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第7章納得性のある評価制度を確立する

目次

1なぜ評価をしなければいけないのか~適正な差をつけることが人材を育てる

◎誰もが認める実力社員ほど、正しく評価されることを望んでいる

「なぜ私たちは評価をしなければならないのでしょうか」この根源的なテーマを考える前に、わが社の優秀な社員に注目してみましょう。「いつも安定した結果を出す」「言われなくてもできる」「周囲からの信望が厚い」。

このようなわが社の将来を託すにふさわしい実力を備えた優秀社員について、あえて定義すれば、「自ら職務上の課題を見つけ、その解決策を考え、実行に移して成果に結びつけることができる社員」となります。

そんな優秀社員たちが、会社や上司に望むことをまとめたのが、次ページの図です。そうなのです。誰もが認める実力社員ほど、正しく評価されることを望んでいるのです。

◎社員相互に切磋琢磨する風土をつくる

お客様の社内評価者勉強会の講師を務めるときには、その冒頭で、必ず参加者の皆さんに「評価をする目的とは何か」をお尋ねすることにしています。

「部下が認めてほしいと期待しているから」「社員の教育・OJTを進めていくため」「社員のモチベーションを高めるため」「賞与を配分するために必要だから」などと、さまざまな答えが出てくるものの、評価者の頭の中で評価することの意味が整理されていないことがよく分かります。

評価者が評価という最も重要な自分の職務の目的を端的に説明できないようでは、正しい評価などできるわけがありません。

ポイント

評価とは、適正な差をつけることである評価を実施する目的を整理すると、前ページのようにまとめることができます。社員の働きぶりはそれぞれ違うのですから、会社の定めた評価要素や着眼点にそって採点すれば、必ずそこには差が生まれます。

つまり、「評価をする」は適正な差をつけることでもあるということを、評価者はしっかり認識しておく必要があります。

ただし、差をつけるとはいっても、たった1回の評価で決定的な格差をつけてしまい、ひとたび出遅れてしまった社員は二度と追いつけないということでは、「社員のやる気の総和」を高めることはできません。

たとえ、今回は成績が悪かったとしても、次に頑張れば、必ず追いつけると思わせるものでなければいけないのです。

分かりやすく言い換えれば、Aを取った社員は「次もしっかり頑張ってAを取り続けられるようにしよう」と考え、Bの社員は「次こそはAを取るように頑張ろう」と闘志を燃やし、残念ながらCだった社員は「このままではいられないから、次は絶対Bに入ろう」と決意します。それぞれが来期に向けてチャレンジする風土をつくるには、評価による差ははっきりとつけなくてはいけません。

そして、人事評価を通じて、全社員が「昨日より今日、今日より明日には、より良い仕事ができるようにしよう」と思わせなければいけません。

つまり、ポイント評価とは、人材を育てるためのものであるこのことに対しても、経営者はもとより、評価者である管理職も十分に理解しておくことが肝要です。

2評価の基本を正しくつかむ~成績評価制度では評価できるのは直属上司だけ

◎評価者は、被評価者の上司として明確に適正な判断をしなければいけない

日々の業務に求められる評価とは、社員一人ひとりの仕事の品質について、評価者がその価値判断を下すことです。つまり、評価者は、被評価者の上司として明確に適正な判断をしなければいけないということになります。ところが、評価者にとっての評価業務とは、実にストレスのかかる仕事です。

「部下の仕事ぶりについては、誰よりも上司である自分がいちばん理解している」と胸を張り、自信を持って評価をつけられる管理職ばかりなら良いのですが、自分もプレイヤーの一人であり、ましてや稼ぎ頭ともなれば、部下の仕事をつぶさに観察していない後ろめたさからか、点数に差のつかない消極的な評価になることがよくあるものです。

◎常に直属上司への動機付けとそのレベルアップを図る

自らの評価点によって、部下の賞与支給額に差がつくことも、評価者へのプレッシャーとなります。評価結果を十分に説明しきれるだけの自信がなければ、評点にほとんど差がつけられないという事態に陥りやすいのです。

