1中小企業の給与の決め方 中小企業にありがちな誤った給与の決め方3つのパターン
具体的な給与の移行作業に入る前に、あなたの会社の現在の給与の決め方を確認しておきましょう。
中小企業の給与の決め方には、問題につながる共通のパターンがあります。
それは、1えんぴつなめなめ型2他社(者)依存型3事なかれ主義型の3つです。
あなたの会社がいずれかのパターンに陥っていないかを検証し、課題を明確にしたうえで改革に取り組みましょう。
そうすることで、制度設計におけるポイントを把握し、社員の納得度を高めることにもつながるからです。
では、それぞれ解説していきましょう。
間違った給与の決め方とは?(1)えんぴつなめなめ型社長の判断が基準概要昇給や賞与のたびに、社長が独自の判断で社員全員の昇給額や賞与支給額を一人ひとり個別に、あるいは他者と比較しながら決めている。
特徴検討のたびに、社長が重視する成果や能力に応じて判断の根拠、ものさしが変わる。
その判断理由を記録していないので、社長自身忘れてしまっている。
デメリットほかの幹部の意見を聞くこともあるが、最終的には社長の判断で決める。
そのため、他者からするとどう見ても説明がつかない昇給、賞与額となることも多い。
たとえば、後継者やナンバー2の幹部でさえ違和感を覚えることすらある。
全社員の判断の根拠が社長のものさしなので、客観的な説明は不可能。
社員から質問があった場合に答えることができないので、不信感やモチベーションの低下、ひいては離職の引き金になることも考えられる。
社長がひとりで全員分を決めるので、昇給や賞与額の決定に膨大な時間がかかる。
いちばん給与が高い社長自身の時間をとられるため効率が悪く、生産性に影響する。
過去にコンサルティングした会社では、約150人分の昇給額と夏季・冬季・決算賞与を手書きでシミュレーションしながら決定していた事例も存在した。
メリット社長のみの判断なので、ひとりの判断基準によって決まったといえる。
複数の人が評価にかかわることによる判断のバラツキは存在しない。
また、会社のトップが決めたものなので、表面的に不満を言う人はいない(言えない)。
しかし、こうした会社ほど社員間で給与を見せあったりしており、表に出ない不満や意見は多数くすぶっている(実はデメリット)。
(2)他社(者)依存型前職の給与が基準概要中途で入社した社員の給与や賞与を前職で支給されていた金額をもとに決めている。
その後の昇給や賞与も前職の金額が基準となって決まる。
特徴新卒採用を毎年行なっている中小企業はまだまだ少ないので、このパターンで入社時の給与支給額を決めている会社は多い。
前職を参考にしているので、他社(者)の賃金制度をもとに決まった金額を引き継いでいることになる。
とくに昨今の売り手市場では優秀な人材を中小企業で確保しづらいため、自社の標準より高い前職の給与を保証する条件で入社してもらうケースも出てきている。
デメリット自社の基準をもとに決まったものではないので、当然、社員間の整合性がない。
前職の給与のほうが自社の標準額より高い場合は、「調整給」などを支給してバランスをとろうとしている会社もあるが、運用ルールが明確ではなく、当初の格差はいつまでも縮まらない場合が多い。
「なぜあの人は成果も出していないのに給与が高いんですか」など、ほかの社員の不満につながる危険性もある。
また、他社(者)依存とは異なるが、自社の業態や担当する職種が未経験の者に対しては、自社の標準より低い金額に設定する場合もある。
とくに、社会人経験の浅い(若い)年齢層はこうなるパターンが多い。
こちらは先の例とは逆で社内の同世代、同レベルより低い金額をずっとひきずってしまう場合がある。
そうなると、入社後優秀な仕事ぶりで成果をあげ、会社に貢献したとしても勤務年数が長い同年代の社員を追い越すことができない。
その結果、本人のモチベーションが低下するという弊害が出ている中小企業も見受けられる。
メリット特になし。
会社にとってのメリットはないが、前職の高い給与をもらい続けることができる社員にとっては「おいしい」といえる。
(3)事なかれ主義型前回の金額が基準概要「前回の昇給額が○○〇円だったから、今回も同じ額を確保しよう」。
「前回の賞与は○○○円だったから少し上乗せしておこう」など、過去の昇給額や賞与支給額を基準として金額を決めるパターン。
「前回の金額を下まわらなければ不満はないだろう」という事なかれ主義的な発想にもとづいた決め方である。
特徴(1)えんぴつなめなめ型、(2)他社(者)依存型と併用する社長も存在する。
