7-1顧客満足を超えた個客満足をつくり出す企業文化
これからのサービスは、お客さまを不特定多数の「顧客」として対応するのではなく、一人ひとりの「個客」として個別対応を行うことです。
そのためにはP/Aを含めた従業員各自のホスピタリティをベースとする、思いやりにあふれた人間性が不可欠となります。
また、「気づき」や「察し」ができる感性を基に、個客の好みに即応できる商品知識と高度な接客技術やお客さまの立場になった心遣いが求められます。
その結果、サービスに対する評価は「満足」から「感動」や「感激」に昇華される機会を増やすことが可能となるのです。
最終的に目指すのは顧客満足(CS=カスタマー・サティスファクション)を超えた、個客満足(PS=パーソナル・サティスファクション)です。
それは自店の初回客をロイヤルカスタマー(ごひいき=信者)へと段階的にステップアップし、増加させることでもあるのです。
初めて利用した初回客から段階的にファン以上となった個客は、店側から担当者がお勧めする商品をオーダーする確率も高くなり、客単価はおのずとアップしま
す。
また、オピニオンリーダーとして友人・知人に対し積極的に店を紹介するだけでなく、フードサービス業であれば会食や宴会など大人数での利用頻度も増加します。
まさしくサポーター(支援者)であり、ロイヤルカスタマーとなるのです。
これらの個客に関連した売上増は、景気の影響を受けにくく安定しています。
また、このようにさらなる波及効果が期待できるのです。
通常、ファン以上の顧客比率は自店の全客数の20~30%です。
そして、その売上比率は全売上高のなんと70~80%を占めるといわれています。
ABC分析でいえば、A部門の顧客ということができます。
従って、その絶対数を増加させることが、今後の企業としての戦略目標となるのです。
小売業もフードサービス業も業種・業態にかかわらず、全国各地でオーバーストア状態となっています。
その結果、1店当たりの絶対客数が不足する小商圏化現象が顕著です。
従って、今後は店数や売上高といった販売シェアで競争が決まるわけではありません。
その小さくなった商圏内の顧客のマインドシェア(心の占拠率)で勝敗が決まるのです。
どれだけ商圏内の顧客を自店のファン以上の個客とできるかが最重要なのです。
マインドシェアを確保した店は、顧客のファーストチョイス(第一番目の選択)を獲得できます。
顧客が買物や外食をする際に、同業他店を抜いて真っ先に選ばれる店になるということです。
また、企業としてマインドシェアが確保されていれば、「信頼のブランド」が確立できます。
各種業態を展開している場合でも、店名の一部やマークなどに共通ブランドの表示があれば、顧客は安心して迷わずに利用することになるのです。
ブランド力は新業態や新店オープンの際に顕著に発揮され、早期安定につなげることも可能です。
これはサービス業において継続企業となるための必要条件です。
マインドシェアを確保する上で最も重要なことは、商品や価格による差別化ではありません。
競合他社(店)に対し、同一商品の増量や安売りをすることではないのです。
心のこもったサービスによる「区別化」を目指すことです。
21世紀は物(モノ)の時代ではなく、心の時代といわれます。
モノを通して他社(店)に差をつけること(=差別化)ではなく、従業員一人ひとりが心ある個別対応を徹底することで、他社(店)との違いを明らかにする「区別化」を図ることが重要なのです。
その結果、地域社会で長期にわたり勝ち残る原理原則となる「信頼のブランド」が構築できるのです。
信頼のブランドを築く企業文化マインドシェアを獲得し、信頼のブランド構築の「核」となるのは、経営者としての経営哲学や経営理念の明確化です。
経営理念とは自社を経営することで、どのように社会に貢献するのかを明文化し示したものです。
経営の目的を明確にし、経営行動の指針として、お客さまや商品・サービスに対し従業員全員に共有される価
値判断の基準となるものです。
小売業やフードサービス業を通して、「どのようにお客さまに喜んでいただき、その結果、地域でどんな役割を果たし、最終的にはこんな姿の企業にしたい」「わが社の従業員には自社(店)で働くことを通して、日々やりがいとプライドを持ち、自己実現を果たしながら、こんな風に幸せになってもらいたい」という、経営の目的を明確にすることです。
また、企業として商いの心得(商売に取り組む精神や姿勢)や組織風土(企業文化)、従業員一人ひとりの職責の果たし方といった、企業としての価値観や判断基準を共有化することです。
その本質にあるのは、経営者としての地域に対する愛とサービス業へのプライドです。
また、従業員一人ひとりの人生に対する責任感の自覚です。
信頼のブランドは一朝一夕では構築できません。
お客さま第一主義に徹して、地域に貢献することで醸成されるのです。
従業員それぞれが持っている固有の素晴らしい人格や能力を、サービスの仕事を通して互いに学び合い練成することで、それらを引き出すことが大切です。
その結果、各自が自己実現に結びつけて幸せになることが可能となるのです。
そのためには、企業として「育成の場の提供」と「自己啓発の土壌」が企業文化となるまで、長年にわたり創出し続ける努力が不可欠です。
7-2勝ち組の3ポイントとモラールアップを図る朝礼・ミーティング
小売業やフードサービス業など、ほとんどのサービス業でお客さまと接する時間や接点が圧倒的に多いのはP/Aです。
お客さまのニーズやウオンツの元になる生の情報把握や日々の品揃えや商品管理など、P/Aのモラール次第で売上げは大きく左右されているのです。
従って、P/Aのモラールをいかに維持しアップできるかで、「勝ち組」と「負け組」に分かれてしまうのです。
店舗数や売上規模にかかわらずモラールを維持するための現場でのポイントは、P/Aを巻き込みながら朝礼やミーティングを日々実践することです。
しかし、その重要性を認識しながらも実行と継続がなされていないことが多いのです。
P/Aは第一次商圏に住むお客さまでもあるのです。
