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第2章「何を(What)」すり合わせるか──すり合わせ9ボックス

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第2章「何を(What)」すり合わせるか──すり合わせ9ボックス

すり合わせるべき「3つのレベル」とは円滑な対話に必要な焦点とテーマ──「すり合わせ9ボックス」「型」を使えば口下手マネジャーでもうまくいく「すり合わせ9ボックス」は実際どう使えるのかすべてのボックスを対話する必要はない対話型マネジャーは9つのボックスをつなぐ翻訳者「すり合わせ9ボックス」活用例──目標設定時なぜ、認識はずれるのか丁寧な対話で思い込みが明らかになる内省を支援できる価値認識をすり合わせる技術とは

第2章「何を(What)」すり合わせるか──すり合わせ9ボックス

すり合わせるべき「3つのレベル」とはこれから具体的な対話の進め方についてお伝えする前提として、まず上司自身が、対話の目的をしっかり理解していることが重要です。

本書では、組織内での対話の目的について次のように定義します。

「従業員の継続的な成果創出、モチベーション向上、成長促進、働きがい向上のために必要な業務・個人・組織に関する諸認識をすり合わせること」組織の中で働いていくうえで、やりがいや働きがいを感じていくためには、まず自分に課せられた「業務」について成果を上げる必要があります。

目の前の業務を全うすることで、周囲からも認められて、自分の自信にもつながります。

同時に、継続的に成果を出し続けていくためには、その土台となる「個人」の能力や資質に磨きをかけ、キャリア観など自分の軸をつくっていくことが不可欠です。

さらに、所属する「組織」の成り立ちやそこにいるメンバーについて、さらには組織の方向性などの理解を深めていくことが必要です。

この業務・個人・組織の3つの領域について、今後本書では水準や程度を表す「レベル」という表現を用いて説明していきます。

業務レベル:主に業務から派生するテーマ個人レベル:主に個人の成長やライフスタイルに関するテーマ組織レベル:主に組織やチームに関するテーマ対話の目的は、この各レベルの中で上司と部下の諸認識をすり合わせていくことと、各レベル間をつなげていくことです。

たとえば、「業務内容やその範囲が適切に理解されているか?」「その業務内容と個人の能力はマッチしているか?」、さらに「その業務の前工程後工程など組織的な効率性を踏まえた動きができているか?」……これらをすり合わせてつなげることは、継続的な成果創出につながっていきます。

また、「個人の将来キャリアと今の業務がどのように結びついているか?」、さらに「その業務が組織のミッションにどのようにつながっているか?」……これらは、モチベーション向上や成長促進につながります。

このように3つのレベルがすり合ってつながっていくほど、所属する組織での働きがいを感じられるでしょう。

つまり、自分に与えられた業務の成果を出していくことが、自分の将来に向けた能力開発となり、同時に組織への貢献になっているというたしかな手ごたえを感じられる状態です。

