MENU

第4章クレーマーからの終わらない電話を終わらせる方法

目次

第4章クレーマーからの終わらない電話を終わらせる方法

いくらネットの利用が増えたといっても、ビジネスで電話は外せない。とくに顧客からのクレームの多くは、電話でやってくる。電話は簡単なコミュニケーションツールである。簡単であるがゆえに、クレーマーによって乱用されてしまう。少なくない人がクレーマーからの執拗な電話に疲弊した経験を持っている。実際のところ、私の事務所におけるコンサルティングも、「クレーマーへの電話対応のあり方がわからない」という相談から始まることが多い。コールセンターを設置している企業からセミナーの依頼を受けることもある。いかに多くの人が「電話」という古くて新しい道具に悩んでいるのかがよくわかる。そこで、本章では具体的な対応として「電話の終わらせ方」について説明していく。「あるべき電話対応」というマナー研修は聞いたことがあるかもしれないが、「電話の終わらせ方」について考えたことはあまりないであろう。クレーマーは、基本的に電話を終わらせてくれない。やっと終わったと思ったら、数時間後に同じような電話をしてくることがある。クレーマーが相手の場合、「いかに電話を終わらせるか」という視点が大事になってくる。もちろん、相手のあることだから「これをしたら絶対に電話がやってこない」という方法はない。だが、「ここまでやれば電話には出ない」という判断はできる。こういったイメージを持っておくだけでも、精神的にずいぶん楽になるはずだ。本章では、クレーマーからの電話攻撃で担当者が疲弊した事例をいくつかご紹介する。私の事務所でも、この手の相談が圧倒的に多い。不当な電話には「出ない」という対応をするべきであるのに、なぜか電話に出てしまう。結果として、いつまでも同じことを繰り返してしまう。「電話に出ない」のも立派な解決方法であることを指摘したい。そのうえで、いかにして電話を「終える」という方向に持っていくかを具体的に説明していく。いくら丁寧に説明しても納得してもらえず、「上司を出せ」「ネットに書くぞ」と言われることがある。そういうときの切り返し方によって、事後的な対応が違ってくる。いくら電話で丁寧に対応しても、進展しないときがある。そういうときは、電話ではなく、書面でのやりとりにするように仕向けていく。書面に持ち込んだうえで、電話対応を拒否することになる。ここではクレーマーを意識した書面の書き方についても説明する。

〝電話〟という悪夢が担当者に与える3つの問題ネットの発達により、コミュニケーションの多くは、テキストベースに移行した。メールあるいはSNSを使って、誰でも簡単に意思を伝えることができる。クレーマーからホームページ経由で大量の苦情が送信されてくるという案件を担当したことがある。コミュニケーションのあり方は日々変化しているが、クレーマーのあり方も変化し続けている。もっとも、いかに技術が発達しても、やはり「人の声」は独特の価値を持っている。同じ内容でも、会話で伝えるときとテキストベースで伝えるときでは、相手に与える影響が違ってくる。だからこそ、電話は現代においてもビジネスの主要なツールとして存在しているのだろう。私の事務所に持ち込まれる案件には、「クレーマーからの電話にいかに対応するべきか悩んでいる」というものが多い。多くの人がクレーマーからの電話対応に頭を抱えているのかがよくわかる。「何度同じことを説明しても理解してもらえない」「電話で理由なく罵倒される」「電話を切らせてくれない」といった切実な相談が、経営者あるいは担当者から面談やメールで持ち込まれてくる。いくら仕事だといっても、大変だなとつくづく感じる。担当者にとって負担になるのは、こういったクレーマーからの電話に対して、自分の感情を抑圧してでも丁寧に笑顔で対応していかなければならないことだ。「辛くても笑顔を作る」というのは、想像以上に精神的な負担になる。経営者は、過大な負担を担当者に強いていないか、冷静に見極めていただきたい。あるコールセンターでは、信頼していた担当の女性がいきなり退職の相談を上司にしてきた。上司にとっては青天の霹靂で、何事かとあわてた。話を聞いてみると、クレーマーとのやりとりに正直疲れたというものだ。これといった具体的な理由はないが、「とにかく疲れた」というのが彼女の言い分だった。そこで「何かしなければ」ということで、私の事務所に幹部の社員が来所した。そのなかで、コールセンターの担当者が抱えている問題点を整理してみた。問題を抱えている人は、実際にどのような問題を自分が抱えているのかがわからない。問題が大きいほど「辛い」という感情が先だって、問題を客観的に見ることができない。

