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第4章社員のやる気を引き出す「賃金制度」運用のコツ

目次

1新しい給与の運用ルールとノウハウ社員のモチベーションを下げないための調整と伝え方

ここまでで、新しい給与体系にもとづいた社員全員の支給額が決まりました。

ここからは、新しい給与をどのように運用していくかをご説明していきます。

①「」改定のタイミング年1回昇格、降格したとき「本給」は1年に1回昇給します。

昇格、降格した場合はグレードが変わるので、「本給」も変わる場合があります。

昇格した場合、本給額が上位グレードの下限に満たなければ上がります。

降格時に、下位グレードの上限より高ければ下がります。

改定時期決算月の翌月給与の改定については「春闘」としてメディアなどで紹介されるため、4月に決定されるというイメージの方も多いかもしれません。

実際、中小企業でも給与改定を4月や5月に実施している会社が多いようです。

しかし、1年間の仕事ぶりや貢献度を昇給に反映させるためには、会社の決算期に合わせた給与改定がベストです。

次年度の人件費を検討したり、その結果を適正に反映したりするならなおさらでしょう。

たとえば、9月決算の場合、本給昇給の評価対象期間は前年度10月から9月までとなり、10月に評価を実施し、その結果にもとづいて11月支給分の給与に本給の昇給分を反映します。

社員数が多く、評価結果の集計や決定面談などに時間を要する場合は12月支給分へ反映する場合もあります。

昇給方法本給は、原則的には毎年一定額が加算されていきます。

その金額を決めるために、「本給標準昇給額テーブル」をあらかじめ作成しておきます。

次の図36です。

昇給額はグレードと年間の評価結果に応じて決まります。

ただし、会社が利益や売上などの目標を達成することが、昇給額を確保する条件とします。

目標が未達だったり利益が十分に出なかったりした場合、社長や経営陣の判断で本給標準昇給額テーブルを減額する、あるいは全社員0円とする場合もあります。

本給昇給額の決め方は、まず「B」評価の金額を年間の定期昇給額として設定します。

昇給額は固定給の1%程度を目安に設定するとよいでしょう。

これに「仕事給」と同じ要領で上下の金額を決めます。

図36の事例は「SS」評価を2倍、「E」評価を0円と決め、その間の「S、A」「C、D」を均等の幅にしています。

そのほか本給には、各グレードで「上限」があり、この金額を超えて昇給することはありません。

そのため、移行時点でもともと本給額が上限に近い人や同じグレードで在籍年数が長い人は本給がすぐに上限金額に到達する場合があります。

こうなると、その後は本給の昇給はストップします。

ただし、その後、昇格してグレードがあがった場合は、新たなグレードで毎年昇給することになります。

②「」改定のタイミング年2回昇格、降格したとき「仕事給」は半年ごとに改定する場合がもっとも一般的です。

もちろん、毎月、3カ月ごと、年1回という改定の運用も可能です。

ただし、毎月改定する場合、評価も毎月行なわなければなりません。

改定時期決算月の翌月、半期終了月の翌月(半年ごとに改定する場合)昇給方法評価結果に連動してダイレクトに変動します。

移行時は全社員「B」の金額に設定していた場合、次の半年で「A評価」であれば「A」の金額に、「C評価」の場合は「C」の金額に動きます。

評価をするたびに上下する可能性のある支給項目になります。

一旦、「A評価」で「A」の金額となり、次の評価も「A」だった場合は同額のままとなります。

そのほか「仕事給」は下がる可能性もあります。

そのため年1回反映のルールで導入すると、給

与が下がってしまった人のモチベーションに影響を与える場合があります。

あなたが「D評価」となってしまい、その結果、給与が20、000円下がったと考えてみてください。

1年間下がったままの場合と、半年後には元に戻るかそれ以上の金額になる可能性がある場合とでは、どちらがやる気になるでしょうか。

もし、年1回の改定だと年収で240、000円下がってしまいます。

こうなると、モチベーションが下がる人や、評価対象期間の後半のみ頑張ろうと考える人が出てきてしまうことも多いからです。

そこで、「仕事給」は変更の期間を半年とし、一度下がっても半年後には挽回できる仕組みにする場合が多いのです。

③「」次に調整給をどう運用していくのか、ルールをしっかり決めておきましょう。

再度確認しておきますが、「調整給」として支給する金額は、本来の給与テーブルからはみ出た〝もらいすぎの金額〟です。

これを支給し続けてしまうと、「役割や仕事ぶりに対して、実際より高い給与をもらえる」ことになってしまい、「調整給」がある人のほうが得をする不公平な給与体系となってしまいます。

