【経営問答1】先行投資の考え方について回答―投資は機に応じて。間接人員を抑え利益の増大を【経営問答2】大手との提携による資金調達について回答―収益性向上せぬままの拡大は危険【経営問答3】拡大による借入金の増加について
回答―損益計算書を見て数字を理解するべき【経営問答4】経営目標の決め方について回答―経営目標はトップの意志【経営問答5】「原価管理」の問題点回答―メーカーの利益は製造で生まれる◆おわりに
第二部経営のための会計学の実践 盛和塾での経営問答から
これまで述べてきた会計原則は、実際の経営の中で生かされて、初めて本当の価値が出てくる。しかし、これから、経営や会計・経理の分野を歩まれる読者の中には、具体的なケースの中でこれらの原則がどう適用されるかを知りたいと思われる方もおられるであろう。そこで第二部では、中堅企業の若手経営者を主たる対象として私が主宰する勉強会、「盛和塾」における経営問答を、これまで述べた会計学の実践的なケースとして紹介したい。盛和塾では、塾生が日頃抱いている経営の諸問題について、私に率直に質問し、それに私が答える形式で真剣な議論を繰り返している。これらの生きた事例が、会計学の原則を理解するために役立つことを期待して、ここに五つの経営問答を紹介する。なお、それぞれの問答は、もともと非常に具体的なものであるが、その内容や数字について一部修正を加え、再構成していることをご理解いただきたい。
【経営問答1】先行投資の考え方について〔質問〕当社はある自動車メーカーの正規ディーラーとして営業しております。バブル崩壊後何年かを経て、ここ数年はようやく売上も利益も比較的順調に推移するようになっています。最近、メーカー側は積極策に転じ、環境と安全に対する先進的な取り組みを強く打ち出して、四年で販売台数を倍増する計画を発表しました。ディーラーに対しても営業陣の倍増、拠点増加などの先行投資を強く求めています。現在当社は、三つの店舗を構えており、従業員は五十名おります。そのうちセールスは十五名で、年間四百五十台のぺースで販売しています。セールス一人当り年平均三十台、月平均二・五台の販売となります。従来は借入が年商金額の三分の一程度で推移していましたが、今般サービス工場の施設整備を行い、またメーカーからの在庫保有の要請があったため、資金を追加で借り入れております。今後の販売増に対応するために下取価格を高くできるように直営の中古車センターを併設する計画を持っております。このための資金を借り入れますと、売上に先立って借入の方は倍増する見込みです。利益はそこそこの水準にありますが、メーカーからのインセンティブに対する依存度がきわめて高く、メーカー側の政策いかんで利益が大きく左右されるのが実状です。当社の取引するメーカーに限らず、あらゆるメーカーがディーラーに対して今後選別を強める傾向にあります。新規出店を行わなかったり、販売目標を大きく落とすディーラーに対しては、厳しい手を打ち出してくると言われており、全体として大きな伸びが期待できない今後の国内市場の中で生き残れるかどうか正念場を迎えています。販売台数を増やすには、セールスマン一人当りの販売台数を増やすか、セールスマンを増やすかの二つの方法しかありません。月に五台も六台も成約できるセールスマンはたしかにおりますが、例外的な存在であり、経験と訓練だけではなかなかそうはなるものではありません。そういうスーパーセールスマンを増やそうとするよりも、むしろ新人を採用し、四年かけて月に二台、三台を確実に売れるセールスマンに育成していく方が無難だと思っています。
販売拠点を新規に設けるには、大きな投資が必要となりますので、慎重に考えなければなりません。そこで販売台数の倍増をまずセールスマンの増加による販売力の強化によって実現したいと考えています。毎年四名前後のセールスマンを採用し、これからの四年間でセールスを倍増し、年間九百台を販売する陣容を確保したいと考えています。当社にとっては、セールスマンの採用と重点的な教育による顧客満足度の向上は、足元の利益を落とす可能性があっても、先行投資と考えてやらざるをえません。景気が低迷している現在こそ、むしろ思い切ってそういった先行投資はやるべきではないかと考えております。しかし、一方で当然さまざまの不安要因も存在するわけで、とくに競争の激化により利益水準が大きく下がることも考えられ、難しい状況に直面するかもしれないという不安がつねにあります。塾長はかねてから「まず足元を固めて利益率の向上を図り、それから投資するように」と先行投資については戒めておられますが、いかがお考えになりますでしょうか。〔回答〕投資は機に応じて。間接人員を抑え利益の増大を私の会計学の原則のひとつ、「筋肉質経営の原則」の中に、「固定費の増加を警戒する」ということがあります。京セラはメーカーですから、設備の優劣によって生産性が左右されますが、それでも私は、創業当時からずっと長い間「機械設備は中古品で我慢しなさい」と言ってきました。また、設備投資だけではなく、固定費の増加となるものについては、非常に警戒してまいりました。人員の増加、中でもとくに間接人員の増加については、大変厳しくチェックをしてきました。いまお話しいただいたことによりますと、総勢五十名の組織の中でセールスマンが十五名ですから、三〇%がセールスマンです。つまりセールスマン一人が、自分も含めて三人を養っていることになります。それに対して今後は毎年四名ずつセールスマンを増やして、四年後には倍増することを考えておられます。この場合に、まず現在の間接人員を一切増やさないことが重要です。そうして、セールスマンだけを増やすことにしますと、その場合、新卒で若い人を採用し、その人たちが自分の給料分だけを稼ぐのであれば、一人平均年間十台を売り上げなければならないとしましょう。そうすれば、採用してからどのくらいの間トレーニングをすれば、年間十台売れるようになるか、ということが問題となります。その台数が売れるまでは、自分の食い扶持さえも稼げないわけです。これが相当経営の負担になります。現在の利益が、この新た
