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第5章強さを支える陰の主役は「コミュニケーション」の仕組み

目次

第5章強さを支える陰の主役は「コミュニケーション」の仕組み

「視野・視座」×「影響の範囲」の理解が、コミュニケーションの前提

会社を強くする「仕組み・制度・施策」の中でも、「コミュニケーション」に関するものはとりわけ重要になる。

「コミュニケーション」は会社の強さを支える陰の主役だからだ。

人と人とのコミュニケーションがうまくいかずに困っている会社は想像以上に多い。

いや、ほとんどの会社がこれが問題となっている、といっていいくらいだ。

コミュニケーションの問題は、人数が増えるほど複雑化する。

よく語られることだが、人が増えるとコミュニケーンが複雑化するのは、人と人を結ぶ線が増えていくからだ。

人が2人いれば1本の線、3人集まれば3本の線でコミュニケーションがとれる。

しかし、4人になると、もはや人数分の4本の線ではコミュニケーションはとれない。

そうやって、人が増えるごとにコミュニケーションの線はの数式で表され、10人だと45本、20人だと190本というように加速度的に増えていく。

複雑性が増したコミュニケーションの世界では、さまざまな問題が起こる。

しかも、組織の場合には、複雑さがさらに乗じられる。

それは、役職なども絡んできて、対等ではない人たちとのコミュニケーションの問題も起こるからだ。

上司と部下との間、経営者と一般社員との間、というようにさまざまな齟齬が起こる。

たとえば、上司と部下とのコミュニケーションでは、そこには恐怖や遠慮だけでなく、「視野」の広さの違い、「視座」のズレなどがあるため、同じ言葉で話しても理解できるかどうかは人によって異なる。

上司が自分の目線で理解して当たり前だと思って出した指示が、部下は「視座」の違いから上司の期待通りに解釈できないこともある。

部下なりに理解した範囲で一生懸命やっても、上司の期待値を大きく下回るというケースも日常的に起こりえる。

部署と部署の「間」のコミュニケーションにおいても、似たようなことが起こる。

単刀直入にいえば、部署によって見ているものが違うからだ。

つまり、「視野」の違いによって、同じ情報を渡しても行動が異なるのだ。

このような組織のコミュニケーションの問題を解決するためには、2つのことに取り組む必要がある。

1つは、「視野」と「視座」を共有し合うこと。

もう1つは、仕事の「影響の範囲」をきちんと認識することだ。

1つ目の、全社的な「視野」と「視座」の共有について。

ここでいう「視野」とは、各部署が何に関心があるのか、その影響による見え方のことだ。

「視座」とは、メンバーは、課長は、部長は、経営者は、何に関心があるのか、その立場ごとによる見え方ともいえる。

この「視野」や「視座」が異なると、同じ情報に触れても、その中からピックアップする点も変わる。

基本的に、人は自分の関心のあるものしかアンテナには引っかからない。

だから、このギャップを埋める必要がある。

ただし、役職や立場による「視座」の差を理解し合うための施策は、なかなかひと筋縄ではいかない。

実際にその立場になってみないと見えてこないものがあるのも事実だからだ。

しかし、だからといって、「視座」の差を理解し合う努力は続けないと、その組織はコミュニケーション不全になりかねない。

「視座」の差をメンバーまで伝えていくには、マネジャーをはじめ上の立場の人から「自分はなぜその情報がほしいのか」「なぜこれをお願いするのか」をことあるごとに必ず伝えて仕事の依頼をしてもらう、というのが大前提となる。

役員が部長へ、部長が課長へ、課長がメンバーへそれぞれが伝え続けるのだ。

それを日常聞くことにより、少しずつ理解できるようになる。

また、1つ上の「視座」を身につけてもらうための研修を行うこともある。

参加者に、全社を改善するような何かを実現するための方法を考えさせるのだ。

そして、実際に研修の対象者が部長であれば社長や役員に、研修対象者が課長であれば部長にプレゼンテーションするイメージを想定した課題を行う。

実際の上司にプレゼンテーションをさせることもある。

そして、どんどんダメ出しをしてゆく。

ダメ出しをするポイントは、上司の「視座」を理解しているかどうかだ。

上司はどんなところを注視するのか、その立場になって考え続けることで、少しずつ「視座」が変わっていく。

「視野」の改善策については、次の「影響の範囲」とともにお伝えする。

2つ目の、「自分が今している仕事は誰にどんな影響を与えるのか」、その「影響の範囲」をきちんと認識することについて。

そのことをもっと正確にいうと、「自分の仕事は、誰からバトンをもらい、誰にバトンを渡すのか、そしてそのバトンが遅れると、どんな影響を受け、どんな影響を与えてしまうのか」だ。

それを、みんながきちんと把握するのだ。

もちろん、このバトンは1つではないことがほとんどである。

複数のバトンを受け取り、加工して、また新しいバトンにして渡すケースもあるだろう。

また、そのバトンの行方は、自分の前後だけを知っておけばいいわけではない。

バトンを渡した影響は、その先まで続いていくし、もし、自分がバトンをもらえないときは、自分の前のもっと前の担当者が原因かもしれない。

組織のコミュニケーションを円滑にするために、「視野」の違いを理解し、「影響の範囲」を認識するカギとなるのが、4章で紹介した「バリューチェーン」だ。

「バリューチェーン」の「全体像」を認識させるための活動には、さまざまな方法がある。

FR社の事例で解説したように、全社に自社のビジネスの仕組みを映像なども使いながら、何度も何度も説明することもその1つ。

社内報を使って紹介するという方法もある。

また、「研修」という形式も効果がある。

私は、よくマネジャー研修のプログラムに「バリューチェーン」を取り入れる。

マネジャーに、自社の「バリューチェーン」を書かせるのだ。

研修なので、チームに分かれて作成してもらうことも多い。

すると、きちんと書けることはほとんどない。

みんな自分に関係がある部署や身近な部署のことしか知らないのだ。

チームが多様な部署から集まったメンバー構成だと、やや全社的な絵になるが、それでもすべてを知っていることなどない。

研修では、各チームからの発表の後、必ず全員で共有しながら自社の全体像を理解してもらうようにしている。

マネジャーの研修で「バリューチェーン」を知ることが有効なのは、マネジャーこそが部署間をつなぐ役割を担っているからだ。

マネジャーが各部署の役割を理解し、会社の価値の連鎖であるバリューチェーンの絵が頭に入っていると、部署間の連携が生まれやすく、組織の壁が低くなる。

また、何かイレギュラーなことが起こった場合、速やかに関係ある部署に情報が伝わりやすい。

そして、さらなるメリットは、マネジャーが「バリューチェーン」を理解していると、日常の仕事のなかでメンバーに必要な情報を共有してくれることが多くなるのだ。

既存のマネジャー全員がこうした状態になっていると、新任のマネジャー研修に組み込むだけで、すべてのマネジャー間の連携がしっかりと取れた組織になる。

「バリューチェーン」の「影響の範囲」を理解し、お互いに円滑な協力関係を築く方法としては、自分がバトンを渡したり、もらったりする部署と交流を深める施策が有効だ。

一定の期間、その部署の仕事を体験に行くプログラムを実施したり、関連のある部署同士で交流を深める費用を会社が支援したりするなど、お互いを知り合う機会を増やすというものである。

