第5章高収益の事業構造に我社を作り変え続ける
会社の真の支配者はお客様である
一倉先生の名言の中に、「我が社の赤字は、お客様を忘れたのが原因である」(『一倉定の社長学』第9巻「新・社長の姿勢」)という言葉がある。
会社の売上が落ちているとき、社内で行う販売会議、経営会議を思い出していただきたい。
社長として何を話しているか?どんな議題になっているか?「販売キャンペーン」「セール企画」「同行販売」「イベント」「DM」「ホームページの改訂」「Web通販」等々、過去にやって効果のあったコト、他社がやっていて好評と聞いたのでウチでもやれないか?などほとんどが「自社の都合」と「売上」のことばかりではないだろうか。
経営理念に「お客様第一」を謳い、朝礼で毎朝唱和しようとも全社員はよく見ていて、「結局は『売上第一主義』なんだ」と口には出さないが思っている。
社長自らが、「お客様の変化」「お客様の都合」「お客様の真の要求」「お客様の立場」に立って行動しなければならない。
言葉だけの「お客様第一主義」、真の「お客様第一主義」
「実際にはどうすればいいか?」は業種によって違うだろうが、「なんと言ってもお客様のナマの声に耳を傾けること」「社長自身がお客様になって利用してみて不平不満を感じること」を始め、身銭を切ってみることが一番である。考えたってわからないものだ。
社長によく言うのは、「社長自身が、自社への一番のクレーマーになること」だと。
私自身、仕事がらよく貸会議室を利用するが、運営会社によって考え方の違いがよくわかる。
最大の違いは経営サイドの効率優先か、利用者サイドの満足かになってくる。
一番は音響の問題である。
パーテーションで間仕切ると会議室は効率よく貸せるから売上は上がる。
誰が考えてもそうなるので、ほとんどの貸会議室の設備はそうなっている。
しかし、運営サイド、講師の立場で言えば隣の音漏れ、こちらの音響を気にしながらの使用は随分とイライラするものである。
結局、「あそこはウルサイから使わない!」となってしまう。
運営会社の現場担当は皆知っているだろうし、会議でも言っているはずだが、結局は売上優先で「うるさいお客もいるなぁ~」で終わりだろう。
しかし、この事実をしっかり知って内装段階から音対策を施し、パーテーションがなく全部独立型の会議室で事業をしておられる社長もいらっしゃる。
よく勉強される社長で、自身もいろいろな施設に行き、自らが不便に思ったことを、自社の会議室事業に反映させているから利用者のリピート率が他より高くなっている。
防音対策だけでなく、会議用の備品、コーヒー等の準備に至るまで、会社で言えば総務の担当者が喜ぶ施策が事細かにされている。
当初の稼働率が低くてもそのうち挽回するし、何より新規顧客の獲得コストが徐々に下がってきて収益が上がるようにできている。
何の事業でも同じだが、リピート顧客に圧倒的に支持されている事業が一番強い。
お客様は不満に思い始めたら、無言で去っていかれる。
見る目の厳しいお客様、超常連さん、目立たないが長くご愛顧いただいているお得意先様、こういう方々の購買頻度、来店間隔が空いたときは、現在の業績に関係なく社長自身が自社を見つめ直さないと手遅れになってしまう。
「お客様の定義」が明確に示されているか
東京の郊外に高齢者の方々が入院されている有名な病院があり、その病院に大変ご迷惑をおかけしたことがある。厚遇サービスで評判だったので見学を申し入れ、お邪魔させていただいたときのことだ。
いつもの通りスーツで伺ったが、おじいちゃん、おばあちゃんは何も気にされずにいろいろお話をしてくれた。私も何も全く気にしていなかったのだが、ある家族の奥様がお見舞いに来ておられ、病院にクレームほどではないが苦情が入った。
「うちのおばあちゃんは見せ物じゃないんで……」と。
確かに、ご家族からすれば、病院関係者でもない知らない人間が、いかにも仕事モードのスーツ姿で歩き回っていたのが、不愉快になられたのだと思う。
病院にも、ご家族にも申し訳ないことをしてしまった。
別の高齢者施設でも、ご本人とご家族の両者にご満足いただくのは大変だと教えていただいたことがある。
世界的に有名なジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条」の第一の責任の冒頭には、「医師、看護師、患者そして母親、父親をはじめとする」云々と書かれ、お客様を明示してある。
患者様が大切なお客様であるとは思っていたが、私は家族の心情まではわかっていなかったのである。
しかし、自社のお客様を明確に定義している会社は、そんなに多くない。だから、社員一人ひとりが考えているお客様像はバラバラなはずである。
お客様を定義しづらい事業、たとえば小売・サービス業などでは、品揃え、価格帯、店構えなどで暗黙裏に顧客層を絞っている。レストランも同じである。
特に高級品を扱う店舗はわかりやすい。価格による顧客設定は強力だからだ。しかし、皆が高額商品を扱えるわけではない。
中古機械の法人リユースを主力にしている会社では、当然ながら新規得意先はもっともっと取りたいのだが、取引不可リストを作成し、「逆のお客様定義」をしている。
建築用の金物問屋さんにも、人材派遣業の会社にも、委託給食の会社でも、「我社の主戦場とする市場」と「手を出さない市場」を明確に全社員に示している。
「取引不可を決める」、もしくは「取引の中止を決定する」というのは、思った以上に勇気が要る。
営業の責任者であれば誰だって売上はほしいし、今日の状況では他の売上がどんどん上がってカバーできる保証もない。
だからこそ、社長の責任においてお客様をハッキリ定義しておかなければ社員は迷うばかりである。
そう言っていたら、ごく少数だが社長から、「一倉先生はお客様第一じゃないのか!」と、クレームとも質問とも言えない問い合わせがきたことがある。
先生も著書の中で、「お客様あっての会社、これが私の信条である。だから、たとえどんなお客様であろうとも、誠心誠意のサービスをするのが当たり前である。もしも、お客様が充分な代価を払ってくれなければ、サッサとそのお得意先と縁を切るべきである」と書いてある。
異常に低い粗利益、異常に長い回収サイトの得意先も問題だが、我社の社員を出入り業者と下に見て無理難題、人としての尊厳を傷つけるような言動をする担当窓口がいるのも事実である。
最近では女性の営業担当も増えてきたのでセクハラ対策として、我社の「お客様の定義」とともに「取引中止の基準」を明示する必要がある。
戦略という言葉が独り歩きしている
「戦略」という言葉が氾濫しすぎて、結局、何のことか意味がわからなくなってしまった。
◯◯に戦略をつけてしまえば、なんだか難しいようなことを言って偉くなったように思っている社長が多いが、社員からすればよくわからないし、外国語をそのままカタカナにした経営用語も溢れて混乱するばかりである。
一倉先生の書籍を持っておられる社長は、「第1巻経営戦略」(『一倉定の社長学』)の冒頭のページを再度読んでいただきたい。
孫子の兵法の「敵を見ずして敵を制するを戦略という」の語句をひいて、「自然に高収益が上がるような事業構造」をつくることとして、7つの経営課題を挙げている。
- 1どんな市場、又はどんな市場の組み合わせにするか
- 2どんな商品構成、どんなグレードとするか
- 3どんな得意先構成とするか
- 4どんな店舗展開をするか
- 5どんな供給体勢(内外作区分、仕入体勢)とするか
- 6未来事業の推進体勢をどうするか
- 7人員構成をどうするか
を主として、必ず客観情勢への変化へ対応し続けることが基本、となっている。
一番大切なことは、私自身「自然に高収益が上がる」の「自然に」の解釈だと思っている。
普通の社員が普通に仕事をすれば、「計画通りきちんと利益が出る経営の仕組み」こそが経営戦略であり、それを考え常に修正し続けることこそ社長の仕事であると思っている。
他の社長が、高収益を上げている社長に話を聞いて、「それだったら誰がやっても儲かるじゃない!」と感じるくらいにシンプルでなければならないとも思っている。
