第五章どう行うのか?(5つのマインドセット)
「言う方も、言われる方もやりたくない」ネガティブフィードバック。
そのハードルを乗り越えて効果的に実行するためには、実施する側のスキルセット以上にマインドセットが重要です。
お互いにストレスフルなコミュニケーションなので、感情のコントロールや気持ちの整理をしておかないと、感情的な議論になり、泥沼化することもあります。
この章では、落ち着いて効果的にフィードバックするためのマインドセットを5つ紹介します。
51【嫌われることを覚悟する】
相手にとって耳に痛いことを伝えるので、当然ながら喜ばれません。
脳の動きとして、「自分の安全や現状を脅かす情報」や「コンフォートゾーンから引き剥がそうとする他人」には闘争心か逃走心を抱くのが普通です。
「相当の確率で(少なくとも短期的には)嫌われる」ことを前提に行いましょう。
コンサルティング現場では「嫌われたり波風を立てずに済ませたい」という人事や上司の本音が見え隠れします。
共同体に不協和や摩擦を生じさせたくないのは社会的動物としての本能だと思いますが、その不協和を起こさない限り相手は変わりません。
※言わなくても変化できる人なら、とっくの昔に改善しているはずです。
「嫌われようが煙たがられようが、組織や本人のために必要なことを伝える」「短期的に恨まれたとしても、中長期では必ず理解してくれる」という覚悟が出来てから、ネガティブフィードバックは行いましょう。
•その際に「課題の分離(自分の課題と相手の課題)」という考え方を持つと、嫌われることが過剰に気にならなくなります。
課題の分離は、『嫌われる勇気(岸見一郎著ダイヤモンド社)』で紹介されている「アドラー心理学」の考え方です。
「伝えるか伝えないか」は、自分の課題(自分が選べる)「伝えられて何を感じて行動するか」は、相手の課題(自分が選べない)と考え、自分の行動と選択にフォーカスします。「相手がどう感じるか」「どう行動するか」は、コントロールできません。
必要だと思ったことを真摯に伝えたら、結果(相手がどう受け止めるか)は相手の課題として分離しましょう。
52【期待するが期待しない】
ネガティブフィードバックは「相手の改善や変化に期待する」行為です。ただし、伝え方を間違えると、自主性ややる気を奪う可能性もあります。
出来れば、ポジティブフィードバック(良い点を誉める)またはナッジ(nudge:ひじで小突く)程度のアプローチで「本人が自発的に問題に気付き、行動変容する」ことが現実問題としても動機づけ理論としても理想です。
「最初は自律的な気付きと改善に期待し、それで難しい場合はネガティブフィードバックを行う」意を決してネガティブフィードバックを行う側の反応で起こりがちなのは、「なんで(私が)こんなに一生懸命伝えたのに、(私の言う通り)行動してくれないのか」「なんで(私の言うことを)分かってくれないのか?」という不満です。
「相手に期待(信頼)して、改善を願いフィードバックを行う(自分の課題)」「自分が伝えた通り行動することは期待しない(相手の課題)」行動しないことも本人の自由意思であり、その結果責任も本人が背負います。
前項で紹介した「課題の分離」を行いましょう。
相手の自由意思と責任を尊重せず、面談者のゴールへ100%誘導したり説得したりする姿勢は反発や面従腹背を招く可能性が高くなります。
成功体験が多い管理職ほど「自分の意見は正しい(相手は間違っている)」「この解決策を実行すべき(他の解決策は劣っている)」と考えがちです。
ある程度のバッファ(余裕)や流動性も持って臨み、一方的な「説得」ではなく双方が「納得」できる着地点を探すのが良いでしょう。
53【感情をこめるが感情的にならない】
フィードバックは、小手先の手練手管以上に「日頃の信頼関係」と「伝える側の姿勢」が重要です。
「この人は、真剣に自分のことを考えてくれている」「耳に痛いことだが、言っていることは正しい」「いつも職務に誠実で、組織や自分に向き合う姿勢に嘘はない」という面談者の姿勢や誠意が伝わると、すぐに変化や改善はしないまでも「自分も真剣に聴こう」という状態までは持っていけます。
