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第5章「何を(What)」「どう(How)」すり合わせるか──業務レベル

目次

第5章「何を(What)」「どう(How)」すり合わせるか──業務レベル

1on1だからこそできる「業務」の話をしよう業務不安ボックス言葉にできない不安を探り当てる「業務不安」をすり合わせるポイント「不安」の真因を特定する不安を「強み」へと押し上げる振り返りボックス「メタ認知」が自分の行動を変える「感情の呼び起こし」が教訓をもたらす

経験学習モデルを活用した振り返り方法業務改善ボックス「行動」のすり合わせはやり方を覚え、「考え方」のすり合わせはやりがいを見出すできる上司は自分の行動の手のうちをさらす部下の考えを引き出すための質問例

第5章「何を(What)」「どう(How)」すり合わせるか──業務レベル

1on1だからこそできる「業務」の話をしよう1on1ミーティングを実施されている方からよくある相談の1つに、「結局、業務の話に終始してしまうんですが、どうしたらいいでしょうか?」というものがあります。

日常業務と切り離された1on1の時間を、できる限り有意義に使いたいという思いから来る悩みだと思うのですが、これに対して私は「業務について話すことはまったく問題ありません」とお答えしています。

上司と部下における一番の共通の話題は業務ですので、それをテーマにするのはとても自然なことですし、部下も急にプライベートな話題に触れられるよりも抵抗が少ないでしょう。

ただし、本書の冒頭でも触れたように、1on1はそれが「部下のための時間である」ことに意義があります。

業務の話といえども、具体的な指示や進捗確認などは、どうしても上司自身がマネジメント上の不安を解消したいがための時間になってしまいがちで、部下が本当に求めるコミュニケーションではなくなってしまうケースが多いでしょう。

「すり合わせ9ボックス」の業務レベルに配置された3項目は、部下の視点に寄り添った形で「業務」を見つめ、対話を始める切り口として、過去の成功例から抽出されたものです。

それぞれ部下の成果に焦点を当てながらすり合わせを行い、日常の行動に結びつけていきましょう。

業務不安ボックス言葉にできない不安を探り当てる「業務不安」ボックスでは、現時点で部下が業務を通じて抱えている不安や、問題として表出していることの真因が何であるかなど、まだ顕在化されていない業務に関することに焦点を当てて話し合います。

これは氷山に例えられます(図51)。

現場では、海面に浮かぶように、目に見えて業務に支障が出ている、確認が必要など顕在化したニーズを、その場で話して解決しています。

しかし、問題が表れる原因はまだ隠れたところに潜んでいます。

ですからここでは、部下が問題事象やある事柄に対して「どのような考えや感情を持っているのか?」を丁寧に確認したり、問題が起こっている背景や、必要な課題を部下とすり合わせるなど、さらに一歩踏み込んだ対話を行います。

これにより、業務上のリスク回避やさらなるパフォーマンス向上を狙います。

以前、私の研修に参加した方からこんな話を聞きました。

その方は某金融機関で部長職を務める方なのですが、彼の部署のメンバーの1人に、データを収集して資料を作成することにとても卓越した能力を発揮する若手社員がいたそうです。

その部長は、ご自身が顧客に提案する資料の一部を彼に作成してもらい、その仕事をお願いした当初は、スピードもクオリティも申し分なく、自分なりの観点を持って取り組んでくれていました。

ですが段々と、お願いした期日に間に合わないことが増えたり、部長に対してより具体的な指示を要求したりするようになったそうです。

「やる気をなくしてしまったのかな?」と残念に感じていた部長でしたが、ある日の対話で、話を掘り下げて聞いてみると、次のような答えが返ってきたそうです。

「正直、つくった資料が本当に役に立っているのかが不安なんです。

部長の方でかなり手直しをされている空気を感じていて、もっと役に立つものをつくらなきゃと思ったら、前より慎重になってしまいました」これは部長としては予想しなかった言葉であり、自身の仕事の渡し方を深く反省したそうです。

それ以来、彼の仕事のどこが素晴らしく、どのように役に立ったのかというフィードバックを必ず伝えていると話されていました。

「遅れないでほしい」「間違えないでほしい」「ちゃんとやってほしい」……上司としては率直に部下に求めたいことですが、このような指摘は、いずれも部下の表面的な行動にしか目が向いていません。

言い方を換えると、上司の関心が部下にではなく、業務がうまく進むことにしか向いていないのです。

しかし実際、部下が同じ行動を繰り返す場合、その背後には、何らかの思考パターンや心理的な傾向が隠れており、そこに本人と上司が気づき、お互いに共有し合わなければ、根本的な解決には至りません。

また、問題としては表出していないが、心の中では深いネガティブ感情を抱えているというケースも多くあります。

この状態が続くと、本人の潜在能力が十分に発揮されないばかりか、ふとしたきっかけで転職してしまうなど、人的損失のリスクにつながります。

このケースの難しいところは、本人がその感情を自覚していない場合があるということです。

そもそも自分の内面を言語化するのは案外難しいものですし、長い社会人生活を過ごす中で、自分で自分の心の動きを無視する癖がついてしまった人も少なくないでしょう。

けれども、その人本来のパフォーマンスを余すことなく発揮するためには、まずその人自身が自分の抱える感情に気づき、言葉で説明できることが必要です。

そして、その支援ができるのは、まず上司でしょう。

考えてみてください。

あなたの部下は、彼らが持つ潜在能力のうち何パーセントくらいを発揮できているでしょうか。

「業務不安」をすり合わせるポイントそれでは部下が抱える業務上の不安を解消し、パフォーマンス向上に結びつけるため

に、上司としてどのような支援ができるでしょうか。

以下にそのポイントを整理します。

1非言語コミュニケーションに気を配る感情面、心理面の動きは、口にしてみて初めて気づくことも多いです。

しかし、部下の立場からすれば、曖昧な気持ちを口に出すことは、ただの不平不満や愚痴として受け取られるリスクがあったりと、生産的ではないと考える人も多いでしょう。

「業務不安」を引き出す前提として、部下が、言葉ではなく、非言語として発するシグナルを見落とさないことが重要です。

対話の中だけでなく、日常の中でも、気がついたことは記憶に留めておき、折に触れて、「あのとき、ちょっと表情が暗いように感じたけれど?」と話のきっかけにしてみるのも効果的です。