まさにその状態こそが、本書を通して目指してほしい姿です。

円滑な対話に必要な焦点とテーマ──「すり合

わせ9ボックス」一方で、「働きがいを上げよう」「モチベーションを上げよう」と意気込んで、失敗してしまうケースも多々あります。

働きがいを感じたり、モチベーションが上がるのは結果であり、始めからそこを意識してしまうとなかなか1on1がうまくいかないようです。

そこで、対話を進めるうえで意識するべき「焦点」と「テーマ」について、次のように整理をしていきます。

3つのレベルにおける対話の焦点それぞれのレベルで対話を進めていくときに、ゴールとして意識すべきポイントがあります。

業務レベルの対話を進めていくときに焦点を当てるのは「成果」です。

「該当業務がいかに成果につながるか?」、さらにいえば「それがいかに効率的なのか?」という視点で業務について考えていきます。

個人レベルは、個人の「成長」に焦点を当てて考えます。

成果や効率との違いは、時間軸を短期ではなく中長期の視点で捉えるという点です。

中長期的に、また持続的に結果を出していくための土台をつくっていくようなイメージです。

組織レベルは、主に上司が持っている情報を部下に伝え、組織の方向性について「共感」してもらうことに焦点を当てます。

単なる情報を部下の体験と結びつけて、より深い理解へと昇華させられるかがポイントです。

たとえば、「この半期は、コストを圧縮することよりも、売上拡大を目指す。

市場シェアを広げていこう」という組織の方針を聞いたとします。

そのとき、「なるほど、そうなんだな」という概念的な理解だけではなく、もう一段進んで話をすり合わせることで自分事として考えてもらえるようになります。

「たしかに、最近お客さんのところに行っても、競合のA社や新興のB社やC社の名前がよく出てくるな。

競合に勝つのは当たり前と思っていたけど、どうしたらいいかいろいろ苦戦してたもんな。

市場のシェアを拡大させるためにも、会社が投資してくれるのはありがたいな」、こんな風に自分事として捉えて共感しながら話ができると、上司と部下の考えがすり合ったといえるのです。

ここまで、3つのレベルについて説明してきました。

さらに対話するテーマを明確にするために、それぞれのレベルを時間軸で3分割し、9つのボックスで紹介していきます(図22)。

この「ボックス」という言葉は、それぞれのテーマが人の頭の中の箱に詰まっているイメージを表現しています(図23)。

該当テーマについて対話するとは、その箱を開けて中身を探っていくことです。

箱を開けてすぐに答えが見つからないときには、対話を深めてボックスの奥底まで探し求めます。

箱の奥には、潜在意識に眠る自分でも気づいていない宝物(資源)がたくさん詰まっています。

それを対話によって探していくのです。

すり合わせる9つのボックスの各テーマは次の通りです。

業務レベル・業務不安現在、部下の抱えている業務不安についての解消や解決がテーマです。

顕在化している不安はもちろん、潜在的に抱えているモヤモヤとしたものも具現化していきます。

・振り返り過去に実施してきた業務の振り返りをテーマに対話します。

振り返りを通して部下にいかに語ってもらい内省を促していけるかがポイントです。

・業務改善将来に向けて、業務の効率化や改善、また未来の業務をテーマに対話します。

対話を通して、業務の仕組み改善、部下の業務習熟に向けての情報共有やアウトプットを引き出します。

個人レベル・ライフスタイル現在の部下のライフスタイルをテーマに対話します。

ライフスタイルとは、健康面や趣味、家族のこと、ライフワークなど、部下の人生や生活全般の事柄や、考え方です。

雑談的なニュアンスが強くなりますが、上司と部下の相互理解につながります。

・パーソナリティ過去において部下が培ってきたパーソナリティをテーマに対話します。

パーソナリティとは、生まれながらに持つ気質や性格、また後天的に身につけた能力や強み、弱みといった、その人の思考や行動パターンを形成するものです。

対話によって部下が自分のパーソナリティを自覚することを後押しし、次のアクションの策定を促します。

・将来キャリア未来のキャリアをテーマに対話します。

将来への道筋を一緒に考えることで、部下が迷いなく業務に集中できる状態をつくります。

組織レベル・人間関係現在の組織の幹部やチームメンバー、上司自身の状況をテーマに対話します。

部下を取り巻く人間関係や上司自身の状況を理解してもらうことで、チーム全体の認識の食い違いをなくして、部下の視野を広げていきます。

・理念・制度・カルチャー組織の理念や制度など、その歴史やカルチャーをテーマにして対話します。

とくに組

織の成り立ちやビジョン、価値観など組織のWhy(目指すもの)まで掘り下げて話すことで、「なぜ、こういう制度があるのか?」「なぜ、このような理念なのか?」といった、組織の考えや哲学について、部下との相互理解を深めていきます。