また、本来支給する必要のない人件費を会社が払い続けてしまうことにつながります。

とはいえ、いきなり給与を下げると本人のモチベーションの低下につながってしまう恐れがあります。

そこで、総支給額は変えずに新しい給与制度へ移行するために、特別に「調整給」として支給することにしたのです。

こうしたことから、「調整給」は、最終的にはなくすという運用ルールをあらかじめ決めておきます。

「調整給」の減額方法は次の3とおりあります。

①昇給額で吸収する②保障する期間を決める③減額する基準を決める以下、それぞれについて説明します。

(1)昇給額で吸収するまず、昇給額で吸収する方法をご説明しましょう。

制度移行後の給与改定時期に昇給があれば、その分を調整給から減額していきます。

これを調整給が0円となるまで継続して実施します。

そのため、調整給が0円となるまでほかの項目が昇給しても給与総額は上がらないことになります。

具体的には、「本給」、「仕事給」、「役職手当」がアップした場合、その金額と同額を調整給からマイナスします。

それでも調整給が残る場合も、給与支給額は変わらないということになります。

通常、この方法はどんな会社でも実施します。

A社の場合、どんな運用になるのか、シミュレーションしてみましょう。

A社の決算は3月で本給昇給時期は4月分、5月25日支給の給与からだと仮定します。

仕事給の改定は年2回、4月分と10月分給与で行ないます。

新給与体系への移行は2019年の4月に実施したものとします。

固定給テーブルは図35(こちらを参照)で運用します。

A社は、2人の社員に次の調整給が残っています。

宮本さんM1課長調整給7、000円小山さんL1主任調整給38、000円宮本さんの場合から見ていきましょう。

宮本さん2019年4月分(給与制度移行時)支給額本給205、000円仕事給175、000円役職手当60、000円調整給7、000円合計447、000円導入後の第1回目、2019年10月の評価で宮本さんは「A」評価となりました。

この評価結果で、宮本さんの「仕事給」は、10月分から「A185、000円」となります(10、000円アップ)。

ただし、昇給額が10、000円となるわけではなく、先に調整給の減額に充当します。

宮本さんは7、000円の調整給がありますので、調整給が0円となり、実際の昇給額は3、000円となります。

このときの宮本さんの支給額の内訳は次のとおりです。

宮本さん2019年10月~2020年3月分支給額本給205、000円仕事給185、000円役職手当60、000円調整給0円合計450、000円※昇給額3、000円こうして、宮本さんの調整給は、新制度に移行して半年でなくすことができました。

一方、小山さんは、次のように、38、000円と比較的大きな金額の調整給があります。

小山さん2019年4月分支給額本給170、000円仕事給155、000円役職手当10、000円調整給38、000円合計373、000円

結論から申し上げると、小山さんはグレードをあげる、すなわち、昇格しない限り調整給を吸収する額の昇給を得ることはできません。

そこで、小山さんが高い評価をとり続けて昇格し、調整給を吸収したパターンを紹介します。

小山さんは最初の評価で「S評価」となり、2019年10月には「仕事給」が「S165、000円」に10、000円アップします。

この金額分、調整給が減額され11月25日支給の金額は、小山さん2019年10月~2020年3月分支給額本給170、000円仕事給165、000円役職手当10、000円調整給28、000円合計373、000円となります。

次の半年間の評価でも、小山さんは「S評価」を獲得しました。

そこで、2020年4月にはL1(主任)からM1(課長)に昇格することとなりました。

これにより、「本給」はすでにM1の範囲内なのでそのままですが、「仕事給」は「L1グレードS」の金額から「M1グレードB」の175、000円に10、000円アップ。

役職手当が「主任10、000円」から、「課長60、000円」になります。

その結果、小山さんの給与増額は合計60、000円となります。

この増額分で一気に28、000円の調整給を吸収し、支給額は次のとおりとなります。

小山さん2020年4月~2020年9月分支給額L1→M1昇格本給170、000円仕事給175、000円役職手当60、000円調整給0円合計405、000円※昇給額32、000円ここでは、調整給を減額していく過程をご理解いただくために、宮本さん、小山さんとも高い評価を獲得して調整給を減額していった昇給による調整給の減額パターンを紹介しました。

