目次
プロローグドラさん、皇居に現れる
第一章自分を追い込んでも、やる気が続かないんです
第二章失敗から目をそらすなんて、できません
第三章カラ元気を出すのに疲れちゃいました……
第四章やらなくちゃならない仕事が山積み
第五章成績の悪いボクは劣っている。
負けている
第六章自分を追い込んで、やっとできるようになったんです
第七章自分を勇気づける、次のステップとは何だろう?
第八章誰かを喜ばせようとしても、無視されたりバカにされるんです
第九章自分の意見だけでなく、存在までも否定された……
第十章目の前の人のため、が共同体感覚なんですか?
第十一章あなたを信じていたのに……
第十二章課長なのに、頑張らなくてもいいの?
エピローグドラさん、チャレンジを続けるあとがき
プロローグドラさん、皇居に現れる
早朝の七時半、銀杏が黄色く染まり始めた皇居周辺では、既にたくさんのランナーがジョギングを楽しんでいた。
彼らにまじってお堀の縁を一周五キロ走ってから、シャワーを浴びて会社へ向かう自分がボクは好きだ。
なんだかニューヨークのビジネスエリートになったかのような気分がするからだ。
睡眠時間が短くなることとランステーションの毎月の出費は少し痛いけれど、この気分が手に入るなら安いものだ。
もうすぐ三十歳。
そろそろカッコイイ大人になりたい、と思っているボクにとって、この投資は十分にトゥーペイ、元は取れていると思っている。
桜田門を抜けて内堀通りに入り二重橋前へ。
さあ、もうすぐゴールだ。
ランステに立ち寄ってシャワーを浴び、スーツに着替えてから出勤だ。
と、思っていると、目の前に、いつもは見かけない男の背中が見えた。
その男は、不思議なことにスーツを着たまま革靴でドカドカと走っている。
さぞや走りにくかろう。
後ろ姿は、見るからに小さく丸い。
おそらく身長は百五十センチに満たないだろう。
しかも太っていて、ほぼ三頭身。
その姿はまるで、アニメに出てくるあの猫型ロボット「〇〇えもん」にそっくりに見えた。
靴音ばかりが大きくてスピードが遅い彼をボクは仕方なく追い抜くことにした。
どんな顔をしているのだろう?興味本位からボクが追い抜きざまに振り向くと、ばっちり目が合ってしまった。
年齢は四十歳前後だろうか。
昭和初期風の小さな丸眼鏡をかけ、真ん中分けの髪はポマードでべったりとなでつけられている。
その男は汗をダラダラとかきながらも、なぜか目をクリクリとさせて余裕を見せるように笑い、右手を挙げて「ハーイ!」と挨拶をした。
ハァ?外国人か?見た目はどう見ても純和風の日本人なんだけどなぁ。
ボクはとまどいながら「ハ、ハーイ?」と相手に合わせて英語風の発音で返した。
すると突然、彼は「ストップ!」と叫んだ。
いったい何ごとか。
ボクは急ブレーキをかけて立ち止まった。
その男は、苦しそうに肩で息をしながらも、あたかも「ボク、疲れてなんかいないもん」とでも言わんばかりに、満面の笑みをつくってこう言った。
「はぁ、はぁ。
やあ、よろしく。
はぁ、はぁ。
ボクはドラ。
キミは?」ちょっと待ってくれ。
ドラ、だって?もしかして、あなたは本物の〇〇えもんなのか?頭が混乱してきたぞ。
え、と……。
するとその男は追い打ちをかけるように言った。
「キミのこと、何と呼んだらいいのかな?はぁ、はぁ」そして、ぴょこんと首を傾ける。
まるで江戸時代のからくり人形みたいだ。
「え、はい。
リョ、リョウと呼んで下さい。
友だちはみんなそう呼びます」「はぁ、はぁ。
やあ、リョウ君。
よろしくね。
ちなみに、ボクのことはドラと呼んでね」と右手を差し出してきた。
あ、握手か。
本当に外国人みたいだな。
握手に慣れていないボクは、ぎこちなくその手を握った。
その男の手は、指が短く手の平が丸かった。
そして、汗でしっとりと湿っていて、とても柔らかだった。
「ところで、キミは、この後、会社へ行くのかい?どうやって着替えるの?まさかキミ、皇居に住んでいるお公家様というわけじゃないよね?」ははぁ。
そういうことか。
どうやら、このドラさんとやらも普通の人間らしい。
好き好んでスーツで走っているわけじゃなかったのか。
ボクは着替えとシャワーに使っているランステーションのことを紹介した。
