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第六章採算の向上を支える【採算向上の原則】

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第六章採算の向上を支える【採算向上の原則】

1時間当り採算制度とは2付加価値を追求するアメーバ経営3時間当り採算と会計との関連4管理会計報告としての時間当り採算制度5売価還元原価法による経営6アメーバ経営と売価還元原価法における原価の考え方7時間当り採算制度は魂を入れないと生きない

第六章採算の向上を支える【採算向上の原則】

企業の会計にとって自社の採算向上を支えることは、もっとも重大な使命である。採算を向上させていくためには、売上を増やしていくことはもちろんであるが、それと同時に製品やサービスの付加価値を高めていかなければならない。付加価値を向上させるということは、市場において価値の高いものをより少ない資源でつくり出すということである。また、それは、事業活動により従業員の生活を向上させていくと同時に社会の発展に貢献するための前提条件となるものでもある。一般的には、「採算の向上」というものは、経営を管理するための「管理会計」の役割であり、企業の業績と財務状態を正しく外部に報告するための「財務会計」とは性格を異にしている。しかし、「管理会計」も「財務会計」も経営者にとっては等しく経営に必要な会計なのであり、経営者は管理会計が財務会計の決算にどう関連しているのかを正確に把握していなければならない。京セラでは、本書で述べている「会計学」と「アメーバ経営」と呼ばれている小集団独立採算制度による経営管理システムが両輪として、経営管理の根幹をなしている。それは京セラの経営哲学という基盤のうえに、会計学とアメーバ経営という二本の柱によって支えられている家にも例えられる。もちろん、この二本の柱のうち一本が欠けても家は支えられないように、お互いが相手を補完する関係にある。私は京セラが急速に成長していくにつれて大きくなっていく組織を事業展開に合わせて小さく分割し、各組織が一つの経営主体のように自らの意志により事業展開ができるようにした。これがアメーバ経営と呼ばれているものである。各アメーバはそれぞれがプロフィットセンターとして運営され、あたかも一つの中小企業であるかのように活発に活動する。そのリーダーには、上司の承認は必要だが、経営計画、実績管理、労務管理などの経営全般が任されている。アメーバ経営とは、社員一人一人が自分のアメーバの目標を十分に把握し、それぞれの持場・立場でその目標を達成するために懸命な努力を重ね、その中で自己実現ができることをめざした、全員参加の経営システムなのである。京セラのアメーバ経営をすべて語ろうとすると、さらに本一冊は要することになる。それほど内容が豊富であるため、本書ではアメーバ経営の中で会計学に密接に関連している部分、つまり、採算を向上させるため非常に重要な役割を果たしている管理会計システ

1時間当り採算制度とは社会の経済的発展をもたらすものは、人間が仕事などを通して創造する新しい経済的価値である。この発展の源となる「価値」をより多く生み出すには、できるだけ少ない経費でできるだけ大きな経済的価値を創出する必要がある。企業経営にとって、このことは最小の費用で最大の売上を得ることを意味する。消費する資源を少なくすること、これはとりもなおさず、倹約精神に徹することである。お客さまが必要とする製品やサービスを提供するために費やすあらゆる支出に一切の無駄があってはならない。製品をつくるために使う原料、消耗品、燃料や電力、また設備機械やさまざまな管理費用、さらには物流コストを含む販売費用に至るまですべての項目で可能な限り節減をしなければならない。これは経営の基本でもあるが、それと同時に、大切な資源を節約することにもつながる。ところで、売上を増やそうとすると通常それに比例して経費も増えてしまいがちだが、私はそうではなく売上はあらゆる智恵と工夫を使って増やす一方、経費はつねに徹底して切り詰めるようにすることが経営の原則であると考えてきた。時間当り採算とは、この「売上を最大に、経費を最小に」という経営の原則を実現していくために、売上から経費を差し引いた「差引売上」という概念を考えたことから始まった。この差引売上は、一般的な経済用語で言う「付加価値」と呼ばれるものに近い。企業が発展していくためには「付加価値」を生み出し、高めていかなければならないのである。そこで私は、われわれが日常働く中で生み出しているこの付加価値をできるだけわかりやすく表現するために、単位時間当りの付加価値を計算して「時間当り」と呼び、付加価値生産性を高めていくための指標とした。そして、「時間当り採算表」を管理部門に毎月作成してもらい、現場で作業している従業員にも採算が簡単に理解できるようにしたのである。表では、この時間当り採算の計算方法をわかりやすく説明するために、製造部門アメーバの「時間当り採算表」の雛型を示している。表は、左から項目、計算式、金額の順で表示されている。項目は、まずアメーバの収益を示す生産高の数字から始まっている。最初は「総出荷」(グロス生産高を示す)が示されているが、これはそのアメーバが客先に対して直接出荷する製品の生産高である「社外出荷」に、社内の他のアメーバに提供したモ

