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その採用の仕方ではトラブルになる!!従業員を採用するとき読む本【オリジナル】

はじめにこの本は、タイトルの通り経営者が「人を1人雇いたい!」と思い立ったときに読んでいただきたい本です。人を雇いたいと思えば、とりあえず身近な人に声をかけたり、求人広告を出したり、ハローワークに行って募集を行えばいいのですが、いざ求人票に細かい条件を書き込もうという段階になると、さまざまなことに気がつくと思います。皆さんも、「月給は20万円ぐらい」「交通費は2万円まで補助する」という大枠は決めているはずです。しかし、「健康保険をどうするか」「雇用保険はどうするのか」「就業規則はどのようにつくるのか」となると、まったく“お手上げ状態”となり、「人を雇うというのは、予想よりもたいへんなことかもしれないぞ……」と、慌てて書店に行き、急いでこの本を購入されたのかもしれません。皆さんは、起業からすべてのことを1人(もしくは家族の手伝いだけ)でこなしてきて、事業がある程度軌道に乗ったことで、そろそろ自分達以外の従業員を雇わないと会社が回らないかもしれない、と感じていることでしょう。人を雇うというのは、この不景気のなか周囲から、「独立など、やめておけ」と諫められたりしながらも一念発起して起業し、不断の努力を続けてこられた成果が出つつあるということであり、喜ばしいことです。しかし、現状に甘んじるのではなく、さらに会社を成長させていきたいと願うのであれば、まずは、はじめての「人を雇う」という行為を成功させねばなりません。なぜなら、失敗すると、事業拡大に影響が出たり、場合によっては裁判沙汰になったりと、予想もしない状況を招く可能性があるからです。「人を雇おう」と決断したその瞬間から、会社は起業直後の第一ステージから、第二ステージに移ります。結婚にたとえるならば、皆さんはこれまでの「気ままな独身生活」と、おさらばしなくてはいけません。まず変わるのが、“財布の管理”です。

食費は月いくらにするのか、お互いの生命保険はどうするのか、あまり切り詰めても苦しくなるので時々は外食したいがいくらまで外食を認めるのか、というささいなことまで取り決める必要があり、その計画に「夫婦が互いに納得」しなければいけません。さらに子どもが生まれると、これまで自由に使っていた時間も少なくなるでしょう。おしめの交換や授乳、保育園や幼稚園の送り迎え、お弁当をつくったり、PTAに参加しなければならなくなったりと、想像以上にたいへんな育児や家事が皆さんの肩にのしかかってくるはずです。夫婦が互いに納得のいく家計状態をつくり出すという行為は、従業員を雇うときにたとえれば、「給与額の取り決め」「就業規則の作成」に該当するでしょう。また、妻の健康保険を夫の扶養に切り替えたり、ケガをした子どもを病院に連れて行ったりするのは、「健康保険、厚生年金の加入」「労災保険、雇用保険の加入」ということになります。今後皆さんが雇用する従業員は、あなたの会社が生んだ「子ども」のようなものです。「従業員が仕事中、ケガしたときはどうすればいいのか」「技能を身につけさせたいのだが、公的な補助金を申請できるのだろうか」など、経営者として最低限の知識をもっておかないと、的外れなことをしてしまったり、経済的損失を被ったりする可能性があるのです。この本では、採用する以前の準備段階である雇用契約書や服務規程のつくり方から、入社時に必要な各種社会保険の手続き、また、従業員との間で起こりうるトラブルに関して、各種助成金の申請方法まで、実例を挙げながらわかりやすく紹介していきます。従業員とうまくいかなければ、労働基準監督署に通報されたり、裁判沙汰になることもあります。反対に、うまくいけばあなた1人のときよりも、会社は成長軌道に乗り、大きく発展していくことでしょう。人を雇い会社を発展させていくという第二ステージで成功するためには、第一ステージとは少し違ったものの見方、労働契約上の法律的知識、助成金申請などの基礎を、しっかりと勉強して身につけておかねばなりません。本書は、それらの予備知識がなくても、理解しやすいように工夫して作成しています。本書を熟読していただき、経営者、従業員の双方が喜びを感じ、会社を発展させていってもらえたら、著者としてこれ以上の喜びはありません。最後になりましたが、本書の制作にあたり、中小企業を応援する士業の会、助成金・給与労務手続センターの皆様にご協力いただきました。心より感謝申し上げます。平成29年7月

目次はじめに第1章採用前に知っておきたい雇用契約の基本従業員を雇うということ従業員の雇用形態を知る従業員は法律に守られている訴えられるケースが増えている、経営者の責任とは第2章採用前の準備~就業規則と給与規程~なぜ採用前に準備が必要なのか労働条件通知書兼雇用契約書を作成する就業規則を作成するコラム雇用契約書と就業規則の関係賃金をどのように決めるか労働時間・休日・休暇をどのように決めるか「服務規程」をどのように決めるか第3章入社時の保険加入~提出書類と手続き~経営者が知っておくべき保険の基礎知識社会保険①健康保険&介護保険とは社会保険②厚生年金保険とは労働保険①労災保険とは労働保険②雇用保険とは保険に加入するための手続きを知る第4章実際にあった雇用トラブルから学んで備える

実際にあった雇用中のトラブルから学ぶ実際にあったトラブル(1)長時間労働問題実際にあったトラブル(2)給与支給問題実際にあったトラブル(3)懲戒解雇問題実際にあったトラブル(4)マタハラ問題実際にあったトラブル(5)休職問題実際にあったトラブル(6)退職問題実際にあったトラブル(7)有給休暇問題実際にあったトラブル(8)試用期間問題実際にあったトラブル(9)みなし残業問題第5章補助金・助成金を申請してお得に採用しよう補助金・助成金の基本について知ろう補助金・助成金の探し方おすすめの助成金1キャリアアップ助成金人材育成コース2キャリアアップ助成金正社員化コース3特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)4トライアル雇用奨励金5障害者トライアル雇用奨励金6特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)第6章専門家を活用しよう~デキる経営者はプロに頼る~「自分でできる」は、いますぐやめなさい社会保険労務士について知ろう優秀な社労士を探す方法を知る中小企業を応援する士業の会/助成金・給与労務手続センターTM奥付

従業員を雇うということ冒頭、従業員を雇うとたいへんだというお話をさせてもらいましたが、いったいなぜでしょうか。それは、「①給与以外の費用」「②労使トラブル」の2つがあるからです。給与以外の費用が発生する人を雇ったとしても月給を支払えばそれで終わりだ――。このように想像している経営者はおそらく多いでしょう。単純に、月給20万円で雇用する場合、20万円×12カ月=240万円となり、「自分以外の人件費が240万円分、増えるぐらいに思っておけばいい」と予想するのが普通です。しかし、これはあくまで「月給」だけの話です。通勤手当、社会保険料、労働保険料まで含めればどうでしょうか。正社員1名(20代)を雇うシミュレーション(平成29年4月/東京/一般業種で試算)をしてみましょう。月給20万円、通勤手当1万円だと仮定すると、おおよそ健康保険料9910円、厚生年金保険料1万8182円、雇用保険料1260円、労災保険料630円となり、合計23万9982円となります。月給が20万円でも、現実は239982円−200000円=39982円となり、約3万9982円の負担が生じているのです。さらに、賞与を夏冬で月給4カ月分と仮定すると年額で80万円の負担増となります。ボーナスにも健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料の支払い義務が生じ、約10万円増加しますから、すべて合計すると約90万円となります。結果、総計は約380万円となり、月給だけの合計額240万円と比較すると、驚くほど増えていることがわかります。労使トラブルが起きる可能性も次項以降で詳しく述べていきますが、一般的に「従業員は経営者より立場が弱い」と考えられており、従業員はさまざまな法律により「手厚く保護」されています。もちろん、従業員が法律に保護されるのは喜ばしいことです。しかしながら、社会情勢変化のスピードが速くなり、法改正についていけない経営者が増える一方で、情報をたくさん持っている労働者が増えており、労使トラブルの件数が年を追うごとに増加しているのです。それは、なぜでしょうか。第一に、終身雇用制度が崩壊し、転職市場が活性化したことが理由に挙げられます。新卒でも中途採用でも「いまの会社が嫌になったら、別の会社を探せばいい」と若者の

意識が変化してきており、多額の費用を払って採用しても、すぐに辞めてしまうのです。円満退社ならまだいいのですが、問題は何かに不満があって辞めてしまった場合です。たとえば、「定時は18時なのに、平日に会社を出るのはだいたい21時頃だったな。それにタイムカードは実際に帰る時間よりも先に“押せ”と命令されていた……」などと思い出し、知人に相談すると、「それはサービス残業だな。訴えれば勝てるよ」とアドバイスをされ、実際に弁護士を通じて残業代の支払いを訴える人が増えています。労働基準法には、使用者が時間外労働などを強いた場合、割増賃金を支払うことが義務づけられており、違反すれば「6カ月以下の懲役」「30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。さらに、残業代は2年間さかのぼって請求できるのです。不法行為と認定されれば、支払わなくてはならない残業代は3年分となります。

時給計算で2000円の従業員が、平日8時間労働をしたあと、平均で3時間のサービス残業を月20日ほどしていたことを、訴えるとどうなるでしょうか。時間外労働は割増率が1・25倍となるため、2000円×1・25(割増率)×3時間×20日間×24カ月(2年間)=360万円となります。従業員が辞めるだけでもたいへんなのに、そのうえ360万円もの金額を請求されれば、経営者はたまったものではありません。このようなケースは実際によく起こっており、いま現在も元従業員から訴えられた企業には、残業代を支払うようにという判決がおりることが多いのです。ほかにも、社長が忘年会で女性従業員の肩を抱いたり、帰り際にタクシーに乗り込もうとしただけで損害賠償請求をされ、慰謝料数十万円の支払いを命じられたことや、「不景気のため給料を無理矢理下げられたが、それは不当である。差額分を支払ってほしい」「同僚の社員から陰湿ないじめを受け、鬱になった。会社はそれを知っていながら放置していた。慰謝料を支払え」などと訴えられるといった事例が増えています。「知りませんでした」という言い訳は通りません。経営者として正しい知識をもって従業員を雇用できていないと、予想外の事態に遭遇することになってしまうのです。

従業員の雇用形態を知る知っておくべき6つの雇用形態一概に「人を雇う」といってもさまざまな形態があり、つぎの6つに分けられます。これらの特徴を知ることで、金銭的な負担や労使トラブルを避け、いまの会社にとって、どの雇用形態を選択するのがベストなのかを判断できます。①正社員④契約社員②パートタイマー⑤派遣社員③アルバイト⑥業務委託このように列挙すると、「パートタイマーとアルバイトの違いは何か」「契約社員と派遣社員は、いったい何が違うのか」などと、疑問に思われることでしょう。細かい違いはありますが、これらの雇用形態は大きく2つに分類できます。グループA正社員パートタイマーアルバイト契約社員グループB派遣社員業務委託グループAは、あなたの会社と労働契約が「あり」ます。グループBは、あなたの会社と労働契約が「ありません」。ですから、グループAの雇用形態を選択すると、それらの従業員は、「あなたからの指示を受けて動き」「働いた対価としての給与を、あなたの会社から直接受け取る」ことになります。また、グループAでは、会社に各種保険の負担義務が生じます。グループBでは、会社に各種保険の負担義務は生じません。

社会保険料を支払ってでも、従業員を安心させ適度な福利厚生を与え、がんばって働いてもらいたいと思うのであれば、グループAを選択しましょう。反対に社会保険などの各種保険料が高額で、のちのち経営に対する負担が増してくると思うならば、無理にグループAの雇用形態をとる必要はありません。正社員とパートタイマー&アルバイトの違いあなたが会社の経営者ならば、グループAの従業員はすべて、“社会保険に加入”させなければいけません。ですから、「アルバイトやパートタイマーとして雇えば、社会保険を会社が支払わなくてよい」という考えをもっていたのであれば、まずはそれを正すべきです。違う点といえば、ボーナスや退職金を出すかどうか、という点などになります。しかし、そのような条件面よりも大切なことがあります。それは、従業員とあなたの双方が「未来をどのように考えているか」です。これから採用しようという従業員との面接時に、「自分自身が責任と裁量をもって働き、この会社を伸ばしていきたい」と前向きで積極的な姿勢が感じられるのであれば、正社員として採用すればいいですし、「家族の事情などにより働く時間が限られている」「子育ての時間、プライベートの時間を大切にしたい」という人は、アルバイトやパートタイマーとして雇用すればいいでしょう。派遣社員、業務委託のデメリット「従業員を社会保険に加入させるのは、半額が経費になるとはいえ起業直後は負担がたいへんだと聞いている。だから人を雇うのは、グループBがいい」という方がいると思います。この考えを否定はしませんが、ある調査によると「派遣社員の多くが正社員を希望している」というデータがあります。また、労働契約法、労働者派遣法が改正され、同一の職場での契約が3年を超える派遣社員には、派遣元は「派遣先への直接雇用の依頼」「派遣元での無期雇用」などの措置をとることが義務づけられました。もしあなたが派遣社員のことを気に入ったとしても、その雇用形態では3年しか働いてもらえませんし、その後、直接雇用などに転換したら結局、社会保険は払うことになります。さらに、もし契約社員として直接雇用した場合、有期雇用は5年までと定められていますから、合計8年もの間、その従業員は、あなたの会社からの待遇について、「正社員になりたいのに、ならせてもらえない」という不満を持ち続けることになります。それなら最初から正社員として雇用すれば、待遇の不満なく、入社時からやる気を出し

て働き、会社に貢献してくれることでしょう。あなたがこれから採用する人物をどのように成長させていきたいのか、従業員はどのような雇用形態を希望しているのか、両方が合致する雇用形態をとることをおすすめします。