「バリューチェーン」がわかり「影響の範囲」が見えてくると、他部署の「視野」もおのずと理解できるようになる。

部署の違いによる「視野」の違い、役職や立場の違いによる「視座」の違い、磨き上げた「バリューチェーン」の「全体像」と各部署の「影響の範囲」が共有されると、自分の役割がどこまで及ぶのか、各部署がどこでどのようにつながっているのか、それらを認識できる。

これらは、組織のコミュニケーションが円滑に進むためのベースとなる。

「会社の強み」と「会議の質」は相関する

「会議」は、会社のコミュニケーションの中でも重要な場である。

自社の「会議」の在り方について、どの会社でも何かしら課題や問題点を感じているかもしれないが、どんなやり方をするのが最適かまで徹底的に考え抜いている会社はそれほど多くない。

しかし、「強い会社」は「自社に最適な会議のやり方」を模索し、会社の強みに結びつけている。

ここで私がかつて在籍した、リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクの会議の特徴を紹介したい。

もちろん、この3社のすべての会議を紹介できるわけではないので、特徴的な事例を切り取ったものになる。

ここで紹介する会議のやり方は、「企業の特徴」と「会議の特徴の関係」を考えるための素材として読み解いていただきたい。

会議の在り方も、「企業理念」である「社外規範」「社内規範」の実現と、「コア・コンピタンス」の強化に結びついている。

「何のためにその会議をやるのか」、その意味や目的がわかっていれば、会議の有りようも研ぎ澄まされる。

自社に合った会議のやり方に気づき、それを実践することで、「強い会社」にまた一歩近づく。

①リクルートの会議は「全員参加型」

リクルートでは、1つの会議に参加する人の数がとりわけ多かった。

リクルートには社員以外に、契約社員やアルバイトなど異なる雇用形態の人がいた。

普通の会社であれば、会議に参加するのは社員に限定される。

しかしリクルートでは、その会議の内容に関係する人であれば、すべての雇用形態の人が参加していた。

転職してきた人たちは、よくこういった。

「人件費もかかるわけだから、もっと人数を絞って、参加者は社員だけにして、社員以外は会議に出る必要はないのでは」ところが、リクルートの人間は無駄だと思ったことはない。

客観的に見ると、会議に参加している全員の時間を拘束することになるので、コストは多大になる。

しかし、それ以上の価値があるのだ。

関係する全員が会議に出ていると、誰がどのような意見を持っていて、どのようなプロセスを経て何が決まったか、全員が知っていることになる。

たとえば、契約社員やアルバイトも予期せぬことが起こったときに、誰に何を報告しなければならないかすぐにわかる。

なぜなら、どのようなプロセスで何が決まったか、契約社員もアルバイトも一部始終を知っているからだ。

自分で判断して動けるのだ。

また、1つの指示で、何をしてほしいかの全体像を理解できるようになる。

1つひとつの指示内容を説明する手間や時間は、逆に短縮されるのだ。

社員、契約社員、アルバイトと立場に関係なく、1人ひとりが自らで判断しながら動けるようになるからだ。

一見すると、会議の参加人数が多いというのは、コスト的に悪く時間も無駄に思えるかもしれないが、日常の行動の効率は上がる。

もともとリクルートには、「企業文化」として「1人ひとりが主体的に動くことを大事にする」という価値観がある。

そして、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という「企業理念」は、社員だけでなく契約社員やアルバイト社員にも求められている。

だが、動くための情報がなければ、誰も主体的にはなれない。

そのため、これは会議に出て社員と同じように情報を得て、当事者として動くのが当たり前のこととなるような仕組みともいえる。

また、リクルートの業務は、もちろん定型業務もあるが、企画や営業の仕事が多いので、どちらかというと臨機応変な対応が求められることが多い。

提案型で高付加価値を志向する「ビジネスモデル」を支えるには、雇用形態を問わず全員が、自らの判断で、主体的に行動できなければならない。

企業の有りようと、会議の有りようはつながっているのだ。

②ファーストリテイリングの「ワンテーブル・ミーティング主義」

ファーストリテイリングでは、会議を行う際に、そのテーマの関係者全員がそろっていることを重視した。

これは「ワンテーブル・ミーティング主義」と呼ばれている。

マーケティングに関する会議で、ある商品の売れ行きが速く、「追加生産」がテーマだとする。

その商品の担当のマーチャンダイザー(MD)はもちろんだが、追加商品の納入のタイミングで販促を仕掛けるためにマーケティング部長とその商品の販促担当者、そして生産部長とその商品をつくる工場の担当者、販売を担う店舗運営部長が出席する。

会議中に、追加生産のために通常とは異なる方法で商品を運ぶ必要がありそうだとわかったら、すぐさま物流の責任者と担当者が呼ばれる。

このように、必要な関係者が一堂に集まって会議を行うのだ。

多くの企業では、会議の場で決めたことをそれぞれの部署に持ち帰り、部署として可能かどうか判断している。

その判断を携えた参加者が、もう一度集まって協議する。

場合によっては何度も会議を開かなければならず、スピードが遅くなる。

組織の意思決定のスピードを変革するには、まず「判断できる人間」が一同に集まって議論を尽くすことである。

「判断できる人間」とは、具体的には組織の長と現場のリアルを知っている担当者だ。

「判断できる人間」が一同にそろう会議は、その場でものごとが決まっていく。

意思決定の速さと行動の速さは、会議の仕組みからも生まれている。

ファーストリテイリングが「ワンテーブル・ミーティング主義」を大事にしたのも、実質的に関係のある人が集まることで、「製造小売業」という「ビジネスモデル」に必要な即断、即決、即実行が可能になるからだ。

