01笑顔のあふれる職場をつくる
仕事のレベルの高い職場の共通点は何か
同じ会社内でも、職場によって仕事の出来・不出来に差が出ることがあります。どうして、そういうことが起こるのでしょうか。
私が、ディズニーの商品部教育を担当していた当時、調査した興味深い話があるので、ご紹介しましょう。
東京ディズニーリゾート内には、120以上のショップがあります。5000~6000人のキャストが、4店舗程度を1つとするユニットに分かれて、各ショップの管理・運営にあたっています。
私がいた当時、ディズニーでは、それぞれのショップのサービスの維持・向上をはかる目的で、年数回、1カ月ほどかけて、ミステリーショッパー(覆面調査)を行っていました。
ディズニーの行動指針であるSCSEにもとづいて、100くらいの項目についてチェックされます。
たとえば、・買い物かごが、腰より高く積まれていないか(倒れる危険性があるので)・雨が降ると、すぐにレインマットを敷いているか・笑顔は、ちゃんと出ているか・挨拶を、ちゃんとしているか・商品陳列を間違えていないか(キャラクターの陳列順序など)・基準どおりにコスチュームを着ているか・レジに時間がかかりすぎていないかといったことが調査され、点数化されるのです。
そして、得点の高い順にランキング表示されます。私が、ランキング表示を見て気づいたのは、上位5位くらいまではいつも同じユニットが並ぶということです。
私は、「何か共通するものがあるのだろうか」とそれらのユニットを観察してみました。
そして、気づいたのは、それらのユニットはバックステージでも、キャスト間の人間関係がすごく良好に保たれているということでした。
いつも①笑顔で②互いにアイコンタクトをとって③挨拶を交わし合っているのです。この3つがきちんとできているところは、オンステージでも仕事のレベルが高かったのです。
逆にいえば、ランキング下位の職場は、人間関係が良好とはいえ、ランキング上位ほどではありませんでした。
上司・先輩が職場の風土づくりのカギを握る
なぜ、前述の上位ランキングのような人間関係が非常によい職場ができあがったのでしょうか。ひとつの職場の例をご紹介しましょう。
その職場では、いちばん最初の責任者が、トレーナーたちに、「このユニットをよくするには、どうしたらよいか」を自分たちで考えさせ、行動させたといいます。
トレーナーやキャストたちでできることは、できるだけ彼らに自主的に考え、行動するようにし向けたといいます。
この責任者の対応が、職場の風土をよくする大きなきっかけとなりました。
責任者がつくってくれたそのような環境のもとで、トレーナーたちは、「朝礼のとき、必ず笑顔で挨拶するようにしよう」「新人が入ってきたら、必ずみんなに挨拶をさせよう」「新人の写真を飾ろう」といろいろなアイデアを出し合いました。
そして、上司の承認を受けると、すぐに実行に移していきました。その結果、笑顔やアイコンタクト、挨拶が職場の風土として根づいたというのです。
一度根づいた風土は、責任者が異動していっても、なかなか変わるものではありません。よい風土をもつユニットが、毎回、ミステリーショッパーによるランキングの上位に名を連ねることが、それを証明しています。
いずれにしても、職場の風土は、先輩や上司のリーダーシップいかんによって、よくなれば悪くもなります。先輩や上司の責任は、それだけ重いということです。
笑顔の多い職場は、仕事に対するモチベーションも高い
よい職場の風土とは、いままで述べてきたことからもおわかりのように、上司・先輩が後輩のことをいつも見ていて、マメに声をかける、上司・先輩と後輩ができるだけ多くの価値観を共有し、信頼し合う仲間がいてチームワークもいい……など、いろいろな条件が満たされた職場といえるでしょう。
ただ、そのベースとなるのは、やはり「笑顔」です。相手に対して、笑顔で明るく挨拶を交わす、笑顔でアイコンタクトをとり、言葉を交わす──これこそ、職場の風土をよくする絶対必要条件です。
よい職場には笑顔が根づいています。笑顔の多い職場ほど人間関係も良好です。社員の仕事に対するモチベーションが高いことはいうまでもありません。
また、人間関係がいいからこそ、後輩が間違いを起こせば、上司・先輩もためらうことなく、注意する、叱ることもできるのです。
02仕事の重要性を認識させる
仕事の重要性を繰り返し繰り返し伝える
誰しも、自分の希望する職場・仕事があるでしょう。しかし、実際には、希望どおりの職場・仕事の部署に配属されるとは限りません。
希望しない部署、ここだけは避けたいと思っていたような部署に配属された社員のモチベーションは、どうしても下がりがちなものです。
オープンして数年間、東京ディズニーランドで最も不人気なのがカストーディアルという部署でした。カストーディアルといえば、1日中パークの清掃をする「きつい、きたない」の2K職場とみなされて、アルバイトを募集しても、ほとんど集まりませんでした。