従業員は法律に守られている採用面接で最低限伝えておくべきこと採用面接の際、経営者が従業員に対して伝えておくべき代表的な事項はつぎの通りです。①人件費の「総額」(月給・年収)②自社の将来の事業展開と方向性③採用する従業員に、まかせる予定の仕事内容これらを最低限確認することで、無駄な労使トラブルの種ができるのを避けられ、会社も従業員も幸せになる土台をつくり出すことができます。知っておくべき10の法律とは前項目で、雇用形態の希望が会社と従業員で一致する人材を採用することが大切だと述べました。ですが、会社を発展させていくには、それだけでは不充分です。人を雇うという行為は、どのような形態であれ、法律問題を横に置いたまますすめることはできません。あなたが人を雇う前に知っておいたほうがいい法律を10本、挙げます。①労働基準法②雇用保険法③労働者災害補償保険法④労働安全衛生法⑤育児・介護休業法⑥パートタイム労働法⑦男女雇用機会均等法⑧最低賃金法⑨高年齢者雇用安定法⑩職業安定法皆さんもよくご存じの労働基準法は、労使問題についての基礎的かつ重要な法律ですが、そのほかの法律もある程度知っておかないと、ときに無意識のうちに、法律にふれてしまうことがあります。あなたの会社が「法律に違反する会社」として、社会に認知されてしまいますので、まずはそれぞれの法律の大枠を理解しておきましょう。①労働基準法労働基準法は、昭和22年に労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)の1つとして制定され、賃金、労働時間、休日、有給休暇など労働条件の最低基準を定めた法律です。雇われる側が、過剰な労働条件により、経営者に酷使されることがないよう、労働者を守ろうという意図で制定されました。なおこの法律上では、20ページの「業務委託」以外を「労働者」とし、労働者の保護義務を負う立場にある人の

ことを「使用者」と定義しています。②雇用保険法雇用保険法は、労働者の生活及び雇用の安定を図るために、失業給付を行ったり、雇用安定事業や能力開発事業を行うことを目的としています。端的に言うと「失業保険」のことについて明記された法律です。社員を雇った場合は、雇用保険の適用事業所となります。③労働者災害補償保険法一般に労災保険と呼ばれています。通勤途中や仕事中にケガをしたとき、会社が労働者にどのように対処しなければならないかを示した法律です。ケガや病気、障害、死亡時に、所定の保険給付が行われます。雇用保険同様、社員を雇った場合は、適用事業所となります。④労働安全衛生法会社は従業員の健康に気をつけなければいけません。会社は従業員を1人でも雇うと個人事業や中小企業など、会社の規模の大小に関係なく健康診断を受診させなければなりません。義務を怠ると罰金を科せられます。反対に従業員にとっては、会社が実施する健康診断を「受けなければならない義務」が発生します。安全で快適な職場環境下で従業員を労働させなければならない安全配慮義務を果たすための会社施設・機械設備・社内組織などについても定められています。この法律に違反すると、書類送検されるなど会社にとって不利益なことが起こります。⑤育児・介護休業法働きながら、育児や介護に携わる従業員に対して、子育て環境の整備・会社への職場復帰・職業生活がスムーズに行えるように定められた法律です。育児や介護が原因でやむを得ず退職した場合の、再就職支援まで含まれます。⑥パートタイム労働法正確には「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」といいます。パートタイム労働者が正社員などに比べ低い扱いを受けないように、福利厚生の改善、新しい技術を身につける機会の設置、労働条件の確立などについて述べられた法律です。社員よりも規制が多く、会社がすべき義務に注意が必要です。⑦男女雇用機会均等法採用、給与額や各種手当、昇進、職種の変更などにおいて男女間で差をもうけることを禁じている法律です。妊娠や出産を理由に退職を強要したり、不当な配置換えを行うこともできません。昇進などのキャリアアップの場面において、転勤を条件にすることも、女性への間接差別にあたるとして禁止されています。なお、セクシャルハ

ラスメント防止についての規定もあります。⑧最低賃金法その名の通り、労働者の最低限の賃金について定められた法律です。たとえば、経営者と労働者が合意したからといって、時給換算で300円で労働者を働かせることはできません。「都道府県単位の地域」「職種」によって最低賃金の額が決められています。会社の所在地の最低賃金を調べたうえで、給与額を設定するのは経営者の義務とされています。⑨高年齢者雇用安定法正式には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」と呼ばれています。高齢化社会の到来に伴い、高齢者の雇用機会の増大や安定を目的とした法律です。年齢による採用時の差別などをなくすことが定められています。そのため求人広告に「45歳以下を希望」などという記載はできません。また、従業員が60歳を超える際には、継続雇用か定年の引き上げ、または廃止が必要となることがあります。⑩職業安定法職業安定法(職安法)は、労働者の募集・職業紹介・労働者供給の基本的な枠組みについて定めた法律です。従業員の募集方法ならびに職業紹介機関について、労働者が不当な条件で雇われないように定められています。これらの法律は主に「労働者の保護」を目的としてつくられています。ですが、経営者が基本的なことを学んでおくだけで、自分が労働者に対して「許されること、許されないこと」の基準がわかり、無駄な労使トラブルを避けることができます。

訴えられるケースが増えている、経営者の責任とは人を雇うと、経営者にさまざまな責任が発生することは、ご存じでしょう。「給料を“期日通り”支払う」「残業を無理強いさせない」「従業員の健康や安全に配慮する」など、いろいろありますが、のちのち裁判沙汰などに発展しないよう、事前に経営者が知っておくべき責任についてお伝えします。大きく分けて4つあります。3つの損害賠償責任と、1つの使用者責任です。3つの損害賠償責任①使用者の安全配慮義務違反による損害賠償責任②労災民事訴訟による損害賠償責任③労働者のプライバシー侵害による損害賠償責任1つの使用者責任④使用者責任❶使用者の安全配慮義務違反による損害賠償責任これは、従業員の身体が危険な状態にさらされないように、つねに安全に配慮する責任が会社にはある、ということです。たとえば、車で営業をする従業員が、事故をしてケガをしたとします。事故をしたこと自体は、従業員の不注意かもしれませんが、もし事故後の検証などで、車に整備不良が見つかり、その整備不良が間接的な原因となり、事故が引き起こされたとなれば、「使用者が安全配慮に欠けていた」として責任を追及される立場に認定されてしまうのです。❷労災民事訴訟による損害賠償責任会社は業務上のケガや病気に対して、一定の配慮を行う義務が発生します。そこで、会社は労災保険に加入して、まさかの時のそなえとするのですが、たとえば、過重労働により従業員が自殺した場合、経営者が責任を追及される可能性があります。いま、労災死亡者の20人に1人が精神疾患による自殺といわれています。過去には年収350万円の30代男性(妻・子2人)が死亡して、逸失利益と慰謝料合わせて7000万円が会社に請求された例があります。

❸労働者のプライバシー侵害による損害賠償責任経営者は、従業員のプライバシー保護に配慮することを求められています。なぜなら、会社は従業員を雇う前に、履歴書の提出や、面接などによって、彼らの個人情報を知り得る立場にあるからです。その知り得た情報を元に、労務遂行にかかわりのない私的領域に干渉したり、私生活にかかわる情報をみだりに第三者に話すと損害賠償責任が生じるということです。たとえば、自社の取引先である家主と、貸借人である自社の従業員の間に、トラブルが生じ、上司が従業員に対して、家主と和解するように勧告したことが、裁判で違法と認定されたことがあります。❹使用者責任従業員が運転中に、仕事と関係のないほかの車とトラブルを起こし、そのドライバー(第三者)を殴ってケガをさせたとします。それを「従業員が個人的に行ったことだ」と会社は逃げることができない、ということです。運転をしているという行為自体が、会社の業務と関係があるとみなされれば、使用者責任を問われます。

なぜ採用前に準備が必要なのか事前準備をしないことは保険をかけずに車を運転するようなもの第1章では、人を雇う前の基礎知識として、雇用形態の種類や労働者を守っている法律について、また代表的な労使トラブルと、そのときに経営者が問われる責任について概要を説明しました。第2章では、実際に人を雇うときに、前もって決めておかねばならないことについて述べていきます。具体的には、就業規則、服務規程、雇用契約書などの準備です。こうした準備の必要性を投げかけると多くの読者は、「いま営業で忙しいんだ。そういうのは、入社させた後、暇な時間を見つけてつくればいいのではないか」と思うかもしれませんが、大切なことを決める前に「もしものこと」が起きた場合は、どのように対処すればいいのでしょうか。また、採用した従業員がすべて、素直で、明るく、積極的に働いてくれるならいいのですが、逆の場合はどうしたらいいのでしょうか。準備していないと、何の手立てもなくなります。第1章で述べたように、従業員はたくさんの法律に守られています。いったん採用した従業員は、本人に多少の落ち度があったとしても、簡単に辞めてもらうことはできません。そんなとき、経営者を、そして会社を守ってくれるのが、就業規則、服務規程、雇用契約書なのです。皆さんも重要かつ高額な取引をする取引先とは、必ず契約書を交わしていることと推察します。相手が納期通りに製品を卸してくれなかったり、その代金の支払いが遅れた場合、どうするのかを決めておかないと、怖くて取引をはじめることはできないはずです。従業員の採用も同じです。採用時に、会社の決まりごとを確認したり、雇用契約書もないということでは、自動車保険をかけずに自家用車を運転するようなものです。人身事故を起こして、何千万円もの賠償金を請求されれば、一生かかって大金を支払っていかねばならなくなります。人材を採用するときには、就業規則、服務規程、雇用契約書を必ず前もって準備するようにしてください。

労働条件通知書兼雇用契約書を作成する2段階ある条件通知人を雇うことに限らず、揉めごとの大半は「言った・言わない」が問題になります。そこで、労働基準法により、従業員を採用する際に会社から条件を通知しておくことが義務づけられています。その条件には2段階あります。・必ず明示しなければならない項目・制度がある場合に明示しなければならない項目です。必ず明示しなければならない項目・労働契約の期間・就業の場所・従事する業務の内容・始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項・賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締め切り・支払の時期に関する事項・退職に関する事項(解雇の事由を含む)制度がある場合に明示しなければならない項目・退職手当がある場合は、適用される従業員の範囲や計算方法・臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金に関する事項・負担させる食費や作業用品の費用など・安全及び衛生に関する事項・職業訓練に関する事項・災害補償、業務外の傷病扶助・表彰、制裁に関する事項・休職に関する事項「必ず明示しなければならない項目」は、口頭のみで伝えることは許されません。書面にして、従業員に手渡すようにしましょう。また、手渡すだけでは、後から「そのような書類はもらっていない」と、辞めた従業員から主張されるケースがありますので、

会社と従業員双方が「労働条件通知書兼雇用契約書」という書面に署名、捺印するのが有効です。禁止されている契約事項では、会社と従業員が納得すれば、たとえどんなことでも通知して契約できるのか、といえばそうではありません。労働基準法では、労働者が会社に拘束されるのを防止するために、契約書を取り交わすことが禁止されている事項が3つあります。①強制貯金の禁止②前借り金と賃金を相殺させることの禁止③損害賠償、違約金規定の禁止さらに、つぎのような補助的事項もあります。雇用契約書に法律的な違反事項がないかどうか参考にしながら、注意して作成してください。・原則として1日8時間、1週40時間を超えて勤務時間を設定することはできません。・パートタイマーや契約社員を雇用する際、契約期間は原則3年であり、5年を超えて雇うことはできません。例外として5年の契約を締結できるのは、高度に専門的な知識や技術を有する者や60歳以上の者だけに限られます。・休息時間は、勤務時間が6時間を超え8時間までの場合は「45分以上」、勤務時間が8時間を超える場合は「1時間以上」を与えなければなりません。・休日は1週間に1日以上もしく4週間に4日以上与えなければなりません。・給料は、「賃金支払い5原則」に基づいて支払わなければなりません。賃金支払い5原則とは、「通貨払いの原則」「全額払いの原則」「毎月1回以上の支払いの原則」「一定期日払いの原則」「直接払いの原則」です。外国の通貨や現物を分割で支払うことはできません。また2〜3カ月分をまとめて支払ったり、期日を決めずに支払うこと、本人以外に支払うこともできないということです。労働条件通知書は、厚生労働省のホームページにサンプルがあるので、それを参考に作成してみてください。

就業規則を作成する従業員に信頼されるために突然ですが、皆さんは、これからどのような仕入先、販売先と付き合っていきたいですか?納期を守ってくれない取引業者、期日通りに支払いをしない顧客……。こうした相手と付き合っていきたいとは誰も思わないはずです。同じことが会社と従業員の関係にもいえます。最近は、気にいらないことがあるとすぐに勤務先を辞めてしまう人が多いのですが、経営者の皆さんが継続的に従業員とよい関係を続けていきたいと願うならば、第一に、従業員から信頼されなければいけません。では、従業員から信頼されるためには、会社は何をすればいいのでしょうか。答えは簡単です。約束を守ることです。約束を1つずつ守っていけば、従業員の信頼を得ることができますし、会社を信頼した従業員は、会社の発展のために力を尽くす意欲が高まることでしょう。つまり、会社は従業員に対して「約束を明示する」と同時に、「(会社は)約束を必ず守るから、あなたも会社の約束を守ってください」と、こちらが望む約束ごとを提示し、守ってもらう必要があります。これが「就業規則」です。従業員の立場からすると、入社するときは「不安でいっぱい」の状態です。「給料はちゃんと支払ってくれるだろうか」「仕事を覚えられるだろうか」「昇給の基準はどこにあるのだろうか」しかし、就業規則を従業員にしっかりと提示することで、不安がとりのぞかれ、安心して仕事に励むことができます。なぜ「就業規則」が必要なのか?厚生労働省の発表によると、労働問題に関する相談は、平成27年度で100万件超も寄せられているそうです。これは毎日、約3000人の人が、いまの勤務先と働き方に相当の不満をもち、相談に出向いていることになります。バブル経済の崩壊やリーマンショックを経てきた日本では、あまたの企業の倒産があり、人の就業意識は変化してしまいました。もはや終身雇用を考える人は少数派となり、“自分の身は自分で守る”という意識の人