しかし、調整給が必要な社員はむしろ勤続年数や年齢で昇給を積み重ね、本人の実力より高い給与となっている場合が多いものです。

実際は、ここで説明した宮本さん、小山さ

んのように順調に調整給が減っていく事例は多くありません。

とはいえ、イレギュラーな調整給が残ったままでは、過去の負の遺産、公平性を欠いたルール外の部分をいつまでも残すことになってしまいます。

そこで多くの会社で導入するのが、次に紹介する「調整給」の保障に期限を設ける方法です。

(2)保障する期限を決める保障の期限、つまり調整給を「0円」とする時期を決めます。

期限が来た時点で調整給が残っている社員はその金額分、給与が下がることになります。

つまり、保障期限は調整給をなくすための猶予、社員の立場からすると「自分がもらっている給与額相当まで、実力をアップさせる期限」として理解してもらったうえで導入します。

期限の設定については、次の2つの視点から総合的に判断して決めてください。

1すべての社員の調整給を0とすることが可能かどうか2会社のこれまでの人事処遇の方針まず、1の調整給が発生している社員すべてが、保障期限内に調整給を吸収できる期間の設定にすることが大切です。

かなり高い評価をとり続けた場合を仮定してよいので、昇給や昇格のタイミングを実際にシミュレーションしたうえで、「調整給」が残っている社員全員にチャンスを与えられる長さとしたほうがよいでしょう。

ただし、前職を考慮して高い金額を支給している中途採用の社員がいる場合などは、どうしても吸収しきれない場合もあります。

2つめは、これまで社員に対して減給や降格などドラスティックな処遇を行なってきたかどうかを考慮することが大切です。

もともと「評価が低い社員は減給や降格が当たり前」という風土の会社なら調整給の保障期限は短めでもいいかもしれませんが、給与や賞与は下げたことがない会社は長めに設定したほうがよいでしょう。

一般的には、前者の場合は1年、後者の場合は3~5年程度とします。

もちろん、これをあえて逆にし、企業風土を一新する方法もあります。

(3)減額する基準を決めるまた、減額する基準を決め、調整給を徐々に減額していく方法もあります。

この方法は、通常、(1)の「昇給額で吸収する」と(2)の「保障する期限を決める」を併用して行ないます。

つまり、保障期限を迎えたときに残った調整給を一気に0円とするのではなく、減額の

ルールを決めて、徐々に減らしていくのです。

実際、中小企業で新制度を導入するときには、この形で運用するケースが多いです。

たとえば、次のような基準を決めます。

・年1回、本給昇給時期に、調整給の残額の1/2を減額する・半年ごとの給与改定時期に、調整給の残額の1/4を減額するポイントは、「1/2」、「1/4」の部分をどうするかですが、1回あたりに減額される金額を検討しながら決めます。

とはいっても、新しい給与体系に移行した時点では、調整給の保障期限を迎えたときにどのくらいの調整給が残っているかを予測するのは難しいでしょう。

本来は保障の期限を過ぎたものですから、「1/2」程度でも問題ないでしょう。

そのうえで保障期限に比較的大きな「調整給」が残っている社員がいたり、多くの社員が吸収しきれていなかったりする場合、緩和措置として追加で導入するケースもあります。

④「」次に、給与が各グレードの下限額に届かない人に対する考え方です。

具体的には図33(こちらを参照)で見たように、「仕事給」の「B」と「役職手当」を引くと、「本給」がグレードの下限額に満たない(調整給がマイナス表示になる)社員が出る場合があります。