中小企業にスーパーマンのような社員は入ってこないし、複雑な仕事の仕組みだと誰でもが運営できるわけではない。
多くの人が気づいたときには圧倒的なシェアを取っていて、他社の新規参入も市場規模の拡大につながるから否定はしないが、商品の質をお客様目線で磨き続け、絶対に1位の地位は死守し続ける努力を怠らない姿勢である。
創業時の「リクルート」、日本中にあるコインパークの「タイム24」も、ホテルの空室を売った「一休」も、今となっては「あって当たり前」で、なくなるとお客様が不便で困るような商品、サービス、事業を考え出し、新しい市場を創造し進化させ続けることこそ、「経営戦略だ」と説明している。
普通にやって高収益がキチンと出せるには、独自の売り物と売り方で「粗利益率と粗利益額」が設計されていて、値引きに強い競争力がなければならないことは言うまでもない。よく「値決めは経営だ!」と言われるゆえんである。
中小企業であっても価格の決定権を持つことは極めて重要
価格の決定権は難しいと思っている社長は多いが、逆に「中小企業だからこそ、高価格の主導権は握りやすい」と私はいつも言っている。
卑近な例で恐縮だが、私の住まいの近所に、ドイツパンで有名な超繁盛店がある。
住宅地の中に、小さな1店舗のみの経営だったが、最近、東京駅の地下1階の一角に小さな売り場ができたらしい。土日の朝は毎回行列でお店に入るまでに30分は最低かかってしまう。
「パン好きの聖地」という異名があるとネットには書いてあったが、確かに種類は豊富だし美味い。
価格の決定権というと難しく考えてしまいそうだが、ここのパン屋さんのように市販のパンよりかなり値が張るし、他の専門店の値段よりもう一段高い価格設定である。
お客様は価格と品質が見合っていると納得すれば購入するし、食べてみて満足すればファンになって口コミの発信源になっていく。
何度も書いているが、会社の命運を握っているのは全てお客様なのだ。
もちろん、最高の素材を使い、磨いた技術で最高の商品を作って、高い価格設定をすれば商圏内に住んでいる100人のうち1人~2人しかお客様がいないかもしれない。
でも、市内には40万人の人がいて、隣市にも50万人の人口がいるのである。
だから、繰り返しになるが、高価格の戦略は中小企業、小企業のほうが取りやすいのである。値決めの主導権を握れるし、競合も追随しづらい戦い方なのである。
大手はボリュームを売らないと多くの社員の雇用を維持できないから、わかっていても手が出せないし、全部の市場をとっても金額的に知れているから手も出さないのである。
社長が考え実行するのは、価格の主導権のために、原材料から始まり、素材、設計、部品加工、組み立て、卸、販売、アフターメンテナンス、廃棄、リサイクルと、1つの商品の一生のどこをガッチリ握るか、を自分の業種、商品ごとに見極め誰よりも早く動き、競合が手を出せないように参入障壁をどうやって築くかである。
社員9名で驚くほどの高収益を上げておられ、全国にファンを数多く持っている社長がいるのだが、南米のジャングルから商材を独占的に調達している。
1つの素材の共同開発、用途開発で1000種類に及ぶ製品材料をつくり、国内シェア70%を持っている地方企業もあるし、要素技術を突き詰めて世界市場を席捲している機械メーカーもある。
全国的に有名になる必要はない。
その業界、その地域でなくてはならない存在になるために、どこを握り、どの技を磨き続けることが大事かは、お客様が教えてくれる。
先発業者が有利であることは事実だが、シェアの大勢が決まる前の群雄割拠の時代であれば逆転はできるし、規模の大小の戦いでなく、地元、特定地域で圧倒的に強ければナショナルブランドでさえ敗退している事例はいくらでもある。
高収益の事業構造をつくる「逆算の経営」
先ほど触れた「7つの条件」を含め、社長が我社の儲かる方向性を決めたとしても一朝一夕に高収益になるわけではない。
利益率で高収益を規定すれば、誰もが認めるレベルは売上高経常利益率10%からである。「超」がつく高収益とは、20%を超えていく数字を何年も続けている会社に与えられた称号である。
私がお会いした中では、エーワン精密がダントツの超高収益企業の1社だと思う。上場企業だから決算資料を見ていただければ詳しくわかるが、売上20億円前後ながら経常利益6億円、率にして30%。それも、この水準を何十年と続けておられ、自己資本比率に至っては90%を超えているのである。
中小企業と言っては大変失礼かもしれないが、まさに中小企業の鑑であり、社長であれば経営のやり方次第で、このレベルまで実現可能だと考えてほしい。
そのとき、今の経常利益率から考えて3%を5%に、5%を8%にと徐々に上げていく道筋と、それとは逆に10年後に10%にしたいと社長が強く念じ、どうすれば実現できるのかをひたすら考えて、そのためにじっくり時間をかけて高収益を産み出せる条件を整えていく。
この2つの「逆算の経営」のやり方が考えられる。
「違いは何か?」を考えてみると、前者は単年度の利益計画を立てる際に、前年の実績をベースに昨年対比という考え方をするのではなく、最初に社長として絶対に獲得しなければならない利益額を決め、その利益計画を達成させるために必要な粗利益、売上高を逆算する方法である。
その利益計画とは借入金の返済額からの決定や、人件費の向こう3年間の上昇を織り込んだ利益計画で、自社の生き残りを賭けた必達の利益計画でなければならない。
達成できそうな売上から経営計画を立ててしまうことは、計画ではなく単なる計算でしかない。これを一倉先生は「成りゆき経営」と断じている。
事業部門長の立てた計画を合算したり、経営企画室の立てた利益計画、経営計画は言語道断であり、社長業の放棄であると強く指摘している。
利益率10%超えを実現させるために
10%を超える利益率を実現させるには、今ある商品を磨くだけでは追いつかない場合がほとんどである。商品コンセプトを抜本的に変え、品質と価値観を格段と高め、販売先も販売方法も変えていかないと実現できないからである。
さらに、社長の崇高な思いを理解し実行できる社員がいればラッキーだが、低利益率の商品、低価格の商品に慣れた社員には、高価値品は販売しづらいのが普通である。
新たに社員を雇い、開発、試作、販売、失敗、再挑戦を繰り返すことで、社長も社員も鍛えられ、社格も高めていくには3年、5年では難しい。10年はかかる。
10年と聞いて長すぎると思った社長は、自分の年齢を考えていただきたい。今、50歳だったら、60歳のときである。40歳だったらまだ50歳であるし、60歳でも70歳にはなっているが、現在の70歳はまだ若いし、後継者が40歳前後になっているから、将来への種まきを終え収穫を次世代がやればいい。
全社改革のプロジェクトの一翼を後継者に任せることも最大の後継教育となる。
さらに言えば、この10年を振り返っていただきたい。気がつけば、あっという間の10年間だったはずである。社員の時計の針の進み方と、社長の針のスピードは明らかに違うのである。
しかし、焦って現業からあがってくる資金を一気に使ってはいけないし、社運を賭けて大型投資をしてもいけない。情熱をもってコツコツと3年後、5年後のマイルストーンを設定し、我社のあるべき姿に向かって戦略条件を整えていくしかないのである。
短期であろうと長期であろうと、目標を明確に決めて、それに向かって全社改革の努力をする社長の姿勢こそ正しいし、社員にとっても将来への希望が見えてくるのである。
そのために「経営計画書」の中に「長期事業構想書」を入れ、「外部の客観情勢の変化と社長のビジョンの発展によってたえず書き換えられていかなければならない」という文言を入れ、社長自身が書いては考え、外に出て自社を見つめ直し、考えては書き換えることを繰り返し、自社を高収益な体質へと作り変えていくのである。
これこそが経営戦略の本質である。
販売なくして事業なし、限界生産者の末路
いつ、いかなる場合も「自らの商品は、自らの手で売らねばならない」。これこそが、一倉先生が最も強調される販売戦略の要であり、中小企業の弱点でもある。
