はじめに
「努力」を「成果」に直結させる
無印良品には、全社員の「知恵と努力」の結晶ともいえる、二つの分厚いマニュアルがあります。業務をスムーズに行うための「社内の仕組み」と、店舗サービスのあらゆる「標準」が書かれているもので、〝無印良品のすべて〟が詰まったものです。本書では、このマニュアルの一部を公開しながら、「仕組みを大切にする働き方」を紹介していきます。マニュアルと聞くと「無機質で、冷たい印象がするもの」と思うかもしれません。しかし、本文で詳しく紹介しますが、無印良品のマニュアルは、決して無味乾燥なものではありません。むしろ、日々の仕事に生き生きと取り組みながら、成果を出していくことができる、最強の〝ツール〟です。楽しく、ムダなく働きながら、仕事の成果を出していくことができるのです。■なぜ今「仕組み」を公開するのか私はいま、無印良品を運営する良品計画の会長を務めています。そんな私が、あえて無印良品の秘密を公開して、仕組みの大切さを説く理由は大きく二つあります。
一つは、やや大げさな言い方になりますが、日本の経済を元気にするために、一緒に頑張っていきたいという思いがあるからです。いまの日本には、経済状況が厳しいなかでも、努力に努力を重ねているビジネス・パーソンがたくさんいます。しかし、そのような「努力」が、正しく「成果」に結びついていないケースが多いように感じています。では、どうすればいいのか。そのヒントが、「かつて不振にあえいだ無印良品」にあると思ったのです。おかげさまで無印良品は、国民的ブランドとして成長しました。今では海外でも「MUJI」と呼ばれ、日本発のブランドとして知れ渡っています。しかし、かつては業績が悪化し、「無印良品はもう終わりじゃないか」と業界内で囁かれていた時期がありました。私は、そのような〝谷底に落ちていた時期〟に社長に就任しています。そこで最初に取り組んだのは、賃金カットでもなく、リストラでもなく、事業の縮小でもなく、仕組みづくりでした。簡単に言うと、それは「努力を成果に結びつける仕組み」「経験と勘を蓄積する仕組み」「ムダを徹底的に省く仕組み」。これが、無印良品の復活の原動力になったのです。仕組みとは、組織の根幹にあたるものです。これがしっかり築けていないと、いくらリストラをしたところで、不振の根本原因は取り除けず、企業は衰退します。何事も「基本」がなければ「応用」がないのと同じように、「会社の仕組み」がなければ、そこから「知恵」も、ひいては「売上げ」も生まれません。逆に、・シンプルに仕事ができる仕組みがあれば、ムダな作業がなくなります。・情報を共有する仕組みがあれば、仕事にスピードが生まれます。
・経験と勘を蓄積する仕組みがあれば、人材を流動的に活用できます。・残業が許されない仕組みがあれば、自然と生産性が上がります。このような無印良品の「仕組み」は、あらゆる業務に及んでいます。神は細部に宿る──これは、ドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残したといわれる有名な言葉です。この言葉の意味についてはさまざまな解釈がありますが、ディテールにこだわることが作品の本質を決める、という意味ではないかと私は考えています。企業の力を決定づけるのも、やはりディテールであり、それが仕組みなのです。■「チーム・リーダー」がやるべきこともう一つの理由は、どんな業種でも、どんな立場でも、「仕組みを大切にする考え方」は働くうえで大いに役立つと考えるからです。この本は、経営者はもちろんですが、一般ビジネスマンの役に立つ内容になっています。とくに、会社の部課長クラスのチーム・リーダーには是非、読んでいただきたいと思っています。リーダーに悩みはつきものです。やるべきことはたくさんあるでしょう。組織あるいは部署の運営で頭を悩ませているのなら、まずは仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。大半の悩みは解決できるはずです。業績を伸ばそうとノルマを厳しくしたり、部下のやる気を引き出そうと発破をかけたりする。それも大切なことかもしれませんが、それより、仕組みをつくってみてください。そうすれば、人(部下)は自然と行動を変えてくれるはずです。チームの悩みの「答え」が、本書に書いてあるのです。リーダーが「努力を成果に結びつける仕組み」をつくらなければ、日本の企業はますます元気がなくなっていきます。逆に、仕事の生産性を上げられる仕組みを整えたら、おそ
