第7章「何を(What)」「どう(How)」すり合わせるか──組織レベル
エンゲージメントはどうつくられるのか理念・制度・カルチャーボックス会社のことを知らなくなった従業員理念の浸透は仕組み化する必要がある組織制度には会社の哲学が詰まっている
第7章「何を(What)」「どう(How)」すり合わせるか──組織レベル
エンゲージメントはどうつくられるのか組織レベルの対話の場は、経営の考えを組織の隅々にまで行き渡らせる非常に重要なコミュニケーション・インフラです。
このコミュニケーション・インフラを組織の中に有するかどうかは、今後の企業競争力の大きな源泉になるでしょう。
なぜなら、組織の中で対話を当たり前にしていくまでには大きな労力を要するからです。
しかし、だからこそ、それが優位性になります。
とくに商品やサービス自体に大きな違いをつくりづらい業種や業態は、組織力を高めていくことが他社との差別化につながります。
近年、組織をつくっていくうえで「従業員エンゲージメント」の重要性が叫ばれています。
一般に、従業員エンゲージメントの高い企業には、以下のような傾向があることが、研究から明らかになっています。
・顧客満足度が高まる・売上、利益の伸長率が高い・高い生産性を上げ、品質の向上につながる・離職率が下がる『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(新居佳英、松林博文著、英治出版)によると従業員エンゲージメントとは、「組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」と定義されています。
私なりに解釈すると、まず自主的貢献意欲とは、他者に対して「やってあげている」、あるいは他者から「やらされている」というような感覚ではなく、自分事として「やりたいからやっている」と感じられることだと思います。
言い換えると、自分のやりたいことや進む方向が組織のそれとシンクロしていて働きがいを感じられている状態です。
そして、そういう認識を持つためには、組織と組織に所属している人についての深い理解に基づく共感が必要です。
これには段階があります。
まずは、知識や情報として頭で知っている、「知ってます」レベルの理解。
次に腹に落ちて深く理解している、「よくわかります」レベルの理解。
さらに、自分の考えや経験とつながり共感に達する、「私もそれが言いたかったんです」レベルの感覚です。
これは言い換えれば、図71のように組織の考えと部下の考えが対話によってすり合っていくプロセスです。
そしてすり合うためには、第5章、第6章で見てきたように「部下自身の考えを深く理解すること」と、本章で扱う「部下が組織に関する深い理解をすること」がセットで必要になります。
対話によってそれらが合わさり、共感が生まれると、部下のエンゲージメントは向上していきます。
まさに、これが組織レベルで必要な対話なのです。
組織レベルの各ボックスはそれぞれ対話するポイントがあります。
まず、「理念・制度・カルチャー」では、過去からつくられてきた組織の思想が、今の組織の諸制度へと深く結びつけられるように。
「人間関係」では、現在の組織のメンバーの深い理解を通して、良好な関係や広い視野を持てるように。
そして「組織方針」では、今後の組織の方向性についての情報理解を通じて、組織と部下の業務成果や成長とのつながりが感じられるように対話していきます。
このような組織レベルの各ボックスの諸認識のすり合わせは、部下の働きがい向上に大きく寄与していくはずです。
それでは1つひとつのボックスを見ていきましょう。
理念・制度・カルチャーボックス会社のことを知らなくなった従業員「理念・制度・カルチャー」のボックスでは、過去につくり上げられてきた理念や諸制度、カルチャーとして感じられる習慣など、組織が大事にしていることの深い理解を通して、部下自身とのつながりを感じてもらい、働きがいの向上を狙います。
そもそも、現在、従業員は会社や組織についての話をどこで行っているのでしょうか。
ひと昔前は、いわゆる「飲みニケーション」で、冗談や冷やかしも交えながら話されることが多かったと思います。
ですがその機会もどんどん減っています。
それでは今、働いている中で、過去にこの組織にいた人の話や、今ある制度の経緯について話す機会はあるでしょうか。
ルールや制度というものは、何の疑問も持たず以前からある「当たり前のもの」として運用されていくのが常です。
もしくは、今とマッチしてないということで、新しいものへと変えられていきます。
当初どのようにこの制度ができたのかを知っている生き字引のような人はごくわずかでしょう。
そうしてだんだん、組織の過去の話が継承されなくなっていきます。
このように組織内での人間関係が希薄になっていくとともに、組織と従業員の関係も希薄化、つまり知っていることが少なくなっています。
この状況を私は、そこに「愛や関心」がないからだと思っています。
今の組織にいるのは、ただ都合がいいからいるだけという人も少なくないでしょう。
愛や関心があれば、会社の成り立ちから変遷まで知りたいと思うのも自然でしょう。
一方で、実は逆から考える方が真ではないかとも思います。
知らないから愛や関心が持てないのです。
だからこそ、従業員が、自分が所属する組織について知る、理解する場を意図的に設けることが必要だと思うのです。
理念の浸透は仕組み化する必要がある一般的に、会社を深く知ろうと思ったら、根幹となる存在意義や目指すところは、企業理念や価値観などに集約されています。
そこで、多くの組織が内部に経営理念を浸透させて、皆を同じベクトルで進んでいくようにしていきたいと思っています。
2013年にHR総合調査研究所が行った調査によると、「社員への理念の浸透は必要か」という問いに対して、98%(「やや思う」を含む)の企業が重要だとの認識を持っていました。
残り2%も「わからない」の回答であり、つまり否定的な企業は皆無でした。
一方「理念は浸透しているか」という問いには、浸透していると認識する企業はわずか6%。
「やや浸透している」を合わせても4割強で、思うように理念浸透は進んでいないようで
す。
現在でも実態は変わらないどころか、働き方改革などの社会変化で、さらに希薄化が進んでいると推測します。
では、うまく理念浸透を図っている会社は、どのようなアプローチを行っているのでしょうか。
よく言われるのが、社内でのポスターや社内イントラへの掲示、理念を書いたカードの配布などです。
ほかにも、定期的なアンケートと研修の実施、表彰制度によって組織の価値観を体現した人にスポットを当てるなどの施策、さらには経営層との交流会や理念についての映像を全従業員が視聴するなどがあります。
