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第3章強い会社に変わるための「思考のフレーム」

目次

第3章強い会社に変わるための「思考のフレーム」「問題点」と「強み」をあぶり出し、自社に必要な「仕組み・制度・施策」を生み出す

会社の「問題点」と「残すべき強み」をあぶり出し、「理想の企業文化」に導く「思考のフレーム」

この章では、実際に自社に合った「仕組み・制度・施策」をどのように導き出すのか、その方法を紹介する。

次の図にあるシートは、私が実際に経営コンサルティングで活用している「思考のフレーム」である。

とてもシンプルで、どの会社でも、誰でも使えるものだ。

手順を説明しよう。

現状分析を行う。

具体的には、現状の「問題点」と「残すべき強み」を洗い出す。

図のシートの左側がそれにあたる。

上の「良い企業文化(残したい企業文化。

強化したい企業文化)」が「残すべき強み」の洗い出し、下の「良くない企業文化(変えたい企業文化)」が現状の「問題点」の洗い出しである。

今度は、シートの右側を見ていただきたい。

これは「理想の企業文化」だ。

現状にとらわれることなく、自社のめざすべき理想の姿を描くのだ。

「思考のフレーム」を活用するプロセスでは、「組織診断7つの視点」で紹介した①意思決定の「方法」と「スピード」、②「価値観」「方針」の浸透、③人材の「質」と「量」、④「自由」と「規律」のPDCAマネジメント、⑤情報の「共有」と「活用」、⑥評価の「仕組み」と「報酬」、⑦「主体性」と「モチベーション」も常に意識してほしい。

各項目で、自社は何がうまく機能していて、していないか、何がどうなっているべきかを考えながら現状を分析し、理想の会社に導いていくのだ。

そうして現状分析である「良い企業文化」「良くない企業文化」と、めざすべき「理想の企業文化」をそろえたうえで、現状を打破して「理想の企業文化」に近づけるための「仕組み・制度・施策」を考えていく。

そして忘れてはならないのが、導入する「仕組み・制度・施策」は、「企業理念(社外規範・社内規範)」と自社の「コア・コンピタンス」を強化するものでなければならないことだ。

具体的手順は、プロセスごとに説明していく。

「良い企業文化」「良くない企業文化」を徹底的にあぶり出す

まず、あらためて「思考のフレーム」の構成を解説したい。

フレームの左側にある「良い企業文化」と「良くない企業文化」は現状分析である。

「良い企業文化」とは、「残したい企業文化」であり、「強化したい企業文化」のことだ。

「良くない企業文化」とは、「変えたい企業文化」と言い換えることもできる。

多くの会社では、「良くない企業文化」ばかりを考え、それを改善すれば、うまくいくととらえがちだ。

良くないところを潰すのも大事なことだが、残すべき「強み(良い企業文化)」がないと、その会社のそもそもの価値自体が揺らぎかねない。

会社を変えるには、両方を分析することが必要なのだ。

私が自社の現状分析を重視し、この2つに分けているのには理由がある。

現状分析が不足した状態での議論は、誤った方向へ導く恐れがあり、失敗しやすい。

病気の原因がわからずに治療をした場合、たまたま偶然に治ったとしても、再発する可能性は限りなく高いように。

会社の「企業文化」もうまくいっている原因、うまくいっていない原因がわからないと、成功したり問題が起こったりするたびにその対応はモグラたたき的に続く。

そうならないためには、対症療法ではなく、良いことも良くないことも「原因療法」として現状を探るのだ。

「良い企業文化」の分析は、そこから生まれる成功パターン(良い事象)の再現性を高める方法を見つけるためである。

偶然うまくいっていることも、必然性高く起こるようにすべくだ。

「良くない企業文化」は、そこから生まれる失敗パターン(悪い事象)をなくすために、理想に近づけるために、何としても変える方法を見つけるためである。

手順として、まずは、この2つの事実をあぶり出すところからはじめる。

実際の組織変革のコンサルティングでは、この現状分析はグループワークとして行うことが多いので、その方法を紹介するが、もちろん、読者の方が1人でやっていただいても構わない。