いったん仕事を始めても、途中でやめる人が少なくありませんでした。それはアルバイトに限った話ではありませんでした。
人事部長から、「カストーディアル課勤務を命ずる」と配属先を告げられた新入社員のなかには、泣き出す者もいました。私は、そういう社員の1人に「どうして?いやなの?」と聞いたことがあります。
すると、その社員は、「どうして、私が清掃をしなければいけないんですか。清掃を担当しているなんて、友達にも言えません」と言うのです。
父親から、「娘に掃除をやらせる気か」とクレームが入ったという話も聞きました。とにかくカストーディアルは、まったく人気がなかったのです。それが数年後には、カストーディアルは、逆に人気職種になりました。
アルバイトの採用募集にも、人が大勢つめかけるようになりました。正社員からも、カストーディアル課勤務を命ぜられて泣くような人は出なくなりました。
私も、カストーディアル課に配属が決まった新人から、「カストーディアルの仕事に決まりました。教育担当の福島さんにいろいろ聞きたいことがあるので、よろしくお願いします」と笑顔で言われたことがあります。
数年前には考えられないことでした。なぜ、このような変化が生まれたのでしょうか。
その最も大きな力となったのは、上司・先輩が、後輩たちにカストーディアルの重要性を繰り返し繰り返し伝えたことです。
「カストーディアルというのは『清掃担当』という意味じゃないんだ。カストーディアルには、『管理する』とか『保護する』という意味があるんだ。カストーディアルは、自由にパーク内を動きまわることができるでしょ。だから、当然、困っているゲストを見つける機会も多くなる。そういうとき、そのゲストに声をかけて、困っていることを解消してあげる大切な役割を担っているんだ。清掃だけじゃないんだよ。つまり、カストーディアルには、パークを清潔に管理する、ゲストを保護するという意味が込められているんだよ」
こうして仕事の重要性について、上司や先輩が繰り返し、後輩や新人に伝えていると、しだいに、後輩たちの気持ちも変わっていきました。自分たちの仕事に誇りをもつようになっていったのです。
新人研修の1カ月をカストーディアル実習にあてる
職場の上司・先輩任せにするのではなく、会社自体も、カストーディアルの仕事の重要性を伝えることに積極的でした。
たとえば、正社員として入社すると、新人研修が3カ月以上にわたって行われます。そのうちの1カ月を、カストーディアルの実習にあてました。これは、正社員だけでなくアルバイトにも、好影響を与えました。
「新入正社員も、一生懸命カストーディアルの実習をしなければいけないほど、重要な仕事なんだなあ」という気持ちを、多くのアルバイトが抱いたはずです。正社員のカストーディアル実習が、カストーディアルの仕事の重要性を伝える〝無言のメッセージ〟になったのです。
今日は、社長がカストーディアル!
ディズニーランドでは、年に一度、「アルバイト感謝デー」が開かれます。アルバイト感謝デーとは、パークにアルバイトをゲストとして呼んで、おもてなしをする日のことです。
だれがおもてなしをするかというと、正社員です。もちろん、社長もおもてなしをする側で参加します。どんな役割を担当するかというと、歴代の社長はすべて、カストーディアル。カストーディアルのコスチュームに身を包んで、アルバイトをもてなします。
こうした社長の姿から、カストーディアルの仕事の重要性、そして社長として、その仕事を担ってくれているキャストに感謝していることが、アルバイトに伝わっていきました。
アルバイト自ら仕事のレベルアップをはかる
いまでは、カストーディアルは人気職種のひとつです。いうまでもなく、アルバイトは、カストーディアルの仕事に誇りをもっています。であればこそ、自ら、自分たちの仕事の〝幅〟を広げているのでしょう。
たとえば、ゲストに楽しんでもらうために、落ち葉でミッキーマウスの顔をつくってみせたり、ローラーブレードで清掃するなど、ショーアップ化をはかっています。
また、仕事のスキルに応じて「段位」を設けて、仕事に対する意欲を向上させるようなアイデアを出し、実行していると聞いています。
実は、これらは、ほとんどアルバイトたちが考え出したことなのです。このようなカストーディアルのパフォーマンスは、メディアにも取り上げられ、カストーディアル人気をさらに高めています。
03「誇り」をもてる環境をつくる
「誇り」をもつディズニーのキャストたち
ここでは、誇りをもっていることを物語るディズニーのキャストの事例をご紹介しましょう。
そういうキャストの仕事に対するモチベーションが高いことはいうまでもありません。
事例1電車の中で、上司に注意するアルバイト
これは、私自身の体験談です。私が40歳を超えたころでしたでしょうか。仕事帰りの電車の中で起きた〝事件〟です。
ディズニーのキャストは、ディズニーのバックステージの話はもちろん、ディズニーでの仕事に関する話を、公の場では慎むことが求められます。仮に、外部でそういう話をするときは、人に聞かれることがないようにしなければなりません。