な負担に十分耐えられるかどうかをまず吟味する必要があります。まず倍増ありきで、無理な負担となるような採用をしてしまうことは避けるべきであり、余裕を持って持ちこたえられる範囲で新人を採用していくべきです。何年後かわかりませんが、その人たちが一人年平均三十台を売るようになったときには、利益率は大きく向上するはずです。間接人員は増えていないわけですから、一人前に育ったかつての新入社員は一人で三人分を背負わなくてもよく、三十台売ったら二人分の給料がすべて利益になるわけです。今、十五人で五十人を食べさせているのに比べて、今度は三十人で六十五名を食べさせていくわけですから、ずっと楽になってくるはずです。利益率は今の数倍にはならなくてはおかしいということになります。業績を見ますと今年売上は伸びましたが、利益率は少し下がって、これまで確保していた五%を割り込んでいます。これには非常に注意を払う必要があります。売上が伸びれば経費も増えるのは当然だと思っていますと、経費は売上の伸び以上に増えてしまうものです。ですから、利益が伸びたと喜んでいるわけにはいかないのです。それよりも利益率が下がったことを大きな問題として真剣に考えなければなりません。少なくとも、五%は利益を出すということを、目標とすべきです。新入社員の採用という先行投資をする前に利益率が下がっていたのでは困ります。まず、現在の経費を徹底的に抑える必要があります。着実なやり方で進めようと強く意識しておられるので、それは大変良いと思います。非常に慎重なだけに、勇気を持っておやりになって間違いないと思います。五%という利益率を最低限確保して、そのうえで新たな投資をするようにしてください。事業を展開するにあたっては、「機」というものがあることに注意する必要があります。「天の時、地の利」などと言われますが、安全や環境への本格的な関心が高まっていることなどからしても、お話になっているビジネスには大きな将来性が感じられます。それが「商機」であると確信したら、思い切って打って出るべきです。私は「土俵の真ん中で相撲をとれ」と言ってきましたが、それはそういうチャンスのときに心配なく手が打てるようにつね日頃から余裕が持てるように経営を進めなさいということなのです。経費の削減をはじめ全社を引き締めながら、前向きな投資をする態勢をとっていかれてよいのではないかと思います。社員全員にこれから大きな飛躍のための投資をすることをよく理解してもらい、それぞれの足元を固めさせるのです。放っておけばセールスマンを一人増やすと、間接の人がまた一人増えるというふうになっていくものです。それを絶対にしないことです。整備のサービス体制についても工夫を重ねて、セールスだけを増やしていくということに徹するのです。それにともない利益率
は、自然と上昇していきます。事業を拡大していけばいくほど、経営者はより細かく経営の状況に目を配っていく必要があります。ここで改めて詳しくは述べませんが、ただ「経費の削減」というのではなく、店舗ごとに採算をきちんと出し、「売上最大、経費最小」ということで店長はじめ社員全員に注意を徹底させるというようにすべきかと思います。また、整備サービスにも独自の収入があるのではないかと思います。たんなる販売補助の間接部門ではないと考えるべきでしょう。場合によっては、整備サービスと販売に分けて、さらに中古車センターができたらそれは新車の販売とは採算の構造が違うでしょうから、それも別にして、それぞれの採算をきちんと見ていくということが、経営として非常に重要になってくると思います。
【経営問答2】大手との提携による資金調達について〔質問〕設備投資計画の資金調達について、アドバイスをいただきたいと思います。当社は宿泊業を営んでおります。全国的に宿泊業は伸び悩みを見せておりますが、当社の立地する観光地は各旅館の施設も新しく、訪れる観光客が増加しております。しかしながら、各旅館・ホテルとも後継者難が慢性化して深刻な問題となっており、支配人に良い人材を得るのも難しくなっています。時間的に不規則でハードな仕事であるため、客室係の人材難にも苦労しています。ただ当社の場合、より近代的な勤務形態にする努力を行ってきたこともあり、幸い従業員の定着率が高く、後継者もおり、その点は比較的恵まれた条件にあると言えます。当社の宿泊施設は三十年近く前に建築したもので、建て替えを計画しています。水回りや空調設備の老朽化の問題もありますが、現在の観光客の主流である家族・団体旅行に適した客室レイアウトに一日も早く変更する必要があると考えているからです。現在の建物は、ほとんどが、個人および新婚客向けの二、三名用の客室ばかりで、最近の旅行ニーズには十分対応しておりません。会議用施設、宴会用施設、温泉など大人数の団体客に適した多目的なものに建て直し、集客を二倍に、売上は三倍にする計画を立てております。投資に見合う効果は十分に得られると考えております。さて、最大の問題である資金調達ですが、当社の財務状況は、多くの同業他社よりも良いというわけではなく、大きな設備投資を自己資金でまかなえるような余裕はありません。