が増えています。そのため労働者は、労働基準法などの法律において、労働者にとって有利な点、利用できる点をよく知っていますし、ネット社会の発展により、スマホで検索をすれば、代表的な労使トラブルの対処法などはすぐにわかります。専門家に相談することなく、詳細な法律的知識を得ることができるため、不満があれば「何でも」「すぐに」会社に訴えかけられるのです。何度も述べているように労働者を守る法律はたくさんありますが、経営者を守ってくれる法律はほとんどありません。ささいな労使トラブルを避ける“切り札”として、経営者は就業規則を整備し、徹底活用すべきなのです。作成時の注意事項それでは実際に、どのように就業規則を作成していけばいいのでしょうか。厚生労働省のホームページにサンプルがありますので、就業規則とはどのような内容が盛り込まれているかを把握してみてください。サンプルを見て、「サンプルがあるとはいえ、就業規則づくりって、細かいところまで考えて、作成しなければならないな。面倒だな。口頭で済ませておこう」と思われる人もいるかもしれません。ですが、就業規則は、労働基準法により「作成義務がある会社」が指定されています。それは「常時10人以上」の従業員がいる事業所です。10人という人数は正社員だけではありません。アルバイト、パート、派遣社員など、会社に所属する業務委託以外のすべての従業員が対象になります。正社員1人で9人のアルバイトを雇っていたとしても、就業規則の作成が義務づけられますので、注意してください。就業規則は、大きく分けて、・絶対的必要記載事項(必ず書かなければならない事項)・相対的必要記載事項(その制度を設けるのであれば記載が必要な事項)・任意的記載事項(目的や前文などの会社独自に定める事項)の3つから構成されています。絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項にはどのようなものがあるかを見てみましょう。絶対的必要記載事項①労働時間関係

始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合の就業時転換に関する事項②賃金関係賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項③退職関係退職に関する事項(解雇の事由を含む)相対的必要記載事項①退職手当関係適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項②臨時の賃金・最低賃金額関係臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項③費用負担関係労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項④安全衛生関係安全及び衛生に関する事項⑤職業訓練関係職業訓練に関する事項⑥災害補償・業務外の傷病扶助関係災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項⑦表彰・制裁関係表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項⑧その他事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項一般的に絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項の2つを1つの就業規則にまとめたものが本則と呼ばれています。本則以外にも「服務規程」「賃金規程」「育児介護休業規程」「退職金規程」など付則と呼ばれる付属規程を設けることにより、それらを「就業規則の一部」とすることができます。従業員に対して、より細かい点まで明示することで安心してもらえますし、経営者の立場からしても、従業員に望むことを具体化できるでしょう。就業規則は従業員全員に周知させるこうして作成された就業規則は、すみやかに、所轄の労働基準監督署長に届け出しておきましょう。

一度、就業規則を提出したあとで会社の状況や、経営者の考え方が変わり、内容を変更するということも可能です。ただ、変更する場合は、従業員代表の意見を聞くことが必要となります。その場合、会社にとって都合のよい人だけの意見を聞くことは許されません。従業員の選挙により、過半数以上の支持を得た人に、変更した部分をしっかりと確認してもらうようにしましょう。また、作成された就業規則は、社長の机のなかにしまったままにしておいてはいけません。コピーをして従業員一人ひとりに配布したり、会社のホームページのなかに従業員専用ページを設け提示したりして、従業員に周知しなければならないのです。施行期日が定められていない場合、周知が完了した時点で、それが施行期日として認められます。

コラム雇用契約書と就業規則の関係はじめて人を採用するとき、経営者なら誰でもハローワークや人材募集会社に、求人票を提出すると思います。その際に、給与、労働時間などについては、おおよその考えがまとまっていることでしょう。その求人により採用が決まれば、雇用契約書を交わし、その後、就業規則の作成に入りますから、はじめて従業員を雇うという会社では、「求人票→雇用契約書→就業規則」となるのが一般的な流れになります。すると、雇用契約書に書かれていることと、就業規則の内容が一致しない場合が出てくることがあります。雇用契約書を交わすときは「すぐにでも来てほしい」という思いが先行して、考えがまとまらぬまま曖昧な雇用契約書を書き、就業規則をつくるときはある程度落ち着いて、じっくりと取り組むことになったりします。その場合、雇用契約書と就業規則に違いが生じてしまうことがあります。違いを従業員に指摘され、あなたの会社にとって、不利になるケースがありますので、気をつけてください。たとえば、半年の契約で働いてもらう契約社員を採用したとします。その契約社員の雇用契約書には、ボーナスを支払わないと書かれてありました。しかし、就業規則にボーナスを支払う旨が書かれてあると、ボーナスを支払わねばならなくなります。雇用契約書に記載されている内容が就業規則で定める基準以下であった場合、法律的には就業規則が優先されるからです。「この契約社員は、雇用契約書に印鑑を押している。だから雇用契約書が優先だ」と主張しても、その考え方は通らないのです。

賃金をどのように決めるか賃金控除に関する協定書について賃金は、従業員にとって、ひじょうに大切なものです。あなたの会社から支払われた賃金を元に、従業員は家賃を支払い、食費を支払い、光熱費を支払い、また、子どもがいる場合は教育費を支払ったりして、生活全般を成り立たせていくわけです。それゆえ、社長であるあなたの気分で突然、額を上下させたり、支払い時期を遅らせたりすべきものではありません。そのようなことをすると、従業員は会社に対して疑心暗鬼となり、仕事に対するモチベーションがダウンしてしまうでしょう。ですから、賃金は、雇用契約書、就業規則に書かれた内容を必ず守って支払わねばなりません。これらが正しく作成されていれば、44ページでふれたように「賃金支払い5原則」に基づいて自然と支払いができるはずです。この「賃金支払い5原則」のなかに、「全額払いの原則」があります。これにより税金・社会保険以外のものを、理由をつけて、賃金から勝手に控除することはできません。控除を希望するような費用がある場合は、協定書を従業員代表との間で交わしておく必要があります(次ページ参照)。基本給の種類

それでは、新たな従業員を採用して1カ月が経ち、実際に「賃金」を支払うとき、いくらを支払えばいいのでしょうか。月給20万円と決め、ぴったり20万円を従業員の銀行口座に支払えばいいという単純なものではありません。労働基準法における賃金とは「賃金・給料・手当・賞与・その他名称の如何を問わず、労働の対償として、使用者が労働者に支払う“すべてのもの”」と定義されています。“すべてのもの”が対象となりますから、基本給、家族手当、通勤手当、ボーナスなどは賃金とみなされます。また、退職金の規程が就業規則にあるようでしたら、これも賃金に含まれます。賃金は基本給、各種手当、割増賃金で構成されています。そのなかで、最も大きな割合を占めるのが基本給です。人を1人だけ雇うときは、20万円、25万円など、社長の一声で決めてしまっても、社員の仕事ぶりを評価した給与ということが伝わっていれば、何の問題もありません。ですが、もう少し忙しくなり2人、3人と増えていったらどうでしょうか。不公平が生じないように、賃金を構成する基準を決める必要が出てくるでしょう。そこで、2種類以上の基準を組み合わせて決める方法をご紹介します。年齢給従業員の年齢に比例して決定する賃金です。生活保障上の視点が採用される場合に用いられます。勤続給従業員が会社に長く勤めれば、それに伴って自然に仕事の能力が上がり、同時に会社への貢献度が増すと考えられる場合に用いられます。職能給と職務給職能給は職務を行う能力について支払われる給与であり、職務給は、事務職、営業職というように仕事の内容によって決定する給与です。この2つを結びつけることにより、正確かつ公正な給与体系をつくることができます。業績給営業成績などと連動して決められる給与です。宅配便やタクシーのドライバー、外回りの営業マンなど、成績が明確な職種に用いられます。内勤の職種には不向きです。これらを組み合わせての運用となると、経営者には作成の負担が大きいので、専門家と相談しながら、導入する必要があるでしょう。各種手当はどこまで必要か

交通費や家族手当などは、従業員の立場からすると「支払ってもらって当たり前」と考える人がいますが、じつは法律的に定められたものではありません。自社から遠い場所に住んでいる人を採用したとしても交通費の全額を負担する必要はありませんので、その場合、「月1万5000円まで」と上限を決めておくといいでしょう。1人、2人と従業員が増えてきたときに、個別対応の時間ロスをなくせます。ほかに、家族手当、住宅手当、役職手当などがありますが、これらも法律上の規定はありません。出すか出さないかは経営者の判断で決めることが可能です。低コストを優先するのか、いい人材確保のために手当をつけるか、何を優先するかを検討するようにしましょう。残業代について仮に、賃金の総額を23万円と決めたとします。その場合、経営者が給与計算上で自分の時間と労力を削られないためには、月23万円を固定して支払うのがいいでしょう。残業代により、毎月の賃金が上下してしまうと、そのたびに所得税や社会保険料の金額が変わってしまうため、計算がたいへんになるからです。そこでおすすめなのが、「みなし残業代」として、残業代を一定にしてしまう方法です。採用時の面接でつぎのように説明しておきましょう。「うちの会社は、平均して月に15時間の残業が発生する場合が多いです。その残業代を含めて給与は23万円です」みなし残業代を設定するメリットは、毎月の給与計算に手間がかからないことですが、デメリットもあります。それは、15時間と設定した残業時間に対して実際は20時間となってしまった場合、超過した分は全額支払わねばならないということと、15時間に達しなかった場合でも翌月以降に繰り越すことはできず、すぐに支払う義務があるということです。なお、みなし残業制を取り入れる場合は、就業規則に必ずその旨を明記しておくようにしましょう。その際には、具体的な固定残業代の金額と残業時間を明記しなくてはなりません。たとえば、「基本給○○円、固定残業代(○○時間分)○○円」などのようにです。雇用契約書への記載と、労働者が納得しているものとしての署名をさせることも重要なポイントとなります。

労働時間・休日・休暇をどのように決めるか所定労働時間と法定労働時間とは労働時間は、会社が物販やサービス業をしている場合であれば、店の開店時間より前後を少し長くしたぐらいに設定しておけば、当面は問題ないでしょう。ただし、経営者が労働時間を設定するときに気をつけるべきことが1つあります。それは、「所定労働時間」と「法定労働時間」の違いです。・所定労働時間→会社で独自に決めた労働時間・法定労働時間→労働基準法により定められた労働時間(1週間40時間以内、1日8時間以内)じつは、この所定労働時間と法定労働時間の定義の違いをよく理解すれば、残業代の過剰支払いを防げることがあります。仮に皆さんの会社の所定労働時間が7時間だとすれば、法定労働時間よりも1時間短いことになります。この1時間の残業については、法定労働時間内の残業ということになります。残業代は一律1・25倍、と思っている経営者は意外に多いものですが、法定労働時間内の残業については、1・25倍の割増賃金ではなく、通常の時間単価で済むのです。人件費を必要以上に支払うことは、会社の経営をボディブローのように圧迫していきます。経営者は、人件費の管理に対して、人一倍注意を払い、無駄を省きましょう。休日の設定方法人を雇うとき、休日はどのように設定すればいいのでしょうか。なんとなく「みんなそうだから、週休2日でいいか」と安易に決めていないでしょうか。法律では、休日は毎週少なくとも1日、もしくは、4週を通して4日となっており、これを「法定休日」といいます。また法定休日以外の休日を、「所定休日」といいます。皆さんもご存じかもしれませんが、休日出勤の休日割増は1・35倍です。じつはこの1・35倍は法定休日の場合にのみ、適用されるのです。所定休日に働いた場合は、時間外労働とみなされ、1・25倍が適用されます。つまり、会社が週休2日制のとき、日曜日を安易に「法定休日とする」という文言を就

業規則に書いてはいけない、ということです。そのように記載してしまうと、たとえ土曜日に休んでいたとしても、日曜日に出勤すると割増率が1・35倍となってしまうからです。法定休日の曜日を特定する必要はない、と覚えておきましょう。休日と休暇、振替休日と代休の違い休日とは、就業規則によって、労働義務が発生しない日です。休暇とは、本来働かねばならない日に、従業員の申し出により、労働を免除する日です。先ほどの論理同様、休日出勤して働くと割増賃金が発生しますが、休暇日を取り崩して働いた場合は所定労働時間という認識になり、割増賃金は発生しません。もう1つ、振替休日と代休の違いについても理解しておきましょう。厚生労働省はつぎのように定義しています。振替休日とは、予め休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とすること要は、予め休日と定められた日が労働日となり、そのかわりとして振り替えられた日が「休日」となります。従って、もともとの休日に労働させた日については「休日労働」とはならず、休日労働に対する割増賃金の支払義務も発生しないのです。代休とは、休日労働が行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとするものであって、前もって休日を振り替えたことにはなりません。従って、休日労働分の割増賃金を支払う必要があるのです。このように説明すると、「では従業員が働いた休日は、代休ではなくて振替休日扱いにすればいい」と思われるかもしれませんが、単純にそうはいきません。振替休日とするには、就業規則にその旨を定める、当初の休日は労働日になる、事前に振替日を指定する、本人に前日までに予告する、という手続きが必要になります。

月単位の変形労働時間制を採用しよう労働時間や休日を設定するには、意外と多くの知識が必要だとおわかりいただけたでしょう。それでも、「自分の会社は月初が暇で、月末だけが忙しい。月末数日は、どうしても残業代の負担が大きくて困っている」という方もいるはずです。このような人は「変形労働時間制」の導入を検討してみましょう。もし皆さんの会社の1日の所定労働時間が8時間より短かったり、店舗の営業時間や工場の操業時間が8時間より長く、シフト制などを用いているのであれば、検討してみる価値はあります。変形労働時間制には1週間単位、月単位、年単位の3つがあります。ここでは導入しやすいとされている月単位のものについて説明します。月単位の変形労働時間制とは、1カ月の期間で労働時間を調整、平均して、週40時間にする方法です。たとえば、月末5日間は、毎月セール特売日と決めており、必ず残業が2時間ずつ発生しているというお店であれば、2時間×5日=10時間毎月10時間分の割増賃金が発生していることになります。このような場合、月末以外の日を所定労働時間より1時間短くし、7時間とすることで、無駄な残業代を減らせます。ただし、この制度を活用するためには就業規則にその旨を記載しておかねばいけません。

