceforthe〇%ofamountwithin△daysaftercontracteddateandforthebalanceaftershipment.SellershallsendB/LbyEMSpromptlyuponconfirmingthat100%ofthecontractamounthasbeentransferredtoSeller’sbankaccount.(○および△の箇所には数字を入れます)②D/P・D/Aa)D/P決済の場合:DocumentagainstPayment(D/P)b)D/A決済の場合:DocumentsagainstAcceptance(D/A)at〇dayssightafterB/Ldate(○の箇所には船積み後何日までの支払か、数字を入れます)③信用状 信用状の場合は、開設予定の銀行名も入れます。

a)一覧払い信用状の場合:IrrevocableLetterofCreditatsighttobeissuedbyXXBank,HongKongb)ユーザンス付き信用状の場合:IrrevocableLetterofCredit〇daysaftersighttobeissuedbyXXBank,HongKong(○の箇所には船積み後何日までの支払か、数字を入れます)支払条件は、貿易取引で最もリスクの高い部分です。

輸出代金を取り損ねれば、大企業は別ですが、通常、相手に強制的に支払わせる現実的な方法はありません。

唯一、回収できることがあるとすれば、相手が自主的に支払う気持ちになって払ってくることだけです。

決済条件は、このことを十分認識して取り決めます。

リスクがある決済方法の場合、必ず貿易保険にリスクヘッジします。

貿易保険付保が、何らかの理由で断られるのであれば、契約は見送ります。

これは、安全に貿易取引を行うための「貿易の基本」です。

(6)包装(Packing)契約書に、単に「Seller’sExportStandardPacking」と書くケースもありますが、こうした実質的な意味のない言葉を書くよりも、具体的な梱包内容を記載する方が、荷扱いの面で実務的です。

(記載例)a)バラ積み貨物:Bulk(またはinBulk)b)フレコン貨物:FlexibleContainer.Eachcontainer50kgsgrossfornet.(風袋込み50kgフレコン)「GrossforNet」とは、風袋込みの重量(GrossWeight)を正味重量(NetWeight)と見做すという意味。

定量の麻袋や、フレコンのまま、解袋しないでバラ積みするのであれば、そのバッグ数を○,○○○bagsのように表示します。

c)コンテナ貨物:Tobepackedin3plykraftpaperbag,with1plyPEinnerbag,eachcontaining20pieces.30bagspackedinaCartonBoxandthen450Boxesina20’Container.CartonSize:○X○X○cm.(一層のポリエチレンを内張りした三層クラフト紙製の袋、各袋20個入り、1カートン30袋詰め、20フィートコンテナに450カートン。

カートンサイズ:○○○。

(7)船積時期(TimeofShipment)船積時期の決め方には、下記のような「期間を指定する方式」と「特定の起点から期間を指定する方式」があります。

①期間を指定する方式(船積時期の指定方法)

②特定の起点から期間を指定する方式上記のように船積時期を期間指定する方法以外に、「L/Cが到着した後〇日以内に船積」という船積時期の指定方法があります。

例えば、「Shipmenttobemadewithin〇daysafterreceiptofLetterofCreditwhichtheBuyershallopenbytheendofOctober」としますと、「10月末日までに買主がL/Cを開設し、そのL/Cが到着してから〇日以内に船積みする」の意味になります。

この決め方は、L/Cが到着していない状態で、生産(調達)手配を余儀なくされて、最終的に契約破棄されてしまったり、船積時期直前までL/Cが開設されなかったりして、契約破棄のリスクに晒されながら、生産(調達)手配をせざるを得なくなる事態を避けるための決め方です。

「〇days」は、L/Cが到着してから生産(調達)を手配し、さらに船積みに要する日数を計算してその日数を、リードタイムとして設定します。

なお、船積日はB/LやSWB等の発行日、コンテナ専用船に積む場合は、「OnBoardNotation付きの船積船荷証券(ShippedB/L)または海上貨物運送状(ShippedSWB)」が発行された日、航空貨物の場合は、AWBの発行日です。

(8)船積港・荷揚港(PortofLoading・PortofDischarging)船積港と荷揚港は、ビジネス条項に欠かせない条項です。

(9)引渡地と仕向地(PlaceofDelivery&PlaceofDestination)EXW、FCA、FAS、FOB契約の場合、定型取引条件の右側に、貨物の引渡地(船積港)を記載します。

一方、CPT、CIP、CFR、CIF契約では、定型取引条件の右側に、貨物の仕向地(荷揚港)を記載します。

DAP、DPU、DDPでは、貨物の引渡地と貨物の仕向地は、輸入国の同一の場所となり、やはり定型取引条件の右側に具体的に記載します。

定型取引条件の右側には、引渡地(船積港)と仕向地(荷揚港)のいずれかを記載するだけで、両方を記載することになっていません。

定型取引条件では、それでも支障ないこともありますが、買主が外航貨物海上保険を的確に付保するためには、FCA、CPT契約の場合のように、両方が明確になっていないと支障が出るケースもあります。

EXW、FCA、FAS、FOB契約で、売主が貨物の仕向地(仕向港)を知らなくても、あるいはCIP、CIF契約で貨物の引渡地を買主が知らなくても、支障はないのですが、契約書のビジネス条項欄中に、「引渡地」(引渡港)と「仕向地」(仕向港)の記載欄を設けておき、両方とも記載する習慣を養っておくと良いでしょう。

①引渡地(PlaceofDelivery)の明記FCA契約では、FCA〇〇Factoryのように、引渡地点をFCAの右側に明示します。

外航貨物海上保険は、引渡地を開始時点として、買主がかけるので、買主はあらかじめ、貨物が売主の工場(倉庫)でバンニングされるのか、あるいは外部のCFR等の倉庫で運送人に物理的に引き渡されるのかを、知っておく必要があります。

そのため、FCA契約での契約書には、引渡場所を具体的に記載するようにします。

CPT、CIP契約では、CPTHong、kongのように、これらの用語の右側に、仕向地(PlaceofDestination)を表示しますが。

輸出国での引渡地(、laCPTのf場el合veのy)引は渡表地示はしません、自ら契約した運送人に貨物を引き渡した時。

または貨物の、売主と買主が運送人に移した時です、引渡地について合意していなければ、売主の任意で引渡場所を決める、買主が引渡場所を知らなければ、買主は外航貨物海上保険の起点。

的確に、従ってとが、CPT契約では、売主と買主は、引渡場所について合意し。

CIP契約の場合は、売主が引渡地を決める立場にあり、外航貨物海上保険を付保する立場にありますから、保険起点の問題は心配ありません。

CFR、CIF契約の場合の貨物の引渡時点は、本船船上に貨物が置かれた時です。

これは、インコタームズの規定ですから、改めて契約書に記載する必要はないでしょう。

DAP、DPU、DDP契約では、これらの用語の右側に、輸入国の仕向地が明示され、仕向地が引渡地点となります。

工場(倉庫)から引渡地点までの外航貨物海上保険は、売主が手配しますから、買主にとって、外航貨物海上保険の起点云々は問題ではありませんから、この場合も、改めて契約書に記載する必要はないでしょう。

②仕向地(PlaceofDestination)等の明記FCAでは引渡地(PlaceofDelivery)を、FAS、FOB契約では船積港(PortofLoading)を、それぞれの用語の右側に表示しますが、定型取引条件には、仕向地(荷揚港)を記載する箇所はありませんので、契約書の仕向地(仕向港)欄に記載するようにしましょう。

EXWは、売主にとっては国内取引なので、仕向地の記載は不要です。

(10)積み替えと分割船積(Transshipment&PartialShipment)輸出港から仕向港(地)まで、直行する船や航空機がない場合、途中で積み替えることになります。

積み替えによって、費用がかかりますし、貨物の荷痛みのリスクも大きくなります。

そのため、買主は、積み替えを嫌うのが普通です。

積み替えを禁止する場合は、「Transshipmentisprohibited」または、「Transshipmentisnotallowed」、積み替えを許容する場合は、「Transshipmentisallowed」と、契約書に記載します。

また、契約した数量を一回の船積でなく、複数回に分割して船積みすると、輸出側での輸出手続きや船積に関わる費用が、一回で契約数量の全量を船積みするよりも割高になります。

輸入する買主も、輸入コストが高くつきます。

しかし、一度に大量の貨物が着荷すると保管場所に困るし、当面それほどの数量をすぐ必要としないという買主の事情がある場合、買主側としては、分割船積を選択することがあります。

分割船積を禁止する場合は、「Partialshipmentisprohibited」または、「Partialshipmentisnotallowed」あるいは、数量の後に「inonelotshipment」と記載します。

分割積みを許容する場合は、「Partialshipmentisallowed」です。

(11)買主が必要とする船積書類(Buyer’sRequiredDocuments)買主が輸入する際に必要とする、売主が取り揃えるべき船積書類(ShippingDocuments)を確認して、契約書に書きます。

L/C決済の場合、買主がL/Cで必要書類を指定しますが、売主が予期していない書類を、列挙して指定してくる買主も中にはいます。

本条項は、契約書に必須の条項ではありませんが、記載する方が、契約の履行が、円滑に行えます。

通常、必要とされる書類の例を次に掲げます。

①署名済みのインボイス 3通 ②梱包明細書 3通③無故障船荷証券(B/L)~指図式・白地裏書され、着荷通知先(NotifyParty)をL/C開設依頼者とするもの~ 正本1通および副本2通。

④原産地証明書 3通⑤品質証明書 3通 ⑥船積み通知のコピー 3通 等。

(12)シッピングマーク(荷印)(ShippingMark)シッピングマークは、マーキング(Marking)、ケースマーク(CaseMark)とも言われます。

通常、輸入側が指定することが多いのですが、売主が決めることもあります。

シッピングマークのデザインや記載項目は、特に決まり事はありませんが、通常の記載項目は、輸入者または輸出者を標示する主マーク(MainMark)、仕向港を標示する仕向港マーク、原産地マーク(MadeinJapan)の他、品質マークや企業ロゴを付けることもあります。

マークは、次に掲げる目的にかなう必要があります。

①一瞥して、貨物の中身が分かること。

②よその貨物と混じらないよう、識別が容易で仕分け作業に便利なこと。

③必要な場合、貨物取扱上の注意事項を記載すること。

例えば、FRAGILE–HANDLEWITHCARE(壊れ物・取扱注意)、DANGEROUS(危険品)、THISSIDEUP(天地無用)、KEEPDRY(水濡れ注意)、KEEPOUTOFTHESUN(直射日光禁止)等。

複数の梱包がある場合、連続ケース番号(:)、。

(13)最終条件(Final)輸送中に品質が変化する商品の場合、積地での品質を売主が保証する積地最終条件(ShippedFinal)と、揚地での品質を売主が保証する揚地最終条件(LandedFinal)があります。

品質だけでなく、数量も積地最終(ShippedFinal)あるいは揚地最終(LandedFinal)とする場合もあります。

積地最終とした場合、買手は着荷貨物の状態が、契約やインボイスと異なっていてもクレームできません。

逆に揚地最終の場合、売主は買主の言い分に対抗できなくなる恐れがあります。

一度限りの取引であればともかくとして、長期的な取引関係を目指すのであれば、あるいは、よほど信用できる取引相手でない限り、最終条件(Final)は使わない方が良いでしょう。

8.売買契約の一般条項(GeneralTerms&Conditions)一般条項とは、個々の取引ごとに変わることのない一般的な条件、あるいは基本契約書の本体に盛り込む条項のことを指します。

(1)個別契約書(IndividualContract)基本契約書を作り、具体的に契約した都度、個別契約書を作ってそれに署名する方式をとった場合、基本契約書には「個別契約書」についての条項を設けて、個別契約書の契約成立方法や、個別契約書の様式などについて規定します。

(記載例)a)買主が発注書(OrderSheet)を売主に送り、売主が発注請書(SalesConfirmation)を買主に発送した時に、個別契約が締結されたものとする。

個別契約では、必要により、品名、品質・規格、数量、単価、支払条件、包装条件、船積時期、船積港、荷揚港、(指定)引渡場所、(指定)仕向地、船積書類、マーキングなどの取引条件を規定するものとする。

b)個別契約は、この契約に従うものとし、発注書および発注請書の様式は、売主および買主の双方が、別途協議のうえ定める。

発注書および発注請書は、ファックス、電子メール、電子メールに添付する方法で送付できるものとする。

c)個別契約は、この契約と一体の不可分の構成部分であるが、個別契約の内容とこの契約の関連する条項の内容とが一致しない場合、個別契約の規定を優先する。

(2)増加費用(IncreasedCost)経済環境の突然で急激な変化、戦争や治安悪化によるリスクの高まりなどが生じると、突然、輸送賃が値上げされたり、あるいは戦争保険やストライキ保険をかける必要性に迫られたりすることがあります。

契約してすでに取引価格が確定した後に、このような事態になった場合、その増加する費用は売主・買主のどちらが負担するのかを決めておきます。

記載例では、買主が負担するとしています。

買主が、「増加費用は売主負担」と主張するのであれば、折半負担で折り合う選択肢もあるでしょう。

(記載例)この契約を締結して以降、海上または航空運賃、税金、損害保険およびその他政府関連の諸掛り等、売主が契約を履行する上の費用が増加した場合、買主は売主の請求に基づき、これらの増加した費用を売主に支払って負担するものとする。

(3)検査と品質保証(Inspection&Warranty)国内取引では、売主が出荷前に数量と外観をチェックし、納品場所では、買主が商品の数量と外観を検査して、問題がなければ、納品(引渡)となります。

つまり、「売主の検査」の後、買主による検査を経て納品されます。

検査と納品は、ほぼ同時に行われます。

そして、それとは別に、後日、内在的な商品の瑕疵が見つかれば、売主は「品質保証期間」内でそれに対応します。

つまり、通常の国内取引では、「売主の検査」と「買主による検査」、「納品」があり、さら

に「品質保証期間」が設定されています。

貿易では、「売主の検査」があり、次に「引渡」(納品)が行われ(通常は輸出国で引渡)、その後で、貨物が輸入国に到着してから、「買主による数量と外観の検査」が行われ、それとは別に、「品質保証期間」が契約で定められていて、内在的な商品の瑕疵の発見に備えます。

「売主の検査」と「品質保証期間」の二つは、国内取引と同じですが、「引渡」(納品)と「数量・外観の検査」がほぼ同時ではなく、「到着ベースの定型取引条件(Dで始まる用語)」での契約を除けば、引渡(納品)は輸出国で行われ、数量・外観の検査は輸入国で行われます。

つまり、買主がまだ貨物を検査していないのに(見てもいないのに)、貨物が先に買主に引渡される(納品される)点が、国内取引と貿易とで、大きく異なっています。

①売主による出荷前検査(Seller’sInspectionPriortoShipment)通常、売主は、出荷する前に、商品が契約に規定する数量と品質条件を満たしているかどうかを検査して確認し、買主に対してその証明書を発行します。

これを「出荷前検査」と言います。

日本が輸出する場合、日本企業は海外からの信頼が厚いため、海外側は売主自身が発行する検査証明書を受け入れる場合が多いのですが、日本企業と初めて取引する相手先の場合、公的検査機関や第三者の検査機関が発行する証明書を求めることがあります。

第三者の検査機関に検査を依頼すると、十万円単位の費用がかかることがあります。

このような場合、売主自身が発行する検査証明書で買主を説得するか、あるいは第三者の検査機関による検査費用を、買主が負担するように要求します。

契約交渉の際、「売主が発行する検査証明書」で合意しておくことをお勧めします。

(記載例)売主は、商品の引渡前に、公的検査機関または第三者の検査機関に依頼して、商品の出荷前検査を行い、商品がこの契約に規定する数量および品質条件に合致していることを証明する検査証明書を、船積書類の一つとして、買主に発給する。

②買主による再検査(Buyer’sReinspection)買主は、商品が仕向地(港)に到着した後、直ちに、商品の数量や品質を検査します。

これを「再検査」と言います。

売主の「出荷前検査」に次いで、貨物にとっては二回目の検査、つまり「再検査」(Reinspection)になるからです。

再検査によるクレーム提起期限は、輸出先国(地域)までの航海所要日数を考慮して決めますが、近隣諸国向けであれば、一般的には、船積日(B/L等の運送状発行日)または仕向港での荷揚日から30日、45日、長くても50日止まりでしょう。

船積みしてから一年も過ぎてから、数量が足りないとか、包装が破損していたなどとクレームがきても、原因を特定することは難しいので、短期間の期限を設定します。

この再検査で分かることは、外観チェックによる数量の不足と目視で分かる商品の外観上の瑕疵(包装の破損や汚れ)程度です。

記載例b)「数量の不足または瑕疵の原因が明らかに売主にある場合」を「数量の不足または瑕疵の原因が明らかに買主にない場合」とすると、買主有利の表現になります。

数量の不足や瑕疵の原因が売主にあることを確認した場合、金銭の支払によって解決するか、代替商品を提供することで解決するか、あるいは他の方法で処理することになりますが、できる限り、具体的な解決方法を契約書に明記しておくことをお勧めします。

問題が起きてから協議して決めるのでなく、起きそうな問題をすべて想定して、その解決方法をあらかじめ決めておくのが、国際契約書の在り方です。

問題が起きてから喧嘩するよりも、大喧嘩をして契約すれば、問題が起きてもスマートに解決できます。

(記載例)

a)買主は、商品が仕向地(港)に到着した後、直ちに、商品の数量および着荷状態を検査(以下、再検査という)する権利を有する。

b)再検査の結果、買主が数量の不足または商品の瑕疵を発見した場合、直ちに電子メールまたはファックスで売主に連絡するとともに、仕向港での荷揚日から○○日以内に、事故報告書を売主に提出して売主にクレームを提起するものとする。

