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第3章担当職務・役割・職責を基準に等級を決める

目次

1社員に任せる「仕事」基準で処遇決定~責任等級制度でシンプルかつ合理的な仕組みに変えていく

賃金処遇を決定するための2大要素は、「仕事」と「人」であり、合理的な賃金人事制度へと作り変えるには、個々の社員に任せている役割責任を軸として考えるべきことはお話ししたとおりです。

では、実際の制度構築作業に入るまえに、日本の中小企業に共通する、注意すべき人事管理上のポイントについて、いま一度確認しておきましょう。

◎長期雇用を前提とした正社員が主な対象である

まず第一に、長期雇用を前提とした正社員が人事管理の中心だということです。人材獲得競争が激化するなかでは、今後も労働市場の流動性は高まっていくでしょう。

また、企業のM&Aや業界再編等も含めて考えれば、一人の社員が定年までひとつの会社で勤め上げるといった前提はもはや崩れ去っていると言えるかもしれません。

ただそうであっても、正社員が中心の雇用管理が多くの企業で行われており、長期雇用慣行をベースとした人事管理であることに変わりはないのです。

正社員とは、通常、フルタイムで働く期間の定めのない社員であり、定年を迎えるまで継続して雇用される終身雇用が基本です。

解雇権濫用法理によって、普通解雇も限定的にしか行えない日本の会社にとっては、賃金制度を含めた人事政策が長期雇用を前提としたものにならざるを得ないのです。

長期雇用がベースである以上、定年までそのモチベーションを維持し、長い年月にわたってやる気を引き出していく仕組みが必要です。

そのためには、「成果」や「貢献度」をキーワードとした短期決済型の処遇制度(その代表は賞与配分)を取り入れると同時に、定年までの期間を見据えた長期決済型の処遇制度(その代表は定期昇給制度)をバランスよく組み込む必要があるということです。

◎柔軟性のある人事システムが必要不可欠

日本の企業に見られる、第二の特徴は、組織と業務割り当ての関係に目を向けたとき、外国企業と比べて個人の業務範囲や責任範囲が明確ではないということです。

大企業だけでなく、中小企業の中にも「理念経営」や「クレド経営」を掲げる会社が増えており、社員を大切に考えている会社ほど具体的な経営計画・事業計画が策定されています。

ただ、そのような会社でも、個人の業務範囲や職務分担は、上司の指示命令によって決まる流動的な部分が多いものです。

組織(部や課)に与えられるミッションを、その組織のメンバーが相互に分担・協力して達成していこうとするスタイルが、日本の多くの企業に見られる特徴です。

かつての日本企業の強さを考えてみると、職務範囲が良くも悪くも不明確であるが故に、目前の課題に機動的に対処できる組織づくりをしてきたということも、その一因だったのではないでしょうか。

こうしたプラスの特性を否定して、職務範囲に厳格過ぎる線引きをし、目先の成果ばかりを追求させては、かえって企業の足腰を弱めることになるかもしれません。

◎「中小企業ならでは」の強みを生かす

とりわけ中小企業においては、中小企業ならではの強みや特性を生かせるように、柔軟に対応できる人事システムを目指すべきでしょう。中小企業の強みは、事業規模が小さいが故のフットワークの軽さや機動力にあると考えられます。

にもかかわらず、職能資格制度に代表されるような、精緻に身分資格化された年功賃金を温存しておいたままでは、そうした中小企業の強みを奪うことにもなりかねません。

労働力人口が減少し低成長が続く時代にあって、限られた総額人件費を効果的に配分していかなければならないのですから、処遇決定の基準も生産性に直結した仕事ベースに移行していかなくてはなりません。

フラットで意思決定が素早くできる機能組織を作り上げるためには賃金人事制度も仕事上の責任区分を切り口として、シンプルで合理的なものに変えていく必要があるのです。

その屋台骨を支える大黒柱にあたるのが、責任等級制度です。それでは、具体的な等級基準のつくり方に話を進めてまいりましょう。

2担当の仕事を責任レベルで整理する~まず会社の中で担当職務を大括りにとらえる

◎「責任の重さ」と「難しさ」の度合いで、等級に区分する

責任等級とは、「仕事の質」すなわち「仕事の責任の重さ」と「仕事の難しさ」の度合いでまとめて区分したものです。

社員一人ひとりの職務範囲は厳密に決まっているわけではなくても、個々人が負う責任範囲はその組織のなかでは、案外認識されているものです。

分かりやすく言えば、自分の判断で処理できる仕事(自分の責任で行うべき仕事)は何か、上司の判断を仰がなければいけないような場合、言い換えれば、自分で勝手に判断してはいけない場合とはどんなときか、ということです。

