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第5章|後継社長が人事給与制度を導入するときに外せない原理原則とは?

目次

❶ズバリ!その人事給与制度はときめきますか?

人事給与制度の目的は何でしょうか。重ねて言いますが、社員のパフォーマンス(行動と成果)の総和を向上させることです。つまり、社員が希望とやる気を持って、社長が年頭に表明した経営方針に沿って「よし、頑張ろう!」と奮起し、行動することが必要なのです。

片付けコンサルタントとして世界的に有名な〝こんまり〟こと近藤麻理恵さんは、捨てるモノを判断する際に、触った瞬間に「ときめくか、ときめかないか」が大切だと言っています。

モノをひとつひとつ手にとり、ときめくモノは残し、ときめかないモノは捨てるということです。私は、人事給与制度も心がときめくかどうかが、とても大切だと思っています。

しかし、私がお会いした社長や人事担当者は、うまくいきそうにない「一般的な人事給与制度のフォーマット」を目の前にして、ときめきどころか、辛さと無力感を醸し出しています。

「既に作った人事給与制度をこの4月に導入しようと思います。これでいいかどうか見てください」というご相談もよく受けます。社長や人事担当者が一生懸命、各所で情報収集し、議論を重ねて制度を作ってきたことは痛いほど伝わります。

セミナーや書籍から学んだ知識により理屈理論で真面目に考えてきたものです。つまり、思考では「これでいい」と思っています。いや、思いたいはずです。

しかし、ご自身たちでも直観では「これはマズイかも?」と気づいているケースが大半です。一言でいえば、その人事給与制度にまったく「ときめき」がないのです。

見るのも嫌なマニュアル、詳細で精緻なA3に文字が一杯の人事評価表、聞きなれない横文字が並んだ等級基準書、機械的に5点満点で評価が決まる信賞必罰の給与決定システム、そしてこれを公開したときの予想される現場の社員の反応やクレーム……。

人がモノの判断し、行動する基準は大きく分けて2つしかありません。1つは直観にしたがって行動する、もう1つは思考によって行動する、です。この思考の部分が間違った方向に働くと、とても厄介です。人事給与制度を考えるにあたって、直観では「この人事給与制度、ときめかない」とはっきりわかっています。

中小企業が人事給与制度を導入する際に大切にしてほしいポイントは「これならできそうだ」「これなら会社が良くなりそうだ」という未来への期待感です。

希望を伴った直観のイメージです。社長、人事担当者が人事給与制度をつくって、運用しようとする際に、「これ本当にうまくいくのかな?ヤバいかも?」と思っていることが本当に多いのです。

そのような直観的な疑念がある場合、まずその人事給与制度はその直観の通り失敗すると断言できます。社長や人事担当者の「これでいいのかな?」という迷いや疑念は、社員に確実に伝わっていると思ってください。

❷まずは社員の顔色を毎日チェックする

一代で立派な会社を築き上げ、社員数が100名を超え、さらに200名、300名と会社を順調に発展させた社長がおられます。そこまでの会社規模になると、社長が社員の日常の仕事ぶりを観察して正しく評価することなど、まず無理となります。

そのような社長から頻繁に聞く言葉は「私は社員の顔色をいつもチェックしている」というものです。社員が心身ともに健康であるか、悩みを抱えていないかのチェックです。常に社員の健康状態に心を配っているのです。私はこの姿勢はすべての人事評価の原点だと考えています。

先代社長は社員の健康状態だけでなく、社員の家庭生活の状況(家族構成、持ち家か賃貸か、住宅ローン額、趣味、休日の過ごし方など)や社員の個性を実に細かく把握されています。

もっといえば、社員がそのような情報を社長に教えてくれるように、私は社長・役員自らが積極的に自己開示するように促しています(かっこ悪いことは特に!)。

人間は心を開いてくれた相手に対して、自分からも心を開くようにするものだからです。仕事の能力や成果以前を見るより前に、社員を人として見る、全人格的に見るのです。ボーっとしていると見えないものも見えるようになります。

「一般的な人事給与制度のフォーマット」を導入しても、うまくまわっている会社もあります。それは「[図1]人事給与制度の信頼関係のインフラ」のような〝信頼関係のインフラ〟が整っているからといえます。

「一般的な人事給与制度のフォーマット」を仮に導入したい場合であっても、「人事給与制度の信頼関係のインフラ」のような土台をしっかり整えてから実施すべきなのです(【図1】)。

❸叱り方・褒め方がうまい先代社長から学びなさい

「それはパワハラだ!」という言葉があちこちで聞かれるようになりました。パワハラという概念が社会に認知されるようになり、会社だけでなく、学校の指導方法も昔と様変わりしています。

