第2章「期待をかける」と自分から動き出す
成果を上げるために「抜擢」する企業が抱える3つの「抜擢問題」抜擢とは「期待をかけること」である「期待」で人も組織も急成長する「抜擢しない」のはリスクである期待をかけるのはノーコスト正しいやり方で抜擢する特に注意したい「抜擢のミスリード」「やりたいです」を引き出す3つの要素なぜ「いいからやれ」ではダメなのか抜擢は「意味づけ」がカギとなる「抜擢セリフ」で成否が決まる「抜擢セリフ」づくりの3つのヒント抜擢前後は「信頼残高」を貯めておくほめゼリフの3つの切り口マンネリ社員こそ抜擢する誰をどの順番で抜擢すべきか実績がある人を抜擢する場合入社2年目は迷わず全員抜擢「人望のある人」はいち早く抜擢する「レーダーチャートの罠」に気をつけよ抜擢の「2つの死角」に注意する「責任者宣言」で全員抜擢目標未達の人を抜擢する2つの方法抜擢とは「自分が責任者になる」こと第3部抜擢後「自走サイクル」が回ると若手は急成長する
第2章「期待をかける」と自分から動き出す
成果を上げるために「抜擢」する第1章で、成果を上げるために育成があるというお話をしました。
成果を上げるために、仕事を任せる。
その第一歩として「抜擢」があります。
「自走サイクル」の第一歩である「抜擢」は、人が自分で勝手に急成長するだけでなく、チームに大きな成果をもたらすものであることを、前提として押さえていただきたいのです。
「抜擢なんて、優秀な若手がいる組織でしかできないことでしょう」この言葉が誤解であることは、もうおわかりだと思います。
1.成果を上げるために「抜擢」をおこなう(「やらない」という選択肢はない)2.すべてのメンバーに「抜擢」はおこなえるし、おこなうべき3.正しいやり方で「抜擢」すれば、人は勝手に急成長するまずは、この3つの原則を押さえておきましょう。
企業が抱える3つの「抜擢問題」「抜擢」は自走サイクルのファーストステップですが、実は多くの企業が、次の3つの状況に陥っています。
1.抜擢をそもそもおこなっていない「ゼロ抜擢」2.抜擢(人とポジション)が足りていない「抜擢不足」3.抜擢の考え方とやり方が間違っている「抜擢エラー」これは本当にもったいないことです。
すでに何度もお伝えしているとおり、「抜擢」で人は育つのですから、やらない手はありません。
人を育てるのではなく、人が自ら育つ。
この発想転換と環境整備が企業には求められています。
サイバーエージェントでは、経営陣や人事部の人たちと日常的に、「抜擢は足りているか」「抜擢できているか」「もっと抜擢できないのか」といった言い方で、常に抜擢を話題にしています。
「そもそも若手を『抜擢しよう』という発想がなかった」私の話を聞いて、このように話す人事担当者がいますが、「抜擢していなかった(ゼロ抜擢)」という事実に気づいたというのは大きいでしょう。
気づきがあれば、あとは改善すればいいだけ、という言い方もできます。
「抜擢不足」も同様です。
「ここ1年くらい、リモートワークに切り替わったこともあり、若手リーダー中心の新プロジェクトの立ち上げはゼロだった」「入社2年目、3年目の抜擢は、考えも及ばなかった」「部署の最若手にチームの何かを任せるという発想は皆無だった」このように、具体的に自社や自分の部署、チームなどで抜擢をおこなっていたか振り返るのも有効です。
具体的に「ここが足りていなかった」と気づけば、適切な改善策を講じればいいだけです。
多少やっかいなのが、3つめの「抜擢エラー」です。
「うちは積極的に若手登用しているのに、ちっとも成果が上がらない」「若手に任せてアイデアを出してもらっても、絵に描いた餅で実現に至っていない」「こちらがお膳立てした新人向けのプロジェクトも、メンバーが受け身でなかなか前に進まないので、結局、リーダー役の30代を投入することになってしまい、何のための抜擢かわからなかった」「若い人たちからリーダーを募っても、誰も『やりたい』と手をあげない」こうした悩みや不満についても、よく耳にします。
しかし、これも心配無用です。
抜擢にはしかるべきプロセスがあり、そこを飛ばしてしまっているために、若手が自発的に動かない(動けない、動きたくない)など、何らかの「抜擢エラー」が隠されているはずです。
まずは自社(自分のチーム)の「抜擢」履歴を洗い出してみてください。
(メンバーの抜擢チェックリスト参照)このようにリスト化すると、抜擢の量が多い・少ないが可視化されます。
「ゼロ抜擢」「抜擢不足」問題は、リスト化することで一目瞭然です。
また、「宣言」と「承認」がおこなわれたかチェックすることで、抜擢の成否の理由も見えてきます。
「ちゃんと部下に宣言させなかったから、その後の動きが悪かったのだな」
「上司の承認を得ていなかったから、次のアクションがしづらかったんだ」このように、ほとんどの「抜擢エラー」は、「言わせて」なかった、「やらせて」なかったことで出てくる機能不全によるものだと気づくはずです。
さっそく、あなたの職場の抜擢チェックをおこなってみましょう。
抜擢とは「期待をかけること」である突然ですが、あなたは最近、抜擢していますか?ほとんどの人がこう答えるでしょう。
「えっ、抜擢ですか?していませんね……」抜擢という言葉から、次のようなイメージをもった人も多いのではないでしょうか。
・昇進や昇格など、人事担当者がおこなう「抜擢人事」・リーダーに指名する、重要な役割を任命する「権限委譲」・新規事業部門への異動など、大胆な「配置転換」たしかに、これらも「抜擢」です。
でも正直、これは誰もができるものではありません。
ある程度の権限が必要でしょう。
「抜擢……していませんね」となるのも無理はありません。
では次のように考えてみてください。
抜擢とは、期待をかけることである。
さて、もう一度、先ほどの質問に戻ります。
あなたは最近、抜擢していますか?あなたは最近、誰かに期待をかけたでしょうか?想像してみてください。
どんなに弱小チームであっても、そこに「期待」があれば、どうなるでしょうか。
一人ひとりがやる気に満ちあふれ、チームに活気が生まれると思います。
「○○さんのこと、頼りにしているよ」とか、「○○さんならできるはず。
だから任せたい」「○○さん、これお願いしますね」こんなふうに、日頃から期待をかけ合っているチームでは、自然と人が育ちます。
一方、優秀なメンバーがそろっていたとしても、そこに「期待」がなければどうでしょう。
おのずと組織は停滞し、個々人の成長もそこでストップします。
「抜擢」とは、「期待をかけること」です。
そこには正確性や確信は必要ありません。
ポテンシャルにかけること、それが「抜擢」です。
新卒採用も、そういう意味では「抜擢」と言えます。
今はまだ社会人経験がなく、人材として花開くかどうかはわからない。
でも未来への投資として、採用しよう。
これはまさしく「抜擢」の考え方です。
「うちの会社にはいい人材がいない」「今いるメンバーでなんとかするしかない」このように悩む人事担当者や管理職はたくさんいます。
過去の実績や、今の能力だけで見てしまえば、そう言わざるをえない状況かもしれません。
ロジックだけで考えてしまうと、「抜擢」などしないほうが安全となってしまいます。
過去の実績はない、現時点での能力も足りない。
こんなふうに、「できない理由」はいくらでもあげられます。
しかし、「抜擢」とはあくまでも未来志向で、「期待をかけること」です。
言い換えれば、可能性にかけることです。
「今いる人材で」「今ある能力の総和で」とロジックで解釈する限り、組織の能力はそれ以上にはなりません。
足し算の発想では組織の飛躍的な成長は望めないのです。
一方、期待というのは、今いる人材、今ある組織の能力を、掛け算で考えるというものです。
優秀な人材がいない、かつては優秀だと評価されていた人材が思うように伸びていない。
このように感じたときには、組織やチーム、人に対して「期待」していない、あるいは「期待」が不足しているのではないかと疑ってみましょう。
まずは期待をかける。
ここから「人が育つ」サイクルが動き出すのです。
「期待」で人も組織も急成長する「人が育つ」ための最初の一歩だと理解しても、「抜擢」という言葉が持つ強さから、どうも気が引ける、勇気がいる。
そんなふうに言う人がいます。
繰り返しますが、「抜擢」とは期待をかけることです。
ほとんどの人は、仕事をしている中で、黙っていても成長していきます。
しかし、期待をかけることによって、人はより早く、より大きく成長します。
皆さんも経験があると思います。
直感的に(これ、重要なポイントです)、「期待値が大きい」「伸びしろがある」と思った人に、何か仕事を任せると、通常より大きな成長と成果が得られることがあります。
これが抜擢です。
管理職昇進などはわかりやすい例でしょう。