評価点が平均点付近に集中する「中心化傾向」という評価エラーが起こりやすいのは、そうした理由からです。社長ひとりで、全社員の仕事ぶりを確認するなどということは不可能ですから、評価実務は管理職の手に委ねざるをえません。

本章でお話しする成績評価制度の運用の成否は、現場の管理職の双肩にかかっているのです。

このことを証明するかのように、賃金管理がうまく軌道に乗っている会社は、車の両輪ともいえる評価制度の運用も円滑に行われていて、そのキーパーソンでもある管理職への教育が継続的に行われています。

経営者が、心の底から社員の成長と幸せを願うのであれば、常に直属上司への動機付けとそのレベルアップを図りつつ、それぞれの部署での人材育成が計画的に行われるよう、意識して取り組まなければなりません。

◎成績評価制度と人事考課制度を比べて考える

人事評価というと「人事考課のことですね」と聞き直されることがあります。人事考課と人事評価は、全く同じことを指していると考える経営者も少なくありません。

それほど、人事考課という言葉は広く行きわたっています。人事考課制度は、職能資格制度のもとで、職務遂行能力や業務適性があらかじめ定めていた基準に到達しているかどうかを判定するための手法で、広義の人事評価の一形態です。

一方、仕事の成績そのものを評価対象とするのが、本章で取り上げる成績評価制度なのです。成績評価制度は、いわば仕事力評価ですから、評価の対象は「仕事の成績」です。

単に目に見える成果や業績だけを対象とするのではなく、適正なプロセスを経て職務の遂行にあたり、その結果として期待される成果をあげたことが評価される仕組みです。

より良い仕事をした社員を前向きに評価するには、相対評価の手法を用います。これに対し、人事考課制度では、職務遂行上に求められる能力や適性が、一定の水準に達しているかどうかを判断するため、絶対評価を基本とします。

◎成績評価制度では本人評価は行わない

評価手法を巡って、「絶対評価を採用すべきだ」とか、「いや相対評価でなければならない」などと侃々諤々の論争が行われましたが、このような議論は全く不毛で意味のないことです。

評価対象が違えば、それにふさわしい評価法も当然に変わってくるからです。部下の能力や適性を評価対象とする人事考課の場合、いかに客観的な基準を設定しても、評価する人の目線の違いから評価誤差は必ず出てくるものです。

絶対評価だといっても、評価者によって評価結果が異なるわけです。この問題を解消するために、複数の眼で判断してより客観性を持たせるという方法がとられます。

二次評価、三次評価を行ったり、多面評価・360度評価を用いて、評価誤差を修正するのです。絶対評価の前提には、客観的な到達基準があるということですから、本人による自己評価も当然に行うことになります。

成績評価制度では、組織の指示・命令系統の中で仕事の成績を判断しますから、評価できるのは直属上司だけです。実際に指示を出し、業務の進捗について報告を受ける立場にない他課の課長には、評価しようがないのです。これは、自己評価についてもいえることです。

部下本人には他部署の同僚と比べて、自分の働きぶりを客観的に評価することなどできません。ですから、成績評価制度で本人評価は行うことはないのです。

◎被評価者の順位を変更できるかどうか

評価者のクセや評価誤差は、必ず評価点の中に含まれています。いくら評価者研修会を行ったとしても、人生経験や職務体験も違う評価者が、全く同じ評価をすることなどありません。「評点には評価誤差が必ず含まれる」。

そう割り切ってしまえば、あとはその評価誤差をいかに調整するかという手続きの問題です。成績評価制度における調整と、人事考課制度における二次評価の大きな違いは、被評価者の順位が逆転する可能性があるかどうかにあります。

成績評価制度では、直属上司がつけた部下の順位が入れ替わるような調整は認められません。一方の人事考課では、二次評価者が改めて絶対評価をしますので、一次評価者がつけた評点を二次評価者が再評価した際に、点数が変われば順位が変わる可能性も高いということになります。

両者のこうした特性の違いは、どのような場面の評価に用いられるのかも影響してきます。社員の能力開発や採用時には人事考課の手法を用いますが、社員の半年ごとの成績は、成績評価制度によって行うべきものです。

