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第1章なぜ、他社の成功事例を取り入れてもうまくいかないのか?

目次

はじめに

──人を動かそうとするのではなく、「人が自ら動き出す環境」をつくる

「どうしたら会社は変わるのか?変われるのか?」これは多くの経営者、幹部はもちろん、会社に何かしら不満を覚える社員も思うことだろう。

対する私の答えは、「仕組みや制度を変え、それにともなう施策を続けることで必ず変わることができる。

ただし、どの会社にも万能な仕組み・制度・施策などない」だ。リクルートで働くなかで「組織戦略とは何か」を考え続けた。

その後、ファーストリテイリング、ソフトバンクでは、経営トップに近い場所で組織変革や新しい事業の立ち上げなどを行い、現在は経営コンサルタントとして仕事をしている。

これまで数え切れないほどの事例を見てきたなかでの確信である。そして、私は経営コンサルタントという立場上、よくこうした質問を受ける。

「組織変革の関連の本で、勉強になるものはありますか?」それに対して、いつもこう答える。

勉強になる本はたくさんあります。でも、実際にはないかもしれない」質問した人は、いつも不思議そうな顔をする。

世間には、企業で実践され、成果をあげた組織変革の成功事例などを紹介した本があふれているからだ。

しかし、それらが現実的に役立てられている会社は少ない。

私の言葉の真意は、成功事例を紹介した本は多数あるが、自社に取り入れるべきもの、取り入れる必要がないもの、逆に取り入れるとマイナスにさえなるものを見分ける「視点」を持っていなければ、活用できないということだ。

実際に自社に取り入れるとしても、どのように取り入れるべきか、すべてを的確に判断する「視点」が求められる。本書の目的は、この「視点」をお伝えすることにある。

その「視点」を身につけることで、組織変革に対する見方が一変するはずだ。世間に流布する組織関連の本も、宝の山となることは間違いない。

本書には、私が在籍して深く関わったリクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクという3つの会社での経験を、ふんだんに盛り込んでいる。

いずれも、社会に対して多大な価値を提供し続ける、日本を代表する企業である。この3社に共通するのは、時代の流れの変化に適応し続ける「強い会社」であることだ。

その背景にあるのは、仕組みをつくり、決めたことをやり切る強さともいえる。

ただし、「強い会社」とひとくくりにしたが、それぞれの「ビジネスモデル」や「組織戦略」はまったく異なる。

組織のつくり方、情報共有の仕組み、意思決定の方法、実行の際の部署間の連携の仕方、評価指標……をはじめ、大事なのは企業によってあるべき組織の姿はまったく異なるということだ。

そのことを理解していない人が多い。

たとえば、組織のつくり方を見ても、リクルートはそれぞれの課を「プロフィット・センター(利益を生み出す部門)」とみなし、その活動の自由度を大切にする組織である。

法や倫理に反することは当然ダメだが、考え出したアイデアを実現させるためなら、自由にどんなやり方で行ってもいい。

1つの課の10人程度の組織のトップに権限と責任を大胆に委譲し、自由に挑戦させるのだ。

基本的な発想は「プロフィット・センターそれぞれが、きちんと利益を出してくれれば、その集合体である企業もきちんと利益を確保できる」というシンプルな考え方である。

「多くのリーダーシップに関する本には、1匹のライオンが100匹の羊を操る手法が書かれている。

でも私は、ライオンにはなれないので、100匹のライオンを束ねる羊になろうと思った。100匹のライオンに思う存分活躍してもらう。そういうやり方があってもいいのではないか」

これは、リクルートの創業者の江副浩正氏が社内報に寄せた文章の要約だ。プロフィット・センターの1つひとつをライオンが率いている。

そのライオンたちを「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という理念によって束ね、世の中に価値を生み出し続ける。

社会や顧客のためになることなら、たとえ難易度が高くても現場のトップが主体的に挑戦をする。

それが自然に起こり続ける仕組みこそ、リクルート的な組織の「企業文化」の最大の特徴だ。

だから、どうしても個が強くなる。ライオン同士は、縄張り争いもする。つまり、社内が競合になることも多いのだ。

しかし、それが新陳代謝を促し、さらに新しいアイデアを生み出す。そのための「仕組み・制度・施策」によってリクルートは強くなってきたのである。

ところが、ユニクロで知られるファーストリテイリングの「企業文化」はまったく異なる。

ファーストリテイリングは商品を仕入れて売るだけの従来のアパレルの小売ではなく、自社で商品を企画し、製造から販売まで責任を持つ「製造小売業」をめざし、実現させた。

消費者のニーズを的確にとらえている小売業者自らが、製品の企画を具体的に行い、それをメーカーの工場に委託するなどしながら、自社オリジナル商品として販売する。

「製造小売業」の場合、売り切ると利益率が高い反面、売れ残ると大打撃を受ける。

こうしたハイリスク・ハイリターンの「製造小売業」を成立させるには、社内の組織間でいがみ合っている場合ではない。

リクルートのようにプロフィット・センターで「自分はこうやる」と打ち出すのではなく、組織が一体となって動けるかどうかが最大のポイントとなる。

リクルートとファーストリテイリング、両社は180度違う「ビジネスモデル」のため、リクルートのような「仕組み・制度・施策」はあてはまらない。

だからこそ、ファーストリテイリングには、ファーストリテイリングならではの「仕組み・制度・施策」をつくらなければならない。

それは、おのずとまったく違う「企業文化」になるということだ。他の企業とは、やり方が違い、何を大事にするのか、その価値観は企業によって異なる。

ソフトバンクの意思決定について、多くの人は経営トップの孫正義氏のトップダウンをイメージする。

あながち間違いではないが、孫氏は会社の主要な部署の幹部クラスと頻繁にブレインストーミングをして戦略を決めている。

優れたアイデアは取り入れ、常に戦略を研ぎ澄ませていく。他人の脳を自分のものにしながら、さらにそれを超えるアイデアを出し続けるのがソフトバンクの「強み」である。

そこで決めたことを推進する能力が高いのもソフトバンクの特徴だ。

指示命令を徹底し、やり抜く強さがある。

たとえば業務上の仕組みを変更したとき、決めた2、3日後には日本中でオペレーションが変更されている。

普通の大手企業にはできないことだ。誤解を恐れずにいえば、たとえ不眠不休でも必要だと思えることをやり抜く強さがあるのだ。しかも、ソフトバンクにおける経営への信頼度、共感性は非常に高い。

私が在籍していた当時も、社内の従業員満足度調査では、経営への信頼や共感に関する項目のポイントが高く、孫氏がめざす世界の実現に、自分も一緒に携わりたいと考える社員の比率が高い。

正直、それが100%正しいのか、自分では判断がつかないときも、トップが決めたことを信じてやり切るという信頼関係が出来上がっている。

それは嫌がる者に無理矢理やらせるニュアンスではない。結果として、ソフトバンクは変化対応が迅速にできる仕組みが強みになっている。

ここでいいたいのは、3社の特徴がどうのという以上に、会社によって採るべき戦略は異なるということだ。

他社の物真似では通用しない。成功事例をそのまま真似して、失敗した例は枚挙に暇がない。

成功したケースは脚光を浴びるが、失敗はひそかに葬り去られる。

ファーストリテイリングが「製造小売業」に成功したとき、多くのアパレルが「製造小売業」に乗り出した。

しかし、結局、なかったことのようにやめてしまった会社が多いことも、このことを大いに物語っている。

ハイリターンだけが見えて、リスクを最小化する仕組みをつくれなかったからだ。

また、あらかじめ説明しておくと、具体例として本書で登場するファーストリテイリングは、売上800億円~4000億円に急成長し、多くの人に知られるようになった頃のことである。

この規模での急成長を支えた組織変革の事例として、多くの会社の参考になるはずだ。ただし、誤解を与えないよう現在のファーストリテイリングについてもお伝えしておく。今では店舗網を世界に広げ、売上も2兆円を超えている。

社会問題の解決も視野に「無駄なものをつくらない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」というスローガンを掲げ、LifeWearとして、シンプル、高品質、優れた機能性という「究極の普段着」を提供するために「ビジネスモデル」を研ぎ澄ませている。

本書の中で登場している「製造小売業」という「ビジネスモデル」も、現在ではAIをふくめた最先端のIT技術を活用する「情報製造小売業」へと進化している。

ファーストリテイリングは、まさに時代の変化に適応しながら、さらに強くなり続けているのだ。

本書では実際の社名を一部の箇所では表記せずに、「FR社」のように、あえて抽象的に表記し、モデル化している。

正確さを追求するあまり、前提や例外などをふくめた膨大な情報を伝えるよりも、モデル化することで状況を単純化し、「仕組み・制度・施策」の必要性とその効果をよりわかりやすく伝えられると考えているからだ。

また、事業やプロジェクトは、携わる人の数だけ事実の認識や解釈が異なるので、本書では、具体的事例を私個人の視点によってモデル化した。

より本質的な部分に踏み込み、現実にあるさまざまな個別の前提条件にとらわれない普遍性のあるフレームワークのように、本書の内容をシンプルに理解し、大学やビジネススクールの授業で扱うケースとして読み進めていただきたい。

1章では、まず多くの会社でやりがちな「他社の成功事例を取り入れれば、うまくいく(中には、取り入れただけで、すでに変革をした気になっていることさえも)」という問題に切り込む。

そのうえで、自社に最適な「企業理念」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」の3つが組織変革の根幹となることを説く。

2章では、自社の組織を診断する指針となる「7つの視点」を紹介する。

さらに、組織的に「仕組み・制度・施策」が機能している事例としてリクルートの実際の取り組みを見ていく。

3章では、自社に合った「仕組み・制度・施策」を考えるべく、私が実際に経営コンサルティングで活用している、どの会社でも使える「強い会社に変わるための『思考のフレーム』」を具体的なプロセスとともに紹介していく。

4章では、「仕組み・制度・施策」を実践することで組織がどのように変わっていくかを「FR社」というモデル化したケースで紹介している。

リアリティを持って体感していただきたい。

5章では、強い会社には一朝一夕で変われるわけではなく、結局は日常のコミュニケーションの積み重ねの産物であることを、リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクの会議の事例なども用いながら紐解く。

