「社長の声かけ」がパートのモチベーションになる
パートをほめるときは、全員に、同じだけほめる
パートのやる気を引き出して、モチベーションを高めるためには、コミュニケーションを取ることが大切です。
コミュニケーションの取り方には、声かけ、飲み会、従業員アンケート、面談など、いくつかの選択肢がありますが、もっとも簡単でお金がかからないのは、「社長の声かけ」です。
声かけのポイントは、「全員に、平等に、ほめること」です。みんながいる前では、固有名詞でのほめ方は配慮する。
「◯◯さん、ありがとう」と固有名詞を出すと、「えこひいき」と思われやすい。ですから、「みなさん、ありがとう」「みなさんのおかげで仕事が進んでいます」と、全員に向けて声をかけたほうがいい。
私はかつて、パートの前で、「みなさんのおかげで、今日はいい天気です」と声をかけたことがあります。数人のパートが「バカじゃないの、この人」という顔をしたので、こう続けました。
「私はこんなにおバカですが、それでも会社の業績が上がっているのは、みなさんのおかげです!」「自分はバカだ」と認める私に、パートは親近感を持ってくれた。それ以降、会社の雰囲気が明るくなりました。個人をほめるのは、「みんながいないとき」にすると、妬みを生みません。
パート課長・塚田加陽子の息子の大学受験合格を知った私は、「階段ですれ違ったとき」に、「息子が大学に合格したんだってね。おめでとう」と声をかけました。
塚田は「あ、ありがとうございます!でも、どうしてご存じなんですか!」とびっくりしながら喜んでいました(塚田の上司から報告を受けていた)。
ほめる回数も、平等にすべきです。
私がまだ「日本サービスマーチャンダイザー」(武蔵野の前身)の管理職だったとき、「いつ、誰に、どのような内容でほめたのか」を記録して、部下に対する「ほめの量」が均等になるようにしていた。
当時部下は30名いましたが、ほめの効果は絶大でした。ほめられたことでやる気を出して、私の率いる支店は、抜きん出た業績を上げた。
常務取締役の滝石洋子は、「ほめるときは、『何が、どう良かったのか』を具体的にしたほうが効果的」と考えています。
「ただ『頑張っているね』と声をかけるよりも、『この間、現地見学会でお客様がいらしたとき、あなたが説明を担当したんだってね。
◯◯◯という会社の社長さんが〝すごくわかりやすい説明だった〟と感心していたよ』と具体的な内容を踏まえながらほめると、パートさんも、『次も頑張ろう。わかりやすい説明を心がけよう』と思うようになります」(滝石)「株式会社本村」の本村真作社長も、「パートにやる気を出してもらうために、ほめて、おだてる」を実践しています。
「先日、パートさんを集めてミーティングをしたのですが、そのとき、ひとりのパートさんが、こんなことを言ったんです。『日曜日に休日出勤をしたのに、誰もほめてくれなかったのが悲しい』って。私は『それは申し訳なかった』と謝りました(笑)。パートさんは、とにかくほめて、おだてるのが基本ですね(笑)。『やれ、やれ!』『もっと頑張れ!』とハッパをかけるような指導は逆効果だと思います」(本村社長)
洋服の「色」をほめるだけでも、パートは喜ぶ
毎年5月に「経営計画発表会」を開催しています。会社の規模が今ほど大きくなかったときは、パートも参加していました。
経営計画発表会後の懇親パーティーもビデオを撮影していたので、私は後日、ビデオを見ながら、「◯◯さんは、白い服」「△△さんは、黒い服」「××さんは青い服」……と、服の色を書き出しておきました。
そして、翌年の経営計画発表会のときに、「◯◯さん、昨年の白い服も良かったけど、今年のその服もよく似合っているね」「△△さん、昨年の黒い服も良かったけど、今年のその服もセンスがいいね」「××さん、昨年の青い服も良かったけど、今年のその服もすごくいいね」と、一人ひとりに声をかけて洋服の「色」をほめた。
どうしても声をかけられなかった人には、後日、「経営計画発表会に着ていた服、似合っていました」と書いたハガキを投函して、「全員を平等にほめる」ように心がけました。
ほめられたパートは、「私のことをそこまで見てくれているのか」と喜んで、会社に対する忠誠心や信頼を持つようになります。
また、私が毎年服装をチェックしているとわかれば、発表会のとき、昨年と同じ服は着ません。新しく服を買うとお金がかかるから、一生懸命仕事をしてくれます(笑)。
従業員アンケートを取ると、社長の心が折れる
パートとコミュニケーションが取れていない社長は、「従業員アンケート」を取らないほうがいいと思います。なぜなら、心が折れるから。