そこで、実際に負担を強いられている問題を言葉で表現することに時間をかける必要がある。問題を言葉で表現することができれば、内面に抱えていた問題を外部に出すことができる。内から外に出すという行為には、カタルシスとしての効果がある。たとえば、辛いときに涙を流せば、心が少し楽になる。しかも言葉にすることで、問題を共有し具体的な対策を検討することができる。提示された問題は多岐にわたるが、大別すると次の3つになる。①「電話に出なければならない」という強迫観念まずは「電話に出なければならない」という強迫観念である。相手がクレーマーだとわかっていても、なぜか電話がかかってくると「お客様だから」というスイッチが入ってしまって、出てしまう。そして1時間以上も同じことを繰り返し主張されて、ひたすら傾聴と説明をするだけになる。クレーマー対策セミナーなどでは、交渉においては傾聴と共感こそ相手の信頼を得るうえで大事とされている。もちろん間違いではないが、ひとつ説明が不足していると感じるときがある。それは、誰かの話を聞くというのは、話すことよりもさらにエネルギーを要するということだ。とくにクレーマーの場合、非論理的なことを声高に、ときに威圧的に電話で言ってくる。傾聴する側の負担は相当なものである。そういう負担がわかっていて、さらに電話に出ないといけないとなれば、担当者の気が滅入ってしまうのも当然だ。②「電話を切らせてくれない」という絶望感次に指摘されるのが、「電話を切らせてくれない」という絶望感である。周囲からすれば、「不当な電話であれば、電話を切ればいい」と安易に考えてしまいがちである。なかには、「クレーマーからの電話は手早く切って、本来の業務に注力してくれないと」というひどい指示を出す管理職もいるようだ。こういう管理職に限って、具体的な方法論もないまま、「生産性向上」など抽象的な大義を掲げがちである。誰しもクレーマーからの電話であれば、1秒でも早く切り上げたいものだ。切り上げることができないから、苦労しているのが現実なのである。電話を切ろうとしたら「なぜ電話を切ろうとするのか。それが話を聞く姿勢なのか」と言われる。そして、また同じことが最初から始まる。なんとか電話を切っても、数日後、ひどいときには数時間後には、「まだ回答はないのか」という叱責の電話がやってくる。③「他の人が巻き込まれるかもしれない」という不安感最後が「他の人が巻き込まれるかも」という不安感である。コールセンターでは、複数名が受け持っていることが多い。なんとかクレーマーからの電話を切ることができても、他の担当者がまた受電してしまうことがある。クレーマーはしつこく何度も電話をしてくるからである。自分のところでなんとか止めたと考えていたら、今度は他のスタッフにターゲットが移動するということが発生してしまう。別に責任を感じるべきことではない

が、なぜか自責の念に駆られてしまいがちである。いくら「みんなで対応」といっても、やはり特定の人が巻き込まれるのを目にするのは気持ちのいいものではない。「クレーマーからの情報は社内で共有できているはず」と言われるかもしれない。情報共有がされていても、電話があればすぐに対応しなくてはならないのがコールセンターである。電話が鳴るたびに「クレーマーではないか」と調査する時間的余裕は通常ないであろう。これらの問題を含むクレーマーからの電話への具体的な対策について検討していこう。電話を録音することは裁判時の有力な証拠となる電話の恐怖のひとつは、誰からの電話なのか、すぐにはわからないという点だ。スマホであれば番号が通知されるし、非通知であれば出ないという選択もできる。しかし、これが会社にかかってきた電話であれば、同じようにできるとは限らない。会社としては、誰からの電話なのかわからないのであれば、とりあえず出るしかない。結果として、いつものクレーマーからの長時間の電話につきあわないといけなくなる。こんなカードゲームのようなビジネスをいつまでも続けるわけにはいかない。企業としての対応は、誰からの電話なのかを可視化できるようにしておくことだ。たとえば、電話があったとき、パソコン画面に誰からの電話なのかを自動的に表示できるようなシステムを導入するといい。いつ、誰から、電話があったのかを記録できるタイプもあるので、事後的に裁判などを検討するときにも便利である。最近では、こういうシステムを中小企業でも導入しやすくなった。社員を守るためにも積極的に投資するべきだ。誰からの電話であるのかが事前にわかるだけで、担当者の負担は変わってくる。電話を受けるときの心持ちもまったく違う。クレーマーは、いつ電話をかけてくるかわからない。担当者としては「いつか」のために常に緊張して電話のベルを待っていることになりかねない。それでは担当者の心がもつわけがない。「緊張の糸が切れたときが退職の日」ということにすらなりかねない。ある会社では、自動的に名前とともに要注意と画面表示されるようにしている。情報共有を実現するためのシンプルかつ確実な方法である。クレーマーからの電話を「怖い」と感じるようであれば、録音しておく。不当な電話が続くようであれば、電話を禁じるような法的手続をとることも可能である。こういった手続きを実施するためには、「不当な電話が続いて業務に支障が出ている」ことを根拠づける資料が必要になってくる。クレーマーに関する相談を受けるなかでは、「すぐに法的手段をとってください」というオーダーもある。執拗な電話や面談要求で業務に支障が出ている場合、経営者として「すぐに停止させたい」という気持ちになるのも当然である。ただ、「手段として法的手続があること」と「手段として法的手続を利用できること」は必ずしも同一ではない。法的手続を利用するためには、主張を整理して資料を用意する