経験のない人間に対し、期待をかけて登用するのですから。
「やらせてみたら、できた」若手をプロジェクトリーダーにしてみたら、案外うまくやってくれた。
それどころか、メンバー全員のやる気も向上し、チーム全体に良い影響があった。
このような話は、本当によく聞きます。
この、「やらせてみたら、想像以上にうまくいった」を当たり前のこととして継続的に実現できれば、組織はより強くなります。
この「やらせてみたら、できた」を、組織の習慣として日々回していくことが若手育成には欠かせません。
その一歩目にあたるのが、この「抜擢」なのです。
例をあげて説明しましょう。
まずは副社長の岡本保朗。
彼はサイバーエージェント設立2年目に新卒入社で入った、いわばCA第1期生。
広告営業に配属されたものの、本人いわく「なかなか最初は伸びなかった」とのこと。
本人が望むような結果を出せてはいなかったのですが、愚直に努力をし続けていました。
あるとき、検索エンジンに関するマーケティングの部門が伸びると判断した社長の藤田が「岡本さん、やってみなよ」と、子会社をつくり、その社長に抜擢したのです。
会社設立と、それに伴う「抜擢」がきっかけで、岡本は急速に成長します。
抜擢された岡本は、個人として成果を上げるだけではなく、良いチームをつくって会社
の業績も上げたのです。
一人の営業パーソンに、いきなり経営を任せてみたらできた、会社設立をきっかけに業績を上げる方法を学んだ、という一例です。
ちなみに岡本は、2020年10月の役員体制の変更に伴い、本社の副社長の一人に抜擢され、二人いる副社長の一人になりました。
人は期待で急成長する。
組織は期待で急成長する。
こう言っても過言ではありません。
「抜擢しない」のはリスクであるあらためて、抜擢の持つ「効用」について考えてみましょう。
そうはいっても、多くの企業や上司の方が二の足を踏むのは、抜擢は「ハイリスク」だと思われているからです。
「抜擢して、うまくいかなかったらどうする?」という問題があります。
ただ、急成長を遂げるというのは、得られるものが大きいということです。
ハイリスク・ハイリターンとも言えます。
しかし、ここで忘れてはいけないのは「抜擢しないこと」にもリスクがある点です。
詳しくは後で書きますが、私自身、社長の藤田からの「人事を任せたい」という抜擢により、営業部門から人事部門という畑違いの分野で組織を強化することになり、現在に至ります。
当時は、自分が抜けてしまうことで営業部門は大丈夫なのかと心配しましたが、私の心配をよそに、抜けた後のほうが営業部門の業績は伸びました。
抜擢のリスクとして、「抜擢された人が抜けた後の仕事やチームはどうなるのか」問題をあげる人がいますが、多くの場合はなんとかなる、いや、それどころか、以前よりもうまくやれるもの。
そう考えるとなおのこと、抜擢しないことのほうがリスクになることもあるのです。
優秀な人材が流出する、若手の成長スピードが遅くなる、人材不足に陥る、組織に停滞感が生まれるといったデメリットが、抜擢していないことによって生じる可能性があります。
「現状変化なし」という意味では、リターンはないとも言えます。
社長の藤田は、よく「『抜擢漏れ』がないように」と言います。
抜擢することがもはや日常になっている弊社では、抜擢して自走サイクルに入れるべき人間を見逃していないかという視点で人材を見ています。
それゆえ、「抜擢漏れ」という言葉が藤田の口から自然と出てきます。
人材の流出や組織の停滞がもたらすものは、中長期的に見ればリスク以外の何物でもありません。
下図のとおり、「抜擢しない」ことは、ハイリスク・ノーリターン(ほぼリターンなし)とも言えるのです。
近頃では、エースの若手社員が入社1、2年で辞めてしまうことが、大企業を中心に問題となっています。
そもそも、エース社員は自分で自分の成長を促し、成果を上げる方法を知っています。
ところが、社内で「自分は期待されていない」と感じたり、自分がもっと成長できる環境がないと感じたりしたら……。
いくらスキルを上げても、実績を上げても、上のポストが空くまで待つしかないとなってしまったら……。
閉塞感を覚えて、早々にその会社を見限ることになるでしょう。
早い成長を強く望む優秀な若手にとって、「抜擢がない」というのは、そのまま退職理由になり得るのです。
そうなると、「抜擢しない」のは人材流出リスクにつながる行為とも言えます。
辞めない場合でも、かつてのエース若手社員がそのまま組織で腐ってマンネリ社員になってしまい、周囲にも悪影響を与えてチーム全体の士気や成果を下げてしまうおそれさえあります。
いずれにしても、会社にとっても個人にとっても不幸な話です。
エース社員は、会社にとっても、マネジャーにとっても大事な人材です。
人材育成のためだけでなく、優れた人材の流出を防ぐためにも、「抜擢」は必要不可欠なのです。
期待をかけるのはノーコスト抜擢は「未来への投資」ですが、この投資にはコストはかかりません。
期待をかけるのはタダです。
しかも、誰でもできることです。
加えて、抜擢には明確な根拠を必要としません。
実績や経験がない人を登用するというのは、ロジックだけではないからです。
大切なのは「期待値」や「伸びしろ」という思いをもって、背中を押すことです。
極端に言ってしまえば、演技でもいいから、「あなたに任せたい」と、期待をかけることが重要なのです。
そして、忘れてはいけないのが、どういう理由であれ、「抜擢」は受け取る人にとって、基本的にはポジティブなものである、という点です。
サイバーエージェントには、若手マネジャーがたくさんいますが、彼らは「年上の部下」を多く抱えています。
うまくチームを回すマネジャーは、年上の部下をどんどん「抜擢」します。
折に触れ「あなたの力が必要だ」と協力を求め、上手に部下の力を引き出しています。
面談では、「『○○さんならできますよ』と、あのとき言われてうれしかった」と答えるベテランが多数います。
「頼られる側」は「期待」をかけられると、率直にうれしいものなのです。
皆さんも経験があると思います。
まだやったことのない仕事を上司から任されたとき、「大丈夫。
何かあればいつでも相談してください。
あなたならできると思いますよ」こう言われて、嫌な気持ちになった人はいないと思います。
自分という存在に、誰かから「期待をかけてもらえる」こと。
それが若手の、時にはベテランの力にもなるのです。
第1章でもお話ししたとおり、組織には心理的安全性が重要だと言われています。
「期待」をかけ、「抜擢」することで、その人の成長を信じるのも、心理的安全性をもたらすものだと言えるでしょう。
「あなたはもっと成長できる」「君にこれができると思うから、お願いしたい」
このように普段から期待をかけてもらっている人であれば、自信をもって、「やりたいです」「やらせてください」と、自ら手をあげることができるのです。
正しいやり方で抜擢する第1章で紹介した「若手が育つ」しくみの基本ルール、言わせて、やらせる。
しかし、実はこれだけでは「抜擢」は完璧ではありません。
言わせて、やらせる。
この前に大事なステップがあります。
それが、ここまでお話しした「期待をかける」です。
「抜擢」には次のような基本ルールがあります。
期待をかけて、言わせて、やらせる。
これが正しい「抜擢」なのです。
言い換えると、期待→宣言→承認の3ステップが「抜擢」なのです。
「言わせて、やらせる。
」のほうがわかりやすくキャッチーなのですが、考え方としてぜひ覚えておいてほしいのが、この「期待をかける」です。
「期待」は人が急成長するための大切な要素であり、また、多くの人が誤解しているところでもあるので、ここできちんと説明していきたいと思います。
ただなんとなく、心の中であの人に期待をかけている。
これを「抜擢」とは言いません。
「弊社は積極的に若手を登用しているんですけどねえ……」という企業はたくさんありますが、そこで働く若手たちが「(自分たちは)登用されていると思っていない」という話はよく耳にします。
せっかく抜擢をおこなっても、抜擢された側にそのメッセージが届いていないのは、非常にもったいないことです。
一方、相手がやりたくないと思っていることを強引にやらせる。
これも「抜擢」ではありません。
単なる「命令」です。
それでは、抜擢とはどのようにおこなうのか、詳しく説明しましょう。
この本で紹介する「抜擢」とは、自分で宣言したことを、任せることです。
第1章の「言わせて、やらせる。
」のプロセスを明確化したものが「抜擢」なのです。
例えば、何かのプロジェクトのリーダーにAさんを抜擢するとします。
その際、突然その役割をAさんに押しつけるのではなく、Aさんに期待をかけ、Aさん本人が自ら「このプロジェクトをやりたい」と宣言し、それについて「了解です。