その最も身近なお客さまの「マインドシェア」さえ確保できない店は、地域にとっても淘汰されるべき店ということになります。
それはこの厳しい時代に勝ち残っている企業(店)に共通な以下の3点を見れば明らかです。
その3点とは、①個別対応、②スピード、③行動規範・行動原則です。
それでは順に一つずつ解説してみましょう。
①個別対応お客さまは自分を大事にしてくれる店に足が向きます。
これは当然のことです。
そのためには不特定多数の「顧客」として十把ひとからげで扱うのではなく、お客さま一人ひとりを個人である「個客」として対応しなければなりません。
お客さまは初回客としてその店のサービスや商品が気に入れば、その後も不定期に訪れるようになります。
これを常連客と呼ぶことにします。
この常連客を定期的に訪れる「固定客」にすることが、ロイヤルカスタマーへの第一歩なのです。
この時点で最も大切なことは、従業員がそのお客さまの存在を認知していることを、さり気なく伝えることです。
「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」「先日は雨の中、お越しいただきありがとうございます。
お気に召すものがございましたら、お声をお掛けください」「前回はこういったデザインをお選びになったと思いますが、お客さまでしたらこちら……」「確か先日はあちらのお席にお越しになられていたと思うのですが……」「先日はこちらのスペシャルをお召し上がりになったと思うのですが、本日はこちらの旬のメニューがお勧めです」。
来店時や会話のきっかけにタイミングよく一言添えるとよいでしょう。
特定の個客として自分が認知されたことが分かれば、常連客は固定客になります。
固定客にステップアップして週1回、月2回など一定のペースで来店するお客さまに大切なのは、「答えはお客さまの数だけある」ということを忘れないことです。
そのためにはお客さまの名前と顔を一致させる努力をし、機会あるごとにできるだけ名前でお呼びすることです。
その結果、各自の好みなどの把握ができニーズを先読みして対応することが可能となります。
例えば、お客さまが特別に注文して取り寄せた客注商品を手渡す際の会話から、お名前と好みを知ることは可能です。
また、会計時に使用する各種カードから固定客の名前を覚え、データベースから購入履歴が分かれば新商品のお勧め販売も可能となります。
名前でお呼びできれば、固定客はファンにステップアップする可能性が高くなります。
ファンになると会話の機会も増えるため、お勧め商品や関連商品の購入がなされ客単価は上がります。
さらに担当者との人間関係が構築されることで信用・信頼が深まり、ファンをサポーター(支援者)へとさらにステップアップすることができます。
サポーターになると口コミで新しいお客さまを紹介したり、店に同行してくれたりするようになります。
ここに重要なポイントがあります。
これらの新しいお客さまは、その店のファンになる可能性が初めから高いことです。
その理由はその店のテイスト(趣味・嗜好・感性)や品揃えの良さが分かる人を、サポーターがわざわざ選んで紹介や同行してくれるからです。
このことは、特に高単価店や専門店の場合に大切です。
なぜなら、これらの店は外観や雰囲気など、初回客には入りにくいことが多いからです。
サポーターとしての関係が維持でき心の絆ができると、最終的に生涯にわたるお客さまとも言えるロイヤルカスタマー(ごひいき=信者)へとステップアップさせることも可能なのです。
前項でも触れましたが、ファン以上の顧客比率は、通常そ
の店の客数の20~30%です。
しかし、その売上構成比は70~80%もあるのです。
まさにABC分析でいうAグループのお客さまなのです。
「勝ち組」となるためには、これらの客数をいかに日々の努力で増加させ続けることができるかです。
従って、今後必要なのは、顧客満足を超えた個客満足なのです。
そのためには「ハッピーな従業員がハッピーな顧客を創造する」することを忘れてはなりません。
そしてその本質はP/Aのモラールの維持にあるのです。
②スピード現在の個客は、待たされることや対応が遅い店の利用を避けています。
今後もこの傾向は強くなると考えられます。
スピードで大切なポイントは3つあります。
1つ目は商品提供スピードです。
フードサービス業の中でも大衆をターゲットとする業態で、提供スピードの遅い繁盛店は皆無です。
書店など小売業でも、お客さまからの売場での質問や電話での問い合わせ、会計などが遅い店はインターネットを活用した販売店に負けています。
また、インターネットなど無店舗販売でも商品配送の遅い店は、早い店に負けているのです。
2つ目が、2ウエイ・コミュニケーションのスピードアップです。
2ウエイ・コミュニケーションとは、利用客と店の双方向のコミュニケーションを指します。
顧客は店側の接客サービスや商品の品質管理、品揃え、レイアウト・棚割り、店内の設備などに対しコンプレイン(文句)やクレーム(苦情)を抱えています。
それらを顧客アンケートやウォンツスリップ(本章の5の2参照)などでいかに拾い出し、どうスピーディに対応できるかで勝ち残りが決まります。
例えば、同規模の書店がまったく同じ品揃えで並んで営業していたとします。
書籍販売では商品と価格は両店とも同一です。
この場合、顧客が感じている不備や不満などの「不」と、他店と比べトイレが汚い、探している本が見つけにくいなど「負」となっていることにいち早く気づき、改善できたほうに勝ち目があります。
このお客さまに対する「不」と「負」の発見とスピード対応による解消は全業種・業態に共通なことです。
最悪の事態として「不」と「負」がそれぞれの顧客の限度を超えると、顧客はクレームやコンプレインとして店側に不快な意思表示をします。
このことに関する対応は、次項の「クレームマネジメント・マニュアルの作り方」で述べていきます。
3つ目のスピードは、本部決定事項の現場でのスピード導入と継続・徹底です。
複数店を展開する各社の本部では、業界や競合他店など各種情報も入り、店舗オペレーションの改善などさまざまな判断を下す際に、あまり間違った決定を行うことは少ないものです。