なかには、朝礼で理念や価値観を唱和している会社もまだ存在しています。
このようにさまざまな施策がありますが、私が効果的だと感じているのは、評価制度への組み込みと対話の機会の創出です。
両者に共通するのは、日常で繰り返し行われる仕組みになっていることです。
たとえば、私がフェローとして人事アドバイザーを務めているVOYAGEGROUP社では、「クリード」という従業員が大切にする8つの価値観があります。
この8つの価値観について、半期に一度の評価査定時に、CCFB(クリード・コンピテンシー・フィードバック)という360度フィードバックが行われます。
この制度の効果は、自分の言動がフィードバックされること以上に、実は他の人のフィードバックをすることにこそあるのです。
平均4~5人に対して、クリードに基づいたフィードバックを行うのですが、そうすると、自然に何度もクリードについて考えます。
さらに、価値観という概念的で抽象的なものを、相手の具体的で生きた言動と照らし合わせて何度も考え、自分の言葉で伝えることになるのです。
つまり、このプロセスを踏むことで、自然に組織が大事にしているものが自身の血肉となっていくのです。
そして、最後にそのフィードバック結果を元に上司と部下で評価の対話を行います。
そうすることで、より一層会社が求めていることを、納得感を持って理解できて体現していけるのです。
VOYAGEGROUP社では、このようなさまざまな試みがなされ、GreatPlacetoWorkInstituteJapanによる「働きがいのある会社」中規模部門で2015年から3年間連続で1位となりました。
またほかにも、私がかかわるあるベンチャー企業では、理念や制度についての浸透をとても大切にしており、毎月の1on1ミーティングにおいて、上司は必ずその話をするように決められています。
その意図は、環境変化が速い中で、経営の意思決定への納得度を高めるためです。
会社がこれからどんな仕事を始めるのか、集中するのか、捨てるのかという意思決定に対しての共感度合いを高めて、すぐに動けるようにしています。
もちろん、部下自身の意思決定のスピードが上がることもメリットです。
組織制度には会社の哲学が詰まっているそうはいっても、具体的にどんな話をしていけばいいのでしょうか。
いきなり、経営理念の話を部下にしても、引かれてしまうかもしれません。
そこでお伝えしたいのが、既存の制度からの組織理解と、組織をつくってきた人からの組織理解を深めていくアプローチです。
まずは、既存の制度についてです。
なぜ制度の話をするかというと、組織の制度には、その組織の考え方や哲学が反映されているからです。
その成り立ちを知ることは、その組織の考えを知ることになり、部下の組織理解度を高めることができるのです。
私がこれについて考えるときに思い浮かぶのが、新卒採用のときにその企業の顔として抜擢されるリクルーターです。
彼らは、所属する会社との考え方が一致しているので、学生からの質問に対し、会社の考えをあたかも自分のことのように話すことができるのです。
学生から「御社の25%ルールという制度はどうしてできたんですか?」という質問に対して、こうストーリーを語るのです。
「これは2年前にできた制度で、うちの会社を象徴する制度だな、と僕自身思うんです。
当時、Google社で20%ルールっていうのがあって、それに触発されたものなんですね。
その頃、会社の成長が少し鈍化していて、もう一段皆の能力レベルを上げていこうという方針が取られたんです。
そこで、就業時間の25%は中長期的なことを仕込む時間に充てるという制度ができたんです。
もちろん、中長期の成果につながる個人の勉強に充ててもいいんです。
当時の人事部長の発案だったんですが、すぐに採用されました。
こんな風に、うちの会社は意思決定が早く、社員が能力を高めていくことを奨励し、支援してくれます。
会社の考えとして、もし会社がなくなっても、社員がどこでも通用する力をつけさせることが、会社の使命だって思っているので、それを象徴している制度だな、って僕は思ってます」こんな風に語り部となり、組織の考え方やその変遷、組織内にどんな人がいるのかなどを伝えるのです。
あなたは組織の評価制度の変遷を知っているかこれを社内で上司も行うのです。
たとえば評価制度について、あなたは自分の所属する組織の評価制度の成り立ちや変遷を知っているでしょうか。
長い年月の中で、評価制度が改定されてきた組織は多いと思います。
そのときは、改定するだけの理由があり、思いもあったはずです。
おそらく評価制度改定の説明会が開かれ、さらに小グループに分かれて質疑を含めたワークショップを開いたところもあるかもしれません。
その後、仕組み化された組織では、新任管理職や評価者に対して同じ説明が継承されていきます。
しかし、残念ながらだんだんと評価が改定された背景やその変遷、思いは共有されなくなり、新任管理者に評価の運用の仕方や、やり方の説明のみがなされるようになっていくのです。
かくして、制度にあった思いが切り離されていき、組織と個人のベクトルは離れていくのです。
そうならないために、たとえば評価制度において会社が大切にしていることを、このように話します。
「今ある評価制度は、過去10年の間に3回改定がなされてきました。
急激な人員の増加によるグレードの増設や、職種の増加で実態に合わなくなる度に変えてきたのですが、評価軸とその割合については過去10年間変わっていません。
つまり、成果:能力が1:1の割合なのです。
ここは会社としての強いこだわりがあって、短期的な成果だけで判断しない、本質的な能力の蓄積が重要という10年変わらないメッセージなのです」変わらないものであっても、今、当たり前のようにある制度やルールも、過去の変遷を交えて説明されるとその背景にある思いが伝わってきます。
大事なことは、その思いを継承していくことです。
その他、以前はあったが今はもうなくなった制度やルールができた理由と、なくなった理由を材料に対話を行うこともおすすめです。
それらを振り返ることで、上司と部下お互いに新たなインスピレーションが湧くきっかけになるかもしれません。
たとえば、「以前は社員旅行があったが、人数の増加で来れない人も出てきたので廃止。
社員旅行の目的だった一体感の醸成は、年2回の半期表彰パーティーに引き継がれた」ということを対話できていると、半期の表彰パーティーの目的や成り立ちが深く理解できて、運営に携わるときも参加者のときにも、臨む意識が変わってくるでしょう。
組織をつくってきた人から組織を理解する現在の組織のカルチャーを形づくってきたのは、今まで組織に属していた人のさまざまな活動です。