あなたに任せます」と一任するという形で「抜擢」が成立します。
1.期待を伝える:「期待をかけている」ことを相手に示す2.宣言させる:本人がそのことに対し「やります!」「やりたいです!」と意思表明する3.承認する:「OK、任せます!」と承認し、応援する
この3つのステップは、あくまで、自分で宣言したことを、任せることです。
よく「コミットさせる」などと言いますが、本人が言ったことを全面的に任せてやらせるというのが一番いいやり方です。
この手順をきっちり踏まないと、責任の所在や目的が曖昧になり、「上司にやらされた」「部下が動いてくれない」と齟齬をきたしてしまうことも……。
「期待をかけている」ことを伝えるだけでは、受け身の人が育つだけです。
主体性を上げていくのであれば、1.期待を伝えて、2.宣言させるは重要なステップ。
「やります!」と宣言することで、あたかも自分から言ったかのように、本人の記憶も上書きされます。
ここがポイントです。
「自分で言った」という事実(記憶)により、「宣言責任」が生じます。
責任が生じることで、本人のやる気や粘り強さが出てきて、任された仕事やプロジェクトに対して、結果として最後までやり抜く可能性が高くなります。
「抜擢」のプロセスを透明化・可視化する上で、3.承認する、も大切です。
本人が「やります!」と言ったことに対して、本人の独りよがりや暴走ではなく、上司が認めていることを明確にする。
上司の「承認責任」も明確になるので周囲の応援も得やすくなりますし、何より宣言した本人が安心して、新たな挑戦に対し全力を尽くせます。
一見、面倒なプロセスに思えるかもしれませんが、他責では人は成長しません。
ギアを自責に入れるための手順が、この3つなのです。
抜擢された側が「自分で宣言し、そのことを会社や上司が承認している」と自覚することで自走サイクルは回り出します。
特に注意したい「抜擢のミスリード」抜擢する際、気をつけてほしいことがあります。
それは、抜擢されたAさんが、「自分は抜擢された」と自慢したり、「自分は優秀だから選抜されたのだ」と過剰な自己評価を抱いたりしてしまうことです。
新入社員から入社3年目くらいの若手が陥りやすい「抜擢のミスリード」です。
人によっては「自分はエリートなのだ」「他の同期はダメなヤツだ」と思い込んで、チームにとってマイナスの影響を与えてしまうことも……。
こうなると、「Aさんを抜擢した上司のBさんも悪い」となり、上司に対する信頼も失われます。
そうならないためにも、若手を抜擢する際には、次の言葉を伝えましょう。
「責任者として抜擢したのだから、立ち居振る舞いには気をつけるように」「周囲の手本となってほしいから、謙虚になってほしい」要するに「勘違いするな」とはっきり伝えるのです。
これはすごく大事です。
特に調子に乗りそうな人には、期待を伝えて抜擢する際に、先ほどの言葉を伝えた上で、さらに「周囲から信頼を得るために、どう振る舞うといいかな?」などと、質問しましょう。
Aさんの口から「リーダーとして周囲に信頼してもらうために、謙虚であることを忘れないようにします」といった一言が出てくればOKです。
逆に、「自分がリーダーなんて無理です」と自信のないメンバーには、「自然体が大事、そのままでいいですよ」と安心感を与える一言を伝えましょう。
「やりたいです」を引き出す3つの要素「こういうことをやりたい!」と自ら名乗り出るのは、勇気がいります。
本人が自ら「やりたいです!」「やります!」と言えるようにするために必要な要素が、1.意味づけ2.抜擢セリフ3.信頼残高の3つです。
1.意味づけ「この仕事には意味がある」2.抜擢セリフ「自分は期待をかけられている」3.信頼残高あり「手をあげても大丈夫だ」この3つがそろってはじめて、安心して「やります!」「やりたいです!」と宣言できます。
かつての日本企業は「いいからやれ!」という上意下達の命令組織でした。
しかし、今は違います。
「言わせて、やらせる。
」ために、本人が自らコミットし、自分で成長していくためには、この3つは欠かせないものなのです。
なぜ「いいからやれ」ではダメなのか「そうまでしないと、若手は自ら動かないものか」と、疑問を覚えた上司世代の人たちにお伝えしたいことがあります。
かつては、「いいからやれ」「わかりました」で、確実に給料が上がり、昇進もし、定年後の手厚い保障も約束されていました。
高度経済成長時代は、右肩上がりの成長が当たり前で、未来の展望が明るかったのです。
だから「その仕事をやる意味」など問う必要はありませんでした。
やれば成長することは自明のことですから。
ところが、時代は変わりました。
「なぜそれをやる必要があるのか」を、伝える必要があるのです。
仕事の意味、会社の目指す方向など、伝えるべきことはたくさんあります。
また、終身雇用が当たり前の時代には考えも及ばなかったことだと思いますが、転職やフリーランスなど、自由に働き方を選べる時代において、「なぜここ(この会社)に自分はいるんだっけ?」という存在意義(パーパス)も求められています。
「ベンチャー企業で働くほうが成長は早い」とか、「ベンチャー企業で働く若手は主体的だ」と言う人がいますが、なぜでしょうか。
ベンチャー企業はまさに成長途上で、新しい市場の開拓など組織の目指す方向が明確です。
そこで働く若手は、トップの考えや仕事への思いを日々共有しながら、たくさんの抜擢を経験し、決断や失敗、そして学習を繰り返していきます。
自分のがんばりが何につながっているのか、事細かに説明されなくても、理解しやすい環境なのです。
それゆえ、働く人たちは成長を実感しやすく、実際に急成長します。
ベンチャー企業で働いているから急成長するのではなく、日々抜擢され、自走サイクルの中にいるから、成長できるのです。
そのような機会は、すべての企業で提供できるはずです。
今の若手は、やる気がないわけでは決してありません。
仕事・組織の意味や意義を理解し、自身が納得すれば、主体的かつ積極的に仕事に取り組みます。
そのための必要な要素の一つとして「意味づけ」があるのです。
抜擢は「意味づけ」がカギとなる抜擢には、「意味づけ」が重要であることはすでにお話ししました。
そもそも、自ら手をあげるような人は、すでに「意味づけ」ができている人がほとんどです。
あるプロジェクトのリーダーに手をあげた若手Aさん。
「自分の業務についてある程度できるようになった入社2年目の今だからこそ、できるかどうかわかりませんが、チームリーダーの経験を積んで、もっと成長したいです」こんなふうに「プロジェクトリーダー」という仕事に、自分なりの意味づけをし、立候補しています。
「やれるかわからないけれど、挑戦するとこんなメリットがありそう」というのを、自分なりに想像できている点がポイントです。
一方、手をあげる勇気のない同期のBさん。
「プロジェクトリーダーなんて、無理無理無理無理!」否定的な感情が先走ってしまい、なぜこの仕事をするのか、この仕事に挑戦する意味について、イメージできていません。
どの組織においても、Bさんと同じような反応をする若手が大半でしょう。
Aさんのように、意味づけというのは、いつでも自分でできるものではありません。
特に経験が浅い若手のうちは、上司から意味づけをする、あるいは意味づけをサポートしてあげる必要があります。
実は私自身、社会人1年目のときは、自分の仕事に意味づけができていませんでした。
恥ずかしながら、こんなこともありました。
「曽山くん、今度の飲み会の幹事、よろしくね」私は上司からそう頼まれて、正直、とても面倒な気持ちになりました。
「どうしてこんな、仕事に関係のないことまでやらないといけないんだ。
飲み会の幹事をするためにこの会社に入ったんじゃない。
こんなことを任されるのは自分ができないと思われている証拠だ」飲み会の幹事を「雑用でしかない」と思っていた私は、このとき、与えられた仕事に意味づけができていなかったのです。
抜擢の観点で言えば、飲み会の幹事も抜擢の一種です。
日程の調整、場所の決定、私は上司からその責任を与えられたことを、わかっていませんでした。
とはいえ、意味づけがうまくできなかったなりにも、得るものはたくさんありました。
一番大きかったのは、自分の名前を先輩たちに覚えてもらったことです。
私はこの仕事の重要性に途中から気づきましたが、最初からその意味づけができていれば、もっとスムーズに、前向きに幹事の仕事ができたでしょうし、先輩たちにもいい印象を与えていたことでしょう。
それだけ、意味づけができているかどうかは違いが大きいのです。
最初から自分の仕事に意味づけができる人は、なかなかいません。
