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第6章「資金」こそ事業の命~長期目標バランスシート経営~

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第6章「資金」こそ事業の命~長期目標バランスシート経営~

一番大切な資金運用とは何か?

社長が「お金の問題」から解放されるために、「会社のお金」については社内の誰よりも執着し、詳しくなければならない。

なぜなら、どんなに豪胆な社長であっても、会社の資金繰りが詰まってくると夜寝られなくなり、昼間も資金調達のことしか頭になく、本来の社長業に一切身が入らなくなる姿を幾人も見てきたからである。

一倉先生は若い時期に働いた会社が倒産し、倒産がいかに多くの人々を苦しめるかを実際に味わった経験から、「会社を絶対に倒産させないために、資金の重要性を誰よりも訴えてきた」コンサルタントである。

それほどに「資金」の問題は、会社と社長、さらには全社員、取引先を含めると甚大な影響を及ぼす重要事である。

しかしながら、勉強会に出席される社長も、コンサルティング先の社長も、売上と利益と税金には並々ならぬ関心を示すものの、肝心の資金に関してはほとんどの社長が正しい知識を持ち合わせていないと、一倉先生は憂えておられた。

原因の1つは、社長の勉強不足より、学者や税理士の説く会計制度、税務会計や原価計算制度が経営の実務とはかけ離れた机上の理屈であり害毒にしかならないと、間違った経営学に警鐘を鳴らし続けてもおられた。

事実、その当時はキャッシュフロー計算書もなければ、キャッシュフロー経営の考え方や書籍もほとんどない状態であった。

ただし、社長自身も細かい数字は苦手な人が多く、「経理にお任せ」で、豪快に売上を伸ばし、お金を儲け、豪快にお金を使う社長こそが立派な社長であるような風潮もあった。

一時代を築き名経営者と謳われた社長も、資金運用の失敗で全ての事業を手放すことになってしまったこともある。

売上を積極的に伸ばせば、売掛金、在庫と買掛金に代表される運転資金が徐々に膨らんでいき、店舗や工場などの設備投資を追加し続けなければならないため、銀行からの借入金が雪だるまのように大きくなっていくのである。

銀行も会社が成長しているときは短期も長期借入金も融資に応じてくれるが、成長が止まったり、景気循環の影響を受け赤字になったりすると、手のひらを返したように融資態度が変わっていくものだ。銀行が悪いわけではない。

社長が運転資金と固定資金という事業を安全確実に経営するうえで必ず押さえておかなければならない「資金運用の原理原則」を知っていないからである。

それは経理部長、財務部長の仕事ではないか、と反論する社長がいるが、その考え方自体が間違っている。

財務に強い経理部長であれば資金運用のことはわかっていて、社長が無謀な工場建設や設備投資、急激な店舗出店をしようと言い出すと、計画自体を止めにかかるのが普通である。

金が足りない、返済が苦しくなる、計画を縮小すべきだ、と資金面から反論をするが、何人の社長が「そうだな」といって計画を見直すだろうか。

ほとんどの場合、「この計画は絶対上手くいく」「金を借りてくるのが部長の仕事だろう」「そんな消極的なことでどうする」と一喝し、強引に実行する社長ばかりである。

だからこそ一倉先生は、勉強会でも経営計画の作成合宿でも多くの時間を使い、実際に決算書の数字を用いて社長に電卓、ソロバンを入れさせ1年間の資金の動きを計算させて、1年後の目標貸借対照表(目標バランスシート)ができるように繰り返し繰り返し教えていたのである。

現在は超低金利だから、借金が増えても大丈夫だという甘い認識があるだろうが、当時は5%、6%の金利は当たり前の時代であり、借金が年商の半分以上を超えて一生借入金の返済のためだけに働かなければならない社長もおられた。

そのときの借金が今でもバランスシートを傷めていて、今日に至るまで営業利益の半分以上を金利支払いに充てている後継社長が実際におられることも知っている。

日々の売買に関する運転資金のコントロールとともに、設備投資、不動産投資、固定資産投資と税金支払い、借入金返済に代表される固定資金の動かし方こそ、社長にとってのもう一方の事業経営の要なのである。

損益計算書(PL)はわかるが、貸借対照表(BS)を見ない社長

月次の試算表が社長の手元に届いたときに、最初にどこを見ているだろうか。多くの社長は、まず何といっても「売上高」を見て、次に「営業利益」か「経常利益」を見て、昨年対比で増えているか、減ってはいないかを確認して、一喜一憂する場合が多いのではないだろうか。

損益計算書は上からの引き算の表であり、一見するとすぐわかるほど簡単なのである。

確かに売上高は大事であるし、赤字でないことが一番大切に思えるが、今月来月にまとまった資金が出ていくのに、現金が足りるかどうかがもっと重要なのである。ボーナス、納税資金、社債や借入金の返済などが重なると、手元の現預金は一気に減ってしまう。

もちろん、経理部で月次の資金繰り表を作っているだろうから、普通の会社では部長から「社長、お金が○○くらい、足りなくなりそうです」という報告は上がってくるが、中小企業では銀行に対しては社長が動かないと話にならない。

試算表の順番は上から貸借対照表(バランスシート、BS)があって、その次に損益計算書(PL)があるにもかかわらず、1枚目を見ないで2枚目を見にいってしまう。

月次の試算表だけでなく、期末の決算書も同じである。最初に出てくるバランスシートは眺めるだけで複雑でよくわからないし、損益計算書を見て、最後に税金が多いと文句を言ったりする。

日頃、利益を見ているはずなのに、税金の概算は第3四半期あたりで見当がつくにもかかわらず、直前になって無理な節税を実施しようとするし、実際に相談も多い。

ただ、どんなに利益が出ていても、それだけ現金が会社に貯まっているわけではない。

実際に使えるのは、バランスシートにある現預金残高だけであって、利益と現金が違うこと自体わかっていない社長さえいる。

私からすれば最初は不思議でしょうがなかったし、「このままじゃヤバイ」と思っていたが、経営数字や試算表がキチンと読めなくても平気な社長がたくさんいることもわかった。