前回や過去の金額が基準となるので、会社の業績や本人自身の貢献度の影響は必然的に少なくなってしまう。
デメリット前回の金額が最大の判断基準となるので、とくに昇給に関しては前回より少しずつ上げていく「積み上げ型」となってしまう場合が多い。
業績の悪かった年度は一旦抑える場合もあるが、温情主義タイプが多い中小企業の社長は、昨年度の金額を下まわる昇給額にはしない人がほとんどである。
貢献度が高い優秀な社員がいても、もともと給与が高い人との差が縮まりにくい。
また、50代になっても賃金があがり続けるため、若手や中堅社員との格差が大きく開いて、人件費と社員の貢献度が大きくかい離してしまう。
その結果、将来像が描けずに20代後半から30代の、これから会社の中核をになうべき人材が会社を見限って流出してしまう。
昇給や賞与は基本的に前回以上の額を確保するので、確実に人件費は上昇し、労働分配率の上昇にもつながる。ひいては、人件費以外の成長投資に振り分ける原資が不足し、将来の成長性が見込めなくなってしまう。
メリット社員は毎年、前年度以上に給与が昇給し、賞与も増えていくので生活面の安定につながる。勤務年数が長い社員ほど社長や会社に対して忠誠心が高い場合が多いのも特徴のひとつである。
ここまでに紹介した3つのパターンは、いずれも会社の基準、ルールとはいえません。なにより、社員にそのルールを示すことができないし、金額の根拠も説明できません。
「わかっちゃいるけど、どうしたらよいのかわからない」というのが、中小企業の社長のホンネでしょう。
とくに行き詰まるのが、こうした一貫性のない基準をもとに決められている今の社員の給与をどうやって新しい給与体系に当てはめていったらよいのかという点です。
基準に一貫性がなかっただけに、現行の給与を一定のルールにそって作成した給与体系に当てはめようとすると、スムーズに移行できなくなるのです。
ところが、これをきちんと解説した書籍や参考書はなかなか見当たりません。
賃金制度の考え方や設計方法を示した書籍は数多く出版されていますが、中小企業の現場における最大の課題、自社での活用方法、運用方法が示されていないのです。
これでは、自社で導入しようとしてもスムーズな導入は難しいでしょう。
こうした悩みを解決すべく、次項から中小企業に多い賃金体系の事例を用いて、これまで作成してきた給与体系にどうやって当てはめていったらよいのかをくわしく解説していきます。
2現行給与の具体的な移行方法一貫性のない中小企業の給与はこうして移行する
それではいよいよ、あいまいな基準で決められている現在の給与を、どうやって一定のルールに当てはめ整合性のあるものとすればよいのか、私が実際コンサルティングの現場で使っている移行時のノウハウをそのままご紹介します。
以下に示した「A社」を例に、具体的なシミュレーションを行ないながらその方法とポイントを解説していきます。
A社は、正社員が15人の中小企業で、営業、営業事務、総務・経理という3つの部署があります。
現行支給されている固定給は、「基本給」と「役職手当」のみとしました。
他の支給項目がある場合、仕事の役割や貢献度に応じて支給している項目はすべて「固定給」に組み入れて考えてください。「本給」、「職能給」、「職務手当」、「調整給」などがこれに当たります。
また、「勤続給」や「年齢給」、「資格手当」、「家族手当」、「住宅手当」、「皆勤手当」などを支給している場合も、これを機会に「固定給」に組み入れられないかどうかを検討してみてください。
その結果、どうしても残す必要があるもののみ存続させることをお勧めします。
理由は2つあります。
1つめは、仕事の成果や貢献度とは関係ない項目が多いため。
2つめは、中小企業では社員の実態管理が細かくできずに、支給の条件から外れた者に継続して支給していたり、条件を満たしている者に支給されていなかったりする場合も多いからです。
前述したとおり、「所定外給与(時間外手当など)」、「通勤手当」は、対象外とします。
このA社の社員一人ひとりの給与を、図21「固定給テーブル」(こちらを参照)に当てはめ、移行していきます。
ここからは、ぜひ次のような「現行給与一覧表」と「固定給テーブル」をエクセルで作成し、図33「A社給与移行シミュレーション」(こちらを参照)を参考にしながら、これからお伝えする手順にそってエクセルを加工しながら読み進めてみてください。
本章を読み終えたときには、あなたの会社の給与移行案を完成させることができるでしょう。
①社員全員のグレードを決めるまず、具体的な移行作業に入る準備として、社員全員のグレードを決めます。なお、社員のグレードを決定することを「グレードの格づけ」と呼ぶことにします。
