第6章ファンの心をつかんで離さない「演歌の戦略」
1目立つプロモーションはメリットゼロ「売れる」と「売れ続ける」は違うテレビ取材が殺到した理由比較検討されたうえで選ばれる商品をなぜ、ブームが去っても定期購入されるのか行列のできる店が成功したと言えない理由プロモーションは目立たないほうがいい知名度がなくても実力があれば売れる2必要な人だけに広告を届ける「マーケティングファネル」の思考法DtoCを制する「マーケティングファネル」とは1億円の認知コストで10億円の利益「誰に、何を、どう、伝えるか」の「何を」がクリエイティブのカギ3一回買ってくれた人とは一生つき合うお客様に愛され続ける「演歌の戦略」とは毎日30分、ファンにバースデーコメントを書くGLAYの戦略
社内に「商品カウンセリング課」をつくった理由AKB48も「演歌の戦略」で大ヒット
第6章ファンの心をつかんで離さない「演歌の戦略」
1目立つプロモーションはメリットゼロ「売れる」と「売れ続ける」は違う「北の達人」の事業をひと言で言えば、「DtoC」×「サブスクリプション」だと前述した。お客様の悩みを解決する高品質商品(第4章)を、ネット広告で宣伝して新規顧客を獲得(第5章)し、その後も定期購入(第4章)してもらう。そもそも「モノを買う」といっても、1回目の購入と2回目以降の購入では異なる。1回目の購入はマーケティング力が大きい。使ったことのないモノを買うのだから、必ずしも「品質のよいモノ」が売れるわけではない。「よさそうなモノ」が売れるのだ。よさそうかどうかは、デザイン、コピーライティング、商品の写真など「売り方」の部分が大きい。ただ、「売り方」がうまいだけでは、そこで終わり。「よさそうな」だけで、品質がよくなければリピートされることはない。一方、2回目以降のリピート購入の場合は、品質力が大きい。「品質のよいモノ」だけが売れ続ける。当社の健康食品、化粧品などはだいたい1か月で使い終わる。気に入った方は毎月購入する。定期購入の売上比率は約7割。当社のお客様は約30万人。一度獲得したお客様が繰り返し買ってくれるから、CPOがかからない。よって5段階利益管理の販促費などが減り、販売利益が増える。そして、その分を原価にかけている。つまり「品質」に投資をしているのだ。結果、当社の原価率は同業の2〜3倍だが、営業利益率も数倍となっている。売上を向上させるには、既存顧客の定着と維持が重要だ。しかし、実状は多額の広告費をかけて新規顧客の獲得に注力しているだけの会社が多い。それで獲得した顧客も一度離れてしまうと、新たな顧客を開拓する必要があり、常にCPOがかかる。商品品質に投資し、既存顧客との関係を維持すると、結果的に一人の顧客がその企業に支払う総額=LTV(顧客生涯価値)の向上につながり、高利益体質になる。テレビ取材が殺到した理由「北海道・しーおー・じぇいぴー」で北海道の特産品を扱っていた2008年、ある仕入れ先から、「足の折れたカニや端の切れたタラコを安くするから仕入れてくれないか」と言われた。品質はいいのに、わけあって安い。食品版アウトレットといったところだ。そこで私は、「わけありグルメ」専門の通販サイトを立ち上げ、サイズが不揃いのために正規品として販売できない道産品を2〜7割引で販売した。当時は、リーマンショック後の不景気の時期だった。「見た目はちょっと悪いが、味はまったく変わらない安いカニ」「不揃いだけど激安でおいしいタラコ」などが受け、「お財布にやさしいグルメ」としてメディアに取り上げられた。eコマース普及に貢献したサイトを表彰する「日本オンラインショッピング大賞」(EC研究会主催)の最優秀賞に選ばれたことも手伝い、メディアでの取材依頼はさらに増えた。『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS系)、『newsevery.』(日本テレビ系)、『はなまるマーケット』(TBS系)など当時の情報番組で次々と紹介され、その数は1年で30回に及んだ。極めつきは『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)だった。「眠れる在庫を〝宝〟に」というテーマで、当社の副社長が「見栄えの悪い夕張メロン」など、様々なわけあり商品を販売に結びつける様子が放送され、全国的なブームとなった。最初のうちは取材を受けながら、「一発当てたかな。メディアがこれだけ宣伝してくれたら大ヒット間違いなしだ」と思っていた。だが、その期待はあっけなく裏切られた。売上も利益も上がらないことにすぐに気づいた。