ノやサービスの生産高である「社内売」を加えたものである。しかし、これはまだアメーバの収益の中心となるコンセプトではない。この「総出荷」から、他のアメーバから購入した「社内買」を差し引いたあとの「総生産」(ネット生産高を示す)こそが、製造アメーバの収益を示す指標である。この「総生産」が、アメーバの生産実績とされ、アメーバ経営における重要な指標となる。

一般の管理会計システムにおいては、ある採算単位の部門が社内の他の部門から購入した製品やサービスは、社外から購入したモノと同様に、コストとして扱われ、原価または社内価格によって計上される。しかし「時間当り採算制度」においては、社内における各アメーバ間でのモノやサービスの取引はあくまで、社外に対するものと同等の取引として扱われ、その取引価格は双方が交渉のうえで納得した「マーケットプライス」でなければならないことになっている。すなわち売る側と買う側のアメーバの間で市場取引と同様の価格交渉が行われ、購入先についても原則として選択の自由を持っているのである。この「マーケットプライス」による社内売買が、売る側のアメーバにとっては生産高にプラスとして加わり、買う側においては生産高のマイナスとなる。したがって、各アメーバの「総生産」を全社合計すれば、そのまま会社全体が客先に対して出荷する生産高となる。このため、あるアメーバの正味の生産高である「総生産」が、全社の生産高に対してどれだけ貢献したかもすぐわかるようになっている。この結果、社内向けの生産しかしていないアメーバでも、その「総生産」は会社全体の生産高に貢献していることが明確に認識でき、会社としての一体感も高めることができるのである。このように「時間当り採算」は、「アメーバ」が独立した一つの経営責任単位であると同時に、決して単独で経営できるものではなく、他のアメーバと結びつき合って初めて経営できるということ、つまり、会社の不可分の一部をなしているということを示しているのである。誰もがより大きな全体の中で支え合い共存共栄しているという考え方がアメーバ経営の根底には存在する。アメーバ経営の目的は、アメーバ同士をはげしく競争させ合うことにあると理解されやすいが、これは誤解である。アメーバ経営とは、限られたパイの奪い合いではなく、アメーバ同士がともに助け合い、また切磋琢磨し合う結果としてともに発展していくこと、そして、アメーバ間の取引が市場ルールでなされることにより、社内の取引に対しても「生きた市場」の緊張感やダイナミズムを持ち込むということを目的としているのである。2付加価値を追求するアメーバ経営大企業の製造部門では、一般的に過去のデータなどをもとにあらかじめ標準原価を計算しておき、実際の原価と比較することで原価管理を行う「標準原価計算」が管理会計の常

もちろん仕掛品を評価しないという方法は、対外的な決算報告に用いることはできない。決算報告を行う他のすべての企業が、仕掛品の期末残高を報告しているのだから、決算報告は同じベースで計算しないとフェアではない。企業として社会的な会計制度と整合性を保った決算報告書を作成するのは当然の義務である。3時間当り採算と会計との関連時間当り採算においては、アメーバの構成メンバー全員が、自らのアメーバの経営状況をリアルタイムに、手に取るように理解できることが、いちばん重要である。そのために、日々の経理処理は「正確、明解、迅速」でなければならない。発生したものは、ただちにそのアメーバの収益または費用として認識されるようにしなければならない。これは「一対一の対応」という原則の実践でもある。生産実績、出荷実績については、当然ながらアメーバはその個々の内容と実績総計を日々把握しており、それは翌朝の売上生産日報により検証される。また、資材経費や支払経費もつねにアメーバによって把握されており、翌朝配布される経費日報等の電算資料によって検証される。この結果、各アメーバは経営の実態をとりまとめられた数字による全体的な姿、つまりマクロで把握するのと同時に、その数字を構成する一つ一つのものを具体的に、すなわちミクロで理解することもできるのである。また、アメーバ経営においては、そのアメーバがすべての収益および費用を自らの責任のもとで管理できるようにしている。たとえばあるアメーバで発生した貴金属の屑の売却は、当然そのアメーバの収益として扱われる。会計上は経常利益には含まれず特別利益となる機械設備の売却処分益も、それを処分したアメーバの収益となる。同様に特別損失となる機械設備の廃棄処分損失もそのアメーバの負担となる。このようにあらゆる収益費用は、いずれかの部門の責任において発生しているはずなので、発生したときにどの部門のものかが明確になるようなシステムを構築しているのである。この意味で発生した費用をどの部門が負担するのかでアメーバ間に問題が起きたり、アメーバに知らなかった費用が突然振り替えられてくる、ということがあってはならない。それでは「アメーバ自らが責任を持って経営をする」というアメーバ経営の原則に反することにもなる。そのために経理がたんに「会計的な判断」だけで勝手に負担部門や勘定科目を決めるのではなく、アメーバの責任者がルールに従い自らの判断で経費を管理できるシステムとしているのである。

