第1章良いフィードバックのための基本
とにかく「成長」にフォーカス、「評価」ではない
成長マインドセットでフィードバックに挑むフィードバックと聞くと、年末の評価面談を思い出す人も多いでしょう。あまり良い気分で臨む人はいませんよね。
それはその手のフィードバックの場が大抵、机の向こう側とこちら側で、「攻勢」と「防衛」に分かれるからです。
フィードバックを与えるほうは「取るべき行動」に焦点を当てます。このため「取るべきでなかった行為」についての指摘を行うことになります。
受けるほうはそれに対し、「なぜ、そう思われたのか?」「この間違った行為は私の評価のどの部分に影響を及ぼすのか?」「どのように現認識を和らげられるのか?」などに注意が向き、実際の会話に集中できていない場合が多いです。
自分の守りに一所懸命で、できる限りの火消しをしたがるため、いつも、「はい、はい、そうですね」で終わってしまい、おまけに、そうでない部分まで認めてしまいます。
ここで、一つ私が考えるマッキンゼーとその他のファームや企業との違いをご紹介したいと思います。
実は私がいたマッキンゼーでは「評価」と「成長(育成)」の場は明確に分かれていました。
アップorアウトで知られる厳しい職場の実態評価の場として年末に面談が設けられるのですが、6カ月ごとに1回レーティングをもらった上で、年末に次年の給与とボーナスにつながる話をします。
そのとき、手渡されるレターには、割とざっくりフィードバックの総まとめ的なテーマが2~3つ並び、翌年の期待などが書かれ、約1・5ページで完結。
それを上司と一緒に読み返し、「Anyquestion?」(何か質問ありますか?)と聞かれるだけです。
あとは、その内容を家へ帰ってから、ゆっくりお風呂にでも入りながら、自分がこれまでもらってきたフィードバックと照らし合わせたりしていました。
一方、これとは別に、成長のための機会は非常に多く設けられていました。
成長の場はプロジェクト後の都度マネージャーやパートナーと行われるフォーマルなフィードバック、さらに自分の成長を見守ってくれるメンターのようなデベロップメントリーダーとのやりとり、同時にそれだけでなく、プロジェクト中にも随時、インフォーマルなフィードバックが存在していました。
そこでは、どうすればもっとうまくできるようになるのか、上司が一緒に原因を考え、的確にアドバイスをしてくれます。
もちろん、頻繁に行われたトレーニング中も成長のために様々学びましたが、実際は「仕事の中で育つ」というのが暗黙の了解でした。その結果、コンサルタントはこう考えるようになるのだと思います。
「このファームは私の成長を非常に重視してくれている」と。ただ、プロジェクトをこなし、裁かれ、去っていくのではない、と。
アップorアウト(昇進できないものは去れ)で知られるだけに不思議に思われる方もいるかもしれませんが、決して評価や批評重視で強制的に人を育てていたのではありません。
むしろ、その逆だったような気もします。結果、若手は急速に成長していくのです。
成長対評価フィードバックの違いでは、なぜ成長フォーカスフィードバックのほうが重要で、かつ効果的なのでしょうか?その特性を、いくつかの軸でまとめたので、次の表をご覧ください。
ここでお伝えしたいのが、そもそもフィードバックを行う上で、あなたが、そしてあなたのチームや同僚がそれをどう捉えているかによって、その効果が大きく変わってくるということなのです。
成長にフォーカスするフィードバックというのは、マインドセットが違います。簡単に言うと、「未来形」であり、聞き手のためにカスタマイズされたニュアンスがあり、具体的な例や方法を豊富に用います。
逆に評価フォーカスは「過去形」で、他者との比較重視で言わば、その聞き手のためというより、伝え手のためにあるような気がします。
これからご紹介するフィードバックスキルは即ち、前者、成長に向けたフィードバックというのを覚えておいてください。
もしかしたらこれまで慣れ親しんできた評価のためだけのフィードバックを一旦引き出しの中にしまってもらい、一緒にプロアクティブなフィードバックの手法を考えていきましょう。
序章で述べましたが、この本のフィードバックの定義は「特定のプロセスや行動による結果に対して、向上を目的とした情報の伝達」です。キーワードは「結果」と「向上」です。
これをマスターしていただければ、今後はあなたもフィードバックを行うことがより容易で、身近に感じられることになると思います。
「成長」フィードバックで組織の業績も上がる
現場リーダーの努力だけでは限界があるフィードバックの「結果」について議論されることが多々あります。
もちろん個人の成長ということも指しますが、この結果は大局的な業績や組織の向上、付加価値の創出へとつながっていかなくては意味がありません。
フィードバックを成功させるためには、組織の中のシステムとフローについても考える必要があります。
どんな組織でも、一度や二度フィードバックされたことがすんなりと解消、改善されるなんて話は稀です。
いくら優秀でも現場リーダーの努力だけでは、限界があるのです。
企業一丸となってフィードバックを根づかせていくためにも、「システム」を作り、それを組織に浸透させるために水が流れるような「フロー」を作る必要があります。
ネガティブなカルチャーを取り除くには?ある大手製薬会社の事例で、その過程を見てみましょう。
まず、課題から入ります。この会社のフィードバックの課題は次の通りでした。
・評価シートは存在するものの、デベロップメント(成長)へのフィードバックがない・デベロップメントの計画書に対して、いつ、誰が、何をベースにインプットをし、それを計測するのかのシステムがない
