Chapter2社長は「人」に頼るな、「仕組み」で戦え!!──ガーバー流「仕組み」経営8つの条件──
05「優秀な人材」に頼る会社は、いつか頓挫する
「人」に依存しないで「仕組み」に依存する
新幹線が東京から新大阪へ向けて運転するときのことを考えてみてほしい。新幹線を運転しているのがこの道30年のベテランでも、入ったばかりの新人でも、新幹線はほとんど同じ時間に目的地に到着する。
なぜか?そのように仕組みが設計されているからだ。ポイントは「人」に依存しないという点だ。
経営者(とくにスモールビジネスの経営者)が事業を維持・拡大していこうと思うのなら、この仕組みを構築しなければならない。
人に依存せずに回るビジネスの仕組みをつくるために、必要なことは何か?本章では、ガーバー流「仕組み」経営の入り口にあたる部分について見ていくことにしたい。
「優秀な人材」を一気に失った経営者
まず1つの事例をお話しすることにしよう。太田社長(仮名)はイタリア料理店を経営していた。斬新なメニューを取り揃えたこの店は、マスコミへの露出も多く、いつも予約でいっぱいだった。
勢いに乗って、開業2年目には彼の「右腕」だったシェフを店長にして2店目を出店した。その後も、やる気に溢れる太田社長は、店舗を広げようとは考えていたものの、なかなか次のシェフが育たず新規出店できずにいた。
そんなとき、偶然にも非常に優秀なフレンチシェフとの出会いがあり、「フランス料理店を開店してはどうか」という話になったのである。
いろいろと検討した結果、太田社長はその人物を採用し、3店舗目を展開するビジネスをスタートした。この店舗も太田社長の思惑どおり、またたく間に「行列のできるお店」となった。
それから数年後にはフレンチレストランをもう1店舗オープンした太田社長は、計4店舗を経営する順風満帆な若手社長として注目を浴びることになる。
「優秀な人材」はいつかは辞めると思え
状況が一変したのは、それから2年後のこと。彼が経営する3店舗の店長それぞれが、同時期に独立を希望したのである。
退職を希望する社員を無理に引き止めるわけにもいかず、結果、太田社長は店舗経営の要となっていた優秀な人材3人を一気に失うことになる。
当然、3つのレストランは閉店せざるを得ない状況になった。
こうしたことは経営者の多くが恐れ、また実際に経験している事態だろう。
太田社長曰く、「このときは3人に裏切られたような気分だった。いまでも思い出したくない」そうだ。
しかし、冷静に考えてみてほしい。「3人の店長に裏切られた」といえば、たしかにそうなのかもしれないが、彼らはそれぞれの店舗で身につけた自信と実績をベースに、「独立」という至極まっとうな選択をしただけだ。
ここで問題だったのは、3人の店長の忠誠心をしっかりと握っておかなかったことではない。むしろ、太田社長が「経営者のやるべき仕事」をしていなかったのである。
3人の従業員が退職しただけで、ビジネスが立ち行かなくなるということは、やはり根本的に何かが間違っているのである。
06「人」に仕事をつけるな、「仕事」に人をつけろ!!