比較検討されたうえで選ばれる商品をそれはなぜか。テレビで紹介されることでお客様は確かに増えた。だが、同時にマネる同業者も増えた。中小だけでなく、大手企業も「わけあり」市場に参入してきた。あっという間のことだった。「わけありグルメ」で検索すると、似たサイトがずらっと並ぶため、お客様はテレビで見た当社のサイトがどれかわからない。検索した中で一番よさそうな商品、一番安い商品を探す。「わけありサイト」は食料品だけでなく、「わけあり家電」「わけあり家具」「わけあり客室」「わけありツアー」など大きなブームとなった。この状況を冷静に見て、「わけありグルメ」のサイトは当社の成長エンジンにはならないと判断した。今の時代は、ブームを起こした人にその恩恵はもたらされない。ネットが普及する前、ブームの果実は起こした当人に集中した。しかし、現在は検索エンジンやネットですぐに調べられる。ブームが起きると便乗する会社がたくさん出てくる。アイデア勝負のビジネスはすぐにマネされ、ブルーオーシャンはすぐにレッドオーシャンに変わる。検索エンジンで比較検討されたうえで選ばれる商品をつくらなければならないのだ。なぜ、ブームが去っても定期購入されるのかブームは一過性のもので、すぐにマネされる。売れ続けることはない。様々な学びから、商品の品質で勝負するオンリーワンでなければならないと考えた。ベーシックな商品をロングで売り、本当に気に入ってくれたお客様とだけおつき合いする。健康食品、化粧品には、酵素、水素水、CoQ10、レスベラトロールなどブームになる素材がたくさんあるが、話題になっては消えていく。ブームで買ったお客様は、次のブームの商品に乗り移っていくので、固定客になりにくい。
当社はオリゴ糖、梅肉エキス、竹酢液、ヒアルロン酸など、ブームに左右されないベーシックな素材を使い、効果が高いかどうかで商品開発を行っている。ブームになっている素材を採用した場合でも、それを前面には出さずに商品開発する。それを買ったお客様はブームだから買ったのではなく、商品を気に入って買っている。そんなお客様はブームが去っても定期購入してくれることがわかっている。行列のできる店が成功したと言えない理由ブームという点で、「行列のできる店」を考えてみたい。行列ができている現実を経営的観点で考えてみると、「機会ロス」だ。需要に対応できない=対応できれば取れる売上を上げられていないことになる。その際、店舗を拡大したり、人を増やしたりして供給量を上げて行列をなくしたらどうなるだろう?ここで別れ道が待っている。一つは機会ロスをなくしたことで売上が上がる店。もう一つは行列がなくなったことで希少価値が下がり、売上が下がる店だ。同じ行列でも意味が違う。前者は「品質」でできた行列であり、後者は「話題」でできた行列だ。「なぜこの商品を買ったのですか」「今すごく人気なので」ということはある。「人気なので」とは「売れているから買う」ので、「なぜ人気になったか」は誰もわからない。それがブームだ。話題でできた行列は、供給量を上げるとすぐにダメになる。だから、まずは品質の行列をつくる。その後、行列がなくなるように、品質を維持・向上しながら徐々に供給量を上げていく。行列のできるラーメン店が多店舗展開して行列がなくなり、メディアに取り上げられなくなっても味がよければ売れ続ける。多店舗のチェーン展開をしたほうが利益は増える。話題になることと利益が出ることは別だ。品質勝負で、店舗数を増やしたときにお客様も増えるなら、店舗数を増やしたほうがいい。希少価値で勝負するなら、席数は少ないままでいい。行列ができたら成功ではない。行列がなくなった後に本当の成功かどうかが決まる。プロモーションは目立たないほうがいいさて、プロモーションには2種類ある(図表33)。
「目立つプロモーション」と「目立たないプロモーション」だ。目立つプロモーションは、テレビCMやイベントなど、不特定多数の人を対象に「目立つ」「話題になる」ことが目的だ。目立つプロモーションで、売上が上がらないケースは、自己満足、内輪受け、消費者不在になっている。一方、売上が上がると、競合に目をつけられ、競争が激しくなり、利益率は下がる。目立つプロモーションは会社にとってメリットがまったくない。テレビCMをたくさん打っても、売上も利益も出ないケースがある。それに対し、目立たないプロモーションは、ターゲットのみに認知されることが目的だ。目立たないプロモーションで売上が上がらないケースは、目立たなすぎてターゲットに認知されていないのだ。一方、目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。