・組織方針今後の組織方針や全体進捗など、上位階層で行われている議論や問題意識をテーマに対話をしていきます。

ここでは、部下が組織とのつながりを理解して、視野を広げ、業務に意味を見出してもらいます。

「型」を使えば口下手マネジャーでもうまくいくでは、この「すり合わせ9ボックス」を活用するとどのような良いことがあるのでしょうか。

ひと言で言うと、「1on1などの対話がとてもうまくいく」ということです。

今までマンネリ化や手応えのなさから止めてしまった1on1を、再びこれで継続できるようになるでしょう。

ここでは3つのメリットをご紹介します。

1部下と組織の関係について網羅的に対話できるこのすり合わせ9ボックスに書かれている1つひとつのテーマは、1on1などの対話をうまく活用しているマネジャーの方々にヒアリングし、まとめたものです。

もちろん、多くのマネジャーにとって「このテーマに関しては、すでに話している」というものもあると思います。

ですが、この9ボックスの一番の価値は、対話すべきテーマの全体像を俯瞰して見ることができることにあります。

これにより、部下と組織の関係について対話すべきテーマのヌケモレがなくなり、網羅的に話ができます。

たとえば、「この9ボックスを見てみたら、業務不安ばかりで、業務の振り返りや能力開発についてまったく話せていないな。

そういえば彼は成長実感がなさそうだから、次回の1on1で重点的に業務の振り返りと能力開発について話した方がいいな」といったことに気づくことができます。

2上司の「思いつきの語り」が「意図的な対話」に変わるこれは、戦略的マネジメントともいえます。

その場の自分の思いつきで話すのではなく、「どの話がすり合っていないのか?」「そのためには、まず部下のどういった話を聞こうか?」というように、戦略的な対話が可能になるのです。

私はマネジャーの方とお話しするときに「部下と『意図した対話』を行っていますか?」ということを必ず尋ねます。

「はい」と即答できる方にお話を聞いて共通しているのが、自分なりの話しておくべき「型」を持っているという点です。

その人なりの全体観を持っていて、「今日はこれについて話す」ということが決まっているのです。

このように、「思いつきの語り」から型を用いた「意図的な対話」ですり合わせを行っ

ていくことで、口下手な上司でも安心感を持って1on1に臨むことができます。

一方、部下もこのボックス内容を認識して対話に臨むことで、何の話をしているかがわかり、安心して話すことができ、最後には上司も部下も充実感を持って対話を終えることができます。

3対話のテーマが単体で終わらず、つながっていく対話において困ることは何でしょうか。

何を話していいかわからないということもありますが、話し始めれば何とか続きます。

問題は、あるテーマの話が終わってしまったときです。

話が止まってしまったときに、どうしようか困った経験はないでしょうか。

いくら話すトピックを用意してきたとしても、それぞれの関連性やつながりというところまで考えて質問やテーマを準備できている人は稀です。

しかし、9ボックスによって、それが可能になります。

9ボックス上の関係性が可視化できるので、各ボックスのテーマのすり合わせだけではなく、ボックス間をつなげる意識が持ちやすいのです。

これにより、部下も自分の業務を単体で捉えるのではなく、自身の成長や組織とのつながりを感じることができるようになるでしょう。

「すり合わせ9ボックス」は実際どう使えるのか実際、すり合わせ9ボックスは、どのようなタイミングで活用すると効果的なのでしょうか。

その3つの使用タイミングについて紹介します。

1対話の準備に使う1on1などが始まる前に、今まで話したボックスについて思い出します。

それを踏まえて、その日のタイミングで話した方がいいボックスがないかを確認します。

とくに、部下に関する事柄で、変化があったことについて考えてみてください。

ボックスを見ながら思いつく変化です。

「業務内容の変化」「人の出入り」「新しい施策や決まりごとの検討」「他部署や会社自体にあった変化」……そうした事象について部下と考えをすり合わせていくと、変化の中でも、部下は高いパフォーマンスを保てるでしょう。