チェックする非言語コミュニケーションのポイント□いつもと違う表情を見せた(明るくなった・暗くなった)□いつもと声のトーン・熱量が変化した(上がった・下がった)□いつもと反応の時間が違った(即答した・不自然な間があった)□いつもと身なりの様子が違う(整っている・乱れている)□いつもと身の回りの様子が違う(整理されている・散らかっている)2期待を伝える前の項目でも触れたように、日常の中では、漠然とした感情についてなかなか口にしづらいものであり、むしろネガティブな内面ばかり吐露するメンバーは、チームであまり快く思われないこともあるでしょう。

しかし1on1においては、このような発言こそ歓迎すべきです。

1on1は部下のための時間であり、そのような発言にこそ、部下の背景に近づくヒントが隠れているからです。

「うまく言葉にできなくても、話してくれて大丈夫だよ」という姿勢を伝え、信頼を得られるよう働きかけましょう。

期待を伝えるトーク例「率直に感じていることとか、ざっくばらんに話せる時間にしたいと思ってるよ」「ロジカルじゃないことも言っていい時間にしよう」「生産性ゼロでOKだからさ、そのとき話したいことを話していこう」「同じことを感じる人がほかにもいるかもしれないから、気になることは教えてくれると助かるよ」3質問して引き出す「困っていることはある?」「モヤモヤしていることはある?」と気持ちを込めて聞くことができれば、少なくとも「上司は自分を気にかけてくれているんだな」ということは

部下に伝わるでしょう。

しかしこういった質問は、人によっては漠然としすぎていて、「大丈夫です」と表面的に返事をしてしまうことがあります。

もう少し答えやすい質問の工夫をしてあげることで、素直な気持ちを引き出せることがあります。

次のような観点を参考にしてみてください。

期待値とセットの質問質問の中に期待値をふくめることで、その基準とのギャップについて答えたり、考えたりするきっかけをつくることができます。

「何も気にせず気持ちよく仕事に集中できている状態を100点とすると、今は何点くらい?」「このミーティングの後は、全力疾走できそう?」「今の気持ちの状態を天気で表現すると?どうしたら快晴になりそう?」当てにいく質問「自分だったらこんな不安を持つだろう」「あのときの表情からすると、彼はこんな不安を持っているのではないか」という仮説を元に、ピンポイントで聞いてみます。

「○○の案件はお客様がうるさくて、大変そうだよね?」「そういう状況だと、○○とか気にならない?」「私だったら、○○な気持ちになっちゃうな。

大丈夫そう?」「あのとき、少し表情が暗かったような気がするけど、何かあった?」プラスワンの質問非言語の要素から、「何かありそうだ」と感じた際は、「あえて挙げるなら」や「強いて言うと」など前置きのある質問をすると、心理的に答えやすくなります。

「あえて懸念点を挙げるならどんなものがあるかな?」「強いて言うなら一番重そうな案件は?」「もし仮に1つリスクだと思うことがあるとすれば?」「仕事を進めるうえで、今は大丈夫だけど、こんなことが起こりそうだとか、起きたら嫌だと思うことはある?」4曖昧さをなくす質問をすると前向きな答えばかり返ってくるのに、相変わらず表情が暗かったり、エネルギーが低いと感じる場合、業務プロセスの中に、曖昧な部分が隠れている場合があります。

次に挙げるポイントを参考にやるべきことが明確になっているか、確認しましょう。

業務の目的若手の場合、言葉としてはわかっていても、イメージとしてつかめていないことがあります。

また、上司の説明がわかりづらく、本当はわかっていないのに「わかりました」と諦めてしまうこともあります。

次のような質問で、目的の理解度についてすり合わせることができます。

「自分の言葉で説明するとどんな感じ?」「結局、この仕事を通じて何につながれば嬉しい?」「誰が、何て言ってくれたら、この仕事は上手くいったことになるかな?」業務の目標数値化された目標はすでに共有されていると思います。

しかし、その値が導き出された背景や、目標に到達するまでのプロセスに納得感が乏しく、隠れ不満、隠れ不安としてくすぶっている可能性があります。

定量的ではない目標の場合、どのくらい具体的に目標をイメージできているかも、認識のずれが生まれやすい点でしょう。

「そもそもなんでこの目標数値なのかは伝えていたっけ?」「感覚値でいいんだけど、達成できるイメージは湧いてる?」「目標にある『信頼関係構築(その他抽象的なワード)』って、具体的にどんな状態を想定してる?」業務の内容や役割丁寧に伝えたつもりであっても、部下の中でやるべきことのイメージが湧き切れていないということもあります。

とくに新入社員に指導する際は注意が必要です。

作業工程を伝えるだけではなく、本人が「きっと上手くいく」という成功イメージを持てるところまで事前にすり合わせましょう。

役割を渡すときについても同様ですが、とくに形骸化していたり慣習となっている役割の場合、そもそもこの役割に期待されることは何か、上司の口から改めて伝え、「やりたい」という気持ちを高める必要があります。