「特別付録」では、組織変革のために「人間心理を徹底的に考え抜くツール」として活用できる理論を紹介する。

そして、もう1つ本書全体で感じていただきたいことがある。

それは「仕組み・制度・施策」は押しつけるものではなく、人が自然と自ら動き出すようなものをつくるということだ。

「人を動かそうとするのではなく、『人が自ら動き出す環境』をつくる」というメッセージを常に意識して読み進めていただきたい。

本書を通して、人間心理を徹底的に考え抜くことの重要性をご理解いただけると幸いである。

読者のみなさまが組織変革に関する本質にたどりつくための一助として、本書がお役に立つのであればこれ以上の喜びはない。

第1章なぜ、他社の成功事例を取り入れてもうまくいかないのか?組織変革は「企業理念」×「コア・コンピタンス」×「仕組み・制度・施策」で実現する

自社に合った「仕組み・制度・施策」でなければ意味がない

時代の変化に適応できる「強い会社」になるには、人が自ら動く「環境」と「仕組み」をつくらなければならない。その参考として、ビジネス誌や書籍をはじめ、さまざまな企業の成功事例が紹介されている。それらは、素晴らしいものも多い。

ただ、経営者や管理職がそうした記事や書籍を読み、人事担当者やメンバーを呼んで「ここに書かれているケースは良さそうだから、うちもやろう」と指示するだけの会社がじつに多い。成功事例を取り入れれば、同じ効果を得られると考えているのだ。

だが、自社の「ビジネスモデル」や、自社の強みである「コア・コンピタンス」を理解し、十分に検討したうえで、その成功事例である組織戦略の「仕組み」や「制度」それにともなう「施策」を取り入れないと、成功どころか、逆に失敗してしまうケースすらあるのだ。

他社の事例を実行することで、自社が本当に強くなるのか十分に検討する必要がある。

「ビジネスモデル」とは、利益を生み出す製品やサービスに関する事業戦略と収益構造のことである。かみ砕いていえば、「誰に対して、どんな製品やサービスを提供し、誰からお金をもらい、どのように利益を生み出そうとしているのか」という構造のこと。

「コア・コンピタンス」とは、経営学者のゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハラード氏が『TheCoreCompetenceoftheCorporation』の中で紹介した、「顧客に対して、他社には提供できないような自社ならではの価値を提供する、企業内部に秘められた独自のスキルや技術、ノウハウの集合体であり、企業の中核的な力」のことである。

本書で紹介する話の中では、この「コア・コンピタンス」のニュアンスは、やや広義にとらえていただいても構わない。「自社が競合他社と戦って勝つためのポイント」と考えていただくと良いかもしれない。

経営者や管理職は、自社の「ビジネスモデル」を認識したうえで、自社の「コア・コンピタンス」は何か、自社の「強み」と「弱み」をたえず分析し見直し、市場や世の中の変化に合わせて、現在の戦略のままでいいのか、違う戦略に変えなければならないか、常に考え続けるのだ。

たとえばメーカーの場合は、自社のコアとなる技術を突き詰め、時代の変化に合わせてその「強み」を活用し続ければ、勝ち続ける確率は高まる。

しかし、それを見誤ると失敗する。上手に変化に適応した事例としては、フィルム事業の衰退をいち早く察知した富士フイルムが有名だ。

写真フィルム製造で培った中核となる高度な技術や知識資産を活用し、半導体プロセス材料などの産業機材や、化粧品、医療分野などへの多角化を果たした。

同じ業界でも会社によって「コア・コンピタンス」は異なる。だからこそ、その「強み」が活かされるような組織戦略の「仕組み」「制度」、それにともなう「施策」の導入が必要となる。

自社の「コア・コンピタンス」を理解し、「ビジネスモデル」や「企業文化」に合った「仕組み・制度・施策」でなければ、効果は出ない。「コア・コンピタンス」を見誤った典型が次のようなケースだ。

自社の「コア・コンピタンス」を見誤った「仕組み・制度・施策」

私が経営コンサルタントとして相談を受けたときの話をもとに、1つの事例を紹介しよう。経営コンサルティングでは守秘義務があるので、会社が特定できないように、モデル化して紹介する。逆にそのほうが、構造もシンプルになるので、理解しやすくなるはずだ。

地方都市を中心に店舗展開する携帯電話の販売会社がある。その会社には以前、別の組織人事コンサルティング会社に依頼して導入した人事制度があった。

その人事制度は、しばらくは問題なく機能していたのだが、景気が悪くなりはじめて、競争が激しくなるとその会社の売上は急激に落ちてきた。社員も不満を訴えはじめていた。

そこで私への依頼内容は、その人事制度のどこがどう悪いのか検証してほしいというものだった。この携帯電話の販売会社の場合、さすがに有名な組織人事コンサルティング会社に依頼しただけあって、その人事制度は優れていた。

会社のめざす「地域に愛され、地域を元気にする」という「企業理念」を社員に実践させるような仕掛け、つまり、「企業理念」を実現するための行動を評価する指標がしっかりと組み込まれていたのだ。

ところが、「おや?」と思うところがあった。現場の社員もふくめて何人かに話を聞くなかで感じた違和感だ。

それは、導入されている人事制度の中の「評価指標」で重視されているのが、「効率性」であることだった。確かに、携帯電話の販売会社にとって「効率性」は重要な指標だ。携帯電話を買い換えたくても、並んで待つ時間が長いと訪れる人は少なくなる。

そのような状態に陥らないためには、「1日に何人のお客様をさばけるか」「いかに効率的に顧客を回転させられるか」は重要な指標になる。そう考えれば、「効率性」を評価するのは当然といえば当然だ。

とくに渋谷や新宿など、都会の顧客の場合、スマートフォンや携帯電話に対するリテラシーがある人の比率が高い。細かい操作方法などをいちいち説明しなくても理解してもらえる。

結果として、そのような顧客が多い携帯電話の販売会社は、サービス・品質・満足度を落とさずに、訪れた人を効率的に回転させることが重要になる。

そうすると、利益率の高い企業になるわけだ。だが、その携帯電話の販売会社の拠点は地方都市にある。顧客層には高齢者も多く、必ずしも携帯電話やスマートフォンに対するリテラシーが高くない。

その会社が好調だった頃の話を聞いてみると、意外な真実が浮かび上がった。顧客がスマートフォンの操作がわからなくなると、車に乗ってお店まで聞きに来ていたそうなのだ。しかも、そのようなお客様が、新しいお客様を紹介してくれることも多かったという。顧客が、同じようにリテラシーの高くない知り合いを紹介してくれていたのだ。

おそらく、知り合いに「あのお店は、丁寧に教えてくれるよ」「あなたもあの店に行ったほうがいいよ」と勧めてくれていたに違いない。だが、社員が「効率性」を重視した結果、気軽に相談できない店だということになれば、紹介も減り、売上も下がる。

この地方都市の携帯電話の販売会社の場合、「効率性」を過度に重視すべきではなかったのだ。大事なのは、顧客に「この販売会社なら、知り合いを紹介しても間違いない」と思ってもらえるかどうかである。

とくに郊外や地方では、多少の効率を犠牲にしても、顧客が「新たな顧客」を芋づる式に連れて来てくれる仕組みこそが競争優位につながることがありえる。

だがおそらく、その組織人事コンサルティング会社は、利益のための「効率性」という一般論にとらわれていたか、経営的にうまくいっている携帯電話の販売会社のモデルや事例をあてはめた可能性がある。

この携帯電話の販売会社の経営者と人事、組織人事コンサルティング会社は、自社の「強み」である「コア・コンピタンス」を見誤ったか、理解していなかった。

だから、一般的に良いとされるような評価の仕組みにしてしまったのだ。戦い方が異なる会社の人事制度を真似てもうまくいかない。前述した通り、その携帯電話の販売会社から私への相談は、景気が悪化しはじめた時期にきた。

景気が良いときには、商品もそれなりに売れていたので、表面化しなかったが、消費動向が厳しくなると、お店や商品の真価が問われる。

「効率性」を重視した結果、顧客対応のまずさが一気に表面化したのだ。私は、まず「評価指標」を見直した。

「効率性」よりも、またそのお店に来たくなる、友人や知人を紹介したくなるような行動をした人が評価される仕組みにしたのだ。

とりわけ私が考えたのは2つの視点からだ。

1つは、どんな行動や考えを評価すると、この会社の「強み」が発揮されるような行動を、社員1人ひとりが自然としてくれるのかということ。

もう1つは、この会社の「企業理念」を実現するためには、どんな行動や考えが評価されなければならないかということ。

この2つの視点から考え抜いて、「評価指標」の項目を洗い出し、その優先順位とバランスで、理想の行動を実現させる仕組みをつくった。

それまで導入されていた「企業理念」の実現を評価する視点にプラスして、会社の「強み」を伸ばす行動を起こさせるための視点を持ち込んだのだ。

このケースでのポイントは、自社の「強み」になっている部分を正確に把握し、それが強化されるような「仕組み・制度・施策」を導入しないと、会社自体が弱くさえなってしまうということだ。

極端にいうと、この携帯電話の販売会社は、人事制度の中の、人事評価の指標の、たった1つの項目の扱い方を誤った。

その1つの項目は、自社の「強み」と大きく関わっていた。その結果、顧客は離れ、業績は悪化したのである。

自社の「ビジネスモデル」に合った、自社の「コア・コンピタンス」を強化するような、組織戦略の「仕組み・制度・施策」を導入しないと、取り返しのつかない致命傷にさえなってしまうのだ。

「コア・コンピタンス」を強化できる「仕組み・制度・施策」が、会社の命運を握る

「コア・コンピタンス」は不変ではない。だから、組織戦略の「仕組み」や「制度」、それにともなう「施策」も、常に見直し、進化させていかなければならない。

現在、成果が出ていても、そのままで良いのか、問題意識を常に持ち続けるべきである。「コア・コンピタンス」は人によって認識が違ってはならない。

経営者の考えと、幹部や社員が別のとらえ方をしていては組織として機能しない。経営会議や戦略会議でも常に確認し続け、共有する必要がある。

その「強み」が活き続けているか、「弱み」を補う手立ては打たれているか、常に検証する必要がある。「コア・コンピタンス」は進化する。

私が在籍した頃のファーストリテイリングの主力事業である「ユニクロ」は、「製造小売業」という「ビジネスモデル」に変わることによって成長した。

「製造小売業」とは、自社でオリジナル商品の開発を行い、製造の分野まで踏み込み責任を持って生産し、自社で販売する方法である。

従来、アパレルメーカーと、百貨店や量販店、ショップなどの小売店との関係は、売れ残れば実質的に返品できる契約形態が多かった。

たとえば、小売店がメーカーに事前発注していても、実際の売れ行きの状況を見て、必要な分だけ買い取る形態。

いったんは小売店が買い取るが、返品や値引きの条件が付いている形態。小売店の店頭在庫をメーカー側の在庫として考え、販売した分のみを、そのつど仕入れるというような形態だ。