2対話中に使う対話中に、9ボックスのシートを部下と一緒に見ながら対話していくことも効果的です。

そうすると、部下も全体像をイメージしながら対話ができますし、2人で対話をつくっていく雰囲気ができ、信頼関係も築けていくでしょう。

さらに、シートを見ながら話を進めていると、ボックスの項目を見ているだけで、脳は質問されているような状態になり、インスピレーションが湧きやすくなります。

また、あるボックスから別のボックスへと、文脈に沿う形で話をつなげて展開させやすいという効果もあります。

もちろん、使用する場合には部下に9ボックスの説明をして、部下の合意を取るようにしましょう。

3対話後に振り返りとして使う対話後に、振り返りとしてメモを記入することもできます。

ポイントは、対話した内容の記録とそれを踏まえての所感です。

「すり合ったかどうか?」「もう一度話す必要があるか?」など、次回のアクションにつながる書き方をするとよいでしょう。

これらのメモを毎回残しておくと、実際にどのボックスを部下と対話できていて、どこができていないのかが時系列のデータとして可視化できます。

これを俯瞰して活用することで、場当たりでない意図的な対話が可能になります。

もちろん、このボックスが頭の中にあれば、シートを直接使用しなくてもいいかもしれません。

しかしながら、最低限このフレームを頭でイメージしながらの活用は行っていただきたいと思います。

ここでは、実際にすり合わせ9ボックスにメモを記入して活用している、4人の事例をご紹介します。

すべてのボックスを対話する必要はないこの9ボックスを人に紹介するとよく言われることがあります。

「えー、こんなに話せませんよ。

全部話すのですか?」誤解のないようにお伝えすると、この9ボックスのテーマすべてを、部下全員と対話する必要はありません。

この9ボックスは、組織にいる人が話すと良いテーマの1つの指標です。

たとえば、新入社員は、一般的には業務レベルの話が多くなるでしょう。

しかし、早々にキャリアについて悩む人もいると思います。

また、中途入社者で、組織方針の深い理解よりは、まずは目先の業務理解の方が先という人もいるでしょう。

一方、組織のマネジメントを志向する人であれば、組織レベルについての認知が高まることは、キャリア上のプラスにつながります。

このように、1人の人と全ボックスの話をする必要はありませんが、話すテーマの見通しを立てておくことは、部下との対話の助けになります。

毎回、場当たり的に決めていくよりも、見通しがあってその時々で必要なことを話していく方がマネジャーも心にゆとりを持つことができます。

また、部下としても何をどのタイミングで話すのかがわかっていると、準備ができて上司同様安心感が持てます。

実際、この9ボックスを活用し、対話する頻度を図のように定めている方がいます。

基本的には、週次で1on1を実施して業務関連のことをメインに話していますが、そこから文脈に沿う形で、他のテーマについても話を派生させているとのことです。

あくまで目安ではありますが、こういったプランをつくることでヌケモレがなくなり、全体を網羅しているという安心感を得ることができるのです。

対話型マネジャーは9つのボックスをつなぐ翻訳者このすり合わせ9ボックスを活用して、マネジャーはまず各ボックスのテーマについて部下と対話を行っていきます。

そして対話を通じて、部下自身の考えを明確にし、マネジャーの考えとすり合わせていきます。

そして、その過程であることが起こります。

それぞれのボックスでの対話が、少しずつ互いにリンクし始めるのです。

実際にあった女性社員とマネジャーのすり合わせの場面を見てみましょう。

マネジャーが将来キャリアの話をしていたとき、彼女はこう語りました。

「実は料理が好きで、料理を将来の仕事にしていきたいのです」2年間一緒に働いていてそれを一切知らなかったマネジャーは、彼女の料理に対するこだわりをそれから30分聞き続けました。

9ボックスでいうと、個人レベルの「将来キャリア」から「ライフスタイル」へ話がつながっていったのです。

話はさらに続きます。

彼女は「今でもたまに料理をYouTubeにアップしているのですが、将来的にはもっと定期的にアップして、YouTuberとして活躍の場を広げていきたいのです」と言います。