その社員が該当グレードに求められる仕事・役割がこなせるレベルであれば、給与が少なすぎるということになります。

A社では、マイナスの「調整給」としている町田さん、馬場さんの2人です。

給与テーブルからはみ出しているわけですから、このままではイレギュラーな社員を残してしまいます。

この場合の対処法は次の4つです。

①給与を上げる②グレードを下げる③マイナス調整給を支給する。

④一定期間イレギュラーな本給を容認する(1)給与を上げるまず、給与を上げる方法から説明しましょう。

といっても、いたってシンプルな方法で、該当グレードの下限額まで本給を上げるだけです。

町田さんは15、000円、馬場さんは3、000円が足りていません(図33こちらを参照)。

この場合、それぞれ15、000円と3、000円を本給に加えれば、各グレードの下限額となります。

これで一件落着、2人とも新しい給与テーブルの金額の中で運用をスタートできます。

ただし、この方法は簡単な一方、「なぜ一部の社員だけ移行時に給与が上がるのか」というほかの社員の不満につながる要素もはらんでいます。

不満を生まないためには、給与を上げる理由をきちんと説明できるかどうかが重要です。

そして説明し、ほかの社員に納得してもらわなければなりません。

給与が上がった社員の存在を公表しないで導入することもできますが、上がったほうはうれしいものです。

実際、公表せずに給与を上げたものの、気づけば周知の事実となっていたケースを私自身も経験しました。

「給与が上がった人はこれまで少なすぎた人」ということをきちんと社員に説明したうえで、導入を図ったほうがよいでしょう。

(2)グレードを下げる現状の「本給」が設定したグレードの金額に満たないので、グレードを下げてスタートしてもらおうという運用方法です。

しかし、この方法は次の2つの理由であまりお勧めしません。

1つめは、本人のモチベーションの低下につながる恐れがあるからです。

たとえば、S3に格づけしようとした社員の現状の「本給」が、S3の「本給」下限額に達していないため、S2スタートにしたとしましょう。

自分はS3グレードの実力は十分あると考えていた人が「あなたは『S2』だ」と言われたらどうでしょう。

いくら会社側が現状の給与との兼ね合いだと説明したとしても、「自分の実力はS2レベルだと判断された」ととらえてしまう人もいるでしょう。

2つめは、下位グレードにも収まりきれない場合があるからです。

該当する社員をひとつ低いグレードにしてしまうと、調整給が発生してしまう場合があります。

たとえば、L1の下限額に達していない金額だったのでS3に格づけすると、今度はS3の金額をオーバーしてしまい、調整給を支給しないと収まらない人が出てくる場合があります。

こうなると、本来は給与が不足していたものが一転、「もらいすぎ」の調整給がついてしまいます。

さらに、S3の上限からのスタートとなってしまうため本給昇給額もなく、昇格するには一定の期間と高い評価を要するため給与が上がりづらい状況となってしまいます。

こちらも結果的に、本人のやる気をそぐことになる可能性が高いのです。

また、一般的な傾向として、グレードの下限額に満たない社員は若手で将来が期待できる人が多いものです。

つまり、上位グレードの仕事レベルを満たしているにもかかわらず、「年功型の昇給方法」や「社長の目が届いておらず陽の目を見なかった」ことが原因で、昇給が追いついていない人材が多いのです。

「グレードを下げる」パターンは、こうした将来の会社をになう有望な若手人材の成長の芽をつんでしまうことにもつながりかねないので、注意が必要です。

(3)マイナス調整給を支給する調整給には、「マイナス調整給」という考え方もあります。

先ほど説明したプラスの「調整給」(こちらを参照)は、本給のオーバーした金額を補うためのものでした。

マイナス調整給は、不足する「本給」を補うものとして導入します。

「-10、000円」などの表示が給与支給項目として加わりますが、実際に金額を支給するわけではありません。

具体的な事例でお話ししたほうがわかりやすいと思いますので、A社の本給額が不足している2人、町田さんと馬場さんに対してマイナス調整給を導入したケースを考えてみましょう。

町田さんをS3グレードとすると「仕事給」はS3の「B」で130、000円、固定給からこの金額を引いて「本給」を算出すると106、000円となり、S3本給の下限を下まわってしまいます。

この町田さんの「本給」をまずS3の下限まで上げます。

ここまでだと、①「給与を上げる」パターンと同じで、+15、000円給与が上がった状態です。

しかし、会社としてはすぐに給与を上げられないという場合、この矛盾を解消するために、「マイナス調整給」を使います。

つまり、調整給を「-15、000円」として支給項目に加えます。

こうすることで町田さんの新しい給与は、次のようになります。

本給121、000円仕事給130、000円調整給-15、000円合計236、000円これでS3のテーブルの枠内に収まったうえで不足分を補うことができるのです。

S2の馬場さんも同様に、次のようになります。

本給104、000円仕事給110、000円調整給-3、000円合計211、000円マイナス調整給も、新給与体系への移行に伴って発生する不具合へのイレギュラーな対応です。

あくまでも一時的な経過措置として、調整給と同じようになくしていく必要があ

ります。

しかしもらいすぎの「調整給」とは違い、「不足」している金額ですから、もし導入した場合はできるだけ早い時期にマイナスを消す、すなわち調整給分を上げたほうがよいでしょう。

A社の町田さんの場合だと、「あなたの給与は、本当はいまより15、000円高い236、000円が正当な金額なのだが、□□□だからもう少しこのままでがまんしてね」ということを伝えなければなりません。

