
《人財育成はなぜ必要なのか》について
まず、本書のメインテーマについて、もう一度、確認しましょう。ここは第1章と第2章の振り返りとなります。
01いい店舗の条件とは?
商品だけでなく、店の清潔感や、良いチームワークが醸し出す雰囲気など、トータルでお客様に好印象を与えることです。それらを支えるのは、店舗スタッフの人間性と人間関係。つまり、人の力が問われるのです。
02どうして教育は大事なのでしょうか?
多くの人が、自分が成長できる場所(会社)で働きたい、と考えます。労働環境が良く、いい教育をして人が育つ場所(会社)には多くの人が集まりますし、簡単には辞めない、ということになります。
03人を育成するために、企業がしなければならないのはどのようなことでしょうか?
「基準を示す」「教える」「要求する」「評価する」、このグローイング・サイクルをきっちり回すことができる「仕組み」を作ることです。
04どうすれば人財が定着するでしょうか?
「労働環境」を整え「教育」し「評価」する。この3本の柱で人は定着します。また、この3本柱は採用にも大きく影響します。
05働く人のモチベーションを上げるためには、どうすればいいでしょうか?
頑張った分の見返りを与えることです。「今、この仕事を頑張れば、次の評価がこのように上がる」とわかれば、働く人のモチベーションは上がり、成長を促します。
06若手にやる気が見えません。どうすればいいでしょうか?
当人に成長意欲がないのではなく、それを引き出していない、ということではないでしょうか。そういう視点を持てば、成長意欲を刺激するような何らかのアクションが生まれてくるはずです。本人のせいにしているままでは、永久に何も生まれません。
07現場で一生懸命仕事を教えているつもりですが、なかなか若手が伸びません。
その人に「どうなってほしいか」「どういうことができるようになってほしいか」、それをまず会社で決めることです。正社員でもアルバイトでも、入社からステップごとのゴール設定を決め、周囲がそれをサポートしていくというように、仕組み化することが必要です。ゴール設定と同時に、「要求する」ことも、育成のカギとなります。つまり、教えたことをちゃんと実践してもらう、ということです。
08人によって教え方にばらつきがあります。
ゴールを明確にして共有し、現場マネージャーや先輩社員の考え方だけに任せないことです。教育が属人的になるのは、個別の上司の力量に任せっぱなしにしているからです。
09育成の基準は、どのように決めればいいのでしょうか?
基準を明確にするには、それぞれの業務について、やっている内容、どうなってほしいかを書き出していきます。あるいは、最も優秀な店長の行動から、「こうなってほしい」という項目をピックアップして、それを基準とする方法もあります。
10育成の手法は、OJTだけでいいのではないでしょうか?
OJTは、現場で学べる利点は大きいものの、教えて終わり、となりがちなところがあります。現場で実施するものだからこそ、OJTリーダーである上司・先輩にすべてが委ねられてしまい、放置されてしまいがちなのです。また、ヒューマン・スキルなど、OJTでは教えることが難しいテーマもあります。集合研修でないと学べないこと、集合研修だからこそ学習効果の高いものがあります。
11集合研修をしても、それが業務に活かされていない気がします。
現場において上司や先輩が、教えたことを実行に移すことを要求し、「やらない/できない」ことを見過ごさない、ことが大事です。言い換えれば、「後追い」をしっかり実行することです。後追いをするためには、上司が、部下が受ける研修の中身を知っている必要があります。
《言葉がけ》について対部下、ないし同僚間でのコミュニケーションにおける最適な方法について、またスタッフの採用手法について、具体的なポイントをまとめます。
12気持ちのいい挨拶をするコツは?
相手の目を見て笑顔で。
13いい仕事をしたときの褒め方は?
具体的に褒める。大げさではなく自然な言い方をします。
14ルールに反したときの叱り方は?
問題行動を具体的に指摘します。その行動が本人以外にもたらす良くない結果を知らせせ、今後どのような行動をとってほしいかを伝えます。
15外国人スタッフのやる気を高める言葉は?
言葉は国々によって捉え方が違います。カルチャー・アイスバーグの理解や文化の違いから常識が異なることを認識した上でコミュニケーションをとり、相手に最も伝わりやすい言葉でやる気を向上させるといいでしょう。*1カルチャー・アイスバーグ:文化を「氷山」にたとえ、見たり触れたりできる部分(見える文化)と、その根底にある抽象的な部分(見えない文化)があるとする考え方。
16適切な応募者を見抜くための面接の仕方は?