どこにゲストとしてパークを訪れる人がいるかもしれません。そういう人の夢をこわさないためです。
ところが、そのとき、私と友人は、電車の中でディズニー研修のインストラクターに関する話をしてしまったのです。
すると、20代の女性がやってきて、「すみません、ディズニーのキャストの方ですか。2人のお話がまわりの人に聞こえちゃってるんですけど。やめていただけませんか」ときっぱり言うのです。
その女性は、アルバイトのキャストでした。さすがに、私も身の縮む思いをしました。そして、彼女なら、相手が社長であっても、きっと注意するだろうなと思いました。私にとってはキツーイ体験でした。反省しました。
しかし、同時に、ディズニーの仕事に誇りをもっているキャストがいることを実感でき、内心うれしくもありました。
事例2「ショーのクォリティが落ちる」と怒るキャスト
バックステージで工事をしていることがあります。その様子や、働いている人が一服している様子が、オンステージからちょっとでも見えたら、たいへんです。
キャストが、「こんな状態でいいのか!」と怒り出すのです。もちろんいいはずがありません。すぐに改善策がとられます。とにかく、ディズニーのキャストは、ショーのクオリティを下げるようなことに非常に敏感に反応するのです。
事例3「王女さまでも許せない!」
ある国の王女が、パークを訪れ、蒸気船マークトゥイン号に乗船したときのことです。その王女さまが、なんと船上でソフトクリームを食べていたからたいへんです。乗船中、飲食は禁止されているのです。
その様子を見た運営部のキャストたちは、みな怒り心頭で、「あんなことがあって、いいのですか。王女さまでも許せない!」と、職場の責任者に食ってかかりました。
こういうことがあるので、ディズニーの上司・先輩は、うっかり手を抜くことはできません。東京ディズニーランドが開園してから四半世紀以上たちますが、開園時と同じ清潔さが維持されています。
これもキャストのクオリティを高く保ちたいという気持ちと行動があるからです。これは、ほとんど奇跡といってよいでしょう。
これは、もちろん、研修やトレーニングをはじめ、多重継続的な上司・先輩による教育の成果でもあります。同時に、キャスト1人ひとりが、ディズニーの仕事に誇りをもち、高いモチベーションを維持していることも見逃せません。
行動指針がパーク内の施設にも反映されている
なぜディズニーのキャストたちは、誇りをもって仕事に取り組むことができるのでしょうか。
たとえば、ディズニーの行動指針のなかに「安全性」というのがあります。これは、ゲストに事故や危険がないようにする、ということです。
すべてのゲストにハピネスを提供するためには、必要不可欠なことです。そのためにパーク内の施設は、万全を期してあります。
たとえば、鉄製の扉でも、ゲストが触れやすい部分は、ゴム製になっています。
私は研修で、入社したばかりの後輩キャストを連れてパークに行ったときは、そのゴム部分をさわってもらっていました。
ディズニーの行動指針・SCSEのなかでも優先順位がいちばん高いS=「安全性」をいかに大事に考えているかを実感してもらうためです。
「安全性が大事と教えられたけど、ほんとうなんだ」
「行動指針が単なる〝紙上の約束事〟ではなく、実際に現場に活かされているんだ」と気づくでしょう。
同時に、こういう会社で、仕事をすることに誇りや喜びも見出すはずです。
言行不一致だと、後輩のモチベーションは下がる一方
前でパーク内の建造物を例にあげました。
たしかに、社員に誇りをもたせるだけの環境をつくるためには、コストがかかります。
しかし、日常のなかですぐにでも取り組むことのできる環境づくりもあるはずです。
たとえば、「5S」という言葉をよく耳にします。
整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seiso)、清潔(Seiketsu)、しつけ(Shitsuke)の頭文字をとったもので、職場環境を改善するために、多くの会社や職場で取り入れられている考え方です。
しかし、上司や先輩が「5Sを守れ」と言うものの、実際の職場の状態を見ると、机や書類棚も、整理整頓するには最悪の配置になっている。
おまけに、上司や先輩の机の上は書類の山というようでは、社員も積極的に5Sに取り組もうという気にはなれないでしょう。
「なんだ、言ってることと、やってることが違うじゃないか」と思わざるを得ないからです。こういう職場の風土では、仕事に誇りをもつこともむずかしく、社員のモチベーションもあがりません。
また、整理整頓以外にも、社員同士で挨拶をきちんとする、といったことも職場の環境づくりのひとつといってよいでしょう。上司・先輩は、そのようなさまざまなシーンで、自ら先頭に立って、後輩にお手本を示す必要があります。