「この仕事を進める手順を自分の言葉で説明してもらってもいい?」「最後までできるイメージは湧いているかな?どの辺りが心配?」「ちなみに、この役割の必要性って感じてる?進めるうえで大切にしてほしいことって伝えてたっけ?」業務の進め方仕事そのものは十分理解しているものの、進めるうえでの他業務とのスケジュール上の兼ね合いや関係者との人間関係、自分自身の計画性や実行力など、進めるプロセスについて不安を抱えている人は多いでしょう。

どのような不安を持ちやすいのか、部下ごとの傾向を知ることは人材マネジメントを行ううえでの必須項目ともいえます。

「誰に声をかけて進めるか見当はついてる?必要なら根回しするよ?」

「他の業務との兼ね合いは大丈夫?」「進捗確認のタイミングとか、どんな風に私がかかわると進めやすいかな?」以上、業務不安をすり合わせるポイントについて説明をしてきました。

このような観点で部下たちを見ていくと、不安が見えやすい人と不安が見えにくい人がいることに気づくはずです。

経験則からお伝えすれば、不安が見えにくい人ほど、気がついたときには自社や自業務から大きく心が離れてしまい修復不能となっていたり、何の前触れもなく退職願を提出したりと、後から取り返しのつかないケースにつながることが多いです。

紹介したポイントも参考にしていただき、ぜひ1人ひとりが感じている不安に耳を傾けていただければと思います。

「不安」の真因を特定するさて次に、不安に「気づく」というところから発展し、その不安の真因にアプローチする対話について考えていきます。

上司の役割として、部下が直面する問題や不安に対して、その場で火消しのような対処を求められることがあります。

一方で、今後継続的に高いパフォーマンスを発揮してもらうことを考えるのであれば、そのような不安が生まれる思考パターンを部下自身が自覚し、自ら対処したり、コントロールできるように導いてあげるのも上司の役割です。

具体的なスキルについては、すでに第3章、第4章ですり合わせの技術としてお伝えした通りですので、ここでは過去に私が経験した例を紹介し、不安の真因を特定し、解消するというプロセスがどのようなものか理解していただければと思います。

とあるクライアント先で、複数の若手社員と定期的に1on1を実施させていただく機会がありました。

その中に、とりわけ優秀な若手社員Aさんがいました。

彼の能力の高さは上司も認めていたのですが、彼には1つだけ課題がありました。

それは仕事を抱え込み過ぎてしまうということです。

「もう無理だ」と限界に達するまで声を挙げないため、過去には上司が半ばつきっきりでタスク管理をしたこともありました。

しかし、これではせっかくの彼の優秀さが活かされないと考えた上司は、現在は、なるべく業務のコントロールを彼に任せ、ギリギリまで手を出さないようにしているとのことでした。

1on1を始めた当初、ハキハキとして、話の論理性も明確、かつ人当たりも良く、先輩からすれば彼に仕事をお願いしやすいことは容易に想像できました。

一方、踏み込んで聞いてみると、たしかにタスクコントロールについては、過去の失敗経験から不安を抱えてしまっているようでした。

私はさまざまな仮説を立てました。

プライドが高く、完璧主義で、1つひとつの仕事に時間をかけ過ぎなのか、それとも、真面目さゆえに、先輩の頼みを断れないところがあるのか。

私は少し長期的に彼を観察していくことにしました。

ある日の1on1で、彼のタスク状況が、顧客や社内の先輩などから頼まれた仕事で満杯になっていて、相当苦しい状態に達していることがわかりました。

そこで私は、彼が抱える仕事のうち、最後に引き受けたという仕事を指し、「なぜこの状況で、この仕事を引き受

けたの?」と聞いてみました。

すると、彼は、これまでの冷静な口ぶりとは違う、高ぶった口調で即答しました。

「私の他にやれる人は誰もいないんです。

先輩たちも皆、忙しいから私に仕事を頼むんですよ」私は、ここが彼の本音だと察知し、掘り下げてみることにしました。

「それは本当?」(具体化質問──定義)「……だって、私が業務をいっぱい抱えていることは、皆、知っているはずです。

毎晩、終電まで会社にいるんです。

上司の○○さんだって、それはご存知のはずです」彼が言うには、そんな自分にお願いするということは、他の人も同じような状況で、仕方なく私に回ってきた仕事であり、若手である自分はそれを断ることはできない、ということでした。

私は、その場は彼の言うことを受け止めました。

後日、上司の方にそれを共有し、他の先輩にもそれとなく話を聞くと、「Aくんはいつも快く仕事を引き受けてくれる。

そんなに仕事が忙しい状態だとは知らなかった」ということでした。

実際のところ、Aさんよりも、年少のメンバーは何人もおり、彼らの中には手の空いている人も少なからずいたようです。

Aさんが学ぶ必要があったのは、人は他人の業務状況にそこまで関心を持って理解しているわけではない、ということでした。

だからこそ、皆、自分の状況を察してくれているだろう、ではなく、自分の業務状況をきちんと言葉で表現する必要があります。

その観点がAさんには不足していたのです。

その後、上司を交えた対話の中で、どのようにしたら業務を適切にコントロールできるのかについて話し合いを持ちました。

上司としてはマイクロマネジメントをしてもいいが、可能な限りAさんには自分の時間の使い方を自分でコントロールできるようになってほしいという期待を伝え、Aさんも納得して、自分の業務量を可視化して、周囲に伝えることについて前向きに考え始めてくれました。

不安を「強み」へと押し上げる以上の話はあくまで一例ではありますが、「仕事を抱え込む」というようなありがちな行動パターンの背景にも、人によってさまざまな真因が隠れています。

