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売れるパッケージデザイン 150の鉄則

はじめに

この本はパッケージデザインに関わる仕事や勉強をしている方に向けて書いた本です。とはいってもパッケージデザインの描き方ではなく、企業活動におけるパッケージデザインの上手な使い方を紹介しています。初めてパッケージデザインと関わる仕事に就いた方や、マーケティング部門のリーダー、企業経営者をイメージしながらパッケージデザインを「どう使えばいいか」をまとめました。普段仕事をしていて、よくデザイナーと企業の方との隔たりを感じます。「私はデザインを知らないから」「センスに自信がないから」「デザインの依頼の仕方や評価の方法がよく分からない」などなど。皆さん自信を持ってデザイナーとやり合うには数年の経験が必要なようです。というのもデザイナーという職業は長期にわたってポジションが変わりませんが、クライアント側は数年で異動されることが多いので、情報・知識・経験に大きな差が生じやすいのです。また、悩んでいるのは担当者だけではありません。自社のデザイン力をどのように高めたらいいか。担当者のデザインリテラシーをどのように向上させればいいのか。こういったことにお悩みのマーケティングリーダーや経営者にもよくお会いします。このような方々にできるだけ短い時間で、パッケージデザインやデザイナーの持つパワーを存分に引き出し、企業活動に生かしてもらう。その方法を言葉にしたのがこの本です。私はパッケージデザインの制作・評価という仕事に関わって20年以上がたちます。この20年で感じたこと、発見したことをできるだけ分かりやすくお伝えしたつもりです。150のテーマを用意し、各テーマ見開き2ページの読み切りの形で書いています。最初から最後まで通して読むのが難しい方には、お悩みのテーマをピックアップしてお使いいただければと思います。実践編、戦略編、知識編に分かれていますので、パッケージ初心者の方は実践編・知識編を、リーダーや管理職、経営者の方は戦略編を中心にお読みいただくことをお勧めします。この本は2010年に出版した『図解でわかるパッケージデザインマーケティング』をベースに内容を進化させました。デジタルテクノロジーの進化で人々の生活は大きく変わりました。パッケージデザインに期待される役割もこの10年で大きく変化しています。デジタルシフトやイノベーションを生み出す役割としてのデザインについても新たに触れていきます。皆さんの関わる商品が、素晴らしいパッケージデザインとともに世の中に羽ばたいていかれることを心より願っております。2020年10月株式会社プラグ代表取締役社長小川亮

Part1実践編

第1章マーケティング活動とパッケージデザイン

01マーケティング活動とパッケージデザイン02マーケティング活動との関わり03パッケージデザインはチラシかブランドか04パッケージデザインの5つの役割05パッケージデザインの役割❶:06パッケージデザインの役割❶:07パッケージデザインの役割❷08パッケージデザインの役割❸09パッケージデザインの役割❹10パッケージデザインの役割❺11メディアとしてのパッケージデザイン12パッケージデザインと広告の関係13パッケージデザインの制作ステップ

第2章パッケージデザインのオリエンテーション

01オリエンテーションの重要性02オリエンテーションの項目03オリエンテーションの項目❶04オリエンテーションの項目❷05オリエンテーションの項目❸06オリエンテーションの項目❹07オリエンテーションの項目❺08オリエンテーションの項目❻09オリエンテーションの項目❼10オリエンテーションの項目❽11オリエンテーションの項目❾12オリエンテーションの項目❿13オリエンテーションの項目⓫14オリエンテーションの項目⓬15オリエンテーションワークショップの勧め16パッケージデザインの値段

第3章デザインの評価

01良いデザインとは何か02基本的な評価の流れ035つの評価軸(ABCDE)045つの評価軸❶:(Attention)

055つの評価軸❷:(Basic)065つの評価軸❷:(Basic)075つの評価軸❸:(Concept):機能的価値085つの評価軸❸:(Concept):情緒的価値095つの評価軸❹:(iDentity)105つの評価軸❺:(Experience)11評価の重みづけ12調査活用のポイント13調査の方法14定量調査の方法15デザインの評価項目16定性調査の方法17観察調査18アイトラッキング19AIによる評価20組織内でのデザイン説明

第4章リニューアルを考えるポイント

01ロングセラーブランドのリニューアルの失敗02リニューアルの目標設定03大きく変えるべきか、小さく変えるべきか04丁度可知差異05鮮度維持のタイミング06メタファーの設定07メッセージの設定08デザインアイデンティティーの特定と強化09デザインアイデンティティーの特定方法10リニューアルデザイン案の評価と決定

第5章デザイナーとのコミュニケーション

01デザイナーとのコミュニケーションに関わる問題02デザイナーに何を期待するのか03デザイナーをどう選ぶか04コンペをするべきかどうか05イメージを共有するために06プレゼンテーションの受け方07修正のためのコミュニケーション08入稿時のポイント

Part2戦略編

第1章パッケージデザインと戦略

01デザインと戦略の関係02製品ライフサイクルとデザイン03新しい市場をつくるときのパッケージデザイン04ブルーオーシャン戦略とパッケージデザイン05戦略的模倣

06ポジショニング戦略とパッケージデザイン07競争ポジション08コーポレートブランド戦略と個別ブランド戦略09流通戦略❶10流通戦略❷11プライベートブランド12広告投下量とパッケージデザインの関係13パッケージを中心にしたコミュニケーション14IMCの概念15世界共通デザインかローカライズデザインか16ローカライズの際のポイント17グローバル企業のデザインマネジメント

第2章パッケージデザインとブランド

01ブランド戦略とパッケージデザイン02ブランド価値の定義03ブランド資産としてのデザイン04アイデンティティーの育成05ブランドを強くするリニューアル06ブランドのリポジショニング07ブランドの拡張08ブランド要素選択の際、重要なこと

第3章パッケージデザインとイノベーション

01イノベーションとパッケージデザイン02新素材とパッケージデザイン03IoTが変えるパッケージデザイン04AIが変えるパッケージデザイン05デザイン思考とパッケージデザイン06デザイン思考の進め方07プロトタイプとしてのパッケージデザイン08ユーザーイノベーション09デザインドリブンイノベーション

第4章デザイン力のある会社になるには

01競争優位性としてのデザイン02デザイン経営とパッケージデザイン03デザインを取り巻く環境の変化04デザインマネジメント体制05デザインで勝つ企業をつくるには06デザイン教育07パッケージデザイン組織の役割08パッケージデザイン組織のパターン

09パッケージデザインの組織❶10パッケージデザインの組織❷11パッケージデザインの組織❸

Part3知識編

第1章パッケージデザインをつくるための要素01ネーミング02キャッチコピー03カラー04写真05イラスト06キャラクター07ロゴ08形09容器10パッケージの素材11印刷の方法

第2章パッケージデザインの定石

01デザインのルールと研究02黄金比率03脳の半球優位性04感性工学とデザイン05色と感性06ネーミングと感性07感覚転移08対称と非対称09アフォーダンス10顔写真を使うリスク11男女の好み12季節限定の効果13伝えられることは3つ

第3章パッケージデザインと法律

01パッケージデザインと法律02著作権03商標権04意匠権05容器包装リサイクル法06契約書

第4章パッケージデザインと社会環境

01パッケージデザインと社会環境02SDGs(SustainableDevelopmentGoals)03表示マーク04LCA分析053R06ユニバーサルデザイン07アクセシブルデザイン08大きな変化があったときおわりに協力企業一覧奥付

01マーケティング活動とパッケージデザイン

パッケージデザインは、マーケティングの成功に大きく貢献する日本では2019年に、テレビ広告費を抜いてインターネット広告費が最も多く使われる広告費になりました。巨額な予算をテレビ広告に一気に投下し、強い営業力で全国に商品を並べ、短期間で売り上げをつくるようなマスマーケティングの有効性は、急速にその力を失いつつあります。SNSの浸透により消費者に伝える手段が細かくなり、あらゆるコミュニケーションの場面に登場するパッケージデザインの重要性が高まっています。消費者は商品よりも、その商品を使って得た経験に価値があると感じています。パッケージデザインは、購入時、使用時、廃棄に至るまで常に消費者の近い場所にいるため、アイデアと技術次第で多くの経験を消費者に届けることができます。今までになかった新しい使い方や体験を提供し、思い出をつくる。これはもはや重要な商品価値そのものでもあるのです。パッケージデザインは、消費者が求める「経験を創造する」という価値を提供するビッグチャンスに恵まれています。経済産業省と特許庁は2018年に「『デザイン経営』宣言」を出しました。デザインが持つブランドを高める力、イノベーションを生み出す力を最大限活用することで、競争力を高めていこうというメッセージです。コカ・コーラの赤色は世界中の人に覚えられるブランド資産であり、ペットボトルの登場が人々と飲料の関係を変えたように、まさにパッケージデザインには企業の競争力を高める可能性を十分に秘めています。マーケティングコミュニケーションのメッセンジャーとして、経験価値を生み出す主役として、イノベーションの発火装置として、ブランド資産の源泉として、パッケージデザインはマーケティング活動の中で、ますます重要な位置を占めてきています。パッケージデザインの成功は、マーケティングの成功に大きく貢献するといえるでしょう。

02マーケティング活動との関わりデザインは4つのマーケティング活動との関わりを持つマーケティング活動とパッケージデザインには大きな関わりがあります。デザインの仕事はとかく、個人の趣味や嗜好に走りがちですが、マーケティング活動をしっかりと整理することで、デザインのあるべき姿が見えてきます。1.コンセプト開発「その商品のどこに焦点を当てて訴求すれば、消費者が手に取ってくれるのか」。つまり商品の最も大切な本質的価値を突き詰めていくというデザイン制作の出発点もあれば、アイデアをいったんデザインにして商品のコンセプトそのものを考えていくというデザインの使い方もあります。また、商品を買った後の使い方や廃棄の仕方まで考えてデザインアイデアをつくっていくことも必要です。パッケージデザインの制作プロセスは、コンセプト開発そのものでもあります。2.コミュニケーション戦略パッケージデザインはその後のコミュニケーション戦略と深い関わりを持っています。パッケージで伝えているメッセージや世界観と共通した、統一感のある広告コミュニケーションが求められます。また、掲載される様々なメディア特性を考慮して、パッケージデザインにどんな役割を持たせるのかも大切です。例えばECサイトでの販売がメインであれば、商品特徴の伝達はパッケージ上ではなくECサイトの説明欄に任せ、パッケージデザインは使用シーンやターゲットのインテリアに合わせたデザインをすることが可能です。逆に店頭で、顧客自身に選んで手に取ってもらう場合には、パッケージ上にはその商品の魅力が瞬時に伝わる言葉や効果を盛り込まなければなりません。3.ブランドマネジメントパッケージデザインはブランドの大きな要素です。パッケージデザインがブランド資産そのものになっているケースもあります。パッケージデザインは、そのブランドの提供価値やパーソナリティー、エッセンスを体現している必要があります。また、パッケージデザインのリニューアルでは、カラーやロゴ、形など、ブランド資産となっているデザイン要素を残しながら、新鮮さを維持することが必要になります。4.競争戦略デザインは競争戦略に従います。リーダーかフォロワーか、市場は今、導入期か成熟期か、どういった競争ポジションを確立したいのか、こういった自社の取るべき競争戦略によってデザインは大きく異なります。新たな市場を創造していく商品であれば、今までにないパッケージデザインが必要になりますし、市場リーダーの立場であれば、時には先行発売された他社のデザインに近づけるというデザイン戦略も存在します。

03パッケージデザインはチラシかブランドかチラシ的役割とブランド的役割の両方必要パッケージデザインには、チラシ的な役割とブランド的な役割の2つがあります。「この3日間だけ、98円均一」「他店より必ず安くします。価格保証付き!」など、最も伝えたい商品やサービスのポイントを、手を挙げて、大きな声を出し、最も伝えたいことをしっかり相手に伝え、行動に移してもらう。これがチラシです。実はパッケージにも同じことがいえます。棚に並ぶ数多くの新商品の中で、振り向いてもらい、最も伝えたい商品のセールスポイントを伝え、消費者に手に取ってもらうという役割です。最初の購買を実現させる役割といえます。一方、パッケージにはブランド的な役割もあります。強いブランドは顧客の頭の中に明確なメッセージとイメージをつくり続け、信頼を深め、顧客との長期的な関係性に基づく売り上げや利益をもたらします。パッケージデザインは、消費者の記憶に残る大切なブランド資産です。ロングセラー商品になるほどその資産は大きく、その資産の中でもパッケージデザインが占める割合は大きなものがあります。例えば、赤い350mlの缶を見るだけで、世界中の多くの人が「コカ・コーラ」だと感じることでしょう。それはパッケージデザインが、実際に触ってみることのできるという特性と接触頻度が高いという特性を持っているからです。長く使っているパッケージを見るだけで、その商品のイメージや広告、思い出などが浮かんできます。これがパッケージデザインのブランド的役割です。新商品のパッケージデザインはまず目に入って、手に取ってもらう“チラシ的役割”からスタートしますが、徐々に売れてくるに従って、ブランド的な役割が重要になります。発売時から時間をかけて、チラシ的役割からブランド的役割へとパッケージデザインの役割は変わっていくのです。ロングセラーブランドのパッケージの多くは、数年サイクルのデザインリニューアルを通じて、パッケージデザインをチラシからブランドへと進化させていきます。

04パッケージデザインの5つの役割マーケティング活動におけるパッケージデザインの5つの役割マーケティング活動において、パッケージデザインが果たすべき役割は5つあります。1.商品価値の創造パッケージデザインは商品価値の一部です。使い勝手を向上させたり、中身を保存・保護する機能を充実させたりすることで顧客の利便性を上げるといった機能的な面で商品価値を実現します。また、食品ならば「おいしそう」、医薬品ならば「よく効きそう」といった情緒的価値をパッケージデザインによってつくり出すこともできます。2.コンセプトの伝達多くの新商品が並ぶ店頭では、顧客にその商品の良さを短時間で伝達することが必要です。店頭で見られる一瞬のうちに、商品のベネフィットを伝え、手に取ってもらう。これがパッケージデザインの役割です。また、商品が伝えたいイメージを形やビジュアルで情緒的に表現することもパッケージデザインの大切な役割です。3.コミュニケーションの設計パッケージデザインと広告・PR・SP・WEB・SNSといったメディアにおいては、一貫して同じ情報を伝えていく必要があります。それによって、強く効率的なコミュニケーションが実現します。パッケージデザインは多くの場合、広告に先駆けて、コミュニケーションプランの最初につくられます。その場合には、最初に全体を通じて届けるべき一貫したメッセージやイメージを設計した上で、パッケージデザインを進めていくことが求められます。4.経験価値をつくり出すパッケージを購入してから廃棄するまで、購入する人、使う人にどのような思い出や経験をプレゼントできるかを考えます。商品そのものではなく、商品を通じて得られる価値を経験価値といいます。パッケージは買ってから使用時、廃棄時まで様々な価値ある経験をつくり出すことが可能です。5.ブランド資産の形成パッケージデザインは、顧客の記憶に残る大切なブランド資産です。ブランドイメージをつくるに当たり、パッケージデザインに様々なイメージ・情報を集約して、記号として顧客に印象付けることができます。色、ロゴ、キャラクター、写真、形など、パッケージデザインを形成する様々な要素を記号化し、顧客のイメージの中にブランド資産を形成します。

05パッケージデザインの役割❶商品価値の創造:機能的価値使いやすさを追求し、商品価値を高めるパッケージデザインには、商品価値を高める役割があります。商品の中身を保護し、どんな人でも使いやすいように利便性を向上させたり、効率的に運送することを実現させ流通効率を上げたりすることができます。開けやすい、飲みやすい、使いやすい、持ちやすい、捨てやすいといったパッケージデザインのハード面の改良は、より多くの顧客の支持を獲得できます。容器の開発は、時間とコストがかかる上に複数の部署をまたがる大がかりなものになるため消極的になりがちですが、その分、市場で競争優位を確立するためのインパクトある戦術でもあります。機能的価値の開発は、その目的によって大きく3つのタイプに分けることができます。1.課題解決型顧客の課題を発見し、丁寧に解決することによって使い勝手を改善していくパターンです。「クレラップ」は1960年の発売以来60年間改良を重ね、使い勝手が良くなるようにパッケージを進化させています。キリンビールでは、ビールを24本入りのケースで購入する一般消費者が増えたことから、段ボールの角を斜めに切り取ることで、より運びやすい形を実現しています。2.新場面創造型容器形態を変えることで、今までになかった使用場面を生み出すパターンです。このパターンにより新しい市場をつくることが可能になります。例えばガムのボトル容器の登場は、オフィスのデスクに置いておいてリフレッシュしたいときにすぐに手を伸ばすというガムの登場機会をつくりました。カップ型のスナック菓子は、車のカップホルダーに置きやすいため、ドライブ中にスナックを食べる機会を増やしました。3.新体験創造型新しい容器の採用は利便性を高めるだけではありません。新しい使用体験を通じて楽しさや今までにない驚きを提供できます。花王は洗剤のボトルをトリガー式に変更することで、片手で使えるという利便性を向上させると同時に、気持ちよく、楽しく使うという新しい価値を提供しています。