必要がある。「これだけの資料では不十分です」と回答すると、経営者のなかには立腹する人もいる。「業務が妨害されているのが明らかなのに、なぜですか。裁判所は弱者の味方ではないのですか」と詰め寄られて弱ったこともある。当事者である経営者の気持ちは十分に理解できる。しかし、裁判所はあくまで価値中立的な存在である。裁判所としては、相手がクレーマーであることを当然の前提にして判断をすることができない。一方的に会社から「被害にあっている」と言われるだけでは判断のしようがない。だからこそ具体的な事実を固める資料が必要となってくる。電話であれば、電話の履歴や内容が資料となってくる。そこで電話対応に苦慮して将来においてしかるべき手続きを検討しているときには、日時と内容を記録しておいてほしい。できれば不当な発言については、録音したものを用意しておくといい。録音内容は、後日、クレーマーと「言った、言わない」でもめたときの根拠として利用することもある。また、会社としての説明責任を追及されたときも、「この音源にあるように、会社としては当初から十分に説明しております」という反論の根拠に利用することがある。いずれにしても、発言内容を事後的に確認できることはいろいろと便利である。不特定多数から電話がやってくるような業種の場合、あらかじめすべての案件を録音しておくのもひとつの手であろう。実際、「音声を録音しています」という案内の後にオペレーターにつながるという経験は誰しも持っているだろう。もっとも、「録音される」ということは、あまり気持ちのいいものではない。本来の顧客から「なぜ自分まで録音されるのか」と不快感を抱かれることもある。しかし、こういった不快感は必ずしも声にならない。見えない顧客の不満が売上にも影響してくる。そのため、中小企業ですべての電話を録音するということはハードルが高い。現実的な対応としては、「この人は対処が難しい」と感じたところから録音しておけばいい。クレーマーとの電話のやりとりは、受話器ではなく、スピーカーを使ってあえて他の社員にも聞こえるようにしておくといい。受話器だとクレーマーとの1対1のやりとりになってしまう。他の社員にやりとりを聞いてもらえるだけでも、「自分はひとりではない」と安心できる。しかも、他の社員もクレーマーの状況をリアルに共有できる。「あえて電話に出ない」という選択肢も検討する「電話が辛いときにどうすればいいか」という質問に対する、私のシンプルな回答は「電話に出なければいい」というものだ。電話に出なければ、クレーマーからのどうしようもない長電話に巻き込まれることもない。これほどシンプルで効果的な解決方法はないはずだ。誰しも「それはそうだ」と納得できる。それでも、多くの人は「それができないから困っている」と反論するだろう。ここで大事なのは、他の解決策を模索するのではなく、「電話に出ない」という判断をためらう理由をしっかり検討することだ。ここを曖昧にしていたら、いつまでたっても問題の本質的な解決にならない。

我々は、電話が鳴れば出ることをあたりまえのことのように考えている。しかもできるだけ早く出ることが正しいマナーのように教えられてきた。何かの作業に集中していても、電話が鳴れば手を止めてまでわざわざ出る。このようなときに限って、どうでもいい内容の電話だったりする。電話は、誰かの時間を一方的に奪うものだ。すぐに出られなかったら、折り返しの電話をすることになる。我々は、電話を利用しているのではなく、利用されているだけなのかもしれない。最初に押さえておかなければならないのは、「電話に出なければならない」法的義務など通常ないということだ。つまり、電話がつながらなかったといって、何かの法的責任を通常直ちに追及されるわけではない。あたりまえのことかもしれないが、電話というものを法的な観点から考えることはないだろう。近すぎるものほど、「あたりまえ」になってしまい、惰性で対応しているものだ。「これはどういう根拠なのか」と身近なものを再確認すると、問題解決の糸口が見えてくる。電話をかける自由があるように、電話に出ない自由も当然ある。クレーマーから「なぜ電話に出ないのか」と批判されても、気にすることはない。「電話に出ない」という経営判断もあってしかるべきだ。最近では、電話番号をあえてホームページなどに掲載せず、すべてオンラインからの連絡に統一している会社もあるそうだ。「電話に出る、出ない」でとくに悩むのが医師である。医師の場合、医師法で応召義務というものが定められている。これは、医師が診療を求められたときには、正当な事由がない限り、応じなければならないというものである。この応召義務の範囲で悩む人が少なくない。クレーマーに限って、「自分は患者だ」という強気なスタンスで医師に詰め寄る。医師としても、「態度がおかしい」と感じつつも、患者と言われると応召義務違反と指摘されるのを恐れて、よしなに対応せざるを得ない。それが結果としてクレーマーをさらに助長し、医師と患者というあるべき関係を破壊していくことになる。医師からは「目の前の患者に集中したいだけなのに」と相談を受けることが多い。応召義務は、決して医師に無制限に対応する義務を強いるものではない。正当な事由があれば、診療を拒否することもできる。クレーマーが医師の指示に反する行動に出て、業務に支障をきたすのであれば、毅然とした態度で対応するべきだ。医師の場合、自分で対応する時間的余裕もないため、弁護士に依頼することも少なくない。クレーマーへの対応を誤ると、他の患者に不安を与えることになる。医師であっても、明らかに不当な要求の電話に対しては「出ない」という判断をするべきだ。医療とは「あくまで医師と患者の相互の信頼と協力のうえでしか成り立たない」というあたりまえのことを貫く必要がある。このように、「電話に出ない」のもひとつの方法だ。それでも、担当者個人が「電話に出ない」と判断するのは難しい。そこで、どの段階まできたら電話に出ないという取り扱いにするかを社内で明確にしておく。取り決めは「とりあえず」というくらいの気持ちでなければ、いつまでも決まらない。いったん決めてしまって、不都合があればフィードバ