問題はその決定がお客さまとの接点まで、いかに早く正確に伝達されP/Aを通して実行に移されているかです。
そしてさらにその後も継続して徹底できているかなのです。
実はこの差が店舗間格差となり、企業間格差を生んでいるのです。
③行動規範・行動原則この問題は、新聞やテレビなど大企業と呼ばれる各社の昨今のお粗末な不祥事を
見れば、その重要性がお分かりでしょう。
それらの問題の本質は、行動規範・行動原則にあります。
行動規範とは、その企業に勤める全従業員が経営理念を元に、その企業にふさわしい従業員としての行動や態度を常にとることです。
また、行動原則とは発生した事態に対し、その企業のトップや社員として自社の経営理念(判断基準や価値観)に照らし合わせ、正しい対応を躊躇せずに実行できることです。
サービス業の仕事は、「毎日決まったことを決まった通り、明るく誇りを持ってやり続ける」ことです。
その基本は2つあります。
それは「あいさつに始まり、あいさつに終わる」ことと、「清掃に始まり、清掃に終わる」ことです。
人がいないと成り立たないピープルビジネスであるため、人のやる気と人の心の管理がビジネス成功のカギを握っていす。
身だしなみに始まり、従業員間の報告・連絡・相談、お客さまのコンプレインやクレームの対応など、企業としての経営理念の具現化でもある行動規範・行動原則の徹底こそ、従業員各自に求められるものなのです。
そのためには、P/Aを含め従業員一人ひとりのやる気を引き出し、チームの一員として分業体制を取り、コンビネーションのある仕事をする必要があります。
また、お客さまからの要望や苦情、店内における簡単な引継ぎのミスや人間関係のトラブルなど、事あるごとにそれらを勉強と意思統一の機会とし、その店や企業としてのあるべき行動の規範や原則を徹底することです。
これら①~③を自店でも実施し、徹底して継続するには朝礼、ミーティングが不可欠です。
また、サービス業の特性であるP/Aへの依存度が高いことも併せて考えれば、朝礼やミーティングの重要性が再確認できます。
朝礼・ミーティングのポイント朝礼・ミーティングの目的は、店長として自社の経営理念や経営方針をお客さまとの接点で具現化するため、できるだけ多くの従業員とコミュニケーションを図り、意思統一を行うことです。
経営理念とは従業員全員に共有されるべき価値観や判断の基準となるものです。
お客さまから出される要望や苦情はさまざまです。
とてもマニュアルでは対応し切れません。
しかし、価値観や判断基準が従業員全員に統一されていれば、どんな事態が発生してもその企業としての正しい判断や行動がなされる可能性は高くなります。
思想(経営理念)が統一されていれば、従業員のサービスや対応に関する行動や表現も統一されることになるのです。
これが意思統一です。
自店のQSCスタンダード[Q=クオリティ(商品の品質)の基準、S=サービス(心のこもったサービス)の基準、C=クレンリネス(清潔な状態)の基準]の維持や個別対応サービスの強化、問題と感じていることなど、店長としての意志を伝えない限り、従業員には理解されません。
この意志を伝え、やる気を共有し行動
に結びつけるきっかけとするのが朝礼やミーティングです。
また、店舗オペレーションを通してP/A各自の個性や人間性、創造力など、その人らしさが発揮できるようにすることも大切です。
各自の持つ多様性とやる気を生かし、適材適所の店内組織をつくり分業体制を組めば、チームワークがはぐくまれ、仕事にコンビネーションが生まれる機会が増えます。
そのためには店長としてさまざまな面でコーディネーション(調整)が必要となりますが、これらも朝礼・ミーティングを通した「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」と引継ぎの徹底でスムーズになるものです。
また、ささいな行き違いから生じる人間関係のトラブルも、事前に回避できる機会が増加します。
店長は、ミーティングで普段あまり自分から意見を言わない人にも上手に意見を求めるように進行したり、テーマを事前に伝え意見を述べてもらうようにする配慮も必要です。
朝礼で2、3分間スピーチを順に行うと、P/Aを含めた従業員各自の店づくりや接客サービスに関する考えを聞くことができます。
その際に良い点や守るべき点を積極的に褒めたり、認めるとモラールアップにつながります。
朝礼の内容とポイントに関しては資料「朝礼チェックリスト」(図表❼-3)を参照し、自社流にアレンジするとよいでしょう。
このように朝礼やミーティングは情報を共有化し意志を統一するだけでなく、P/Aを含めた従業員各自のモチベーションアップに役立てることができるのです。
また、苦情への対応などテーマを決めて行えば、ベテランの意見やアドバイスを新人も聞け、ナレッジマネジメント(知恵の蓄積・共有・活用・評価)に役立てることも可能です。
ナレッジマネジメントに関しては、本章5「より高いサービスを実現する仕組みづくり」の3で詳細に述べています。
7-3クレームマネジメント・マニュアルの作り方
店長は常に聞く耳を持て店長は利用客から発せられた、どんな小さな文句や苦情でも聞き逃してはなりません。
そのためには常に明るく積極的な態度でP/Aと接し、彼らから伝えられる利用客の生の声を、言い訳や批判をせずに素直に聞く耳を持つ必要があります。
せっかくP/Aが言ってきたのに店長が「料理が遅いと言われても、どのテーブルでも待っているんだから……」「新人が多いんだから、お客も〇〇くらいはがまんしてくれなきゃ」「えっ、あのお客は〇〇についてそんなこと言ってるの。
それはお客の方が悪いよ」などでは、次回から言う気にもなりません。
逆にどんな小さな質問や苦情でも、「それは気がつかなかったけれど大切なことだ。
どのお客さま、私が行って説明するから……」、「それは教えてなくて悪かったね。
私も今行って謝ってくるから……」など、日ごろからきめ細やかに対応して
いれば、利用客の生の声も入りやすくなります。