わが社は、1999年以降、毎年、従業員アンケートを取っています。社員・パート・アルバイトは何を考えているのか、どういう不平不満を持っているのかをいち早く把握して、改善に役立てるのが目的です。
従業員満足度は、年々向上していて、現在(2016年)は実に「87・7%」(参照)のパートがわが社に満足しています。にもかかわらず、会社に対する不満はなくなりません。
パートの本心を知りたいので、従業員アンケートへの記入は無記名(匿名)にしているため、不平不満が出るわ、出るわ……。
集計結果は、政策勉強会でフィードバックしていますが、アンケートに書かれているコメントを読んでいるうちに、具合が悪くなります(笑)。パートから寄せられた不満を改善しないと、火に油を注ぐことになりかねません。
武蔵野でさえ不満が噴出するのですから、コミュニケーションが十分に取れていない会社がアンケートを取ると、不満のはけ口になるだけです。
飲み会や懇親会の回数が多いほど、社内のコミュニケーションは良くなる
「フジ精密株式会社」の清水章社長は「女性パートは37名で、上は65歳、下は25歳と年齢幅がありますが、パート同士の親密度は高い」と話しています。
「経営計画書、環境整備、早朝勉強会など、武蔵野さんに倣ってやれることは全部やってきた中で、会社を変えるもっとも大きなきっかけになったのは、『部門ごとの飲み会』だと思います。
65歳と25歳では世代の違いがありますが、それでも仲良くできるのは、飲み会や懇親会の回数を多くしているからです。
年に4回、部門ごとに懇親会を行うことを義務付けていて、懇親会費用は社内規定により会社が負担しています」(清水社長)懇親会の参加は自由ですが、清水社長は、評価と連動させることで、参加をうながしています。
懇親会に出席すると人事評価シートに「3点」加算されるので、以前は参加しなかった人たちも参加するようになったそうです。
「懇親会に、社長の私と副社長(奥さん)も出席します。結構な回数で大変ですが、一緒にワイワイお酒を飲むことで、パートと社長の距離が縮まった気がします。
パート40名の中の15名くらいは、20年以上勤めてくれている人たちです。懇親会で顔を合わせると『ちょっと、社長!』とタメ口ですね(笑)。
けれど、『ここをもう少し変えてくれるともっと力が発揮できるよ』とアドバイスをしてくださるので、本当にありがたいですね」(清水社長)
同じように、「まるか食品株式会社」の川原一展社長も、新年会、忘年会、社員旅行などの会社の全体行事の他に、最近では「部署別」にコミュニケーションを取る機会を設けています。
「職場のコミュニケーションを改善する場にしようと、部署別の懇親会(年4回)の他に、社長とパートさんのランチ会を開催しています。
ランチ会といっても、外食する時間がないから、お昼休みに工場内で、パートさんと一緒にごはんを食べるだけですが……。
この場で、社長に要望、要求をしてもいい決まりで、『職場が暑い、寒い』から、『上司の段取りが悪い』『物を運ぶ機材が少ない』など、さまざまな意見が寄せられます。
私は言われっぱなしなので、何を食べても味がしません(笑)。すべての要求に応えられるわけではありませんが、『暑い』と言うのなら空調を改善する。
パレット(荷物を載せるための荷役台)が少ないなら購入するなど、環境を整えることで、効率良く仕事ができるようになったと思います」(川原社長)
飲み会に、社長も積極的に参加する
「株式会社末吉ネームプレート製作所」(神奈川県/沼上昌範社長)は、金属プレート、シール印刷、シルク印刷の3つを軸に、ネームプレートの開発・製造を行う会社です。
沼上昌範社長も、自ら積極的に声をかけ、パートとのコミュニケーションを図っています。
「毎朝、環境整備をするときに、『今日はAさんと、明日はBさんと、あさってはCさんと』とスケジュールを決めて、パートと社長が同じ場所の掃除をしています。
そして、一緒に手を動かしながら、会話をする。
すると、『何に不満を持っているのか』『何にやりがいを感じているのか』『どんな悩みを持っているのか』『家庭の中でどんなことがあったのか』などがわかるので、相手のことをよく知ることができます。
入社したばかりのパートさんは、どんな人なのかわからないから、話のきっかけをつくるために、『履歴書』をよく見ておきます。
『お子さんが幼稚園に通っている』『バレーボールをやっている』といった情報をしっかり覚えたうえで話を振ると、お互いの距離を縮めることができます。