自分でやってみて、周囲の方を巻き込んでいただくのもありだ。

コンサルティングのグループワークの場合、参加者は、会社の幹部と、会社の変革を担う人事のメンバーの方に集まっていただく。

組織変革のプロジェクトメンバーは、本気で変えようとする人たちでないとダメだからである。

この段階で、一部の幹部や人事のメンバーの中には、本音では変える必要はないのでなはいかと思っている人もいることがある。

その場合には、この現状分析を共有するところからはじめる。

そうすると、現状でパーフェクトな会社などほとんどないので、変革の必要性はおのずと共有される。

この組織変革への温度感を合わせることが重要なのは、変革するのは大変なことなので、本気で取り組まなければ実現などしないからである。

「当事者意識」がなく、どこかに「やらされ感」を持っている人では、なかなかやり切れることではない。

逆に、本気で取り組めば、会社は必ず変わる。

もちろん、変わるためのプロセスや時間は必要だが、少しずつ確実に変化してゆく。

組織変革への温度感がそろったら、まずは参加者1人ひとりが、誰とも話し合わずに単独で「良い企業文化」を100個、「良くない企業文化」を100個考える。

次のミーティングまでの宿題としてやってもらうことが多いが、その場でやってもらうこともある。

具体的には付箋に書き込んでもらう。

たとえば、「良い企業文化」だと思う言葉を大きめに書き、その下に「なぜそう感じたのか」「それはどんな事実からか」を同時にメモしておいてもらう。

この「どんな事実から、そう感じたのか」は、とても重要な情報になる。

なぜなら、多くの場合、人は何らかの現象や事実を見たり聞いたりするか、他人の意見などから自分の意見を形成するため、そう思ったり感じたりした根拠をはっきりさせておくことが欠かせないからだ。

思った根拠が、自分で事実を確認したのではなく、メンバーから聞いた話からそう思い込んだということも実際にはある。

そのメンバーからの話がじつは噂話で、事実かどうか不明ということもよくあることだ。

また、「どんな事実から、そう感じたのか」を大切にする理由がもう1つある。

それは、事実がたくさん集まるほど、原因の特定や解決策のヒントとなり、「何に取り組むべきか」を見出しやすいからだ。

なぜ、100個なのか。

これまでの経験から見て、およそ30個あたりまでは抽象度が高く似たような内容が挙がってくる。

「わが社はコミュニケーションがうまくいっていない」「上下の風通しが悪い」「評価に不満を持っている人が多い」などだ。

ただし、「うちってコミュニケーションがうまくいってないよね」といっている間は、解決策を見出せない。

抽象度の高い概念的な事象だけでは、どんなに考え続けても具体的な解決の糸口は見えてこないからだ。

最初の30個はこのレベルに近い項目が出てきても良い。

直感でそう思うということは、今までの個別の事実の蓄積がそう思わせていることでもあるので、これも重要な情報となる。

けれども、50個、100個と書こうとすると、より具体的に落とし込んで考えなければ数をそろえられない。

そこに書く人ごとの違いが出てくる。

「指示がなかなか実行されない」、なぜなら「Aという部署に指示を出しても、返事は良いが全然実行されないから」というふうなことが挙げられるようになってくると、問題は何か、どこにあるのかのヒントになるわけだ。

実際には、付箋を貼って分類し、みんなでその原因や因果関係を分析するために議論してゆく。

たとえば、「このAという部署の現象は、他でも起こっている全社的なコミュニケーションの問題なのか」、それとも「Aという部署特有の何かに起因する問題なのか」、そこから「Aという部署はなぜ動かないのか」「Aという部署を動かなくさせている要因は何か」「単にAの組織長の問題なのか」、それとも「組織長をやりにくくさせている何かがあるのか」「組織長とメンバーとの問題なのか、あるいは組織間の問題なのか」と考えていくわけだ。

1つの現象でも、原因は多様だ。

仮に組織長個人の問題だったとしても、「能力がないからなのか」「能力は高くても、動いて良いのか判断する軸を持っていないからなのか」「判断する軸までは持っているけれども、判断した結果の責任を問われるのが怖くて動けないからなのか」「判断した後に、社長や役員に直接報告しなければならないから、それが心理的負担になって動けないのか」など、ここまで突き詰めて「本当の理由」を探し出す必要がある。

プロジェクトメンバーの1人が、「良い企業文化」として付箋を100枚、「良くない企業文化」として付箋を100枚持ってくる。

組織変革のプロジェクトメンバーが仮に10人だったとすれば、「良い企業文化」だけで1000個の事象が集まる。

同じように「良くない企業文化」でも1000個の事象が集まる。

具体的に考えれば考えるほど、人によって内容に違いも出てくる。

その結果、それぞれの現場で起こっている重要な問題があぶり出される仕掛けになっている。

問題の本質は、細部の事象に宿っているのだ。

そのような2000個の事象こそ、変革のヒントが隠された宝の山となる。

この付箋に書き込むワークを行ううえで、「企業文化」という概念が曖昧でとらえどころがないと感じた場合には、2章の「組織診断7つの視点」に加えて、次の観点で考え、良いと思うこと、良くないと思うことの事実を見つけると挙げやすくなる。