06パッケージデザインの役割❶商品価値の創造:情緒的価値良いパッケージデザインは中身の評価を変える歴史的に香水や基礎化粧品、洋酒のパッケージデザインには芸術作品と呼べるようなものが数多く存在します。パッケージデザインはそのデザインを通じて高級感や品質感を表現したり、見る人の気持ちをわくわくさせたり、豊かな気持ちにさせたり、欲しいと思わせたりする情緒的価値をつくり出すことができます。こういった情緒的価値を持つのは高級品や嗜好品のパッケージデザインだけではありません。デザインとして形にする以上、すべてのデザインには情緒的価値が備わっています。例えばお菓子のパッケージの中には楽しいキャラクターが登場することで、子どもたちを元気にする力が備わっているものが数多く存在すると思います。それだけではありません。アメリカで行われたある実験で、同じオレンジジュースに対してAとBの2種類のパッケージデザインを用意しました。対象者は、Aのパッケージデザインと一緒に出されたオレンジジュースの味と、Bのパッケージデザインと一緒に出されたオレンジジュースの味を比較するように依頼されます。その結果、そもそもデザイン評価が高いAと一緒に出されたオレンジジュースの味を被験者は高く評価したのです。同じオレンジジュースであるにもかかわらず、多くの人は、パッケージデザインがおいしそうに見えるほうを実際においしいと感じるのです。良いパッケージデザインは中身の印象を変える力を持っています。こういった現象は感覚転移と呼ばれています。「おいしそう」という感覚が中身まで転移するという意味です。ビールにおいても、ブラインドテスト(銘柄を提示せず、味だけで評価するテスト)で銘柄を的中できる人は少ない割に、銘柄にこだわる人が多い理由は、この感覚転移という効果にあると思われます。飲料や食品であればおいしそう、医薬品であれば効きそう、というデザインの力はそのまま中身の効用まで高めることができるのです。情緒的価値を表現していくのに大切なことは、どのようなゴールを設定するかです。例えば高級感といっても様々な高級感があります。他とは違う自分の商品だけが持つ高級感を表現していこうとすることが大切です。もう1つ大切なのは、すべてのデザインに情緒的価値が存在しているという点です。「うちの商品は高級品じゃないから、情緒的なデザインは関係ない」という人がいますが、すべての商品は人々の生活の中に入り込み、生活の1シーンになるという点で、情緒的価値をしっかりと考える責任があるといえます。

07パッケージデザインの役割❷トライアルの実現パッケージデザインを見て、まず購入してもらう消費者の購買行動は、初回購入(トライアル)と継続購入(リピート)に分けて考えることができます。通常、その商品を愛用するかどうかは、自分の期待した満足感がその商品によって得られたのかどうかによって決定します。「おいしそう」「肌荒れが治りそう」など、購入した商品がこうした期待に見事に応えられれば、継続購入に結びつきます。しかし、初回の購入の際には、消費者は商品の良さを推測して購入する以外にありません。パッケージデザインは、この初回購入に大きな影響を与えます。購入を検討する際に、この商品は何を自分に提供してくれるのかを推測する重要な手段がパッケージデザインなのです。ここで重要なことは、「短時間で正確にベネフィットを伝える」ということです。消費者がパッケージを見て買うか、買わないかを判断する時間は一瞬です。短時間で、正確に情報を伝えるには、伝えたい情報を絞り込むことが必要になります。ベネフィットというキーワードも大切です。商品のスペックや特徴を語っても、多くの消費者はそれを自分の幸せに翻訳できません。「この商品はあなたに幸せをもたらす」ということをできるだけ分かりやすく、納得してもらわなければなりません。また、「正確に」という点は、継続購入を促すために重要な視点です。誇大に情報を伝えてしまうと、たとえ初期購買は増やせても、「嘘をつかれた」と思う人を増やしてしまい、継続購入に結びつきません。それどころか、ブランドや企業に対するイメージを損なうことになりかねません。商品が持っているポテンシャル、ベネフィットを超えない範囲で「正確に」伝えることが重要です。発売から数週間の売り上げ状況で商品価値が判断されるというマーケティング環境の中で、初回購入の増加を実現するパッケージデザインの役割はますます重要になっています。

08パッケージデザインの役割❸コミュニケーションの開発一貫したコミュニケーションを実現するマーケティングコミュニケーションでは、消費者との様々な接点において常に一貫したメッセージを送り続けることが重要です。しかし実際は部署間や活動地域などの隔たりから、バラバラのメッセージが使用されていることが多いのではないでしょうか。これに対し、一貫したメッセージやイメージに基づくコミュニケーション活動をしていこうという考え方が統合型マーケティングコミニケーション(IntegratedMarketingCommunication:IMC)と呼ばれているものです。マーケティング計画を進めていくに当たり、パッケージデザインの企画・制作は広告やWEB、SNSでの計画に比べ、かなり早い段階で着手されます。そのため、それぞれのコミュニケーションプランはパッケージデザインの影響を受けます。「こんなパッケージデザインでは、コミュニケーションプランをつくりにくい」といった状況に陥らないために、パッケージデザインを制作する際には「顧客に何を伝えていくのか」「どういったイメージを伝えていくのか」という全体のコミュニケーションの核になる要素をしっかりと設定する必要があります。予算が十分にある商品やキャンペーンでは、広告代理店にすべてのコミュニケーションをサポートしてもらうことで統合されたコミュニケーションを実現するという方法もありますが、最近はデジタルマーケティングの台頭により、従来のマス広告から細やかなターゲティング・コミュニケーション戦略が重要になっています。この大きな流れの中では、テレビCMに登場する芸能人ではなく、商品のベネフィットを中心に据え、パッケージデザインから始まるマーケティングコミュニケーションプラン全体をクライアントが主導的に統合していくことで、伝えたいことを効率的にターゲットに届けるコミュニケーションが期待されます。パッケージデザイン制作に着手する前に、明確なブランドメッセージ、ブランドプロミス、ブランドパーソナリティーを設定し、メディアの選定、広告目標などのコミュニケーションプラン全体を見据えた上で、パッケージデザインの制作をスタートし、ターゲットとの接点で一貫したメッセージを伝えていくことが重要です。

09パッケージデザインの役割❹経験価値の創造思い出をいかにつくるかモノそのものよりも、モノを通じて得た経験に価値があるという考え方があります。これを経験価値といいます。高校生の頃、毎日のように友人と一緒に飲んだ飲料や、母親に料理を初めて教えてもらったときの調味料、息子に初めてプレゼントされて一緒に飲んだお酒など、商品はその利用体験とともに様々な思い出をつくってくれます。そして、この経験価値をどうつくっていくかが近年、とても大切になってきています。人々が店頭ではなくインターネットでモノを買うようになってきたため、デザインの表現が自由になってきたということも要因の一つでしょう。通販サイトの「LOHACO」は「暮らしになじむデザイン」を大切にし、多くのファンを獲得してきました。北欧風の暮らしになじむデザインは、普段の生活の中にあっても、インテリアのようなパッケージとして心地よいデザインに囲まれて暮らす経験価値を提供しているといえるでしょう。「きっと勝つ」の語呂合わせで家族や友人からプレゼントされた「キットカット」は、多くの人の高校や大学受験の思い出になっていると思います。パッケージデザインは購入から廃棄まで、実に長い期間、消費者のそばにいます。つまり、経験価値を生み出す多くのチャンスに恵まれているといえるでしょう。パッケージを制作する際に、どんな体験、驚き、思い出といった経験を創出できるかを考えることは、とても大切です。広告、店頭、配送、使用、廃棄──こういったプロセス全体を通じてパッケージがつくり出せる経験価値は無限に存在します。容器が新しくなって、ぐっと使いやすくなったときに、「えー、こんなに使いやすいんだ!」「なにか楽しいな」と感じてもらうことや、容器を捨てるときに「びっくりするほど小さくなった」「環境に配慮しているなあ」「こんなに素敵なパッケージは捨てずに飾っておこう」と思ってもらうことも、すべて経験価値なのです。ちなみにUXと表記されることの多いユーザーエクスペリエンスという言葉があります。経験価値がマーケティング分野から、UXは認知科学・情報処理の分野から提唱された概念のため言葉が違っています。個人的には経験価値のほうがUXに比べて長期間の使用経験を想定しているように感じますが、基本的には両方とも同じ概念です。

10パッケージデザインの役割❺ブランド資産の形成パッケージデザインというブランド資産顧客がそのブランドをイメージする際に、頭に思い浮かべるものをブランド資産といいます。一つひとつの商品や技術での差異化が難しい今日、ブランド資産は重要な経営資源となっています。このブランド資産を構成するブランド要素には、名前、ロゴ、スローガン、キャラクター、ジングルなどが挙げられますが、パッケージデザインにはそのほとんどの要素が入っています。このために、ブランド名を聞くと顧客の頭の中に浮かぶのはパッケージデザインというケースが多いのです。つまり、パッケージデザインは非常に強いブランド資産であると言い換えることができます。強いブランド資産となるパッケージデザインをつくるには、デザインの中にフックとなる色や形、ロゴなど資産となり得る要素を定め、広告、PR、SP、店頭などと連動して、長い時間をかけて、顧客の頭の中にイメージを蓄積していくことが必要になります。強いブランド資産として残っているパッケージデザインの多くは、要素がそぎ落とされたシンプルなデザインです。そして、昔から変わらない部分を持ちながら、少しずつ時代に合わせてデザインを進化させ、新鮮さを失わないような努力をしています。その結果として、多くの人がシルエットだけで、その商品を連想できたり、カラーだけで、そのブランドを言い当てたりすることができるようになります。こういった、特定の記号にイメージを集約していくことが、パッケージデザインをブランド資産として活用していくことのコツともいえます。また、こういったデザイン上の特定の要素を広告活動を通じて強化し、ブランドイメージをその記号に集約させることで、より強い効果的なコミュニケーションが実現されます。

11メディアとしてのパッケージデザインパッケージデザインは接触頻度の高いメディアパッケージデザインをメディアとして捉えた場合、他の媒体に比べ、①接触頻度が高い、②触ることができる、③ユーザーに近いという3つの特徴があります。①接触頻度の高さ商品の購入を検討してから廃棄に至るまで、すべての段階でパッケージデザインは購買者と接点があります。どの商品を購入しようか迷っているときにも、SNSやWEB、広告やPRにも必ずパッケージデザインが登場し、接触しているのです。店頭でいざ購入しようというときにも、棚の前で接触します。ECサイトで購入するときも画面にパッケージが登場します。購入し、その商品を使い続ける間中、パッケージデザインは購買者と接触します。店頭で見かけたかわいいパッケージやお薦め商品などでパッケージがSNSに登場することもずいぶん増えています。最終的に廃棄に至るまで、パッケージデザインは接触頻度の高いメディアだといえます。②触ることができるパッケージデザインというメディアは触ることができるという特徴を持っています。これは通常、視覚、聴覚が中心の他メディアに比べて、特殊性の高いメディアです。最近は、実際に顧客が商品を利用した経験によって得られる価値が重視されるようになってきており、手触り、使用感など触覚をうまく利用することで、顧客の心に残る経験を蓄積できるメディアです。③顧客への近さテレビCMなどは、全く見込みのない顧客にまで情報を伝達するという意味で無駄のあるメディアであるのに対して、パッケージデザインは購入検討者、購入者、ヘビーユーザーと、顧客のロイヤリティーに応じて接触機会が増えていきます。潜在顧客や長く使い続けているヘビーユーザーなど、大切な顧客との接点が多いメディアです。メディアとしてのパッケージの特徴をうまく使うことで、商品に対する顧客の理解や愛着を高めることができます。ブランドを形成する目的でも、接触頻度の高いパッケージデザインというメディアをどのように使うかは、マーケティング戦略全体を左右する重要な要素だといえます。

12パッケージデザインと広告の関係一貫性のあるコミュニケーションが大切パッケージデザインと広告は、切っても切り離せない大切な補完関係にあります。テレビCMやSNS、WEBなどで商品情報をインプットし、店頭で商品を購入するプロセスにおいて、「あっ広告で見た!あれだ」という印象・記憶が大変重要になります。この補完関係を最大限活用するには、パッケージで表現する内容と広告で表現する内容が統一されている必要があります。キャッチコピーやデザイン、表現している雰囲気、世界観など、パッケージデザイン、SNS、WEB、CM、店頭で表現されているものに一貫性がなければなりません。それぞれの媒体で、違うことが表現されていると顧客の混乱を招き、コミュニケーションの効率も落ちるため、結果として無駄にお金を使うことになります。このため、パッケージデザインの開発時には、どういった媒体にどれくらいの広告を投下していくのかをしっかりと計画した上で、パッケージデザインと広告、店頭、PR表現の一貫性を最初から計画することが重要です。また、広告の投下量とパッケージデザインには重要な関係があります。広告が投下されないパッケージデザインの場合、商品の説明の多くをパッケージデザイン上で伝えていく必要があります。もし、大量の広告を投下するのであれば、パッケージデザインで商品の説明に多くの面積を割く必要は減るでしょう。その分、印象に残るダイナミックなデザインに挑戦できます。前述のとおり、パッケージデザインはチラシ的役割から始まり、次第にブランド育成へと役割が変化するのですが、広告を大量に投下すれば、この過程を先取りすることができます。広告が投下されないのであれば、パッケージはチラシ的役割を重視し、広告が投下されるのであれば、ブランド的役割、つまり記憶に残る記号をいきなりつくることができるのです。そういった意味で、広告を初期段階でどれくらい投下するかということは、パッケージデザインにどの役割を持たせるかという点で非常に重要な情報だといえるのです。また、ここ数年のSNSの発達により、SNSで商品やパッケージをユーザー自らが取り上げてくれることが多くなってきました。SNSで取り上げられる仕掛けや切り口を用意しながら、さらにそれらを広告展開にフィードバックするという柔軟な進め方も有効です。しかしながら、いずれのパターンでも重要になるのは一貫性です。どの接触ポイントにおいても、同じ世界観、ベネフィットを伝えていくことで効率的・効果的なコミュニケーションを実現しましょう。

13パッケージデザインの制作ステップパッケージデザインの制作ステップは4段階に分けられるパッケージデザインの制作ステップは通常、大きく4つに分けることができ、ステップごとに明確にすべき課題があります。STEP1:コンセプトの開発コンセプトの開発段階では、消費者のニーズや自社の技術、競合商品の分析といった市場全体の把握と、自社の強み、どんなターゲットに向けて、どういうコンセプトの商品を開発していくかなどを検討します。ここで特に大切なのは、買う人にとってのベネフィットを明確にすること。そして、カテゴリーの選択です。例えば、アイスとして出すのか、ヨーグルトとして出すのかというポジショニングの問題です。特に新商品の場合、店舗のどの棚を狙っていくのかは、大変重要な問題です。STEP2:オリエンテーションオリエンテーションは、アートディレクターやデザイナーに対して、どういったパッケージデザインを目指しているのかを共有する場です。ターゲットや商品のベネフィット、ブランドのストーリーや世界観、ポジショニング、デザインのイメージ、競合商品、価格、売り場などの情報を共有します。STEP3:評価と修正複数案出来上がったパッケージデザイン案を絞り込み、修正をして、完成度を上げていきます。重要なのは、パッケージデザインをどういった視点で評価するかという点です。また、デザイナーとのコミュニケーションも重要になります。しっかりとした修正指示を出せないと、何回もデザインをやり直した揚げ句、デザイナーを変更するということになりかねません。STEP4:入稿・生産・印刷出来上がったデザインを実際に製造・印刷していく工程です。完成したデザインは、いわばまだ、自社とデザイナーとの間にある共通のイメージにすぎません。そのイメージにできるだけ近い形で、生産・印刷をしていくことが必要になります。印刷・生産工程に合わせたデータの渡し方や、情報の共有、時にはデザイン案そのものの微修正が必要になります。特に容器デザインの場合には、全工程の中でSTEP4に当てる時間を多く取っておく必要があります。

