1賞与の本質は利益の配分である~総額決定方法をルール化しておけば労使ともにメリットがある
◎社員のやる気を引き出すように効果的に配分する
社員の年間賃金を、月例賃金と賞与に分けてその比率を見ると、賞与は年収の2〜3割近くを占めています。
労働の対価として明確に定義付けすることができる所定内賃金に対して、賞与は利益の配分であり、業績に連動して決められるべきものです。
賞与の本質が利益の配分である以上、社員のやる気を引き出すという賃金政策上の観点からは、会社への貢献度に応じて配分される刺激給としての位置付けが確立されました。
賞与を「利益の配分」であると明確に位置付けたうえで、社員のやる気を引き出すように効果的に配分するためには、①どのような考え方で賞与総額を決めたら良いか②どのようなやり方で社員に配分したら良いかこの2点について、会社としての基本スタンスを確立することが必要です。
◎賞与総額(原資)は、4つのポイントで総合判断する
まず、賞与原資の決め方について検討してみましょう。
ひとつの分かりやすい考え方としては、今期会社が産み出した付加価値総額を基準として総額人件費を定め、そのうち月例賃金分を差し引いた残額を賞与原資とするというやり方があります。
計算式を紹介します。
労働分配率は、業種により、また個々の会社によって特徴があるため、過去5年程度を振り返って、自社に見合った水準を設定することになります。
賞与総額の決定方法をルール化しておけば、経営者が原資決定で悩むことも軽減できますし、労使ともに納得のいく水準を見いだしやすくなります。
仮に当期利益の赤字が予想される場合であっても、本業の儲けを示す営業利益の段階で利益が出ているのであれば、原則的には決定している賞与総額決定ルールに従い、営業外費用や特別損失の内容・程度に応じた減額調整に留めるべきでしょう。
実際に賞与総額を決定する際には、次のことなどを考慮して、総合的に判断します。
①前年同期比の営業利益(=本業の利益)の伸び率②一人あたり営業利益率の伸び率③利益が変動した原因の検証④過去の平均支給月数、平均支給額との増減比較社員数の少ない会社であれば、「今年の新卒採用では、良い人材が集まったので予定以上に採用した」「この2年ほどは、ベテラン社員の定年退職が続く」など、総額人件費の変動が大きい時期があるものです。
社員平均支給額や、基本給をベースとした平均支給月数だけで原資決定すると、「前年以上に頑張ったのにもかかわらず、なぜ賞与は減ってしまったのか」といった不平・不満が出やすくなります。
そうならないためにも、先に紹介した4つの経営視点から総合判断をしていただきたいと思います。
実務現場で考えるコト⑦戦略的なベースアップを目指す
マスコミで報じられる「賃上げ」という言葉は、「定期昇給」と「ベースアップ」に切り分けて考えるべきもの。
定期昇給は、自社の賃金表とその運用ルールにもとづいて、昇給運用を行う。
これに対し、ベースアップは、文字どおり賃金表の水準(ベース)を引き上げることを意味する。
目的は大きく3つ、①物価上昇に配慮、②会社業績の向上、③自社水準の戦略的決定。
高度成長の時代は、物価上昇に対する賃金の目減り分の補填という性格が強く出ていたが、長期間のデフレ経済を経てベースアップはこのところ0.5%を下回る状況が続いている。
消費者物価上昇率が低ければ、物価に配慮したベースアップの必然性も当然に低くなる。
これからは給与水準の低い会社こそ生産性向上に取り組みつつも、給与水準を引き上げる努力をしていかなければ、安定的な人材の採用・定着はままならない。
優秀な技術を持っている会社でも、給与が世間並み以下では人は集まらないので、戦略的かつ段階的に給与水準を引き上げていくことを最優先に考えなくてはいけない。
中小企業の所定内賃金の平均支給額(組合員ベース)は、主要企業のそれと比べて6万円以上の開きがある。
良い人材を継続して獲得したいのであれば、合理的な給与制度を整備した後の重要テーマとして、「戦略的なベースアップをいかに実現するか」に取り組みたい。
2社員個人への配分方法を考える~評語格差がハッキリ伝われば優秀社員の定着につながる
◎メリハリのある賞与配分を実現する
賞与総額が決まったら、次は個人配分をいかに効果的に行うかです。
そこで、賞与支給額の基本算式を次のように定めます。