これは、必ずしも明文化されていなくても一定のルールがあるのが普通ではないでしょうか。

このルール、すなわち各自の裁量で決定できる「業務範囲(権限を与えられ、責任を負う範囲)=仕事の間口の広さ」を責任の大きさの段階として整理します。

いわば、この責任段階を会社ごとのルールに従って区分したものが責任等級制なのです。

等級構成は、会社の規模や組織の大きさによって適正な規模が異なりますが、役割責任の違いがはっきり分かるように区別しようとすれば、5等級構成か6等級構成とするのが、一般的といえるでしょう。なぜなら、それ以上細かく区分すると、責任の所在があいまいになり、等級が身分資格化してしまうからです。

◎今の役職が同じなら同じ等級とは限らない

実際に、どのように等級区分を行うかについては、次ページを見てください。社内に代表的な職位とその実際の職務内容を手掛かりに、わが社の役割責任は何段階に区切れるかを検証します。

職位が合理的に決められていれば良いのですが、例えば、課長といっても課の業績達成から部下の育成にいたるまで自身が責任を負うものと自認している管理職がいる一方で、課長という肩書はあっても年功的に付与された肩書で、実際には管理業務を全くしていない課長もいるなど、「課長は全員Ⅴ等級」というように同じ責任レベルだと言い切ることができない会社もあるでしょう。

そのような場合は、本来その職位に求められる(期待されている)職制上の役割・責任とは何かという基本に立ち返って考えてみてください。

◎社長として理想とする組織の姿を熟考し決定する

前ページの図表は、役割責任の階層数を6等級構成として考えていますが、実際にわが社が何等級構成をとるべきかについては、社長として自社の理想とする組織の姿を十分検討したうえで決定するようにします。

その時は、現在の職位の数にとらわれることなく、あくまでも責任の大きさの違いを判断基準とし、かつ最小限の等級数に絞り込むのが基本です。

人事管理の基本となる等級構成は、会社の組織構成に直結しますから、社長が責任を持って決めなければならないのです。

もう少し詳しく代表的な6等級構成の等級区分と対応する代表職位を見てみましょう。「仕事の質・職務の等級別解釈」欄には等級ごとに「~する仕事」と定めています。

人を基準に「~できる能力」を定めた職能資格制度とは違い、責任を負うべき仕事の中身が問われているからです。

個々の仕事を課業レベルで細かく規定するのではなく、担当業務の責任レベルにしたがって、どのような成果が期待されているのかを社員に分かるように規定すれば良いということです。

実際の運用にあたっては、次項で詳解する責任等級説明書の中で等級ごとの定義をより明確にし、就業規則か給与規程に載せるようにします。

責任等級説明書は汎用性を重視して、すべての部門や職種を網羅できるように、包括的に定義してありますから、まずは職位呼称にとらわれずに自社の管理職層から、その担当する責任レベルに照らして等級格付けしてみると良いでしょう。

この責任等級が、賃金決定、昇給、昇格昇進、賞与の配分など、人事制度全般および賃金処遇決定すべての基礎となるのです。

3仕事と賃金とをミスマッチさせない~等級運用の仕組みで社長が目指す組織構成を実現する

◎責任等級説明書で各等級を定義付ける

責任等級説明書は、社長が自社の組織構成のあるべき姿を、社員が担当する仕事の責任段階によって表したものだと言うことができます。

この説明書は、社員の等級格付けの決定基準であるほか、昇格昇進者を選定する場合の昇格要件の基礎となすものでもあるのです。

責任等級説明書には3つの特徴があります。

それは、①仕事の内容で等級を区切る、②ライン職位と専門職位をはっきり区別する、③各等級の定義を汎用的な表現にするです。

①仕事の内容で等級を区切る等級説明書の第一の特徴は、仕事の内容で等級を区切るということです。等級定義の内容を具体的に見ていくと、すべての等級の文末で「……する職位」と結んであることに気が付くと思います。

職能資格制度などでは、等級の定義に職能要件書を準備することが多いのですが、この場合は等級区分に応じた能力があることが前提なので、「……することができる」と表記するのが普通です。

ある業務について、できる、できないで判断すると、かなり評価者の主観が介入する恐れがありますが、責任等級制度では、会社が任せる仕事の責任レベルを等級で表すため、社員の等級格付けと等級定義に書かれている職務内容に差異が生じることはありません。