特に技術系の社長は、今も昔も、いい製品、商品を造ることに熱心で、心のどこかで、いいものさえ造っていればお客様は買ってくれると思っている。そして、販売は営業部長任せ、代理店任せの場合が多く、社長自ら販売に乗り出そうとはしない。
HPでの見積もり獲得や、Web販売戦略や、マーケティングロボティクスなどの最新手法には関心があって指示はするが、直接手が出せないのが現状である。
従来の販売先である代理店や問屋は、数多くのメーカーの商品を取り扱っているので、あまり知らない商品は熱心に売ることはできないのである。
自社の商品がシェアも高く、マージンも高ければ力を入れてくれるのであるが、そうでなければお客様からの指名がない限り、積極的には売り込んでくれてはいない。
流通であれば、今のバイヤーは少ない人数で多品種を扱うので商品知識も浅くなり、新商品が次から次へと投入されるため覚えきれない状況で、彼ら自身もまた苦労している。
また、工場やメーカーに販売する代理店や地場問屋の営業担当は文系出身が多く、技術的に深い知識を持っていない場合が多い。
ベテランは長年の経験で何とかなるが、若手営業担当は人手不足と充分な専門知識を勉強する機会が少ない状態で最前線に投入されるので、細かい技術的な相談にはなかなか応えられないのである。
発注側も最近はネットで定番の発注をするので、新しい製品は入りづらくなっている。
こういう状況のために、中小企業はより弱い立場にまわり、自社の商品を自らの手で売っていかないといつまでたってもシェアは上がっていかないのである。
実際に現場で見ていると、業界によっては大手メーカーの方が積極的に代理店を支援し、熱心に売り込みを強めているように思える。
仙台の機械工具代理店A社は、地元ではトップクラスの市場地位を誇っているので、メーカーも協力的である。
年に1回だが公共のスペースを2日間借りて、自社主催の展示会を開き、地元のメーカー、工場担当者、技術者を多く集めている。
私が見に行ったときも、最新技術セミナーを5講座行っており、好評を博していた。
展示コーナーでは、業界でも代表的なS社とN社のブースに多くの見学者がいたが、さらにお目当てが駐車場の大型トラックだった。
改装されたT社の技術展示・体験車は凄い装備だった。
3社とも日本を代表する世界的メーカーだから予算も、スタッフも充実しているので当然だが、これでは中堅メーカーといえども太刀打ちできない。
しかし、駐車場の一角に、そこまでの規模ではないが、中堅企業X社の常設技術支援トラックが来ていた。
ある専門分野のトップ企業だけに、業界関係者が最新の製品を触ることができ、何やら難しい質問を技術者同士で繰り返し話していた。
X社の経営者は古くからの一倉門下生でもあったので後日、展示会場で見た特装トラックのことを伺ったら、代理店の要請により直接工場にも出向いて、同行営業で現場での困りごとに対応したり、新たな開発テーマをご用命いただいたり大活躍であると言われていた。
「自ら売る」というのは、中抜きして全て直取引せよと言っている訳ではない。そうやって自社の商品を直接売り込んで、現場の責任者との人間関係を構築しておかないと、ある日突然に売上がストップするときが来るのである。
大手メーカーがもし自社の商品をマネして、同等製品をぶつけてきたらどうなるか。
一部のお客様は大手に流れ、代理店の営業担当も大手からのプッシュには従うので、下位メーカーの売上が一番下がるのである。
この下位メーカーこそが「限界生産者」と一倉先生が呼ぶ、小さなシェアしか持っていない企業のことである。競合他社が参入してこなくても、これからの日本経済を考えれば、市場自体が縮小して同じ現象が起きるだろう。
当然、下位企業、限界生産者から消えていく運命にある。
工業製品でなくて、流通、店頭で売っている商品でも運命は同じである。
たとえば、近所にあるコンビニの棚を見ていただきたい。お菓子でも、日用雑貨でも、同じような商品が4~5アイテム並んでいる。しかし、棚の幅は決まっているのでこれ以上、陳列する商品数を増やすわけにはいかない。
ここに海外の有名ブランド品との取引をFC本部が決めて、店頭に1アイテム割り込んできたらどうなってしまうのか。
売れている数量データを見て、一番少ない商品をとりあえず外し、新商品を置いてみて、海外の有名商品とはいえ売れるかどうか様子を見る。
当然、メーカーは広告宣伝費を投入し、プル戦略を仕掛け、数字を作ろうとアノ手コノ手を駆使してくるので、店頭も活性化して繁盛するのである。
店舗の責任者、コンビニの社長にとっては正しい選択であるが、外された商品の会社は一気に売上を失ってしまうのである。
一倉先生曰く、「経営は戦争なんだ」。だから、仕方がないと言えばそれまでだが、限界生産者の運命は悲惨な末路が待っている。
市場を支配する「TOP3の法則」
では、生き残る会社になるために、社長はどうすればよいか。
先ほどのコンビニ業界であれば皆さんわかりやすいと思うが、2019(令和元)年概算によると当然1位のセブン‐イレブンが国内2万店、2位はファミリーマートで1万6000店、3位ローソン1万3000店、4位のミニストップになると2500店と、上位3社がダントツに強く全国の戦いではよほどの戦略ミスをしない限り決着はついている。
ガソリンスタンドも全国にあるが、元売りの統合で、ENEOS(JXTGグループ)と出光(出光昭和シェル)の2社で80%強のシェアを握り、3位のコスモで約10%。
自動車だって、バイクだって、紳士服チェーンだって、同じように市場が飽和しつつある業界では、必ずと言っていいほど上位3社で市場を独占するようになっていくのである。理由はわからないが、「市場には3の法則」が厳然とあることを我々は体験的に知っている。
であれば、すでにこの渦中に巻き込まれている事業規模を持つ会社は、日本市場で生き残るには「その事業分野の上位3社に入る」が一番の条件であり、M&Aを含めてシェア獲得にまい進しないと経営は維持できなくなるのである。
逆に中小企業は生き残りを、シェア拡大に求めるのではなく、大手では面倒でマネできない戦術、戦い方で、限られたお客様に圧倒的に支持される会社をつくり、小規模ながら確実に利益を出す体制を築く以外に道はない。
だが、「3の法則」には社長として注意しなければならない大切な視点がもう1つある。我社の主要得意先は「3位以内に入れるか」という見方で顧客構成を考えなければならないのである。
たとえ今の主力取引先が大企業で売上規模が5000億円であって、これまで20年以上の取引があっても、今後の我社の長い繁盛を保証するものではない。
さらに、大きな会社と合併してしまえば、吸収された側の取引先が不利になることは、よほどの技術的優位性や独自分野がない限り必定である。
販売戦略を考えるとき、売上依存は1社30%以下にしなければ危険だという一倉先生の指摘はもっともなことである。しかし、そう簡単に2番目、3番目の柱になる得意先を獲得することはできないし、とにかく時間がかかる。だからこそ、社長自らが販売、新規開拓に乗り出さなければならないのである。
絶対交わることがないと思われていた大手財閥系でさえ、同じ金融グループになる時代である。
彼らの目は随分以前から、世界の中で生き残れるかどうかに向いているはずだから、これまでの国内の事情にかまっていられないのだろう。
社長として楽観的な見方くらい危険なことはない。最大のリスクを見通して、大きな方向性を示すことが社長の務めである。
社長の持っている「成功体験」はもはや通用しない
今、多くの会社に行って社長の相談に乗る際、一番困ることは「65歳以上の社長」と「55歳以下の社長」では基本的な考え方、経営の常識と思っている価値観が違っていることである。会長70歳、社長(息子)40~45歳くらいの組み合わせがとにかく大変である。
インフレ期、市場拡大期を人生の前半で体験していれば、多くの人は「そのときに勝った経験」が強烈に自分の人生観、経営観を支配する。
一方、息子世代は1990年バブルが崩れた後が、人生の前半戦だったわけだから、デフレ、人口減少、格差拡大社会が人生観、経営観のベースにあるので先代と考え方のOSが違っているのである。