したがって、今回の建て替えも全額借入とならざるをえません。率直に言って、当社の借入はすでに相当高い水準にありますので、現在の金融情勢のもとでは金融機関からの貸し出しを期待するのはきわめて難しいと思います。また、投資していただく方を広く募ることや、会員制にして資金を出していただくことも考えましたが、現実的ではないと判断せざるをえません。しかし今回の計画は、たんなる建て替えではありません。三十年をひと区切りにして、これまでの一泊二食以外の選択のない料金体系に代表される伝統的な観光旅館スタイルから脱し、滞在客だけではなく、地元客の開発をも図るなど新たな時代の流れに適応したビジネスへの転換を果たそうとするものです。コスト管理など経営のやり方についても、旧
来の曖昧な管理から、近代的合理的な管理方法に転換を図りたいと思います。そこで実は、最近当地に進出を進めている大手資本との提携を図り、本計画を実現させたいと考えております。隣接の地域にレジャーランドの建設を計画している大手資本にとって、景色の良い温泉地にある観光ホテルとの提携は魅力があるものと思います。提携することによって大手の資金力や信用力を利用し、本計画に必要な資金を調達したいと考えています。具体的には、大手との共同出資によって新会社を設立して、新会社がホテルの経営にあたるというものです。当方は現物出資ということになります。そこで問題は経営権ですが、私は当方が出資できるのが土地と人材でしかない以上、ある程度の経営権は大手資本に譲っても構わないと考えています。今日のレジャー・観光業は、たんに現地での心のこもったサービスだけではなく、大都会などでの幅広い営業活動や近代的な労務管理、財務管理などが必要になっています。事業を大きく展開していく力や器を持つ人材を家族、親族に得ない場合はすみやかに家族経営と訣別するしかないだろうと考えています。幸い当社では長男があとを継いでくれますし、支配人や女将といった現場の管理者も後継者の目途がついています。従業員の質も高く、多くの者が今後長く働いてくれると思います。そこで、現在の従業員の雇用が将来とも確保でき、また家族や親族のものが経営陣の一角を占めて、地元の発展にも貢献していくことができるのならば、経営権を一部大手資本に譲渡してもやむをえないと考えております。大手資本との提携を進めて設備投資を図るという考え方についてアドバイスをいただきたいと思います。〔回答〕収益性向上せぬままの拡大は危険――土俵の真ん中で相撲がとれるように利益率の向上を率直に言って、どのようにお答えすべきか非常に難しい問題だと思います。「大手と提携することによって、その資金力や近代的な経営管理能力が利用できるのなら、場合によっては経営権の相当部分を大手資本にゆだねてもかまいません」、とおっしゃっておられます。しかし、これも、家族にあと継ぎがおられ、支配人や女将をはじめ、現在いる人たちに運営を引き続きまかせてもらうことが前提条件のようにお話を聞きました。しかし、大変厳しいことを言うようですが、そういうことはまずありません。もし、あなたがお考えの通り大手資本が興味を持ってあなたと共同経営をすることになったとしま
す。そして三十年に一度という大きな設備投資の資金を銀行から借りるとします。そうしますと、当然銀行は大手資本の保証を要求してくるはずです。大手資本としては保証をするというのは自分が銀行から借入をすることと同じわけですから、おそらく経営権は実質的に一〇〇%確保しようとするでしょう。出資される土地の評価という問題はありますけれども、おそらくそれは一〇%、二〇%くらいしか見ないでしょう。のれんや人材という無形で不安定なものは評価などされないと思うべきです。つまり、九〇%、八〇%という経営権を大手は確保しようとすると思います。後継者の方や支配人や女将といった従業員のみなさんは当然引き続き長く使ってもらえるという前提でいらっしゃるわけです。しかし、おそらく二、三年使ってみて、息子さんの経営者としての能力、そういうものがないと判断されれば、あるいはたとえ能力があったとしても大手資本の望むような経営となっていなければ、容赦なくはずしていくと思います。支配人や女将にしても同じことです。ですから、大手資本を入れてもいいけれども、経営者や従業員を今まで通り使ってもらえるという保証は何もない話なのです。冷たいと思われるかもしれませんが、大手資本は最終的に自分の責任となってくるお金をこの事業に注ごうとするわけですから、非常にクールに行動しなければならないわけです。資本の論理として当然自分が投資をしたものを保護する、守ろうと考えるわけです。このようなお話は実はめずらしいものではないと思います。私も申し上げながら胸のうちに非常な苦しさを感じているのですが、中小企業や地方の商店街のお店など例外なくこのような問題を抱えられている、あるいは今後直面されるのではないかと思います。身も蓋もないようなことを言いますけれども、ご自分のお考えで事業の展開を図ろうとするのに大手資本の参画を求めるというのは無謀な判断だと思います。厳しいことを申し上げますが、業績の推移を見ますと売上は少し伸びていますが、営業利益にはまったく伸びがありません。借入金の金利負担が大きいために、経常利益はあまりにも低い状態です。一方で、償却費は毎年増加してきています。これだけの償却をしておられますから、利益は大きくなくともキャッシュフローが確保されて、借入の返済が進んでいかなければなりません。