意思決定が迅速にできるわけだ。

ここでも「会社の強み」と「会議の質」は関連している。

③ソフトバンクは「ブレスト」を重視

ソフトバンクで、大きな意思決定をする際には、毎日のようにブレインストーミング(以降、「ブレスト」。

詳細は後述)が行われていた。

正確にいうと、上層部から現場の社員まで、すべての人が行っているわけではない。

常にブレストをしていたのは、経営トップを中心とした幹部クラスだ。

新しいビジネスに参入するためのシナリオ、既存事業の強化のための方策など、ブレストのテーマは尽きない。

ソフトバンクは新しいことを常に模索している。

既存の延長だけでは決められない案件ばかりだ。

だから、アイデア出しは重要になる。

調べられることは徹底的に調べ上げたうえで、それを材料に徹底的にアイデアを練り上げていく。

感覚ではなく、事実ベースを大切にしている。

データもふくめた事実を共有し、それを踏まえて発想することが求められる。

幹部には、その感覚が染みついているので、知らず知らずにブレストによる会議の効率と効果は高まる。

幹部で行うブレストの主催者は、経営トップである。

参加者のアイデアを取り込みながら、それを上回るアイデアを自ら出し、さらに議論の質を高め、最終的には主催者が意思決定していく。

ソフトバンクという企業のベースに流れる挑戦心とスピード感も、会議と密接に関係があるのだ。

以上の3社に共通するもう1つの特徴がある。

それは、既存の延長や他社の物真似を嫌い、「ゼロベース」からの発想(ゼロベース思考)を求めることだ。

求められるのは会議だけではないが、当然、会議の場でも強烈に求められる。

「ゼロベース思考」とは、他の章でも少し触れたが、これまでの常識や規則、枠組みを常に疑い、本当に正しいかどうかを考察し、白紙の状態から考えていくことである。

ゼロベースから、あるべき姿やあるべき方法を考えて結論を導いていくのだ。

どのような会社でも、「なぜ、それを行うのか?」「なぜ、そのような方法で行うのか?」「なぜ、そのようなタイミングで行うのか?」をゼロベースで根本から考える習慣は持っておくべきだ。

会議でも、この視点で議論を尽くすべきだ。

この習慣が組織にあると、1つひとつの仕事の質が上がるだけでなく、組織としての変化への対応力が増す。

会議には3種類ある──「目的」と「特徴」を把握して使いこなす

リクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクでも重視していたが、会社におけるコミュニケーションの代表的な場として「会議」がある。

会議には、「営業会議」のように、参加メンバーの属性や営業数字の予実管理のように取り扱う内容から名称がつけられているものや、「役員会議」「本部長会議」のように参加者の役職で名称がついているものなど、さまざまある。

最近は、「会議」そのものが悪者扱いされ、会社で減らすべき上位に入ることも多い。

経営者の中には、会議不要という人までいる。

もちろん、生産性の低い会議など、誰も望まないだろう。

だが、世の中には時間もコストも無駄にするような会議が日々繰り広げられている。

そうなる理由として、次のようなことが考えられる。

1つは、時間の無駄、生産性が低い、結論が出ないなど、会議で良い体験をしたことがない人が運営したり参加しているからだろう。

「効率的、効果的な会議の仕方を知らないケース」といえる。

しかし、会議が終わった後にはスタート時とは別次元の発想に行き着くような素晴らしい体験をした人は、会議の価値を実感しているはずである。

自分たちの会議の運営力のなさを理由に、会議そのものを否定しているとしたら、もったいない話だ。

じつは会社で、「会議の仕方」をきちんと教わった人は、あまりいないのではないだろうか。

会社ごとに見様見真似で伝承されていくことが多いためである。

2つ目は、会議の場を設けて話し合うより、経営者が指示を出して、それを社員がやり切るほうがうまくいくケースだ。

前述の通り、企業の成長ステージのある段階までは、経営者が自社内の事業の細部に精通していて、またマーケットの状況も把握している場合も多い。

そこでは、社員は経営者の指示に従って全力で実行することに徹したほうが競合との勝負に勝ちやすい。

そのような上意下達型の会社には、議論や、アイデアを出し合うような会議は不要で、指示、伝達と、知りたい情報を吸い上げるための場があれば済む。

自社の会議が短時間であることを自慢する経営者には、このタイプが多い。

極端にいうと、社員は目的を達成するための駒にすぎないのだ。

ただし、成長や規模の拡大を狙うのであれば、このやり方のままでは、やがてどこかで限界がくる。

3つ目は、「参加者の意識の問題」である。

参加者に「当事者意識」がなければ、「主体性」がなければ、どんな会議もうまくいかない。

主体的に参加しているふりをしながら、本当は真剣に考えていない。

責任を取りたくないので、結論を出すことを恐れる。

言い出しっぺになると面倒なので、自分からは何もいわない。

空気を読んで、偉い人の発言に追随する。

このような会議の状況に、心あたりはないだろうか。

これは、会議自体の問題ではない。

「参加者の意識の問題」であり、会議の話より以前に、人が自ら動くような「仕組み・制度・施策」が必要だ。

私は経験上、「会議」をシンプルに3つのタイプに分けている。

それらの会議の効果や効率を高めるために、「会議で、何をしたいのか」という目的と、誰もが認識しやすく、日常で活用しやすいかという視点で整理した。

具体的には、次の3つである。

・情報共有のための会議・結論を出すための会議(ディスカッション)・発想を広げるための会議(ブレインストーミング)これから紹介する「会議の3つの種類」を、全社員に共有して臨むと、会議の質は大きく変化する。

参加者の意識が変わるだけで、会議の効果も効率も上がる。

会議によるアウトプットの精度が高まると、おのずと成果もそれに比例する。

「情報共有のための会議」は4つの要素を準備する

「情報共有の会議」は参加者に同時に知ってほしいことや理解してほしいことを伝えるのが目的となる。

決定事項の共有などだけではなく、マネジャーが今月の方針などをメンバーに伝える場合もこれに該当する。

私は経営コンサルタントという仕事柄、多くの会社の会議を拝見させていただくなかで、不思議な光景を山ほど目にしてきた。

発言者が情報共有のつもりで話しているのに、誰かが意見を言い出す。

それにつられて、また別の人が意見をいう。

すると、「なぜ、そのように決めたのだ。

もっとこうすべきだと思うが、これまでどんな議論をしたのか」など、意見や質問が入り乱れて、長い時間を消費しているのだ。

何かを議論して結論を出すのが目的の場であれば、何も問題はない。

しかし、すでに決定事項で、これから議論しても結果が変わらないのであれば、それは時間の無駄である。

心あたりはないだろうか。

そうなる理由は、会議の進行役や発表者が、この場が「どんな場か」をいわないからでもある。

明確にせずに話しはじめるので、聞き手も自由に意見をいう雰囲気が生まれてしまうのだ。

「これから、情報共有をします」まず、こう宣言すべきなのだ。

さらに、言葉を足しても良い。

「これから、〇〇プロジェクトで決まったことの、情報共有をします。

理解しにくい部分があれば、説明の後、質問していただいても大丈夫です」つまり、「情報共有の場」であることを宣言し、聞き手の意識を、内容の理解に集中させなければならない。

仮に、その場で変更可能なのであれば、はっきりと伝える。

「これから、〇〇について、情報共有します。

その後で、本当にこれで良いか、変えるべき部分があるかを相談したいと思いますので、まずは聞いていただいて、その後で意見や質問をお願いできますか」このように、「この会議では何をするのか」「参加者には何をしてほしいのか」を明確にすべきだ。