また、変形する期間に入る前に、従業員には事前に「どの日に何時間働くか」などを知らせておく必要がありますので注意してください。

「服務規程」をどのように決めるか服務規程とは簡単に言えば、就業規則で説明しきれなかった補足事項のことです。なぜ補足事項が必要になるのかというと、就業規則は、労働基準法により指定された内容を核として、最低限必要な事項のみでつくられるのが一般的だからです。皆さんのような「事業主側」が就業規則だけで従業員を雇い、会社を上手に経営していくには、活用しにくいのです。別のたとえを使って説明しましょう。たとえば私達の住む日本では、憲法、法律、条例などがあります。憲法はもちろん大切ではありますが、それだけで日本国を運営していくことはできません。主権は国民にある─というように、あまりに「基本的なこと、当たり前のこと」に限定して書かれているからです。国を運営するには、刑法や民法などの六法や、地域ごとの違いに対応するため地方自治体が独自に定める条令がないと、運営はうまくいきません。就業規則と服務規程にも同じ関係性がある、というわけです。服務規程のつくり方ここでは、皆さんが人を雇う際に実際に起こりうるケースに限定して、注意すべきポイントを7つ説明していきます。❶出退勤時間についてたとえば就業規則で業務開始時間を9時と決めていたとします。その場合、従業員が毎日8時59分に駆け込むように出勤していたとしても注意することはできません。「従業員は、始業時刻にただちに業務に着手できるようにする」などと服務規程を定めておきましょう。❷遅刻や早退、欠勤について遅刻しそうになると、メールやLINEで連絡をして「事前に連絡した」という既成事実をつくろうとする社員が現れたとします。それをよしとしないなら、「遅刻や早退、病気、交通事情などにより、やむを得ない理由があるときは、自ら電話で会社に連絡しなければいけない」と定めておきましょう。❸社用パソコンの使用方法について

事務職を採用する場合、パソコンで作業をすることになります。すると、あなたがいない間に、私的にインターネットを閲覧したり、メールをやりとりしたり、プリントアウトする従業員がでてくる可能性があります。ですので、「会社が必要と認めた場合は、アクセスログや電子メールの送受信について、データを検閲することがある」と定めておきましょう。また、顧客の個人情報や技術情報などを持ち出さない旨も定めておく必要があります。❹通勤手段についてマイカー通勤(2輪を含む)を許可する場合は、許可申請書を用意し、本人に提出させて、会社の許可を得てから通勤してもらうようにしましょう。事故を起こした場合、被害者から会社に責任を問われる場合がありますから、「マイカー通勤を希望するものは、運転免許証、任意保険証、車検証、それぞれの写しを許可申請書とともに提出しなければならない」と定めておきましょう。❺二重就業の禁止について就業規則により、二重就業禁止を定めていても、個人的な事情で「会社からの給料だけでは苦しいから……」と、早朝に新聞配達をしたり、深夜のコンビニでアルバイトをしたりする人が出てくる可能性があります。ただし、憲法には職業選択の自由が定められていますから、勤務時間外の活動を、会社が完全に止めることはできません。そこで、二重就業を「原則禁止」と定めたうえで、「希望する場合は、事前に会社に申告し、個々の事情に鑑みて会社が判断する」と柔軟性のある運用ができるように決めておきましょう。❻競業の禁止について社員が増えると、転職が当たり前だと思っている人、競争相手の企業に移ることについて倫理的に許されないという考えはもっていない人が現れると想定しておくべきです。また、在職中に、自社の商品やサービスを勝手に転売したり提供したりして小遣い稼ぎをする人も出てきます。そこで在職中はもとより「退職後○年間、同一業種、同一職種、同一地域において、競業行為を行ったり、競業他社に就労してはならない」と定めておきましょう。❼損害賠償について44ページで少しふれたように、雇用契約書には労働基準法により「損害賠償、違約金規定」を書き示すことはできません。ですが、これは一律に損害賠償額を決めてしまうのは禁止と定められているだけで、実際に会社が被害を受けた際に、それを請求することは可能です。たとえば従業員が、不注意で火事を起こしてしまい商品の在庫が100万円分、すべて灰になったとします。会社の管理体制の落ち度も問われますから全額を請求するのは難しいですが、それでも損害賠償請求を起こすことはできます。このようなケースで従業員が損害賠償を行う際、会社は従業員の同意なしに給料から賠

償額を天引きすることは許されませんので注意してください。また、損害賠償を行ったからといって、その従業員を無罪放免にする必要はありません。「損害賠償の発生によって懲戒処分を免れることはできない」と定めておきましょう。

経営者が知っておくべき保険の基礎知識保険未加入の場合のデメリットとは会社の形態が株式会社の場合、「社会保険」と「労働保険」は、従業員の有無にかかわらず、加入義務が発生します(一部業種を除き個人事業主は5名以上で加入義務が発生します)。しかし、面倒なことに、保険の種類ごとに、提出しなければならない書類は多く、管轄がそれぞれ違うため、提出先の役所が変わります。すでに会社として加入している事業者ならば、新たな従業員分の追加申請を行うだけで済むのですが、会社を起業させたり、個人事業主からの法人成り(法人化)などで、新たに加入義務が発生した場合、一から手続きを行わねばなりません。未加入のままでは法律違反となります。最近はマイナンバー制度が取り入れられ、役所間の情報共有もすすんでいるため、基本的に逃げることはできないと思っておきましょう。年金事務所から目をつけられて調査が入ると、保険料を過去2年間にさかのぼって追徴されることがあります。給与の額や人数によっても異なりますが、数百万単位となることもあります。また、雇用保険に加入していない場合は、ハローワークで人材の募集をかけることができません。会社に有益な助成金制度の利用も制限されます。さらに、社会保険や労働保険に加入をしていないと、たとえ求職者が、あなたの会社で人材の募集が行われていると知っても「保険もない会社に応募する気にはならないな」となり、優秀な人材を雇うことは不可能でしょう。もしあなたが人を雇って会社を発展させたいのならば、すみやかに、社会保険の加入手続きを行うようにしてください。加入手続きで多少の労力が必要なのは、事業所として、新たに加入するときです。それ以外は、3月の年度末及び4月の年度初めなど、従業員の入退社の時期に限られていますし、多くの書類は年に1〜2回の手続きで済む場合が多いです。ただし、従業員が増え、入退社が多くなると手間がかなりかかることになります。第3章では、経営者として最低限知っておかねばならない各種保険の知識についてわかりやすくお伝えしていきます。加入すべき保険の種類一概に「社会保険」といわれても、専門家でもない限り、どのような保険があり、それ

ぞれが何の役割を負っているのかをすべて説明できる人はまれです。皆さんの会社が加入すべき保険の種類と内容を正確に把握し、すみやかに手続きを行うためにも、正しく有意義な知識を身につけておくべきでしょう。皆さん、生命保険や自動車保険など個人の保険にいくつか加入されていることでしょう。個人の保険は、自分の裁量で種類と金額が決められるのに対して、社会保険は業種によって保険の種類が変わり、給与額によって保険料もその都度変わります。加入・未加入、保険金額の増減は、法律によって厳しく定められているため、個人の意思が入り込む余地はありません。そこが個人保険と社会保険の違いです。

社会保険(広義)は、社会保険(狭義)と労働保険の大きく2つの保険で構成されています。社会保険(狭義)には、①健康保険②介護保険③厚生年金保険の3つがあります。健康保険は、ケガや病気の治療に対する給付が行われます。介護保険は、本人に介護が発生したときに給付が行われます。厚生年金保険は、老齢、障害、遺族年金の給付が行われます。これら3つは、会社として加入が義務づけられている社会保険であり、新たに雇う従業員だけでなく、雇用主である皆さん自身にも加入義務があります。保険料は、会社と従業員がそれぞれ折半することになります。一方、労働保険には、①労災保険②雇用保険の2つがあります。労災保険は、仕事中にケガや病気になったり、障害者になってしまったり、死亡してしまった場合に適用される保険です。被保険者の遺族への給付も含みます。雇用保険は、失業や職業訓練に対する給付が行われます。この2つの保険は、その対象が従業員のみとなりますので、皆さんが加入することはできません。社会保険と労働保険について、さらに詳しく解説していきましょう。

社会保険①健康保険&介護保険とは健康保険について健康保険は、雇った従業員がケガや病気をした場合、金額の負担をできるだけ少なくし、治療をさせてあげるためのものです。個人事業主は国民健康保険に、会社勤めの人であれば勤め先の健康保険組合に、勤め先に健康保険組合がない場合は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入することになります。「新しく雇用するのは、アルバイトだから健康保険まで負担できない。加入させたくない」と思われる方もいるかもしれません。ですが、健康保険・厚生年金保険の適用を受けている事業所では「常時雇用している従業員は加入対象」となります。パートやアルバイトの場合、一般社員の労働時間の4分の3以上、労働日数の4分の3以上の勤務が、常時雇用の目安となります。勤務時間、勤務日数が常時雇用者の4分の3未満であっても、つぎの5つの要件すべてに該当する人は、加入させないといけません。短時間労働者の資格取得要件①週の所定労働時間が20時間以上あること②雇用期間が1年以上見込まれること③賃金の月額が8・8万円以上であること④学生でないこと⑤被保険者数が常時501人以上の企業に勤めていることまれに、ファイナンシャルプランナーによるネット情報で、年収が130万円以下の場合は加入させなくてもよいとしている例がありますが、それは誤りです。収入は関係ありませんので、注意してください。労働時間と労働日数によります。ただし、つぎのように「臨時的に雇われる人」まで加入させる義務はありません。・季節的業務に4カ月を超えない期間、使用される予定の人・臨時的事業の事業所に6カ月を超えない期間、使用される予定の人・臨時に2カ月以内の期間を定めて使用され、その期間を超えない人・臨時に日々雇用される人で1カ月を超えない人

では、皆さんが協会けんぽに支払う保険料はどのように決められるのでしょうか。その保険料率は、都道府県によって異なりますので注意してください。2017年4月現在、東京都で賃金の9・91%となっています。ぜひ、皆さんの会社の所在地を調べてみてください(次ページの表参照)。介護保険について40歳から64歳の人は、介護保険にも加入しなければなりません。保険料の支払いがスタートする以外には、とくにわずらわしい手続きは必要ありません。介護を受けざるを得なくなった場合に、自身の生活を成り立たせるための介護サービスが受けられるようになります。介護保険の保険料率は、全国一律で賃金の1・65%です。つまり、東京都の場合、合計で賃金の11・56%を支払うこととなります。そこから従業員と折半されるので、会社側の負担は5・78%となります。

社会保険②厚生年金保険とは被保険者に該当する従業員とは健康保険や介護保険と同様、常時従業員を使用する会社は、厚生年金保険に加入する義務があります。厚生年金保険への加入は会社単位ではなく、事業所単位(本社、支社、支店または工場など)で行い、新しく雇った人を、被保険者とするための手続きは事業主が行います。被保険者に該当する人は、基本的には健康保険の場合と同じです。臨時に使用される人や季節的業務に使用される人を除いて、就業規則や労働契約などに定められた一般社員の所定労働時間と所定労働日数の4分の3以上の労働時間、労働日数がある従業員です。また、一般社員の所定労働時間及び所定労働日数が4分の3未満であっても、つぎの5つの要件をすべて満たす人は、被保険者に該当します。なお、この場合の従業員は、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称を問わず、事業所に雇用される人すべてを含みます。短時間労働者の資格取得要件①週の所定労働時間が20時間以上あること②雇用期間が1年以上見込まれること③賃金の月額が8・8万円以上であること④学生でないこと⑤常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていることさらに、平成29年4月からは、従業員500人以下の会社でも、短時間労働者の従業員と合意すれば社会保険に加入できるようになりました。これにより従業員には、将来もらえる年金の増加、障害がある状態になり日常生活を送ることが困難になった場合もより多くの年金給付がある、などのメリットが生じます。年金の3階建て構造について日本の年金制度はいわゆる「3階建て」の構造になっています。1階が全国民共通の国民年金、2階が会社員、公務員のための厚生年金、3階が大企業などの年金制度である企業年金や、公務員独自の上乗せ制度である年金払い退職給付です。経営者にとっても、会社から経営者の保険料を支払うことができるため、いま現在、国民年金保険料・国民健康保険料を支払っている方は、いまより保険料が安くなることがあります。

また、2階建て部分の、厚生年金を支払うことにより、国民年金だけの状態よりも将来受け取れる年金額は確実に増えます。従業員と経営者の双方にメリットがありますから、「支払い負担が大きい」「加入手続きが面倒そうだ」という理由で加入しない状態を長引かせるのは、得策ではありません。なお、厚生年金から受けられる給付としては、老齢になったときの老齢厚生年金、障害を負ったときの障害厚生年金・障害手当金、死亡したときの遺族厚生年金の3つがあります。厚生年金の保険料率は、2004年の年金改革により、毎年少しずつ引き上げられることになり、2017年9月以降は賃金に対して18・3%で固定とされます。

会社側の負担は、折半となりますので、9・15%となります。

労働保険①労災保険とは加入は会社単位労災保険とは、業務中や通勤途中に、何らかの理由で負傷したり、障害が残ったり、死亡した場合、被災者やその遺族に対して給付を行う保険制度です。健康保険や、厚生年金と同じく、労働者を1人でも使用する事業所は、労災保険法の適用を受けることになりますので、加入の手続きをとらなければなりません。加入は会社単位(複数の事業所がある場合は事業所単位)で行うもので労働者ごとではありません。従って適用事業場に使用されている労働者であれば、負傷などをした場合、保険給付を受けることができます。なお、通勤途中・仕事中のケガ、仕事内容が関係する病気が労災保険の適用とされるのに対し、仕事以外・通勤中以外でのケガ、出産、仕事に関係のない病気などは健康保険の適用範囲になりますので気をつけましょう。ケガや傷害が労災に適用されるかどうかは、会社や個人が判断することはできません。届け出を受けた労働基準監督署に決定権があります。「従業員の不注意でケガをしただけだし、全治1週間にもならないから、届け出はやめておこう」と、勝手に判断して届け出を怠ると、監督が入ったときに労災隠しと認定されますので注意してください。また、「ケガの治療費は会社が負担するから、だまっていてほしい」というお願いも、労災隠しとなってしまいます。労災保険料は全額、事業主負担です。ただし、保険料率は職種によって違います。たとえば、農林水産業のように身体を激しく動かす仕事と、オフィスでのデスクワークでは、ケガをする確率が異なるからです。普通のサービス業などでは賃金に対して0・3%である一方、金属鉱業、非金属鉱業などでは8・8%の保険料率となります。