この話を聞いて、マネジャーは「そんなに甘い世界ではないよ……」と言いかけたそうです。

しかしすぐに思い直して、その話を真剣に受け止めました。

そう語る彼女の表情が、仕事ではまったく見せたことのないイキイキとしたものだったからです。

そして、彼女の料理の話を聞くうちに、「仕事との共通点があるのでは?」と感じ、こう質問しました。

「ちなみに、料理ですごい能力を発揮してると思うんだけど、今の業務でやっていることや使っている能力が、料理に活用できることってあるの?」すると彼女は「いろいろあります。

ひと言で言うと段取力ですけど、1つのタスクを逆算して時間配分することです。

あとは、マルチタスクも料理ではかなり意識してますけど、業務では何となくやってたところもあるので意識してやっていくといいかな、と思います」と答えました。

ボックスは「ライフスタイル」から「パーソナリティ(能力開発)」へと変遷しました。

趣味の料理で行っていることが、今の仕事にも活きることを改めて実感できる。

逆に、

業務を意識して取組むことで、料理の腕前も上がるイメージが持てるようになる。

さらに、それが自分の将来キャリアを考える礎を築くことにもつながっているということがクリアになり、今の業務にも意味を感じて専心できるようになりました。

このように、マネジャーは各ボックスのテーマについて、まず女性社員にしゃべってもらいました。

そこで多くの材料を引き出しながら、9つのボックスを俯瞰してつながりを見出します。

そして彼女の話をうまく翻訳し、各ボックスのつながりを部下に感じてもらい、広く深い視野で物事を見ることができるようになりました。

マネジャーは、部下自身が無意識レベルで思っていることの翻訳者であり、組織と部下をつなぐ翻訳者、周囲との翻訳者でもあるのです。

そして、この9ボックスは、マネジャーの翻訳作業を容易にするツールでもあります。

往々にして、組織の全体観が見えていない部下は、「自分がやりたいことと、今やっていることが結びつかない」などと言うことがあります。

そのとき、「個人が持っているベクトルと組織のベクトルとをより合わせて、いかに太いものにしていくか」が、マネジメントの大きな役割であると私は思います。

そのベクトルの細い糸がより合って、太いロープになっていると、部下が業務レベルでやっていることや成果が、個人のキャリアや成長に、そして会社への貢献につながっていると実感できるのです。

つまり、本書でいう対話型マネジャーの役割とは、「各ボックスを深くすり合わせること」(図29)と「各ボックス間をつないでいくこと」(図210)にあるのです。

「すり合わせ9ボックス」活用例──目標設定時「すり合わせ9ボックス」は、部下との対話におけるさまざまな場面で活用することができます。

ここでは、ほとんどの組織で話し合われるテーマであろう「目標設定」時の対話を例に、9ボックスの活用法を見ていきます。

たとえば、トップダウン型で部下の目標がすでに決められている場合を考えます。

売上予算などが上からの方針で決められている営業の場合の9ボックスの変遷を見ていきます。

この場合、まず組織方針の話からスタートします。

「今、全社の方針がどうなっているのか?」「市場のどこを攻めようとしているのか?」などの話をし、全社の目標が決まったプロセスを丁寧に説明します。

次に、他部署の状況や自部署の状態を説明し、全体の目標の中での振り分け配分などの説明をします(「人間関係」ボックス)。

その後、ここまでの疑問点などを部下と対話しながら、部下の個人目標の話をします。

これは「業務不安」のボックスに当たり、不安や疑問をさらに深く対話していきます。

その個人目標を納得感のあるものにするため、目標を達成するプロセスで獲得できる能力について話し合います。

これは「パーソナリティ」のボックスです。

そして、そのパーソナリティや能力が、将来やりたいことに対してどう役立つかについて話します(「将来キャリア」ボックス)。

最後に改めて、これをやっていくうえでの不安を聞き、達成するためにできることについて対話をし、アクションプランへとつなげていきます。

このようにして、組織方針からブレイクダウンされてきた目標を、単なる上から降りてきた業務としてではなく、自分事として行うことができるように話を進めていきます。

なお、これは一例であり、たとえばボトムアップで目標を考えていく際には「振り返り」のボックスから始めて、現状の整理をし、それから「どれだけ伸ばせていけるか?」「どんな改善の余地があるか」を検討するために、「業務改善」のボックスの対話をしていく、という流れもあります。