「優秀な人材」の仕事は、誰も引き継げない
…この失敗例は、「3人の優秀な店長」という「人」に依存した結果である。彼らに大きく依存するビジネスモデルをとっていたため、店長が去った瞬間に店が回らなくなることは最初からわかっていたはずだ。つまり、「仕組み化ができていなかったこと」に原因があるのだ。
たとえば、食材の仕入れ先を把握していたのも、店長だけだった。店長が個人的に自分のノートにメモをして、個人で食材仕入れ先を管理していたのである。
そのため、店長がいなくなってしまうと、誰にも仕入れ先がわからなくなってしまったそうだ。
また副店長を置いていても、店長の仕事をすぐに引き継げるようにしていなかったので、店長が退職したあと、店は大混乱に陥った。
副店長がすぐに仕事を引き継げるような、マニュアルも存在していなかった。そもそも店長がどういう仕事をしていたのか誰も知らないし、会社全体のなかでどのような役割を担っていたのか、店員たちはよくわかっていなかったのである。
平凡な人材が非凡な成果を上げる仕組み化の発想
この状況を端的に言えば、「『人』に仕事をつけている」ということになる。つまり、店長という1人の特殊な人材に、彼にしかできない仕事を割り当てていたのだ。
そのため、彼が会社から消えれば、仕事も一緒に消えてしまう。だからビジネスが回らなくなる。ガーバーが「仕組み化」と呼ぶのは、それとちょうど反対の考え方だ。
すなわち、「仕事」に人をつける。誰がやっても同じように一定の成果が上がる仕事をつくり、そこに従業員を割り当てる。
その仕事を担当していた人がもし会社を辞めてしまっても、別の人をまたそこに補充すれば、しっかりと成果が上がる。これが仕組み化である。
「優れた人材」ではなく、「優れた方法」を探すべき
多くの会社がその本質において「人材志向」である。つまり、「誰が」その仕事を行うかに焦点を当て、結果を生み出す「優れた人材」に依存しているのだ。
「優れた人材」には、経験や実績があるうえにやる気もある。つまり、よい結果を出せると期待できる人材のことである。
人材志向の会社は、いつも「最高の人材」を探し求めている。仕事のやり方を最初からすでに知っていて、過去にとてもうまくやった経験があり、これからもそうし続けようという熱意のある人材がやってきてくれないかと期待している。
一方で、「仕組み志向」の会社は、「正しく仕事が行われているかどうか」に注意を払う。つまり、仕事の「やり方」のほうに焦点が当てられており、それを「誰がやっているか」は重視しない。
その仕事が「優れた方法」で進められているかどうか、その仕組みに依存して組織が回っている状況であるかを見ているのだ。
「優れた方法」というのは、経験が少ない、または経験が無い人たちでも最高の成果を生み出せるような仕組み(システム)のことだ。
仕組み志向の会社は、優れた人材を探さない。仕事を進めるうえでの「よりよい方法」を発見することのほうに力を入れている。
優れた仕組みは、「そこそこの人材」を「優れた人材」に転換することができるし、そうしたほうがはるかに効率よく会社の実力を高められるからだ。
人材は失われるが、仕組みは失われない
また、仕組み志向の会社は、会社にやってきた人材を「失う」可能性が絶えずあるということを肝に銘じている。
しかし同時に、いったん構築した「仕組み」は、よほどのことがない限り失われることがないとわかっている。
言い換えれば、「人材は会社の資産ではないが、仕組みは会社の資産だ」と考えているのである。
先ほどの太田社長は、典型的な人材志向の経営者だったと言えるだろう。
優秀なフレンチシェフに偶然出会えたのをきっかけに新店舗をオープンしたことが象徴しているように、「優れた人材」に依存しながらビジネスを拡大していたからだ。
仕組み志向の経営者であれば、たとえ優れた右腕に出会うことがあったとしても、徹底したマニュアル化を進め、誰がやっても会社の運営ができる体制づくりに心血を注いだはずだ。
そうした仕組みづくりがされていれば、その優秀な右腕が突然いなくなっても、会社が混乱することはなかっただろう。
「仕組み」経営に必要な8つの条件
社員の力量に依存した経営をしている限り、あなたに平穏な日々が訪れることはない。真の経営者(起業家)は、平凡な人材が非凡な成果を上げる仕組みをつくることに心血を注いでいるのである。
ガーバーはそうした組織をつくるための条件を8つ挙げている。
①ビジネスモデル誰がやってもお金が生み出される仕組み
②組織図会社のなかでの役割を明確にする仕組み
③職務契約書仕事の意味と目的を明確にする仕組み
④人事評価制度働く人の夢を叶える仕組み
⑤理念経営者の想いを伝える仕組み
⑥数値化現状の把握を可能にする仕組み
⑦マニュアル化平凡な人材を非凡に変える仕組み
⑧イノベーション社長がいなくても成長できる仕組み
ここからは、それぞれについてガーバーの考えを解説していくことにしよう。
07「仕組み」経営の条件①ビジネスモデル誰がやっても成果が上がるようになっているか?