事実を見つける糸口として、思考の広げ方を5つ紹介する。

①「日常の業務」から広げる方法自分の担当部署や全社の動きを見渡して、「1日」の動きのなかで素晴らしいと賞賛したくなることはないか、逆にこれはまずいだろうと引っかかることはないかを思い浮かべてみる。

それを、同じように「1週間」「1カ月」「四半期」「半年」「1年」と時間の単位を広げて具体的に考えていく。

実際に頭の中で思い出しながら、時間軸を移動させるといろんなことを思いつくはずだ。

②「組織間で起こっている現実」から広げる方法人や組織の「関係性」に目を向けてみるのだ。

たとえば、「社員とパートの間で気になること」「課長とメンバーの間で気になること」「課長と部長の間で気になること」「部長と役員との間で気になること」「課と課の間で気になること」「部と部の間で気になること」「お客様との関係で気になること」「取引先との関係で気になること」などだ。

課長や部長、課や部に、具体的な名称を入れていけば、考える際の糸口は無数にあるはずだ。

それを頭の中で日常を思い出しながら考えて、気づいたことを付箋に書き込んでいく。

③「企業理念の実現状況」から広げる方法自社の「企業理念」である「社外規範」「社内規範」を念頭に、理想的な行動とそれを促進しているような事象を、また理想からはずれた嘆かわしい事象を思い起こす。

④「コア・コンピタンスに結びつく行動」から広げる方法「コア・コンピタンス」をより強化するという視点で見たときに、望ましい事象、望ましくない事象はないかを探していく。

⑤「全社のルール」から広げる方法

全社的な仕組みやルールに焦点を合わせて思考を巡らせてみる。

人事の仕組みは、その典型だろう。

昇進、昇降格、評価が確定するまでのプロセス、評価指標、フィードバックの在り方など視点はたくさんあるはずだ。

全社のルールは、人事だけでなく、経理部関係のルール、総務部関係のルールなど多種多様に張り巡らされているはずだ。

それらを考えながら、納得できる良い仕組みや、なかなか守られず、形骸化して意味を失っている仕組みについての事象を考えていく。

この5つの思考の広げ方を行えば、100個では収まりきれなくなるかもしれない。

もしも何百個も出てきたら、優先順位をつけて100個ぐらいを選んでほしい。

先入観を持たずに、「KJ法的アプローチ」で課題を整理する

各自が100個ずつ考えた「良い企業文化」「良くない企業文化」の内容を、メンバー全員で話し合いながら、似ているグループごとに分けてゆく。

その際に私がお薦めする最適な方法は、「KJ法的アプローチ」だ。

「KJ法」は、文化人類学者である川喜田二郎氏が著書『発想法』の中で紹介した、データをまとめるための手法である。

考案者のイニシャルから「KJ法」と名づけられた。

この手法は、1カ所に集められた多くの情報に対して、似たものを集めるグルーピング、そのグループに見出しをつけるラベリング、グループ間の関係性を整理する図解化、それをまとめる文章化という手順を踏むことで、本質的な問題の特定や新たな問題解決策の発見などを実現させることができるのが特筆すべき点である。

「企業文化」をどのように変え、どのような「仕組み・制度・施策」を構築するかは、正解のない答えを探し求めるようなものである。

おそらく、「KJ法」を編み出した川喜田氏は「人類の文化」という正解のないものに特徴を見出そうとしてこの方法にたどりついたはずである。

「企業文化(の分析)」と「人類の文化(の分析)」は「人の営み」によって形成されるという点で、相通ずるものがある。

もともと文化人類学のフィールドワークによって得られた膨大な情報を、効率良く整理する方法として生み出されたものなので、事象や事実にもとづいてグループをつくり、そのうえで関係性を紐解いていく。

このアプローチが、とりわけ「企業文化」を整理するワークになじむのは、はじめから問題を決めてかかったら、見落としやすいからだ。

通常、分類しようとすると、先にフレームを決めようとするケースが多い。

先にフレームを決め、そのフレームにあてはめて分類するほうが作業が早い。

しかし、そのフレームの枠内でしか考えられなくなり、きれいにフレームに収まらない問題を見落とし、問題の根本的な構造を理解できなくなる。

たとえば、先入観でフレームを決めてから「企業文化」を考えると、次のような弊害が生じる。

あらかじめ「メンバーとマネジャーの問題」「部門間の問題」などと整理してしまうと、本当はさまざまな複雑な問題が潜んでいることも少なくないのに、用意された箱のどれかに分類してしまう。