ックして修正していけばいい。とにかく決めることが先だ。「電話に出ない」という対応ができないのは、つまるところ、「クレーマーの感情をさらに逆なでするのではないか」という不安があるからだ。そういった不安はあって当然であるが、乗り越えていかなければならない。いったん基準を決めたのにクレーマーに対する恐怖心から電話対応を続けていたら、さらにたたみかけられる。電話に出ないという対応をすると、クレーマーからの電話がさらに続くことがある。それでも、いつまでも同じ状況ということはない。どこかの段階でクレーマーもあきらめておとなしくなってくる。クレーマー対応では、このように「あえて何もしない」というのもひとつの有力な方法であることを覚えておいてほしい。

「あなたを大切にしているから電話を切る」という姿勢を打ち出すクレーマーは、自分の要望が実現しないとわかると、感情的になりがちだ。普段の暮らしのなかで、第三者から何かを感情的に言われることはあまりない。しかし、これが電話となると、相手の雰囲気がわからないため、なおさら困惑する。「相手が興奮しているからなんとかしないといけない」と焦るほど、物事は悪い方向に展開していく。むしろ「なるようにしかならない」と腹をくくったほうが意外とうまく回りだす。電話に限らず、興奮した相手に対して「興奮しないでください。冷静になってください」と言うのは、意味がないだけでなく、むしろ相手をヒートアップさせてしまうことになりかねない最悪の対応だ。「お前の態度が悪いからこうなったのだろう」と詰め寄られるのが関の山だ。興奮した相手との長時間の電話で疲弊しないためには、社内で対応するべき時間を共有する。こういった時間が決まっていないがゆえに、いつ電話を切るべきかがわからず、いつまでも相手の話をじっと聞くだけになる。具体的な時間は、各社が自分たちで決めればいい。通常であれば20分もあればひと通りの質問への回答をすることができるだろう。30分も説明すれば十分だ。こういった時間を経過したら、電話を切るようにしなければならない。さりとて、時間が来たからといって、いきなり電話を切るというのもなかなかできることではないだろう。その場合には「申し訳ありません。〇〇様のご意見は伺いました。大事なご意見ですので、私が単独で判断することはできません。いったん上司と協議したうえで、検討させていただきます」などと言って切るようにする。ここで大事なのは、「あなたの意見は大事だから電話を切る」というスタンスを明確にすることだ。内心では「これ以上電話を続けても無駄」と感じたとしても、表に出してはならない。相手からの電話がさらに続く結果になってしまう。電話を切ることが苦手な人は、電話を切るにはクレーマーに納得してもらわなければならないと誤解している。「電話を切る」と「クレーマーが納得する」というのは、まったく別の問題である。クレーマーが納得しようがしまいが、電話を切っていい。そこをはっきりさせないと、電話を切ることをいつまでも言い出せない。意識を向けるべきことは、「いかにしてクレーマーからの電話を切るか」であって、

「いかにしてクレーマーに納得してもらうか」ではない。「電話を切る」というところからすれば、「クレーマーの意見を尊重している」という姿勢を見せることが効果的だ。これをされると、クレーマーとしても自分の意見を尊重されたうえでの対応であるため、無下にできなくなる。いったん電話を切ってしまえば、あとは電話ではなく、書面で通知をすればいい。書面の内容としては、「検討のうえ、ご要望には添えない」というものでいい。クレーマーから再度電話があれば、「電話に出ない」という判断も含めて対応することになる。事後的なことは事後的に考えればいいのであって、まずは「電話を切る」ということにこだわっていただきたい。クレーマーは、電話のなかでひたすら自分の要求や意見を連ねる。聞いている側としては、次第に何を言いたいのかわからなくなるときがある。そこで電話を切る時間が近づいてきたら、いったん話を整理するような相槌を打ってみると効果的だ。たとえば、次のようなフレーズが使いやすい。「〇〇様、今回はいろいろご不快な思いをさせて申し訳ありません。当社としては、〇〇様のご意見を踏まえて早急に対応を検討したいと考えております。ついては〇〇様のご要望としては、△△という理解でよろしいでしょうか。当方の不手際で誤解がありましたら申し訳ありませんので、確認させていただきました。長時間のお電話でお手をわずらわせるのは本望ではありません。この内容で間違いなければ、上司と協議して改めて連絡させていただきます」何かを回答するにしても、要望内容が固まらなければ、何について回答しなければいいのかわからず、いつまでも電話を聞くことになってしまう。あえて電話の途中で、こちらからクレーマーの主張を整理することで、クロージングに持っていきやすい。このようにしても、クレーマーのなかには、納得するまで電話を切ることを許さない者もいる。「こちらの了承なく電話を終わらせようとするな」と言う者すらいる。そういうときは、「会社のルールで原則として30分以上の電話対応はできないことになっております。いったん切らせていただきます」と言って切るほかない。再度電話がかかってきても、出ない。必要があれば、書面で事後的に回答すればいい。いずれにしてもどこかで明確な線引きをしなければ、終わりを迎えることができない。「上司を出せ」という要求に屈しない経営者にとって、クレーマー対応は自ら陣頭指揮をとるべき事項である。もっとも、陣頭指揮をとるべきであるが、経営者がクレーマーと直接対面することはできるだけ避けるべきだ。