これが「情報共有の会議」の第一のポイントである。

2つ目のポイントは「伝え方」である。

これは、人に何かを伝える究極のコツともいえる。

「結論」「理由」「具体例」「だから、どうすべきか」の4つの要素を、この順番で話すことだ。

スピーチの上手な人の事例を参考に考察し、自分でも講演や研修などをはじめ大勢の前で話す機会が多いので、そこで実際にいろいろな伝え方を試しながら導き出した。

経験上、これがもっとも伝わる方法だと実感している。

4つの要素には、それぞれ大切な役割がある。

①結論これは、いちばん伝えたいことだ。

PREP法の(Point,Reason,Example,Point)でも先頭にくる「Point(要点)」にも似ている。

ただし、「要点」ではなく、この話でいちばん伝えたい「結論」だ。

これを最初に伝える。

②理由結論を受けて、それがなぜなのか、理由や背景、意図や根拠をきちんと伝える。

③具体例相手が納得するような具体例を挙げる。

聞き手のキャラクターや生きてきた背景を想像して、相手に合わせた具体例を使う。

相手が納得できる事例であることが大切だ。

④だから、どうすべきかこれは、最初の結論を踏まえながら、「だから、あなたはどうすべきなのか」「そうしたほうがいいのか」「私は、あなたにどうしてほしいのか」など、この話を聞いた後の相手の行動を直接伝えるのだ。

この4つの要素を、この順番で伝えると、聞き手の頭の中で何が起こるのか。

「結論」から伝えると、相手がその結論に対して賛成の人も、反対の人も、最初から話に意識が向く。

賛成であれば「その通り」と共感が集まり、反対であれば「え?何で?」と不信感を募らせるかもしれないが、いずれにしてもこちらを見てくれる。

賛成でも、反対でも、話を聞く態勢が築かれる。

自然と話に意識が集中するわけだ。

それを見計らったところで、「理由」を話す。

結論を導いた根拠に言及するのだ。

背景や意図をきちんと伝えると、賛成だった人は自分の意見の正しさを再確認するかのようにうなずいてくれる。

理由の内容しだいで、反対していた人は「なるほど、そういうことか」と少し納得した顔をする、しかし、どこかまだ100%は信じないぞ、という空気を醸し出している場合もある。

さまざまな企業の現場を見ていると、残念ながら「結論」と「理由」だけで終わってしまう人が多い。

それだと、話にリアリティがないので聞き手に実感がわかないのだ。

だから、「具体例」を入れることが重要になる。

というのも、人が誰かの意見に対して納得するのは、その話が自分の腹に落ちた場合だけだからだ。

腹に落ちるときのポイントは、自分も過去に同じ経験をしたか、もしくは、同じ経験はしていないけれども、明らかに起こりえると実感できたときである。

腹に落ちてはじめて、人は本当に納得する。

このプロセスがないと、どこかに疑心暗鬼が残る可能性が少なくない。

ここで伝える「具体例」は、聞き手が自分事としてとらえられる事例でなければならない。

私が実際に講演などで話す際には、会場に少し早めに入れていただき、どんな方が来ているか観察するようにしている。

いくつか用意している具体例の中から、どれを話すのが、より身近に感じられるかを見極めるためだ。

そして、「結論」「理由」「具体例」で納得してもらったうえで、最後にもう一度「だから、みなさん(あなた)はこうする必要があるのです」「こうしたほうがいいのです」「こうしてほしいのです」と具体的な行動まで提示する。

実際に企業の中で「情報共有」として伝える話は、行動化まで結びつけてほしい内容が多いはずだ。

新しいルールを導入したという話であれば、その新しいルールに従って今までとは違う行動をしてほしいと願って話しているはずだ。

また、良い事例やノウハウを情報共有する場合には、それを取り入れて、良い成果を上げてほしいと思っているはずだ。

しかし、よほど意識的に聞いていない限り、たいていは話を聞いただけで、すぐに自分事として行動にまでは結びつけられない。

多くの場合、「良い話を聞かせてもらいました」で終わってしまう。

しかし、良い話だけで終わってしまっては目的を達しない。

情報を共有したうえで、「だから、どうすべきか」が重要なのだ。

この4つの要素は、この順番で伝えるのがいちばん効果が高い。

ただし、相手の心理的変化がどのように起こるのか、その構造を理解して、あえて順番を変えることは構わない。

しかし、この4つの要素を省くことはない。

この4つの要素によって、聞き手は納得し、行動へとつながってゆくからである。

また、この4つの要素は、話をする準備のチェック項目としても活用できる。

この4つの要素があるかを事前に確認するのだ。

とくに、人に何かを伝えるのが苦手な人には役立つ。

この4つの要素を準備する習慣を身につけるだけで、社内の発表でも、社外へのプレゼンテーションでも、みるみる力がつくだろう。

「情報共有型の会議」では、必ずこの4つの要素を意識してほしい。

「結論を出すための会議」は「推論のはしご」を共有する

会社で行われる「会議」の中でいちばん多いのが、この「結論を出すこと」が目的のものではないだろうか。

「会議」という名前をつけるほど大げさではなくても、2人以上が集まって、何かを相談して決める。

それも立派な「結論を出すための会議」だといえる。

「結論を出すための会議」で、よく行われるのがディスカッションである。

議論を深めて結論を出すことが主眼で、そのポイントは次の4点だ。

①自分の意見をいう基本的なことだが、きちんと自分で考え、自分の考えを述べる。

②「推論のはしご」を共有する自分の意見は、どんな事実や事象から、何を考え、どのように推測・推論して、その結論にたどりついたのかを、みんなが理解できるようにきちんと伝える。