町田さんが納得するような「□□□」の部分に当てはまる言葉が考えられますか。

「会社に原資が不足している」「この改革であなたとほかの数人だけアップするのが不公平」このような理由で町田さんは納得するでしょうか?なかなか難しいでしょう。

それを考えると、導入後最初の給与改定時にマイナス調整給を0円にするという対応がいちばんよいでしょう。

A社の場合は図38(こちらを参照)の金額に昇給させることになります。

ただし、この場合も「なぜ町田さんだけ評価とは関係なく給与が上がるのか」という声があがる可能性はあるでしょう。

(4)一定期間イレギュラーな本給を容認する「本給」がグレードの下限額に満たない社員がいる場合に、そのままの金額で移行する方法です。

基本的に「本給」は年に1回昇給があり、年数が経過すれば必ず下限を上まわる金額となるので、それまでイレギュラーな本給額を容認しようという考え方です。

この方法は、ルールに合わないものを残すので、厳格な基準にもとづいて給与制度を運用しなければならない大手企業ではありえない方法かもしれません。

また、給与制度を中心にコンサルティングを展開している先生方も、こうしたアドバイスは行なわないかもしれません。

一方、中小企業ではこの方法で不満が出ることもなく、意外とスムーズに改革が進む場合もあります。

しかも、この方法ならいちばん難しい本給が不足している社員の矛盾を解決することができ、スムーズな導入が図れる場合が多いのです。

トップの影響力が強い中小企業では、この方法を採用してもなんら問題ないでしょう。

2賞与支給基準の設計と運用方法賞与で社員の〝やる気〟と会社の〝業績〟を高めるには?

次に、賞与の決め方について、解説していきましょう。

賞与については業績や成果に応じて支給する賃金という考え方が一般的で、支給額に差をつけている中小企業も比較的多く見受けられます。

しかし、格差がついているからこそ不満の種につながる危険性もはらんでいます。

私が知る範囲では、社員の理解度や納得感が得られている会社のほうが少ないと実感しています。

なぜ、そんなことになるのでしょうか?①賞与でモチベーションがあがらない理由賞与で納得感が得られず、不満が生まれる原因は、次の3点を整備していないからです。

(1)賞与の位置づけと考え方が正しく認識されていない(2)賞与のルールが明確にされていない(3)評価とその結果を本人に伝える面談が行なわれていないこの3つは賞与支給基準を作成するに当たって、押さえておかなければならないポイントですので、しっかり理解したうえで作成にとりかかってください。

(1)賞与の位置づけと考え方が正しく認識されていない賞与の支給額は、業績などに応じて会社側の経営判断で決めることができます。

ところが、賞与は会社の業績や自分の成績にかかわらず、一定額が確保されているものだという認識を社員がもっている場合があります。

これはしばしば、「賞与が生活給になっている」という言葉で表現されますが、主な理由は会社が正しく賞与の位置づけを伝えていないことと、社員側の次のような生活設計にあります。

本来、月額給与の範囲内で毎月の生活をし、貯蓄などにもまわす余裕もあるのが理想です。

ところが、社員の中には毎月、「手取り額-生活費」がマイナス、あるいはギリギリになってしまい、どうしても年2回の賞与も含めないと生計が成り立たないという生活を送っている人もいるのです。

こうした社員の中には、「賞与は下がらない」「賞与は、これまでもらった金額程度は毎回確保される」「賞与は年々アップしていく」といった誤った認識をもっている人もいます。

そこで、会社はまず社員に賞与の考え方を正しく理解してもらう必要があります。

賞与は次のように定義し、社員に伝えるとよいでしょう。

「賞与とは、会社の業績に応じてその支給総額が決まり、社員の評価結果によって分配され、支給額は毎回変動するもの」です。

この考え方が社員全員にきちんと理解されるまで、賃金規定や賞与支給基準などにも盛り込み、繰り返し社員に対して伝えていく必要があります。

そして、支給総額がどのように決まり、どういった基準と評価結果で分配されるのか、あらかじめルールを示し、支給後も社員全員に説明していくことが重要です。

(2)賞与のルールが明確にされていない賞与に格差をつけていても、その基準があらかじめ明確にされていなかったり、基準があってもそのとおりに支給額が決められていなかったりする会社があります。

先ほどご紹介したようにいまだに「えんぴつなめなめ型」(こちらを参照)で、社長が一人で全社員の支給額を決めている会社などもそれに当たり、中小企業には意外と多いものです。

実際、社員が50人を超える会社でも、賞与の金額やその決定プロセスは社長と奥様や親族からなる家族会議にゆだねられており、ブラックボックスと化しているケースがしばしば見受けられます。