交渉においては、決定権を持つ者がいきなり出ていくことがいいとは限らない。その場での判断を余儀なくされてしまうため、相手がクレーマーである場合には避けるべきだ。「事業効率」という観点からしても、できるだけ担当者レベルで対応するべきだ。あるメーカーからの依頼は、クレーマー担当部署の部長からの悩みから始まった。物腰柔らかな部長は「とくにこれという問題を抱えているわけではないのですが」という言葉から相談を始めた。自信に裏づけられた穏やかな話しぶりからして、「この人はクレーマー対応に慣れているのだろう」と感じた。部長が悩んでいたのは、クレーム担当者の育成についてであった。担当者が自分で対応せずに、すぐに上司に電話を回してしまうというものだった。結果として、なんでもかんでも部長に案件が集まってしまって業務が回らないということであった。できる部長であるがゆえの悩みかもしれない。業務が特定の優秀な社員に集中することは、中小企業においてよく見受けられる傾向である。中小企業の場合、人材が限られているため、各自の職務範囲がはっきりしていない。経営者としては、とかく「よくできる」人にばかり仕事を無意識にふってしまう。とくにクレーマー対応のような難しい案件であるほど、「信頼できる部下」に任せてしまう傾向が強い。任せられた側としては、なんとか経営者の期待に応えようとするため、無理をする。既存の業務をこなしつつ、さらにクレーマー対応まで強いられると、いかに優秀な人材であっても、手が回らなくなる。しかも業務量に応じた金銭的評価もされなければ、自ずと退職を考えるようになってしまう。ここに中小企業において優秀な人材から退職していく構造的な問題がある。これはクレーム担当部署内部でも同じだ。クレーム対応のレベルは、人によってまったく異なる。対応のレベルが高い人にハードな事案がどうしても集中してしまう。それが一時的なものであればいいが、恒常的なものになれば「やってられない」ということになる。経営者としては、個人が負担している業務量を把握しておかなければならない。クレーマー対応に長けた人がいれば、あえてクレーマー担当の部署から外すのもひとつの手である。本書でも繰り返し述べているが、クレーマーには、人ではなく組織として対処しなければならない。クレーマー対応が個人的に上手な人がいると、いつまでも「その人」に頼ってしまうことになりがちだ。外すと対応が回らなくなるのではと不安視する人も少なくない。だが外すことによって、他のスタッフが一気に成長することが多い。組織の穴はなんとか周囲が補填しようとする。成長の機会としてあえて異動も考えるべきだ。担当者がレベルを上げるためには、基本的なスキルを学んだうえで経験を積んでいくしかない部分もある。「上司を出せ」と言われて、「わかりました。お待ちください」では対応したことにならない。なにより回された上司が対応できるとは限らない。いったん上司が出てしまうと、次は「トップを出せ」ということになる。さりとてクレーマーに「上司に取り次ぐことはできません。私が責任者です」と言うだけでは話は終わ

らないであろう。そこで、クレーマーに満足感を与えつつ、上司に電話を回さない方法を考えることになる。具体的な会話としては、次のようなものがひとつのモデルになる。「○○様のご意見は承知しました。本件については、担当者として一度、上司と時間をとって協議させていただきます。協議の内容については改めてご連絡させていただきます」まずはっきりさせるのは、「担当はあくまで自分であって上司ではない」ということだ。いったん上司が対応してしまうと、以降の対応をすべて上司がしなければならなくなるからだ。そのうえで上司とは別の機会に協議するとして、いったん電話を終わらせるようにする。このとき、重要な案件であるために、上司と時間をとって相談するという話にもっていく。クレーマーからは「本日中に回答しろ」と言われることもある。その際には「本日中に上司と協議できるとは限りません。当社としてもお客様に対してできないことをできるようにお伝えすることはできませんので、ご了承ください」と言って断る。電話を切った後の回答は、電話ではなく、できるだけ会社名を使って書面で発送したほうがいい。担当者は個人であっても、意見としてはあくまで会社のものであるからだ。これに対して、クレーマーから電話があれば、上司の判断であると言って断る。会社として方針を決めたのであれば、そこから動いてはならない。それでも電話が繰り返されるのであれば、電話に出ない対応も検討することになる。クレーマー担当は負担の大きな仕事ではあるが、スキルアップの機会でもある。前向きにとらえていただきたい。ネットに書き込みをされたらあるコールセンターでは、クレーマーからの執拗な電話で業務に支障が出ていた。そこで経営者は、「電話対応を拒否する」という方針を固めた。担当者らは相手に対して「電話による対応には応じられない」と回答した。相手は会社の対応に激高した。それから数日後、匿名で明らかに事実無根のことがネットにおいて記載されるようになった。会社の態度がいかに横柄なものであるか、担当者の態度がいかに悪いかといったことがまことしやかに書かれていた。そこで私の事務所に相談ということになった。ネットは、我々の暮らしの隅々まで広がるようになった。もはやネットのない暮らしは想像することができなくなった。ネットの世界では、誰でも自分の意見を不特定多数の人に容易に発信できる。そこには真実と虚構がない交ぜになっており、なにが真実であるのかわからないときがある。