しかし、現実には逆に借入の方も増えているという状況です。まず考えなければならないのは、この足元の収益性と財政状態をどのようにして向上させるかということです。「天は自らを助くるものを助く」という諺がありますけれども、実にその通りなのです。自分で自立していくという力がありませんと、銀行は融資をしてくれません。自分で雨をしのげる人にだけ銀行は傘を貸すのです。大きな計画を実現するために大手資本と提携するというお話なのですが、実は自分でやっていく力がもともとないために大手資本からお金を出してもらおうということになっているわけです。ある程度の規模の売上があって、それが少しずつでも増えているのに利益は低いどころかいっこうに伸びない、借入金は増え続けている、というのが足元の現実です。これではこの先行き詰まるのは明らかです。このような状況をそっちのけにして、何か目新しい手を打って起死回生を図ってみても、決してうまくいかないと思います。とにかく、自分の内容を自力でよくしていくことがどうしてもまず必要です。新たな投資をすれば、今の売上が三倍になるであろう、ともおっしゃいましたが、二倍というならまだしも、三倍になるということには、非常な飛躍があります。事業規模が三倍になれば、人の問題から、内部管理の問題から、あらゆる問題で経営の難しさも幾何級数的に大きくなります。いくら新築したとはいえ、現在の三倍のお金を落としていただけるように簡単になるのか、計画が少し楽観的すぎはしないだろうかと心配をします。築三十年近く経っている今の建物では今後やっていけないのであれば、改築という問題にぶつかるわけです。旅館やホテル用のコンクリートの建物は三十年も経ったら老朽化が進むわけで、本当はその時点では減価償却がほとんど終わりかかっていなければなりません。水回りや空調設備の老朽化の問題もおっしゃいましたが、こういったものはすぐにダメになるわけで、建物本体とは別にして十年くらいで償却していくべきものです。定率法で償却していればすでに償却負担はもうないに等しく、その分十分な収益が上がり、将来の投資のために内部留保がたまっていなければならないのです。せめて売上の一割くらいの利益が出て、それを内部留保をして蓄積していくことが必要だったのです。私は創業後まもなく、松下幸之助さんから「ダム式経営」のお話をうかがい、何とか会社に蓄えをつくろうという強い意志を持って経営していくことの重要さに気づかされました。土俵際に追いつめられてから勝負に出るのではなくて、まだ、土俵までの余裕のあるうちに背水の陣を敷いて、採算の向上に日夜努めてきました。今、あなたがやるべきことは、まず収益を上げることです。「売上を最大に、経費を最小に」を実践していかなければなりません。しかし、経費を最小にしてサービスが悪くなり、料理もまずくなってしまいお客が離れてしまったというのでは意味がありません。現在の建物で、料理やサービスを素晴らしいものにしながら、コストをどこよりも下げるということです。それには尋常ではない努力と創意工夫とが必要になります。これは誰でもができることじゃないかもしれません。これができれば名経営者なのでしょうが、とにかく徹底して収益の改善をやるべきです。構想自体がどんなに魅力的であっても、足元の収益が上げられない状態で拡大しては、危険性が増すばかりです。たとえ、お話の中で言っておられる大手資本なども含め、お考えの計画に賛意を示して
好意的に融資や出資をしてくれるところがあったとしても、もし計画が実現できなければ、出資者側の資金回収という問題に直面して、あなたが大変な痛手をこうむることになります。他人の資本や信用のみをあてにして事業展開を図ることは、非常に危険なことです。
【経営問答3】拡大による借入金の増加について〔質問〕当社は産業用物品の運送業を営んでおります。この間トラックの数を増加させるとともに、子会社を設立して倉庫、配送センターなどの事業拠点を拡大してきました。また最近、地元客先が地方の工業団地に集団で移転したため、客先との関係を維持する目的で当社もその団地内に運送品の加工工場を設けました。その団地には純然たる運送業の拠点設置は認められないためです。これらの新規投資にともなって借入金も増加してきました。運送業界は零細企業が多数を占めていますが、競争は激化の一途をたどっております。生き残るためには、ある程度の企業規模と事業基盤とが必要となってきており、焦眉の課題として、この間拡大方針をとってきたわけです。しかし、運送業というのはこつこつと働くことが基本の仕事であり、事業展開によって利益が急に拡大することはありません。今後は、国内産の各種工業製品が輸入品に置きかわっていくことから、労働条件を今後とも引き上げていけるのかという不安もあります。このような状況においては、一度とった事業拡大方針を見直しても、借入金の圧縮を図り、会社の体力がさらに充実した段階で、改めて業容拡大を図るべきではないのかと悩んでおります。最近五年間の当社の投資は車庫等の土地取得が大半ですが、工場設備などにも投資しており、五年間でほぼ一年間の売上に相当する額の投資を行ってきました。この数年間売上は増加基調にあり、利益率も売上規模の拡大によってよくなってきていますが、金利負担、償却負担はともにずっと増加しています。また加工部門は、売上がまだ低く、現段階ではすぐに採算がとれるような事業になることは期待できません。借入金の削減が重要な課題であると考えていますが、工場設備への追加投資が必要であり、借入金がさらに増大する見込みです。拡大方針を続けていけば、借入金は返済できても、新規の案件が次々に発生するため、そう簡単に借金体質から脱皮できそうにもありません。このような状況の下で、これまでの路線でさらに拡大を続けていくべきか、それともいったん戦線整理を図って経営体質の強化を主眼とすべきか、その選択が大きな岐路となるのではないかと考えております。生き残りを賭けて何をなすべきかお教え願います。
