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第3章CHROは経営者たれ ラム・チャラン経営アドバイザードミニク・バートンマッキンゼー・アンド・カンパニーグローバルマネージングディレクターデニス・ケアリーコーン・フェリー副会長

目次

第3章CHROは経営者たれ ラム・チャラン経営アドバイザードミニク・バートンマッキンゼー・アンド・カンパニーグローバルマネージングディレクターデニス・ケアリーコーン・フェリー副会長

企業の成功は人材にかかっているCEOとCHROとの新たな契約3頭体制(G3)を築く定期会合でG3の効果を高める人事畑のリーダーを育てる新しい人事慣行への移行

第3章CHROは経営者たれ ラム・チャラン経営アドバイザードミニク・バートンマッキンゼー・アンド・カンパニーグローバルマネージングディレクターデニス・ケアリーコーン・フェリー副会長

企業の成功は人材にかかっている

世のCEOたちは、成功は人材にかかっていることを心得ている。

価値を生み出すのは、事業ではなく人材なのである。

しかし、大多数の企業の内側をのぞくと、CEOは、CHRO(最高人事責任者)や人事職能全般と距離があり、往々にして彼らに不満を抱いている、という実情が見えてくる。

マッキンゼー・アンド・カンパニーとカンファレンス・ボードの調査では毎回、世界中のCEOが人的資本を最大の課題と見なす一方、社内の全職能を重要な順に並べると人事は8ないし9番目にすぎないと考えている、という結果が出る。

このままではいけない。

人事部門はいまこそ、過去数十年における財務部門と同じような飛躍を遂げて、CEOの真のパートナーにならなくてはいけない。

CFOが資金を調達、配分してCEOの采配を助けるように、CHROは人材、特に核となる人材を育成、配置し、組織の活力や熱意を引き出すことによって、CEOを補佐すべきである。

そして、人的資本のマネジメントは、財務資本のマネジメントが1980年代に獲得したのと同等の優先度を与えられるべきだ。

80年代といえば、「スーパーCFO」の時代、そして競争力向上を目的とした大がかりなリストラクチャリングが幕を開けた頃である。

CEOはCHROについて、「管理業務に忙殺されて他の仕事がおろそかになっている」「事業を理解していない」といった不満をこぼすかもしれない。

しかし、ここではっきりさせたい点がある。

人事部門の重要度を引き上げて、CHROを自身の戦略パートナーにするうえでの障害を取り除くのは、CEOの役割なのだ。

財務職能に単なる経理・会計に留まらない重要性を持たせたのは、突き詰めればCEOである。

営業に特化した部門の役割を拡大してマーケティング職能を生み出したのも、やはりCEOである。

人事職能の地位を引き上げるには、CHROの仕事の中身、つまり契約内容を刷新して、CEO、CFO、CHROの3者で構成する「G3」という新たな仕組みを取り入れる必要がある。

こうするとCHROも、CFOに引けを取らないほどの付加価値を生むようになるだろう。

既定方針を実行するための支援要員ではなく、全社的な意思決定の中心人物という位置付けになり、その役割を十分にこなせるようになっているはずだ。

これらの変化を受けて、人事畑の幹部、さらには社内各部門のリーダーのキャリアパスにも重要な変更が生じるだろう。

しかも、財務資源に加えて人的資源のマネジメントが向上すると、事業に恩恵が及ぶと考えられる。

こう自信を持って述べることができるのは、ゼネラル・エレクトリック、ブラックロック、タタ・コミュニケーションズ・グループ、マーシュなど、人材マネジメントに熱心に取り組む企業と仕事をした経験による。

CEOとCHROとの新たな契約CFOの仕事の中身は、投資コミュニティ、取締役会、社外監査役、規制当局によって定められる面もある。

他方、CHROの役割を決めるのは、もっぱらCEOである。

CEOは、CHROが果たすべき多大な貢献の中身をはっきり思い描き、それを具体的に、歯切れよく説明しなくてはならない。

何が適切な行動と望ましい成果であるかについて、CEOとCHROの認識を一致させるには、文書にまとめるのが確実な方法である。

CHROの責務を見直す手始めとして、CEOは経営チームや取締役会の主要メンバー、特に報酬委員会(「人材・報酬委員会」という呼称のほうが望ましい)と協議して、理想的なCHROへの期待内容を尋ねるべきである。

