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第五章ダブルチェックによって会社と人を守る【ダブルチェックの原則】

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第五章ダブルチェックによって会社と人を守る【ダブルチェックの原則】

1人に罪をつくらせない2ダブルチェックシステムの具体的なあり方

第五章ダブルチェックによって会社と人を守る【ダブルチェックの原則】

この章で述べる「ダブルチェック」とは、経理のみならず、あらゆる分野で、人と組織の健全性を守る「保護メカニズム」である。仕事が、公明正大にガラス張りの中で進められるということは、その仕事に従事する人を、不測の事態から守ることになる。それは同時に、業務そのものの信頼性と、会社の組織の健全性を守ることにもなるのである。このため「ダブルチェック」というメカニズムは、どんな事情があろうとも、ゆるがせにできない、徹底すべき原則である。1人に罪をつくらせない私の経営哲学の根底にあるのは、「人の心をベースとして経営する」ということである。京セラを創業したころ、私は経営するということの責任の重さに眠れぬ夜が続いた。経営について何も知らなかった私は「何を頼りに経営していけばよいのか、拠りどころとなるのはいったい何なのか」ということを真剣に考え続けた。悩み抜いた末に「人の心」をいちばん大切にすべきだということに思い至った。うつろいやすく不確かなのも人の心なら、これほど強く頼りになるものはないというのも人の心である。実際、京セラそのものが私を心から信頼してくださった方々のご支援と信頼し合った仲間によって誕生したのである。このように人の心は大変大きな力も持っているが、ふとしたはずみで過ちを犯してしまうというような弱い面も持っている。人の心をベースにして経営していくなら、この人の心が持つ弱さから社員を守るという思いも必要である。これがダブルチェックシステムを始めた動機である。だから、これは人間不信や性悪説のようなものを背景としたものでは決してなく、底に流れているものは、むしろ人間に対する愛情であり、人に間違いを起こさせてはならないという信念である。

真面目な人でも魔が差してしまい、ちょっと借りてあとで返せばいいと思っているうちに、だんだんとそれが返せなくなってしまい、大きな罪をつくってしまう。これは、管理に油断があったためにつくらせてしまった罪でもある。よしんば出来心が起こったにしても、それができないような仕組みになっていれば、一人の人間を罪に追い込まなくてすむ。そのような保護システムは厳しければ厳しいほど、実は人間に対し親切なシステムなのである。このように社員に罪をつくらせないためには、資材品の受取、製品の発送から売掛金の回収に至るまですべての管理システムに、論理の一貫性が貫かれていることが必要である。個々の管理者のご都合主義によって、そのシステムの一貫性がそこなわれるようでは、わずかな管理者の判断ミスが、やがて、大きな問題へと発展してしまう。さらに経営者が、会計、資材などの管理システムの運用に関して、時と場合に応じてつじつまの合わない判断をするようなことがあれば、自らの経営の一貫性を否定することになり、それは管理システム全体を崩壊させてしまうことにもなる。最近の各界での不祥事を見ても、経営者の自己本位な甘い判断が、会社を揺るがすような大問題へと発展していったことがわかる。このような点に関しても経営者はまず自らを厳しく律するようにしなくてはならない。「ダブルチェックの原則」を間違いの発見やその防止のためのテクニックであると考える人もいるかもしれない。しかし、このような厳格なシステムが必要な本当の目的は、人を大切にする職場をつくるためなのである。複数の人間や部署がチェックし合い確認し合って仕事を進めていく。このような厳しいシステムが存在することによって、社員が罪をつくることを未然に防ぎながら、緊張感のあるきびきびとした職場の雰囲気が醸し出されるのである。このようにして経営を管理するシステムを正しく十分に機能させるようになって初めて、さらに次元の高い愛や利他の心にもとづいた経営ができるようになるのである。2ダブルチェックシステムの具体的なあり方先に述べた通りダブルチェックとは、人に罪をつくらせないための原則であるが、その要点は具体的なチェックシステムの構築にある。そのため、創業以来、私は具体的な管理方法を一つ一つ確立してきた。いささか詳細であるが、具体例を挙げながら、ダブルチェックの管理方法を説明していきたい。入出金の取扱い入出金の管理においては、お金を出し入れする人と、入出金伝票を起こす人を必ず分けることが原則である。小さい会社の場合、たとえば社長自らが出金伝票を切り、そして自分で現金を出すということが、日常的に行われている。これでは、悪意はなくともいくらでも勝手なことができるし、厳密な管理はできない。それを防ぐためには、伝票を起こす人と金を扱う人とを必ず分ける必要がある。銀行に預金をするにしても、資材で買ったものの支払いをするにしても、労務費の支払いをするにしても、またその他の経費の支払いをするにしても、支払いをする者と、伝票を起こす者は必ず別にしなければならないのである。支払担当者は、伝票が正しく発行されたものかをチェックして支払うが、支払うのはあくまで伝票にもとづいてであって、自分の意志や判断によるものではない。支払いが必要な者は、必ず記載内容を正確に記入し、必要な証拠書類を付して伝票を起こし、支払担当者に支払いを依頼しなければならない。また入金の場合も、振込があったからといって、お金を扱う担当者が入金伝票を切って処理してはならない。その入金にかかわる担当者、担当部署に連絡し、入金内容を明確にした伝票を起票してもらい入金処理をするのである。すなわち伝票を起こす人と金を扱う人は絶対に切り離すというのがダブルチェックの原則なのである。現金の取扱い小口現金を扱う場合は、毎日の締めにおいて現金の残高が伝票から作成した残高表と一致することは当然である。しかし、これは現金の出し入れの都度、現金の残高と帳面の残高が一致しているということの結果でなければならない。すなわち、締めのときにつじつまを合わせるというのではなく、すべての時点において、現金の動きと伝票の動きが合致していなければならないのである。そのためには業務時間内に適切な頻度で、現金担当者以外のものが現金残高と伝票とをチェックするようにしなければならない。現金が動いている状態で確実なチェックが担当者以外の者によってなされていれば、万一問題が発生したとき、その原因を見つけ出すのが容易になるし、担当者を守ることにもなる。会社印鑑の取扱い私は会社を創業以来、研究、製造、そして、営業に飛びまわって、机に座っている時間