・バラバラの個別フィードバックが行われ、それをまとめて議論する場がない
・しかし、CEOからしてみると、次世代幹部候補は育っておらず、フィードバックの仕組みが形式立っていないことに不安を抱いているそこでCEOはトップダウンでそれを変えようと思い立ちました。
その製薬会社のCEOは欧州系の方で若くにして、才に恵まれ、日本の支社長を任されていました。
私は現状理解ということでまず、米系のプロフェッショナルファームと一緒に360度サーベイを実施しようとしました。
マネージャーがリーダーシップを発揮する上で、特定分野を絞るためにも有効なサーベイだと判断したからです。
しかし、それに対しクライアント担当の答えは、「360度のサーベイはしたくない」。
理由を聞くと、360度サーベイ(のようなもの)をすると、マネージャーが、デモチ(意欲低下)してしまうからなのだそうです。
その企業には既に周りからのフィードバックを批評・批判と捉えるネガティブなフィードバックカルチャーが根づいていたのです。
その背景として、社内では評価シートが幅広く使われている一方、デベロップメントプランは言わば個人的に「興味がある人だけ書いてみてもよい」のような位置づけで、書き方のマニュアルや模範例なども用意されていませんでした。
それを書き終えたところで誰かに見てもらい、上司と相談するような場もなく、あまり時間を割きたくなるものではありません。
組織ぐるみでシステムとフローを整えるそこで、コミュニケーションチームと一緒になってまずフィードバックの重要性とデベロップメントプランの手解きをすることにして、CEOのトップダウンビデオを作成。
主に、成長が重要であるというメッセージを流し、シニアリーダーたちをはじめ皆、部下に対し、1on1の面談も設けるようにしました。
もちろん、議論に必要な質問項目や過去に書かれた模範的な回答例を作成し、各自にブックレットとして配布しました。
360度サーベイの結果が数週間後に入り、それを皮切りに専門家を入れ、強みを伸ばす方法と大切さを各マネージャーと幹部に直接指導しました。
その結果、フィードバックが頻繁に行われるようになり、コンピテンシーモデルなども作成され、その会社はその年度末には業界での順位を過去最高のランクまで上げることができたのです。
このクライアントの成功要因はいったい何だったのでしょうか?それはフィードバックカルチャーというものを目指したことによるものだと思います。
最終的にフィードバックが組織の骨格を担うまでに至ると、これをフィードバックカルチャーと呼び、各自が自然にお互いの成長へ関与することになります。
この会社ではもともとパフォーマンスを重視するカルチャーが確立していました。
そこに個人を通じてフィードバックを行うことになり、斜め上の成長への道しるべを示すことで成長意欲が増し、それが、一段上のパフォーマンスへとつながったのだと思います。
良いフィードバックのための基本
3つのポイントを意識するフィードバックの目的は、人や組織の成長、ひいては仕事の成果、業績を高めていくことです。
マッキンゼーでの出会いで気づかされたフィードバックの大切さ、その原点となる構図を手早くご紹介したいと思います。
まず、ピープルファーストでないと、フィードバックというのは成り立ちません。
次に、インパクトドリブンでないとフィードバックの優劣はつけられません。
そして、フィードバックをしている際、全神経を研ぎ澄ませて「その場感」を出すマインドフルネスが必要になります。
こうして初めて、仕事に効くフィードバックができる人になっていくのです。簡単な方程式に書き出すと、(ピープル+インパクト)×マインドフルネス=良いフィードバックになります。
それぞれ、順に見ていきましょう。
1ピープルファーストで考察する
ピープル軸で考えない人(ロジック、コンテンツ重視だけ)はフィードバックスキルという概念を断片的に捉える傾向があり、中長期的には失敗してしまいます。
例えば、最近こんな悩みを聞きました。ある製造会社の課長クラスで10数名のチームを率いる人がいました。
その課長さんは、チームにいる30代後半の部下がどんなフィードバックにもうんと言わないし、少し大げさかもしれませんが言われたことの10分の1も覚えていない、と嘆いていました。
あるとき、今後お客さんに必要な提案のアプローチとロジックを考えてきてくれと彼に頼みました。
そこで彼は、丹念に時間をかけ、自己流で提案書を作成。ただ、求めているクオリティには程遠く、変更はやむを得ません。
しかし、彼は、自分のやり方に非常に満足しているようで、修正を固辞し、妥協しません。最終的にその課長さんは、「私が言っているやり方が正しいのだ!」と強引に押し切ってしまったそうです。その部下はその後しばらく一言も発しませんでした。
課長さんは、自身の言動を反省していたのですが、さて、あなたならどのようにして、こんな部下を説得しますか?ピープル軸で考える人は、フィードバックの伝え方にも気をつけますが、もっと根本的な「人と人」とのつながりを考えます。
このケースの場合、実は、「別の人を間に入れて、フィードバックを行う」が正解の一部になりますが、要は、そこまで機転を利かせて考えていることが重要なポイントです。
戦略コンサルティング・ファームではこのピープルファースト軸という心構えがクライアントファーストと同レベルに置かれていました。
そのため、精巧な性格診断テストや感情知性を計るテストに沿ったトレーニングなども実施し、「一人ひとりの属性に対する接し方」などは当たり前のようにフィードバックをするときに考慮します。