そしてそれは、1人の人間として部下と向き合って、初めて姿を現します。

本節の最後に、ここまで用いてきた「不安」という言葉について補足します。

一見ネガティブな印象を受けるこの言葉ですが、裏を返せば、意識がよく向くところ、つまり「強み」でもあります。

Aさんの例でいえば、彼の強みは仕事に対する人一倍の責任感と貢献意欲の高さでした。

ビジネスパーソンとして、自分の弱さや不安を強みへと転換していけるかどうかは、今後の人生に大きく影響します。

そして、それを後押ししてくれる上司と出会えたとき、

その上司の存在は、一生忘れられない恩人として記憶されることでしょう。

上司とは、部下にとってもっとも近い場所にいる存在であることを忘れないでいただきたいと思います。

振り返りボックス「メタ認知」が自分の行動を変えるたとえば、突然あなたの目の前にボールが飛んできたとして、あなたはどのような反応をするでしょうか。

スポーツに長けた人ならば、即座にそれをキャッチしようとするかもしれません。

あるいは、恐怖から目を閉じてしまう人、手で顔を覆う人、打ち返そうとする人、それぞれの反応の仕方があります。

これと同じように、業務上で何かトラブルが発生した際に、即座にそれを解決しようと動く人、弁明のためのロジックが頭に思い浮かぶ人、焦りから冷静さを失ってしまう人など、それぞれ反射的に取る行動は異なります。

前述したように、人間は過去の経験によってつくられた信念、思考パターンに基づいて行動をする生き物であり、日頃、外部からの刺激に対してなされる判断や反応、行動の多くがこのような無意識の領域で行われているといわれます。

それでは、一度つくられてしまった自分の行動パターンは変えることができないのでしょうか。

ここでキーワードとして紹介したい言葉が「メタ認知」です。

元々は認知行動科学の領域で使われていましたが、近年では日常でも使われることが増えてきました。

メタとは「○○を超えて」や「より高次の」という意味です。

つまり、自分の行動や思考のパターンをより高次のレベルから俯瞰して捉えるということです。

自分の行動を変えるには、まず自分の行動パターンを知ることが不可欠であり、つまりこのメタ認知こそが、行動変容の第一歩というわけです。

しかしながら、普段、とにかく忙しい毎日を過ごしている私たちは、こうした自分自身を客観視する時間を持つことができません。

そして目の前の仕事に忙殺され、無意識のうちに物事を判断し、過去の延長である惰性的なパターンでの生活を続けてしまうのです。

そこで9ボックスの1つのテーマとして、メタ認知を習慣的に行うために大切な業務の「振り返り(内省)」の項目が設けられています。

振り返りとは、自分の経験や行動について「どのような意図があったのか?」「その結果、どのようなことを考え、感じたのか?」などを深く省みることを意味します。

1人で行うことにも意味はありますが、第3章でも扱ったように、自己客観視をより深めるためには、人に話して自分の考えを「しゃべる」と一層の効果があります。

これに加えて上司からの目線でフィードバックを行ったり、質問を投げかけることで、部下はさらに多くの角度から自分を見つめるきっかけを手に入れることができるでしょう。

ちなみにこのメタ認知をする力(=メタ認知力)は、国際団体の「ATC21s(21世紀型スキル効果測定プロジェクト)」によって21世紀に求められるようになる10のスキルの1つに認

定され、今後ますます重要視されることが予想されます。

「感情の呼び起こし」が教訓をもたらす「メタ認知」の促進の他にも、「振り返り」の目的・メリットについては、多くの文献で触れられています。

その中でもっとも重要なものの1つが、「学びの持論化」です。

本書では「教訓化」としています。

たとえば1つの業務が終わった際に、「その仕事の出来はどうだったのか?」「良かったことは何で、改善したいことは何か?」などを振り返る時間を持つことができれば、その経験から学びを得て次の業務に活かすことができます。

この習慣があるかないかで、その人の生み出す成果の確実性や成長速度に、雲泥の差が生まれます。

そして、この教訓化を効果的に行うポイントが「感情の呼び起こし」です。

人は良くも悪くも、過去に味わった感情を忘れてしまいがちです。

たとえば遅刻をして気まずかった、忘れ物をして恥ずかしかったなどの感情を味わい、次からは気をつけようと思っても、時間が経つとその感情は風化し、危機意識も薄れ、また同じ失敗を繰り返してしまいます。

ですから、落ち着いたタイミングで振り返りをして、しゃべることで、改めてそのときに得た感情を呼び起こすのです。

それにより、冷静な視点で「次回からはどうすれば改善されるのか」といった具体的な行動を選択することができるのです。

振り返りにはこれ以外にもたくさんの価値があり、すべて紹介したいところなのですが、紙幅の関係もあり、主要なポイントのみをお伝えしました。

ここからは、これらの効果をより大きなものにするための上司のかかわりを見ていきたいと思います。

経験学習モデルを活用した振り返り方法「振り返り」にはさまざまなやり方があります。

人によっては、日記を書いたり、今日の出来事を家族に話したり、シャワーを浴びながら考え事をしたりと日常の習慣が振り返りとして機能していることもあります。

対話の場では、そういった振り返りのメカニズムを濃縮し、より効果的にメタ認知を促したり、気づきが生まれやすいように、部下の話や思考を導いてあげることが大切です。

本書では、デービッド・コルブの「経験学習モデル」を活用した振り返りの進め方とポイントについて紹介していきます。

大変有名なモデルであり、このモデル自体については、本書を手に取った方であれば、一度は耳にしたことがあると思います。

そこで本書では、モデル自体の説明ではなく、著者なりの解釈に基づいた形で、対話の中でこのモデルを活用するポイントとして整理し、解説したいと思います。

まず、このモデルの基本プロセスは次のようなものになります。

①具体的経験(経験する・行動する/またはそれらを思い出す)②内省的観察(振り返る)