つまり、自分の意見としての結論だけではなく、思考のプロセスをふくめて共有する。

③「結論」「理由」「具体例」「だから、どうすべきか」を端的に伝えるこれは、「情報の共有の会議」でも述べたが、人に何かを伝えるときの必須項目である。

④相手の意見の背景を理解しながら議論を進める話し手が、自分の思考のプロセスもふくめて伝えるのと同時に、大切なのは聞き手の意識である。

聞く側も、相手の意見の背景や理由、根拠を理解しようとしながら耳を傾ける。

そのうえで、議論を深めるのだ。

①~④のうち、とくに重要な点が2つある。

1つ目は「相手の意見の背景を理解しながら議論を進める」ことだ。

それぞれが考える結論だけを言い合っても、結局は声の大きい人、役職が上位の人の意見で決まってしまいがちだ。

当人たちはディスカッションのつもりでも、まるでディベートのようになり、異なる意見を批判し合うような情景もよく見かける。

批判したり、責めたりしても良い結論にはたどりつかない。

組織における意思決定では、説得力を競い合う前に、まずは、そう考える「根拠」を理解し合うことのほうが優先されるべきである。

変化の激しい昨今、ビジネスには絶対的な正解などありえないなかで、最適解に近づけなければならない。

しかも、そもそも最適解かどうかさえわからない。

最適解に近づけるためにも、みんなが考えていることのすべてを共有して、そのうえで最適解として合意できる解を出していくプロセスが重要になる。

そのときに必要なのが「推論のはしご」である。

これが重要なポイントの2つ目だ。

「推論のはしご」とは、人がどのような事実や事象、情報から、どのような推理・推論を行い、最終的な意見や結論に行きついたのか、そのプロセスをいう。

「推論のはしご」とはどういうことなのか、1つのわかりやすい事例をもとにイメージしていただきたい。

2組の夫婦が、ほぼ同時に同じ場所に引っ越してきた。

それぞれの夫婦がふと窓から外を見ると、道端で近所の奥さんたちが井戸端会議をやっている。

それを見て、Aさん夫婦の会話は次のようなものだった。

「ねえねえ、あなたちょっと見て。

このあたりの奥さま方が井戸端会議をしているわよ」「あの、ちょっと体格のいい人が、このあたりを仕切っているみたいだね」「ということは、あの人にうちのことを知られると、あることないこと言いふらされるかもしれないから、あの人と付き合うのは慎重にしたほうがいいわね」「確かにそうだね。

噂話のネタにされるかもしれないのは嫌だし、尾ひれがついて広がると怖いからね」Aさん夫婦の結論は「このあたりを仕切っている体格のいい女性と付き合うのは慎重にする」、つまり「積極的には付き合わない」となる。

今度は、同じシーンを見ているBさん夫婦の会話だ。

「ちょっと見てごらん。

あの体格のいい人がこのあたりを仕切っているみたいだよ」「あら、本当ね。

ということは、娘をどの塾に通わせるのがいいか、あの人が情報をいちばん持っているのではないかしら」「そうだね。

あの人に相談に行くのが早くて確実そうだから、さっそく明日菓子折りでも持って挨拶に行ってみようか」「そうね。

賛成。

そうしましょうよ」Bさん夫婦の出した結論は「積極的に付き合う」となる。

このように、「推論」によって答えは正反対にもなる。

同じ事実や事象を見ても、どうとらえたか、何に着目したか、どのように考えたかで、結論は大きく異なるのだ。

これが「推論」の恐ろしさであり、面白さでもある。

人によって、「推論」の仕方が違うから価値があるともいえる。

だからこそ、結論だけでなく、「推論のはしご」もセットで共有することが大事なのだ。

「結論を出す会議」で往々にしてあるのは、「なぜ、そう思ったのか」をいわずに、「賛成」「反対」となることだ。

これでは、いくら議論をしても正しい結論は出ない。

だから結局、多数決か、役職の高い人が決めてしまいかねない。

どのような事実や事象から、どのような「推論」をして、どのような判断や結論を出したのか。

この「推論のはしご」を共有すると、考え方や結論に至った理由を誰もが理解できる。

事実の認識が違えば、「推論」も変わる。

だから、「何を見たか」「誰から何を聞いたか」「どのような事実からそう思ったか」についても共有する必要がある。

そもそも、人は自分が賛成、反対の意見をいって立場を鮮明にすると、その立場にコミットした手前、自分のいったことに固執してしまい他人の意見を受け入れにくくなってしまう傾向がある。

しかし、自分が知らない事実があることがわかれば、考えもおのずと変わることもあるし、それによって当初の結論を変えたとしても不思議なことではない。

「そういう事実があることは知らなかった。

私はその事実を前提としない意見をいったので、確かにそれもあると思いました」このように意見を変えることができる。

また、「推論」をする際に、どこに着目したのか、どう考えたのかまで共有できると、次のように他の意見を受け入れることができる。

「私は、リスクのほうに目を向けて考えたが、確かに今こそ勝負のとき、というとらえ方をすれば、その案もありえますね」意見を変えるという心理的抵抗は少なくなり、固執していた人もメンツを保ったまま、意見を変えやすくなるのだ。

「自分の意見」と「推論のはしご」をセットで共有することで、会議の参加者全体の思考の広さと深さが劇的に変わる。

全員の知恵を集めたうえで議論できる状態になるからだ。

また、各自の立場やプライドなどにもこだわることなく意見を変えやすくなり、そのときどきの最適解に近い意思決定が可能になる。

「推論のはしご」には、もう1つメリットがある。

それは、「思考の背景」の確認ができることだ。

人は、自分の考えを、必ずしも事実にもとづいて、発想しているわけではない。

噂や情報の真偽がわからないのに「こんな話を聞いた」「こんな情報が報道されていた」というだけで判断の根拠にしてしまうことも多い。

どのような情報にもとづいて、どのように考えたのか。

それぞれが根拠や前提を共有することで、考える背景が間違っていないかどうかのチェックにもなる。

もし間違った情報や、真偽が疑わしい情報をもとに「推論」されて出された結論であれば、かなり危ういといわざるをえない。

そのようなことが発覚した場合には、たとえ時間を多く要しても、その会議では「次回までに、事実を確認するという作業をきちんとやったうえで、もう一度議論をやり直しましょう」というように結論を出したほうがいいくらいだ。

