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第5章クレーマーからの執拗な面談要求の断り方

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第5章クレーマーからの執拗な面談要求の断り方

クレーマーから「今すぐ謝罪に来い」「今日の午後9時に上司と説明しに来なさい」などといった面談要求を受けることがある。こちらにもミスがあると、「とにかくお詫びに行かなければならない」ということで、相手の言うとおりに動いてしまいがちだ。クレーマーは、一方的に会社の受付などにやってきて、管理者との面談を要求することもある。「他のお客様もいらっしゃいますから」と説明しても、「自分よりも大事なことがあるのか」と反論されてしまって、「とりあえず別室にて」ということになってしまう。クレーマーに会って話を聞かなければならないのは、ある意味では電話対応よりも気が滅入るものだ。いくら丁寧に説明しても、相手の都合が悪くなれば、また最初からだ。一方的に批判されると、「いったい、いつになれば帰宅できるのだろう。相手の言うとおりにすればいいのか」という気持ちにすらなってしまう。そこで、本章では、クレーマーから面談を求められた場合の対処法について、説明しておこう。クレーマーからの面談要求に応じるべき法的義務は通常ない。「説明責任を果たす」という意味では、面談でなく書面での説明で足りる。つまり、会社は面談要求に「応じる」か、「応じない」かを決めることができる。もっとも、経営判断としては、いきなり「応じない」とは言いにくく、「一応会って話を聞く」というのが一般的だろう。とくに、こちら側にミスがあれば、謝罪の意思を示すためにも会わざるを得ないときがある。しかし、そういう場合であっても、相手の「今すぐ来い」という電話に直ちに対応することが適切とは言えない。相手に都合があるように、こちらにも都合がある。相手の求めるまま面談に応じていたら、いつのまにか交渉の流れを相手に握られてしまうことになる。仮に面談に応じる場合は、事前に戦略を練っておかなければいけない。「会って胸襟を開いて話をしよう」と言っても、たいていの場合、相手の批判を一方的に聞くだけで終わってしまう。いつ、どこで、どうやって面談をするかについても、会社のなかで設定するようにする。予想していない展開になれば、切り上げる勇気も必要である。退去を求めても応じない場合には、「警察を呼ぶ」という選択肢も検討するべきである。本章では、こういった面談要求における対処法を説明する。面談をするときの心構えと準備をしていただきたい。

担当者を恐怖に陥れる自宅軟禁は交渉の場とは言えないある食材を扱う店で、購入した食材についてお客からクレームがついた。「ゴミのようなものが含まれていた。直ちに自宅に謝罪に来い」という電話だった。担当者は、あわてて事実確認のために指定された夜6時に相手の自宅を訪問した。担当者としては、謝罪したうえ、問題の物品を持ち帰って改めて連絡をする腹積もりだった。しかし、ものの見事に見込みが外れた。到着と同時に、家族総出で一斉攻撃が始まった。事実確認したい旨を切り出す暇もなく、彼らはいかに自分たちが迷惑をかけられたかを話し始めた。担当者は、相手の剣幕に圧倒されて、何も言い返すことができず、ただひたすら聞くしかなかった。機転を利かせて会社に電話しようとすると、「勝手に電話をするな」と言われて何もできなかった。そのクレーマーは「会社として、どのように責任を果たすのか、見させてもらうから」と言い放って、やっと帰宅を許された。時計の針はすでに深夜を指していた。クレーマーは、担当者に名前と個人の携帯番号まで書かせていた。責任感の強い担当者は、クレーマーとのやりとりをなんとか自分だけで解決しようとしていた。顔色が悪い部下の異変に気づいた上司が事情を聞いた。担当者は、最初は何も言わなかったようだが、上司が踏み込むと、とつとつと話を始めた。そして、一気に泣きだしてすべての事情を語り始めた。上司から事実を知らされてあわてた経営者は、人づてに私の事務所に相談に来た。「うちの社員をここまで苦しめて。許せない」と息巻いていた。こんなことがあるのか、と思われるかもしれないが、実際にある。少なくない人が「帰れる雰囲気ではなかった」「正直言って恐怖だった」という経験をしている。ある担当者は、過度の緊張から体調を崩してしまい、会社に来るのが苦痛になってしまった。先の事例では、上司が部下の異変に気がつけるだけの力量があったからまだよかった。誰も気がつかなければ、担当者はクレーマーの言いなりになっていたかもしれない。こういった面談は、もはやクレーム対応の交渉とは言えない。明らかに異常であって、応じるべきものではない。そもそも誰かが面談を要求したとしても、会う・会わないは、こちらの自由である。相手が要求したからといって、会わなければ直ちに違法というわけではない。相手の様子が不可解であれば、「身の安全を確保するために会わない」という