模範的なCHROは、通常の人事関連業務、すなわち従業員の満足度、仕事への熱意、福利厚生と報酬、多様性などの監督を行うほかに、何をすべきだろうか。

筆者らが重視するのは、①結果の予測、②問題の原因究明、③事業価値の向上につながる施策の指示である。

この一部は、CHROの一般的な責務だと思えるかもしれないが、現実にはあまり実践されておらず、CEOの大多数を落胆させている。

結果の予測CEOとCFOは、3カ年計画と年次予算を策定するのが通例である。

CHROには、人事分野の知識をもとに予算目標の達成可能性を見極める力が求められる。

たとえば、主力チームやリーダーが外部環境の急変に時機を逃さず対応したり、チームメンバーが足並みを揃えたりする見込みはどの程度か、といった問題意識を持ち、自身の見解を示すべきなのだ。

企業業績は、適材適所が実現しているかどうかに大きく左右されるため、CHROが、個々の職務をこなすのに必要な要件を具体的に示し、配置された人材がその要件を満たしているかどうかを現実的な視点で評価すれば、業績向上に多大な貢献ができるだろう。

影響力の大きい職務に関しては格別の注意を払う必要がある。

人事プロセスにおいては、全従業員を同じように扱う例が多いが、筆者らの見解では、事業においては2%の人材が影響力全体の98%を占めている。

コーチングは、潜在力の発揮を妨げる1〜2の要因に的を絞った場合などは、有効かもしれないが、効果には限界がある。

職務と人材のミスマッチを克服する方法はないのだ。

リーダーの資質が職務に求められる要件と大きく食い違っていると、リーダー本人、上司、同僚、部下にとって不幸である。

このため、深刻な悪影響が生じる前にCHROが指導力を発揮して、不適切な行動や技能不足をあぶり出さなくてはならない。

これは、全体の2%を占める影響力の大きい人材についてはとりわけ重要であるし、職務要件が変更になった場合にも必要となる。

加えて、CHROはCFOとともに、主な業績指標、人材配置、予算が、望ましい成果を上げるうえで適切なものかどうか、熟考すべきである。

また、必要なら新しい指標を考案すべきだ。

財務情報は測定しやすいため、業績インセンティブや評価尺度として最も一般的だが、CHROはこれに代わるものを提案してもよいだろう。

職務の重要性と遂行状況を組み合わせて会社への貢献価値を割り出し、その大きさに応じて報酬を支払うのが望ましい。

財務部門と人事部門が協力して、どれくらいの価値を期待するかを、定性的要因と定量的要因の両方をもとに事前に決めておくべきである。

財務と人事のトップが、ある事業部長について検討する場面を想像してほしい。

彼らは、競争を制して他社より高い業績を上げるには、その事業部長に何をしてもらう必要があるかについて、CEO、グループエグゼクティブとも連絡を取りながら、理解を深めようとしている。

たとえば、デジタル化を加速するには、チームの再編と資金配分の変更、どちらが必要だろうか。

外部からの重圧や事業機会にどれくらい順応しているか、会社が傾いた場合にどれくらい逆境への強さを発揮できそうか、デジタル化をどれくらい迅速に進められそうかなどを見極めれば、事業部長の業績を予想できる。

これら諸点に関して具体的な評価尺度を設ければよいだろう。

別の事例も紹介したい。

マーケティング部門長は、広告に予測データを活用する手腕を身につける必要があるかもしれない。

CFOとCHROは、仮にその人物がデータ分析の基礎を徹底的に研究するのを怠り、専門性を備えた人材を速やかに雇わなかったなら、新たなライバルが参入して自社の価値を損なうだろう、と認識しておくべきである。

評価尺度は、どれくらい速やかに部門の方向性を改めているかを、反映したものでなくてはならない。

「マーケティング部門長は、いつまでにどのような採用手順を踏むべきか」など、人材採用プランに焦点を当てた評価尺度も必要だろう。

これらは、その時々のマイルストーンになる。

予算配分に関する評価尺度もありうる。

「新規採用者が組織に馴染んだ後は、マーケティング予算の配分を改めているか」「新たに配分した予算は、対象セグメントの売上げ、利益率、市場シェア、あるいはブランド認知度の向上に実際に寄与しているだろうか」。