また、一方的に話を聞くだけではなく、私自身の話もするので、尋問のように問い詰めてしまうことも、会話が一方通行になることもありません」(沼上社長)また、沼上社長は、懇親会や飲み会の席では、積極的にパートの隣に座ってコミュニケーションを取るように心がけています。
「飲み会の場は、私からパートさんの横に座るようにします。そうすれば、いろいろな話ができますから。『ここ、空いてる?』と声をかけると、たいていのパートは『社長、嫌です(笑)』と言いますが、『ここしか空いてないんだから、しょうがないじゃん』と座って話をしています(笑)」(沼上社長)
「株式会社ロジックスサービス」の菊池正則社長は、武蔵野に倣ってパート戦力化のための取り組みを進めてますが、中でも、「飲み会の回数に比例して、パートが辞めなくなった」と言います。
「飲み会や食事会を開くようになってからわかったことですが、主婦の方は、ご主人やお子さんの手前もあって、自分だけ外食をしたり、飲みに行くのはむずかしいようなんです。でも、飲み会が会社の行事になっていたり、社長と一緒だとわかれば、言い訳が出来ますよね。パートさんが参加できる食事会は年に7回ありますが、ほとんどのパートさんがすべての食事会に出席しています。一次会だけではあきたらず、夜中の1時、2時まで飲んでいるパートさんもいますね(笑)。
食事会の半分以上は『全員参加しないと、会社がお金を出さない』ルールで、『みんなで行けばタダになるから、行こうよ!』と、パートさん同士が声をかけ合っています」(菊池社長)「ロジックスサービス」では、飲み会を増やしたことで、社長とパート、社員とパート、パート同士のコミュニケーションが取れるようになって、意見を言いやすい、風通しのいい環境ができています。
「普段言いづらいことも、飲み会の席なら言えますよね。上司やご主人に対する不満、私への悪口も言いたい放題ですが(笑)、それでいいんじゃないでしょうか。飲み会の席で愚痴をこぼしあって盛り上がるのが、正しいパートさんだと思います」(菊池社長)
コミュニケーションの量に比例して組織は強くなる
言いたいことを言える環境づくりを
「ヤマヒロ株式会社」(東京都/山口寛士社長)は、昭和シェル石油のトップディーラーとして、首都圏で34店舗のサービスステーションを運営しています。
社員数は110名、パート・アルバイトは合わせて264名です。34店舗にはそれぞれ店長がいるが、山口社長は、「昔と今では、『優秀さ』の質が変わってきている」と感じています。
「かつてのヤマヒロは、洗車やオイル交換、車検といったサービスを目先の利益で販売していました。お客様も車に詳しくないためにそれで実績が向上していましたし、数を多く売る人が優秀でした。
しかし、今ではお客様満足のために、その場での販売ではなく、お客様にとって正しいタイミングで販売するやり方に変わっています。
そのために必要なのは「個々の売る力」ではなく、会社の方針に合わせて行動する能力と部下をマネジメントする能力です。
会社の取り組みを理解して、それに合った行動をしっかりできる人が、店長として結果を出していると思います」(山口社長)店長全員にエナジャイザー(参照)を受診させた結果、クルー(ヤマヒロでは、パート・アルバイトのことを「クルー」と呼んでいます)を戦力化できている店長は、共通して、「世話好きで、仕事に楽しさを求める」ことが判明したと言います。
世話好きで、仕事の価値観に「楽しさ」を重視する人は相手の気持ちを汲み取り、合わせることができます。
山口社長が信頼をする「セルフ武蔵村山SS」の下川智樹店長も、「世話好きで、仕事に楽しさを優先する店長」のひとりです。「僕が心がけているのは、素直な気持ちでクルーと接することです。
僕はまだ25歳で、僕より年上のクルーも、僕より仕事ができるクルーもいますが、それでも、店長として思ったことは素直に言う。
一方で、クルーから『こうしてほしい』という提案があれば、素直に耳をかたむける。いいと思ったものはすぐに取り入れますし、できなければ『できません』とはっきり伝えます。
店長もクルーも、『言いたいことが素直に言える環境』をつくることが大切だと思います」(下川店長)また、山口社長は、「社長と社員、社員同士、社員とクルー、クルー同士が同じ価値観を持つ前提でコミュニケーションを取ることが大切だ」と考えています。
「パートを戦力化すること」は、すなわち、「全従業員が同じ価値観を持って仕事と向き合うこと」に他なりません。「ヤマヒロ」が価値観を共有するために注力しているのが、環境整備です。