先代社長の叱り方は強烈です。みんな震え上がります。叱っている途中にモノ(書類、ボールペン、灰皿など)が飛んでくることも昔はあったようです。

それが法的にどうかという議論はさておき、優秀な先代社長は、叱るときは徹底的に叱ります。ここで妥協はしないのです。社員の安全や成長に対する責任、会社を維持していく責任、お客さんへの責任がそうさせます。

しかし、同時に激しく叱った後のフォローが絶妙なのです。タイミングよく、事実をとらえて褒めるのです。叱るだけではなく、セットで必ず褒めるのです。私はこれが社員を魅了するコツだと思います。

単に叱っているだけではダメ、褒めているだけでもダメなのです。その両方があってこそ、その振り幅が人を動かし、成長させます。これは、【図1】の通り、人事給与制度の土台として〝信頼関係のインフラ〟を構成するものです。

優れた先代社長は社員を徹底的に見るだけでなく、日頃から厳しく叱り、褒めている(承認している)ことをここで強調しておきたいと思います。

「パワハラだ!」と法的に糾弾されないように、社長・管理職で勉強しながらも、適時・適切にかつ厳しく、具体的に「叱る」べきです。これができなければ、中小企業が「高・労働生産性社会」を生き残ることはできないでしょう。

❹優秀な会社はなぜ「永年勤続表彰」を行っているのか?

私はクライアント企業の経営方針発表会や、それに類する会に招かれることがよくあります。そして、そのような会では社員の1年間の労苦を称える表彰式も行われることが一般的です。ある時、このようなことに気づきました。

「社員100人程度以上の優秀な会社は永年勤続表彰を行っている」短絡的に考えると、「営業成績が上がった人」「成果が顕著な人」のみを表彰することでもよさそうです。

しかし、そのような成果表彰はなくとも、優秀な会社には必ず永年勤続表彰は存在するのです。

なぜかなと思っていたときに、ある有名な進学塾の先生のお話を聞く機会を得て、キーワードの「存在承認」というヒントをいただきました。先生のお話は以下のような内容でした。承認には3つの種類があります。子どもの勉強の例をとれば、以下のようなものです。

成果承認(HAVE)「100点とって素晴らしいね」行動承認(DO)「いつも机に向かって努力していて素晴らしいね」存在承認(BE)「あなたがいてくれて素晴らしいね」その先生は、「存在承認」にフォーカスすれば勉強する子どもになり、結果として受験に成功するという趣旨のお話をしていました。

先生も昔、某進学塾で有名中学の合格率を上げることが至上命題で、子どもをやる気にさせて、どう成績を上げるかに大変苦労した時期があったようです。親や先生が必死になればなるほど、成果承認を与えようとしがちです。

しかし、その先生も成果承認だけでは、なかなか子どもの成績を上げることができなかったようです。そこで、「存在承認」というキーワードにたどり着きます。

たとえば、X君の成績を例にとります。英語と数学とで、X君は英語についてはまあまあ、数学はボロボロだったとします。当然、受験ですからこれはマズイです。弱点克服が急務です。とにかく必死に数学の成績を上げようと叱咤激励するはずです。

しかし、この先生はここでまず、マシな英語をさらに伸ばすようにした、と言います。つまり、できない数学はとりあえず横においておきます。すると、もちろん英語はいい結果が出るので本人は自信を持ちます。

周囲も「あなたはできる子なんだから、(いま数学ができていなくても)大丈夫」というメッセージを送ります。そうすると、不思議なことになぜか今までダメだった数学の成績も上がりはじめるというのです。

【図1】の承認につながりますが、承認のなかでも人間は「存在承認」が欠かせない生き物だと考えています。

優秀な中小企業ほどこの「存在承認」を与えるのがうまいです。社員のパフォーマンスの向上にとって有益であると直観的に理解されているのです。「成果承認」「行動承認」の一部は「一般的な人事給与制度のフォーマット」でも何とかできるかもしれません。

しかし、「存在承認」は会社・社長の社員への眼差しやそれをカタチにした永年勤続表彰など、その他の取組みにより意識的に実現するものです。

経営方針発表会などで行われる永年勤続表彰ではおおむね入社10年、20年目の社員などが壇上に呼ばれます。その際に、彼(彼女)らが少し照れ臭そうにスピーチします。この瞬間になんとも言えない一体感や意識の高揚に包まれるのは私だけではないと思います。

「あなたがいてくれて素晴らしい」「長く勤めてくれてありがとう」という「存在承認」のメッセージを送る、これも立派な社員のパフォーマンスの総和を向上させる制度といえます。

