第4章一倉社長学を支える「経営の両輪」
輸入物マネジメント学は百害あって一利なし
「ヒト」「モノ」「カネ」は昔から言われる経営の3要素で今も変わらない。新たに情報や時間などを加えていることもあるが、「モノ」に包含されるビジネスモデルの一要素である。情報がビジネスも戦争も制していたのは歴史の教えるところで、今に始まったことではない。
問題は、3要素の順番である。
実際に多くの会社にお邪魔し、社長の相談に乗っていると「モノ」があり「カネ」がまわり、最後に「ヒト」がついてくると考えざるを得ない。
ときには「カネ」が先の緊急時もあることは先に書いたとおりである。
しかし、「ヒト」は常に最後である。
私の手元にある一倉先生の古い著書『ゆがめられた目標管理~企業目標とその展開~』(技報堂・1969年)にも厳しく指摘がされているが、「企業は絶対に潰れない」という前提条件下での目標管理や人間関係論をマネジメントと称し、経営学としていることに警鐘を鳴らしているのである。
さすがに、今の大学の経営学の講義で取り上げられてはいないだろうが、40年前の大学の講義で「経営学の父テイラー」を習い、「ホーソン実験(1924~32年)」の内容を経営学と教わった記憶がある。
確かに会社の産み出す製品、商品がずっと売れ続ければ、内部管理による能率向上も業績に貢献し、科学的管理学、人間関係論も経営にとって優先度の高いテーマになる可能性もあるが現実にそんなことはない。
創業者は倒産の恐怖と闘いながら、販売と資金の大切さを理屈なしに身に付けていく。一方、後継者の子供たちは大学で管理学を経営学として学び、父の経営する会社に入って後継者として育っていく。
知識で倒産のことを知っていても実感することがないから、大学や海外、MBAで学んだ最新知識が優れており、父親の経営は古くて遅れた経営と頭から思い込み、社内の不備に目を向けてしまうのである。
一倉先生自身が若いとき、メーカー4社で働き、責任者として、どんなに立派に工場管理をしても会社が倒産してしまった苦い体験と重ね合わせ、この管理病の害毒を嫌ったのである。
権威は持っているが、中小企業の実態を知らない学者がアメリカ直輸入の管理学の本を経営学と称し、社長も安易にマネジメントこそが経営と思い込むことが許せなかったのである。
会社は潰れるようにできている
会社はヒトの集合体である「組織」を形作り、組織はいったんカタチができると体制を守るために変化を嫌うという性質を持っている。
一方、会社を取り巻く社会とお客様は徐々にではあるが常に変化、進化し続け、ある時点で急激な変化を遂げ、世の中の価値観をも変えてしまうのである。
組織のトップは権力を握るために、この体制が続くことを願い、世襲を選択する。
宗教でも、国家でも、官僚でも、およそ「ヒト」が集まると同じで、歴史が長く規模が大きくなればなるほど硬直化するものである。
10年にわたって事業が好調で、高収益が続けば、多くの人は「これがずっと続く、続いてほしい」と思い込むようになる。
売上に陰りが出たときも、前の好調時に戻す努力を一生懸命、真面目にやってしまう。そして、儲かっていたからお金も使えるので、大勝負に出る社長も多いのが現実である。社会が、お客様が変わりつつあるのに、社内は過去の栄光を追い求めてしまう。だから、努力していないわけではなく、変化するお客様に対して、痛みをともなう変化をしたくない組織はお客様の支持を失い、モノが売れなくなり倒産してしまうのである。
簡単な理屈だが、組織の中に入るとこれが見えなくなる。「なぜか?」。一倉先生は、「ヒトは自己中心的にできている」からだと一言で答える。
なぜ、ヒトは自己中になるのかは、心理学者にでも任せておけばよいが、これからの社員は核家族で育ち、小さいうちから自分の部屋を持ち、携帯電話とPCが当たり前の環境で大人になる。ますます自己中の度合いが強くなっているのではと心配している。
自己中の経営を「天動説」と呼んだが、社長は自らの意識改革をして組織全体の意識と行動改革をトップダウンで強引にやり続けないとお客様の変化に後れを取ってしまう。
社長が変わらずに、社員にどんなに「変われ、変われ」と叫んでみても、返事は「ハイ」と言うだけで何も変わらない。