「店長は店舗ではトップで、自由に仕事をしてもとがめられません。物も適当な場所に置くし、仕事も独自のやり方をするようになる。ですが、それではノウハウを横展開することも、クルーの価値観を揃えることもできません。
各自が好き勝手にやっていると、業績は決して良くならないと思います。そこで環境整備を導入し、定位置管理、定数管理の徹底を図っています。環境整備を徹底すると、クルーの価値観が揃います。情報共有もしやすい。環境整備をはじめたことで、会社の方針や決定を守る組織に変わってきた気がします。
中には、環境整備に反発して辞めた人もいますが、その代わり、残った社員の連帯意識は高まっているので、結果的にはいい方向に進んでいます」(山口社長)
パートと社員のコミュニケーションが良くなれば、会社が儲かる
「株式会社近森産業」の白木久弥子社長は、「社員とパートのコミュニケーションの親密さと業務改善は比例する」と感じています。
「かつて、食品製造部門では、原価計算や棚卸しがまったくできていませんでした。私が『お弁当の原価は何パーセントですか?』と聞いたら、『わからない』という返事が戻ってきたんです。原価率は高くても40%までと思っていましたが、計算をすると、なんと、70%もあって……(笑)。
それ以外にも、こんなことがありました。
減っている原材料の数と帳簿の数が合わないので、『おかしいな』と思ってパートさんに確認をしてみたら、『お惣菜を運んでいる途中で転んでしまって、全部床に落としてしまった。それをゴミ箱に捨てた』と言うのです。
こうした原因を突き詰めていくと、社員とパートのコミュニケーション不足が明らかになりました。
そこで、正社員がパートと一緒に仕事をしたり、日報を書いてもらったり、朝礼をしたり、環境整備に取り組んだ結果、少しずつ無駄がなくなって、工場の利益が500万円も上がったんです。
また、近森産業では病院に併設する駐車場の管理もしています。
あるとき、現場のパートさんが本社に電話をすると、『今、忙しいから、かけてこないで』と言って切る社員がいました。病院から、『駐車場の誘導係の態度が横柄だ、とクレームがこちらに届いている。
近森産業さんには、近く、駐車場の管理業務から撤退してほしい』と通告を受けたこともありました。ところが今は、病院の関係者から、『パートのみなさんの態度がすごくいい。気持ちの良い挨拶をしてくれるし、側溝の泥の掃除までしてくれている』と、以前とは正反対の評価をいただけるようになったんです。
別の駐車場の管理も任せていただけるようになりました。
これもすべて、社員とパートのコミュニケーションが良くなって、価値観が共有できるようになったからだと思います」(白木社長)武蔵野の「クリーンサービス事業部第2支店」の馬場一江は、コミッション体系(歩合制)の従業員です。
時給や日給ではなく、成果に応じて規定の営業手当を支払っています。馬場は勤続20年ですが、長く続けられた理由に、人間関係を挙げています。
「武蔵野で働いている人は、みんな、人がいいですね。私は雇用形態の関係で人事異動はありませんが、上司となる社員は頻繁に変わります。でも、『この人嫌だな』とか『仕事がやりにくいな』と思ったことは一度もないんです。めずらしいことですよね。
いつの間にか20年も経ちましたが、小山さんは『定年もないし、死ぬまでいていい。自分の体が動くうちはうちにいていい』とおっしゃっているので、健康でいるかぎり、将来も安泰かな、と思っています(笑)」(馬場)また、「ダスキン事業部第2支店」に勤務する荒井初江は、毎日、「焼きおにぎり」をつくって、頑張る社員をねぎらっていました。
「つくっていたのは、ずいぶん昔のことですけどね。あるとき、焼きおにぎりをつくっていったら、『おいしい』と喜んでくれたんです。それからは、毎日つくるようになって……。『他の人には言わないでね。あっちの人にはあげてないんだから』と、みんなに同じことを言いながら、結局は全員にあげていましたね(笑)。
そういうことをして、名前を売っていただけですけど(笑)」(荒井)荒井本人は「私は人間がおかしいから、嫌だと思わないだけ(笑)」と笑い飛ばしますが、「武蔵野の従業員は兄弟みたいに仲良し」だと彼女が言い切れるのは、荒井自身が努力をして、積極的に他の従業員とコミュニケーションを取ってきたからです。
「サービスマスター事業部東伏見支店」の小林まゆみは、正社員として入社し、結婚後に退社。10年パートとして活躍し、現在パート課長をしています。勤続年数は17年です。