一方、明らかに「部門間の問題」という箱に入りそうだと予断できる事象も、「KJ法的アプローチ」で自由に発想すると「部門間での足の引っ張り合い」や「お互い、お手並み拝見状態」など、もっと核心を突いた見出し(ラベル)になる可能性もある。

「部門間の問題」だと、一見するとそれっぽい原因のようだが、じつはかなり曖昧なままで「何をどうすれば良いか」はまったく具体的に見えてこない。

だが、あちこちの部署間で「お手並み拝見状態」が起きている事実が挙がったのであれば、その原因を見つけ出して、解決していけばいいわけである。

この「KJ法的アプローチ」で、「良い企業文化」と「良くない企業文化」を、どのようにまとめるのかを、ここであらためて整理していく。

どちらもやり方としては同じである。

手順はこうだ。

まず、みんなが持ち寄った各100個の事象を、なぜそれを出したのか、理由まで共有しながら、似たものを直感で集めていく。

すると、いくつかの「塊(グループ)」ができるはずだ。

大きな塊もあれば、付箋が少ない小さな塊もあるだろう。

必要であれば、大きな塊は、さらに分けられないか考えてみよう。

次に、その「塊」ごとに見出しをつけていく。

これも直感で構わない。

なぜそれが似ていると感じたのか、それがわかる見出しにする。

問題の現象を客観的に表現した見出しや、それが起こる理由を表現した見出し、それらによってどんな影響があるのかを表現した見出しの場合もあるかもしれない。

いずれにせよ、この段階では、ニュアンスを大事にして自由につけていくのだ。

たとえば、「年齢の高い社員と、若い社員との間に起こる問題」とか、「言い出しっぺがやらないといけないので、気づかないふりをする現象」「誰も結論を出さないので、進まない事象」などというように。

それぞれの塊に見出しをつけたら、次は、その塊と塊の関係を考えていく。

似た塊を近くに集めたり、関係なさそうなものを遠ざけて置いたり、また、塊と塊を因果関係で結びつけたり、時間軸で結びつけたりして、関係を考えて紐づける。

実際には、A3やA4サイズの紙に付箋を貼って塊をつくり、それに見出しを書き込む。

そして、塊と塊の関係を付箋のついた紙ごと動かしながら見つけていくのだ。

おおよその関係が見えれば、ホワイトボードにマグネットで留めたり、模造紙の上に置いて、関係性がわかるように線でつないだり、囲ったりして、そのそばに関連づけた理由を書いていく。

ここまでくると、「企業文化」についてさまざまなことが見えてくる。

「Aという塊があるから、Bという事象が起きているのではないだろうか」とか、「Cという事象があるから、DもEもFの事象も起きているのではないだろうか。

それであれば、真っ先にCを解決しないと、他の事象はなくならないな」など、さまざまな想像ができ、会社で起こっている多くの事象がわかるはずだ。

この一連の作業は、似たものを直感で集めてグループ化するのも、グループである塊に見出しをつけるのも、塊同士の関係性を見つけるのも、すべてクリエイティブなワークである。

そのため、頭を柔軟にし、参加者同士が自由に話せる環境で行うことが大切だ。

そしてこれは、クリエイティブなワークなだけに、メンバーが異なれば、分析結果も異なるものになる。

メンバーが多い場合には、いくつかのチームに分かれて行うケースも少なくない。

その場合には、チームごとに特徴のあるまとめ方になりやすい。

チームによって異なるからこそ、それを共有することで、また新しいヒントが見つかることが多い。

この「良い企業文化」と「良くない企業文化」の現状分析は、「仕組み・制度・施策」を考える際のベースとなる。

組織変革の出発点とも原点ともいえる。

だから、そこであぶり出された現状分析の結果はいつでも見られるようにしておく。

写真に撮って保存したり、模造紙から紙や付箋が落ちないように、糊やテープで留めて保存し、必要な際にすぐ広げられるようにしたり、プロジェクト専用として使える部屋がある場合には、常時貼っておいたりするのだ。