〔回答〕損益計算書を見て数字を理解するべき――会計がわからないで経営はできない大変難しい質問です。まず、運送業と加工業と二つありますから、それぞれを独立した部門として、減価償却費も人件費も含めて費用をきっちり分けて損益を計算し、それを合算して会社全体を見るというようにしなければならないと思います。投資の内容は、大半が車庫用地および工場用地ですね。土地は償却しませんから、貸借対照表の上でいつまでもその金額が残ります。ですから土地を取得する場合には、キャッシュフローの観点から「お金が回るか」ということで判断すれば良いのです。事業の運転資金がまかなえておれば、ある土地を寝かしていても、銀行から借りているか、手持ちのお金があるかは別にして、その金利が払えるというだけでいいのです。ところが工場の機械、工作物および工事にかかったお金は、まったく違います。金利に加えて償却費の負担がかかってきます。つまり、土地を取得するには最初にお金がありさえすれば、経費はその金利だけを負担すればいいわけですが、工場の設備投資の場合は、金利プラス減価償却が負担となり、それに耐えうるだけの収益が継続的に生み出されなければならないのです。この三年間は激しい競争の中で積極的な展開によって売上を順調に伸ばしておられます。経常利益を見てみますと、金利や償却費は増加していますが、かって四%程度しかなかった売上高経常利益率が一〇%近いところまで伸びてきています。あなたは、次々と事業が拡大しているので、少し設備投資に加速度がつきすぎていないかと心配しておられます。それならば、今後経常利益率が一〇%に達して、それがさらに少しずつ上がっていくかどうかということで判断していくべきでしょう。業容の拡大と同時に利益も上がっていくような経営となっているかどうかを判断の基準として経営していくべきです。全体の事業規模が拡大しますと、設備の償却費だけではなくて、すべての経費が大きく増えていきます。それを抑えていくような経営をして、経費の伸びが売上の伸びよりも低くなるようにすればいいのです。ただ現在は金利が非常に安くなっていますが、金融情勢は非常に激しく変わっていきますので、そのうちに金利が上昇することは十分に考えられます。今は低い金利だから、これだけ設備投資をしていっても、利益は何とか伸びていますが、これが高い金利になったときには、もう一銭も利益は出ないはずです。赤字経営に転落する可能性だってあります。利益が減ってくれば銀行の方が心配して貸付を抑えようとする、あるいは引き上げよ
うとするといった事態になるかもしれません。黒字であっても、資金が枯渇すれば倒産してしまいます。ですから、金利が一%上がれば経常利益はいくら落ちる、何%上がれば利益はなくなってしまう、ということを月次決算のたびに計算して、経営陣の方々でそれをよく見て事業拡大に少しブレーキをかけるということはすべきだと思います。金利はもちろん税金もすべて払ったあとに残る税引後利益と、現在の償却とをあわせたもので返済ができる範囲で設備投資の借入をするというのが原則です。しかし、借金を増やして事業を拡大することが不安で仕方がない、借金はとにかく早く返したいと思うのは非常に大事なことです。私が経営というものに初めて取り組んだころ、支援していただいた方が自分の家屋敷を担保に、銀行から一千万円借り入れてくださいました。私はそれを何とかして早く返済しようと必死になっていました。するとその方から「償却負担と金利負担に耐えることができれば、お金を返すよりもむしろさらに借りて事業を拡大するのが事業家というものだ。元本の返済は償却でやっていけばいいのですから」と言われたことがあります。私の場合は、それでも借金はイヤで懸命に返済していったのですが、その方はあきれて、私のことを「所詮いい技術屋ではあっても、いい経営者にはなれない」とまで言われました。しかし私は、借金の心配はせず土俵の真ん中で思い切って相撲をとるということがどうしてもやりたかったのです。そして、幸いその後、借金をしないで事業を拡大するという経営ができるようになりました。今ご心配されることはもっともだと思います。その調子で注意深く頑張っていかれたらきっと会社は立派になっていくと思います。
【経営問答4】経営目標の決め方について〔質問〕年間計画や中期計画をつくるとき、年間の売上などの伸び率はどうやって決めていけばいいのか悩んでいます。たとえば、伸び率を二〇%にするのか、二五%にするのか、三〇%にするのか、どれをとって計画に盛り込むかといった場合、当然私としては三〇%をとりたいのはやまやまなのですが、部下のいろいろな意見や、市場環境の問題もあります。どの線で決めていくのか、ということは大変難しいことだと痛感しています。目標が過大になれば、どうしても絵に書いた餅のように思われてしまいますし、過小であれば職場の雰囲気にたるみが出てくるようにも思います。職場に緊張をみなぎらせ、頑張れば何とか手が届くと思わせることのできる目標は、どのように決めていけばいいのでしょうか。目標を決めるとき、トップダウンでいくべきか、ボトムアップでいくべきかも問題です。