これらの効果は、表れるまでにある程度の時間を要するが、測定は可能である。

CHROは、競争に関しても有意義な予測ができなくてはならない。

将軍がいかなる場合も敵情を探るのと同様に、CHROは競合他社についての情報を集め、自社と敵方の主な意思決定者、戦略実行者を比較すべきである。

また、競合他社の人事関連の変化(インセンティブ制度の改変、離職率の上昇、新規採用をしている分野など)がどういった影響を生みそうか、それらの変化から市場での敵の動きについて何が読み取れるか、といった予測もすべきである。

たとえば、アップルは2014年に、医療技術分野の人材の採用に乗り出した。

これは、AppleWatchをはじめとする製品の医療分野への応用を、積極的に推進するかもしれないという、早期に表れた兆候だった。

アップルがそのような動きに出れば、ヘルスケア業界、医療機器メーカー、病院に何らかの影響が及ぶかもしれない。

同じく、競合他社が組織再編やリーダー層の配置替えを行ったなら、特定の製品分野に重点を絞った可能性があり、自社にとっては脅威になるかもしれない。

競合他社に関する情報は、ヘッドハンター、メディアや報道関係者、他社から転職してきた人材、サプライヤー、顧客の顧客などを通して得られる場合が多い。

さらには、「マーケティング担当のバイスプレジデントは、人材を重視せず、数字ばかり気にかけている」「コストに大鉈を振るうだけで、事業を育てることはできない」「あの会社で新規事業部のトップに抜擢されたのは、高成長企業からの転職者だ」といったエピソードや裏話も、予測の向上に役立つ。

一例を挙げれば、モトローラは、アップルによる技術者の引き抜きが始まった時点でCHROがCEOに警鐘を鳴らしていたなら、iPhoneの登場を予見できたかもしれない。

CHROは、既存のライバル企業だけでなく、従来とは異なるタイプの企業による新規参入にも目配りしながら、部門と部門、チームとチームリーダーとリーダーを比較すべきである。

「X社でヘアケア部門のトップに就任した人物は、我が社の新任部門長よりも経験や熱意があるだろうか」「Y社でワイヤレスセンサーを開発するチームは、我々よりも協働が得意だろうか」。

このような問題意識を持つと、将来の業績を決定付ける動向の予測に役立つだろう。

問題の原因究明CHROは、組織の成果が上がらない原因、あるいは目標を下回っている原因を正しく見極めるべき立場にある。

CEOは、CHROに分析を依頼する術を習得し、むやみにコンサルタントを雇うのは避けなくてはならない。

問題のほとんどは人に起因するものであるから、CHROはCEO、CFOと協力しながら、原因究明を進めるべきである。

金利低下や為替変動といったわかり切った原因以外にまで踏み込み、数字の裏にある人々の仕事の仕方、協働の仕方にも目を向けるのだ。

原因究明を誤らなければ、適切な対処法を示すことができ、優れた判断をしたのに運に恵まれなかった人々を更迭するという浅慮を避けられるだろう。

景気が低迷して業績が前年割れになった場合は、「リーダーはこの状況にどう対応したのか」という問題意識を持つべきである。

手をこまねいていたのか、それとも攻勢に出たのか。

競合他社の動きや外部環境の変化に対して、どれくらい速やかに動いたか。

このような問いを通してCHROは、そもそもリーダーが適任ではないのか、それとも、適材ではあるが落ち度があったのかという、重要な点の見極めに寄与できる。

このような局面でCHROは、どれくらい逆境に強いかなど、従来は知らなかったリーダーの一面を知ることもできる。

このような情報は、今後の処遇を検討する際に役立つだろう。

ただし、個々のリーダーに注目するだけでは十分ではない。

CHROはまた、ボトルネックや不必要な摩擦を生み出す活動がないか常日頃から注意を払い、関連し合う部署や人材の仕事の仕方を専門的な立場から分析すべきなのである。

あるCEOが、主力製品ラインの業績数値を吟味していると、市場シェアと利益が3年連続で減少している事実が見えてきた。

形勢逆転の切り札として期待のかかる医療診断機器は、発売準備がいまだ整っていなかった。

CEOとCHROが状況を探ったところ、ミルウォーキーを拠点とするマーケティングチームと、フランスのR&Dチームとの間で、製品仕様についての合意ができていないことがわかった。

