第6章クレーム応対者のメンタルヘルスはこう守れ
26クレームの隠れたリスクを認識する●事例●一人の担当者に負担がかかってしまったケース当社の受注管理部門は、お客さまからのお問い合わせ総合窓口としてクレームに対応しています。
A主任は、とてもまじめで、通常業務を忙しくこなすだけでなく、クレーム対応の主担当者として、一生懸命に取り組んでいます。
お客さまの話に耳を傾ける姿勢が評価され、部門内でも、「クレーム対応なら、Aさんに任せておけば安心」という雰囲気でした。
しかし1カ月前、突然Aさんはメンタル不調を訴え、休職してしまいました。
現在、あらためて部門全体でクレームに対応していますが、全員でその大変さを痛感しています〈食品卸業〉。
「」クレーム対応の応対者にかかるストレスはかなり高いものがあります。
それは、心がクレームを自分に対する攻撃と感じてしまうからです。
クレーム対応の仕事をずっと続けることになったり、お客さまから対応がむずかしいクレームを受けて、その対応を完了するまで、たった一人で担当したりすると、その人はストレス過多に陥ってしまいます。
その結果、精神的に追い込まれ、健康状態が悪化し、最悪の場合には休職や退職に至るケースも少なくありません。
こうした事態が職場内で起こると、メンバーが欠けることによる仕事の遅れや、職場全体のモチベーション低下など、さまざまなデメリットが発生します。
そこで、組織全体で取り組むべきことはまず、「クレーム対応は、上手な人がやればよい」という意識を変えることです。
クレーム応対者のローテーション、エスカレーションフローを整える先述した通り、クレームは、特定の個人にではなく、会社全体に向けられたものです。
誰もが会社の一員として無関係ではありません。
応対者にだけ押しつけるのではなく、周りも積極的に協力し、バックアップしていくことが欠かせません。
そこで、クレーム対応の精神的負担を軽減するために、複数のメンバーでクレームに対応できる体制をつくっておく必要があります。
具体的には、クレーム応対者のローテーション、およびエスカレーション(別担当者や
上位者へのバトンタッチ)のフローを確立させることが不可欠です。
そうした体制が整っていることで、クレーム応対者が孤立してしまうのを避けることができます。
さらに、組織に属する一人ひとりが、「クレーム対応は、重要だが高ストレスな仕事だ」と認識し、応対者への労いの気持ちを互いにもち、かつそれを伝えていくことも肝心です。
27クレーム対応でのストレスを軽くするコツ─〈セルフケア〉●事例●クレームを店舗改善に活かしているケース店長のBさんはたびたびお客さまのクレーム対応をしています。
販売スタッフの接客ミス、時にはブランドに対するご意見など、クレームの内容は多岐にわたりますが、Bさんはその都度お客さまに共感しながら対応しています。
Bさんは「お客さまのおっしゃる通りなのよね」と言い、クレーム対応メモをつくり、会社の本部に報告したり、朝礼や会議でクレームについて共有したりしています。
「クレームを受けたらどんどんお店がよくなるわ。
クレームをチャンスに変えないと」とたくましく笑っています〈アパレル販売業〉。
クレームは自分に向けられたものではないお客さまからクレームを受けると、自分の人格が否定されていると感じてしまいます。
そのため、心が沈んでしまい、一日中ぼんやりしたり、ひどいときには一週間ずっと気分がすぐれなくなる、ということもあります。
経験を重ねると慣れてくることもありますが、大変つらいものです。
ここではセルフケアで、クレーム対応でのストレスを自ら乗り切る方法をご紹介します。
まずしっかりと意識してほしいことは、クレームは「会社や商品・サービス」に対して向けられたものだ、ということです。
つまり、あなた自身に向けられたものではないのです。
クレームを受けたら「これは自分への攻撃ではない」と認識することが、ストレスを軽減させるスタートです。
改善の糸口にする、という思いで聞くクレーム対応においては、「どうしたら、お客さまからのこの意見を、サービス改善に活かせるか?」に思いを巡らせながら、お客さまの話に耳を傾けます。
クレームを受けたときは、「商品の改善につなげられないか」「スタッフの教育に活かせないか」など、改善点を頭に巡らせながら聞きましょう。
クレーム原因の犯人捜しを続けていても何も変わりません。
自分の負担が大きく感じられるだけです。
クレームをいただいたときには、「お客さまから、改善のためのきっかけを教えていただいた」と考えるようにしましょう。
「」受けたクレームに対して、できる限り対応をし終えたら、簡単でいいので、紙に書くなど記録をし、部内で共有したり、本社へ報告したりします。
そこで、あなたのクレーム対応は完了です。
クレーム対応後は、ゆっくり息を吐いて力を抜き、身体をほぐしてリラックスしましょう。
別の仕事に集中するなど、心の向く方向を意識的に切り替えるようにします。
これで気持ちは楽になります。
28クレーム対応における管理職の役割─〈ラインケア〉●事例●メンバー同士でのサポート体制ができているケース大手電機メーカーの「お客さま相談室」に勤務するCさん。