おそらく社会人1年目当時の私のように、「こんなことをやるためにここにいるんじゃない」と思った経験のある方は多いでしょう。
とりわけ飲み会の幹事に指名されるといった「抜擢されている感のないまま抜擢されている」状況だと、抜擢された自覚がないため、他責に陥りがちです。
それゆえ、上司のほうから仕事の意味を伝え、しっかり抜擢のプロセスを踏むのです。
「飲み会というのは、チームをまとめる大切な仕事なんだよ」「この仕事をちゃんとやり遂げたら、周りの見る目は変わるだろうね」「まだ君は入社したばかりだから、みんなに顔を覚えてもらえるチャンスだよ」そして、
「今のあなたなら、みんなの力を借りながら、やれると思っている」と期待をかけ、「どう?やってみる?」と確認するのです。
「はい、やってみます」多少遠回りに感じるかもしれませんが、このプロセスを経てから仕事を任せると、不思議なくらい、若手はちゃんと仕事を「自分ごと」としてとらえ、やり遂げるものです。
仕事の成果と人の成長。
その両方を確実に実現するためにも、仕事の意味づけをしっかりおこないましょう。
「抜擢セリフ」で成否が決まる次の2つは、どちらも抜擢の際の口説き文句(抜擢セリフ)です。
あなたなら、AさんとBさん、どちらの上司から言われたいでしょうか?上司Aさん「山崎さんが今度会社を辞めることになって、ここのポジションが空くことになったんだ。
誰でもできる仕事だから、穴埋めとしてやってくれないかな」上司Bさん「前々から、Cさんこそこのポジションにふさわしいと思っていたんだよね。
チャンスも多いし、仕事もおもしろいと思うから、ぜひやってほしい」上司Aさんの伝え方はどうでしょうか?正直、いい気がしません。
このポジションに収まるのは誰でもいいようなニュアンスもあります。
たとえそれが事実だとしても、言われた側は「自分はあまり評価されていないんじゃないか」とさえ思うかもしれません。
では、上司Bさんの口説き文句はどうでしょう。
警戒心の強い人は、「ちょっと持ち上げすぎ。
リップサービスかな?」と思うかもしれませんが、真実は「誰でもいい」のだとしても、それでも「あなたがふさわしい」と実際に言われれば悪い気はしないはずです。
抜擢セリフの目的は、相手の「自走スイッチ」を入れること、いわば「その気にさせる」ことです。
Aさんの伝え方は、ある意味正直でリアルですが、その気にさせられるのは、言うまでもなくBさんの抜擢セリフです。
抜擢においては、事実よりも「抜擢セリフ」が勝るのです。
抜擢される側の心理には、そちらのほうが間違いなくプラスの影響をもたらします。
「抜擢セリフ」は、言葉だけでなく、伝えるタイミングも大切です。
抜擢が上手な人は、話す場所やタイミングにも気をつかっています。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、ランチに行きませんか?」「休憩室で少しお茶しませんか?」「オンライン会議の後、そのままオンラインで少し話をしませんか?」このように、二人で落ち着いて話せる場所とタイミングを選べる人は、「その気にさせ上手」と言えるでしょう。
とはいえ、やりすぎる必要はありません。
自然体で気張らずに意味づけすることを心がければ十分です。
大切なのは「手短に、シンプルに、自分が言われてうれしいことを伝える」、この一点に尽きます。
言われた相手の記憶に残り、そのまま誰かに話せるものです。
皆さんにも経験があるでしょう。
何かのリーダーを任されたとき、何か大きな仕事を任されたとき、上司から言われた一言を今でもはっきりと覚えているという人は多いはずです。
言ったほうはすっかり忘れていても、言われた本人は、そのときのことを鮮明に覚えているもの。
うれしくて家族や友人に話したり、振り返り面談などで「自身のブレイクスルーはあのときだった」などと話したりするときに出てくる言葉のことです。
社長の藤田は、以前、雑誌のインタビューで言葉の持つ力について、次のように話していました(日経ビジネスアソシエ2015年10月号)。
「一度心に刺さった言葉は、たとえ一字一句覚えていなくても、何かの折にふと頭によぎります。
そういった〝刺さる言葉〟は、判断や行動の基準になることが少なくありません。
自分自身であれ、他人であれ、『人を動かす』という意味で、『言葉の力』は、とても大きいと思います(中略)チーム目標で素晴らしい言葉が作り出せたら、それこそメンバー全員が1カ月寝ずに働くよりも高いパフォーマンスが出ますよ。
〝言葉の開発〟については、多くの人が大事だと分かっていながらも、甘く見ている気がしますね」一度心に刺さった言葉、これこそが「抜擢セリフ」です。
「抜擢セリフ」一つで、若手の自走スイッチが入るかどうかが決まります。
忘れられない、私の経験をお話ししましょう。
営業本部長だった私は、ある日突然、人事のトップに抜擢されました。
藤田からこう言われたのです。
「人事を強化したいから、人事本部を設置することにした。
(目的・意味づけ)曽山くんに人事本部長になってほしいんだけど、どうかな?(期待)」この藤田の言葉に、私はまず「ぜひ、やらせてください!」と即答(宣言)しました。
とはいえ、今、営業部の責任者として自分が手がけている仕事から離れてしまっていいものかと思い、「営業部が心配です」と藤田に伝えました。
すると、藤田は次のように返したのです。
「それは心配だけど、でも人事をもっと強化してもらうほうがいいんだよね」この抜擢セリフは、今でもはっきり覚えています。
抜擢される側の不安は、未知の分野でのチャレンジに対するものではありません。
新しい挑戦はワクワクするものです。
ぜひともやってみたいと思いました。
とはいえ、今任されている仕事を無責任に放り出せないという責任感からくる不安もあ
りました。
そこを藤田は「それは心配」と同意しつつも、「あなたにはもっとやってほしいことがある」と期待をかけることで、私の背中を押したのです。
この藤田の抜擢セリフが、私のキャリアのターニングポイントになりました。
「抜擢セリフ」づくりの3つのヒント具体的にはどのようにして、「抜擢セリフ」をつくればいいのでしょうか。
先ほどは私の話をしましたが、ご参考までに、社内の人間から聞いた「抜擢セリフ」をいくつか紹介しましょう。
全員、抜擢セリフをはっきり覚えていました。
「期待を込めて、マネジャーへ昇格を決めた。
チームを引っ張っていってほしい」「注力分野だから、○○さんに任せたい」「新しくできた子会社の役員やらない?」「ここからはすべて、○○さん次第」「マーケットを見て、事業部全体をどうしたいか考えて」「天下の大将軍目指してやってくれ」「早く経営の経験をしたほうがいいと思ったから」「周りの幹部とはレベル差があるから大変だけどがんばって。
まだ育成枠だからね」前述のとおり、どれもシンプルな一言。
加えてこれらの抜擢セリフには、次の3つの「要素」のいずれかが入っています。
1.「期待」そのものを明言する「○○」2.責任の大きさを述べる。
間接的に「期待」を伝える「」3.高い目線をリクエストする。
向かうべき方向、ベクトルを示す「」
ちょっとした仕事を任せるくらいで、あるいは定期的な異動の辞令一つで、「抜擢セリフ」まで考えて言わなきゃいけないのか。
こんなふうに思った人もいるかもしれません。
いわゆる昭和の上司世代の方は、こんなとき、つい「まあ、こんなもんでしょ」とか「誰もが通る道だからさぁ〜」などと口走ってしまいます。
上司にとっては何気ない一言でも、言われたほうは傷つきます。
上司への信頼は失墜し、仕事へのやる気を失うだけでなく、「こんな会社にいても未来はない」と早々に見切りをつけて、辞めてしまうことも……。
きっかけは、ほんのささいな一言です。
その一言が、急成長のスイッチを入れるのか、人材の流出となるか。
たかが一言、されど一言。
だからこそ、「抜擢セリフ」を真剣に考えてほしいのです。
抜擢前後は「信頼残高」を貯めておく「抜擢セリフ」には弱点があります。
それは、上司と部下の間に信頼関係がないと、胡散くさくなってしまうことです。
いつも機械的に業務のやりとりしかしていない間柄だと、先ほどの意味づけをした抜擢セリフも通用しない可能性があります。
「抜擢セリフ」でその気にさせるのは、そう簡単なことではありません。
例えば会社の同僚を喜ばせるために、サプライズで誕生パーティーをするという演出は、それまでの信頼関係があるから成り立つことです。
自然な演出ができるかどうかは、普段の信頼関係が物をいいます。
これまでに相手との間でどれだけの信頼関係を築いてきたか、その蓄積量を私は「信頼残高」と呼んでいます。
では、いかにして「信頼残高」を増やせばいいのでしょうか。
実にシンプルです。
相手をほめるのです。
第1章でもお伝えしましたが、ほめるというのは、相手を認めることです。