2人はただちに、この問題の解決に向けて、当事者を集めた会議を数回にわたって開く予定を立てた。

CHROが原因を探ったうえで問題を提起すれば極めて有意義だが、組織は往々にしてそのような風通しのよさに欠ける。

情報を囲い込む、意見を述べず行動も取らない、それとなく同僚のじゃまをするといった行いは、往々にして見落とされる。

CEOの中にも直属の部下同士の対立から目を逸らす人がおり、そのせいで組織全体の熱意を削ぎ、優柔不断を蔓延させてしまう。

たとえば、各部門がタコツボ化して協働を怠ったなら、コスト削減、予算配分の変更、管理などをどれほど行っても、組織の劣化は食い止められないだろう。

このため、組織内の関係性の機能不全をあぶり出すCHROは、極めて貴重な存在だといえる。

CHROは合わせて、熱意や活力を生み出す人材を社内で探し、育てるべきである。

そのような人材は、結果を出す責任をみずから負うかどうかにかかわらず、問題の核心に迫り、発想を見直し、人と人との非公式なつながりを生み出して協働を促す。

そして一般に、組織の健全性と生産性を高める。

彼らは、価値創造の隠れた立役者かもしれない。

事業価値の向上につながる施策の指示俊敏な企業は、従来通りの予算配分(昨年度と同額あるいは5%以内の増減)を踏襲するのが当然だという、よくある圧力に負けずに、事業機会の見込まれる分野に厚く資金を割り当てる必要性を認識している。

マッキンゼー・アンド・カンパニーが1600社超の米国企業について、15年に及ぶ予算配分を調べたところ、その時々で大胆に配分を変えた企業(調査対象期間に資金の56%超について事業部をまたがって再配分した企業)は、予算配分の変動率が低い企業よりも、株主総利回りが平均で30%も高かったという。

人的資本についても、同様に柔軟に配置転換をすべきであり、CHROは人材の価値を引き出したり創造したりする取り組みを推奨できるよう、備えておくのが望ましい。

具体策としては、隠れた才能に目を留めて「将来性のある人材」リストに載せる、新規市場での事業成長に拍車をかける狙いで他部門の人材を投入する、新技術の専門性を培う目的で外部から人材を採用するなどが考えられる。

資本の再配分も重要ではあるが、それに合わせて人材を再配置してこそ、真の業績向上が実現するのだ。

今日の外部環境に対応するには、リーダーにはアルゴリズムの知識、デジタル化や急速な変化への心理的な慣れなど、以前は養う機会のなかった能力が求められる場合がある。

そのような能力を持つ人材は、組織階層の下のほうに埋もれている可能性もある。

彼らを十分に活かすには、従来のような緩やかな足取りで昇進させるのはなく、いっきに3〜4ランク引き上げる必要があるかもしれない。

CHROは、将来的に価値創造を担いそうな人材を探し、彼らの能力を開花させる方法を想像力を駆使して考えるべきである。

CFOが数字の裏を読むのを得意とするのと同じく、CHROには人材を品定めする鋭い目が求められる。

ダウ・ケミカルは、従来の長期的なR&D活動に加えてサイクルの短いイノベーションを増やすには、ミレニアル世代(2000年以降に成人した世代)の起業家精神あふれる人材を積極採用するのが、最も即効性のある方法だと気づいた。

全社員に占める30歳未満の比率は、2004年から2014年にかけて9%から15%へと増加した。

さらに、新たな人材を活かす狙いでキャリアパスを見直して、20代や30代の人材に早めに大きな仕事を経験させるとともに、グローバル規模のリーダー会議に出席させる時期を前倒しした。

人材の価値を解き放つもう一つの方法として、短所を補ったり、能力を向上させたりするための具体策を提案するとよい。

配置転換、助言委員会の設置、特定のスキル向上を助ける指南役の指名などが考えられる。

たとえば、著名ベンチャーキャピタリストのジョン・ドーアは、自身が出資する小規模なスタートアップ企業の技術力を高めるために、豊富な人脈を駆使して、スタートアップの経営者たちをベル研究所の超一流研究者に引き合わせた。

CHROも同様に、他社のCHROとの伝手をもっとうまく使って、能力向上に寄与しそうな人々を社員に紹介してはどうだろう。

CHROにとっては、成長の加速や多数のPLリーダー(損益に責任を負うリーダー)の育成を目的として、事業部を複数のサブグループに分けることを推奨するのも一案である。

国別事業部や大規模事業部のリーダーを採用する際に、特定のスキルを持った人材を探すよう指示する例もあるだろう。

人間関係の質、信頼と協働の水準、胆力など、社会や組織を動かす力の向上を重視する手もある。

たとえば、行動からフィードバックまでの期間を短縮すると、モチベーションが高まり業務運営に好ましい効果が及ぶため、CHROは事業部と協力して業績評価を年1回から月1回に増やすとよい。

