第7章社員の成長につながる人事評価システムをつくる マーカス・バッキンガムザ・マーカス・バッキンガム・カンパニー創業者アシュリー・グッドールデロイト・サービスダイレクター
今後の業績に焦点を当てた方法業績管理に年間200万時間もかけていたと判明「評価者特異効果」による評点の難しさ高業績チームに共通する特徴とは業績を見るための4つの質問第3の目的最後の課題は透明性
第7章社員の成長につながる人事評価システムをつくる マーカス・バッキンガムザ・マーカス・バッキンガム・カンパニー創業者アシュリー・グッドールデロイト・サービスダイレクター
今後の業績に焦点を当てた方法筆者らは現在、デロイトにおいて業績管理システムを再設計している。
そう聞いても驚く人は少ないだろう。
他の多くの企業と同様、社員の仕事ぶりを評価するいまのやり方——ひいては、それをもとにした研修、昇進、報酬の決め方——は、次第に本来の目的からずれてきているからだ。
デロイトが最近実施したアンケート調査によると、回答した企業幹部の半数以上(58%)は、現在の業績管理のやり方が、従業員エンゲージメントの向上にも、高業績の達成にも役立っていないと考えている。
彼らに、そして筆者らにも必要なのは、より俊敏でリアルタイムに実行でき、もっと個々人に合わせた何か——過去の業績を評価するというよりも、今後の業績にしっかりと焦点を当てた何らかの方法である。
ところで、この新しい業績管理システムに筆者らが「何を含め、何を含めない」つもりかを聞けば、驚く人は多いかもしれない。
この業績管理システムには連鎖目標(cascadingobjectives)も年次評価も360度評価のツールも含まれない。
筆者らがたどり着いたのは、これまでの仕組みと大幅に異なり、はるかにシンプルな設計のものだ。
特徴としてはスピード、俊敏さ、個人ごとのカスタムメイド、そして常に学び続ける点が挙げられる。
さらに信頼性の高い業績データを収集する新方式が、このシステムを下支えする。
この新しいシステムは、筆者らのような人材開発ビジネスにとっても、いままでよりはるかに理にかなったものとなろう。
とはいえ、もし次の3つの証拠が揃わなければ、けっしてこの設計にたどり着くことはできなかっただろう。
その3つとは、ただの作業時間の計測、評点手法の見直し、そして自社組織に関する慎重に管理された調査、である。
業績管理に年間200万時間もかけていたと判明これまでデロイトが使ってきた業績管理システムは、多くの会社で使われているものと共通する特徴がおそらく何点かあるだろう。
デロイトでは年初、6万5000人を超える社員全員に目標を設定する。
一つのプロジェクトが終了すると、その社員がどれだけ目標に近づけたかをそれぞれの上司が評価する。
さらに上司は、その社員の優れている点とそうでない点についてもコメントする。
こうした評価を考慮して年末の最終的な評点を決めるのだが、それは〝カウンセラー〟たちの集団が何百人もの社員について同僚の立場から議論する〝コンセンサス会議〟を延々と経たのちに、やっと決まるのである。
社内調査によれば、デロイトの社員はこのやり方の予測がつく点を気に入っており、また誰の評価でも一人の〝カウンセラー〟が任命されるため、〝コンセンサス会議〟に自分の代理人がいる点も好評を得ている。
デロイト社員のほとんどはこの評価プロセスを公平だと考えている。
しかし筆者らはもはや、デロイトの新しいニーズを満たすには、このやり方が最高の設計だとは考えていない。
年に一度の目標設定では、リアルタイムの世界をあまりにも「くくり」すぎているし、年に一度の評点をつけるための対話は、概して実際の業務中に交わされる対話より価値が低い。
だが、変化の必要性が明確に見えてきたのは、さまざまなことを計測しようと決めてからだ。
具体的に言えば、デロイトが業績管理に何時間かけているのかを測ったのである。
その結果、用紙に記入し、会議を行い、評点を出すために、何と年間ほぼ200万時間を費やしていることが判明した。
この200万時間がどのように使われているのかを調べてみると、その多くは密室内でリーダーたちが評価作業の結果を話し合うことに費やされていたのだ。
何とかしてこの時間の使い方を変えることはできないだろうか。