創業者はカン(勘)ピューターで資金を読むが、二代目は無

理創業者であれば、今日に至るまで2度や3度の経営危機を乗り越えているし、お金の苦労は人の何倍も体験済みであり、手元の現預金残高も常に頭に入っている。

新たな投資や利益計画、3年から5年くらい先の返済額を、ブツブツ言いながら暗算で計算して、大丈夫だとか、ちょっと足りないとか、全然余裕とか判断するのである。

とにかく、利回り計算が早いし正確である。ただし、部下に説明したりするのは上手ではない。

まさに、カン(勘)ピューターで、独特の考え方だから、表にしたりするのが苦手である。加えて、自分がわかっていることを人がわからないとイライラするのは、気が短い創業社長の特徴でもある。

長年の経験の凄さであり、エクセルで社員が作成した数表の間違いを最初に指摘するのも創業社長の特技である。後継社長は、この点はかなわない。

私自身が、よく勉強会などで意地悪な質問を後継社長に、講座のはじめに投げかけるのでよくわかる。

どんな質問かというと「先月末時点での、現預金残高と有利子負債合計はおよそいくらくらい?」と聞いてみる。

百万円単位でいいので答えられる人は10人に1人か、良くて2人くらいである。あと手帳に毎月の数字を記入している社長が1人くらいいる。これは立派である。

もちろん、パソコンにデータは入っていると思うが、資金の重要性に意識がいっていれば自分の会社の数字は記憶していてほしいのである。

さらにもう1つ、「じゃあ、今期の減価償却費はいくらくらい?」と聞いて答えられる後継社長は相当に勉強している。この数字が頭に入っていると、過大投資で大きく失敗することはない。

新規事業や固定資産投資をして、万が一うまくいかなくても会社が危機に瀕することもないのである。

創業社長は大胆に見えるが、心の内は極めて慎重であるのに対し、後継社長は最初から大きなお金を使って、大きな成功を狙う傾向が強いように思える。

経験不足の後継者はキチンと勉強し、数字の読み方、お金の使い方を身に付ければいいだけである。

最初であれば、先輩格のベテランにわからないから教えてと言えば、誰だって丁寧に教えてくれるし、後継社長が外部の専門家の勉強をしていれば、自社内の幹部の実力もよくわかるのである。

後継社長は一生懸命勉強し、原理原則を身に付ければ、経験不足という弱点を、これからの実践体験の中ですぐに克服できるのである。

一倉教信者のバランスシートの特徴はここに出る

一倉先生の指導の重要事項に、「支払手形ゼロ」というのがある。絶対に会社を潰さないという考えが中軸であるから、「支払手形を切っていなければ、不渡り、銀行取引停止もないから倒産もない」という論法である。

だから、何年もかけて支払手形を、1部を現金、残りを支払手形にしたり、金額の小さいものから徐々に現金支払いに切り替えたりして、多くの社長は手形ゼロに挑戦しておられた。

もう亡くなられたが、H社長はメインのお客様が超大手企業だったので安全ではあるが、受取手形が増える一方で、仕手を切らない努力をしているので現金が減っていく。このことに2年くらい悩んで悩んで、意を決し得意先に手形取引から現金支払いへのお願いに出向いた。

すると、担当部長が軽く「いいよ」と一言。

我々からすれば、一番のVIP顧客であり金額も大きいのであるが、超大手の支払い金額からすればほんのわずかであり、グローバル化が進み始めたこともあって「手形取引」自体を考え直し始めるときであった。

H社長は後日、「あんなに悩んだのに」と笑って話してくれたが、会社を倒産危機から守るために中小企業の皆さんは中小企業なりに必死の取り組みをされていたのである。

その結果、流動比率(流動資産/流動負債%)200%、300%と高かったり、受取手形の残高はいっぱいあるが、支払手形が極端に少ない状態の会社などバランスの取れていない状態もあった。

手形で集金して現金で払うわけだから現金が減って当然であり、借入金でつないでいきつつ、徐々にではあるが内部留保を増やし、倒産リスクを軽減していく努力をしていた。

また、現預金は潤沢にあるが、短期借入金もいっぱいある状態で金利を相当払っている社長もけっこういた記憶がある。

今と違って、銀行も強い立場だったし、こちらから銀行にいろいろ要求できる財務状態ではなかったので仕方がなかったのかもしれない。

だから今でも、流動比率が高い、現金比率が高い、それも異常なくらい高い貸借対照表(BS)を診ると、「お父さんは一倉先生の勉強していました?」と聞くことがあるし、「はい、確かに名前はよく聞かされました」と答えられる後継社長も多い。

しかし、経営環境も銀行の姿勢も変わったのだから、無駄な金利を払わなければいいのにと思ってしまうが、長年の習慣というのは怖いものである。

後継社長がいろいろ勉強し、経理部長や番頭格の専務、常務に相談すると、「銀行には言えない」「次の協力、融資のときに断られるのではないか」「以前に比べれば金利も下がっているのでたいした金額ではないから」など、現状維持派の意見が多く、先代からのBSのクセがそのままになっている会社が多いのである。