数量の不足または瑕疵の原因が明らかに売主にある場合、売主・買主の双方は、協議のうえ、代替品を供給するか、あるいは賠償によって解決する。

c)売主が必要とする場合、買主は当該商品を検査する機会を売主に与えなければならない。

また、売主が必要とする場合、買主は公的機関または第三者の検査機関が発行する検査報告書を売主に提出するものとする。

検査報告書の作成および発行費用は、買主のクレーム請求を売主が受け入れた場合、売主の負担とし、クレームが成立しなかった場合は、買主の負担とする。

d)数量の不足または商品の瑕疵が、商品の引渡し後における輸送または保管に起因する場合、売主は損害賠償の責を負わない。

③品質保証期間(Warranty)契約書では、売主がどれだけの期間、商品の品質を保証するかを定めます。

荷渡しされた貨物の品質規格が、契約書で決められている品質規格条件に満たない場合にのみ、売主の品質保証責任が問われます。

何の根拠もなく、売主は、単に「品質が悪い」といった、漠とした買主のクレームに応じる必要はありません。

売主がクレームに応じなければならないのは、契約書の品質規格条項に違反している時だけです。

常識的な品質保証期間は、商品によって異なりますので、売主と買主が相談して決めます。

梱包数の不足や目視で分かる外装の破損といった、再検査時に提起すべきであった瑕疵は、この条項のクレーム対象ではありません。

あくまでも、クレームできるのは、商品の製造に由来するもの、商品に内在していた瑕疵、再検査時に外観チェックでは見つけることができない性質の瑕疵に限定されます。

この種のクレーム解決方法についても、金銭支払によって解決するか、代替商品を提供することで解決するか、あるいは他の方法で処理するか、具体的な解決方法を契約書に明記しておくことをお勧めします。

(記載例)a)売主は、商品が適切な環境で、適切に輸送・保管・使用されることを前提として、製造日から○ヶ月間を品質保証期間として、この契約に定める品質規格条件に合致することを保証する。

b)買主は、品質保証期間に、商品に瑕疵を発見した場合、直ちに電子メール又はファックスで売主に連絡するとともに、売主が求めた場合、買主は当該商品を検査する便宜を売主に与えるものとする。

瑕疵の原因が明らかに売主にある場合、売主・買主の双方は、速やかに協議のうえ、代替品を供給するか、あるいは賠償金の支払によって解決するものとする。

c)売主が求めた場合、買主は公的機関または第三者の検査機関が発行する事故報告書を、売主に提出する。

事故報告書の作成および発行費用は、買主のクレーム請求を売主が受け入れた場合は、売主の負担とし、クレームが成立しなかった場合は、買主の負担とする。

(4)インコタームズ(Incoterms)「インコタームズ」については、「第三章 インコタームズ」で、詳しく解説しましたが、インコタームズの何年バージョンかによって、各々の定型取引条件の定義が異なる場合があります。

契約書で、インコタームズのどのバージョン

を適用するかを特定していなければ、売主と買主の間で、インコタームズの定型取引条件の解釈を巡って、意見対立が生じる可能性があります。

インコタームズは、世界の物流の変化や、新たなビジネス形態の登場などを反映して、時代の要請に合うように、適宜変更されてきています。

時代に最も適合したインコタームズを使うという意味で、契約書では、「最新のインコタームズを適用する」のが適切です。

(記載例)この契約書は、国際商業会議所が定めている最新のインコタームズにより解釈されるものとする。

(5)銀行費用(BankingCharges)貨物代金の決済に関わる銀行の諸チャージを、売主と買主のどちらが負担するかに関しては、契約書に書かれていないことが多いのですが、契約書に銀行費用の負担区分について何も書かれていなくても、通常は、売主の所在国で発生する銀行の諸チャージは売主が負担し、買主の所在国(地域)で発生する銀行諸チャージは、買主が負担します。

しかし、取引相手が用意する契約書や、買主が開設するL/Cに、「すべての銀行諸チャージは日本側負担」などと記載してあることがあります。

その場合、銀行はL/Cの開設費用やアメンド費用まで、日本側に課金しますから、注意が必要です。

(記載例)売主の所在国で発生する銀行費用は売主が負担し、売主の所在国(地域)以外で発生する銀行費用は、買主が負担する。

(6)製造物責任(Productliability:P/L)日本の場合、製造物責任を負うのは、「製造者、加工者または輸入者」であることが、製造物責任法によって定められています。

輸入者が製造者と同じ位置付けにされていることに注意が必要です。

外国では、販売者も製造者と同じように、製造物責任を負うことになっている国もあります。

また、問題が起きた場合、被害者は、輸入国の輸入・販売者だけでなく、輸出国の売主、製造者、部品メーカーに至るまで、関係する人たちすべてを訴えることができる国もあります。

製造物責任を巡るトラブルの場合、国によっては、弾がどこに飛んでくるか、分からないのです。

ですから、取引する商品と輸出先によっては、保険にリスクヘッジしておく必要があります。

米国は訴訟大国ですし、中国は外資企業に特に厳しい目を向けています。

フランスは、自国民が被害を受ければ、フランスの裁判管轄とすることを認めています。

輸入業者は、海外の輸出業者から商品を買うのですから、その商品で問題が生じれば、海外の輸出業者がその国の輸入業者に対して責任を負うのは、契約上の道理です。

しかし、PLリスクは、他のリスクとは違って、契約ルート云々の道理を主張しても、契約ルートを飛び越えて、直撃弾が飛んでくるかもしれません。

それは、自動車業界を考えれば分かります。

自動車製造企業は、PLリスクを保険にヘッジしていますが、その自動車製造企業に部品を供給している部品メーカー各社にもPLリスクがありますから、保険にリスクヘッジしています。

つまり、PL保険は「関係者全員がそれぞれ入って、それぞれが自社のリスクを排除する」ものです。

輸入した業者が輸出業者に責任を問い、輸出業者が製造業者に責任を問うべきであるとのロジックは、理屈としては筋が通ります。

しかし、PLリスクの回避策としては現実的ではありません。

リスクは現実のものですから、リスク回避も現実的に対応しなければなりません。

PLリスクのある商品の場合、輸出業者がPL保険にリスクヘッジするのは当然ですが、輸入国では輸入・販売業者も法的責任を問われる可能性が大きいので、輸入・販売業者も、輸入国でのPL保険にリスクヘッジしておくことが求められます。

日本からの輸出商品に関しては、各地の商工会会員や商工会議所の会員であれば、「中小企業海外PL保険制度」を利用できます。

大手の損害保険会社が窓口になっていますが、まずは、最寄りの商工会や商工会議所に問い合せて、詳細を教えてもらうと良いでしょう。

また、最近では民間の損保会社も、中堅・中小企業のための「海外PL保険」商品を揃えていますが、危険度の高い商品は、保険をかけられないことがあります。

下記記載例は、文字面では義務条項ですが、買主側が自らのリスクに気づいていない場合に備えて、売主側が買主側のことに配慮する「親切条項」です。

(記載例)買主は、買主の国で製造物責任保険を付保し、売主は、売主の国で海外輸出PL保険を付保する。

(7)支払遅延損害金(LatePaymentInterest)ユニドロワ原則では、支払遅延の場合の遅延利息は、「銀行の最優遇短期貸出金利の平均的利率」で計算するとしています。

これでは、買主は、支払期限どおりに払わない場合、売主が銀行に成り代わって、優遇金利で買主に融資していることと同じになってしまいます。

買主が、期限どおりに支払うための動機づけになるには、支払が遅延した場合、懲罰的な金利を課すようにします。

しかし、一方では、懲罰的な罰金を一切禁止にしている国もありますし、法外な利息を課されることを防ぐために、法令で上限利率を定めている国が少なくありません。

法令規定を超える利率での遅延ペナルティは、違法な契約として無効とされるリスクがあります。

従って、その国の法令規定に触れる場合、法令で許される最大限の利率で損害金を計算するとします。

(記載例)買主が、商品代金を定められた支払期限までに払わなかった場合、支払期日から支払われる日までの期間、支払遅延金額に対して、年率18.5%または適用可能な法令で許容される最大利率の、いずれか低い方の利率で計算した支払遅延利息額を、支払遅延金額に加算して、売主が指定した銀行の売主の口座に送金して支払うものとする。

(8)相殺禁止(Offsetting)この条項は、支払条件が船積み後の送金支払の場合に必要です。

輸出した商品に対して、買主からクレームがついた場合、後払いの決済条件だと、売主が同意していなのにクレーム清算金を勝手に決めて、商品代金からそれを差し引いて、つまり商品代金とクレーム清算金を勝手に相殺して、支払ってくる可能性があります。

これは、そうさせないための条項です。

貿易では、商品代金の支払とクレーム解決の清算金は別の事柄で、基本的にそれらを絡ませて相殺処理する考えはしません。

これは、国内取引と貿易との大きな違いです。

貿易では、いったん取り決めた価格は、100%全額を売主に支払い、買主が受け取るべきその他のクレーム解決の清算金などは、売主と買主が話し合って金額を決め、あるいは契約書で計算式を決めておき、商品代金と相殺することなく、単独で支払われるようにします。

相殺を認めると、買主側が「商品の取引価格を最終的に決定する権利」を持つことになります。

せっかく決めた取引価格が、買手によって恣意的に変更されるリスクは、避けたいものです。

(記載例)買主が売主に提起したクレームが、売主から買主への金銭支払によって解決を図る場合、商品の契約代金は定められた支払期限のとおり、買主は売主に対して100%支払い、クレーム解決の賠償金は、別途、売主から買主への送金などの方法で清算する。

買主は、商品代金の支払を遅延させたり、クレーム解決賠償金を商品代金から差し引いたりしてはならない。

(9)知的財産権(IntellectualPropertyRights)一般的な商品売買契約の場合、知的財産権が関係する可能性があるのは、商品の商標や意匠ですが、通常の物品の売買取引では、知的財産権そのものを有償で使わせることはほんどありません。

商品売買で考えられる知財のリスクは、輸出先の国(地域)で、輸出商品の商標や意匠を冒認登録したり、あるいは類似の商標や意匠を登録したりしている人がいた場合、輸入・販売業者に対して、その商品の輸入と販売を差し止めて、すでに輸入・販売したものに対して、商標や意匠の使用料やペナルティの支払い、知財権の買い取りを求めてくるケースが考えられます。

このような場合に備えて、その責任を売主が負うのか、買主が負うのかを、契約書で決めておきます。

輸出予定商品の商標や意匠が、類似の商標・意匠も含めて、すでに登録されたり、出願されたりしていないかを、弁護士か弁理士に依頼して調査したうえで、輸出を実際に始めることで、このリスクは実質的に回避できます。

調査の結果、類似の商標・意匠も含めて、第三者で出願・登録されていないことが分かれば、現実には知財リスクはないのですから、本条は、売主が有利の内容としても構いません。

(記載例~売主有利~)売主は、特許、実用新案、商標、意匠、もしくはその他の知的財産権に関するいかなる侵害又は無断使用についても責任を負わない。

この契約中には、商品に含まれる特許、実用新案、商標、意匠、もしくはその他の知的財産権の譲渡と解釈されるいかなるものも含まないものとし、すべてのそれらの権利は、真実かつ合法的な所有者に保留される。

上記権利に関連して紛争が発生した場合、売主は自己の裁量でこの契約を解除および無効とすることができ、紛争に対して自らを免責とすることができる。

(記載例~買主有利~)売主は、商品が第三者の特許、実用新案、商標、意匠、もしくはその他の知的財産権を侵害しないことを保証するとともに、万一、商品の知的財産権に関連して、第三者との間に紛争が発生した場合、売主が自己の責任と費用でこれを解決するものとし、買主は一切の責任を免れるものとする。

なお、買主に経済的損失が発生する場合、買主は売主に対してその経済的損失の賠償請求をすることができる。

(10)譲渡禁止(Assignment)契約は、お互いに相手方を信用に値すると判断して締結するものです。

しかし、契約相手が、契約を他者に譲渡すれば、その前提さえ崩れかねません。

譲渡された相手の所在地次第では、契約を履行するためのコストが変わるかもしれません。

契約を譲渡された先が、自社と競合する企業の場合は、営業秘密の漏洩も懸念しなければなりません。

譲渡禁止条項は、このような事態が起こることを未然に防ぐためのものです。

この条項は、売主にとっても買主にとっても必要なものなので、売主・買主のどちらに有利に書けば良いかは考える必要はありません。

が、海外側が提示する契約書式では、往々にして、「日本側が契約譲渡する時は、海外側の同意が必要」と書いてあるだけで、海外側が譲渡する時のことには、一切触れていないものがあります。

相手が提示する契約書式には要注意です。

(記載例)売主および買主の双方は、相手方当事者の書面による事前の同意なく、この契約およびこの契約に基づくいかなる権利・義務も、第三者に譲渡しないことを確認する。

相手方の書面による同意がないまま行われた譲渡は、すべて無効とする。

(11)不可抗力(ForceMajeure)不可抗力は、フランス語の「ForceMajeure」(フォースマジュール)の言葉が使われています。

不可抗力とは、契約当事者の力では制御できない事態を言います。

一般的には、自然災害、戦争、内乱、暴動、ゼネスト、政府による突然の規制などは、契約当事者が制御できない事態なので、不可抗力に該当します。

個々の企業でのストライキは、企業自身が制御すべきもの、できるものですから、不可抗力ではありません。

しかし、売主有利の書き方では、ストライキ、電力不足、生産設備の不具合、原材料の入手困難等々、通常は不可抗力でない事態も、不可抗力として列記していることがあります。

売主の立場からすれば、それでも問題ありませんが、買主の立場からすれば、本来は不可抗力の事態ではないので、注意が必要です。

不可抗力の事態が起きて、契約履行が困難になれば、相手方に通知し、一定期間契約の履行を遅らせるか、あるいは相当長期間にわたって(通常6ヶ月程度)契約履行できない状態が続く場合は、無条件で契約を終結させることができると規定します。

「無条件で」というのは、お互いに「損害賠償請求なしで」を意味します。

不可抗力条項は、国内取引の契約書で目にすることはほとんどありませんが、国際取引の契約書では、欠くことのできない重要な条項です。

①相手側が用意している契約書式には要注意!相手側が用意する契約書式には、相手側に不可抗力の事態が発生した場合しか記載していないことがあります。

このような契約に署名してしまえば、海外側で不可抗力の事態が起きた場合は、契約履行の延期も、免責での契約解除もできますが、日本側で不可抗力の事態が起きても、日本側は、契約履行の延期も契約解除もできず、契約履行義務が継続することになります。

(記載例~一方的な内容~)(XXの箇所は、「売主」か「買主」の文言が入ります)。

自然災害・戦争・内乱・暴動・ゼネストや政府による突然の規制など、XXが制御できない不可抗力の原因により、XXにこの契約の履行不能又は履行遅滞の事態が生じた場合、XXは免責とする。

不可抗力の事由により、XXの義務履行不能又は履行遅滞が180日を超えた場合、XXは書面でもう一方の契約当事者に通知し、この契約を無条件で終結させることができる。

②標準的な記載方法売主と買主の双方にとって、公平な内容にする「落としどころ」は、お互いに不可抗力の事態が起きた時は、相手に対して契約履行の遅延や契約の終結を認めるという、相互主義の内容にすることです。

相互主義の内容は、次のようになります。

不可抗力の事態が発生した場合の具体的な通知方法も記載します。

(記載例~標準的な内容~)

a)売主および買主のいずれかが、自然災害・戦争・内乱・暴動・ゼネストや政府による突然の規制など、契約当事者が制御できない不可抗力の原因で、履行不能または履行遅滞を余儀なくされた場合は免責とする。

b)不可抗力の事態が発生した場合、当該当事者は、Eメールや電話などのあらゆる利用可能な通信手段を使って、速やかに相手方に通知し、かつ官庁が発行した証明書または不可抗力の事態について掲載した新聞刊行物などの不可抗力事態を証明できる書類を、事態発生から14日以内に相手方に送付する。

c)不可抗力の事由により、売主の引渡義務の履行不能または履行遅滞の期間が180日を超えた場合、この契約のいずれの当事者も、書面で相手方に通知することによりこの契約を終結させることができる。

(12)完全合意(EntireAgreement)契約当事者は、契約に至るまでの間に、資料を相手に提示したり、あるいは商売によっては、図面を何度も相手に渡したり、さまざまな議論を積み重ねて、そして最終的に合意に至って契約書に署名します。

そして、契約を履行していく過程で、相手方が、「色彩の規格は契約書に書かれていないが、商談の時に、貴方が出してきた資料には、色彩規格が書かれていましたよね! 貴方の説明でも色彩は保障するとのことでした」と、商談の時に相手方に渡した資料や、商談での議論や説明を持ち出して、議論が蒸し返されることがあります。

完全合意条項は、このようなことを防ぐためのもので、「商談の過程で話し合ったこと、合意したこと、そして交わされた資料等々は、契約の締結により、すべて無効となり、今現在有効なものは、この契約書に記載されていることだけに限定される」というのが、完全合意条項の趣旨です。

相手によって、契約してから商談を蒸し返したいと思う場合、この条項は意図的に契約書から外しておけば良いということになります。

(記載例)この契約は、契約締結時における売主・買主両者の合意事項を規定したもので、この契約の締結までに、売主と買主の間で行われた協議内容、合意事項または一方の当事者から相手方に提供された各種資料の内容や申し入れおよび説明内容などは、この契約に関し、すべて効力を持たないものとする。