これが基本的な価値観の違いの軸である。
厄介なことにさらにもう1本、社会インフラ技術の軸が加わってくるから話は複雑になる。「アナログ世代」と「デジタル世代」が共存しているのが現在の経営層である。
2000年のITバブル後に経営者人生を歩み始めた世代だと考えている。
だとすれば50歳前後を分岐にして、アナログ、人間関係重視派とデジタル、効率優先派とでも区分すればいいのかと私は認識している。
安易にレッテルを貼ることの是非はあるが、いざ経営判断となると会長、社長の信じている価値観を前面に押し出すために、先にも触れた親子対立になり、新しい販売戦略の遅れとなってシェアを落としてしまうこともある。
これまで競合として確認できた相手企業とは別に、ステルス戦闘機のようにいつの間にか眼前にあって痛打を受けるライバルが出てきている。
もう存在感では世界一になったアマゾンがこんなに早く社会インフラになると思わなかったし、メルカリもペイペイも民泊もウーバーも、どう進化成長していくのか見当がつかない勢いである。
成功している社長の最大弱点は、「成功したがゆえに、お客様も設備資産も成功パターンも持っている」ということである。
これを捨てる勇気は、口で言うほど簡単ではない。
だが、お客様にはそんな事情は全く関係なしに、自分にとって便利なもの、楽なこと、嬉しく、人に自慢でき、今の問題を解決してくれることを最優先に購買するだけである。
社長は現役を張っている以上、経済情勢はデフレ、キャッシュ重視の環境下で経営していることを自覚し、最新のデジタル機器に触り、実際に使ってみて、疑似であってもお客様の立場に立って「天動説の自分を戒める」ことが大事になる。
持っているモノを過度に守ろうとすると、目線、思考が自社中心になってしまい、自然と天動説になってしまう。
そして、実務の実施権限は、なるべく主たるお客様の年齢に近い社員に担当させ、外部ブレーンの客観的なアドバイスに耳を傾けなければ、お客様の共感を得られないのが今の市場環境なのである。
何事も当事者になって、身銭を切ってみないと本当のところはわからないことを、社長といえども自覚することである。
1位(強者)が採るべき販売施策と2位以下(弱者)の戦い方
販売は確かに自社と数多くのライバル企業との競争であり、1年間の結果は占有率(シェア)と損益計算書(PL)でハッキリと成績が出てしまう。
ライバルが目で見てわかるからこそ、競争心を燃やして頑張るのはいいが、自社とライバル各社の企業体力の差を考えずに戦いを挑めば、「弱者」はほとんどの場合、体力を消耗し負けてしまう。
誰が考えても結果は見えているのだが、負けず嫌いの社長の多くは上位企業に戦いを挑む場合が多いし、ちょっと成功し自信がつけば、すぐに「売上100億だ、上場だ、全国展開だ」と言って規模の追求に走ってしまう。
野心家の創業社長は、特にそうだ。しかし、冷静に考えてほしい。企業の戦いでは「負けること=赤字、倒産」となるので、本当に企業体力がつくまでは負けない戦い、強者との競争を避ける戦いをしていかなければ、資金もシェアも失ってしまうのである。
戦い方の原理原則は「孫子の兵法」以来、そんなに変わってはいないし、ランチェスター戦略やマイケル・ポーターの競争戦略も差別化と重点化が基本である。
弱者は「戦う市場を自社の得意分野に絞って、差別化した方法を考え、販売する」ことである。
大手(強者・1位)は、他が上手くやった方法をマネして差別化の効果をなくすミート戦略で、他社の市場・顧客を奪うことであると教えている。
ただし、販売戦略にとって競争原理や手法、システムだけで結果が決まるものではない。
もう1つの重要な要素が長い目で見れば決定打となる。
一倉先生が、中小企業の社長に戦い方を指南する際に特に意識していた「人間というものは、こうした物の考え方をするものである」という人間洞察力を身に付けることが、競争戦略以上に大切であるということを心に刻んでほしい。
なぜなら、企業競争とはいうものの、企業同士が直接全面対決するのではなく、1人のお客様、取引先の担当者の心のシェアを、大手だろうが中小だろうが関係なく1対1で、どちらが得るかの競争であり、お客様の立場からすれば「どちらが好きか」の判断でしかないからだ。
そして、販売こそが、繁盛の命運を握るお客様との接点であり、インターネットで物を売ろうが、対面で物を売ろうが、電話セールス、通信販売であっても、商品・サービスを媒介として「会社」と「お客様」との価値観の交換の場なのである。
中小企業の真の強みを活かす事業戦略
学者が書く経営の教科書には、「大手は組織が大きいから動きが緩慢」で「中小は小回りが利く」から変化に強いと書いてあるが、本当にそうだろうか。現場では逆だと感じる。
たとえば、最近の動きの中で、インバウンド市場が大きく伸びる時点で、早くからデューティーフリーの看板を上げたのはどこだろう。いち早くキャッシュレス対応のシステムを導入したところはどこだろう。
大手は大手同士の激烈な競争があるし、スタッフも揃っている。
システム導入を進めるメーカー側も、効率と波及効果を考え最初にトップ企業に狙いを定め普及を図るし、受ける企業もリスクを取れる資金もあるから、新しいことは大手がいち早く着手するのである。
もちろん、中小企業の中にも進取の気性に富み、次々に挑戦する社長もいるが決して多いとは言えない。何といってもスタッフと資金の制約があるからでもある。
特にスケールメリットが有利に働く事業は、採算分岐点に持っていくまでの時間と投資金額が大きくなるので、わかっていても手が出せないことがあるのも事実である。
大手に「中小企業の経営スピード」は負けている
中小企業が大手に勝って先手を打つには、社長がごく初期段階から情報収集に動くことである。
日本国内はもとより海外の先進事例に触れてみることである。
日本の未来の縮図としては、アメリカもその代表であるが、ヨーロッパの国々も最先端事例としては勉強になることが多い。
資本主義発祥のエリアであるし、民族的にも成熟しているし、歴史が長いだけに文化レベルが高いと個人的には思っている。
古い話だが、ガソリンスタンドのセルフ化が議論され始めたとき、ある社長は欧州の各地を回り近未来の姿を確信し、いち早くセルフ店舗のチェーン化に乗り出し今では全国展開されている。
別の社長はカーシェアリングが話題にのぼり始めて、すぐ新幹線の駅前で実験店舗を開業している。結果は自社の収益水準に合いそうもないということで売却、撤退されている。これでいいのである。
新規に始めることは全部が上手くいくはずもないし、大手だってたくさん失敗する。小さく実験するか、他社の動向をじっくり観察し、いつ参入するかのタイミングを計っておくことである。
比較的限られた商圏でビジネスをやっているので、商圏内での先発企業になればシェア獲得には充分だからである。
それとともに、一倉先生はおもしろいことを言っている。「自分の性格に合わないと思ったらやめろ」と。
確かに、中小企業の社長は個性派ぞろい。新事業と言えども好きなときは一生懸命やるが、次におもしろいものを見つけると、興味をなくし見向きもしなくなる癖を持っている。ビジネスモデルが違っていて、既存事業に比べ収益性が低いと力が入らないし、幹部社員に任せても難しい面が出てくる。
研究着手は早く、実際の資金投入は少額で、事業化判断は期間を決めて、大手に負けないスピード感を出すのは、社長のリーダーとしての重要責務である。
中堅・中小企業は事業構造的に3種類ある
これまで中小企業を一括りに論じてきたが、事業構造を高収益にするためには、少し細かく分けて考え、段階的に手を打っていかないといけない。
私が所属する「日本経営合理化協会」の会長・牟田學の著書に『社長業』(産能大出版部・1999年)という大ベストセラーがある。
ご存じの社長も多いと思うが、会社には根本的に2つの事業体質がある。
「受注事業」と「見込み事業」であり、自社の体質とそれぞれの長所と弱点をよく知ったうえで、社長として高収益体質をどう築くか、という他に類を見ない内容である。