どういった流れで話すのがベストかを、ぜひこの9ボックスを活用しながら探究してみてください。

なぜ、認識はずれるのかここまで、組織で対話を行っていただきたいテーマを9ボックスという形でお伝えしてきました。

ここからは、もう一歩踏み込んで、それぞれのボックスの中でどのようなコミュニケーションを持つべきか、具体的には「すり合わせ」に必要な考え方とスキルについて見ていきます。

そもそも、対話によって「認識をすり合わせる」とはどのような行為なのでしょうか。

ここで、皆さんがこれから9ボックスを活用しながら1on1を進めていく際に、根底として頭に入れておいていただきたい考え方をご紹介します。

次の図はNLP(神経言語プログラミング)という心理学で使われる結果をつくる人間の認知行動モデルについて示したものです。

ここでは、「なぜ対話が人の行動に変化をもたらすのか」という視点で理解を深めてほしいと思います。

このモデルでは、人間の行動は、「やりたいな」とか「やめたいな」という感情によって生まれるとされています。

いわゆるモチベーションが上がったら行動が加速され、下がったら動きが遅くなって結果が出ない、というようなイメージです。

では、その感情が湧く源泉は何かというと、思考です。

私たちは1日中、頭の中で意識・無意識にかかわらずいろんなことをグルグルと考えています。

しかし、その思考には、人によって特定のパターンが見られます。

たとえば、週に1度の定例会議。

あるメンバーは、頭の中で「あー、なんでこんな忙しいときに資料つくらなきゃいけないんだ。

そもそもなんで水曜日の午前中にあるんだよ。

一番営業行きたい時間なのに」と考えています。

一方で、別のメンバーは、「あー、時間ないな。

でも、とりあえず最低限皆に共有した方がいいものを資料に載せておこう。

水曜の朝はだいたい立て込むから、会議時間を変更した方がいいな。

どうやって提案しようかな……」と考えをめぐらせています。

この差はどこから生まれてくるのでしょうか。

丁寧な対話で思い込みが明らかになる一般的に考えれば、この2人の違いは、性格の違い、気質の違いなどと説明できると思いますが、ここでは、これを信念と呼びます。

「会議は自分で変えられない面倒なものだ」という信念を持つ人と、「会議のやり方は自分で変えていける有用なものだ」という信念を持つ人。

両者では、思考が変わり、その結果、生まれる感情も変わり、行動も変わっていきます。

この信念は、思い込みと言い換えることもでき、その人の性格や行動パターンは、信念・思い込みの集積ともいえるでしょう。

そしてこれらは無意識のパターンとして脳内にプログラミングされています。

実際に9ボックスを用いながら丁寧に対話を進めていくと、上司と部下の間で、さまざまな認識のズレ、お互いの思い込みが明らかになります。

業務指示に関して低いレベルで満足しているというような思い込みもあれば、反対に期待以上の仕事をしなければいけないという過剰な思い込みを持っている人もいます。

上司自身、対話の中で、知らなかった部下の一面に気づき、思い込みがあったことに気づかされるはずです。

組織で働く中で、組織に対する思い込み、お互いの個人に対する思い込み、業務に関する思い込みは、日々さまざまな形で現れ、ときとして、前著でも触れたような「びっくり退職(何の前触れもなく突然退職してしまう)」や継続的なパフォーマンスの低下をもたらします。