こうした社長や奥様の中には、「社員の賞与を決めるのはトップの重要な仕事」と考えている方も多いようですが、それは大きな間違いです。

もちろん最終決定権者はトップですが、評価はリーダーの役割です。

これをまかせていかないからリーダーが育たないのです。

きちんと、「賞与支給基準」を定め、社員全員に説明したうえで就業規則にも明記し、賞与額を決定する仕組みを確立してください。

(3)評価とその結果を本人に伝える面談が行なわれていない賞与に差をつけるためには、その根拠が必要です。

根拠となるのは評価です。

評価制度のつくり方や運用の手順はのちほどくわしくご説明しますが、評価を行ない、面談を通じて評価結果とその判断理由をきちんと本人に伝えます。

この評価結果にもとづいて賞与の支給額を決めるのです。

毎回こうした仕組みと手順を踏んで賞与を支給することによって、社員の賞与に対する不信感や疑問は確実に減っていきます。

その結果、納得度を向上させることができ、ひいては仕事に対するモチベーションを向上させるきっかけになるのです。

評価制度をしっかり確立し、評価に対する納得度を高めたうえで、ルールにもとづいて支給額を決定してください。

②賞与支給基準のつくり方それでは、いよいよ賞与支給基準について具体的な作成方法を説明しましょう。

賞与は、次の2つの要素についてルールを定めます。

(1)賞与の総支給額を決めるルール(2)(1)を社員全員に分配するルール(1)賞与の総支給額を決めるルールまず、賞与の総支給額を決める基準を明確にします。

賞与の定義について「会社の業績に応じてその支給総額を決める」と伝えました。

この定義どおりに支給総額を決めるルールを考えます。

たとえば以下のような形です。

賞与を決めるための業績指標を決める指標からどうやって支給総額を算出するか決めるまず、賞与算定の起点となる、会社の業績指標を決めます。

「会社の業績に応じて決める」わけですから、会社が自社の成長、目標達成のために重要となる指標とします。

といっても、毎年の重点施策などで変わるのでは社員もとまどってしまいますので、少なくとも5年以上は使える指標としましょう。

具体的には、経常利益額、営業利益額、粗利益額などです。

ここでは、私が490社以上に導入した結果、高い納得度が得られ、わかりやすい支給総額の決め方を2つ紹介しておきましょう。

1つめは、経常利益(もしくは営業利益)から算出する方法です。

一定期間の経常利益額×○○%で総額を算出します。

ポイントはどうやって「○○%」を決めるかです。

社員にいちばん説明しやすいのは、「経常利益の1/4、すなわち25%を賞与として分配し、社員に還元する」という決め方です。

1/4の根拠は、確保した利益を、「社員へ還元」「将来への投資」「納税」「会社に残す(税引き後利益として自己資本に充当)」の4つに分配するという考え方によります。

2つめは目標の達成率で賞与支給総額を算出する方法です。

指標は、「売上」「粗利益額」「経常利益」などです。

「粗利益額」を業績指標にした場合で見てみましょう。

まず、賞与総額を社員の固定給(基本給+役職手当)総額×一定期間の粗利益額目標達成率に応じた掛け率で算出します。

ポイントは、「目標達成率に応じた掛け率」をどのように決めるかです。

これも事例を紹介します。

まず、粗利益目標を100%達成した場合、標準の賞与支給総額になるような「掛け率」を決めます。

たとえば、固定給の1・5倍を標準の賞与支給総額と考える場合、目標達成率が100%のときは「掛け率1・5」とします。

これを基準に達成率が目標を上まわった場合は掛け率を大きくしていき、下まわった場合は小さくしていきます。

もし、目標達成の難易度が高い会社の場合は、100%達成した場合は標準の賞与支給額を上まわる掛け率としてもよいでしょう。

次に粗利益額をもとに算出した事例を紹介していますので、参考にしてみてください。

(2)賞与を社員全員に分配するルール次に(1)で決めた賞与の支給総額を社員一人ひとりに分配するルールを定めます。

まず、社員それぞれの賞与支給額は次のようにして計算します。

賞与支給額=賞与ポイント×ポイント単価この算式で賞与額を算出するためには、「賞与ポイント」を決め、「ポイント単価」を算出するためのルールが必要です。

「賞与ポイント」は、2つの要素で決まります。

「グレード」と「評価結果」です。

具体的には次の図45のような賞与ポイント表を作成し、これにもとづいて社員一人ひとりのポイントを決めます。

この「賞与ポイント表」の設計で、社員間の賞与にどのくらい差がつくかが決まります。

グレード間の格差と評価結果による格差の2軸で慎重に検討しながら決定しましょう。

格差を大きくつけたい場合と小さくしたい場合の事例をご紹介していますので、参考にしながら自社に合ったものを作成してください。

もうひとつの要素、ポイント単価は、次の算式で求めることができます。