大小の事業規模には関係なく、受注事業構造をさらに量産受注と単品受注に分けて高収益体質への手の打ち方を考えるとわかりやすい。
業績のベースとなるのはやっぱり「売上高」であり、その中身が「売上高=変動費+粗利益」となっているから付加価値の高い商品、サービスが有利となるのである。
当然、売上高の中身が「売上高=単価×数量」であることは、社長でなくても役員でも社員でも皆知っているはずだが、全社員が高収益化の実現に向かって努力しているかといえばはなはだ疑問である。
どんな事業体質であろうと単価の決め手となる「自社の売りモノである商品」を持っているかどうかである。
ただし「売りモノ」が、目に見えるカタチ(完成品)になっている会社と、目では見えづらいノウハウ(技術・サービス)である会社がある。
もう1つの決め手である数量は、「売りモノ」が同一商品で大量に再生産できるか、毎回一品一品違った商品を生産しているか、ということである。
この組み合わせで、見込み事業体質か、受注事業体質か、単品受注体質かが決まってしまう。
それぞれに高収益化への手の打ち方の重点が違うし、獲得できる粗利益額に応じて、固定費を低く抑えれば営業利益が出る。
逆に、社長がほしい営業利益額を決めれば、使える固定費の上限も決まってしまうのである。この金額をコントロールし、実現する仕組みを考えることが社長の仕事となるのである。
価格決定権、価格主導権、下請け体質
全ての事業には「売り手」と「買い手」がいて、最後の最後には消費者が、それこそ「消費」して商品は寿命が尽きてしまう。
会社と会社の間でどんなに取引が活発でも、そこで生まれた商品は誰かが最終消費し、再発注、リピートするか、世界中に売りに行かない限り絶対に仕事は継続しないのである。
まず、自社の「商品、製品」が必ず消費されて「ゼロ」になっているかどうかを考えてほしい。
ここで自社の事業の継続性が決まってしまう。
その次に、「需要と供給」のどちらが強いかで、需要が強ければ価格が上がるし、供給が多すぎれば価格は下がると決まっている。
それにもかかわらず、需要があるとなると同業、異業種含め市場参入してくるから価格が一気に下がり、皆が「儲からない、儲からない」と言って撤退していくのである。
事業の寿命が短くなった今日、見込み事業体質の会社がこういう事業をする際、需要の立ち上がり期に早期に参入するか、ピーク前に売却撤退するか、最後の1社2社に勝ち残るかを決める必要があるが、その決定は社長の仕事である。
それとともに、価格はどうしても世間相場に左右されるので、高単価で勝負するのはなかなか難しいし、常に次を探しておかなければ不安定になる。
もう1つは誰も入ってこないそこそこの需要を1社ですっと耕していくことを決めて、簡単にライバルが入ってこれないように品質やコスト競争力や、技術者の育成、設備の充実を図り、長く事業を続けることも可能である。
その需要がいったい何なのか、強いのか、もういらなくなったのか、次の技術革新は何か、を見極めるために、一倉先生は「穴熊社長になるな」「社長自らお客様訪問をしろ」と言っていたのである。
さらに、社長1人では回り切れないので、営業担当者には需要の喚起とともに、「お客様に何を言われたか」を日報で提出させ、お客様の要望、困りごとの変化、情報収集を代行させているのである。
そういう目線で細かく事業を見ていると、魅力的に見えても価格の主導権が取れない事業と中小企業が価格の交渉権を取れる事業もまだまだたくさんある。
それが下請け企業と世間から言われていて社名が有名でなくても、充分に価格決定権を握っている会社もある。
逆に、名前は通っていて完成品を持っているが商品価値がなくなってきたために、買い叩かれて利益の出なくなった会社は数えきれないほどある。
その予兆は、3年~5年スパンの粗利益率の低下傾向に出てくるから、その前に次の商品を準備するしかないのである。
受注事業で大手をお客様にしていれば、大企業の1人の担当者が持っている予算は大きくなるが、彼らは仕事を発注するが自ら汗を流して現場で仕事をすることはないし、もうできない。
彼らがやらなければ困ることを、我々がキチンと仕上げれば相応の仕事量と高い単価がいただける。
だから、大手企業の協力事業をされている会社の事業定義は、「高級サラリーマンの出世支援業」だと私は考えている。
冗談に聞こえるかもしれないが本気である。
また、中堅以上の見込み事業メーカー(化粧品、玩具、お菓子、家庭用品など)であっても、今、社内で全部の商品の企画開発をやっているわけではない。それだけの固定人件費をかけられないのである。
さすがに会社名は言えないが、商品企画を練りに練り、メーカーに採用される、またはメーカーから発注されると委託生産先に発注し、採用メーカーが自社ブランドで売り出し彼らも儲かるが、開発だけに特化しているから、社員数も少なく、設備も小さく済むので高収益になるのである。まさに、ウィン・ウィンの関係が生まれている。
何より、その会社の社長は企画開発が3度の飯より好きという、ちょっと変人でもあるからだ。社長として事業を選択する際に「価格の決定権」「価格交渉権が自社に取れるか」の視点で探してほしい。
手離れの悪い仕事と手離れの良い仕事
中小企業の長期繁栄という面から考えたら、「手離れ」という視点から仕事を選び、販売戦略を考えていただきたい。
働き方改革が始まった頃、誰もが知っている大手企業の中堅管理職教育に呼ばれ、現場を預かる社員と話す中でこんな質問が出てきた。
「会社の決まりで、17時を過ぎるとお客様の電話に出てはいけないことになりまして」「我々は営業部門だから、どうしたらいいですか」私もちょっと驚いたのだが、どこまで徹底しているのかと思い質問をしてみた。
「携帯電話は会社の支給で、個人と2台持ち?」と質問したのである。すると、「はい、営業時間内は会社支給の携帯ですが、17時を回ると持ち出し禁止なんです」。まあ特殊なケースかもしれないが、昨今の大手の取り組みを見ていると、今後も決して珍しくはなくなるだろう。
「持ち出し禁止になれば、個人携帯を緊急用としてお客様に伝えておくしか方法はないよね~」と納得してもらった。
管理部門も現場が困ることはわかっているが、上からの命令だから仕方がないと半ばあきらめムードだった。
社歴も長く中堅社員以上で働いている人たちは、何とかお客様に迷惑をかけないようにと思っていろいろ模索するが、新入社員は最初からこの環境で育つので、「17時以降は動けません」が当たり前になる。そして、1回固定化するともう戻らない。
仕事としては手離れが良く、一見生産性が高いのかもしれないが、お客様離れも加速すると思っている。
大手といえども、大手同士で仕事が完結すればいいが、地方支店の主要得意先は地元の中堅・中小企業が主であり、まとまった金額の仕事は社長、経営陣が窓口になっているので、官僚的な対応に「腹を立てる」のは普通だからである。
当然、そのお客様の受け皿は、我々中小企業である。
なにも、夜も寝ないで働けなどというブラックなことを要求しているわけではない。
実際に、夜に無理難題を言ってくる人はめったにいないし、常習的に言ってくる場合は、顧客リストから外して、それこそ「取引不可ブラックリスト」に入れて、全社に通知すればいい。
本当に事故だとか、トラブルだとか、お客様も困って仕方なく連絡されることはあると思うが、1年に何回もないのが実際のところである。
生活関連企業で24時間対応をやっている会社もあるが、持ち回り制で当番社員が自宅で電話受けを行っている。
それでも年に2~3回は緊急故障で出動するが、地元では評判がいいので有名である。
また、地方都市で自動車の車検、修理、販売をやっておられる会社も、JAFのような仕組みを地元のお客様に限定して独自の会員組織で運営している。
たまたまその会社にお邪魔していた夜、社長と晩ご飯を食べていたら、緊急の呼び出し電話が鳴った。
社長が出動されるので一緒に車に乗っていったら、年配のご夫人が病院の駐車場で鍵をインロックをして困っておられた。