このようにアメーバ経営では基本的に各アメーバが直接管理ができ、責任を持てる費用がアメーバ採算に反映されるようになっている。たとえば、工場等でアメーバ経営をサポートする際に必ず発生する間接費、具体的にはアメーバに対してサービスを直接提供する工場や事業所の総務、人事、資材、経理などの間接部門の費用も、「共通費用」としてアメーバが納得できる方法で負担するようになっている。この結果、間接部門のメンバーは自分たちがアメーバの収益によって支えられていることがよくわかり、できるだけ経費を切り詰め、より効果的、効率的にアメーバに対するサービスを提供しようと努めるのである。他方で、本社の総務、人事、資材、経理などの管理部門の経費はアメーバに負担させることはしない。本社管理部門は、その業務上の管轄下にある工場・事業所の間接部門を通して各アメーバにサービスを提供するが、工場や事業所のアメーバと日常的な接触を持たない。このようにアメーバが直接に影響をおよぼすことができない本社経費はアメーバに負担させないようにしている。一般に事業部門を独立採算にして損益計算書を作成する場合には、本社経費を事業部門に「一般管理費」として負担させることが多い。しかし、時間当り採算制度においては、アメーバの経営主体としての立場をできるだけ尊重するためそのような会計上の常識にはとらわれず、直接アメーバと関係のない本社経費はアメーバの負担とはしていないのである。なお、本社管理部門において実際に発生した費用は、全社の月次の会議において、各部門から予定と対比して報告され、各々の部門で厳しく管理されるが、その費用は本社部門という項目で計上されている。現在京セラではこのような本社管理部門の経費や、全社的な戦略的費用などは、本社部門の収入となる資金運用収益などによってまかなわれている。アメーバ経営における費用の負担は、以上述べてきたように非常に厳密に取り扱われている。どこかで「どんぶり勘定」となり、まとめて費用を負担したりするようなことは決してない。実際、京セラ内では各部門で毎日あらゆる費用が厳しくチェックされ、それがどのように少額なものであったとしても、自部門で負担すべきではないものについては、その費用を実際に負担または分担すべき部門に対して「経費移動」と呼ばれる費用の付け替えを行うようにしている。この「経費移動」は同一工場内のみならず全社をまたがって行われるので事務処理は増えるが、あらゆる処理を公正、公平に行うことによってのみ、アメーバのモラルや活力は維持されるのであり、その意味で不可避なものなのである。「管理会計」による報告と、対外的な決算報告である「財務会計」の報告とは、一般には異なった性格を持ち、相互に独立したものだと考えられている。しかし、双方とも経営

の実態を正確に認識するためのものである以上、両者の報告内容の間には整合性がなければならない。実際、京セラにおいても、「管理会計」報告である「時間当り採算」と社外に公表する「決算」との間には明瞭な整合性が保たれている。そのために、各アメーバは、自分たちの実績が会社全体の業績に直接に結びついているという認識を持つことができている。こうして毎年、年頭の社長による「経営方針」の中では、「決算ベース」の会社全体の業績目標が、各々の事業部の「時間当り採算ベース」の業績目標と密接に結びつけられ発表されている。4管理会計報告としての時間当り採算制度アメーバ経営は、私の経営哲学を具体化したものであり、管理会計報告としての時間当り採算は、私の経営哲学に根ざした会計学の原則がベースとなっている。このため時間当り採算制度では、会社の決算書とは異なり、モノとお金の動きとの「一対一の対応」によって積み上げられた数字を、そのままとりまとめたきわめて単純な様式を採用している。各アメーバにとって時間当り採算は、自分たちの仕事の結果がそのまま数字となってまとまったものであり、その意味で自分たちがつくった採算となっている。京セラにおいてこの時間当り採算と会社決算とを結びつける役割を果たしているのが、月次決算書である。月次決算では、時間当り採算の「時間当り付加価値」と、会社決算上の利益とを結びつけ、各事業部が決算上の利益において会社全体にどの程度貢献しているのかを具体的に示している。すなわちこの月次決算報告とは、各事業部ごとの時間当り採算実績を決算書のフォームで表現したものであり、毎月早々に全社の事業部に配布されている。時間当り採算は経営管理と呼ばれる部門が作成しているが、月次決算報告は経理部門が作成し、時間当り採算にはあらわれない人件費を費用として計上して利益を計算している。また、この月次決算報告では事業本部ごとに製造アメーバの「生産ベース」の採算と、営業アメーバの「売上ベース」の採算とを一体化し、製品在庫分の生産利益を控除して、会社決算で用いる「売上ベース」の業績に変換している。このような変更が一部あるものの基本的には、月次決算も各アメーバの動きを「一対一の対応」によって集約したデータベースにもとづいて作成されるものであり、時間当り採算と同じ事実を表現しているものである。そして決算期末には、この月次決算の累積に、主として仕掛品の「期末実地棚卸」による各棚卸資産の期末評価を中心とする「決算修正」を加えて、会社の決算書とするのである。