組織を壊し、再構築するには、上からの強烈な力がいることを知っておくべきだ。そして、いったん成功したかに見えても手を緩めればすぐに元に戻ってしまう。実行した社長なら誰でも知っていることである。
ボトムアップなどという生ぬるい手法で経営が良くなるなら、社長なんかいらないのである。
良い会社とか悪い会社とかはない。あるのは良い社長と悪い社長である
世界最強と言われた巨人企業でさえ、急激な変化に対応できなければ倒産の危機に瀕することは多くの歴史が教えてくれる。
IBMはパソコンが急成長する1991(平成3)年にはじめて赤字に陥り、93年までの3年間で150億ドルにものぼる累積赤字を計上。
ついに、社の歴史上初となる社外からの社長を招聘した。世界最強の企業に経営人材がいないということはない。
しかも、招聘されたのは、アメリカンエキスプレス、RJRナビスコの経営者とはいえ、業界経験のまったくないルイス・ガースナー氏であった。
今でも覚えているが、当時「ビスケット屋にコンピューターがわかるか!」という陰口が、日本にまで届いていた。
しかし、2年後の95(平成7)年に苦境を脱し、2002(平成14)年に会長を退任するまでの10年間で、IBMの再生と再成長軌道に乗せた実績は驚異的な成功と、全世界で絶賛されたのである。
あれだけの超優良企業でさえ社長が代わらなければ、それも外部社長というIBMの歴史からすれば考えられない手術をしなければ、倒産の危機から脱することはできなかった。
また、中国の故事には「一国は一人を以て興り、一人を以て亡ぶ」(蘇洵「管仲論」)とあるように、大国の盛衰も1人のリーダーの在り方次第であると教えている。
中小企業のオーナー社長は自身が株主であり、上場企業のように外部からの監査も弱い。
創業者であれば20~30年間トップの地位にあり、後継社長でも20年くらいの長きにわたって経営していくのであるから、会社は社長の性格の生き写しのようになっていくのである。
第6章で少し詳しく触れるが、バランスシート(貸借対照表)を診ると社長の性格や考え方、癖がハッキリと出てくるから不思議である。
幹部以下社員にいたるまでも、社長に似た人たちで固まってくるから、良い意味でも悪い意味でも金太郎飴集団となり、世間はそれを「社風」と呼ぶようになる。
一倉先生の言う「業績責任は全て社長1人の責任である」という名言と根を同じにするものである。だから、社長が「ウチの会社は……、社員は……」と悪口を言っているようでは、「自分がダメだ!」と自ら認めていることになってしまう。
立派な社長は皆「ウチの社員は本当によくやってくれる」とニコニコ顔で語ってくれるが、決して甘やかしているわけではない。何より社長が一番精進しているのを社員全員がよく知っているので皆がついてくるのである。
経済的価値の創造と事業継続が企業の任務
では、経営の両輪が「ヒト」でなければ「カネ」か「モノ」か、どっちが先か?タネ銭にあたるお金は必要だが、今も昔も出資者や、最近ではクラウドファンディングのような仕組みで調達することができる。
タネ銭があってもお金が増えることはない。何といっても「お客様に買っていただけるモノ、サービス」を産み出せるか、に会社の繁栄の全てがかかっている。
だからこそ、社長自らが外に出てお客様に接し、「本当に何をしてほしいのか?」「何に困っているのか?」「何が不満なのか?」「もっと楽しいことは何か?」をあらゆる手を尽くして探し求めるのである。
それも1つのモノでは早晩、会社の寿命が尽きてしまうので、業績が好調なうちに次々と実験を繰り返し、事業の柱になりうるモノ・サービスを創造していかなければならない。
新商品、新事業が世に出て、定着する確率が低いことは既に述べたが、一倉先生の教えの中にユニークな「新商品開発の秘訣」がある。
試作段階では、コストは一切無視して考えられる完璧なモノを作って、「お客様に喜んでいただけるかどうか?」というもの。
ここでダメだったら市場調査もコストも利益計画も全てが成り立たないのであるが、多くの会社では、開発担当者に任せ、予算ありきの状態で中途半端な試作品を造ってしまう。
真のお客様ニーズはどんなに聞き出しても、お客様自身が明確に認識しているわけではないから、試作品を試してもらって反応を見るしかないのである。
そのときにコストに縛られない試作品で、お客様が買いたいと思ってくれるモノ(価値)は何か?どうして買いたいと感じたか?を探り、原価企画に進むことを勧めている。