小林は、「朝起きたとき、『ああ、会社が嫌だな。行きたくないな』と思ったことが一度もない」と話しています。「『今日は忙しそうだな』と思うときはあっても、『会社に行きたくない』と思うことはないですね。
家族的な雰囲気があって、みんなとても仲が良いので、人間関係のストレスを感じることはほとんどありませんし、『あなたはパートだから』と差別されることもありません。
私はすごく上司に恵まれているので、何か困ったことがあっても、すぐに相談できました。最初に社員で入ったときの上司は、パートの佐々木部長でした。もう引退されていますが、本当に母親のような存在で、何でも相談できる方だったんです。結婚のことも相談しました(笑)。
今の店長も、パートの山本有子です。それに、小山さんは、パートも社員も関係なく評価してくれています。『これをやっていなかったから、今回はこれだけしか時給が上がらない』というルールも明確になっているので、納得度が高いですね」(小林まゆみ)
職場で揉め事を起こさせない武蔵野のしくみ
メリーメイド事業部にロッカーがない理由
わが社が、「メリーメイド事業部」(家事を代行するサービス)をはじめたとき、オフィスには個人ロッカーがありませんでした。なぜだと思いますか?ロッカーを買うお金がなかったからではありません。
理由は2つあります。
ひとつは、大きな荷物を持ってくる人がいなかったからです。ほとんどのパートが、自転車や徒歩で身軽に通勤していたので、カバンを置けるスペースがあれば十分でした。
もうひとつの理由は、パートに自慢をさせないためです。メリーメイド事業部では、お客様のお宅にうかがうときに、結婚指輪以外のアクセサリーをしてはいけない決まりです。
ですが、ロッカーがあると、「外出するときだけ外せばいい。ロッカーの鍵をかけておけば安全だ」と考えて、高価なアクセサリーや時計を職場に持ってくるようになります。
すると、パート同士が見栄を張り合うようになり、妬んだりするようになる。妬みや、嫉妬などの感情は、やがて陰口やいじめの原因になります。
反対にロッカーがなければ、安全に保管することができないので、高価なアクセサリーをしようとは思わなくなります。ロッカーを置かないのは、「自慢ができないしくみ」です。
仕事の揉め事の多くは、プロセスの違いが原因
パートのAさんとBさんの意見が対立したとき、どちらか一方の意見を採用してはいけません。「えこひいき」と受け取られるからです。
仕事上の揉め事の大半は、「プロセス」に対する考え方の違いが原因です。富士山に登るのに、「私は静岡側から登りたい」「私は山梨側から登りたい」とルートで揉めるようなものです。
最終的な目的は同じなのに、そこまでの手段に違いがあると、相手を許せなくなります。当事者は「自分が正しい」「相手が間違っている」と思うので、自分に都合のいいことしか話しません。ですから、トラブルを解消するには、双方の意見を平等に聞く必要があります。
AさんとBさんが仕事のやり方をめぐって対立したときは、「費用はどちらが安いか」「時間はどちらがかかるか」など、物事を細分化して検証する必要があります。
2人の意見が大筋では同じで、部分的に食い違っている程度なら、「今週はAさん中心でやる。次の週はBさん中心でやる」と、1週間ごとに変えていくのもいいでしょう。
武蔵野の法律は「小山昇」
Aさんは「自分が正しい」と思っている。Bさんも「自分が正しい」と思っている。2人とも「自分が正しい」と思っているときに、意見をひとつにまとめるのは無理があります。
そんなとき私は、こう言います。「Aさん、あなたの意見は正しい。Bさん、あなたの言うことも正しい。2人とも正しいことを言っているけれど、実は、どちらも正しくありません。なぜだと思いますか?この会社の法律は、『小山昇』だからです。
だから私に従ってください。私に協力してください」私がこれほど強く言えるのは、社長以外に責任を取ることができないからです。「責任を取る」とは、「経済的に損をする」ことです。
社長は、自分が決めた方針を実行させると、それによって発生する損害に対して全責任を負う覚悟をしています。
責任を取る覚悟のある社長が示す決定と、そういう覚悟がないパートの意見では、どちらを優先すべきかは、言うまでもありません。
女性同士の職場では、100%揉め事が起きる
「ホームインステッド事業部」(高齢者のための生活支援サービス)には、オフィススタッフ24名と、現場スタッフ300名が働いています。そのほとんどが女性です。