のが賢明な選択である。それにもかかわらず、クレーマー対応の現場では、この常識が失念されていることが多い。「こちらにミスがあるのかもしれない」という不安から事実確認の方法もわからないまま、とりあえず面談に応じるというケースが多い。面談のなかで一方的に糾弾され、いつのまにか会社にミスがあることが前提になって話が展開していくことになる。クレーム対応は、なによりも事実の確認から始まる。クレーマーは、あえて担当者を急かして事実確認を飛ばして、自分の要求を声高にしてくるところに特徴がある。事実が冷静に確認されて、自分の要求に根拠がないことが明確になることを恐れている。何も準備しないで面談に行けば、当然クレーマーの巧妙なプレッシャーに敗れて、さらに深い穴に落ち込んでしまう。「怖い」と感じるような状況は、もはや対等な交渉とは言えない。そのような面談につきあう必要はない。ある担当者が面談に行って心理的に圧倒されている場合は、担当者を直ちに変更するべきだ。あるいは、いっそ弁護士に任せてしまうのもひとつの手だ。本人が「自分でなんとかしてみせます」と言っても、担当させるべきではない。人は、いったん恐怖心を抱くと、容易に払拭することはできない。恐怖心を払拭できないことでさらに落ち込む可能性もある。しかも「なんとかしなければならない」と焦ってしまい、かえってクレーマーの指示どおりに動くようになる。最終的には会社のルールに反する行動にまで出ることがある。実際、そういう辛い事例を目にしたことがある。経営者は、泣いて馬謖を斬るではないが、社員にしかるべき処分を下した。「会社のため」という気持ちで始めたことであっても、ルールに反した事実に間違いはない。ルールに反したことを放置すれば、組織全体に悪影響を及ぼすため、仕方のない判断ではあった。クレーマーから夜間の面談を求められたときクレーマーは、とにかく自分のペースで案件を進めようとする。無理なことでも主張し続ければ、相手も従わざるを得なくなると考えている。面談要求についても、会社の都合に関係なく、一方的に日時・場所を指定することが多い。都合が悪いと言おうものなら「誰のせいでこんなことになったのか、わかっているのか」とさらに糾弾してくる。会社としては、話が大きくなることを避けるため、仕方なくクレーマーの指示どおりの時間に訪問することになる。そのため、他の優良な顧客との面談をキャンセルしなければならないときもある。指定された時間が勤務時間中であればまだいい。実際には勤務時間外である夜間や休日を指定されることもある。なかには深夜を指定されるときもある。そういった時間を指定されると、「クレーマーからの要求だからといって、深夜まで対応しないといけないのか。あまりにも常軌を逸していないか」と疑問と不満を抱きつつも、反論できずに訪問することになってしまう。このような態度であれば、労働時間の規

制などあってないようなものだ。根拠に基づいて何かを要求するにしても、無制限の方法が許容されるものではない。たとえば、債権を取り立てるにしても、午後9時から午前8時までの訪問は法律で禁止されている。クレーマーの場合、そもそも要求の根拠すら薄弱である。一方的に日時を指定されたからといって、「はい、わかりました」と応じるべきものではない。したがって、午後9時以降の面談を求められた場合は、早急の事実確認を要する場合などを除いて、断るようにする。断るときは「会社のルール」という言葉を利用するといい。たとえば、「申し訳ありませんが、会社のルールで午後9時以降の面談は禁じられています。もしお急ぎであれば、ご意向をメールにてお伝えください」と回答する。単純に「午後9時以降は面談できません」と言うよりも、「会社のルール」という自分ではどうしようもない理由で訪問できないことを前面に打ち出す。冷静に考えれば、会社のルールだからといって、クレーマーがそれに従わなければならないというものではない。あくまで会社内部でのルールでしかないからだ。それでも人は、何らかの理由を提示されると、できるだけ対応しようとする傾向がある。担当社員にとっても、「会社のルール」というものがあれば、説明もしやすくなる。そのため、面談をする場合は、会社のルールをあらかじめ作成しておくべきだ。概略として、以下のような項目についてルールを決めておくといい。①訪問する時間帯②訪問する人数③滞在時間④訪問場所⑤帰社できなくなったときの対応次に休日における面談要求についてである。これはこちら側のミスの内容にもよる。早急に事実を確認する必要がある場合は、応じることもやむを得ないときもあるだろう。もっとも、クレーマーからの要求は、早急の対応を要しないことのほうが多い。休日の対応に簡単に応じてしまえば、「応じること」がスタンダードになってしまう。クレーマー対応は、あくまで業務のひとつだ。休日は、労働の義務から解放されている。クレーマー対応にあえて休日まで応じる義務は社員個人にはない。ここははっきり認識しておくべきだ。こういった休日対応を断る場合は、「会社のルールによって休日における個別の対応は禁じられています。もっとも、ご意向はできるだけ早期に伺いたいので、メールあるいは郵送にて教えていただけないでしょうか」と回答することになる。これに対して、「休日なんて会社の都合でしかない。顧客をなんだと思っているのか。迷惑を受けた顧客がいれば、休日なんて関係ないだろう」と反論してくる者もいる。そういうときは「お客様のニーズにお応えしたいという気持ちはありますが、何をするにして