ほめられた人から見れば、自分のことを「見てくれているんだ」というのが伝わってくる。
ここが重要なポイントです。
普段からその人のことを観察していなければ、ほめるのは難しいからです。
日頃から相手のいいところを見つけたら、その場でほめる習慣をつけましょう。
ほめられて嫌な気がする人はいません。
ほめた相手のことを信頼するようになります。
皆さんも自分のことを評価してくれる人に対しては、知らずしらずのうちに信頼を寄せているはずです。
忘れてはいけないのは、信頼残高は黙っていれば下がるという点。
普段から部下を観察し、ほめるべき点を収集しておくことをおすすめします。
「部下へのほめ記録」に書き留めておくといいでしょう。
ただほめるだけではなく、「その人がいないところでもほめる」のが大事です。
直接ほめられてもうれしいことはうれしいのですが、一時のコミュニケーションとしてほめている場合もあり、「本音で言っているのかな?」と思う人もいます。
ところが、第三者から「〇〇さんが君のことほめていたよ」と知らされたほうが、真実味があります。
「あの人は本当に自分のことを評価してくれているんだ」と、心の底から思えるでしょう。
一度信頼関係を築いた後も、断続的にほめるようにしましょう。
そのたびに、その部下はあなたへの信頼を強めていきます。
最初はうまくほめられないかもしれませんが、たとえぎこちないほめ方だとしても、続けていれば、その不器用さを「きっと気をつかって言ってくれているんだな」とか「いつも見てくれているんだよな」などと、「上司の愛情」としてポジティブに受け止めるはずです。
先に紹介した、職場に「『やりたいです』と言える空気をつくる」ためにも、日常的にほめる習慣をつけましょう。
ほめゼリフの3つの切り口「ほめるのが苦手です」「具体的にどうほめればいいのかわかりません」こういう相談をマネジャーからよく受けます。
まず注意すべき点は、言ってはいけないほめゼリフ。
その人の持っているもの(固有で持っている能力など)でほめるのはNGです。
例えば、学歴や外見でほめることは避けましょう。
「美人だから」「背が高いから」「育ちがいいから」「東大卒は違うね」みたいな言い方は、今の時代では差別やハラスメントととらえられてもおかしくありません。
では、具体的にどうやって「ほめゼリフ」をつくればいいのでしょうか。
次の3つの切り口でつくってみましょう。
1.発言の何が良いのか「会議でのあの発言、全社視点で良かったよ」2.行動の何が良いのか「早い報告だったから、軌道修正が早くできた。
ありがとう」3.考え方の何が良いのか「複数の案を持ってきたのは、とても素晴らしいね」つまり、その人が仕事を通じておこなった言動から「ほめゼリフ」を考えるのです。
この3つの切り口は、叱るときも同じです。
例えば、Aさんが待ち合わせの10時に来なかった(遅れて来た)とします。
ここで言ってはいけないのは、その人の人格や能力を否定する言い方です。
「時間に来ないなんて、だらしない」「やっぱり怠惰だな」「親はどんな教育をしてきたんだ」「家族もそんな感じなのか」これらはすべてNGです。
叱る場合は、2.行動を叱るのが基本原則。
あくまでその人が「時間どおりに来なかった」という行動に対して注意するのが、正しい叱り方です。
・発言・行動・考え方この3つの切り口をほめ方・叱り方のヒントにしていただければと思います。
マンネリ社員こそ抜擢する「抜擢」という言葉のイメージから、「若手にどんどん仕事を任せて、育てていけばいいのだろう」と思っている人も多いのではないでしょうか。
「抜擢」とは、期待をかけることですから、若手・ベテラン両方に必要なことです。
次の人材のマインドマッピングをご覧ください。
1.マインド高×スキル高=エース社員エリア2.マインド高×スキル低=若手社員エリア3.マインド低×スキル高=マンネリ社員エリア4.マインド低×スキル低=ミスマッチエリアこのマインドマッピングは、社員のマインド(感情)とスキル(論理)を表したもので、その人材の現在の状態を表したものです。
順番に説明しましょう。
1.エース社員エリアは、マインドもスキルも高い人材です。
ここに属する社員をどれだけ増やせるかが課題です。
2.若手社員エリアは、マインドは高いけれども、スキルはまだ低い人材のエリアです。
1〜2年目の若手社員は、基本的にここに属します。
一つ飛ばして4.ミスマッチエリアは、マインドもスキルも低い社員。
スキルが低くてもマインドさえ高ければ何とかなりますが、マインドが低く本人も成長を望まないようであれば、採用活動の段階で何らかのミスマッチが起こっていた可能性があります。
伸び悩む組織は、3.マンネリ社員エリアに多くの人材を抱えてしまっています。
クオリティーの高い仕事ができるにもかかわらず、ルーティンワークしかやらない、言われたことしかやらない、責任を取りたくない。
マンネリの原因として、仕事内容や待遇面への不満があるのかもしれませんが、根源を探ると、「期待されていない」という一言に尽きます。
つまりマンネリ社員エリアでくすぶっている社員にこそ、抜擢が効果的とも言えます。
3.のマンネリ社員が問題なのは、ほかのメンバーへの影響です。
「抜擢したメンバーのマインドだけ高く、ほかのメンバーのマインドが低い」という場合、いくらマネジャーが「今これに取り組めば成果が上がるから、みんなでがんばろう」と言っても、抜擢されていないメンバーはなかなかついてこないでしょう。
本書では、すべてのメンバーに、何らかの形で抜擢をおこなうことをおすすめしています(やり方については後述します)。
とりわけ、感情はネガティブなほうに流れやすいもの。
今はまだマインドの高い若手社員たちも、そのまま放置していたら、マインドの低い人たちに流されてしまいます。
抜擢というと、どうしても若手や、やる気のある人たちばかりに意識が向きがちですが、マインドの低いメンバーも含めた、チーム全体に抜擢を張り巡らせる必要があるのです。
誰をどの順番で抜擢すべきかここで具体的な話に移りましょう。
まず、「誰から抜擢するか」からお話しします。
能力や経験、適性に関係なくどんどん抜擢すべきであるということは、すでに述べたとおりです。
役割などは小さくてもいいので全員抜擢が原則ですが、その順番を工夫してもいいでしょう。
では、どういう人材を真っ先に抜擢するのか。
第一に優先すべきは「本人の意思」です。
つまり、本人にやる気があるかどうか。
言い換えれば、やる気のある人間は、よほどのミスマッチがない限りは抜擢すべきだと考えます。
第1章では「言わせて、やらせる。
」と書きました。
「新事業のリーダーを探しているんだけど……」「こんな仕事があるんだけれど……」「やりたいです」「OK、頼むよ」これが抜擢の基本です。
「なんだ、そんなことか」と思われる方もいるでしょう。
非常にシンプルですよね。
でも実際のところ、多くの職場では、こうしたやりとりを日常的におこなっていません。
ここには組織が抱える大きな課題が見え隠れします。
それは、そもそも「やる気」だけで人を抜擢していないという問題です。
例えば、大組織で働く若手が、上司に対していきなり「私にやらせてください」と直談判しても、それが通ることはほとんどありません。
通ったとしても、それは十分な能力や経験があることが前提でしょう。
一方、サイバーエージェントでは、この「私にやらせてください」を一番重視しています。
ミッションステートメントには「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止」と明言しており、企業風土としてこの考えが根づいています。
「手をあげれば誰でもOK」というほど極端ではありませんが、本人のやる気を他の理由よりも優先して見ているのです。
自分から「やる」と言った人と、「上から言われたからやっている」という人とでは、仕事に対する覚悟が違います。
皆さんも経験があることでしょう。
いったん自分で「やる」と意思表明したことは、簡単にはやめません。
能力や経験が足りないことは承知の上で、自分のベストを尽くすと思います。
自分から手をあげる人の良い点は「逃げなそう」なところです。
実はこの「逃げなそう」というのはとても大事なことです。
言い換えれば、責任を取れる人、「GRIT(やり抜く力)」のある人。
自分ごととして、仕事に取り組むので、成果が出るまでしっかりやり抜く可能性が高いと言えます。
繰り返しますが、受け身で仕事をしていると、それだけで「他責」に陥る危険が高まります。
当然ながら、他責では人は育たないのです。
他責とは、うまくいかないことを周りの環境や人のせいにしようとすることを言います。
この状態では、前述の「自走サイクル」は回せません。