事業責任者の由井英明本部長は、「これまで、女性組織を数多く担当してきましたが、例外なく、必ず、絶対に、人間関係の問題がありました。問題がなかったことは、一度もありません」と力説します。
「女性同士の問題は男性同士と違って、解決までに大変な労力が必要です。非常に根深いものがあるので、1、2ヵ月で解決することはありません」(由井)
「パート同士の修羅場」をいくつも見てきた由井は、「職場の派閥を許したり、お局様、主、ボス、ドンと呼ばれる人を生み出す根本的な原因は、マネジャー(パートをマネジメントする社員)が『任せる』という怠慢をしていることにある」と考えています。
「武蔵野は、人事異動が多い会社なので、社員が同じ職場に長くいることはありません。ですから、パートさんのほうが社員よりも現場をよく知っているし、実力もある。だから新任のマネジャー(社員)は、『自分よりもパートさんのほうが仕事をよくわかっているから、任せたほうがラクだ』と考える。
マネジャーは、『この仕事はよくわからないから、パートにやってもらおう』『これもわからないから、パートにやってもらおう』と仕事を簡単に振ってしまう。
すると、パートさんの中から、『私の天下だ』と勘違いをして、ドンになろうとする人があらわれます。簡単に言うと、お山の大将です。
本当はマネジャーが主導権を握って組織を動かさないといけませんが、パートのドンがすべてにおいて『責任者』となって、自分がやりやすいように職場を仕切ろうとします。そして、派閥やいじめがはじまるわけです。
でも、最初から『職場をギスギスさせよう』とか『いじめてやろう』と思って入社するパートさんはいないわけですから、ドンをつくった原因は、私たち社員の管理能力に問題があると思います。つまり、社員が『パート任せ』にしたことが原因です。
とくに、ホームインステッド事業部は、介護の知識や技術を覚えないといけないし、100名近いスタッフのことも覚えないといけないし、マネジャーには覚えることが山ほどあるんですね。
そこをないがしろにしてパートに全部任せてしまうと、絶対に問題が起きます。女性は、与えられた仕事に対しては責任感を持ってやり続けるので、任せれば任せるほど責任感がどんどん増していって、最後はドンに変わるわけです(次の図参照)。
『任せる』という行為は、『パートと同じようにその仕事ができる人』がすべきことであって、『自分ができないことを人にやらせる』のは、『任せる』とは言わないのではないでしょうか」(由井)
パート同士の人間関係を改善するために、由井が心がけているのは、「話をしっかり聞くこと」です。「パートさんの要望や悩みを聞く前にこちらから『こうしてほしい』と言っても、絶対に受け入れてはもらえません。ですから、先に話を聞くようにしています。いちばんいいのは、問題が顕在化する前に話を聞いてあげることです。
私は定期的に各ステーションを回って、パートさんに、『どう?何か困っていることはありますか?』と声をかけています。すると、『現場の声』が聞けるので、問題が大きくなる前に対処することができます。聞いたその場で『わかりました。今からこうします』とすぐに改善指示を出すこともありました。
『飲食は人の心を緩ます』と言いますが、パートさんを誘って食事に行って、『みなさん、おつかれさまで~す』と餌を撒いて(笑)、話しやすい環境をつくることもありますね」(由井)人から話を聞くときは、関係者全員に、モレなく聞くことが大切です。
一部の人の話しか聞かないと判断を間違えます。なぜなら、人間は、自分に都合のいいことしか話さないからです。「自分に都合のいいことしか話さない」とは、「噓をつく」ことではありません。
「自分にとって都合が悪いことは言わない」ことです。「自分に都合が悪いことは言わない」のがまともな人です。Aさん、Bさん、Cさんの3人がモメていたら、3人全員に話を聞く。そうしなければ、正しい解決は望めません。
由井はかつて、コミュニケーション不全を起こしていたAさん、Bさん、Cさんの3人を集めて話を聞き、そのあと全員に付箋紙を渡して、「このステーションが良くなる方法を書き出してください」とお願いをした。
そして全員の付箋紙を壁に貼って、改善点を整理し、その中からひとつだけ、ルールを決めました。そのルールは、「笑顔で、大きな声で、相手の目を見て挨拶をする」ことです。
「最初はぎこちなかったのですが、少しずつ、挨拶も、対話も増えてきて、今はまったく違和感なく、全員が仲の良いオフィスに変わりました。まさかこんなに良くなるとは、正直、思っていなかったですね。3人には感謝しています」(由井)
どうして「女性組織の長」は出世が早いのか?