夜も暗くなりあいにくの雨で心細かったと思うが、社長が数分もしないうちにレスキュー完了。
確かに手離れは悪いが、お客様はずーっと当社のファンでいてくれる。
効率を重視することは大切だが、コストや時間ばかりに目が行き過ぎると判断を間違ってしまう。
手離れの観点から見ると、通信販売は人と人が直に接しないので効率は高いが、特にインターネット型通販は顧客離脱の数値も高いのが実際のところである。
一昔前の電話オペレーターも管理者が観ていたのは、「1時間に何本電話を取ったか」であり、短い時間で処理した担当者が優秀という基準であった。
通販で業績を伸ばしているS社は、その逆をやっている。なるべく多く話をするし、世間話もOK。農産品も扱っているから、品質も少しばらつきがあるときは正直にお答えするようにしている。
結局は長いお付き合いを考えたら正直に商いをするのが一番だ、と考えて随分早くから取り組んだ。
手離れを悪くすることで確実にファンは増えるのである。一倉先生の最強の販売戦略は、実は定期訪問という愚直なまでの作戦である。
これも極めて効率が悪く作戦にもならないような作戦だが、一番数多く会った人と親密になるのは人間の情なので、時間を経れば最強になり他の追随を許さないのである。
比較的人事異動、転勤が少ない中小企業には取り組みやすい作戦だし、大手にとっては手を出しづらい方法である。
高級品市場を狙って勝つ
商品には、一定の基本的な決まりがある。
単価の低いモノ、粗利の低いモノは高回転。
逆に高単価、高粗利のモノは、回転が低い。
粗利益額は率と回転の掛け算であり、事業として成り立つためには固定費を賄う粗利益額が必要だからである。
まずは自社の主力事業が、どっちの商品特性を持っているか冷静に判断していただきたい。
「低単価×低回転」の組み合わせは商品としても事業としても成り立たない。もし1部門でもあったら撤退も含めないと命取りになってしまう。
ごくまれに、「創業以来の商品だから」とか「父の夢だったんです」など、情に訴えられるのだが、低回転ということは動いていない商品だから値上げするか、別会社方式にしてでも本体から切り離したほうがいい。
口には出さないが社員からすれば、「あの部門が赤字だから」「あれが許されるんだったら、こっちにガンガン言わないでよ」と思っている。
赤字部門の社員たちも儲けたいと思っているし、皆にどう思われているかは知っている。
「全社で黒字だから」「皆で支え合って」は、社長の理屈であり、決断を先送りにしている言い訳だとしか思えない。
商品が高回転の場合は、中小企業にとって不利になることが多いから要注意である。
高回転ということは売れていることである。
販売する商品の数が多いので良いことのように思えるが、工場でも物流現場でも、働いている社員からすれは、1個500円の商品も1個5万円の商品も「手間的には1個は1個」である。数が多いということは社員数、手間数、作業時間が長くなるから、コスト増の最大要因になるのである。
自動化、無人化が進めば、当初は設備投資がかかるが償却が終われば高収益に体質転換できる可能性が出てくる。
社長として、ここを目指すとともに、同じ手間を掛けるなら、1円でも1%でも粗利益の多く取れる商品に改良するか、新商品を投入すれば相乗効果が出やすくなって高収益型になってくる。
あるとき、農業法人を営んでいる青年経営者と話をしていて、「小松菜」の話を教えてもらったことがある。
畑では通年栽培で7回収穫できる、ということで「7回転なんですよ」と笑顔で話されていた。
まず回転という概念で話されたのにビックリするとともに、「価格の安定性」を強調されたので2度ビックリ。
ほぼ計画通りの売上、粗利額に合わせて経営をしていくことができるのである。野菜にとって相場の上下が一番の難敵であるからだ。
その彼に、「回転50の事業者さんがいらっしゃるよ」と教えてあげた。水耕栽培でスプラウトやアルファルファのように発芽させて食材を生産すると、1週間で出荷となるそうで、1年52週だから50回転。季節変動はないし、農業につきものの連作障害もない。坪効率からすれば、50回転は魅力的である。
スーパーの売り場で見ればわかるが単価は安いので、それだけの商品を作り続ける人件費が問題となるが、コンピューター制御の自動管理体制が完成していて極端に人がいない。
まるでゴルフ場の中に食品工場があるような景色で、衛生面、安全面もスーパーのバイヤーさんたちが見れば納得だと感心したことがる。
後は高級スーパーで販売するか、ディスカウント型のスーパーか、業務用に卸すかによって粗利益率は当然に変わるし、流行の食材も徐々に変化してくる。
同じ食品で、豆腐を250円で製造販売している社長は、大豆自体をハイブリッドではなく固定種で契約農家さんに作ってもらい、高級ざる豆腐を販売し大人気である。
商品の高級化を図ると、特に原材料の調達に制約を受けるので高回転は難しいが、普通の豆腐とは、食感も風味も全然違っていて車で遠くから買いに来てくれている。
コモディティーと呼ばれる商品も高級化することに集中すれば、中小企業でも知る人ぞ知る地域ブランドになり、商圏は拡大し充分事業になるのである。
中小企業だからできる高級品戦略
高級品はもともと高回転にはならないが、ヨーロッパの高級ブランド、外車のブランド育成などは見事である。
頂点にある商品よりさらに高級な商品群を投入することで、イメージを上に上に持っていくと、ごく1部の上顧客は我先にと手に入れようとする。
限定商品、世界100本限定だとか、シリアルナンバー付きなどに弱い。メルセデスの上位車種にマイバッハが投入され、凄い価格で売られている。
トヨタでは国内の最上級セダン「クラウン」の上位に、「レクサス」があり社用車を含め人気を博している。これを二等辺三角形の図でよく説明しているが、三角形の面積を売上と考える。
売上を伸ばす方法は、頂点を上に伸ばすか、底辺の長さを伸ばすかの2通りが考えられる。
底辺を伸ばすには、同一ブランドの商品群を広げるか、ライセンス契約でロイヤリティ収入を得るか、になるが広げ過ぎるとブランド価値が一気に下がり2流扱いになってしまう。
だから、まず上に伸ばしてブランドを尖がらせて徐々に底辺を伸ばすしかない。あとは、世界中の富裕層に向けて市場をゆっくり広げることである。
中小企業でも考えることは同じであるが、高価格にしてもお客様が納得の商品ができるかどうかである。
地方の造り酒屋の当主が、それはいいことを聞いたとのことで、「古酒」を限定100本発売されたことがある。
古酒になるとアメ色に少しなって、見てすぐわかるし、量がないから限定も納得できるし、パッケージも高級洋酒に近いデザインにされ富裕層向けに10万円の値付けであった。
結果は完売、それも99本が東京のお客様であり、地元のお客様はお1人。ただし、高級外車に乗ってわざわざ買いに来られたのである。
地元の新聞等では写真入りで紹介されるなど話題にもなるのは当然である。
凄い職人さんがいらっしゃる、原材料が限られていて少量しかできない、1日1組限定、世界最先端の機械を持っている、最小極小、最軽量などお客様が求められるテーマによって企画テーマは出てくるが、一流、超一流を維持する努力を怠ってはいけない。
高単価、高付加価値を生み出すには、最終的に「職人さんに代表される人」か「最高スペックの機械」を持つか、その両方を持つしか方法はない。
いずれも長期の投資を考えて実行しなければいけないのである。
ただし、高級品市場を狙うとき、もう1つやらなければいけないことがある。高級品、高額品を買い求められるお客様は、目が肥えているのが当たり前だから、商品、製法、素材のことなど深くて広い知識が求められる。
メルセデスを中心にこれまで1400台以上の高級外車を売っておられるH氏は、もう車は売っていません、事業経営者、個人事業主に節税アドバイスを売っていますとまで言い切って、現在も毎月4台の高級車を販売しておられる。
H氏に聞くと、立ち居振る舞いや、しぐさ、一般常識や政治経済、時事の話題など人格的にも磨いておかなければならないし、お客様の趣味まで勉強し、容姿、スタイルまで求められる。