も限界があります。私としても、会社のルールに従わざるを得ない立場にあります。もっとも、当方としては大事なお客様のご意見は早急に伺わせていただきたいと考えております。つきましては、この電話にて概略をお伝えください。さっそく上司に報告させていただきます」と言って面談を断ればいい。仮に平日の就業時間中の面談を求められた場合であっても、会社の都合がつかないのであれば、調整を求める。クレーマーはとかく「すぐに」と言って、内容に関係なく相手を急かす。急かされると冷静な判断ができなくなってしまう。「申し訳ありません。当方としても大事なお客様からのご依頼ですので、すぐに対応させていただきたいのですが、別の用件がすでにあり、直ちに伺うことが困難です。まずはお電話にて、ご不満な点などを教えていただけますか」と言って、できるだけ訪問せずに電話で話が終わるようにするのもひとつの手だ。いずれにしても、「すぐに来い」と言われて、何も考えずに「とりあえず伺います」ということがあってはならない。怖くて念書にサインしてしまったときはクレーマーは、ときに担当者の言質をとるために圧迫した状況で一筆書かせてサインを求めることがある。この「サインをしてしまった」という自責の念がさらに担当者を孤独な世界に追い込むことになる。ある顧問先の経営者から、「すまないけど、知り合いの社長が困っているそうだ。急いでいるようなので相談に乗ってもらえないか」という連絡があった。ふたつ返事で承諾すると10分後に事務所の電話が鳴った。「至急会っていただけないでしょうか。社員がトラブルに巻き込まれて」とあわてた声だった。ただならぬ様子から、夕方のすきま時間に来所してもらうことにした。落ち着きを取り戻した経営者とうつむきがちな30代前半の男性社員がやってきた。この社員は、ある軽微なミスをしたため、クレーマーのターゲットにされてしまった。自宅に呼びつけられて4時間も一方的に批判されたらしい。帰宅しようとしても、「説明と謝罪が足りない」と言われて許されなかった。クレーマーからは、「帰宅するなら『すべてを賠償します』と一筆書いておけ」と言われたそうだ。もちろん社員は断ったが、許される雰囲気ではなかった。社員は「早く帰りたい」という一心で、言われるまま書いて署名をした。社員は「とんでもないことをしてしまった」という自責の念に駆られ、夜だったが上司に相談をした。そして、来所となった。社員は、相談中、ずっと下を向いていた。「このくらいのこと、気にしなくていいよ。こっちでやっておくから」とあえて明るい声で答えた。そのときの驚いた社員の顔は忘れられない。「何かを自分で書く」というのは、我々の想像以上に心理的拘束を生み出す行動だ。仮に

本意でなくても、自分で書いたことについて「責任を果たそう」という心理になりやすい。明らかにおかしなことでも、自分でサインしたために「従わなければならない」という心理状態に陥りがちだ。クレーマーが自筆の署名を求める目的は、書面による証拠を確保すること以上に、自ら書かせることで担当者を心理的に制圧することにある。心理的に制圧できないと判断する相手、たとえば弁護士などに「これに今すぐ署名しろ」とは言ってこない。プレッシャーをもう少しかければどうにかなるなと判断すると、疲労させて「書かせる」という行動に移りやすい。先の社員にしても、「自分で書いてしまった」ということで、ひどく自責の念に駆られてしまった。クレーマー担当者がやりとりのなかで自責の念に駆られることは珍しくはない。責任感の強い人ほど、落ち込む程度も深い。こういうとき、上司が担当者の問題行為を批判するのは最悪の対応だ。担当者は、批判を恐れてしまい、自分のしてしまったことを隠蔽するようになる。こういうときは、「大変だったな。ありがとう」というねぎらいの言葉こそかけるべきだ。誰しも「怖い」と感じれば、その場から離れるために何でもする。それが「まずいこと」だとわかっていても、身の危険を感じるような状況であれば、やむを得ない。むしろ署名して無事に帰ることができたのであれば、よしとするべきだ。しかも、こういった状況で署名したからといって、当然に法的拘束力が認められるものではない。実際には「書面にサインしたらすべて終わり」と誤解している人も少なくない。書面に署名があったとしても、署名をするまでのプロセスに問題があれば、書面に記載のある内容を争うことができる。何時間も糾弾された挙げ句に「サインしなければ帰宅できない」という状況下でなされた署名など、法的効力が認められないのが通常だろう。したがって、「自分で書いた」ということを過剰に意識するべきではない。むしろポイントになるのは、書いてしまった後の対応である。本意ではない署名などをさせられたときは、直ちに弁護士に相談する。そして弁護士からクレーマーに対して「脅迫されたうえで署名したものであるから内容について争う」という趣旨の書面を送付してもらう。これは当日か翌日には発送してもらうべきだ。時間が経過するほど、署名の効力などを事後的に争うことが難しくなる。先の事案も、直ちに内容証明郵便にて署名の効力について争うことを通知した。クレーマーからはすぐに電話があった。クレーマーは、署名されたメモを金科玉条であるかのように話していた。これに対しては、「それほどメモの有効性に自信があるならば、訴訟で決着をつけましょう。こちらから訴えます」と回答した。クレーマーは激高して電話を切った。それ以降、連絡はない。たった一言ですべてを逆転させることもある。