自分の手で電卓を叩いてみないとBSは体に入らない

今、私も手伝っている「長期計画」合宿ゼミ(講師・佐藤肇先生)の参加企業にも、先代の時代から勉強されている会社の後継社長がいる。

伺うと「『絶対に手形は切るな』が会社のルールで」と話されて、現預金は相当な金額が積み上がっているにもかかわらず、長期借入金もしっかり残っているBSを持っている。

皆さん問題点はつかんでいるのだが、どうすれば強いバランスシートを作れるのかに確信が持てないのが現状だと思う。

売上利益計画(損益計算書)は、社長が相当の意思を込めて作ることができるし、3年先でも5年先でも作成することは可能である。

ただし、その計画が達成できたとしても、期末のバランスシートが実際にどのように変わっていくのかまでは予測できない。

他人から「現金があるんだから、借入金を返せばいいんだ」と助言を受けたり、社長自身が思ってみても、数字の裏付けがキチンと取れない限り行動には移せない。

会社の安全性を考えれば当然だと思う。

だから、長期計画の合宿では、たとえば35億円の売上、経常利益1億5000万円の今期の数字を来期目標として、売上37億円、経常1億7000万円にするために、設備投資はどうするか、社員数は、販管費の予算は、借入金の増減は、在庫の増減は、税金等を過去の実績を基にシミュレーションし、1つひとつ電卓で数字を入れながら、運転資金も固定資金も計算し、期末のバランスシートを手づくりで作成していくのである。

参加された社長から必ず「長期計画のエクセルはないの?」という質問も毎回いただいているが、答えは想像通り「あっても出さない」である。

損益計算書は読み方を教わればすぐにわかるが、貸借対照表は経営分析のやり方を教わって、数字の良し悪しが判断できたとしても、社長としてどこに手を打てば、数字がどうなるかが、さっぱりわからないのである。

創業社長は苦労の連続の中で身に付けた知恵が、日々の経営判断に活きているが、後継社長がエクセルを使って数表を何枚も作ってみても「資金移動というブラックボックスの中味」がわかっていないと結局は実戦の経営では役に立たない。

さらに、社長1人が理解したとしても役員、各部門のトップが理解し、数字を使って全社の経営が話し合えるように教育していかないと、各部門の打ち手がバラバラになってしまうのである。

損益計算書は1年で大きく数字が動くが、バランスシートは短期で数字が大きく動くことはない。

おもしろいことに、社長を中心にして経営幹部が考えているように、また極端に言えば社長の性格通りに徐々に数字が動いていき、10年、20年経ったら、社長を映し鏡にしたバランスシートが出来上がってくる。

だからこそ、一倉教の会社のバランスシートは特徴が似ており、社長がキャッシュを大事に考える経営を追求すれば強固な財務体質になり、売上重視に走れば水膨れ型のバランスシートになってしまうのである。

経営数字の裏にある仕事現場を見ながら、電卓を叩き続けると、社長の体の中に強固な経営軸が出来上がってくるのである。

万が一のときには会社は誰も守ってくれない

このように手堅い経営を続けていると、10年、20年と経つうちに規模の大小にかかわらず完全無借金経営や、実質無借金(現預金‐借入金=プラスの状態)経営となっている社長はたくさんいる。

経営分析的には過剰流動性、すなわち「会社がムダなお金を持ちすぎている」という状態になっているので、次の事業や投資に回すべきだという意見が出たり、無借金だと銀行がいざというときに助けてくれないから借入をしておくべきだとか、さまざまな助言が飛び交うのである。

確かに、次の収益の柱になる事業や新商品開発には、人もカネも投入し続けなければならないが、経営分析の指標に合わせるために事業経営をしているわけではない。

大手であれば本当に大変なときには、銀行も救済に乗り出してくれるだろうし、再生の道やM&Aの申し出があるかもしれない。

しかし、中小企業ではよほど特徴のある商品や技術などがない限り、苦境に立ったときは誰も助けてくれないのが現実である。

バブル崩壊後に何度も見てきたし、1997(平成9)年には北海道拓殖銀行や山一証券が経営破綻、2008(平成20)年にはリーマンショックと、約10年ごとに大きな経済危機に中小企業はのみ込まれているのである。

ましてや、日銀のマイナス金利政策の影響で地方銀行自体が儲からなくなり、地銀同士の統廃合、合併、提携ニュースが流れている今日、世界のどこかで経済危機が発生して日本に影響が及んだときは、銀行といえども自分たちの生き残りに必死で、中小企業を助ける余裕はない、とみておくことが社長には必要だと考えている。

社長が自社を守るために資金を厚く持つことと同時に、社長個人が可能であれば高い役員報酬を得て貯金をしておき、万が一のときには自らを助ける努力こそが正しいことだと思う。

そうすれば地方経済の担い手として、地域の雇用の確保という大切な社会的使命も遂行できるのである。

貸借対照表(BS)とは、社長の意思でつくるもの

今期の売上利益計画を立てたら、期末の「目標貸借対照表」はできる

これまで何度も「目標貸借対照表」について触れてきたが、ここで実際の会社の数字を使ってどのような流れで期末の貸借対照表を作るのか、説明しておこう。

詳しくは、『一倉定の社長学』第2巻「経営計画・資金運用」に譲るが、社長として大切なことは、我社の生き残りをかけた売上利益計画を立てたら、今期末予定の目標貸借対照表がかなりの精度でできるということである。

わかりやすくするために、実際の会社の事例で数字を追いかけてみよう。

ただし、『一倉定の社長学』第2巻「経営計画・資金運用」を持っておられる方のために、なるべく勘定科目の用語は近いものを使用している点はご容赦願いたい。

【図表①】を見ていただきたい。

37期が売上16億、当期利益3800万円で終わり、37期末の貸借対照表の数字が出た状態である。唯一、損益計算書の数字で貸借対照表に反映しているのは当期利益の「38」だけである。

新年度を迎えるにあたり、社長は【図表②】のように第38期の目標を売上17億、経常利益5100万円に決めた。経費などは前年度からの増減を加味して予算化している。

その達成に向かって走り始め、売上利益が順調に上がり、数字がだいたい予定通りにいったとなると、期末の貸借対照表は【図表③】のようになるのである。

なぜそうなるのかは、37期と38期の間にある「使途」と「源泉」の数字の増減を見積もることで1年間を通じて貸借対照表が動いていくのである。

この数字を社長が意思を込めて見積もる過程が【図表④】の資金運用計画である。

【図表④‐1】に売上17億を達成するために想定した数値を記入してみたが、【図表④‐2】の資金運用表に記入してみよう。たとえば①から始まって、前期の未払い法人税「18」を入れてみる。