目指すべきはココだ。「北の達人」は目立たないプロモーションを行っている。ネット広告は商品ごとにターゲットを絞って出稿する。だから、ターゲットの外には認知されていない。たとえば、若い人でウェブマーケティングに興味のある人は、「北の達人」は知っていても、「北の快適工房」という健康食品、化粧品のブランドについてはほとんど知らない。また、株主総会のとき、ある年配の男性株主から、「『北の達人』はのびていると聞くけれど、実感がないな。おたくの商品を見たことも聞いたこともない。まだまだだな」と言われたことがある。それは「ほめ言葉」だ。なぜなら、その人がターゲット外だからだ。「目の下の加齢」に悩んでいない人が、それを解消するクリームを知っていても意味がない。「便秘」に悩んでいない人が、それを解決してくれる健康食品を知っていても意味がない。オリゴ糖の健康食品を扱い始めた頃、お客様はどんな言葉で検索するかを考えた。その際、妊娠した女性は便秘になりやすいが、便秘薬は飲みたくないという情報を得た。強い便秘薬を大量に服用すると、流産を誘発する可能性があるという。そうしたことから便秘にならない体質になりたいと思っている。オリゴ糖は腸内環境をよくし、便秘になりにくい体質に変える。そこで「妊娠」「便秘」と検索すると、当社の広告がヒットするようにした。でも、ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。それは競合が生まれにくいということでもある。広告の目的は目立つことではない。利益を生み出すことだ。目立たないプロモーションが一番利益を生む。スキルの低いマーケッターは、目立つプロモーションをやりたがる。なぜならテレビCMなどを指して、「あれは自分がやった」と言いたいからだ。広告代理店は目立つプロモーションをどんどん提案してくる。一時的な売上を上げることしか考えていないからだ。本当にスキルのある人は、目立たないプロモーションで利益を上げることを考えている。知名度がなくても実力があれば売れる今から30年くらい前、学生援護会の『DODA(デューダ)』のテレビCMが大ヒットし、「転職する」=「デューダする」と言われた。『DODA』は転職情報誌の代名詞だった。しかし実は、『DODA』よりリクルートの転職情報誌『ビーイング』のほうが売上(求人広告掲載費売上)は高かった。当時は『ビーイング』のほうが営業力でまさっていた。その経験から「知名度がなくても実力があれば売れる」と感じている。当社は知名度には無頓着だ。お客様は「本物」を見抜く目を持っている。「知名度がないのに売れている」が本物の証拠であり、誇るべき事象だ(「知名度は必要ない」というわけではなく、「知名度は必須条件ではない」という意味だ)。周りから有名でカッコいいと思われたいのか、利益を出したいのかによって、やるべきことは変わる。当社は、知名度を上げるためだけの無駄なことに、お金も時間もかけないから利益が上がっている。極論を言えば、購入者だけに商品の存在を知ってもらえればいい。むやみに知名度を上げようとするとコストがかかるので、買う人以外には認知されないようにしたい。商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くおつき合いする。少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想だ。
2必要な人だけに広告を届ける「」DtoCを制する「マーケティングファネル」とは「北の達人」はいわゆるDtoC企業である。自ら企画・生産した商品を、小売店等の一般流通を介さず、消費者にダイレクトに販売する。ソーシャルメディア、ECサイト、直営店舗で消費者とコミュニケーションを取り、自ら生産した商品を販売する。アパレルブランドや美容化粧品ブランドの多くが採用している形態だ。DtoCは顧客とダイレクトに接点を持つ。一方で、BtoCは一般的に小売店経由で商品を販売しているため、どのような人がどれほどの頻度で商品を購入しているのか把握しにくい。しかし、DtoCの場合は、自社に販売チャネルがあるので、顧客情報を蓄積でき、顧客に合わせたきめ細かいサービスを提供できる。ここでは、DtoCのマーケティングファネルについて考えていく。マーケティングファネルとは、お客様に認知され、興味・関心を持ってもらい、比較検討され、購入に至るまでのフローのことだ。仮に最初に100人に認知されると、割合として60人が興味・関心を持ち、30人が比較検討し、10人が購入するというように対象者が絞られていく。図表34を見ると、ある会社は認知コスト(広告費)として1億円を使い、売上1億1000万円、利益1000万円となった。では、利益を10倍の1億円にするにはどうしたらいいか。従来のマーケティングの考え方なら、認知コストを10倍の10億円にし、売上11億円、利益1億円を目指すだろう(図表35)。