労働保険②雇用保険とは雇用保険は従業員が失業したときのセーフティーネット雇用保険の管轄は厚生労働省で、直接の窓口はハローワークとなります。失業した従業員の救済がメインなので、原則として経営者自身は加入できません。ただし、従業員の加入手続きは、経営者が行わねばならないことになっています。会社が倒産した場合などにも、従業員の生活がある一定期間は保障されるわけですから、面倒がらず手続きを行いましょう。経営者としての最低限の役割です。従業員が新たに雇用保険に加入すると、雇用保険被保険者番号が割り振られます。この番号は、一人一番号制となっており、従業員が転職するごとに、変わるものではありません。ですので、入社時にすでに雇用保険被保険者番号をもっているかどうか、確認しておく必要があり、もっていればその番号であなたの会社から届け出を行う必要があります。その確認を怠れば、また新たな番号が割り当てられることになり、同姓同名の別人というように役所に認識されてしまいます。この場合には後日、訂正届の提出など、面倒な手間が増えることになります。雇用保険から受けられるそのほかの給付雇用保険は、失業したときに失業給付を受けられる制度と認識している人がほとんどだと思います。もちろん、その認識で間違いはありませんが、ほかにも雇用保険から受けられる給付は多くあります。次ページの図の「教育訓練給付」という項目をご覧ください。

たとえば、営業をしていた従業員に、帳簿もまかせることとなり、簿記の資格を取得してもらうことになったとします。その簿記の学校に通う費用の一部を、ハローワークに負担してもらえる制度が、「教育訓練給付」です。負担率は実際にかかった費用の20%と決まっており、負担額の上限は10万円となっています。ほかにも、ハローワークからさまざまな助成金を受け取ることができます(第5章詳述)。皆さんの会社で新たな人材を採用しようというとき、その人物の能力が会社の求める業務に適正であるかどうかがわからないということがあるかと思います。どうしようか判断がつかず、結局その人物の採用を見送ったということにならないよう、トライアル雇用奨励金という制度が設けられています。これを利用すれば、月4万円の支給を最大3カ月間受けることができます。これらの原資はすべて雇用保険からまかなわれていますので、ぜひ事業所として雇用保険に加入するようにしてください。

保険に加入するための手続きを知る「社会保険」に加入するための手続き従業員を社会保険に加入させるには、まず会社が社会保険に加入していなければいけません。まだ加入していない経営者は、この本を読んだのをよい機会ととらえ、必ず手続きをすすめるようにしてください。担当窓口は、事業所を管轄する年金事務所となります。加入の際には、①健康保険厚生年金保険新規適用届②健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届③健康保険被扶養者(異動)届④健康保険厚生年金保険保険料口座振替納付(変更)申出書の4つの書類が必要になります。窓口でこれらの届出用紙をもらい、提出しましょう。これらの届出書は、日本年金機構のサイト(http://www.nenkin.go.jp/)からダウンロードすることも可能です。また、提出の際には「商業登記簿謄本」「出勤簿」「賃金台帳または雇用契約書」「労働者名簿」「源泉所得税の領収書」などのうち、年金事務所と相談のうえ、必要なものを添付するようにしましょう。提出の際は、直接窓口を訪ねなくても、電子申請や郵送でも受け付けてもらえます。新規適用届が年金事務所に受理されると、その月の初日が「社会保険の加入日」となり、年金事務所から「適用通知書」「被保険者資格取得確認通知書」が送付されます。その送付された適用通知書には、事業所整理記号と事業所番号が記載されています。この2つは今後、継続的に使用していくことになる、ひじょうに重要な番号ですので、大切に管理しましょう。また、被保険者資格取得確認通知書にて、標準報酬月額や、加入した被保険者の氏名などを確認し、手続きが無事行われたかどうかをチェックするようにします。保険料の支払いは、④の保険料口座振替納付(変更)申出書を提出していれば、加入月の翌月より口座からの引き落としとなります。提出しなかった場合は、保険料が記載された納入告知書が送付されてくるので、期日までに銀行などの金融機関にて支払うようにしましょう。「雇用保険」に加入するための手続き加入させるべき従業員をはじめて雇うことになった際には、雇用保険適用事業所設置届と商業登記簿謄本、個人事業の場合は、事業主の住民票などをハローワークに提出しまし

ょう。そして、会社としての手続きを進めると同時に、雇用保険被保険者資格取得届の手続きも行います。これは、あなたが雇用保険に加入させる従業員をハローワークに確認してもらうためです。もし、その従業員が正社員ではなく、アルバイトやパートタイマーでしたら、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書の写しの提出も必要になります。雇用保険被保険者資格取得届の提出期限は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までと定められています。その際、労働保険番号を記載する欄がありますので、まだ労働保険番号がない場合は労働基準監督署から知らされた番号を記入するようにしてください。従業員の手続きには雇用保険番号が必要です。初めての就職の場合は不要ですが、すでにもっている場合は本人から聞いた番号を記入するのを忘れないでください。「労災保険」に加入するための手続きまず、労働保険の保険関係成立届を労働基準監督署に提出しましょう。労働保険の保険関係成立届とは、労働者を雇い入れて事業がスタートしたことを労働基準監督署に知らせる大切な届出書類です。仮にこの届出書を出さずに、労働者を雇い入れ、その労働者に労災事故が起きたとすれば、費用徴収制度により、あなたは労災保険の給付金額の40%もしくは100%を支払わなければならなくなりますので、注意してください。提出期限は、保険関係が成立した日から10日以内と定められています。さらに、保険関係が成立した日から50日以内に「労働保険概算・増加概算・確定保険料・一般拠出金申告書(略:概算保険料申告書)」を労働基準監督署へ提出し、銀行などの窓口で労働保険料を納付しましょう。従業員に提出してもらうべき書類と必要な手続き従業員を入社させると、健康保険、厚生年金、雇用保険の加入手続きをするために、従業員に提出してもらわなくてはならない書類があります。提出物を雇用通知書や就業規則に記載しておいてもかまいません。代表的な提出物はつぎの通りです。・健康保険被扶養者(異動)届(扶養に入れる親族がいる場合のみ)・源泉徴収票(その年に前の会社の給与所得がある場合)・年金手帳(以前に加入していた場合、被扶養配偶者がいるときは配偶者の分も)・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書・雇用保険被保険者証(以前に加入していた場合)・口座振込依頼書(給与等の振込先)・通勤手当支給申請書

これらの種類を提出してもらうことにより、経営者は、健康保険、厚生年金、雇用保険の手続きに入ることができます。なぜ入社時に、通勤手当支給申請書が必要かといいますと、それは社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の決め方に関わってくるからです。社会保険料は「報酬月額」を「標準報酬月額の等級区分」にあてはめることにより決定します。報酬月額とは、基本給のことではありません。基本給のほかに、通勤手当や各種手当、残業代の見込み額、現物支給されるもの(食事や社宅)、これらすべてが含まれます。なお、標準報酬月額の等級区分は、健康保険で第1級からはじまり第50級まであります。厚生年金保険では、第1級からはじまり第30級まであります。通勤手当などの各種手当がすべて含まれた合計額(報酬月額)を標準報酬月額の等級区分に合わせて健康保険料、厚生年金保険料の両方が決定されるのです。健康保険料、厚生年金保険料の見直しは算定基礎と呼ばれ、毎年7月に行われ、9月に改定されます。昇給や減給などにより、大きく増減した場合は、月額変更届を提出し随時改定していくことも忘れないでおきましょう。つぎに従業員の雇用保険の手続きについてです。雇用保険の手続きには、以前の職場で加入していた場合は、被保険者番号をもっているはずですから、この番号を知らせてもらうようにしましょう。もし、本人がその番号を知らなければ、以前の勤務先名と期間などを資格取得届の備考欄に記入しておくと、ハローワークで探し出してくれるはずです。入社後はすぐに、雇用保険被保険者資格取得届と、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカード、雇用契約書(または労働条件通知書)を用意し、入社日の翌月10日までにハローワークに提出するようにしましょう。まれに、「従業員が試用期間中だから、雇用保険の手続きは行わない」という経営者がいますが、これは間違いです。たとえ試用期間、研修期間中であっても、法律的には雇用保険の加入義務がすでに発生していますので、入社日をごまかさず、正確な届け出を行うようにしてください。

実際にあった雇用中のトラブルから学ぶ第1章でお伝えした通り、近年、雇用中のトラブルは増えており、平成27年度の総合労働相談は100万件を超えました。これは8年連続の増加となります。これまでに、就業規則や給与規程、各種保険等について解説してきましたが、従業員採用を前にしっかり準備をしていても、思いがけないことで裁判沙汰になってしまったということがあります。そこで第4章では、雇用中に実際に起こった9つのトラブル例を掲載しました。これらの例から、どのような事柄が法的に問題になるのか、または問題にならないのかについて、さらに詳しく学んでいきましょう。起こり得る問題を事前に想定して対策を練っておくことで、従業員と会社の両者が幸せになれる会社づくりを目指せます。

実際にあったトラブル(1)長時間労働問題質問:残業のしすぎにより鬱になったと従業員の家族から、労災請求をされてしまいました。残業代も支払っています。何かおかしいとは感じていましたが、まさか鬱になるとは思いませんでした。こちらに非があるのでしょうか。答え:場合によっては、労働基準監督署による書類送検が行われることがあります。まず、従業員の過重労働が企業リスクにつながることを理解しておく必要があります。労働基準法では労働時間の限度を、原則として1週40時間以内、かつ1日8時間以内としています(労働基準法第32条)。これを超えて働いてもらうため、また、法定休日に働いてもらうためには、労働基準監督署に「時間外労働・休日労働に関する協定届」を届け出なければいけません(労働基準法第36条)。これは通称「36(サブロク)協定」と呼ばれています。36協定を届け出ていない企業の残業指示は、明確な法律違反です。たとえ口頭で従業員から同意を得ており正しく残業代が支払われていても、36協定なしの残業は違法なのです。厚生労働省が発表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、36協定未提出による残業について送検された企業名が掲載されています。実例をいくつか挙げます。あるタクシー会社のタクシー運転手が脳梗塞を発症しました。脳梗塞と過重労働はまったく関係なさそうに思えますが、過重労働が原因であるとして労災が認定されたのです。さらに、退職後の労働者が自殺をしたケースでも、過重労働が原因として遺族から労災請求され、業務上の災害と認定されたことがあります。いま、長時間労働とメンタルヘルスとの関連性の研究がすすんでおり、長時間労働による鬱病、脳梗塞などの病気に結びついてしまった場合も、労災が認定されてきています。この場合、経営者としてその責任を問われる可能性は充分考えられます。このように、人を雇うという行為は、多大な責任が生じます。リスクにさらされないために、経営者がまずすべきことは、就業規則に「業務上の必要性に基づいて時間外労働を命ずることがある」と記載しておくことです。さらに雇用契約書などにも、規定しておくとよいでしょう。

ただ、これらをしたからといって、従業員にいくらでも残業を指示できるというわけではありません。限度基準があることを覚えておきましょう(次ページの図参照)。過重労働に陥らない具体的な対策としては、・経営者が自ら、働き方に関するメッセージを発信・「朝型勤務」「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」など、効率的な働き方を促す取り組みの導入・時間外労働時間の見える化・部下の長時間労働抑制について、管理職教育の実施や人事考課項目としての追加・一定の時刻になった際のPCの強制シャットダウンなどが有効です。従業員が、過労死や自殺、鬱などになると、労働基準監督署による書類送検が行われることがあります。刑事罰もありますし、企業名や事業場名が公表されたりします。

民事訴訟が行われ、多額の賠償金の支払いを請求されることもあります。残業が何日も続くようなときは、経営者は従業員の身体的健康、精神的健康の両方に充分な注意をはらうようにしましょう。

実際にあったトラブル(2)給与支給問題質問:新入社員のAが「給料が約束と違う」と不満を言ってきました。求人票では月額20万円となっているのに、実際に支払われた額が19万円でおかしいというクレームです。求人票の給与額と実際の支給額が違うと、法律的に問題があるのでしょうか。答え:問題ありません。従業員は、額面上の給与よりも、「手取額」を重要視する傾向にあります。結論から言いますと、求人票の給与額と実際の労働契約の給与額が異なっていても問題はありません。求人票はあくまでも見込み額に過ぎないからです(八洲測量事件・東京高判昭和58年12月19日)。労働契約に基づいた給与額を支払っていれば、義務を果たしていることになります。ただ、採用時に従業員と会社の間で交わした雇用契約書または、会社が交付した労働条件通知書と、実際の支給額が異なる場合は、話は別です。その分の差額を経営者は支払わなければなりません。労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(労働基準法第15条第2項)。なぜなら、労働契約とは「労働者が一定の労働条件のもとに労務を提供し、それに対し使用者が対価を支払うことを約束した契約」のことを指し、書面による契約はもちろん、口頭による契約であっても、労働者・使用者の両者がその契約内容に合意していれば、労働契約は成立していることになるからです。「労働条件通知書兼雇用契約書を作成する」の項目(41ページ)でも述べたように、労働条件通知書などの書面では、つぎの労働条件を明示しなければならないことが決まっています(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条)。①労働契約の期間②就業の場所・従事する業務の内容③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項④賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締め切り・支払の時期に関する事項⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)