要求対象外の事項CHROと新たに雇用契約を結ぶ際には、予測、問題の原因究明、事業価値の向上につながる施策の指示などに関して、期待内容を明確にするとともに、要求対象外の事項をも示すべきである。

こうするとメリハリがついて時間に余裕が生まれ、高い水準の仕事ができる。

たとえば、一部の企業がすでに行っているように、人事部の仕事のうち契約関連や総務、福利厚生などを切り出して、別の部門や担当に割り当ててもよいだろう。

CFOの責任下に移すのも一案である。

ネットフリックスは、伝統的に人事部が担ってきた通常業務や手続きを財務部の管轄下に置き、人事部の役割を採用と研修だけに絞り込んでいる。

最近では、人事、財務、IT各部門の事務管理をまとめて担う組織を設ける例も生まれている。

この種の組織は、CFOの管轄下に置かれるとは限らない。

報酬は従来、CHROの管轄事項であったが、CFOがソーシャルエンジンの機微を理解しにくいのと同様、CHROにとっては事業リーダーが直面する具体的な課題を理解するのは難しいかもしれない。

報酬は従業員の行動や会社の俊敏性にとてつもなく大きな影響を及ぼすため、CEOとCFOも関与して決めるのが最も確かなやり方だろう。

CHROが中心的な役割を果たしてもよいが、報酬内容は、CEOとCFOを加えた3者で決めるべきである。

機関投資家が物を言う傾向が強まる現状に鑑みるなら、取締役会にも関与を求めるのが望ましい。

CHROの適性CEOは新任CHROの指名に際して、現状では職務要件をどれくらい満たしているか、3年後はどの程度の水準に達している必要があるか、判断すべきである。

CHROの大半は人事畑の出身である。

事業部門の経験者も皆無ではないが少数派にすぎない。

コーン・フェリーの調査によると、フォーチュン100のCHROのうち、就任前に人事以外の分野で十分な経験を経た人の割合は40%にすぎないという。

これでは、業績向上につながる行動を予測、分析、指示するうえで十分とはいえないかもしれない。

しかし、幅広い議論に参加させれば、事業理解が増すだろう。

CEOは、新たな役割に挑戦する機会をCHROに与え、四半期ごとにその成長の度合いを見極めるべきである。

CHROの業績評価はかねてから難しい問題だった。

人事部門のリーダーたちは一般に、予算内で新しい手順を導入する、適所から目標人数を採用する、勤続率や仕事への熱意を高めるといった成果をもとに、評価されている。

ところが、これらの取り組みは価値創造には直結しない。

人事部門をコストセンターから価値創造型の組織へと改造するのであれば、それに合わせて、売上げ、利益率、ブランド認知度、市場シェアに密接に関連する成果をもとに、業績を評価すべきである。

この関連性は高ければ高いほどよい。

CHROが付加価値を生む方法はいくつもある。

逸材をこれまでとは別の上司の配下に置いて、より優れた成果を引き出す。

重要なスキルを伸ばすためにコーチングを手配する。

社外の人材を引き抜いて中枢ポストに就ける。

売上げまたは利益を増やすために、2〜3人を集めて新しい事業や施策を立ち上げる。

ある事業部長が2年後の課題に対処できそうもないため、更迭して別の人材を充てる。

協働が必要な分野での摩擦に気づき、それを解消する——。

これらの取り組み

は、観察と検証が可能であり、全社の業績数値と密接に関連する。

具体例を紹介したい。

ある大企業で、古参のエグゼクティブバイスプレジデントに代えて、前途有望な若手リーダーに3つの事業部を任せたところ、業績が上向いた。

成長志向でデジタル分野に詳しい新任エグゼクティブバイスプレジデントは、技術と生産における3事業部の共通性に着目して、製品開発期間を半分近くも短縮した。

3年後、これらの事業部は競合他社を追い抜いて業界首位になった。

3頭体制(G3)を築くCHROを真のパートナーにするために、CEOはCFO、CHROとの3頭体制(G3)を設けるべきである。

これこそが、財務数値とそれを生み出す人材とを結び付ける、最善の方法である。

加えて、「人事部を中枢組織として位置付け、CHROをCFOと肩を並べる要職に引き上げる」という合図を社内に送ることになる。

一部には、CHROをCTO(最高技術責任者)やCRO(最高リスク責任者)と同格にする企業もあるだろう。

しかし、全社の舵取りはG3が核となって担うべきであり、3人だけの会合を持つのが望ましい。

G3は、業務運営にひたすら邁進するのではなく、将来に目を向け、大局観を持つことにより、社運を左右するほか、業務執行上の問題をあぶり出して会社が軌道を外れないようにするだろう。

