第3章流通段階でのシェアアップを図る
①そもそも流通とは何か?
商品が製造され、消費者の手に届くまでのルートをマーケティングチャネル、または流通経路といいます。製造業者と消費者とのあいだに中間業者(流通業者)が入り、いくつの業者(段階)が存在するかを見きわめる必要があります。
中間業者の段階数をnとすると、さまざまな商品にはn段階の流通チャネルがあり、nを大きくするか小さくするかが流通戦略といえます。
流通段階がもっとも少ないゼロ段階チャネルとは、メーカーから直接、ユーザーや消費者に販売するルートをいいます。
通常、一般消費財においては流通チャネルnが大きくなり、商品の付加価値が高くなれば、nは小さくなる傾向があります。
メーカーから見ると、nが大きいほうが代理店などの販売力を利用できますが、逆に、管理するのは大変になります。
反対に、nを小さくするとメーカーは代理店などを管理しやすくなるものの、販売量を増やすためには直接販売をしなければならず、営業員の数を増やす必要があります。
②「マーケティング」の意味
マーケティングとは、広い意味では「人や社会のニーズを把握し、それに応えること」、簡潔にいえば、「売れる仕組みづくり」のことです。
よく、顧客ニーズなどといわれますが、ニーズとは「満たされていない欲求」であり、表にあらわれない潜在的な欲求も含まれます。モノが売れるためには、この顧客ニーズを把握し、顧客を満足させる価値を提供することが必要です。
たとえば、「スポーツジムに通う」という行為のニーズは何でしょうか?これには、「健康でいたい」「体力をつけたい」「やせたい」「友だちが欲しい」などといった欲求を満たそうという目的があります。
その目的を達成するための手段が、「スポーツジム」なのです。そして、顧客のニーズに対応することは、シェアの向上、および売り上げや利益を向上させることにつながります。
③流通とマーケティングの関係
ランチェスター戦略における流通チャネル戦略は、弱者と強者とでは以下のように異なります。
弱者の流通チャネル戦略としては、
- 差別化された新しいチャネルを開拓する
- 局地戦として、他社が1社しか入り込んでいないオンリーチャネルを狙う
- 接近戦として二次卸売業者を重視し、プッシュ戦略をとる
などがあります。
強者の戦略としては、
- 広域戦として一次卸売業者を重視する
- 遠隔戦として広告宣伝などのプル戦略をとる
- 確率戦として、複数の代理店・特約店を同じテリトリーで競争させるなどがあります。
④直接販売と間接販売の特徴とバランス
ここでは、直接販売と間接販売におけるメリットやデメリットについて解説し、155ページ〔*こちらを参照〕の図のような各状況ではどのような戦略をとるべきかを整理しておきましょう。
直接販売のメリット・間接販売のメリット直接販売のメリットは、流通経路の短縮によって生じる、
①戦略を一貫させやすい
②顧客ニーズを歪めることなく把握しやすいなどがあります。
間接販売についてそのメリットを考える前に、卸売・小売などのチャネルの機能として、配給機能のみならず、
①商品の整理と収集
②貯蔵および保管
③運送および配送
④金融機能
⑤危険負担
⑥需要創造
⑦セールスプロモーションがあります。
したがって、これらの機能が、直接販売に対する優位性としてメリットになります。
各状況における直接販売・間接販売の選択不況期は、顧客を訪問する直接販売、好況期では売り子の数のメリットを生かした間接販売が適切であり、成熟商品は、売上鈍化を克服するための直接販売、成長商品は、販売チャネルの数に物を言わせる間接販売が一般的戦略となります。
これは、好況期、成長商品は、代理店や特約店の数の多さ、豊富なチャネルが物を言う世界だからです。また、弱者は商品を直接販売し、強者は商品を間接販売するのが有利となります。
直接販売と間接販売の比率の管理これまで述べてきたように、直接販売をとるべきか、あるいは間接販売をとるべきかについては画一的に決められません。
そのため、景気の変動などへの対応を配慮した合理的な戦略としては、直間接比率が50:50が望ましいと言えます。
そのうえで、「好況期には間接販売の比率を上げ、不況期には直接販売の比率を上げる」といったような方針をしっかりと持っておくことが何よりも重要になります。
⑤「市場シェア」とは何か?