交渉の成否は面談前に決まっている交渉の成否は、事前の準備によって決まる。同様にクレーマーとの面談の成否についても、いかに事前に準備したうえで臨むかによって成否が決まる。面談には戦略を要する。それにもかかわらず、少なくないケースで「とりあえず訪問を要求されたから」といって、あわてて訪問することだけにフォーカスしてしまう。ここには戦略がない。クレーマーは「どのようにプレッシャーをかけようか」と考えている。何も考えずに向かっていくのは無謀でしかない。そこで、面談前に会社として準備するべきことを確認しておこう。①単独で訪問してはならない面談を実施する場合、単独で訪問してはならない。「ひとり」というだけで精神的に抑圧されやすい。担当者は2名以上で訪問するようにする。このとき、役割分担を明確にしておこう。ひとりはクレーマーの話を聞いて意見を述べる役割を担う。もうひとりは交渉を記録する役割を担う。直接クレーマーと話をする担当者は、特段に話をするのが上手な人にこだわる必要はない。むしろ饒舌な人は「意見を言わないといけない」と焦ってしまい、クレーマーの感情を刺激することがある。こういった場に強いのは、話すことより聞くことがうまい人だ。クレーマーに意見を述べてもなかなか理解してもらえない。むしろ相手から何を言われても話を聞いて受け流せるようなタイプの人が適任だ。②必ずICレコーダーを持参する記録係の担当者は、必ずICレコーダーを持参する。用意できなかった場合は、手持ちのスマホによる録音でもいい。「会社のルールでお客様のご意見を正確に記録するために録音させていただきます」と言って、あえて机の上に置いて話を始める。これはクレーマーの不適切な発言を牽制するためである。こちらが録音している状況で相手も録音するというのであれば、あえて拒否することもない。相手だけが録音しているという状況になれば、いったん面談を打ち切るべきだ。おそらく発言することにプレッシ

ャーを感じてうまくいかない。③会社として、いかなる事実をどのような方法で確認するのか決定しておく最初の面談の目的は、相手の要求内容と事実の確認になる。事実確認は、クレーム対応の最初の一歩になるが、意外と疎かになっていることが少なくない。「いかなる事実を確認するべきか」が定まっていない状況で面談に臨んでしまうため、失敗する。とりあえず相手の主張した事実だけを事後的に確認する作業だけで終わってしまう。これでは要求内容の是非を検討する事実確認になっていない。そこで会社としては、ⅰいかなる事実を、ⅱどのような方法で確認するのか、を決定しておく。このふたつの要素を切り分けて明確にすることで、交渉の方向性が決まりやすくなる。事実というのは、調べ始めたら終わりがない。限られた時間のなかであらゆることを調べることは不可能である。調査するべき事実の範囲をあらかじめ決めておく。これはあえて調査しない範囲を決めることでもある。そのうえで、対象となる事実をいかなる方法で確認するかも社内で共有する。ある事実の有無についての判断プロセスは、人によって異なる。同じ資料を見たとしても、「ある」と言う人もいれば、「ない」と言う人もいる。だからこそ、あらかじめ判断方法を決めておくことが大事になってくる。最終的には「誰が、何を決めるか」ということである。会合で、意見は出るものの結論が出ない場面に出くわすことがある。これは意見の集約方法があらかじめ決まっていないから発生するものだ。④面談でやってはいけないことを確認しておく面談に臨む際は、「やってはいけないこと」を確認しておく。「やるべきこと」よりも「やってはいけないこと」の共有こそポイントになる。クレーマーを目の前にして「あれもこれも聞かなければ」と考えると、緊張感からかえって質問できなくなる。「予定していたことのひとつでも聞ければよしとしよう」くらいの軽い気持ちで十分だ。むしろ「やってはいけないこと」だけを意識できれば、対応としては成功と考えてもらってもいい。たとえば、個人の携帯番号を教える、個人の住所を教える、家族構成を教える、その場で結論を出すなどといったものだ。担当者としては、「やってはいけないこと」がわからないから、つい「会社のため」と判断してやってしまう。だからこそ、会社から「やってはいけないこと」を明確に指示しておく。⑤あらかじめ決まった時間に担当者に電話をかける会社は、担当者が現場から立ち去ることができるような配慮も検討するべきだ。当事者は、なかなか現場から「帰ります」と言うことができない。ときには電話すらしにくい状況もある。そこであらかじめ決まった時間になれば、会社から担当者の携帯電話にかける