業績向上に適した組織づくりもG3の役割である。

保険仲介とリスクマネジメントの世界的リーダー企業、マーシュのCEO、ピーター・ザフィーノは、CFOのコートニー・ライムクーラー、CHROのメアリー・アン・エリオットと、膝詰めの会合を頻繁に持つ。

2015年4月には、期待通りの業績を達成するのに適した組織体制ができているかを見極める目的で、3者会談を持った。

会談の冒頭では、ある事業をテーマに選び、ノートの白紙ページに縦線を引いた。

線の右側はライムクーラーの担当する財務業績、左側はエリオットが担当する組織体制の領域とした。

真ん中に横線を引いて、その上部には好材料、下部には悪材料を書き入れることとした。

「4つのマスすべてをピーターが埋めてもよかったのですが、3人で力を合わせて作業をすることにより、大きな付加価値が生まれました」とエリオットが語ると、ザフィーノがこう言い添えた。

「会談は15分くらいで終わりました。

図表を埋めるのは、非常に貴重な経験でした。

我々はすでに、規律ある事業運営を実践しています。

四半期ごとに財務業績を精査し、人的資本についても四半期ごとに査定をしています。

ですから、このうえさらに事業マネジメントの評価プロセスを追加導入するつもりでいるなどとは、傍からは想像しにくいかもしれません。

ところが、このG3の仕組みは、役所的な仕事を増やさずに事業の実情をあぶり出す、素晴らしいレンズの役割を果たすのです」3人は、出所の異なるデータを、協力して一つのフリップチャートにまとめ上げ、今後4〜8四半期の業績見通しを支える組織面の長所と短所を列挙した。

組織のあり方と業績の関連性がおのずと浮き彫りになり、対話によって大きな価値が生まれた。

ザフィーノの言葉を引きたい。

「私どもは常々、業績の陰にある要因を深掘りしています。

その際には、横方向ではなく縦方向へと探索を進めていきます。

そうすると、業績向上に実際に寄与している組織要因に行き当たる可能性があるのです」ザフィーノは一例として、人事部が推進する新営業プランの導入を挙げた。

彼の関心事は、報酬に見合った成果が出るようにして、「営業報酬額と事業全体の業績との連動性を保つこと」だという。

「売上げが伸びても、事業に再投資して収益性を高める方法がわからないようでは、まずいと思うのです」。

CHROは自身の立場からこの問題をじっくり考えていた。

「この営業プランは望ましい行動へのモチベーションを高め、業績を『好調』の部類へと持っていくことができるだろうか」と自問自答したのである。

3人はまた、相関に着目することによって、何が最も重要であるかの見極めをつけた。

ライムクーラーは、「改善したい点をすべて列挙するのはわけもありません。

ところが、どこから始めたらよいかは容易にはわかりません。

組織面で何が業績向上の真因であるかがつかめると、優先順位をつけやすくなります」と言う。

たとえば、地域別の事業責任者の配転をどうするかは人事部にとって大きな問題であり、その難しさゆえに、ともすれば先延ばしされていた。

その先延ばしによる業績停滞の度合いが見えてくると、「何とかしなくてはいけない」という危機感が募った。

エリオットの説明はこうである。

「人事の分野では、『事業を理解してそれに寄り添おう』を合言葉にしています。

G3会合は実際に役立ちます。

CEO、CFOとの会合では、人事理論を持ち出す余地などありません。

業績を高めるために組織は何をしなくてはならないか、主な変動要因をどう整合させるかが、すべてなのです」ライムクーラーが補足する。

「少人数で会う利点について述べておくべきでしょう。

この種の議論は、経営委員が一堂に会した場、つまり当社の場合は10人が集まった場で行うのはふさわしくありません。

いずれにせよ、少人数と多人数の会議は二者択一ではなく、それぞれ利点があるのです」。

ザフィーノの弁はこうだ。

「これは、全体像を効率的につかむ方法です。

初回のG3会合を終えた後、私たちはおのおの、『組織と事業の壁が取り払われ、事業を十分に掌握できている』という納得感とともにその場を後にしました」タタ・コミュニケーションズ・グループのCEO、ビノット・クマールも、非公式なG3を築いて活用している。