「推論のはしご」を共有する方法にはコツがある。

背景まで共有するわけなので、何となく話すととてつもなく長い時間がかかる。

それで「結論」「理由」「具体例」「だから、どうすべきか」を端的に伝える訓練がここでも重要になるのだ。

人の話を聞くときも、その考えに至った根拠や背景に耳を傾ける。

それだけで、ディスカッションの質はガラリと変わっていく。

そもそもディスカッションは、会議においてもっとも重要な行為である。

しかし、効果的に運用している会社は少ない。

何時間も同じような話をだらだらと繰り返し、議論が広がらず、深まってもいないのに時間が迫ると採決で決めてしまいがちだ。

結論らしきものは出るかもしれないが、それが適切な解かどうかは怪しい。

会議におけるアウトプットの価値を最大化する意味でも、どの会社も、ディスカッションの質を高るための訓練を、きちんと行うべきなのである。

「発想を広げるための会議(ブレインストーミング)」は主催者を明確にする

「ブレインストーミング(以降、ブレスト)」という言葉は知っていても、本当の意味でのブレストの価値を体感したことがある人はそれほど多くないのではないだろうか。

これはさまざまな会社のコンサルティングをしているなかでのリアルな実感である。

みんなの脳を嵐のようにかき混ぜて、大量のアイデアを嵐のように出し合う。

このブレストを上手に使いこなせるかどうかで、組織そのものの強さが大きく変わるといっても過言ではない。

1人で考えるよりも、衆知を集めてアイデアを出し合うと、相乗効果や連鎖反応が生まれ、斬新なアイデアが飛び出してくる。

ブレストが機能して成立するには、いくつかのルールがある。

「批判しない」「自由に発言する」「質より量を重視する」「アイデアの結合、連想、便乗をする」という4つの原則が教えられることが多い。

それらも加味して、違う観点も加え、私なりに整理したルールは次の4つである。

①思いついたら、すぐ話すブレストは、テンポが大事だ。

誰かの意見やアイデアを聞いて、頭に浮かんだことをすぐに発言していく。

ときには稚拙なアイデアでも構わない。

テンポよく次から次へと発言が続くことが大切なのだ。

だからこそ、思いつたら、すぐに発言することが求められる。

そして、「心理的安全性」が確保されているのが絶対的な条件だ。

一見すると稚拙と思えるアイデアや、逆に常識を超える突拍子もないことを言い合うには、安心していえる雰囲気があることが前提になる。

「こんなことをいうのは恥ずかしい」「こんなことをいったらバカにされるかもしれない」こうした不安があると、思ったことを忌憚なくいうことはできない。

だが、実際にはブレストと称する場で「心理的安全性」が保証されていないことは少なくない。

ブレストをしているつもりでも、沈黙だけが長く続くのはそのためだ。

「心理的安全性」が確保されていてブレストも機能していると、バカなことでも気にせずにいえる。

そのバカなひと言に触発され、会話が広がりアイデアも広がっていく。

また、参加者に自分の地位や立場、所属部署などの意識が強いと、ブレストがうまくいかない原因になることもある。

「それは、〇〇としての意見」というような地位や立場の意識が、発言する側にも、聞く側にも少しでもあるとアイデアの連鎖は生まれにくくなる。

なぜなら、たとえば自分が思ったことを部署の代表として発言していいものか、立ち止まって考えなければならず、他のアイデアに刺激を受けた自由な発言ができないからだ。

組織上はどんな地位や立場の人であっても、ブレストの場には、必ず個人として参加すること。

意見に対して揚げ足取りのような指摘を禁じ、自由にものがいえない雰囲気をどのようにして解消するかも重要である。

たとえば、わざと役職ではなく「〇〇さん」のように呼び合うことをルールにしたり、あえて職場ではない場所でブレストを行ったりと、「非オフィシャル感」を演出するような雰囲気づくりも効果的だ。

②相手を否定しないブレストで失敗するのは、いつの間にか意見を否定する方向に流れることだ。

「今の話は、たいして面白くないのでは?」「それってイマイチだよね」こうした否定的な空気が流れると、意見をいいにくくなり、出るアイデアの幅も確実に狭くなり、常識的なものや、現状の延長にすぎないものばかりになる。