また、店内ミーティングでも積極的な意見が期待されます。
P/Aには苦情を発する利用客は、実はその店の大変なファン(固定客)であることも理解させておく必要があります。
「せっかく利用したのに今日の“この商品は……”“このサービスは……”一体どうしたんだ!」という気持ちが文句や苦情となり、そのことが言葉となって発せられたことを理解させ、その店の商品やサービスに期待していたからこそ、それが裏切られたときに顕在化したのだと伝えます。
通常、顕在化した苦情の20倍の顧客が同じ苦情を潜在的に持っていると考えなければなりません。
顕在化した苦情は、いわば氷山の一角に過ぎないのです。
苦情が潜在化している利用客は、苦情に至らないだけで大半は二度とこの店に来るのはやめようと決めています。
しかも、友人や知人にそのことを面白おかしく伝えます。
アメリカでは最終的に17人の人に苦情は伝わると言われます。
結果的にこの店は、その苦情で17人×20倍=340人の利用客を失う計算になります。
実はこれが一番怖いことであると店長は理解し、利用客一人ひとりの大切さと重みをあらためてP/Aとともに確認する必要があるのです。
店長のクレームマネジメント5つのポイント具体的な利用客の生の声をできるだけ多くP/Aから聞き出したなら、店長はそれらを分類整理し、要因を分析して現状の自店の問題点を抽出し対処しなければなりません。
大切なことは「誰が悪いのではなく、何が悪いのか。
今後同じトラブルを起こさないためには、どうしたらよいのか」を考え対処することです。
特にゴールデンウイークや夏休み、年末年始など繁忙期を前に店長が行うべきクレームマネジメントのポイントは、以下の5つに要約できます。
①基本サービスを充実し徹底せよクレームの90%は、本来行われるべき当たり前のサービスや作業がなされていなかったり、担当者のうっかりミスにより起こっています。
このような低次元のクレームが多く発生している店の場合、職場内のあいさつや身だしなみをはじめとしたモラールが低下していることが多いものです。
要するに職場内にけじめがなく、P/Aの大多数の気が緩み、いい加減に作業やサービスをこなしているのです。
もしそのような兆候があるなら、店長は自分のリーダーシップのなさを猛省しなければなりません。
朝礼やミーティングを通し、まずハウスルールからあらためて徹底する必要があります。
また、店長としてこれらの凡ミスをなくすには、マニュアルを全員に確認させ、基本サービスを徹底することです。
サービスにおけるマニュアルは、その店で行われるべき最低基準を表していることを忘れてはなりません。
気配りや個別対応などのより高度なサービスは、基本サービスが充実されて、初めてその真価を発揮するものです。
②重点管理すべきポイントを絞り込めクレームは件数別にQSC(Quality、Service、Cleanliness)などの部門別や発生場所別で分類し、分析すると問題点が見えてきます(次項参照)。
その結果、重点管理すべき具体的な商品やサービス、作業工程や担当者などが明確になります。
それらに対し優先順位をつけて各時間帯の責任者、トレーナーを交えミーティングを行って対応策を練り、1つずつ解決することです。
クレームマネジメントを通してこれらを店内の幹部社員に考えさせ、店長の目指すサービスや顧客管理に関する意思統一を図ることが大切です。
③人事考課と個別トレーニングを強化せよP/A全員をマニュアルに沿い、トレーニングプログラムによって基本的な作業やサービスを教えたつもりでも、サービスレベルが低い数人のために特定の時間帯にクレームが集中していることがあります。
この場合、まず取り組む必要があるのがP/Aの個人別チェックです。
P/A各
自が、何ができて何ができていないか、得意なことと苦手なことが何なのかといった現状を、店長が把握する必要があります。
これを人事考課といいます。
その後、個人別にテーマを設定しフォローのための教育トレーニングを開始します。
[個人別サービス評価表](図表❼-5)は各個人の基本トレーニングの後、一定期間ごとに実施します。
ベテランはより高度な内容を含めマンスリー(月間)でよいのですが、新人の場合は当初、基本的な定形サービスや作業だけをウイークリー(週間)でチェックすべきです。
店全体で得点の低いサービス項目は何か、これが②の「重点管理すべきポイント」にもなるのです。
さらに各個人別に見ると、誰のどの点が問題なのかが一目瞭然で分かります。
それらをチェックし店全体のテーマと各個人別テーマを挙げ、ウイークリーごとに優先順位を決めるとよいでしょう。
これらが徹底できれば、店も各個人も順にサービスレベルが向上できるようになります。
店長として個人別指導の中で大切なことは、一方的にここが悪いからこうしなさいと押し付けるのではなく、コーチングの姿勢をできるだけ取り、本人に考えさせることです。
特に対象者が新人であれば店長はできるだけ聞き役に回り、本人が考えているサービスに対する考え方やそのレベルを確認した上で、店長が目指すサービスとその理由を伝えると効果的です。
④分業態勢でクレームを事前に予防せよ店長は人の入れ替わりが大幅にあったり、異動した店舗のモラールが低く立て直しに時間がかかると判断した場合、分業態勢で取りあえず対応しクレームを予防することも必要となります。
具体的には、作業係と気配り係を分けて育成することです。
慣れない新人に定形サービス以外の気配りを望んでも、各種の経験からくる判断力や資質も必要であり、育成には時間がかかるものです。
そこでまず自店のP/A人材の棚卸しを行い、明確に2つに分けて繁忙期までに短期戦力化を図ることも必要です。
平日にワークスケジュールを組む際にもこのバランスを考えて組み、2人から3人でブロック(部門)を担当させれば、作業係も気配りのポイントを理解できるようになります。
また、フードサービス業ではピーク時における各種専任を育成することも考えられます。
ピーク時間帯の数時間を限定してオーダー受け専門や料理運び専門、ご案内専門などに分けて分業を徹底するのです。