その中でも、その時々で組織を象徴するような人が、どの組織にも存在していたと思います。
そのような存在を今に伝えていくことが、その組織に所属する誇りになることがあります。
たとえるならば、日本という国をつくってきた昔の偉人について詳しく知ることで、今の日本にいることを誇りに思ったり、逆に今のままではいけないと発奮する動機になったりすることと似ています。
私自身も似たような経験があります。
まだ社会人2年目のときに、スウェーデンの生命保険会社に勤めていました。
日本に上陸したばかりのスタートアップ時期でしたので、各方面から面白い人たちが集まっていました。
しかし、私が入社した頃にはすでにいなくなっていた人もいました。
その中で、以前在籍していたIさんという取締役の方についての話を、多くの人から耳にしました。
当時は1990年代後半で、ちょうど金融ビッグバンという保険と銀行と証券の垣根がなくなっていく激動のとき。
その当時のIさんの活躍ぶりをよく聞かされたのです。
「以前、Iさんっていう超優秀な金融のプロがいて、保険会社でやっていることの概念をものすごく変えてくれたんだよね」「東大出身で頭が良くて、時間を無駄にしない人だったんだよ」「『僕のことは、ランチに誘わないでください』と言って、ランチの時間は読書の時間に充てて、1日に1冊本を読んでいたんだよ」
「Iさんがいた頃は、Iさん中心にたくさん社内改革が行われてて活気があったけど、今はスピードが落ちているな。
もっとがんばらないとね」それから、私はIさんにとても興味を持ちました。
Iさんが講義をしているビデオが会社に保管されていることを知ると、それをむさぼるように見たものです。
とても聡明な人で、後にお会いすることができたのですが、そういった人がつくってきた会社に改めて誇りと感謝を持ちました。
今の時代、過去会社にいた人の話や、理念・制度の話などは、少し堅苦しく思われて、なかなか話をしづらいかもしれません。
上司との対話よりも、入社時の研修という制度の枠組みの中で伝えていく方が効率的だと考える人もいるでしょう。
しかしながら、このボックスの肝は、上司がこれを語れることにあります。
重要なのは「継承」です。
今、組織では古株の従業員が辞めたり、新卒が採れない年があって世代が分断していたりと、情報やストーリーの継承が行われていないことが大きな課題になりつつあります。
それによって共通言語が少なくなり、その会社らしさ・カルチャーが曖昧になってアイデンティティが欠如していっているのです。
ですから、上司が理念や制度、所属していた人物などを通じて語り、対話していくことで、それが上司の育成と部下のエンゲージメント向上につながっていくのです。
うさん臭さを消すには文脈とタイミングがすべてこういった組織レベルの対話を進めていく中で、注意することがあります。
それは、部下がそこにメリットを感じないと、うさん臭さと説教臭さを感じてしまうことです。
なぜなら、業務レベルや個人レベルの事柄は、部下自身のことなので向き合う意味も感じやすいのですが、組織レベルの事柄は自分とは関係のないことと認識してしまう可能性が高いのです。
もちろん、組織の中のすべてを把握する必要はありません。
そういう意味では、このボックスはすべての部下に等しく話すものではありません。
あくまで部下の状態や環境のタイミングを見計らって、この話が部下にとって大事だという文脈の必然性を持って話すことがポイントになります。
以下は、理念・制度・カルチャー等の対話をする必然性のあるタイミングです。
このような機会に、以下の質問項目を参考に意図的にこのボックスの対話をしてみてください。
①入社時や入社経緯などを聞くタイミング【質問例】「仕事するうえでどんなことを大事にしているの?」「うちの会社の存在意義って何だと思う?」*個人のWhy(価値観)と組織のWhy(目指すもの)のすり合わせ②部下が新しく自部署に異動、もしくは配属されたタイミング【質問例】
「今までうちの部署がどんなことをやってきて、何を大事にしてきたかというと……」「うちの部署にいる人の特徴は……」*自部署の歴史や大事にしてきたこと、所属している人の特徴などのすり合わせ③既存の制度やルールについて触れるタイミング【質問例】「そもそも、この制度ができた背景って聞いたことあるかな?」「会社が重点を置いている制度って何だと思う?」*それぞれの制度やルールのすり合わせ④組織の歴史について触れるタイミング【質問例】「以前も同じように、なくなった事業があったんだけど聞いたことあるかな?」「今回、組織体制が変わったけど、実は3年前の体制に戻ってるんだ」*事業やサービス、組織構造、人の入れ替わりなど変化があるときのすり合わせ⑤評価について考えるタイミング【質問例】「今の評価制度でうちの会社が大事にしているポイントって何かわかる?」「どうしたら評価されるのか、社内で評価されている人の事例を考えてみようか?」*評価制度のポイントとその活用方法のすり合わせ自部署に異動してきた部下との対話例部下「うちの人事って他の会社と比べて変わったところあるんですか?」上司「一般的に人事って労務とか総務部門と一緒になっている会社って多いんだよね。
最近はちょっと変わってきているけど、うちはもう10年以上前から、人事の仕事は労務や総務とは分けているんだ」───(10年という昔からの変遷を伝える)部下「何でですか?」上司「良い質問だね。
守りというよりは攻めの人事っていうか、どんどんこちらから現場に出向いていって、関係性をつくっていくことが重要だと考えているんだ。
というのは、人事が大事にしている考え方があって、それは経営と現場をつなげていくことなんだ」───(部署として大事にしている考え方を共有)部下「経営の意見を現場に伝えていくっていうことですか?」上司「そう、それ。
何か思ったこととか引っかかったところってある?」───(話を引き出しながら、双方向を意識)部下「自分で出向いていくっていうのは、すごい共感できるなって思いました。
それに、人事ってそういうこと考えてやってたんだってちょっとびっくりしまし
た」上司「おぉ、そう言ってもらえて嬉しいよ。
実は、これは本当に大切にしているところなんだ」部下「そうなんですか」上司「そう。
昔、Gさんっていう部長がいて、その人は攻めの人だったんだけど、労務とか総務が苦手でそこにすごく時間取られていた。
そこで、『これは生産的ではない。
苦手なことで時間をつくるのは駄目だ。
強みを活かす組織をつくろう』と言い始めて、経営にも事あるごとに言ってたんだ。