「ただ」儲かるのではなく、「誰がやっても」儲かることが大事
仕組み経営のための第一歩は、ビジネスモデルの構築である。ビジネスモデルとは、そのビジネスがお金を生み出す仕組みだ。
最も基本的なビジネスモデルは店舗販売だろう。見込み客が歩きそうな場所に店舗を構え、商品やサービスを並べる。もう1つの古典的なモデルは、「えさ」で釣るタイプのビジネスモデル。
まず採算度外視の低価格(または無料)で見込み客に商品をまず提供しておき、それを「えさ」にしながら、関連する商品・サービスを売るというわけだ。
ひげそりと替え刃、携帯電話と通話料金、プリンタとインクカートリッジなどが代表例だろう。これ以外にも多数のビジネスモデルが存在する。
本書の主眼はそこにはないので詳述しないが、仕組み経営をするうえで重要なのは、「誰がやっても一定の成果が上がるようなビジネスモデルになっているか」ということである。
マクドナルドの主な利益は「店舗販売」ではない
たとえばマクドナルド。一般的にマクドナルドの収益の主軸は「ハンバーガーの店舗販売」にあると思われがちである。
しかし、マクドナルド本部の利益の源泉は、フランチャイズの権利販売売上とロイヤリティ収入である。
マクドナルド創業者であるレイ・クロックは「世界一おいしいハンバーガー」をつくることで事業を拡大しようとは思わなかった。
おいしい商品を提供することはもちろん大事だが、世界一おいしくなくても、最も優れた仕組みがあればビジネスで№1になれることを彼は知っていたのだ。
お金のなかったレイ・クロックがそこで考えたのが「フランチャイズ」である。実際、フランチャイズの成功率は、個人の起業よりも圧倒的に高いという結果が出ている。
脱サラしたばかりのビジネスパーソンがやっても、いきなり利益が上がるようにビジネスモデルがしっかりと構築されているからである。
そのため、マクドナルドにとって重要なのは、誰がやってもうまくいくフランチャイズの仕組みを用意したうえで、やる気のある人にフランチャイズの権利を買ってもらい、店舗の運営をしてもらうことなのである。
それに対して、フランチャイズの権利を買った側(フランチャイジー)は、純粋にハンバーガーなどの商品を売って利益を得ている。
つまり、「店舗販売型」のビジネスモデルなので、多くの人に来店してもらい、1秒でも速く1個でも多く商品を提供して回転率を上げることが重要になるのだ。
ワークシート②あなたの仕事のビジネスモデルを書いてみてください。
ガーバーの教えそのものも、仕組み化されたビジネスモデルである
マイケル・E・ガーバーがつくった起業家育成プログラム「ドリーミングルーム」も優れた仕組みでできている。
世界中のガーバー認定ファシリテーターが彼の分身となり、彼の代わりに起業家育成プログラムを伝えるようになっているのだ。
具体的には「起業家育成プログラムのテキスト」とそれを教えるためのマニュアルが用意されている。
このマニュアルの手順どおりにテキストを教えていくだけで、ある程度のレベルの人ならセッションを進めることができる仕組みになっているのである。
私自身、ガーバー認定ファシリテーターをやってみて初めてわかったことだが、プログラムが高度に仕組み化されているため、最初から驚くほど簡単にセミナーが運営できる。
ガーバーも、ファシリテーターの資格認定料やセミナー収益をロイヤリティとして受け取る「ビジネスモデル」を構築しているのである。
「欠けているもの」のなかに「偉大なもの」がある
ガーバーはよく「あなたのビジネスに欠けているものを探せ(What’smissingpieceinthispicture?)」という言葉を使っている。
欠けているものとは、もう少しわかりやすくいうと「一点突破」のことだ。お客様の不満を一点だけ突くのだ。
たとえば、コンビニエンスストアは「スーパーなどが深夜に開いていない」「買い物をするのに遠出しなければいけない」というお客様の不満を解消した。だから、定価で販売し、品揃えが多くなくても、大きな成功を収めることができたのだ。
マクドナルドは高度の仕組み化を達成することにより、世界中どこでも、同じ品質の商品とサービスを提供している。
スターバックスは、自宅でも職場でもない第三の安らげる空間を世界中で提供している。
ブックオフは、本の売り買いが容易な、明るい雰囲気の店舗を運営している。
この違いこそが、マクドナルドと普通のハンバーガー店の違いであり、スターバックスと普通のコーヒーショップの違いであり、ブックオフと普通の古本屋の違いであり、コンビニエンスストアと普通のスーパーの違いなのだ。