01オリエンテーションの重要性デザインの出来の7割はオリエンテーションで決まるオリエンテーションとは、デザイナーに対して、これからデザインしてもらう商品がどういった商品なのか、マーケティング目標、コンセプト、競合の状況はどうかといった、デザイン制作に必要な情報を伝達する大切なステップです。デザイナーの中には、このオリエンテーションの最中に、ふとアイデアが浮かび、それがそのままデザインとなる場合もあるようです。オリエンテーションでは、十分な情報を丁寧に与えることが必要です。発注側の社内では何度も使われている言葉でも、気づかないうちに業界用語、社内用語となっていることが多く、かみ砕いて説明する必要があります。また、その商品に込めた思いや、ポジショニング、求めるデザインのテイストなどについても、オリエンテーションの時点でしっかりとデザイナーに伝えておくべきです。そもそもデザインイメージというのは伝えにくいものです。文字情報以外のビジュアル情報も用意し、デザイナーとディスカッションすることが重要です。オリエンテーションは一方的に情報を伝えるというよりも、デザイナーとの会話の中で、目指すべきデザインのイメージがぼんやり見えてくるようなやりとりが理想的です。そのためにも、十分な情報を準備し、ディスカッションしやすい雰囲気づくりに努めましょう。クライアントによっては、最初に少し笑い話をする方もいます。そうすることで、ふと浮かんだアイデアを共有しやすくなります。オリエンテーションの際に伝えるべき情報は、大きく6つあります。ネーミングやポジショニング、技術面などの【商品に関すること】、商品コンセプトや訴求ポイントなど【コンセプトに関すること】、デザインイメージなどの【デザインに関すること】、使う人やシーンなど【ターゲットに関すること】、マーケティング政策に関わる【戦略に関すること】、納期や予算など【条件に関すること】です。

02オリエンテーションの項目14の情報はしっかりまとめたいオリエンテーションの内容は各社各様ですが、特に重要なのは下記の14の情報をしっかりとまとめることです。1.ターゲットのイメージ2.ターゲットのニーズ(インサイト)3.企画の背景4.ブランドのコアバリュー5.ブランドの体系6.商品コンセプト7.商品特徴8.ネーミング9.キャッチコピー10.棚の説明11.競合商品12.目指すべきポジション13.価格14.デザインイメージ過去にどういったオリエンテーション項目が多いのかを、各社のオリエンシートを基に集計した結果、オリエンテーション時に使われていた項目は、多い順に、①ターゲット②ネーミング③容量・容器④サイズ⑤容器形態⑥アイテム数⑦商品特徴⑧商品コンセプト⑨デザインイメージ⑩競合情報⑪企画の背景⑫スケジュール⑬入稿時期⑭発売時期⑮カテゴリー⑯価格⑰使用シーン・使用方法⑱訴求ポイント⑲商品ポジション⑳デザインコンセプト㉑導入時期㉒キャッチコピー㉓販売チャネル㉔マーケティング政策でした。項目は同じでも、企業によって内容にはかなり差があるのが実情です。社内で各項目についてしっかり定義し、オリエンテーションのレベルを高めていく努力が大切です。上記の14項目に加えて、実践編第3章《035つの評価軸(ABCDE)》のデザイン評価ABCDEのシートを添付されることをお勧めします。商品に必要な14の項目に追加して、今回の商品がどのような評価項目を重視しているのかを事前に伝えることで、デザイナーに対しても、また、社内の開発チームに対しても、評価軸を共有できます。次ページ以降で、これらの項目について、詳細をご紹介していきます。

03オリエンテーションの項目❶ターゲットとインサイト消費者に寄り添えるかここで大切なのは、現在の消費者やニーズを独自の視点で捉えることです。必ずしも、何千人もの消費者調査が必要というわけではありません。現在の消費者のニーズを捉えようとする気持ちが重要なのです。あるクライアントは打ち合わせで東京に来るたびに、特定の症状で悩んでいる人を見つけてきては、1時間、2時間と時間をもらって、話を聞きに行っていました。また、ある化粧品会社のオリエンテーションでは、ターゲットとなる消費者像が生き生きと描写され、どういった人を対象にしているのかが鮮明に共有できた経験があります。消費者に寄り添って顧客を知ろうとする態度は驚くほど企業によって異なります。それがそのままオリエンシートに反映されるのです。最近は商品があふれ、「顧客インサイトは見えない」といわれますが、ヒット商品のプロセスをヒアリングしていくと、多くの企業できちんとインサイトを把握しているケースがほとんどです。誰の、どのような課題に応える商品を作ろうとしているのか──実はオリエンシートで最も差が出る項目がこれです。定量的な調査の裏付けがあることに越したことはありませんが、それ以前に、コアのターゲットとなる人の具体的なイメージとその人が悩んでいること、インサイトを突き止めてください。マーケティングはそこから始まります。ターゲットの生活、意識、時代、年代、カテゴリーの使用シーン、気分、選択ポイント、趣味、雑誌、ファッション、よく行くお店、使っているアプリ、家族構成、今大切にしていること、不安に思っていること、好きな芸能人、車、学歴、お金、趣味……ターゲットに寄り添えば見えてくることは豊富にあるはずです。デザイナーはその情報を基に「どういった人のどんな生活シーンに合うデザインが必要なのか」をイメージしていきます。そして、そのターゲットのニーズは何でしょうか。その奥に潜む本当のインサイトは何でしょうか。この商品は何を解決しようとした商品で何を伝えたらいいのでしょうか。これらをオリエンテーション時にしっかり伝えることで、デザイナーはターゲットのイメージを明確にできるようになります。

04オリエンテーションの項目❷企画の背景なぜその商品を出すのかオリエンテーションでは、「なぜその商品を出すのか」という点を制作に関わるすべてのスタッフで共有することが重要です。なぜ、当社がこのターゲットを対象にした商品を出すのか、既存のブランドと新ブランドの関係や、将来的にどのような育成をしていきたいのかといったビジョンなど、企業の考え方と対象となる商品との関係性を明らかにすることです。これによって商品やブランドの理解、未来像をデザイナーと共有することができます。商品をデザインするということは、一過性のものではなく、過去から脈々と受け継がれてきたブランド資産を引き継ぐケースもありますし、また、その商品から始まる10年、20年のスタートを切るケースもあります。つまり、時間軸の中で今回の商品の位置づけを明確にすることで、中長期を見据えたデザインをつくることができるのです。例えば、より若い層を取り込むために、価格を下げたサブブランドを展開する場合、既存ブランドの歴史を共有する必要がありますし、その後のブランド展開が見えているのであれば、「この色は、後のサブブランド展開のときにとっておこう」というような判断をすることができます。また、ビジョンや理念をチームで共有することで、顧客に伝えるべき情報の優先順位を明確にすることができます。デザイン制作のプロセスに入ると、目先の「売れるかどうか」という点に意識が集中しがちで、長期的な優先順位を忘れてしまうことがあります。このような場合でもチームで「なぜ今、うちの会社がこの商品を出すのか」という企画の背景が明確になっていれば、情報の優先順位に立ち戻れます。中長期戦略、技術、ブランドプロミス、事業理念、ドメイン、企業の歴史などの切り口で商品の背景を共有することで、長期的視点を踏まえたデザイン開発ができます。以前、化粧品会社のオリエンテーションでブランドマネジャーがそのブランドの過去と未来を熱く語り、今回の商品の位置づけを教えてくれたことがありましたが、熱いオリエンはデザイナーの心に火をつけるものです。それは質の高いデザインに結びつきます。

05オリエンテーションの項目❸ブランドのコアバリューと体系ブランドを熱く語るデザインをつくっていく上で、ブランドについて語ることはとても大切です。デザインを通じてどういった世界観を表現すればいいのかは、商品のコンセプトと同様にブランドの世界観に大きく影響されます。ブランドで特に伝えてほしいことは「コアバリュー」と「ブランド体系」の2つです。ブランドのコアバリューとは、ブランド核となる価値定義のことで、そのブランドは顧客に何を約束するのかというブランドプロミスと、人に例えたらどんな人かを定めるブランドパーソナリティーからできています。コアバリューに付随して、例えば、このブランドはどんなイメージが持たれているか、どんなキーワードで記憶されているかといった情報を加えてもいいと思います。このオリエンテーションにより、デザインはこのブランドの世界観を今の時代に合わせて表現していくとともに、未来に向けて強化していく役割を担うのです。もう1つのブランド体系は、価格帯やターゲットなどで分類したときに自社がどのようなブランド体系を持っているかということです。そして、今回の商品がこのブランド体系全体の中で、どのようなポジションにいるのかという点がとても重要です。この情報によって、デザイナーはクライアントの社内でブランドのポジションやイメージがぶつかることなく、すみわけできるようにデザインをしていきます。パッケージデザインのオリエンになると、お互いに特定の商品のことだけに集中しがちですが、ブランド全体から商品を説明することで、単品だけでなく企業全体にとって最適なデザインがつくられていきます。ブランド体系の話をするときには、今だけでなくこれまでの発展の歴史と今後どのように発展させていきたいかという時間軸でも伝えてほしいと思います。それによってデザイナーは未来を見据えたデザインを進めていくことができるのです。

06オリエンテーションの項目❹商品コンセプト一番伝えたいことは何かオリエンテーションで最も重要な項目の1つが、「コンセプト」です。コンセプトとは、「その商品があると消費者はどのように幸せになるのか」ということです。消費者に伝えたいことはたくさんあると思いますが、パッケージデザインは、表現できる面積が極端に狭いメディアです。オリエンテーションの際には、「訴求したいことが絞られている」「消費者のベネフィットに翻訳されている」という2点が大切です。よくあるのは、伝えたいコンセプトがたくさんあり、すべてがオリエンテーションシートに羅列されているケースです。すべてを伝えようとしても、結局、何も伝わりません。また、商品の原料や作り方などがコンセプト欄に記載されているケースもあります。例えば、非常に効き目のある成分がたくさん入っている商品であっても、その成分をそのまま伝えたのでは消費者は自分のベネフィットとして理解できません。その成分が入っていると、どのように幸せになるのかを翻訳してあげる必要があります。「訴求したいことが絞られているか」「消費者のベネフィットに翻訳されているか」といった点がクリアできると、パッケージデザインはかなり方向性がはっきりしてきます。また、コンセプトには、機能的なコンセプトと情緒的なコンセプトがあります。目に見えて直接効果を実感できる機能的なコンセプトに対し、情緒的なコンセプトとは雰囲気や感覚を実感するといった商品価値です。オリエンテーションの際にはこの情緒的なコンセプトもしっかりとまとめましょう。情緒的価値はもともと共有しにくい面があるので、書類に記載して伝えるだけでなく、写真などを用意したり、身振り手振りを交えて擬音語を使ったりして共有すると効果があります。

07オリエンテーションの項目❺商品特徴商品特徴はコンセプトと一対ここでいう商品特徴とは、「なぜコンセプトを実現できるのか」という裏付けです。商品の技術面での優位性、素材・原料の特徴、生産面での特異性などです。例えば、「非常に速く効く風邪薬」というコンセプトに対して、「特定の成分が最初から溶けているから」といった内容や、「見えない細かいほこりまで集めることができるふきん」というコンセプトに関して、「素材が業界で最も細く繊細にできているから」といったものが、商品特徴に当たります。商品特徴が明確だと、デザイン制作段階で、社内のスタッフやクリエイティブチームと「何をどう伝えていったらいいのか」をディスカッションする際に大変役に立ちます。時にはユーザーのメリットであるコンセプトを伝えるのではなく、商品特徴をそのまま伝えたほうが説得力や新鮮感が出て、売れる場合もあります。クラシエフーズの「甘栗むいちゃいました」は商品特徴であり、「簡単に甘栗を食べることができる」というコンセプトを実現するための裏付けです。しかし、商品特徴をあえてネーミングという形で前面に出すことで、新鮮で驚きのある商品としてヒットし、ロングセラー商品となっています。このように「商品特徴をストレートに出したほうがいいのか」、もしくは「コンセプトを訴求したほうがいいのか」、あるいは「もっと魅力的なコンセプトが他にあるのではないか」など、パッケージデザインにおける訴求ポイントを検証してディスカッションをするために、商品特徴の記述は重要な意味があります。「その商品があるとどのように顧客が幸せになるのか」というコンセプトと、なぜそれを実現できるのかという裏付けである商品特徴は表裏一体であり、両者とも商品の本当の魅力を探していくために欠かせないのです。

08オリエンテーションの項目❻ネーミングネーミングはロゴを作る上で最も大切な要素ネーミングはパッケージデザインにおいて、大変重要です。パッケージデザインの要素には、写真やイラスト、商品説明文など、様々なものがありますが、中でもロゴはパッケージデザインの中心的位置を占めます。デザイン制作時には印象に残り、商品やブランドのイメージをしっかりと体現しているロゴ制作に細心の注意と時間をかけます。それはロゴデザインが商品のブランドとしての強いアイデンティティーになるからです。そして多くの場合、ロゴはネーミングを中心にしてつくられます。仮に、ネーミング以外のマークが加わる場合にも、ネーミングとのバランスを取りながらデザインを進めていきます。オリエンテーションで大切なことは、このネーミングが決まっていることです。まれに「ネーミングはまだ決定していないので『仮』の名前で進めてください。後で変更します」といったケースがありますが、ネーミングが決まっていないのであれば、デザイン制作を進めるべきではありません。せっかくのデザイン制作の時間や労力が無駄になってしまい、もったいないからです。せめて、2つ程度にネーミングを絞ってからデザインを進めたほうが、デザインチームの力を有効に使うことができます。また、グローバル展開やインバウンドを見越して検討している場合、そのネーミングを発したときの聞こえ方が、特定の国で意図しない意味やイメージを内包していないかを確認することも大切です。これをネガティブチェックといいますが、会社名やロングセラーブランドでも特定の意味を回避するのに苦労している例を見かけます。最終的にどういうネーミングにするかは、ブランド的視点、コミュニケーション的視点、競争的視点などから検証していく必要がありますが、オリエンテーションの際には、ネーミングを1案、もしくは2案程度に絞り、そのネーミングを検討した過程、意図、狙いを共有することが重要です。ネーミングを検討したプロセスや意図を共有することは、クリエイティブチームにとって、その商品が目指す世界観を理解するきっかけになります。

09オリエンテーションの項目❼キャッチコピー短く商品の魅力を伝えるキャッチコピーは、パッケージを見た消費者がその商品を購入しようと心に決める大切な最終ポイントになります。何らかのアイキャッチでその商品が目に入ってきたとしても、最終的にその商品を購入するかどうかは、「その商品が自分にどのような幸せをもたらしてくれるのか」を納得できるかどうかにかかっています。パッケージデザインを制作するに当たって、どれだけキャッチコピーを自然に読んでもらえるかは、デザイナーにとって重要なポイントになります。パッケージは使える面積が限られていることが多いので、短ければ短いほど文字も大きくでき、目立たせることができます。オリエンテーションの際に、今考えているキャッチコピーの文字数が多過ぎないかをデザイナーに確認することをお勧めします。もし、文字数が多過ぎるようであれば、デザイナーと相談して、理想的な文字数に近づける柔軟性を持つことも重要です。商品に入るキャッチコピーは広告と違い、商品の魅力をしっかりと伝えることが第一です。広告では不特定多数の人に振り向いてもらうため、まさに“キャッチ”する役割がありますが、商品のコピーは、すでに購入しようかどうか考えてくれる人が読んでくれるものです。振り向かせるという視点よりも、「他の商品にはない」「この商品だけの魅力」を納得感をもって感じてもらえるように伝えることが重要です。良いキャッチコピーは、五感に響く納得感があり、これまで他社にはなかった新しさを感じさせるものです。逆に、一方的に商品の特徴を説明しようとするコピーや、他の商品と同じようなことを伝えるだけのコピーは、購入を決断してもらう力を持ちません。優れたキャッチコピーは必ずしも著名な広告コピーライターがつくったものではなく、むしろ商品担当者自らが考えに考えてたどり着いたものが多いようです。