要するに、売れ残れば返品するという商習慣があったのだ。そうなれば、メーカー側も返品されても利益が残る価格にせざるをえない。おのずと、洋服は高い値段になりがちだった。

しかし、「製造小売業」の場合には、商品の企画も自社で行い、工場に発注した商品は基本的にすべて引き取ることになる。販売も自社のリアル店舗やネット上の店舗で行う。

1社でコントロールするので、つくった製品を売り切ることができれば、利益率は高い。しかし、もしも売れ残れば大きな損失になる。「製造小売業」は、ハイリスク・ハイリターンの「ビジネスモデル」なのだ。

ユニクロの場合には、ベーシックなカジュアルウェアを中心とする商品に特化した「製造小売業」という「ビジネスモデル」で、商品開発にきちんと時間をかけ、ある程度絞り込んだ商品を大規模に生産し、大規模に売り切ることで利益を出している。

この「製造小売業」をきちんと成立させる仕組みこそが、ファーストリテイリングの「コア・コンピタンス」になっている。

同じ「製造小売業」でも、スピード重視、多品種少量生産の「ビジネスモデル」で世界中に展開している企業もある。

ファストファッションとして、ひとくくりにして扱う記事やニュースも多いが、それぞれ「ビジネスモデル」と「コア・コンピタンス」が異なるので、求められる組織戦略の「仕組み」や「制度」、それにともなう「施策」も違う。

ユニクロは、絞り込んだ商品を大量に製造し、販売するモデルで基盤を固めながら、現在では、身体のサイズを測って個人に合ったものを提供するという「オーダーメイド感覚で選ぶシャツやスーツ」なども手がけている。

これが顧客に受け入れられ、このような商品群が増えてくると、「個客対応力」が次の「コア・コンピタンス」になりえる。

自社の「コア・コンピタンス」は「自社が競合他社と戦って勝つためのポイント」であり、それは不変である必要はない。「強み」の柱を複数にし、進化させていくわけだ。

おのずと、その変化に適応できるように、組織戦略の「仕組み・制度・施策」も進化させ続けるのだ。それが当たり前にできるような「企業文化」になれば、継続的、安定的に利益を生み出せる「強い会社」になる。

「企業理念」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」は三位一体

組織戦略の「仕組み・制度・施策」を考えるとき、他社の成功事例を安易に取り入れてもうまくいかないのは、この項目のタイトルにある3つの要素が密接に関連しているからだ。

組織戦略がうまくいくには、少なくともその会社がめざす「企業理念」が明示され、その会社の強みとなる「コア・コンピタンス」が発揮され、それを強化するための「仕組み・制度・施策」が導入され、機能していなければならない。

それをモデル化したのが次の図である。

図のように「企業理念」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」が相互に連関する「三位一体」の関係になることで、「強い会社」へと進化する。

「企業理念」とは、どのような価値を提供して企業が存続したいのか、社会からどのような支持を集めて発展したいのか、それを実現させるためにどのような考え方や行動がその会社では理想とされ評価されるのかを示したものである。

自社の中核的な強みであり、自社が競合他社と戦って勝つためのポイントとなる「コア・コンピタンス」は、高機能の商品を生み出せる技術力かもしれない。どこよりも安く提供できる生産力や調達力かもしれない。また、新商品や新サービスを開発できる企画力や、商品・サービスを高速で進化させられる対応力かもしれない。

そして、それは世の中の変化、顧客ニーズの変化、競合との関係などによって常に変えていかなければならない。

「企業理念」を実現するのはまさに、人。

「コア・コンピタンス」を考え、進化させるのも結局は、人。

だからこそ、この2つを強化するための組織戦略の「仕組み」「制度」、それにともなう「施策」が必要なのであり、その良し悪しが企業力の差になっていく。

いくら優れた「企業理念」を持っていても、「コア・コンピタンス」を確立し、発揮して利益を生み出し続けなければ、「企業理念」は実現しない。

だからこそ、「企業理念」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」の三位一体の概念が重要なのだ。

他社の成功事例の「仕組み・制度・施策」を取り入れた時点で、組織を改革、改善したつもりになっている経営者や管理職は多い。

もちろん、改革や改善するために他社の成功事例に目を向けるのは大事なことである。だが、そのまま取り入れるだけではダメなのだ。

自社の「企業理念」や「コア・コンピタンス」に合ったものでなければ、本当の意味での「強い会社」にはなれない。

たとえば、「製造小売業」の確立をめざしている頃のファーストリテイリングの経営トップの考えを(意訳もあるが)表現するとこうだ。

「日本には、高くて良い服と安くて悪い服しかない。安くて良い服があってもいいではないか。個性は服にあるのではなく、着ている人にあるはずだ。それを個人が選べるように、安くて完成度の高い服を提供する。そういう世の中をつくろうではないか」

この想いを実現するために言葉にしたものが、「いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する」という「企業理念」である。

しかし、それを実現する「コア・コンピタンス」を持たない限り、絵に描いた餅に終わる。

そこで、「コア・コンピタンス」をつくり出すために「製造小売業」という「ビジネスモデル」に変更するところからはじめ、さらに、社員がそれに向かって自ら行動するような「仕組み・制度・施策」をつくっていったのだ。

社員を矯正し、強制すると、その瞬間だけはいうことを聞くかもしれない。だが、経営者や上司がいわなくなればやらなくなる。その場その場のいわば「対症療法」のようなものだ。

「強い会社」には、いわば「対症療法」とは対極的な「原因療法」ともいえるような仕組みがある。社員が自ら「企業理念」を実現し、「コア・コンピタンス」を強くするための能動的な行動を自然発生的に生み出すような「仕組み・制度・施策」があるのだ。

そして、このような実行すべき「仕組み・制度・施策」は、会社によって異なる。いわば、会社という生き物に、神経を通し、血液を通わせ、1つひとつの細胞が自ら動くようにしていくものこそが、「仕組み・制度・施策」である。

「仕組み・制度・施策」は自社がめざす「企業理念」や、「コア・コンピタンス」を考えたうえで、目に見えない魂のような「企業文化」をふくめて設計していくのだ。

「企業理念」を実現させることで、会社は強くなる

その会社が何をめざしているのか、それを明確化した「企業理念」はとても重要だ。

「社是」や「社訓」「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「クレド」という言葉で表している企業もある。

「企業理念」は、「コア・コンピタンス」の上位概念である(「コア・コンピタンス」は「仕組み・制度・施策」の上位概念となる)。前述したように私が入社した頃のファーストリテイリングには、次のような「企業理念」があった。

いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する普通に聞くと、それほど驚くようなことはいっていないと思うかもしれないが、一般的なアパレル業界の状況を考えると驚くべきことが述べられている。

一般的には、性別や年齢でターゲットを絞ったり、フォーマルとカジュアルなど、「時(time)」「場所(place)」「場合(occasion)」、つまり「TPO」で分けたりするのが通常だ。

それを「いつでも、どこでも、だれでも着られる」という概念で提供しようとしたわけである。そこで、「ファッション性とベーシックのバランスをどうとるのか?」「高品質で、市場最低価格というのをどうやって実現するのか?」ということを徹底的に考えた。

高品質で市場最低価格の実現は、一度や二度であればできる。赤字覚悟で値引きすればいいからだ。だが、これを継続するのは難しい。

その「企業理念」を実現しつつ利益を確保しながら販売するには、継続可能なビジネスの仕組みが必要になる。

そこで、ファーストリテイリングは、「製造小売業」という「ビジネスモデル」へと進化させたわけだ。リスクを取りながらも、高品質なカジュアルウェアを安く提供する。

そのビジネスの仕組みを構築することで、はじめて「企業理念」が実現する。そのプロセスが会社を強くするのだ。

「企業理念」によって、人は自ら動く

ここで「企業理念」を明示することの価値について、掘り下げていきたい。「企業理念」は、同じ業種でも会社によって異なる。

その会社が「どんな会社をめざすのか」「どんな会社になりたいか」を明言したものであるからだ。

これらは大きく「ミッション」と「ビジョン」に分かれ、私なりの考えでは次のようになる。

  • ミッション 理想やあるべき世の中のために、自分たちは何をするべきか
  • ビジョン ミッションが実現したときの、あるべき世の中の姿、そのときの自社の姿

「ミッション」と「ビジョン」は一対である。自分たちのなすべきことが実現したときの状態が「ビジョン」ということになる。理想の社会である「ビジョン」のために、自分たちが行うべきことが「ミッション」でもある。

「ミッション」や「ビジョン」をなし遂げた暁には、こういう理想の世の中になっている。それは価値あることだから、何としても実現したい。そう思うことが人を当事者にさせ、やる気にさせる。

「企業理念」や「ミッション」「ビジョン」を考えるとき、私の心を震わせたフレーズがいくつかある。やってみなはれこれはサントリーのものである。

サントリーは1973年、時代の変化に対応すべく社是を改定したが、この言葉は、サントリー創業の志として今でもホームページで次のように紹介されている

「創業者・鳥井信治郎の口癖でした。やってみよう。やってみなければわからない。『新しい価値創造』を企業理念とするサントリーを表す言葉は、創業当初から今でも全社員の心のなかに生き続けています」

このシンプルだが、挑戦する人の背中を押してくれる「企業文化」を端的に表す言葉に、私は学生の頃から心を惹かれた。今でもこの言葉は魅力的だ。

自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよこれはリクルートの社訓であった。自主性、積極性を重んじる人を熱くさせるメッセージだ。私は、この理念に惹かれて入社したといっても過言ではない。

そして、この言葉が困難に出合ったときに私を勇気づけ、何度も背中を押してくれた。リクルートを離れた今でも、この言葉は私の行動指針となっている。

人が自ら動き出すような会社になるためにも、「企業理念」や「ミッション」「ビジョン」が、本当に浸透すれば、それだけで働く人を熱くさせる力がある。だからこそ、明確にし、明示すべきなのだ。