(13)準拠法(GoverningLaw)準拠法条項とは、契約書記載事項の解釈を、どこの国の法律に照らして解釈するかを決めるものです。

例えば、貨物代金を買主が送金してこない場合、「売主の債権の有効期間はいつまでか」を準拠法で指定した国の法令を参照して解釈します。

国によって、民法、商法が定める債権の時効期間は、同じでない可能性があります。

このように、同じ言葉でも国によって内容が異なる場合に備えて、準拠法条項で、どの国の法令に基づいて解釈するかを定めておくのが、準拠法条項です。

戦って勝つことを目指す大企業が結ぶ契約書であれば、準拠法は重要な条項の一つです。

しかし、戦わないで話し合いで解決するための契約書を目指すなら、どの国でも、法令は常識的な内容でしょうから、準拠法をどの国の法令にするかは、実は大多数の中堅・中小企業にとっては、大きな問題ではありません。

①商談で、大もめにもめがちな準拠法条項ところが、「準拠法とは何か」を理解している人は、実はそう多くありません。

ですから、商談の時に、売主・買主の双方が、「準拠法は自国の法律とする」と主張して、商談が難航する一因になることが多いのです。

相手が、「準拠法とは何なのか」を理解していなくて、「自国の法律を準拠法にしたい」と頑なに主張するのであれば、準拠法をどこの国の法律にするかは、最終的に、相手に譲歩しても構いません。

しかし、確実にこちらの主張を通すべき条項があります。

それは、次の「14 仲裁」条項です。

②国内法とウィーン売買条約の関係準拠法条項は、「この契約の解釈は、XX国の法令に準拠する」、あるいは「XX法を準拠法とする」と記載するだけで良いのですが、XX国がウィーン売買条約の締約国の場合、「条約は国内法より優先」しますから、XX国の法令を準拠法にすると、まずウィーン売買条約が適用され、ウィーン売買条約に該当する項目がなければ、次にXX国の国内法で解釈されるという順番になります。

日本法を準拠法とする場合、日本はウィーン売買条約の締約国ですから、国内法より、ウィーン売買条約が優先適用されます。

日本からの輸出契約では、買主に有利な内容になっているウィーン売買条約の適用を排除(オプトアウト)します。

ただし、日本への輸入取引の契約書では、オプトアウトする必要はありません。

国内取引の準拠法は、言うまでもなく、どこの国でも自国の法令ですから、国内取引の契約書には「準拠法条項」はありませんが、国際取引の契約書では欠かせない条項です。

(記載例)この契約の解釈には、日本法を適用する。

この契約には、国際物品売買契約に関する国際連合条約の適用を全面的に排除する。

(14)紛争処理(DisputeSettlement)「第七章 決済リスク」の「1.貨物代金を取りはぐれ」の項目で、商品代金のとりはぐれが起きた時の最善の方法は「泣き寝入り」であること、裁判も商事仲裁も多額のカネがかかるので、紛争解決には「話し合い」が最善であることを説明しました。

「裁判」や「仲裁」に訴えることがないのであれば、契約書に紛争処理条項を書く必要はないと思われるかもしれません。

仮に、契約書の紛争処理条項に「契約当事者間の本契約に関わる紛争は、すべて売主・買主両当事者の話し合いで解決する」と記載したとしましょう。

善良な契約当事者同士であれば、これでまったく問題ありませんが、取引相手が「契約を守らず、何があっても責任はとらないで、逃げ切る」考えで、実際に相手がそのような行動に出た場合、打つ手がありません。

結果的に、「無意味な契約」になってしまう可能性さえあります。

このようなことを防ぐには、お互いに裁判や商事仲裁に訴えられる可能性を明確にしておくことで、お互いに契約違反を抑制する効果を期待することができます。

①裁判と商事仲裁それでは、裁判と商事仲裁は、どちらが良いのでしょうか? 裁判は、二審制、三審制の国が普通で四審制の国もあるのに対し、仲裁は一審で終わります。

また、裁判官は必ずしもビジネスの専門家とは限りませんが、仲裁の裁定員は、ビジネスに精通した人が選任されます。

さらに、裁判は公開で行われますが、仲裁は非公開です。

裁判より、仲裁の方が優れているのは、歴然です。

契約書に「商事仲裁で紛争を解決する」内容を記載しておけば、相手がいきなり自国の裁判所に訴えても、裁判所は「契約に書いてあるとおり、商事仲裁で解決せよ」と、門前払いをしてくれます。

つまり、商事仲裁で解決することを契約書に書くことで、裁判を避けることができます。

②商事仲裁仲裁機関が仲裁裁定を受け入れるには、「当事者がその仲裁組織で仲裁することに合意している」ことが必要です。

契約書の紛争処理条項で、単に「紛争は仲裁で解決する」としか書いてない場合、紛争当事者は、お互いに自国の仲裁組

織に裁定を委ねようとするでしょう。

紛争が起きてからでは、仲裁場所さえ、お互いに合意できません。

となると、契約交渉を通じて、当事者同士がどこの仲裁機関で仲裁するかを、あらかじめ合意したうえで、契約書に明記する必要があります。

話し合いでしか紛争解決できないようにするには、「相手が訴えにくい場所」を仲裁地とすることです。

その一つとして、日本を仲裁地とします。

しかし、そう主張すれば、相手は抵抗するでしょう。

日本での仲裁を相手に説得するために、相手が固執するであろう「準拠法」は、譲歩しても構いません。

話し合いで紛争を解決するしかない契約書にするには、紛争処理条項が最重要です。

これだけは、死守しましょう。

どうしても、相手が「日本での仲裁」に同意しない場合、仲裁地を第三国とすることで、妥協するしかありません。

その場合でも、仲裁地の選定は、交通の便から考えて、日本に近く、相手の国からできるだけ遠い国にすることが理想です。

ちなみに、アジアでは、シンガポール国際仲裁センター(SingaporeInternationalArbitrationCentre:SIAC)か、香港国際仲裁センター(HongKongInternationalArbitrationCentre:HKIAC)を仲裁地とするケースが多いのですが、香港は、2047年6月30日まで、軍事と外交を除いては、中国政府が直接支配することはないとされているものの、中国政府の直接的な支配が急速に強まっているため、公正な仲裁裁定が行われるかどうかに、疑問符がつく可能性があります。

国際的に著名な仲裁機関には、ICC(国際商業会議所)の他、ロンドン国際仲裁裁判所(TheLondonCourtofInternationalArbitration:LCIA)、アメリカ仲裁協会(TheAmericanArbitrationAssociation:AAA)があります。

仲裁地を巡って、当事者同士の合意ができない場合、相手から、被告地主義がお互いにとって公平ではないかという提案があるかもしれません。

被告地主義とは、訴えられた側の国で仲裁する方法です。

なるほど、訴えられた側の国で仲裁するのであれば、公平なようにも見えます。

しかし、それで果たして公平でしょうか?被告地主義は、文字面だけは、公平です。

しかし、問題は、実質的に公平かどうかです。

欧米の先進諸国との間の契約であれば、実質的にも公平かもしれません。

しかし、新興国との間で、被告地主義は公平でしょうか? すでに触れましたが、新興国で外国勢が争っても、勝てる可能性はほとんどありません。

一方、日本での仲裁は、間違いなく公平に裁定されるでしょう。

それで、果たして公平でしょうか。

文字面は公平ですが、実質的に不公平なのは明らかです。

被告地主義の仲裁には、もう一つ問題があります。

お互いに相手国で仲裁に訴えることができますから、日本と海外で、二つの仲裁が同時並行して行われるリスクがあります。

現に、こういう事例は起きています。

一つの仲裁案件でも堪えられないのに、同時に二つの仲裁案件など、とうてい堪えることはできないでしょう。

これは、被告地主義の大きな落とし穴です。

相手にも、こうした被告地主義の問題点を説明して、この方法は回避するようにした方が良いでしょう。

「準拠法の国と、紛争処理条項における紛争処理国は一致させるべきだ」という意見があります。

それは、商事仲裁になった際、準拠法の国と紛争処理国が異なると、準拠法の国の法令を紛争処理国の言語に翻訳する莫大な翻訳費用がかかることが、その論拠です。

戦える大企業の場合は、確かにそのとおりです。

しかし商事仲裁で戦うだけのヒト、カネ、時間をかけられない企業にとって、商事仲裁の仕組みはあっても、現実に利用できないので、商事仲裁の仕組みはないも同然です。

戦えない、戦わないのであれば、準拠法の国と紛争処理地の国が違っても、問題ありません。

翻訳が必要になる機会はないので、翻訳費用を気にかける必要はないのです。

良い契約書とは、トラブルが起きても、話し合いで解決するしかない契約書です。

そのために、少なくとも相手方が、仲裁を提訴しにくい紛争処理条項にすべきです。

大企業が理想とする契約書は、紛争が起きた場合に勝てる契約書です。

大企業とそれ以外の企業では、契約書の目的が違います。

(記載例~日本商事仲裁協会の推奨文言~)この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争または意見の相違は、当事者相互の協議によって解決するものとする。

当事者相互の協議によっても解決することができない場合、日本国の社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、日本国東京都(または大阪府)において仲裁により解決する。

仲裁裁定は最終的なものであり、各当事者に対して法的拘束力を有する。

(15)違約賠償(LiquidatedDamages)違約賠償条項は、通常、「契約のいずれかの条項に違反した場合、違反した当事者は、もう一方の当事者に対して、損害賠償の責任を負う」という内容です。

売主有利の契約条項では、買主の違約責任を、「逸失利益を含む一切の損害」と厳しく規定する一方で、売主の違約責任を、船積みしたロットの商品価額以内に限定しています。

(記載例1~買主が全責任を負う条項の一例~)買主は、買主の契約違反により売主に損害を与えた場合、売主が被る逸失利益を含む一切の損害について、売主に賠償するものとする。

(「売主」を「買主」に、「買主」を「売主」に入れ替えれば、売主が全責任を負う条項になります)。

(記載例2~売主の責任を限定的な範囲とする条項の例~)売主は、売主の契約違反により買主に損害が生じた場合、買主が被る損害を賠償するものとする。

ただし、売主の賠償責任は、買主からの損害賠償請求の一部または全部に対して、損害賠償請求の商品が引き渡された際の船積みロットの商品価額を超えないものとする。

(16)守秘義務(Confidentiality)守秘義務条項は、通常のモノの売買契約書では、あまり必要ないと思われますが、相手方が、特許などの知財や、営業秘密を知る機会がある取引であれば、守秘義務を規定しておくのが良いでしょう。

(記載例)売主・買主の双方は、相手方当事者が開示または提供した秘密情報と営業秘密(以下、「当該情報」と言う)を守秘するものとし、相手方当事者が書面による事前の同意がない限り、この契約の有効期間中およびこの契約の終了後5年間、いかなる個人、法人および組織に対して、当該情報を漏洩しないものとする。

ただし、当該情報を業務遂行のために必要とする、売主および買主の従業員はその対象外とするが、売主および買主は、それぞれ売主および買主の従業員に対し、当該情報の守秘義務を書面により課すものとする。

(17)通知(Notice)通知条項は、契約当事者間の連絡方法や通知先の住所を明確にしておくための条項です。

企業に係る重要事項の変更があった場合も、お互いに相手方に通知するようにします。

(記載例)a)この契約に関わるすべての書面による通知は、直接の手渡し、電子メール、ファクシミリまたは国際エアクーリエサービス(以下、「通知方法」と言う)を利用して、この契約の末尾記載の各当事者の住所(または、通知方法で通知された新住所)に送付する。

b)この契約のいずれの当事者も、商号、代表者、資本金、業務責任者、連絡窓口担当者およびその他商業登記事項に重要な変更があった場合、遅滞なく本条に定める通知方法に従って、相手方当事者に書面で通知するものとする。

(18)契約解除(Termination)契約解除条項では、契約当事者が、契約を解除できる条件を規定します。

売主有利の書き方は「記載例1」のとおりです。

「記載例1」の中の「売主」を「買主」に、「買主」を「売主」に替えれば、買主有利の書き方になります。

お互いにこのような事態が起こったら、相手方の当事者が契約を解除できる形にするのであれば、「記載例2~相互主義~」の内容にします。

本条項は、国内取引の契約書でもよく見られる条項です。

(記載例1~売主有利~)売主は、買主に下記事由のいずれかに該当する事態が発生した場合、買主に書面で通知することにより、直ちにこの契約を解除することができる。

a)買主が、この契約に定めるいずれかの義務を履行せず、売主が、書面で当該不履行の是正を要求したのにも関わらず、書面通知後、依然として21日間を超えても是正されない場合、b)買主が支払不能の場合、または破産に関する任意あるいは強制申し立てが、買主に対して、もしくは買主を代理して行われる場合、c)買主が、債権者の利益のための包括譲渡を行う場合、または買主の営業もしくは財産について、管財人あるいは受託者が任命された場合。

(記載例2~相互主義~)この契約のいずれの当事者も、下記事由のいずれかに該当する事態が発生した場合、相手方当事者は、一方の当事者に対して書面で通知することにより、直ちにこの契約を解除することができる。

a)一方の当事者が、この契約に定めるいずれかの義務を履行せず、相手方当事者が、書面で、当該不履行の是正を要求したのにも関わらず、書面通知後、依然として21日間を超えても是正されない場合、b)一方の当事者が支払不能の場合、または破産に関する任意あるいは強制申し立てが、一方の当事者に対して、もしくは一方の当事者を代理して行われる場合、c)一方の当事者で、債権者の利益のための包括譲渡が行われる場合、または一方の当事者の営業もしくは財産について、管財人あるいは受託者が任命された場合。

(19)期限の利益逸失(Acceleration)この条項は、契約が満了、終結または解除となった場合、支払期限が到来していない債務が残っていても、相手方に与えていた支払猶予期限を定めた「期限の利益」は直ちに消滅する、つまり「残債をすぐ弁済せよ」ということを規定するものです。

(記載例)この契約が満了または解除により終結した時は、買主は、その売主に対する一切の債務につき期限の利益を失い、すべての債務を直ちに売主に対し、弁済しなければならない。

(20)契約言語(Language)契約書の記載言語を、日本語にするか、相手の国の言語にするか、あるいは英語にするかは、多くの企業が悩むところです。

①両国語併記は避けたい契約書の作成言語は、契約当事者の契約内容に対する理解が一致している限りにおいては、何語であっても構いません。

しかし、取引相手の会社に、日本語も英語も理解できる人がいなければ、自国語での契約書作成を要求するでしょう。

日本側に、相手の国の言語を分かる人がいない場合は、日本語での契約書作成を求めるでしょう。

このような場合、「両国語併記で作成」することで、結論は落ち着きがちです。

実際に、両国語併記で作成された契約書を、何度も目にしましたが、お互いに相手の国の言葉を理解できないことから、異なる内容で「併記」されている契約書が少なくありませんでした。

両国語を併記するのであれば、相手国の言語の部分は必ず、翻訳会社に出して自国語に翻訳してもらうことで、内容を検証できます。

この検証をしないのであれば、複数言語をともに正文とする契約書は、問題含みの契約書となる可能性が大きいので、避ける方が良いでしょう。

②日本語または相手国の言語での契約書作成日本の企業にとって、日本語の契約書であれば、正確にその内容を理解できますから安心です。

しかし、相手方に日本語に精通した人がいなければ、相手は日本語での契約書作成に躊躇します。

逆に、相手国の言語で契約書を作成した場合も、日本側に相手国の言語に精通した人がいなければ、同意しかねるでしょう。

つまり、日本語または相手国の言語での契約書作成が成立するためには、その言語に精通した人が双方の社内にいることが条件です。

③英語での契約書作成英語は母国語ではないけれど、お互いにまったく話せないわけではない英語で、契約書を作成することは良くあることです。

お互いの英語力次第では、理解にギャップが生じることはあり得ますが、そうした問題はあっても、現実には英語を理解する人は多いわけで、英語以外の言語と比較すれば、理解違いが生じる可能性は、相対的に少ないと思われます。

英語での契約書作成は、世界の共通言語なりの安心感があります。

(記載例)この契約は、XX語で一式2部を作成し、売主・買主双方が各1部を保有する。

(21)契約発効と自動更新(Effectuation&契約がいつ発効し、いつまで有効かを明記します。

有効期間が満了する際、最初に結ぶ契約で「自動更新」とするケースが大半を占めますが、最初の契約は不完全な内容である可能性が高いので、いったん契約を終了させ、次年度も取引を継続するのであれば、最初に結んだ契約書の内容を吟味したうえで、契約し直す方法をお勧めします。

最初の契約を吟味して新たに契約をし直す際に、「契約期間満了時に自動延長」とすれば、より完成度の高い契約書の内容で、「自動延長」していくことができます。

(自動延長の記載例)この契約は、売主・買主双方の署名が整った時に発効し、有効期間は1年間とする。

この契約のいずれかの当事者が、この契約の更新を希望しない場合、この契約が満了する日の50日前までに、相手方当事者に書面で通知するものとする。

通知されない場合、この契約は、さらに1年間自動的に更新されるものとする。

同様な手続は、その後の更新にも適用される。

(22)存続条項(Survival)契約が満了、終結または解除となった場合、まだ受け取ってない代金が残っていたり、履行途中の個別契約が残っていたりすることがあります。