本書ではすでに、シェア1位が強者で、2位以下が弱者であることを述べましたが、ここでは、その市場シェアをどのように捉えるべきかを考えます。シェアについては、業種や業態によって生産シェア・流通シェア・市場シェアの3つの捉え方があります。
市場シェアについては自社商品と競合している他社商品の定義を行ない、具体的かつ明確に区別しておく必要があります。競争関係は顧客の選択領域であり、自社の商品を選ぶか他社商品を買うかの選択です。
たとえば、事務機にはパソコンや複写機、プリンターなどがありますが、これらをまとめて事務機器のシェアとして捉えるには大雑把です。
また、複写機としてはやや大きすぎるが、カラー複写機で、スピードが毎分30枚以上の機種ではと絞り込んでいくと、自社と他社のシェア状況がつかみやすくなります。
最近市場の伸びが大きいデジカメを例にすると、一眼レフ、コンパクトカメラ、ビデオカメラというジャンルでシェアをつかむのが妥当でしょう。
⑥市場シェアの調査方法
本市場シェアの調査としては、業界と他社をどのように捉えるかが重要ですが、もう一つ大切なのは、金額(出荷・販売・保守など)なのか、台数(生産・販売・保有)なのかを区別することです。
製品や商品の特性によっては、台数では捉えにくい面もありますが、基本的には、まず数量でシェアを算出し、他社に勝つことです。その後、金額ベースに転換して他社を圧倒します。
さらに、機械などの生産財や車、複写機などの大型耐久商品は販売台数ベースでのフローシェア(流通シェア)、市場に稼動し登録されている保有台数ベースでのストックシェア(累積現有台数シェア)で調査する必要があります。
たとえば、自家用車の販売台数(流通シェア)と登録台数(累積シェア)、また複写機ではフローシェアでの販売台数、ストックシェアでの稼働台数があります。製品・商品の特性に応じて二面性からシェアを調べる必要があります。
⑦ローラー調査で地域ナンバーワンへ
市場の現状を把握するためには、まずローラー調査を行ない、情報を収集します。道路工事の現場でローラーを使い、すべてを押しつぶして平らにしている光景を見ることがありますが、このように、やり残しのないよう全数を調査することをローラー調査といいます。
この手法では、偏りのない精度の高い情報が得られます。また、調査を自社社員で行なうことで、生の情報に触れ、市場に対する認識を新たにすることができます。
自社が一般消費財のメーカーで、販社を経由して市場に商品を流しているとします。第2章で選んだ重点地域に対して、ローラー調査を行ないます。
重点地域に存在する販社を一軒一軒訪問し、担当者から、自社商品・競合他社商品の売上高など、調査品目の販社での流通実態を調査します。
⑧ローラー調査を実施する方法
ローラー調査は必ず自社の営業員が実施し、次の準備を行ないます。
- 調査対象とする自社商品および調査品目の決定
- 調査地域の選定
- 調査品目を取り扱う、販社のリスト作成
- 調査用紙
- 調査員名刺
- 携帯電話(カメラ、ボイスレコーダー付き)
- お礼の品
- その他
一方、ロールプレイング(役割演技法)で、販売会社の担当者、調査員に扮し調査のシミュレーションを行ないます。その結果から、質問事項の整合性、時間配分などの確認を行ないます。
1組2名で調査チームをつくり、1件の調査時間は約20分、1日10社ほど訪問する計画を組みます。調査期間は3日間程度。
訪問件数が多い場合はチーム数を増やすか、地域をより細分化することによって対応します。1社の調査終了後、すぐにチームで調査結果をまとめます。
これを繰り返し、リスト上の販売会社全数を調査します。訪問できない場合は、公表されているデータまたは過去に蓄積したデータで推測します。
⑨ラージABCで流通の実力を見る
ローラー調査で得たデータをABC分析手法で分析します。ABC分析は、流通の実力および偏りの度合いを分析する手法です。
ABC分析図は、売上高の多い順に配列した棒グラフと、売上高の累積百分率(%)を示す折れ線グラフを重ね合わせた複合グラフで示します。
累積百分率の70%までに含まれる販売会社をAクラス、70%を超え95%までに含まれる販売会社をBクラス、95%を超え100%までに含まれる販売会社をCクラスとします。
A・B・Cの各クラスに含まれる販社数の比率が1対2対2程度のとき、安定的な姿とみなされています。もう一つ重要な指標として、取引店率(カバー率)があります。