商品知識のあまりない人やサジェスティブセールスのできない人にオーダーを取らせるより、得意な人に任せた方がオペレーションはスムーズにいきます。
いくら優秀な店長でも、自分の公休日やピーク時などすべてに目が行き届くわけではありません。
そのためには店長代理だけでなく、店長の代行ができる各時間帯の責任者(P/A)を育成する必要があります。
クレームに関する時間帯責任者としての行動のポイントは、苦情になる前に気づくことです。
すべての不満はお客さまの顔や表情に表れているものです。
そのためには常にお客さまの表情を確認し、満足しているかどうかをチェックすると効果的です。
何かおかしければ「お料理はお口に合いますでしょうか」などと率先して尋ねるべきです。
また、サービス担当者が利用客に接している際も店内全体を観察し、通常にはない違和感があれば何気なくそばに行き、確認すべきです。
少なくともピーク時間帯には5分に1回のペースで店内を巡回し、各テーブルの上と利用客の表情、ディシャップ(配膳準備)での伝票と料理の流れ、パントリーや喫茶カウンターでのアフターの流れ、駐車場の状況などを確認できるよう習慣化しなければなりません。
店長が毎週安心して公休を取るためには、このレベルまで各時間帯責任者を育て上げることが目標となります。
⑤クレーム発生時の処理をルール化せよクレームは未然に防げればそれに越したことはありませんが、いくらサービスレベルを上げても何らかのクレームは発生するものです。
クレームマネジメントで大切なことは、クレームをできるだけ予防することと、起きてしまったクレームをいかに迅速に正しく処理するかということです(図表❼-6)。
クレーム処理で重要なことは、まず、そのお客さまの立場で状況を認識し対応することです。
これを誤ると、小さなクレームが大きなトラブルに発展しかねません。
例えば、お客さまのネクタイに学生アルバイトが鉄板で提供したステーキソースがはねてかかってしまったとしましょう。
学生アルバイトは、このくらいのことはよくあることだし、たいして汚れてもいないのに……と、取りあえず「申し訳ございません」と軽く謝り店長にも報告がなかったとします。
ところがお客さまにとってはお気に入りのブランド物の高級品であり、汚された瞬間には「あっ……」と思ったものの何も言わなかったがどうにも収まりがつかない……、帰り際に店長が呼び出され「この店の教育はどうなっているのか……」と大声で怒鳴りつけられ、ほかの利用客まで迷惑を受けるといったことはよくあることです。
学生アルバイトがそのときに心から詫びて丁寧に謝り、店長へも迅速な報告がなされすぐに謝罪に行けば、このようなトラブルにはならなかった可能性が高いと考えられます。
P/Aを多く使う店の場合、新人は6カ月間お客さまのどんな小さなコンプレインやクレームでも、自分で判断せず必ず店長に報告させるルールが必要です。
また、その報告を受け店長がいかに対応したかによって、店長に対する信頼感も不信感も生まれることを忘れてはなりません。
私が忘れたオーダーを店長が謝りに行ってくれた。
私が料理を間違ったテーブルに運んだのに店長が調理場に謝り、すぐに作り直してもらえた等々。
この、お客さまをどれだけ大事にしているのかという姿勢と状況に合わせたP/Aのフォローと個別教育が、店長のリーダーシップを確固たるものにし、クレームマネジメントをより強固なものにするのです。
7-4場所別・ケース別クレームと対処法
お客さまの在店時間が長く、苦情が多く発生しやすいのがフードサービス業です。
そこでフードサービス業を例に、その基本原則であるQSCに関する最も頻度の高い代表的なクレームとその具体的な対処法を述べてみます。
これらを参照し[苦情処理5カ条]を活用すれば小売業や各種サービス業にも応用できます(図表❼-7)。
Q(クオリティ=商品の品質)に関する代表的なクレームと対処法商品のクレームで多く発生するのが、髪の毛や金だわしの針金の小片、時期によってはキャベツにつくアオムシなどの異物混入です。
この場合、クレームが発せられた時点で必ず店長またはその時間帯の責任者が対応することがポイントとなります。
なぜなら、嫌がらせでもない限り、明らかに店側が悪いからです。
また、お客さまが口の中をケガしたり、歯が欠けてしまったという事態になっている可能性もあり、的確な状況判断で対応をするためにも、その時点での店内の責任者が対応すべきです。
いずれにしても、クレーム処理は「初動」が最重要であることを店長は常に認識し、P/Aにも徹底しておく必要があります。
次にクレームが発生した利用客に対し、事実を確認した上でまず謝罪することが重要となります。
ケガがあればその程度により応急処置を取り、必要なら近くの救急病院に同行します。
程度が軽ければ、あらためて謝罪にうかがうことを伝え、氏名、住所と電話番号などをメモします。
ケガがなければ、「同じ料理をすぐに作り直しをさせますが、いかがでしょうか……」と提案してみます。
利用客が了解すれば新しい料理をすぐ作り、さらに店長判断でデザートなどをサービスします。
クレームの程度にもよりますがあらためて料理を作り直し、利用客が召し上がった場合、原則として料金はいただきます。
料理を作り直さなくてよいと言われた場合には、料金は原則としていただきません。
いずれの場合も、お帰りに誠意を持ってあらためてお詫びをし「本日は大変ご迷惑をお掛けいたしました。
今後こういったことがないように十分注意いたしますので、ぜひまたお立ち寄りください」と食事券やサービス券などを手渡すとよいでしょう。
また、異物混入の原因が分かれば、その理由を説明し自店の不注意であったことも正直に添えるべきです。
問題となった料理は、クレームが発生した状態で調理長に見せ事実を確認してもらいます。
店長は当日中に調理場のアシスタントクラスまでを含めた緊急ミーティングを開き、異物混入の原因追及と同じクレームが2度と発生しないための具体的
な対策を決め、すぐに実行に移すようにします。