これを見続けていると、新たな関係性に気づき、新しい線を引きたくなったり、塊をもう少し分割したくなったりする。

そして、現状分析したものを見続けた結果、何か思考に変化が生まれてくる。

会社の現状の見方やとらえ方が進化しているからだ。

そうして思考が広く深くなることで、最初は気づかなかった奥底に潜む「原因」に気づけたりもする。

「なぜ、そのような行動をするか」を心理面から考え抜く

「良い企業文化」と「良くない企業文化」について持ち寄った項目を「KJ法的アプローチ」でまとめ、それを参加者全員で議論し、それが起こる根本となっている事象を整理する作業を経ると、「原因」や「背景」が全員で共有される。

いわば、解決策を考える目線が合ってくるのだ。

「原因」や「背景」を考えるトレーニングとして、「営業車の使い方の問題」があぶり出されたケースで考えてみよう。

営業車を使用する際に、乗り終えた営業車を所定の位置に戻さない、車内が汚れたままで放置するなどの問題が起こっていた。

その問題の「原因」と「背景」について、参加者全員に「なぜだと思うか」問いかけてみる。

営業車の使い方のルールについて聞いてみたところ、次のような意見が出た。

・そもそもルールを決めていないのではないか・ルールはあるが、そのルールに問題があるのではないか・ルールを決めているのに営業パーソンに伝わっていないのではないか・営業パーソンがルールの運用を勘違いしているのではないか(きちんと伝わっていない場合、伝える側に責任があるかもしれない。

聞く側に責任があるかもしれない等)もし営業部ではルールの存在を知っているのに、守られないとすると、次のような「原因」や「背景」が見えてくる。

・個人の倫理観の問題・営業車に関するオペレーション上の問題(駐車場が狭く入れにくい。

社内を清掃するウェットシートの予算が認められない等)・営業パーソンの時間的余裕のなさ・営業パーソンが潜在的に抱える会社に対する不満このように、広げ、掘り下げ、具体的に考えていく。

「原因」と「背景」を考える際には、あえてさまざまな言い方に換えて考えてみることも大切である。

私が問いかけるときも、参加者が考えやすいような聞き方にアレンジする。

「できない理由は何だと思いますか?」「やらない理由は何なのでしょうね?」「思いあたる節はありますか?」「どうしてそうなるのでしょうか?」「何がそうさせていると思いますか?」「阻害しているものは何なのでしょう?」そして、グループ化した塊と塊の関係にも、思考が深まるような問いを投げる。

「この現象が起きているのは、こちらの現象が原因になっているからではないですか?」「この現象とこの現象は、こういうことでつながっているのではないですか?」「この現象が起こるまでには、先に何かがあるのではないですか?」似たものや、つながりがありそうなものは、その点を議論する。

1つの現象を縦に深く掘っていくだけでなく、どのように影響を与え合っているか横にも広げて展開しながら議論していく。

通常は結びつかないようなことも、あえて結びつける視点で考えてみるとつながることも多々ある。

さまざまな事象が影響し合っているかもしれないという前提で議論をすると、自社の課題を構造的に認識できるようになる。

すると、構造的に変えなければならないポイントが見えてくるのだ。

ここまで準備できたら、次は「理想の企業文化」を考えるステップに移る。

現状にとらわれず、「理想の企業文化」をイメージする

現状分析の後は、「理想」を考える。

ここでのコツは、現状に引きずられずに、純粋に「理想の企業文化」を考えることだ。

一般的に、改善策を考える場合、現状分析を行い、その結果から、さて何に取り組もうかとなるケースが多い。

しかし、それだと現状の枠内での発想しか出てこない。

ここでは、あえて現実を忘れ、それまで行った現状分析とは完全に切り離して考えていく。

自社の「コア・コンピタンス」がより強くなり、「企業理念(社外規範・社内規範)」を実現するためには、社員がどのような気持ちになるのが理想的なのか、どのような行動を起こすことが理想的なのか、それらを自らの言葉で挙げるのだ。

スティーブン・R・コヴィー氏は著書『7つの習慣』の中で、「すべてのものは二度つくられる」という原則を紹介している。

すべてのものはまず頭の中で創造され、次に実際にかたちあるものとして創造されるということだ。

つまり、知的創造が第一の創造であり、頭の中でイメージされ創造されてゆくことの大切さを伝えている。

そして、物的創造が第二の創造であり、具体的にその理想をかたちにするために取り組むべきことを詳細に設計し、抜かりのない段取りを組み、実行していく。

「企業文化」を考えていく際にも、同様の手順を踏む。

現実にとらわれずに、純粋に理想を考える。

まず、理想をイメージできなければ、理想の会社や理想の企業文化が実現するはずがないからだ。

理想を考える際のポイントも、2章の「組織診断7つの視点」に加えて、「『良い企業文化』『良くない企業文化』を徹底的にあぶり出す」の項目で紹介した次の5つの思考の広げ方を活用してほしい。