だから配置転換もその考えが反映されているでしょ」───(社内組織上の人物を無理のない形で紹介)部下「たしかに」上司「あと評価制度も、減点法より加点法の思想で、強みが発揮された事例を書いてくださいっていう形になっているのもそう」部下「なるほど!」上司「そうすることで、お互いが認め合える風土をつくっていってるんだよね」部下「そうだったんですね。
めちゃめちゃ腑に落ちました」───(深い理解による共感)上司「それで、こういう会社の思想を現場に根づかせるために、現場に近いところで信頼関係をつくっているんだ」部下「いいですね。
早くいろいろ動きたいです」このように、過去からのプロセスをすり合わせていくことで、理念・制度・カルチャーの深い理解と共感がなされていきます。
そうすることが、従業員エンゲージメントの向上に寄与して、組織で働くことの誇りをもたらしてくれるのです。
もちろん、会社の過去のことを知らないマネジャーもたくさんいるでしょう。
また制度のことも、いまさら聞けないと思う人もいるかもしれません。
しかし、だからこそ知らないことを材料にして、マネジャーは自分の上司やさらに上席の人と1on1などの対話の機会を持っていくのです。
聞く側は恥ずかしく思うこともあるかもしれませんが、聞かれた方は嬉しいものです。
知っていれば喜々として話をしてくれるでしょう。
そして、そこから仕入れた情報を材料に部下と対話を行ってみてください。
そうすることで、自ら組織の縦のつながりをつくることができて、あなたは組織になくてはならない存在になっていくはずです。
人間関係ボックス部下を取り巻く人間関係を知っているか「人間関係」のボックスでは、部下を取り巻く組織内メンバーの深い理解を通して、部下と組織内メンバーとのつながりを見出します。
また、自分以外のことを考えられる広い視野と視座を身につけてもらい、成長のサポートを行っていきます。
エン・ジャパン株式会社が、2018年に「エン転職」利用者10,776人に行った調査によると、転職経験者の半数以上53%が「人間関係が転職のきっかけになったことがある」と回答しました。
そのきっかけになった人間関係の対象は以下の通りです。
先輩:45%同僚:22%直属の上司:18%(20代は13%)このように、直属の上司よりも先輩や同僚との関係の方が、働くうえで重要に感じているというデータがあります。
また、「今までの職場で、人間関係に難しさを感じたことはありますか?」という問いに対して、84%の方が「ある」と回答しました。
私の研修などで実際に従業員の方々の声を聞きますが、人間関係の悩みについて、その多くの理由は、相互理解の不足にあるケースが多いです。
業務の話だけではなく、お互いの考え方や価値観などについて直接話せる機会があればいいのですが、実際は難しいことも多いでしょう。
このように、部下が職場で不安なく生き生きと働いていくために、周囲との関係性は非常に重要です。
しかし、はたして上司は、部下のことをそのような関係性の中で捉えているでしょうか。
つまり、部下を単体で見るのではなく、部下を取り巻く人間関係の中で立体的に見ているか、ということです。
それができれば、部下をより深く理解でき、強い信頼に基づく効果的な関わりができるようになります。
以前、こんなことがありました。
あるとき、私の部下として中途で入社したAさんが、精神的な不調を理由に突然会社に来れなくなってしまいました。
何となく様子がおかしいと感じたことはありましたが、「新しい職場に慣れるのに苦労しているのだな」程度にしかとらえていませんでした。
しかし、実際のところ、職場での人間関係にものすごく悩む日々だったようです。
そのことを教えてくれたのは、Aさんが唯一社内で仲が良かった別部署のBさんでした。
そして、そのことを知ったのは、もうAさんが辞めてしまった後でした。
私は、Aさんに申し訳ない気持ちと自分への情けなさでいっぱいでした。
もっと前にAさんと話せていたら。
いえ、少なくともAさんとBさんの仲が良いことを知っていたら、Bさんに話を聞きにいけたかもしれません。
このように、部下を取り巻く社内の人間関係をすり合わせることができたならば、部下の不安解消やモチベーションの向上などを支援する幅が広げられるのです。
部下にとって大切な3種類の社内関係者部下を取り巻く人間関係とひと口に言ってもたくさんあるでしょう。
プライベートな友人から顧客先の担当の方など、挙げればきりがありません。
しかし、その中でもマネジャーに押さえておいていただきたいのは、部下の行動や成果に関心を持っている、もしくはその影響を受けるこの3種類の社内の関係者です。
①チームメンバー②役員・他部署の人たち③上司自身これらの人たちについて、お互いに知らない情報や考えをすり合わせて認識を深めていきます。
たとえば、「部下が組織内でどんな人と普段接しているのか?」「その人たちを部下はどう思っているのか?」といった、上司が知らない情報について教えてもらいます。
またこれとは逆に、部下が知らない情報について上司が伝えていくことも重要です。
人は、日常で接する人や関係性はだいたい決まっていますので、自分の見ている世界も固定化されがちです。
ですから、自分の見ている世界を広げるために、少なくとも「知る」ことが、興味が湧くきっかけになります。
いつもと知らないチームメンバーの一面を上司から教えてもらうことで、見方が変わるきっかけになるのです。
現在、多くの企業で業務の効率化によって組織内における縦割り化が進み、周囲の人がどんな仕事をしているのかすら知らない状況があります。
目先の自分の業務成果を出すことだけを考えれば、知る必要がないからです。
加えて、対話が減っているので、個々の人物像など知る由もありません。
もちろん、毎回話す必要はありませんが、何が部下に必要な情報かを見極めながら、意図して対話を行っていきましょう。
では、これから3つの関係者を順に見ていきます。
1チームメンバーチームメンバーとは、日常的に顔を合わせる周囲の人々や同じ部署の人たち、そしてチーム全体のことです。
同じチームや周囲の人たちとの人間関係は、先述の調査にもある通り非常に重要です。
目的としては、まず周囲の人間関係の悩みや不安の解消。
そして、それにつながる離職の防止です。
とくに、人間関係の悩みについては、早い段階で察知しておくことが重要です。
しかし、ストレートに「周囲の人間関係で不安なことはありますか?」と聞いても、ネガティブな本音を答えてくれる人は少ないものです。
そのくらい人間関係は繊細な事柄ですので、対話の場でもそれ以外でも普段からの情報収集が大切になります。
そのうえで、変化に基づいた質問ができると話をしてくれる可能性が増えます。
【変化に基づいた質問例】「最近、○○さんととよくしゃべってるね?」「最近あんまり外にランチ行ってないみたいだけどどうしてるの?」「〇〇さんと、仕事で絡むこと増えてきたね。