10オリエンテーションの項目❽棚の説明パッケージが勝負する舞台はどこかどの棚で売るのかによって、パッケージデザインのトーンは全く変わってきます。同じスペックの商品であっても、牛乳売り場に置かれるのであれば牛乳らしい顔つきが必要ですし、ヨーグルト売り場で売られるのであれば、ヨーグルトらしいトーン&マナーが必要になるからです。2つのカテゴリーにまたがるような商品の場合でも、必ず最初にどちらを狙うのかを明確にしないと、どっちつかずの中途半端なデザインになってしまいます。デザイナーはオリエンテーションを受けた後、もしくは事前にその売り場を見ます。売り場には競合情報はじめ様々な情報があり、何よりもパッケージデザインが勝負する舞台になるわけですから、この棚の中でどのような役を演じさせるのかを考えながらデザインを進めていくことはとても大切です。オリエンテーションの際には対象となる商品が置かれる棚(カテゴリー)の説明をしていただければと思います。もちろんデザイナーは売り場を見に行くので、棚にどんな商品が並んでいるのかは分かるのですが、逆にいえばそれ以上の情報は分かりません。カテゴリーのプロである商品担当者が棚を見せながらカテゴリーの説明をすると、豊富な情報が伝わります。例えば、どのようなグループで棚ができているのかといった説明も大切です。どのようなサブカテゴリーでゾーニングされているのかを知れば、作り手から見た商品群と消費者から見た商品群の両方の情報を得ることができます。価格帯はどのようになっているのか。平均的な価格に集まっているのか。サブカテゴリーごとにユニットプライスが大きく変わるのか。それぞれのサブカテゴリーを代表する商品はどういったものがあるのか。ロングセラーブランドはどれで、それぞれがどのような競合状況にあるのか。毎シーズン商品が入れ替わるのはどのあたりの商品なのか。最近話題の商品は何か。下段に並んでいる商品、ゴールデンゾーンに並んでいる商品、上段の商品の差はどこにあるか。こういった情報を、棚を見ながら説明してもらえると、デザイナーは売り場を見ただけでは分からないカテゴリーの成り立ちや競合状況、購買意思決定の情報処理のプロセスなどを理解できます。

11オリエンテーションの項目❾競合商品と目指すべきポジショニング競合との戦い方競合商品に対して、どうポジショニングすべきかという設定は、パッケージデザイン制作において、大変重要な情報です。具体的には、まず最大の競合とみなしている商品、ベンチマークする商品は何かということです。また、その商品を含めた競合商品に対して、どういったポジショニングを目指しているのかを明確にします。狙うべきポジションを明確にするためによくX軸、Y軸の2軸を用いてポジショニングマップを作りますが、大切なのは、軸にどのような価値を付けるかということです。軸に付けた名前は自社や消費者がマーケットをどのように見ているかというメッセージになるからです。2軸でポジショニングマップを作るという方法以外にも、競合のイメージやキーワードと自社の商品を対比させる形で、一対のキーワードやビジュアルを複数用意し、互いの違いを明確化していくというやり方もあります。こういった情報を通じて、デザイナーはデザインのイメージが目標とするゴールを考えることができます。ポジショニングマップは、化粧品やビールなど嗜好性が高い商品のオリエンテーションにおいて大変貴重な情報になります。競合商品の情報に関しては、商品やブランドの違い以外にも、価格やターゲット、マーケティング戦略などの情報をデザイナーと共有し、敵をよく理解してもらうことが大切です。その上で、差異化するという戦い方もありますし、戦略的に近づけるというやり方もあります。また少し高度な戦い方になりますが、敵の弱点を時間軸で突いていくやり方もあります。ちょうど将棋の対局のように、こう出ると相手はこう出るから、次はこういう出方をして、そうするとこうなる……と先を読みながら戦い方を進めていくのですが、競合のことをよく理解している上級マーケターの戦い方といえそうです。

12オリエンテーションの項目❿価格なぜその価格なのか価格はパッケージデザインが表現すべき大切な情報の1つです。競合商品よりも少し高い価格を付けるのであれば、やや高い雰囲気のパッケージデザインにしつつ、なぜ高いのかという差異化ポイントを分かりやすく伝達する必要があります。競合商品よりもかなり高い価格設定をするなら、その価格差を納得させるだけの特別な雰囲気を持ったパッケージデザインにする必要がありますし、おそらくベースカラーなども競合商品のデザインとはかなり変え、パッと見た感じで「違うグループ」だということを伝えなければならないでしょう。安い商品を高そうに見せてしまうと、自社商品群の中で価格帯とデザインのバランスが取れなくなったり、ユーザーに期待外れだと思われたりすることがあります。価格感をデザインで正しく伝えていくことは非常に重要なのです。オリエンテーションで伝えるべき情報としては、「○円」という価格情報は当然ですが、それ以外にもプロモーションで想定している値引き価格や競合の価格なども含めて、相対的にどれくらいの位置の価格なのかを伝えることが大切です。やや高いのか、とても高いのか、安いのか、競合と同じなのか。そして、その理由や意図を共有してください。良い原材料を使っているのであればそのことをしっかりと伝える必要がありますし、品質が競合と変わらないのに生産技術に優れているために安く提供できるのであれば、あえて競合に似せて同じレベルの商品だと見せることもできます。それで価格が安ければ、こちらの商品を購入してくれるでしょう。逆に生産量が少ないから、OEMだから高いといった場合もあります。これは消費者にメリットがあるわけではないので、それ以外の差異化ポイントや見せ方を工夫しなければなりません。価格設定は、商品、ブランドの成否を左右するとても大きなマーケティング施策の1つです。価格に込められた意図と背景をデザイナーと共有し、価格のイメージと戦い方の2つの視点を持ちながらデザインを完成させていきましょう。

13オリエンテーションの項目⓫デザインイメージイメージビジュアルを用意するならきちんと準備するデザインを制作するときに、インスタグラムの画像などをデザインイメージや世界観を伝えるビジュアルとして提示する方法があります。ターゲットの生活感が表現されているものや小物、素材のテクスチャー画像などが使われることが多いようです。こういったイメージビジュアルをオリエンシートとして用意することはメリットがある半面、デメリットもあります。メリットは、デザインが目指す世界観を共有しやすいことです。商品の内容を伝える情報は言葉で比較的伝えやすいのですが、ポジショニングやブランドなどをデザイナーに伝えることが難しく、工夫を凝らして資料を用意することが多いのですが、デザインイメージもその1つです。情報が多いほどデザイナーは発注者の意図をくみやすくなります。デメリットは、表現の幅を狭めることです。「このイメージでデザインしてほしい」ということは、他の可能性を排除することになります。デザイナーは可視化のプロですから、オリエンテーションの際にデザインイメージがなくても、色々な可能性を検討できます。イメージビジュアルを提示することは、デザイナーの自由な発想を制限してしまうことにもなります。やるのであればしっかりと準備をして、方向性を定めた上で慎重にやるべきです。後で結局、別の方向性のデザインも見たいということになるなら、最初からデザイナーに自由に表現してもらったほうがいいと思います。デザインイメージに関するビジュアルは、他の資料に比べると、楽しく集められるのでここだけに力を入れてしまうケースがあります。デザインイメージを用意するときはコンセプトやターゲットの理解、競合とのポジショニングなど、ここまで紹介してきた項目をしっかり準備した上で手を付けるようにしましょう。商品戦略、マーケティング戦略をしっかりと詰め切れていないのに、イメージ資料だけ用意しても良いデザインはできません。また、中途半端にイメージを用意しても良い結果は望めません。

14オリエンテーションの項目⓬評価基準最初にデザインの評価基準を決めておくオリエンテーション時に、今回のパッケージデザインのどの点をどう評価して、採用していくのかを明確にしておくことをお勧めします。これによって制作チームは、今回のデザインが果たすべき役割について、何が重要なのかを理解できるのです。これは、デザインチームだけでなく、社内の意思決定プロセスにも明確な指針を与えます。デザインの意思決定は、評価基準があいまいなため、誰でも勝手に好きなことを言いがちです。それはそれで議論が盛り上がることもありますし、その中から貴重なアイデアが生まれることもあります。楽しい打ち合わせになることも多いのではないでしょうか。しかし、組織の意思決定プロセスでも同じことが行われると、問題が出てきます。多くの場合、上席の人の意見が反映されがちです。とはいえ、上席の人が商品のターゲット層であるケースは極端に少ないのが実態です。「ターゲットでもない上席の人が自分のセンスで決めてしまう」といった商品担当者の苦労は多くの企業で聞かれます。実際には、長い経験に裏付けられて判断をする上席の方が多いと思いますが、チーム全体が納得する客観的な意思決定プロセスにはなりにくいのです。こういう問題を避けるためにも、デザインをどう評価するかを、オリエンテーションの前に決めて共有しておきましょう。実践編第3章《035つの評価軸(ABCDE)》のABCDEの評価指標を参考にするとよいでしょう。また、デザインを社内会議で閲覧する際にも、最初にオリエンシートをベースに、依頼内容と評価点を確認してから打ち合わせをすることをお勧めします。デザインが並んだ瞬間、好き勝手な意見をみんなが話し始めてしまうと、収拾がつかなくなったり、上席の人の意見に流されたりしてしまうからです。

15オリエンテーションワークショップの勧めひな型をつくろうここまでオリエンテーションに必要な情報について紹介してきました。それらの情報がデザイナーにとってどのように役立つかもお分かりいただけたと思いますが、オリエンシートを完成させるのはとても大変な作業です。各企業でオリエンシートの「ひな型」をつくり、そのひな型に沿って情報を埋めていけばオリエンシートが出来上がる、という仕組みにするのが有効だと思います。これであれば経験が少ない人でも一定水準のオリエンシートができます。このひな型を定期的にバージョンアップしていくと、さらにオリエンテーションの質が上がります。活用に当たっては、オリエンシートを開発チームが事前に確認し、上長の許可をもらった上でデザイナーに発注するという業務ルールをつくるとさらにいいと思います。オリエン資料なしでデザイナーへ発注するようなことを避けられますし、上長の許可があるということは、評価基準も了承しているということですから、常にオリエンシートに立ち戻ってデザイン案を評価検討することができます。ここでお勧めなのが「自社でオリエンテーションシートとルールをつくる」というワークショップです。パッケージデザインに関わる複数の部署の人が集まり、自分たちの商品を例にオリエンシートの枠組み、各言葉の定義などを通じて、使いやすいオリエンシートを完成させていきます。まずは言葉の定義をすることで、項目の理解が進み、オリエン内容にブレがなくなります。「コンセプト」とは何かと聞かれても、定義がなければ、人によって異なるオリエンシートになってしまいます。言葉の定義をしたら、ワークショップのメンバーで実際に自分の商品を例にオリエンシートを作ってみましょう。実際に使ってみることで定義の分かりにくさを修正したり、先輩のオリエンシートから学んだりすることが多いかと思います。このようなワークショップを通じて、自社なりのオリエンシートのひな型をつくってみてください。

16パッケージデザインの値段デザイン料をどう決めるかパッケージデザインの価格は実に様々で分かりにくいといわれます。私が知る範囲で実際の発注例を見ても、5万円から500万円とかなり幅があります。ここで1人のフリーランスのデザイナーが3案のデザインを作成する場合を考えてみたいと思います。都内でフリーランスをしている人の場合、仮に家賃月額(光熱費込み)15万円、パソコンやプリンター、ソフトといった設備で年間30万円、人件費で600万円、法定福利費や事務所経費で年間200万円、稼働率が80%とします。このデザイナーが1日動くと5.3万円のコストが発生します。打ち合わせや入稿の打ち合わせで延べ2日間、1案制作するのに2.5日、素材や資料、交通費などで3万円使ったとすると、3案作った場合は(2日+2.5日×3案)×5.3万円+3万円=約53万円になります。フリーランスに頼んで最低これくらいです。これをデザイン会社に頼むと、複数のデザイナーがつくるために幅広いデザインのバリエーションを見ることができたり、何かあっても他のスタッフが対応できたりする分、コストも高くなるので、フリーランスの1.5~3倍はかかると思います。有名なデザイン事務所などの場合は、この料金にデザイン品質を保証するブランド料がかかってくるでしょう。会社を経営する立場からいえば、デザイン料が高ければ、優秀なデザイナーを集めることができます。その結果、デザインの質も高いレベルで維持できる可能性も高まります。印刷会社の場合は印刷の仕事をとるためにデザイン料を請求しなかったり、大幅に値引いたりといったケースがありますので、依頼する先によってデザイン料は変わります。大切なことは過去からの慣行的な自社のデザイン料を信じるのではなく、依頼先のビジネスの構造を理解し、自分でこういった計算をすることによって、価格の妥当性を考えて適切なデザイン料を設定することです。デザイン料を極端に抑えている会社からは、力のあるデザイナーやデザイン事務所は離れていくので、結果的に質の高いデザインを継続して制作するのは困難になります。

01良いデザインとは何か売れ続けるデザインと愛されるデザイン良いデザインとは何か。これには企業から見た価値と社会全体から見た価値とがあり、それぞれで定義が異なると考えられます。企業から見た良いデザインとは、「売れるデザイン」です。商品の魅力を短時間で伝え、ブランド資産として長期間にわたり売り上げに貢献してくれる「売れ続ける」デザインこそが良いデザインという定義になります。ブランドの資産価値を推定するのに、同じ商品に違うブランド名を付けて販売し、長期間にわたってどれくらいの利益をつくり出せるかを計算して、その総額をブランドの資産価値として換算する方法があります。企業活動におけるデザインの価値も、このブランド資産価値と同じ考え方が根底にあるといえます。一方、社会的視点から見た良いデザインとは、必ずしも売れるデザインではありません。時代を反映している、独創性が優れている、多くの人々に感動や思い出を与える、未来に影響を与える──デザインにはこういった金額換算できない社会的・文化的な価値があり、社会全体から見た良いデザインとは「愛されるデザイン」ということができると思います。人々の家庭や生活に入り込むパッケージデザインは、審美性や楽しさを伴って人々の生活を豊かにする機会と責任があり、それが社会的視点から見た価値につながっていると考えられます。従って、売れるか売れないかという視点だけでデザインの価値を判断することはできません。しかし、本書ではマーケティングを切り口にあくまでも企業から見た良いデザインをテーマにしています。売れているデザインの中には社会的価値にも優れ、多くの人に愛され続けているデザインがあります。商品としても売れ続け、またデザインとしても長く愛されるデザインを目指したいものです。

02基本的な評価の流れ絞り込み・修正のヒント・決定パッケージデザインの制作とデザイン評価方法の基本的な流れについて紹介します。パッケージデザインの制作は通常、3カ月から1年程度の商品開発スケジュールの中で動いていきます。ここでは代表的な評価の流れを紹介したいと思いますが、必ずしもこのパターンだけではありませんので、スケジュールや予算、目的に合わせてアレンジしていただければと思います。また、デザイン評価は発売して終わりではなく、発売後も定期的に行うことで時代に合わせたデザインを維持し、ロングセラーブランドにしていくことができます。商品コンセプトが出来上がると、商品名やキャッチコピーが決まり、デザイン制作に入ります。最初のプレゼンテーションでは10案程度、複数のデザイン事務所に依頼した場合には50案、100案が検討されることもあります。一般的にはこの時点でオリエンシートに立ち戻り、社内スタッフを中心に目的に合った質の高いデザインに絞り込んでいきます。その上で5案から10案を調査にかけて、絞り込みを行います。絞り込みの際には、評価視点を明確にした上で、改善点を抽出していくことが大切です。この段階ではスピーディーでコストも低いWEB調査を行うことが多いと思います。この調査結果を基に改良したデザインを、グループインタビューなどの定性的な調査にかけて絞り込んでいき、さらに細かい点での評価および改良点のヒントを得ていきます。定性的な調査は定量的な調査と比較すると、改良のヒントにつながる発見を多くすることができます。定性調査の結果を基に、ブラッシュアップしたデザイン案を、2案から3案に絞り込みます。その後、実物を棚に並べた会場調査を行い、最終案を決定します。発売後は売り上げやトライアル状況を見ながら、競合商品と比較し、実際にデザインがどのように受け入れられているか、どのようなポジションを獲得できているか、目指すべきポジションはどこかを明確にし、次のリニューアルの方向を決めます。方向が決まれば、リニューアルに向けたデザイン制作が始まり、初回の絞り込みを行うという具合に、サイクルが進んでいきます。