「言われている事実は嫌だが、言っている人と気持ちは信頼している」という状態は、ある意味理想です。
「言い方がスムーズか」「説明が上手か」より、しっかり「相手軸の感情(改善への願い、信頼、期待)を込める」ことが重要です。
ただし、「自分軸の感情(部下への怒り、面倒くさい、やりたくない、こうすべき)」や「誠意の押し付け」が滲み出ると相手に伝わります。
一方、理論的な上司がやりがちなエラーは、「機械のように冷静で矛盾も無いが、相手のことを1ミリも考えていない」自分の都合(目標達成、組織の論理、自己保身など)だけで行う無感情なフィードバックです。
※こうした根本感情や基本姿勢はかなりの確率で部下に伝わります。
「この上司は、自分のことは何も考えてくれない」「この人とは話しても無駄だ」と思われ、弁護士沙汰になったケースも見ています。
「説明は下手で流暢ではないが、日頃の関係も含めて本気で部下の成長や変化を願うフィードバック」は、初期や途中で揉めても、最終的には何かしら着地や合意を得られます。
■相手の耳に痛いことを伝えるので、当然ながら反発や挑発やけんか腰の対応もあり得ますが、そこでけんか腰になると泥沼化します。
伝える側としては、アンガーマネジメント/マインドフルネス/傾聴等の技術を学んで、落ち着いた精神状態で対応することが求められます。
54【真剣に職務に取り組む】
ネガティブフィードバックが相手に受容されるには「この人に言われたら仕方ない」と思えることも大きな要因です。上司自身が怠慢な仕事ぶりなのに、部下の怠慢を指摘しても納得できません。
「お前が言うな」「お前はどうだ」というブーメランを食わないように、平素から自分の職務に誠意を尽くしましょう。
ただし、業務が細分化・複雑化している現在、上司が部下より担当業務の知識・スキルが少なくても問題ありません。「上司としての職務・役割」を真剣に全うしているかが重要です。
「自他ともに厳しく明確な基準を持っている」「きちんと自分を律している」「誰に対しても分け隔てがない」「間違っていることには、上司や顧客との対立も恐れない」という仕事ぶりであれば、言うことの重みが違ってきます。
「自分はそこまで出来ていない」と感じるのであれば、今からでも仕事への姿勢を見直してみましょう。
経営者や管理職として人や組織を統べる立場であれば、自分の仕事ぶりが自他に恥じないものかは常に問い続けることをお勧めします。「自分のことは棚に上げて、部下にだけ高い要求をする」ことは卑怯です。
55【自分で決める】
「本当はやりたくないけど、仕方ない」「俺はこんなこと言いたくないけど、経営の指示で言っている」「私は思っていないけど、周囲の不満が出ているから」など、フィードバックの際に言い訳したくなる心理も理解できます。
誰かの責任にすることで、「相手の恨みを回避したい」「自分は悪くない」「発言の責任は自分にない」という心理的防衛が出来て少し楽になります。
ただ、言われた側はその言い訳に納得するでしょうか?「では、あなたはどう思ってるんですか?」と聞きたくなります。
•「自分の意思で伝えたいと思わないことは、失礼なので伝えない」ネガティブフィードバックで相手に即感謝されることは滅多にありません。
(相手がよほど成熟していれば別ですが、そうした人はそもそもネガティブフィードバックをする必要がありません)一時的には、相手と対立したり、不愉快な空気が流れたり、反発されたりすることは覚悟する必要があります。
「嫌われても、本人のために言っておいてあげたい」「組織が成果を出すには、この言動はどうしても変えてもらいたい」「自分の信条として、こうした状況を黙認できない」など、自分の意思・目的をもって「フィードバックするか・しないか」を選択することをお勧めします。
抜いた刀は戻せません。厳しいメッセージを発するからには、多少の反発で意見を引っ込める優柔不断さは厳禁です。覚悟をもって、自分でフィードバックという刀を「抜くか・抜かないか」を選びましょう。
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