記事を目にする側からすれば、そこに記載された内容がすべてである。そのため、記載された内容をありのままの事実として受け止めてしまうかもしれない。いったん自分のなかで「これは事実だ」と認識してしまうと、事後的に修正するのは簡単なことではない。しかも人は「他の人も真実を知っておいてほしい」という良心から、真偽を確かめないまま、情報をさらに他の人に意図的に広めてしまう。間違った情報であっても、あっという間に拡散してしまう。そこにネットの怖さがある。ネットに不適切な内容が記載されると、それを目にした人が記載内容から会社についてネガティブなイメージを抱くことになりかねない。会社は反論する余地もなく、ただひたすらイメージを崩されていくことになる。仮に反論したとしても、反論すればするほど「やはり会社の態度が悪い」という印象を周囲に植えつけることになる。しかも採用申込を検討している者がネットで会社の悪評を目にすれば、「ちょっとやめておこう」ということになる可能性もある。この売り手市場の時代に、あえてリスクの可能性があるところに申し込む必要はない。このように止めようのないネットへの書き込みに、我々はどのように対処するべきであろうか。まず押さえておくべきは、我々がネットにおける書き込みで恐れているのは、クレーマーからの事実無根の記載そのものではないということだ。内容については、クレーマーが根拠のないことを記載して会社を批判しているだけだと割り切ることもできるだろう。実際に恐れているのは、事実に反する記載内容を真実だと誤解する第三者がいることだ。つまりフォローしないといけないのは、記載内容そのものではなく、第三者が自社をいかにイメージするかについてである。そのように整理すれば、対処法も自ずとわかってくる。不適切な記載を目にした経営者からは「他の人の目に触れないように、すぐに抹消するよう手続きを進めてください」という相談を受けることがある。司法的手続などを利用することで、不適切な記載内容を抹消することができるケースもあるが、実際は必ず抹消できるとは限らない。しかも「今すぐに」ということもなかなか難しい。とくに司法的手続をとるには、根拠を確保して申立てをする必要があるため、時間を要する。そもそも弁護士に依頼するのであれば、相談日を設定するまでにすら時間がかかるかもしれない。その間にも間違った情報は広がり続ける可能性がある。こういったとき、相手の意見に反論するコメントをあわてて記載するのは得策ではない。むしろクレーマーの思うつぼであろう。反論すればするほど、「弱い立場の消費者の意見が悪徳な会社によってつぶされそうになっている」という構造に持ち込まれやすいからだ。しかも何が真実であるのかの根拠をネットでは示すことができないため、第三者に「悪徳な会社が単に言い訳をしているのではないか」とさらなる誤解を抱かせることになりかねない。このように、ネット上のコメントで議論に持ち込むのは避けるべきだ。公開討論になれば、会社側が不利になることが多い。ある医療機関は、担当したスタッフの態度が悪いとして、批判めいたコメントがなされた。医師からは、コメントについて反論を記載するべきかと相談を受けた。これについて、私は「現状では反論しないほうがいいです。かえっ

て反省しないクリニックという印象を与えかねません」と説明した。コメントを残すのであれば、「ご不快を与えたようで申し訳ありません。当院としても事実関係を確認させていただきたいと考えております。つきましては具体的な内容について直接連絡をいただけないでしょうか」というものがいい。これを目にした第三者は「組織として意見を聞いて事実を確認しようとしている」という真摯な印象を受ける。先の事例でも、このような趣旨のコメントを書いたら、すぐに鎮静化した。実際には連絡など来なかった。ネットの書き込みについては、あえて何も反論せずに放置しておくというのもひとつの手である。クレーマーの記載内容は、ときに過激な表現になることがある。こういった過激な表現は、良識ある人が見れば不可解なものに映る。何かを批判することと過激な表現をすることは意味が違う。穏やかな表現でも、クリティカルな批判をすることができる。逆に過激な表現でも、無意味な批判もある。あまりに過激な表現は、むしろ良識を疑わせる。過激な表現に対しては何もせず、目にした人の良識に任せるのもひとつの手だ。クレーマーとしても、反論がなければ、さらにコメントをすることはできない。反論がないのにひたすらコメントを書き連ねていくというのであれば、それだけで第三者から見れば不可解な状況だ。第三者に「このコメントは信用できない」と感じてもらえれば十分である。

書面でやりとりすることで、記録に残すクレーマーとのやりとりは、電話で始まることが多い。電話は番号を押せばすぐに担当者につながるため、クレーマーにとって便利な道具だ。しかも、時と場所を選ばないため、クレーマーは自分の都合だけで電話をしてくる。電話は「やりとりの内容が当然に記録に残るものではない」という点においても、クレーマーにとって利用しやすい。逆に言えば、担当者にとって電話は非常に迷惑なものだ。時間ばかり取られて、本来の業務に支障をきたすこともある。しかも電話でまくしたてられると、相手が何を言っているのかよくわからなくなる。カタチがないから、社内での情報共有も簡単にできない。だからこそ、クレーマーとのやりとりは、できるだけ電話ではなく、書面でのやりとりに意図的に持ち込むようにするべきだ。書面でのやりとりにするのは、なによりクレーマーとの電話越しの直接交渉を避けることができるからだ。電話での威圧的な言葉を耳にすることに比べれば、表現のきつい文章を目にするほうがまだ精神的な負担は軽いだろう。また、一歩引いた状況で冷静に見ることができる。しかも、一方的な電話による業務の中断などを回避することができる。また、書面にすれば、クレーマーとしても意見を表現するのに手間がかかる。電話であれば簡単に連絡がつくものの、書面となると自分の要求を整理して文字にする手間が増えてくる。クレーマーは、こういった手間を極端に嫌悪する。「自分は被害者だ。なぜ手間のかかることを求められるのか」と言われることもある。あるメーカーの案件では、クレーマーに対して書面での要求を求めた。もともとまったくもって根拠のない要求であったが、一応話を聞くという姿勢で書面を求めた。クレーマーからは、当然のように感情的な反発があった。それに対して、「書面できちんとした要求ができないものに応じるわけにはいかない。書面で要求することに何か不都合があるのか」と明確に回答した。それ以降、相手からの連絡は途絶えた。さらに書面でのやりとりであれば、交渉の経緯が記録される。事後的に裁判をすることになった際、相手からの書面を資料として利用することができる。クレーマーは、自分の要求が記録になるため、言葉を選ぶようになる。クレーマーの要求内容は、時間が経過するとともに変化していくケースも少なくない。ある事案では、飲食店で店員がビールを客にこぼしてしまったことについて、当初は謝罪