賞与を、基本給比例分と成績比例分に分けて支給するようにします。
賞与配分金額=(基本給比例分+成績比例分)×出勤係数ここでいう成績比例分とは、基本給の中に含まれている年功的な要素を一切廃し、社員の等級格付と成績だけで支給額を決定することであり、貢献度賞与としての性格付けを決定的にするもので、これによってメリハリある賞与配分を実現することができるのです。
つまり、成績比例分の比率を高めるほど、成績による差がはっきりつくようになります。
賞与の本質が利益の配分である以上、本来なら賞与支給基準のすべてが成績比例分でもかまわないのですが、これまで支給額にほとんど差のなかった会社が、いきなり成績比例分を大きくすると、これまでの支給状況が一変します。
急激な変化は、たとえそれが好ましいものであったとしても、不安をあおり、やる気を阻害するので、まずは原資の一部に成績比例分を取り入れ、段階的にその構成比を高めることで、メリハリある賞与配分を実現してほしいものです。
メリハリのある配分とは、・役割責任の軽い下位等級の者より、成果責任を問われる上位等級の者に対して・同じ等級のなかではより成績の優秀な者に対してより厚い配分を行うということです。
つまり、等級別に、また成績評語別に支給基準を決めておけば良いのです。
個別配分のための手順は次の通りです。
手順1成績比例配分の基準として等級別・成績評語別に配分点数を決めておくこの配分点数表は、責任等級と成績評語によるマトリックスです。
この表に基づいて、
社員一人ひとりに配分される点数を決めるようにします。
手順2成績評語(SABCD)に従って、各人別の配分点数を求め、全員の配分点数を合計しておく例えば、Ⅲ等級社員で評語Aなら230点がその社員に与えられます。
Ⅳ等級で評語Cなら170点という具合です。
全社員の点数が確定したら、その総合計点数を計算します。
手順3賞与総額のうち基本給比例分、成績比例分の比率を決定する基本給比例分と成績比例分の割合について、50%:50%、40%:60%というようにパーセンテージで決めるか、賞与原資2・5カ月に対して、1・0カ月:1・5カ月というように、自社の比率を決定しておきます。
手順4成績比例賞与総額を全員の合計点数で割って1点単価を求める1点単価方式と呼ばれる配分方法です。
例えば、成績比例分の原資が2,700万円、全社員の配分点数の総合計が18,000点なら、算式により1点単価は1,500円となります。
手順5各人別に基本給比例分と成績比例分(1点単価×配分点数)を計算し支給額を求める1点単価が1,500円の場合には、下図のように成績比例分の支給額が決定されます。
いま、社員100人規模の会社の、2人のⅣ等級係長について実際にいくら賞与が支給されるのか、その金額を比べてみましょう。
この会社は、基本給比例分が0・8カ月、1点単価は1,500円です。
山田係長(38歳)基本給307,000円賞与評語A田中係長(54歳)基本給394,500円賞与評語B
2人の基本給および成績評語は上記のとおりです。
各賞与支給額を計算してみると、山田係長××==230点)××=660,600円=となります。
年齢が若く基本給額が少ない山田係長でもA評価を取ったことで、標準的な成績で年齢が1回り以上も上の先輩社員を支給額で上回ることができるようになります。
山田係長の成績評語がS、A、Bそれぞれの場合の賞与支給額および田中係長がB、Dであった場合の賞与支給額は次ページ図のようになります。
かなりメリハリの効いた支給格差がつけられていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
◎賞与支給時の金額差で自身の評価を再認識するインパクトが大きい
「当社はとても賞与原資を大きく増やすことなどできないし、一人の管理職が抜きんでて優秀だといっても100万円を超えるような賞与はとても無理です」とは、ある製造業の社長(社員150名規模)の言葉ですが、配分方法を変えることによって、Sを取れるような管理職には十分に見栄えのする、同業種・同規模企業の水準を超える支給額を支払うことができるようになるのです。
ひとつ言えることは、成績評価による評語格差がハッキリ伝わる支給額、支給方法は、優秀な社員の定着にとって望ましいということです。
なぜなら、成績評価後のフィードバックでは、成績評語(SABCD)を通知するだけよりも、賞与支給時にその金額差で自身の評価を再認識するインパクトが大きいからです。