買主側が、「契約が終わったのだから、未払いの商品代金も払う必要がなくなった」などと

言い出したのでは、売主はたまったものではありません。

このようなことのないよう、契約が終わった場合でも、その契約の特定の条項は依然として有効で双方を拘束すると規定しておくのが、存続条項です。

通常、契約書作成の最後の段階で、逐条ごとに、この契約が終結した時に、どの条項を存続させるかを、ひとつひとつ吟味して存続条項を決めます。

(記載例)この契約が、満了、終結または解除された場合でも、第( )条、第( )条、第( )条、第( )条、第( )条及び第( )条の各規定は依然として、売主・買主の双方を拘束する。

9.販売店契約書(DistributorshipAgreement)と代理店契約書(AgencyAgreement)販売店契約書と代理店契約書は、販売店や代理店としての権利と義務を盛り込んだ契約書です。

売買基本契約書の中に、販売店に関する条項を挿入して、販売店契約書とすることもあります。

また、売買基本契約書を締結し、それを参照する形で、販売店としての権利義務などを記載した販売店契約書を作ることもあります。

この場合、契約は、売買基本契約書、個別契約書、販売店契約書の三つで構成されることになります。

(1)販売店と代理店の違い販売店(Distributor)と代理店(Agent)を混同している人が多いので、注意が必要です。

日本では、「販売代理店」という言葉が、ごく一般的に使われています。

「販売代理店」とは、「メーカーに成り代わって販売を代理して行う店」という意味ですが、国際ビジネスでは、「メーカーに成り代わって販売を代理して行うお店」を「販売店」と呼びます。

国際ビジネスでは、販売店と代理店は、まったく異なる概念の言葉です。

日本語で考えるよりも、英語で理解する方が分かりやすいのですが、販売店は、「Distributor」、代理店は「Agent」です。

「販売店契約」は、「DistributorshipAgreement」、「代理店契約」は、「AgencyAgreement」です。

①販売店(Distributor)とは?販売店(Distributor)とは、何でしょうか? 日本の製造業者あるいは商社が、海外にモノを販売していくケースで説明してみましょう。

日本側が、海外の国で販売してくれる企業を見つけて、そこ向けに売っていくことにした場合、その会社を「販売店」と位置付けて契約を結び、そこ向けに、モノを輸出販売していきます。

日本側が売主で、海外の買主が販売店です。

日本側と販売店との関係は、対等な「売主と買主の関係」です。

販売店がその国で商品を販売する場合、商品の宣伝をすることが想定されれば、商標などの扱いや、日本側からの販売促進のサポートなどについて、販売店契約書の中に盛り込みます。

「販売店契約」が、通常の単なる「売買契約」と異なる点は、単なる「売買契約」では、売主と買主は、お互いに海を挟んで、水際で売買するだけであるのに対し、「販売店契約」では、販売店が売りやすいように、売主が販売店をサポートしながら、売買を行うことにあります。

売主が、海外側に一歩踏み込んだ形で売買を展開するのが、「販売店契約」です。

②代理店(Agent)とは?代理店(Agent)とは何なのでしょうか?

日本の製造業者か商社が、海外の国にモノあるいはサービスを売っていくのに、海外のその国で、日本側の立場に立って販売先を発掘したり、取引条件に関する情報伝達を仲介したりして、日本側と販売先との間で、契約を成立させるための情報連絡サービスを行い、それに対して日本側が報酬を支払う、これが代理店(Agent)です。

代理店が提供するサービスの内容や、報酬などの条件を定めたものが、代理店契約(AgencyAgreement)です。

売買契約そのものは、日本側の会社と海外現地側の輸入販売会社との直接契約となり、日本側は、仲介の労をとった代理店に対して、契約金額、売上金額、購入金額等に対して一定のパーセンテージで、成功報酬を支払います。

契約金額や売上金額でなく、契約数量や販売数量、購入数量をベースとして成功報酬額を計算することもあります。

また、固定報酬に成功報酬を加算するやり方も行われています。

以上のように、販売店と代理店は、まったく異なるものなのに、これら二つを混同して、「販売代理店」交渉を行うと、どのような結果になるのでしょうか? 一言でいえば、販売店契約なのに代理店契約の条項が入っていたり、あるいは代理店契約なのに販売店契約の内容が混在していたりで、訳のわからない契約書になります。

海外側と交渉を始める際、販売店契約なのか、代理店契約なのかを、確認したうえで、交渉を始められることをお勧めします。

(2)販売店契約と代理店契約のどちらが良いかそれでは、販売店契約と代理店契約のどちらが、売主として好ましいでしょうか? 契約相手と売買関係となる「販売店契約」の方が、売主として“手切れ”が良いメリットがあります。

代理店契約では、基本的に、代理店が必要とする経費などの費用をカバーできなければ、契約の持続性は担保されませんから、この意味で“手切れ”が悪く、代理店の管理に手間暇がかかるデメリットがあります。

商品そのものを担いで海外に売るのが、通常の「売買契約」であれば、「販売店契約」とは、「売る仕組み」を作って、その仕組みの上に、商品を載せて売っていくのですから、力量のある販売店に出逢えれば、自力で商品を担いで売っていくよりも、ずっとダイナミックな展開が期待できます。

販売店契約がお勧めです。

(3)販売権・代理権の種類次に、販売権と代理権の種類について説明します。

①販売権販売権には、次の3種類があります。

・排他的独占販売権(exclusivedistributorship):1社のみに販売権を付与します。

付与する側の元売・メーカーは、契約地域内での販売活動はできません。

文字どおり、排他的独占権です。

・独占的販売権(Soledistributorship):1社のみに販売権を付与する点では排他的独占販売権と同じですが、付与する側の元売・メーカーも契約地域を対象に販売活動を行うことができます。

元売・メーカーが、ネット通販で販売していたり、官公庁向けの取引を行ったりするのであれば、契約書に「ただし、売主は、契約地域へのネット通販および官公庁向け取引に関しては、自らの販路を通じて販売することができる」ことを明記しておきます。

・非排他的販売権(NonExclusivedistributorship):複数の会社に販売権を付与し、元売・メーカーも契約地域で販売活動をすることが可能です。

②代理権代理権には、独占性の観点から、次の3種類があります。

・排他的独占代理権(Exclusiveagency):1社のみに代理権を付与します。

付与する側の元売・メーカーによる契約地域内での活動はできません。

・独占的代理権(Soleagency):1社のみに代理権を付与する点では排他的独占代理権と同じですが、付与する側の元売・メーカーも契約地域内で活動できます。

・非排他的代理権(NonExclusiveagency):複数の会社に代理権を付与し、元売・メーカーも契約地域で活動できます。

また、代理性の観点から、代理店には、次の二つの種類があります。

・媒介代理店(CommissionAgent):代理店は仲介するのみで、契約は委託者が直接行います。

通常は、媒介代理店とします。

・締約代理店(LawfulAgent):代理店が委託者の代わりに契約すること(法律行為)ができます。

締約代理店は、法律行為ができますから、よほど信頼のおける相手でなければなりません。

(4)独占権の要求「排他的権利」や「独占権」は、「権利」ですから、海外側は今まで取引実績がなくても、いきなり「排他的権利」や「独占権」を要求してくるケースが少なくありません。

しかし、相手先がどのくらいの販売力があるのか、仕振り(Performance)がどうなのか等が分かっていないのであれば、「排他的権利」も「独占権」も与えるべきではありません。

独占権は、一定期間の非排他的権利での契約履行を経たうえで、あるいは、トライアル期間を設定して、相互のビジネスに対する確信と信頼関係が醸成されてから議論すべきものです。

(5)権利に見合う義務の賦課非排他的権利の契約の場合、販売店契約であれば、取引数量(または金額)を努力目標とします。

代理店契約でも努力目標を設定します。

独占権を与えた形の契約であれば、独占権付与に見合う相手方の義務は、販売店契約の場合は、商社・メーカーからの最少購入数量や購入金額を決めて、それに未達であれば、未達分について罰金(ペナルティー)を課す契約にします。

代理店契約の場合でも、顧客発掘件数や契約金額などの最小限の活動成果を義務化し、それに未達であれば、未達分についてペナルティを払わせます。

こうしてこそ、付与される独占権と付与された側の負う義務が、相見合うものになります。

権利だけ与えて義務を課していないケースが目立ちますので、注意が必要です。

(6)販売店契約に必要な条項販売店契約に必要な最小限の販売店条項について解説します。

①販売店の指名と販売権の許諾契約書を作らないまま、何年間も継続的に取引している中で、独占販売権を与えていると暗示する言動をしたことから、買主が「独占権を付与されている」と思い込んでいるために、取引関係を切ることができずに、苦慮するケースがあります。

これは、契約書を作成しないで、取引してきたことに起因します。

契約書は、必ず作成し、販売権を与えるのであれば、排他的独占販売権か、独占的販売権か、あるいは非独占販売権かを明確にします。

(記載例)売主は、買主に販売領域において商標を付した製品を販売する{排他的独占}・{独占的}・{非独占}販売権の権利を承諾する。

また買主はかかる許諾を受諾する。

({排他的独占}・{独占的}・{非独占}のいずれかを選択します)。

②販売領域を限定日本企業が海外と販売店契約や代理店契約を結ぶ場合、海外側が、契約の対象地域、つまり海外側が活動を展開できる販売領域を、「日本を除く全世界」のように、極力広い地域で要求してくることがあります。

日本側としては、相手の実力に相応しい地域だけに限定しなければなりません。

仮に「日本を除く全世界」を販売領域にするのであれば、それ相応の義務や目標を課す必要があります。

権利に見合うものを設定しなければなりません。

なお、中国企業と契約する場合は、中国特有の特殊事情を知る必要があります。

それは、契約で販売領域を「中国または中国国内」とした場合、「台湾」、「香港」、「マカオ」も販売領域に含まれてしまいます。

香港、マカオ、台湾を除外した中国の範囲に限定するには、販売領域を、「中国(ただし香港・マカオ・台湾を除く)」とします。

(記載例)この契約の対象とする販売領域(以下、領域と言う)は、(地域名あるいは国名を記入)に限定されるものとする。

③販売領域外への販売禁止一国の中で、地方ごとに経済圏が緩やかに独立していた時代から、全国規模で企業展開する企業が増えてくると、経済圏の線引きが難しくなってきます。

その中で、「販売領域外への販売」を禁止しても、地域ごとの販売店の活動が整然と行われるのは難しい現実があります。

販売領域同士で、ある程度のフリクションが生じることは避けられません。

問題が生じた際は、現実的に対応するしかありません。

(記載例)売主の書面による事前の同意がない限り、販売店は、製品を領域外の企業、経済組織、個人に販売しないものとする。

また、販売店は、製品を輸出する可能性のある企業、経済組織、個人に販売してはならず、販売店自らも製品を輸出してはならない。

販売店は、販売店が領域外から受領する如何なる引き合いについても、売主に照会するものとする。

④当事者間の関係海外の販売店と日本側の売主とは、「単なる売買関係」であることを規定する重要な条項です。

販売店は、往々にして日本側を代表・代理していると喧伝することで、再販売先に対して自らを権威づけがちです。

それを看過すると、想定外の義務が売主に発生するリスクがあります。

(記載例)売主と販売店は、単に売主と販売店の関係であり、販売店は売主の代理人ではないことを、売主と販売店の双方は認識のうえ承諾する。

販売店は、売主を代理して、いかなる義務あるいは責任も引き受けないものとする。

⑤競業禁止販売店候補を絞り込む際、あるいは契約交渉の最初の段階で、相手がどのような品目を扱っているのか、何処と販売店契約を結んでいるかをチェックし、競業品を取り扱っている場合、交渉対象から外す判断が必要かもしれません。

(記載例)販売店は、売主の書面による事前の同意を得ないで、製品と類似している製品を、輸入、購入、販売、配布、取扱い、または取引しないものとする。

⑥販売店の販促義務と売主の販促サポート通常の売買契約は、海を挟んでの水際取引なので、売主が輸出した後、買主が輸入した国でどう販売しようが、基本的に売主は関知しませんが、販売店契約では、売主は、一歩踏み込んで、買主が円滑に販売展開できるように、買主のために販売促進の支援をします。

支援要員の旅費負担は、記載例のように、売主の手弁当の例もありますし、販売店側が負担するケースもあります。

(記載例)a)販売店は、製品の販売促進のため、最善の努力をする。

そのため、販売店は、自らの費用で、営業要員、営業補助要員およびその他の職員を含む、適切な人員、設備および施設を維持し、また媒体を通じて適切に宣伝するものとする。

b)売主は、販売促進のため、売主が必要と判断する場合、販売店および販売店の再販売先を対象として、商品の技術的な支援および/または販売支援を行うことができる。

その場合、売主は、売主が派遣する要員の航空券代、宿泊費を含む旅費を自ら負担するものとし、販売店は、当該要員の受入れおよび支援目的の達成のために、必要な一切の便宜を提供するものとする。

⑦報告義務販売店契約を結んだのに、相手から何の報告もないという声を耳にすることがあります。

聞けば、契約で、活動動向に関する報告義務を、相手に課していないのです。

何の報告もないのは、当然のことです。

販売店契約では、定期的な「報告義務」を、販売店に義務づけます。

ただ、余り詳細な報告を義務づけると、実行されない確率が高まるので、実行可能な、簡易な項目にとどめる工夫が必要です。

(記載例)販売店は、売主が提供する書式に従って、次に掲げる項目に関する報告書を、四半期ごとに、売主に提供する。

a)販売領域内における商品の市場状況、競争者の動向b)商品の在庫、販売数および次期の販売予測c)販売店の期間中の販売活動および次期に予定する販売活動d)商品に関するクレーム、瑕疵の有無とその内容e)その他商品に関する重要事項⑧最低購入金額最低購入金額を定めるケースもあれば、最低購入数量を決めることもあります。

排他的独占販売権または独占的販売権を付与する場合、必ず最低購入金額(または数量)を義務として課しますが、非独占販売権であれば、義務ではなく「達成目標金額(または数量)」として、単なる努力目標とします。

義務とする場合で、未達の時はペナルティを課しますが、努力目標であれば、未達であってもペナルティは設けません。

目標に対して大幅な未達であれば、売主の裁量で、契約終了や販売権付与の解消を選択できるようにします。

記載例では、達成金額の計算根拠を、販売店から売主の銀行口座に入金済みの金額としています。

契約金額をベースに計算するようにすると、未達成になることが見込まれる場合、駆け込み的な契約で、ツジツマ合わせが起きるかもしれません。

記載例中のパーセンテージは一例ですから、取引の実態に照らして、適切と思われる数字に替えて対応するようにしてください。

(達成を義務とする場合の記載例)a)販売店は、売主から購入する商品の年間最低購入額を、次のとおり保証する。

この契約の最初の年: 〇〇万円以上

この契約の2年目: 〇〇万円以上この契約の3年目: 〇〇万円以上金額は、契約が履行され、販売店から売主の銀行口座に入金済みの金額に基づいて計算される。

b)本条の年間最低購入額に未達の場合、販売店は、この契約の重大な違反とみなされ、販売店は、未達金額の15%に相当する金額をペナルティとして、売主に送金して支払うものとする。

未達金額が目標の40%を超える場合、売主は、その裁量により、この契約を終了するか、または非独占販売権への切り替えを書面で通知することができる。

c)4年目以降の最低購買数量は、年度の開始前に、両当事者が交渉のうえ決定する。

合意が成立しない場合、この契約は自動的に終了する。

⑨商標一定の条件のもとでの商標の使用を許諾する条項です。

販売店が商品を販売するための商標使用ですから、通常は無償での使用とします。

(記載例)a)売主は、この契約期間中、販売店がこの契約に基づいて売主から購入して、再販売または頒布する製品の販売に供す目的に限り、売主の商標の使用を販売店に許可するものとする。

b)販売店は、販売領域およびそれ以外の地域において、売主の商標と同一または類似する商標の登録を申請してはならない。

c)販売店は、売主が指示または指定した方法で、商標を使用するものとし、売主の書面による同意なく、商標の使用方法を変更したり、商標を他の文字、名前、商標、デザインと組み合わせて使ったりしてはならない。

この契約が終了した場合、販売店は直ちに商標の使用を停止するものとする。

第十一章 貿易における22種類のリスク第三章では、インコタームズの定型取引条件ごとのリスク移転について、第五章では「物流リスク」、第七章では「決済リスク」について、また第八章では「知財権のリスク」について説明しました。

また、第九章の「契約書」では「製造物責任のリスク」にも触れました。

しかし、これらのリスクの他にも、国際ビジネスの第一線で活躍するビジネスマンが知っておくべき18種類のリスクがあります。

既出の「物流」、「決済」、「知財」、「製造物責任」の4種類と合算すると、全部で22種類のリスクとなります。

これら、貿易に潜むリスクを知って、それらのリスクを極力排除することで、自信をもって貿易に邁進できるようになります。

1.コミュニケーションリスク「コミュニケーションリスク」には、「共通の言語を欠くリスク」と「コミュニケーションの基本を欠くリスク」の二つがあります。

どちらも、貿易を行うには、無視できない大きなリスクです。

(1)「共通の言語」を欠くリスク貿易で商談を行うには、売主と買主の間に、「共通の言語」が必要です。

これは、当前のことですが、意外と自覚できていない人が多いのです。

「共通の言語」は、コミュニケーションの大前提です。

海外側が、日本語を話すのであれば、「共通の言語」があることになりますし、日本側も海外側も英語を話すのであれば、これも「共通の言語」があることになります。

しかし、海外側が英語圏でない場合、日本側も海外側も英語の分かる人がいなくて、どちらも自国語を話す人しかいないのであれば、「共通の言語」はないことになり、円滑なコミュニケ―ションは望みようもありません。