人は新たなアイデアを思いつくより否定するほうが楽だから、意識しないと否定する方向に走りがちだ。

アイデアが出ず、発言がなく、会議に参加できている感じがしないと、自分の存在感を出すために無理して発言するようなパターンも少なくない。

そして、否定は連鎖して、無意識に否定的な発言が次々と生まれやすい。

何より否定されると、人は萎縮してしまい意見をいわなくなる。

参加者の誰かがひと言でも否定の言葉を口にした瞬間に、ブレストを殺す。

もしも否定的な発言しかできないのなら、そのようなタイプの人は、ブレストに呼んではいけない。

③参加者は主催者を支援するアイデアに行き詰まった結果、漠然と「ブレストでもしますか」とはじめることも少なくないのではないだろうか。

何となくアイデアや意見を出し合うようなケースだ。

だが、ブレストがうまくいくためには、「誰のためのアイデア出しなのか」をあらかじめ明確にすることが重要である。

つまり、ブレストの主催者が存在するべきなのだ。

そのブレストの主催者がリーダーシップをとる。

もし、主催者がいない状態でブレストを行うと、出口もなく、アイデアの取捨選択もできない。

主催者の存在を理解してもらいやすいように、理想的なブレストをはじめる際の挨拶を紹介する。

「本日は、ブレストにお集まりいただき、ありがとうございます。

事前にお伝えした通り、私は、今回の企画を任されたので、前年までの内容はすべて調べ、いろいろと考えてみました。

その過去の内容が、事前にお渡しした資料です。

ただ、前年までのものもかなりの完成度ではないかと感じており、さらに良くするために何をすべきなのか、恥ずかしながらなかなか思い浮かばないのです。

それで、この件を考えていただけそうな方に声をかけさせていただきました。

みなさん、お知り合いなので、安心して話していただけると思います。

ぜひ今日は、たくさんのアイデアや改善するための視点をお願いします」このように主催者がいうことで、主と従が明確になり、それぞれの役割と責任が明確になるのだ。

主催者には、そのブレストの会議を取り仕切る責任があり、参加者には、「支援者」としてとにかくアイデアを出すという責任がある。

だから、主催者が全体をリードする。

ブレストの場をつくり、「心理的安全性」を確保し、会議の価値を高める責任は、主催者にあるのだ。

ブレストをしていてアイデアが行き詰まりかけた際には、視点を変える問いを投げかけたり、休憩を入れたりする。

また、つい否定的な発言が出れば、明るく注意を促すのも主催者の役割だ。

もちろん主催者も、他のメンバーのアイデアに触発されて、どんどん発言し、ブレストを盛り上げるのは良いことだが、場を仕切る役割を忘れてはならない。

「主催者を決める」とすると、課やチームでのミーティングなど組織的に同一のメンバーで行う場合には、主催者は不要ではないかという質問を受ける。

しかし、主催者なく、何となくやってもうまくいかない。

主催者を決めず、仲良しグループの井戸端会議のようなブレストを何度も目にした。

誰にも責任がないので、ダラダラとゆるい会話が続く。

誰も自分の役割と責任を認識していないので、誰も仕切らず、アイデアを出そうにも真剣味がないのだ。

また、ブレストで参加者全員が目からウロコが落ち、思わずうなるようなアイデアが出れば良いが、そこまでのものが必ず出るとは限らない。

その場合、優先すべきは主催者の満足だ。

主催者にとって現状を打破できるアイデアやヒントになるアイデアが出ていれば、それは十分満足できるブレストとなる。

それを決めるのは、主催者だ。

だから、組織的に同一のメンバーで行う場合にも、主催者が必要である。

課など、組織全体に関することでのブレストであれば、主催者は課長だ。

運営の事務局や司会などの役割をメンバーに任せるのは構わないが、主催者は課長でなければならない。

また、その仕事の責任がメンバーにある案件でブレストを行う場合には、その担当者が主催者になる。

アイデアを出してもらうための情報提供をきちんと行い、「私のためにアイデアをお願いします」ときちんと伝えるのだ。

その場合、参加者の1人が主催者であるメンバーの上司である課長であっても、そのメンバーのためにアイデアを提供するという役割を認識して参加する必要がある。

間違っても、主催者の代わりに、アイデアの取捨選択を課長がその場で行ってはならない。

なぜなら、人が育たないからだ。

そのようなことを繰り返せば、主催者であるメンバーも自分でやらなくても課長が決めてくれると思ってしまい、主体性も責任感も醸成されない。

もし主催者であるメンバーの取捨選択に不安がある場合には、ブレストが終わった後で、別途指導のためのミーティングを行ったほうが良い。

そうすることで、ブレストの内容が高まるだけでなく、人も育つ。

ブレストの価値は、同一組織やチームを越えて、違う部署の人に参加してもらえるようになるとさらに高まる。

視点の違う人たちに「じつはこういうところで行き詰まっているのです。

知恵を貸してください」と相談することができるからだ。

所属する部署を越えて、さまざまな人にアイデアをもらえる関係が成立している人は強い。

また、そのようなことが自由に行える会社は強い。

実際に私も仕事をするうえで、他部署の方々の知恵を借りるブレストを開いたこともある、また、私がアイデアを出す側として、他部署の人に呼ばれることも多かった。

望んだときにブレストを主催するためにも、積極的にさまざまな部署に自分を助けてくれる支援者をつくっておきたい。

そして、その人たちとの関係は日頃からつくっておいたほうがいい。

理想的なかたちは、今日は自分のためにアイデアを出してもらう主催者だった人が、明日には他の主催者のためにアイデアを提供する支援者に回るような関係だ。

主催者が頻繁に入れ替わる関係が自然に構築されている組織は、発想力が高くなり、より強くなっていく。

このような他部署との結びつきが起こりやすいように、オフィスのレイアウトを工夫している会社も多い。

各部署をつなぐ場所にコーヒーを自由に飲めるスペースをつくり、そこにホワイトボードを設置する。

コーヒーブレイクに集まった際に、自分が行き詰まっていることを誰かに相談し、自然とホワイトボードに向かう。

すると、その光景を見た人が参加する。

そして、みんなでアイデアを出し合い、最初の相談者を助ける。

社員の間に自然発生的に会話が生まれるよう設計されているのだ。

先進的な企業で行われている、ブレストを日常的に起こさせるための仕掛けだ。

最先端のアイデアや企画が求められる職場では、自分だけで考えていても、斬新なアイデアは簡単には見つからない。

新しい価値を生み出すためには、他人の脳を借りる必要がある。

そのようなときに、ひと声で支援者が集められ、知恵が集まる仕組みがある会社は強い。

④アイデアを取り入れるかどうかは主催者が決めるブレストを行い、多くのアイデアが出る。

そのアイデアの中からどれを取り入れるのか、取捨選択の判断も主催者が行う。

この考え方が共有されていないと、不満の声が挙がることがある。

「あの人は、私があんなにいいアイデアを出したのに、結局、使わないんだよね」これは本末転倒だ。

そういうことをいう人は、ブレストに呼ばないほうがいい。

呼ぶとその人の意見を使わざるをえなくなり、適切な判断ができなくなるからだ。

参加者は自分の出したアイデアが使われるか否かにかかわらず、主催者のためになると思えるのなら、どんな些細な意見でも、突飛なアイデアであっても、臆せずどんどん出す。

ディスカッションは、意見を集約して結論を出すことを目的にしたものだ。

それに対して、ブレストはアイデアの拡散である。

だからこそ、自由にアイデアが広がっていき、何を拾うかは主催者の裁量であるべきだ。

アイデアを採用するかしないかは、恨みっこなし。

参加者はそのようなスタンスで臨まなければならない。

他人の脳を自分のものにできるかどうかは、仕事の速度と完成度に反映されるのだ。

ブレストを有効活用できれば、1人で何日悩んでも浮かばないアイデアが、わずか1、2時間でヒントを手にすることができる。

多くの人は、このような価値を知らないので、会議やブレストは無駄だと思っている。

自分のキャパシティを超えていると感じたら、積極的に他人の脳を使うことができる効果はとてつもなく大きい。

とくに新しい何かを生み出すような仕事では、ブレストを上手に使えるかどうかは、天と地ほどの差が生じる。

ブレストが自然発生的に起こる仕組みや、自由に開催しやすい雰囲気づくりも大切になる。

このような「企業文化」をつくり、定着させるためには、部署を越えたブレストに参加し、ブレストに協力した人がプラス評価されるような仕組みを導入するのも効果的だ。

また、誰がどんな得意領域を持っているのか、誰がどんな経験をしているのか、それらを閲覧できる仕組みがあれば、誰をブレストに呼ぶべきかの判断がしやすくなり、親しくなくても声をかけやすくなる。

ブレストへの参加がキッカケで、人間関係ができ、部署を越えた人的ネットワークができれば、会社としては、「知のネットワーク」ともいえる財産ができたことになる。

そうなると、生み出される「知恵の総和」は確実に増える。

会議を効率的に、効果的にするための大原則

会議を効率的に、効果的にする大原則は、3つの会議のどれにあたるのかを意図的に使いわけることだ。

理想としては、それぞれの会議は独立して開催したほうがいい。

そして、その会議が3種類のどれに該当するのか、事前に参加者に共有しておくこと。

最初からモードを切り替えておいたほうが、目的に入り込みやすいからだ。

そのうえで、「これから行う会議が3種類のうちのどれに該当するのか」を宣言し共有することからはじめる。

しかし、1つの会議に3つの要素が混在するケースは想像以上に多い。

そのような場合には、たとえば次のように宣言し、参加している人々の頭を切り替える必要がある。

「ここからは、情報共有です。

しっかりと内容を把握してください」「以後は、ディスカッションに入ります。

背景まで共有して、最適な結論を出しましょう」「これからは、ブレストの時間です。

遠慮せず自由にアイデアを出し合いましょう」この切り替えを明確に行うだけで、会議に参加しているメンバーに、どんな行動が求められるのかが一瞬で共有できる。

時間も短縮され、議論される内容のクオリティも高まる。

3種類の会議を使い分けられるようになると、会社はさらに強くなるのだ。

ロンドン・ビジネススクール教授で人材論や組織論の権威でもあるリンダ・グラットン氏は、著書『ワーク・シフト』の中で、第2のシフトとして「協力して起こすイノベーション」の価値を説いている。

これは社外をふくめた大きな「人的ネットワーク」の構築の話であるが、概念は企業内であっても同じである。

誰かと協力して価値を出せるようになるには、自分の得意領域や得意技を持つことが大事である。

そして、利害のみで付き合うのではなく、フラットなネットワークの中で、助けがほしいときに気軽に声をかけ合える仕組みが必要である。

他人の知恵を借りるには、自分も他人の知恵袋になれる。

それが会議の場をはじめ相互に行われる組織が理想だ。

支援し合う関係が築けている会社には、自然といい雰囲気がみなぎっている。

「日常のコミュニケーションの質」が変われば、「思考のレベル」と「成果」が変わる

組織のコミュニケーションの質は、一朝一夕では変わらない。

それは、人間関係に根づいたものだからである。

「日常のコミュニケーション」が組織としての強さに如実に反映される。

ギクシャクした人間関係では、やっぱり何に取り組んでもうまくいかない。

この関係をわかりやすく説明してくれるのが、MITのダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功の循環モデル」という概念である。