お金も時間もかかるから、現業が順調なうちに着手しておくしか手はない。社長が立派なデスクで椅子を温めている暇などないのである。
社内には経費しかなく、お客様のところ、会社の外にしか、利益は存在しないことを繰り返し、繰り返し、一倉先生は説いているのである。
お客様がお金を払って「付加価値」が生まれることが全て
「モノ」がどんなに売れても、そこから「ある一定の付加価値」が生まれないことには、経営視点から見れば全く役に立たない。
こんなことは社長でなくともビジネスマンであれば、誰だって知っている当たり前のことである。しかし、現実の世界ではそうなっていない。世の中に安売りを仕掛けてくる業者がいることが何よりの証拠である。
安売りを仕掛けても成り立つのは、業界内で圧倒的とも言えるシェアを取っている一位企業だけだが、中小企業が仕掛けて逆に自分の首を絞めているのは、どこの業界でも日常茶飯の光景である。
どの業界でも、これくらいの粗利益は確保しないと経営が成り立たないという「粗利益率」と「粗利益額」がある。
では、粗利益とは何か?ということになるが、小売業や商社、サービス業であれば、「売上‐仕入=粗利益」となり、「粗利益売上=粗利益率%」と簡単に出せる。
製造業や建設などは少し複雑になり「売上‐変動費=粗付加価値」となり、「粗付加価値売上=粗付加価値率%」と考え方は同じである。
詳しい社長からはよく「粗付加価値=限界利益ですか?」という質問を受けるが、その通りですと答えている。
我々は会社内の経費も、給料も、税金も、利益も、この粗利益で全て賄っており、安売りをするということは、仕入原価が変わらなければ原資が少なくなることを意味する。
2倍も3倍も売れればいいが、供給能力が追い付かないのが実際のところである。幹部社員と話をしていてこの道理がわかっていない人が多いのには驚く。
しかし、給料は誰から?という質問には、みんな「お客様から」と答えてくれるのが救いだが、実際にはお客様が支払ってくれたお金の中の、社外流出した金額を除いた粗付加価値、粗利益の中から給料が出ているのである。
わかりやすく説明するのに、よく「リフォーム業」を引き合いに出しているが、生活者として実感があるだけに納得性が高いと思っている。
100万円でリフォームをした場合、材料費と外注の大工さん、電気、水道工事屋さんの職人に75万円掛かったら粗付加価値は25万円、25%となる。原材料+外注加工費が変動費で社外流出分となる。
リフォーム会社は、確かに売上100万円であるが、住設機器メーカーと職人のために回収代行し、そのまま請求通りお金を支払うので、手元には25万円が残り、会社の収益は実質25万円となり、この中から会社の経費、給料、次の宣伝広告費、社長の給料も払っていくのである。
利益をキチンと出しているリフォーム会社はこの粗利益率が30%あり、中には35%近くの高付加価値率で仕事を契約しているエクステリア業者さんもある。
25%ではどんなに頑張っても経営は維持できなくなってしまうが、その点を指摘すると、競争が激しくてそれ以上高い見積もりで契約できないと開き直っている。
それでいて給料が安いとブツブツ言っているのだから、事業部長でさえ本当のところはわかっていないと判断せざるを得ない。
必要粗利を含めお客様に買っていただける仕組みを考え出すのが、社長に課せられた仕事の第一である。
責任者にしっかり教え、社員がその仕事を正しく実行しているかどうかを管理することが大事であると、繰り返し、繰り返し言い続けるのである。
マネジメントは「利益を漏らさない」工夫でしかない
先ほどの30%の粗利であるが、実際に工事をして予定通り30%の粗利が出るかというと、実行原価を締めてみると2~3%予算オーバーになってしまうことがよくある。
打ち合わせ不足、段取りミス、手待ち、工期の延長、クレーム設計変更、さまざまな要因が1つの現場でも考えられる。
一つひとつはわずかな金額でも、年間を通してみると無視できない金額となる。
もともと受注事業で大きな粗利が見込めない体質であるから、ミスが重なると赤字ギリギリとなってしまう。
中堅の鋳物工場に通っていたときも、仕事量は予定通り受注できているものの、利益計画と実際の利益額に大きな差が出ていた。