「共通の言語」は、貿易を行う上で必要な能力の一つです。

「共通の言語」がなければ、貿易をするのは無理です。

①筆談で大丈夫?漢字圏の企業と取引するのに、「筆談で大丈夫!」と豪語する人がいます。

簡単な値段交渉程度であれば、筆談で通じるでしょうが、クレームのような複雑な説明を要する事態が生じた時は、筆談ではどうにもなりません。

しかも、日本語の漢字と漢字圏の国とでは、同じ漢字でも同じ意味とは限りません。

筆談でさえ、「誤解」が生じることがあります。

かつて、文化庁が出版した日本語教育研究資料、『中国語と対応する漢語』(1978年12月発行)を基に数えてみたところ、漢字二文字の言葉で、日本語と中国語とで、意味が通じないものが約25%、意味がずれているものが約23%、意味が日本語も中国語もほぼ同じものが約52%でした。

ほぼ半分の漢字で、意思疎通に問題が起きる可能性があるのです。

金銭がからむ貿易で筆談など、とんでもないことです。

②「共通の言語」は貿易でのコミュニケーションの大前提海外バイヤーの中には、日本語を話す人も少なくありませんし、日本語のできる人を通訳として同道するバイヤーもいます。

こちらが外国語を話せない場合でも、日本語のできる相手に商談対象を絞れば、支障なく商談することができます。

しかし、一方では、日本語ができない海外バイヤーも数多くいます。

その方が多いでしょう。

主催者側が通訳を用意してくれる「海外展示会」や「海外バイヤーとの商談会」に参加した企業から、後日『海外から外国語の手紙が来たのですが、当社には外国語のできる人がいないので、翻訳してくれませんか?』という依頼を受けた経験は、海外展開の支援機関で仕事をしたことのある人であれば、一再ならずあるはずです。

「海外展示会」や「海外バイヤーとの商談会」で、契約に至っていなかっただけでも幸いです。

「共通の言語」のない相手と契約したら、契約履行の時にどうやってコミュニケーションをとるのでしょうか? 品質クレームが来たら、どのようにして複雑な内容を説明するのでしょうか?「共通の言語」は、貿易でコミュニケーションをとるための前提となる大事な条件です。

③「共通の言語」の壁を乗り越える方法「共通の言語」の壁を乗り越えるには、二つの方法があります。

一つは、自分で外国語を勉強して、商談できるようになることです。

例えば、英語を使って商談をした経験のない人にとって、英語で商談するような語学力を培うのは、無理だと思う人がほとんどかと思われます。

しかし、商談ではきわめて限られた単語しか使いません。

宴席での会話では、どんな話題が飛び出すか分かりませんから、かなりな語彙力がないと、会話は難しいのですが、通常の商談であれば、その気になれば、さほど難しいことではありません。

二つ目の方法は、通訳を使って、コミュニケーションをとる方法です。

ところが、通訳を介してのコミュニケーションには、情報の伝達率と通訳の立ち位置という「通訳のリスク」があることを認識して、上手に通訳を使うようにしましょう。

・情報の伝達率自分の言うことを、ほぼ100%相手に伝えてくれて、相手の言うことも100%自分に伝えてくれるのが通訳だと思っている人が多いのですが、伝達率100%などというのは、専門的な訓練を受けたプロの通訳でない限り、あり得ないことです。

伝言ゲームをすれば、同じ日本語でも、情報が正確に伝わるのは難しいことが分かりますが、通訳を介したコミュニケーションは、日本語と外国語での伝言ゲームみたいなものです。

90%程度を正確に通訳して伝達してくれれば、相当優秀な通訳です。

80%でも傍目にはかなり優秀な通訳だと映ります。

通常の商談では、自分が伝えたいことの7割以上が相手に伝われば、ほぼ支障なく商談ができます。

情報や意思の伝達率が6割以下の場合は、話のツジツマが合わなくなることが起きます。

通訳を介した円滑なコミュニケーションを図るには、質の高い通訳を使うことはもちろん必要ですが、話す側にもコツが必要です。

伝えたいことを、長い時間、一挙に話すのでなく、短く区切って話すようにすると、情報伝達率は、飛躍的に上がります。

ただし、文章の途中で区切らないようにしてください。

日本語は、否定語が文章の最後にきますから、文章の途中で区切られると、肯定するつもりなのか、否定するつもりなのかが分からないまま、逐語訳しなければならず、通訳泣かせとなります。

・通訳の立ち位置自社の通訳は、一般的に、自社側の立場で通訳するものです。

相手方の通訳は、相手方の立場で通訳します。

相手方の通訳だけを通して商談することは、それなりのリスクがあります。

ですから、通訳は自社で抱える方が安心です。

お互いにそれぞれが自社の通訳を立て、お互いに相手側の発言を自国の言語に通訳するのが、最善の方法です。

こうすることによって、通訳の立ち位置による恣意的な通訳を、防ぐことができます。

外部の通訳に臨時に通訳してもらう場合、その通訳はどちらから頼まれて、通訳の仕事をするのか、つまり報酬はどちらからもらうかが、ポイントです。

当然、報酬を払ってくれる側の立場に、通訳は立ちます。

ところで、通訳が、通訳自身の立ち位置に立つことがあります。

通訳が、意図的に発言者の言葉と違う翻訳をすることによって、その通訳に利益になるケースでは、通訳が「悪意の通訳」になる可能性もあります。

中には、通訳が、まともに通訳しないで、自分の意見ばかり主張して「通訳」にならない場面も、頻繁に目にしてきました。

通訳は、本来、情報の伝達役ですが、自分の意見を主張する当事者になってしまうことがあります。

これも、正しい情報を伝えないという意味で、通訳のリスクです。

「通訳の立ち位置」は、「通訳のリスク」の大小を左右する大きなポイントです。

通訳に依存してコミュニケーションをとる時は、その通訳が「どの立ち位置」に立つ可能性があるかを見定めて、リスクの有無と大小を判断するようにしましょう。

・「通訳のリスク」を回避するには伝達率と立ち位置という通訳のリスクを回避するための唯一の方法は、通訳を牽制し、通訳をサポートできるだけの外国語能力を身につけることです。

高度な語学力は必要ありません。

通訳がどういうテーマについて翻訳しているか、翻訳し忘れた部分があるかどうかが分かる程度で良いのです。

それだけで、通訳に対して牽制になり、またありがたいサポートになるのです。

同時に、悪意の通訳のリスクに対しては、強い抑止力を発揮できます。

結局、通訳を牽制できるだけの語学力を持つ人を養成するか、あるいは採用することが、「通訳のリスク」を回避する抜本的な方策になります。

そのレベルであれば、それほどハードルが高いわけではありません。

(2)「コミュニケーションの基本動作」ができないリスク円滑なコミュニケーションは、信頼できる相手としての条件ですし、また、ビジネスを着実に進める上での条件でもあります。

しかし、コミュニケーションのための基本動作のできない人が、海外にも日本にもかなりいて、それが貿易のリスク要因になることがあります。

①「コミュニケーションの基本動作」ができない典型例相手が「コミュニケーションのための基本動作」を欠いていると、次のようなことが頻発します。

・問い合せしても、返事が遅いあるいは返事がない。

・相手方に都合の良いことだけは連絡がくるけれど、自分に不都合なことはこちらから確認を求めない限り、返事してこない。

・自らの発言や主張が、理由なく突然変わったり、覚えていないとトボケたり、いったん確認したことを、ちゃぶ台返ししたりする。

・会って話をする時に、こちらの眼を見て話さない。

(会話は、言葉だけでなく、眼で相手の表情を読み取りながら行われますから、眼を見ないことは、コミュニケーションする意思を欠くことの証左です)。

②「コミュニケーションの基本動作」とは?「コミュニケーションの基本動作」とは、「質問に対して迅速に回答すること」と、「すぐ返事ができないのであれば、とりあえず、いつ頃回答できるかを相手方に連絡すること」、この二つだけです。

この二つの基本動作が身についていれば、何も難しいことはありません。

しかし、この習慣が身についていなければ、貿易ではリスクとなります。

こちらが基本動作のできない場合、相手はこちらを「いい加減な」相手だと思うでしょう。

逆に、相手がこのような企業であれば、リスクがありますから、取引相手の候補から外すべきです。

コミュニケーションリスクのある企業と輸出契約をして、船積が間近に迫った段階で、確認を要することがあったとしましょう。

相手に連絡しても、迅速に返事がこなければ、船積みして良いかどうか、困る事態に追い込まれることがあり得ます。

船積みしてはいけないのに、船積みしてしまったら、どうなるのでしょうか? コミュニケーションリスクが具現化して、実損が生じる可能性があるのです。

ですから、取引先の選定には、「コミュニケーションの基本動作」が身についているかどうかで、フィルターにかけます。

このリスクのある相手かどうかは、日常の連絡と返事の返ってくる様子で判断できます。

どの「信用調査書」にも書かれていないことですが、ビジネスをしていくうえで、とても重要な要素です。

海外展示会に出展した場合、展示会でブースを訪れてくれた方々に、御礼のEメールを送って、今後の取引の可能性について打診します。

そのEメールに対して、返事がこないからと言って、執拗に返事をくれるように督促する必要はあ

りません。

返事がこなければ、取引先候補から外せば良いのです。

「コミュニケーションの基本動作」を身につけていない相手を、執拗に追いかける価値はありません。

なお、日本にも、「コミュニケーションの基本動作」が身についていない人たちが少なからずいます。

経験則によれば、おおよそ半数近くの日本の企業は、基本動作ができていません。

つまり、半数近くの日本企業は、そもそも海外展開の能力を欠いているとも言えます。

海外企業に取引先候補として選定してもらうには、全社をあげて、基本動作の訓練をして、それができるようにすることをお勧めします。

貿易を語る前に、まず「社員教育」です。

2.貿易の基礎知識と能力を欠くリスク「第四章 貿易の商慣習」で、自社が貿易の基礎知識を知らないと、海外バイヤーから雑談の話し相手になり得ても、取引相手とはなり得ないことの具体例をご紹介しました。

この本で勉強された皆様は、すでに「国際物流」、「貿易の規則(インコタームズ)」、「貿易の商慣習」、「貿易決済の方法」などの「貿易の基礎知識」を身につけられたでしょうから、海外側に貿易の素人だなどと思われて、商談相手にされないことはないでしょう。

しかし、海外側の取引先が、貿易の基礎知識と能力を欠いていたら、どうなのでしょうか? 相手は、「国内取引の常識」で商談に臨むでしょう。

売手から買手への貨物の引渡は、輸入してから自分がモノを見て問題ないと判断した時とするのが、当たり前だと主張するでしょう。

損害保険などは、付保する必要性さえ認識していないかもしれません。

貿易の基礎知識と能力を欠く相手との商談では、最初から「話が噛み合わない」はずです。

こうした相手と取引すれば、相手側が貿易の基礎知識と能力を欠いているリスクを、まともに被ってしまいます。

貿易知識を欠く取引先は、取引対象から、躊躇なく外さなければなりません。

貿易の基礎知識のある相手かどうかを確認する方法は、簡単です。

雑談の中で、相手が、次のような貿易特有の言葉を知っているかどうかを、相手の表情や眼も含めて、確認すれば良いのです。

また、この質問への回答次第で、相手の貿易知識の弱点がどこにあるかを知ることができます。

・「オファー」や「ビッド」という言葉を知っているか?(貿易の商慣習)・FOBやCPTというインコタームズの定型取引条件を知っているか?(貿易の規則)・B/Lという言葉を知っているか?(国際物流)・L/CやD/Pという決済方法を知っているか?(国際決済)・フォースマジュールや準拠法という言葉を知っているか?(国際契約書)

3.安全保障貿易管理違反のリスク米国とソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が対立していた東西冷戦時代には、対共産圏輸出統制委員会:CoordinatingCommitteeforMultilateralExportControls:COCOM)による対共産圏輸出規制(ココム規制)が行われていました。

東西冷戦が終わってからは、日本では、経済産業省が、国際的な枠組みに基づいて「安全保障貿易管理制度」という「輸出規制」の仕組みを作って、すべての企業や個人が遵守するよう求めています。

「安全保障貿易管理制度」には、「リスト規制」と「キャッチオール規制」があります。

(1)リスト規制リスト規制とは、武器、原子力、生物・化学兵器、ミサイル関連など、国際的な平和維持の観点から、輸出を規制するための仕組みで、経済産業大臣の輸出許可がなければ輸出できません。

具体的には、輸出貿易管理令の別表第1の1~15項で指定されているモノと技術に該当する場合、どの国に輸出する場合でも、事前に経済産業大臣の許可を受けなければなりません。

(2)キャッチオール規制キャッチオール規制の「キャッチオール」とは、「すべての品目を捕捉する」という意味ですが、食品と木材などは、この規制対象から除外されています。

輸出先の国により、2019年8月1日まで「ホワイト国」と「非ホワイト国」に分類されていましたが、同年8月2日から、「ホワイト国」を「グループA」に、「非ホワイト国」を「グループB」、「グループC」、「グループD」に分類することが公表されました。

この時、韓国が「旧ホワイト国」であったのが、「グループB」に移された以外、他の国の扱いに、実質的な変更はありませんでした。

グループAの国とは、日本と同様に、国際的な平和維持の観点から、安全保障貿易管理の仕組みを作って、国外への輸出を規制している国のことです。

グループAからDの国々は、次の表のとおりです。

(グループAからDの国々)

キャッチオール規制に該当するかどうかを判断するチェックポイントは、次の三つです。

・輸出先がグループAの国か否か?(どこの国に輸出するのか?)・用途は軍事用か否か?(何に使うのか?)・最終需要者は軍需企業か否か?(どこが使うのか?)グループAの国向けの輸出であれば、キャッチオール規制では、経済産業大臣の許可は不要です。

グループAの国以外に輸出する場合は、「用途」と「最終需要者」を問います。

用途が軍事用であったり、最終需要者が軍需産業や軍事技術の研究開発機関であったりする場合、経済産業大臣の許可が必要です。

特に注意が必要なのは、「最終需要者」です。

「輸出した商品が、まさかそんな軍需企業に行くとは知らなかった」という釈明は、許されません。

売主は、あくまでも最終需要者を正確に把握して判定する義務があり、「知らなかった」は許されません。

なお、最終需要者のブラックリストは、経済産業省が、「外国ユーザーリスト」という形で、同省のホームページ(HP)で公開しています。

リストには、アフガニスタン、アラブ首長国連邦、イスラエル、イラン、北朝鮮、シリア、台湾、中国、インド、パキスタン、香港など数百もの経済組織が掲載されています。

「外国ユーザーリスト」に掲載されていない相手でも、軍需関連の組織や機関であれば、当然、輸出前に、経済産業大臣に申請しなければなりません。

なお、輸出先、用途、最終需要者といった客観的要件で申請する以外に、「インフォーム要件」による申請が必要になることがあります。

「インフォーム要件」は、経済産業大臣から、「大量破壊兵器等の開発、製造、使用または貯蔵に用いられる恐れがある」または「通常兵器の開発、製造または使用に用いられる恐れがある」として申請すべき旨の通知(インフォーム通知)を受けている場合に、申請許可が必要となります。

(3)違反すると……違反すると、一定期間の輸出禁止などの行政処分だけでなく、刑事告発されることがあります。

処分や処罰はもちろん痛手ですが、企業にとって社会的名誉を損なうことになりますから、このリスクを安易に考えることは禁物です。

規制対象は、日本での居住者から非居住者向けの「モノ」および「技術」の取引です。

海外駐在員は、多くの場合、自社の社員であっても日本の非居住者ですから、本社から海外駐在員への「技術移転」の際には、安全保障貿易管理の法令に違反しないよう格別の注意が必要です。

(4)買い引き合いがきたり、売り込んだりする場合買い引き合いがきたり、売り込みをかけたりする場合、リスト規制とキャッチオール規制の対象なのかどうかの該否判定(該当するかどうかの判定)を行います。

商社が輸出する場合、メーカーから「リスト規制非該当証明書」を発行してもらいます。

メーカーが発行する「非該当証明書」には、商品(輸出対象品の名称と型式等)が「輸出貿易管理令別表第1の1項から15項に該当しない」旨の記載があり、続いて「ただし輸出貿易管理令別表第1の16項に該当」(つまりキャッチオール規制に該当)することが記載されています。

メーカーは、リスト規制に関しては判断できますが、キャッチオール規制に関しては、どのグループ国向けの輸出かどうか、何に使われるのか、最終需要者は誰かなどを知り得る立場にありませんから、このような記載内容になるわけです。

メーカーが輸出する場合は、メーカー自身が「キャッチオール規制」への該否判定を行います。

商社が、メーカーに対して「リスト規制非該当証明書」の発給を要請しても、応じない場合、商社が「リスト規制」と「キャッチオール規制」の該否判定の両方を行います。

(該否判定のフロー)

(5)該否判定の方法同じ商品を反復継続して輸出する場合、該非判定の手続、輸出管理責任者、該非判定責任者などの「社内輸出管理体制」を作って該否判定を行います。

該否判定の方法には、「項目別対比表」と「パラメーターシート」の二つがあります。

一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)、日本機械輸出組合(JMC)からサンプルやシートを入手できます。