すると、「そこに連れてってくれないかな?ボクも即、入会するよ。
ボクだって汗だくのスーツで毎日出社などしたくないからね。
これでキミとボクは友だちだね。
さぁ行こう」先ほど出会ってからまだ三分も経っていないだろう。
なのに、ボクはいつの間にか、ドラさんと友だちになっていた。
しかし、なんと人なつっこく、そして図々しい、いや、行動力のある人だろうか。
走りたいと思えば、スーツのまま革靴で、人目も気にせず汗だくで走る。
こんなタイプの人が今まで周囲にいただろうか……。
そんなことを考えながらボクは彼を案内し、受付カウンターで別れた。
シャワーを浴びて着替えを済ませたボクは一人オフィスへと急いだ。
ドラさんという変なおじさんに捕まったお陰で予定より三十分も余分に時間を食ってしまったからだ。
遅刻ギリギリでタイムカードを押し、急いで席へと向かう。
どうやらボクが一番遅い出社のようだ。
あまりよろしくない一日のスタートだ。
「おはようございます!」とりあえず大きな声でみんなへ挨拶をしてから席に座り、早速パソコンのスイッチを入れる。
ん?何かが変だぞ。
いつもと風景が違うような気がする。
ボクは所属する広告営業一課の七つのデスクで構成された島をぐるりと見渡してみた。
すると。
本来は山本課長が座るはずのお誕生日席に見慣れない顔、いや、ちょっと待ってくれ。
さっき見たばかりの顔があるではないか。
あまりにも座高が低くてよく見えなかったのだが、まさしくあの男だ。
「ド、ドラさんじゃないですか!」無意識に大きな声が出てしまった。
「おぉ、キミは我が友、リョウ君じゃないか!」「ドラさん、なぜここに……」「キミこそ、なぜ?」そんなボクたちのやりとりを見ていたボクの上司、山本課長が口を開いた。
「なんだ!二人とも初対面じゃないのか。
そりゃあ話が早い。
リョウ君、キミの新しい上司のドラさんだ。
三年ぶりにアメリカ支社から戻っていらしたんだ」クルリと踵を返して続けた。
「ドラさん。
我が一課期待の星、リョウ君です。
以前、私にして下さったように、ぜひ遠慮なくビシビシと鍛えてやって下さい。
リョウ君、キミは本当にラッキーだな。
ドラさんが上司なんて。
オレも課員に戻ってもう一度教えてもらいたいくらいだ。
たくさん吸収しろよ」どうやら、このドラさんがボクの新しい上司となるらしい。
彼はちょこんと席に座り、ボクと山本課長を交互に見ながら目の玉をクリクリと動かし、ずっと無言で、しかし、とても楽しそうに笑っていた。
何だか慌ただしい一日になりそうな予感がした。
課会が始まった。
当然ながら新課長のドラさんのスピーチからすべては始まる。
「ボクは上司ではなくキミたちの支援者だ。
だから、命令はしたくない。
その代わりにキミたちをできるだけ勇気づけたい」「キミたちはクライアントの力になり貢献することができるはずだ。
キミたちは仲間や会社の役に立つことができる。
ボクはそう信じている」汗をかきながら、ドラさんが一所懸命に話している。
ドラさんのスピーチは、これまでに聞いたことがないような力のあるものだった。
真剣に話に聞き入るボクに、営業事務のリカが耳打ちをした。
「リョウ、知っていた?ドラさんの名前の由来って、本当はアニメの猫型ロボットじゃないんだって。
ドラさんがアメリカの大学院で学んできた『アドラー心理学』に心酔して自分から『アドラー』の『ドラ』で呼んでくれって言い始めたんだって」ケラケラと笑う。
「でも、どう見ても『〇〇えもん』だよね。
『アドラーのドラ』だと思っているのは本人だけ。
みぃんな『〇〇えもん』だと思っているらしいよ。
それって、チョー受けるよねぇ」「しーっ」ボクはリカをさえぎった。
ドラさんの名前の由来なんて、どっちでもいい。
それよりもボクは彼の話をもっと聞きたい、と思い始めていた。
山本課長もドラさんに大きな影響を受けた、と言っていた。
ボクが求めていたメンターが思わぬ形でやって来たのではなかろうか。
ボクはますますドラさんに興味を抱くようになっていた。
[コラム]アドラー心理学と本書を構成する二つのキーワードアルフレッド・アドラー(一八七〇年~一九三七年)は今から百年ほど前、第一次世界大戦~第二次世界大戦開戦直前の間に活躍した心理学者です。