具体的には、叱咤タイプvs.激励タイプ、または、議論派vs.一人派、外向的vs.内向的、感性派vs.論理派、結論から入るvs.過程を重んじる、など様々なカテゴリーが存在していました。
そこには相手とまず「Connectbeforeyoucommunicate(伝える前に心を通わせる)」の概念が含まれ、肝心なフィードバックの前提としてつながりや相互理解が重視されていました。
フィードバックを考察する上でこのピープル軸は重要なのですが、一言で言い表すにはなかなか難しいかもしれません。
その範囲に含まれる、いくつかのキーワードをあえて挙げるとすると、ピープルファーストとは、・相手の立場・共感力・信頼性・思いやり・誠実性・清廉潔白な・親密感溢れる・偏見のないなどを表す、とここではまず認識してください。
2インパクトドリブンで効果を最大化する
インパクトドリブンとは、簡単に言うと優先順位づけができ、良い決断ができることを指します。
例えば以前、私が大人数のプロジェクトを指揮していたときのことです。朝のチェックイン会議(定例)でその日にやるべき活動とあるべき成果を確認するのですが、どうも大人数なので通常の時間枠を超過してしまいます。
原因はこの会議で議論すべき対象ではない、ミスに対する問題解決などが行われてしまうことでした。
そこでこの会議では厳しく「どのようにやる」(HOW関連)の部分を排除することに決めて、それをメンバーにフィードバックしました。
すると、徐々に会議体がギュギュッと詰まった形に整ってきて、1週間でチームのコミュニケーションが円滑になるばかりでなく、他の日々のオペレーションミスなども軽減したのです。
インパクトドリブンとは「良い決断」をする。フィードバックを行う際、どのフィードバックが大切か、優劣をつけ、3つに絞るなどが基本です。
ただし、それだけでなく、相手がわかるように説明し、腹落ちできる内容で根拠を作り、そして、次にどうしたらよいかを明確に言い切ることが大事です。
それは的確なアドバイスを与えるでもよいですし、いついつまでに答えやアクションをメールしてくれでもよいのです。
そして最終的にフォローアップを事前に決めたタイミングで行います。
このインパクトドリブンを追求できる形式立った手法が第2章で深堀りする「フィードバックループ」になります。
その範囲に含まれる、いくつかのキーワードをここでは挙げておきます。
インパクトドリブンとは、
・リアル(実現性)
・ロジカル
・真髄に徹した整合性
・シンセシス(統一された)
・優先順位・的確な判断などを表す
と認識してください。
3マインドフルネスで「その場感」を出す
昨今、ヨガであったり、ピラティスであったり、瞑想であったりが大人気です。
私の妻も近所のヨガスタジオとオンラインのヨガプログラムの両方をえらく気に入っております。
最近は、私もこの仏教の教えに従い、少しでも現在に集中しようと坐禅を試みています。
このすべての象徴ともいえる言葉がマインドフルネスという概念で、カバット=ジン氏のプログラム開発を発端に現在の知名度に至るまで広まったとされています。
マインドフルネスとは「我、ここにあり」の意味を含み、今現在起こっている状況や物事に100%の注意を向けるプロセスのことを指します。
リーダーシップ力が高い人ほどこのマインドフルネスが優れており、我々もそういう人の前ではその温かい空気に包まれたような状態に陥ります。
私の友人でニューヨークのトップローファームで国際企業弁護士をしている、ハーバード大学ロースクール卒の凄腕リーダーがいます。
彼にフィードバックを求めることがあるのですが、このマインドフルネスとわかる特徴を備えているのをひしひしと感じます。
第一に、彼はリスニング力に非常に秀でており、私が問題を説明しているときに決して割って入ったりしません。沈黙した状態で最後まで待ってくれます。
「そうそう、あなたが言いたいのはこういうことね」と軽く私の意見を端折ったりしません。
次に、質問に対し、一言一句丁寧に言葉を選んで答えます。
そして最後に、ここが一番素晴らしいところなのですが、私が理解している言語や重んじる価値観(バリュー)、経験、軸で話してくれます。
極端な話、マインドフルネスを意識している人は1対1000人のスピーチホールでも、常にその聴衆全体を意識し、自分がその中のある一人と対話をし、またその人も話者と一対一で対話がなされているという感覚や錯覚に陥ります。
デジタル時代が進み、フェイスブック、インスタ、ツイッターなどの影響で我々は日々注意散漫になりがちです。
フィードバックにおいてもセッション中にスマートフォンのメールをチェックしたり、PCを開けながら話したり、世間話になんとなく飛んだり、真剣な場で冗談を言ったり、肝心なところで目線をそらしたり、難しいディスカッションに心ここにあらずで適当な話をする人を目の当たりにした経験があるのではないでしょうか。
これらはフィードバックを行う上でネガティブ要因になります。フィードバックを行うときはその限られた時間内に、相手に全身全霊を込めて接する必要があります。
10分20分とだらだら話すより、たとえ1~2分でも全力集中したフィードバックが有効です。
私がこれまで出会ったフィードバックの上手な人はこのマインドフルネスを知らずとも、それを実行してきたのでしょう。
まずは次のようなことを意識して相手との会話に臨むことが大きな一歩です。
マインドフルネスとは、
- 五感が研ぎ澄まされた集中力(「全集中」とでも言っておきます)
- 心の全部で物事をありのまま聞く力(アクティブリスニング)
- 丁寧に言葉を選ぶ
- 相手の軸や価値観を意識しながら話す
- 二元性や二元論に固執しない
などを表すと認識してください。
相手に本当に役立つフィードバックとは?