だが、この方法では人口上限という壁にぶつかる。ネット広告でもテレビCMでも、見ている人の数には限りがある。そこでDtoCの場合は、目立たないプロモーションを行う。つまり認知を絞るわけだ。図表36のようなイメージだ。
認知コストを1億円から1000万円に下げ、「認知したけれど買わない人」を削り、「買いそうな人だけ」に認知させる。テレビCMを打ったところで見た人の大半は買わない。買わない人に認知してもらうのは無駄。買わない人へのアプローチを一切やめるのだ。1億円の認知コストで10億円の利益これにより売上はそのまま、コストを下げて利益を10倍にする。これはネット広告のように、ターゲットセグメント機能にすぐれている手法があるからできることだ。図表36を見れば、「商品は知らない」がほめ言葉という意味がわかるだろう。私に「『北の達人』という社名は聞くけれど、おたくの商品は知らない」と言った人は、図表36の逆三角形の中の黒いゾーンの人なのだ。これを10ジャンル(商品)に展開すれば、1億円の認知コストで10億円の利益を上げられる(図表37)。
広告に携わる人の中には、「広告は嫌われている」と思っている人がいる。「テレビCMはスキップされる」「ネットで広告が表示されると、うっとうしいと言われる」などと嘆くクリエイターもいる。そういった人たちには、なぜうっとうしいと思われるのかを考えてほしい。商品ターゲット外の人に伝えているから、うっとうしいと思われるのではないか。消費者にとって自分に関係のある商品広告は有益な情報だ。ただし、これができるかどうかは商品の性質と関係する。「北の達人」は「お客様の悩みごとを解決する」ニッチな商品を複数展開している。多くの人に気に入ってもらう商品ではなく、特定の悩みを抱える人なら高確率で購買される商品をつくってきた。たとえば、オリゴ糖からつくった健康食品は、発売当初、「妊娠」「便秘」とキーワード検索した人の100人に一人が買っていた。検索した人の10%が広告をクリックし、ページにきた人の10%は購入した。購入確率の高い人だけに広告を配信する。ネット通販はターゲットを絞り込んで展開できるので、比較的CPOが低い。テレビCMを打たないかという話はたくさんあるが、CPOが高いので当面やるつもりはない。「誰に、何を、どう、伝えるか」の「何を」がクリエイティブのカギ広告を考えるとき、多くの人は「どう、伝えるか」をいきなり考える。だが、その前段階として必要なのは、「何を」だ。たとえば、iPhoneについてユーザーに伝えようとしたとき、いきなりiPhoneのキャッチコピーを考えるのではなく、iPhoneの強み、他の商品との違いを考え、何を言うかをまず考える。iPhone発売初期の頃は、「まったく新しい便利なもの」と商品自体の普及活動をしていた。マーケットが変わり、スマホが当たり前になってくると、「カメラ性能のよさ」を伝えた。iPhoneで撮影した高画質映像を流し、「こんな映像も撮れます」「iPhoneで撮った映像を人に見せると感動された」などをアピールしていた。ユーザーは「何を」の部分に反応する。大手予備校の代々木ゼミナールのキャッチコピーに「志望校が母校になる。」がある。名作キャッチコピーとして注目を集めたが、だからといって代々木ゼミナールに行くかというと話は別だ。どの予備校でも当てはまるコピーであり、代々木ゼミナールならではの特徴、優位性がまったく含まれていないとも言える。一方で、ある予備校のコピーは「志望校合格率95%」と、キャッチコピーとしては平凡だが、これには予備校生から大きな反響があったという。その予備校は「その予備校でしか言えない実績」を言っているので「差別化」ができている。要するに「何を言うか」なのだ。「どう伝えるか」の部分は平凡でも、ターゲットにはダイレクトに刺さる。一般論だが、世間で広告が評価された商品はそれほど売れない。一方で、商品が売れた広告は、広告としてはあまり評価されない。売上につながる広告メッセージの多くは、差別化ポイントをストレートに表現しているので、広告としてはあまり面白みがなく、作品としては評価されないからだ。しかし、売上につなげるには、何を伝えるかが大事で、それでも差別化できないときに、「どう伝えるか」を工夫する。