トップダウンですと「与えられたもの」と思われますし、ボトムアップですと、前年の水準から少し上げて持ってくるという程度のことしか考えてくれないということになるものです。何を重視して、どうやって目標を決めていかなければならないのか、ポイントを教えてください。〔回答〕経営目標はトップの意志――集団の心をどう燃えさせるか実は、そういうことを悩んでおられることが、すでに経営者として立派なのです。目標の設定というのは、経営の中でも非常に大きなファクターであり、一生懸命に経営していれば、必ずこのような悩みを持たれるはずです。どんな会社でも、これは永遠の課題なのです。経営というのは、人間の集まりをどうするかということです。ですから経営は人の心の動きを抜きにして語れませんし、また人の心を無視して経営はできません。目標設定の問題はまさに人の心をどうするかの問題です。たとえば、目標を設定し、その目標がどうしても達成できないとなれば、そのような現実性のない目標を掲げたままにしておくのはおかしいと言われる。さりとて、その目標を下方修正すれば、今度は目標なんていくらでも変えることのできるものだと思われ、さらに下方修正することになる。従業員がこのような心をいだくようになれば、目標を下げようが下げまいが、いずれにしてもダメなのです。私は、経営者の役割というのは、会社に生命を吹き込むことであると考えています。会社という組織を人間の体に例えるならば、経営者というのは司令塔の役割を担う脳細胞にあたるものです。経営者が会社について誰よりも真剣に考え、みんなの先頭に立っていきいきと行動しているときは、会社は躍動しています。しかし経営者が少しでも自分のことを優先させ会社のことを忘れていると、その間会社は生命力を失っているのです。ですから、経営者が会社について誰よりも真剣に考え、私心をはさむことなく、自らの意志で決断し、つくっていくものが経営の目標というものです。つまり、目標が高いか低いかをどう判断するのか、トップダウンで決めるかそれともボトムアップでいくか、というような発想で考えるのでは、決して優れた経営はできません。目標を設定するためのいい方法がわかっていれば経営なんて誰にでもできます。問題は、目標値の高い低いではありません。まずは、経営者としてあなたが「こうありたい」と思う数字を持つことです。経営目標とは経営者の意志そのものなのです。そのうえで、決めた目標を社員全員に、「やろう」と思わせるかどうかなのです。とてつもない高い数字を出して、意志だ、意志だと言っても、「社長、それはいくらなんでも無理です」とみんなあきらめてしまいます。「去年もマイナスなのに、急に倍以上増やせなんて不可能だ」と、しらけてしまいます。いくら意志が入っていたとしても、それでは何にもなりません。ですから「人の心をどうとらえるのか」が、経営において一番大事なのです。これは何も企業の経営者だけの問題ではありません。学校の教師であれ、野球の監督であれ、人の集団である組織があれば、その中にいる人の心理はどうなっているのか、それはどうすれば動かせるのかがわかっていることが大事なのです。経営目標という経営者の意志を全従業員の意志に変えるには、やはりトップダウンでしかありません。そうでなければ、みんなが苦労をあえてするような大きな数字が出てくるはずはないのです。トップが「来年は倍やりましょう」と、言い出さなければならないのです。そして、「うちの会社はこのままではダメになる。何とかしなければならない。やりようによっては、東京にあるあの会社のように伸びるかもしれない」とか、「当社でも、やりようによってはいけるかもしれないんだ。今までは低迷して、ちっとも伸びてくれなかったが、今年は思い切って倍ぐらいに会社を発展させようと思う」と、まず社長の方から働きかけ、いざ目標として「今年は倍やろう」と言ったときに、周りの者が「一緒にやりましょう」と自然に言うような雰囲気をつくることが必要なのです。
人間は誰だって新たなものに挑戦し、現状を打破したいという気持ちを心のどこかに必ず持っています。今あることの延長でやっていくだけではつまらないと思う心を持っているのです。しかし、無難にしていればいいのじゃないか、あまり変わったことを言い出すのはいかがなものか、という気持ちもまた持っています。そして不思議なことに集まる人間の数が多いほど、新たなものに挑戦しようという気持ちは隠れてしまいがちになるのです。ですから、放っておいたら会社の従業員はどんどん消極的になっていきます。そこで経営者は、人間の持っている挑戦したいという新鮮な気持ちを表に引っぱり出すことができなければなりません。「ようし、やってみるぞ」という気持ちを引き出すのです。それにはやはり、「思い切った目標でなければならない」と思われませんか。しかし、思い切って大きな目標を立てる場合は、やはりそこに大きな商機というものが存在するものでなければなりません。その商機というのもただ待てばいずれは来る、というものではありません。目標は何か、いったい何をやりたいのか、ではそのために何をどうすればいいのか、何度も何度も頭の中でシミュレーションをすれば、やがて商機のありどころが見えてきます。そこへみんなを引っ張っていくわけです。そして、どれだけのものをねらうのか、それがみんなに示す目標なのです。中国の古典に「天の時、地の利、人の和」という言葉がありますが、天の時や地の利を得たとしても、最終的にことを決するのは心のあり方なのです。多くの者が自ら飛躍を求め、目標に向かって進むようになると、たとえ冷めた見方をする社員がいたとしても、いつのまにか会社全体にその目標へ向かって進もうという気が起こってくるものです。要は、心理の問題なのです。たとえばあらかじめコンパでも開いて、これからは何か違ってくるという雰囲気をつくっておかなければならないのです。しかし、これは経営者にとっては永遠の課題でもあります。目標を立てて、その目標を達成することができれば、従業員がその目標に対して十分やる気を持ったということになります。また、目標が達成できなければその逆だということになります。結局、目標数値を決め、みんなのやる気をそれに向かって燃えさせる、というのが経営者のもっとも大事な仕事だということなのです。