らくどの企業も業績は回復するでしょう。ひいては、それが日本経済の復活にもつながるのではないか──と、私は考えています。本書が、日本の会社を元気にするきっかけになれば幸いです。松井忠三
商品開発から経営、接客まで……すべての仕事の原点
【無印のマニュアル①】あらゆる仕事を「標準化する」
【無印のマニュアル②】「商品名をどうつけるか」でわかること
【無印のマニュアル③】「仕事の効率を上げる」仕組み
【無印のマニュアル④】「勝ち続ける仕組み」のつくり方
「こうしたほうが、いいのに」を集める
序章 なぜ無印良品には〝2000ページのマニュアル〟があるのか
商品開発から経営、接客まで……すべての仕事の原点
無印良品の店舗で使っているマニュアル──MUJIGRAM。店舗開発部や企画室など、本部の業務をマニュアル化した──業務基準書。この二つの〝マニュアル〟には、経営から商品開発、売り場のディスプレイや接客まで、すべての仕事のノウハウが書かれています。MUJIGRAMは二〇〇〇ページ分にも及び、なかには写真やイラスト、図もふんだんに盛り込まれています。これほどの膨大なマニュアルをつくったのは、「個人の経験や勘に頼っていた業務を〝仕組み化〟し、ノウハウとして蓄積させる」ためです。ではなぜ、個人の経験と勘を蓄積させようとしたのか。「チームの実行力を高めるため」というのが答えの一つです。仕事で何か問題が発生したとき、その場に上司がいなくても、マニュアルを見れば判断に迷うことなく解決できる。たったこれだけのことでも、仕事の実行力が生まれ、生産性は高まるでしょう。メリットはそれだけではありません。マニュアルの各項目の最初には、何のためにその作業を行うのか──「作業の意味・目的」が書いてあります。これは、「どのように行動するか」だけでなく、「何を実現するか」という仕事の軸をぶれさせないためです。
は、実行力を養うテキストであり、自分が「どう働くか」を考えるための羅針盤にもなるのです。このマニュアルは、企業秘密がつまっているので、本来は社外に持ち出すことは厳禁です。今回は本書のために、特別に一部を公開し、その秘密を紹介していきます。
【無印のマニュアル①】あらゆる仕事を「標準化する」
たとえば、店の〝顔〟となる、店頭のディスプレイ──通りすがりの人の目を引きつけ、興味をもってもらい、店内に誘わなければなりません。マネキンのコーディネートなどは、それこそ「センスや経験が問われる作業」に思えますが、無印良品ではこれもマニュアル化しています。コーディネートを本格的に勉強するとなると、覚えるべきことは際限なくありますが、MUJIGRAMではたった一ページのなかにポイントを絞り込んでいます。「シルエットを△形か▽形にする」「使う服の色は三色以内」──基本はこの二点だけです。これとは別に、参考として「色についての基礎知識」を解説したページがあります。これで、誰であっても手探りをしながら、洋服を組み合わせられるようになる。極端にいえば、新入社員でもマネキンのコーディネートができるのです。どんな作業にも「うまくいく法則」があります。それを見つけ、標準化するのです。
【無印のマニュアル②】「商品名をどうつけるか」でわかること
無印良品の商品タグには、「商品名」と「わけ」(後述)が書いてあります。このタグ一枚で、商品の説明をすると同時に、〝無印良品らしさ〟を出さなければなりません。もし担当者がそれぞれの〝思い〟だけで考えると、表記もニュアンスもバラバラになるでしょう。そのため、業務基準書では、商品名とコピーのつくり方も決めています。「無印良品の商品名のつけ方=まずはお客様にとってわかりやすいこと」「ウールや麻、綿などの天然素材の名称は使って良い。コットンやヘンプは使わない」「言葉で飾り立てようとしない。正直なモノを語るには、正直な言葉で」──読む人に、無印良品の理念まで伝わるように解説されています。こうした基準をつくることで〝無印良品らしさ〟が徐々に浮かび上がってきます。実際にタグを見たお客様にも、それが伝わるでしょう。マニュアルは〝その会社が大事にしていること〟もはっきりさせてくれるのです。