ウェブマーケティングは「誰に、何を、どう、伝えるか」の「誰に」の部分はウェブメディアのセグメント機能によって精度を上げ、「何を、どう、伝えるか」の部分を広告表現のクリエイティブでつくり上げる仕事だ。ウェブ以前のマーケティングでは、「誰に」というセグメントをまず考えた。主婦向けの商品なら、クリエイティブの中で「主婦向け」とわかるようにした。テレビCMの最初の1秒で、主婦の格好をした人が登場し、主婦の目を留める。CMを放送する時間帯も、主婦が多く見ている時間帯にする。一方、現在のウェブマーケティングでは、グーグルやフェイスブックのAIが「この人は主婦ではないか」と把握している。セグメントはウェブメディアが行う。より買ってくれそうな人に、買ってくれそうな時間帯に自動配信する。ただし、セグメント機能は、「誰に、何を、どう」の「誰に」の部分を肩代わりしたにすぎず、「何を」「どう」の部分は相変わらず、クリエイティブの役割だ。今後のウェブマーケティングにおいてクリエイティブの重要性はさらに高まる。さらに、「誰に」の部分が個人情報保護の観点から規制されてくる。ヨーロッパでは個人情報を無断で取ってはいけない法律(GDPR=EU一般データ保護規則)ができている。今後、ウェブマーケティングでターゲットをセグメントする機能がどんどん使えなくなるだろう。昔のテレビCMのように、クリエイティブで「誰に」をセグメントしていけるようにならないと広告効果は落ちる。よって、マーケッターは、原点回帰でターゲットを絞り込める広告表現のクリエイティブ力を身につけなければならない。
3一回買ってくれた人とは一生つき合うお客様に愛され続ける「演歌の戦略」とは利益を上げるには目立たないプロモーションで、必要としてくれるお客様に出会う。そして、そのお客様に愛され続ける。これが一番だ。私はこれを「演歌の戦略」と呼んでいる。子どもの頃、ランキング形式の歌番組を見ていて不思議に思ったことがあった。番組では、毎週ランキング10位から1位の曲を生放送で発表した。上位にランキングされるのは、若手の人気歌手が歌うポップスが中心だった。番組の途中に20位から11位の曲を紹介するコーナーがあった。ここに長い間ランキングされている演歌の曲があった。知らない曲だった。歌手も知らなかった(正確に言えば、子どもだったので演歌になじみがなかっただけなのだが)。ランキングが毎週大きく入れ替わる中で、その演歌は長期間20位以内をキープし続けた。そして驚いたことに、年末に発表された年間ランキングでは上位に入った。これが「テレビでの露出が多いことと売れることは違う」と感じた原点だったと思う。それ以来私は、「演歌歌手はなぜテレビに出ないのに売れるのか」と考え続けた。のちに音楽業界の人に聞いた話だが、演歌歌手は「お客様と直接会って握手をすること」を大事にしているという。テレビで見るだけの人気歌手より、実際に握手した歌手のほうが親近感が生まれるし、応援したくなる。「あの人が新曲を出したから買おう」と思う。「演歌歌手は3000人と握手したら一生食べていけると言われている」と教えてもらった。考えてみると、北海道出身の歌手はこの戦略を取る人が多い。北島三郎さんや細川たかしさんは演歌歌手なので言わずもがなだが、松山千春さん、中島みゆきさん、GLAYなどもあまりテレビに出ない。しかし、ライブをやり続け、お客様の心をつかんで何十年も活躍し続けている。毎日30分、ファンにバースデーコメントを書くGLAYの戦略GLAYは、ある時期まではテレビによく出ていた。あれはライブにお客様を呼ぶための広報戦略だったのだろう。1999年に幕張メッセ駐車場特設ステージで開催した『GLAYEXPO’99SURVIVAL』では、単独アーティストによる有料ライブ(一公演あたり)の世界記録(当時)となる20万人を動員した。これ以上ファンが増えても、ライブで受け入れられなくなったという時点でテレビに出るのをやめたのだと思う。2010年からは自主レーベルを設立して活動し、公式ストア「GDIRECT」が開設された。ファンクラブも自分たちで運営している。ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。それは大変なことだが、そのコメントをもらったファンは、一生GLAYのCDを買い続けるだろう。逆に考えると、1日30分やり続けるだけで、一生買い続けてくれるファンを毎日量産しているのである。これはとても効率的なマーケティングと言える。顧客に愛され続けるには「特別感」を提供し、ロイヤリティを持ってもらうこと。