なぜだろうと役員幹部も思ってはいるが、現場は納期対応に忙しいし、赤字になってはいないので厳しく原因追及するまではやっていなかった。
しかし、こちらも気になって調べてもらった。
小さな手直しや追加作業など細かい点はたくさんあったが金額的には少額であり、決定的なコスト発生源は3つの仕事とわかり再発防止に動いてもらった。
いろいろと聞いていくうちに現場の年配職人さんが、「この湯口(鉄を流し込むところ)の形だと、あまり上手くいかないんだよね~」と。
さらに、「最近の設計は、現場を知らないで図面をコンピューターで書くから無理な箇所もあって、自分たちでチョコっと直すこともあるんだよね」と当たり前のように話してくれた。
これだけで全てが解決するわけではないが、設計担当者の教育という根本から手をつけなければならないことははっきりしたのである。
やるべきことを正しく社員全員がキチンとやる。これを回すのがマネジメントであり、経営にとって極めて大切ではあるが、利益や利益率が飛躍的に上がるものではない。
マネジメントが弱い会社は、利益がポロポロと漏れていて、社内もそれが当たり前だと思っているから、事故やトラブルが起きると対策会議はするものの、「以後気をつけよう」で終わってしまう。これでは低収益体質のままで何の問題解決にもならない。
マネジメントを強化すると当然、漏れていた利益が止まるから表面上は利益が伸びるが、さらにさまざまな手法を駆使しても、予定利益以上伸びるものではない。
社長は、この限界を知って使い分けていただきたい。
変転する市場、お客様の要求に合わせ、会社を作り変え続ける
市場、お客様の要求、価値観が変わることは、自社にとって「売上が急落している商品」「赤字商品」「赤字の取引先」が発生するということである。
お客様への定期訪問でつかむ定性変化と会社内の数字の定量変化で確証がとれたら、スクラップ&ビルドの「スクラップ決断」をすることである。
中小企業が赤字部門を抱えたまま、社内改革を進める余裕もないし、人手も余っていない。スクラップしないと、新規事業を担当させる社員も捻出できないのである。だが、これがなかなかうまく進まない。
理由はいくつもあるが、実際に会社に行ってみると「本当にどの商品がいくら赤字なのか?」のデータが揃っていないケースが圧倒的である。
たとえば、ここ10年~20年の経営で最大の変化は何といってもコンピューター、センサー、GPS、インターネットなどに代表されるハイテク化である。
中小企業で社内イノベーションを実行することは思った以上に強力な壁が存在し、難しいものである。
ある金属加工メーカーでは、年配の熟練職人が工場内で威張っていた。
若手営業マンが努力して新規の仕事を取ってきたが、工場長に「こんな小さな仕事ができるか!」と一喝されて、先輩に外注先を紹介してもらっている光景を目の当たりにした。驚くばかりである。
人件費の一番高い工場長が、大事に造っている製品がいくらの稼ぎになっているのか?将来の伸びしろは?数字もなく検討もされず、ほとんど思い込みのカン(勘)ピューターである。
ある職人社長は、腕の良さでは業界で名前が通っているほどだったが、コンピューター制御の加工機を見た瞬間、時代が変わったこと、もう腕一本の時代では勝てないと心底思ったと言った。
当時の設備は、びっくりするほどの値段だから手が出ないし、同じ機械を導入すれば誰が造っても同品質になってしまうので、自主開発という厳しい道を選んだ。
何といってもパソコンがわかる若い技術者の採用である。
彼に社長の頭の中にあるモノづくりの勘と経験、ノウハウを伝え、パソコンで制御させようという考えだ。
他の職人たちからすれば、あいつは仕事もしないで何やってんだ!とばかりに悪口を言うし、途中からは、自分たちの仕事が奪われると思い込み始め、邪魔をする者まで現れたのである。
社長としては放ってはおけないから、本社から離れたところに小さな加工場を借り、若い技術者と開発を続けたのである。
3年はかかったが自社オリジナル機は夜も寝ないで仕事をしてくれるようになった。競争力、納期スピードは業界一になったのは必然である。
会社変革の方向性によって大変なのは、新しい人材の確保である。
これまでの学校人脈が役に立たなくなり、大学の先生のコネも一から作らなければならないし、社内に技術者の力量を測れる人はいないから、中途採用しても適任者かどうかわからない。