喜ぶ人はほんの一握りと心得る
人は本当はフィードバックが好きです。意外?実はそうでもないのです。欧米の組織内で行われるフィードバック調査などで、必ずと言っていいほど挙げられるのが、「フィードバックが足りない、もっとしてほしいという項目」です。
約6~7割の人がそう答えます。フィードバックをどの程度好きか、その姿勢やマインドセットを表す言葉もあるほどです。*5そして、できる人ほどフィードバックをどんどん欲しがり、急速に成長していきます。
しかし、日本の人は、誰かからフィードバックをしてもらうのを嫌がります。良く思われていたいという思考が強いのと、迷惑をかけているという自責の念と、失敗はダメという教育、トリプルに阻害的要素が浸透しているからです。
そこがかなり欧米と異なります。欧米では失敗から学び、さらにそれを良くし、以前の自分より良ければグッドだという哲学があります。
モノづくりに対して日本は類似した哲学があっても、人についてそういう哲学はなぜかありません。フィードバックは怒られているという感覚に近いのかもしれません。
つい先日もあるコンサルタントにプレゼンのフィードバックをしようとしたら、それを察知したのか用事を思い出した、とすぐさまその場を離れていきました。
私は個人的には、「なんてもったいないことを」と思いましたが、その後フォローアップはしませんでした。あくまでも絶対にフィードバックを行わなくてはならない場合を除き、強制はしたくありません。
逆も然りで、日本の人は誰かにフィードバックをするのが苦手です。部下には権限や仕事の一環としてフィードバックをしますが、役割として渋々行っているので、フィードバックの質に気を配らない人が多いです。
それは自身と相手にとってもったいなく、損をしています。また、その他の人には、良く思われていたいので、あまりしないのが特徴的だと思います。嫌がる人も納得。
3つのチェックポイントとはいえ、実際フィードバックを嫌う部下も、あなたが良いフィードバックをすれば次第に欲しがるようになります。
では良いフィードバックとは普通のそれと、いったい何が違うのでしょうか?この章の冒頭で、成長にフォーカスしているもの、と触れました。それをもう少し詳しく説明します。
意外にも良いフィードバックをできていても、それが何なのかをピンポイントで指摘できる人は少ないのです。
ここではそのポイントを具体的に確認していきます。
良いフィードバックというものは、大きく分けて次の3つの問いから考えていくとよいでしょう。
1.Is it SMART?2.Does it Stretch?3.When does it expire?この一つひとつを分解していきます。
1スマートであるか?(IsitSMART?)
まず、SMARTというのを聞いたことはあるでしょうか。「賢い」という英単語の意味でもありますが、この場合、人材開発の定番とも言われる造語の一つを指します。
- Sはスペシフィック(Specific)具体的
- Mはメジャラブル(Measurable)測定可能
- Aはアクショナブル(Actionable)達成可能
- Rはレリバント(Relevant)関連性
- Tはタイムリー(Timely)タイミング
フィードバックを行う五感として覚えておくといいでしょう。
では、早速使ってみましょう。
先ほど、ピープル軸の例で登場した製造会社の課長さんが悩んでいた部下の「クオリティの低い自己流の提案書で、妥協しない姿勢」についてフィードバックをしてみたいと思います。
結局、嘆いた挙句、その課長さんは「私のやり方が正解だから、それでやるように」とスパッと、有無を言わせないメスを入れました。
詳細は無論わからないままですが、切羽詰まっていた状態では致し方ないにせよ、そこには命令と注意しかなかったように思えます。
まず、初めにこの五感を使用するのに慣れることが前提条件です。凡例なので、少し違和感があるかもしれませんが、我慢してください。
誤解を避けるために最初に述べておきますが、最後のTタイムリーというのはフィードバックをする相手に「伝えるタイミング」であって、フィードバックの中身の内容の時間軸ではありません。
ちなみに、この例だと、フィードバックはなるべく早いタイミングがよいです。
翌日まで待ったりしてしまうと、フィードバック後の修正スピードが追いつかなくなってしまいます。
私が見てきた仕事ができる人は受け取ってすぐ成果物をさらっとレビューし、フィードバックの可否を判断しています。
そうして、万が一の「ブローアップ(爆発)」を回避するのです。詳細のタイミングに対する考え方は後ほど述べます。
もうお気づきだと思いますが、良いフィードバックの前提条件、まさにテーゼとも言えるのは「丁寧であること」です。
そして、具体的かつ、相手にゲスワーク(解釈による理解の相違)をさせません。
2ほどよい目標であるか?(DoesitStretch?)