①項目別対比表法令の条文に照らして、各項目への該非を判定するもので、シンプルな構成です。

②パラメーターシートパラメーターシートは、各分野の専門家が、品目分野毎に作成したもので、フローチャート式になっています。

関連法令の条文に精通していなくても判定することが可能です。

なお、経済産業省は、フォワーダーに対して、輸出通関手続きの際に、売主から該否判定書を提出させるように行政指導しています。

4.カントリーリスク(非常危険)カントリーリスク(非常危険)とは、一国での政治、経済の急激な変化や、政治的あるいは宗教上の過激な対立や治安悪化、政府による規制措置などで、契約当事者の契約履行に大きな影響が出たり、契約当事者が損失を被ったりするリスクを言います。

自然災害が多い国も、カントリーリスクが高いと見なされます。

取引ターゲット国(地域)を決める際に、カントリーリスクの大小で、候補先を絞り込むことは、貿易のリスク回避の視点からも、大切なことです。

(1)カントリーリスクを知る方法世界各国のカントリーリスクは、NEXIのホームページに掲載されています。

ウェブ上の検索画面で、「日本貿易保険カントリーリスク」をキーワードにして検索すれば、すぐにたどり着けます。

これは、先進国で構成している経済協力開発機構(Organisation:forEconomicCooperationandDevelopment。

大企業以外の企業の場合、一般論として、体力は不十分なので、特定の一つの国に入れ込んでしまって、その国との取引が、一時的であってもある日突然止まった場合、会社経営が行き詰まってしまうかもしれません。

カントリーリスクに対する自社の耐性を意識しておく必要があります。

OECDのカントリーリスク評価は、欧米の専門家による、世界各国の経済・金融・財政面でのリスク分析がメインです。

近隣諸国との関係に由来する地政学的なリスクは、それぞれの国の地理的な場所によって左右されるため、専門家といえども、全世界に共通のカントリーリスク分析に反映するのは不可能です。

従って、NEXIのHPに掲載されているカントリーリスクを参考にしつつ、地政学的なリスクを加味して、日本にとってのカントリーリスクを自社で判断するようにします。

(2)カントリーリスクの回避策カントリーリスクを回避する方法は二つあります。

①特定国(地域)への売上の偏重を制御特定の国との契約がある日突然できなくなってしまっても、経営が多少苦しくなったとしても、致命傷にならない程度に、カントリーリスクの大きな国(地域)との取引の比重を、一定以下にコントロールすることをお勧めします。

取引対象国(地域)は、できる限り分散化することで、リスクは制御できます。

特定の国(地域)に売上が集中した場合、その超えてはならない比率は、常識的には会社売上の3割程度。

あらかじめ、決めた上限を超える場合、どんなに魅力的な価格で注文が来ても応じない、自らが決めた決まり事は、必ず守る姿勢を堅持します。

②保険にリスクヘッジNEXIの「一般保険(個別保険)」は、船積み前と船積み後のカントリーリスクおよび信用リスクをカバーします。

「中小企業・農林水産業輸出代金保険」は、船積み後のカントリーリスクとバイヤーの信用リスクをカバーしますが、船積み前のリスクはカバーしていません。

このように、カントリーリスクを貿易保険にヘッジする方法は、常に完璧とは限りませんが、やはり、自社で特定国との取引に偏重しないように制御して、取引対象国を分散化することが、中長期的には、カントリーリスクを抑える有効な方法です。

すでに契約済みの取引については、可能な限り、貿易保険にリス

クヘッジします。

5.信用リスク信用リスクとは、買主の支払能力不足や倒産のような、買主側が債務不履行になるリスクを言います。

「第七章決済リスク」で、決済リスクの少ない決済方法を選んで契約することに努め、どうしてもリスクの高い決済方法でやらざるを得ないのであれば、「貿易保険」にリスクヘッジをして取引を行うこと、そして、万が一、貿易保険に決済リスクをヘッジできないのであれば、その契約はしないこと、これが「貿易の基本」であることを説明しました。

この「貿易の基本」を守っていく限り、貿易での個々の取引の「与信リスク」は、基本的に危惧する必要はありません。

国内取引での信用調査は、個々の取引で代金不払いや、取りはぐれが起きそうな相手との取引を回避するために、資産のある優良取引先を選別することが目的ですが、貿易での信用調査は、個々の取引の与信リスクの懸念よりも、将来的にガッチリと組んでいける、将来性のある取引相手を発掘する目的で行います。

その意味では、取引候補先に関する、幅広い情報を含んでこそ、貿易の信用調査は意味があります。

(1)信用調査の方法海外企業の信用調査を行うには、「商業興信所に調査を依頼する方法」(CreditAgency)、「同業者などに照会してもらう方法」(TradeReference)、NEXIを利用する方法などがあります。

しかし、最終的には、日常のコミュニケーション、企業訪問、商談交渉を通じて、自分で相手を見極めて判断することが肝要です。

①商業興信所に調査を依頼する方法(CreditAgency)民間の興信所や保険会社が、世界的な範囲で企業情報を提供しています。

次の二つの会社が有名です。

一つは、米国のDun&Bradstreet社のD&Bレポート(海外企業情報レポート:ダン・レポ)で、日本では、東京商工リサーチ(TSR)が、代理店として窓口になっています。

ダン・レポは、日本の貿易業界では、ほとんどの人に知られている信用調査書です。

もう一つは、フランスに本店を置く貿易保険・取引信用保険専門の保険会社、「コファス」(Coface)です。

同社の日本法人「コファスサービスジャパン株式会社」は、ジェトロ・メンバーズの会員向けに、特別料金で「外国企業信用調査サービス」を提供しています。

こうした「商業興信所の企業調査情報」を利用する際に、注意すべきことがあります。

それは、先進国の企業はともかくとして、新興国の企業情報に関しては、そこに記載されている内容を、鵜呑みにしないということです。

調査会社は、通常、調査対象の企業から、財務諸表などの提供を受けて企業情報を作成しますが、新興国では、何通りもの財務諸表を作成している企業が、数多くあります。

つまり、信用調査会社に提供する財務諸表が、真実のものとは限らないことが良くあるのです。

新興国企業の信用調査書は、参考程度の意味合いでしかないと考えるのが、無難でしょう。

②同業者等に照会してもらう方法(TradeReference)取引先候補とすでに取引関係にある他社に聞いたり、同業者に照会したりして、情報を集める方法が、「トレードリファレンス」(TradeReference)です。

この方法は、取引先候補の方に、情報が洩れる可能性があるので、堂々と書面で問い合わせる訳には参りません。

口頭で情報収集できる機会があれば、実施します。

③日本貿易保険(NEXI)を利用する方法NEXIの利用方法については、「第七章決済リスク」の「6.日本貿易保険(NEXI)」の項でご紹介しましたが、高額な信用調査書を取り寄せるよりも、NEXIの海外商社名簿による格付制度を利用されることをお勧めします。

取引相手候補の企業が、海外商社名簿に登録されていなくても、中小企業基本法上の「中小企業者」の場合、8件まで無料で格付けしてくれますし、有償でも一件1万円程度で、調べてくれて格付けしてくれます。

信用調査書はもらえませんが、格付結果を知ることができるので、十分です。

貿易保険を利用中か、利用を検討している企業が利用できるもので、貿易保険を利用する意図のない企業は利用できませんが、NEXIの企業格付けで、信用度を判断するのは、簡便で使いやすい方法です。

(2)最終的には、日常のコミュニケーション、企業訪問、商談交渉を通じての見極め上述のとおり、幾つかの信用調査の方法がありますが、日常のコミュニケーション、企業訪問、商談交渉の過程を通じて、最終的に相手を見極めることが大切です。

特に、新興国とのビジネスの場合は、この方法が最も確実な判断方法です。

その会社を訪問すれば、雑談の中で、「自社ビルなのか、賃貸ビルなのか」、「社有車はどのくらいあるか」といった資産の状況は聞き出せますし、何よりも、その会社の従業員が、生き生きと仕事しているのか、あるいはつまらなさそうに仕事をしているのかを、直接目にすることで、その会社と取引して良いかどうかが直感的に分かります。

最終的には、自分の目で見て判断することが、一番頼りになります。

6.クレームリスク貿易取引をしていると、クレームは付き物と言っても過言ではありません。

さまざまなクレームがありますが、最も多いのは、「品質クレーム」と「ディレイシップメント(船積遅延)クレーム」、「マーケットクレーム」、さらに、バラ積みの貨物では「ショーテージ(数量不足)クレーム」です。

クレームを受けると、「逃げ腰」になる人がいます。

しかし、クレームに対して「逃げ腰」になれば、相手はすぐにそれを察知します。

それを契機に、その後のビジネスは、ギクシャクしたものになって行くでしょう。

クレームを受けたら、すぐ事実確認を行います。

こちら側の契約違反であれば、発生原因と今後の改善策を説明し、協議のうえ解決方法を決めて実行します。

クレームは、迅速に解決すれば、信頼関係を強化する絶好のチャンスになります。

クレームを、後ろ向きに捉えるか、前向きに捉えるかで、ピンチになるか、チャンスになるかが決まります。

クレームには、迅速に、誠意をもって対応しますが、何が何でもまずは謝るという日本的対応は厳禁です。

謝れば非を認めたことと理解されてしまいます。

貿易では、まず謝るのではなく、真っ先に事実を確認することです。

その上で、確かに自社に原因のあることが判明した段階で、初めて謝ることになります。

(1)品質クレーム買主が売主に対して「品質クレーム」を提起できる、唯一の正当な理由は、「輸出した貨物が、契約に定めている品質基準に合致していない」ことです。

その他の理由は、「品質クレーム」を提起する根拠になりません。

品質クレームに限らず、売手も買手も、相手方に対してクレームできるのは、契約違反があった時だけです。

ですから、契約書の品質・規格の決め方は重要で、曖昧な品質・規格の決め方をすると、トラブルの原因を作るだけです。

①現実的な対応とはいえ、現実には、次の商売が控えていることもあります。

理不尽なクレームでも、ある程度それに応じて、次のビジネスに繋げる方が得策なこともあります。

そこは、ビジネスマンとして柔軟に考えるとして、そのような場合であっても、理不尽なクレームが繰り返されないように、「今回のクレームは、売主として認めない」旨、前例としないことを確認したうえで、「双方の今後の関係に鑑みて、求償に応じる」とすることが、現実には良く行われるクレーム解決の方法です。

②必ずクレームしてくる相手国により相手によりですが、貨物が着いたら、何はともあれ、売主にクレームしてくる海外企業もあります。

「クレームして相手が応じてくれば、儲けもの」とばかりに、ともかく貨物が着けばクレームしてくるのです。

そうこうしているうちに、次のビジネスの引き合いを出してきて、前回の値段よりも、クレーム分だけ安くせよと要求するのです。

次の商売で値引きさせることが、クレームの目的で、クレーム自体を駆け引きの道具とするのです。

中には、このような海外企業もあります。

③生産・加工管理水準の国際基準への引き上げ生産・加工管理水準を、国際基準に引き上げていく努力も必要です。

欧米の先進国は、関税の引き下げなどに対応しながら、一方では、高いハードルの「国際基準」を設けて、国内産業を保護する傾向にあります。

生産・加工管理水準を国際基準に引き上げていかなければ、近い将来、輸出することが難しくなっていきます。

薬品や肥料などの製造分野では、GMP(GoodManufacturingPractice:適正製造規範)が、国際基準としてありますが、大企業にとっては、国際基準の取得は、それほど難しいことではないでしょう。

問題は、中小・零細業者の多い食品業界です。

米国、欧州連合(EU)、中国、ロシアなどの国々では、HACCPを実施している工場で製造された食品を、輸入の前提条件にしていく流れにあります。

HACCPは、国連の食糧農業機関(FoodandAgricultureOrganizationoftheUnitedNations:FAO)と世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)が、1963年に設立して作った「コーデックス委員」(CodexAlimentariusCommission:CAC)が、食品の国際基準として制定したものです。

しかし、国によりHACCPの内容は同じでなく、世界どの国にでも通用する「グローバルHACCP」は、今のところ存在していません。

日本でも、各都道府県が展開している所謂「都道府県HACCP」や業界団体によるHACCP基準など、複数のHACCPはあるものの、国際的に通用する権威あるHACCPにはなっていません。

ISO22000やFSSC22000は、HACCPを取り込んだ形になっていて、しかも国際認証規格として認められているので、それらを取得することによって、HACCP導入企業として認めてもらおうとする動きもあります。

また、厚生労働省は、2018年6月に食品衛生法の一部を改正して、原則として、すべての食品などの事業者に、HACCPによる衛生管理またはHACCPの考え方を取り入れた、衛生管理を行うように制度化しましたが、これとて、国として、HACCPの認証制度や承認制度を導入しようとするものではありません。

HACCPは、基本的には、輸出先の国が定めるHACCPをクリアーすることが、輸出できるかどうかの基準となります。

GAPに関しては、ヨーロッパで作られたGAPが、すでに世界標準化していて「グローバルGAP」と呼ばれています。

日本は、国際基準に合致した農業分野の「ASIAGAP(アジアGAP)」を推進しつつありますが、輸入国側でどれだけ認知されるかが鍵です。

(2)ディレイシップメントのクレームリスク契約の船積時期までに、船積みできなければ、買主からディレイシップメント(DelayShipment:船積遅延)のクレームを受けます。

少しばかりの心構えや契約のコツ、あるいは、正確なインコタームズの知識があれば、ディレイシップメントリスクを回避できることが、少なくありません。

①船積時期で無理しない商談の時に、買主はできるだけ早く船積みするように、要求することが多いのですが、売主は、このような場合、多少無理な船積時期の要求であっても、ついつい商売を取ることに、前のめりの姿勢になってしまい、相手の要求を無理して受けがちです。

こうして契約した場合、結局、契約の船積時期を守れずに、船積遅延が起きやすいのです。

商談の時に、「ちょっと無理かも!」と不安が横切ったら、絶対に無理しないと、自らに言い聞かせましょう。

輸出で、自分が無理しないだけでなく、輸入でも、相手に対して、無理な要求はしないようにします。

相手に無理してお願いした場合、結局、相手がそのとおりにできず、苦しむのはこちらです。

ビジネスに対する熱意や、やる気は大切ですが、それと無理をすること、無理をさせることとは、別次元の問題です。

②L/C開設と船積時期契約で、船積時期が20XX年3月(ShipmentinMarch)、L/C開設期限が、20XX年2月末日(LetterofCredittobeestablishedwithinFebruary)だったと仮定します。

買主がL/Cの開設に手間取って、3月29日にL/Cを開設したのであれば、明白な契約違反です。

ところが、3月29日にL/Cが開かれたのでは、売主がL/Cの到着前に船積みするリスクを冒さない限り、契約どおりの船積みは不可能に近く、船積は恐らく4月にずれ込みます。

しかし、この場合、売主が期限どおりに船積みしなかったことで、売主は買主から船積遅延のクレームを受けるリスクがあります。

もちろん、L/C開設期限を守らなかったのは、買手の契約違反ですが、売主が船積期限を守らなかったことも事実です。

こうして、L/C開設遅れと船積遅れのクレーム合戦が起き得ます。

こうした事態になるのを防ぐには、契約で、L/C開設期限と船積期限を連動させておきます。

例えば、「有効なL/C到着後、40日以内に船積みする」のように、L/C到着と船積時期を関連付けておくだけで、クレーム合戦になるのを防止できます。

(3)ショーテージのリスク船積みした数量が多すぎて、買主からクレームがついたという話は、聞いたことがありませんが、数量が少なければ、必ずクレームがつきます。

数量不足のことを、単に「ショーテージ」(CargoShortage)と言います。

①コンテナ貨物でもショーテージが起きますコンテナ貨物は、バンニングされた時点で、シール(封印)されます。

税関検査でコンテナを開ける場合、シールはいったん剥がされますが、検査が終われば再びシールされ、シールされたまま輸入国に到着します。

この限りでは、コンテナ輸送でショーテージが起きるはずはありません。

が、現実には、船員がコンテナシールを外して抜き荷したり、国(地域)によっては、税関吏が検査時に抜き荷したりすることがあるようです。

コンテナシールを外した場合は、シールが取り付けられていなかったり、当初のシール番号と異なるシールが、取り付けられたりします。

また、コンテナが損傷していると、損傷個所から貨物が漏れて、ショーテージが起きることもあります。

コンテナ貨物のショーテージは、一件当たりの不足数量がそう多くないことが特徴です。

②バラ積み貨物(在来船貨物)のショーテ-ジクレームは金額が大きいバラ積み貨物(在来船貨物)も、抜き荷によるショーテージのリスクがあります。

液状の貨物の場合は、荷卸しの際、どうしても船内に残留する部分があるので、積載重量と、荷揚重量とで差が出ます。

また、商品によっては、水分の自然蒸発などによる自然欠減で、ショーテージが起きるものもあります。

③ショーテージクレームを起こさない方法「第十章 契約書の基礎知識」の「7.売買契約のビジネス条項」、「(3)数量(Quantity)」で、数量の齟齬を防止する方法について、数量齟齬の許容範囲を決めることや、「積地最終」(ShippedFinal)、「揚地最終」(LandedFinal)といった方法を紹介しました。

この他、同じ商品の取引で、ショーテージクレームが頻繁に起きる場合、損保会社に「ショーテージ保険」ができるかどうか、相談してみるのも手です。

(4)マーケットクレーム契約してから、商品の需要と供給の関係が大きく変化して、相場が大きく動くことがあります。

契約価格より相場が下振れした場合、まだ船積みされていない段階では、買主は、契約履行の先延ばし、契約単価の値下げや契約破棄を目論んで、些細な理由を見つけて、売主に難癖をつけてくることがあります。