日本では長らく無名に近い存在でしたが、欧米ではジグムント・フロイト、カール・グスタフ・ユングと並び称される大家の一人です。
アドラー心理学を一言で語ることは極めて困難ですが、「勇気」と「共同体感覚」の二つが中核概念を占めることは疑いがないでしょう。
なぜならば、人をタイプ別に類型化することを否定していたアドラー自身が唯一残した分類がこの二つに強く関連しているからです。
本書はアドラーが残したこの二軸「勇気」と「共同体感覚」の二つを構成の基軸とし、関連するその他のキーワードを交えつつ物語を展開して参ります。
本書の理解と実践を通じて私たちが目指す姿はアドラーが語った「有益な人」です。
さあ、物語を読み進めて参りましょう。
第一章自分を追い込んでも、やる気が続かないんです
[ドラさんの宿題]「できているところ」に注目する。
「できていないところ」は注目しない
「はぁー。
今日も寝坊をしてジョギングをサボってしまった。
ボクはなんて意志が弱いんだ……」遅刻ギリギリで席へ駆け込んだボクは大きくため息をついた。
課長席ではドラさんがランニング・キャップをデスクの角にぶら下げている。
おそらく、今朝も皇居を走ってから出社したのだろう。
さすがはアメリカ帰りのエリートだ。
そういえば、ドラさんはアドラー心理学大学院を卒業しているらしい。
アメリカの大学院は徹夜を重ねなければ卒業できない厳しい世界だ、と聞いたことがある。
強い意志を持っているに違いない。
それに比べてどうだ。
ボクは早起きとジョギングでさえ続かない。
「このままじゃダメだ。
イケてる大人になれないぞ!」ボクは自分に喝を入れた。
すると、ボクの様子をニヤニヤと笑って見ていたドラさんが口を開いた。
「リョウ君。
どうしたのかね?朝から大きなため息をついて。
もしかしたら、キミは自分を責めているのではないかな?」図星をつかれてドキッとした。
なぜ、わかるのだろう。
「はい。
今日もボクはジョギングをできませんでした。
一方、ドラさんはきちんと走っていらっしゃる。
ボクは自分が情けないんです」「なるほど。
それで自分を責めた、というわけか。
『このままじゃダメだ』そうやって自分に喝を入れたんだね。
どうだい、ビンゴ!だろ?」ドラさんは、ボクに向かって拳銃の引き金を引く仕草をした。
「ビンゴ!バーン!ははははは!」「ふ、古い。
あまりに古すぎる……」ドラさんがアメリカにいた間に日本のギャグは進化している。
どうやら、それをご存知ないようだ。
ドラさんは、続けて大きなマグカップからずずず、とコーヒーをすすった。
カップには〇〇マウスのキャラクターが描かれている。
よく見るとネクタイも。
どうやらドラさんは、顔に似合わず、夢の国のキャラクターがお好きらしい。
しかし、自分を責め、喝を入れることのどこが悪いというのだ。
ボクは反論せずにはいられなかった。
「ドラさん。
自分を追い込んでどこが悪いのですか?毎日のジョギングさえもできない自分を許していたら、ますます自分がダメになっていくじゃないですか。
現状否定をするからこそ進歩がある。
現状に甘んじていいわけがないじゃないですか!」「果たして、本当に、そうかな?」ドラさんは大きな瞳をクリクリと左右に動かした。
「キミは今朝、早起きができずジョギングをサボってしまった。
これは客観的な事実だ。
しかし、キミの主観には二つの選択肢がある。
そのいずれを選ぶかはキミ次第だ」「一つ目の方法は、『できていない』ところに注目してダメな自分を責めることだ。
アドラー心理学ではこれを『負の注目』と呼ぶ。
『このままじゃいけない。
自分はダメな人間だ』心の中で独り言をつぶやく」ドラさんの話にボクは大きくうなずいた。
その通り。
いつものボクのパターンだ。
では、もう一つのパターンとは何だろう?ドラさんはベストの胸ポケットに五本も刺さっているペンのうちの一本を抜き出し、クルクルと回しながら続けた。
「もう一つの方法は『できていること』に注目することだ。
『できていないこと』ではなく『できていること』に注目して自分を認めるんだ。
これを『正の注目』と呼ぶ。
頑張っているなぁ、オレ。
そうやって自分を勇気づけ、心にガソリンを入れるのさ」「できていることを見る……。
ですか」はぁー。
ボクは再びため息をついた。