同社は通信、コンピューティング、協働のインフラを大手グローバル企業向けに提供しており、顧客には数多くの固定・携帯通信会社も含まれる。

2012年には価格が15〜20%ほど下落し、破壊的技術が次々と登場した。

タタ・コミュニケーションズ・グループが競争に取り残されないためには、速やかな事業変革が求められていた。

そこで、少なくとも短期的には社外から人材を採用して、重要なケイパビリティを獲得しなくてはならないと思われた。

これではコストの上昇に火に油を注ぎかねなかった。

どこかで妥協する必要があった。

クマールはCFO(当時)のサンジャイ・バウェジャとCHROのアーデシュ・ゴヤールに協力を求め、財務と人事、両方を考慮しながら前進に向けた道筋を描くことにした。

こうしてG3が頻繁に集まって討議した結果、会社の新しい方向性にそぐわないポストや余剰ポストを再編し、適切な地域に人員を配置する、という合意に至った。

これによる人件費の節減幅は7%と見込まれた。

浮いた人件費の使途は、セールス、マーケティング、テクノロジーなど、必要なケイパビリティを、主に新規採用によって獲得することとされた。

G3は次に、長期的な変化への対応策を練った。

2013年末には、生産性のたゆみない向上を目指して全社的な取り組みを始めた。

当初の目標は1億ドルのコスト削減だったが、大本の狙いは新たな組織文化の種を蒔くことだった。

G3はまず、職能横断的なチームを設けて、本来業務と兼務する形でメンバーを集めた。

最終的には500人以上が参加して50分野のアイデアを検討し、当初目標を上回るコスト削減を達成した。

端的に述べるなら、プロジェクトは大成功を収め、現在も成果を出している。

タタ・コミュニケーションズ・グループにおいては今日、CEO、CHRO、CFO3者による公式、非公式の対話はすっかり定着している。

やがて、CHROであるゴヤールの事業掌握力の高さが明白になり、クマールは果敢な決断をした。

ゴヤールに、CHROの職務に加えて成長株の子会社の経営を委ね、新規事業分野の投資・育成機会を探るイノベーション委員会のメンバーにも指名したのである。

定期会合でG3の効果を高めるG3の効果を引き出すには、CEOは定期的に会合を招集しなくてはならない。

週次の状況確認CEO、CFO、CHROは週に一度のペースで会合を持ち、ソーシャルエンジンの状況に関する社内外からの早期の警戒シグナルを議論すべきである。

3者が異なるレンズを通して事態を眺め、見解を出し合えば、状況をより正確に把握できるだろう。

額を突き合わせる必要はなく、テレビ会議や電話会議でもかまわないが、頻繁に会合を開くことが大切である。

規則正しく実施すれば、6週間ほど経過した後は、1回当たり15〜20分で済むだろう。

会合ではCEOが雰囲気づくりをして、調和の取れた議論がなされるよう配慮し、知的な誠実さを絶対条件にしなくてはならない。

当然ながら、CFOとCHROは政治的な中立性を保って信頼を築くべきであり、誠実さを犠牲にしてCEOのイエスマンに成り下がるようなことがあってはならない。

みずからすすんで率直な発言をすることが求められる。

次第に、互いの考え方への理解が深まり、臨機応変な議論ができるようになり、3人とも事業の奥深さについて多くを学ぶだろう。

互いの先入観を改めることへの抵抗感が減り、人々の胸中を察する術に長け、適材適所を実現しやすくなるだろう。

月次で将来予測をするG3は月に2〜3時間を費やして、4〜8四半期先までの予測を立てるべきである。

その際には、以下のような問いを念頭に置くとよい。

目標達成を妨げる人材関連の問題は何か。

個人絡みの問題はあるだろうか。

協働に関わる問題はあるか。

競争状況を把握できていない上級幹部はいるだろうか。

退職しそうな人物はいるだろうか。

業績レビュー、つまり振り返りは少なくとも四半期に一度は行うはずである。

他方、本稿で扱うのは予測や原因究明であり、業績数値だけでなく人事についても先行きを読もうとする。

というのも、失敗したり、機会を逃したりする原因は、たいていは人にあるのだ。

組織上の問題、エネルギーの消耗、組織間——特に

上位2階層における組織間——の軋轢などがあるかもしれない。

マトリックス組織には軋轢が付き物である。

G3は、どこに軋轢があるか、軋轢が新規施策の進捗に影響するかどうか、リーダーはどう軋轢に対処しているかを、把握しておかなければならない。

このような探究は、マイクロマネジメントや犯人捜しとは違う。

むしろ、良い業績と悪い業績、両方の真因を探り、是正措置を迅速に、あるいは予防的に取るための手段なのである。

3年分のプランニング3年後の目標を立てて、新規プロジェクトと設備投資先を決めることは、一般的に行われているが、そこからは往々にして、人事関連の問題意識が抜け落ちている。