【経営問答5】「原価管理」の問題点〔質問〕当社は、創業してまだ間もない会社で、産業機械用部品を製造しております。最近、市場の拡大により生産が急激に伸び、品種も拡大して製造部門の採算が見えにくくなってきました。このまま事業が拡大していくと、事業の実態がわからなくなってしまうことを危惧しており、経営の内容がきっちり把握できる管理会計システムの導入を早急に検討したいと考えています。製造業の場合は、原価計算を採用して採算管理をしている会社がほとんどであると聞いておりますが、京セラではこれまで原価計算を使わず、アメーバ経営による独自の管理方法で経営されてこられたとうかがいました。そこで、通常の原価計算について、どのようなことが問題であるとお考えなのかをお教え願います。〔回答〕メーカーの利益は製造で生まれるおっしゃるように多くのメーカーは、原価計算による採算管理、とくに標準原価計算と言われるものを採用していますが、京セラでは採用しておりません。そのきっかけとなったのは、今から二十年ぐらい前に、ある電機メーカーから聞いた次のような話です。この話は当時低収益に苦しんでいたこのメーカーの幹部から、聞いたものです。その方の事業部では家電製品をつくっており、事業部の製造部門は原価計算で管理されていました。このシステムではまず、今年この製品の小売値段はいくらになるだろう、秋葉原などの電気屋街でいくらで売られることになるだろう、と末端価格を予測します。そして、末端価格から出発して、その小売店に卸すときの値段はいくらで、流通段階でのマージンはいくらで、その分を差し引いて、あと営業と間接部門の費用をまかなって目標の利益を出す、すると製造はこの原価でつくれば良い。そういう設定をして、工場に「この原価でつくりなさい」という指示を出すわけです。それを「目標原価」と言っています。工場では一生懸命製品をつくり、「目標原価」通りにものができれば、その工場は合格です。ただし、その工場が儲かったということではなくて、目標原価まで下げれば、また生産数量が確保できれば合格なのです。そうすると、その目標原価で営業が引き取って、当初決めたように、何がしかのマークアップをして卸問屋に販売します。
ところが、思惑通りにうまくいかないのが市場です。ちょっと特徴のある競合品が出てくるともう製品が古くなったように言われ、ずいぶん値下げしないと売れず、値をたたかれます。小売りが値を下げると、当然、卸問屋はメーカーへ「古いものはもっと安くしろ」と迫る。値下げしなければ、在庫がたまってもう仕入れられないと泣きつかれる。そうすると結局何割引という値下げでは追いつかないようになって、値崩れしてしまいます。
当初メーカーとしては、二割のマージンを取るよう計画していたとしても、あとでどんどん売値が下がっていきますので、マージンはどんどん減っていき、結局残りは数%ぐらいということになってしまいます。もっとひどい場合は、たとえば、半導体産業で見られるように、いったん市場価格が崩れ出すと、とめどもない暴落となり、流通でも製造でもいっせいに大赤字となってしまうようなことになります。とにかくそういうことの繰り返しで、家電品はつくっても利益が出ないということが社内でも当たり前になり、みながあきらめてしまって、もう手の打ちようがない、よほどのヒット商品でも出なければどうにもならない、ということになっているというのです。では、何が問題なのか。本来メーカーでは、付加価値や利益を生み出すところは製造しかないはずです。つまり「製造で利益を出す」というシステムになっていないことがそもそも問題なのです。製造では、利益を目標とせずに、要求された数量を、目標として与えられた原価で達成できればよい、ということになっている、それが問題なのです。
この原価計算方式によるシステムでは、営業担当重役が製造にいくらの原価でつくらせて、いくらで売るかを決めています。原価計算の発想ですと、製品の供給者が価格を決めるということに必ずなりますから、まずコストありきで、そこから供給者の論理で市場を動かそうとすることになります。しかし、実際は、売値は市場で決まるものです。供給者側の論理でいくと、市場に痛いしっぺ返しを受ける。それをこの話はよく示していると思います。
今後の市場経済は、世界の企業が市場で自由に競争するグローバルなものとなっていきます。そこで、これからの経営は「価格は市場が決めるものである」という大前提に立って進めていかなければなりません。そのためには、製造業であれば、「価格もコストも固定したものではない」という考え方を基本とし、コストダウンに向かって創意工夫を重ねていく体制でなければならないのです。