求める「コンピテンシー」(採用基準)を明確にし、質問スキルを身につけた面接官に面接させることです。
17ここで働きたいと思わせる面接の仕方は?
リラックスできる雰囲気作りをし、仕事の内容や条件を丁寧に説明します。経歴だけではなく、人柄を見ることも大事です。
18スタッフの「やりがい」を見きわめるための質問は?
どんな仕事をするときが楽しいかをヒアリングします。また、将来どのような人になりたいのかを聞きます。
19仕事の悩みや不安を吸い上げるときの言葉がけは?
困ったときに相談できる環境を作り、積極的に話しかけます。本音を話してもらえるように、信頼関係を築くことが大事です。
20ミスを振り返らせるときの面談の仕方は?
ミスの内容・原因について本人から話をさせます。他人のせいにするような発言がある場合は、自身に非がないかを考えさせるように促します。ミスを防ぐために、次はどうするかを考え、発言させることも大事です。
21成長したことを効果的に伝える言葉は?
具体的な事実をフィードバックしましょう。
22会社や店の理念を上手に伝えるためには?
理念研修や、普段のコミュニケーションの言葉の中に織り込んで伝えます。
《職場作り》について
第1章と第2章の内容をふまえ、やや応用編としてのポイントをまとめます。
23部下のモチベーションを高める上司の特徴は?
正しく評価し、正しくアドバイスし、褒めてくれる人です。
24和気あいあいとした雰囲気を作るには?
働く人の多様性を、みんなが受け入れ、小さなことでも「認め合う」習慣を作ることです。相手の良いところを認め、それを相手にきちんと伝えることが大事です。
25店長がいなくても回る職場を作るには?
権限委譲を積極的に行い、時間帯責任者を育成しましょう。
26アルバイト・パートから評価される店長の共通点は?
率先垂範ができることです。話を聞き、きちんと指導やアドバイスができることも大事です。
27アルバイト・パートの接客力を高める方法は?
店(会社)が、どこまで求めているかを認識してもらうために、手本を示すことが必要です。基準を示す動画を作成することも効果的です。また、成長の過程では、褒めることを優先させます。
28クリンリネスの意識を高める方法は?
QSCのチェックリストを作成し、店舗社員の評価に直結させることです。
29年配者や主婦、外国人など多様なアルバイト・パートが「仲間意識」を醸成するには?
店長がリーダーシップを発揮し、メンバーに同じ目標を持たせることです。仕事の目標に、働く人の属性は関係ありません。言い訳にしないで多様性を活かす工夫をしましょう。そして、目標を達成した際の、チームへのご褒美を決めてください。
30アルバイト・パートへの適切な注意の仕方は?
信頼関係を醸成する努力をした上で、ティーチングだけでなくコーチング、カウンセリングの手法をふまえた声がけをしましょう。
《店長育成》について第3章の内容の振り返りです。サービス業にとってきわめて重要な、店長育成の原則について確認しましょう。
31店長育成の大原則は?
店長を育成する役割を持つエリアマネージャーとの接点が少ないことが、店長育成の最大の難しさです。上司が接する時間が短くても育成していける仕組みを作る必要があります。
32どんな仕組み作りが必要ですか?
例えば、一人の社員が入社したときから店長育成を始めることです。新入社員には、ただ目先の業務を教えるだけでなく、何年かのちに店長に昇格させることを前提としてトレーニングします。新入社員を2年で店長にする、などとゴールを決めて、例えば、入社半年でアルバイトのシフトを組むことを教えて、人件費を勘案しながら、サービス・レベルが低下せず、お客様に迷惑にならないような組み方を半年間させることなどがお勧めできます。
33エリアマネージャーが多忙で、店長が孤独に陥りがちです。
エリア単位で、エリアマネージャーが主催する店長会議は有効です。これは数人の集まりでも構いません。優れたエリアマネージャーは、優秀な店長を利用して、他の店長にいい影響を与えます。同時に、店長会議は店舗スタッフには話しにくい疑問や悩みを打ち明ける場にもなり、話をすることで孤独に落ち込まずに済むという大きな利点があります。
34店長が成長するために、有効な指導法はありますか?