次に一番わかりやすい項目として長期借入金を見ていただきたい。

固定資金の使途として、この会社は38期に長期の返済が7000万円あり、過去の社債の返済6000万円が重なってしまったのである。

この数字は実際の返済額等を少し簡略化しているのだが、さすがに合計1億3000万円の返済は資金的に厳しいので資金不足を招きそうなことは想像できるが、そのまま計算してみるのである。

続いて今期の設備投資の計画「5」を入れ、保険代に代表される資金支出「14」を入れて、9番の固定資金余裕はそのまま空欄で固定資金の源泉②に移る。

固定資金の源泉の1番から4番まで数値を入れたところで、一旦合計を計算すると「269」が出てくるので、同じ数字を固定資金の使途の合計に「269」を入れてバランスさせる。

そうすると固定資金の使途が「269」になるためには、空欄だった固定資金余裕が「92」にならなければつじつまが合わない。

これで固定資金は1回目終了となる。

この固定資金余裕「92」が運転資金の源泉に入ってくるのであるが、「なぜ?」という疑問を持たないで、素直に運転資金の源泉の1番に「92」をそのまま転記する。

そうして固定資産に続き、今度は運転資金の使途である⑤の受取手形から増加額予想を計算するのである。

計算式は、【図表⑦】にあるように、前期の回転率から売上が16億から17億に増えた場合を想定し、計算してみるのである。

運転資金の7番目「期末現金流動預金」を空白にして終わったら、次に⑥の運転資金の源泉の「2.支払手形増加」を【図表⑦】の計算で同様に数値を出し、記入したら、源泉の合計を出してみる。

結果は、「109」。

この「109」は固定資金のときと同じように運転資金の使途の合計に転記し、左右をバランスさせるのである。

そうした後に、最後に7番の期末現金流動預金を、合計が「109」になるように逆算すれば、⑦に「53」が入ってくる。

この「53」という数字の意味は、【図表①】にあった流動資産の一番最初の37期末の現金流動預金「169」が38期末になると「53」になってしまうということを意味する。

1億3000万円の返済で資金不足が想定されたが、1回目の計算で計画の不備が確認できて、再度の計画練り直しということになるのである。

今期をどう着地するか予想できる

【図表④‐3】を見ていただきたい。

修正版として、資金不足であるから資金の源泉を増やすか、使途を減らすしか、方法はないのである。ここでは、社長の腹は「長期借入」3000万円の増加と「その他」で2800万円の調達で決まった。実例だから詳細は書けないが、取引先の上場株の放出を決断したのである。これも時代の変化を取り入れた社長の意思の表れである。いつまでも系列、安定株主でもあるまい。

成り行きで経営をしていれば返済が迫り、お金が足りないから折り返しの借入を依頼するのが普通である。

結果は同じように3000万円の新規の長期借入金が発生しているかもしれないが、思考プロセスは全く逆であり、事前に資金不足を予想し最初から銀行に説明をして依頼するわけであるから、銀行サイドの評価も変わってくる。

少し脱線したが、もう1度、【図表④‐3】に戻っていただいて、「30」と「28」が新たに加わったので再計算していただきたい。

合計が「269」から「327」に資金調達した「58」分だけ増え、固定資金の使途の合計も同じ数字「327」に書き変えた状態になっている。

そうするともうおわかりのように固定資金余裕が「150」にならないと左右がバランスしなくなるので固定資金の修正は終わるのである。

この後は、増えた固定資金余裕「150」が運転資金の源泉に入ってくるので、合計が「167」に変わり、逆算で出てくる期末現金流動預金が「111」に増えて2回目の計算が終わるのである。

売上を1億伸ばし利益も5100万円出しても、現預金は減ってしまうのがおわかりいただけると思う。

PL(損益計算書)重視の経営からBS(バランスシート・貸借対照表)重視の経営にならなければいけないというお手本のような事例である。

ここで社長が期末の現金流動預金が1億円以上あればとりあえずは安心だと思えば、資金の移動を増減欄に転記して貸借対照表(38期末の目標)が完成するのである。

【図表⑤】の数字を【図表⑥】の増加と減少を間違えずに転記し、足し算、引き算すれば目標貸借対照表の主要科目の数値がまとまるのである。

はじめての社長には面倒な表であり、わずかの紙面で説明することは困難だが、以下の3点だけは覚えておいていただきたい。

一連の流れをエクセルで計算されて一発で数字が出るのと、社長がああでもないこうでもないと考え計画を練る時間をとることの違いであると一倉先生も指摘している。

強気で計画を立てればお金が不足し、投資を押さえれば目先のお金は助かるが競争力を失ってしまうのであるから、自社全体と競合先とお客様の要求の変化を総合的に判断して知恵を出さざるを得ないのである。

もう1点は、このケースでは、運転資金は意識して動かしていないが、売上を1億円伸ばして、棚卸資産を「▲1」と計画すれば当初計画より年間で400万円在庫を削れという社長の意思を数字に込めることになるのである。

3点目として、もう一度、【図表⑤】を見ていただきたい。

同じ資金運用表だが、固定資金の使途のうち、ほとんどの税金項目は前期の決算が締まった段階で数字が決まっており基本的には動かせない。

社長がコントロールできる数字は、固定資金では固定資産投資額(設備や店舗、土地の購入など)の数字しかないことと、固定資金余裕をプラスにしておかないと運転資金にしわ寄せが行って手元の現預金が減ってしまうことである。