次に、良いフィードバックかどうか確かめる2つ目の質問、DoesitStretch?です。人の成長は常に自分の限界に挑戦し続けるところから生まれます。
やや古く決して適切な例ではないかもしれませんが、漫画『ドラゴンボール』を読んでいた小中学生の頃、私は常に主人公、孫悟空が自分の限界スレスレに挑戦する姿がカッコイイと思っていました。
その限界への挑戦が普通のサイヤ人であった彼を、伝説のスーパーサイヤ人と変身させ、悪の親玉フリーザを恐怖のどん底に追い込んでいくのです。
それはまさに爽快でした。ただ、そこでキーとなったのは彼が「死なない程度」や「死の淵から蘇る」設定であったこと。
フィードバックを与えるときも、その限界点を意識するとより良いフィードバックになります。それは、高すぎてもいけない、低すぎてもいけない。
コンサルタントが使う用語に直すと、その段階は慣れ親しんでいる「コンフォートゾーン」(ComfortZone)と「ストレッチゾーン」(StretchZone)と「バーンアウトゾーン」(BurnoutZone)の3つに分かれます。
高すぎると相手はフィードバックを内面化できずに、逆に諦めてしまい、フィードバックの意味や効果が失せてしまいます。これをバーンアウトゾーンと言います。
フィードバックを「アートかサイエンスか」などと言うことがあります。フィードバックは体系立ててシステマチックに学ぶことができるサイエンスです。
長い歴史を持つ基本の型があり、それを使えばある程度の質は担保できます。同時に実際に行う相手や状況、内容によって、様々、使い分けることも必要です。そこがアートと言われる所以でもあるのです。
この例でいくと、アクショナブルの例で2つ挙げていて、尚かつタイムラインをキツく締めることができます。
両方ともできるならやってきて、でもできなかったら1つ(赤ペンの部分の修正)だけ。それとタイムラインはストレッチゾーンに向かわせる簡単な起爆剤になります。
3手遅れではないか?(Whendoesitexpire?)
3つ目のWhendoesitexpire?とは、フィードバックを行える賞味期限だと考えてください。ここは非常に重要なコンセプトです。
序章でも挙げたように、脳の柔軟性は年齢とともに退化していきます。
悪い意味でのフィードバック耐性というのができてしまい、相手のフィードバックを受け入れ難くなるのです。
無論、だからこそ、このような本を手に取って、どんどんフィードバックを与えて育てるとよいのですが、現実はそう簡単ではなくあらゆる人を相手にしなければいけません。
ここで、今一度「できる人ほど、フィードバックを欲しがる、そして、そういう人ほどいつまでも成長し続ける」という言葉をつけ加えておきましょう。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、先ほどの製造会社の課長さんの例で一つ肝心な情報を皆さんにお伝えしていませんでした。
それは、その部下の方が既に30代後半~40代前半で未だ役職がついていないレベルであったことです。
これが課長さんがフィードバックを行う上で、実は大きな障壁・障害になっているのです。
彼を説得するには通常よりメッセージを噛み砕き、さらに伝えるのにも気を利かせた方法が必要というわけです。
この部下の方のように、強情で意地っ張りで聞き分けが悪い。しかも仕事の出来も今ひとつ、となると、フィードバックをする意欲がなかなか湧いてこないのも事実です。
酷ですが、いっそのこと諦める(賞味期限切れ)、という選択肢もあるでしょう。
しかし、そうであっても、できるリーダーは、最低限、次表のようなメッセージを伝えることを怠りません。
この部下の方も、メッセージを工夫することで、頑なさがとれて行動が徐々に変化し始めたとのことです。
やはり、精神的スタミナとアートのような判断を求められていることが十分にわかると思います。
sidebar私が出会ったフィードバックの達人
厳しい現実を突き詰める5億ドルの資産家凄いフィードバックをする人は、自信を通り越した、一種の「確信」のようなものを持っています。
その人は以前にいくつもの企業を生み出し、企業価値を瞬く間に上げ、売却した後にさらに大きな企業を作る、気迫のある欧州人でした。
おかげで当時私が参画したベンチャーは1年で従業員が数百人伸び、年商も年数億程度から数十億へ跳ね上がり、資産価値も10倍以上飛び上がりました。
他の人との違いは、「強気でいけ」だとか、「元気を出して」とか、「やればできる」とか、そのような類の台詞は一切吐かず、常に具体的に、詳細部分まで根掘り葉掘り入ってくるところです。
同時に何をするにもポジションを取ることが大事だと教えてくれたことを今でも鮮明に覚えています。
当時、十数人で毎週のように行われたコールでは、彼がくれるフィードバックは常に、「どんな活動をしたかは興味がない」で「活動の結果、どんなことが判明し、それが何につながったか」です。
毎回誰かが怒鳴られていましたが、事実彼は我々に的確なフィードバックを飛ばしていました。
例えば、商談を成立できない理由を列挙すると、その一つひとつに答えていきます。
「前回、価格を提示するのが早すぎた、そして価格も高すぎた」といった場合、では、「次回からタイミングと値段両方とも気をつけて、優先順位づけしてから挑め」なんて曖昧なフィードバックはありませんでした。
常に、「タイミングの成功事例はないのか」「次回はその価格でいくな、これでいくように」など、具体的にフィードバックをしてくるのです。
私の好きなテニスで言い換えると、「相手はフォアハンドが強いがバックも警戒しろ」みたいな、意味合いが複雑なメッセージはありませんでした。
あったのは、的確に要所要所で「今スピンに気をつけろ」「次回は相手が攻撃をしかけてくるまで耐えろ」など、詳細部分の戦略まで理解できるフィードバックです。
フィードバックのタイミングとは?