なお、労働条件の明示義務に違反している場合は、30万円以下の罰金という罰則を受けることになります(労働基準法第120条)ので、注意してください。

実際にあったトラブル(3)懲戒解雇問題質問:店が繁忙期で忙しいので、ある社員に事前に残業をお願いしたところ「その日は、デートがあるのでできない」と拒否されました。その繁忙期は1年に1度の重要なセール日にあたります。会社命令に従わないで残業を拒否した社員を懲戒解雇することはできるのでしょうか?答え:就業規則に基づいた一定の手続きが必要です。社員に残業をしてもらうためには、まず使用者としてすべきことがあります。労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定を行い、この書面を労働基準監督署に届け出る必要があります(36協定)。そのうえで、36協定の範囲内で一定の業務上の理由があれば、就業規則に「労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる」旨を定めることによって、当該就業規則の規定が合理的なものである場合に限り、具体的に労働契約の内容を定めることができます。これで、労働者は残業をしなければならないことになります(日立製作所武蔵工場事件・最一小判平成3年11月28日)。ただし、36協定と就業規則の規定があるからといって、残業を拒否すれば即解雇できるわけではなく、就業規則に基づき、一定の手続きを行わなければなりません。前記の判例のケースでは、残業を拒否した社員に出勤停止の懲戒処分を行っています。その後も残業を拒み続け、懲戒処分を3回行っても改善されなかったので、やむなく懲戒解雇に踏み切ったのです。このケースでは、懲戒解雇された社員が、解雇後「解雇が無効である」と会社を訴えましたが、会社が勝訴して解雇が認められました。この会社の就業規則には残業を命じる場合、「生産目標達成のため必要ある場合」「業務の内容によりやむを得ない場合」「その他前各号に準ずる理由のある場合」と記載されていたことが勝訴の大きな要因です。判例では、これについていささか概括的、網羅的であることは否定できないが、これらの記載事項が相当性を欠くとは言えないと判断されました。就業規則とは、裁判においてこれほど力を発揮するものなのです。就業規則という文書で従業員と契約を交わしておくのは、ひじょうに大切です。

ただし、家族の介護や育児など「正当とされる理由」があれば、残業させることはできません。ある会社では「パソコンで目が疲れたから、これ以上残業して書類作成をすることは

は間違いないでしょう。気をつけなければいけないのは、経営者から不利益な取り扱いがなかったとしても、実際には「仕事を続けるのが難しい状況」になってしまうことがあることです。マタハラはセクハラやパワハラと違い、同性が味方になってくれず、むしろ女性からいじめのようなことを受けるケースも生じるからです。職場の同僚同士の関係悪化は会社の業績に大きな影響を与えます。経営者は、同僚同士の関係にも、常に気を配っておかねばなりません。

できません」と拒んだ従業員の訴えが認められたケースもあります。従業員本人や上司が正当であり、妥当だと考える理由が存在すれば、パソコンで目が疲れたことも「正当な理由」と判断されるのです。

実際にあったトラブル(4)マタハラ問題質問:従業員が近く出産することになり、育児休業をとりたいと申し出てきました。ですが、子どもが1歳になるまでの1年間と数カ月は長く、復帰まで待つことができません。それまで別の人を雇わなくてはならず、戻ってきたときに2人同時に雇うことはできません。ですので、これを機に退職してほしいとお願いしましたが、従業員からはマタニティハラスメントだと言われました。これは法律違反になるのでしょうか。答え:法律違反になります。妊娠・出産・育児休業等を理由として、従業員に“不利益な取り扱い”をすると法律違反となります(男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第10条)。世間でいうところのマタハラ(マタニティハラスメント)です。妊娠・出産・育児休業等の終了から1年以内に不利益な取り扱いがされた場合に、法律違反と判断されます。不利益な取り扱いが1年を超えていても、その取り扱いの実施時期が事前に決まっている場合は該当してしまうので、1年というのはあくまでも1つの目安です。平成26年10月23日の最高裁判所判決を受けて、以降の裁判ではほとんど同じ内容で通達が出ています。では“不利益な取り扱い”とは具体的には何を指すのでしょうか。①解雇、契約期間の定めのある雇用契約において雇用期間が満了したときに契約を更新しない(雇い止め)②正社員だったものを非正規社員に変更することを強要する、または降格、減給、不利益な配置変更などを行うことなどを指します。ただし、例外が2点、認められています。①業務上の必要性が不利益な取り扱いの影響を上回る特段の事情がある場合②本人が同意し、一般的労働者が同意する合理的理由が客観的に存在する場合例外はさておき、たとえ妊娠が理由でなくても、従業員の妊娠時には「内容とタイミング」を考えて対応しなければ「妊娠等が理由で不利益な取り扱いがされた」と受け止められてしまう可能性があります。マタハラは企業側のリスクよりも、実際に妊娠をしている女性のほうがたいへんなこと

実際にあったトラブル(5)休職問題質問:最近気分が悪い日が続くと訴えてきていた従業員が病院に行くと、鬱病と診断されました。しばらく休職したいという申し出がありましたが、会社が責任を問われることはあるのでしょうか。また休職中の給与や社会保険料はどうすればいいのでしょうか。答え:心の病が労災認定されることも。休職に関しては、就業規則内で規程をつくっておきましょう。近年、精神疾患を理由として休職する社員が増えています。そのような社員に対して、会社としてどのような対応をすべきでしょうか。じつは、休職については、労働基準法で特に定めがありません。会社は、法的には従業員に休職を与える必要がないのです。従業員からの申し出により、休みたいというのであれば、労務の提供が行われていないことになり、これは従業員の債務不履行に当たりますので、労働契約の解除をするのかどうかという話になります。そこで、このような従業員を想定し、就業規則のなかでの休職規程をしっかりとつくっておくことが、重要となってきます。経営者としてある程度の補償をしてあげたいというのであれば、「休職中は、○カ月の期間、休職前の月額賃金の○割を支払う」という規程をつくってあげればいいでしょう。それが無理であれば、「健康保険の傷病手当金のみで、賃金の支払いはなし」と明記しておきましょう。ただ、賃金は止められても、休職中の健康保険や年金の支払いを止めるわけにはいかず、ふだんと同じように、会社と従業員の双方に負担が生じ続けます。従業員負担分については、いったん会社が代わりに全額を支払っておき、休業明けに従業員に精算してもらうという会社が一般的です。注意したいのは、鬱病などの精神疾患の場合は、いったん復職しても、繰り返し休職するケースが多いことです。あまりにそれを容認する内容の就業規則を定めてしまうと、一緒に働いている同僚のモチベーションに影響が出ることが予想されます。セールなどの繁忙期に休んだり、遅刻や早退が許されているのを見ると、やる気がわかないという従業員もいます。「自分も鬱病ということにしてもらって、同じように休みたいな」

と考える従業員が現れる可能性もあります。じつは、休職の問題は、休ませ方よりも復職のさせ方のほうが難しいといえます。休職中の従業員としては、「生活のためにも稼がないといけないので、早く復帰しよう」と焦ってしまうケースが多いのです。完全に治っていない状況での復帰を許してしまうと、さらに病状が悪化する危険性があります。それが、会社が原因と認められてしまうと、安全配慮義務・健康配慮義務違反として賠償金を支払えという訴えを従業員が起こすこともできます。心の病が会社の責任として労災認定されてしまう基準は、①鬱病など対象となる心の病になっていること②発病前おおむね6カ月以内に、客観的に仕事による強い心理的負荷が認められること③仕事以外のストレスや、本人の状態や性格などによって心の病になったとは認められないことと定められています。経営者はふだんから従業員のメンタルヘルスに対して、充分なケアを行うとともに、残業の削減や有給休暇の取得推進相談窓口の設置など具体的な施策を行う必要があるのです。

実際にあったトラブル(6)退職問題質問:5月に会社を自己都合で辞めた退職者が、7月の夏季賞与を支払ってほしいと請求してきました。「辞めた人に賞与など、支払いたくない」と思い、現在、支払いを拒否していますが、法律的にはどうなのでしょうか。答え:法的には賞与を支払う必要はありません。質問者の会社の夏季賞与計算期間が12月〜5月まで、支給が7月初旬だったとします。5月に会社を辞めた社員は、賞与の計算期間に在籍して働いていたから支払えと主張してきたということですね。結論を言うと、たとえ計算期間に働いていたとしても、法的には、賞与を支給すべき必要はありません。じつは、賞与というのは、法律的には経営者に支払い義務はありません。「会社の利益が出たから」「従業員ががんばったから」という理由により、あくまで任意で支払っているという類のものです。つまり、この退職者に対して、賞与を支給するかどうかは、経営者と労働者との間の契約で決まります。賞与を社内制度として設ける場合には、必ず就業規則に定めなければならないことになっています。このような従業員の訴えを避けるためにはまず「支給日に在籍をしている者に対して賞与を支給する」という規定を設けておくことをおすすめします。実際に裁判になった事例もありますが、退職をしており在籍していない者に対しては、賞与を支給しなくてもよいという判例が出ています(大和銀行事件・最一小判昭和57年10月7日)。賞与には、支給後の将来も引き続き仕事をすることによって、これからも会社に貢献してもらいたいという意味合いがあります。辞めた人に将来の期待はできませんし、支給日に在籍しているかどうかで判断することは、賞与受給者を明確にできるという意味で合理性があります。ただし、自己都合ではなく、会社都合による退職の場合は、そうではありません。経営者が「この従業員には賞与を支払いたくないから、前日に辞めてもらおう」というように懲戒解雇したとしても、社員が自分の意思で会社を辞めるわけではないのですから、訴えられれば、支給日に在職していなくても支給義務が発生する場合があります。また、会社が年俸制を採用している場合も支給義務を問われることがあります。

年俸制は年間で支給する金額を契約で定めて分割して支給しているに過ぎず、実態としては賃金と考えられるからです(山本香料事件・大阪地判平成10年7月29日)。ちなみに、給与については、給与計算期間に働いていた場合には、支給日に在籍していなかったとしても支給する必要があります。給与は労働の対価だからです。

実際にあったトラブル(7)有給休暇問題質問:私の会社は、社長である私1人と、パートの若い主婦の2人だけで切り盛りしています。そのパートさんから「来週の水曜日にお休みをいただきたいのですが……。有給休暇ということでお願いします」と言われました。正社員ならわかりますが、パートに有給休暇が必要だとは思えません。答え:パートやアルバイトの従業員にも有給休暇をとる権利が発生します。ですので、会社側は有給休暇を与えるということを前提で、時給や働き方を定めておく必要があります。ただ、すべてのパート・アルバイトに同じだけの日数が発生するわけではありません。まず、入社から6カ月以上の継続勤務と、その期間80%以上の出勤をしていなければ有給休暇自体が認められません。つぎに、週に30時間未満で、週4日以下の場合、左の図のように比例付与方式で有給休暇が与えられます。なお、週に30時間以上、あるいは1日1時間でも週5日働いている、または、1年間に217日以上働いている従業員の有給休暇は、正社員に準じます。ただ、有給休暇の際に支払う賃金は、正社員と同じではなく、働き方に応じて少なくなります。1日4時間しか働かない人の1日当たりの有給休暇として支払う金額は4時間相当です。正確には、つぎのいずれかの方法で計算をします。①平均賃金(過去3カ月間における1日当たりの賃金)②通常の賃金(所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金)③標準報酬日額(健康保険法の考え方に基づいた1日当たりの賃金)このうちどれを基準として、計算するかは就業規則や労使協定で定めておきましょう。一般的に通常の賃金を選択している会社が多いでしょう。

正社員の場合は、雇ってから6カ月間働いてくれた場合に、最低10日の有給休暇を与えることになっています。さらに、1年ごとに1日増しで有給休暇は増えていきます。6カ月働くと10日、1年6カ月働くと11日、2年6カ月働くと12日となります。3年6カ月以降は1年ごとに2日増しで増え、6年6カ月働くと20日間の有給休暇を与える必要があります。1年間に発生する有給休暇の上限は20日なので、6年6カ月以降は毎年20日間を与えればよいことになっています。有給休暇の時効は2年ですから、長く勤めてくれている社員さんの有給休暇は最大で40日間にもなることがあります。では、パートだった人が正社員に昇格した場合はどうなるのでしょうか。入社から6カ月間はパートで、7カ月目に正社員になった場合、その年の有給休暇は正

社員と同じだけ与えなければなりません。

実際にあったトラブル(8)試用期間問題質問:ここ数年、あまり質のいい正社員を確保することができておらず困っています。もちろん3カ月という一般的な試用期間を設け、人物や適正を見極める努力はしていますが、それでもうまくいかないのが現状です。試用期間を1年に延ばすことはできるでしょうか。答え:法の定めはありませんが、1年を超えると公序良俗に反すると判断される可能性が高くなります。この社員は辞めてほしい――そう思いながら社員を雇っている会社は意外と多いそうです。試用期間を設けていても、問題のある従業員というのは、試用期間中はおとなしくしているものです。そして、試用期間を過ぎた瞬間に、その本性を現します。繁忙期に有給休暇を使用して休む、残業を拒否する、仕事中に私用メールばかりするなど、です。しかし、どんな理由であれ、正社員を解雇するにはいくつかの手続きを踏まねばなりませんし、解雇予告手当など追加の支出が出ることもあり、小さな会社の経営者ほど、その痛手が大きく、簡単な問題ではありません。そうなると、採用する段階で慎重にならざるを得ませんが、そうはいっても、一度や二度の面接と、数カ月の試用期間で、適正があるかどうかの判断はつきません。ですので、試用期間を1年ぐらいとって、その間でゆっくりと判断できないものか――こんなふうに考えてしまうのも無理がないと思います。じつは、試用期間の長さは、法律では具体的に定められていません。ただし、判例では「ブラザー工業事件・名古屋地判昭和59年3月23日」において、“合理的範囲”を越えた長期の試用期間の定めについて、公序良俗に反し無効であるとされています。試用期間を1年、2年、3年と延ばしたとしても、それは同時に従業員が不安定な立場に長くおかれる、ことを意味します。そうなると反対に、やる気のある人物のモチベーションを阻害してしまう要因にもなってしまうのです。そこで、一般的には試用期間を3カ月以内と、就業規則で定めている会社が多いようで

す。また、ほかの判例を参照してみると、もともとの試用期間と合わせて6カ月以内とするのが妥当なように思います。1年を超えてくると公序良俗に反すると判断される可能性が高くなります。費用面では、労働基準法第21条にて、試用期間が14日以内ならば、解雇予告手当を払わなくてもよいことが定められています。逆に言うと14日を超えると解雇予告手当が必要になるので注意してください。