リーダーが自分たちだけで評点の内容について話し合うことに時間をかけるのではなく、社員の働きぶりと今後のキャリアについて、社員と向き合って話し合うことに時間を割くように。
すなわち、焦点を過去から未来へと移せないだろうか——。
「評価者特異効果」による評点の難しさ筆者らの2つ目の発見は、誰かのスキルを評価すると矛盾するデータが生まれてしまうことだった。
たとえばあなたの「戦略的思考」を私が評価するとしよう。
どれだけ客観的に評価しようと努めても、〝私〟がどれだけ戦略的思考を行っているか、〝私〟にとって戦略的思考がどれだけ重要か、または評価者として〝私〟がどれほど厳しいか、などによって、〝あなた〟の戦略的思考への評価は大きく影響を受けることが判明している。
では、その影響力はどれほどなのか。
「評点とは本当のところ何を計測しているのか」についての最も包括的な研究は、マイケル・マウント、スティーブン・スカレン、メイナード・ゴフによって行われ、その結果は2000年に『応用心理学ジャーナル』に掲載された。
彼らの研究では4492人のマネジャーが一定の評価項目について上司2人、同僚2人、部下2人から評価された。
その結果、評点の分散の62%は、評価者の物の見方の特異性によって説明できることが判明した。
実際の業績の差異が反映されていたのは、評価結果のバラつきのうちわずか21%にすぎなかった。
この結果、3人の研究者は次のように結論した。
「評点とは評価される人の業績を測るものだという暗黙の了解があるが、実際に計測されている中身はそのほとんどが、評価者ごとに独特の評点傾向である。
したがって評点が明らかにするのは、評価される人についてというよりも、むしろ評価者についてなのである」(マニュエル・ロンドン編HowPeopleEvaluateOthersinOrganizationsより)。
この結果を見て筆者らは考え込んだ。
筆者らは個人レベルで業績を理解したいと考えており、それを最も的確に判断できる立場にいるのは直属のチームリーダーであると知っていた。
だが、チームリーダーが部下の業績をどう見ているかを捕捉する際に、はたして3人の研究者が「評価者特異効果」と名づけたものの影響を受けずにできるだろうか。
高業績チームに共通する特徴とはもう一点わかったことがある。
デロイトにおける〝ベストの中のベスト〟チームに共通する特徴は、彼らが自分たちの長所を最も重視していることだ。
こうしたベストチームのメンバーは、最高の仕事を毎日行うために自分が呼ばれたのだと感じている。
この発見は直感的判断に基づくものでもなければ、逸話や噂を収集して得られたわけでもない。
デロイト社内の高業績チームの実証的研究によって得られたのである。
筆者らの研究は過去の調査を土台にしている。
ギャラップは1990年代後半から、高業績チームの綿密な調査を何年もかけて行っており、最終的にこの調査は192の組織、5万を超えるチーム、140万人を超える従業員を対象としたものになった。
ギャラップは高業績チームとそうでないチームの両方を対象に、使命や目的、報酬やキャリア機会など数多くのテーマについて質問した。
そして高業績チームだけが「強く同意」した質問項目を選び出した。
ギャラップがこの調査を始めてすぐに気づいたのは、高業績チームとそうでないチームの差異のほぼすべては、非常に限られた数の質問項目によって説明できるという点だ。
最も違いが大きい質問項目は「職場では毎日、自分が最も得意とすることを行う機会が得られる」であった。
この質問項目に「強く同意する」とメンバーが答えている事業部は、顧客満足度で高得点を得ている確率が44%高く、従業員の離職率が低い確率が50%高く、生産性の高い確率が38%高かった。
筆者らは、これらの調査結果がデロイトにも当てはまるかどうか調べることにした。
最初に60の高業績チームを選び出した。
社内のあらゆる部署から1287人が選ばれたことになる。
また対照群(コントロールグループ)として、平均的な社員を1954人選んだ。
そして各チームの状態を計測するために6項目のアンケート調査を実施した。
結果が出揃ってみると、そのうち3項目がチームの高業績と強い相関関係があるとわかった。
その3項目とは「私の同僚たちは質の高い仕事をすると決意している」「会社の使命は私のやる気を引き出す」「私の長所を活かす機会が毎日ある」だ。