3納得性を高める成績評価5ポイント~「客観性」ではなく「公正」「透明性」そして「納得性」がカギ

◎評価制度の成否は「納得性があるかどうか」

成績評価を行っていくうえで、いちばん大切なことは、評価結果に対して社員の納得が得られているかどうかです。

もっとも、いきなり100点満点の評価制度を求めるのは無理がありますから、まず公正な評価制度をつくり、透明性を維持するようにしたうえで、納得性が得られる運用を目指してください。

「公正」とは、評価方法が仕組みとしてルール化されていることです。「透明性」とは、評価制度をオープンにして、ルールどおりの運用が行われているかどうかを、社員からも確認できるようにすることです。

そして「納得性」とは、成績評価の結果について、社員の一人ひとりが理解できるようにしっかり説明することです。評価者である直属上司には、やや気の重い仕事かもしれませんが、部下の仕事ぶりの良いところ、悪いところを十分に理解させ、納得させることができて、初めて今後の能力開発につなげることができるのです。

ところで、よく評価制度では「客観性」が大事だといわれます。実際に評価者である管理職からも「もっと分かりやすい客観的な基準の評価シートはありませんか」との要望をいただくことも多いのですが、はっきり言ってそのようなものはありません。

おそらく、客観的な基準というのは、評価者があれこれ考えなくともズバリ評点がつけられるような基準という意味合いなのでしょう。その裏には、自分が価値判断を下さなくとも、定量的に判断できるモノサシはないのだろうかという意図が隠れているようです。

しかし、活力のある中小企業ほど、事業戦略も環境にあわせて変化し、日々の仕事にも機動的な対応が求められるのが常です。

評価者が目指すべきは、あらかじめ詳細に決めていた硬直的なモノサシを当てはめることではなく、どんな環境の変化があっても自信をもって部下の仕事に対して価値判断を下せるよう、日頃から自分自身を磨くことなのです。

◎限定の5ポイントで「社員のやる気の総和を最大にする」

評価結果に基づく賞与配分を通じて、「社員のやる気の総和が最大になる」ようにするには、評価制度の「納得性」を高めることが求められます。そのためには、次にあげる5つのポイント(5つの限定)に沿った運用を心掛けてください。

ポイント①評価の対象を「仕事の成績」だけに限定する成績評価は、貢献度に応じて賞与を分配するためのものであり、実際の仕事を通して顕在化した能力を評価するものです。

見えない保有能力(潜在能力)を評価対象としても周囲の納得は得られません。目に見えて確認できる仕事の成績だけを評価対象とし、目に見えない保有能力を直接の評価対象としてはならないのです。仕事の成績は、プロセスと成果に分けて考えることができます。

会社の定めた経営理念や信条、行動規範などに基づいた正しい業務プロセスを経て、目的とする成果を達成したかどうかが問われるのです。仕事の成績といっても、結果だけに執着した成果主義、業績至上主義であってはならないことは言うまでもありません。

ポイント②相対評価する社員は「同じ等級」の者同士に限定する責任の重さや仕事の難易度によって責任等級は区分されていますから、同じ等級同士で評価するのが基本です。

そうでないと貢献度の高い上位等級者ばかりがいつも高い評点となり、評語Aを受けやすく、常に優遇されることになります。同じ等級のなかで、相対評価をして、順位・序列を決定し、成績評語SABCDに割り振るようにします。

同じ部や課のなかに異なる責任等級の社員が混在している場合、責任等級の枠組みを無視して、仕事の出来映えだけで一括評価をしてしまうことがないように注意しなければいけません。

ポイント③評価期間を「対象期間の6カ月間」だけに限定する部下の大きな成功や失敗は、評価者である上司の脳裏に強く焼きついているものです。

しかし、発揮能力はその都度変化していくものですから、いつまでも過去の業績に引きずられていては、社員の前向きな気持ちを引き出すことはできません。

「社員にレッテルを貼る」ような評価は厳に慎まなければなりません。そのために半年間の評価対象期間を決めて、その期間内に限定して評価することを徹底するのです。

過去6カ月間に限定することで常に新しい前向きな気持ちで目標に臨ませるようにするのが鉄則です。評価対象期間は、成績評価を実施する直前の6カ月間にするのが基本です。各社の賃金計算期間に合わせて、以下のように決めるとよいでしょう。