①「日常の業務」から広げる方法1日、1週間、1カ月、四半期、半年、1年という時間で考えたときに、どんなふうに行動してくれたら、うれしいだろうか。

部署や人をイメージしながら、頭の中で動かす。

文字通り、理想的な行動を想像するのだ。

②「組織間で起こっている現実」から広げる方法人や組織の関係がどのようであれば、理想的だろうか。

社員とパート、課長とメンバー、課長と部長、部長と役員、課と課、部と部、部門間、お客様との関係、取引先との関係は、どのようになるのが理想的だろうか。

具体的に理想の姿をふくらませるのだ。

③「企業理念の実現状況」から広げる方法自社の「企業理念(社外規範・社内規範)」などが実行され、実現していくときには、社員がどんな考えを持ち、どんな行動をとっているだろうか。

④「コア・コンピタンスに結びつく行動」から広げる方法「ビジネスモデル」が強化され、「コア・コンピタンス」が研ぎ澄まされるには、どんな行動をすると良いだろうか。

どんなことをすれば、競合他社より優位になるだろうか。

⑤「全社のルール」から広げる方法みんなが活き活きと働いている状態とは、どんな仕組みや制度、ルールが機能しているときだろうか。

「評価指標」や「報酬」が理想的な状態とはどんな様子だろうか。

人事、経理、総務のルールをみんなが納得し、守っている状態だと、どのようなことが起こっているだろうか。

純粋に「理想」をイメージしたら、どうやって「理想」に近づけるか、そのための方法を考えてゆく。

理想へ導くための方法は、「思考のジャンプ」から生まれる

「良い企業文化」と「良くない企業文化」の現状分析、そして「理想の企業文化」の考察、この2つの準備ができたら、いよいよ「理想」に近づくための方法を考える段階となる。

そのためには、「良い企業文化」と「良くない企業文化」を明確に分けて、別々に考える。

「良い企業文化」と「理想の企業文化」を俯瞰して、何をどうすれば、理想に近づくかを考える。

このときのポイントは、「再現性」である。

良い事象が生まれている要因を分析し、「再現性」高く確実に何度も起こるようにするには、どうすれば良いかを考えるのだ。

同じように、「良くない企業文化」と「理想の企業文化」を俯瞰して、何をどうすれば、理想に近づくのかを考えていく。

当然、「良い企業文化」よりも難易度は高い。

今うまくいっていないものを理想に近づけるわけだから、原因や背景、そうなっている要因を考え抜かなければならない。

そして、それを解決するための方法を編み出すのだ。

そのアイデアを生み出すには、「思考のジャンプ」が必要となる。

「思考のジャンプ」には、創造性が欠かせない。

アインシュタインは「観察結果を並べても、ある概念をつくり出すことはできない。

事実とは直接つながらない公理に思考をジャンプさせることが必要だ」と述べた。

事実の観察の延長だけでは、命題を解く前提になるような一般に通ずる道理は生まれないということである。

アイデアを出すためには、わかりやすくいえば、論理的思考から創造的思考へと脳の使い方を変える必要がある、というニュアンスを伝えたかったのだ。

たとえば、「良くない企業文化」を変えるために、突拍子もないことや超理想的なことを思いつき、それを導入するとどうなるか、頭の中でシミュレーションしてみる。

今度は、超現実的な施策をやり続けるとどうなるかを想像してみる。

両方のギャップをヒントに、最適な案を考えていくのだ。

また、他の企業に似たような解決事例があれば、それを導入したらどうなるかなど、さまざまなシミュレーションをしてみる。

頭の中で起こることなので、具体的な説明は難しいが、創造性を発揮しながらそれらをたくさん考えてみて、自社にふさわしい解決策を見つけ出すのだ。

解決策を考えるのは、事象の塊ごとに対してである。

たとえば、部署間の問題「お手並み拝見状態」を解消するための方法を考えるという具合だ。

だから、事象の塊の数だけ考えてみる。

そうすると、共通で思いつく方法もあるかもしれない。

その場合は、1つの方法で複数の課題を解決できる可能性があるということだ。

その作業を繰り返し、導入すべき優先度の高い方法を決めていく。

塊に因果関係がある場合には、その根っこに近い課題から解決することをめざす。

そこを解決しないと、それに連なる他の課題の抜本的な解決はできないからだ。

これまでの一連の流れを理解してもらいやすいように、ここからは事例をもとに紐解いていく。

実際に、当時のファーストリテイリングの事象から見つけ出した課題である。

その課題を解決するために、「思考のフレーム」を用いて「思考をジャンプ」させて編み出したのが、まさに4章で紹介するさまざまな「仕組み・制度・施策」ということになる。