②ライン職位と専門職位をはっきり区別する

Ⅲ等級以上の定義欄には、ライン職位の責任範囲を表す(イ)と、専門職としての責任範囲をしめす(ロ)の2種類の定義をおいています。

(ロ)に示すように、専門性の高いスペシャリストの仕事で、その専門性の高さ故に自己判断や裁量を伴う責任レベルの高い仕事をまかせることもあるでしょう。

こうした社員には、部下についての指導育成義務を負っている管理職とは期待する仕事の中身が異なるため、定義もそれぞれに分けて記載しているのです。

かつて、「そろそろ管理職にはしてやりたいが、実際には部下を持たせられない」といった社長の情を反映し、中小企業にも処遇のためだけの専門管理職が置かれたりしていましたが、ここでいう専門職の定義は、決してそのような社員を置く便宜のためのものではありません。

◎各等級の定義を汎用的な表記にする

読者の中には、「等級定義というのなら、もっと具体的に、部門や職種ごとに、詳細な内容を定めた方が良いのではないか」と疑問を持たれる方がいるかもしれません。

実は、この等級定義はすべての社員に当てはまるような、大括りな表現を敢えて採用しているのです。

もちろん、部門の特殊性を反映させた等級定義を作ることもできますし、部門別に等級定義しておくことはあながち悪いことではありません。

しかし、このようなやり方にはデメリットも大きいのです。

いかに部門ごとに具体的な定義を行うといっても、そこに働く社員全員にぴったりあった定義付けをすることはできませんから、部門別・職種別の責任等級説明書をつくっても、ある程度は汎用的な表現を用いざるを得ません。

「もっと具体的に!」といっても、自ずと限界があるわけです。

また、詳細な定義付けに徹しようとすると、仕事の中身が変化すれば、等級定義もその都度改訂をしなければいけなくなります。

また、部門別・職種別の等級説明書をつくることが、部門間あるいは職種間の心理的な壁にならないとも限りません。

事業部制を採用できるくらいの組織規模がある会社であればそれほど心配しなくても良いのでしょうが、中小企業クラスでは、会社から期待される役割責任の微妙な違いを明文化することが、かえって組織間の垣根となって社員のやる気を阻害することもあるので、要注意です。

◎小さな会社では全部門を網羅できる責任等級説明書を用意する

中小企業であるからこそ日々の仕事も機動的に変化していきます。

中小企業の強みは、そのフットワークの軽さ、機動力にあると考えられますが、責任等級説明書を具体的にすればするほど等級定義と職務の実態が乖離する可能性が高まります。

責任の大きさ、裁量の度合いが同等であれば、それ以上に部門や職種の特殊性を強調するような定義付けは、避けた方が良いのです。

「営業部門は、会社の売上げを一身に担っているのだから、等級別の収益責任をもっと明確にすべきだ」「開発部門は、中長期の事業戦略の重要な部分を占めるから、その特殊性を考えて定義すべきではないか」などという意見が出されることもあります。

しかし、部門や部署ごとにその特殊性を主張し始めると、組織の垣根が高くなり、社内の円滑なコミュニケーションを邪魔することになりかねません。

このようにみてきますと、組織規模の小さな会社では、全部門を網羅することのできる責任等級説明書を用意すべきだという結論にたどり着きます。

社員にとっても、会社の一員としての自分の職制上の位置付けを確認できる点で分かりやすいものであり、部門を超えた一体感の醸成するためにも望ましいのです。

自社の責任等級は給与決定の基準でもあります。

部門や職種によって内容が違うことが昇格時の運用基準の違いとなって、社員の不公平感につながることがあるので要注意です。

4責任等級制度で等級格付けをする~イチから、現在の役職名称や年功的な序列を見直す

◎まったく新しいモノサシでイチから決めなおす

社員一人ひとりの等級を決定する作業を等級格付けといいます。社員の等級格付作業を進めるにあたって、常に念頭に置いておくことは、現在の役職名、資格名称にとらわれずに職務内容そのものに目を向けること。

つまり、実際に任せている仕事の中身(仕事の質=責任の重さ、難易度)で決定しなければいけません。社員規模が100人くらいの会社でも、部長、副部長、次長、課長、課長代理、係長など、実にさまざまな役職や肩書が付与されています。