賞与は、社員一人ひとりの仕事ぶりに対する会社としての評価を、処遇と共に伝える制度でもあります。
ぜひ、成績に直結した刺激給としての位置付けを明確にしてください。
3支給時の工夫で社員のやる気を引き出す~「やる気の総和を最大化する」を最大限に具現化する瞬間
◎社長のメッセージもそえて、社長の想いをしっかり伝える
「社員のやる気の総和を最大化する」という、重要なテーマを最も具現化しやすい場面が、賞与支給日に賞与を手渡す瞬間ではないでしょうか。
評語Aの優秀社員が「よし、次も絶対にA以上を取れるようにしよう」と前向きな気持ちを抱き、評語Bの上に位置しながらAを取れなかった社員が「次こそAをとるぞ」と決意を新たにし、残念ながら評語Cを取ってしまった社員が「次は恥ずかしい思いをしないように必ずBクラスに入ろう」と奮起するのは、評価結果が賞与明細という目に見えるかたちで確認できることも大きな要因です。
今も賞与だけは現金で支給するという会社がありますが、それも会社の業績と社員への評価を、肌で感じてもらうための仕掛けであり、経営者の狙いはよく理解できるものです。
これに対し、賞与支給日といっても、賞与明細が総務から事務的に渡されるだけの会社もあるのです。
これでは、来期に向けた動機付けなどできようはずもありません。
賞与支給日には、朝礼等の場で、業績の振り返り、今後の計画と見通し、社員への労いと激励などを、社長のメッセージに込めます。
そして、上司から賞与明細を手渡す時は、一人ひとりに声を掛け、「次はもっと上を目指せ」「来期こそは頑張れ」といった想いも伝えていただくのが良いでしょう。
◎決算賞与の支給にはマイナスの影響もあり慎重に検討する
年2回の賞与支給に加えて、事業年度末に決算賞与を支給する会社は、中小企業でも珍しくありません。
当期利益に対して税金を払うよりも、社員に対して報いてやりたいという社長の想いが、形になって表れていると考えられます。
ただし決算賞与は、その事業年度内に支給対象者全員に対して支給額が決定し、実際に支払われることが前提となっているため、社員一人ひとりの貢献に応じた配分とするのが難しいという側面があります。
要するに、個々人の評価や貢献度に応じて支払うというより、等級別もしくは職位別に定額支給とせざるを得ないため、「平等」な支給基準ではあっても、「不公平」だと感じる社員が少なからず出てくるということです。
決算賞与を支給することが、社員のやる気の総和を最大化することにつながるとは、必ずしもいえないのが実情なのです。
このようなマイナスの影響も考えられるため、決算賞与の支給には慎重であるべきです。
決算賞与を支給するのであれば、夏冬の賞与をそれぞれ対所定内賃金の2・0カ月以
上、年間4・0カ月以上を支給していることに加え、個々人の勤務成績や貢献度に応じた配分をしていることが、その前提条件となります。
◎赤字会社でも最低保障額は基本給の1・0カ月を担保する
賞与の本質は利益の配分ですから、会社が赤字であれば、賞与を支給できないことになります。
ただ実際には、「利益が出ていないから、賞与は出せない」と直ちに結論付けてしまったら、そこに賃金戦略・人事戦略は不在で、経営を放棄したに等しいといっても過言ではありません。
なぜなら、そのような会社では優秀な人材から社外に流出するでしょうし、社員のやる気に火を付け、来期の利益を獲得することがいっそう難しくなるからです。
もちろん賞与原資を一定の算式から導き出すことができないのですから、これまでの内部留保を取り崩すか、来期の利益を担保として最低限の賞与を支給するように努めるしかありません。
このときの最低保障額の目安は、基本給の1・0カ月です。
この最低限の賞与原資は、当初より月例賃金と同様に必要経費に含めて用意しておくべきでしょう。
賞与は利益の配分ですから、業績不振時には不支給もあり得るのですが、実際に賞与ゼロにしてしまうと社内の活力が大きく損なわれることから、最低限の原資はあらかじめ見込んでおくのです。
これは、急激な業績悪化時においても、社員の日常生活を守るための会社の備えであり、社員を大切にする会社の基本姿勢の表れでもあるのです。
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