グレードの格づけについての考え方は2つあります。
a社員の実力や役割をもとに決める方法b社員の現行給与をもとに決める方法それぞれ解説していきましょう。
a社員の実力や役割をもとに決める方法aの社員の実力や役割をもとにグレードを決める方法は2つあります。
1つめは、本人が現状行なっている仕事レベルや発揮している実力を検証し、先ほど作成した図6「グレード・レベル・イメージ」(こちらを参照)の〝求められる仕事のレベル〟に該当するグレードとする方法です。
しかし、中小企業では社員の成長に応じた教育を計画的に行なっていない場合が多いため、このようなグレードの決め方をすると役職が下がってしまったり、社内で認識されている本人の地位より低いグレードとなってしまうことが少なくありません。
こうなると、本人のモチベーションが下がりかねません。
そこで、中小企業はもうひとつの方法をとったほうがよいでしょう。
それは、〝本人に求めたい仕事レベル〟のグレードに設定するという方法です。
現状できていなくても、まかせればそのレベルの仕事をこなすことができるであろうという期待のもとに、グレードを決めていきます。
ただし、この方法にもデメリットがあります。
それは本人の評価基準に期待、すなわち「現状できていないが、できる実力はもっている」レベルの仕事や役割が盛り込まれているため、「人事評価制度」導入当初は評価が低くなるということです。
これも、このままでは「人事評価制度」に対する不満やモチベーションの低下につながる恐れがあります。
このデメリットはクライアントには必ず実践してもらっている、「トライアル評価」という評価のステップを踏むことで解消できます。
「トライアル評価」とは、実際に評価を行なう前の練習評価です。
先ほど説明しましたが、「評価制度」導入後は、この「トライアル評価」を3回以上行ないます(こちらを参照)。
こうすることで、社員の不満やモチベーションの低下を防ぐことができるからです。
それでは、この「本人に求めたい仕事レベル」に格づけする方法でA社の社員全員のグレードを決めてみましょう。
まず、役職者については、該当する役職のグレードにそのまま格づけします。
A社の「グレード・レベル・イメージ」では、M2グレードを「部長」としていますので、部長の山田さん、佐藤さんは、「M2」のグレードに格づけされることになります。
次にA社では、現行「副部長」という役職が存在し、宮本さんがいます。
宮本さんの格づけを考えたいのですが、新しいグレードには「副部長」という役職が存在しません。
宮本さんはどのグレードに格づけしたらよいのでしょう。
この場合、「副部長」という役職ができた経緯を社長などからヒアリングし、実態を把握したうえで、検討、決定します。
A社の実態は次のとおりでした。
現在「副部長」の宮本さんが、「課長」になって5、6年のころに、社長から「そろそろあいつも昇進させてやってはどうだろうか」という声が出ました。
これが発端で経営陣と幹部で検討した結果、宮本さんは、「部長」になるには実力が不足しており、たとえ「部長」になってもまわりから認められ、頼られる器ではないだろう、という結論に達しました。
「副部長」はこの2つの矛盾する課題(社長は昇進させたいが、本人は昇進に足る能力がない)を解決するために苦肉の策として生み出され、新設された役職だったのです。
小山さんも宮本さんのケースと同じような経緯で「課長代理」となっていました。
中小企業にありがちな〝名ばかり役職〟を整理するこの手の、いわゆる〝名ばかり役職〟を与えられた社員が存在する企業も少なくありません。
〝名ばかり役職〟に多い役職名の例をあげると、「副部長」、「部長代理」、「担当部長」、「次長」「課長代理」、「担当課長」、「課長補佐」、「係長」などがあります。
こうした役職は統合・整理するのが理想です。
A社の場合、「副部長」はM1の「課長」に、「課長代理」はL1の「主任」に統合することにしました。
宮本さんも部長としては力不足だったのですが、課長としてならきちんと課員を率いてマネジメントを行なうことができていました。
それを踏まえて、新しいグレード体系では「M1(課長)」と決まりました。
小山さんも同様に「L1(主任)」に格づけされることになりました。
ただし、この場合、注意点があります。
それは、降格ではないということを本人に理解させ、社内でも周知することです。