とクリーニング代を要求していたものの、いつのまにか慰謝料などを求め始めてきた。もともと慰謝料など要求していなかったのではと指摘すると、「言い忘れていただけ。しかも会社の対応に不満があるので、いっそう迷惑を受けた」とサラリと言われたことがある。こういった相手の主張が変化することを防止するためにも、書面でのやりとりにこだわるべきだ。もっとも、いかにして電話から書面にもっていくかについて知恵を絞る必要がある。単に「電話ではなく書面で」と言ったところで、クレーマーが応じるはずはない。ここで利用しやすいフレーズが「責任ある回答」というものだ。人は「責任」という言葉に特別の思い入れがある。「責任ある行動」と言えば力強さを感じるし、「責任を追及する」と言われると後ろめたさを感じる。クレーマーに対しては、次のような文脈で利用するのがひとつの手だ。「〇〇様のご意見は承知しました。当社としても責任ある回答をさせていただきます。当社では、大切なお客様への回答について、当社の見解を確実にお伝えするため、書面にて回答させていただくようにしています。つきましては、改めて郵送させていただきます」ここでは「大切なお客様ゆえに書面で責任ある回答をする」としている。クレーマーとしても、自分が尊重されているがゆえに書面にて回答されると言われると、反論しにくくなる。なかには「書面など待っていられない。すぐに電話で回答しろ」と言う者もいる。そういうときは、「当社としては責任ある回答をさせていただく場合には、書面にて対応しておりますのでご了承ください」と言って、書面での回答に持ち込んだ方がいい。このようにしていったん書面での回答に持ち込んだら、すべて書面で回答するようにする。相手からの要求についても、「当社として〇〇様の御意向を正確に把握させていただくため、書面にてご要望をいただけないでしょうか」とするのもひとつの手だ。書面で要求がされると、相手の主張を固めることができるので対応しやすい。それでも、実際には電話で要求してくるときがある。そういうときでも書面で回答することを貫く。回答する書面において、「〇〇様から令和元年□月□日付の御電話にてなされた△△というご要望についての回答をさせていただきます」というフレーズを最初に入れておくといい。事後的に訴訟になったとき、相手から当時いかなる要望がなされたかを証明する資料になるからだ。書面で回答するときには、将来の裁判などを見越したものにしておく必要がある。

書面には必要最小限のことしか書かないクレーマーに書面で回答するとき、気をつけていただきたいことがある。それは必要最小限の回答しか書面に記載しないということだ。我々は、書面で回答するとなると、できるだけわかりやすく丁寧に回答することが正しいことだと考えがちである。それは間違いではない。しかし、クレーマーを相手にしている場合、詳細に記載し続けることで、かえってあげ足をとられてしまうことがある。多くの担当者は共感するかもしれないが、クレーマーは、人の言葉のごくわずかな部分を拾いあげて糾弾することが得意だ。「それはどういう意味なのか」「なぜそうなのか」と、質問あるいは批判の対象が増える一方である。これに対して、当初は丁寧に説明していても、次第に同じことの繰り返しになり、徒労感に襲われる。そこで適当にあしらうと、「会社としての説明責任を果たしていない」と根拠のない批判を受けることになる。まさに無限の批判を受け続けることになる。これでは担当者の精神力がもたない。書面で回答をする際も、クレーマーからさらなる指摘を受けることがないように注意する必要がある。ある食品関係の会社は、クレーマーからの質問に対して、詳細な報告書を作成して、送付した。報告書の内容は「客観的な調査の結果、クレーマーの指摘するような問題はなかった」という結論で終わっていた。会社としては、これまでの経緯からこれで終わるとは思っていなかったものの、少しは進展するかもしれないという期待を寄せていた。しばらく時間が経過しても、相手からの回答がないため、「もしかしたら納得してくれたのか」と淡い期待を抱いていた。すると後日、報告書のあらゆる部分に対して、さらなる質問が記載されたものが返送されてきた。会社は、これらについてもしぶしぶ回答書を作成して返信した。もちろん相手からの回答は「こんな曖昧な回答では納得できない。次の事項について説明をしていただきたい」というものであった。「終わりがない」ということで、私の事務所に相談に来ることになった。クレーマーのなかには、「とにかく説明をしろ」と執拗にたたみかけてくる者がいる。中途半端な知識を持っている人に限って、こういうクレーマーになりやすい。「自分はこの分野に精通している」という誤った自信がクレーマーを駆り立てるのかもしれない。この手の人の根底にあるのは、「自分の見識が会社よりも優れていることを知らしめよう」という根拠のない自尊心だ。このタイプのクレーマーは、いくら説明をしたとしても終わりがない。説明をしたとしても、「ここに新たな疑問が」ということになる。現実的な対応としては、「これ以上の説明はいたしません」という回答をどこかの段階ですることになる。クレーマー対応に不慣れな担当者は、丁寧な対応を心がけるばかりに過剰な回答を用意する傾向がある。余計なことを書いたばかりに、さらに別の攻撃を受けてしまう。したがって、クレーマーからの質問に対しては、あくまで「質問に対する回答」にこだ