すでに貨物が仕向港に到着して、輸入通関済みの段階では、「品質が悪い」という理由で、クレームをしてきます。

このように、契約後の市況の変化に起因するクレームを、「マーケットクレーム」(MarketClaim)と呼び、貿易業界では、「商道徳に反する重大な行為」として、固く「ご法度」になっています。

マーケットクレームをしてくる相手は、貿易のルールを守らない、不誠実な相手ですから、それ以降の新規取引は行うべきではありません。

7.ロング・ショートのリスク売買というのは、「売り」と「買い」の両方の取引条件が成立していれば、基本的にリスクはありません。

しかし、「売り」か「買い」のどちらかが成立していなければ、それは「リスク」だと認識する必要があります。

(1)ロングとは?輸出商品の仕入契約をして、輸出契約ができていない場合、契約上のロング(買い持ち)の状態になります。

そのまま、輸出契約がない場合、仕入契約の履行時期がくれば、貨物を引き取らなければなりません。

仕入契約を履行して、その貨物を倉庫に搬入して保管すれば、その貨物は、在庫保管状態のロング(在庫)となります。

在庫のロングになると、金利と倉庫料(金倉:キンクラ)が日々かさみ、実損が生じます。

これが、ロングのリスクです。

(2)ショートとは?輸出商品の仕入契約ができていないのに、輸出契約をした場合、契約上のショート(空売り)状態となります。

仕入契約ができないまま、船積時期が来れば、輸出契約を履行しなければなりません。

しかし、そうしたくても、荷渡しする玉がなければ、ノンデリ(引渡不能:NonDelivery)となり、ノンデリのクレームを受けることになります。

クレームを受けないためには、どんなに値段が高くても、貨物を仕入れて船積みするしかありません。

これが、ショートのリスクです。

(3)ロング・ショートが生じるリスク仕入契約と輸出契約をして、売り繋ぎができていても、ロング・ショートのリスクが生じることがあります。

「売り」も「買い」も、無事、売買の契約が成立した後で、販売先が契約破棄すれば、ロング(買い持ち)の状態になります。

逆に、売買の契約が成立した後、仕入先が契約破棄すれば、ショート(空売り)の状態になります。

ですから、売り繋ぎ済みであっても、ロング・ショートの状態になるリスクは常にあるのです。

(4)ロング・ショートが生じるリスクを最小限にするには?海外の販売先からの契約破棄リスクは、L/C決済の方法で、代金を事前に確保することで、基本的に回避できます。

D/P、D/A決済の場合は、貨物代金の何割かを前金として送金させることで、海外側から契約破棄してくるリスクを、抑えることができます。

前金を送金してきた後で、海外側が契約を破棄すれば、前金は「没収」します。

海外側は、前金部分が丸損となりますから、そのリスクは冒さないでしょう。

送金決済分の残額をD/P、D/A決済とするのであれば、貿易保険にリスクをヘッジします。

しかし、仕入先からの契約破棄リスクを解消する手立ては、残念ですが見当たりません。

仕入には、「仕入与信リスク」が厳然と存在していることを認識して、仕入先を選別するしかありません。

8.輸出先国(地域)の輸入規制リスク世界の国々(地域)は、生態系の保護や、家畜や農作物に悪影響を与える病虫害や疫病の進入防止のために、輸入される動植物や食品に対して検疫を行っています。

肉類では、いったん疫病が発生すると、その国からの輸入が禁止されたり、規制されたりします。

植物でも、それは起こり得ます。

放射性物質による輸入規制も一部の国(地域)で行われています。

食肉や動植物の貿易では、輸出国で、動物の疫病や病虫害が発生すると、輸入国(地域)側では、たちまち輸入規制が実施されます。

このリスクは、食品などの取引では、常に潜在的にあるリスクです。

(1)動植物の検疫リスク世界各国とも、植物や動物の輸入には、動植物検疫制度を設けています。

自国の生態系や家畜・農作物に影響を与える危険のある外国の動植物、あるいは絶滅が危惧される動物などは、世界各国とも、種類により、輸入全面禁止、検疫証明書があれば輸入を許可、輸出国での指定施設、認定施設、選定施設などの固定施設で処理あるいは指定地域で栽培され検査を受け、輸出国の検疫証明書が発給されたものであれば輸入許可、といった規制措置を講じています。

動植物検疫がらみの規制は、放射性物質の規制同様、頻繁に変更されますから、具体的な輸出アイテムを決めた段階で、輸出ターゲット国(地域)の規制状況を、経済産業省、農林水産省、厚生労働省、動植物検疫所、日本貿易振興機構(JETRO)などのホームページ(HP)で、確認することをお勧めします。

①植物の輸出野菜・果物・樹木などは、植物防疫所から植物防疫証明書の発給を受けて輸出します。

しかし、証明書があっても、実際の貨物に有害病虫が付着していれば、仕向国での輸入は許可されませんから、有害病虫付着のない貨物の出荷に努めます。

②木材を梱包材に使って輸出する場合木材を梱包材に使って輸出する場合、使用する木材の種類により、日本で消毒措置をしたうえで、農林水産省傘下の植物防疫所が発行する植物検疫証明書や、植物検疫協会が発行する消毒証明書を添付する必要があります。

③厳しい規制の肉類牛は牛海綿状脳症(BovineSpongiformEncephalopathy,BSE)と口蹄疫、豚は口蹄疫、鶏は鶏インフルエンザと、それぞれ重大な疫病が発生する都度、世界の各国は、相次いで輸入禁止措置を取ってきました。

輸入を解禁する際、主要輸入国では、輸出国に対して、指定処理施設、認定処理施設、選定処理施設など、固定施設での処理を義務付ける傾向が強まってきています。

④検疫がカントリーリスクの一部を構成する国検疫は、本来、自国の農作物や生態系に影響を与える病虫害が、外国から入ってくるのを防いだり、家畜や動物の伝染病が外国から入ってくるのを防いだりするためのもので、純粋に防疫上の観点から、実施するものです。

しかし、現実には、検疫を非関税障壁の道具としたり、自国産業の保護のために利用したり、政治的な目的を達成するための道具にしたりして、本来の検疫の目的から離れた運用をする国があります。

このような国は、カントリーリスクの高い国として、貿易をする対象国を絞り込む際、厳しい目で見なければなりません。

(2)放射性物質の規制のリスク2011年3月の福島原発の事故以降、世界各国は、日本からの輸入、特に食品の輸入に対して、厳しい制限を加えています。

日本の特定地域の食品の輸入を停止したり、輸入するには、産地証明書や放射性物質の検査証明書を必要としたりする国(地域)もあります。

諸外国のこうした輸入規制は、すべてが、自国民の健康被害を考慮して取っている措置とは言えません。

ある国は、その国の大使館や領事館を置いている都市や県でできた食品を、輸入禁止にしています。

その国の大使館や領事館の人たちの健康は、心配ないのでしょうか? 一部の国が、政治的な目的のために、放射性物質を口実にしているのは、誰の目にも明らかです。

ただ、放射線による各国の輸入規制は、先進文明国を中心に、徐々に全面解除の方向に向かっています。

9.認証とラベル表示のリスク各国(地域)では、品目により、「認証」と「表示」を義務づけています。

輸出ターゲット国(地域)の「認証」と「表示」に関する情報を集めることは大切ですが、輸出ターゲット国(地域)で、その業種の規制に精通した相手を選ぶだけで、認証や表示についての法規制情報の壁を、乗り超えることができます。

本来、海外の輸入企業は、自国の規制を熟知しているべきですが、グローバル化の流れにあっては、新規参入する企業が常に出てきます。

素人企業は、当然ですが、自国の規制について無知なことが少なくありません。

ジェトロなどの支援機関から、情報を取るのも有用です。

が、必ずしも最新の情報をいつでも入手できるとは限りませんから、最終的に、「取引相手先から最終確認を取ってから輸出する」ようにしなければなりません。

認証やラベル表示の問題で、輸入できなかったり、販売できなかったりした場合、輸入当事者である買主が、直接的な損害を被ります。

買主の責任を明確にする意味で、「取引相手先から最終確認を取ってから輸出」します。

取引相手が、自国の認証とラベル表示制度に自信を欠くのであれば、「試験的な輸出を経て」、「本格的な取引に移行」する慎重さが必要です。

(1)基準認証の取得世界の多くの国(地域)では、電気や電波・通信などに関わる機器の「基準認証」規制を設けています。

日本も、電気用品安全法に基づくPSEマーク制度を実施しています。

欧州連合(EU)では、ローズ指令と呼ばれる電気・電子機器に対する「危険物質に関する制限」(RestrictionofHazardousSubstances:RoHs)指令や、リーチ規制と言われる化学物質に対する「REACH」(Registration,Evaluation,、Authorisation。

andRestrict、on機of械Ch・mi電al子)機規器制・圧力容器・玩具など「中国ではEマーク制度を」実電施気し製て品い・まタすイヤ・玩具などに対する。

これらの商品は、こうした認証を取得したうえで、輸出しなければなりません。

RoHsやCEマーキングなどの海外規格情報、規格適合評価試験など、技術面での支援(証明書発行を含む)は、「広域首都圏輸出技術支援センター」(MTEP))に所属する東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県、横浜市の公設試験研究機関が、中小企業の海外展開支援サービスの一環として行っています。

国際規格や海外の製品規格に関する相談や情報提供、海外の製品規格に適合した評価試験などの技術的な支援が受けられます。

関東圏以外の企業にも、サービスが広がりつつあり、将来的には全国的な規模での海外展開支援の体制が整えられていくものと思われます。

(2)ラベル表示どの国にも、食品、化粧品などの商品は、ラベル表示に使用する言語や表示項目、字の大きさなどを定めている法令があります。

法令に基づいて、「名称」、「内容量」、「原材料名」(または成分)などを表示しなければ、輸入国での

販売はできません。

輸出するには、相手国の法令規定で定められているとおりに、表示する必要があります。

取引相手に、印刷用の版下を作ってもらえれば、日本で版下を印刷業者に渡すことによって、表示ラベルを印刷できます。

この場合、版下は相手が作りますから、表示内容に関しては、日本側も、誤表示のリスクを回避できます。

ラベルの表示内容を自社で作成する場合は、取引相手から、最終的に書面確認を取るようにします。

確認を取らないで、ラベルの誤表示のリスクを負うことは、避けなければなりません。

10.輸送開始前に滅失・損傷の原因があるリスク国際間の物品の移動はノーリスクで行います。

そのために、売主も買主も、損害保険をかけるのが、「貿易の基本」の一つで、輸送途上の事故による貨物の滅失や損傷は、保険でカバーされることは、「第五章 物流リスク」で説明しました。

しかし、貨物が輸送途上で滅失・損傷しても、滅失・損傷の原因が、輸送開始前に存在していた場合、損保会社は、輸送途上の事故ではないとして、損害賠償を拒絶します。

(1)輸出梱包の強度売主は、長距離の輸送に十分堪える強度を持つ梱包で、出荷しなければなりません。

梱包自体が強度不足だった場合、輸送途上で滅失・損傷しても、「その原因は、輸送が開始する前から存在していた」として、損害保険では賠償されません。

輸出梱包には、国際間の輸送に堪えるだけの強度が必要です。

(2)コンテナの故障自社の工場や倉庫でバンニングする場合、空のコンテナを工場や倉庫につけ、コンテナ内に貨物を積み込みます。

これをシッパーズパック(Shipper’sPack)と言います。

CFSでフォワーダーがバンニングするのはフォワーダーズパック(Forwarder’sPack)で、船会社や航空会社がバンニングするのをキャリアーズパック(Carrier’sPack)と言います。

コンテナの故障の有無を確認するのは、バンニングする会社の責務です。

天井に穴が空いているコンテナに、貨物をバンニングして出荷した場合、コンテナ内の貨物が、水濡れしたり、漏洩したりするかもしれません。

そうなったとしても、シッパーズパックであれば、売主には保険金が支払われません。

水濡れや漏洩の原因が、輸送開始前から存在していたからです。

コンテナに故障がないことを確認するのは、フォワーダーズパックの場合はフォワーダーですし、キャリアーズパックであれば、運送人である船会社や航空機会社の責任です。

(3)コンテナ内での積付不備自社の工場や倉庫でバンニングする場合、空のコンテナを工場や倉庫につけて、自社でコンテナ内に貨物を積み込みます。

バンニングが終わると、運送人による運送開始となりますが、バンニングする際、コンテナ内での貨物の積付が不適切で、貨物が輸送途上で滅失・損傷しても、その原因は、輸送開始前から存在していたとして、損保会社は補償を拒絶します。

11.対価確保前にモノやサービスを提供するリスク貿易では、代金を先に払ってしまえばモノがこない、モノを先に出せば代金を払ってこないということが、昔から頻繁に起きてきました。

だからこそ、代金が確実に売主に入金し、貨物は確実に買主の手に渡るという絶妙な仕組み、信用状(L/C)決済の方法が編み出されたのです。

L/C決済の原型は19世紀にまで遡ると言われますが、これによって、貿易における売主の「決済リスク」と、買主の「荷受リスク」を同時に解消できました。

L/Cは、貿易業界における叡智の結晶です。

対価を確保する前に貨物を船積みせざるを得ないD/PやD/A、出荷後の後払い送金などは、リスクのある決済方法です。

そこで、「第七章 決済リスク」で、NEXIの貿易保険にリスクをヘッジする方法を解説して、保険にリスクヘッジできなければ、契約しないことを強調しました。

(1)対価確保前にやりがちなことところが、相手方から対価を受け取っていないのに、相手が求めるままに、ノウハウを開示してしまったり、技術資料やサンプルを送ってしまったり、果ては、デモ機まで提供してしまったりすることが、現実に起きています。

相手は、目的を達成すれば、もう商談などする意味はありませんから、その次には、先方から商談を打ち切られたり、相手先が雲隠れしたりします。

その段階で、「騙された」ことに気づくのですが、手遅れです。

本格的な商談に入る以前でも、先に、モノやサービスを提供するのでなく、必ずそれに見合う対価を取るべきです。

価値が少なければ、対価なしでも構いませんが、価値あるものは、すべて対価をもらってからです。

これも、「貿易の基本」です。

(2)相手を信じるのでなく、リスク回避をする貿易では、相手を信じるのでなく、リスクを回避することが大切です。

相手を信じてリスクをさらせば、リスクは必ず牙を剥きます。

相手を信じることで、ビジネスが上手く行っているのであれば、それはたまたま運が良かったに過ぎません。

たまたまの運に委ねて商売をするのであれば、それは、会社に馬券を買わせることと同じです。

会社に馬券は買わせる人はいないでしょう。

「信じるのではなく、リスク回避をする」、これも、「貿易の基本」です。

12.商習慣・契約観念の違いからくるリスク日本のIT業界は、特殊です。

日本国内のITビジネスの契約は、最終的な規格を細かく決めないで、曖昧な目標規格だけを決めて、契約した後で随時「すり合わせ」をしながら、最終形に仕上げていきます。

ですから日本のIT企業が海外のIT企業にソフトウエアやゲームなどの作成を委託すると、海外側は、契約書に書いてある規格が最終規格だと思っていますから、契約してから日本側が「摺り合わせ」をしようとすると、契約規格の変更と受け取ります。

契約規格の変更であれば、それまでに作業してきた工程の一部が無駄になることがありますから、報酬価額の上乗せを要求してきます。

発注した日本側にしてみれば、お互いに「摺り合わせ」をして、最終形に仕上げていくのが「常識」ですから、そのコストも込みで報酬価額を決めたという認識です。

そこで、日本側と海外側との意見の対立が生じます。

これが、商習慣・契約観念の違いからくるリスクです。

海外側には、すでに日本企業との苦い取引経験を経て、日本のIT業界の「擦り合わせ文化」に慣れている企業もありますから、日本側としては、海外の取引相手を選ぶ際に、日本の「擦り合わせ文化」を理解しているか否かを確認して、起用の可否を決めることです。

あるいは、日本側が、海外の「契約文化」を前提として最終完成形の規格を決めて、契約することも一つの方法です。

13.温度変化のリスク遠距離の輸送途上で、貨物によっては、輸送途中の気温変化の影響で、変色、変質、変形、亀裂、形状変化などが生じるリスクがあります。

コンテナ船の航路によっては、赤道を超えるものもありますし、インド洋や赤道近くを通る船もあるでしょう。

コンテナ船の一番上に積まれているコンテナは、直射日光を浴びると、常温のコンテナ内の温度が低温調理可能な温度まで上昇し、モノによっては結露したり、カビが生えたりします。

輸送経路によっては、常温品でもリーファーコンテナ(ReeferContainer:冷蔵・冷凍コンテナ)を使った方が良い場合があります。

もちろん、冷蔵品や冷凍品は、リーファーコンテナを使います。

リーファーコンテナ内の温度は、船会社によって設定できる温度帯は異なりますが、通常は25℃~+25℃、または30℃~+30℃の範囲内です。

輸送中のリーファーコンテナ内の温度は、温度データロガーで自動的に記録されます。

買主から事故の連絡があれば、船会社からコンテナの温度記録を取り寄せて、原因を究明します。

コンテナの故障などによる輸送途上の事故であれば、貨物の損失は損害保険でカバーされます。

保険会社は、船会社と賠償交渉をすることになります。

14.不適切な荷扱いのリスク世界中どの国も、日本と同じような荷扱いをするわけではありません。

乱暴な荷扱いしかできない国(地域)も現実にあります。

モノは、手で持ち上げて、そのまま高いところで両手を離すことが習慣になっていれば、日本では壊れない包装でも、確実に壊れます。

不適切な荷扱いのリスクは、生活習慣というカルチャーの違いが一つの原因です。

商品によっては、花卉のように、直射日光に当ててはいけないモノがあります。

しかし、貨物を取り扱う空港の作業員が、そのことを知らなければ、直射日光の当たる場所に、花卉の商品を置いてしまうことが起きます。

輸入地には、鮮度不良の花卉が到着します。

このような不適切な荷扱いのリスクを見極めるには、取引を開始する前に、念のため、貨物が輸送されるルートを訪問して、どのような問題が起こり得るかを、調査します。

輸送ルートは、単に最短ルートが最善とは限りません。

適切な荷扱いがされるかどうか、特殊な商品であれば、その荷扱いに慣れた港湾や空港なのかどうかを基準に、輸送経路を選定する考え方が必要です。

果物を日本から中国に輸出していたある日本の業者は、中国の東北地方で売るのに、大連港で陸揚げすると荷傷みが激しいことから、種々試験をした結果、上海港で陸揚げして、陸路で東北まで輸送するルートを選択しました。