アツアツのポテトは美味しい。冷めて、しなっているフライドポテトほど不味いものはないと私は思います。
世の中には温かいうちに食べたほうがよいものがあるように、フィードバックの中にも今すぐやっておきたいものもあります。
完璧とは言えないですが、それは例えば、こんなものです。
・状況説明の「再現」が難しい場合、説明が長くかかってしまう場合
・クライアントから直接的な注意があった場合
・ビジネスに対してリスクを感じた場合
・周囲(誰も)を非常にイラっとさせる態度や行為
せっかくのフィードバックも、タイミングを外すと、うまく伝わらず、場合によっては業務に支障が出てしまうこともあるでしょう。
ここではフィードバックを効果的に伝えるためのタイミングについてお伝えしていきます。
小さくても障害・障壁になることは必ず言う
あなたはフィードバックをするときのタイミングを決めていますか?業務を遂行する上でリスクや妨げになる行為はただちにフィードバックをします。
例えば、重要な顧客との商談で論点がズレてしまう発言であったり、自分の意見をファクトのように語ったり、エアタイム(自分の存在誇示)だけのために「私からももう一点」などと既に発言されたコメントを繰り返し応用したり、会議中(特に電話会議でよく耳にする)「はい、ええ、Uhhuh」などといちいち耳障りな返事をしたり、クライアント先のエレベーター内や廊下で機密事項を迂闊に(電話越しに)誰かと話していたり、といった類のものです。
つい先日も、とある事業会社の営業統括部長の方に、「仕事ができる上司の一つの特徴は、いつチームメンバーにフィードバックをするかを十分心得ていることだと思います」とお伝えしました。
すると、即座に相槌を打って、「だけど、それが難しいんだよね」と彼は部下の部長クラスの人たちを思い浮かべて苦笑いしていました。
皆さんもご自身のチームメンバーや組織に対して、悩めるところかもしれません。直しやすいものから順に。
言うべき4つのタイミングフィードバックとは短期的に直せるものと、中長期的に時間がかかって直せるものとがあります。
それによって行うタイミングも違います。
その種類は次のように整理できると思います。
1.マナー
2.仕事のプロセス
3.仕事の品質
4.マインドセットや人格
基本的な答えから言ってしまうと、「HOW(どのようにやるか)」を議論するのが先で、「WHAT(何をしたらいいのか)」がその次。
最後に「WHY(なぜ)」を聞かなくてはいけないものが最後という感覚でいいと思います。
1マナー
ミーティング中に相手の目をしっかりと見る、貧乏ゆすりをしない、打ち合わせの10分前には部屋に入り準備をしておくこと、「親しき仲にも礼儀あり」のように必ず守るルールとリラックスするルールを持っている、などです。
数カ月前、恥ずかしながらチームがクライアントから、こんなフィードバックを受けたこともあります。
「仕事にはぬかりがないのですが、もう少し早い時間に来て打ち合わせの準備をするのが、こちらの働き方なのですよ。
重鎮が入ったら待たせないが鉄則なので」と厳しいフィードバックをもらいました。どうも我々はパートナーの中でも遅いようでした。少しクライアントに慣れ親しんだ傾向もあり、気づきがおろそかになっていたようです。
マナーや作法に関するフィードバックは言った次の瞬間から直せるものがほとんどですので、「気づいたら即」が決まりです。
きついことも、例えば「今、私が話しているときに、口を挟まないで」というようなこともすぐに言ってください。
仮に相手にそんなつもりがなかった場合でも、その価値観の違いが伝わります。
2仕事のプロセス
打ち合わせの入れ方やその段取り、細かいレベルではファイル保存の整理の仕方、期限の設定、期限を厳守してもらうこと、などです。
仕事のプロセスは最終的にアウトプットに影響するので、大切です。私はアウトプットとプロセスは切り離せないと思っています。簡単に言うと、ワークプランというものになります。
いつまでに、誰と、何を話し、どのような調査や分析をし、まとめ、数々のステップを踏んで仕事の最終アウトプットまでいくかがここで決まります。
工場などのラインで言うならば作業工程。ホワイトカラーのオフィスワーカーの世界では仕事の仕方、方法や実行。割とテクニカルで簡単なことが多いです。
3仕事の質
アウトプットの深さ、知見、インサイト、洞察力などを指します。仕事のクオリティは多岐に渡ります。
コミュニケーション(長い、短い、わかりにくい、詳細すぎる、など)、問題解決のやり方、アウトプットの見せ方、等々。
最近になって思うのですが、専門家になるまでに必要と言われている1万時間ルールにおいて、実際その仕事に関して費やさければならない時間は3000時間くらいで、あとはいかにそれを「磨くか」だという認識です。
年数で計算してみると2~3年になります。ちなみに先ほどの「マナー」や「仕事のプロセス」におけるフィードバックというのも、一つの目安として、2~3年くらいは与え、その後はすべて質に変わってなくてはいけません。
4マインドセットや人格
マインドセットや人格は複雑です。誠実性、信頼、頼りがい、決断力、柔軟性、順応力、創造性、ドライブなどについてのフィードバックは、行うタイミングを後で述べるフォーマルな場へ移すのを勧めたいと思います。これらは安易には取り扱えない、人の深層から深海深くに眠っているものだからです。
例えば、部下に仕事を任せるのが苦手な場合。
その人は自分で多くの仕事を抱え込んでしまい、結局リーダーとしては致命的になってしまいます。その理由の一つはもしかすると、相手を信頼できないことにあります。