順調に進んでる?」「そういえば、○○さんと学生時代から知り合いなんだってね?彼とは学生時代も仲良かったの?」繰り返しになりますが、普段からの観察や会話での情報収集があると、対話がより効果的なものになります。
つまり、普段から話をしているので、信頼関係が築けていて、いざというときに話をしてもらえるのです。
また、部下にとっても、普段から聞かれて会話できていると「答え慣れ」するという効果もあります。
普段、あまり上司に聞かれていないのに、急に聞かれるととても重く感じ、言い出しづらい雰囲気になります。
ですから、普段の会話から周囲の人との人間関係について触れておくことが重要なのです。
次に、目的の2つ目は、部下の視野を広げて成長を支援することです。
忙しい毎日を過ごしていると、どうしても自分の業務のこと、自分の成長のことしか考えなくなります。
そのように自分のことしか見えていないと、結果として視野が狭くなって成長が鈍化します。
以前、私がコーチングをしていたあるマネジャーTさんのお話です。
Tさんは、部下Kさんとの1on1で、よく将来キャリアについての話をしていました。
しかしその話になると、Kさんはいつも悩んでしまうのです。
自分がどうなりたいかわからずに不安にかられます。
そんな状態が2年も続いていたそうです。
それを見てTさんは、Kさんのことを「2年も自分のやりたいことがわからないダメな人」と見ていました。
しかし、あるとき、将来の話をする代わりにTさんはこんな風に聞きました。
「自分の将来は置いておいて、チームメンバーにどんな貢献ができるかな?」すると、Kさんは霧が晴れたように、語ったそうです。
「そういえば自分のことばかり考えてましたが、よく考えたら私は人の役に立っているときが一番幸せなんです。
ですから、そういうことはたくさん出てきます」このように、もしかするとマネジャーの問いが部下の枠をつくってしまっているかもしれないのです。
ですから上司は、質問を通して、部下に周囲のことを考えてもらう機会をつくる必要があるのです。
また、チーム全体について考えてもらうことで、部下の視野の拡大や視座を高める機会にもなります。
【具体的な質問例】「自分の成果を上げるために、他の人に何かできることはないかな?」「今、チームメンバーで良いなと思う人はいますか?」「今、チームメンバーで気にかかる人はいますか?」「今のチームの課題って何があると思う?」「会議でチームメンバーがもっと活性化するには、どうすればいいと思う?」「もっとチームを良くしていくために、どんなことができるかな?」2役員・他部署の人会社のことをよく知っている状態とはどういうことでしょうか。
そもそも、会社というのは概念であって、物理的に存在しているわけではありません。
会社とは、会社で働く人たちの活動によってつくられているものです。
つまり、「会社をよく知る」とは、会社で働く人たちについてよく知ることにほかなりません。
これは、従業員エンゲージメントとも深くかかわってきます。
なぜなら、人は知らない人ばかりの組織に貢献しようと思えないからです。
では、あなたは会社の人たちをどれくらい知っているでしょうか。
会社が成長して大きくなってくると、こんな言葉をよく耳にします。
「最近、本当に知らない人増えたよね」「ここうちの会社だっけ?知らない人ばかりで何か他の会社にいるみたい」このような状態に対して私は、やはり知る努力が必要であり、そこには優先順位がある
と思っています。
まずは身近な周囲の人を知っていくことです。
それから、自分の組織の中枢を担う経営幹部の人たちです。
その人たちのキャラクターや素性を知ることで、組織への親近感が増してきますし、組織の意思決定への共感性も高まります。
続いて、自分が業務でかかわる他部署とそのメンバーです。
この関係は仕事を進めていくうえで重要です。
なぜなら一般的に人は、ネガティブな状況に遭遇したとき、そこにあまりよく知らない人がかかわっていると悪い思い込みを持ちがちだからです。
たとえば、営業部門が取り付けてきた大型案件を、それを運用する部門が規定に合わないということで、にべもなく引き受けを拒否した。
そのようなとき、営業と運用部門がお互いのことをよく知らなかったらどう思うでしょうか。
反対に、お互いの部門が抱えている問題を把握できていたらどうでしょうか。
やはり、お互いの人となり、そして組織の状況について知っている方が、業務を建設的な対話の元に進めていくイメージが容易につくと思います。
ですから、ここでは上司が情報を提供することが重要な要素です。
役員については、中間管理職ですと直接接点がない人もいるかもしれません。
その場合は、ぜひさらに上席と話をしましょう。
そこで役員の考えを収集しておき、タイミングを見計らって部下に共有します。
実際、マネジャーとしては思うところがあったとしても、共有するのであれば必ず良い面を伝えてください。
それが、マネジャー自身の評価にもつながりますので。
このような中間層が間接的に上席のポジティブな共有をすることは組織を強くするもっとも効果的な方法の1つですのでぜひ実行してみてください。
また、他部署についても、上司が知っていて部下が知らない情報があれば、積極的に共有していきましょう。
実際、私が部下側の人に1on1ミーティングで有意義に感じた時間を調査したとき、「上司が自分の知らない他部署の状況を教えてくれたこと」という意見が出て、多くの方が共感していました。
業務に絡む他部署の情報は、部下にとって大きな価値になるのです。
3上司自身「最近、うちの上司って何やってるんですかね?」「なんかいつも忙しそうにしていて席にいない人、それがうちの上司です」これらは、上司のイメージを部下の方に聞いたときの言葉です。
多くの部下は、上司が実際にどんな仕事をしているのか詳しくは知りません。
もちろん、部下は上司の仕事をマネジメントしているわけではないので、仕事の詳細を把握する必要はありません。
ですが、「今、どういう仕事に手がかかっているのか」「何に困っているのか」といったことを知らない場合が非常に多いのです。
それはなぜかというと、部下から上司に「今の仕事の状況について教えてください」と、関心を持って質問をすることがあまりないからです。
さらに上司からも、部下に自分の仕事内容の詳細を自己開示する習慣もありません。
プレイヤーとしても優秀なマネジャーは、独力で何でもできるので、業務を1人で抱えがちです。
一方、部下の多くは、そんな大変そうな上司を気づかっているものです。
「最近忙しそうなので、私たちにできることがあれば、振ってくれればいいんですが」ただ、部下としても上司の業務について知らされていないので、自ら何かを伝えるということは難しいのです。