目標達成に必要なスキル、訓練経験、気質などを持った人材はいるだろうか。

既存の人材は、変わりゆく環境への順応力を備えているだろうか。

戦略立案においてはたいてい、組織内の重要な人材や競合他社の人材は、いっさい考慮されない。

戦略よりも先に、人材について議論すべきである(ゼネラル・エレクトリックはこれを実践していることで知られる)。

従業員はどのような能力を備え、どういった助けを必要としているだろうか。

彼らは超一流の人材だろうか。

ある企業のCEOとCHROは、影響力の大きなポジションが空いた場合、社内から3人、社外から2人、合計5人の候補者を挙げる決まりを設けた。

人材は常に、幅広い文脈の中で観察すべきである。

誰が優れた手腕を発揮しているか、解雇されようとしているか、他社に引き抜かれようとしているかなど、自社やライバルの競争力に影響しそうな情報を考慮するのだ。

人事畑のリーダーを育てる一部のCEOは、人事分野のリーダーの事業判断や人物鑑識眼を十分に信頼せず、CHROを取り立てることに二の足を踏むかもしれない。

「人事部長は、採用、解雇、給与、福利厚生といった問題しか、議論する備えがない」という不安がある。

このような躊躇に対処するために、CHROに十分な習熟機会を与えなくてはならない。

G3会合を通して事業課題に接する機会を増やすとともに、コーチングを行うことである。

知識やスキルの不足がなかなか解消されないようなら、どう解消するつもりかをCHRO本人に聞くとよい。

すると底力を見せる人もいるだろうが、期待に応えない人も出てくる。

最初のうちは、後釜を探そうにも適任者は少ないかもしれない(1980年代に、財務畑の人材の中からCFOの適任者を探す際にも、同じような議論がなされた)。

定番の解決策は、人事畑のリーダーに事業知識を、そして事業リーダーに人事関連の知識を身につけさせるために、新しいキャリアパスを設けることである。

人事分野か否かを問わず、最下層のリーダー全員に、人材の評価、採用、コーチングに関する厳しい訓練を受けさせるべきである。

そして人事分野のリーダーに就くに際しては、マッキンゼー・アンド・カンパニーがすべての新規採用者に要求するのと同じような、事業分析の綿密な訓練を受けさせるべきである。

一貫して人事畑を歩んでリーダーになる、というキャリアパスはあってはならない。

CHROを目指す人々は、いずれかの時点で事業ラインの仕事を経験し、人材と予算、両方のマネジメントを経験すべきである。

経営トップの座をうかがうリーダーは全員、人事と事業、両部門のポストを行き来するのが望ましい。

人材を社内の上位3階層に取り立てるに当たっては、人事分野のリーダーとして優れた手腕を示したことを条件付け、ほどなく人材マネジメントの役割を担わせよう。

これをただの通過儀礼にしてはいけない。

人事のセンスがない人は、経営上層部で長く成果を上げ続ける可能性は小さいだろう。

新しい人事慣行への移行「差別化に基づく競争優位を持続させるカギは、結局のところ人材である」という考えに納得したCEOは皆、人事職能の刷新と地位向上を真剣に検討しなくてはいけない。

CFOとCHROを結束させる仕組みをつくると、事業に好影響が及び、CEO個人の手腕も高まる。

とはいえ、一朝一夕に実現するものではない。

これだけ大きな変革を成し遂げるには、少なくとも3年は必要だと考えられる。

手始めに、CHROと人事職能への期待内容を刷新し、文書で示すとよいだろう。

続いて、事業と人事についての知見を融合する方法を生み出すのが望ましい。

キャリアパスと人事評価を改めると、会社のさらなる飛躍につながるだろう。

ただし、これらを実現するうえでは、CEO自身がこのような課題を尊重し、3年分の誓いを立て、実行に移すことが欠かせない。

 

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