この金属加工メーカーの場合も、工業系学校からの採用が、コンピューター技術者に変わるから社長主導でかなり強引に実行しないと難しい。
さらに短期で目に見える成果が出ないから、社長が守り通さないと潰されてしまう。
同業種での会社変革で難しかった典型例は、電気工事業の業績拡大を目指して、従来の公共工事、法人工事から個人消費者対象の事業へとお客様を加えようとして取り組んだときである。
技術者の中から、人当たりのよさそうな社員を選抜し新事業に取り組んでみたが、一向に売上が立たず、自信をなくした社員から辞表が出てしまった。現業では優秀な社員であっても顧客対象が変わってしまうと勝手が違い、多くの社員は戦力にならないことが多い。1回自信をなくしてしまうと現業にもマイナスになるし、本人も後々の成長が鈍化してしまい良いことはない。
先の例のように、法人から個人、個人から法人、庶民対象から富裕層、地方都市から東京など、思った以上にハードルが高いときは、少々の失敗は覚悟の上で、経験者をスカウトして別組織を作っていき、グループに加えていくのが、回り道だが近道となるのである。
一倉先生直伝、「シンデレラの発見」
現業が衰退していく中で、見事に会社を作り変えられた社長に話を伺ったことがある。
一倉先生の講座にも何度も出ていた社長で、現在はリサイクルショップを全国展開している名経営者である。
高級な音響関連の店舗をいくつも経営しておられたが、ミニコンポの時代になり市場は急速に縮小して事業継続も危ぶまれる状況に陥った。
いろいろ策を講じるが打開策が見えない中、以前から年に1回開催していた下取り品のガレージセールが好評だったのをヒントに、リサイクル店という業態に賭けてみた。
お店は狙い通り繁盛したし、粗利率も以前と比べようもないほどに高くなったが、多くの優秀な技術系社員はリサイクルショップでは働きたくないと辞めていったそうである。
今では全国にさまざまなチェーンがあり、当たり前の事業も草創期には産みの苦しみがあった。
成功の決め手は?と問われて絞り込めないが、1つには足元に未来につながる芽がないか、小規模であってもお客様が支持してくれる芽がないかを丹念に探してみることである。
お客様が同じであれば苦労は半減するからだ。
一倉式の商品分類でいうところの「シンデレラ」の発見である。
頭で考えたってわからない。
絶対にあきらめない姿勢で「お客様がお金を払ってくれている事実」を先入観なしで見ることである。
もう1つは時間である。
社員が現実を受け入れ、意識を本当に変えてくれるまでの間、資金が続けばいいが現実にそんな余裕はないから、躊躇する前に即実行である。
皆で会議をしても始まらない。
小田原評定になるだけで時間だけが浪費される。
やる前から否定をしないで、お金を掛けずに実験的に思いつく全てのことをやってみるしかない。座していれば結論は見えているのだから。
ウソかホントか知らないが、ドン・キホーテの深夜営業も、店内整理か棚卸かで夜遅くお店で作業をしていたら、たまたまお客様が買い物をしてくれて、深夜にも市場があることに気がついたと雑誌記事に社長のコメントが載っていた。
まさかと思い、実験的に深夜営業してみると、昼間の売上を超えたとも書いてあった。同様に1つのキッカケ、お客様の何気ないつぶやき、クレーム等から未来をつかんだ事業家はたくさんいる。しっかり準備をして24時間、365日、必死で探し求めているからこそ、幸運の前髪をつかめたのだと思う。
これまで規制で守られていた電気、ガス、エネルギーなどの業種や技術革新の激しい業界、人口減少の影響を直接受ける事業など、一刻の猶予も許されない。
自社にとっての新事業でも、先発のフランチャイズに加盟しノウハウを導入したり、中小企業で後継者のいない会社をM&Aで手に入れたりする動きも活発に行われるようになってきた。
結果として、「新しい種類の設備投資」がこの3~5年でされているか?従来とは「違う分野の人材採用」が何人されているか?仕入先のABC分析を出してみて5年前と比べ順番がどう入れ替わっているか?に改革の足跡が見て取れる。
新しい付加価値を産み出す「次の事業」を創る力こそ、社長が備えなければならない経営力そのものである。
最高益を出しながら、なぜお金がない?