ポイント④評価者を「直属上司」だけに限定する評価者の仕事は、部下の成績を、後に示す成績評価基準書にもとづいて点数で表すこと。

この作業ができるのは、直接部下本人に指示・命令を与え、遂行過程を確認し、報告を受ける立場にある直属上司ただ一人です。つまり、被評価者をいちばん近くでいつも見ている直属上司が、最も客観的で正しい評価ができる立場にあるのです。

他課の課長や同僚が評価をする360度評価などいわゆる多面評価と呼ばれるものは、職務適性や基礎能力を判定する場合のみに限られるやり方です。

仕事の成績、すなわちプロセスと成果に関しては、直属上司にしか評価できないものですから、1階層上の上司は二次評価者としてではなく、調整者として評価システムに参加することになります。

ポイント⑤評価は「部下の順位と相対的間隔」だけに限定する評価者が持っている甘辛・集中分散といった評価誤差や評価者特有のクセは、いくら訓練を重ねてもなかなか是正できるものではありません。

しかし、その評価グループ内に限っていえば、評点によって表される点数の序列と相対的な点数の間隔は、信頼性が高いものと考えられます。

他部門・他部署との間で甘辛調整や部門間調整を行う場合にも、数値で表される点数(50点、65点など)の絶対値としての大きさには重要な意味はありませんが、評価者がつけた順位と相対的な点数のバランスは、最後まで尊重するようにします。

以上の5つのポイント(限定事項)を守って評価作業を進めることが、納得性ある評価実現に向けた近道です。直属上司が評価をつけたら、間接上司が調整者として部門間格差と評価誤差を調整し、等級ごとに一本化して順位を決めます。

同じ等級内での成績は「正規分布」を描きますから、これを一定の比率で区分し、人事担当責任者(総務部長や人事課長においてSABCDの評語案を決定するという流れです。

4成績評価の基準・着眼点をつくる~機能重視の柔軟な組織にも運用できるように設計する

◎評価基準は成績評価基準書にのっとる

ここでは、賃金管理研究所が、汎用的に使用できるように考案した評価ツール「成績評価基準書」の着眼点について、その詳細を見ていきましょう。

社員の仕事は、その特性から、①組織の責任者として、部下を通じて業績を達成する管理・監督的な職務(管理職)②上司からの指示・命令によって、具体的な任務を遂行する非監督的な職務(一般職)の2つに大別することができます。

基本的な機能面から整理・分類すると、前ページのようにそれぞれ5つの評価要素にまとめることができます。

ここに掲げた評価要素は、日常の仕事にはどのようなものがあるかを書き出したうえで、評価するのにふさわしい項目としてまとめ直したものです。

部門や職種を横断して使えるような成績評価基準書〔監督者用〕と〔一般職用〕の2種類を用意するようにします。最もよく使用する〔一般職用〕について、個々の評価要素で確認し評価すべき内容をまとめると次のようになります。

1.服務……基本的な就業・勤務態度はどうだったか2.受命・段取……仕事の準備や段取りはどうだったか3.就業活動……目的を正しく理解して、適切に業務に取り組んでいたか4.業務能率……仕事の効率化への努力を続けていたか5.成果……仕事の結果を適切に取りまとめ、良好な成果をあげたか

◎評価要素ごとに4つの視点から仕事内容を整理する

203ページの図表では監督的な仕事と非監督的な仕事について、機能区分と評価要素の結びつきを示しています。評価要素のそれぞれについて、評価しやすいように設定された具体的な評価基準、これが評価の着眼点です。