もちろん、3番目の項目が全社を通して最も効力があった。
こうした調査結果すべてが、新しい業績管理システムの設計によって我々が解決しようとしていた課題に注力するのに役立った。
筆者らは、目的と要求水準が非常に明快であるようなチームの一員として、デロイトの社員が自分の長所を活かせるよう手助けすることに、より多くの時間を割きたいと思っていた。
そして、信頼性のある差別化された業績データを収集する手っ取り早い方法がほしいと思っていた。
この点を念頭に置いて、作業に取りかかった。
業績を見るための4つの質問筆者らはまず、少なくともデロイトにおいて、業績管理の実際の目的が何なのかを、可能な限り明快に述べることから手をつけた。
新しい業績管理システムの3つの目的をきちんと文章化したのである。
第1番目はわかり切っている。
主に変動型報酬体系によって、業績を認めることができるようにするためだ。
現在使
われているシステムの大半はこれができる。
しかし個々の社員の業績を認めるためには、それがはっきりと見えるようにしなければいけない。
これが筆者らの2番目の目的となった。
さて、ここまで来た筆者らは2つの問題に直面する。
一つは「評価者特異効果」、一つは評価やプロジェクトの評点、コンセンサス会議、最終評点といった筆者らの伝統的プロセスを合理化する必要性である。
前者を解決するには、筆者らのやり方を微妙に変える必要がある。
一人のチームメンバーについてなるべく多くの人に意見を聞く(たとえば360度評価や部下による評価)のではなく、直属のチームリーダー一人だけに聞けばいいとわかったのだ——ただし、これが決定的に重要なのだが、聞くべき質問の種類を変える必要がある。
人は他人のスキルを評価させるとバラバラな評点をつけるかもしれないが、自分自身の感情や意思に対する評点は見事に首尾一貫している。
であれば、個人レベルの業績を見るためには、チームリーダーに各チームメンバーのスキルについて聞くのではなく、そのメンバーに関してチームリーダーが将来どうするつもりかを聞くことにしよう。
筆者らはプロジェクトが一つ終わるごとに(長期プロジェクトの場合は四半期ごとに)、チームリーダーに、各チームメンバーの今後に関する4つのステートメントに答えてもらうことにした。
何度もテストを重ねてステートメントの文言を改良した結果、いまではこれらステートメントがデロイトの個々の社員の差異をはっきりと際立たせ、信頼できる業績測定手法であるとわかっている。
その4つとは以下だ。
❶私が知る範囲でこの人物の業績から判断すると、もし私が決定権者であれば、報酬は増やせる限り最大限増やし、ボーナスも最大限を与えるでしょう。
(業績全般と組織に対する独自の価値提供を測る。
「強くそう思う」から「まったくそう思わない」まで5段階で採点)❷私が知る範囲でこの人物の業績から判断すると、常に自分のチームにいてほしいと思います。
(他者とうまく一緒に働ける能力を測る。
「強くそう思う」から「まったくそう思わない」まで5段階で採点)❸この人物は悲惨な業績となるおそれがある。
(「はい」か「いいえ」の回答形式により、顧客やチームに対して害となりかねない問題を見つけ出す)❹この人物は今日昇進してもおかしくない。
(「はい」か「いいえ」の回答形式により、潜在能力を測る)要するにチームリーダーに対して聞いているのは、各チームメンバーについてどう思うかではなく、今後その相手に自分が何をする気か、である。
こうしたデータ要素を1年以上にわたって収集し、各データをプロジェクトの長さに応じて加重していくことで、絶え間なく生み出される豊富なデータを得ることができた。
次はこれらデータをもとにして、後継者の育成やキャリアプラン、業績パターンの分析など、リーダーたちがどう応えるかを議論する番である。
四半期に一度、デロイトのリーダーたちは新しいデータを使い、目的ごとに選んだ社員の小グループ(たとえば昇進対象者とか非常に大事なスキルを持った人など)について評価を行い、それぞれの小グループをさらに伸ばすために、デロイトはどんな手を打てばいいかを議論できる。
このようにシンプルながらも強力なデータ要素を集計できたことで、「評点について議論」していた年間200万時間を「社員について議論」する時間へと変えられる可能性が見えてきた。