なお、製造事業部の時間当り採算報告において「総生産」に対応する利益指標としての「差引売上」からその事業部の人件費を引けば、月次決算上の「税引前利益」となる。この「税引前利益」は、時間当り採算と会社の決算を結びつけるキーとなる数字である。アメーバ経営では、アメーバが自らの責任で作成する月次予定および年次マスタープランが重要な役割を果たしている。アメーバ経営の本質は、アメーバのメンバー全員が現在の自らの姿を文字通りリアルタイムで正確に把握し、目標を達成するために必要な行動を即座に次々ととっていけるということである。そのためにもアメーバはあらかじめ自ら立てた年次のマスタープランや月次の「採算予定」を自らの明確な目標として位置づけ、それに対し実績がどうなっているのかをつねに完全に認識できるようにしなくてはならない。このために、時間当り採算表は、当月の予定およびマスタープランと実績とが簡単に対比できるような様式になっているのである。ところで私は経営において予定というものは、実績数字と同様に、いやそれ以上に重要なものであると考えている。「予定」つまり「目標」は経営者の意志の表現であり、自らの手で新たにつくり出そうとしていくものを描き出したものである。その意味で予定は決して変更されるようなものではなく、アメーバの仲間と一緒にどんなに環境が変化しようと最後までめざすべきものなのである。以上のような仕組みと考え方により、京セラにおいて時間当り採算制度が運用されており大きな効果を上げている。5売価還元原価法による経営企業会計の基本的ルールである「企業会計原則」では、製品や仕掛品の製造原価は適正な原価計算によって算定することになっている。したがって、社内に原価計算制度が確立していないと、会計監査上の重要な問題となる。とくに株式を公開する企業については、投資家を保護するために、その企業の持っている会計システムや管理システムが適正かどうかについて厳格なチェックがなされる。このため京セラが株式を上場する際、一般的な原価計算を行っていないことが上場資格審査上問題になるのではないかという懸念があった。しかし、通常原価計算とされるものは非常に煩雑であり、原価計算の担当部署を特別に必要とするほど労力と時間がかかる。そして実際やってみると、その結果が実態を正確にあらわし、経営に役立つとは必ずしも言いがたい。たとえば、通常よく使われる標準原価計算と呼ばれる方法では多岐にわたる製品を製造