着眼点は、5つの評価要素ごとに4つの視点(補足欄参照)に展開して、評価すべき仕事内容を整理すると設定しやすくなります。

(具体的な設定例は、206・207ページの成績評価基準書を参照)※4つの視点①(イ)基本となる実績…各々の評価要素の基本となる内容(ロ)発展的前進的な実績…主体的・自発的に取り組んだ業務や業務改善、自己啓発への取組みなど、前向きな取組みを評価する※4つの視点②(ハ)組織活動との関連…組織や他のメンバーとどのようにかかわって仕事をしたかをみる(ニ)総括的な実績…評価要素全体の総括をする

◎組織が硬直化しないようにする

代表的な成績評価基準書には、〔監督者用〕(206ページ)、〔非監督者用(一般職用)〕(207ページ)を用意します。

仕事の特性に応じて、基準書をアレンジすることはできますが、機能重視の柔軟な組織ほど仕事の進め方や職務範囲も絶えず変わってゆくため、部門別・職種別あるいは階層別の基準書を作ることが、かえって組織を硬直化させる恐れもあるので注意が必要です。

標準的な様式である成績評価基準書〔監督者用〕と〔監督者用(一般職用)〕を用いても評価者が部下の習熟度や能力に応じ、また職場の実態に合わせて着眼点の内容を読み込んで適用することで、納得性の高い評価とすることは十分可能なのです。

5評価点を正しくつける~評価尺度のイメージをもち、着眼点ごとに相対評価する

◎10点を中心として評点をつけられるモノサシを用意する

成績評価制度では、項目ごとに、総体評価を行うために、平均を10点として上下に点数が分布するように評点をつけます。

成績評価制度は、相対比較のうえで優位に立つもの、つまり優れた仕事ぶりの社員を見つけて処遇に結び付ける相対評価を基本としますから、評価用のシートにに複数名の部下を列記して、着眼点ごとに相対評価をするという方法をとります。

このときの目盛りは、平均的な成績の10点を中心として、最も優れている者を14点、最も劣っている者を6点とし、6点から14点までの9つの目盛りを使って評点をつけます。

◎評価者の頭の中で、評価尺度のイメージをつくっておく

成績評価基準書の点数メモリには秀(14点)、優(12点)、良(10点)、可(8点)、劣(6点)の文字が書かれていますが、これを絶対基準としてとらえる必要はありません。ただ、評価者の頭の中で、評価尺度のイメージができあがっていないとなかなか評点はつけにくいものです。

「このくらいまでできたら14点」「ここまでしかできないなら6点」というように、評価レンジの上限・下限の判断基準(仕事力のイメージ)を持っていただきたいと思います。

中心の10点は、その等級としてできて当たり前の水準であり、「平均的」「期待どおり」という水準。14点のイメージをあえて説明するなら、上位等級のメンバーに加えても遜色ないレベルの仕事ぶり。下限の6点は、現在の等級では及第点は与えられないレベル、「劣」=「不可」ということです。

部下の人数が等級別に1人か2人という少人数の職場では、実質的な相対評価は行いにくいと考えられるのですが、そんな状況下でも、過去の自分や同僚の働きぶりを基準として、あるいは、その等級として部下に期待している仕事力のイメージを手掛かりに、相対評価はできるはずです。

次ページは、成績評価報告書の一部を抜粋したものです。実際にどのようにして点数をつけていくのが良いか確認してみましょう。

◎評価は必ずヨコにつけるように徹底する

成績評価基準書の服務の(イ)「規則や指示に従い、日常の業務に精励したか」という着眼点から、着眼点ごとに相対評価によって、点数をつけていきます。つまり、評価点は、着眼点ごとにヨコ方向につけていかなければならないのです。

もし、被評価者ごとに、服務の(イ)、(ロ)、(ハ)……と上からタテ方向につけたとすると、優秀な社員には総じて高い点数がつきやすく、反対に成績の振るわない社員には総じて低い点数がつきやすいという傾向(補足欄参照)が表れます。

※傾向(評価者のクセ)。

年2回、6カ月ごとに評価をするのは、社員の発揮能力はその都度変化するからに他なりませんが、「いい人はいつも良く、悪い人はいつも悪い」といった結果につながりやすいハロー効果はできる限り排除しなければなりません。そうするためにも、評価は必ずヨコにつけるよう徹底する必要があるのです。