ポイント単価=賞与支給総額÷全社員のポイント合計額(1)で決めた賞与支給総額のルールにもとづいて賞与の支給総額が決まっているはずです。

同じ対象期間の社員の評価結果が出れば社員一人ひとりの獲得ポイントが自動的に決まります。

全社員のポイントを合計し、これで支給総額を割ればポイント単価が算出できるというわけです。

これを各社員の獲得ポイントに掛ければ、全員の賞与支給額が決まります。

この賞与支給基準のよいところは、「会社の業績」と「自分の評価」の2つの要素で賞与額が決まる点です。

つまり、社員全員でがんばって会社の業績があがれば賞与の支給総額は増え、個人の支給額もアップします。

また、個人でがんばって評価結果が高ければこちらでも賞与アップにつなげることができます。

逆に、自分だけ評価がよくても会社全体の業績が悪ければ、支給総額は少なくなり、個人の支給額にも影響するのです。

こうした考え方を導入することで、「個人でがんばればよいだけではなく、チームで部門や会社の業績へ貢献するにはどうしたらよいか」という考えと行動に社員を導くことができるのです。

小さな会社で個人主義や部門間のセクショナリズムなどがあっては生産性があがりません。

個人の賞与を「会社の業績」と「自分の評価」の2つの要素から決めることで、全社員が全体の最適性を考えて動けるように仕向ける、ひとつの仕組みとして活用することができるのです。

次に、賞与の仕組みを社員に説明し、理解してもらうための「賞与支給基準」の例を掲載しました。

「賞与支給基準」は、数値などを自社のものに変えればそのまま活用できるものですので、ぜひご活用ください。

また、次に「賞与支給額シミュレーション」を掲載しています。

これを参考に自社の社員の実態に合わせて、「基本給額」や「賞与ポイント」を変更し、導入前のシミュレーションを行なってみてください。

(3)賞与支給基準の移行調整期間を設けるここまで賞与支給額の決め方のルールを紹介しました。

ただし、これまで紹介した方法で実際の賞与額を決めると、同グレードで評価結果が同じ人は賞与の支給額も同額となります。

もちろん適正な考え方のもと決定できるので、このまま導入、移行できれば理想なのですが、支給額を実際に算出してみると、これまで支給していた賞与額から大きく変動する社員が出る場合もあります。

こうした実状に対して、新しい制度に完全移行できるまで調整を行ないながら支給額を決定する移行措置をとる場合があります。

新しいルールで算出した賞与支給額と前回支給額を比較しながら、その差額を個別に調整します。

具体的には、評価が下がったわけではないのに新ルールを適用すると支給額が下がる人に対してプラスするという調整です。

これを1~3回程度行ない、新しい基準と考え方を十分理解、浸透させたうえで完全移行を行ないます。

また、これまで基本給をベースとして賞与の支給額を決めてきた会社の場合、支給原資の一定比率を全社員「固定給(基本給+役職手当)×掛け率」という考え方で支給する方法もあります。

(1)で決めた支給総額をさらに、「固定給×係数」で導く原資と、グレードと評価結果によるポイントで導く原資に分解します。

たとえば、支給総額のうち50%を固定給分、50%を成果配分という原資に分解するのです。

このうち、基本給分の原資を全社員の「基本給+役職手当」で割って係数を出し、全社員にこの係数を掛けて算出した額を基本給分とします。

一方、成果配分に割り振った原資は、先ほど紹介したグレードと評価によって決まるポイント係数で決める方法で金額を算出します。

この合計額を社員の支給額とします。

この方法を取ることで、基本給ベースの決め方を残したまま、評価結果による実力を反映する考え方を取り入れることができます。

次に、固定給分:賞与ポイント配分=5:5とした支給基準の事例をご紹介していますので参考にしてみてください。

(3)賞与支給基準の移行調整期間を設けるここまで賞与支給額の決め方のルールを紹介しました。

ただし、これまで紹介した方法で実際の賞与額を決めると、同グレードで評価結果が同じ人は賞与の支給額も同額となります。

もちろん適正な考え方のもと決定できるので、このまま導入、移行できれば理想なのですが、支給額を実際に算出してみると、これまで支給していた賞与額から大きく変動する社員が出る場合もあります。

こうした実状に対して、新しい制度に完全移行できるまで調整を行ないながら支給額を決定する移行措置をとる場合があります。

新しいルールで算出した賞与支給額と前回支給額を比較しながら、その差額を個別に調整します。

具体的には、評価が下がったわけではないのに新ルールを適用すると支給額が下がる人に対してプラスするという調整です。

これを1~3回程度行ない、新しい基準と考え方を十分理解、浸透させたうえで完全移行を行ないます。

また、これまで基本給をベースとして賞与の支給額を決めてきた会社の場合、支給原資の一定比率を全社員「固定給(基本給+役職手当)×掛け率」という考え方で支給する方法もあります。