③抽象的概念化(教訓・学びにする)④能動的実験(新たなチャレンジをする)これらのプロセスに沿って部下の振り返り支援のポイントを、順に説明していきます。

1具体的経験振り返り支援①経験の抽出働く部下の毎日は、出社してから家に帰るまで、多くの経験に溢れています。

その中から、どの経験にフォーカスを当てるのかを選択することが最初のステップです。

部下にとって印象深かった経験や、心に引っかかりの生まれた経験など、何か心が動く要素のある出来事は、部下の自己理解や学びにつながる可能性が高いでしょう。

記憶の新しさでいえば、直近、終わったばかりの仕事などについて考えるのも効果的です。

また、「できなかった」ことにフォーカスが当たりがちな振り返りですが、「できたこと」にも等しく焦点を当てることで、成果の再現性につながり、よりポジティブな姿勢で行動改善につなげることができます。

振り返り支援②感情の呼び起こしすでに述べた通り、人間の行動の原動力となる感情を俯瞰することは、自己理解のためにとても大切なファクターです。

しかしながら、同時に感情は容易に忘れてしまうものなので、上司は部下がその経験で感じたことを思い起こさせ、その感情を受け止めてあげるような支援が必要です。

気持ちが動かない振り返りからは、自分にとって心から大切だと思える教訓を導き出せず、表面的な思考で終わってしまいます。

そのため、とくに第3章で扱った「しゃべってもらうスキル」を意識して活用します。

対話例①経験の抽出──感情の呼び起こし上司「最近、何か印象に残ったことはある?」部下「そうですね……う~ん、何だろう」上司「ちょっと嬉しかったとか、悔しかったとか……。

強いて言うならコレかな?みたいなのでもいいよ!」部下「……嬉しかったことでいえば、やっぱりA社の受注は嬉しかったですね」上司「おぉ、あれは僕も嬉しかったよ。

とくにプレゼンが良かったみたいだね」───(肯定の返し)部下「そうなんですよ」上司「元々いけそうな感じはしてたの?」部下「いや、五分五分っていう感じでしたね。

先方の担当者の方はうちの案をかなりプッシュしてくれてたみたいですが、決裁者の上長はN社の方が気に入ってたみたいで」上司「そうか。

じゃあ受注が決まったときは、どんな気持ちだったの?」───

(具体化質問)部下「いや、思わずガッツポーズでしたね」上司「ガッツポーズ!なるほどねぇ~」───(共感の返し)部下「はい」上司「せっかくの1on1だから試しに聞くんだけど、やっぱり受注すると嬉しい?」部下「そりゃ嬉しいですよ」上司「おぉ、どうして?」部下「どうして?」上司「うん。

あ、たとえば、先輩のBさんは、競合に勝ちたいっていうのがモチベーションになっているらしくてさ。

だから、競合が多い案件で受注できるとめっちゃ嬉しいんだって」部下「なるほど……。

僕の場合、あんまり競合は気にならないですね。

それなりに準備をして臨んだ提案でしたし……なんだろうな。

やっぱり担当の方の悩みとかを聞いているわけだから、その期待に応える提案ができたというか、役に立てた、というのが嬉しいような気がします」上司「担当者の期待かぁ。

つまり顧客の期待ってやつだよね。

たしかに……。

ちなみに今回のお客さんはどんな風に連絡をくれたの?」───(整理の返し)部下「それなんですけど、普通だったらメールじゃないですか。

なのに、電話でわざわざ連絡くれたんです。

『決まりましたよ!』って。

正直、それが一番嬉しかったですね。

信頼関係ができているっていうか」上司「それ、めっちゃいいな」───(共感の返し)部下「そうなんですよ!」2内省的観察振り返り支援③視点の切り替えたとえばゴルフで「今日はスイングの調子が良いなぁ」と思ったとします。

その背景には、もちろん、自分の打ち方が良くなってきたという理由もあるでしょう。

しかしそのほかにも、体調が整っていたとか、仕事が片づいていて気持ちの面で集中できた、あるいは道具や芝や天候など自分以外の要因の影響もあるはずです。

業務においての成功や失敗も、さまざまな関係の中で生じているものです。

部下がさまざまな視点から経験を見つめられるよう、質問を通じて支援していきます。

振り返り支援④真因の特定や分析さまざまな角度から経験を見つめたうえで、自分にとってもっとも重要な要素は何かを分析します。

ときには複数の経験を並べたときに共通のパターンが浮かび上がることもあるでしょう。

上手くいったことは再現へ、上手くいかなかったことは改善へとつなげられるように経験を掘り下げていきます。

対話例②視点の切り替え──真因の特定や分析上司「ちなみにさ、論点変わるけど、今回の受注の勝因はどのへんにあるのかな?」部下「勝因ですか。

そうですね……そう言われると困りますね(笑)」上司「あ、もちろん、今回の受注は文句なしに君の実力だと思っててさ。

だからこそ、これを次につなげて、ますますいい波に乗ってくれたらいいなって思うからさ(笑)」部下「たしかに…そうしたいです(笑)」上司「たとえば提案の内容が良かったのか、プロセスが良かったのか、お客さんとの関係構築が上手くいってたのか……いろいろあるとは思うんだけどね」部下「関係も良かったですけど、それはどの案件でも大事にしてるからなぁ……。