そういう上司・先輩がいればこそ、後輩も「上司・先輩のようになりたい。上司・先輩に続け」と、仕事に対するモチベーションもあがることになります。
04指示するときは、必ず「理由」も伝える
ディズニーでは意味・理由も伝えるのが常識
ディズニーでは、何かの行動をするときは、なぜそのような行動をするのか、その意味や理由も必ず伝えています。私がカストーディアルのトレーニングを受けたときのお話をしましょう。
たとえば、カストーディアルでは、次のような教え方をします。
「特別なケースを除き、肩・腰・膝・くるぶしが一直線になるように立ちましょう。――そのほうが体に負担がかからないんだよ」
「ダストパン(チリトリ)をもつときは、必ずとってのところをもって、腰骨のあたりにつけてもちましょう。ほうきは、ちょっと前のほうにもちましょう。――ゲストに当たったら、たいへんだよね」
「ゴミはほうきで掃くのではなく、はじくようにとりましょう。――そのほうが、早いよね。見た目もきれいだよね」
「汚物があった場合は、すぐに白いペーパータオルでおおいましょう。――ほかのゲストが見ちゃうと気分がよくないよね。白いペーパータオルは目立つから、ゲストが踏んづけたりしちゃうことはないよね」
このように、ディズニーでは、行動と理由とをセットにして、しかもアルバイトたちの頭にスムーズに入りやすいように親しみを込めた言葉遣いで伝えられます。
指示の意味・理由がわかれば、効率・生産性があがる
ディズニーの例とは逆に、後輩に指示を出すとき、指示だけを伝えて、なぜ、どういう目的でその指示を出しているかについては、何も伝えないという上司・先輩はいないでしょうか。
それでは部下は納得しないでしょう。反発するケースも考えられます。なぜなら、後輩の存在を軽んじているからです。
このような上司・先輩であれば、たとえ後輩が指示どおりに動いたとしても、本気で取り組んでいるとはいい難いでしょう。
「指示どおりに動けばいいんだ!」と言い放つ上司・先輩であってはなりません。また、目的や意味がわかっていれば、後輩が自分で工夫して、より効率よく、効果的に指示されたことをやり遂げることもできるでしょう。
生産性もあがるはずです。会社にとっても十分メリットがあるのです。
繰り返しますが、理由がすぐにのみ込めるような場合は別にしても、指示するだけでは、後輩に不快な気分を抱かせることになってしまいます。
もちろん、モチベーションがあがることもありません。たとえ多忙であっても、後輩へのホスピタリティ・マインドを忘れないようにしたいものです。
05後輩によい点を見出せば、すぐにほめる
ディズニーには、「キャストがキャストをほめる」しくみがある
社員表彰制度は、どこの会社にもありますが、ディズニーにも、ユニークな社員の表彰制度があります。
それは、キャストが、「すべてのゲストにハピネスを提供している」と感じたキャストを選ぶというものですユニークなのは、投票用紙の原紙が、名前を書かれた本人の職場にまわされ、最終的には本人に手渡されるということです(図参照)。
職場にその用紙がまわってくると、職場の責任者は、職場のキャストのモチベーションをあげるために、朝礼などでキャスト全員に伝えます。
「みなさん、喜んでください!この職場で投票を受けた方がいらっしゃいます。○○さんでーす!みんなー、拍手!」とやるわけです。
すると、キャスト全員から「ワー、おめでとう!」と声があがり、拍手の渦が巻き起こります。
同僚に祝福されて、投票を受けた本人もうれしくないはずがありません。
投票者の名前は無記名なので、誰が投票してくれたのか、わかりません。
無記名だからこそ、「こういうところを見てくれている人がいるんだ。自分のやっていることは間違ってなかったんだ」という気持ちも強まるはずです。
キャストによるディズニー表彰制度は、職場を明るく活性化し、キャストのモチベーションアップにひと役買っています。
ちなみに、年間総投票数は、10万票を超えます。
それほど、キャストがキャストをよく見ている、またレベルの高いキャストが多いといえるでしょう。
最善を尽くす後輩の頑張りをほめる
ディズニーのような表彰制度を取り入れることは、どこの職場でもできるというわけにはいかないかもしれません。
ただ、大切なことは、頑張っている後輩がいれば、「頑張ってるね」とひと声かけてあげることです。
また、頑張っている点を市販のカードに記入して、後輩に渡してあげれば喜んでくれるはずです。
前述したように、成果をあげたときに限らず、後輩なりにベストを尽くしている姿を見れば、率直にその頑張りをほめてあげましょう。
そのとき、後輩は「上司・先輩は、自分のことをちゃんと見てくれている」と感じ、自分の存在が認められたと思うでしょう。
それは、「もっと頑張ろう」という後輩のモチベーションアップに必ずつながります。
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