「オーディナリー(普通)なビジネスを、エクストラオーディナリー(偉大)なビジネスにしなさい」この言い回しを好むガーバーがつねに念頭に置いているのは、優れたビジネスアイデアなのである。
成功している人を「モデリング」する
ガーバーの言うビジネスモデルを理解するうえで重要なのが、「モデリング」の概念である。モデリングとは「理想の誰かを想定し、その動作や行動を見て、同じような動作や行動をすること」だ。
あなたのビジネスでモデリングできる人物、普通のビジネスを驚異的な方法で行っている人物を「モデル」として見つけるべきだというのである。
実際、多くの成功した個人や企業がモデリングを実践している。私個人がこれまで会ったモデリングの最高のプロフェッショナルは、ジェームス・スキナー氏である。
アンソニー・ロビンズ氏の4日間セミナーに参加するためロサンゼルスに行ったときのこと。アンソニー・ロビンズ氏は、ビル・クリントン元大統領や故ダイアナ元妃など多数の著名人を指導してきた世界トップのコーチであり、ジェームス・スキナー氏、ピーター・セージ氏、クリス岡崎氏など多くのセミナー主催者たちの師としても知られている。
私が参加したのは、UPW(UnleashThePowerWithin)という入門的かつ最も有名なセミナーだったが、何よりも驚いたのはこれがジェームス・スキナー氏の「成功の9ステップ」セミナーとそっくりだったことだ。
4日間のセミナーの内容はもちろんのこと、細かい演出から、黒いシャツを着たボランティアの役割まで瓜二つだったのだ。
ワークシート③あなたの成功モデルは誰ですか?書き出してみてください。
08「仕組み」経営の条件②組織図それぞれの「仕事」は明確に切り分けられているか?
社長一人の企業も「組織体」である
ガーバーが仕組み化のために必要な条件として挙げた2つめの要素が「組織図」である。ここで言う組織図は何か特殊なものではない。
会社内の仕事の位置づけと、それに応じた人の配置を表現したものである。
なかには「ウチくらいの規模だと組織図をつくる意味なんてないよ」という経営者もいるだろう。場合によっては、社長1人ですべての仕事をやっている会社もあるはずだ。
それを「組織図」というかたちで表現し直す必要があるのか、疑問に思う人もいるかもしれない。
しかし、ガーバーは「どんなに小さなビジネスにおいても組織図は必須である」と主張している。
この背景には、「規模のいかんにかかわらず、すべての企業は組織体である」という彼の思想がある。つまり、企業は組織図に表現してはじめて企業になるというわけだ。
組織図の完成は、とくにスモールビジネスにとって非常に有益だとガーバーは語っている。
たとえ1~2人しかいない小さな会社なのだとしても、あたかも大企業であるかのように経営をするべきだというのが、彼の基本的な立場であり、その第一歩が組織図の作成なのである。
組織図は「マニュアル化」のための基礎になる
組織図は、そのビジネスがどのように運営されているのかを雄弁に語るものでなければならない。
その組織にどんな機能があるのか、それがどう実行されるのか、それぞれの仕事の責任と権限がどこにあるのか、それぞれの機能の優先順位はどうなっているのか、といったことがひと目で理解できるようになっている必要がある。
これは会社全体の仕事を明確に俯瞰できる「魔法の地図」のようなものである。会社が持っている「仕事」を明確するメリットは何かと言えば、それは「マニュアルがつくれるようになること」である。どういうことか?解説しよう。
社内の「人」ではなく、社内の「仕事」にフォーカスできる
中小規模のビジネスにおいては、1人の人材が複数の仕事を兼務していることが多い。そのため、ある仕事の責任の範囲がどこまで及んでいて、どういう目的を持っているのかがすぐに不明確になる。
それぞれの仕事の境界が曖昧だからこそ、人にさまざまな仕事が貼りついてしまい、特定の仕事を別の人に引き継ごうとしても、なかなかそうできないような構造になってしまっている。
組織図の作成とはまず第一に、「人」を度外視したうえで、それぞれの「仕事」をくっきりと分けていく作業である。それぞれの仕事の位置づけが明確になると、マニュアル化が容易になる。
というよりも、組織図がない限り、優秀な人材に依存せず、マニュアルだけで回り続ける組織をつくることは不可能なのである。
組織図には「求められる結果・責任」も併記する
組織図をつくるといっても、大してお金も時間もかからないはずだ。
これこそが、社長がいなくても会社が回り続ける「仕組み」を構築するための次なるステップである。