世の中に提供する価値を表す「社外規範」

私は、「組織変革」に関連した講演で参加者によく次のような質問をする。

「人が会社で本気になって働くためには何が必要ですか?どんな状態が必要ですか?」

さまざまな回答が出てくるが、私はその答えを「企業理念」にもとづく「ミッション」や「ビジョン」を念頭に置いた2つの視点で説明している。

「会社が世の中に提供している価値に共感できるかどうか」「会社の社風や求められる働き方に共感できるかどうか」前者は「外(世の中)に対する価値」である。

その会社が、世の中に対してどのような価値を提供して存続しようとしているのか、社会からどのような支持や感謝を集めて発展していこうと考えているのか、世の中への価値提供の在り方についての考え方を指す。私はこれを、「社外規範」と名づけた。

後者は、「内(社内)で大事にしている行動や考え方」で「社内規範」と名づけた。その会社では、どんな考え方が良いとされるのか。どのような行動が評価されるのかということである。

「社外規範」と「社内規範」、この2つに共感できないと、人は本気では働けないのだ。

まず、「社外規範」への共感についてだが、ひと言でいうと、自分が携わるビジネスが世の中のためになっていると感じられなければ、モチベーションは上がらない。

わかりやすい一例として、仮にタバコの煙が嫌いな人がいたとしよう。副流煙で受動喫煙者を増やし、どれだけ社会に迷惑をかけているのだと。その人は、タバコの製造や販売をする会社で本気で働けるだろうか。

社会のためになっていると思えない仕事に「働く意義」を見出せるだろうか(逆にタバコ好きにとっては、魅力的な職場になるだろうが)。

これは極端な例かもしれないが、「働く意義」はその会社の事業と大きく関わる。その事業にどのような社会的価値があるか。自分がその事業を本当に好きで納得できているかどうか。これは、本気で働くためのポイントの1つである。

大学を卒業してリクルートに私が入社しようと思ったのも、その「社外規範」への共感からだった。当時のリクルートは、社会に対して「情報の非対称性の解消」という価値を提供するために注力し続けていた。

「情報の非対称性」とは、商品やサービスを提供する側(売る側)だけが知っていて、商品やサービスを提供される側(買う側)が知らない情報があることを指す。通常は、提供する側のほうが有利な状況に置かれる。

私が学生時代にリクルートに興味を持ったのは、その「情報の非対称性の解消」という「ビジネスモデル」にオリジナリティを感じたからだ。

現在のインターネット社会では珍しくないが、当時のリクルートは「情報の非対称性の解消」に挑戦する数少ない企業だった。当時のリクルートは、就職、アルバイト、教育、住宅、中古車、旅行関連の情報が主力事業だった。

たとえば、かつての人材募集の広告には、待遇面など「委細面談」と書かれているのが普通だった。面接に行ってみなければ、実際の労働条件がわからないのだ。

中古車販売では、かつては車の走行距離のメーターを巻き戻してごまかして売る業者も横行していたと聞く。住宅販売も、かつては駅から普通に歩くと15分かかる物件でも、駅から8分と書かれることもあったと聞く。売り手が情報を握っており、情報を知らない買い手は立場が弱い。

それが社会的に通用していた時代に、商品やサービスを買う側が、正当に、かつ適切に判断できるための情報を正確に伝えようとしていたのがリクルートだった。

そのためには、「出したくない情報」を企業側から引き出すための努力をしなければならない。統一したフォーマットに「読者が必要とする情報」を記入してもらうための交渉は大変だったはずだ。私は、この「ビジネスモデル」に賛同した。

ファーストリテイリングで私もふくめた多くの社員が本気になったのは、経営トップが掲げる「日本には、高くて良い服と安くて悪い服しかない。安くて良い服があってもいいではないか」「個性は服にあるのではなく、着ている人にあるはずだ」という社会に提供する価値観(=社外規範)に共鳴したからだ。

いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供するその「社外規範」を実現する仕組みをつくるために社員は働くのだ。

企業の考えを明確化し、表明し、理解させるのは重要である。とくに「社外規範」は企業の成長や進化と密接に関わる。

たとえば、「メガネのJINS」として有名なJINSの初期段階の「ミッション」「ビジョン」はこうだ。

メガネをかけるすべての人に、よく見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供するファーストリテイリングの「社外規範」に似ていないだろうか。

それには理由がある。

JINSの経営がうまくいっていないときに、田中仁社長がファーストリテイリングの経営者のもとに教えを請いに行ったというのは有名な話である。

「あなたは何のために事業をしていますか。あなたのビジョン、志は何ですか」ファーストリテイリングの経営者にこう詰められ、JINSの田中社長は「社外規範」が明確になっていないことに気づく。

戻って幹部たちを集め議論し、最後に行き着いたのが先述した「社外規範」だった。自分たちの事業価値は何かを再定義して、この「社外規範」を決めてからJINSの躍進がはじまった。それほど「社外規範」は重要なのだ。

JINSでは、屈折率の高い薄型のレンズも、追加のオプション料なしで提供されている。近視の度合いの強い人は、通常の厚さのレンズでは見えるようにならず、かなり厚めのレンズにしなければならない。

厚いのが嫌で、薄型の高屈折レンズにしようとすると、それまでのメガネ屋さんではオプションとなってしまい、追加料金を払わなければならなかった。

しかし、JINSは「よく見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で」という「社外規範」に則り、追加料金なしで高屈折のレンズをつける企業努力をした。

JINSはそれを実現するため、レンズメーカーとさまざまな交渉を行ったり、場合によってはメーカーを絞り込んで大量に購入することでコストを下げたりするなどの工夫をしたのだ。

JINSのケースは、自分たちが世の中に対してどんな価値を生み出すのか、そのためにやるべきことは何かを明確化した。その仕組みをつくり出すのは、決して簡単なことではなかったはずだ。

しかし、それを成し得たところから躍進がはじまったのは、「社外規範」の重要性を示す証左になる。「自分たちは何をやるべきか」これを「ミッション」「ビジョン」「理念」「社是」と呼んでも構わない。

大事なのは、それを明確に言葉にすることである。会社全体で、共有すること。そして、それを真剣に実現しようとすることだ。

その会社ならではの理想とする行動を伝える「社内規範」

「(外に向けた)社外規範」に対して、「(中に向けた)社内で大事にしている行動や考え方」が「社内規範」だ。

「社内規範」は、理想とされる行動や考え方、つまり行動指針である。

社風や求められる働き方は、同じ業界でも異なる。

組織には独自の価値観、判断基準、行動基準があるように、「社内規範」は会社によって異なる。

だからこそ、自分が所属する組織の行動指針を好きになれなければ、毎日職場に行くことがつらいはずだ。

ソフトウェアのシステムを提供する企業のA社とB社がある。

たとえば、トラブルがあったときに、顧客のもとへ急ぎ飛んで行くのがA社で、一方のB社は解決策に集中する。

実際にリクルート時代に、この両社とも接点があったので、私はそれぞれの「企業文化」の違いをよく知っている。

これは良し悪しではない。

「社内規範」の違いから起こるのだ。

A社はとにかく顧客対応のスピードを優先し、顧客に寄り添うことが推奨される。

さすがに駆けつけてすぐに必ずしもトラブルを解決できるわけではないが、顧客のところに行き緊急の対処法などをともに考えることで、顧客にとっては精神的な支えとなる。

そのほうが顧客との信頼関係が強くなると考えているのだ。

一方、B社は速く顧客のもとへ行くことよりも、状況や現象から原因を特定し解決する行動をとることが推奨される。

顧客のもとに行くときは、専門のスタッフも引き連れて訪問し、トラブルを一気に解決する。

そのほうが顧客の信頼を得られると考える。

それがB社の「社内規範」だ。

このように同じ業種でも、やり方はまったく異なる。

また、同じ職種でも、求められるものが会社によって異なることに関して、2003年から「SAPS経営」を導入したユニ・チャームの営業職の事例が興味深い。

「SAPS経営」とは、「Schedule(「思考」と「行動」のスケジュールを立てる)」「Action(計画通りに実行する)」「Performance(効果を測定し、反省点・改善点を抽出する)」「Schedule(今週の反省を活かして次週の計画を立てる)」の頭文字を取ったものだ。

ユニ・チャームは、最短の時間で最大の成果を実現するためには、組織の最優先課題を定め、そこに全社員の時間と行動を集中させることが大切だと考えている。

また、異なる経験や知恵を持つ人が集まって知恵を出し合えば、1人の知恵の何倍もの力を発揮できるとも。

具体的には、計画を達成するための「行動計画を立て、実行し、結果を分析し、反省点を踏まえて次週の行動計画を作成する」というサイクルを「週単位」で回している。

毎週行われる週次会議において各人の先週の反省点と今週の計画、日次スケジュールが公開され、その行動に上司や同僚がアドバイスしてゆく。

売上などの数値管理の代わりに、「行動目標」によるマネジメントが行われているのだ。

たとえば、「1週間に○件のお客様を訪問する。

具体的に各曜日にどこへ行くか、そして、それぞれで何をするのか」という「行動目標」を立てるのだ。

結果というのは、いくら強制したからといって必ず出るものではないが、行動は本人の能力やスキルに関係なく、意志さえあれば誰でもできる。

だから、「行動目標」を愚直に続ければ個人の能力も上がり、結果として、組織のトータルの能力も高まると考えているわけだ。

また、自らが定めた「行動目標」を完遂することで、誰もが達成感を味わうことができる。

つまり、契約を取って売上をあげたことを褒めるのではなく、契約を取るための行動をきちんと行うことを褒める仕組みになっているのだ。

成果や結果と違って、努力や取り組む姿勢は自分の考え方ひとつで実践できる。

つまり、自分でコントロールできるのだ。

それを褒め続けると、人はたとえ難易度の高い仕事にも意欲的に取り組むように変わっていく。

一般的な営業職の場合、「結果としての数字」を評価の対象にしている会社が圧倒的に多いのではないだろうか。

ユニ・チャームは、結果ではなく「行動目標」を達成できたかどうかというプロセスだけを評価する。

ここも、良し悪しをいいたいのではない。

会社によって、社員に求めるもの、つまり「社内規範」が大きく違うことを伝えたいのだ。

「社内規範」について、次に私がファーストリテイリングに在籍したときに考えた人事思想を一例として掘り下げていきたい。

自立・自律した個人がコラボレーションしながら、高い付加価値を創造し、その結果、高い処遇を実現する企業。

成長しようと努力する人を応援する企業「社内規範」の1点目「自立・自律した個人がコラボレーションしながら、高い付加価値を創造し、その結果、高い処遇を実現する企業」は、「製造小売業」という「ビジネスモデル」の強化であり、その結果、高い処遇を実現しようとする意志だ。