ように決めておく。たとえば、1時間経過した段階で電話をする。担当者は、携帯電話の音が鳴るように音量をあえて上げて設定しておく。クレーマーとしても、電話音が鳴り続けば話の邪魔になる。そのため、「電話に出るな」とは言いにくい。電話に出てしまえば、「いったん会社から帰社するように指示されました。申し訳ありませんが、本日はこれで失礼させていただきます」と立ち去りやすい。このように、ひとつの面談においても準備できることは多々ある。クレーマーの自宅での面談は避けるクレーマーは「すぐに来い」と言って、自宅での面談をあたりまえのように求めてくる。面談は、クレーマーの自宅でなければならないというものではない。それにもかかわらず、自宅での面談を当然のように求めてくるのは、クレーマーにとってこれほど有利な場所はないからだ。自宅は、クレーマーにとって自分の領域である。クレーマーは「自分が被害者である」と一方的に設定したうえで、自宅に来るように指示する。本来であれば、事実確認がなされていない段階で被害者に該当するかは不明である。だが、会社としては「お客様からのクレームだから」といって、やむを得ず言われるがまま訪問することになる。クレーマーは、自分の領域にあえて担当者を出向かせることで、自分が優位な立場にあることを無言のうちに示そうとする。担当者も「自宅に訪問する」というだけで、なんとなく後ろめたさを感じる。しかもクレーマーにとっては、自宅は慣れ親しんだ場所で安心感もある。これに対して担当者にとっては、はじめての場所で不安もある。場所は、交渉における心理状態に相当の影響を及ぼす。「自宅」というだけで、担当者は不利な状況にあることは間違いない。私も交渉を生業としているが、相手の自宅で交渉することはできるだけ避けるようにしている。会社の担当者であれば、なおさら相手の自宅で交渉することは避けるべきだ。面談の場所は、できるだけこちらで決定するようにすべきだ。相手が自宅を指定してきたら、「ご自宅に伺うのは失礼であるため、会社のルールとして禁じられております。そのため、ご自宅近くの場所を当方にて手配させていただきます」と回答するのもひとつの手だ。面談の場所としては、喫茶店あるいはファミレスといった、できるだけ第三者の目があるところがいい。第三者の目があれば、クレーマーも声を荒らげたりすることができない。店舗であるため、長時間にわたって同じ場所に居続けることもできない。担当者としても、話を切り上げて立ち去ることが自宅と比較してやりやすい。喫茶店などでの交渉を勧めると、「そんなところで交渉しても大丈夫か。第三者に聞かれて問題にならないか」と質問されることがある。相手が同意すれば、どこで面談を実施したとしても問題はない。そもそも喫茶店でくつろいでいる人がこちらのやりとりに耳を

そばだてることなど通常ないだろう。声を荒らげたりすれば、注意が向くかもしれないが、担当者としてはむしろありがたいことである。交渉の場所として自社を指定することはお勧めしない。自社であれば、「こちらの領域」であるため、安心してクレーマーと話ができる。ただし、クレーマーのなかには、いつまでも話を続けて、一向に退去しない者もいる。「立ち去らない」というのもまた問題だ。しかも、いったん会社に来ると何度も来るようになる。第三者の目というものがないので、クレーマーも次第に会社での交渉に慣れてくる。クレーマーとの面談時間についても工夫してほしい。個人的には午前11時あるいは午後4時から始めるといいと考えている。1時間あれば事実確認や謝罪を十分にすることができる。1時間以上もかかるというのは、一方的に批判されているだけの時間が多いと言える。批判だけ受ける時間をいくら用意しても、建設的な交渉にはならない。面談をする時間も制限を設定しておくべきだ。さりとて「1時間経過したので今日はこれまで」とはなかなか言えないだろう。そこで午前11時や午後4時といったように食事前の時間に面談を設定しておく。このようにすることで、「そろそろお昼の時間になりましたので」「夕食のご準備もおありでしょうから」とソフトに話を切り上げることができる。それでもクレーマーが執拗に話を続けてくるときは、「申し訳ありません。会社のルールであまり長時間にわたり、お客様のご自宅に滞在させていただくことはご迷惑をおかけするため禁じられています。とくにお食事の時間にかかれば、ご家族の方にもご迷惑をおかけしかねません。本日はいったん帰社させていただき、改めて連絡させていただきます」と言って帰社することになる。どこかで線引きをして帰らなければ、いつまでもひたすら批判を受けるだけで終わってしまう。交渉の場がコワイと感じたら弁護士になりたての頃、先輩から「交渉は交渉前に決まっているから。自分の想像していない展開になった時点で負け。いったん撤退するべき」と教わったことがある。改めて金言だと感じる。弁護士は、交渉を生業とするため、いかなる状況においても柔軟に対応できると想像しているかもしれない。ドラマにあるようなドラマティックな展開をイメージするかもしれない。しかし、実際はそういうものではない。少なくとも自分の能力では予想していない展開を深追いしてうまくいくことはない。想定外の展開になったら、いかにして現状から立ち去るかについて考えを集中させる。これはクレーマー対応においても共通することだ。予想していない展開になったとき、場当たり的な対応でなんとかしようとすると、泥沼にはまってしまって、抜け出すことができなくなる。混乱した場合は、それを無理に鎮め