「結果の質」を上げるためには、まずは「関係の質」から改善するという考え方だ。

この「組織の成功の循環モデル」の視点を取り入れた「仕組み・制度・施策」を構築しようとする会社は多く、実際に私もコンサルティングの相談をたくさんいただく。

もちろん、それを実現しようとする姿勢は大歓迎である。

しかし、「関係の質」の前提を重視せずに、相互関係だけに焦点をあてた施策を進めようとする会社も多い。

それでは、なかなかうまくいかない。

そこで、「組織の成功の循環モデル」の実現への道のりを経験則も踏まえて紐解いていく。

まず、「組織の成功の循環モデル」そのものについてだ。

この循環モデルには、良い循環である「グッドサイクル」と悪い循環である「バッドサイクル」がある。

「グッドサイクル」はこうなる。

まず、【関係の質】互いに尊重し、結果を認め、一緒に考える。

すると、【思考の質】気づきが生まれ、共有され、当事者意識を持つようになる。

そうすれば、【行動の質】自発的・積極的にチャレンジし行動するようになる。

そうなると、【結果の質】やがて成果が出てくる。

【関係の質】さらに信頼関係が高まってゆく。

【思考の質】もっと良いアイデアが生まれる……と正のスパイラルが続く。

逆に、一度悪い循環に陥ると、「バッドサイクル」から抜け出すのは大変になる。

【結果の質】結果だけを求め、結果を向上させようとするが、なかなか成果があがらない。

すると、【関係の質】対立や押しつけがはじまり、命令が横行する。

やがて、【思考の質】メンバーは考えることをやめ、受け身になる。

創造的思考はもちろんなくなる。

当然、仕事がつまらなく感じる。

【行動の質】受け身なので、自発的・積極的な行動はとらない。

すると、【結果の質】ますます成果があがらなくなる……と負のスパイラルが続く。

この「組織の成功の循環モデル」によって、単なる心がけレベルではなく、日常のメンバー間の「関係の質」を上げることの重要性を理解していただけたのではないだろうか。

では、その肝心の「関係の質」を高めるにはどうすればいいのか。

それには、視点が2つ必要だ。

1つは「個人の満足度の視点」。

そして、もう1つは「個と個の関係の視点」である。

「関係の質」が向上する前提になるものが、「個人の満足度の視点」だ。

個人が職場や仕事に満足していないのに、お互いを尊重し合い、お互いの結果を認め、一緒に考えるということが起こりえるだろうか。

だからこそ、まず「個人の満足」を高めていく。

これまでに、多くの「仕組み・制度・施策」を紹介してきたが、それらをもとに、自分がその会社に所属する満足、仕事のやりがいやその仕事に携わる満足、仲間の一員としての満足を感じられるようにしていくのだ。

たとえば、「社外規範」と「社内規範」への共鳴もそう。

これなくしては、その会社を好きになれないし、本気では働くことはできない。

また、組織の一員として、会社に自分の居場所があるか、仲間から認められ、尊敬されているか、ということを確認できる仕組みの構築も欠かせない。

「マズローの欲求5段階説」については、「特別付録」で詳しくお伝えするが、人は誰もが自分の仕事や存在を認めてほしい。

だからこそ、上司、同僚、関連部署、外部からの仕事の評価や感謝がきちんと届く仕組みをつくらなければならないのだ。

そして、目標管理の仕組みである「MBO(ManagementbyObjectivesandSelfControl)」の思想で、主体的に目標を決め、主体的に取り組み、その結果がきちんと評価され、フィードバックされ、成長を実感できるような一連の流れがきちんと機能していること。

関係性だけに着目した施策だけではなく、まずは個の満足を高めるための「仕組み・制度・施策」をきちんと充実させることが大切である。

もう一方の「個と個の関係の視点」は、まさに「関係の質」のことである。

お互いに尊重し、結果を認め合い、一緒に考えることができるようになるためには、「仕事を通した関係づくり」と「人としての関係づくり」の両方を深めなければならない。

「仕事を通した関係づくり」とは、2章のリクルートの制度でも紹介したように、たとえば仕事を通して、大きな仕事を一体となってともに取り組む、長期のプロジェクトで徹底的に付き合うなど、腹の底からわかり合えるぐらいの関係をさまざまなメンバー間で経験するようなことを意味する。

仕事を通じて親しくなる機会を意図的につくり出すのだ。

また、ディスカッションでの「推論のはしご」の共有や、ブレストを一緒に行うことも、関係を深めるキッカケになる。

これらは、個人としての価値観が色濃く出るので、その人の素のキャラクターが伝わりやすく、相互理解が進みやすいからだ。

「人としての関係づくり」とは、組織上の仕事関係以外での人間関係を深めることを意味する。

そのヒントとなるのが、前述した「非公式なコミュニケーション」である。

これは、仕事上の指示命令系統や業務遂行上のコミュニケーションだけではない人間関係をベースにしたコミュニケーションである。

職場内では、「非公式なコミュニケーション」によって、さまざまな情報が流れている。

噂話なども、これを通じて広がっていく。

人と人との関係なので、オンだけでなく、ときにはオフをふくめて関係を深めることで、個と個の関係の絆は強くなる。

「飲みニュケーション」がなくならないのも、このあたりに理由がある。

2章でも触れたが、最近のスタートアップ企業でも、社員旅行や運動会、合宿など、ひと昔前の会社で行われていた行事が増えているという。

そうやって社員旅行や運動会が見直されているのも、組織にとって、この「人としての関係づくり」の重要性に気づいたからだろう。

「公式なコミュニケーション」だけでなく「非公式なコミュニケーション」をも活用することがポイントとなる。

お互い胸襟を開いて、互いの個性を受け入れ合う関係までつくれると、コミュニケーションの質は大きく変わる。

人と人との「関係の質」が変われば、組織間の「関係の質」も変わり、組織に持続的な成長をもたらす。

「仕事を通した関係づくり」を進めるために、ディスカッションやブレストは重要な役割を果たす。

まず、そこでのコミュニケーションを通して、正のスパイラルを生み出す職場の「関係の質」が上がる。

それにより、ディスカッションでは、「推論のはしご」を共有するスピードがさらに速まる。

「心理的安全性」も高まり、ブレストではよりスムーズに意見が飛び出し、アイデアの嵐が起こる。

すると、組織全体の「思考の質」も変わる。

同じ方向をめざす一体感のある組織となり、会議で決めたことの実行力も高まり、「行動の質」もおのずと高まる。

そうなれば、「結果の質」も格段に高まり、「強い会社」に変わっていくのだ。

1章~5章まで、「強い会社」に変わるための「視点」を紹介してきた。

最後に「特別付録」として、組織変革の際に「人の気持ちを徹底的に考え抜く」ためのベースとなる知識をお伝えしたい。

 

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