それでは当然、その信念に変化をもたらすことが行動の変化につながっていくと考えられるわけですが、はたしてそれはどのような形で可能なのでしょうか。

そのためには、信念というものが、そもそもどのようにつくられるのか、という理解が不可欠です。

このモデルにおいて、信念は体験によってつくられると説明されます。

たとえば、先程の会議の例でいえば、会議に参加したことで「有益な情報が得られた」という体験をした

ことのある人と、「自分の仕事との関係が見出せない話ばかりだった」という体験をした人とでは、会議に対する信念が変わります。

また、「会議の進め方について提案し受け入れられた」ことのある人と、「意見をしても拒絶された」という人とでも、会議に対する信念は変わります。

そして、これらの体験を通して得られた信念は、本人も気づかぬうちに、自分の感情や行動に日々影響を与えていくことになります。

もちろん、もっともその人の人格形成に大きな影響を与えるといわれているのは、幼少期や成長期の家庭環境や交友関係での体験とされていますが、日常の業務レベルでも、体験によって仕事に対する信念が日々つくられているのです。

内省を支援できる価値こういった行動の背景を知らぬまま、「ああしろ」「こうしろ」と行動変容を促して、表面的には変わったように見えても、部下の行動はすぐに元に戻ってしまいます。

人が行動を変えるために必要なことは、部下自らが、そういった思い込みを持っていることを自覚し、より良い信念を再獲得することです。

「じっくり対話し、すり合わせる」というのは、1つひとつのボックスの奥にある思考の仕方、つまり「思い込み」の部分に触れていくことに他なりません。

このことについて、ロチェスター大学教授のエドワード・L・デシ氏は、名著『人を伸ばす力─内発と自律のすすめ』(新曜社)の中で、「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」という言葉を用いて説明し、1999年に日本で同書が発売されて以来、国内でも少しずつこれらの考え方が普及され始めました。

それまでの日本では、動機づけの中心的な発想として外発的動機づけ、いわゆる「アメとムチ」の考え方があり、「報酬を与えるから、やれと言ったらやれ」で人を動かす時代でした。

人口も経済も右肩上がりで、モノをつくれば売れた大量消費大量生産の時代には、そのような軍隊式アプローチはかえって功を奏したと考えられています。

一方、時代は変化し、従業員1人ひとりの考える力が求められる現在においては、内発的動機づけ、つまり部下の内側から動機の源泉を引き出すことが求められています。

デシ氏は、内発的な動機づけを高める要素として、「関係性」「自律性」「有能さ」の3つをあげています。

とくに自律性とは物事を自分で選んで決めたという実感のことを意味しますが、前述の行動モデルと照らして考えれば、自らの信念・思考パターンに気づき、これからの行動を自分で決めるという「自己選択」のプロセスは、まさに自律性に直結するといえるでしょう。

現代に働く上司たちは、部下のこうした自己内省的な動きを支援できることがますます求められています。

認識をすり合わせる技術とは自分の信念、思考パターンに気づくことが大事といっても「言うは易く行うは難し」、すでに皆さんも感じていらっしゃる通り、その気づきを促すことは容易でなく、少々中長期的な腰を据えた取り組みが不可欠です。

しかしながら、そうした気づきを生み出しやす

い関わり方というものがあることも事実です。

その1つは、部下にたくさん「しゃべってもらう」ことです。

人間は、人に話をしたり、何かに書き出すようなアウトプットを通じて、初めて、自分が何を感じていて、その背景にどのような信念があり、それはなぜ生まれたのかについて自覚することができます。

そうした部下の内省を深めるために、聞き手としての上司の存在は大変重要な役割をはたし、また聞き方によって、内省の深まりには大きな差が生まれます。

もう1つは、部下が自分の行動を内省するきっかけを与えること。

具体的には、事実に基づいた上司の「フィードバック」を行うことです。

ほめるフィードバックは、部下が「こういう行動がいいんだな」と心の中で確認でき、安心することができます。

指摘するフィードバックは、怒ったり、叱ったりすることではなく、部下の行動について、客観的な視点で伝えることで、部下が「なぜ、自分はこの行動を繰り返しているのだろうか?」と考え始める、最初の一歩を後押しします。

このように、9ボックスの各ボックス内での諸認識をすり合わせる技術として、「しゃべってもらうスキル」と「フィードバックするスキル」という2つのスキルに整理し、続く第3章、第4章でそれぞれ説明をしていきます。

 

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