実際にあったトラブル(9)みなし残業問題質問:退職した従業員から、残業代の精算を求められました。会社からはみなし残業代として、従業員に一律に支払っておりましたので支払いたくありません。どうすればいいのでしょうか。答え:就業規則に明記して制度として導入していないと、支払わねばなりません。「今月で辞めさせてもらいますが、いままでもらっていなかった残業代をいただきたいのですが?」「えっ!何言ってるの?うちはみなし残業だよ。給料に残業代は含まれている。君も納得して働いていたんじゃないのか」「いえ。そういう認識はありません。残業代をお支払いください」質問者の会社では、このようなやりとりがあったそうです。もちろん、みなし残業代を従業員に支払っていたのは悪いことではありません。ですが、61ページでも述べたように、固定残業代として支払うということを就業規則のなかに明記し、制度として導入していないと、裁判を行った場合に未払い残業代を支払わなければならないことになります。過去の判例では、通常の労働に対する賃金と、時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分を明確に区別して、判別できるようにしておくべきだと述べられています(高知県観光事件・最二小判平成6年6月13日)。固定残業代にすると当然、基本給が小さくなります。入社時にしっかり説明しておかないと、会社に不満を感じる従業員も出てくるでしょう。ですから、固定残業代を導入していることをしっかりと従業員さんに伝えて、合意、納得のうえで働いてもらわねばなりません。従業員からの理解を得るため、丁寧に説明するのは会社の役目となります。また、説明の際には、その固定残業代が何時間分の残業代に相当するのかも伝える必要があります。残業代の内訳がどうなっているかについては、就業規則以外にも、雇用契約を結ぶときに労働条件として文書で通知をしておきましょう。すると、従業員はその内容を理解していたとして、裁判などでは有利になります。

ただし、たとえ固定残業制度を導入していたとしても、設定した残業時間を超えて働いた分については、残業代を支払う必要がありますので、注意してください。そのほか、残業代に関してのトラブルで多いのは、従業員の“ダラダラ残業”です。本当は残業する必要がないのに、残業代目当てで、就業時間以内には仕事を終わらせず、わざと労働効率を悪くしていく人がいた場合です。残業をだまって見過ごしていると「黙示の時間外労働命令」が出されたとみなされ、残業が正当なものとなり、残業代を支払わなければなりません。こうなると、人件費が膨大となり、会社経営を根幹から圧迫してしまうことになります。ですので、時間外労働を許可制にしておくことをおすすめします。申請書を作成し、業務の内容、申請の理由、予定時間数などを記入させ、あなたの承認を得てからでないと時間外労働ができないようにしておきましょう。

補助金・助成金の基本について知ろう申請するだけでお得?意外と知らない補助金・助成金の基本「パート・アルバイトを正社員に転換したら、1人当たり60万円支給」「高齢者やシングルマザーを採用したら、最大60万円支給」このようにご紹介すると、驚かれる方もいらっしゃると思います。補助金・助成金については、多くの経営者が知らずに、活用しきれていないことが多いようです。もしくは、自社で申請できそうなものを申請期限後に知り、「しまった〜」と、大いに後悔したという経験をすでにおもちかもしれません。本業以外の何十万、何百万という金額が経営にもたらすインパクトというのははかりしれません。数字の面から考えてみましょう。たとえば、皆さんの会社の売上が5000万円だとします。昨年度には、材料代や仕入代などの売上原価、人件費&販管費などを差し引き250万円の利益が出ました。これは、250万円の利益を出すためには5000万円の売上が必要だということを表しています。利益率では5%相当です。5000万円の売上をつくるために、売れる商品やサービスがないかと、常に業界新聞やニュースなどを見て勉強し、朝早くから夜遅くまで働き、従業員が帰ったあとでもたまった雑務や翌日の仕事の用意などに忙殺される毎日を送ったのだと推察します。5000万円を売り上げるというのは、ひじょうにたいへんだと感じています。パート・アルバイトがとても優秀で、正社員になってもらったとしても、そもそも補助金・助成金制度を知らなければ、60万円をもらいそこねてしまいます。この60万円を5%の利益率として売上換算すると、いくらになるかおわかりでしょうか。60万円÷5%=1200万円となります。60万円というのは、営業外収入ですから、売上換算で1200万円分の損をすることになるのです。補助金・助成金を活用するメリットとはこのように、経営に大きなインパクトをもたらす補助金・助成金ですが、長所と短所の両方を知ったうえで正しく利用しないと、手間やコストだけがかかって、結局何も得られ

なかったということになりかねません。主な長所と短所を挙げておきます。補助金・助成金の長所①お客様へのPR材料として活用補助金・助成金を獲得することは、公的機関の審査を通過したことを意味します。ホームページや広告物などの営業ツールで、「この事業は△△の○○補助金を受け、実施されています」という但し書きをつけられるのでおすすめです。また、事業をさらに発展させるときに、通常の金融機関からの借り入れも有利になる可能性があります。②事業計画を考えるきっかけになる補助金の申請を受けるとき、その内容によっては、短中期の事業計画書の提出を求められることがあります。これを作成することによって、自社の現在おかれた立場と未来のすすむべき道が見えてくるでしょう。本来、補助金を受けなくてもやっておかねばならないことではありますので、副次効果ともいえます。補助金・助成金の短所①経営方針に矛盾した行為の助長補助金・助成金を獲得しようという経営者のなかには「先にお金ありき」という考えで、行動する人がいます。もちろん、企業経営にとってお金は大切ですが、お金が入るからといって、企業経営に矛盾する助成対象の活動をすると、かえって経営に悪影響を及ぼすこともあります。なかには、助成金が受け取れることに気をとられ、業務遂行上、必要な知識以上のボリュームを盛り込んだ講演会を開き、現場が混乱したというケースもありました。いくら補助金・助成金が獲得できるとしても、経営方針をブレさせる活動はしないよう、お気をつけください。②手間やコストがかかる申請をした人ならわかりますが、書類をつくるには意外なほど時間をとられます。本来、本業に専心しなければいけない時間を、役所を訪ねたり、書類の作成などに費やすわけですから、受け取りに失敗すると、それは無駄足となってしまいます。また、そうなることが嫌で、書類の作成すべてを専門家に依頼する人がいますが、手続き費用が必要となります。なお、厚生労働省の助成金は、社会保険労務士でなければ申請代行ができませんので、違法業者に発注しないように充分注意してください。

補助金・助成金の探し方専門家に聞くのがベスト補助金・助成金の情報は、担当の役所や窓口がそれぞれ違うため、多くの情報源をチェックする必要があります。探しているだけで時間をとられてしまいますので、まずは顧問税理士や社会保険労務士など親しくしている士業の先生に「いい補助金・助成金情報があったら、いつでもお知らせください」とお願いしておくのがベストです。皆さんの会社の規模、業種業態を考慮に入れて、教えてくれるでしょう。また、補助金・助成金情報をまとめて紹介しているサイトなどがありますので、月に1度と頻度を決めて、チェックすることもご一考ください。補助金・助成金情報をまとめて紹介しているおすすめサイトミラサポ(https://www.mirasapo.jp/subsidy/)JNet21(http://jnet21.smrj.go.jp/raise/index.html)補助金と助成金の違いここまで一口に補助金・助成金という言葉を用いてきましたが、この2つには違いがあります。補助金主に経済産業省から給付されるのが「補助金」で、公募制での募集となります。公募制ですから、単に応募要件を満たしているだけでは、採択されるかどうかは未知数です。確実に採択されると思って、その金額をあてにして、事業をすすめている場合は注意してください(※補助金の性格上、個別例を載せても、締め切りがあり応募できないことが多いので、本書では割愛いたします)。補助金の多くには、応募締め切りがあります。締め切りギリギリに提出する企業が多いようですが、それはあまりおすすめできません。全体の額として○○億円と予算枠が設定されており、その枠の助成額を役所が全部使い切ってしまうと、締め切り前でも給付が終わってしまうことがありますから、基本的には早く出せば出すほど、有利になります。前期・後期という2つの締め切りが設定されていたとしても、「後期に提出しても大丈夫だろう」と安穏とかまえるのではなく、前期のうちに応募するのがベストだといえます。

助成金主に厚生労働省から給付されるのが「助成金」で、これは申請が通れば基本的には給付されます。つまり、受給要件を満たすことに専念すれば、多くの場合、支給が約束されます。補助金よりも助成金のほうが、獲得確率は高く、利用しやすい制度だといえるでしょう。

おすすめの助成金この項では、厚生労働省の助成金のなかから、人を雇うことを予定している皆さんに該当しそうなものをご紹介します。1キャリアアップ助成金人材育成コース2キャリアアップ助成金正社員化コース3特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)4トライアル雇用奨励金5障害者トライアル雇用奨励金6特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)1キャリアアップ助成金人材育成コース厚生労働省には、キャリアアップ助成金という助成金があります。これは皆さんにとって、たいへん利用しやすい制度です。この助成金には、8つのコースがありますが、ここでは人材育成コースについて説明します。この助成金は、パートやアルバイトの従業員に対して、①一般職業訓練(以下OFFJT)、または、②有期実習型訓練(「ジョブ・カード」を活用したOFFJT+OJT)などを行った場合に支給されるものです。①のOFFJTとは、「生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる職業訓練」と定義されています。飲食店でたとえると、普段レストラン内でお客様の応対をする従業員に対して、社内の別の会議室などにおいて、オーダーの聞き方、料理やお皿の出し方などの基本を教えるための講習をする、あるいはそのための社外の研修に参加するということです。現場で営業時間内にお客様と直接対面しながらする指導は含まれません。事務職ならば、電話の応対の仕方を教える、名刺の渡し方・受け取り方を教える、敬語の使い方を教える、専門業種に必要な知識を教える、といったことを、業務以外の場所で、簡単な冊子や資料を設け、講師がカリキュラムに沿って行う講習会などが該当します。訓練終了後に、中小企業に対しては賃金助成として1時間当たり760円、経費助成としては最大30万円が支給されます。②有期実習型訓練のジョブ・カードとは、個人の職業能力を証明する履歴書のようなものです。

・キャリア・プランシート・職務経歴シート・職業能力証明〈免許・資格、学習歴・訓練歴、訓練成果・実務成果〉の3種類のシートで構成されています。ハローワークにいる「ジョブ・カード作成アドバイザー」と従業員が面接(キャリアコンサルティング)し、その結果を記入したうえで、従業員に渡されます。履歴書では書き切れないその人物についての情報が記載されているため、職業能力などを客観的に評価することができます。つまり、有期実習型訓練は、このジョブ・カードを使用したOFFJTと、実際の現場での指導(OJT)を組み合わせた職業訓練のことをいいます。訓練期間は、3カ月以上6カ月以内が設定可能で、実施する場合、企業の規模や業種に制限はありません。訓練の終了後には、OFFJTと同じく、中小企業に対しては賃金助成として1時間当たり760円、経費助成としては最大50万円が支給されます。OJTの実施助成としては1時間当たり760円が支給されます。ただし、一般職業訓練と比べて実施の難易度は少し上がりますので、都道府県労働局、ハローワークのほか、地域の商工会議所の窓口を訪ねることをおすすめします。専門のアドバイザーが、訓練実施計画の作成や、ジョブ・カードの作成、助成金支給を申請するためのサポートやアドバイスなどを行ってくれます。2キャリアアップ助成金正社員化コース優秀なパート・アルバイトを正社員に昇格させたい――そう思ったときに助成金を申請できる制度です。通算で雇用期間が6カ月以上であり、無期雇用労働者、有期契約労働者、派遣労働者が対象となります。支給対象の企業となるには、①キャリアアップ計画書を提出する②管轄の労働局長の認定を受ける③就業規則に正社員への転換制度を盛り込み運用するの3点をクリアしなければなりません。管轄の労働局長の認定を受ける際には、①③を「事前に」準備しておかねばなりません。あとで提出するというのは認められませんので、注意してください。正社員にしたい従業員がパートやアルバイトのときに、基本となる就業規則をしっかりつくっておき、実際に運用してから届け出るようにしましょう。

また、申請後、審査結果が出るまで、3~4カ月かかる場合がほとんどです。審査通過後、助成金が入金されるまで、さらに3~4カ月の時間がかかります。つまり、就業規則をつくり運用し、届け出て、助成金が支給されるまで、ざっと1年ぐらいの長期スケジュールを立てておく必要があるということになります。なお、助成金には申請期限があります。申請期限を過ぎてしまうと助成金は支給されません。期限は「正社員登用後、6カ月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2カ月以内」です。1名につき57万円が、15人分855万円まで受給可能です。生産性要件を満たせば、1名につき72万円、15人分1080万円まで受給可能です。支給までの流れをまとめるとつぎのようになります。○助成金計画申請と計画認定平成28年4月1日Aさんをアルバイトとして雇用(就業規則も同時作成しておく)○就業規則の変更平成28年10月1日Aさんを正社員として雇用(雇用契約書を交わす)平成29年4月〜Aさんの助成金申請可能期間平成29年6月申請期限締め切り平成29年8月〜9月助成金支給の決定平成29年12月~平成30年1月助成金支給また、左ページにキャリアアップ計画書の作成例を掲載しました。例を参考に、皆さんの会社に合う内容で作成しましょう。

3特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)高校、大学、専門学校の既卒者や中退者で、これまで1つの職場に1年以上雇用されなかった人を採用する場合は、この助成金を申請できます。これらの若者を採用する利点は、彼らが「危機感」をもっていることです。卒業後3年以内の若者は「第二新卒」と呼ばれています。希望をもって就職したにもかかわらず、上司や職場環境などに恵まれなかったり、本人に学生時代の甘え癖が残っていたことから「こんなはずじゃなかった」と1回目の就職に成功しなかった若者のことをいいます。彼らはたまたま運に恵まれなかっただけで、つぎの会社ではもう失敗したくないという強い危機感があり、モチベーションが高くなっています。