個人のお客様の場合、奥様にNOを言われたら売れないからである。
社長にはできても、自社の担当営業を育成しないと事業の広がりが出なくなる。
育成には時間も費用も要するが、先行して体制が整うとライバルにとっては強力な参入障壁にもなるので、この理由からも中小企業が狙うべき有利な市場だと思っている。
全国展開企業の本部が動けないうちにシェアを取る
高級外車も高額だが、住宅は多くの人にとっては生涯最高の買い物の1つである。
お客様にとって住宅購入の選択基準は、何といっても会社自体の信用、信頼性ではないだろうか。
建売は価格優先の場合も多いが、注文住宅となると全国展開の有名ハウスメーカーと地元の住宅メーカーを比べ、友人知人からの評判を聞きながら予算と相談し契約を進めていく。
ブランド力と知名度という点では太刀打ちできないが、大手に売り勝っている中堅・中小メーカーは、大手とは違う独自の販売戦略を駆使し業績を伸ばしている。
高価格帯の全国展開のハウスメーカーはこれまで、各地の住宅展示場に大型のモデルハウスを建て、TVコマーシャル、新聞折り込みチラシで集客し、成約を得るというビジネスモデルが確立していた。
地元のハウスメーカーは大規模な住宅展示場だと競合は多いし、常に大手5社以上と比較競争されてしまう。
先に紹介したランチェスター戦略だと1位企業の戦い「総力戦の戦い方」であり、弱者は圧倒的に不利になってしまう。
そして、数年に1回、大型のモデルハウスを建て直すコストは、地元企業にとっては負担が大きすぎるし、最新デザインを更新していくことも大変である。
そこで、自社の本社近くか、幹線道路沿いに2~3棟の専用展示場を立て、内部の柱、構造を見られるようにしたり、断熱工法の展示を充実させて、自社の強み、特徴をわかりやすく見せ、地元の気候環境に最適な住まいであることをアピールしている。
1部仕様を変更できるオプション住設のコーナーを設け、素材の違った比較展示をしたり、お客様が聞きたいこと、納得したいことを細かく表示している。
今のお客様は事前にインターネットで調べ、かなり候補先を絞り込んでモデルハウスを見に来られる。
大型の総合住宅展示場の魅力自体が低下しているが、全国展開の大手メーカーはすぐにでも各地の支店、営業所の近くに自社展示場を設けるわけにはいかない。
これまで有利に働いていた資産が足かせになりつつあり、展示場にかかるコストを販売価格に還元できる地元企業は価格面も有利に戦えるようになっている。
それとともに広告の主力であるチラシ、オープンハウスイベント等も、地元企業ならではの独自企画や手づくり感満載の内容で集客に頑張っている。
あるとき、大手企業の担当者が地元で評判の集客チラシを本社の企画部に送って「こんな企画を立ててほしい」と直訴したことがあった。
ちょっと、こちらも慌てたが予想外の結果に終わったので安堵した。
本部からの回答は、「こんなことは、ウチではできない。もっと豪華に、我社の強みを前面に出して……」となり、いつも通りの大型で、フルカラーで、現実には建てきれないような大規模住宅の写真を載せたチラシを折り込んできたのである。
本社からは地域地域の細かいニーズも見えないし、細かく対応できる組織体制にもなっていない。
過去の成功パターンが上層部にも染みついているから、販売方針も簡単には変更できないし、支店にいる社員はほとんど営業、工務関係者ばかりで、いい独自企画も立てられないのが現状である。
市場の構造、お客様の購買パターンが変わったことを、彼らがわかっていても動けないうちに、地元メーカーは評判と実績を積み上げていって小さくてもその地域一番を取ることである。
なにも住宅事業だけではない。
先日、国内最大手の飲料メーカーの副社長を歴任された方にお話を伺う機会があったが、大手の販売体制では、そこまで手がまわらないという。
支店長が勝手なこともできないし、自発的にやらないと支店の現地採用の社員も乗ってこないから難しいんだ、とおっしゃっていた。
小さな日本とはいえ、全国一律の販売戦略で勝てるほど日本の消費者はもう単純ではないし、すでにあらゆる生活必需品は飽和している。
多様化しているお客様の需要を救い上げ、事業に反映させる力は地元中小企業が圧倒的に有利なのである。
「大手支店長」対「地元社長」の戦い
一倉先生の教えの中に、「社長は社長業に徹しろ」「名誉職を辞めないと指導もしない!」と言うものがあり、「どうしても名誉職をやりたいなら、社長を辞めてからにしろ」ということまで社長に迫っていた。
ボロ会社の社長ほど名誉職をやりたがる。
JC(日本青年会議所)も嫌いだったし、倫理的な教えを普及させるのに一生懸命になって、会社が傾いて、何の倫理だということも言っていた。
「他人のことよりまず社員を幸せにしろ」という真っ当な意見である。
中小企業の場合はその通りであるが、地元の同業トップ企業になったり、大手企業と競争になり始めると、名誉職ではなくて経営戦略上、公職を引き受けることも重要な仕事となってくる。
北海道の社長に極めて巧みな方がいらっしゃる。
会社の年商規模は50億円だから、立派な中堅企業だが、とにかくいろんな公職を引き受けていて、いつ仕事をしているのかわからないほどである。
あるとき、社長に、ちょっと心配になって、「大丈夫?」と聞いたことがある。
競合大手は札幌には必ず支店、営業所を開設しているし、札幌駅周辺から大通公園にかけての一等地にオフィスを構えて強敵に思えたからである。
社長はニヤッと笑って「全然大丈夫だよ、支店長は長くても5年で帰るし」。
続けて「ほとんどの支店長は、早く本社に戻りたいと思って東京を見て仕事してるから」とも話した。
地元経済は地銀、地場産業のボスも含めて、地縁で成り立っていることは、社長の皆さんはよくご存じだと思う。
そこに大手のやり手の支店長は食い込んでくるが、そんな支店長は多くはいないし、やり手は出世が早いので本社役員レースに戻らないといけない。
地元の社長が本気になって地元の経済界にも、自社の業界にも働きかけると、自ずと人脈は広がり地域の主要取引先の社長同士の人脈も太くなる。
そうすると、地元有力企業へ大手の入り込むスキは小さくなる。
もうないかもしれないが、沖縄に毎年通っていたときに、地元で接待してくれた社長が「東京組の支店長の通うお店と、地元の社長がひいきにする店は違っていてね」と飲み方の違いまで指南していただいたことがある。
公職とともに、宴席、ゴルフ、地元の商工会、財界活動は中堅企業にとっては大切な経営活動、販売活動になってくる。
社長が有名になる、会社が有名になることは、今後の事業戦略にとって有利になるし社員にとっても嬉しいものである。
そのためには、社長が留守がちになり、社内をキチンとまとめてくれるナンバー2の育成や、幹部の教育が何より大事になるが、本来の目的を忘れ、間違っても社長が勲章を狙いにいかないことである。
20年後の人脈形成を目指して、今、定期訪問を繰り返す
「定期訪問が最強」と言ってもにわかに信じられないと思う社長も多いと思うが、一倉教の社長ならばその凄さを良く知っている。後継社長に引き継ぎ20年~30年経ちながら、定期訪問を今でも営業戦略の中心に据えている会社もあるほどだ。
特にお客様が大手企業の場合、その効果は計り知れない。
お客様への定期訪問はそんなに難しくないし、誰でもできる戦術のはずだが、競合も含め同じような方法で攻めてくる会社がいないのは不思議である。
先生の販売に関する方法は、弱者の戦い方が基本であるため、「小さい我社が競合に伍して勝ち抜くためには、競合の2倍の訪問回数をする」と徹底させるのである。
少ない営業マンで数多く訪問することは物理的に無理があるから、まずやることは得意先のABC分析を行い、売上の80%を占める得意先をAランクにし、その中でも特に重要な上位企業もしくは可能性の大きな企業をSランクにして訪問回数を決め、後は実行するのみである。
最重要先への訪問回数「1日3回、朝・昼・夕方」という会社があり、1回の訪問時間5分ルールも決めていた。