失敗しても学習しないからです。
失敗を失敗と認め、その上で学習しなければ、経験は単なる経験に終わってしまい、経験値にならないため、大きな成長につながりません。
そういう意味でも、自分で手をあげる主体性がとても大切です。
職場に受け身の人が多く、今はまだ抜擢しにくいと感じた場合は、第1章で紹介した「部下に自分の言葉で話させる『インプット→アウトプット会話』」から始めてみてください。
実績がある人を抜擢する場合先ほど、やる気のある人をまず抜擢しましょうという話をしました。
やる気に続く優先順位としては、「すでに成果を出している実績がある人」です。
その成果は、どんなものでも構いません。
「成果」と書いてしまうと、どうしても年齢の高い人や社歴の長い人をイメージしてしまいがちですが、そうとは限りません。
例えば、これから抜擢しようとする新入社員が、入社前にインターンとして成果を上げていたとすれば、優先順位は高く設定しておくといいでしょう。
「成果の出し方」を知っているからです。
成果を出すというのは、言葉で言えば一言ですんでしまいますが、その人の持つさまざまな能力を合わせた、複合的な能力を用いなければ達成できないことです。
そのやり方をすでに知っているというのは、適性があると言えるでしょう。
ただし、こういう人を抜擢する際にも「期待をかけて、言わせて、やらせる。
」というプロセスは必要です。
「あなたにはこういう実績がある。
それを活かして、こういうチャレンジができそうだが、どう思う?」「たしかにおもしろそうですね、やってみたいです」「OK、頼むよ」一見遠回りに見えるかもしれませんが、こうした共感しやすいワンクッションを入れておくことで、「自責」モードに切り替えることができます。
入社2年目は迷わず全員抜擢抜擢するのを忘れてしまいがちな若手がいます。
それは入社2年目のメンバーです。
入社1年目には何かと関心が向きますが、2年目や3年目の若手のことはつい忘れてしまいがちです。
上司からすると、入社2年目の若手はいつまでも新入社員みたいな感覚で、悪気なく何かを任せるリストから外れてしまっていることがあります。
入社2年目というのは仕事のモチベーションが一気に下がる時期でもあり、そのタイミングで抜擢漏れが生じてしまうと、若手は疎外感を覚えてしまい、そのまま退職につながってしまうことさえあります。
以前、ある部門の2年目のメンバーと話をしていたときのことです。
その中に、入社1年目に大きな成果を出した人がいました。
その人から「2年目になり、少しモチベーションが下がっています」と相談を受けたのです。
実際、2年目あたりが一番モチベーションダウンや成長鈍化が起こりやすいため、とにかく入社2年目は全員抜擢することをおすすめします。
その際、ポイントとしては組織や顧客への貢献につながることを任せることです。
今まで自分のことで精一杯だったと思うけれど、次は仲間やお客様に対して自分に何ができるのかを考えて行動するよう伝えるのです。
ちなみに先ほどの2年目の人は、顧客への貢献として、「データ分析で、新たな気づきをお客様に提示できたらうれしいです」と話してくれました。
データ分析が得意ならば、そのことでチームやお客様に貢献できることを仕事のど真ん中にするというのはどうですかと聞くと、「それはワクワクします」と話し、本人の中で「私はデータ分析でチームとお客様に貢献したい」という思いがクリアに見えてきたのです。
1カ月後にまたその人と話をする機会がありました。
さっそく聞いてみると、「データ分析でチームやお客様に貢献すると意識したことで、働き方が自然と前向きになっていました」とのこと。
表情も明るくなり、自信を取り戻したかのようで、私もうれしくなりました。
2年目の抜擢は他者貢献がキーワードです。
具体的には次のような抜擢がおすすめです。
・新入社員の育成をおこなう。
メンターやトレーナーになる・チームメンバーの成果につながる何かをする・お客様に喜ばれ、感謝されることをする実際、サイバーエージェントにはトレーナー制度というのがあり、新卒の育成に入社2〜4年目を抜擢して育成を任せるようにしています。
みんなとてもがんばってくれて、トレーナー経験をすることで、人間的にも大きく成長する人がたくさんいます。
社内や部内に入社2年目の人がいたら、迷わず抜擢しましょう。
「人望のある人」はいち早く抜擢するほかにも、人望がある人は早く抜擢したいところです。
人望がある人の長所は、人の扱いが上手である点です。
周りの人に対する興味や関心が強く、周りをよく観察する習慣も身についています。
ただ、どういう人が「人望がある」と言えるのかは難しいところです。
数字では表せないし、やる気がある人のように自分から名乗り出ることもありません。
そこで私は、人望がある人の基準を次のように考えています。
・人望のあるマネジャー:自分の右腕となるナンバー2を上司に紹介できる人・人望のあるメンバー:「あの人はよくやっています」とほかの誰かを評価できる人一言でいえば、「仲間を信頼している人」です。
仲間を信頼している人は、その相手から大きな人望を生み出している可能性が高いのです。
皆さんも身近な人を思い浮かべてみてください。
仕事は誰よりもできるが自分一人でこのチームが成り立っていると思っているような人と、常に相手を信頼して周りに気づかいができる人。
人望でいえば、後者ですよね。
こういったタイプの人は、自分だけでは成果が上げられないことがわかっています。
そのため、成果が上がらないときに「誰かに任せないと無理だ」と切り替えることができます。
これはマネジャーとしては重要な資質です。
任せる、つまり抜擢することができるからです。
自分一人で成果を上げようとする人は、誰かを抜擢しようという発想がありません。
もう一つ、大ざっぱに聞こえるかもしれませんが、同期からの信頼がとても厚い社員を抜擢するのもいいでしょう。
そのような社員を抜擢すると社内が活気づきます。
その人を一人抜擢するだけで、ほかの同期もついてくるからです。
こういう人は周りから応援されやすいので、職場の雰囲気もよくなるというメリットがあります。
このように、能力や経験、適性を見なくても抜擢できる基準はさまざまあります。
抜擢する際には、減点法ではなく加点法で考えるようにして抜擢の幅を広げましょう。
「レーダーチャートの罠」に気をつけよ人材管理のツールとして、レーダーチャートを使っている会社も多いと思います。
その人の能力値がひと目でわかる便利なツールですが、気をつけておかないと、抜擢を鈍らせる要因になってしまいます。
レーダーチャートには、企画力、行動力、コミュニケーション能力、論理的思考力など、会社によって内容は異なりますがさまざまな項目が用意されています。
それを見れば、「この人は企画力があるから企画部に配属しよう」「行動力があるから営業もやらせてみよう」と、人事の配置に役立てることができます。
また、「この人は論理的思考力が弱いからこの課題を克服してもらおう」といった成長課題の発見もしやすくなります。
このレーダーチャートを採用活動に使っている企業もあります。
レーダーチャートがあれば、学生の能力も一目瞭然です。
少しでも面積の大きい学生を採用していけば、短期的には「いい人材を選べた」と思えるでしょう。
しかし、ここに落とし穴があります。
レーダーチャートは、項目にある能力しか評価できません。
項目を細分化していけばカバーできる範囲も広がりますが、それでもそこに載っているものしか評価できないことには変わりありません。
また、「へこんでいる部分はあるけれども、特定の能力がとがっている人材」も抜擢しにくくなります。
結果、基準点をクリアしてほどよくまとまったバランス型の人材だけが残り、凡庸な集団ができ上がってしまうのです。
まさにこれは「レーダーチャートの罠」と言えます。
とがった人材、レーダーチャートでは表せない能力を持った人材の中には、成果を上げられる人材や、組織に変革を起こせる人材がいるかもしれません。
せっかくそのような人材が入社を希望しているのに獲得できないのは、組織にとっても大きな損失です。
抜擢においても、採用と同様にレーダーチャートの罠が存在します。
いくら「うちは積極的に若手を抜擢している」と言っても、「全部の数値が高い人」を基準に抜擢しているうちは、イノベーションは起こりません。
それに、何度も言うように抜擢に「現時点の能力」は関係ありません。
大事なのは本人の意思、つまり期待値です。
それなのに一人の人間に対してあれもこれもと多くの能力を求めてしまうがために、いつまでも抜擢できない状況が生まれているのです。
ちなみに能力に凸凹があるのは、決して悪いことではありません。
世間で大成功している人たちも、実はどこか欠点があります。