武蔵野では「女性組織の長」を経験しないと、部長になれない
女性組織は、男性組織よりもマネジメントが大変で、女性組織の長を経験すると、管理職としてのスキルがアップします。したがって、武蔵野では、「女性組織の長を経験する」=「出世コース」です。
ところが、わが社の社員は、そのことがまるでわかっていません。「女性組織への異動を命じられる」=「大変な組織へ飛ばされる」=「左遷」と考えています。
現在、「ホームインステッド国分寺ステーション」のマネジャーを務める舩木友和も、女性組織の中でマネジメント能力を磨いたひとりです。
舩木は入社14年目。異動が多く、本社の内勤以外は、ほぼすべての事業部を経験しています。今から10年ほど前、女性組織の「ハーティ部門」(定期的にお客様を訪問し、モップやマットなどの交換をする仕事)は、勤続45年の優秀なマネジャー、辻岡公江が担当をしていました。
ところが、辻岡が体調を崩して入院することになったため、代役を立てることになった。
本部長(現役員)の佐藤義昭が白羽の矢を立てたのが、舩木友和です。理由は、「いつも笑っているから」。当時の舩木は、芯のないこんにゃくのように頼りなかったのですが、「船木は何があっても笑っているから、女性にはいいんじゃないか」と言う佐藤の言葉を信じ、抜擢しました。
「当時、私は30歳ぐらいでしたが、パートはみなさん、自分の母親と同じかそれ以上の年齢の方ばかりで……。私自身も女性に慣れているわけではなかったので、本当にもう、笑っているだけの状況でした(笑)」(舩木)しかし、そんな舩木を50歳以上のハーティさんたちは、息子のように育ててくれたのです。
舩木は4年間在籍し、見事、課長に昇進しました。
「その後、国分寺支店に異動になったのですが、そこでは部下が男性ばかりだったので、とても楽でした(笑)。
女性は、『なぜやらなければいけないのか』をきちんと説明しないと動いてくれませんが、男性社員は、『やってきてね』と言うだけでやってくれましたから(笑)」(舩木)わが社の部長の多くは、女性組織のメリーメイドやホームインステッドの長を経験しています。
女性組織への配属は、「部長になれるかどうかの登竜門」であり、チャンスです。女性陣に「あーだ、こーだ」と言われたことのある人間は、やがて、より大きな組織をマネジメントできるようになります。
女性組織の潤滑油
「イワシ」という魚は、とても傷つきやすく、水槽の中で自由に泳がせるとすぐに傷がついてしまいます。イワシ同士がぶつかり合ってしまうからです。
イワシ料理の専門店などでは、イワシに傷がつかないようにするため、水槽に、「サワラ」などの大きな魚を入れています。
イワシがサワラのまわりを回って、一定方向に泳ぐようになるので、ぶつからなくなります。私は、女性組織にも同じことが言えると考えています。
女性だけの職場は、人間関係の衝突が多くなってしまう。そこで、男性をひとり入れると、女性同士のぶつかり合いがなくなって、組織が変わります(同様に男性だけの職場に女性をひとり入れると、男性の行動が変わります)。
「女性だけの組織」にサワラ(男性)を投入するとき、私の経験上、もっとも適任なのは、「妻帯者」です。いちばん向いていないのは、彼女が一度もいたことがない独身男性です。なぜなら、女性の心理がわからないからです。
40代~50代のパート組織に男性上司を入れる場合、適任者(妻帯者)がいないときは、「若くて、経験が浅い男性社員」を登用しています。
パートは、その上司が経験不足で能力がないことをすぐ見抜きますが、一方で「手助けしてあげたい」と母性本能が働くようです。
常務取締役の滝石洋子も、「サワラ1匹(男性社員をひとり)を放り込むと、女性組織の秩序が保たれる。サワラがいるのと、いないのとでは、全然違う」と話しています。
「武蔵野は頻繁に人事異動があるので、上司がすぐに変わります。パートさんも上司を冷静に見ているので、お昼休み中にみんなで集まって、『ABC評価で言うと、今度の上司はB評価だね』なんて話し合っています(笑)。
私が以前、『新しく来た上司はどう?』と聞いたら、あるパートさんが『ちょっとイマイチかな』と言うので、『じゃあ、鍛えてあげてよ』とお願いしたら、『わかりました!できないって言ったって、うちの子より、マシよぉ~』と元気な返事が返ってきました(笑)。
ただ、女性組織のマネジメントは大変なので、サワラもだんだん活きが悪くなってきます。そんなときは小山に、『そろそろ、新しいサワラお願いします!』と(笑)。
最近の若いサワラは、女性化というか、草食化していて、サワラだかイワシだかわからないときがあります。それは困るのですけどね(笑)」(滝石)
満足度が高い「がんばったパート・アルバイト懇親会」
