01いつから「任せられない人」になったのか
やる気が落ちたスタッフに仕事を任せることはできません。自分から意欲を持って仕事に取り組まなければ、こちらが思っているような成果を挙げることはできませんし、惰性で仕事をする状況になると、ミスやエラーの発生率が上がり、トラブルの元になってしまうからです。
ただ、現状においてやる気を感じないスタッフでも、入社したての頃はやる気あふれる人材であった場合がほとんどです。それが、知らず知らずの間にやる気を失っていくことになり、「任せられない人」になってしまった。そこには必ず原因があるはずです。
スタッフをマネジメントする側としては、そのルーツとなることを探し出し、仕事をしっかりと任せられる人に生まれ変われるよう導いていくことが必要となります。そこで、まず初めに彼、彼女たちが「もともとはどんなタイプのスタッフだったのか」「今のような状態になったのはいつ頃からなのか」について、思い起こしてみることが必要です。
そして、これまで自分がそのスタッフに対してどのような関わり方をしてきたのかについて振り返ります。実は、任せることができないスタッフが生まれるのは、経営者、マネージャーとのコミュニケーションが希薄化し、信頼関係が崩れてしまったことが原因である場合が多いのです。
スタッフが悩んでいるとき、誰にも相談できなければ、一人不安な気持ちになり、店の中で孤独感を味わうことになります。それが続くとやる気も低下してしまいます。
そのため、経営者、マネージャーが自ら、歩み寄り、語り掛け、スタッフとの間の信頼関係を再構築していくことが急務となるのです。
その際、日々の行動に関心を寄せて観察を行い、そこで気づいたこと、見えていること、感じたことについてフィードバックしていきます。
ただ、こういったタイプのスタッフは、最初は硬い殻をかぶった状態でいるので、なかなか心の扉を開いてはくれません。それでも根気よくアプローチしていくことで、少しずつこちらに気持ちを傾けてくれるようになっていくのです。
コミュニケーションの取り方として、まとまった時間をつくり、じっくりと話をすることも必要ですが、それに加えて、1日5分でよいので、そのスタッフに対して関わる機会を持つことで、心の距離は狭まります。
そうすることで、早期に信頼関係を築き直すことができるようになります。そして徐々にですが、スタッフのやる気もアップしていくことになるのです。
こういったことは地道で骨が折れる作業なので、後回しになりがちです。そうすると、いつまでもそのスタッフに仕事を任せることはできませんし、最悪のケースでは退職へとつながってしまいます。
しかし、目の前にいる問題となっているスタッフのことを、見て見ないふりをしてやり過ごしてしまうと、そのスタッフがいなくなったとしても、不思議なもので、また同じようなタイプが現れ、同じ状況に陥ることになるケースが多いのです。
そのため、ここは踏ん張って課題を克服するつもりで対処していくことをお勧めします。
02「70点でもOK」と視点を変えてみる
スタッフに仕事を任せられない場合、「任せて良し」と判断するときの合格点が高過ぎるのかもしれません。スタッフに対して自分にとっての100点満点を求めてしまうと、仕事を任せることがなかなかできなくなります。
特に、経営者、マネージャーが第一線で活躍するプレーヤーとして優秀であればあるほど、その点数は高くなり、人に任せるよりも自分でやった方がよいと考えて、任せることができなくなってしまいます。
私としては、スタッフには「経営者の理想とする状態の70点が取れれば合格」とすることをお勧めしています。もちろん、スタッフに満点を求めることが無理だと言いたいのではありません。
実際、現場には満点が取れるスタッフも存在しています。そうではなく、スタッフが70点レベルであったとしても、お客様に満足していただくことは十分可能だということをお伝えしたいのです。
私が言うところの70点とは、店で決められていることをある程度そつなくこなすことができるレベルです。そういうスタッフは、われわれから見るとまだまだ未熟なことが多く、どうしても不足している30点の部分に目がいきがちになります。