6成績調整をどのように進めるか~いわゆる二次評価ではないが、いくつかの留意事項がある

◎評価者のクセは誤差を完全に取り払うことなどできない

成績評価の評価点には、必ずといっていいほどに評価者の評価誤差が入り込むため、調整作業は避けて通れません。評価者訓練をどんなに繰り返し行ったとしても、人間が行う人に対する評価にはその評価者なりの価値判断を伴います。

特に人事評価の場合には、評価者である直属上司が、今日までに仕事上で経験してきたことや、これまでに出会った、さまざまな年代層やタイプの人々にも影響を受けているはずです。

これまでの人生経験すべてが、今の評価者たる上司の価値判断に影響を与えていますから、どうしても評価者のクセは誤差を完全に取り払うことなどできないのです。

◎対人比較による投影法を用いる

そこで、評価誤差は必ず評価点に含まれているものだと割り切って認めたうえで、評価者から提出された評価点を、間接上司がそれぞれの被評価者を対人比較法によって調整し、被評価者間の相対的な成績のバランスを取ることが必要になります。

つまり、評価制度のなかの必要不可欠な手順として、甘辛の誤差、集中・分散の誤差、そして評価の段階では考慮されていない部署間の成績格差を、客観的に調整する手続きを用意する必要があります。

実際の調整作業は以下のような手順にしたがって進められます。2つの評価グループについて、代表者2名の対人比較を基本とした「投影法」によります。

このような対人比較による投影法を用いて、2課の被評価者を、1本の軸上にまとめることができました。これを、部門別にまとめた後、全社で等級別に点数序列を決定するまで調整を行えば良いことになります。以上が、調整作業の基本的な進め方です。

◎成績評価の調整作業と二次評価の違いを正しく理解する

これはあくまでも調整作業であり、いわゆる二次評価ではありません。調整と二次評価の決定的な違いは、被評価者の順位を変更できるかどうかにあります。

成績評価制度における調整作業では、評価者がつけた順位は最後まで尊重しなくてはいけません。これは前掲の「成績評価制度5つのポイント」で説明した通りです。

これに対して、人事考課制度で行われる二次評価では、例えば一次評価者である課長がつけた点数による順位は、二次評価者である部長の点数によっては入れ替わることもあり得るのです。

人事考課における二次評価のような手法では、部下の側からすれば、最も自分の仕事ぶりをよく知っているはずの上司の評価がその上位者によって覆されるため、評価制度への信頼は著しく損なわれます。

このように社員本人の仕事力を直接には観察していない二次評価者に対して、最終的な評価権限を与えるということは、かえって評価の納得性を損な

うことを忘れてはなりません。本人の仕事力を評価対象とする成績評価制度では、たとえ社長であっても、二次評価を行ってはならないのです。

実務現場で考えるコト⑥昇格昇進は「経営判断」

昇格昇進は、会社として行う適材適所の人員配置の一環であり、経営判断に基づくもの。一定の昇格要件をクリアしたからといって、自動的に昇格できるというものではない。

したがって、どんなに優秀な成績を得た社員であったとしても、1ランク上の責任を任せても良いと、社長が判断していないのであれば、昇格させてはいけない。

責任等級制給与制度の下では、昇格して偉くなったからといって基本給を一気に引き上げるような昇格昇給も用意されていない。上位等級に昇格して、その等級に応じた期待に応えうる実力・成果を発揮できて初めて有利な昇給運用が行われる。

このことが示すように、昇格とは本来、社員にとっても厳しいもの。昇格社員に、「昇格おめでとう」と声をかけることはあるとしても、社長の期待を込めたメッセージの本質は、「大いに貢献してくれてありがとう。

さらに責任の重い、重要な仕事に就いてもらいたい。今まで以上に仕事は大変になるかもしれないが、ぜひ新しい1ランク上の仕事に挑戦してほしい」。

より重い責任を負い、より大きな成果を求められる。一定の昇格要件をクリアしたら誰でも、自動的に昇格させるという運用は好ましくない。昇格要件を満たした者のうち、「昇格させても上位等級の責任が十分に果たせる」と確信した社員を昇格させるのである。