上司が、「今、こういうことで大変なんだよね」と伝えられれば、「あ、それだったら私、今の業務が終わったらできます」という声がけが可能になるのです。
これは上司が助かるだけではなく、部下の貢献意欲を高めることができ、信頼関係構築にもつながります。
また、上司が自己開示を進めていくことで、部署の心理的安全性を高め、部下も意見が言いやすくなるのです。
さらに言えば、上司が注力している仕事は、会社にとって優先順位が高い仕事が多いはずです。
つまり、部下からすると、「会社が今、何を大事にしているのか?」を理解することにもつながるのです。
ですから、「何をしているか?」とともに、「なぜこれを行っているのか?」「どういうところが大変なポイントなのか?」をすり合わせていくことが、上司を通じた組織理解につながります。
このように、上司が自己開示をして、上司自身の仕事や考え方を共有していくことも意識して行っていきましょう。
以上、見てきましたが、おそらく多くの方が人間関係を把握することは大事だということには同意してくださると思います。
しかし短期的な成果に結びつきづらいので、どうしても優先順位が落ちることもあると思います。
実際、マネジャーは、1対1だけではなく、チームマネジメントも意識しなければなりません。
そのような観点から考えると、部下の人間関係に関心を持ち、把握しておくことの重要度は増していくと思います。
できるところからぜひ始めてみてください。
組織方針ボックス組織の方向性の情報格差をなくす「組織方針」のボックスでは、今後の組織の方向性についての情報を上司が伝えていくことで、意識的に他のボックスとのつながりを見出していきます。
そうすることで、組織と部下の業務成果や将来キャリアとのつながりが感じられることを狙いとしていきます。
部下は、日々の業務に邁進していると、どうしても俯瞰した視点が持ちづらくなってきます。
そのため自分の業務だけの視点から、チーム、部署、そして組織全体へと視野を広げていくためには、まず組織についての情報をインプットする機会が必要です。
次に、その情報を自分事にするために、質問するなどして理解を深めていく対話の機会が必要です。
前者については、チーム内の会議で共有されたり、部門や会社の方針が発表される機会があれば知ることができるでしょう。
後者についても、部門の方針などを説明した後に質疑応答などで対話をする機会があるかもしれません。
しかし、多くの人がいる場では、疑問に思っていてもなかなか話すことができない人も多いと思います。
さらに、人は、聞いた話をすぐに「自分は理解した」と思いがちですが、言語化できるレベルまでは理解できていないものです。
「先日話した四半期の方針だけど、どういう風に理解した?」こう直接問われて、やっと自分の頭を動かし始めるものです。
ですから、理解度を確認し、内容を深めるために、個人と対話をする機会が必要なのです。
「すり合わせ9ボックス」の対話では、基本的に上司はまず、「いかに部下にしゃべってもらうか?」に注視することが多いですが、このボックスは上司が率先して語る領域です。
なぜなら、組織の上位層と下位層では、情報格差があるからです。
この情報格差を極力少なくしていくことが、ここでの対話で重要なことです。
とくに部長以上の上級管理職はここを手厚く伝えていきます。
そうすることで、だんだんと組織の隅々に経営の考えが浸透していきます。
では、そもそも組織の方針や方向性を上司と部下ですり合わせること、また部下が組織の方向性との接点を見出すことに、どんなメリットがあるのでしょうか。
私は、このボックスをすり合わせるメリットは3つあると考えます。
1つ目は、部下が組織の方向性と業務でのつながりを見出すことで、不安が解消され、業務遂行に充実感を得られることです。
2つ目は、組織の方向性と部下個人のキャリアの方向性との合致点を見出すことで、安心感が得られることです。
3つ目は、価値観レベル
での組織と部下個人との接点を見出すことで、そこに所属することの誇りが得られることです。
組織としては、従業員エンゲージメントが醸成できるということです。
組織の方針を語るにはタイミングがある組織の方針・施策について対話するときのポイントは、その背景の共有と他のボックスへのつながりを意識することです。
では実際、具体的にどのような内容を、どのようなタイミングで対話していけばいいのでしょうか。
ここでは、4つ紹介します。
1戦略と戦術戦略は企業にとって最重要な課題に対して立てられるものです。
そして、メンバーの思考と行動の方向を定めるものです。
具体的には、ある期間における戦略や方針、それに基づく各種施策などの戦術について、さらには組織体制についてです。
これらは重要ですので、おそらく会議や文書での説明があるでしょう。
対話においては、それをさらに個々の理解度の確認や不明点をふくめてすり合わせ、全体戦略が自分の業務とどのようにつながるかの翻訳作業を行っていきます。
上司が全体会議で説明する場面上司「今期は売上を伸ばして市場を取っていくことを戦略としていきます。
ですから、そのためにできることは何でもしていきます。
採用も積極的に行っていき、広告費もかけていきます。
評価の指標も今までとは変えていきます。
背景としては、ここ2ヵ月で市場が20%ほど急速に広がってきていることと、それにもかかわらず競合の動きがまだ鈍いことです。
そこで、今持てるリソースを投下していくことが、市場シェアナンバー1への勝負の分かれ目と判断しました」全体会議から数日後、ここから1対1での対話上司「全体の方針をこの前の会議で伝えたけど、どんな風に理解してるかな?」部下A「売上に注力してくってことですよね。
だから、それにかかるコストは投資として積極的にやっていくということでしょうか」上司「うん、まったくその通り!いいね。
ちなみに、この戦略自体はどう思う?」───(戦略の感想や意見を確認)部下A「うーん、納得っていう感じです(笑)」上司「OK。
そうしたときに、Aさんの動きって具体的にどう変わっていくかな?」───(組織方針の理解確認と自分の動きに結びつける)部下A「単純に、お客さんに効率的に回ろうと思ってました」上司「たしかに、それはあるよね。
効率的には行いたいんだけど、そのために、ま
ずAさん個人の戦術を決めていきたいんだよね。
そのうえで、今限られたAさんの力をどこに注げばいいのか?」部下A「そうですね。
まず新規と既存のクライアントへの注力割合とかでしょうか」上司「そうそう。
どの商材をどのくらい、とか切り口がいろいろあると思うんだよね。
それを、どうしたら戦略に沿った戦術にできるか考えてほしいんだよね。