している場合、標準となる原価の設定だけにでも大変な作業が必要となり、さらに、つくったロットの大きさによっても原価が大きく変化してしまう。京セラの場合は、多品種少量生産を行っているので、もしこの方法を採用するとすべての品目ごとに原価計算を行うためには非常に膨大な作業が必要となるし、またわざわざ本格的な原価計算を導入しても実際的な価値や効果がなく、「時間当り採算制度」ともまったくなじまない。そのため京セラでは決算報告のためには、当社の考え方に合った「売価還元原価法」という方式を用いて期末の製品と仕掛品の棚卸資産評価をしていた。上場資格審査の際も、一般的な方法とは異なるがこの方が合理的だと考え、その旨を申し入れ、結果として審査をパスすることができた。「売価還元原価法」というのは、製造にかかったコストを積み上げて原価を求めるのではなく、その製品にあてはまる原価率をあらかじめ計算し、それを個々の売値にかけて「売価を原価に還元する」という方式のことである。私は「値決めは経営である」と考えている。そのため京セラにおいては個々の製品の売価はすべて多大な努力を注いで決められている。そして、その売値において客先の満足する完璧な製品を最小の経費でつくれるように努力工夫をしている。その結果として利益は生まれるのである。私はこれこそが経営の基本であり、その意味で、売値も原価も固定したものではありえないと考えている。このような考えをベースにして経営しているため、標準原価計算によりすでに支出された過去の原価を積み上げて仕掛品や製品の評価をするのではなく、売値に着目して売価還元原価法にもとづき仕掛品や製品を評価することにしたのである。6アメーバ経営と売価還元原価法における原価の考え方決算時の在庫評価を標準原価計算で行うと、経営の実態をあらわせないことがある。つまり、在庫品の中に原価がすでに売価よりも高くなっているもの、売ったら損をするというものも出てくるのである。たとえば、一個三百円で問屋に卸していた売れ筋製品があり、この原価は二百五十円とする。ところが、追随してきた類似品が市場に出回ってくると、末端価格は急速に下がる。そうすると、次の新製品が導入できるまで、問屋のマージンは保証してでも市場のシェアを維持しようと、思い切って値下げし二百円で問屋に出すということも起こる。この場合、期末時点で残った在庫は、決算上はもとの原価のまま二百五十円で計上され、そのベースで税金を払うのがふつうである。たたき売りの在庫処分を始めた場合でもない限り、税法上は在庫評価を原価より下げることが認められないからである。しかし、翌期にこの二百五十円と評価されていた在庫を二百円で売り出すと損失が出ることになる。このように在庫が正しく評価されないようでは、健全な経営とは言えない。「アメーバ経営」では、原価がずっと同じことはありえないと考え、つねにあらゆる工夫をしてコストダウンをするようにしている。いくらマーケットにおける売価が下がろうとかならず採算を確保できるようにつねに経費を減らし、生産性を上げる工夫がうながされるようになっている。自由な競争が行われる市場経済においては、マーケットにおける売値は当然つねに激しく変化する。そうであるなら、固定した価格や固定した原価を前提とする経営はありえない。売価還元原価法を用いているとマーケットの値段が日々変動しても、期を通じてその製品に関係するグループ全体が赤字でない限り、売値を上回る原価で在庫が計上されるようなことにはならない。この意味で、売価還元原価法は製品の市場販売価格と実際の製造コストとの関係にもとづいたものであり、またつねに発生しうる価格の低落を在庫評価に自動的に織り込むことができるものである。どのような方式の原価計算をいかに正確にしても、過去の原価に固執して在庫評価をすることは、経営を見誤らせてしまう。そうであれば、市場の変動をもっとも敏感に反映する売価還元原価法は、経営者が正確な在庫評価をするために適した方法であると言える。7時間当り採算制度は魂を入れないと生きない企業というものはつきつめて考えれば人間の集団でしかない。それをたんなる烏合の衆ではなくひとつの生命体としてまとまったものにするには、その集団のリーダー、つまり経営者が社員から信頼され尊敬されていなければならない。そうでなければ経営者が指し示す目標をどんな困難があろうと達成しようという社員がいるはずはないからである。このようにすべての社員から尊敬され「この人のためなら」と心から思われるような経営者となるためには、自らの人格を高める努力を続けていかなくてはならない。また、そこまで人間ができていなくても、一緒に仕事をしていく社員に、経営者としての誠意は理解してもらわなければならない。そのためには、経営者自身が会社や社員のために誰にも負けない努力を重ねていくことがもっとも大切になる。京セラ急成長の要因は、高度な技術力とアメーバ経営や会計学などの緻密な経営管理システムであると言われることがある。しかし、技術力にしても経営管理システムにして

も、このような人の心をベースにした経営風土があって初めて機能するということを銘記する必要がある。どんなに素晴らしい技術を開発しても、どんな合理的な経営管理システムを駆使したとしても、会社や社員に魂を吹き込むのは、やはり経営者でなければならない。したがって、時間当り採算システムを運用するにあたっても一番大切なことは、経営者が社員から信頼され尊敬されていることであり、そのような経営者が自ら現場に行き、現場で担当する人たちに直接仕事の意義や目標などを話していくことなのである。すなわち経営者自らが職場の会議やコンパを通じて社員と触れ合い、自分の思いを直接伝えていくことが必要なのである。良い採算制度があるから採算が上がるのではなく、現場の人たちが採算を上げようと思うから上がるのである。そのためには経営者自身が、必要なエネルギーを現場の人たちに直接注ぐことが大切となる。私はそれを「魂を注入する」と呼んでいる。そうして初めて、社員も心からやる気になってくれる。私は「なぜ京セラはそんなに利益が出るんですか」と訊かれたときに、「ウチの社員がよく頑張ってくれているからです」という言葉が、心から何のためらいもなく出る。経営者が魂を注入しなければ、どんなにすぐれた経営管理システムがあっても、社員を動かし、会社を向上させていくことはできない。

 

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