会社の資金がわからないという社長は、ここだけ押さえれば充分である。

売掛金や買掛金は全て取引先という相手があることなので簡単に我社の都合だけで数字を変えることができないから、単年度ではなくて5年くらいの長期を見据えて取り組まないと貸借対照表のバランスを変えることは難しいことも併せてわかっていただきたい(【図表⑦】)。

急成長ほど恐ろしいものはない

この資金の流れがわかっている社長は着実な成長を目指すのであるが、売上16億円を好調なうちに一気に伸ばそうと翌期20億円、2年後25億円、と強気に目標設定する社長がけっこう多いのである。

資金運用表を見ていただければわかる通り、利益が出たといっても税金と半期後の予定納税の資金にまわり、売掛金、在庫が増え、実際に使えるお金は経常利益の30~40%くらいである。

そこに売上増大のために工場を拡張したり、店舗を作ったりするので、自ずと借入金が増えるし、銀行も融資先を求めているわけだから好都合なのである。また、急成長ではないが、社長によっては相当強気な売上利益計画を全社員に発表する場合も多い。

理由を聞いてみると「これぐらいのノルマをかけておかないと数字が伸びませんから」等の答えが返ってくる。急成長も同じことだが、こういう社長は貸借対照表を作り込むという発想自体が全くない社長であり、売上さえ伸ばしていればお金はついてくると思っているのだろう。

順調に伸び続ければいいかもしれないが、昨今好調な事業には新規参入が我も我もと参入し、利益率は低下しブームが一気に去ることだって日常茶飯である。となると、残ったのは借入金と固定資産ということになってしまう。

急成長は組織も社員の教育も追いつかないことは皆わかっているが、貸借対照表も危険な状況に近づいていることを知っておいてほしいのである。

3年先、5年先の目標バランスシートに向かって数字をつくる

社長として常に3年先、5年先を目標に据え、事業規模が小さいうちから筋肉質の貸借対照表を作っていただきたいのである。

Y社長は二代目の社長であるが、堅実な経営をされて地元でも評判の人物である。

ただし、事業を父親から引き継いだとき、売上は30億円近くあったが借入、売掛、在庫が多く、自己資本比率は9%台という非常に厳しい状況だった。

よくある話で、修業先から戻ってくるまでは先代から決算書は見せてもらえず、まあ商売は順調そうだからと安心して戻って、決算書を見てびっくりというパターンである。

後継社長なのでいろいろ勉強したり、銀行にも相談したりして決算を迎えると、先代の時代より「利益額」は大きくなっているにもかかわらず、会長が怒るのである。

「売上が減っては会社が倒産に向かっている!」と。

Y社長にしてみれば、儲かってもいない仕事をいっぱいとって売上を作ってみても一向にバランスシートは良くならないので、利益率重視の経営に切り替え、直近の目標は自己資本比率10%超えとし、会社を良くしているのである。

しかし、一旦悪くした数字は、劇的に良くなるものではない。

結果的に売上は横ばい、もしくは少し減少気味だが粗利益率を守った経営に徹し、17年目に念願の自己資本比率35%を達成したのである。

膨らんだ貸借対照表を後継者に残してしまうと、人生の半分近くを借金返済のために費やさなければならないことだってある。大きく儲かる商売であればもっと早くに実現するかもしれないが、皆が高収益事業をやっているわけではない。

常に3年先、5年先くらいを見据えて、特損を出すタイミングはいつがいいか、即時償却できる設備投資はないか、公の補助金、助成金は引っ張れないか、を考えバランスシートを小さくする努力と、当期利益を着実に積み上げていけば成果は確実に数字になって表れてくるのである。

経営、特に貸借対照表には「でも」も「しかし」も「ウルトラC」もない。

創業以来の社長の意思決定が数字となって表れているので、10年かけて悪くなっていれば、同じように10年かけて良くしていかなければならないのである。

社長業は一見派手に見えてしまうが、本質的には極めて地道な作業の積み重ねであることをわかっていただきたいのである。

悲願の無借金経営、実質無借金経営を実現する

先のY社長もそうであるが、自分で作った借金ならまだしも、父親とはいえ先代が借りまくった巨額の有利子負債に押し潰されそうになりながら経営している社長はけっこういらっしゃる。しかも前にも書いた通り、銀行から見れば格付けが低いので金利が高いのは当然である。

借入金を返すのには超低金利の今が一番条件が揃っているのだが、せっかく営業利益を稼いでも支払金利に持っていかれたら返済原資も出てこないのである。

もう10年近く前になるが、K社長から経営相談があったとき、この無借金の話になったことがある。

幸い売上利益は順調にいくメドが立ちそうだったが、追加の設備投資も2年ごとにやっていかないと継続的な利益は見込めないと判断できたにもかかわらず、社長が「どうしても無借金にしたい」と言い出した。

正直難しいとは思ったが、やってみるしかないので、先の目標貸借対照表の1年目を作り、その数字をベースに2年目の目標貸借対照表を作り、3年、4年、5年と社長と一緒に作ってみた。

丸2日くらいかかったかと記憶している。

売上利益も作文をするわけにはいかないので、それなりの根拠の数字を置いて、社員を増やし設備を購入し、減価償却費を立ててのシミュレーションを繰り返しての借金返済プランである。

さすがに5年では完済にはならなかったが、5年後に2000万円くらいまで追い込んだ数字になったから、6年後にはいけるところまでの計画となった。

「社長は凄いな」と思ったのはそれからである。

夢のような話からシミュレーションながら目の前に借入金ゼロの手書きの貸借対照表があるだけで、既存営業に力が入るし、新規の営業も紹介やコネ、飛び込みも駆使して全社が動き出したのである。

前向きに動き出すと、運も向いてくるのかもしれない。

設備投資も助成金の申請が通ったり、ほぼ新品の中古設備が格安で入手できたりと順調に進み、最後は少し残った長期借入金を5年後にペナルティーを少し払って返済してしまったのである。