両輪のもう一方は何といっても「カネ」の力である。
企業倒産の原因はいくつもあるだろうが、最後の最後の引き金は「資金の枯渇」「支払手形の不渡り」だからだ。
一倉先生の信条は、「絶対に会社を潰してはいけない」。
だから、ことのほか「バランスシート」を大事にしていたし、支払手形ゼロを目標にしていたので、今でも一倉教の会社のバランスシートを診ると「流動比率が200~300%以上」は普通。現預金も充分すぎるほど持っているからすぐわかる。
今の若社長に聞いてみると、「確かに会長は一倉教ですから」と苦笑いしている。
一倉式の経営計画の特徴の1つに、「目標バランスシート」という数表が売上利益計画の次に添付されている。
考え方は簡単だが、実際に作るのはちょっと難しい。
今期の「売上利益計画」、これが予定通り達成できたら、こんな数値の「バランスシート」になる、と先に1年後の目標バランスシートを作って発表するのである。
銀行担当者にとってこんなありがたいことはない。
また、「バランスシート」の数値を社長が望む値に変えるためには、「売上利益」「設備投資」「在庫増減」「売掛債権」「買掛債務」等々を一定数字内にコントロールしなければならないと社長が決めて、無理を承知で全社員に実行をお願いしろというのである。
そうして手堅い経営を10年、20年と続けていくため、現預金は積み上がり、好不況にビクともしない強い財務基盤、キャッシュリッチな会社が出来上がっていくのである。無借金経営、自己資本比率70~80%の社長はたくさんいらっしゃる。
「バランスシート」は社長が自分の意思で作るものだ、という教えの実践者たちである。
しかし、多くの社長はこんな細かいことは苦手で、はじめて見る「資金運用表」の作成と、そこから目標バランスシートをつくる実習でつまずくのである。
最初はエンピツ舐め舐め格闘しているのだが、転記1つ間違えると数字は合わなくなるし、もともと数字嫌いで短気な社長は、エンピツを放り出してしまう。
そうすると、「何でこんな簡単なことがわからないんだ!」とやっぱりカミナリが落ちるのである。
儲けることが得意な創業社長の特徴は、カネの使い方も大胆であり、たいていの場合、資金運用を暗算ではじいて、「いける」「いけない」を判断している。また、この見立てが結構、的を射ているのである。ただし、人に上手く説明できない。
それに毎回毎回予想通りに大型投資が成功するわけではないので、大儲けの後に資金不足の大ピンチがやってくる。繁盛が続くと欲が出て、投資金額が大きくなることも一因で、社長を止められる人がいなくなるからだ。
返済計画は事業が当たって出た利益で考えているが、実際の利益も手元で使える金額はそんなに多くない。
もし、100の税前利益が出るとすると、税金に40、次の予定納税に20、さらに売上を伸ばす計画だから、原材料を先に手当てし、在庫や売掛金におカネが消えていく。
人も増やさなければならない。先行投資の金額はバカにならない。残りは、20~30前後になってしまう。唯一の頼りは減価償却費だが、構築物などを建てると耐用年数が長いので、償却費は多くは計上できない。鉄筋の本社ビルなど資金繰り的には最悪である。
10年の返済計画では利益が伸び続ければ資金が回るかもしれないが、決算書上、多額の利益を出していて、急成長企業とマスコミで称賛されていても、思った以上に手元資金がないのが普通の状態なのである。
そこに、10年に1度くらいの経済変動「○○ショック」のような予想外の外因が襲ってくると、急激に資金難に陥るのである。
それを防ぐのが「目標バランスシート」の作成であり、財務強化の長期計画の立案なのである。
一倉先生の古い本に、バランスシートを計画して作っている東海地区の名経営者の紹介が少し載っている。
なんと10年先までのバランスシートが作ってあるというので、一倉先生がその社長を訪ねて秘訣を尋ねている。
ご存じの社長も多いと思うが、この経営者こそスター精密(株)の創業者、佐藤誠一氏である。
私自身も生前の佐藤誠一社長に少しご縁をいただいたが、一代で一部上場企業をつくられるほど豪胆だが極めて緻密な、そしてとても魅力的なお人柄であった。
一倉先生は、佐藤社長の長期バランスシートは緻密すぎると思われたのかもしれない。
少し簡便法で、あまり数字に強くない社長でも作れるように工夫されたようである。