お客さま相談とはいうものの、実際の業務はクレーム対応で、メンバー全員が一日の大半をクレーム対応に費やす毎日です。
当然、メンバーにかかるストレスは決して軽くありませんが、Cさんの勤務するお客さま相談室ではメンタル不調を訴えるメンバーもおらず、むしろお互いが笑顔で「ありがとう」と言い合える職場です〈大手電機メーカー〉。
個人の責任にせず、組織でのサポート体制を整えるクレーム対応にあたる部門の管理職は、クレーム対応の最終応対者であると同時に、メンバー全員の統括者であり、かつサポーターです。
管理職は、状況に応じてクレームをエスカレーション(別担当者や上位者へのバトンタッチ)がすぐできる体制をつくることが重要です。
「困ったら、同僚や上司がすぐに支援してくれる」という安心感が、メンバーのストレスを軽減します。
具体的には、たとえば「一人のお客様に20分対応したら交代する」など、エスカレーションルールを策定する、などです。
日常業務においては、メンバーをこまめに観察し、エスカレーションのタイミングを逃さないことも大切です。
メンバーの中には、クレームが集中しがちな人もいます。
「その人の対応能力が低いせいだ」と考えて放置するのではなく、ベテラン担当者を横に座らせサポートさせたり、クレーム対応教育の仕組みをつくったりして、組織力を向上させます。
「」日常的にメンバーの言動・行動には注意しましょう。
メンバー本人に異変の自覚がない場合もあるため、まず周囲が気づくことが大事です。
●遅刻や欠勤が増える●イライラしてキレやすくなる(対人トラブルが増える)●喜怒哀楽が乏しくなる、または無表情になる●注意力欠如によるケアレスミスが増える……など「何かおかしいかも?」「いつもと違う気がする」といった直感を大切にして、異変を見逃さないようにします。
週に一度は1対1の面談や、少人数でのミーティングを行うことでメンバーのストレス
レベルを把握し、必要に応じて対処していきます。
管理職は、一日中、自分の席にどっかり座っていてはいけません。
個々のメンバーの仕事に関心をもち、自分のチーム内をマメに歩きまわりながら、メンバーそれぞれが具体的に何をしているかを把握し、何か困っていることはないか、などを見つけ出していくことはきわめて重要です。
つまり、ラインケアの第一歩は、管理職の「見回り」で、メンバーの状況を把握できるようにしていくことなのです。
コラム6クレーム対応のロールプレイングをやってみようたとえば、「ロールプレイング例(想定練習用)」として「開店時間を知らずに来てクレームに」〔*〕の事例を使ってみましょう。
お客さまが11時開店のお店に10時に来てクレームになった事例です。
ロールプレイングは、設定を細かくしたほうが進めやすいので、応対者とお客さまを次のようにしてみます。
■応対者:ゲームソフト販売店勤務。
入社3年目。
仕事にもだいぶ慣れてきた。
上司である店長から、毎日のように、CS(CustomerSatisfaction:顧客満足)を重視するよう教育されている。
■お客さま:70代くらいの男性のお客さま。
いま人気のゲームソフト『○○の冒険』をお孫さんの誕生日プレゼントとして買いに来た。
8歳になるお孫さんは、このゲームソフトを2カ月も前からほしがっていた。
お誕生会は11時から始まる。
■進め方:①~③までで5分を目安に行う。
①応対者役とお客さま役に分かれ、その設定になりきる。
②お客さま役は応対者役にクレームを申し立てる。
*全力で怒ること。
③応対者役は、クレーム対応の手順に従って対応する。
(対応例は「4つの基本手順に従って対応を進める」〔*〕以降を参照)*お客さまがお怒りになるのには理由があるので、お客さまの話を聞いて背景まで読み取ることが重要。
④5分たったら、役割を入れ替えてもう一度行う。
「エスカレーション」とはクレーム対応が難航する場合などに、上席者に指示を仰ぎ、応対を交代してもらうこと。
「一定時間をすぎたら交代」などのルールを定めると、スムーズにエスカレーションができる。
エスカレーションフローを構築するには連携してクレーム対応するには、情報共有が不可欠。
「どんな内容のクレームが発生したら」
「誰に」「どのような方法で連絡をするか」を明らかにしよう。
クレームはメモする、記録するクレームを記録したら改善できる。
別のクレームが生まれにくくなる。
逆に、クレームを心に溜め続けたら、心の負担になる。
心身の健康は「質の良い睡眠」から!適度な睡眠時間が、疲労の回復、集中力の維持には欠かせない。
リフレッシュのために、休憩時間などに仮眠をとるのも効果的。
質問を装った「叱責」はNGメンバーのストレスケアには、適切なアプローチの仕方がある。
以下のような発言は、相手を萎縮させてしまうので注意。
×「なんで相談してくれなかったの?」×「どうしてできないの?」×「時間がないんだから、早く話して」人を動かす「マジックフレーズ」「いつもありがとう」「おかげで助かりました」「さすが○○さんですね!」など、些細な声かけを欠かさないことが、互いに気持ちよく働ける職場づくりの第一歩。
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