もちろん毎期毎期、実績をベースに次年度以降の計画は立て続けていったが、5年前に作成した長期計画で描いた未来が手に入ったのである。

幸運が味方したのは事実だが、「ツキも実力のうち」である。

社長が本気で計画を立て、実行し、実績をベースに見直し、さらに計画を練り直すことで損益計算書も貸借対照表も作ることができるのである。

ただし、世の中はおもしろいと言っては失礼だが、「俺は不真面目な社長だから借金がないと遊んでしまう」と言ってあえて借金をしている社長もいらっしゃる。こういう社長はくせものである。

貸借対照表を見ると「借入金」よりはるかに多い「現預金」を持っていて、いつでも即金で返せる状態であるから、驚くほどの超低金利で借入をしており、その分、金融機関の情報網を目いっぱい使って事業拡大に活かしているのである。

一倉教を徹底的に勉強し、20年、30年とコツコツ積み上げてきた実績と岩盤のような貸借対照表を前にしては、地銀の支店長ではとても手に負えないのが実際である。

しかしそれでも、一倉先生の教え通り、毎月「月次の試算表」をもって支店長に報告に出向いているのである。そこに、驕りや慢心はない。無借金になったからといって油断してはいけない。

明日何が起こるかわからないのも経営であるからである。

主要な役員・経営幹部に経営数字の実務を叩きこむ

小企業であれば、社長が1から10まで全部決め、指示を出していけば会社は充分回っていくが、社員が30名を超えだすと目が届かなくなってくる。

1つの事業を皆でやっていれば、50人を超えても大丈夫かもしれないが、事業の性質が違う部門が2つ3つと増え始めると、社長といえども全体はつかめても、各事業部の細かいところは見えなくなってくる。

ましてや昨今のITを中核にしたような事業部は、年齢の高い社長には変化が激しく、最新技術についていくことも大変だし、設備、営業、財務、人事と全てに詳しい社長などいないから、各部門の責任者が経営の共通言語である「経営数字」で語り合えるように教育していかないと企業の成長が止まってしまう。

子供の教育では長所を伸ばせと教わってきたが、会社の実力は一番弱い部署のレベルにどうしても制約を受けてしまう。

社長の意図していることを、経営幹部には戦略と数字の裏付け、両面で理解し行動してもらわないと、社長の想い描く成長戦略の実現が遅れてしまう。

ある食品メーカーの事業戦略の相談に乗っていて4年目だったと思う。

来期の計画を立てるので合宿を張っていたのだが、夜中の12時近くになって夜食にラーメンを5人で食べに行くことになった。

販売は順調だったが、ここ数年の傾向で売掛金の回転が悪くなっているのが気になっていた。

資金繰りに影響が出るほどではないから問題視するほどでもないので合宿中は言わなかったが、ラーメンを食べながら「K部長、なんで売掛金、増えてるの?」「運転資金ちょっとつまり気味だからね」と聞いてみた。

経理の責任者も「そうそう」と言ったところを見ると気づいていたらしい。

K部長は何気なく「簡単、簡単、H商事がここのところ随分力を入れてくれて売上数量伸ばしてるのよ」と。

さらに「Hさん、締め日から支払い遅いから仕方ないんだよね」「H商事は国内でも最大手クラスだから事故は心配ないし、他の商社さんの同行を増やしてバランス取らないとね」と会話が続いた。

しかし、4年前からすれば信じられない光景だった。毎年毎年、研修合宿を繰り返していたので、K部長の4年前を知っている。

今では全社の数字がだいたい頭に入っており、その原因もキッチリとつかんでいて、深夜にラーメンをすすりながら来期の大枠が語れるように皆が成長しているのである。

できている会社にとっては当たり前のようでも、取締役営業部長が営業の数字は押さえていても設備投資予算や借入金の返済、運転資金まで全社的に見る習慣を持っている会社はそんなに多くない。

資金運用計画と資金繰り計画の相互チェック

1年間の計画ができたら、月間計画に展開していくことは、皆さんやっているので詳しい説明はいらないかと思う。

問題は季節変動の大きい事業をやっている会社、仕入れが1年の特定月に1回、集中する業種の資金繰り計画が問題になる。

社長は月次試算表のどこを最初に見ているか?

観光関連事業や冬場の仕事が厳しい会社など季節変動型はけっこう多いし、農産物や旬の海産物などを扱う食品加工メーカーなど、資金量のトップとボトムの差がかなり大きい事業もある。

年間の資金運用計画は、たとえば3月決算の会社であれば、4月1日に新しい期が始まり、12ヵ月の資金繰りが繰り返し、期末の数字になるが、社長の考え方と経理の考え方の違いが出てくるのである。

経理部に任せると今期の売上予算を割掛け、前期までの実績ベースを基に過去からの積み上げで数字を作り気味である。これでは結局「成りゆき経営」になってしまう。

社長が考えなければならない資金繰り計画は、スタートの4月1日時点の貸借対照表の勘定科目の数字を1年間、12回かけて、目標とする3月31日の数字に着地させる計画を織り込むことである。

たとえば、売掛金の回収であれば、年間を通じて1週間早くすることができないか、などと考え毎月の計画を立て、実績が出たら計画の隣の枠に実績数字を書き込み、計画との差額を毎回見つめながら次策を練っていくようにしなければならない。

実際の決算書から運転資金の実績を出してみると、業種業態によって実にさまざまなパターンがあるから、自社の資金体質を知って計画を立てていただきたい。

一番問題になるのが、「逆ザヤ」と呼んでいる現象である。

「回収」の日数と「支払い」の日数を比べると、回収が遅く支払いが早い場合という業界体質がそのまま残っていて、社長が売上をドンドン伸ばそうとするとどうなるかは想像の通りである。