最低でも半年に一回、エリアマネージャーが店長と評価面談をして、良かった点、いま一つだった点をしっかり表面化させ、次期の課題について話し合うことはとても役に立ちます。次に評価を上げるためにどうするかを上司とディスカッションするような習慣ができれば、店長は必ず成長するでしょう。
《評価制度》について
最後は第4章の振り返りです。教育と評価が人財育成の両輪、というのが本書の主張。「評価制度」について、しっかりご理解いただければと思います。
35評価制度は、なぜ重要なのですか?
評価制度は人財育成のためにあります。①社員に成長してもらうこと、②仕事にやりがいを持ってもらうこと、③長く働きたいと思ってもらうこと、この3点が目的であり、重要なポイントです。
36評価制度があるのですが、うまく機能しません。
つまずきのポイントは共通しており、それは5つに集約できます。特に問題なのは、「評価者教育をしていない」ことです。これを放置していては、人財育成という目的を達することはできません。
37部下へのフィードバックについて、マネージャー間でばらつきがあります。
評価を伝えることは必須ですが、人財育成を目的とするなら「次はどうするか」を話し合って決めることが欠かせません。それには、研修によってコーチングのスキルを身につける必要があります。また「評価会議」を実施すれば、他の評価者の発表から気づきを得て、ひいては会社全体の評価のレベル感が合うようになります。
38業績だけで評価すればいいのではないでしょうか?
人財育成を目的とするなら、業績という結果だけではなく、それに至るプロセスでどのような行動をとったかを評価するべきです。業績はすごく上げるけれど人間力が低い、というタイプが要職を占めるようなことがあれば、企業にとってはリスク要因になります。
39評価にどうしても「甘い/辛い」が出てしまいます。
人が人を評価するのですから、主観によって左右されることは避けられません。それを避けるには「評価会議」によって目線合わせをすることが有効です。
COLUMN6バイトテロを防ぐための育成とマネジメント
コンビニエンスストアや外食店での、アルバイトのSNS不適切投稿が世間を騒がせました。
この、いわゆる「バイトテロ」は、企業全体が世間から指弾され、中には閉店に追い込まれる事例もあるなど、サービス業にとっては放置できない問題です。
世間の常識を知らない若者たちを批判する向きが多いですが、それよりSNSが普及したことによって情報発信のツールが多種多様になったからこそ発生している問題だと捉えるべきでしょう。
グローイング・アカデミーにも、パート・アルバイトや新入社員向けの講座の中でSNSの不適切投稿によるリスクについて、過去の投稿事例をふまえながら伝えている講座があります。
以前と比較するとSNS投稿に関しての社内喚起をする企業は多くなっていますが、今一度内容を見返し、再度発信を行わなければならない時期が訪れていると思います。
最善の対応は、アルバイトへの教育と、店長への教育です。
アルバイトに対しては、入社時のオリエンテーションでSNSの投稿ルールに関して伝えるようにします。
「バイトテロ」の多くは大した悪気はなく、面白半分にやってしまうようです。
そこで、SNSの特性、会社としてのリスク、個人にはどのような処罰があるのかを徹底的に教え込みます。
SNSでの炎上は企業も大きなダメージを受けますが、実は個人が受けるダメージのほうが大きいのです。
店に大きな被害が出る、会社が多大な迷惑を被るという話ばかりでは、相手もきちんと理解できないかもしれません。
それよりも、個人に対するダメージは「軽い気持ちでやった」ことへの対価としてはまったく割に合わないことを理解させることが大切です。
多額の賠償責任を負う可能性、その後の人生に多大なマイナスのダメージを与えることを認識させるべきです。
また、オリエンテーションだけで終わらせるのではなく、定期的な注意喚起は必要です。
一方、店長に対しては、まず日々のコミュニケーションをしっかりとることと、アルバイトの勤務状態を観察するように伝えます。
不適切な行動をしてしまう理由は、仕事が面白くないことや手が空く時間があること、職場に不満があるということがほとんどです。
ですから、店長がアルバイトに対して意識を向けることで気づくことがあるはずです。
そのアルバイトが店長との信頼関係があり、会社やお店のことが好きなのであれば、店長や店舗に迷惑をかけるような行為は起こりません。
さらに店長に対しては、それでも不適切投稿が発覚した場合にどのような対処を行うのかを教育します。