【無印のマニュアル③】「仕事の効率を上げる」仕組み
仕事の効率も、「仕組み」によって高まります。たとえば、無印良品の本部では、「一八時三〇分以降の残業をしない」という決め事をつくりました。すると、「残業をしないために、何を優先するか。何を省くか」と考え始めるようになります。自然と、仕事の生産性を高める行動がとれるのです。また、ある部署では、「取引先の名刺を共有する」「商談内容を共有する」仕組みがあります。取引先の担当者を検索するムダを省くことができますし、商談相手の重複といったムダをなくすことができます。仕組みをつくり、共有して、実践・改善していく。すると、ムダな作業は減り、仕事に迷いがなくなります。余裕をもって業務に取り組めるようになるでしょう。結果、仕事の効率が上がっていくのです。
【無印のマニュアル④】「勝ち続ける仕組み」のつくり方
無印良品のように、全国にチェーン展開するような業種では、「どこに店を出すか」が経営の成否を決めるポイントになります。無印良品では、この「出店の可否判断」の方法まで業務基準書で決めています。候補地に関する情報の集め方から、現地調査の仕方、出店した場合の売上げ予測の立て方など、出店に関する評価業務をマニュアル化しているのです(集めたデータをもとに点数をつけ、S→A→B→C→D……と評価。C以上の評価の候補地について検討します)。この一連の流れを仕組み化することで、開発担当者の印象や勘で判断するのを防ぎ、誰でも等しく評価できるようになります。海外に出店する場合も、海外用の出店基準に沿って評価をしてから、出店するか否かを決めています。海外展開を成功させる秘密も仕組みにあるのです。
「こうしたほうが、いいのに」を集める
社外の方がMUJIGRAMを見ると、必ず「ここまで書くのですか?」と驚きます。たとえば、無印良品の店舗では五種類のハンガーを使っているのですが、それぞれに洋服をかける場合の注意点まで、写真入りで説明しています。「それぐらい、口でいえばわかるのでは?」と思われるようなことまで明文化する。これは〝仕事の細部〟こそ、マニュアル化すべきだという考えがあるからです。無印良品では、お客様がどの店舗に行っても、同じような雰囲気の中で、同じサービスを受けられることを目指しています。店の雰囲気は、店内のレイアウトや商品の並べ方、スタッフの身だしなみ、掃除の仕方……といった〝細部〟の積み重ねでつくられますが、このような〝細部〟は往々にして、個人個人で判断してやってしまいがちです。だから、社内で統一することが難しい。マニュアルにする必要がある所以です。「細かいことまで決められていて、ちょっとめんどくさいな」「仕事がルーティンだらけになりそうだ」と思われる方もいるかもしれません。それは逆です。マニュアルは、仕事に潤いさえ与えてくれます。無印良品のマニュアルは、現場で働くスタッフたちが「こうしたほうが、いいのに」と感じたことを、積み重ねることで生まれた知恵です。また、現場では毎日のように問題点や改善点が発見され、マニュアルは毎月、更新されていくのです。仕事の進め方がどんどんブラッシュアップされるし、自然と、改善点がないかを探しながら働けるようにもなります。このように、仕事が停滞せず、常に〝動いている〟様子を、私は「血が通う」と表現します。そして、MUJIGRAMや業務基準書は、無印良品にとっての血管です。血管が詰まれば、組織も人も動脈硬化を起こします。常に成長し続けないと、あっという間に衰退するのが、企業という生き物です。〝現状維持〟はありえません。反対に、マニュアルが更新され続ける限り、成長は止まりません。仕事のマニュアルは、成長を図るバロメーターでもあるのです。みなさんの会社はどうでしょうか?次章から紹介する、マニュアル(仕組み)を大切にする働き方を参考にしてみてください。
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