これから取り組む改革は、人材育成のための新しい体系を構築するわけですから、「課長代理」から「主任」となる人も降格ではなく、まったく違う体系であるグレードで新しい役職となるということです。
これをより明確にするために、役職名を「マネージャー」「リーダー」などに刷新する方法をとる場合もあります。
念のため伝えておきますが、廃止・統合するのは役割や求める仕事が明確になっていない役職のみです。
前述の〝名ばかり役職〟に該当する名称の役職でも、組織上できちんと役割が確立できていて、社員育成のステップとして必要なものは新たなグレード体系に組み入れます。
さて、A社のグレードの格づけに戻りましょう。
役職者のグレードが決まれば、次は一般職です。
一般職の社員の場合、経験や実績、勤務年数をもとに決めていきます。
新卒やそれに近い年齢で採用し、入社1年未満の社員がいればS1グレードとなるでしょう。
一般職をS3までとしている会社は、「基本業務やルーチンの作業が一人でできるレベル」か「ある程度、応用やイレギュラーな対応、後輩へのアドバイスなどができるレベル」かでS2かS3グレードに当てはめていけばよいでしょう。
S4まで設定している場合は、さらにこれまでの会社への貢献度などをもとにS3とS4に格づけしていきましょう。
また、全社員のグレードの格づけが決定しても、部署によっては社員が存在しないグレードが出てくる会社もあると思います。
社員数が少ない会社であれば、全社でも社員がいないグレードが出る場合もあるでしょう。
こうした状態もまったく気にする必要はありません。
それは、グレードの格づけの目的は、職位や給与を決めることではなく、社員の育成だからです。
b社員の現行給与をもとに決める方法それではもうひとつのグレードの格づけ方法、bの社員の現行給与からグレードを決める方法についてお伝えしましょう。
この方法の移行手順はいたってシンプルです。
社員それぞれの現行給与の固定給の合計額が「固定給テーブル」のグレードごとの範囲に当てはまるグレードに格づけします。
つまり、現行支給されている固定給額でグレードが決まるということになります。
ただし、この格づけ方法は本来求めたい仕事レベルとは異なるグレードに格づけされてしまう場合も多いため、お勧めできません。
たとえば図21「固定給テーブル」(こちらを参照)にそってA社の社員を格づけすると、宮本さんはM2、小山さんはM1ということになってしまいます。
一方、前述したとおり、A社で過去の経緯や実態をもとに決めたグレードは、宮本さんがM1、小山さんがL1で「固定給テーブル」とは異なるグレードでした。
実際のクライアントでもこの方法をとったのは、約490社中1社のみです。
組織の技術力アップに貢献する人材は「専門職」として育てる中小企業では部署やチーム全体のことを行なったり、部下の育成をしたりすることに不向きな人が役職者となっている場合があります。
こうした人には、おもに2つのパターンがあります。
ひとつは、担当業務で個人的実績や技術が優れている人を役職者としたが、リーダーの役割はほとんどこなせていないパターン。
もうひとつは、在籍年数の長さや年齢が上だというだけで役職者となっているパターンです。
前者に該当する社員の中で、その専門的な技能が組織の成長に必要な場合は「専門職ライン」というグレード体系をつくります。
「専門職ライン」は、S→L→Mグレードとステップアップしていく「マネジメントライン」とは区分して設けます。
たとえば、S1→S2→S3までは全社員共通の昇格ステップを踏むのですが、次のグレードからL1→M1→M2に行く人と、P1→P2(Pはプロフェッショナル)に行く人に昇格ステップが2つに分かれるという体系です。
この立場の社員が現在、あるいは将来の会社の成長に必要な場合は事前に「専門職ライン」を作成し、こちらに格づけします。
②社員一人ひとりの支給項目別金額を設定するここまでで、全社員のグレードが決定しました。
いよいよ、次に社員個別に給与支給項目ごとの金額を決めていきます。
上位グレードからその金額を決めていくことにしましょう。
A社の場合、M2(部長)は佐藤さんと山田さんの2人です。
佐藤さんの場合まず、部長の役職手当は100、000円と決まっていますので、佐藤さんの役職手当は100、000円となります。
そこで、佐藤さんの支給額495、000円(図26こちらを参照)から100、000円を引いた395、000円を「本給」と「仕事給」に振り分けることになります。
決め方としては、まず「仕事給」を該当するグレードの「B」の金額にします。
M2の「仕事給」、「B」の金額は200、000円ですから(図21こちらを参照)、佐藤さんの「仕事給」も200、000円となります。