さらに多店化している場合には、電話と日報やコンプレイン報告書などにより、エリアマネジャーと本部にありのままを正直に報告することをルール化しておくことが必要です。
その理由は、他店でも同様のことが起きる可能性があるからです。
S(サービス)に関する代表的なクレームと対処法ファストフードを除く外食産業で業種・業態を問わず最も多く発生するのが「料理が遅い」というクレームです。
特に競争の厳しい地域のランチタイムは、料理提供時間が遅いというだけで客数が激減します。
また、いわゆる「同時同卓(同時提供)が基本である」といわれるように、同一のテーブル(グループ)の利用客が個別にオーダーしたメイン料理が一緒に提供されず、ばらばらに提供されたのでは利用客と店の双方に問題が出ることも忘れてはなりません。
例えば、同席する上司や接待する大切なお客さまより先に自分の料理が出されては、手をつけるわけにもいかず、かといって温かい料理が冷めたり、麺類なら伸びるのを気にしながら空腹をおさえて待たなければなりません。
上司や接待されているお客さまも当然イライラしていますが、「ねぇー、まだですか」というのも自分の人間性が疑われるようで気が引けるといった状態はよくあることです。
ここで重要なのは、このレベルの問題はクレームとはなりにくい点です。
クレームの本来の意味には、[異議申し立て、損害賠償請求、権利の主張・要求]といった強いニュアンスがあります。
このレベルは通常、コンプレイン(文句)となり顕在化せず利用客側で処理されてしまうものです。
しかし、嫌な思いをした利用客が再来店する確率はほとんど皆無です。
店側では、同じテーブルのたった1人の料理が遅れただけで、その店のテーブル回転率を落とし販売チャンスをロスしています。
しかし、結果として考えている以上の客数を失っていることが最も重要な問題なのです。
店長としては、ピーク時の各テーブルの状態とお客さまの表情を1人ずつさりげなくチェックし、おかしいと感じたらディシャップに行き、そのテーブルのオーダー伝票の順番と内容を確認することを習慣づける必要があります。
そしてお客さまが明らかにイライラしているようなら、先手を打って「今、確認して参りましたが間違いなくご注文は通っております。
もう少々お待ちください」と言葉を添えることです。
しかし、これらの予防もできず「君!まだかね。
私より後からきた人の料理が出ているのに、もう20分以上待っているよ。
どうなっているんだ!」とクレームが発生した場合には、まず店長としてそのテーブルにすぐ出向き、遅れていることに対し心から謝るべきです。
そして、お客さまの言い分をとにかくすべてお聞きした上で、「すぐに調べて参りますので……」と調理場に行き伝票チェックを行いま
す。
このときのポイントは何を言われても決して言い訳をしてはいけないことです。
このような場合に考えられるのは、①そのテーブルの伝票の紛失②本来はクレームのあったテーブルの料理を同じオーダーを受けたほかのテーブルへ運んでいってしまった③オーダー伝票の書き忘れや調理場への通し忘れ、またはオーダー・エントリーシステムの場合にはキッチンプリンターの故障や紙づまりなどです。
いずれにしてもオーダーされた料理を調べ、調理場に協力をしてもらい最優先で作らせるとともに、遅れた原因(①~③など)を正直に告げ、今急いで作っていることを伝えます。
また、オーダーを伺った担当者のミスによる場合には、一緒にあらためて謝罪します。
最悪の場合、オーダーされた料理が分からない場合もありますが、そのときには「本当に私共のミスで申し訳ありません。
ご注文のお料理をあらためてお伺いをし、これからすぐにお作りいたしますが……」とお客さまに提案し確認してみます。
店側のミスでお待たせしたのなら、お帰りの際に店長判断で料金は原則的にいただきません。
グループ利用の場合には、クレームの対象となったお客さまの料金だけが原則的には対象となりますが、ほかのお客さまに対しても必要によりデザートサービスや食事券をお帰りに手渡すなどの対応は、クレームの程度や状況に合わせ、店長判断で的確になされなければなりません。
また、「何を今さら、もういい!」ということも多いものです。
この場合、さらにお客さまが苦情を続けるようであれば、言い訳をせず徹底して聞き役に徹する以外最善の方法はありません。
そして、再度謝りご丁重にお見送りするだけです。
そんなに長い間、そのテーブルに料理が出ていないことを気づかなかった店長であるあなたが一番悪いのです。
C(クレンリネス)に関する代表的なクレームと対処法クレンリネスに関する潜在的なコンプレインやクレームは、実際には一番多いと考えられます。
しかし、顕在化することはあまりありません。
理由は利用客側で「とんでもない店を選んでしまった。
このレベルでは言っても多分直るわけがないし、何か言ってかえって嫌な思いをすることもない。
この店を利用しなければいいのだから……」と心に決めるからです。
このことからも分かるとおり、主にクレンリネスに関するコンプレインやクレームは初回客によるものが圧倒的に多いのです。
従って、クレンリネスのレベルの低い店では、いつになっても新規客の固定化の比率が高められず、結果的に客数減少をきたし不振店となります。
クレンリネスのレベルの低さは、店長のリーダーシップのなさの証明でもあります。
なぜなら、クレンリネスには特別な技術や知識も不要であり、やる気があれば誰にでもきれいにすることができるからです。
それがきれいにならないのは、クレンリネスの作業分担がいい加減だったり、店長の指示やチェックが甘いため、いつの間にかずるずると店や見だしなみを含め、環境が悪化したにほかならないからです。
当然、このレベルの店はモラールも低く、人間関係も悪いためP/Aの定着率も低いものです。
その結果、クレンリネスはさらに悪循環を繰り返して悪くなってしまったのです。
不振店対策でまずクレンリネスを実施するのは、これらの理由からなのです。
まず必要なことは、大掃除を行って本来のあるべきクレンリネスのレベルに店を戻すことです。
さらに週間清掃作業の見直しと分業態勢を確立し、しっかりとやり続けることが基本となります。