業績の確認作業ではなく、その業績に対して筆者らが何をすべきかを議論する作業へと変えられる可能性が生まれたのだ。
この安定した、しかも定量的なデータに加えて、報酬を決める際にはいくつかの定性的なデータ——たとえばその年に割り当てられたプロジェクトの難易度とか、公式なプロジェクト以外での組織への貢献など——も考慮に入れたいと考えている。
したがってこれらのデータは、報酬を決める終着点ではなく出発点として役立つことになる。
最終決定をするのは、対象となる社員を個人的に知っているリーダーか、もしくは筆者らの取り組みの全体像および数多くのデータ要素を同時に見ているリーダーたちの集団がすることになろう。
この新しい査定方法を〝評点〟と呼ぶこともできるが、生み出し方も使い方も従来の評点とはまったく似たところがない。
このやり方により、ある瞬間の業績を素早くとらえることができるようになるため、筆者らはこれを〝業績スナップ〟と呼ぶことにする。
第3の目的こうして筆者らの新しい業績管理システムの2つの目的ははっきりした。
すなわち筆者らは社員の業績をきちんと認めたいと考え、そのためには業績が明白に見えなければならない。
しかし筆者らの研究や業績管理に関するリーダーとの対話、社員からの反応をすべて考え合わせると、どうしても何かが足りないと確信せざるをえなかった。
業績管理とは、根っこの部分でもっと〝管理〟や〝業績〟に密接に関わるものではないのだろうか。
言い方を変えると、目の前にある業績を測り、認めることができるのは素晴らしいかもしれないが、それを改善できたらよりいっそう素晴らしいのではないだろうか。
こうして筆者らの第3の目的は業績を向上させること、になった。
そして〝業績スナップ〟が業績を測るための組織的ツールであるとすれば、今度はリーダーが部下の業績を強化するために使えるツールが必要となった。
最も優れたチームリーダーたちの取り組みを調べたところ、彼らは各チームメンバーにそれぞれの目先の仕事について定期的に聞き取りをしていることが判明した。
リーダーはこうした手短な会話を交わすことで、今後1週間の見込みを定め、優先順位を見直し、最近の仕事についてコメントし、部下に軌道修正やコーチングや大事な新しい情報を与えることができる。
こうした会話によって、各チームメンバーに何が期待されているか、その理由はなぜか、素晴らしい仕事とはどんなものか、今後数日で各自が最高の仕事をするにはどうすればいいか、といった点に関して明快になる。
換言すれば、これはデロイトのベストチームの特徴である「目的と期待と長所の三位一体」そのものである。
筆者らの新しい設計は、すべてのチームリーダーが週に1回、各チームメンバーに聞き取りをするよう求める。
こうした聞き取りはチームリーダーの仕事に加えるべきものではない。
これこそがチームリーダーの仕事そのものなのだ。
リーダーによる聞き取りの頻度が週1回より少なくなると、チームメンバーの優先順位は曖昧かつ壮大なものになり、リーダーは以前ほど助けにならない存在になる。
会話の内容は目先の仕事に対するコーチングから、過去の仕事に対する意見へと変わるだろう。
聞き取りの際の会話は、その頻度をじかに反映した内容になる。
近い将来に最高の仕事をする方法について誰かに話してほしいなら、頻繁に会話をする必要があるのである。
そしていままでの試運転の結果、こうした会話の頻度とチームメンバーのエンゲージメントとの間には、直接的かつ計測可能な相関関係があることを発見した。
非常に頻繁な聞き取り(徹底的に頻繁な聞き取り、と呼んでもいい)は、チームリーダーにとって非常に重要な、言わば〝キラーアプリ〟なのだ。
そうは言ってもチームリーダーは、限られた時間にやるべきことがたくさんある。
頻繁な聞き取りを確実にする最良の方法は、チームメンバーの側から聞き取りを始めさせることだとわかった。
彼らはたいがい、指導と注目を切望しているものだ。
こうした会話で双方を支援するため、新しいシステムでは個々のメンバーが自己評価ツールを使って自分の長所を探索して理解し、続いてその長所をチームの仲間やリーダー、そして社内のその他の人々に示すことができるようにする予定だ。
その論拠には2つの面がある。
第1に、前述の通り、人々の長所は、今日は最高の業績を生み、明日は最大の業績改善を生み出すゆえに、最重視するだけの価値がある。