そのためには、一対一のコミュニケーションを提供することが重要。テレビで関係性の薄いファンをつくるより、関係性の濃いファンをつくるほうが効率的だ。社内に「商品カウンセリング課」をつくった理由「北の達人」には「商品カウンセリング課」がある。これは「カイテキオリゴ」の発売直後に創設された。商品を発売するときは、どんな問合せがきても答えられる状態にしてから発売する。商品に同封する「使い方の説明書」なども、商品カウンセリング課でつくり込む。最初は一般企業のようにカスタマー部門があり、そこのスタッフが商品について勉強し、お客様対応もしていた。だが、カスタマー部門の業務は多様だ。注文処理、配達日変更、決済方法の問合せなどもある。お客様の商品や健康、美容に関する問合せとは業務の種類が違う。そこで独立させることにした。商品カウンセリング課のメンバーは、管理栄養士、コスメコンシェルジュなどの資格所有者から構成されている。ここの部署にはルールがある。それは「商品を売ってはいけない」ことだ。お客様から商品の使い方に関する問合せがあったときに、「もう1個追加でほしい」と言われたら、「販売部に転送します」と言うよう徹底した。商品カウンセリング課は演歌歌手のファンとの交流の機能を果たしている。あるいはTERUさんのバースデーコメントのようなものだ。バースデーコメントが有料だったら意味合いが変わってしまう。お客様と商品カウンセリング課の担当者が直接対話することで、お客様の気持ちがわかる。お客様は、自分自身の悩み、暮らしの中で大切にしていること、価値観、家族の悩みなどを話してくれる。これでお客様の心理的な側面を理解することができる。商品開発やマーケティングを行ううえで、このプロセスはとても重要だ。お客様一人ひとりに割く時間と人件費はかかるが、得られる情報の質を考えると、利益につながる有用な投資となっている。AKB48も「演歌の戦略」で大ヒットマーケティングは、「ミュージシャンの戦略」がとても参考になる。GLAYはどうやってのびてきたか。シャ乱Q、LUNASEA、X(現XJAPAN)はどのようにファンを増やしてきたか。彼らの活躍はそのままマーケティング戦略の教本として使える。こうしたバンドも基本的に「演歌の戦略」を採用している。シャ乱Qは大阪城ホール前の路上で活動していた。路上ライブにきてくれた人と仲よくなる。楽曲だけでなく人間性も含めてファンをつくっていった。LUNASEAも、とことんファンを大事にする。Xもアマチュアのときからライブ終了後、きてくれたお客様を交えて懇親会を開いていた。こうしてお客様を少しずつ増やしていったのだ。この様子をじっくり見ていたレコード会社のプロデューサーは、「彼らの曲はよくわからないが、お客様を呼べる。デビューしたらCDは売れる」と考えただろう。
お客様をつかむという点がすごく大事だ。楽曲だけで勝負しているアーティストは、楽曲の出来不出来にヒットが左右される。「この曲はよかったが、この曲はよくなかった」というのでは常に不安定だ。一方、ファンとの関係性を築いているアーティストは常に安定している。秋元康さんがプロデュースしたAKB48のコンセプトは、「品質と満足度でお客様をつかむ」ことにあったと思われる。1980年代に秋元さんがプロデュースしたおニャン子クラブは、テレビで流行ったものの、一過性のブームで終わってしまった。このときに秋元さんは一対多のファンづくりは長続きしないと感じたのではないだろうか?そこでAKB48は、おニャン子クラブにはないコンセプトにした。秋元さんはマーケティングの本質が一対一であるとして、ファンを一人ずつつくっていこうとしたのだろう。だから直接会える劇場をつくった。一回目の公演のお客様が7人だったという伝説のエピソードがある。他のスタッフはテレビ業界の人たちなので、「失敗した」と思ったそうだが、秋元さん自身は最初からファンを一人ひとり増やしていく戦略で考えていたので、失敗とは思わなかった。そのほうが絶対根強いファンができると確信していた。すると実際、ファンがどんどん増えた。そして、AKB48の「一対一」を象徴する「握手会」は社会現象となった。AKB48も「演歌の戦略」なのだ。そして、一人で同じCDを何十枚、何百枚も買うファンまで現れた。ここまでくると行きすぎの感もあるが、そこまでしても応援したいという想いを持ったファンが出てきたのは、ある意味強烈である。「一対一のファンづくり」は絶大な影響力を生み出す。
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