人がいなければ店長自らが残ってでもきれいにするつもりがなければ、店のクレンリネスとモラールは維持できません。
環境は人を変えるのです(図表❺-1参照)。
クレンリネスに関するクレームが仮に出るとすれば、トイレ、テーブルの下、駐車場、入り口回り、店の裏側のゴミ置き場などが挙げられます。
これらの場所は、女性客が特に敏感なだけに注意を要します。
また、クレンリネスが悪ければメンテナンスも行われていないと考えられます。
夏に向けクーラーのフィルター清掃を怠れば、当然冷房の効き目は悪くなり、かび臭いような異臭も発生します。
さらに不潔なため、ゴキブリが昼間からテーブルに出没したり、天井や床下でネズミの出す音が店内に響くといったことにもなりかねません。
これらのことでクレームが発生した場合、店長としては何も言い訳できず、仮に謝ったところでその店の悪い印象は決して拭い去ることはできません。
クレンリネスに関するクレームマネジメントの本質は、店長の意識とプライドにあるのです。
店長個人がどれだけプロとしての自覚があり、そのために自己研鑽と努力を日々積み上げているかは、その店のクレンリネスのレベルを見れば一目瞭然です。
クレームマネジメントを通して自店のQSCのスタンダード(基準)のレベルアップを望むなら、まず、店長自らが心新たにクレンリネスの陣頭指揮と率先垂範を行い、P/Aに対しリーダーシップを発揮することが必要です。
7-5より高いサービスを実現させる仕組みづくり
より高いサービスを目指し、顧客アンケートの活用やモニター制度などにより、これらを定期的にチェックしている企業もあります。
さらに進んだ企業では、顧客の「不」と「負」に対しもっと積極的に対応しています。
それでは5つの手法を紹介しましょう。
1.ミステリーショッパーこれは専門に訓練された調査員が、店側にまったく分からないように顧客を装い調査をするものです。
この調査員をP/Aから選別し、訓練して養成しているファストフード企業もあります。
その業態に合った専用の調査用紙を用い、点数で評価します。
顧客満足度調査と商品の品質管理状態やスピード提供、クレンリネスレベルなどをチェックします。
フードサービス業のチェーン店などでは、QSCに関することを主体に各店の点数をつけ、定期的に評価することで各店の注意点や次回までの改善点、目標レベルなどを設定します。
また、順位を発表し店舗に対する報奨金制度の対象としていると
ころもあります。
2.ウオンツスリップウオンツ(潜在的に求めている物や事)とは、マーケティングの考え方にあるニーズ(潜在的に必要とされている商品やサービス)の卵ととらえることができます。
卵とは将来ニーズに発展する可能性の高いことを表しています。
このウオンツを接客サービスに際し、お客さまのボソッと言った一言やちょっとした反応を見逃さずにできるだけ多くとらえ、スリップ(紙片=メモ)として報告する手法です。
例えば、家具店でタンスを購入する際にあるお客さまが「このタンスにホイール(車輪)が付いていれば移動できるのに……」、中華レストランで「この点心は各メニューに2個から注文とあるけど、違う種類を1個ずつ2個ではいけないのですか」、靴の専門店で女性客がサイズ違いを頼まれた際に、その靴だけでなく若干異なるデザインで同サイズの靴を一緒に持参したら大変喜ばれたこと等をP/Aがメモに書いて店長に提出して帰るのです。
この結果、優秀な店長や経営者であればそのメモから顧客ニーズを先読みし、タンスにホイールを付けた実験商品を販売したり、点心の組み合わせをお好みで2個から可能とメニューに表示したり、お客さまが依頼した靴以外にその方のテイストを見越し、依頼された靴以外にデザインや色違いを必ず3足提案し選んでいただく等、さまざまな対応が可能となります。
また、「声なき声」を拾い出すことで自店のサービスレベルや品揃え、快適性や便宜性等に関する問題点など、潜在的に不満の原因となっていることを発見することもできます。
3.ナレッジマネジメントの活用ナレッジとは知恵のことです。
知識とは知っていることであり、これだけでは役に立ちません。
知恵とは物事を知っているだけでなく、それを活用して適切に対応したり処理する能力のことです。
ナレッジマネジメントとは、この知恵を皆で出し合い「蓄積」し「共有」して、皆が「活用」できるようにし、その知恵を出した人とうまく活用してお客さまに喜ばれた人や店を「評価」する仕組みのことです。
例えば、「お客さまにもっと喜ばれるサービスをしよう」とあるローカル30店のチェーン本部がキャンペーンを提案し、夏の2カ月を対象期間にコンテストを実施することになりました。
本部ではお客さまアンケートの点数と客数の前年対比伸び率で評価することを決め、最終審査と成績発表は9月28日に市の公会堂を借り切って行うことにしました。
各店ではP/A全員が知恵を出し合い、ベスト案を1つだけ徹底して実行することにします。
A店は「お客さまには絶対にドアの把っ手を触らせないサービスをする」、B店は「雨の日は傘をさし、駐車場まで送迎をする」、C店は「お帰りにはお客さまが見えなくなるまで、ドアの外でお見送りをする」……などが各店より出され、コンテストが実施されました。
その結果、優秀な成績を出した上位5店が公会堂に集い発表会と最終審査を行
従業員満足度調査顧客満足(CS)度調査と並び、今後必要不可欠となるのが従業員満足(ES)度に関する調査です。
それは言うまでもなく「ハッピーな従業員がハッピーな顧客を創造する」からです。
自社(店)の従業員が、明るく楽しく、やりがい・ふれあいにあふれた、健全・清潔で安全な労働環境で働いているかどうかは重要なことです。
ポイントは、上司とのコミュニケーションや職場内の人間関係、教育・トレーニングに関することやワークスケジュール(月間での時間数)・時給の公平感等です。
特に女性の多い職場ではセクハラ(セクシュアル・ハラスメント=女性に対する性的嫌がらせ)も重要なテーマです。
※セクハラの被害者は女性に限らない。