こんなデリケートな話をクイックに済ませてはいけないので、そのポイントを呼び起こすときには、静かで、二人の空間が演出できる、落ち着いた場でやるのが適しています。
そもそも、きっかけがあるはずです。高度な根源探しになるので、一筋縄ではいかない打開策が必要になるでしょう。お互い、ゆっくりとそれを解決していきます。
以上が、日常の場面でフィードバックを行うときのタイミングの目安になります。ぜひ参考にして、部下やチームの成長に役立てていただければ幸いです。
日常の中でフィードバックの機会を探す
リーダーでなくても場数は踏める皆さんもお気づきの通り、本章でここまで主に述べてきたのは、上司という立場から部下を想定したフィードバックについてでした。
しかし、フィードバックの機会は、それだけではありません。
私たちは本来、フィードバックスキルを高めて、部下以外、様々な相手とのコミュニケーションに活用することができます。
その結果、業務の生産性が上がったり、相手に喜ばれて信頼されたり、など、仕事の質が大きく変わるのです。特に部下もいないし、誰かに求められてもいない。
フィードバックに挑戦しようにも、どこからチャレンジしたらよいかわからない、そんな人のために、今すぐできるフィードバックの機会をご紹介しておきます。
1相手へのギフトとして(関連部署の協力者など)
例えば、先日市場と企業のリサーチをある方に頼みました。その方は通常アシスタント業務をしています。
要件は次のようなもので、「対象企業の概要、財務状況」「競合分析をしたいので、市場のトレンド」「デジタルの脅威性」といったリクエストです。
コンサルタントは日々、会社の中で複数の部門やオフィス、ひいては国を跨いで仕事をしていたりするので、まさに、チーム力というか、群衆の知恵のようなものが差別化要因になります。
その依頼した方は丁寧にフォルダーを作成してくださり、リンクも送ってくださり、わかりやすいように点線や付箋などもつけてくれました。
最終アウトプットのイメージに沿った形で出してくるように頼んだので、情報も処理しやすかったです。
通常、この手のやりとりはその成果物の受領で終わり、その後、フィードバックをする人は多くありません。だからこそ、そこでの対応が差を生みます。
例えば、「どの情報が役に立ったか」「どこが欠けていたか」。それと実際最終の資料に作成したものがあれば、そこに対してコンテンツのフィードバックもします。
「文言が統一、標準化されていない」「チャートの分析だけでその意味合いが出せていない」。このようなことを丁寧に伝えると喜んでもらえることが多いです。
ここで一つ重要なことは、相手が期待していないところでも、相手に役立つフィードバックをするという心がけです。
そして、通常我々の場合、最終成果物というのはクライアントと直属のチーム内でしか共有しないのですが、私は常に「あなたが貢献してくれた箇所はこのように反映されております」という意も込めて、送ることにしています。
もちろんそうすることによって、次回からまた仕事を頼みやすくなる利点というのもありますが、人はフィードバックをすると育つという考えが根底にあるからです。
あらゆるステークホルダーに対してフィードバック能力が研ぎ澄まされると、自分のコミュニケーションの引き出しが何倍にもなり、また、そうやってコミュニケーションを取った相手に助けられ、何倍も良い仕事ができるようになっていくのだと思います。
2高め合うきっかけとして(同僚や友人)
これから意識的にフィードバック力を高めたい。そんなとき、まず試していただきたいのが同僚へのフィードバックです。
日々頻繁にコミュニケーションを交わし、サイドバイサイドで働く仲間だからこそ、フィードバックの機会には事欠かないでしょう。
私が同僚レベルの人へフィードバックをするときにまず意識することは、「相手がこのまま上司になったら?」です。
この人は良い上司になるであろうか?もし、違った場合、私はなぜそう思ったのか?それを繰り返しながら、その人へのフィードバックを準備します。
客観的に見て、改善すべき点を単刀直入に言うのも可能なのですが、この場合はパワーバランスも視野に置きながらアプローチする必要があります。
具体的には次のような気づきを捉え、伝えてあげると効果的でしょう。
・相手が設定した目標に対してのフィードバック
・周囲へのコミュニケーションスタイルや態度
・チームメイト、同僚として、働き方の違いや難しさ
・自分が既に、ハードとソフトのスキル面で一目置かれている場合、それに対して相手の不足部分
大抵の人は、ある成長目標に向かって走っています。それを事前に知った上で、ここぞというときにフィードバックをすると非常に相手に刺さります。
あなたは自分の同僚や知人の成長目標を把握できていますか?それを知った上で時折、的確なフィードバックをすると相手は喜ぶものです。
ある知人はコンサルタントを卒業して事業会社の取締役を目指しています。またある人は特定領域でクライアントに最も信頼されるシニアアドバイザーになることに一所懸命です。
そしてまた別の人は会社の後継者育成に野心を燃やしています。そんなとき、「ちょっとフィードバックがあるのですが、どうですか?」では好感を持たれません。
逆の立場で想像してみても、よほど近しい距離でないと、違和感があります。
もう少しカジュアルに、「この前、あのフレームワークの提案は非常にシニアなメンバーに刺さっていたよ、特にイノベーションとニッチとの2軸で話してくれたところは面白かった」など、褒め言葉を中心とした口調で伝えます。