❺まずは〝信頼関係のインフラ〟を全社的に整えなさい

【図1】のピラミッドの頂点に「人事給与制度」が位置づけられます。

5点満点や評定ABC、目標管理制度など何でもいいのですが、〝信頼関係のインフラ〟がなければ、百害あって一利なしの制度運用になるといっても過言ではありません。

先代社長は、〝信頼関係のインフラ〟だけで経営を乗り切ってきたという方も多いです。でも、後継社長が先代社長のモノマネができないというのは十分に理解できます。

もちろん、後継社長が先代社長とまったく同じ人事労務政策をとり続けることはできません。そもそも第1章で述べた時代背景の変化がありますし、先代社長と後継社長はそのパーソナリティーも異なります。

事業所が一ヶ所で、社員が100名くらいまでなら、社長と役員でも、全社員の顔と名前が一致し、それなりの精度で人事評価および給与決定ができます。

これは数百社の給与決定を現場で支援させてもらった経験からいって、おおむね正しいと考えています。この規模を超えると、きつくなります。

つまり、事業所数が増えたり、社員が120名程度を超過してくると、社長や役員が社員を「見る」ことがとても難しくなってきます。特に出入りが激しいと、顔と名前を一致させることがまず困難になります。

そこで、社長や役員は「見る」「知る」「承認する」「評価する」という仕事を管理職に委任するようになります。

しかし、そこでなぜか、「一般的な人事給与制度のフォーマット」を導入することが有力な案として浮上します。もちろん、この判断を否定するわけではありません。

しかし、大切な哲学、人使いの要諦を先代社長から引き継がずに「フォーマット」に頼り切ってしまうのは絶対に避けたいです。部下を持つ管理職に〝信頼関係のインフラ〟がなければ人事評価制度はうまくいかないということを、全社で共有しなければなりません。

この哲学を伴わずに、カンタンに導入できると宣伝する人事給与制度を取り入れたり、ITツールにすぐに飛びつくという発想を持つのがミスの始まりだということを、肝に銘じてください。

❻どうすれば「人間性や人格が向上するか?」を考えたほうがうまくいく

「子どもに立派な大人になってほしいから……」Xさんの子どもは、期待レベルからほど遠く、それがXさんの悩みの種となっています。

いくら褒めても、叱りつけても子どもはマイペースで、部屋に籠ってゲーム三昧です。子どもの将来を不安視したXさんはこれではダメだと決心、有名な子育てコンサルタントの本で学習します。

子どもの行動を抜本的に変えるために本の付録でついていた「子ども評価シート」を導入し、早速運用を開始しました。挨拶、ピアノ、学校の成績、お受験の面接スキル、家のお手伝いなどおよそ18項目にわたり期待項目を評価シートでチェックします。

子どもが立派な大人になるために、Xさんは最低でも各項目(5点満点)で4点以上は必要だと考えています。そして、怠けてしまわないように合計点数に基づく総合評価(ABC)によって、毎月のお小遣いが±30%で、年間評価でお年玉が±50%で〝成果連動〟する仕組みとしました。

さらに総合評価にかかわらず、万が一、評価項目のうち1項目でも「1点」があったら、その月のお小遣いは不支給というペナルティーが待っています。

しかし、これを運用してから数カ月後、子どもはさらに引きこもるようになってしまいました。夫婦関係に悩んでいるYさんは、〝夫婦関係改善コンサルティング〟を依頼しました。コンサルタントは講演活動も積極的で書籍も出している有名な先生(34歳・男性・独身・結婚歴なし)です。

コンサルタントは、まずは「夫婦のあるべき姿」をレクチャーします。そして、米国で話題の理論をもとに、お互いに行動改善を促すことを熱心に説きます。その手段として、まずは夫婦の望ましい行動を記した「夫婦生活評価表」を導入します。

評価項目は、目標管理制度をベースに、日常の挨拶程度のものから、夜の営みに至るまで5点満点で採点。各項目の合計の平均点が4点以上~5点は「A」。3点以上~4点未満は「B」などと評定結果も出る優れモノです。

コンサルタントはお互いに良いところ・悪いところを、その評価表をもとに率直にフィードバックすることを求めます。1回目の評価の結果が出ました。そして、評価結果(SABCD)のフィードバックと評価面談の場です。ご主人は奥さんを「D」評価、奥さんはご主人を「C」評価としました。

奥さんは「あなたこそD評価以下だわ!」と捨てゼリフを残し、席を立ちました。以後、1週間、夫婦はお互いに口を聞かなくなりました。

コンサルタントに相談すると、「制度ははじめから100%ではありません。運用でドンドン改善していきましょう」「来期は納得性を高めるため、より客観的、公平に評価できるように評価者研修を複数回実施しましょう」と提案されます。

しかし、Yさんにはこれで自分たち夫婦が幸せになるイメージが湧きません。以上はもちろん、現実の話ではなく、私の作り話です。

しかし、「一般的な人事給与制度のフォーマット」の非人間的な本質を誇張して記載してみました。人間というのは機械のように動きたくはないものです。

本来、管理されたり、命令されたりするのは大嫌いなのです。右記の事例に限らず、「一般的な人事給与制度のフォーマット」のように成果を測定する制度に対して、人間は実に人間らしい行動をとります。