それができれば苦労はしないよ。
「できていない」から困っているのだ。
ドラさんの言うアドラー心理学とやらは、意志が強い「できている人」だけに向けた心理学かもしれないぞ。
ボクのようなダメな人間には向いていないや。
ボクは心の中でそうつぶやいた。
「そう!リョウ君。
キミは今でさえ、こんなにも『できている』じゃないか!なぜ、ほんのわずかな『できていない』ことにばかり注目するのかね?」「ボ、ボクのどこがいったいできているというのですか?今朝も寝坊してジョギングをサボったし、おとといだって……。
今週なんて、結局平日五日間のうち、二日間しか走ることができなかったんですよ」「週のうちの二日間?ビンゴ!それだよ!それ!まさにそれだ!」ボクはドラさんの言葉の内容にも驚いたが、またもや古いジェスチャーに驚いた。
なんとドラさんは「ビンゴ!」と叫びながらウインクをして見せたのだ。
「昭和か!」ボクは心の中で突っ込みを入れた。
「大切なことなので、もう一度言うよ。
キミはとっても『できている』じゃないか!キミは、なんと一週間のうち二日間も走ったんだぞ。
それはすごいことだよ。
だって、キミは半年前に走り始めるまで、十年以上もジョギングなど一度もしたことがなかった、と言っていたよね。
それが週に二日も早起きしてジョギングして、そのうえ、きちんと仕事までこなしている。
なぜ、その『できていること』に注目しないんだね?」「はぁ~?週にたったの二日だけで『できている』ですって?そんなに甘っちょろいことでいいんですか?それごときで満足していたら、ダメ人間になってしまうじゃないですか?」いったい、なんてことを言い出すんだ?もしかしたらボクがあまりにもレベルが低いので「おだてる」という作戦に出たのかもしれない。
「なるほど、おもしろい。
リョウ君、キミはこう思っているんだね。
『人は現状に満足すると歩みを止めてしまう』と。
本当にそう思うのかね?」「もちろんです」「では、質問しよう。
キミの人生の中で『自分は進歩したなぁ』と思える体験を一つ、思い出してくれたまえ」うーん。
進歩を実感したことかぁ。
残念ながら仕事ではあまり思い出せないなぁ。
そういえば、一つだけあるぞ。
我が社がインターネット広告の新商品を開発したときに、一斉に新規開拓営業の電話をかけたことがある。
最初はうまくアポイントが取れなかったけれど、トークを工夫したり、話し声の抑揚をつけたり、電話をかける相手を宣伝部ではなく営業部へと変えてみたり、工夫をしたら手応えが変わってきた。
そうこうするうちに、次々とアポイントが取れて売上もあがったのを覚えている。
そのときのボクは確実に進歩していた。
もう三年近く前になるのだけれど。
ボクはおずおずと自分の体験をドラさんに話してみた。
「そうそう!それそれ!」ドラさんはまたもや大げさにボクを指さした。
「そのときのことを思い出してくれよ。
いいかい。
リョウ君。
キミはそのとき、次々とアポイントが取れて『できている自分』に注目していた。
どんな気分だったかい?」「もちろん、最高の気分です」「自分のこと、どう思った?」「やればできるじゃん!自分ってけっこう才能あるかも。
そう思いました」「うんうん。
それで?『もうやーめた。
現状維持でいいや』と思ったかい?それとも『よーし、もっとやるぞ!もっとできるぞ!』と思ったかい?どっちだった?」ボクはハッと気づいた。
そのときのボクは確実にイケイケだった。
「よーし、もっとやるぞ!まだまだイケる!」そんな気分だった。
決して現状に満足して手を止めたりしなかった。
満足すればするほど「もっと、もっと」とさらに上を目指したのだ。
驚くボクの表情を見て、ドラさんはしてやったり!と満面のドヤ顔だった。
得意げな声が聞こえてくるようだ。
そして、片肘をついてニヤニヤとこちらを眺めている。
「いいかい、リョウ君。
人はね、『自分には能力がある。
自分には価値がある』そう思えたとき、つまり困難を克服する活力『勇気』で満たされると、放っておいても『もっと、もっと』とさらなる優越を目指すんだ。
決して『このあたりでやめておこう。
現状維持でいいや』とはならないんだよ」「例えは悪いが『豚もおだてりゃ木に登る』だ。