同僚レベルへのフィードバックは、親しい関係であればあるほど心理的なハードルが下がるのでお勧めです。
的を射たものであれば、今度は相手からも良いフィードバックがもらえるかもしれません。それがきっかけで、お互い高め合う関係が築ければ一石二鳥です。
3真摯な反論やノーとして(上司や目上の人)
20代の頃、私は部下の立場として上司の誤りに対して「反論する義務(Obligationtodissent)」があるという大事なエッセンスを学びました。
相手が目上であっても、より良いアウトプットのためには忖度しない。そして、その方が言うには、上司も人間、だから自分勝手な行動を取る場合もある、と。反論すべきときはする。
ただしその際は、「なんてむかつく上司なんだ」という発想ではなく、「この人は実際何を伝えたいのだろうか?」というような機転の利かせ方が重要だと。
以前、年度会議である人が代表レベルへ、リージョンの成長鈍化について問いました。逆鱗に触れたのか、そのコメントに対し代表は我を忘れ、半ば彼を叱りつけました。
その場に居合わせた誰もが驚いたのですが、そのとき別の部下が、その言い方は少しキツくありませんか、とフィードバックを代表に投げました。
一旦、シーンとしましたが、その後代表も自らの言葉を訂正し、その意図を説明し直しました(過去より将来に焦点を…等)。
やはり、上司とて、常にあるべき姿の問いに真正面から応えるのは難しいのです。
そして、部下もときには相手が目上であっても、反論したり、ノーと言わなければいけない場面があります。
そしてそんなときこそ、相手が冷静さを失わないためにも、あえて落ち着いた口調で伝えなくてはならないのです。なお、こうしたフィードバックは、ときに自分の正当な権利を守るためにも必要となります。
例えば、私の場合、自分の時間を軽く見られると非常に頭にきます。時間というものはこの世で一番大切な通貨だと信じているからです。
私の場合、タイム・イズ・マネー(時は金なり)ではなく、タイム・イズ・モアザン・マネー(時は金以上)のほうがしっくりきます。
それは私が誰に対しても同等の尊重をもって接している部分でもあります。
しかし、困ったことに、中にはそうでない人もいます。
自分のほうがポジションが上だからという単純な理由で仕事の優先順位づけをしてしまう悪い習慣を持った人もいます。
以前、プロジェクトを複数抱えているときに、その上司の新しいプロジェクトへの参加を打診されました。
そこで私は向こう2~3カ月の既存プロジェクトにおけるブラックアウト(ダメ)な日にちを伝えます。
彼は難しい顔をしながら渋々聞いていましたが、そのときは私も協力的、かつ積極的に意見を交わしました。1週間後のことです。
いよいよ担当プロジェクトの一つが最終段階提案に至り、社内で日程の再確認をしていると、彼は、「向こう2カ月、この日とここ数日あなたはお休みするけど、どうにかならないかな?もしプロジェクト期間が早まったらここは無理かな」と言いました。
そこで、私は「やはり」と思い、自分の時間を正当に尊重してもらえるよう、即座にフィードバックをしました。
内心かなり怒っていましたが、落ち着いた口調で「おっしゃっている日とここ数日は休暇ではなく、別のクライアントの仕事ですが、なぜ今、『お休み』と言われたのですか?」と。
その後は言うまでもなく、彼が訂正をし、次回からはそういった誤解がなくなりました。ここで、一つ私が随分と昔に読んだ英語の専門書からの教訓を共有させてください。
それは、この一句です。
「あなたは常々上司に対し、あなたがどのように扱われたいかを知らせ(シグナル)なければなりません。
さもないと、その上司は彼の意のままにあなたを使うでしょう」人間の尊厳というものは声を大にして初めて理解されるものです。植民地支配や人種その他の属性による差別など、数々の歴史がそれを物語っています。
とはいえ、フィードバックにもペッキングオーダーこのように、日常の中でフィードバックの機会を捉え、様々なステークホルダーと、より良い人間関係を作り、良い仕事をしていくことが可能になります。
フィードバックは相手に応じて細部まで気を遣うコミュニケーションなので、やればやるほどレーパートリーも増えて腕が上がっていくでしょう。
ただしその際に一つ、気をつけておきたいことがあるのでお伝えしておきます。
ペッキングオーダーとは鳥の群れの社会における優先順位のことを意味しますが、フィードバックにおいてもなるべく順序よく、順番を守りながらその範囲を広げていくことがポイントとなります。
実のところ、日々当たり前のように行っているフィードバックですが、これにもやりやすい順番があるのは確かです。
まず、部下に対するフィードバックというのが一番単純明快です。次には同僚。
3番目に直属の上司。
パワーバランスを考えると関連部署も部下並みに容易にできますが、それほど動機が湧かないことが多いかもしれません。
最後には顧客に対するフィードバックや上司の上司に対するフィードバックです。よほど近しい関係構築ができている場合を除いてコミュニケーションリスクは高まります。
その感覚は時間と場数を踏みながら、じっくり育てていく必要があるでしょう。
求められたときにのみ応える、範疇を狭めて自分が知見がある領域に特化する(例:ダイバーシティ、自己の専門分野・得意とする領域)、などを原則にするとよいと思います。
フィードバックを行うにあたっては、簡単な相手からそうでない相手まで様々です。早めに自分の意識と相手が求める期待値を合わせておくことが大事になります。
コメント