035つの評価軸(ABCDE)消費者に寄り添えるか売れるためのパッケージデザインという視点で考えると、パッケージデザインの評価はまず、「短時間で正確に商品のベネフィットが伝わっているか」ということがポイントになります。特に新商品の場合には、この視点が重要です。さらにそれを細かく評価するに当たって、5つの軸で評価することをお勧めします。覚えやすいように「ABCDE」としています。A:Attention(目立つか)B:Basic(らしいか)C:Concept(コンセプトが伝わっているか)D:iDentity(アイデンティティーがあるか)E:Experience(経験価値があるか)Aの「目立つかどうか」は、多くの競合商品の中で、どれだけ記憶に残るかという視点です。Bの「らしいかどうか」は、そのカテゴリーらしいか、自社の商品らしいか、そのブランドらしいかといった点が含まれます。牛乳であれば牛乳らしい、ビールであればビールらしいデザインでないと、消費者の選択肢に入るのは難しくなります。Cのコンセプトは、商品のベネフィットが消費者に伝わっているかという視点です。Dのアイデンティティーは、デザインの中にアイデンティティーとなり得る要素があるかどうか。Eはその商品を使ったときに何か思い出に残るような経験を生み出す仕掛けがあるか。この5点が評価基準になります。パッケージデザインを評価するという作業は慣れないと大変難しいことです。まずはデザインをじっくりと時間をかけて見てください。消費者は一瞬しか見ませんが、作り手はじっくりと見なければ、デザインを評価したり、いいデザインをつくったりすることはできません。このABCDEの基準をオリエンシートや調査票などに反映させることも有効です。大切なのは組織共通の評価軸を持ち、事前に今回どういった点を評価するのかというポイントを明確にしておくことです。

045つの評価軸❶A:目立つか(Attention)目立つことは必要条件で、クリアできればよしとする競合商品と比較して目立つかどうかは大切なポイントです。これだけ多くの新商品が並ぶ中で、消費者の目にとまることがなければ、購入しようかどうかの検討対象にさえなりません。目立つためには、デザイン上、他と異なる部分を持つことが必要です。色を変えたり、配置を大きく変えたりするなど、様々な方法があります。目立つために大切なのは、相対的に目立てばいいということです。例えば、原色ばかり使われている商品が並ぶ棚で目立つには、あえて白を使ってみるというように、どの棚のどういった商品の中に置かれるかによって目立ち方は変わってきます。難しいのは、同時にそのカテゴリーらしさを維持しなければならないということです。ビールであればビールらしい、牛乳であれば牛乳らしいデザインでなければ、消費者に購入対象の商品として受け入れられません。しかし、よく考えてみると、目立つというのは「らしくない」ということでもあります。ビールらしくないデザインは、ビールの棚で目立つはずです。つまり、「目立つ」と「らしい」という2項は対立します。その対立する2項を同時に実現しないとならないわけです。デザインを制作する側にとってはとても大変なことです。もう1つ大切なのは、「目立つことは必要条件だが、目立つことだけを追い続けても意味がない」ということです。修正指示が毎回、「もっと目立つようにしてほしい」という場合がありますが、パッケージデザインは目立てば目立つほど売れるというものではありません。一定のスコアをクリアした後は、その数値を上げていっても効果がそれほど変わらないものを衛生要因といいます。目立つというのは、この衛生要因なのです。一定の目立ち度を確保できたら、他の修正ポイントに集中しないと大事なデザイナーのパワーを無駄にします。目立つという評価軸は、ある一定のスコアはクリアする必要がありますが、その基準を超えたら、それ以外の目標に向けてデザインをブラッシュアップさせていくべきです。

055つの評価軸❷B:らしいか(Basic)─13つの”らしさ”があり、その範囲の中でデザインするパッケージデザインの評価軸のBはBasic=らしいかどうかです。消費者は購入時に、なるべく効率的に情報を判断しようとするので、パッケージデザインの持つ全体の雰囲気で、その商品が何かを大まかに推定します。カテゴリーらしいと感じる範囲から外れた雰囲気のパッケージを、わざわざリスクを冒してまで取ろうとする消費者はごくわずかです。「らしさ」には、「カテゴリーらしさ」「会社らしさ」「ブランドらしさ」という3つの「らしさ」があります。中でも重要なのが、「カテゴリーらしさ」で、これを外してしまうと、消費者の購入時の選択肢に入ることが難しくなります。つまり、その商品の情報を理解し、検討しようという意欲がなくなってしまうのです。「会社らしさ」や「ブランドらしさ」は、その企業がコーポレートブランド戦略を採っているのか、プロダクトブランド戦略を採っているのかによって異なりますが、大切なのはこの「らしさ」を明文化し、デザインを担当する人たちで共有することです。1.カテゴリーらしさ「牛乳らしい」「ビールらしい」「薬らしい」──それぞれのカテゴリーには特有の「らしさ」があります。牛乳であれば、ブルーと白を基調にしたものが牛乳らしさの1つですし、同じカレーでも横長の長方形になるとルー、縦型の長方形になるとインスタントになり、このルールを外してデザインすると「らしさ」がなくなり、売れなくなります。こういったカテゴリーが持つ「らしさ」は重要で、このトーン&マナーを制作スタッフで共有する必要があります。あえて、カテゴリーらしさを大きく外すというデザイン戦略もありますが、かなりの広告投資と時間が必要になります。赤を基調としたパッケージの牛乳や豆腐が売りにくいのは、このためです。カラー、形、レイアウト、ネーミング、写真などによってカテゴリーらしさが決まります。この「らしさ」は時代とともに少しずつ変化していくので注意が必要です。10年前は赤色のビールはあまり売れませんでしたが、ヒット商品をきっかけに赤色のデザインのビールも受け入れられるようになりました。

065つの評価軸❷B:らしいか(Basic)─2自分の会社らしさ、ブランドらしさを明文化して共有する2.会社らしさ自社のパッケージデザインに一貫して流れているトーン&マナーとは何でしょうか。企業によってはコーポレートロゴが入っていながら、商品によってデザインのテイストがまるで異なるものがあります。こうなると、各商品がばらばらのイメージを持ち、会社としての統一感が取れなくなります。日本企業の多くは、コーポレートブランドを中心にしたコミュニケーションを行っています。そのため、違う商品であってもパッケージデザインが1つのトーンでまとまっていると、消費者から見たときに「あの会社の商品ね」とコーポレートブランドを商品に活用できるばかりでなく、いくつもの商品のパッケージデザインがコーポレートブランドイメージを1つの方向に押し上げていきます。「小林製薬の商品はいつも暮らしの役に立ってくれそう」「カゴメのパッケージはカラフルで元気で健康的なイメージがあるね」こういった印象が会社らしさであり、多くの商品が会社らしさという1つのベクトルでまとまっていると、長期にわたってコーポレートブランドの強化に大きく貢献します。3.ブランドらしさ企業によっては、コーポレートブランドをあえて前面に出さず、プロダクトブランドを押し出している会社もあります。こういったケースでは、パッケージデザインのリニューアルやブランドのエクステンションの際に、「そのブランドらしいか」という点が重要な基準になります。デザインマニュアルによってデザインルールの詳細を決めたり、ブランドパーソナリティーやイメージを明記し、スタッフで共有することで、そのブランドらしさを維持するという方法もあります。いずれにしても、何らかのルールや明文化された共通認識の下に、そのブランドらしいデザインをつくることが重要です。

075つの評価軸❸C:コンセプトが伝わっているか(Concept)機能的価値トライアルにはコンセプト伝達が重要パッケージデザインの評価で重要な3つ目の指標が、C:コンセプトが伝わっているかです。特に新商品の場合は、短時間で商品のユニークなベネフィットを伝えることが、その商品の成功の鍵になります。商品には大きく4つの価値があるといわれています。基本価値と便宜価値を合わせて機能的価値、感覚価値と観念価値を合わせて情緒的価値と整理できます。パッケージで伝えるべきコンセプトにも、機能的価値と情緒的価値があります。例えばトライアルを喚起させるには、「この商品を購入するとどんないいことがあるか」といった基本価値や便宜価値といった機能的価値を伝えることが重要です。それには、消費者に与えるベネフィットを1点に絞ることが必要です。「一番伝えたい消費者ベネフィットが伝わっているか」──これが目標になります。パッケージデザインは面積が限られていて、見てもらえる時間も一瞬なので、その瞬間に分かりやすく商品のベネフィットを伝えることが欠かせません。商品の機能的価値を伝える際に大切なのは、消費者を説得したり、理解させたりするのではなく、納得してもらうことです。スペックや商品の物性を伝えようとすると、どうしても説得的な表現になってしまいがちですが、五感にスーッと入っていく表現が重要です。商品を伝えるキャッチコピーやネーミングという文字情報は、機能的価値を伝えるには非常に大切です。完成したコピーは消費者の五感にスーッと入っていく形になっているでしょうか。また、イラスト、写真、容器の形や素材、手触り感など、様々なパッケージデザイン上の要素を総動員して、一番伝えたい機能的コンセプトが瞬時に消費者に納得してもらえる流れになるようにデザインにしていきましょう。

085つの評価軸❸C:コンセプトが伝わっているか(Concept)情緒的価値すべてのデザインには情緒的価値が付いてくるコンセプトには機能的価値と情緒的価値の両面があります。情緒的価値には、楽しさや、心地よさ、五感に訴える感覚的な価値と、歴史やブランド、物語性といった観念的な価値があります。機能的価値が言葉や数字、図解のイラストなどを使って左脳に働きかけようとするのに比べ、情緒的価値は感覚や気分など右脳に働きかけるビジュアル中心の価値です。ここでよく誤解されがちなのが、「うちの商品は化粧品や価格の高いお酒などとは違うので、情緒的な価値の表現は関係ない」という考え方です。どんなデザインであっても情緒的価値は存在しますし、重要です。もちろん嗜好品や高級な商品ほど情緒的価値が求められないにしても、商品をデザインすれば、好むと好まざるとにかかわらず、デザインは情緒的価値を発信してしまいます。どのようなイメージを発信したいのかという問いを避けることはできません。まずは「これからどんなブランド、もしくは商品として、みんなに覚えられたいのか」という目標設定をすることです。例えば「美しい」というイメージを表現したいときに、「そのブランドはどんな美しさであるべきなのか」という問いから始まります。「美しさ」には人類始まって以来の歴史があります。大げさに言うと、歴史、文化、社会、地域といった観点で過去から未来に向けての「美しさ」の在り方に、自分なりの答えが持てるかが問われます。美しさに限らず、おいしい、高級、安心など、デザイン制作のやり取りでよく出てくるキーワードの中にどれだけの深みや物語を持たせられるか、ある意味で教養が求められます。発注者とデザイナー両方に教養があり、深いところで表現すべきことが共鳴できている関係性が理想です。無印良品のデザインキーワードに「エンプティネス(空っぽ)」という言葉があります。このキーワードには日本の美意識とのつながりがあり、さらに般若心経に出てくる「空」とのつながりも感じさせ、「シンプル」という言葉とは異なる深いキーワードだと思います。この表現したいイメージにたどり着いたら、デザイナーと共有しやすい言葉やビジュアルなどを用意します。「○○のような」という比喩(メタファー)を活用するのも有効です。

095つの評価軸❹D:アイデンティティーがあるか(iDentity)消費者の記憶に残る部分があるか4つ目の評価軸は、アイデンティティーがあるかどうかです。アイデンティティーとは、パッケージデザイン上のカラーや、ロゴ、イラストなどの中で消費者の記憶に残り、商品のブランドイメージや世界観とのつながりを想起させるようなものをいいます。発売当初にいきなり完璧なアイデンティティーをつくることはできませんが、最初の段階で、存在感のある部分やアイデンティティーとして育成していきたい部分がないと、後からそれをつくっていくことは大変難しくなります。新商品でよくあるのは、言いたいことが多過ぎて、メリハリがないデザインになってしまうことです。アイデンティティーをつくるということは、パッケージ上で相対的に目立つ・存在感のある部分をつくっていくことです。伝えたいいくつもの要素が、いっぺんに前に出てくると「メリハリがない」ごちゃごちゃしたデザインになり、アイデンティティーがどこにあるのか分からない状態になります。また、アイデンティティーがあることで、広告との連動性を確保しやすくなります。「あっ、あの筋肉人間の商品ね」と、テレビやWEB、店頭でのコミュニケーションが消費者の頭の中でつながっていくのです。アイデンティティーがあると、商品が売れて、サイズを変えたり、他のカテゴリーに商品展開をしたりする、いわゆるブランドエクステンションの際にも役立ちます。「あの商品と同じシリーズだ」という認識をしてもらいやすくなるのです。強いアイデンティティーは情報伝達を効率化するとともに、他社ブランドと自社を差異化する優位性にもつながります。

105つの評価軸❺E:経験価値があるか(Experience)思い出づくりの仕組み5つ目の評価軸は「経験価値があるか」、Experienceの頭文字“E”です。経験価値という言葉は、米コロンビア・ビジネススクールのバーンド・H・シュミット教授が提唱し、その概念が広がりました。商品・サービスそのものではなく、それらを利用する際の体験や経験にこそ価値があるという考え方です。20年以上の歴史があり、決して新しい考え方ではありませんが、この数年ますます重要な価値として認識されているように思います。その理由は前述したように、製品がサービス化したこと、SNSの普及により経験価値の共有がマーケティングパワーを持つようになったこと、アプリサービスなどが普及し、システム構築で使われていたユーザーエクスペリエンスの概念とマーケティングの経験価値の概念が実務的に融合したことなどが考えられます。この経験価値をパッケージに持たせることはとても大切です。購入前の情報収集から、店頭やWEBでの購入、家までの持ち運び、使用時、保管、廃棄に至る過程の中で、思わず人に伝えたくなるような経験価値を、パッケージが有しているかという視点です。例えば、WEBで購入した商品が家に届いたとき、段ボールを開けたら内側にカラフルなデザインが施されていたり、感謝の言葉がデザインされていたりしたらどうでしょう。家まで持ち運ぶのにとても便利な仕掛けや、思わず自慢したくなるようなデザインが施されていたらどうでしょう。受験をする先輩のためにメッセージを添えたお守り代わりに贈る「キットカット」は、プレゼントする側、される側にどんな思い出をつくってくれるでしょうか。プレゼントされたカラーペンを開けてみたら、色とりどりのペンが孔雀の羽のように扇形に開いたらどれだけ思い出に残るでしょうか。パッケージを捨てようと思ったときに、そこに作り手の気遣いを発見したら消費者はその企業にどんな思いを抱くでしょうか。経験価値とは、作り手が消費者に寄り添い、どんな思い出づくりのアイデアがあるかを考え、それに挑戦してみることから広がっていきます。いつも消費者の近くにあるパッケージデザインには、経験価値創造のチャンスが満ちあふれているように見えます。

11評価の重みづけデザイン制作前に評価項目を決めるデザインの評価には「ABCDE」の5つの評価軸が重要であるとご紹介しました。最低限この5つの指標については評価をし、デザイン案の選択と修正に向けたポイントを抽出することが必要です。ABCDEのどの評価軸を優先するのかという重みづけは、その商品の特性やマーケティング戦略によって変わってきます。この商品は目立つことが非常に重要だが、あちらの商品はコンセプトをしっかりと伝えたいなど、それぞれの商品で優先順位が異なります。カテゴリー特性とマーケティング戦略によっても優先順位は変わってきます。同じ化粧品でも、セルフの場合と百貨店の場合では異なります。ドラッグストアで売るセルフ型の商品パッケージの場合はAttention(目立ち度合)を重視し、コンセプトの機能的な価値をしっかりと伝えていく必要があります。逆に百貨店で売る化粧品ブランドのようにターゲットの関与度が高い場合は、その価格、ブランドに合ったコンセプトの情緒的価値やアイデンティティーをしっかりとつくっていく必要があります。購買頻度が高く、商品単価が低い商品は関与度も低いので、多くの場合、ABCの3つ(Cの場合は機能的価値の伝達)が優先されるでしょう。広告投資の量もこのABCDEの優先順位に大きな影響を与えます。当初から大量の広告投資がある場合には、広告と連動するDのアイデンティティーの重要性が増します。通常、大量の広告が入る場合には、プル型の戦略が多いために、アイデンティティーとともにコンセプトもしっかり伝える必要があります。広告投下量が少ない場合には、商品の関与度によって評価の優先順位を判断します。この優先順位を最初に決めておくことはとても大切です。何を大事にしたいのかをデザイナーに対して明確に示すことになるからです。また、事前に整理をしておくことで社内のデザイン案の検討や決定にも役に立ちます。今回のデザインでABCDEの何を大事にするのかを、デザイン制作を始める前にしっかりと開発チームでまとめてからスタートすることをお勧めします。