7「評語Aの比率25%」を正しく理解する~成績評語の決定と評語分布の関係を押さえる

◎まず「2:6:2の法則」で考える

調整作業を経て、等級ごとに分布調整点が決まり順位が決まれば、人事担当責任者において、所定の比率に従って評語案を作成することになります。

評語案の比率は、原則として上位25%をA、下位20%をC、残り55%をBとします。A25%のうち特別に優秀な社員がいればSを、C20%のうち格段に劣る社員がいればDをつけることになります。

SABCDの5段階評価ですが、その基本はABCの3段階評価です。一般に社員を大きく3つに分けると、上位2割が会社全体の牽引役として業績の大半を導き出し、それに続く6割の社員はごく一般的な仕事ぶりの社員たちであって、残りの2割が他の社員の足を引っ張る存在だというようなことがいわれます。

このことは、ビジネスの現場のさまざまな場面で語られるように、世間に広く認められる実感でしょう。この考えに従えば、3段階評価の比率としては、Aが上位20%、Bが60%、Cは下位20%でよいことになります。

◎「社員のやる気を引き出す」という点からはAの比率の方がより大切

ただ実際の運用では、SとAで25%とすることをお勧めしています。なぜAをCより5%多く設定しているのかというと、成績評語は賞与の合理的配分のみならず、昇給評語の決定、ひいては昇格昇進にも影響を及ぼすものだからです。

昇給評語の決定の場面でも、昇格昇進者を選定する際も、ルールを守って正しい運用に徹することが大切なのは言うまでもありませんが、この場合にAが20%だけだとすると、将来を託す幹部候補生の人数としては少ないため、5%ほど比率を引き上げているということです。

「評語A以上を25%とする」。これは、等級ごとに選びに選び抜いた優秀社員を将来の幹部候補として育て上げていくために必要な比率なのです。

端的にいえば、組織活性化の観点からは、上位25%の社員の貢献を認めていくことがとても大切なのです。もちろん、評語C以下の20%も人件費のバランスを考えるうえでは重要なのですが、社員のやる気を引き出すという点からはAの比率のほうがより大切です。

もし「皆よく頑張ったから」といって、Aを30%以上にしたとすると、そうすると同じAの中でも上下間の業績の開きが大きくなりますから、より高い評点を受けた社員からは「なぜ私と彼とはこんなに業績に差があるのに、同じA評価なのか」と不満が出やすくなります。

◎業績が悪いときでも「評語Aの比率25%」は維持する

また、全体の業績が悪いのだから、評語Aを与えられる者などほとんどいない」として、大半の社員を評語Bとする会社もあります。しかし、これは賞与原資を調整すべきであって、業績が悪いときもA以上の25%は正しく決めなければいけません。

厳しい環境下にあっても、成果達成に励んでいる社員はいるのであり、努力しても報われないと分かれば、たとえ優秀な社員であっても「どうせ頑張っても評価されないのなら、ほどほどにこなしておけばよい」と、意欲を後退させてしまうことでしょう。

業績が思わしくないときにこそ、評語配分は基本ルールどおりに行うべきだということを経営者は肝に銘じていただきたいと思います。

なかには、「Aは一定の比率をつけることの意義は分かるが、うちの会社には本当に優秀だといえる社員はわずかしかいないから、Aを10%程度にしたいがどうだろうか」と考える社長もいることでしょう。

ただ、逆に10%程度という比率では、Aを取れる顔ぶれが常に固定化してしまい、いつもAは同じ社員、すなわちある意味で「社員にレッテルを貼る」ことになりかねない危険をはらんでいます。

これもまた間違いなのです。強い組織をつくり、それを維持していくためにも、「評語Aの比率25%」の持つ意味を正しく理解していただきたいと思います。Aが多すぎても、反対に少なすぎても、いい意味での競争を根付かせ、社員のやる気の総和を最大化することはできないのです。

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