次回までに、自分で考えて書いてきてもらっていいかな?」部下A「はい、自分なりに考えてきます」このように、戦略や戦術については、部下の業務とのつながりと意味を意識しながら対話していくことが大切です。
【ボックス間のつながり】「組織方針」ボックスから「業務不安」ボックスにリンクさせる2新たに決まった制度・ルール自部署や組織全体で決まった制度やルール、意識づけたいことの詳細情報の共有、感想や意見の収集、理解度や納得度の向上を目的に対話します。
たとえば、「営業部内での案件共有ルールについて」「法務への契約書チェック申請のルールについて」「メンター制度の実施」「新たに導入された進捗管理ツールについて」「勉強会の実施について」などです。
実際の施策やルールが導入される際には、背景を丁寧に共有して理解度を高めます。
導入されてからは、実際に体験したうえでの個人のリアルな感想や納得度、改善ついて対話していきます。
【ボックス間のつながり】「組織方針」ボックスから「業務不安」「業務改善」ボックスにリンクさせる3会社の記事や経営陣の発信について組織が大きくなって、さまざまな事業やサービスを展開するようになると、組織の中で何が行われているのかわからなくなってきます。
そうすると、将来目指しているところもわからず、組織に関心が持てなくなり、組織に所属していることの無意味さを感じてしまうようになります。
すべてを知る必要はありませんが、部下の視野を広げること、組織に関心を持ってもらって所属意識を高めてもらうことは大事です。
では、どうすればいいのでしょうか。
大企業の他部門のことであれば、「今、どんな事業やサービスをどんな意図でつくっているのか」は、プレスリリースされるまで知らないことも多いでしょう。
新聞記事やWebニュースではじめて目にする人もいると思います。
それを、ときどき材料にして対話するのです。
そうすることで、自社がどういった方向へ進もうとしているかの理解が深まったり、自分の将来キャリアや異動希望と絡んでく
ることもわかります。
上司「今朝、隣のA事業部が新しいサービスリリースしたけど知ってる?」部下「はい、チラっと見ました」上司「お、チェックしてるね。
あれが出てきた意味ってわかる?今後どうしていこうと思ってるか」部下「わからないです。
どんな展開考えているんですか?」このように、他の事業部やグループ会社などに興味を持ってもらわないと、「勘違い退職」が起こってしまいます。
どうしたって他社に一度は目を向ける時代です。
だからこそ、自社での可能性を十分に知ってもらうことはとても意義があります。
それを、リリースされたものなどの新鮮で生きている材料を使って議論することが重要です。
もし、上司がそれを語れなければ、上や横へ自ら聞きに行き、対話する機会をつくりましょう。
タイミングとしては、「プレスリリースが出たとき」「自組織の記事やニュースが出たとき」「経営メンバーの個別の発信やブログなどが更新されたとき」「Slackなど、組織内コミュニケーション掲示板で周知されたとき」などです。
【ボックス間のつながり】「組織方針」ボックスから「将来キャリア」ボックスにリンクさせる4組織状況の進捗について組織状況とは、組織全体で動いているプロジェクトや企画の進捗、数字の進捗です。
ここでのポイントは進捗です。
新しく何かが始まることは脚光を浴びがちですが、「自分以外の部門や全体が今どんな進捗なのか?」、あるいは「撤退してしまったのか?」──このような話を材料に対話をすることで、部下の視野が広がるとともに、組織の一員としての意識が高まっていくのです。
たとえば、「全体の数字やプロジェクトの進捗と今後の展開」「新規事業の参入・撤退」「出されていた企画が採用になった理由・不採用になった理由」「他部署の状況」などを材料にします。
【ボックス間のつながり】「組織方針」ボックスから「業務改善」「人間関係」ボックスにリンクさせる繰り返しになりますが、これらの話は毎回する必要はありません。
組織方針については、あくまで、文脈を考えながら必然性のあるタイミングで話すことがポイントになります。
たとえば、「新たに入社したとき」「昇格時」「今後の方針が出たとき」「上司が参加した会議のフィードバックをするとき」「全体会議で話をした後に理解度確認するとき」などがそれに適したタイミングです。
マネジメントが「単なる連絡係」になっていないかこのように、組織内で起こっていることを、個別に調整して伝えていくことは非常に大切です。
それではそもそも、これらを行わないと一体何が起こるのでしょうか。
あるとき、それを象徴する言葉をある人からもらいました。
「うちの上司って単なる連絡係なんですよ!」ふと、その人が漏らした本音です。
つまり上司は、自分が得た情報を、議事録を見ればわかるような表面的な言葉で、右から左にしか伝えられていないのです。
そしてさらにその方は続けました。
「会社のことも好きですし、本当はもっとやれることもあると思うんです。
でも、何をやっているかわからないし、知る必要もないって言われているように感じます」情報が深く伝わらないことで、やる気が削がれているのです。
まだ、話は続きます。
「上司が、正直何を考えているかわからないんですよね。
会社の流れも踏まえて、私にこうしてほしいとか言ってくれれば、もっとがんばれるんですけど」ひょっとしたら、この発言が自立的でなく、甘えに聞こえる人もいるかもしれません。
しかし、まだまだマネジャーができることの可能性を、的確に示唆してくれているのではないでしょうか。
私自身、このお話を聞きながら身が引き締まる思いでした。
なぜ多くの上司は「逆ホウレンソウ」できないのかでは、なぜ上司は部下に必要なことを伝えられないのでしょうか。
それは、上司自身もそういう風にされてこなかったので、その必要性を感じていないからです。
ホウレンソウは、言わずと知れた「報告・連絡・相談」で、その根底には下の者が上の者にする行為という意識があります。
新入社員研修では定番の内容で、多くの人がここでその考えを学びます。
しかし、マネジャー研修では「部下にホウレンソウを行いましょう」という内容は習いません。
しかし、社会の流れは変わってきています。
上意下達で言われたことをやっていればいい時代は終わり、部下たちも自分で考えなければいけないからこそ、上司は彼らが考えるための情報を開示する必要が出てきました。
実際、私の知る優秀なマネジャーは、部下に積極的に相談をしたり、自分が持っている情報や意見を部下に伝えています。
私はこの上司から部下へのホウレンソウを「逆ホウレンソウ」と呼んでいます。
頭では必要とわかっ
ているが、なかなか行うのは難しい、という人は多いと思います。