「一般的な人事給与制度のフォーマット」は必ずといっていいほど、「目標管理制度」を給与・賞与を決める重要なものと位置付けています。1年または半年ごとに目標を設定し、その目標の難易度・達成度で給与・賞与が決まります。

しかし、この目標管理制度による人事給与制度は企業経営上、重大な2つの問題を引き起こします。1つは、社員はみな低い目標、できそうな目標を設定しはじめます。会社としてはパフォーマンスの高い人間は質的・量的に高い目標を設定したいものです。

一方、そうでない人はあまり高い目標を設定すると、やる気をなくしてしまうので、それなりのラインの目標設定をせざるを得ません。そうなれば、これは実に不公平な目標設定となります。

優秀な人ほど目標が高いため、目標達成率がグンと低くなりがちだからです。さらに、この目標の部門間、個人間の難易度調整は現実的に不可能です。

たとえば、経理の仕事と営業の仕事のそれぞれの業務について、目標の難易度を期首に調整できる人など存在しません。結果として、みんなできそうな、いや、必ず達成できる目標を、さも難しい目標のように設定しはじめるのです。

会社というのはできるかできないかの高い目標を前のめりで挑戦することなく、本願成就することはできません。みんな自分の都合で低い目標を立てはじめると、会社は衰退の方向にまっしぐらです。もう1つの問題は、単年度の目標として測定できない大事な目標が犠牲になることです。

目標管理制度がなじむ営業職でさえ、短期的な目に見える目標のみ追うことで、たくさんのものを犠牲にしてしまうことがあります。具体的には、一定期間の売上目標を殊更に追うと、顧客満足、資金回収、適正在庫、利益率、チームワークなどが犠牲になることがありえます。

それらの成果バランスをとるためにそれぞれを全部「評価項目」に設定し、評価しなさいと指導されることがあります。そんなことをすると評価項目がドンドン増えて極めて複雑になります。その結果、「人事給与制度の悪いループ」をまわる羽目になってしまいます。

私のクライアントで「仕事を通じて、人が人として成長する」という理念を掲げている優良企業があります。私もとても好きな理念です。「人が人として成長する」ためには、社長の人間観が大切となります。

「人はお金をぶら下げれば一生懸命働く」「人は放置するとすぐに怠ける」という人間観を持っていれば、歩合給的な給与制度でかつ信賞必罰的なシステムを採用するでしょう。

そうではなく、「人は本来、人格的にも職務能力的にも成長したい」「社会や他者に対してもっと貢献することでやる気が向上する」などの人間観を持っていれば、いわゆる従来型の人事給与制度のフォーマットがそのまま運用されることはないはずです。

私の別のクライアントは、「優秀な人とは、職務の能力が高いだけでなく、その能力を他者のために惜しみなく使える人」と打ち出しています。

この会社では「なぜ、私はこんなに頑張って成果を出したのに、彼(彼女)と賞与の差がないのだ!」という価値観は極めてカッコ悪いことになります。

逆に、自らの有能さをもって、社会・組織に惜しみなく貢献し、他者を幸せにできたということから、最高の「心の報酬」が得られるのです。

この会社においても、一般的な人事評価表は一応ありますが、基本はこの価値観で運用されています。高いレベルで企業業績と企業文化が維持され、成長発展が著しい会社のひとつです。

長期的・本質的・多面的に見て「人として成長すること」「他者への貢献があること」を会社として徹底〝評価〟し、社会性をもった給与制度で報いることがとても大切です。

コラム3労務管理とは〝ヘトヘトになること〟である

社員は実にさまざまな価値観・立場で好きなことを、好きなように言います。同じことを言っても人によっては喜ばれ、人によっては不満を抱かれることさえあります。

社員各人が抱える諸問題や背景は実に個別的で特有のものであると思い知らされます。本質的に社員との付き合いは手間がかかります。

結局、「社員は自分のことを中心にしか考えていない」という前提から出発する必要があります。考えてみれば当たりまえです。時給1200~1500円の社員に全社視点で考えてくれ、というのは都合がよすぎます。

これから選ばれる会社というのは、そんな社員自身(自分)のことを考えて個別・固有の対話・対応をしてくれる会社なのです。だから、労務管理や人を使うというのは楽なわけがありません。また、安直な手法やツールを使ってスパッと解決することはないのです。労務管理とはくたびれはてること、ヘトヘトになることです。

そう心に決めて、事にあたる必要があります。そのようにして、社員と付き合っていれば、必ず仏のような人、宝のような社員が現れるはずです。

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