「メーカーの利益は、製造で生まれる」のです。ですから、先ほどの電機メーカーの例のように、製造部門をコストセンターとして運営したのでは経営にはならないのです。つまり、製造に「これだけをこの原価でつくれ」と目標原価を与えても、目標までは努力しますが、それがゴールですから、それより原価はなかなか低くはならないのです。製造現場をコストセンター化することは、製造の現場を市場から切り離してしまい、現場に市場の現実感覚を失わせ、そのやる気を阻害してしまうことになるわけです。製造をプロフィットセンターとする原価計算システムという方法ももちろんあります。このシステムは、先ほどのコストセンターのシステムよりも、はるかに良いのですが、やはり売値というものから離れて、ただ原価目標達成のみに焦点をあてる傾向をどうしても持っています。その結果、利益を製造で出すということを真の意味で追求できるかというと、そうではないように思います。たとえば典型的な製造採算の管理方法である標準原価計算を使いますと、製品一個ごとに与えられた標準原価というのがありますから、生産量、出荷量に対して標準原価は計算されます。つまり標準原価とは与えられた目標であり、製造としてはまず標準原価を達成することが目標となります。標準原価をどれだけ「超過達成」したか、あるいはどれだけ届かなかったかで製造は評価されます。これを「原価差額」による評価と言います。与えられた原価目標に対して「プラスの差額」を出すと製造はほめられるわけです。そしてこの原価差額がどこで、どのようにして出てきたかを分析するわけです。材料の歩留まりか、資材の値下げか、工程時間の短縮か等々です。非常に精密な手法に見えます。実際の売上に対して、標準原価のベースではこれだけ営業利益が出る、それに対しプラスあるいはマイナスの原価差額があったので、実際の営業利益は差し引きこれだけだ、というシステムです。この手法は製造をしっかりプロフィットセンターにしているように思えますし、多くの大企業のメーカーで管理手法として採用されている方法です。しかし、この管理システムでは、多くの場合、工程ごと製品ごとにかかるコストや時間の把握をするため非常な経費と労力がかかります。そしてさらに、原価の「標準」を設定し、実際の原価と比較分析して評価を行うのは、製造部門ではなく、原価管理部門や原価計算部門という管理部門であるという大きな問題があります。管理部門は、自分たちで実行する目標ではないのですから、つねに「過去の実績にもとづいて」、そこからほんの少し良くなるようにと目標を設定するしか方法はありません。これでは製造部門の自主責任経営にはならず、製造の利益を生み出すコアがその製造以外の管理部門の管理下に置かれるという、管理を重視した経営になるのです。このような形で経営管理を行うことは、とくに大企業の場合つねに組織
の官僚化の危険をはらんでいます。では、どうすれば良いかというと、たとえば「アメーバ経営」のように、製造部門を真の意味でのプロフィットセンターとすること以外にはないと思います。アメーバ経営では、製造部門が現実に動く市場に直面するようになっています。変動する市場価格に直結する売価に対して、自らが責任を負うようになっており、市場に柔軟に対応し、経費を引き下げ、利益を上げられるような仕組みになっているのです。また、目標の売上・利益というものは、製造部門が自らの採算を向上させていくために、思い切った高い数字を上げられるようになっています。さらに、そういう挑戦的なシステムの中で、費用項目はわかりやすく管理しやすくなっており、結果として徹底してコストが下げられるようになっているのです。この方式では、文字通り製造が利益を稼ぐ主役として舞台に上がれるようになっているわけです。ここでもし、原価計算による管理会計を導入されるとしても、原価計算方式の含む問題点を克服することができるように工夫をして、「メーカーの利益は、製造で生まれる。製造が経営の主体となるようにする」ということを前提にして、原則に忠実でシンプルなシステムにすること、製造の現場側が簡単に理解でき、また活用できる管理システムをつくっていかれることが、重要であると思います。
◆おわりに最近、政界、官界、そして経済界の各界において、不祥事・不正事件があとを絶たない。企業の倫理や内部規律に対する根本的な疑いを世間に与えるような事件が発覚し、大きな衝撃を与えている。とくにバブル経済崩壊以降、いくつかの日本の金融機関が信用を失い破綻に追い込まれ、日本の金融界に対する不信感が国際的に広まっていることは、金融機関の持つ社会的使命や役割から見てきわめて深刻な問題である。この不信感が日本経済の将来に対する悲観論や株式市場の低迷など社会経済に大きな悪影響を与えているのである。このような問題を解決するために、昨今コーポレートガバナンスのあり方についての議論が盛んであるが、問題はたんにシステムや制度のあり方にあるのではなく、経営者が会社を経営するために不可欠な座標軸を見失い、会社経営の原理原則を見失ってしまっていることにあるのではないだろうか。私は、会社経営はトップの経営哲学により決まり、すべての経営判断は「人間として何が正しいか」という原理原則にもとづいて行うべきものと確信している。このことを講演などで話す中で多くの方々から、「それでは実際の会社経営において、具体的にはどのようにすればいいのか」とよく訊ねられた。そこで、本書では具体的な経営論である会計学を論ずることを通して、会社経営のあり方、経営の基本的な考え方を明らかにしようと試みた。現在の混迷した状況を乗り切り、素晴らしい事業展開を行っていくために、本書に述べた経営のための会計学の原理原則が、少しでも参考になることを心から期待している。
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