残った金額が195、000円です(395、000-200、000円)。
この195、000円は、M2グレードの本給の範囲、170、000~230、000円の中に収まるので、佐藤さんの「本給」はそのまま195、000円となります。
これで、佐藤さんの新しい給与テーブルでの支給額が決まりました。
佐藤さん新給与本給195、000円仕事給200、000円役職手当100、000円固定支給額合計495、000円山田さんの場合次に同じ部長の山田さんの各支給額を決めていきましょう。
山田さんは支給額が570、000円です(図26こちらを参照)。
佐藤さんと同じM2グレードで部長という役職ですので、「役職手当」と「仕事給」は同じ金額となります。
ただし、山田さんがいまもらっている金額、570、000円から「役職手当」100、000円、「仕事給」200、000円を引くと、残った金額は270、000円となります。
ところが、これをM2グレードの「本給」にしようとすると、上限の230、000円から40、000円オーバーしてしまいます。
つまり、40、000円は新しい給与テーブルのM2の部長職としては、もらいすぎだと判断できるのです(図21こちらを参照)。
もらいすぎなので、オーバーした40、000円を新給与への給与移行時に減額すると
いう措置がとれればベストです。
しかし、新しい給与体系ができたからといっていきなり減額しては山田さんも納得できないでしょう。
そこで、オーバーした40、000円を「調整給」という項目を設けて振り分けておきます。
山田さん新給与本給230、000円仕事給200、000円役職手当100、000円調整給40、000円固定支給額合計570、000円
実際、この山田さんのように「調整給」が発生するケースは中小企業でよく見受けられます。
とくに、先ほど紹介した他社(者)依存型(こちらを参照)で中途社員を採用してきた会社や、事なかれ主義型(こちらを参照)で勤続年数が長い社員の給与が上がりすぎてしまった場合などです。
これはルールのないまま、その都度給与を決めてきた結果発生した不具合です。
この機会に整合性のとれた、客観性のある体系に整理してしまうことをお勧めします。
山田さんのケースで設定した「調整給」の移行後の運用方法については、のちほどくわしくご説明します。
M1、L1グレードの社員についても同様に金額を設定していきます。
ここでも、M1で宮本さん、L1で小山さんにそれぞれ24、500円、38、000円の「調整給」が発生してしまいます。
S3~S1グレードに関しては役職手当がありませんから、現行の「基本給」から「仕事給」の「B」の金額を引いた金額が「本給」となります。
次に、一旦、A社の全社員の金額を新しい体系に移行した場合のシミュレーションを紹介します。
ご覧いただくとわかりますが一人ひとりの金額を当てはめていくと、「基本給」から「仕事給B」を引いた金額が該当グレードの「本給」下限額に不足する社員が出てくる場合があります。
A社の場合は、町田さんと馬場さんで、「本給」を下限の金額としているため、調整給がマイナス表示になっています。
しかし、このままでは「調整給」の位置づけや運用方法が決まっていないため移行できません。
次項からこれらの問題点の対処方法をくわしく解説していきましょう。
3新体系に収まりきれない社員の給与を調整する過去の一貫性のない体系に整合性をもたせる
新ルールに当てはめるために給与テーブルを調整する前項までで、A社の全社員を新しい給与体系に移行する準備ができました。
しかし、社員に示す前に、先ほどもお伝えした課題を解消しておかなければなりません。
そのためには、各グレードの範囲からはみ出てしまった「調整給」の運用ルールを明確にする必要があります。
「調整給」が必要になった人は、グレードの上限をはみ出た人=グレードに対して給与を多く支払いすぎている人ということです。
「本給」がグレードの下限に届かずに不足する人は、逆にグレードに対して給与が低すぎる人ということです。
こうした状況になってしまうのは当然といえば当然です。
これまで、自社のルールをきちんと決めずに、えんぴつをなめながら、あるいは本人の希望にそって給与を決めてきたものを、一定の基準にもとづいて作成された新ルールに一気に当てはめようとしているのです。
逆にぴったり当てはまるほうがまれでしょう。
ここからの調整や社員への新給与体系の示し方が、一貫性のある「人事評価制度」の運用を可能にし、社員の納得度と成長へつながるポイントとなります。