るべきだ。もっとも、クレーマーから一方的にまくし立てられると、「帰ります」の一言が口からなかなか出てこない。やっと口にしても、「何を言っている」と反論されてしまうこともある。その場から立ち去るというのは、言葉で表現するほど容易なことではない。「この場が怖い」と感じたら、いっそのこと「このような対応をされると怖いです」とはっきり言うのも、ひとつの手だ。クレーマーといえども、明らかに違法なことはリスクが高すぎてできない。自分の対応を間違えて刑事事件にでもなってしまうと困る。だからこそ、相手から「怖い」という言葉が出てしまうと、たじろいでしまう。このまま「帰るな」と言ってしまえば、怖いと言っている者を無理にとどまらせたことになり、違法の評価を受ける可能性がある。場合によっては、刑事事件にもなりかねない。それではクレーマーも困る。「怖いです」とはっきり口にして、自分の身を守るのもひとつの方法だ。それでもなかなか「怖いです」と言えないのは、目の前の人に言葉にして伝えることを失礼だと感じるからかもしれない。だが、こちらに「怖い」と感じさせる態度こそ、失礼な態度であることを忘れてはならない。こちらを不安にさせるような態度をとっているのだから、遠慮なく自分の感情を言葉にするべきだ。それで激高するならば、警察を呼んで助けを求めるべきだろう。「怖い」と感じる自分が悪いのではなく、そう感じさせる相手の態度が悪い。我々は、これまでの人生において恐怖を打ち勝つ対象ととらえてきた。努力すれば、この自分の不安定な感情も制御できて、毅然とした姿勢をとることができると教えられてきた。それは死の恐怖かもしれないし、老いていく恐怖かもしれないし、痛みに対する恐怖かもしれない。いずれにしても、恐怖を乗り越えていくことを美徳としてきた。クレーマー対応に限らず、多くの事件を目にして感じるのは、こういった「恐怖を越えなければ」という感情が誰かを苦しめていることが少なくないということだ。実際のところ、努力で越えることができる恐怖もあれば、越えられない恐怖もある。たとえば、「死ぬ」ことはつまるところ「いつ死ぬか」という問題にすぎず、「死ぬ」こと自体を超越できた人はまだいない。越えられない恐怖を越えなければならないと考えることは、ゴールのない迷路を歩き続けるようなものだ。現実的な対応は「怖いと感じている自分がいる」というのをありのまま肯定することでしかない。ある末期癌の方から遺言の作成依頼を受けたことがある。夫婦ふたり暮らしであったが、妻には判断能力の低下が認められていた。夫としては、自分が死んだ後の妻のことが心配で、人づてに私に相談を希望された。穏やかな口調でご自分の病状を語られて、今後やるべき手続きを質問された。おそらく自分の余命のこともわかっていたが、あまりにも落ち着いた態度に圧倒された。事後的にわかったことだが、激痛のために睡眠も十分ではなかったようだ。彼は、おそらくどうしようもない恐怖を抱いていたはずだ。自分が死ぬことへの恐怖、

病気の妻をひとり残す恐怖など。それでも「できることをすべてやり尽くす」という姿勢には、恐怖を肯定した者の強さを感じざるを得なかった。手続きが終了した際に「いろいろありがとうございました」と言っていただいた。そして、最後に奥様に「ちゃんと周りの人の言うことを聞かないといけないよ」と語られた。その方は2カ月後に静かにご自宅で亡くなられた。弁護士の仕事は、それなりに辛いことが多い。「なんでこんな仕事を選んでしまったのか」と天を仰いだことが何度もある。それでもこういった出会いがあるからこそ、やめることができない。人として、大事な何かを教えていただいた気がする。恐怖心は、危険を察知した証しでもあるから、否定せずむしろ積極的に肯定するべきだ。「怖がっている自分がいる」と自覚するだけで、周囲を少し冷静に眺めることができるようになる。恐怖を肯定するからこそ毅然とした態度をとることができる。

スタンスを少し変えることで発想が広がり、状況を打破できるここまでクレーマーの自宅などを訪問した場合のことについてまとめてみた。ここからは、クレーマーが突然やってきた場合の対応についてまとめていこう。私の事務所では、各地の医療機関や行政機関などからクレーマー対応について相談を受けることがある。こういった施設に共通するのは、誰しも簡単に受付カウンターにやってくることが可能であることだ。不特定多数の人が出入りしやすい場所は、どうしてもクレーマーのターゲットになりやすい。クレーマーは「患者」あるいは「市民」という立場を前面に出して、「自分は弱者だから丁重に扱われるべき」というスタンスでやってくる。受ける側も立場上は無下にできないため、曖昧な態度になってしまい、気がつけばクレーマー対応に何時間も奪われてしまう。これでは本業の業務にも支障が出てしまう。最近は、業務改善して生産性を高めようということが声高に述べられているが、クレーマー対応に何時間も要することになれば、生産性の向上どころではない。クレーマー対応をしつつ、本来の業務をより短い時間で処理することを社員に求めることは、無理を強いるようなものだ。担当者は本当に悩んでいる。ある地方の総合病院の事務長と名乗る方から電話があった。話を聞けば、数年にわたりクレーマー家族への対応に悩んでいるというものだった。以下は事案の概要である。あるクレーマーがこの病院で治療を受けた。その後になって、治療の内容に納得できないと言い始めた。医師は、クレーマーと家族の求めに応じて、くりかえし時間をとって、なんら問題がないことを丁寧に説明した。それでも患者らは一向に納得せずに「説明責任を果たせ。病院として賠償をしろ」と主張を続けた。病院側が折れないとわかると、突然受付カウンターにやってきて、何時間も立ち去ることなく、病院側を糾弾するようになった。「この病院は患者を無視するのか。説明しろ」と大声をあげることもあった。こういったとき対応を余儀なくされるのは、たいていの場合、医師ではなく事務長だ。病院という立場上、あまり目立つことをしたくない。さりとて、このままだと他の患者の目もある。部下からは「どうしたらいいでしょうか」と相談がやってくる。事務長は、どうすればいいのかわからず、複数の弁護士に依頼してきたそうだ。弁護士名で書面を送付したこともあるようだった。それでも状況は変わらず、突然やってきては