このような会社では責任等級制度に移行する際にも、「現在の役職名称や年功的な序列の〝和〟を崩さないようにしよう」という意識がつい働きがちになるものです。

しかし、職責が明確にされていない次長職を検討するときに、「次長と課長ではあきらかにキャリアが違うし、責任の重さは違うはずだ」と、現状維持の主張ばかりが罷り通れば、結局、身分資格を温存したまま、何も変わらないということになってしまいます。

等級格付を見直すときは、「まったく新しい基準、まったく新しいモノサシで一から決めなおす」というスタンスで臨むのが一番です。

◎管理職者の等級格付け――中小企業では2階層あれば十分

等級格付作業は、まず管理職と一般職の間に、はっきりと線引きをするところから始めます。

通常、管理職というのは課長以上のポストを指しますが、自社の管理職の定義がどうなっているかをまず確認しましょう。

労働基準法上の「監督・管理の地位にある者」は、人事権や業務命令権などを会社から付与されている者であり、「会社と一体的立場にある者」などとも説明されます。

ところが、実際にはそんな責任や権限を持ち合わせない係長や課長代理が、管理職として広く取り扱われている実態をよく目にします。

いま一度、原点に立ち返って、労働基準法上の管理監督者と、自社の管理職の範囲が一致しているのかどうかを確認するようにしてください。

「管理職にしてしまえば、残業代がかからないから会社にとって好都合だ」という乱暴な理屈から、いわゆる「名ばかり管理職」を乱発している会社もかつては少なからずあったわけですが、これは身勝手な法の拡大解釈でしかなく、社員に過大な負担を強いているという点で、モラール面からも大いに問題となります。

いわゆる中間職位に対しても注意が必要です。もし中間職位として次長職や課長代理などの職位を置いているなら、できる限り廃止する方向で検討すべきです。

次長や副部長を例にとると、部長が兼務取締役であり、実質的に部長代行として部長と同等の仕事をしている場合はライン部長と同じ等級でもかまいません。

部下を持たない専門管理職として部長の下に位置する場合は課長職と同じ等級にしますが、そのような場合でもライン職位を想起させる次長などの職名は避けるようにして、責任範囲が不明瞭にならないように、また肩書資格が独り歩きしないように注意して対応してください。

中小企業では、一般に、管理職として部長と課長の二階層があれば十分です。

◎一般職社員の等級格付け――役割責任に差がなければ同じ等級に格付ける

一般職社員は、管理職の指示命令に従って業務を遂行するのが基であり、6等級構成では主にⅠ等級からⅣ等級に格付けられます。

定型・補助業務が中心のⅠ等級はパートやアルバイトだけに任せ、正社員はⅡ等級以上とする会社もあります。

採用との関係では、高校卒業者はⅠ等級で、短大(専門学校2年卒以上を含む)や大学卒業者はⅡ等級で採用するのが基本ですが、たとえ大学卒業者であっても最初は見習いとしてⅠ等級からスタートするという会社があってもかまいません。

ただし、もし新規学卒者に20万円を超える大卒初任給を支給しているなら、Ⅱ等級からスタートし、すぐに短期間のうちに等級と給料額に見合った仕事ができるように教育・研修をすべきでしょう。

管理監督者には該当しない課長代理や係長、主任などの職位が併存する場合は、要注意です。社員規模が100人未満の会社では、職位間の責任範囲にほとんど差がみられないことが多いものです。実際の役割責任に差がないのであれば、同じ等級に格付けるようにしてください。

◎スタッフ職・専門職の考え方――組織の肥大化に気を付ける

企業が厳しい競争に打ち勝っていくためのフラットな組織は、一方で柔軟な組織であることが求められます。実際、商品開発や顧客開発について、特にその道に明るい社員1人が特定の分野を担当するなど、中小企業ではよくあることです。

このように部下を持たずとも、管理職に匹敵するほどに責任が重く、難易度が高い仕事を担う社員も今後はさらに増えるでしょう。

研究開発職や特殊技術の有資格者だけでなく、ノウハウ・知的財産の管理など、高度な専門性が問われる分野は今後も広がりを見せるでしょう。

部下を持たない上級専門職は本来の管理職ではありませんが、担当職務における責任の重さや難易度(=重要度)が管理職と同格と位置付けられるなら、同じ等級に格付けてかまいません。

ただし、担当部長など処遇のための職位や、単に「部下がいないだけ」とか「その仕事しかできない」専門職は廃止し、管理職として格付けてはいけません。

組織の肥大化につながるだけでなく、責任の所在が曖昧な職位を増やすことになり、組織の活力を奪いかねないからです。

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