営業マン教育にも熱心で徹底したお客様第一主義を貫き、今では売上1000億を超えるほどの成長を遂げている。
また、ライバルの訪問回数を調べて、「必ず3倍訪問」を経営計画書に盛り込んでいる会社もあるほどだ。
これができる一倉式の優秀営業マンは、「社交性に欠け、口が重く、そして真面目で根気強い社員」であり、普通の社長が期待する営業マン像と逆である。
さらに、社長の定期訪問は営業マンの1回の訪問の100倍の効果があるとし、社長自らが重要得意先を定期訪問するので、実際のところは「やらざるを得ない」状況であることも事実である。
10年、20年と続けていくうちに、我々はあまり人事異動もないが、大手企業の担当窓口は数年に1回代わっていくし、かつての担当者が上司となって部署の責任者で戻ってくることもある。
また、他部門の担当となって、我々に声を掛けてくれることも本当に多い。
大きな会社、工場では、部門や工場棟が1つ違うと全く別会社のようなもので、口座があるといっても新規先と変わらないし、お百度を踏んでも新規の取引はなかなか難しいのが現状である。
だから、かつての担当者が声を掛けてくれるのは、何よりの助けとなり業績も時間が経つにつれて伸び始める。継続力は最大の武器となるのである。
それがわかっていて、なぜ多くの会社が定期訪問をしないのか。1つには経営計画書で明確に営業方針を示しておらず、販売目標の数字だけの計画を立てているからである。
社長自らが主要得意先の定期訪問をしていなくて、営業にやれやれと言っているだけだからである。
ある社長は訪問活動を確実に実行させ、自らも実施するためにスケジュールを組み込み、置き名刺(不在者のお席に置くメモ付き名刺)を通常の名刺とは別に作り、複数のパイプを作るために、役員にも使わせている。
窓口の担当者も大手とはいえサラリーマンである。
中小企業であっても、社長の名刺には一目置いてくれるのも事実である。
そうして20年近く経つと、かつて30歳前後であった担当者が本社内で部長になり、取締役に出世していく。
かつては近所の焼き鳥屋で一緒にビールを飲んでいた仲間が出世して、本社役員であるから、こちらからも訪問しやすくなるし声も掛けてくれる。
今は昔のように銀座で一杯も少なくなったが、昼食や雑談で何気ない情報交換でも人脈維持には充分効果的である。
特に本社東京、地方にある工場勤務時代からの人間関係は、長い時間をかけての間柄だから簡単に崩れるものではない。
それに、本社の役員になったからといって、仕事の便宜を図ってもらうこともないし、お願いもしない。
しかし、長い仕事関係の中で、ピンチに陥りそうなときに助言をいただきに行くことがあるというのも、先輩社長が多く経験している事実である。
親子孫三代で社長をやっておられる80年企業の現社長は、大手社内で出世する人物は30歳前後でだいたいわかるようになってきた、と話してくれた。
彼自身、若いうちは主力得意先の担当として定期訪問に明け暮れていた。
出世してからどんなにゴルフに行っても人脈にはならない。
ただ知っているというだけだ。
受注事業の命運はお客様が握っている。
だからこそ、超長期の対策が実行できるオーナー型の中小企業が圧倒的に有利に戦える。
20年後の「本物の人脈づくり」は、毎日の定期訪問から始まるのである。
人と最新設備の継続投資で圧倒的競争力をつける
損益計算書(PL)では確かに高収益だが、それだけでは実態がわからないことがある。
高収益企業には「良い高収益」と「2つのタイプの悪い高収益」があるので、社長として冷徹に自社診断をしておいていただきたい。
全国各地にある一倉社長会のメンバーの会社で、結婚式場をもっている方が岐阜県にいる。地元では凄く評判が良いので、社長に秘訣を教えていただいたことがある。
「やることは簡単だよ。ただし、お金は大変だけどね」なんだか、なぞかけみたいな話だが、聞いてみると納得である。
式場、パーティーホールを3つ備えており繁盛しているのだが、1つの会場は3~4年に1回、リニューアルし続けることが大切だとのことである。3会場を持っていても半年くらいは、1会場が改装中なのである。
「花嫁さん、ご両親からすれば新しい式場、会場がいいに決まっている」
「それと会場の設備も映像機器も最新機種が次々と出てくるからね」さらに、「競合店に後れを取らないようにするために改装投資をするから、なかなかお金は貯まらないね」と明るく笑っておられた。
これができるかどうかで、競争力と高収益が両立できるのである。
逆の悪いパターンは、年配社長で後継者がまだ決まっていない会社に圧倒的に多い。設備投資をしなければ、償却済みの機械や設備で稼ぐから、利益がキチンと積み上がっていく。減価償却費がないから価格の競争力が出るのだが、将来のない経営になっている。
工場や設備、施設を見ればすぐにわかる。「そんなバカな」と思われるかもしれないが、この例は思った以上に多いのが実感である。
もう1つの悪い高収益企業は、社内の人口ピラミッドを作っていただくと納得しやすいかもしれない。
縦軸に年齢を入れて(2歳刻みで)右側に男性社員の人数、左側に女性社員人数をカウントして人数の棒グラフを総務の人に作ってもらえば簡単にできる。
国の人口ピラミッドと同じで、一番いい形は三角形だが、中小企業はいびつな形が多い。20代が少なくて、30代から40代がポコンと多いと、会社は儲かる時期に入ってくる。一番の働き盛りの30代、40代が頑張っているし、言い方は失礼だが、まだ稼げない若手が少ないと教える時間も取られないので効率はいいのである。
だがこれは近い将来に不安が残る悪い高収益パターンだと思っている。
1つには、この年代の塊がそのまま年をとっていったとき、若手が少なく頭が重い組織になって若返りに苦しむことが容易に想像できる。もう1つは、自分が育てる若手がいないことによるリスクである。
どういう意味かというと、部下を本気で育てることによって、結局は自分自身が成長する機会をなくしているのである。
人手不足は人材派遣会社にお願いをして何とか凌げても、いい人が来なければ電話を入れて交代要員を探してもらうだけで、自分たちで何とかしようという努力は、自分の部下を育てる努力に比べればどうしても力が入らない。
次の主力社員グループを育てていくことが長い成長繁栄につながるのである。高収益の事業体制を続けるためには、設備とともに社員への再投資を繰り返し続けないと競争力は維持できない。
利益の1部を削ってでも投資に回さないといけないのだが、高い利益が出始めるとその水準を維持したくなるし、本来の会社の競争力とは関係のないものにお金を使うこともよくある。
利益が出て完全無借金になったのはいいが、気持ち的に守りに入ってしまった三代目社長もいる。
長年、借金に苦しめられていたのも知っているから、厳しくしたくはないが、ここで再投資に踏み切らないと数年後から競争力をなくすことは目に見えている。
競争力の源泉は「社員」と「設備」であり、粗付加価値は「社員」と「設備」からしか産み出せない。
ただし、投資の時間軸が違うし、自社の置かれている状況によってどっちを優先させなければいけないか、も自ずと見えてくる。
先の人口ピラミッドを作ってもらった会社では、すぐに社長の了解を取って、総務が先頭に立ってこれまでやってこなかった大学回りをはじめ、新卒採用に動いてもらった。
初年度は、正直あまりいい成績ではなかったが、2年、3年と継続するうちに学生の応募者数も増えて、採用面接のノウハウも向上し定期採用ができるようになってきたのである。
若い社員が増えると、組織自体に活気が出るのは皆さんも体感済みだと思うし、会社であればオフィス投資も、最新のコンピューターも、工場の最新マシンもこれから戦う武器である。
社員は10年、20年のスパンで考えて手を打たねばならないし、機械設備、情報投資は5年、10年の償却を考えながら投資をし続けなければいけない。
休むことは一時的にキャッシュリッチになるが、次代を見据えていない戦略なき繁栄と言わざるを得ない。
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