よほど高い利益率の事業でない限り、順調に売上利益計画を達成すれば「お金が詰まってしまう状況」、つまり運転資金でお金を減らし、つなぐための借入金を増やさなければならない会社はけっこう多いのである。

だからこそ、資金運用計画を立てたら、どうやってその数字を実現できるか、の具体的な行動を考え、資金繰り計画に反映させないと貸借対照表は強くならない。

小売りや飲食業のように回収率が95%くらい(ほぼ現金とカードの入金日数)であれば支払いが遅い分、運転資金の悩みは薄らぐが、法人相手の事業では月商の2ヵ月、3ヵ月分の売掛金が残る会社もある。

まず、自社の運転資金の体質を知って計画を練るのである。

そうして新年度が始まり、毎月の月次試算表が届いたら、真っ先に見る項目は現預金に代表される流動資産項目に目を向けてほしい。

ただし、『一倉定の社長学』の「第2巻」、465ページから始まる資金繰り計画のなかにも出てくるが、社長が数字を見るときに大きくまとめた数字で見ることというのが、経営上は大事になってくる。

社長の手元にある自社の月次残高試算表を見ていただくと、経理用の細かい勘定科目が並んで前月、増加、減少、当月末、昨年比較などが小さな数字でびっしりプリントアウトされているが、これでは普通の社長はどこを見ていいかわからなくて当然である。

担当者に1回だけ、数字のまとめ方を教えて、まとめた数字を報告させるようにすればいいのである。

気になる数字があって細かく知りたければ部長に聞けばいいだけである。

そうして毎月、メインバンクの支店長を訪ね、計画の進捗を自分の言葉で報告し、3カ月後、6カ月後に資金不足が発生しそうな予測が出れば短期の資金調達依頼や、他の事前対策に余裕をもって手を打つのである。

こういう日々の積み重ねで、メガバンクの地方支店、地元地銀の支店内では中堅・中小企業といえども1、2を争うほどの信用を得ているはずである。

銀行の方々とは経営計画の発表会の席上で、隣同士になることが多いが、皆さん同様に「転勤前から噂は聞いていたんですが凄いですね」とか「社長の財務知識レベルが高いのに驚かされる」等々言われるので本当に信用されていることはすぐにわかる。

自社の現預金残高の安全メドを維持する

経営分析では現金比率という指標があって50%で良いとか、現預金は月商の1ヵ月、2ヵ月分あれば安心だとか計算上は出てくる。当然数字が高ければ資金ショートするリスクは下がってくるから安心だが、多すぎるとお金を無駄に持ちすぎているということになる。ただし、これは机上の計算である。

先ほど書いたように、現金商売の事業と回収サイトの長い事業でも違うし、社員数によっても違ってくるから経営分析は参考にしても社長自身の、また経理の責任者の皮膚感覚をもっと大事にしてほしいと思う。

実際に社長によく聞かれる質問だからである。

一倉教の貸借対照表の特徴は過剰流動性だといったように現預金が多いから、顧問の税理士先生からも言われると不安になるらしい。年商15億円の会社でも同じことを聞かれた。

現金商売が中心で取引先も大きな偏りがないから急激に売上ダウンする恐れのない会社で、しっかり者の部長に「いくら手元にあったらぐっすり寝れる?」と質問をすると、間髪を入れず「1億円」と答えが返ってきた。

さすがに「1億円」の大台を割ると、その部長もちょっとソワソワするらしい。月商倍率でいえば1ヵ月を切っているけれど、長年仕事をやっていて安心できるラインがわかっているからである。

別のメーカーでは、私も全く違うことを提案することがある。

O社長は慎重派であるし、長年の努力の賜物で自己資本比率も相当に高いが、O社長でも自分の判断に自信が持てないようであった。

私の質問は、「年間の総人件費はいくらくらい?」だったが、さすが慎重派のO社長、即座に「××億円」と答えてくれた。

「その1年分あればOKじゃない」というのが第1目標。万全を期すなら2年分と話して、なぜならばと縷々説明をしたことがある。

法人対象の設備関連だから万が一のときのダメージが大きいからであり、業績回復に時間がかかるからである。

最近多い異常気象による自然災害もリスク対象であるが、何といってもリーマンショックのときの業績の落ち込みの体験が忘れられないからである。衣食住関連であれば復旧も復興需要も見込めるが、設備関連はそうはいかない。

売れない時期に、社長が焦って値段を下げたりして売上数字を作ろうとしても、実際にはそれ程売れないし、回復した後に「安値の事実」だけが残り、値戻しに何年も何倍も苦労する。結局、自分たちが苦しむ結果になってしまうのである。

だが、手元資金があればガマンができるし、社員も動揺しなくて済む。過剰と言われようと、「社長が雇用を守れて、安心できる水準」を決めておくことが何より大切なことである。

赤字を恐れず大型節税を断行すれば、資金運用は楽になる

「資金を貯める、残す」ためにやらなければならないことは、何といっても営業利益を出すことであるが、それだけでは資金運用のところで書いたように内部留保にまわらない。

「特別損失」という科目を使って税金の資金流出を抑えることが大切なことは、社長なら全員本能的に知っているように思えるが、現実にやっているとは思えない。

目先の節税には熱心だが数年に1度の大型節税や、ここ数年適応されている設備投資の即時償却などで「繰越欠損金」を使い数年間にわたり税金を払わないような施策を実施しないと、現預金は積み上がっていかない。

そんな大型の対策は社長主導でなければできないし、銀行にきちんと説明して行えばキャッシュフローのことはよくわかっているので協力的である。

先日そんな話になったとき、岡山県の会社社長がニヤニヤ笑っているので決算書を見せてもらったら、驚くことに「固定比率」がメーカーで工場を持っているにもかかわらず30%を切っていたのである。

実際に自社の数字を計算してみてほしい。

「固定資産」「純資産」×100%=いくつになっているだろうか。100以下であれば理想的と言われるが、固定比率が他の会社で100%以下はなかなか実現できないのである。