わるべきだ。しかも簡潔かつ明確に答えることを心がけていただきたい。極論すれば「貴殿からのご要望には応じかねます」という回答もある。いずれにしても、必要最小限のことだけ回答するようにする。こういった書面は、できるだけ配達証明付書留郵便で送付することをお勧めする。クレーマーからは「そんな書面をもらった記憶はない」と裁判などで言われることがある。相手に書面が届いていることを明らかにするためにも、配達証明付書留郵便がいい。最後通告を書面で出すいかに電話で懇切丁寧に説明しても、理解してもらえない人はいる。我々は「あきらめてはいけない」と繰り返し教わってきたが、現実的にはあきらめることも必要だ。あきらめるからこそ新しい一歩を踏みだすこともできる。「あきらめる」の語源は、「明らかにする」で、必ずしも消極的な意味ではないそうだ。あきらめなければ、いつまでも同じ苦しみを味わい続けることになりかねない。クレーマーからの執拗な攻撃を振り切るために、あきらめも必要だ。ここでいう「あきらめる」とは、「クレーマーからの電話などに回答しない」という意味である。「回答しない」と言葉で表現するのは簡単だが、いざ実行するとなるとストレスになる。「本当に回答しなくてもいいのか」「また執拗に電話が続くのではないか」など、不安はいっそう増えてくる。こういった不安がクレーマーを振り切ることを阻害する。状況を打破するには、ひとつの区切りとして書面を出しておくといい。「今後は回答しません」ということを相手に書面で通知するわけである。言い切ることによって、精神的な不安も軽減される。こういった通知を出すことにも当然ストレスはかかるだろう。それでも出さなければ状況が進展しないと覚悟を決めていただきたい。具体的な文面としては、以下の点を盛り込むといい。①これまで十分に説明をしてきたこと②今後は必要な場合のみ書面で回答すること③必要に応じて司法的判断を受けること具体的な文例としては、次の図表3のようなものだ。

文面のなかで会社として十分な説明をしてきたことを明示する。相手は、「十分ではない」と主張してくるだろうが、こちらとしてしかるべき説明を尽くしたと考えているのであれば、言い切った方がいい。説明が十分であるかどうかは、行きつくところは評価の問題であって、当事者の話し合いで着地点を見出せるものではない。最終的には裁判所の判断を仰げばいい。そのうえで、「今後は原則として対応しない」ことを明確に伝える。ここは曖昧な表現ではなく、相手の感情を逆なでするとわかっていても、クリアにする。「言い切る姿勢」が担当者の自信と安堵になる。クレーマーを相手にする以上、何をやっても反発を受けることは予想される。相手の反発を恐れるあまり、曖昧な表現でお茶を濁すと、方針が定まらず、かえってトラブルが拡大する。もっとも、すべての照会などに「一切回答しない」と答えるのも、企業のスタンスとしては問題と言える。そこで「回答の必要があると判断したときには書面で回答する」という文言も含ませておく。こうすれば、誰に対しても「会社として必要な場合には説明する意向がある」という説明がつく。さらに会社の対応に不満があれば、司法的判断を仰いでもらうほかないと指摘しておく。司法的判断を仰ぐとは、あたりまえのことを指摘しているにすぎない。クレーマーは「訴えてやる」という言葉を相手にプレッシャーを与えるための道具として利用する。だからこそ、こちらから「どうぞ必要であれば訴えてください」と言われることを想定しておらず、たじろぐ。相手からのプレッシャーを無効にし、かつ個別の話し合いを避けるためにも付言しておくといいだろう。こういった書面は、配達証明付内容証明郵便で送付しておくといい。内容証明郵便であれば、どのような内容の書面を送付したかについて明らかにしておくことができる。事後的な裁判などにおいても証拠として利用しやすい。いったん、このような書面を出したら、基本的にクレーマーからの電話などに対応してはならない。これは社内でも徹底しておかなければならない。知らない担当者が個別に対応すると混乱することになる。発送後しばらくは相手からの電話などが続くかもしれないが、ある程度時間が経てばなくなる。こういった耐える時間も問題の解決には必要だ。最終的な通知文については、事前に一度弁護士に確認してもらったほうがいい。仮に最終通知文の送付後に裁判になったときでも、事前に弁護士に確認してもらっておけば、スムーズに引継ぎをすることができるはずだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次