ビジネスで成功するにはそのくらい偏りがあっても問題ありません。
むしろ凸凹しているからこそ、自分の強みというものをとらえやすく、一点突破で物事を成功に導くことができるとも言えます。
抜擢の「2つの死角」に注意するマネジャーの仕事は、チームの成果を上げることです。
そのために、メンバーの持つ力を最大化する。
最大化のツールとして有効なのが、本書で紹介している「自走サイクル」です。
人が育てば、メンバー個々の力は急速に大きくなり、チーム全体のパワーも、とてつもなく大きくなります。
であれば、本当は「誰を抜擢するか」ではなく、「今いるメンバーを全員、抜擢する」というのが、マネジャーが目指したいゴールとも言えます。
働き方が多様化している今、抜擢に関して、意外な「落とし穴」があることに気づきました。
それは、よく知っている人にしか仕事を渡さないという罠です。
物理的に一人ひとりのことがよく見えていないことから、自分がよくわかっている人にだけ仕事を任せてしまう傾向がより強くなってしまっているのです。
特に、次の2つのタイプの人への抜擢が漏れてしまっています。
1.入社したばかりのメンバー2.異動でやってきたメンバーリモートワークなどで物理的に彼らのことが「見えない」ことに加え、当然、今の職場での経験値が少ないため、新しい仕事をお願いしようとする際に、どうしても「仕事のことをわかっている人」や「自分がよく知っている人」に渡してしまいがちなのです。
1、2の人たちは、本来はポテンシャルの高い、最も「伸びしろのある人」たち。
つまり真っ先に抜擢したい人たちのはずです。
彼らを育てなければ、当然ながらチームは強くなっていきません。
それどころか、いつものメンバーばかり、仕事の負荷が増え、最終的にはチームに不協和音が生じ、やがてチームは疲弊します。
こうなってしまっては、成果は上がるどころか、どんどん下がっていく一方です。
このようにメンバー全員への投資は、最終的に大きな成果となって返ってきます。
弱みをつぶしていくよりも、強みを活かすほうが、本人のやる気も出ます。
しかも、目標達成に必要な「抜擢」をおこなうため、成果が出やすいのもポイント。
メンバーが「自分の強みを活かして成長できている」と達成感を覚えるだけでなく、「自分のがんばりでチームに貢献している」という充足感も得られます。
リモートワークで、こうした「自分がチームに貢献できている」という実感を得られることは、一体感や安心感にもつながります。
具体的な抜擢のアイデアについては、次節をお読みください。
「責任者宣言」で全員抜擢人事部の方から抜擢に関する相談で多いのが、「いい若手がいるのに抜擢するポジションが空かない」というものです。
特に大企業では、そのようなことが多いようです。
スタートアップ企業の場合は、「そのポジション自体が存在しない」というのですから、皮肉なものです。
抜擢するポジションがない場合、どうすればいいか。
有効な解決策は、自分の部署で何か新しい役割をつくってしまうことです。
例えば、入社1年目であれば、「新聞記事集め責任者」に抜擢するなど、その部署やチームの課題・困っている、あるいは目標達成のために必要な要素に対し、「責任者」という言葉をつけて、任せるのです。
これを「責任者宣言」と名付けました。
例えばチームに新入社員を含め、5人のメンバーがいるとします。
この5人全員を、何らかの責任者にするのです。
Aさん:新聞記事集め責任者Bさん:相互理解を深めるための責任者Cさん:業務改善の責任者Dさん:スケジュールおよび進捗管理の責任者Eさん:競合情報・マーケット分析の責任者こうすることで、単なる5人のメンバーではなく、5人の責任者がいる頼もしいチームに変わります。
人というのは、期待に応えようとする反応性のある動物です。
その「期待」を「こういうことをしてほしい」「あなたのこういう能力を活かしてほしい」と、より具体的に伝えるのが「責任者宣言」です。
ここには「権限委譲しますよ」とか、「あとは任せますね」というメッセージも込められていますが、とてもポジティブな形でそのメッセージを乗せることができます。
こうした「責任者」として抜擢することは、チームへの貢献にもつながりますので、やりがいもあるでしょう。
結果、一人ひとりの力は最大限に引き出されます。
小さな組織での抜擢、自分たちの裁量の範囲内でできる抜擢として、こうした「役割」の抜擢、「責任者宣言」は、チーム内ですぐにできますので、おすすめです。
スケールのより大きい役割抜擢の話で言うと、「全社横断プロジェクト」があります。
小さな組織や自由度の高い組織とは違って、大企業は組織が硬直化していることが多
く、新しいポジションをつくれる場所はほとんどありません。
そこで私は、大企業の人事の方に、全社横断プロジェクトのメンバーに抜擢することをおすすめしています。
全社横断のプロジェクトとは、例えば新卒採用のプロジェクト、働き方改革のプロジェクトなどです。
こういったプロジェクトに専任者として入るのではなく、現在進めている仕事と兼務しながらやらせてみるのです。
そうすればわざわざ新しいポジションをつくらなくても、若手社員を成長しやすい仕事に抜擢可能です。
全社横断プロジェクトがなぜ全社の取り組みとして展開されているのかというと、それが経営課題に取り組むプロジェクトだからです。
こうしたプロジェクトには経営陣も注目しており、場合によっては直接参加もしています。
経営陣に近いところで仕事をするメリットはたくさんあります。
経営者視点を持つことにもつながるため、今の自分が上位の役職に抜擢されることと同等の経験を積むことができるでしょう。
成長したい若手にとって、全社横断のプロジェクトへの抜擢は、新しい役割と同時に、これまで手が打てていなかった経営課題に取り組むチャンスももらえるということで、まさに一石二鳥の抜擢なのです。
目標未達の人を抜擢する2つの方法では具体的にどうやって、目標未達の人を「抜擢」すればいいのでしょうか。
2つの視点から考えていただくことをおすすめしています。
1.目標を「一口サイズ」にする2.個人から組織へ、貢献のベクトルを変えるこの2つは、それぞれ実践するのも有効ですが、最も効果的なのは1と2をミックスさせること。
つまり「やることを小さくして」、なおかつ「チーム貢献ができる」ものを任せるのです。
目標未達の人に圧倒的に足りていないものは、「成功体験」です。
そこで、目指す範囲や仕事の割り当てなどを小さくして、まずは小さな成功体験を積み上げていきます。
成功体験には、数字のような定量的なものだけでなく、「チームやお客様に感謝される」といった定性的な要素を加えるのがポイント。
手段としては、先ほど紹介した「責任者宣言」は、非常に有効です。
例えば、営業目標の6割しか達成していない新人のAさんがいるとします。
Aさんは、業界やクライアントの知識やトレンドについて少し理解が足りていないようです。
そこで、Aさんを、新聞や業界誌を毎日チェックしてチームに情報を発信する「トレンド発信責任者」として抜擢します。
Aさんは自分の足りないものを補うために情報収集と発信をしているのですが、それだけでチームメンバーに感謝もされます。
「あの情報はとても役に立ったよ、ありがとう」こんなふうに言われれば、責任者としてますます仕事に励みたくなるはずです。
注意していただきたいのは、「一口サイズ」にするというのは、弱点克服のためだけではないという点です。
「チーム貢献」という視点で考えれば、強みに集中して、強みを伸ばすという考え方もあります。
例えば、お客様とのコミュニケーションがあまり得意ではないBさんに、お客様からの声を分析し、レポートしてもらう。
コミュニケーションについては得意な人がチームにいるけれど、分析に関してはチーム全体でまだまだ弱い。
であればこれはBさんに任せてみてはどうだろう、という発想です。
個々の力だけで、その人の強みや弱みを見てしまうと、どうしても「抜擢」はしにくくなりますが、「チーム全体の役割分担」という視点で仕事の割り振りを見直すと、「ボトム人材」の思わぬ潜在能力に気づくこともあるはずです。
組織のためになることで抜擢するというのは大事なことです。
なぜなら、「みんなのためになることをがんばる人」は、周囲からの応援を得やすくなるからです。
あまり重視されていませんが、周囲からのサポートや応援を得る経験は、成功体験と同じくらい人の成長に不可欠な要素なのです。
例えば、伸び悩む入社3年目のCさんが社内の「分析ノウハウ勉強会」の責任者になったとします。
Cさんは分析ノウハウの資料を作成し、先輩や上司に事前にチェックをお願いします。
そうすると、自然と「資料はこんなふうにまとめるといいよ」「こんなノウハウも知りたいです」など、たくさんの声をもらえます。