ま、若干いつもより落ち着いて進められていた気はしますけど……。

なんだろうなぁ、勝因」上司「そうだねぇ……。

関係も良くて、落ち着いて進められていて……」───(整理の返し)部下「……」上司「参考になるかわからないけど、1つ君の動きを見ていて気づいたことがあって。

前から君、わりと締め切りギリギリに手をつけて、土壇場で力を発揮するタイプだったじゃない。

それはある意味、君のスタイルだし構わないんだけど、今回は、早めに提案書をつくり始めてる印象があったよ」───(認める)部下「たしかに……そうですね。

それは、たしか、わりと最初の方の顧客訪問で、担当者の方がかなり熱く問題意識を話してくれたんですよね。

それで自分も火がついて、すぐに手をつけたんです。

案の定、それからしばらくはまた寝かせてしまってましたけど……。

でもそれでいくと、その思いを引き出せたときに、これはイケるなっていう感覚もあったんです」上司「イケるなっていう感覚?」───(整理の返し)部下「はい。

受注できそうだなって。

それくらい担当者の方の思いをキャッチしたっていう手応えがあったんですね。

だから早く形にしたかったんです」上司「なるほど。

それってよくある感覚なの?」部下「どうでしょう……」上司「なんというか思いに触れると、やる気が出る、みたいな」部下「どうだったかなぁ……」3抽象的概念化振り返り支援⑤教訓の言語化教訓の言語化というのは、曖昧なイメージに言葉を与えて、教訓という形で繰り返し

認識したり、ほかの人に共有できるようにしたりすることです。

「この業務では○○が大事」「自分には□□という特徴がある」と表現したり、ときには図などを用いて表現します。

一度言葉で定義できた教訓は、後から修正し、より自分にとって意味のあるものへと変えていくことができるため、何にしても、まずは言葉にすることが大事です。

上司は、部下の言語化を積極的に後押しし、ときには部下のアイデアを言葉にして、「それってこういうこと?」などと提示することも効果的です。

また、部下にとって本当に大事にしたいと思える教訓は、部下の気持ちが乗って、心から話しているときに見つかることが多くあります。

言語化を急がず、まずは部下に気持ち良く話し切ってもらうことを大切にしましょう。

4能動的実験振り返り支援⑥実践と継続の後押し概念化した教訓をどのように実践へと活かすことができるのか、ここも1つ試行錯誤が必要です。

たとえば、ある仕事が特定の状況で失敗することが多いという教訓が見つかったとしても、「その状況を避けるにはどうしたらよいか?」「その状況に陥ったときにどうしたらよいか?」など、それを日常に活かす切り口を見つけなければなりません。

そこで上司の立場では、部下が見出した教訓を実践で活かせるように後押ししたり、時折「そういえば、あのとき話してたヤツは上手く活かせてるかな?」「その後、進展はあった?」などと思い出してもらうことで、継続的に成長していく感覚をつかんでもらうことができます。

対話例③教訓の言語化──実践と継続の後押し部下「あぁ……!たしかにあの時もあの時も、その人の話を深く聞けたなと思うときは、仕事にもすぐに取りかかれるし、結果も上手くいくことが多いように思います」上司「本当?つまり、人の話を深く聞けると結果が出やすい、と。

それはめちゃくちゃ大事な気づきだね」───(教訓の言語化)部下「そう……だから自分は、わりと熱いタイプの人と仕事がしたいんですよね」上司「なるほど、思いにあふれる人との仕事がいいんだね(笑)」───(整理の返し)部下「まぁ、現実はなかなかそうはいかないですけどね」上司「う~ん……。

たとえばさ、自分から相手の思いを引き出すってのは1つあるよね」部下「まぁそうですね」上司「それと……今回のお客さんにしても、どうして君に熱く語ろうと思ったんだろう。

君にそういう強みがあるのかもしれないよ?」部下「そうなんですかね」上司「試しにさ、次の訪問で、お客さんのなるべく個人的な思いを引き出そうとしてみるのはどう?」───(実践の後押し)部下「実験っていうことですか?そうですね……やってみます」上司「うん。

また結果、教えてよ」部下「わかりました!」以上、9ボックスの「振り返り」のテーマについてポイントを解説してきました。

繰り返しになりますが、誰もが同じ行動を取っていれば大きな成果につながった軍隊型

組織の時代は終わり、メンバーの1人ひとりが自分の意見を持ち、実行できる、いわば個の力が求められる時代です。

21世紀型スキルの話も紹介しましたが、メンバーレベルで振り返りの力が求められるということは、裏を返せば、マネジメントにおいても、部下の振り返りを支援する力が必須になるということでしょう。

与えた指示を効率良くこなす部下ではなく、自分の頭で考えて動ける自立した部下を育てることが、今後の人材マネジメントの目指すところなのです。

業務改善ボックス「行動」のすり合わせはやり方を覚え、「考え方」のすり合わせはやりがいを見出す業務レベル最後のボックスは「業務改善」。

部下と一緒に少し先の未来に目をやり、今以上の成果を生み出すためにできることは何かをすり合わせる項目です。

実際に現場で1on1に取り組む人たちの声を聞くと、このボックスのテーマを使って、具体的な業務改善について話している人もいれば、業務やサービスの今後についての議論に充てている人もいるようです。