設備更新をしない古い機械で仕事をしていれば可能かもしれないが競争力を失い、本末転倒の話になってしまう。

「社長、何したの?」「あはは~、6億円の工場投資を即時償却したんだよ」「都合よく期日が来年まで延長になったから助かったよ」と話した。

最新設備を導入し貸借対照表は大きくならないので、順調に利益が出ればROAは上がるし、繰越欠損金がなくなるまで税金流出は抑えられる。

せっかく全社員で稼いだ営業利益の35%~40%くらい税金で流出するのだから、税法で認められる範囲内であれば目いっぱい活用すればいいと思っている。

そんな積極的な話ばかりでなくて、もっと切実な特別損失だってある。先代の父親が、好調なときに将来の事業拡張を見越して工業団地の土地を購入していた。結果論かもしれないが、今から思えば随分と坪単価が高いので、息子さんの後継社長からすれば二重の苦しみである。

日本の高度成長が峠を越えて随分経つが、地方に行けば分譲したものの放置されている工場団地はたくさんあるし、交通のアクセスに恵まれなければ今後も厳しい。

長年、売りたくても売れなかった用地に購入の打診があったので、1円でも高く売りたい気持ちはわかるが、その商談を逃すわけにはいかないので、相手さんの希望に沿った価格で無事契約となったのである。

小さい話かもしれないが、未整備の工場用地は夏になると凄い勢いで草が生えツタのようなものが絡まり始める。隣の稼働中の工場から苦情が来るので、専門業者さんに頼んで草刈りをするため、この費用が毎年バカにならない。

売却すれば、「固定資産売却損」という節税原資が生まれるし、簿価より低いとはいえ、まとまった現金が入ってくるので、願ったりかなったりである。

他にもいろいろなケースはあるだろうが、大きく貸借対照表を作り変えていくのは社長の役目なのである。

そのために、その方面に詳しい凄腕の税理士をセカンドオピニオン、サードオピニオンとして契約しておられるツワモノ社長もいる。だが、節税が目的ではない。好不況の波にビクともしない強い貸借対照表を作るためである。そうしないと病気になってしまう。

「節税貧乏」という病気

大型節税などは数年に1度くらいにしておかないと、本業が弱くなるという病気にかかってしまう。世間で「節税貧乏」で意味が通じるかどうかわからないが、私は病気の名前をそう呼んでいる。

中小企業が本業の利益で1億円、2億円と現預金を増やしていくのはそう簡単なことではないが、先ほどのような事例で現金が億単位で増えることはよくあることで、随分得した気分になるし、実際に数字も2、3年で見違えるほど良くなってくる。

社長がこの罠にはまってしまうと、四六時中、節税のネタを探すようになってくるし、金融商品で節税型の話も、どういうわけか引き寄せてしまうようになる。

冒頭に書いた「穴熊社長」への逆戻りである。

お客様の要望を満たして、キチンと利益が出る会社にして順調に走り始めて、節税病にかかってしまうと、お客様への定期訪問が減り始め時間の経過とともに市場とのズレが生じているのだが、貸借対照表はキレイだし、現預金も持っていると「会社のために頑張っている」と自分自身を納得させてしまうのである。

特に二代目社長はよく勉強するから、難しい節税スキームや海外取引を絡めた節税策であっても、英語はできるし留学経験もあるので大金を投じてしまうことがある。

根本的には現金が出ていく対策と、現金が入ってくる対策があるので冷静に判断することと、自分がよくわからないモノには手を出さないほうが賢明である。

社長が「お金に弱い」ことが不正の温床

なぜここまで「お金」のことをくどくど書くかというと、この章の冒頭で書いたように「お金」で悩まないためであり、会社は資金ショート一発で倒産になってしまうからである。

現実に、古い話だがこんなことが起きてしまった。

社長は凄く商売熱心で会社も順調、しかも高収益だから、ますますお客様訪問をはじめ、新しい商材探しなど国内はもとより海外にまで出かけていた。

ほとんど社内にいないのだから、経理部長からすれば銀行印を押してもらわないと仕事にならないので、社長が出社しているわずかの時間に書類を説明して決裁という流れであった。

社長は情に厚く、熱血漢で信じた人にはとことんついていく性格だから人も同じだと思ったのかもしれない。銀行印を経理部長に預けてしまったのである。

一倉先生の教えの中の「禁手の重要事」である。それも「絶対にしてはいけない」と、しつこく講座で何度も念を押すほどであった。

今とは違って手形帳がある時代だったが、乱発した支払手形がスジの悪いところに回ってしまった。

なぜあれだけ信頼されていた部長がそんな行為に及んだのかはわからないが、好調だった会社が一発でダメになったのは事実である。

一倉先生の教えの中に、「勝手にハンコを押せる状況を作っている社長が悪い」という言葉がある。犯罪者を生む土壌を作った社長の責任であると。

言い方は悪いが、こういうことをやる社員は、日頃は気が利いて仕事も良くやるのでついつい信用してしまう。

「信頼しても信用するな」という言葉があり、正しい意味はよくわからないが、会社の存続に関わることを任せっぱなしにする社長の責任感のなさこそが問題である。

今でもニュースに着服、横領に代表される不祥事がよく出てくるが、何年にもわたって行われていたなどのコメントを聞くたびに会社であれ団体であれ、トップがお金のことをしっかりつかんでいなかったんだろうと想像している。

社員は上をしっかり見ているので、お金にルーズかシビアかの判断は瞬時にできる。定期的に確認したり、現預金の残高を合わせたりしておかないと、全てが後の祭りになってしまう。

ましてや、目標バランスシートで期末の現預金の額が想定されていれば、売上利益計画が大幅に狂わない限り、予算と実績の差は数%以内に納まってくる。会社も社員の人生を守ることも社長の責任なのである。

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