ファーストリテイリングがめざす「製造小売業」を実現させるための最大のポイントは、各部署が連携を取り合って一体となって動く組織をつくれるかどうかということである。

しかも速く動く組織だ。

まずは個人が自立し自律していること。

個人が誰かに依存しているようでは、コラボレーションの価値も生まれない。

自部署がやるべきこと、その中の自分がやるべきことをきちんと特定し、高い志を持って1人ひとりがそれをやり抜かなければ、「ビジネスモデル」自体が成立しないし、高い付加価値を出すことができないのだ。

チームとして一体になれること。

チームの中で各個人が価値を出せること。

それが、ファーストリテイリングの「ビジネスモデル」を強くする前提なのだ。

当時の組織は、必要以上に階層をつくらず、意思決定や伝達を迅速にできる仕組みで、それほど複雑にはしていなかった。

縦に長い階層のある組織より経営や他部署との近さを感じることができるので、当事者として仕事をしていると、より会社が変わっていく、変化していくという実感が持ちやすかったはずだ。

「即断、即決、即実行」も、非常に重要なポイントとなる。

意思決定のスピードは競合と戦ううえで重要だからだ。

たとえば、一定の年齢をすぎると人の体型は変わりはじめる。

女性の場合、それまでは履けていたパンツが入りにくくなってきたりする。

「細身のシルエットの商品が多いので、試着室で履けなかった。

それ以来、試着もしなくなった」という顧客の生の声が入ったとする。

こうした問題が表面化したとき、関係各部門の責任者が一堂に会して話し合えば、いつまでに商品構成をどう変えるのか、個別の商品の何をいつまでに変えるのかが一気に決まる。

何ごとも「即断、即決、即実行」なのだ。

このように、「製造小売業」としての「ビジネスモデル」を強くするためには、「主体的な個人が、全社を巻き込み、常に当事者として仕事をする」という「企業文化」をつくる必要があったのだ。

次は、経営トップの当時の言葉である。

「小売業に優秀な人が来てくれないのは、普通の人が休めるときに休めないこと、給料が安いことだ」小売業、サービス業は休みを変えることはできない。

人が休んでいるときにやるからこそ、ビジネスとして成立するからだ。

しかし、待遇は変えられる。

総合商社や金融やマスコミのような業界にすぐに並び追い越すことは難しいかもしれないが、それらの業界に行くような人が採れるぐらいの大手に負けない待遇を実現したいと考えていた。

どこよりも高い待遇を実現し、この業界を変えたいと考えた。

そのためにすべきことが「社内規範」となり、人事制度の根幹の思想となった。

「社内規範」の2点目「成長しようと努力する人を応援する企業」は、どんな人に会社にいてほしいかということを伝えるための言葉だ。

そもそもの背景は、「人と企業の価値の交換」ができる社会を実現したいという想いにあった。

「人と企業の価値の交換」とは、私が大事にしている価値観である。

この想いに至ったのは1990年代、バブル経済が崩壊し、山一證券や北海道拓殖銀行などが廃業や破綻をした時期である。

この頃、日本の大手企業にあった終身雇用という神話が崩れはじめた。

当時の会社員は、会社に「雇ってもらう」という意識の人が多かった。

社員である個人を育成し成長させる責任は、すべて会社にあると考えていた人もかなりの比率いたはずだ。

実際に、新卒採用の面接では「私をどう育ててくれますか」と真顔で聞いてくる人が多かった。

自分が仕事ができるようになる責任はすべて会社にあるわけだ。

転勤や人事異動だといわれればそれに従う代わりに、定年まで会社が面倒を見てくれると考えていた人たちも多かった。

一方、たとえば金融機関の投資銀行部門の一部の職種の人など、「働いてやる」という意識の人もいた。

私は、「雇ってもらう」も「働いてやる」も、どちらも違うと感じていた。

企業と社員は、「価値の交換」なのである。

これは、企業と社員の関係を、舞台と俳優の関係にたとえるとわかりやすいだろう。

舞台に一流の役者に立ってもらおうと思えば、その舞台に立つことで名声を得られるぐらいの新しい取り組みを常

に行い、舞台の価値を高め続ける必要がある。

企業でいえば、仕事のやりがいや、仕事の社会的価値、給与をふくめた待遇を高め続ける努力をしないといけないのだ。

個人も、いい舞台に立とうと思えば、常に練習し自分の技術を磨き続けなければならない。

そうしないと、いい舞台からの声はかからないだろう。

仕事でいうと、自分自身を自ら成長させ、自分ができることやそのレベルを高め続けるということだ。

この「人と企業の価値の交換」という心地良い緊張関係のなかで、企業もより魅力ある会社になるために努力する。

個人も自分の価値を上げるために努力する。

そんな価値の総和が増える社会をつくりたいのだ。

緊張が増しすぎるのは好ましくないが、依存関係では企業も、個人も発展はない。

だからこそ、「社内規範」の2点目「成長しようと努力する人」になってもらいたかったのだ。

会社に依存し、会社にしがみつくのではなく、価値を出し、その価値によってきちんとした待遇を手に入れられる存在として。

ただし、成長しようと努力しても個人差はある。

急激に成長するタイプ、少しずつ成長するタイプ、最初は遅いがコツをつかむと一気に成長するタイプ、いろいろな人がいる。

だが、いずれにせよ、成長しようと努力する人であれば、どんな人でも会社にとっては大事な存在であるということのメッセージだ。

急激に成長して高い付加価値を出した人には、それに見合うだけの待遇で報いる。

少しずつ成長しながら徐々に付加価値を高めていく人には、それに合わせて待遇を変えてゆく。

給与や役職、任せる仕事などは、交換する価値に応じたものになるが、前提としてあるのは「成長しようと努力する人」には居場所のある会社ということだ。

一方で会社に依存しようとしたり、自分を育てる責任が会社にあると思っている人には、会社という船に乗り続けてもらうわけにはいかない。

研修などの教育の機会をどんなに用意しても、成長の責任が会社にあると思っている人は成長しない。

会社が用意した研修も義務で受け、本気で内容を自分のものにしようとはしないからだ。

しかし、成長の責任が自分にあると思っている人は、研修に出ても心構えが違う。

同じ時間の研修でも得るものは天と地ほど違う。

そういう心構えの人にこそ、教育の機会を提供したいのだ。

このような価値観が、社内で求められる考え方や行動となり、「社内規範」となってゆく。

そのベースとなる人事思想は、「企業理念」を実現し、「コア・コンピタンス」を強くし、求める人物像がやりがいを感じるように、考え抜くのだ。

企業の「経営理念」には、「社外規範」か「社内規範」のどちらかだけのケースも多い。

「やってみなはれ」(サントリー)、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」(リクルート)などは、「社内規範」の例である。

「情報革命で人々を幸せに」(ソフトバンク)、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」(ファーストリテイリング)などは、「社外規範」の例だ。

「企業理念」という最上位の概念に「社外規範」「社内規範」のどちらかだけが表記されていても構わない。

だが、その下位概念である「社訓」や「バリュー」「クレド」など、さまざまな価値観を伝える言葉の中に「社内規範」と「社外規範」の両方がふくまれていること。

「社内規範」と「社外規範」は、きちんと共有できるように両方が明確にされていることが大事なのだ。

そして、会社には、その価値や、設定した理由や背景を社員に理解してもらうために努力し続けることが求められる。

「社外規範」「社内規範」は会社の成長とともに進化する

「社外規範」の言葉は、不変である必要はない。

会社が大事にする価値観は普遍だが、会社の成長や発展とともに「社外規範」の言葉は進化する場合もある。

前述したように、ファーストリテイリングの場合は、私が在籍した当時はユニクロがメイン事業であったこともあり、「いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する」という言葉を用いていた。

世界に出ていくタイミングでは、「ユニクロは、あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」となった。

ユニクロ事業以外の柱も増え、世界進出を果たした現在は、ステートメントとして「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」、ミッションとして「本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します」と進化している。

ソフトバンクの場合、私が在籍していた当時は「デジタル情報革命を通じて、人々が知恵と知識を共有することを推進し、企業価値の最大化を実現するとともに人類と社会に貢献する」という言葉を用いていた。

その進化版がソフトバンクグループのホームページの企業情報で紹介されている。

経営理念を最上位概念とし、シンプルに「情報革命で人々を幸せに」という言葉だけを掲げている。

その下位概念に「ビジョン」を置き、「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」と設定している。

これは、時代に必要とされる最先端のテクノロジーと、もっとも優れたビジネスモデルを用いて、情報革命を推進していくことで、世界の中でもっとも必要とされる企業になるという宣言だ。

参考までにソフトバンクは、「社内規範」をバリューとして置き、「努力って、楽しい。

」という言葉を置いている。

行動指針の中でも、とくに大切にしたい価値観が、「NO・1」「挑戦」「逆算」「スピード」「執念」だと説明している。

この言葉は、ソフトバンクの「企業文化」を言いあてている。

ソフトバンクのブランド戦略室長だったときに、私は現在の「CI(コーポレート・アイデンティティ)」の作成作業を進行した。

この作業は、「ソフトバンク」という名前を捨ててもいい、当然ロゴも捨てていい、何が本当に適切かを考えるところからはじまった。

なぜ、「ソフトバンク」の社名が最終的に残ったのか。

それは「情報が自由に飛びかうインフラができると、それを基盤にしてさまざまな新しいサービス、今までなかったサービスが生まれ、これまでになかったような楽しさ、これまでになかった便利さが次々に生まれる。

そんな世の中にしたい」という強い想いからだ。

実現したかったのは、これまでになかったような楽しさ、これまでになかった便利さが次々に生まれるような、さまざまなコンテンツが集まる場所や仕組みの創出である。

コンテンツとは、つまりソフト。

創業時に考えた「ソフトが集まる場所」としての「ソフトバンク」という社名とあらためて重なってくる。

それゆえに、これからも「ソフトバンク」の名前で走り続けることになった。

この新しいCI導入の一連のプロセスは、自分たちがどういう世の中をつくりたいかという「社外規範」を明確にしてゆく作業にほかならなかった。

P・F・ドラッカー氏の「経営者に贈る5つの質問」は、「社外規範」を進化させるために、とても役に立つ。

・質問1「われわれのミッションは何か?」・質問2「われわれの顧客は誰か?」・質問3「顧客にとっての価値は何か?」・質問4「われわれにとっての成果は何か?」・質問5「われわれの計画は何か?」この5つの質問は、経営を考えるうえでの至極の問いである。