第2に、もし新しいシステムを頻繁に使ってほしい(週に1回とか)なら、消費者向けの発想をしなければならない。
すなわち簡単で手軽、そして何よりも使いたくなるように設計されているということだ。
過去数年間で成功を収めた消費者向け技術(とりわけソーシャルメディア)の大半は〝シェア〟する技術である。
これはすなわち我々のほとんどが常に自分——自分独自の知見、功績、影響力——に興味を抱いていることを示している。
だから筆者らはこの新システムによって、自分の最高の部分を探し出し、シェアする場所を人々に提供できればと願っている。
最後の課題は透明性以上が筆者らの現在地であり、これまでに定めた業績管理の根本となる3つの目的である。
すなわち業績を認める、業績をはっきりと見る、業績を向上させる、である。
そして、それを支援するため相互に絡み合う3つの儀式がある。
1つ目は年次の報酬決定、2つ目は四半期ごとの、またはプロジェクトごとの業績スナップ、そして3つ目は週次の聞き取りである。
さらに筆者らは、定期的な評価と頻繁な聞き取りを通して、過去を一くくりにして見る方法から継続的に将来を見据える方法へと焦点を移した。
この新しい設計の各要素をデロイト社内で次第に大きな集団に対してテストしていくにつれ、この変化が時とともに進化ともいえる変革になっていく姿を見ることになった。
最初に異なる事業部が長所を重視するようになり、続いて会話の頻度が増し、その次には評価の新しい方法が定着し、最後に業績を監視する新しいソフトウェアが導入される、といった具合だ(図表7「業績インテリジェンス」を参照)
しかし、この作業をしている間、一つの問題が繰り返し浮上してきた。
それは透明性の問題である。
組織が筆者らについて何かを知っており、その知識が数値として把握されている時、人は自分の位置付けを知る権利があると感じるのが普通である。
この問題には独自の根本的な答えが必要になるのではないかという気がしている。
新設計の最初のバージョンでは、業績スナップの結果をチームメンバーに知らせなかった。
というのも、評価を公表するとなると回答が大いにゆがむ、つまり取り繕った回答になることを過去の経験から知っていたからだ。
筆者らはフィルターで濾過されていない評価をとらえたいと考えたので、回答は非公開とした。
そうしなければ、まさに自分たちが見つけ出そうと追求している真実を破壊するはめになりかねないと心配したのである。
しかし、その真実とは実際のところ何なのだろうか。
一人の個人を数字でとらえようとする時、我々は何を見ているのだろうか。
スポーツの世界では選手一人につき何ページもの統計数値がある。
医師は血液検査をするたびに3ページの報告書をくれる。
精神測定ではたくさんの検査と小数点以下の数値が出てくる。
しかし仕事の場合、少なくとも業績を数字でとらえようとする時、我々は一人の人間が持つ無限の多様性や微妙な差異を一つの数字で表現しようとしている。
とはいえ、チームリーダーがチームメンバーに調子を聞いたり、チームリーダー同士でメンバーの報酬やキャリアについて検討したりする時、会話によってよりよい理解が生まれることは間違いない。
そしてそのような会話は一つのデータ要素をもとになされるより、多くのデータ要素に基づいてなされるほうが役に立つ。
相手の位置付けをできる限り正確に伝えたいと願うなら、その相手の多様性をできる限りとらえてからそれについて議論しなければならない。
この問題はまだ解決していないが、筆者らで自問し、試していることを紹介しよう。
一人の社員に対する見方で、我々が収集・共有できるもののうち最も詳細なものは何か。
そのようなデータがあれば、その社員の業績について話し合う時にどのように役立つか。
リーダーたちが洞察に満ちた会話ができるよう、彼らに何を提供すればいいだろうか。
我々が現在知りたいことは「あなたの最も簡単な見方」ではなく「あなたの最も豊かな見方」である。
***ここ数年、業績管理に関する議論は評価について——評点が公正か否か、最初に決めた目標を達成したか否か——の議論をその特徴としてきた。
しかし問題はおそらくそこではない。
組織が各個人について知っていることを評点が伝えていない、ということではなく、そのような形で示される知識は悲しいほどに一面的なのだ。