ほかにも、今後起り得る業務上のリスクや、市場や競合の動向、自社商品の可能性についてなど、このテーマで話すべき内容はたくさんあるでしょう。

一方で、ここでも例に漏れず、上司が一方的に部下に「教える」という構図にならないよう注意が必要です。

あくまで考える主体は部下であり、部下が業務改善に向けて自ら考えを深めていけるよう、上司は支援をしていきます。

そのポイントについて説明をしていきたいと思います。

このボックスですり合わせたいのは、業務改善に向けた具体的な施策や行動というよりも、むしろその根底にある思考プロセス、「考え方」についてです。

上司が伝えたからわかる、言ったから気づくではなく、自分の業務については上司と同等の視点で物事を考え、必要な改善を自ら行える、それが理想の状態といえるでしょう。

しかし、考え方といっても、そのすべてをすり合わせるのは難しいものです。

そこで、上司と部下との間で、とくに優先的にすり合わせるべき4つの観点をご紹介します。

ご自身と部下とで、現時点でどれくらい考え方の違いがありそうか、チェックしてみてください。

□時間的視野の広さどれくらいのスパン(期間)で物事を考えているか。

経験を積むほどに、より長期的な視野で物事を考えることができます。

□関係者の理解業務を取り巻く関係者の視点から考えているか。

経験を積むほどに、多くの立場の関係者の視点を持てるようになります。

□バランス量と質、挑戦とリスク管理など、二律背反する事象に関して、どのようなバランス感覚

を持ち、物事を考えているか。

□意志自分の業務にこだわりを持ち、こうしたいという自らの意志に基づき考えているか。

または自分の意志を持つ大切さを理解しているか。

ここに挙げたような観点に対して、考え方の差がある状態では、議論をしてもなかなか噛み合わず、どうしても視野の広い立場の人が、もう一方に指示をする、教える、という形になってしまいます。

もちろん、本当の意味で上司と同じ視点で物事を考えられるようになるにはある程度の時間と経験を要するでしょう。

しかしながら、それに至るまでの時間をなるべく短くし、早期にこれらの観点を持てるようになると、部下の成果の増大のみならず、部下が仕事に楽しさややりがいを見出すことにもつながります。

できる上司は自分の行動の手のうちをさらす前項に挙げたような観点について、どのようにその考え方をすり合わせていけるのか、2つのポイントに分けて解説します。

1つ目のポイントは、上司から部下へのアクションとして、上司が自分の考えを積極的に部下に伝えることです。

新人や若手など、業務を深く習熟できていない時代には、上司から部下への指導の中心は、具体的な行動レベルでの指示や、やり方のすり合わせをして、上司の期待と部下の現状のギャップを埋めていきます。

これを「ティーチング」と呼びますが、部下の自立を促すうえでは、部下の成長段階に合わせて関わり方を変え、具体的な行動レベルに関する共有から、その後ろ側にある、行動の背景や意図の共有へと比重を移していくことが必要です。

実際に多いのは、いつまでも指示的なコミュニケーションばかりで部下の自立を阻害しているケースや、指示した行動がある程度できるようになったタイミングで関わりの量そのものを減らしてしまうケースです。

これでは、自ら深く考えて動く部下は育ちません。

たとえば、上司と部下が同じ仕事を一緒に進めるような状況であれば、その進捗の中で「○○の理由で今回はこう判断しようと思う」などと、少ししつこいくらいに意思決定の背景を積極的に共有していくようにするといいでしょう。

また、普段はなかなか仕事を一緒に進めることが少ないという場合には、1on1の中で、上司自身が今抱えている仕事について部下に共有し、「ちなみに○○君はどう思う?」などと部下にアドバイスを求めるのも効果的です。

それらのやり取りを通じて、上司がどのような観点、考え方を持って業務に取り組んでいるのかが少しずつ部下に浸透していきます。

上司の行動の意図を伝える対話例を、前述の4つの観点を中心に見ていきます。

上司「今回、なぜイレギュラー案件を受けたかわかる?」部下「今月、売上が厳しいからですよね」上司「それはまた別の話だね。

ちゃんと理由があるんだけど、君が僕の立場だったらどうしてた?」───(関係者の理解)部下「もちろん受けてましたよ。

売上がほしいですから。

開発と多少衝突してでも、それを抑えてやっていくのが我々の価値ですからね」上司「まぁ、そうなんだけど、結果に至ったプロセスを知ってほしいんだよね。

この立場に立つと影響の範囲の全体観と時間軸を考えないといけないんだよね」───(時間的視野の広さ・バランス)部下「全体観と時間軸ですか?」上司「そうそう。

とにかく目先のこと、つまり点でものを見ないということを僕は意識しているんだよね。

まず、関係者が誰なのかを正確に見極めたうえで、これを意思決定したらどういう範囲で影響があるかの全体観を考えていて……。

今回でいうと関係者と影響ってどういうことだと思う?」───(意志)部下「営業と開発ですよね」上司「そうだね。

あとは今回のクライアントだね。

社内のことで細かくいうと、開発の今の業務稼働の状況や、営業の中での今回のクライアントの占有率も確認したかな」───(関係者の理解)部下「なるほど」上司「それから時間軸だね。

クライアントに今回恩を売っておくことで、後々どういう効果や関係性が期待できるか。

あるいは、過去において迷惑をかけたことはなかったか。

そういう時間軸をひと通り検証してるかな」───(時間的視野の広さ)部下「なるほど。

意思決定のときにそんなことを考えてるんですね」

上司「そうそう。

とにかく意思決定のときには、全体観と時間軸を検証することを大事にしているから、君にも知っておいてほしいんだよね」───(意志)このように、上司の意思決定の仕方や考え方を伝えていきます。

もちろん、会議やツールを使ってチーム全体にも伝えられることだとは思いますが、部下の理解度を確認しながら個別にも伝えていくことで、より考えが理解浸透していくでしょう。

補足として、注意していただきたいのは、決して上司の考えを部下に押しつけるのではなく、上司なりの考え方であると前置きをしたうえで語っていくことです。

部下は上司の話にヒントや着想を得て、自ら視野を広げ、思考が鍛えられていくでしょう。

部下の考えを引き出すための質問例2つ目のポイントは、部下から上司に自分の考えを話す、上司視点で言い換えれば、「部下の考えを引き出す」ことです。

前項のように、上司の意図を共有することはもちろん大切ですが、そもそも上司と部下とで見ている世界や経験が大きく違う場合には、上司の言うことがいくら正論であっても、なかなか部下として理解することが難しい場合もあります。