プラスの「調整給」を残すべきか検討するまず、各グレードの金額に収まらない人が、本当にそのままでよいのかどうかを検証します。
A社の事例では、部長の山田さんがM2グレードで40、000円、副部長から課長に格づけされた宮本さんがM1グレードで24、500円、課長代理から主任に格づけされた小山さんがL1グレードで38、000円オーバーしてしまいました。
この金額をそのまま「調整給」としてしまうと、3人に対して「あなたの給与は、これまでの仕事ぶりに対して多く払いすぎていた」と伝えることになります。
その前に、本当にこの3人に対して「払いすぎていた」のかどうかを検証しましょう。
L1の小山さんは、課長になるには本人の実績や後輩への指導力も不足していました。
そのため、課長に昇進させることはできず、課長代理という〝名ばかり役職〟を与えて処遇してきました。
とくに能力が向上したわけではないのですが、勤務年数が長く毎年昇給を続けてきたため、L1としては突出して高い給与となっています。
このままでは、ほかの若手社員へマイナスの影響を及ぼす可能性もあります。
このような場合、小山さんへは、L1主任としては「38、000円は払いすぎ」ときっちり伝えたほうがよいという判断になりました。
M1の宮本さんに「調整給」が24、500円発生した理由は、「副部長手当」でした。
ほかの課長とは差をつけて、宮本さんに「副部長手当」を支給していたのです。
しかし、副部長としての役割を実行できていたわけではなく、実態としては課長と変わりない仕事ぶりでした。
とはいえ「副部長」自体は、先ほど説明したように、社長の「そろそろあいつも昇進させてやってはどうだろうか」という鶴の一声で決まった役職で、宮本さん本人に責任はありません。
そこで、宮本さんの場合は調整給24、500円をもう少し減額できないものだろうかという結論に達しました。
M2の山田さんは、40、000円と「調整給」としてはいちばん大きな金額となっています。
とはいえ、山田さんは部長としての役割は十分こなして社長からの信頼も厚く、今後の会社のビジョンを実現するためには、引き続き営業のトップとして会社を引っ張ってもらう必要があります。
40、000円を払いすぎていたと伝えることで、山田さんの会社へ貢献したいという気持ちを削ぎたくはありません。
また、山田さんに部長手当を含めて支給している金額570、000円は、社長の考えとしては高すぎるという認識はなく、金額に見合う貢献を十分してくれていると判断していました。
そこで、山田さんの「調整給」はなくす方向に調整したいという結論になりました。
決めた方向性に沿って給与テーブルを調整するこうしてA社では、「調整給」が出た3人に対する方向性を決めました。
この考え方を踏まえて、給与テーブルを調整します。
具体的には、A社の判断を反映するには、給与テーブルのM1とM2グレードの金額を調整する必要があります。
「調整給」をなくす、あるいは少なく調整する方法は次の2パターンがあります。
1該当するグレードの「本給」・「仕事給」を底上げする2「仕事給」の「SS、S、A、B、C、D、E」の評価間の金額を広げ、該当グレードの金額の幅を広げるA社は、調整が必要なM1とM2の各グレードで、適正な方法を模索しながら調整しました。
次の図35がその調整を行なった固定給テーブルです。
L1小山さんの調整給38、000円はそのままの金額としました(L1のテーブルは調整していません)。
M1宮本さんの金額は24、500円から7、000円に減額することができました。
給与テーブルの調整はM1グレードの「仕事給」の標準額を5、000円底上げし、仕事給の差額を7、500円から10、000円に広げることで、「本給」の上限を12、500円上げることができました。
M2山田さんの金額40、000円は0円にすることができました。
同じく、M2グレードの「仕事給」の標準額を15、000円底上げし、仕事給の差額を10、000円から14、000円に広げることで、「本給」上限は27、000円アップさせることができました。
ただし、このテーブルの調整を行なうときに注意すべき点は、ほかの社員への影響はないか、影響を全社的に問題のない範囲にとどめられるかという2点です。
たとえば、あるグレードの金額を底上げしたために、ほかの社員の給与がグレードの下限額に不足するといった矛盾が起きないように注意しながら調整を行ないましょう。
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