そのような視点で読み進めていただきたい。

FR社の組織変革も、課題の洗い出しからはじまった

ファーストリテイリングで取り組んだ「仕組み・制度・施策」も、これまで紹介した「思考のフレーム」を用いて、同じプロセスをたどって導き出したものである。

ここからは、あえてファーストリテイリングという実社名ではなく、「FR社」と、またブランド名を「UNQ」と表記する。

その意図は、正確さを追求するあまり、前提や例外などをふくめた膨大な情報をお伝えするよりも、モデル化することで、状況を単純化し、「企業理念(社外規範・社内規範)」と「コア・コンピタンス」を強くするための「仕組み・制度・施策」の必要性やその効果をよりわかりやすく伝えられると考えるからだ。

FR社の残すべき「良い企業文化」、変えるべき「良くない企業文化」の事象を洗い出し、事象のグループ分けを行った。

その見出しには、「いわれたことをやるのが美学」とか、「納得いくまで上司と話ができていない」「自社商品を愛していない人がいる」をはじめ、リアルな言葉が並んだ。

「企業理念を実現する」「製造小売業を強くする」「チェーンストアとして強くする」などの「理想の企業文化」を想定して、思考をジャンプさせながら、取り組むべき「仕組み・制度・施策」を決めていった。

これから紹介するものは、「思考のフレーム」を用いて見つけた課題を、わかりやすいように組織を想定した図の上に並べ、何を解決してゆくのかにスポットをあてたものだ(詳細までお伝えすることはできないので、あえて簡略化し、読めないようにぼかしていることはご了承いただきたい)。

これらの図は、上部に企業の本部の組織や正社員、下部に準社員とパートが描かれる二層構造になっている。

FR社には全国に大勢のパート社員が働いていたので、正社員向けに行う「仕組み・制度・施策」と、準社員やパート社員向けに行う「仕組み・制度・施策」を、それぞれの視点で考える必要があったからだ。

次のレイヤー①は「現状の問題点に対して真っ先に進めた解決すべきテーマや実行策を表している。

社員を職種別、階層別にモデル化し、幹部社員層が抱える課題や、メンバーからマネジャー層に昇格する際にどのような課題があるか、社員層にはどのような課題があるかなどを整理している。

たとえば当時、急拡大していたFR社は、優秀な社員ほど新しい店舗や難易度の高い仕事を任せざるをえなかった。

そのため、人事異動のタイミングが早く、次々と部署を変わる社員もいて、疲弊している状態だった。

それゆえ、任命基準の見直しなどが求められていた。

そうした顕在化している問題を表現したのが、レイヤー①の図である。

「企業文化」や「組織風土」の改革のために取り組むべき課題を示したのが、次のレイヤー②の図だ。

そこでは、次のような課題が挙がった。

部長、課長、スーパーバイザークラスまで、自信を持って判断できるように判断基準を共有するための方策の実行。

上司と部下のコミュニケーションがうまくいっていない部署も多かったので、全社的に「360度評価」の研修の実施。

また、他部署との人材交流の機会を増やすための施策。

現場の意見が上層部にタイムリーに届く仕組みづくり。

これらは、社員から出る不満を解消するだけではなく、長期的にFR社が強くなっていくための課題をふくめて丁寧に洗い出している。

課題を整理するために、「KJ法的アプローチ」による分類をもとに、「コミュニケーションに関するカテゴリー」「店舗正社員に関するカテゴリー」「店舗スタッフに関するカテゴリー」「その他のカテゴリー」の4つが浮かび上がった。

たとえば、「店舗スタッフに関するカテゴリー」では、次のような課題があった。

店舗スタッフが会社の考えを理解できていなかった。

それに対する解決策として、月に1回の朝礼で経営トップの考えや主要な役員や部長が話す内容をビデオで撮影し、全店舗で見られるようにした。

それだけでも店舗スタッフの理解度は変わる。

店長の店舗スタッフに伝えるスキルの巧拙にかかわらず、ビデオが補完してくれるからだ。

続く次のレイヤー③は、レイヤー①、レイヤー②に該当しない、問題の核となる可能性のあるテーマを列挙している。

「良くない企業文化」として、重要なものを整理したものである。

ここに挙げられた項目を俯瞰すると、そのときの社風が浮かび上がる。

同時に、これを整理すれば、変えるべき点が特定できるのだ。

実際に挙がった課題から、いくつか拾ってみたい。

括弧内は課題に対する当時の感想である。

「いわれたことをやるのが美学」(その「規律性」の強さが、反面強みにもなっていたのだが、もっと「主体性」を発揮して自ら動いてほしい)「自社商品を愛していない人がいる」(これは大問題だ。