それでなくとも、上司が自分の考えを伝えるアプローチに加えて、部下の視点から少しずつ視野を広げていくアプローチも必要となってくるでしょう。

対話の進め方や引き出し方については、前章までを参照していただくとして、ここでは業務改善の対話を始める切り口になりやすい質問の例と、視野を広げる質問の例をいくつか紹介します。

業務改善の話を引き出す質問の例「今よりいい仕事をするには何が必要だろうか?」「今より仕事の価値を高めるにはどうしたらいいと思う?」「今より仕事を速くするためのアイデアはあるかな?」「今より品質(満足度)を高めるためにできることはあるかな?」「今より売上を伸ばす方法って考えたことあるかな?」「今より業務の安定性を高めるにはどうしたらいいかな?」視野を広げる質問の例「この業務の目的ってどう考えてる?それを踏まえるとどうかな?」「ちなみに長期的に考えるとどう思う?」「お客様の立場からしたら、どんなことを感じると思う?」「クオリティも大事だけど、業務の全体として他に意識すべきことってどんなことがあるんだろうね?」「自分としてはどうしたいの?」これらの質問を用いながら、次に続く対話例も参考に、ぜひ部下の思考プロセスを強化

していただければと思います。

上司「少し先を見据えて、今よりいい仕事をしていくにはどんなことが必要だと思う?」───(業務改善を引き出す質問)部下「そうですね……どんなことでもいいんですか?」上司「もちろん」部下「う~ん、何だろう……」上司「……」───(沈黙を待つ)部下「もう少し、落ち着いて仕事をした方がいいと思うんですよね」上司「ほう。

落ち着いて、というと?」───(促し)部下「今って、システムに関することならどんな要望もお客さんから受けるじゃないですか?」上司「うん」部下「その結果、開発部のメンバーも疲弊しているし、僕ら営業もいつも新しい勉強をしないといけなくて……。

何かもっと自社の強み領域をとがらせて、それ以外はやらない、みたいな方向性に転換した方がいいような気がしています」上司「なるほどね。

たしかに開発もしんどそうだよなぁ」───(共感の返し)部下「その方が効率も上がるはずです」上司「君の言う通り、前からそういう声は出てるんだけど……。

たとえば君がお客さんの立場だとして、たくさんの外注業者の中からやっと気に入る会社が見つかって、また別の仕事をお願いしようと思ったら、強みではないからと断られるのと、強みではないけれど対応できないか検討しますと言われるのと、どっちがいいかな?」───(視野を広げる質問)部下「うーん……。

断るのはある意味での誠実さなのかもしれないですが……。

また別の会社と一から関係を築くことを思えば、最初から手広くやってくれる会社と付き合いたいと思うかもしれないですね。

……実際、お願いしたいと思える業者を見つけるのって大変なんですかね?」上司「いや大変だと思うよ。

まずうちみたいな会社は五万とあるわけだし……。

一方で、なんでもかんでも引き受けていたら自社内はパンクしてしまうというのも事実だよね」部下「たとえば、あくまでうちが窓口で、その領域に強い会社がありますので……と、ほかの信頼できる企業を紹介してマージンを取る、というのはどうですか?絶対その方が効率もいいし、世の中としては価値につながるんじゃないでしょうか」上司「あはは、面白いね。

いや本当はそうできたら業界も活性化していいよなぁ。

あとは、うちが自社の強み領域に絞って、ほかは別の企業に流すとしたときに、それで今と同じだけ、あるいはそれ以上の売上を伸ばしていけるかというのもあるね」───(共感の返し)

部下「売上かぁ……。

そんなにパイの大きな分野ではないですしね……」上司「うん。

君の言うように、分担して、領域に特化した方が、効率的ではあるんだけど、それを推し進めるとなると、難しい部分もあるんだよね。

ただ、君の問題意識にも共感できるし、何かいいアイデアが見つかるといいんだけどね」───(業務改善を引き出す質問)部下「そうですね……。

あ、じゃあたとえば、自社のメンバーが1人ひとり自分の得意領域を持つというようなのはどうですかね?明確に分けるのは難しいかもしれませんが、こういう依頼だったら、○○さんが詳しかったなとか相談できれば、効率も上がるし、社内のノウハウももっと活かされると思います。

今はそれぞれがそれぞれに幅広く取り組んでるので」上司「なるほど!それ、めっちゃいいね。

最終的に制度としてやっていけるかどうかはわからないけど、まずメンバーレベルでそういうのを意識してやっていくのもいいかもね」部下「本当ですか」上司「で、君の得意領域はどのあたりなの?」部下「ギクッ(笑)」上司「言い出しっぺからやっていかないと」部下「そうですね。

……となると、まずは自分の得意領域を伸ばさないとだな」上司「伸ばすのも大事だし、『これは任せろ!』と積極的に社内で発信することも大事だね」部下「発信かぁ。

……勇気がいるなぁ」上司「なんだよ(笑)。

まぁ始めは小さく、できることから動くことが大事だよ」部下「そうですね……!」以上、業務レベルのボックスについて説明してきましたが、実際、業務の話になると、あれこれ言いたくなってしまうのが、マネジメント上の責任者である上司の宿命ともいえるでしょう。

しかし、1on1などじっくりと対話する機会だからこそ、日常の業務中とは視点を切り替えることが大切です。

直近のミスや失敗そのものの修正や反省を迫るのではなく、その背景に目を向け、どうしたらより良い継続的な行動につながるのか、部下の「プラス」を伸ばすような意識でかかわってください。

 

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