すでに組織図を持っている企業も含め、いま一度、会社のなかの仕事を分類・整理してみるといいだろう。
左ページに日本経済新聞社の組織図を掲載しておいた。
ここに記載されているのはまだ上位の部署だけだが、実際にはさらにこれが細分化されているはずだ。
それぞれのポジション(職位)を書き終えたら、今度はそれぞれに求められる「結果と責任」についても書いていく。
左ページには具体事例として、起業系のセミナーを開催する会社の経営者である本多さん(仮名)がつくった組織図を挙げておいた。
本多さんの会社は、実際には社長である本多さん1人で切り盛りしている状況だが、将来の会社のあるべき姿をイメージしながら、組織図をつくってもらうことにした。
ワークシート④具体例を参考に、あなたの会社の組織図を描いてみてください。
09「仕組み」経営の条件③職務契約書それぞれの仕事の「意味」は明確に定義されているか?
従業員は「仕事の内容」は知っているが、「仕事の意味」を知らない
組織図がそれぞれの仕事の「位置づけ」をはっきりさせる作業なのだとしたら、今度はそれぞれの仕事の意味・目的を明確にする作業が必要になる。
そこでガーバーが勧めているのが「職務契約書」の作成である。もちろん、ほとんどの従業員は、自分がやるべき仕事が何なのか、わかっているだろう。
しかし、その本来の意味や目的までは理解していないことが多い。職務契約書はそれぞれの役割について、「なぜこの仕事が必要なのか?」にまでさかのぼって明確にするものでなければならない。
自分に求められていること、部下に対してすべきこと、上司に対してすべきことをはっきりさせるのである。職務契約書を通じて各自が自分の役割を自覚するようになれば、経営者がいなくても会社が回る基盤がさらに強固になるというわけだ。
たとえばウエイトレスという仕事の内容は、「注文を受けつけること」である。それをわかっていない従業員はいないだろう。
しかし、その仕事の本来の「意味」は何かといえば、それは「お客様に快適になってもらうこと」にほかならない。
会社の最終的な目的は、当然、売上予算を達成することだ。
しかし、売上が上がればいいというわけではない。なぜなら売上を達成することだけを考えて、店舗規模に見合わない数のお客様を呼び込んでしまえば、却ってお客様の満足度が下がってしまうからだ。
「ゲームのルール」に賛同してもらい、社員に自分で動いてもらう
職務契約書はさきほどつくった組織図のそれぞれのポジション(職位)について作成する必要がある。
盛り込むべき内容としては、次のとおりである。
・会社のなかの各ポジションが達成すべき結果
・そのポジションが責任を持って行うべき仕事
・評価の基準最後には、内容への同意を表明するために、本人の署名欄を設けておく。
重要なのは、仕事内容を記載しただけの書類ではないということだ。
あくまで会社(経営者)と従業員とのあいだで取り交わす「契約書」であり、いわば「ゲームのルール」をまとめたものである。
この職務契約書を取り交わすことのメリットはさまざまである。まず何よりも、従業員に対して責任感を持たせることができる。
また採用、研修、事業の売却、人事評価にも使うことができるので、企業価値を大きく高めることにもつながるだろう。
とくに、人事評価は職務契約書の内容に基づいたものでなければいけない。
たとえば、ここに書かれていないことで従業員を評価してしまうと、混乱を招きかねない。
ここにすべての評価基準を記載しておく必要がある。
さらにいえば、これが社内のあらゆる仕事の基準になるため、これを基準に「マニュアル」を作成できるようになることも大きなメリットだ。
適切なマニュアルづくりのためには、職務契約書の取り交わしが不可欠な土台なのである。
左ページには新聞販売店の店長の職務契約書を例として掲載しておいた。
面談しながら「読み合わせ」をするくらいがちょうどいい
最後に具体的な職務契約書の作成法・運用法について触れておこう。
理想的なのは、採用時や異動時に職務契約書を作成し、担当者(採用担当・人事担当)と従業員とで確認し合う機会を設けることである。
内容的には、組織図で書き出した、それぞれの職位に関する「責任と結果」をさらに細かく書いていくことになる。
しっかりと内容の読み合わせを行い、疑問に思うところがないか、従業員からの質問を受けつける。
お互いに納得ができたところで、最後に日付と署名を書いてもらう。
ワークシート⑤具体例を参考にしながら、あなたの会社の職務契約書をつくってみてください。
10「仕組み」経営の条件④人事評価制度社員に「給料の決まり方」を理解させているか?