ありがたいことに、私自身が今、佐藤誠一氏のご長男でスター精密の社長を務められ現在、会長の佐藤肇先生の長期計画の作成合宿「佐藤塾」を長年担当しており、5年後の目標バランスシートの作成を手伝っている。
10年以上にわたり、目標バランスシートを作成されている会社が、本当に高収益になったり、何十億という借入金を返済し無借金を実現したり、後継者が財務の知識を身に付け、立派な社長として陣頭指揮を振るっている姿を目の当たりにしている。
長期計画、目標バランスシート経営に代表される「カネ」の知識こそ、社長が身に付けるべきもう一方の経営力である。
社長は、経営数字を常に「3つの視点」から見ろ
一倉門下生の中で、特に経営数字に強い2人の社長がいる。あるとき繁華街で一緒にクラブ活動を行っていたが、例によって隅っこで商売談義が始まった。
1人が胸ポケットから小さな電卓を取り出し、ああだこうだと言っている。
この社長は常に電卓を持ち歩いていて、なんでもすぐ計算するのである。もう1人は半分天井を見ながら、ブツブツ暗算計算の最中である。典型的な創業タイプで計算がめちゃくちゃ速い。
聞いていると利回り計算、投下資本で何%のリターンが見込めるか、新事業として魅力的かどうかを一生懸命話し合っているのである。
経営数字の見方の1つは「%」である
構成比も%であり、利回りも%であり、世界共通の経営指標も最終的にはROAなのだから、%でモノゴトを考え、判断する習慣を社長は身に付けなければならない。
まったく矛盾することを言うようだが、もう1つは「絶対金額」である。たとえば、経営目標の設定で売上利益をいくらにするか、はどの会社でも重要なテーマで、一倉先生は8つの目標設定基準を提唱している。
もちろん全部が絶対金額ではなく、市場の地位などの定性目標もあるが、社員1人当たり経常利益目標だとか、年間返済金額から割り出さなければならない利益金額など、「%」がどんなに高くても金額不足では経営が回らないからである。支払いは全て絶対金額であるからだ。
そのとき、「1人当たり」に代表される単位基準と、総額を使い分けると効率の良し悪しも見えてくる。
中小企業がどんなに頑張っても5000億、1兆円を超えるような企業とは総額競争では勝てないが、社員1人当たりに割り掛けると大手を凌駕している高収益企業はたくさんある。これが中小企業経営の醍醐味でもある。そこを目指してほしい。
そして、3つ目が傾向である。
ただし、数値がコンピューターから細かい字で打ち出された表を見て、傾向を見抜けるほど普通の人間は精緻にできていない。
だから一目で見て誰でもが同じ感想を持てるシンプルな図表、グラフにする必要がある。一倉式「年計表」である。
総売上年計、得意先別年計、商品群別年計、店舗別地域別と会社の実情に合わせて数字の集計を行い、1枚のグラフにすると数多くの発見がある(ネットで調べると作成方法が出ている)。
5年間くらいの中長期で作ると、まず季節変動によるデコボコがなくなるので成長、横ばい、衰退の傾向がはっきり出てくる。
さまざまな施策や人事異動、商品リニューアルなど、行ったことを書き加えておくと急に伸びたり、逆にクギ折れになったりと市場、お客様の反応が一目でわかる優れものである。
ある会社の社長室には年計表のボードが5種類貼ってあり、毎月毎月、最新数値が出るたびに、社長がいるときは社長が手で線を引き、社長不在のときは秘書の女性が書き加えている。もう12年くらいになるはずである。
経営数字は社長にとって通信簿である。数字を大切に扱わない社長は、最後に数字に大切に扱われなくなる。工夫次第で多くのことを教えてくれる貴重な存在である。
一倉式「4マス表示」だから、誰でも一目で現状がわかる
1年間の大きな数字とともにもう1つ大切な数字が、利益計画の月間計画と実績数値へ記入する数字である。これを毎月毎月、自分で記入していくのである。
ただし、これは年間で「社長が決めた利益計画」がどのくらい実現できていて、目標に対してのズレを確認するためのチェック用である。
年間計画を12ヵ月に展開し、①月間目標②月間実績③累計目標④累計実績の4つの数字を、売上利益計画表の各科目に付けていくのである。
自社で使っている売上利益計画表の形式はヒナ型を診ていただくとわかる通り、基本は損益計算書のフォームであるが、製造業のように製造原価報告書のある会社は工夫がいる。