何時間も退去しないことが続いた。そこで、やむにやまれず、他の病院から聞いた本州の端にある私の法律事務所におそるおそる電話をしてみることにしたそうだ。私は「警察を呼んでみたら、すぐ終わるでしょう」とアドバイスした。事務長としては、「病院という立場で警察を呼んで大丈夫でしょうか。後で問題にならないでしょうか」と不安になっていた。こちらとしては「大丈夫です」と回答して受任となった。受任と同時に、クレーマーに通知を出した。クレーマーは、こちらの要請に応じることなく、再度病院のカウンターに現れて大声を出して、周囲を怖がらせた。何度説得しても状況が変わらないため、事前の打ち合わせどおり警察を呼んでもらった。クレーマーは、警察の登場に驚いたようだ。それからというもの、連絡は一切ない。事務長からは「あのとき『警察を呼べ』とアドバイスを受けてよかったです。あれほどひどかったものがピタリと止まって本当に助かっています」とお礼の手紙をいただいた。この案件のポイントは、事務長のスタンスを少しだけ変えていただいたことだ。事務長は「病院としての立場を守らなければならない」という強い使命感を持っている。「守らなければならない」という意識は、ときに自由な発想と対応を制約する要因になってしまう。そういうときは、「ここまでは大丈夫でしょう」と第三者が冷静な意見を伝えることで、状況を打破することができるケースがある。本件も「警察を呼ぶ」というあたりまえのことをしても大丈夫とはっきり伝えることが、事務長の自信につながり、問題を解決することができた。クレーマーが立ち去らないときの対処法クレーマーが突然受付に現れて、何時間も同じ場所に居座る。それに対して、担当者が何時間もひたすら傾聴と説明を繰り返す。こういう風景を病院や行政のカウンターで見かけたことはないだろうか。ときには興奮して声を荒らげる者もいるかもしれない。このように、特定の者に対して、不必要に時間を要してしまうことは本来サービスを受けるべき者の機会を失わせることになる。「できるだけ穏便に」というのと、「ひたすら話を聞く」というのは同じことではない。こういう場においても、やはり「どこかで話を終える」という戦略が必要である。漫然と臨めば、失敗するに決まっている。ありがちな失敗の例は、周囲を気にするあまり、具体的な方針も定まらないまま、「とりあえず別室で伺いましょう」という対応だ。クレーマーにとっては、自分の要望の実現に向けて一歩近づいたようなものだ。基本的な対応の方法は、クレーマーの自宅を訪問したときの対応と同じだ。対応するときには、必ず2名の担当者が対応する。1名が交渉をして1名が記録を取るようにする。このときICレコーダーで録音するようにして、相手が大声や不適切な発言をしないように牽制する。場所については、できるだけ他の人がいることを感じさせられる場所がいい。個室で対

応すると、どうしても1対1の関係になってしまい、こちらの精神的な負担が大きい。しかも、遠慮なく話し続けられる可能性も出てくる。「カウンターで対応していると、周囲にばれて噂にならないか」と質問されることがある。とくに病院からはこういった質問をされることが多い。これについて気にする必要はない。そもそも「噂」といっても、どのようなものだろうか。カウンターで誰かが声を荒らげているという状況を目にして、「病院側に全面的に問題がある」と周囲の人がいきなり結論づけるとは考えにくい。むしろ、「あんなに興奮して声を出すとは、クレーマーに巻き込まれたのか。大変だな」という印象しか受けないだろう。それが良識ある市民の一般的な反応と言える。病院として対応に苦慮しているというイメージを持ってもらうために、あえてカウンターで真摯に対応するのもひとつの手である。もっとも、いつまでも話を聞いていればいいというわけではない。30分も話をすればたいていの事案については終了する。1時間も話をすれば十分だろう。むしろ1時間で話が終わらないということであれば、相手自身も何を要求したいのかが定まっておらず、話すこと自体が目的となっている可能性がある。社内でひとりの面談時間について30分と定めれば、それに基づいた対応をする。あえて目の届くところに「おひとりの面談時間は最大30分です」という紙を掲示しておくことも話を切り上げるときに説明しやすい。「ここに掲示がありますように、おひとりさま30分となっております」と言える。いずれにしても、時間が近づいてきたら、自分がコントロールして面談を終了させていくことになる。一方的に「制限時間がきましたから」と言うだけでは、相手の感情を刺激することになりかねない。たとえば、「そろそろ時間となります。そこでいったん今日のお話を整理させていただきます」と切り出して話を整理していくのが、流れとしては使いやすい。「いったん」というのは不思議な言葉で、反発を受けることが少ない。そのうえで「話を整理する」となれば、クレーマーとしても自分の意見が伝わったものと理解してさらにたたみかけてくることもあまりない。その一方、このようにしても、立ち去らないクレーマーもやはりいる。「なぜ、お前が仕切るのか」「勝手に話を終わらせるな」というケースだ。担当者としても胃が痛い思いをすることになる。こういう場合には、はっきりと「今日はお帰りください」と伝えることだ。ここで「今日のところは……」などと曖昧な言葉を言ってはいけない。自信というのは、言葉の最後が明確なことだ。最後を言い切れば、自信ある印象を与える。これが立派なことを言っても、最後がはっきりしないと自信のなさが露見する。スピーチのうまい人は、最後が曖昧ではなく、言い切るなどしてクリアだ。アドバイスにしても同じである。「○○と思います」と「○○です」を比べると、アドバイスを受ける側としても印象が違う。退去を求めた発言は、できるだけ録音しておく。事後的に裁判になったときにこちらの要請に反して退去してもらえなかったことを確定しておくためだ。3回退去を求めて応じ