しかし、ちょっとした心がけで大きく変わります。
たとえば、部の代表として出ている会議中に、この内容をどのように部下に伝えればいいかを考えてみます。
すると、自分がうまく説明できないことや納得できない議題には、深く追求するようになります。
このように、自分の今の職責が「役割」であり、メンバー全員が持つ権利を意識するようになれば、組織方針を材料に、とても有意義な対話が可能になります。
マネジャーの価値とは、ただ情報を伝えるだけではなく、その背景や意味を加えて伝えていくことです。
さらに、それが「部下にとってどのような意味を持つのか」「具体的にどうしてほしいのか?」──それを、一方的な伝達ではなく、部下の意見を聞いて理解度を確認しながら、納得感を醸成させていきます。
ここまでできると、単なる情報の連絡係からマネジャーという役割を立派に果たしたということになるのです。
一見大変なように見えるかもしれませんが、部下との信頼関係構築のポイントは、この情報開示だけなのだと、ある方に教えてもらいました。
少しの心がけで、そのくらいインパクトのあるものだと思ってぜひ取り組んでみてください。
おわりに対話型マネジャーは自己との対話を土台にする本書では、これからの時代を組織が勝ち抜くための処方箋として、その鍵を握るマネジャーに対して、上司と部下の対話の手法をお伝えしてきました。
この対話により、まだ開花していない個人のポテンシャルを引き出し、活用していくことが可能になるはずです。
対話には2つの種類があります。
それは、他者との対話と自己との対話です。
本書では、マネジャー視点での他者との対話手法について述べてきました。
そのうえで、さらに他者との対話を洗練させていく鍵は、自己との対話を行っていくことにあると私は思っています。
自己という存在は1つではありません。
肉体としては1つですが、心の中には何人もの自分が存在していると考えます。
これについて、芥川賞作家の平野啓一郎さんは「分人主義」という考えでご説明されています。
さまざまな顔を持つ自分1つひとつを分人として定義し、その集合体が個人である、としています。
今、世の中では、持続可能な成長をするために、「ダイバーシティ&インクルージョン」の必要性が叫ばれています。
そしてこの、個々の「違い」を受け入れ、認め合い、活かしていく行為は、実は個人の内側でもまったく同じように必要です。
自分の中の分人の違いを受容して活かしていくのです。
そのためには、自分の中のさまざまな声や考えに意識を向けて知ること。
つまり、自己対話をすることが必要なのです。
そして、この自己対話を進めるためにも、本書の手法はおおいに活用できると私は信じています。
自己対話をすることで、もう1人の自分から、思いがけない気づきや発見をもらうことができます。
今までのマネジメントの限界は、実はここにあると思っています。
つまり、有能なマネジャーほど、「自分はこれだ」という軸が定まり、1つに固定化されて自動反応になっていくのです。
もちろん、定型的な業務はそれでいいでしょう。
しかし、さらに組織が進化していくためには、対話を通して、新たな正解をつくっていくプロセスが必要になっているのです。
このように、自分の中の他の存在について想像をめぐらせて、自己を深く理解するほど、他者の中にも、さまざまな存在があると感じられるようになるでしょう。
そして、そのことが、相手への敬意や尊重をもたらし、効果的なコミュニケーションの土台になるのです。
つまり、本書で「スキル」としてお伝えしたリアルな対話の「やり方」を機能させるためには、その土台となる「あり方」がやはり必要なのです。
その「あり方」を育ててくれるのが自己との対話です。
ですから、他者との対話をしていく一方で、今一度自分の中にも戻り、自己対話を行ってみてください。
最後に、本書では多くのことをお伝えしたので、対話を継続させていくことは、一見大変なことのように思えるかもしれませんが、コツさえつかんでしまえば当たり前のことになってきます。
そして、組織において対話の場が確立されることは、間違いなくこれからの企業の競争力の源泉になるでしょう。
それとともに今後、対話型マネジャーの存在は、一組織においても社会全体においても、ますます重要になってくるはずです。
マネジャーの方々には、大変なこともあると思いますが、自身の人間的成長を楽しみながら実践していってもらいたいと思います。
そんなマネジャーをこれからもずっと応援してまいります。
謝辞本書執筆にご協力いただきました佐藤邦彦さん、石﨑勝俊さん、小島準也さん、熊谷豪さん、田口弦矢さん、桜井康仁さん、小林大介さん、また、いつもお世話になっているVOYAGEGROUPの宇佐美さん、永岡さん、小賀さん、宮野さん、後藤さん、大橋さん、田尻さん、加藤(伸)さん、黒田さん、清水さん、佐々木さん、人事の皆さん、ご相談させて頂き本当にありがとうございました。
そして、粘り強く企画を育んでくださった日本能率協会マネジメントセンターの岡田茂さん、同じく編集担当の新関拓さんには、締切の厳しい中、最後まで温かい承認マネジメントをして頂きとても助かりました。
さらに、本書の制作にあたり、たくさん相談させて頂き、助言を頂きましたチーム・ソクラテスの田代哲也さんに心から御礼申し上げます。
また、直接間接にご協力頂きましたすべての皆さんに深く感謝申し上げます。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
世古詞一(せこ・のりかず)1973年生まれ。
千葉県出身。
組織人事コンサルタント。
1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。
早稲田大学政治経済学部卒。
GreatPlacetoWorkInstituteJapanによる「働きがいのある会社」2015年、2016年、2017年中規模部門第1位の㈱VOYAGEGROUPの創業期より参画。
営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。
コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。
個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。
著書に『シリコンバレー式最強の育て方─人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング─』(かんき出版)がある。
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