われわれは、何のために存在し何を成し遂げたいのか、どんな人を対象にするのか、その人たちにとっての本当の価値とはいったい何なのかを考え続けることこそが大切なのだ。

それに気づけば、自分たちにとっての成果とは何かも、それを実現するための計画も、簡単なことではないかもしれないが見えてくる。

マーケティング学者のT・レビット博士の『マーケティング発想法』で紹介されて有名になった「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という言葉も核心をついている。

研修などでこの例を紹介するとき、まるでこの続きのように、私のオリジナルの話を追加している。

「では、『電動ドリルが欲しい』と買いに来た人は、何が欲しいのでしょうか」と聞くのだ。

「電動」を強調する人は、何を求めているのか。

それは、作業を楽にしたいか、時間が欲しいかだ。

つまり、短時間で楽に穴を開けたいのである。

もちろん、顧客が求めるものを的確に把握し、それを経営に活かすのは簡単ではない。

だからこそ、不断なく考え続けることが求められる。

「社外規範」は毎年毎年、自分たちの「ミッション」や「顧客が求めている本当の価値とは何か」を、(顧客であってもおかしくないのに、顧客になっていない人たちは、なぜ利用していないのかを)考え続けることで、少しずつ進化してゆく。

そのビジネス自体の進化が、「社外規範」を進化させる。

このように、「社外規範」はその会社の成長ステージによっても変化する。

そして「社外規範」だけでなく、「社内規範」にも同様のことがいえる。

ともに進化するのだ。

「社外規範」「社内規範」への共感なくして、人は本気で働かない

あらためて結論は、「社外規範」「社内規範」への共感・共鳴なくして、本気では働けないということだ。

ソフトバンクの強さは、社員に「自分も世の中を変える一翼を担っている」と思わせるところにある。

経営トップの「志」に共感している社員がほとんどだ。

1人ひとりの社員がトップと一緒に世の中を変えている感覚を持っている。

そうでなければ、社員は自ら動かない。

ファーストリテイリングにおいても、経営トップが描く未来の姿に社員の心が躍り、それを一緒に実現したいと思わせる強さがある。

たとえば毎年正月に、経営トップからメールが届く。

そこには、近未来の世の中の様子が書かれてある。

ユニクロがさらに信頼されるブランドになり、大きな店舗を構え、新しい商品を出し、多くのお客様がお越しになり、そこで働く自分たちの姿がリアルに描かれている。

まさに、「ビジョン」をリアルな描写で表現したメールだ。

読み終えて目を閉じると、映像が浮かんでくるぐらいのリアリティがある。

そして読み終えると、胸が熱くなり、自分たちで実現したいと思う。

経営トップは、このメールを秋ぐらいから書きはじめる。

書いては修正し、完成度を高めていく。

それぐらい気合いの入ったメールなのだ。

それは、「社外規範」「社内規範」を社員と共有することの重要性や価値を理解しているからこそできることだ。

「社外規範」と「社内規範」は、人が本気で働くための前提になる。

本気で働くとは、仕事をするうえで困難に直面しても、それを跳ねのけ、自分に課せられた使命をやり抜こうと思える状態のことだ。

「社外規範」と「社内規範」に共鳴できなければ、本気になどなれない。

そして、「社外規範」も「社内規範」も進化していく。

1つの山に登ると、次の高い山が見えるように。

そこへ一緒に向かう社員の胸が熱くなるような「社外規範」「社内規範」を意識した「企業理念」であるべきだ。

会社の成長ステージによって、最適な「仕組み・制度・施策」は異なる

「企業理念」や「コア・コンピタンス」と同様に、自社に最適な「仕組み・制度・施策」は会社の置かれた成長ステージによっても異なる。

いわば、「時間軸」の視点でも考える必要があるということだ。

成長ステージごとに変わる「強み」に焦点を合わせ、そのときどきで、その「強み」が最大化されるような「仕組み・制度・施策」を考え続けていく。

たとえば、成長ステージの初期段階である「成長期」から管理面を強くしすぎると、社員の挑戦心あふれる行動にブレーキをかけてしまう。

会社で、新規事業を立ち上げてもうまくいかない原因の1つは、新規事業に対しても既存の事業と同じルールをあてはめ、既存の事業と同じように多くの管理系の部署が関わり、その調整にパワーと時間を取られてしまうことだ。

それによって、斬新なアイデアと活力が削がれるようであれば、本末転倒になってしまう。

そのため、事業の成長ステージによって、選択すべき組織戦略の「仕組み・制度・施策」は異なることを理解しておく必要がある。

順番に説明すると、初期の「創業期」では、ものごとを「ゼロ」から「イチ」にする思考と行動が求められる。

「こんなことをしたら面白い」「これはビジネスになる」そう考えて行動できる人材が、起業家や創業社長として成功する。

方向性が間違っていなければ、事業はさらなる成長軌道へ向かう。

ところが、規模を拡大するために必要なパワーを持った人材が一定数以上いなければ、拡大しきれずに事業は衰退へ向かう。

この「創業期」から「成長期」で求められる人材は、いわゆる「野武士」のようなタイプだ。

彼らは無軌道で、ときに身勝手だが、「ミッション」の達成に命を懸ける。

やることは「ハチャメチャ」でも、「そんな大企業に飛び込み営業に行ったの?」「そんなお堅い企業とすでに交渉してきたの?」と驚かれるようなことを思いつき、実際にやってのける。

そのため、このステージでは、多少ハチャメチャでも成果をあげる人材を評価しなければ、事業は伸びない。

戦略を素早く実行に移す力のある人材だ。

既存の安定した事業の視点から見ると、危なっかしくて見ていられないようなタイプかもしれない。

しかし、事業としての理想を達成しようと、無軌道ながらパワーを発揮している人材を切り捨ててしまったために、事業として成功しないようなことになってはもったいない。

この段階では、多少のハチャメチャを許容し、とはいえコンプライアンスの遵守をふくめた最低限のルールは守らせる、という突進型タイプの人材の力量を最大限に活かせる「仕組み・制度・施策」を考える必要がある。

初期段階は突進型でパワーのある人材が強みになって成長を加速させるが、事業が成長して一定の規模になる「拡大期」には、ある時点から高度な戦略的視点や管理的視点を持った人材が力を発揮しはじめる。

とにかく行動して単独で突破するより、行動する前にロジックを重視し仮説を立て、全体を効率的に動かし、リスク管理を行いながら間違わない方向に導くタイプである。

必要なのは、事業が効率的で効果的な運営になるような方法を考えられる人材と、その枠組みの中で役割をきちんと果たせる人たちだ。

初期段階ではパワーがある人材の1人ひとりの能力に頼っていたが、ここからはチーム力や組織力が重要になる。

つまり、事業のフレームを構築できなければならない。

極端にいうと、特定の能力がそこまで高くない人たちでも、きちんと役割を果たせば成果につながるような「ビジネスモデル」や「事業の運営方法」を編み出すことが求められるのだ。

やがて事業が「成熟期」に到達すると、無意識のうちに現状を維持しようとする圧力が生まれる。

現状維持という名の衰退モードである。

会社に残った教科書的な戦略的視点や管理的視点を持った人材だけでは、ビジネスもやがて衰退してしまう。

たとえ、そのときは市場占有率が高く高収益だったとしても、顧客ニーズの変化に的確に手を打たなければ、代替するような新しい商品・サービスを展開する競合企業に破れ、会社がダメになってしまう。

そこで再び企業のステージのベクトルを上向きにするには、「企業文化」を変える「チェンジマネジメント」を起こさなければならない。

幹部の発想を変える仕掛けを打ったり、「評価指標」を大胆に変更して社員の意識を変えたり、もう一度新しい事業を生み出せる組織に変えるための策が必要になる。

多くの経営者が、このポイントで悩む。

ときとして、「第二成長期」への変革は、最初の事業を立ち上げるステージ以上に骨が折れることもあり、その方法を見出せないからだ。

このとき必要なのは、組織に刺激を与える人材だ。

そう、つまり再びハチャメチャな人が求められるのである。

ただし、初期の立ち上げ期のハチャメチャさと、ステージを第二段階に引き上げるときのハチャメチャさは質が異なる。

「創業期」から「成長期」のステージは怖いもの知らずで、猪突猛進でやり抜こうとするタイプが大活躍するが、「第二成長期」を実現するためには既存のものを打ち壊し、新しく「ビジネスモデル」をつくり変えたり、「コア・コンピタンス」をつくり変えたりする人が必要だ。

それに成功した企業だけが、第二の成長ステージに進むことができる。

ここでは、企業の成長ステージに合わせて、求められる人材や求められる働き方が変わることを述べてきた。

もっとも伝えたいのは、そのような人が活き活きと活躍でき、多くの社員が求められる考え方や行動を自然ととってくれるような「仕組み・制度・施策」を構築していくことの大切さである。

たとえば、1つの事業が「成熟期」に入ったので、次の柱をつくるための新しい事業を立ち上げるのであれば、その事業部門だけ違うルールの評価制度にすることも考えなければならない。

場合によっては、既存の事業とは異なる「仕組み・制度・施策」を導入しやすいように、新規事業部門だけを別法人にすることも考えられる。

このような視点を持つことも重要だ。

企業のステージによって求められる考え方や行動が変わる。

おのずと活躍する人材のタイプも変わる。

それぞれの時点で求められる「仕組み・制度・施策」も変わっていく。

とくにステージの移行期や第二成長期をめざすために大変革を行う際には、それまで評価されていたことが評価されなくなることも多い。

だからこそ、これからは新たな評価に変わるのだというメッセージを明確に伝える必要がある。

つまり、変わった新しいステージでの「仕組み・制度・施策」を具体例として、納得できるように伝えることが重要なのだ。

そうしなければ、いくら経営陣が変革の旗を振り、笛を吹いても、社員は踊らない。

トップダウンが最適な状況、ボトムアップで現場が自ら考えるのが最適な状況

「あの企業はトップダウンだ」こう表現するとき、ほとんどの場合は悪い意味で使っている。

組織のスタイルとして、トップダウンを否定的にとらえるケースが多いのだ。

私が「組織戦略」関連の研修や講演をするときも、「トップダウンとボトムアップのどちらを肯定的にとらえますか?」と尋ねると、ほとんどの人がボトムアップに手を挙げる。

しかし、トップダウンは本当に否定すべきものだろうか。

組織にとって、トップダウンのほうがメリットが大きい「時期」がある。

とくに企業の成長ステージとして、トップダウンが適しているケースの1つは「初期段階」、つまり「創業期」や「成長期」だ。

経営者がやるべきことを正確に認識しており、そのときは御託を並べるより「文句をいわずにこうやれ」とトップダウンで指示したほうが社員の行動は速い。

トップダウンがうまく機能していれば、トップダウンのほうが組織は強い。

あるIT系企業の経営トップが、テレビのドキュメンタリー番組の中で「うちは会議の時間を1時間取っているけど、いつも15分で終わるんだよね」と話していた。

どのような会議なのか見てみると、会議で議論をしているわけではなく、ほとんどが経営トップからの指示だった。

指示であれば15分で終わる。

それが悪いといいたいのではない。

逆に、この企業が競争相手に勝つためには、今はトップダウンが最適な組織のスタイルであり、それが機能しているからこそ勝ち続けているのかもしれないからだ。

だから、トップダウンはそれ自体がネガティブな組織のスタイルということではなく、トップダウンを選択すべきときはどういうときで、トップダウンを避けるべきときはどういうときかを考えなければならないのである。