きれいな言葉を使うなら『ゾーン体験』や『フロー状態』と言ってもいいだろう」
たしかにそうかもしれない。
人は成功体験を積み自信を身につけると「もっと良くなろう、頑張ろう」となるようだ。
少なくとも自分はそうだった。
しかし、ちょっと待てよ。
それって、きちんとした成果をあげたからこそ手にするエネルギーなのではなかろうか。
今回のボクのように、「わずか週に二日間だけジョギングをした」程度で、そんなに調子に乗ってはいけないのではないか。
それでは、あまりにレベルが低すぎる。
危うくだまされるところだったぞ。
危ない、危ない。
「リョウ君。
アドラー心理学の『正の注目』は、『当たり前のこと』にも注目を与えるんだ。
朝、会社に行く。
歯を磨く。
時間内に会社に着く。
おはよう、と挨拶をする。
素晴らしいことじゃないか。
すべて『できている』ことだらけだ」「いいかい、リョウ君。
人の行動の九十五パーセントは『できている』行動だ。
しかし、ボクたちはたった五パーセントの『できていない』行動ばかりに注目して、『できている』九十五パーセントを無視してしまうんだ。
それでは、エネルギーが湧くわけがない。
やる気が起きなくて当然だ」「だって、一日中『できていること』だらけなのに、それはすべて『当たり前』だから、と無視されて、ほんのわずかな『できていないこと』に注目をされてしまうんだよ。
ボクだったらバカバカしくてやる気をなくしちゃうな。
キミは自分に対してそれをしているんだよ。
自分で自分のやる気をそいでいるのさ。
ひどいことをしちゃっているよね」ボクはガツンと脳天を殴られたような気がした。
ボクは自分で自分のやる気をそいでいた。
できている九十五パーセントを無視して、できていない五パーセントばかりを気にして自分を責めていた。
それでは、やる気が起きるわけはない。
たしかにその通りだ。
しかし、そんなこと今まで一度も考えたこともなかった。
ドラさんって、すごい。
アドラー心理学って何だかすごい。
ボクはドラさんと出会ってからわずか二日目にして、既に人生最大の発見をしたような気がしていた。
「ドラさん、ありがとうございます!目からウロコが百枚くらい落ちました!」深々と頭を下げた後にドラさんの顔を見ようとすると。
え?いない!どこに?ドラさんはなんと乳酸菌ドリンクを売りに来たおばちゃんのワゴンに突撃して牛乳プリンを二つ両手に握りしめていた。
「さっきの話の説得力が一気になくなったわ……」ボクががっかりしていると、ドラさんは遠くの通路から大声で怒鳴った。
「いいか?『できているところ』だけに注目するんだ。
『できていない』ところに注目するのをやめるんだ!それがリョウ君の宿題だ!わかったかい?」[ドラさんの宿題]「できているところ」に注目する。
「できていないところ」は注目しない
[コラム]「勇気」の有無と「有益」「無益」の関係についてアドラー心理学は別名「勇気の心理学」とも呼ばれています。
人は勇気があれば困難を克服しようと、努力や学習、協調など「有益」な行動を選択し、勇気が欠乏すると、困難から逃げ出して、より安易な道、他者への攻撃や他者のせいにする言い訳、さらには人間関係や困難からの逃避など「無益」な行動を選択する、と考えるのです。
アドラー自身の体験に基づく勇気に関する重要な言葉が二つあります。
「私は自分に価値があると思えるときにだけ勇気を持つことができる」「そして、私に価値があると思えるのは、私の行動が周囲の人たちにとって役に立っていると思えるときだけである」。
この二つをつなげると以下のような意味になるでしょう。
「人は周囲の人々へ貢献できていると実感したときに、自分には価値があると実感し、勇気を持てる」詳細は後述に譲りますが「周囲の人々へ貢献したい」との考えや行動は、すなわち「共同体感覚」そのものです。
つまり「勇気」と「共同体感覚」はそれぞれに独立したキーワードの二軸であると共に、相互依存関係にもあるのです。
本書では、後々、主人公のリョウ君がこのことに気づいていきます。
人の成長は「勇気」から始まります。
さて、果たしてリョウ君は勇気を持つことができるようになるのでしょうか。
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