これらのアドバイスは、まさに周囲からのサポートです。
「勉強会を楽しみにしているよ」という言葉もまた周囲からの応援です。
周囲からの応援はCさんの成長を加速させます。
実は伸び悩んでいる人は自分から質問をすることが少なく、チームの中で知らずしらずのうちに孤立している人がほとんどです。
新入社員の頃はたくさん得られたフィードバックも、3年目となると「できて当たり前」と思われ、自然と何も言われなくなります。
当の本人はまだ自信がなく、できる新人を横目に、さらに自信は失われていきます。
この負のループを、勉強会の責任者になることで、断ち切ることができるというわけです。
チーム貢献で周囲からのサポートを得ることのメリットがもう一つあります。
それは「自分から動きやすくなる」こと。
勉強会を無事成功させたCさんに、「次はMVP社員に目標達成の秘訣についてインタビューして、チームで共有しよう」と言うと、聞きに行きやすくなっているはずです。
組織に貢献したことで周囲の応援を得ている状態なので、Cさんも臆することなくMVP社員に話を聞きに行くことができます。
そこで聞いた話を、Cさん自身が実践することができれば、自然と目標達成ができてしまうかもしれません。
こんなふうに、ペイ・フォワード(周囲への貢献が先)で抜擢ができると、本人が自信をもって動きやすくなるのです。
目標達成はまだ6割だから、次は7割を目指そう。
もちろんこれもOKなのですが、このように「チーム貢献」という違うベクトルを示して、先に小さな成功体験やサポート体験を積むことで、自信をつけていくというやり方もあるのです。
1.目標を「一口サイズ」にする2.個人から組織へ、貢献のベクトルを変える特に、組織の中の役割という視点で考えれば、全員抜擢はよりしやすくなるはずですので、ぜひ意識してみましょう。
抜擢とは「自分が責任者になる」ことここまでお読みいただき、「抜擢」の全体像が見えてきたと思います。
自走サイクルの第一歩は、「自分が責任者になる」こと。
ここでのキーワードは、先にお伝えしたとおり「責任者」です。
マネジャーになることを引き受けたのであれば、そのチームの責任者になること。
送迎会の幹事を引き受けたのであれば、送別会の責任者になること。
イベントのレポートをまとめる仕事を引き受けたら、そのレポートの執筆責任者になることです。
ここで大事なのは肩書ではありません。
責任者であるという自覚を持つことです。
マネジャーであれば肩書はもらえますが、レポートの執筆責任者などに肩書は付きません。
それでも、「誰がどう言おうと、自分はこの仕事の責任者である」といった強い自覚があり、その仕事の意味をきちんと説明できれば立派な責任者です。
NASAの清掃員のお話をご存じでしょうか。
熱心に掃除をする清掃員に大統領が声をかけ、その仕事をほめたところ、「私はこのオフィスを掃除することで、人類を月に送ることに貢献しているのです」と答えたというエピソードです。
この清掃員も、肩書はないのかもしれませんが、そのフロアにおいては自分が清掃責任者であるという自覚があるからこそ、大統領の目にとまるほど熱心に仕事に取り組んでいたのでしょう。
自身の仕事の意味についても、パイロットが月に行くための手伝いをしているのだと、自らの言葉で説明できていました。
セルフであれ誰かから言われたからであれ、自らが責任者であると自覚することから自走サイクルは回り始めるのです。
次の章では、自走サイクルの2つ目のステップ、責任者としてなすべき仕事である「決断」について説明します。
抜擢後の人材は「」大きな成果と飛躍的成長を実現するためには、抜擢しか方法はありません。
これは第2章で述べたとおりですが、では「抜擢だけしてあとは放置でもいいのか」というと、そういうわけにもいきません。
抜擢は成果や成長につながるものですが、抜擢するだけではそれらを得ることはできません。
抜擢はあくまで、「自走サイクル」の起点。
それに続く、決断経験をしてもらう必要があります。
決断経験により、若手は大きく成長します。
決断経験で、なぜ若手は成長するのでしょうか。
それは自分で決めると、自分で責任を取るようになり、自分で学びを増やせるからです。
決断経験は、自己成長の大きなカギとも言えます。
実は、抜擢されたことで、決断経験は質と量ともに急増します。
抜擢によって、「想像以上の大きな決断をおこなわなければならない」という場が生まれ、抜擢された数だけ決断経験も増えていきます。
未体験ゾーンに行くので、すべての判断が未体験の決断です。
この未体験ゾーンでの決断経験は、人を飛躍的に成長させます。
サイバーエージェントでは日常的に抜擢がおこなわれているため、たくさんの決断経験を積み上げることができます。
全社表彰でMVPを受賞した新卒3年目の広告営業担当のAさんは、1200人以上の学生がネットに同時接続して参加したサイバーエージェントベンチャーズサミットで「営業MVPに聞く仕事術」に関する話をしました。
そのとき、学生の方から次のような質問を受けたのです。
「すごい活躍をする中で、自分で一番成長したと感じる点はどこですか?」「ビジネス経験を通じてさまざまなスキルも身についたのですが……結局は決断力だと思います」Aさんは答えに悩みながらも、「やっぱり決断力なんですよ」といった感じでさらっと
言及したのです。
決断が成長を促し、自信につながったとのことです。
仕事とは決断の連続です。
上司からのメールにすぐ返信したほうがいいのか、内容を精査してから返信したほうがいいのか。
相談はBさんにすべきか、Cさんにすべきか。
どの作業から手をつけるのがいいか。
こういった決断は意外と重要で、どちらを選ぶかで仕事の成果にも大きな差が生まれます。
ここで一番よくないのは、決断しないことです。
相談相手を誰にするか悩んでいるうちに結局誰にも相談しない。
これでは決断は発生しません。
また、決断に時間をかけていては物事がなかなか先に進みませんし、決断の早い人との成長スピードの差もどんどん開いてしまいます。
決断に時間をかける人が一回決断する間に、5回、10回と多くの決断をおこなっている人もいるのです。
それゆえ、抜擢した後は、部下自身に決断経験をしてもらいます。
その際にスピードを重視し、短時間で数多くの決断をおこなうよう促します。
リモートワークの導入により、決断経験の差が、個人の成果と成長に大きな差を生んでいることがわかりました。
これは社内調査でわかったことです。
決断経験の多い人、決断慣れしている人は、次々と決断し、仕事を進めていきます。
それゆえ、決断慣れしている人は、報連相の量が多い。
仲間が何をやっているのか見えにくいからこそ、積極的に発信しているのです。
一方、決断慣れしていない人は、「上司の返事待ち」など、より受け身になりがちです。
当初、人事の私たちは、リモートワークで「待ち」の仕事が増えて、業務時間が増えてしまっていないかと心配していました。
「上司の返事・承認待ち」などは、想像していたシチュエーションですし、「業務がパツパツで死にそうです」という悲鳴が上がることさえ覚悟していました。
ところが、2020年の夏に全社員に向けてアンケートをとったところ、「リモート下でのチャレンジが増やせている」と答えた人が7割以上いたのです。
つまり、リモートワークのほうが、提案の数が増えたというわけです。
これは想定外の結果でしたが、よくよく話を聞いてみると、次のような理由が見えてきました。
普段から決断慣れしている人は、主体的に仕事を前に進めていきます。
どんどん決断していくので、仕事もどんどん早く進みます。
加えて、通勤時間の短縮やちょっとした仕事の中断などが減り、「自由時間が増えた」とのこと。
「リモートでできた自由時間を考える時間に充てています」という意見が多く、「次のチャレンジの構想を描くなど、思考する質・量ともに増やすことができています」という意見も。
マネジャーたちも、戦略や新しい企画の提案のみならず、仕事のちょっとしたアイデアレベルでも「今、こういうことを考えているがどう思いますか」という投げかけが増えているというのです。
みんなうまく変化に対応してくれているなと感心しました。
しかも、決断経験がある人ほどスピードが増し、一人で考える時間がほしかった人にとっては、「自由時間」が増えていたという事実には、正直驚かされました。
同時に、決断経験がそのまま仕事の成果と個人の成長に影響し、その差はどんどん広がっているという厳しい現実も明らかになりました。
決断経験の重要性については、ぜひともあなたのチームで共有してください。
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