「第二成長期」にも、トップダウンが必要な場合がある。

何かの大きな意思決定をする際に、議論をするメンバーが現時点のパラダイムでしかものごとを見ることができなければ、いくら意見を出し合っても現在の延長線上の域を出ない選択しかできない。

その場合には、トップダウンで大変革に向けた的確な指示を出したほうがうまくいく。

では、ボトムアップのほうがうまくいく場合とは、どのようなときだろうか。

それは、経営者や経営幹部が現場から遠くなり出したとき、つまり現場が見えなくなったときだ。

創業した当初は、経営者はその会社のほとんどのことを自分で把握している。

小売業であれば自ら店舗に出て工夫を重ねて商品を売る。

メーカーであれば自ら開発や製造の現場に立ってものづくりに励む。

サービス業であれば自ら最前線で顧客にサービスを直接提供する。

現場に立つと、世の中の変化や顧客のニーズの変化に自然と気づく。

また、変化に気づけば、会社のどこをどう変えれば、それに対応できるかも瞬時に判断できる。

それをもとに、部下に対して的確な指示を出すのだから、策をはずすことは少ない。

ところが会社が成長し、規模が大きくなっていく「拡大期」になると、経営トップや幹部は望むと望まないとにかかわらず徐々に現場から離れていかざるをえない。

経営トップや幹部はそもそも物理的に見なければならない範囲が増えるからだ。

しかも、管理的な仕事や、社外的な活動、株式を公開すれば投資家への対応など、やることが増え、事業を強くする本来の業務に時間を割けなくなってくる。

徐々に現場が遠くなり、現場で起こっていることや、顧客ニーズの変化が見えなくなってくるのだ。

中には、そのような状況になったにもかかわらず、自分が見えていた頃の感覚のままトップダウンで指示を出す経営者もいる。

ときどき、名の知れたオーナー型企業で、急速に業績が悪化することがあるが、そのような場合には、現場が見えないなかで下した不適切な経営判断や、方向を間違えた指示であることも多い。

けれども、そこでボトムアップで、現場で起こっていることや、現場の考えが組織の上層部にきちんと伝わるような仕組みがあれば、判断ミスは減らせる。

要するに、一定の成長を遂げた後は、多くの場合でボトムアップの仕組みが必要になるのだ。

理想は、現場で起こった数字だけではない実情や顧客の変化がきちんと上に伝わり、その情報をもとに経営者や幹部で適切な判断が行われ、その判断の理由や意味をも共有したうえで現場が実行できる組織だ。

トップダウン、ボトムアップという一方向のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションが活発に行われるのが真の「強い会社」である。

そう考えると、研修や講演での「トップダウンとボトムアップのどちらを肯定的にとらえますか?」という私の問いに、「ボトムアップ」と答える人が多いのも当然ともいえる。

一定以上の規模になっても成功している会社は、ボトムアップをふくめた双方向のコミュニケーションが機能しているケースが多いことを、多くの人は直感的にわかっているからだ。

そのような双方向のコミュニケーションが、実際に自然と起こっている会社がどれほどあるだろうか。

さまざまな会社を見てきたが、双方向だと思っているのは経営者だけで、実際には現場の情報が上がっていない会社も多い。

悪い情報の場合は、とくにそうだ。

不祥事が発覚するたびに、組織のコミュニケーション不全が明らかになって問題になるように。

そして、たとえ現場から情報を上げても、それが活かされず、実質的に無視されるような状況になれば、おのずと人は二度と情報を上げなくなる。

いちばん怖いのは、現場の情報をキャッチするアンテナの感度が組織的に鈍くなることだ。

いい情報を上げようと思いながら日々の業務を行っていれば、アンテナの感度は常に高くなる。

しかし、情報や意見を上げても仕方がなければ、アンテナの感度を高めてキャッチする必要もない。

現状を淡々とこなすだけのほうが正直楽だからだ。

そうすると、ふだんからアンテナを研ぎ澄ます必要もなくなる。

これまで述べてきたように企業の競争力を強化するという視点に立つと、トップダウンが有効な場合がある。

ただし、永久にトップダウンだけでは「強い会社」にはなれない。

次のステージでは、双方向のコミュニケーションが機能する組織をめざすべきだ。

現場も考え、現場から上がった最適な情報を集めたうえで意思決定ができる。

そして、その意思決定の内容と同時に、理由や意図までもが、共有され、現場でも考えることができる。

そのような会社は強い。

現在の自社の状況は、成長ステージのどこにあるか。

ステージを見誤ると深刻な事態に陥ってしまう。

事業が複数の場合には、それぞれの事業はどの成長ステージに該当するのか。

それを適切に見極め、的確な手(仕組み・制度・施策)を打つ必要がある。

優秀なファウンダー(創業者)は、「具象」と「抽象」を瞬時に行き来する

私がこれまで多くの経営者と出会った経験から気づいたことだが、事業を興したファウンダー(創業者)は、抽象度の高い事業戦略を考えながら、同時に具体的な商品やサービスをつくる能力に秀でている。

逆に、具体的な商品やサービスを考えながら、それが長期的戦略とすぐに結びついていく。

思考の「具象」と「抽象」とを、瞬時に行き来できるのだ。

ファウンダーは事業をゼロから立ち上げるプロセスで、多くの工夫を積み重ねてきている。

これは幾度の失敗を、失敗のまま終わらせず、成功するまで考え続けて、行動し続けたからこそ身についたものだ。

それゆえ、優秀なファウンダーには、「現場の情報」と「未来の戦略」とを結びつける能力が備わっていることが多い。

普通の人からすると、単なる顧客の一行動にしか見えなくても、めざすべき事業の大局がわかっている人が見れば、その行動は顧客からの「メッセージ」に見えるのだ。

「メッセージ」は1つひとつの顧客の行動だけではなく、些細なデータなどあらゆるところに隠れている。

たとえば、小売業で陳列棚が乱れていた場合、一般社員は陳列の乱れとしか受け取らず、きれいな売場に戻すことにのみ意識がいく。

しかし、事業を立ち上げ、現場を知り尽くしたファウンダーであれば、乱れ方の傾向によって顧客が違うものを求めているかもしれないことを感じ取れるのだ。

これも事業の理想の未来をイメージできていなければ、ただの日常の出来事や単なるトラブルとして終わってしまうだろう。

ダイエーの創業者である中内氏が、株主としてリクルートに来社した際、話をうかがう機会があった。

長期的戦略を語りながら店舗での商品の並べ方を同時に語られていた。

当然のように、彼も抽象度の高い戦略と現場を瞬間に行き来できるのだ。

だからこそ、流通業界の歴史に名を残す活躍をされたのだと思う。

ファーストリテイリングの場合も、服を売りながら駐車場で野菜を売ったり、プールバーを併設したりと試行錯誤を繰り返し、苦労しながら今の価値提供モデルをつくり上げてきた。

だからこそ経営トップの柳井正氏は、オープンしたての店舗に入った瞬間に、レジと陳列棚との距離が遠すぎるので今のままでは商品が売れないことを肌で察知し、すぐにレイアウトを変更するように指示ができるのだ。

これは、すでに出来上がった仕組みの中で働いている普通の社員にはできないことでもある。

ソフトバンクが、ADSLを市場に定着させるために、街角や主要な駅前にブースを出してモデムを無料で配布した際には、莫大な費用がかかっている。

短期的な財務の視点では、かなり苦しく覚悟がいったに違いない。

それでも続けられたのは、経営トップの孫正義氏がめざす世界にはブロードバンドが不可欠であり、ブロードバンド社会が訪れたときの社会全体に与える価値とインパクトが見えていたからこそであろう。

ブロードバンドのモデムを無償で配布する行為と、誰も見たことのないブロードバンド社会の実現、その具象と抽象を行き来することができてはじめて実現した。

この3つの事例だけではなく、今まで出会ったファウンダーといわれる創業型経営者の実話には、この抽象度の高い事業戦略と現場でやるべきことを瞬間的に行き来できるからこそのエピソードがたくさんある。

この具象と抽象を瞬時に行き来できる能力は、ファウンダーの後継者をふくめた幹部の誰もが身につけたほうが良いものだ。

しかしながら、事業の成長ステージの途中から入ってきた人には、経営幹部といえどもすぐに身につけることは、正直なかなか難しい。

だからこそ、経営トップが、会社全体の経営の仕事に注力せざるをえなくなり現場に出る時間がなくなる前に、ファウンダーや経営幹部に現場の情報が入る仕組みをつくっておく必要がある。

そうしないと、あるとき一気に業績が落ちる事態もありえるからだ。

ただし、現実には、先述したように事業の規模がある程度まで拡大しても、自分の判断を信じて依然と指示を出し続ける経営トップが多い。

事業を立ち上げて、いまだに実権を持つ経営トップに対して、よく「オーナー経営者」という言葉が使われるが、私は常にその中には、「オーナー」としての「意思決定力」と、「ファウンダー(創業者)」としての「ビジネス構築力」の2つの機能があると考えている。