結局、個々人に割り当てる特定の数値自体が問題なのではない。
むしろ、一つの数値が存在することが問題なのだ。
評点は真実の蒸留物である。
そして現在に至るまでそれは必要な蒸留物であったと主張する人もいよう。
それでもなお、仕事中の自分自身を理解したいと願うし、それを一つの数値に凝縮することは不可能なのだ。
いまや筆者らには、デロイトの社員のスモールデータバージョンからそのビッグデータバージョンへと移行するための技術がある。
この新しい業績管理システムをデロイト全社へと拡大するにつれて、次はこの問題こそを解決したいという思いが強まっている。
デロイトの構築した徹底的にシンプルな業績計測法新しい業績管理システムで最も大切なツールの一つは〝業績スナップ〟だ。
これにより、組織のどこにいる社員についてであれ、信頼できる業績を素早く知ることができるようになり、浮いた時間で社員とのやり取りに、より多くの時間を割けるようになった。
以下で〝業績スナップ〟を生み出した方法を説明する。
❶基準筆者らは3つの基準を満たす計測法を探していた。
「評価者特異効果」を無効化するため、評価される人の資質や行動ではなく、評価者自身の行為を評価する。
必要なバラつきを得るために、質問内容は極端な文言でなければならない。
そして混乱を避けるため、それぞれの質問は簡単に理解できるコンセプト一つだけでなければならない。
筆者らは報酬について一つ、チームワークについて一つ、業績不振者について一つ、昇進について一つの質問を選んだ。
これらの分野が必ず他の組織にもふさわしいとはいえないが、筆者らの組織には役立った。
❷評価者筆者らが探していたのは、個々の社員の仕事ぶりを生で見ており、その人の客観的評価が重要だと思えるような評価者だった。
そして筆者らは、評価される社員の仕事ぶりを最も身近で見ているのはチームリーダーであり、その役目からして客観的評価もできるはずだという点で意見が一致した。
評価者として部長クラスや同僚さえも含めることもできたが、最初は透明性とシンプルさが大事だと考え、彼らは含めないことにした。
❸試運転次に筆者らは、これらの質問によって役に立つデータが生まれるかどうかを試してみた。
有効性テストで重視するのは、質問の難しさ(平均の回答で判断できる)と、回答のバラつき(標準偏差で判断できる)である。
「強く同意する」ばかりの回答群が常に出てくるようでは、筆者らが求めるバラつきが得られないだろうとわかっていた。
また、「論理構成」の有効性と「基準との相関関係」の有効性も重要である(すなわち、質問が全体として背後にある論理を試すようになっていることと、結果としてエンゲージメント調査など他の手段で計測した結果との間に、相関関係を見つけられることを意味する)。
❹頻度デロイトでは皆がプロジェクト単位で生活し、働いているため、プロジェクト終了時に業績スナップを出すことは理にかなっている。
より長期のプロジェクトについては、四半期ごとに業績スナップを出すのが一番よい頻度であると決めた。
筆者らの目的は、働きぶりを目にした経験とその評価作業とをなるべく密接に結び付けることと、調査疲れによってデータが劣化しないようチームリーダーに負荷をかけすぎないこととの一番よいバランスを取る点にある。
❺透明性透明性については、試行錯誤の最中だ。
筆者らは業績スナップがチームリーダーの〝本当の〟考えをリアルタイムに明るみに出すものであってほしいと思っているが、それでも実際に経験してみてわかったのは、すべてのデータ要素をチームメンバーに公開することをチームリーダーが知っている限り、リーダーたちは面倒くさい対話を避けるために評価を甘くしたいという誘惑に駆られる場合があるということだ。
業績スナップの評点は他の評点と合算して年末の最終評点にすることを皆知っている。
だが、厳密に言えば年末には何を公表すべきなのだろうか。
公表しなさすぎるほどなら、しすぎるほうがまだいいと思っている。
筆者らは、時間や売上げといった業績評価基準とともに、顧客向け業務のみならず社内プロジェクトの業績スナップの評点も集計し、他の同僚たちと比較できるようにしたいと考えている。
そうすれば自分の位置付けについて社員に最大限の豊かな見方を提供できるからだ。
この理想にどこまで近づけるか、時が経てばわかるだろう。
コメント