調査した販売会社の総数に対する、自社と取引している販売会社数の割合が取引店率です。
販売会社はライバル社の商品を扱っている場合もあり一概に言えませんが、取引店率が大きいと市場シェアも大きいということができます。
⑩スモールabcdで競争地位を示す
次は、調査品目を取り扱っている販売会社の中での自社の競争地位を分析します。
分析結果はスモールabcdを用い、次のように分類します。
aは、自社商品の得意先内シェアがナンバーワンである販売会社bは、自社も競合他社も含めてナンバーワンがいない販売会社cは、競合他社がナンバーワンである販売会社dは、自社が未取引の販売会社店内シェアとは、販売会社売上に占める自社商品の売り上げの割合のことです。
ナンバーワンとは、自社が他社を店内シェアで射程距離圏外に引き離した場合をいいます。
ラージABCとスモールabcdを組み合せ、たとえばAa店のように表示します。「Aa店率」とは、Aクラスの販売会社数に対するAa店数の割合のことです。
⑪シェアアップの目標値をつくる
「構造シェア」
この場合、ランチェスター戦略では構造シェアを用います。構造シェアは、左図の式に示したように、取引店率とAa店率から合成します。
この式からわかるように、量の面を持つ取引店率と、質の面を持つAa店率に分けたシェアの計画づくりが可能となり、それぞれを増加させることで、市場シェアをアップすることができます。
また、流通段階における取引店率とAa店率の把握から、最終市場シェアを推計することができます。
なお、商品の特性やライフサイクル上の位置にもよりますが、競合他社の取引店率が上がる(併売率が高くなる)と、最終市場シェアよりも高めの結果が得られます。
その補正のため、たとえば各社の平均取引店率が60%ほどになれば、取引店率の係数を0・4、Aa店率のそれを0・6にします。
⑫シェアアップ戦略を構築する方法
ここまでで分析は終了しました。この後はシェアアップ戦略の構築です。まずは、流通戦略マトリックス(左図)を作成して戦略を立てます。マトリックスの左上が重要得意先、右下がウェイトを下げる得意先です。
次に、目標とするシェアアップの数値を取引店率とAa店率に配分します。Aa店率を上げるには、Ab店またはBa店の中からAa店昇格の候補を選び、重点的に営業活動を行ないます。
候補の選び方は、Ab店については、ナンバーワンになりやすいか、Ba店については、相手の売り上げを伸ばす支援活動を行ないやすいかが判断基準になります。
取引店率を上げるには、未取引の販売会社の中から候補を選び、重点的に訪問活動を展開します。未取引の販売会社の新規開拓の詳細については第4章で述べますが、競合他社のオンリー顧客も候補の一つとなります。
Column事例12
テレビ通販に販路を特化――株式会社三井コスメティックス――1月某夜、小林社長はテレビ通販番組出演のためショップチャンネルのスタジオへと向かう。1日数回にわたるライブを生放送で行なうために。
三井コスメティックスは、独自にブレンドしたハーブ原液をそのまま製品化。発売から28年、累積100万本超を売り上げている「シミコンク」は、そのこだわりハーブ化粧品の代表格である。
原料は社長自ら欧州各地を訪問、ハーブに最適な農園を探し求めて栽培契約を交わしている。三井コスメティックスは1998年からテレビ通販を開始し、ショップチャンネルで販売しているメーカーの中では現在、最古のブランドとなっている。
スピードが求められるテレビ通販の中で、今なおトップレベルで居続けられたのは、変化に柔軟に対応してきた結果なのである。
Column事例13
新しい製品の開発とチャネルの差別化――いなば食品株式会社――「、」社是、、、。稲葉社長は、自ら命名した「チャオ」ブランドを立ち上げ、原料の質の良さ、缶の容量、包装形態などで差別化をはかったが、外資系大企業が圧倒的に強いこの市場ではシェアを取れず、苦戦していた。
そんななか、プレミアム・カテゴリーなどの各種高価格帯の商品を開発・発売したが、この新しいジャンルの商品は既存のチャネルである量販店やデパートなどを使うのみでなく、ペットショップでの販売も行なった。
このチャネルでの認知度が上がるにつれ売上げも拡大し、高価格帯のセグメントにおいてはナンバーワンの圧倒的シェアを獲得している。
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