12調査活用のポイント調査は良いデザインができてからパッケージデザインを制作するに当たり、途中で消費者調査を活用するのは非常に有効な方法です。的確な消費者調査は、デザインの絞り込みや修正において明確な示唆を与えてくれます。しかし、消費者調査に頼り過ぎることの弊害もあります。調査はあくまでも、仮説を検証するためのものです。例えば、完成度の低い3案を提示したとしても、完成度の高い3案を提示したとしても、消費者調査でどの案が一番良いかは結論が出てしまいます。また、パッケージデザインを画面で見せるのか、売り場を再現して棚の中で競合商品と並べて見せるのかによっても、結果は大きく変わってきます。デザイン案を絞り込んだり競合と比較したりする際には、デザインの完成度と自信を高めてから調査することをお勧めします。「このデザインで決めているのだけど、社内説得用の調査だから」──こう言って消費者調査をする方がいますが、このくらいの自信と完成度があって初めて調査が生きてくると思います。もう1つ、調査を活用する上で注意していただきたいのは、パッケージデザインの調査の前に、コンセプトやキャッチコピー、ネーミングの評価をきちんと終わらせておくことです。パッケージデザインの調査結果が悪い場合、コンセプトの評価をしっかりと終わらせていなければ、コンセプトが悪いのか、ネーミングやキャッチコピーが悪いのか、どこまでさかのぼってやり直せばいいのか分からないという事態に陥ります。いくら優秀なデザイナーでも、コンセプトが悪ければ、ヒット商品をデザインすることは難しいでしょう。コンセプト評価⇒コピー評価⇒パッケージデザイン評価と順を追って行い、調査課題を明確にして課題に合った調査方法を選択しましょう。また、調査後にはブラッシュアップのための時間を十分に確保しておくことです。せっかく調査でデザインが絞られてブラッシュアップのヒントが出てきたにもかかわらず、翌日に入稿が迫っている……といったことにならないように、調査結果を基にデザインをブラッシュアップする時間をあらかじめ確保しておきましょう。そうでないとせっかく実施した調査を有効に生かせません。

13調査の方法新商品と既存商品で調査課題は異なるパッケージデザインの調査の課題は、新商品と既存商品で異なります。新商品の場合には、「どのデザイン案がいいのか」「このデザインで競合に勝てるのか」「ブラッシュアップすべき点はどこか」「デザインの強みと弱みはどこか」などが課題になります。既存商品の場合は、「今のデザインはあの競合のデザインと比べ評価されているのか」「デザインのポジショニングはこのままでいいのか」「リニューアルすべきか」「リニューアルするとしたら何を残して何を変えるべきか」「どこまで変えてもいいか」「新デザインは既存デザインと比較して優れているか」などが課題になります。課題に対する調査手法としては、定量調査と定性調査があります。定量調査は仮説を検証するための大人数を対象にした調査で、定性調査は仮説を導き出すために少人数を対象に行う調査です。パッケージデザインでいえば、「このデザインで競合に勝てるかどうか」という課題に対して、「このデザインで競合に勝てるはずだ」が仮説になり、大人数に「どちらが魅力的ですか」と調査をして結果を見ることが検証になります。例えば「このデザインの悪いところがどこにあるのか」といった仮説そのものを出したい場合には定性調査が向いています。デザイン制作の初期段階で、問題点や方向性を探る際は定性調査を、完成度が高まってきた段階で定量調査を実施することが多いようです。デザイン案の絞り込み段階では、WEBを使った定量調査で検証し、最終的な調査になると棚に競合商品と並べて相対的なデザイン評価をすることになります。調査では出す順番によって評価が異なるので、結果にバイアス(影響)のかからない順番で見せることが重要です。デザインの調査はデザイン案を絞り込むために行うことが多いのですが、リニューアルのときには、デザイン制作の前に課題と目標を明確にするための事前調査も有効です。

14定量調査の方法WEB調査と会場調査を使い分ける定量調査の場合、大切なのは「何と比較するか」という点です。例えば、62%の人が「良いデザインだと言いました」という結果は、どのように判断すればいいのでしょうか。過去の自社のデザインを基準にする場合、そのスコアよりも高ければ良いデザインとし、それよりも低ければやり直すというように、基準によって判断とその後のアクションが変わります。A案、B案、C案の中で最も良いものを選ぶということであれば、3案のそれぞれのスコアが基準になりますし、競合の商品に勝つということが目標であれば、競合商品のデザインを一緒に調査にかけて、そのデザインの評価スコアを基準にします。調査の際にデザインを見せる順番も大切です。見せる順番によって調査結果に影響が出る(順序効果)ので、ローテーションをかけて見せる順番を平均化します。あまりにも調査するデザイン案が多いと、調査精度が低くなるので、デザイン案は絞り込む必要があります。また、定量調査はあくまでも仮説の検証が前提ですから、あまりに多くの自由回答を設けることは避けるべきです。デザインの好意・非好意理由といった基本的な自由回答は必要ですが、自由回答を増やし過ぎると、調査対象者の負担が増え、結局、いい加減な回答しか得られなくなってしまいます。また、分析も非効率になります。定量調査における自由回答はあくまでも全体の傾向と、参考になる意見をピックアップするためのもので、基本は回答を選んでもらう形式にすべきです。定量調査で代表的な調査方法はWEB調査と会場調査の2つです。WEB調査はスピーディーに多くの案を検証するのに向いており、会場調査は実際の売り場に近い状態で、商品を見たり触ったりして評価できます。それぞれの特性から、デザイン開発の初期段階の絞り込みではWEB調査、最終案を決定する後半の調査では会場調査をすることが多いです。

15デザインの評価項目デザインの19の評価ワードデザインの定量調査で大切なのがイメージワードです。デザインの評価が高くても低くても、それがなぜなのかを知ろうとするときには、どのようなイメージを持たれているかを確認することが必要です。イメージワードには、一般的に消費者がパッケージデザインを評価する言葉を使いながら、幅広く安定して評価できる言葉を抽出します。その場の思いつきや商品の個性に寄り過ぎた特別な言葉で聞いてしまうと、そもそも消費者が感じていないイメージを過大評価することになったり、過去の調査結果と比較することが難しくなったりします。プラグでは2015年からパッケージデザインの自主調査を積み重ねてきました。500万人を超えるパッケージデザインに関する自由回答をAI(人工知能)を使って分析し、消費者がパッケージデザインを評価するときに使う代表的な19の言葉を抽出しました。ここで分かったことは、どんな商品のイメージであっても、この19のワードで7割は説明できるということです。「おいしそう」という言葉だけは、医薬品や化粧品、トイレタリー商品には適さないので外します。また「デザイン要素がよい」についてはシズル写真やイラスト、背景の色などのコメントを集約しているので、このイメージワードもカテゴリーや商品によって細分化してもいいかと思います。「おいしそう」「かわいい」「シンプル」「デザイン要素がよい」「なつかしい」「やさしい」「安心感・信頼感がある」「季節感がある」「健康感がある」「効果・効能を感じる」「高級感・上質感」「色味がよい」「新しい・ユニーク」「洗練」「爽やか・清涼感」「特徴がわかりやすい」「目立つ・印象に残る」「綺麗・美しい」「清潔」──こういった消費者の言葉でつくられた項目を参考に、質問を設定してみてください。質問項目は、ベースとして変えない項目と、カテゴリーやブランド、コンセプトによって追加する項目に分けて管理することで、「このくらいのスコアであればいける」といった判断基準を蓄積することができます。

16定性調査の方法デザイン修正のヒントを探るデザインを評価する定性調査は、5~6人を対象にしたグループインタビューや、対象者とインタビュアーが1対1で時間をかけて、深層心理を掘り下げていくデプス調査などが代表的です。グループインタビュー方式は声の大きい人の意見に流されることがあります。調査の組み立てや司会進行役の人は、そうならないように色々な工夫をしています。例えばデザインを提示した途端、「わー、かわいい」と誰かが言えば、それに影響されますし、「かっこわるい~」という発言があれば、やはり影響を受けてしまいます。これを避けるには、デザインを提示する前に用紙を配り、最初に自分の意見を書き込んでもらうという方法があります。まず、「何も言わないで、紙にデザインの評価を記入してください」と伝えます。記入後に通常のグループインタビュー形式に戻り、デザインについて話し合ってもらうという方法です。この方法だと紙に書いた自分の意見をベースに話をするので、第一印象が他人に大きく影響されることがありません。また、定性調査では仮説の抽出が目的になるので、定性調査だけでそのデザインが良いか悪いかを判断するのは危険です。大切なのは、デザインを初めて見た人がどんな印象を受ける可能性があるのかを体感し、ブラッシュアップするためのきっかけやヒントを探ることです。たった1人の意見の中にも素晴らしいヒントが隠されていることがあるのです。良い点、悪い点、好きな理由、嫌いな理由──こういった発言や表情の中にデザイン修正のヒントを見つけていきます。調査対象者が、具体的なデザイン修正の方法を提案してくれることはまずありませんが、調査対象者がデザインをどう感じ、デザインの何がそう思わせているのかという結びつきを発見できます。なぜそう思ったのか、どこの部分からそれを感じたのかという感性とデザインのつながりを丹念に聞いていくことで、様々な発見があるはずです。

17観察調査違和感こそがチャンス定性調査の1つに観察調査という方法があります。消費者の実際の生活や使用場面を観察させてもらうことによって、商品開発のアイデアを発見しようという調査方法です。もともとは文化人類学の調査手法ですが、簡略化した形の観察調査がマーケティングリサーチにも取り入れられてきています。この方法が有効なのは、「人が悩みを言語化できるのはわずか5%」といわれるほど、多くの人にとって不満や課題を言語化して話すことが難しいからです。不満や課題の多くは、人の潜在意識の中にあるのです。「普段使っているパッケージで、あなたがご不満に感じていることはありますか?」と聞かれて、どれくらいの答えが思い浮かぶでしょうか。多くの人にとって、普段使っているパッケージは、そういうものだと受け入れて使っているので、不満と捉えることができません。新しい便利なパッケージが登場したときに初めて、「あ、これは便利だな」と感じるのです。観察調査は新しいパッケージを開発するのに大変有効です。その1つは容器開発でしょう。容器を進化させるチャンスは、観察調査によって多く得られます。この観察調査をどれくらい実施しているかは、各企業の開発力の大きな差となって表れているように感じます。観察調査の目的は容器を便利に進化させることだけではありません。メーカーが想定していなかった意外な使い方を発見することで、商品開発やプロモーションに生かせます。朝にたくさんのお酢を使っている家庭に観察にお邪魔すると、家族みんなで健康のためのオリジナルのお酢の飲み物を作っていたという発見があれば、そのオリジナルレシピをCMや料理サイトで紹介していくことによって新しい市場が開拓できるかもしれません。観察調査を行う上で大切なことは、観察したときの違和感です。「何度も繰り返している」「不自然な姿勢で使っている」。観察者が感じたこういった違和感には改良のヒントが多くあります。言語化できない使用者の課題を引き出すことが観察調査の大切な目的ですから、観察対象者の体や行為が発信している違和感をキャッチしてください。そしてその違和感は忘れないようにきちんとメモをして、本人にもインタビューしてみてください。観察後はチームのメンバーが感じたり発見したりしたことを、できるだけ早く共有しましょう。

18アイトラッキング目の動きを捉えてデザインに生かすアイトラッキングとは、目の動きをセンサーで捉えて分析するシステムのことです。提供しているのはスウェーデンのトビー・テクノロジーという会社で、日本にも法人があります。ホームページで「アイトラッキング(視線計測)は、人々が『どこを・どのように・いつ見るか』を教えてくれる技術です」と紹介されている通り、マーケティングや熟練工のノウハウを共有するために世界中で使用されています。数年前にトビー・テクノロジーにも参加していただき、日本マーケティング協会と早稲田大学が共同でパッケージデザインの研究を行いました。人々がパッケージをどのように見ているのかを知るのにとても有効な技術でした。しかし、パッケージデザインにアイトラッキングを活用するには、目的を明確にすることが大切です。検討しているデザイン案の中でどれがいいかということだけであれば、従来の調査方法で十分な情報が集まると思います。消費者が購買時にパッケージに書かれた情報をどんな順番で情報処理しているかを調べて、パッケージに記載する情報の配置や文字の大きさに優先順位を付けたり、ロングセラーのパッケージデザインのどの要素が強い印象を与えているのかを探ることで、変えてはいけないデザイン資産を推定したりすることができます。他にも、棚に商品を配置し、商品がどのような過程で選ばれていくのかを調査することもできます。この10年でアイトラッキングに使う機器が小型化され、調査目的に合わせた様々なバリエーションが用意されています。分析ソフトも充実しているので、調査目的がはっきりしていれば活用の価値は十分にあると思います。とはいっても普段の購買行動とは違う環境の中での評価になるため、できるだけ調査目的を絞り、調査環境に配慮するなど有効な調査になるように工夫しましょう。

19AIによる評価学習データから好意度を予測評価の最先端技術にAI(人工知能)による評価があります。AIは大量の学習データから好意度の高いパッケージデザインの特徴を見つけ出し、ある画像が与えられたときにどの程度好かれそうかを予測します。プラグでは2015年より蓄積してきた学習データを活用し、東京大学との共同研究を通じて、AIによるパッケージデザインの評価サービスを実現しました。あらかじめ用意された590万人(2020年10月時点)のパッケージデザイン評価データを基に、ディープラーニングを活用し、検討中のデザイン案を評価する仕組みです。WEB上にデザイン画像をアップすれば、セグメント別のパッケージデザインの好意度、好意度に影響を与えている場所の特定、19のデザインイメージ、好意度のばらつきを予測できます。わずか数十秒で、高い精度の予測が可能です。従来の調査では、WEB調査で5案程度、会場調査では2~3案程度しか調査にかけることができませんでした。そのため、案を絞り込む過程で、売り上げを高める可能性のあるデザイン案が客観的な評価を得ないまま、捨てられてしまうことがありました。AIを使うことで多数のデザイン案をスピーディーに評価することができるため、すべてのデザイン案を評価することも可能です。また、従来の調査に比べて圧倒的に速く、コストも抑えられるため、デザイン開発に余裕をつくり出すことができます。調査対象者がデザイン案をWEB上に公開してしまうような情報漏洩のリスクもありません。たとえ1回目の評価が低くても、世に出したいデザインを工夫して何度もAI評価を繰り返すことで、デザインの品質を高めるという、新しいデザイン開発手法が可能になります。評価ができるということは、今後、デザイン生成の分野でもAIが活用される可能性があります。AIがデザイン生成の一部をサポートすることで、デザイナーは煩雑な作業から解放され、本来の創造的な仕事にもっと集中することができるようになるでしょう。このAIを使ったパッケージデザインは、既にカルビーやネスレ日本から発売されるなど、多くの企業で活用が始まっています。現段階ではデザイン案を初期段階でスクリーニングするという活用方法が中心ですが、今後はデザイナーの人材教育やイノベーターの評価の予測など、従来の調査方法では不可能だった活用場面が増えていきそうです。