不適切な荷扱いのリスクを考慮した結果です。

15.為替リスク貿易で常につきまとうのは、為替リスクです。

日本円建てで契約すれば、日本側に為替リスクはありませんが、相手方に為替リスクが生じます。

米ドル建てで契約すれば、米ドル使用国でない限り、売主と買主の双方が、それぞれ日本円と米ドル、現地通貨と米ドルとの為替リスクにさらされます。

相手方の現地通貨が、貿易決済に使用できる国際通貨であれば、現地通貨建てで契約することも可能ですが、その場合は、日本側に為替リスクが生じます。

(1)為替先物の予約このような貿易についてまわる為替リスクは、契約通貨の外貨先物を予約することで、回避できます。

仮に、20XX年の1月下旬に、買主側から、商品代金5万ドルが、入金する予定であれば、売主は、銀行との間で、5万ドルの外貨を、20XX年の1月下旬に、銀行に売る約定を銀行とします。

この約定は、銀行の立場からすると、5万ドルを売主から買って、売主に日本円を支払う約定です。

ですから、銀行にしてみれば、米ドル、5万ドルの買い、つまりBuyingということになり、適用する為替レートは、TTB(電信買相場:TelegraphicTransferBuyingRate)のレートです。

輸入取引の場合は、銀行に日本円を払って、ドルを売る(Selling)ことになりますから、適用するレートは、TTS(電信売相場:TelegraphicTransferSellingRate)となります。

銀行は、営業日には毎日、半年先までのTTBとTTSの為替レートを公表します。

公表されるレートは半年先までですが、必要があれば1年先でも2年先でも、銀行は、個別に先物の為替レートを呈示します。

20XX年の1月のTTB先物(またはTTS先物)を予約するには、ドルを銀行に売る時期によって、次のような引き渡しの方法があります。

引渡時期の範囲が狭いほど、売主に有利なレートになります。

・月確定日渡: 例 20XX年1月24日・暦 月 渡: 例 20XX年1月(1月1日~31日)・順 月 渡: 例・特定期間渡: 例(2)為替予約の手順外貨の先物取引をするには、銀行の審査を経て、「外国為替予約取引約定書」を結ぶ必要があります。

買主と商談する際は、為替先物相場を参考にして算出した、外貨建てのオファー価格を買主に呈示して商談をします。

オファー、ビッドを経て、商談が妥結すると同時に、銀行に為替予約を行ないます。

予約は、銀行とウェブ上でオンライン予約することが可能です。

為替予約をして、為替レートが確定することで、円貨ベースでの売上予定額や利益も確定し、為替相場の変動による為替リスクを、回避することができます。

16.輸出入関連法令違反のリスク貿易業者には、税関による輸出入事後調査(「事後調」と言います)が行われることがあります。

調査の重点は、輸出では、安全保障貿易管理に関わる禁輸国への迂回輸出がないか、輸出するのに許可が必要な品目で、無許可輸出していないか、麻薬原料やアスベストなどの禁輸品の輸出の有無などです。

輸入では、脱税の有無が主な調査対象です。

輸入の違反例として良くあるのは、買主が提供した部品に係る費用の申告漏れ、買主が支払った価格調整金(インボイス金額以外の貨物代金)の申告漏れ、低価インボイスによる輸入申告、輸入貨物に係るライセンス料の申告漏れ、輸入貨物に係る業務委託手数料の申告漏れなどがあります。

買主から売主への輸入貨物に関わるライセンス料の支払いや、業務委託手数料等は、貨物のコストの一部ですから、それらを含めた価額で輸入申告しないと、脱税したことになります。

低価インボイスとは、アンダーバリュー(UnderValue)のインボイスのことで、実際の貨物の価額より低い価額を記載したインボイスを言います。

アンダーバリューのインボイスを使って輸入申告すると、関税と消費税の脱税ですから、特に悪質な行為と見なされます。

なお、帳簿類は、輸出では5年間、輸入では7年間、書類は輸出入とも5年間の保管が義務付けられています。

17.海外課税のリスク貿易をしていると、外国から課税される「海外課税のリスク」が生じることがあります。

海外課税の主なリスクには、「PE認定のリスク」、「個人所得税のリスク」、「独占禁止法違反のリスク」および「移転価格税制のリスク」の四つがあります。

(1)PE認定のリスク恒久的施設(PermanentEstablishment:PE)という税務上の概念があります。

PEとは、事業を行う際に主要な役割を果たす場所を言い、支店、出張所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫などが該当します。

事業を行うのに準備的・補助的な役割しか果たさない場所はPEではありません。

国際税制では、「PEなければ課税なし」という大原則があります。

ですから、通常、出張者が海外に行って、商品を売り込んだり、買い付けを行ったりしても、その国で課税されることはありません。

出張者は、通常、PEでないからです。

ところが、海外での技術指導や設備の据付などを伴う契約で、長期に技術者を海外に派遣した場合、その地の税務当局が、「PE認定」をして課税してくることがあります。

一人の出張者が長期に滞在している場合でも、短期出張者を入れ替わり立ち代わり派遣して滞在させている場合でも、事実上、本社の事業拠点になっていると税務当局が見なせば、PEとして認定してきます。

長期滞在とは、中国、タイ、インドネシア、ベトナムは、6ヶ月以上の滞在で、これを超えると「PE認定」されます。

国ごとの「長期」の定義は、日本とその国との租税協定で決められています。

「PE認定」の厄介な点は、税務当局による一方的な見なし課税になることです。

税務当局は、PEの活動によって、本社がどれだけの利益を上げたかを証明する資料の提出を求めますが、簡単に対応できるものではありません。

最終的には、見なしで法人税などの計算をして課税される結果になりがちです。

海外企業との間で、技術指導や設備据付工事などの契約をする場合、前述の長期滞在にならない据付期間であれば、PE課税のリスクは回避できます。

もちろん、契約だけでなく、実態のうえでも、滞在期間は「長期」未満でなければなりません。

(2)個人所得税課税のリスク「所得税」には「法人所得税」(法人税)と「個人所得税」(所得税)があります。

「法人所得税」(法人税)の課税原則は、「PEなければ課税なし」ですが、「個人所得税」(所得税)の課税原則は、「所得の源泉国に課税権あり」です。

「所得の源泉国」とは、例えば海外駐在員の場合、会社は、駐在員の給与の一部を日本で払ったり、留守宅手当を日本で支給したりするのが一般的です。

そうした日本払いの報酬が支払われるのは、その駐在員が海外の国で働いているか

らです。

つまり、その駐在員の所得の源泉は海外のその国にあり、課税権はその国にあります。

日本で支払われる駐在員の給与の一部や留守宅手当などに対する所得税の課税権は、海外の駐在国にあって、日本の税務署には課税権はありません。

従って、その駐在員は、日本払いの部分の報酬も含めて、駐在国で納税申告をして個人所得税を納税しなければなりません。

海外駐在員の場合は、赴任した日から「日本の非居住者」、「駐在国での居住者」扱いになりますから、個人所得税は赴任日から任地で課税されることになります。

出張者の場合、国や、租税条約により、異なりますが、通常、年間滞在日数が183日未満の外国人をその国での「非居住者」とし、その国での収入がなければ、課税されることはありません。

ただし、出張者が183日以上の長期にわたってその国に滞在すると、その国の「居住者」扱いとなって、その年の収入は、その国で納税しなければなりません。

この場合、海外のその国の納税証明書があれば、日本側で納税したその年の所得税は、外国税額控除の形で全額還付されます。

(3)移転価格税制のリスク移転価格とは、モノやサービスが移転する価格、つまり売買価格やサービス料金のことです。

親会社が子会社に役員を派遣するなど、実質的な支配関係にある会社同士が行う取引では、恣意的に移転価格を設定すれば、親会社の利益を多くして、子会社の利益を少なくすることができますし、逆に親会社の利益を少なくして、子会社の利益を多くすることも可能です。

しかし、恣意的な価格で取引すれば、どちらかの国の税務当局に、税の取りはぐれが生じます。

取りはぐれた側の税務当局が、移転価格税制を盾に、課税するのは当然です。

親会社の所在国の税務当局と、子会社が所在する国の税務当局のいずれもが、法人税等の取りはぐれが生じないようにするには、お互いに支配関係にない独立した企業同士が行う価格(これを「独立企業間価格」と言います)で、親会社と子会社が取引することです。

第三者企業から見積もりを取ったり、通関統計で輸出入価格を参照したりして、親子間の取引価格を決める方法が一般的です。

また、親子間での取引価格を頻繁に変更すると、移転価格に対する税務当局の疑念を惹起するかもしれませんから、親子間での取引価格の変更は、慎重に考えなければなりません。

(4)独占禁止法違反のリスク販売店契約で、相手方が輸入した後、国内で再販売する価格を、日本側が指定したり制限したりすると、相手国での独占禁止法または不公正取引防止法違反とされ、販売店契約が無効とされるリスクが生じます。

輸出先の国での販売店同士、あるいは平行輸入業者との無用な過当競争を避けるために、再販価格の下限を指示したくなる気持ちは分かりますが、外国側がこれを行うことは厳に戒めなければなりません。

販売店契約書で、再販価格の指定などは、絶対にしないように注意しましょう。

18.輸入ビジネスのリスク海外から輸入する場合、とりわけ新興国からの輸入には、注意が必要です。

新興国では、生産環境も、人々の意識も、今の日本のレベルでないところで、商品が作られます。

日本側は、価格が安いメリットがあるから、輸入契約をするのですが、価格が安いのは、それなりの生産環境で作られるからで、そこにあるリスクを無視することはできません。

(1)社会経済発展段階のギャップ(時代差)からリスクを判断新興国で、今、見られる社会現象が、日本では何時頃あったのかを考えると、日本とその国との「社会経済発展段階のギャップ」(平たく「時代差」と言います)が、どのくらいなのかが分かります。

例えば、その国での初任給が幾らかを調べてみます。

それが、日本ではどのくらい前だったかで、時代差の年数が分かります。

その国で、地下鉄が普及し始めたのはいつだっただろうか? 今、公害が社会問題になっていれば、日本との時代差は、50~60年程度。

小売の業態は、日本では個人商店から、百貨店、スーパーマーケット、コンビニ、専門店、ショッピングモールへと推移してきました。

その国では今、どの段階なのでしょうか? 日本では、百貨店が光り輝いている時代がありました。

今、新興国のその国ではどうでしょうか?このように観察すると、日本と新興国とでは、国によって差はありますが、総じて30~50年程度の時代差があることが分かります。

つまり、新興国から輸入するということは、基本的に、30~50年前の日本の企業にモノを作ってもらうことと同じだ、と考えて良いのです。

そう考えることによって、見えなかったリスクが見えてきます。

(2)時代差を埋めてリスクの低い輸入取引を実現するには?新興国からの輸入取引で、品質や納期遅れが起こらないようにする方法は、一つしかありません。

それは、製造前、製造中、製造後の各段階で、売主が品質や納期が契約どおり遵守できるように、買主側が売主をサポートすることです。

輸入ビジネスを成功させるための最大のポイントは、ここにあります。

工場の製造加工設備が最新鋭でも、工場の従業員や管理者の意識は、最新鋭とは限りません。

価格が安いことだけに目を向けないで、日本との社会経済発展段階のギャップからくるリスクが、輸入商品に付随して来ないようにしなければなりません。

買主側が、商品の製造前、製造中、製造後の全段階で、品質と納期の工場側の管理に立ち会うために、品質管理要員を工場に派遣することを、売買契約締結の前提条件とします。

ただし、日本側が工場での製造立ち会いや工場出荷前での品質検査をした場合、輸出された貨物が品質不良であっても、日本側が製造立ち会いや出荷前の検品を行ったことを盾に、品質不良のクレームを拒絶することが起きがちです。

こうしたことが起きないようにするには、契約書に次の内容を明記しておくことが必要です。

;「商品が、売主の工場で製造される際、買主は、買主の代表を売主の工場に派遣して、製造工程に立ち会わせることができる。

また商品が売主の工場から出荷される前に、買主は代表を売主の工場や保管場所に派遣して、この契約の商品の品質及び数量を検査することができる。

買主の代表が、製造工程立ち会いおよび/または商品を検査した結果、この契約の品質条件を満たさないと判断した場合、売主は、当該商品を出荷しないものとする。

また、買主の代表が、製造工程立ち会いおよび/または商品を検査したとしても、この契約の品質規格条件と船積数量などの条件を含む、契約書に記載されている売主の義務にはいささかの変更も軽減も生じず、売主は、契約に規定されている売主の義務を履行するものとする。

」(3)製造立ち合いは買主が売主に提供する生産支援のサポート売主側は、製造立ち合いの提案をすると、最初は抵抗するかもしれません。

しかし、貨物が日本に着いてから、クレーム交渉になる煩雑さを考えれば、そうなる機会が劇的に減る方法を選択する方が賢明なことは、話せばすぐ分かることでしょう。

製造立ち合いは、買主が買主のために行うのではなく、買主が売主に提供する生産をサポートするサービスの提供です。

この方法で、輸入取引を実施すれば、輸入のリスクは大幅に低減するだけでなく、輸入商品の販売先に対して、自信をもって販売できますから、ビジネスを強固なものにできる効果があります。

このような製造立ち合いの仕組みを実行する、人材も資金も時間もないのであれば、輸入業者としての資格はありません。

輸入業者は、日本の国内法上も、国内製造品における製造業者と同じ立場に立つ、輸入品に対して責任ある存在だからです。

あとがき本書のような、「リスクの視点」に主軸を置いた、実戦に役立つ「知識と知恵」を随所に織り込んだ貿易実務の書籍は、今まで必要であったにも関わらず、ほとんど「空白状態」でした。

それは、主として営業マンに必要な貿易実務が、商社やメーカーの貿易部門の中で、先輩から後輩へと伝えられてきたことが、大きく関係しています。

一方、新たに貿易を始めようとする企業は、主に貿易事務について解説した貿易実務の書籍や、海外展開を支援する組織が行う貿易セミナー等から、貿易知識を習得するしかありませんでした。

しかし、それらの多くは、貿易の営業マンが必要とする貿易知識というには、しっくりこないものが大半でした。

「新しいことを学ぶには20時間あれば良い」と言われています。

「貿易の基本」も同じで、20時間あれば十分です。

貿易知識がないまま、海外展示会や商談会に出かけた場合の「時間と経費の無駄」を想起すれば、一回5時間で4日間の時間が取れないなどと申し訳する言葉に、何ら説得力はありません。

本書が、「貿易の基本」を学ぶ礎になることを願っています。

本書は、貿易営業で活躍される方々にとって、直接的に役立つ貿易実務書として執筆しました。

初めて貿易の仕事に携わろうとする方、従前から貿易をやっていて、古い貿易知識のままアップデートできていない方、系統立った貿易の勉強をしたことがなく、今さら人に聞けないでいる方、確実に利益を出し、絶対に損を負うことのない安全な貿易取引をしたい方、そして各支援機関で、海外展開の支援業務に携わっておられる方々のための、座右の銘として、役立つものと確信しています。

また、貿易業務の一部分の仕事に携わっている方にとって、全体の中での自分の仕事の位置付けを知るうえでも、本書は有益です。

皆様の忌憚のないご意見、ご指導を賜ることができれば幸甚です。

【著者紹介】太田(おおた・みつお)◎――東中ビジコン・代表~「経営と貿易のコンサルタント」~大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)卒業。

住友商事株式会社にて、海外展開の戦略作り、中国・東南アジアとの貿易や駐在員事務所、現地法人、自社製造工場などの立ち上げから運営まで、34年間にわたって携わりました。

2004年、“東中ビジコン”を興し、コンサルティング・講演・執筆活動に専念。

中小企業の海外展開を支援する国際化支援の専門家として、貿易の基本、企業進出の手順、進出後の異文化環境における企業経営の方法、海外子会社を統括管理する手法や撤退方法等について発信を続けています。

中国食品の安全性が問われた際は、NHK『視点・論点』・『ニュース深読み』・『クローズアップ現代』、『ガイアの夜明け』や数多くのニュース・ドキュメンタリー番組に出演しました。

東中ビジコンのウェブページは下記のとおりですが、「東中ビジコン」で検索すれば、トップにヒットします。

東中ビジコンhttp://www002.upp.sonet.ne.jp/tohchu_bizcon/consul.html

営業マンのための貿易実務~最新の「インコタームズ2020」に対応!~発行日 2019年12月24日著 者 太田光雄本作品の全て、または一部を、著作権者に無断で複製・転載・配信・送信、或いは内容を無断で改変する等の行為は、著作権法によって禁じられています

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