しかし、実はお客様にとってそこは大きな問題ではなく、それどころか70点レベルのスタッフでも、お客様の心をしっかりとつかみ、ファンを獲得しているケースは多々あります。実際、アパレル専門店チェーンに勤務していた頃に、総合点では満点は付けられないけれど、売上は店内ナンバーワンという女性スタッフがいました。
なぜ彼女の成績が良かったのか?それは、不足分の30点を本人の個性、独自のやり方で補うことができていたので、お客様にとっては100点満点となっていたからなのです。また、店内のチームづくりという点においても、構成メンバーの中に、常に満点が取れるようなスーパープレーヤーは特に必要なく、それよりも全員が70点を取れるスタッフがそろうチームを目指すことをお勧めします。
例えば、野球で言えば、1番から9番までのバッターが全員シングルヒットを連続して打ったとしたら、打順が一巡した段階で得点は6点入ります。でも、チームの4番打者だけがホームランを打ち、他の選手が一本もヒットを打てなければ、打順が一巡した際の得点は1点のみとなります。この差は大きいですよね。
実際、アメリカの大リーグで、数々の球界記録を塗り替えてきたイチロー選手が以前在籍していたシアトル・マリナーズの成績はぱっとしませんでした。チームに一人、スーパーマンがいることよりも、メンバー一人一人のレベルを70点にしていく方が強いチームはつくれるのです。
この発想で店のマネジメントを行えば、任せることができるチーム、そして任せることができる人材をつくることは、それほど難しいことではないのです。
03「任せられない」と決めた後の対処法
さまざまな手を尽くし、時間をかけてなんとか任せられる人材に育てようと試みても、相手にその気がない、もしくは仕事がその人の適性に合わないという場合は、最終的な判断として、「任せられない」と決めることもリーダーの大切な仕事の一つです。
そこでの判断が正しくできずに、スタッフの意思を無視して無理やり仕事を任せようとしたとしても、それは双方にとって有益なことにはなりません。
また、終身雇用制を採用している場合は別として、一人のスタッフが何十年も同じ店で働き続けるケースはそれほど多くはありません。
パート・アルバイトに限らず正社員であったとしても、勤める期間は3年がめどであることを前提に雇用する方が無難だと言えます。こう言うとドライに感じる方もいるかとは思いますが、3年経てばスタッフの置かれている環境も変わります。
もちろん、店の状況が大きく変化しているケースもあるでしょう。そうなった場合、初めは長期で勤めようと思っていたとしても、その思いが途中で変わることは十分考えられます。
そうかと言って、「3年しか勤めないのなら、力を入れて育てる価値なし」と考えるのは早計です。在籍している間は、やはり全力を投じて人材育成をしていく必要がありますし、スタッフの方もそれを望んでいる場合が多いでしょう。
ただ、やる気が低下して働く意欲が著しく落ちてしまっているスタッフで、改善の見込みがないと判断した場合は、これから先、同じ思いを持ち、同じゴールを目指して共に歩んでいくのかどうかの判断をスタッフ本人にさせることも、時には必要です。
もちろん、スタッフの首の挿げ替えをバンバン行うようなことはやるべきではありませんが、進むべき方向が異なる場合や、価値観が大きくズレてしまった場合、一緒に前進していくという本人の意思が完全に喪失してしまった場合は、第三者がどんなアプローチをしたとしても、彼、彼女たちのやる気の炎をもう一度点火させることは困難です。
こちらがやるべきことをやり尽くし、スタッフ自身がどう思っているのかをじっくりと聞いた後で「任せられない」と判断した場合は、例えば一つの方法として「別々の道を選ぶこと」を促すのも選択肢として持っておきましょう。
たとえその場では異なる道を選ぶことになってしまったとしても、すべてをやり尽くした後の判断であれば、その後に振り返ったときに悔いが残ることはないはずです。
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