パートのモチベーションを上げるために、私はパートやアルバイトと食事をしたり、一緒にお酒を飲んだりして、積極的にコミュニケーションを取っています。
中でも、年2回開催している「がんばったパート・アルバイト懇親会」は、パートの満足度がとても高い食事会です。
各部門から選ばれたパートと私が、「おいしいイタリアン」を食べ、「おいしいワイン」を飲みながら、2時間、楽しいひとときをともにします。
普通の会社では、「出勤日ではない日に会社の飲み会に参加したくない」「職場の飲み会が苦手なので、断りたい」と考えるパートが多い。
ところがわが社は逆で、たくさんのパートが、「がんばったパート・アルバイト懇親会」を楽しみにしています。
参加希望者が多すぎて、各部長は人選にひと苦労です。
会場となるレストランは、毎回、同じお店を選んでいます。
場所を変えると、「あっちのお店のほうが良かった」と不満が出るからです。
料理も毎回同じです。
この懇親会は、「パートからのあらゆる質問に社長が答える」ルールです。
パートひとりにつき、10個~15個の質問を考えてくるため、懇親会の間中、私は、質問ラッシュにさらされます。
そこで、パートから「子育て」や「健康」に関わる質問が出たときは、わが家の天皇陛下(妻)にバトンタッチして、私のかわりに答えてもらう。
そうしないと、せっかくのおいしい料理も、おいしいワインも口にできないからです。
質問の内容は、仕事のこと、趣味のこと、子育てのこと、恋愛のこと、なんでもOK。
実際に懇親会でされた質問の一例を紹介しましょう。
パートA「小山さんは学生時代、どんな部活動をしていましたか?」小山「中学のときはマラソン。
高校は、放送部、生徒会役員、演劇部、女子バレー部のマネージャーの4つを掛け持ち。
大学時代はマージャン。
マージャンが好きすぎて、大学に9年通うことになった(笑)」パートB「わが家には、来春、新社会人になる息子がいますが、武蔵野の新人
教育で心がけていることは何ですか?」小山「セールス研修(550円の食器洗い用スポンジを飛び込み営業する)などを受けさせて、小さなストレスをかけておくこと。
なぜなら、ストレス耐性が低い社員は、うつ状態になりやすいから」パートC「週1日、休肝日を設けていますが、もう1日増やしたい。
良い方法はありますか?」小山「奥さんに1万円預けておいて、達成できたら戻ってくるようにすればいい」パートD「会社では小山さんがいちばん強いけれど、ご家庭では小山さんと奥様、どちらが強いですか?」小山「奥様。
私の返事は次の3つのどれかしかない。
『はい』か、『イエス』か、『喜んで』(笑)」パートE「小山さんがはじめて営業をやった頃の話を教えてください」小山「他の社員よりも、圧倒的に、営業力がなかった。
そこで、営業成績トップの星野さんの真似をすることにした。
普通の人は仕事しか真似しないけれど、私は、遊び方も、私生活もすべて、徹底的に真似をした。
そうしたら、営業成績がトップになった」パートF「人前で話すときに緊張してしまいますが、どうしたら話すのがうまくなりますか?」小山「緊張するのは、『よく思われたい』という気持ちがあるから。それと、『練習をしていない』から。背伸びをしないで、自分にできることだけやればいい。
それと、毎回違った話をしようとしないで、話慣れた同じ話をすればいい」パートG「女性だけで仕事をやっていくときに、コミュニケーションを円滑にする方法を教えてください」小山「話し合いをするときは、最初に、早く生まれた人や長く働いている人の意見を聞くこと。
順番が大事」パートH「失敗したときに、気持ちを切り替える方法を教えてください」小山「まず、私は落ち込まない。なぜなら、落ち込んだところで事態は良くはならないから。失敗しても全部プラスに考える。
コップに水が半分入っているとき、ある人は『半分しかない』と考えるが、私は『半分もある』と考える。『コップに水が半分入っている』事実はひとつだから、あとは、自分に都合のいいように考えればいい。
わざわざ、自分に都合の悪いように考える必要はない」みんな最初は緊張していますが、10分もすると打ち解けてきて、何でも話すようになり、最後は、「楽しかった」と笑顔で帰っていきます。
「がんばったパート・アルバイト懇親会」に参加したことがある「コールセンター」勤務の牛島絵里奈は、会の印象を次のように振り返ります。
「仕事のことでも家庭のことでも、小山さんはどんな質問にも答えてくれますね。普通なら教えてもらえない『エナジャイザー』(参照)の診断結果も、この場でなら教えてもらえます。社長との距離がとても近いので、特別感のある懇親会です。この会の満足度はとても高いですね」(牛島)
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