20組織内でのデザイン説明客観的、戦略的、主体的に「組織内でデザインを決めるときに、明確な基準がありません」「上の人の意見が強くて、ターゲットとかけ離れた人が決めてしまいます」──パッケージデザインの決定に当たっては、多くの人が色々な意見を持っているために、苦労しているケースが多いようです。上級管理者の方の多くは、その業界での経験が豊富なので、商品がターゲットとする年代でなかったとしても、一概にそういった方たちの意見が間違っているとは言えません。むしろ業界で受けるデザイン、失敗を避けるデザイン、自社らしいデザインなど、様々な経験からの意見や指摘は学ぶことも多いと思われます。しかし、ある一定の意思決定のガイドラインがないと、突然ゼロからやり直しになったり、何度も修正をすることになって余計なコストがかかったりすることになりかねません。これでは、せっかく1つの方向でまとめ上げたチームの「良いデザインをつくっていこう」というモチベーションも下がります。デザインについての意思決定で大切なのは、何をもって評価するのかを事前に決めておくことです。オリエンシートの中に、今回は何をもって評価するのかを入れておき、デザインを評価する前に必ず「今回のデザインの評価ポイント・重視ポイントは」という形で確認するようにしましょう。デザイン制作に入る前にオリエンシートをチームや上司に確認した上で活用することが前提になります。こうすることで、何によって評価するのかを組織内で共有することができ、共通の評価軸をもって意思決定できます。もう1つのポイントは、意思決定の場には案を絞り込んで持っていくということです。5案も10案もあったのでは、商品担当者の意思がないのと変わりません。2つ、せめて3つくらいにデザインを絞り、それぞれのデザインの意図と、自分が支持するデザインについてしっかりと説明する準備をしておくことです。社内で説得力を確保するには、デザインの意図を明確に説明した上で、①消費者調査やAI(人工知能)評価の結果から説明する、②戦略上の必要性から説明する、③担当者の熱意から説明する、という3つの組み合わせが有効だと感じます。②については次の戦略編で紹介します。

01ロングセラーブランドのリニューアルの失敗デザインは顧客のもの米国の「トロピカーナ」がパッケージデザインのリニューアルをしたところ、売り上げが20%ダウンするという失敗がありました。ロングセラー商品のデザインリニューアルの失敗は、この例に限らず、日本国内でも見られます。ひどい場合には結果的にブランドごと売却というケースもあります。それだけロングセラーブランドのパッケージデザインのリニューアルはリスクを伴っています。そもそも、なぜ、パッケージデザインをリニューアルする必要があるのでしょうか。それはブランドの鮮度を保ち、長期にわたって輝くブランドとして維持強化するためです。市場には新商品が次から次へと出てきます。この流動的な市場の中で、自社のポジションを常に一定に保つのは容易ではありません。良い商品であればすぐに競合はまねてきます。こういった変化の激しい市場の中で、ブランドのポジションを維持し、新鮮さを保つためにパッケージデザインのリニューアルは大切なマーケティング手法なのです。もちろん中身も同じように進化させていく必要がありますが、中身をいくら進化させても、デザインを変えなければ、顧客からは古いデザイン=古い商品=変わっていない商品と判断されてしまいます。リニューアルのときに大切なのは、「デザインは顧客のものである」という認識です。法律上の意匠権は企業に所属しますが、無形のデザインイメージは、顧客の頭の中にあります。つまり消費者のものでもあるわけです。ですから、今まで大切にそのブランドを使ってくれていた顧客を無視して、大幅にデザインを変更してしまうと、大きな失敗につながることがあるのです。しかし、リスクがあっても、大きくデザインを変更して起死回生を図らなければならないときもあります。デザインを多少変更したところでじりじりと売り上げが減少して、いずれ市場から商品がなくなることが予想されるような場合です。こういった場合には、綿密な商品のリポジショニング計画を立てた上で、デザインのリニューアルを行います。キリンビバレッジの「生茶」は大幅なリニューアルによって見事に復活を果たしました。

02リニューアルの目標設定ポジションを変える必要があるかないかパッケージデザインは、ブランドのポジションを新鮮に維持するために、定期的に、少しずつリニューアルすることが基本となります。しかしながら、売り上げが大きく下がってきたり、新規の顧客を獲得したりする場合には、ブランドの提供価値やターゲットなども見直すことになるでしょう。その場合にはリスクを伴いますが、大幅なデザインリニューアルが必要になってきます。最もシンプルな考え方は、ポジションを変える必要があるかどうかということです。ポジションを変えるということは、提供価値を見直すということ。巨大な競合が出てきてしまい、今のポジションでは勝ち目がないような場合には、ポジションを競合に譲って、自分は新しいポジションで新しい価値を提供するという選択です。ロングセラーブランドの中にはこういった戦略を採ることで厳しい生存競争に勝ち残っているブランドも数多く存在します。「生茶」の大幅リニューアルの前は、大手飲料メーカーだけでなくプライベートブランドが競合に加わり、競争が激化していく中で、カテゴリー4位の生茶はブランドの存続の危機に瀕していました。従来の商品ポジションを大きく変え、それまでの「飲みやすいお茶」から「濃厚なお茶」にポジションを変えました。デザインも生茶というネーミング以外は大きく変更し、商品が全く変わったことを消費者に伝えたのです。ポジションを変えるのではなく、現在のポジションを維持するためのリニューアルもあります。企業側がポジションを変えなくても、新しい商品が出たり、デザインが古くなったりして、消費者から見ると日々刻々とポジションは変わっているからです。そのため定期的にポジションを調整する必要があるのです。この場合はデザインの鮮度維持が目的になるので、大きなデザイン変更は必要なく、今までの消費者に変化を感じさせない程度の変更を繰り返しながらリスクを抑えます。大切なのは古くなる前に変更するということです。

03大きく変えるべきか、小さく変えるべきか50年変わっていないデザインもあるパッケージデザインの中には、発売以来50年近くも変わっていないのに、業界でトップランクのシェアを獲得しているものがあります。一方、大きなデザイン変更を行った結果、成功したものもあります。パッケージをほぼ変更せずに、高いシェアとロイヤリティーを維持しているパッケージデザインには、「カップヌードル」や「カロリーメイト」「正露丸」などがあります。市場創造の結果、オリジナルのデザインとして定着しているのです。勝ち抜いて市場を独占しており、結果的にオンリーワンのデザインになっています。こういった場合にはパッケージデザインを頻繁にリニューアルする必要はありません。ただし、パッケージ以外でのブランド活性化策は重要です。カップヌードルは毎年多くの新商品を発売しています。一方、大きくデザインを変更して成功したものとして、「キャラメルコーン」や「生茶」などがあります。こういうケースでは、企業再生やM&Aなど関係者への意思表示が必要なタイミングや、シェアが落ちたことに対する抜本的な対策として大幅なリニューアルが行われています。ただし、大幅なリニューアルは短期的に大きなリスクを伴います。この2つの間にあるのが、定期的に少しずつデザインをリニューアルして鮮度を保つというパターンです。1回のリニューアルでは変更に気づかない程度のリニューアルですが、長い期間で見ると時代に合わせてしっかりとデザインを進化させています。このパターンのリニューアルが最も多く、顧客が離れていくリスクも少ないと考えられています。どのような場合に大きく変えるべきか、もしくは変えなくてもいいかは、競争環境によって変わります。長期的にデザインリニューアルをしなかった結果、じりじりとシェアが奪われていき、気づいたら多少のデザイン変更では回復できない状態に陥るのは避けたいところです。合理的な理由がない限り、基本的には定期的に、少しずつリニューアルしていくことをお勧めします。

04丁度可知差異目標に向かってコツコツ努力する心理学に丁度可知差異という考え方があります。これは「刺激の識別が可能な最小値のこと」と定義されていますが、言い換えれば、「分かるか分からないかくらいの違い」といえます。ロングセラーブランドのパッケージデザインに見られる「定期的に少しずつ変えていく」というパターンでは、この丁度可知差異が採用されています。アサヒビールの「アサヒスーパードライ」や日清食品の「チキンラーメン」、明治の「明治ブルガリアヨーグルト」などは、長い間、少しずつデザインを変更することで、新鮮なブランドとしてそのポジションを維持しています。一度のデザインリニューアルでは、デザインが変わったか変わらなかったか分からない程度、まさに丁度可知差異の範囲でのデザイン変更ですが、10年前、20年前のデザインと比べて見ると、明らかにその時代に合った形に進化していることが分かります。丁度可知差異の範囲でのリニューアルは既存顧客を失うことなく、デザイン資産を構築していくために有効な手段ですが、大切なことは「長期的なゴール」をチームで共有していることです。明治ブルガリアヨーグルトは発売以来変わらない提供価値(自然の中から見いだされた乳酸菌由来の健康効果とおいしさ)を貫いています。「長く愛してほしい」という思いからデザイン上のアイデンティティー(ロゴ、色、グラデーション)も変えることなく継承し続けています。発売して50年近くたち、多くの競合商品が登場する中でも古びず、埋没することなく、顧客に選び続けてもらうために、商品の中身とパッケージデザインの両方を常に磨き続け、デザインのアイデンティティーを変えずにその印象をより強めることを実現しています。本書では心理学の概念である丁度可知差異という言葉を引用していますが、明治では「より象徴的に進化させ続ける」ことを目標にしています。こういった高い目標を、ブランド・デザインを担当するチームが共有することは、とても大切です。「分かるか分からないかのレベルで少しずつ変える」こと自体は手段です。目標が共有されないまま少しずつ変えたデザインを大量につくり、リニューアルを繰り返していくと、最終的には目標が分からなくなり、少しずつ変えるという作業自体が目的化してしまいます。

05鮮度維持のタイミング古くなる前に「デザインのリニューアルをしなかったらどうなりますか」「デザインを変える必要があるのでしょうか」──こういった質問を受けることがあります。アンディ・ウォーホルが描いた「キャンベル」のスープ缶やレイモンド・ローウィの「ピース」、サルバドール・ダリがロゴをデザインした「チュッパチャプス」など、今見ても時代を超えて素晴らしいと思えるデザインが存在します。こういった一部の芸術作品とも呼べる歴史的なパッケージとは別に、やはり日々の競争の中に置かれているパッケージデザインは、鮮度を維持することが大切です。では、鮮度とは何でしょうか。消費者から見て、新しい、改善を続けている商品だと感じてもらうことでしょう。企業には競争原理が働いていますから、同じことを続けていると、売り上げは下がっていきます。常に商品を改善し、顧客により良い生活を提供するのが企業の使命です。その改善している姿勢をパッケージを通じて伝えていく必要があるのです。では、いつパッケージデザインを変更すればいいのでしょうか。発売してすぐにデザインを変更する必要はないにしても、どれくらいたったら変更すべきでしょうか。大切なのは、古くなってからでは遅いということです。お寿司屋さんで古い刺し身が出てきたらアウトですよね。古いものを出すイメージが一度付いてしまったお寿司屋さんには、誰も行きません。同じように、古くなってからリニューアルしても、なんとか普通に戻すのが精一杯です。それ以上やろうとすると変え過ぎることになるので、リスクを伴います。鮮度があるというのは平均よりも新しいというイメージですから、普通くらいになる前に新しくして、ポジションをキープすることが大切です。そうは言っても、既に古くなってしまっている場合は、リニューアルを2段階、3段階に分けて通常よりも短いサイクルで段階的に鮮度を高めていきましょう。そうすれば、一気に新しくしてしまい、顧客が離れてしまうリスクを回避できます。リニューアルの期間で参考になるのは競合のリニューアル頻度でしょう。カテゴリーによっても変わりますが、ビールなどは頻繁にリニューアルをして鮮度をアピールしています。たとえ新商品でも、発売時には次のリニューアルが検討されているケースがよくあります。

06メタファーの設定「~のような」でブランドの世界観を共有メタファーとは「何々のような」という使い方をする比喩表現のことですが、パッケージデザインではこのメタファーを使うことで、デザイン表現のゴールを開発メンバーやデザイナーと共有することができます。メタファーの使い方には、キーワードだけを使う場合もありますし、ビジュアルを活用して設定することもあります。メタファーの存在は、新商品のデザイン開発にも有効ですが、ブランドを表現するデザインの方向性を指し示す役割を担うことができるため、長期にわたり一貫したメタファーを活用すると、ブランドの世界観を一定に保つことができます。例えばゴディバは「宝石のような」という方向性を大切にしており、実際にパッケージや店舗などが宝石店のようにデザインされています。これが長期にわたってゴディバの世界観を具象化する1つの道しるべとして機能しています。プロダクトデザインの世界でもメタファーはよく用いられる手法で、iMacG4のデザインをする際には太陽を向くひまわりをメタファーにしたといわれています。SGジョンソンのトイレクリーナー「ダックトイレリキッドクリーナー」は名前の通りアヒルをメタファーにしたデザインが施されています。実際にアヒルの首に当たるくびれがトイレ掃除のときの使いやすさを実現しています。デザインを制作する際に、その方向性の表現方法として様々な画像やイメージを収集する方法もありますが、メタファーは、ストレートにデザインの造形やイメージのゴールを提示します。メタファー使用時のポイントとしては、デザインチームにとって分かりやすく、共通に理解できるものにすることです。また、ブランドのパーソナリティーや世界観との関連性・一貫性も重要です。一度設定したメタファーは、ブランド規定書やデザインマニュアルに盛り込み、デザインリニューアルの際の1つの評価基準として活用することで、長期的に一貫したデザインを実現することができます。

07メッセージの設定商品の訴求ポイントを時代に合わせて変えるパッケージデザインを制作する際にはキャッチコピーを設定します。商品のベネフィットを分かりやすく短時間で伝えるのが新商品のキャッチコピーです。ロングセラー商品の場合は、基本ベネフィットが浸透したからこそ、多くの人に受け入れられ、ロングセラーになったのだといえます。このロングセラー商品を常に輝かせ続けるためには、商品の訴求ポイントを時代や競合商品とのポジショニングから検証し、継続的に再定義していく必要があります。時代に合わせて、それまで消費者に伝えていなかった価値を表に出していくことで、ロングセラー商品が輝き続けられることもよくあります。例えば、健康のために糖分や塩分を気にすることが多くなってくれば、糖分や塩分の少なさを伝える。原材料の安全性にこだわる人が増えているならば、原材料の安全性をしっかりと伝える。環境問題が重視される時代であれば、いかに環境に負荷の小さい商品であるかを訴求する。このように商品の訴求ポイントを時代に合わせて設定していくことが重要です。1964年に発売された「かっぱえびせん」は「天然えびが丸ごと」と自然原料のおいしさ感を第一に伝えていますが、2004年のリニューアルでは健康志向を受けて、「ノンフライ」の表示を大きくしています。2006年からは「カルシウム」の文字を大きく表記し、2012年からは「まるごと」の文字表記を大きくしています。1962年の発売以来、定期的にデザインリニューアルをしながらロングセラーブランドとして輝いている「きゅうりのキューちゃん」では、2001年のリニューアルの際には減塩を強調した「さらにうす塩味」というコピーを採用し、2007年のリニューアルの際に「ごはんにあうおいしい野菜」というキャッチコピーをパッケージに採用しています。健康的に野菜を取りたいというヘルシー志向に応えたものと考えられます。確かにきゅうりは野菜ですが、あえて訴求ポイントとして言葉にすることで、「そうか、野菜なんだ」と商品の価値を再発見させることができます。2020年現在では、「醤油の旨さとパリッと食感!」というおいしさ表現を採用しています。このように時代に合う商品の訴求ポイントを設定することが重要です。

09デザインアイデンティティーの特定方法消費者調査を通じてデザインアイデンティティーを突き止める消費者調査でデザインアイデンティティーを特定する1つの方法に、ブランドのロイヤルユーザーに紙と色鉛筆を渡して、対象となる商品のパッケージデザインを描いてもらうという方法があります。ロイヤルユーザーが紙に描いたものがデザインのアイデンティティーであるという考え方です。デザインの詳細まですべて描ける人はめったにいませんが、普段から商品を使っているロイヤルユーザーであれば、どこかしら記憶に残っている部分を描くことができます。この方法は直接的で分かりやすいのですが、かなりのロイヤルユーザー、もしくは対象となるデザインが覚えやすいものでないと、十分に描けないことがあります。もう少し調査対象者の負担が小さい方法として、アイトラッキング調査があります。これはコンピューターの画面上にパッケージデザインを提示し、目の動きを追うものです。対象者がどの場所をどの順番で見たのかが分かるので、デザインアイデンティティーを特定するのに役立ちます。ただ、たくさん見た=アイデンティティーと単純に判断するわけにはいきません。見にくい文字だったり、写真が気になったりしたという理由も考えられるため、慎重に解釈する必要があります。「この商品で一番印象に残っている場所を見てください」などと指示を出すことも有効です。それ以外では実際にデザインを色々つくってみて、定量調査にかける方法もあります。これは、色やロゴなどを色々な組み合わせでつくり、現行デザインと似ている、似ていないという評価を定量的に行い、その距離を2次元でマッピングするという方法です。この方法でマッピングされたデザインを見ながら、何を変えると現行品と差が出てしまうかを検証できます。本格的なデザイン作成に入る前の検証として、多次元尺度法を使ったこの手法は大変便利です。