自社の商品の良さを何としても伝えなければならない)「規律だけでないユーモアのあるコミュニケーションが必要」(雰囲気が硬い。

もう少し力を抜く場面があってもいいのではないか)「上司が部下を大切に思っていない」(現実問題として、上司は自分が課せられたミッションを達成するのが大変だから、部下を育てる余裕がなく、自分のミッションを達成するための手足のように考えてしまっている)「個人と個人が理解し合っていない」(誰もが忙しいから、コミュニケーションをとる余裕がない。

チームとして仕事はしているものの、人と人とのつながりが希薄になっていた)「新旧の社員の融合」(業務拡大のため、中途入社の社員を大量に採用していた。

その結果、プロパーの社員と中途入社の社員との間に溝が生まれた。

同時に、入社世代ごとのギャップもあった。

まだ規模が小さかった頃の社員、拡大期に入ってきた社員、本部の急拡大期に本部に中途入社した社員、それらの間に微妙な意識のギャップが生まれていた)「全社的な『商売人』の気質アップ」(「商売人」、これは社員に求められる重要な価値観だ。

自分で考え、自分でやり切る。

「商売人」にはさまざまな意味がふくまれている。

「PDCAサイクル」を回すことをふくめて「商売人」気質が求められている)マイナスの面だけでなく、「良い企業文化」も数多く挙がった。

「安易に妥協しない」「意思決定が速い」「判断が本質でなされる」「徹底力」「若い人に責任を持たせる」「目標を持たせる」「ポジション(地位)よりも主体性を重視する」「やりたいことをやらせている」「年功序列がない(いろいろな世代間で腹を割って話せる)」「チャンスが多い(敗者復活がある)」「現場主義」「店長を大事にしてくれる」「きちんと叱る文化がある」「お客様中心」「利益にこだわる」「マイナーチェンジがある(常に改善していく)」「変化できる」FR社は「思考のフレーム」を用いて、会社の課題を特定し、解決するための「仕組み・制度・施策」を考え抜いて実行していった。

会社の「強み」でもある「良い企業文化」から生まれる事象に対しては、再現性を高められるような施策を考え抜いた。

社員が疲弊し、モチベーションを下げる要因でもある「良くない企業文化」は、そうなっている真の原因を探っていった。

そして、「理想の企業文化」をめざして「仕組み・制度・施策」を考え抜き、実施した。

それこそが、次の4章で紹介する内容である。

「思考のフレーム」からはじまる一連の「企業文化」の変革を理解していただければ、その奥深さを実感していただけるのではないだろうか。

そして、読者のみなさまが、自社の「企業文化」を変革し、さらに強い会社になるための「仕組み・制度・施策」を構築される際の参考にもしていただきたい。

強い会社に変わるための「思考のフレーム」を用いて、「企業理念(社外規範・社内規範)」「コア・コンピタンス」「仕組み・制度・施策」をもとにどのように組織変革をしていくか、具体的なケーススタディを通して詳しくお伝えしたい。

この章でも、あえてファーストリテイリングという実社名ではなく、「FR社」と、ブランド名を「UNQ」と表記する。

ここで登場する「FR社」は、「はじめに」でも記したが、売上800億円から4000億円に急成長し、多くの人が知るようになった頃の話だ。

この頃の「FR社」の事例には、一般的な多くの会社で起こる課題を解決するためのヒントがあふれている。

そして、ここで取り上げる「仕組み・制度・施策」は、「FR社」に特有のものではない。

これは、どのような会社にも活用できる事例だ。

商社やメーカー、IT系企業などでも、「企業理念」や「コア・コンピタンス」に合った「仕組み・制度・施策」を構築していくという意味では同じなのだ。

会社を変革するにはここまでやらなければ変わらないという前提で読んでいただきたい。

1つや2つの「仕組み・制度・施策」を導入しても、会社は変わらない。

強くもならない。

どこまで徹底してやらなければ変わらないのか。

それをFR社のケースで体感していただきたい。

それとともに、「仕組み・制度・施策」や組織開発のための打ち手には、1つひとつに意味があることもご理解いただきたい。

 

 

 

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