すらほとんどなかった。そのため、会社代表印や銀行届出印についても、どうしても社員に任さなければならなかった。そこで、そうしていても安心できるように、印鑑の管理について自分なりのシステムを考えた。印鑑箱は二重にして、外箱は手提げ金庫、内箱は小型の印鑑箱とする。そして内箱の鍵の管理者である捺印者と外箱の鍵の管理者とをかならず別の者にして、いわゆる相互にチェックできるようにしたのである。もちろん内箱はその鍵を開け捺印するとき以外は、つねに外箱の中に収められていなければならない。内箱を取り出して持ち歩くことは禁じられている。内箱を閉める際には、あるべき印鑑がすべて収納されていることを別の者に確認してもらって施錠してもらう。当然ながら捺印のとき以外は、印鑑箱は内箱・外箱とも施錠されたうえで大きな耐火金庫の中に保管されている。この耐火金庫の開閉もまた別の者が行う。このようにダブルチェックシステムの基本は、「一人ですべてができるようになっていてはならない」ということである。金庫の管理耐火金庫がたとえばシリンダー錠とダイヤル錠とを備えている場合、かならず両方を施錠し、印鑑箱と同じように別々の者が開錠するようにしなければならない。金庫は業務時間内であっても、常時施錠し、朝晩の定期的な開錠を含め、必要があって開ける際には、必ず立会者を置いて複数の人間で金庫からの出し入れを行うようにするべきである。耐火金庫、手提げ金庫も含め、金庫に保管すべきものはきちんと定められたもののみとし、特定された者以外の者が金庫を利用し、出し入れを行うことは禁ずるべきである。購入手続物品やサービスの購入についても、ダブルチェックシステムは不可欠である。要求元部門はかならず購買担当部門に対する購入依頼伝票を起こして、購買担当から発注をしてもらうというシステムにすべきである。要求元が業者に直接電話などで依頼したり、値段や納期の交渉をすることは禁じなくてはならない。急ぐ場合もあるかもしれないが、会社の正規の購買システムで購入することは、ダブルチェックにもとづく管理システムを崩さないためにも必要なことであり、業者に対する確実な支払いを保証することにもなる。さらに、購買にともなう業者との癒着などの問題を未然に防ぐことにもなる。

売掛金、買掛金の管理営業は通常の営業活動はもちろんのこと、売掛金の入金まできちんと責任を持つというのが原則である。売掛残高の管理は、別の営業管理という管理部門が行い、残高の明細を営業に報告して契約通りの入金をうながすとともに、滞留しているものについてその原因と対策を明確にし早急に解決するよう指示する。ただし、集金に行く場合でも営業管理は直接に集金に行かず、各営業所の営業管理が発行した領収証を持って営業が客先に集金に行く。入金された手形、小切手は、すぐに本社経理に送られて、銀行で現金化する。客先から振り込まれた入金も同様に、本社経理にて集中管理される。売掛金に対する責任は営業にあるが、各営業所の営業管理と本社経理が、それぞれ売掛金残高と入金を管理する。同様に、買掛金についても、発注部門の検収にともなう買掛金の計上および買掛金残高の管理は購買部門が行い、買掛金の支払いは本社経理に集中させて管理させる。このようにして売掛金、買掛金の管理においてもダブルチェックを徹底させなくてはならない。作業屑の処分商品の販売に関する管理には厳格であっても、たとえば工場における貴金属の作業屑などの処理については担当者や業者に任せきりになる場合が多く、業者の不正確な秤量が見過ごされたりすることもある。しかし、屑処理といえども、何カ月分かたまれば、驚くような金額の屑代が発生することがある。数量を確認する際には、必ずダブルチェックをしなければならない。ここでも業者に接触する担当者に罪をつくらせないようなシステムが必要なのである。自動販売機、公衆電話の現金回収わずか十円の公衆電話だからと、その現金の回収にはとくに注意を払っていない場合がある。公衆電話や自動販売機のお金の管理は、総務の担当者一人に任せているケースもある。一回に取り扱うお金は微々たるものかもしれないが、それもたまれば大きな金額になる。さらに何年もそのまま一人の担当者に任せておけば、それは大変な金額になっていく。このように些細に見えることであっても、お互いにチェックできるよう必ず二人で金額を確認すべきである。ダブルチェックの原則は、金額の大小にかかわらず必ず守らせる。これは経理の鉄則である。

以上は、一見当たり前のことであるが、当たり前のことを確実に守らせることこそが実際には難しく、それだけに大切にすべきことなのである。ただし、それは指示するだけでは徹底されない。トップ自らが、本当に守られているのかを現場に出向き、ときどきチェックしなくてはならないのである。繰り返し確認していくことによって初めて、制度は社内に定着していく。しかし、その根底には、社員に決して罪をつくらせないという思いやりが、経営者の心の中になくてはならないのである。

 

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