10リニューアルデザイン案の評価と決定調査結果だけに頼らず、最後は意思で決めるリニューアルデザイン案をどう評価し、意思決定につなげていくかはとても難しい問題です。消費者を対象にした定量調査では大きな差がつかないことがよくあります。たとえ差がついたとしても、統計的な有意差ではないことも考えられます。無理やり定性調査をやろうとすると、間違い探しのようなことになってしまいます。調査は参考にしつつも、次の3点が達成されているかが大切です。1.狙ったポジションが表現されているか2.今よりも特定のイメージが改善されているか3.既存のユーザーが許してくれるか開発チームで議論し、デザイン案がこの3点を達成しているかどうかを検討した上で、最終的にはブランドマネジャーが意思決定をします。1つ目の狙ったポジションに関しては、従来のポジションを今の時代にあった形で獲得できるデザインかどうかということです。競合および過去のデザインと比較し、狙うべきポジションを獲得できるデザインになっているかを見ます。リポジショニングが必要な場合は、定量調査の結果が読みやすいと思います。2つ目の、特定のイメージが改善されているかという点については、例えば食品であればおいしそう、医薬品であれば安心安全・効果がありそうといった項目や、従来特に低かったイメージワードが改善されているかを確認します。3つ目は既存のユーザーが許してくれるかという点です。ロングセラーのデザインの半分は長年愛してくれたユーザーのものでもあるわけです。デザインをリニューアルした結果、「これは私の大好きなあの商品のデザインではない」という印象を持たれることは避けなければなりません。デザインリニューアルの失敗は、この「長年愛してくれたユーザーの反発」によるものが大きいように思えます。定量調査や定性調査を参考にすることはとても大事ですが、調査結果だけに頼らず、デザインをしっかりと何度も見ることで自分自身が真剣に評価し、意思決定することもとても大切なことだと思います。

01デザイナーとのコミュニケーションに関わる問題ゴールの共有がポイントデザイナーと共同でデザインを制作をしていくに当たり、「誰にどのように頼めばいいのか」「意思疎通ができない」「自分の要求を的確に伝えられない」といったことを聞きます。確かにデザイナーの中には、こだわりが強かったり、個性が強かったりする人がいるかもしれません。しかし、こだわりや個性の強さが源となって優れたデザインが出来上がるケースも多いので、デザイナーとうまくコミュニケーションを図りながら良いデザインをつくっていきましょう。デザイナーとのコミュニケーションに関わる問題は、大きく3つに分けられます。1つ目は、誰に頼めばいいかという問題です。表現したいコンセプトや世界観にできるだけ近いデザイナーに依頼するのがベストです。いくら優秀なデザイナーでも、すべての表現に対応できるわけではありません。得意不得意がありますから、その人の強みが発揮できるような仕事を依頼すべきです。2つ目は、仕事の依頼の仕方です。自分の思いをしっかり伝えるにはどうしたらいいか。意思疎通をするにはどうしたらいいか。こちらの要望をきちんと伝えるにはどうしたらいいか。そんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。良いデザインをつくるには、仕事の依頼の仕方はとても重要です。3つ目の問題は、修正の指示の仕方です。1回目のプレゼンの後でどのように修正の指示をしたらいいのか。デザイナーに変更の指示を適切に伝えられない。これも悩みの一つです。3つの問題それぞれに解決するポイントはありますが、共通して大切なのは、いいデザインを一緒につくっていきたいというパートナーシップと、商品担当者の意思です。デザイン制作の最中は無理を依頼することもありますし、途中でやり直さなければならないこともあります。その際、発注者と業者という関係ではなく、同じゴールに向かって力を合わせるパートナーという関係を築くことが重要です。

02デザイナーに何を期待するのかデザイナーの持つ3つの力高知県のデザイナー梅原真さんは「物事の本質を見極めて可視化するのがデザインである」と言います。これはデザイン思考やデザイン経営といった考え方まで包括する、とても分かりやすいデザインの定義だと思います。多くの資料や情報の中から、本質的価値を見つけ出して集約し、分かりやすく魅力的に伝えるのがデザイナーの仕事です。しかしながら、これをすべて1人でできるデザイナーは限られています。また、すべてのデザインテイストを1人のデザイナーが表現できるものでもありません。食品は得意だけれど化粧品の経験は少ないなど、業界経験にも差があるはずです。従って、「物事の本質を見極めて可視化する」を3つの力に分解し、デザイナーに期待することを整理してから依頼するデザイナーにアタリをつけるといいと思います。1つ目は「物事の本質を見極める」能力です。コンセプチュアルに物事を捉え、何を伝えていくべきかを抽出する力です。コンセプトをつくる力といってもいいかもしれません。オリエンシートだけでなく、工場や農場などの現場を見て回り、作り手とじっくり話をして膨大な情報の中から光る1点を探し出す力です。2つ目は「可視化する」力ですが、これはさらに2つに分けることができます。1つは、光る1点をどう伝えれば最も伝わるかという大まかな設計図をつくる力です。パッケージデザインには文字だけのものもあれば、イラストやシズル写真を活用したり、面白いネーミングを使ったり、様々な伝え方があります。この伝え方の設計図をつくる力をディレクション力といいます。可視化する力のもう1つは、設計図の意図をくみ取って、それを表現する力です。同じ設計図でも、それを実際に表現する力が違えば、結果には雲泥の差が出ます。これはデザイン力といえると思います。依頼したいパッケージデザインに必要な力を最初に整理しておくことです。表現するのが得意な人に、設計図づくりを相談しても能力を最大限に発揮できません。逆もまたしかりです。どの能力にたけているかを見るには、その人の作品集を見ながら話を聞くことです。本質を見極める仕事をしている人は、伝えるべきことにどうたどり着いたのか、その道程を話してくれますし、表現が得意な人は表現について熱く語ってくれるかと思います。また、表現が得意な人はその人がつくったデザインの中に共通して存在する“味”が読み取れるでしょう。

03デザイナーをどう選ぶかデザイナー情報の収集と評価軸目的に合ったデザイナーを選ぶには、まず、デザイナーの作品についての情報を集めなければなりません。お薦めは日本パッケージデザイン協会のホームページの中にある「マイワークス」というページです。様々なデザイン事務所の作品を見ることができます。気になるデザイン事務所があれば、その事務所のホームページを見て、話を聞くと、もっと理解できるかと思います。『年鑑日本のパッケージデザイン』も定期的にストックしておく参考資料としてとても有効です。この本にはその年の様々なデザインとデザイナー、デザイン事務所、連絡先が掲載されています。デザイナーの評価に関しては、作品のイメージやトーン&マナーも重要ですが、どのようにその仕事に関わったのかという点をヒアリングすることが重要です。経験、技術、人柄、クリエイティブ力という4つの評価軸で情報を整理すると整理しやすいでしょう。経験でいえば、どういった分野、クライアント、立ち位置で仕事をしてきたかということです。クライアントと直接やってきたのか、広告会社のディレクターと仕事をしてきたのか、化粧品が得意なのかお酒が得意なのかといった点です。2つ目の技術とは、例えばアイデアに優れた人なのか、細かいつくり込みや画像の加工技術に優れた人なのか、イメージを膨らませるのがうまい人なのか、といったデザインの技術面です。人柄では、その人と一緒に仕事を楽しくできそうか、コミュニケーションをしっかりと取れそうか、こちらの質問の意図をしっかり理解してくれるかという視点です。クリエイティブ力とは前ページで紹介したデザイナーの3つの力、すなわち、膨大な情報の中から光る1点を探し出す力(コンセプトをつくる力)、どう伝えれば最も伝わるかの大まかな設計図をつくる力(ディレクション力)、設計図の意図をくみ取って表現する力(デザイン力)のことです。このように集めた情報と実際にデザインを依頼してみての評価をデータベース化し、情報共有することで、商品に合ったデザイナーを選定できるようになります。

04コンペをするべきかどうか長期的関係を築きつつ、節目で効果的にコンペをするコンペについては、一切しない企業もありますし、毎回コンペを行う企業もあります。コンペは様々なデザインから選択できる、新しいデザイナーの力を見ることができる、といったメリットがありますが、デメリットもあります。まず、コンペには、無難な案が集まりやすい傾向があります。コンペでない場合には、現実には採用されにくい案も含めて幅広くつくり、その中で現実的な線に詰めていくということができますが、コンペの場合はそういった提案はできません。もし、良い点がそれぞれのデザインにあったとしてもデザイン事務所が異なる場合には、A案とB案の良いところをミックスして修正するということもできません。また、毎回コンペをしている企業は毎回デザインが変わり、長期的な視点で見るとブランドやデザインの資産の継承が難しくなります。コンペ形式では優秀なデザイナーが参加してくれないということもあります。従って、毎回コンペをするのはお勧めしません。しかし、同じデザイン事務所とだけ付き合っている場合、やり取りのしやすさやデザインのトーン&マナーを守ってくれるというメリットがある一方で、マンネリ化が生じることがあります。お勧めするのは、ブランドごとにデザイナーやデザイン事務所を決め、そのデザインを長期的視点で育成していくという体制をつくり、大きな商品やブランド変更の際にコンペを活用するというやり方です。コンペの際には、コンペ料、決定料、決定のプロセス(第1回のプレゼンで決めるのか、修正を含めて何度かプレゼンしてもらうのかなと)スケジュールなどを明確にしておくことが重要です。まれにコンペフィーを支払わない会社がありますが、その場合は力のあるデザイナーはまず参加しないので、デザインを依頼する以上、コンペ料は用意しましょう。

05イメージを共有するためにもともと伝えにくいものを共有する技術デザイナーとデザインの完成イメージを共有するためには、まず、しっかりとオリエンテーションシートを作ることです。デザイン完成度の7割はオリエンテーションで決まると思います。入念に準備したオリエンテーション資料は、デザイナーのやる気を引き出し、どこへ向かってデザインするべきかの方向性をしっかり共有することができます。ターゲット、企画の背景、コンセプト、競合商品、商品特徴、ネーミングの6つをしっかりと詰めることで、デザイナーへの情報伝達はかなりスムースにいきます。自分の中にデザインの完成形のイメージがある場合には、オリエンテーションの際にしっかり伝えましょう。そもそも、事前にデザインのイメージを共有するのは大変難しい作業です。完璧に伝えることは困難という前提で、または非常に難しいことを共有しようとしているという前提で、できることには最大限取り組みましょう。お勧めは、自分のイメージしているビジュアルを集めることです。そしてその資料を使いながら“なぜそうしたいか”を伝えてください。「温かい感じ」といっても色々な温かさがあります。じんわりとした温かさもあれば、熱々に近い温かさもあります。言葉とは別に、イメージを写真などで表現することで、デザインイメージはぐっと共有しやすくなります。その画像の何がゴールイメージに近いのかを言葉にすることで、さらにデザインのゴールイメージが共有しやすくなります。「こうしたい」という主観的なデザインの好みやセンスではなく、商品担当者もしくはブランドの責任者として、顧客を念頭に置きながら、デザインの「あるべき姿」を追求していくことが大切です。「やりたいこと」ではなく「やるべきこと」を追求してデザインゴールをイメージしてください。オリエンテーションの際の話し方の抑揚も重要です。大切な部分は強調したり、「ぶわーっと」「ぎゅーっと」といった擬態語も有効です。オリエンの際には、少し肩の力を抜いて話ができる雰囲気づくりを目指してください。

06プレゼンテーションの受け方まずはじっくり20秒デザインを見るプレゼンテーションの受け方は、デザイナーとのコミュニケーションの上ではとても重要です。デザイナーにとっては、懸命に完成させたデザインがどう評価されるのかの緊張の瞬間ですし、今後どうブラッシュアップしていくかの方向を見つける大切な時間でもあります。そもそもデザインの評価は大変難しい作業です。そう簡単にデザインの良しあしの判断はつきません。ましてや何案も目の前にデザインが並び、それを評価して絞り込み、修正の方向を明らかにするためには、ある程度の経験と時間が必要です。ABCDEの5つの評価軸をご紹介しましたが、何よりもまずはじっくり20秒デザインを見てください。さらに手にとって15秒見てください。じっくり見るということ自体、デザインをつくり上げたデザイナーをリスペクトすることでもあるのです。プレゼンを受けることの目的は、次の有効な一手を探り、デザイナーのモチベーションを上げることです。デザイン案を絞り、修正の方向を明確にし、さあ、もうひと踏ん張りして、いいものをつくり上げようとチームを盛り上げることです。私のお勧めの方法はまず、最も良いと思うデザインを見つけ、なぜ良いと思ったのかを伝えることです。これによって緊張感のある場が和やかになりますし、その後の修正依頼も言いやすくなります。もちろんすべてがひどいデザイン案の場合は別ですが、そうでない場合はポジティブに盛り上げたほうがうまくいきます。駄目な理由を挙げたり、機械的にグルーピングしたりする人がいますが、まず自分が一番良いと思うものを褒めてみてください。デザインに正しい、間違いはありません。プレゼンテーションの受け方1つで、その後のデザインのブラッシュアップに大きく差が出ることもあるのです。

07修正のためのコミュニケーション修正の方法はデザイナーに任せて、ゴールを伝えるデザインの完成に向けて、何度かデザインの修正を行うことになりますが、デザイナーに修正の依頼をする際には3つのポイントに気をつけると、スムースになります。1.ベースデザインと、その選択理由を共有するまず、既に提案されているデザインのフィードバックをします。各案につき、どういう評価をしたのか、その上で、どの案をベースとするのかを伝えましょう。場合によっては、どの案も満足できるレベルでないこともあるかもしれません。そのときには、なぜそのような結論になったのかをデザイナーに理解してもらう必要があります。また、オリエンシートをデザイナーと一緒に見返し、達成できている部分、できていない部分を検証するのも有効な方法です。2.修正の手段ではなくゴールを伝える次に、ベースとなるデザイン案に対して修正を指示するわけですが、その際に、修正の手段ではなく目的・ゴールを伝えることが大事です。「ここの色を変えて」「このコピーをこっちに持ってきて」と言うのではなく、「もっと品質感を上げたい」「もっと健康に良いことを伝えたい」など、修正の目的を伝えるのです。そのほうが、デザイナーも修正のためのアイデアを幅広く考えることができます。ゴールが定まらないまま修正を進めると、何度も細かい修正を重ねた揚げ句、主張のない無難なデザインになってしまう恐れもあります。3.デザイナーと一緒に考える一方的に修正を指示するだけでなく、課題を解決するための相談をするというスタンスで、デザイナーと一緒に悩むことが有効なときもあります。デザイン案の課題や修正を言語化するのは難しい作業です。「何か違う」という感覚の原因を、デザイナーと一緒に考えてみるといいかもしれませんし、上司や社内から言われて悩んでいることを共有してもいいでしょう。ベテランデザイナーであれば、第3の解決方法を考えてくれることもあるかと思います。

08入稿時のポイント完成イメージの資料を用意して、早い段階で確認を入稿は印刷・加工に必要なデータと指示書を用意して、最終的にデザイナーから印刷や加工を行う会社に依頼するプロセスです。容器製造の場合には、早い段階から容器メーカーの担当者が加わり、完成形のイメージを共有しながら「型が抜けるか」「加工にかかるコスト」などを詰めていき、デザイナーがデータを修正していきます。しかし、印刷の場合は、データをメールで送って終わりといったケースもあり、実際に印刷されたものがデザイナーのイメージとは程遠いということがあります。入稿は完成度を高めてきたデザインが実際にどこまで理想に近い形で生産可能かを詰めていく最終段階です。ここをおろそかにすると決して良いデザインは完成しません。印刷会社の担当者とデザイナーがよく話をして完成形に近付けていく必要があります。入稿から下版までうまく進めるコツは、最終形が見えた段階でなるべく早く、デザイナーと印刷会社を引き合わせ、入稿前に打ち合わせをすることです。早めに行うことで、最終的にこうしたいというイメージと、それを実現するためのデータの調整などの準備を十分に行うことができます。仮に元のデータに不備があった場合でも、工程をさかのぼって調整することができるでしょう。早い段階でデザイナーと印刷会社との打ち合わせをすることで、こういった修正や加工に対応しやすくなるだけでなく、入稿データ・指示素材のミスを回避することもできます。また、デザイナーと印刷会社との打ち合わせや立ち会いの際には、必ずクライアントも同席することが望ましいです。それぞれの立場での最適解が異なる場合があり、最終的に発注者であるクライアントが判断しなければならないケースもよくあります。

 

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