(1)で決めた支給総額をさらに、「固定給×係数」で導く原資と、グレードと評価結果によるポイントで導く原資に分解します。

たとえば、支給総額のうち50%を固定給分、50%を成果配分という原資に分解するのです。

このうち、基本給分の原資を全社員の「基本給+役職手当」で割って係数を出し、全社員にこの係数を掛けて算出した額を基本給分とします。

一方、成果配分に割り振った原資は、先ほど紹介したグレードと評価によって決まるポイント係数で決める方法で金額を算出します。

この合計額を社員の支給額とします。

この方法を取ることで、基本給ベースの決め方を残したまま、評価結果による実力を反映する考え方を取り入れることができます。

次に、固定給分:賞与ポイント配分=5:5とした支給基準の事例をご紹介していますので参考にしてみてください。

3賃金移行前に必要な対策年収シミュレーションで人件費の把握と社員の対策を行なう

賞与支給基準が完成し、先の給与制度と合わせて新しい賃金体系に移行できるめどがついたら、社員の年収がどうなるかについてあらかじめシミュレーションしておきましょう。

給与に関しては調整給などを活用するなどして、現行の金額そのままで移行できるような工夫をしました。

一方、賞与は「会社の業績に連動して支給総額を決め、評価結果に応じて分配する」考え方を取り入れるため、支給額は毎回変動することになります。

移行前に比べて、上がる人もいれば、下がる人も出てきます。

この結果、会社は業績の結果に応じて人件費をコントロールできるようになり、経営の安定化が図れます。

ところが、繰り返しますが、中小企業では賞与を生活給的位置づけにとらえている社員も多いため、これが保障できないとなると不満につながる場合もあります。

そこで、給与だけではなく賞与も組み込んだ年収のシミュレーションをあらかじめ行なって、誰がどのくらい下がる可能性があるのかを把握したうえで、社員に理解してもらっておいたほうがよいでしょう。

年収シミュレーションの流れシミュレーション方法ですが、まず、社員全員の過去1年分の年収を算出します。

これと、新賃金制度移行後の年収額を算出し、差額を比較します。

給与については、基本的にはスライド(同額)で移行するわけですから問題ありません。

ポイントになるのは、移行後の賞与金額をどのパターンにもとづき算出するかです。

少なくとも、総支給額と社員の賞与ポイントの両方で、シミュレーションをしておきましょう。

考えられるパターンは次のとおりです。

総支給額のパターンⅠ会社目標達成度が標準レベル例)目標達成率100%の場合の総支給額Ⅱ会社目標達成度が高かった場合(想定される範囲内)例)目標達成率120%Ⅲ会社目標達成度が低かった場合(想定される範囲内)例)目標達成率80%賞与ポイントのパターンⅰ全社員が「B評価」だった場合のポイントⅱ評価に差をつけた場合のポイントそれぞれのパターンを組み合わせると、次の6つの賞与シミュレーションができます。

Ⅰ×ⅰⅠ×ⅱⅡ×ⅰⅡ×ⅱⅢ×ⅰⅢ×ⅱこの6つのパターンで、想定年収を算出し、過去1年の年収と比較しておきましょう。

すべてのパターンを細かく社員全員に説明する必要はありませんが、経営幹部、できれば評価を行なうリーダーとはしっかり内容とシミュレーション結果を共有し、社員から質問があった場合はきちんと答えられるようにしておくことが重要です。

次の「賞与支給額算出シミュレーション」に例を1パターン掲載していますので参考にしてみてください。

また、計算式入りのエクセルシートをウェブからダウンロードできるようにもしています。

ぜひ活用してください(ダウンロード方法はこちらを参照)。

ここまで、「給与制度」と「賞与支給基準」について、つくり方、導入方法、それぞれのポイントと注意点について解説しました。

できるだけ専門用語などは使わずに、誰でも理解でき、どんな会社でも具体的に移行シミュレーションなどができるようにご紹介してきましたので、手順にそって設計、導入すれば、ほとんどの中小企業で納得度の高い「賃金制度」を確立することができるでしょう。

ここまで読んでいただいて、いまの時点で、「早速、設計に取り組んでみよう」と決意を固めた方も多いことでしょう。

そんな方へのメッセージです。

〝まだ、「賃金制度」設計には取りかからないでください!〟なぜ?それは、次章でくわしくご説明します。

なお、念のためお伝えしますが、本書でご紹介してきた給与体系や給与テーブル、賞与支給基準は、これまで支援してきた490社超の中小企業でもっとも多く導入、運用している仕組みのひとつです。

改革前の賃金制度やトップの考え方に応じて、異なった給与・賞与の体系を導入する場合もあります。

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