例えば、店長や店長代理が、軽い気持ちや意識せずにセクハラまがいのことを行っていることがあります。
また、彼らは上司として、時給や労働時間数(ワークスケジュール)の決定や調整を行っています。
その結果、P/Aは弱者の立場となるため、それらの行為に対するクレームを言いたくても言えず、がまんしているようでは大問題です。
これは一つ間違えばパワーハラスメント(上司や経営者が部下に対し、その職権や権力などを盾に取り、部下の人格を無視するような悪口雑言や陰湿ないびり、いじめなどを行うこと。
正しくはモラルハラスメントであり、パワーハラスメントは和製英語の造語)でもあります。
今後はセクハラよりも大きな問題となる可能性が高く、言葉の暴力は上司として十分に注意しなければなりません。
こういったことが起こらないように事前に対処するためにも、年に2回は人事部や総務部からアンケート形式で質問事項を作成し、P/Aの住居に直接郵送するなどして配布します。
店名、勤続期間、担当部署などを記入し、無記名でも可とし秘密厳守で直接回収すると効果的です。
見ることができるのはトップと人事(総務)担当の限られた者とします。
仮に同一店で問題が発生しているようであれば、実態を調査・確認した上で適切な対応を早急に取ることが必要です。
またこの調査は、店長を含め社員の倫理感の向上や自覚を促すことにもなります。
労働環境の整備や改善など内容を点数化して表示し、次回までの目標設定を行い実行(例えば個別面談やミーティングの回数、時給評価の説明など)させること
疑似体験判断トレーニングこの手法は著者が考案したトレーニング方法です。
グループ学習として1グループ6~8名ぐらいが適当です。
できれば新人からベテランまで、男女や役職の異なる方も参加するとよいでしょう。
事前に進行役を決めておきます。
リーダーではないので誰でも構いません。
まず、参加者にこの数週間から数カ月の中で、お客さまから出されたご要望や苦情で大変悩んだことを、1人ずつ題材として決めてもらいます。
進行役が指名するか、自主的に参加者の1人が順に題材としてその内容をグループのメンバーに向け話すことから始めます。
例えば、苦情であれば、何曜日の何時頃のことか。
そのときのお客さまの来店状況や店の人員体制など、できるだけ詳しく説明してもらいます。
そして、その苦情が発生した際に自分は当事者としてどこにいたのか。
お客さまに接するまでの経緯や、初対面のときのお客さまの表情や態度、言葉遣いや口調等も説明してもらいます。
また、苦情が起きたときの付近や店舗内の他のお客さまの状況なども含め、できるだけ正確に現場を再現してもらうのです。
さらに具体的な苦情の内容を、お客さまが言っていたことを思い出し、できるだけリアルに順に表現してもらいます。
ただし、当事者として行ったその苦情への判断や具体的な対応は話さないように事前に注意しておきます。
当事者は、ぎりぎりの所まで話し、進行役に引き継ぎます。
他の参加者は当事者がどのような状況に置かれていたかは分かりますが、その苦情に対しどのように判断しどう対応したか、その結果どうなったかはこの時点ではあえて分からないようにするのです。
進行役は当事者の立場に各参加者を置き換え、疑似体験させることで、「あなたならどうしますか」と各自の答えを求めます。
その際に状況や経緯を再確認するため当事者への質問はよいこととします。
進行役が注意する必要があるのは、答える順番です。
できるだけ、経験の浅い参加者、年齢の若い参加者から順に当て、答えを求めて行きます。
その際のルールは他の参加者が当事者を含め、回答者(疑似体験している人)の話を黙って聴くことです。
また、回答者は、お客さまに対して言うセリフや声の抑揚、態度・動作、表情などロールプレイングのように臨場感を持って行います。
必要により判断や対応の順序などの解説も交えます。
これを進行役も含め、全員が順に行うのです。
回答者を経験の浅い参加者や年齢の若い参加者から行うのは、ベテランの回答者の答えを参考とさせにくくしたり、ベテランの判断が先入観とならないようにするためです。
実際にやってみると分かりますが、経験の浅さや年齢に関係なく新鮮な答えが出ることも多いものです。
ベテランは既成概念的な答えや対応をしがちですが、このようなときに考えさせられることもあります。
また、新人は後から聴くベテランの答えから、より理解を深め対応の方法だけでなく、気遣いの深さや範囲の広さなど
を学ぶことにもなるのです。
誰でもお客さまからの苦情やご要望への対応は、そのときに自分がベストの判断と対応をしたと思いがちです。
しかし、同じことに対応するのでも、さまざまな考え方や対応方法があることを参加者各自が多面的にとらえることが勉強になります。
そして、全員が回答してから、最後に当事者が実際はどう判断し、どう対応したのか、その結果どうなったのかを話すわけです。
その際に自分の取った対応と、参加者のさまざまな意見や対応法を聴いた感想も述べてもらいます。
全員で最後にフリートークし簡単にまとめを行い一人分が終了してから、次の題材(参加者)に進みます。
この間、20~30分程度は必要です。
通常行われるお客さまからの苦情処理やご要望への対応は、翌日の朝礼などで店長が説明し、このような際はこうしてくださいと一方的なことが多いものです。
また、ミーティングで取り上げてもベテランや上司、声の大きな人や図々しい人の意見が優先し、新人は考える余地もなく対応として決まったことも実感が伴わないものです。
この疑似体験判断トレーニングでは、参加者が各自の体験を疑似体験し、全員が当事者として考えることが可能となります。
時間がかかることが難点ですが、さまざまな角度から考え対応する習慣や多くの意見を聴くことで、一部の参加者の偏った判断基準の是正も(本人が気づいて)自主的に行うことが可能です。
経験の浅い新人には、ケーススタディとして一度考えさせているので身につき、実践面ではさまざまな局面に対し応用が可能となります。
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