てもらえない場合には、警察を呼んで協力を仰ぐべきだ。いっそ警察を呼ぶ弁護士は、顧問先にいつもいるわけではない。これに対してクレーマーは、いつ受付に現れるかわからない。弁護士といえども、突然のクレーマーの訪問に対して直接できることはほとんどない。そもそも顧問弁護士がいなければ、現場で連絡する弁護士がいない。弁護士を探している間にクレーマーからいろいろ言われる。顧問弁護士がいても、電話がつながるとは限らない。仮につながったとしても、できることといえば、電話越しに退去を求める警告をすることくらいだろう。経営者のなかには、弁護士であれば裁判手続を利用してすぐになんとかしてくれると誤解している人もいる。何らかの手続きを利用することができるとしても、直ちに何かできるというものではない。準備をして申立て等をすることが必要である。準備のためには担当者との打ち合わせも必要になってくる。弁護士への相談は、現場にいるクレーマーへの対処法として現実的なものではない。こういうときにもっとも効果的な方法は、警察を呼んでしまうことだ。このようにアドバイスすると、「でも警察は民事不介入でしょ」と話されることがある。そこは気にしなくていい。たしかに「お金を貸したかどうか」について警察に相談しても、解決にはならない。最後は裁判所に決めてもらうしかない。でも、クレーマーが退去せず大声などを出して業務に支障が出れば、別の問題だ。単純な当事者間の民事問題で終わらない。よく「暴力行為がなければ警察を呼ぶことができない」と誤解している人がいる。別に暴力行為がなくても、犯罪になることはある。たとえば、大声などで業務妨害をすれば威力業務妨害罪、退去の要請に応じなければ不退去罪といった犯罪が成立する可能性がある。こういった事情があれば、警察を呼んで協力を仰ぐべきだ。クレーマーは、警察を呼ばれることを想定していない。クレーマーは「自分は被害者だ」というスタンスで臨んでいるので、まさか会社あるいは病院が本当に警察を呼ぶとは考えていない。とくに病院は体裁を気にして警察には連絡しないと想定しているため、実際に呼ばれると態度を一変する。警察が来れば、とりあえず現場の混乱は解消される。クレーマーとしても警察からの指示に対しては応じる。いったんその場が収まれば、弁護士に改めて相談して指示を仰げばいい。何より大事なのは、警察の協力をもって「その場」を収めることだ。実際のところ、一度警察を呼ぶと、会社の本気度がクレーマーに確実に届く。「この会社を深追いするのは得策ではない」と判断して、行動をやめることが多い。警察は決して遠い存在ではなく、市民社会を守るための存在だ。「怖い」「危険だ」「困っている」というときは協力を求めるべきだ。

もっともセミナーでこのことを説明すると、「わかってはいるのですが、やはり警察に電話するのは躊躇します。素人には本当に犯罪になるのかわからなくて。素人判断で110番したら逆に名誉毀損にならないでしょうか」という質問を受けることがよくある。ある意味では当然の感覚であろう。現場が混乱している状況で一般の方がどのような犯罪が成立するかを厳密に検討することなどできるはずがない。警察を呼ぶことの本当の目的は、クレーマーを逮捕してもらうことではなく、現場を収束させるためである。そのため、詳細な犯罪の特定まで考える必要はない。「大声などで混乱して収束させることができない」と判断すれば、警察を呼んで助けを求めればいい。警察を呼んだからといって、直ちに名誉毀損になることもない。いざというときのことを想定して、あらかじめ最寄りの警察に相談しておくこともひとつの手だ。ある病院の案件では、事前に事務長に最寄りの警察に相談してもらうようアドバイスした。相談内容としては、クレーマー対応に苦慮しており、業務が妨害されるような状況になれば、警察の協力を仰ぎたいということだ。担当した警察の人からは「そういう状況になったら呼んでください」とアドバイスされた。事務長は、クレーマーがいつまでも退去せず、周囲の患者が怖がっていたので、警察を呼んだ。これによってクレーマーは、その場から離れていき、二度と病院に来なくなった。事務長は「事前に警察に声かけしておいたから協力をお願いしやすかった。まったく精神的な負担が違いますね」と語っていた。もちろん、警察ありきの解決策を提案するわけではない。ただ、クレーマー対応において、ひとつの選択肢であることは間違いない。必要だと感じたときには、躊躇せず協力を求めるべきだ。周囲からの視線を気にするあまり、判断が遅れるようなことがあってはならない。そのためらいがまた新たな被害を生み出すことにもなる。

 

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