この2つは、別ものなのだ。

ファウンダーでありながら、株式公開後も一定の持ち株比率を保って意思決定できる両方の機能を持つ経営トップの影響力は強い。

その反面、いつまでも指示を出し続け、周囲はそれに従うだけになってしまうことも多いのだが。

実際に、一定の規模までうまくいき、成功モデルともてはやされたにもかかわらず、いつしか消えていった企業も多い。

経営トップと現場の歯車がかみ合っている間はトップダウンがうまくいくし、そのほうが成功までのスピードも速い。

しかし、かみ合わなくなると崩れるのもまた速いのだ。

そうなる前に、双方向でのコミュニケーションが機能して、現場に「権限委譲」できる「仕組み・制度・施策」を構築しておくべきなのだ。

組織戦略は「人材開発」だけではなく、「組織開発」の視点で考える

じつは、これまでの話は「組織開発(OrganizationDevelopment)」という考え方がベースにある。

コロラド大学のウォリック教授の定義では、「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(selfRenewingcapabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」とされる。

「オーガニゼーション・デベロップメント」は、日本語では「組織開発」と訳され普及しているが、私の実務経験での実感では、「組織発展」のほうがピンとくる。

組織自体を、さらに良くするために、みんなを巻き込んで進化、発展させていくイメージだ。

「組織開発」は組織に内在する主体性やエネルギーを引き出して、組織を活性化させ、組織のパフォーマンスを最大化させるのが目的となる。

実際の業務は、個人間や組織間で行われている。

その際の意思決定や実務が行われるプロセスに対して、より良くなるように介入してゆく。

モチベーションを高めるための取り組みや、組織の構成員である人と人との「関係性」や「相互作用」に焦点をあて、うまく回っていない原因があればそれを変えたり、さらにうまくいくように新しい仕組みを取り入れたりしながら、組織がより円滑に機能し、高い成果が出せるようにしてゆくのだ。

それによって、組織の目標達成力だけでなく、組織の中の個々人の力も発揮できるので、個人の満足度ややりがいも高まり、組織の雰囲気も良くなる。

さらに、おのずと情報のアンテナの感度も高まり、環境変化への適応力も備わるのだ。

「組織開発」に対して、これまでの多くの企業では「人材開発」の観点から人を育てる施策に取り組んできたケースが多い。

「人材開発」は、あらゆる人に、その時点で必要なものに気づいてもらい、獲得してもらうために行われる。

一般的には、研修などで人の成長を支援する。

新入社員研修や階層別研修、マネジメント研修、スキル研修などがこれにあたる。

この「人材開発」という観点でのアプローチでも、個人はできることが増えるので成長を実感し、仕事への満足度も高まる。

また、個人が成長することで、その個人の力の総和としての組織や会社の総合的な力も強化される。

「人材開発」と「組織開発」の視点の違いは、野球にたとえるとわかりやすいかもしれない。

1人の選手が打ったり、投げたり、守ったりする行動がより良くなっていくことで、良い成績をあげられるようになる。

その選手が活躍し貢献することでチームが強くなる。

そうやって人を育てていこうとするのが「人材開発」の視点である。

会社でいえば、マネジャーになったからには、マネジャーとしてふさわしい人に育てようとするのが「人材開発」だ。

選手1人ひとりの能力は高く、良い成績を残しているのに試合には勝てないチームがあったとする。

その原因を探ると「セカンドとショートの守備の息が合っていない」ということがわかった。

選手1人ひとりは良いのだけれど、全体を最大に活かし切れていないのだ。

そのために、選手間の連携を高めたり、最適な守備位置にコンバートしたりするのが「組織開発」の視点である。

実際のビジネスだと、会社全体をより強くするための「仕組み・制度・施策」を考えるのが「組織開発」だ。

「人材開発」という観点はもちろん大切だが、そこに「組織開発」の視点も取り入れて考えると、組織戦略面での課題解決がさらに効果的になる。

たとえば、「組織の壁を壊す」というのは、多くの会社で求められ、実際にそうしようと取り組んでいるところも多い。

これこそ、「組織開発」の発想だ。

個人への教育だけでは、なかなか解決しない問題だからである。

そもそもなぜ、「組織の壁」を壊さなければならないのか。

組織というのは、おのずと自らの組織の永続や拡大に興味が向きがちになる。

他部署のことをあまり知らないことも多く、利害が対立すると全体最適の発想ではなく、自らの組織の都合を優先しがちになる。

それを防ぐための施策導入の事例として、アメリカの格安航空会社であるサウスウエスト航空の話は有名である。

たとえば、自分と関わりのある別の部署の仕事を実際に体験することで、組織の壁を壊した。

パイロットがランプ職と呼ばれる駐機場での仕事を経験し、逆にランプ職の人をコックピットに案内して、飛行機を飛び立たせる手順を実演して見せたのもその1つだ。

関連する他の仕事が理解できることで、お互いの業務はさらにスムーズになる。

また、定時出発率を維持するために、本来の担当業務以外の仕事にも対応できるようにしている。

定時出発するために、空港での荷物の積み込みをパイロットや客室乗務員が手伝うことも珍しくないという。

出発までの1分の時間も無駄にせず、しかも顧客満足を上げるためには、「組織の壁」などないほうが良いし、壁がなくならなかったとしても低いほど良いのだ。

「組織開発」は、企業のあるべき姿に近づくための「仕組み・制度・施策」を、全社的、組織的視点で継続して行うという発想である。

社員のモチベーションを上げることにブレーキをかけているものや、業績を伸ばすための阻害要因となっているものを取り除き、個人の満足度ややりがいを高めて、業績が上がる「強い会社」にするためのものだ。

会社ごとに、組織の在り方が違い、勝ち方が違い、そこにいる人のタイプが違う。

現状も理想もそれぞれ違う。

その変え方は千差万別。

強くなるなり方も異なるのだ。

だからこそ、自社の「企業理念」や「コア・コンピタンス」を理解して、それらを強くするような社員の行動が自然発生的に生まれる「仕組み・制度・施策」の構築に取り組む必要がある。

コラム1ソフトバンク・孫正義さんから学んだ「情報が集まる仕組み」

ソフトバンクグループは、2017年に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げた。

ファンドの規模は約10兆円。

AIや自動運転をふくめた新しい「ビジネスモデル」の確立を狙う企業に出資している。

さらに新たなファンドも計画している。

この大きな仕掛けは、経営トップの孫正義さんが、「情報革命で人々を幸せに」という「企業理念」のために、世界の変化を促進させる当事者として、その変化を加速させたいと考えているからではないだろうか。

資金の出し手がいるので、運用成果も重要だ。

これについては、長期的な視点での評価を受けることになるだろう。

ここで注目したいのは、10兆円という莫大な金額の意味である。

他の投資ファンドとは、スケール違いの金額の意味についてだ。

孫さんがファンドをつくったのは、世界中の最先端のビジネスの情報を集めることが目的なのではないだろうか。

孫さんのお金の使い方について、世間の多くの人は何ごとにおいても豪胆な使い方をする人だと見ているかもしれない。

しかし、経営者としては当然だが、資金の使い方は非常に細かく緻密で、使い方を考え抜く。

一方、ここいちばんの案件では、豪快に決断をする。

ソフトバンクに在籍していたとき、その真意について孫さんに尋ねたことがある。

もちろんファンドが立ち上がる以前のことなので、投資先についての件ではないが、あるビジネスでの話のことだ。

「どうして、あの金額でOKしたのですか?」孫さんはこういった。

「どこに情報が集まるかわかるかい。

情報が集まるのは、いちばん高く買ってくれるところなのだよ」たとえ具体的な金額がオープンにならなかったとしても、高額で買ってくれたという風聞は、瞬く間に世界を駆けめぐる。

投資として考えた場合、情報が集まる場所とは、3つの条件がそろった場所だ。

1つは、企画を提案し、受け入れられれば、事業展開のために十分な資金提供を得られる可能性が高い場所である。

プレゼンテーションを行い、受け入れられても事業運営で必要な資金の一部しか提供されなければ、いろんなファンドに何度もプレゼンテーションを繰り返さなければならない。

それなら1回の合意で、必要な資金を提供してもらえるほうが、誰もが喜ぶはずだ。

10兆円という、これほど莫大な金額を投資する投資家のところにアイデアを持ち込めば、潤沢な事業資金を投資してもらえるかもしれない。

そう考える起業家が、孫さんのところに集まる。

そして、2つ目の条件は、新しいテクノロジーや斬新なビジネスモデルのアイデアへの理解力を備えていることである。

どんなにお金があっても、自分のアイデアや取り組もうとしていることが理解される可能性が低ければ、誰も相談には行かないだろう。

先を見通す能力があり、世界を変えるようなテクノロジーやビジネスモデルを自らも考え理解できる孫さんだからこそ、多くの起業家は、相談したいと思うだろう。

3つ目の条件は、意思決定までの速度である。

硬直した組織が運営するファンドの場合には、意思決定までに、かなりの時間を必要とするケースもあるだろう。

先駆者としてのメリットが大きなビジネスモデルの場合、アイデアを誰よりも早く実現させようと起業家は時間とも戦っている。

そのような起業家なら、意思決定が速く、即実行してくれる場所に相談に行きたくなるのが当然だ。

ソフトバンクが、この3つの条件を満たしているという噂は世界中を駆けめぐる。

たとえ、投資先としてこちらから声をかけたとしても、相手の反応は違うはずだ。

やがて自然と、優れたアイデアを持つ起業家たちが、自分のアイデアの価値を理解し、応援してもらえる場所としてソフトバンクに案件を持ち込むようになるだろう。

莫大な資金を持ち、アイデアに対する理解力があり、大胆に決断する孫さんは、起業家にとって最初に相談すべき相手なのだ。

孫さんが立ち上げたファンドについて、「情報の集積」という視点で見てみると、その価値の大きさがわかる。

孫さんにとって何よりも優先すべきは、優れた情報が真っ先に自分のところにもたらされる仕組みに違いない。

そしてソフトバンクの「企業理念」を実現するための「コア・コンピタンス」が、世界中の最先端の情報をもとに「未来をイメージして、先を考え抜く力」である。

これは、経営トップの個人の力による部分が大きいことは確かだが、当然のように社員にも求められる。

とくに幹部に対しては、今後世界がどう変わっていくのか、その視点をふくめた提案が求められた。

単なる主観や推測ではなく、集められるだけのファクトを集めたうえでの、考え抜いた提案だ。

実際にスマートフォンがまだ世に出るはるか前から、孫さんは会議で「携帯電話とパソコンが一体となったものが出る時代になるから、それを前提に戦略を立てよう」とずっと語っていた。

「そういうものがいずれ出るのか」と思いながらその話を聞いていたが、孫さんの頭の中では、すでに構想が描かれていたのだ。

スマートフォンを日常で使用している現在となっては、これもソフトバンクが「情報革命で人々を幸せに」という「企業理念」を具現化した1つとなっている。

 

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