売上の下の売上原価は変動費となっている。つまり、原材料費、外注加工費など売上の増減に連動して発生する費用が該当するのであるが、管理会計なので自社の業務内容に合わせて作ればいいのである。
ただし、最初に作るときは2~3年は基本通りにやってみて、使い方に慣れたり社員間で理解が進んでいると思えば少しずつ変えていくことを勧める。
数字は基本的に百万円単位で充分である。売上規模が小さくても千円単位だと数字の桁数が多くなり、精度が高いようだがかえって全体が見えなくなってくる。
東海地区にある商社に3ヵ月ごとに訪問し、クオーター決算の会議に出ているのであるが、数字を円単位まで出してくるので怒ったことがある。
管理部長は、これ以上真面目な人はいないというほど几帳面な人であるが、エクセルに入っているデータを全部一覧表にしようとする。
最終的に社長が見て全体を判断し、「これからどうするか?」を考えるために、また部門責任者に今後の施策を考えてもらうためには、部門実績が10万円単位で上でも下でも経営にとってはどうでもいいことである。
1度、「あたまの2桁」だけの表を作って会議を進行したが、またいつもの表に戻してしまっている。本人は大真面目だから始末に負えない確かに本人が使っている月々の資金繰り表なら精度も大事だが、エクセル病はなかなか治らない。
エクセルの落とし穴
実績数字を毎月、自分の手書きで記入するのが一倉式だが、多くの人から今どきそんな古いやり方は「時間のムダだよ」という声を聞く。
事前にデータをパソコンに送信しておいて、「会議の時間を短くして効率化しないと」とも言ってくる。
確かに技術的には簡単だし便利であるが、手書きの効果をもう1度考えてほしい。
その前に、多くの会社に行って幹部と話してみると、「損益計算書」の読み方の知識をそこそこ持っている人が少ないのに驚いてしまう。
用語はよく聞くので知ってはいるが、どういう意味合いを持っているのか、どことどこの数字が関連しているのかを知らないし、その比率が高いか低いか、基準値もわかっていない。
ましてや、バランスシートはお手上げである。
データをつくる担当者はわかっているから安心かと思っていると、社長目線、経営的な判断という視点だと、なかなか及第点はつけられない担当者が多い。
これが現場の皮膚感覚である。
最近気づいたのだが、エクセルを重用する若い社員は検算をしない。1桁入力ミスをすると、ありえない数字が合計値などに出てくるが、それにも目がいかない。
おじさん幹部を擁護するわけではないが、こういうミスを一目で発見するのは、電卓で鍛えられたベテランである。
見積もりミスもけっこう多いと聞いたこともある。だから、毎回、数字を読み上げ、数字の意味合いや、数字の流れを説明しながら記入してもらわないと勉強にならない。
教科書の数字で会計の先生に習ってもなかなか身に付かないが、自分たちの行動の成果がリアルにスコアカードで示されるので本当の勉強になる。
手を動かして体で覚えるから身に付くのである。
自分で記入するのには、わずかな時間しかかからないが、隣に目標数値が印刷されており、単月の数字を入れ、さらに電卓を叩き、累計の数字を記入する瞬間に、先月を振り返り、「予定した行動が本当にできていたか?」、「今月と来月、どうしよう」と考えられるほど人間の脳は良くできている。
社長は絶対に未達の追及をしてはいけない。
幹部は書いたときも、実際には会議の前から自部門の数字はおよそわかっているため、「まことしやかな言い訳、理由探し」をすることに時間と知恵を使うからである。
私自身もやってきたことだからよくわかる。
一倉先生の教えにある「業績の結果は全て社長の責任。社員は決めた行動の実施責任」の原則がそこにはある。
問うべき、考えるべきは「では、これからどういう手を打っていくか?」である。
また、手書きの凄いところは、書いた数字、表に愛着が湧くところである。
数字の奥に隠れているが自分には見える現場の姿が映っているのである。
実際にやってみると、この感覚はわかってもらえるはずだ。
確かにペーパーレスのオフィス環境も大事かもしれないが、会社の中で一番大事な資料を、通常業務の添付ファイルと一緒にしてはいけない。効率と効果の違いもわからない頭の固い管理職を登用している社長が悪いのである。
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