不適切投稿に気づいたら、まずは投稿した本人にアカウントや投稿の削除を要求すること。
一方で、店長自身が上司に報告するタイミングや手段を伝えることが必要です。
一人で問題を抱え込むのではなく、炎上が大きくなるようなら、それ以後の対応はすべて会社に任せた方が賢明です。
SNSには、言うまでもなく会社や店舗のPRに活用できるというメリットもあります。
ですから、禁止するのではなく、前向きな活用法について、みんなで検討してはどうでしょうか。
会社としてのアカウントを立ち上げ、ルールを明確化した上でアルバイトに協力をしてもらうと大きな効果を出せるかもしれません。
それが店のプラスにもなる、という理解を共有できれば、その同じツールを良からぬことに使用する、という発想は生まれなくなるのではないでしょうか。
おわりに
あらゆる企業にとって大事な人財育成について、ただ研修を実施するだけではなく、それらを仕組み化して、教育と同時に評価をきちんとすることで、人は必ず成長します。
そんな本書のテーマについて、ご理解いただけたならたいへん嬉しく思います。
元々、飲食業でずっと働いていくつもりだった私ですが、BCホールディングスグループ代表の笠井大祐氏から、サービス業に特化した教育事業をやろう、と声をかけられ、「サービス業の未来を変える」そして「サービス業で働く人々を輝かせる」ために、2012年4月、ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立し、8年経ちました。
おかげさまで多くの企業の育成に関わることができ、会社自体も大きく成長してきました。
同時に、企業にとって「働く人」についての苦悩が深まり、経営課題としての重要度はますます高くなってきました。
本書のベースは、私自身のマクドナルド、ユニクロでの経験ではありますが、この8年の間に、新たに学んだことも少なくありませんでした。
会社の創業時に、私は55歳でしたが、そこからさらに知見が深まり、考え方の幅も広がったという実感があります。
そんな基本的な考え方と、新しい経験に基づく知見を、しっかり形に残したい。
それが本書を執筆する動機でした。
一方では、長年働いてきたサービス業に対して、少しでも役に立ちたい、何かを残したいという思いもありました。
現場で奮闘を続ける、多くの後輩のみなさんに、気づきがあるのであれば、これほど幸せなことはありません。
本書にも書いた通り、今、「働き方改革」によって、サービス業の現場もさまざまなレベルで変化を迫られています。
「育成は大事」ということは重々理解しつつも、物理的に時間と労力を割きにくくなっている企業も少なくないでしょう。
ただ、それでも人財育成の重要性は変わることはありませんし、時代の変化に対応する中で、ますます重要になっているとも言えるでしょう。
そのような状況にあって、私は本書で繰り返し申し上げてきた「仕組み化」によって、最大の育成効果を上げていただきたいと考えています。
私自身は、現場で厳しく育てられてきた経験を尊いものと感じていますし、それがあったからこそ今がある、とも感じています。
ただ、言うまでもありませんが、昔は昔。
それと同じことを繰り返すのが正しいわけではありませんし、今という時代に合わせた最適な育成手法が必要なのだと思います。
その意味では、本書に書いたさまざまな手法も、さらにバージョンアップさせていかなければならないはずです。
本書を一つのきっかけにして、また多くの方々と意見交換をしながら、私自身もよりよい手法を追っていきたいと思います。
最後になりますが、忙しい時間を割いてインタビューに応じていただいたNATTYS
WANKYの田中竜也副社長、あさひの下田佳史社長、三州ペイントの八藤丸貴実社長に心から感謝いたします。
また、本書の執筆にあたっては、ライターの間杉俊彦さん、㈱ベンチャー広報の三上毅一さんにご協力いただきました。
編集を担当していただいたダイヤモンド社人材開発編集部の小川敦行さん、大坪稚子さんにも合わせて感謝いたします。
米国マクドナルドの創設者レイ・クロックの「未熟であれば成長する。
熟してしまえば腐り始める」(Aslongasyou’regreenyou’regrowing,assoonasyou’reripeyoustarttorot.)という言葉を胸に、サービス業の未来を変えていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
2020年3月ホスピタリティ&グローイング・ジャパン代表取締役社長有本均
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