「どうすれば評価されるか」を従業員は知っていますか?
ここまで、ガーバー流「仕組み」経営に必要な3つの条件について、それぞれ解説してきた。
次に、実際の実務において、非常に重要な仕組み化の条件となる人事評価制度についても見ておくことにしよう。
すでに触れたとおり、人事評価制度は、職務契約書と密接な関係がある。
人を採用する際に、職務契約書を取り交わし、その人の評価基準を定める必要があるのだ。
つまり、入社したばかりの従業員でも「自分が何をすれば評価されるのか?」について迷わずにすむようになっていなければならない。
より具体的に言ってしまえば、「どうすれば自分の給料が上がるのか?」を従業員がわかっていない企業では、究極的に仕組み化はうまくいかない。
マクドナルドの人事制度を支える3つのツール
ここでマクドナルドの人材教育について見ていくことにしたい。マクドナルドの創業者であるレイ・クロックは、ガーバーが徹底して研究してきた人物でもある。
マクドナルドの歴代社長の多くが、アルバイトから誕生していることからもわかるとおり、同社の人事システムは見事に仕組み化されている。
その特徴を端的に言えば、「何をすれば給与が上がるのか」がやはり明確になっていたことだ。
実務においては次の3つのツールが機能していたという。
①キャリアパス将来の道筋を示すツール
②トレーニング実際の技術を向上させるツール
③勤務評価仕事を適正に評価するツール
①の「キャリアパス」とは、働く人がキャリアアップしていく道筋を示したものだ。たとえば、100の習得すべき知識・技術がある場合に、「10だったものが20になれば、時給や地位がどれだけ上がるか」といったことを規定しているのだ。
②の「トレーニング」は、キャリアパスに基づいて自分がランクアップする際に必要な、習得すべき仕事のマニュアルやプログラムである。マニュアルに対応したチェックリストを使って、知識・技術の習熟度を確認していく。
③の「勤務評価」は、本人の努力によって習得した仕事や勤務態度を公正に評価するためのツールだ。
たとえば半年に1回、勤務態度や協調性、仕事の能力などいくつかの項目の仕事内容を評価するようになっている。
とはいえ、この人事制度は現在のマクドナルドではもう使われていないので、ご注意いただきたい。
なかでも、①の「キャリアパス」については、延々とスタッフの賃金が上がり続けて、労務費がかさんでしまうという問題が指摘されていた。
日本マクドナルドの全従業員数は17万人。1人の時給アップが積もり積もって、莫大な経費増につながる。右肩上がりの経済を前提にしていたわけである。
人事評価制度の設計ではこうした注意も必要だが、中小企業に関していえば、マクドナルドのような懸念は少ないと思う。
成熟企業であるマクドナルドと違って、中小企業は発展を続ける以外に生き残る道はない。従業員のモチベーション向上と企業の成長につながる人事評価制度を考えていくべきだろう。
ワークシート⑥具体例を参考に、あなたの会社のキャリアパス、トレーニング、勤務評価の制度をそれぞれつくってみてください。
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