こういった若者のなかには、原石のような才能をもっている人がきっといるはずです。そんな彼らを見つけ、一人前の社会人に育てることで、皆さんの会社を発展させることに大きく尽力してくれるのではないでしょうか。この助成金には、2種類のコースが設置されています。①既卒者等コース②高校中退者コース①の場合、1年間勤務を継続できればその時点で50万円、その後2年目、3年目で10万円ずつとなり、最大で70万円となります。②の場合、1年間勤務を継続できればその時点で60万円、その後2年目、3年目で10万円ずつとなり、最大で80万円となります。採用までの手続きのすすめ方としては、まず、既卒者が応募可能な新卒求人の募集を行います。つぎに採用選考を行い、対象者を雇います。1年間定着後に第一期の支給申請を行い、さらに1年後、2年後の3度にわたって支給申請を行うという流れになります。なお、この助成制度は、平成31年3月末までに募集を行い、同年4月末までに雇用をしたケースが対象となっています。また、前項のキャリアアップ助成金と同様に、申請の締め切り期限を過ぎると支給はされませんので、充分注意してください。経営者の3親等以内の親族を雇用した場合、過去3年間に会社と何らかの雇用、就労の関係があった場合には適用されません。4トライアル雇用奨励金仕事が長続きせず、安定的な就職が困難になっている人について、ハローワークなどの紹介により、一定期間試行雇用した場合に助成が行われるものです。たった一度の面接で適正を見抜くのは難しいでしょう。また、試用期間を設けても、その試用期間にも賃金が発生するため、雇用自体をあきらめようとする経営者は多くいます。トライアル雇用奨励金は、賃金の一部を助成することで、経営者に常用雇用を促すことを目的とした制度なのです。受給するためには、雇い入れ予定者の属性のほかに、①ハローワーク・紹介事業者等に提出された求人に対して、ハローワーク・紹介事業者等の紹介により雇い入れること。求人の際にはトライアル雇用である旨を記載すること②原則3カ月のトライアル雇用をすること③1週間の所定労働時間が通常の労働者と同程度であること(1週間の労働時間が30時

間以上であること)④事前に内定がないことなどを満たすことが条件になります。奨励金は、支給対象者1人につき月額4万円、3カ月の合計額がまとめて1回で支払われます。なお、対象者が母子家庭の母等、または父子家庭の父の場合、1人につき月額5万円となります。ほかにも細かい要件が多々ありますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。5障害者トライアル雇用奨励金/6特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)障害者を雇用した場合、助成が行われるものです。障害者を雇用することによって、彼ら自身が自立した生活を実現するとともに、障害者でも働けるような会社の設備を整えることが、結果的に企業を成長させることにつながります。障害者でも不自由なく働ける優良企業づくりを支えるため、本助成金が存在します。障害者関連の助成金は、「障害者トライアル雇用奨励金」「特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)」の2種類が利用しやすいでしょう。障害者トライアル雇用奨励金この助成金は、ハローワークなどの紹介により、就職が困難な障害者を一定期間雇用する事業主に対して助成されます。これは、①障害者トライアルコース②障害者短時間トライアルコースに分かれます。①について期間は原則3カ月、週20時間以上の労働時間が定められています。②については週10時間以上20時間未満、3カ月以上12カ月以内です。1人につき、月額最大4万円、はじめて精神障害者を雇う場合は月額最大8万円、障害者短時間トライアルの場合は、1人につき月額最大2万円が助成されます。申請の手続きとしては、まずハローワークまたは民間職業紹介事業者の紹介により雇用し、雇用後2週間以内にトライアル雇用の計画書を、紹介を受けたところに提出、その後、管轄の労働局に提出します。特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)障害者雇用の経験のない中小企業がはじめて障害者を雇用した場合に助成されます。助成金額は、120万円です。障害者雇用義務制度の対象となる労働者数50〜300人の事業主が、ハローワークなど

の紹介によりはじめて障害者を雇い、法定雇用率を達成した場合に助成されます。注意しなければならないのは、対象となる障害者を、一般被保険者かつ継続して確実に雇用する必要があること、1人につき120万円助成されるのではなく、あくまで最初の一度きりであるということです。

「自分でできる」は、いますぐやめなさい「見えない経費」を浪費することになる第5章まで、人を雇用する際のさまざまな手続きや、考えられるトラブル、助成金の申請方法などを、具体例を交えてご紹介しました。ですが、「この程度なら努力すれば自分でもできる」と判断して、すべての労務手続きを社長が担当しようとする行為はおすすめできません。理由は簡単です。それは「社長の仕事」ではないからです。この本で具体的な知識や方法をご紹介したのは、経営者の実務として請け負ってもらいたいからではありません。労務的な法律知識に対して社長として最低限のことを知っておかないと、採用条件などに対して、従業員と対等に話ができませんし、中長期の人材採用戦略を立てることができないからです。たとえて言えば、皆さんには、「簿記1級を取得して、経理の専門家になりなさい」と言っているのではなく、「ざっくりでもいいので、毎日自由に使えるお金がいくらあるかは知っておいてください」と言っているわけです。もし、社長自身が社会保険や労働保険の手続きを行ったり、給与計算をしてしまったらどうなるでしょうか。たしかに「見える経費」は節約することができるでしょう。しかし、「見えない経費」が使われてしまいます。それは、社長の人件費です。あなたの年収が800万円だと仮定します。時給換算すると800万円÷12カ月÷20日(月間稼働日数)÷8時間=約4200円となります。社長が自分で従業員の労務管理と給与計算をして、それに丸2日間の16時間がかかったとすると、毎月約6万7000円の「見えない経費」の負担があると、認識しなければいけないのです。では「社長の仕事」とは何でしょうか。

・売上をアップさせる・新しい商品やサービスを開発する・資金繰りをよくする・新たな出店計画を立てる・今後の経営計画を立てるなど、挙げればいくら紙面があっても足りません。このように、社長は本来、クリエイティブな仕事だけに従事すべきなのです。では、これらすべての仕事の共通項とは何でしょうか。それは「決定すること」です。社長の仕事とは「会社の行くべき道を決める」ことなのです。すすむべき道を決めるには、つねに業界紙、経済誌を読み、ニュースなどを見て、ときにはセミナーや講習会などに参加し、研究や研鑽の時間ももたねばなりません。決定する際は「エイヤ!」といい加減な気持ちで決めるのではなく、調べることは調べ尽くし、知るべきことは全部勉強したうえで、決めなければいけません。経営に当てずっぽうは許されないのです。決めるときは一瞬ですが、そのためには膨大な時間が必要です。公的機関に提出する書類などの雑務に、社長が忙殺されてはいけないのです。専門の社員を雇うことも大きな負担に労務管理や給与計算を経営者自身でするのがいけないのなら、社内の誰かにまかせたり、専門の社員を探して雇えばいいと考える方がいます。ですが、その「コスト」をよく考えて、雇うかどうかご判断ください。まず、わかりやすい「コスト」を見ますと、新たな従業員を月20万円で雇ったとすれば、20万円×12カ月=240万円となり、1年間で240万円もの負担が生じます。ところで話は少しそれますが、経営者が儲かってくると、必ず生じる「落とし穴」があります。それは「社員を増やしたい」という願望です。1人で起業をして、はじめて従業員を雇う。さらに忙しくなってきて追加で従業員を雇う。従業員が増えてくると、その補佐をする従業員が必要になる――といった具合に油断をすれば社員の人数は「芋づる式」に増えていってしまいます。そして、増えていった従業員の給与は、人数分増えるだけではなく、昇給などがありますから、新規の雇用をやめたとしても、年々人件費の負担は増していくことになるのです。昨年(2016年)から国内の大手電機メーカー数社が、経営に行き詰まりをみせていますが、これらの経営悪化の原因の1つとして「人件費の肥大」があると考える専門家もいます。

経営者の心理上、給料を増やすことは社員の働きを報酬として還元できることですから気分がよいものですが、減らすことはうしろ向きになりがちです。人数を増やすことは喜ばしいことですが、リストラはしたくないのが本音でしょう。経営が行き詰まってはじめて、上がり続ける人件費の「重み」に気がつきます。しかし、気がついた頃にはもう後の祭りで、その頃には「外資」などの第三者に身売りするしかなくなっているのです。では新たな経営者が何をするのかというと、「リソースの再配分」です。具体的には、現状の人員や経費が利益につながっているかを判断し、不必要な人材はコストカットの対象となり、浮いた資金を新たな研究開発などの投資に回していきます。つまり、経営を安定させたいのであれば、「社員を増やしたい」と思ったときに、本当に会社にプラスに働くのかを考えていただきたいのです。労務管理業務はたいへん重要なことに間違いありませんが、あくまで直接的な利益を生まない間接経費です。そう考えると、常にコストアップしていく社員に労務管理を任せることは利益率を悪くする原因になりえると、肝に銘じてください。なぜデキる経営者は、「プロ」に頼るのかここまで、労務管理や給与計算の仕事は、社長がやるべきではないし、社員にさせるべきでもないと述べてきましたが、では一体どうすればいいのでしょうか。おすすめは、それを専業とするプロフェッショナルにまかせてしまうことです。理由は単純です。最も利益が出るから、です。社長が自らやると毎月約6万7000円、人を雇うと月20万円の負担になるとお伝えしました。これを社会保険労務士などのプロフェッショナルに外注するとどうでしょうか。健康保険、厚生年金から労災保険の新規の加入手続きと継続業務、給与計算から労務コンサルタントフィーすべて込みでも、従業員5名以内の会社であれば、月額5万円前後で契約してくれるところがあるはずです。さらに、自分で調べ、申請すれば意外と時間がかかる各種助成金関連の業務も、「来週から、経済産業省の○○という補助金の申請がはじまります。応募してみませんか。申請書類の作成はおまかせください」と先方から情報を教えてくれます。書類を通過させる知識やテクニックも豊富なため、助成金を得られる確率自体がアップします。これを社長自身がやると、本来の業務時間を削って慣れない申請書類を作成する→本業の業績がダウンする→助成金の獲得自体にも失敗した、という悪循環に陥る可能性も出てくるでしょう。

つまり、本業以外の仕事は、その道のプロに一任できる社長ほど、本業により多くの時間を充てることができ、結果、売上や利益が上がっていくという好循環のサイクルを回せるようになるのです。そして、これら人事、労務関連の業務を、網羅的にサポートできる人物こそが、社会保険労務士(社労士)というプロフェッショナルなのです。

社会保険労務士について知ろう社労士の独占業務とは社労士は、労働・社会保険に関する法律、人事・労務管理の専門家として、企業経営の3要素(ヒト・モノ・カネ)のうち、ヒトの採用から退職までの労働・社会保険に関する諸問題、さらに年金の相談に応じる、ヒトに関するエキスパートです。法律では「社会保険労務士法に基づき、毎年一回、厚生労働大臣が実施する社会保険労務士試験に合格し、かつ、2年以上の実務経験のある者で、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に登録された者」と定められています。社労士の主な業務はつぎの通りです。労働社会保険手続業務・労働社会保険の適用・労働保険の年度更新・社会保険の算定基礎届・各種助成金などの申請・労働者名簿、賃金台帳の調製・就業規則の作成、変更労務管理の相談指導業務・雇用管理・人材育成などに関する相談・人事・賃金・労働時間の相談・経営労務監査年金相談業務・年金の加入期間、受給資格などの確認・裁定請求書の作成・提出補佐人の業務・裁判所において、補佐人として弁護士とともに出廷し意見を陳述このように羅列すると、社労士は広範囲で何でもやっているからわかりにくいという印象を受けられるかもしれません。ですが、社会保険労務士は弁護士や税理士と同じく「士業」の1つですから「独占業務」をもっています。

独占業務とは、国家資格をもち、その団体に登録した者でないと、許されないとされる業務です。では社労士の独占業務は何かというと、第一に、本書のなかで述べてきたような、労働保険と社会保険の手続きの代行業務です。第二に、就業規則の作成と届け出です。まれにホームページなどで、社労士以外の経営コンサルタントのような人が、就業規則をつくりますと述べている場合がありますが、これは明らかな法律違反です。第三に、厚生労働省が行っている助成金の申請代行です。助成金コンサルタントと名乗る人が、経営者に代わって行うことはできません。特定社会保険労務士とは社労士のなかには、特定社会保険労務士がいます。会社を経営していると、労務や人事のトラブルはいくらでも起きる可能性がありますし、もし話し合いで解決しなければ、これまでは裁判所で決着をつけるしかありませんでした。ですが調停や裁判を行うと、時間、労力、費用を無駄に多く使ってしまううえに、経営者と労働者の間にその後、絶対に「埋められない溝」がつくられてしまいます。そこで、最近注目されているのが、裁判外紛争解決手続(裁判によらない解決手段:ADR)です。ADRとは、当事者同士の話し合いにより解決を目指す制度です。特定社労士は、このADRのうち個別労働関係紛争にかかるつぎの業務を担当することができます。・個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士の共同受任が必要)・個別労働関係紛争解決促進法に基づき都道府県労働局が行うあっせんの手続の代理・男女雇用機会均等法、育児・介護休業法及びパートタイム労働法に基づき都道府県労働局が行う調停の手続の代理・個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせんの手続の代理※これらの代理業務には、依頼者の紛争の相手方との和解のための交渉及び和解契約の締結の代理を含む。最近は、従業員や元従業員が、簡単に会社を訴えるような世の中になりました。特定社会保険労務士の資格をもつ人であれば、不当解雇、賃金の未払い、セクハラやパワハラなどについて仲介役をお願いすることができます。専門家に依頼することで、トラブル解決を目指すことができ、経営者が直接従業員と不毛なやりとりをして疲弊することがなくなるのです。

裁判費用がかからないため、比較的利用しやすい制度だといえます。いい社労士とダメな社労士、その見極め方とは前項ではヒトの問題を解決しうる、社労士の主な業務内容をご紹介しました。とはいえ、皆さんは専門家と比較して、健康保険や年金、労働保険などの知識が不足していますし、ましてやその専門家のよし悪しなどを推し量る基準も、よい専門家を探す術ももっておられないはずです。では、どこで社労士のよし悪しを判断すべきなのでしょうか。それは、「問題解決しようという姿勢」をもっているかどうかです。資格をもっているとはいえ、自分が苦手な範囲の仕事となるといくら顧客が頼んでも「できません」の一言で断ってしまう人がいます。これはどちらかというと、「ダメな社労士」である確率が高いです。こういう社労士に当たってしまうと、経営者はその会社がもつ労務人事の悩みやトラブルを解決することができなくなってしまいます。では、どのような社労士がいい社労士なのでしょうか。いい社労士とダメな社労士のそれぞれの基準をいくつか紹介しておきます。いい社労士の特徴□経営者の希望に見合うタイミングで、先生か事務所職員が顔を出してくれる□事務所便り・事務所ニュース・法改正情報などを定期的に提供してくれる□事務所を成長させることに前向き□いろいろと提案をしてくれる□どんなことでも気楽に質問・依頼しやすい雰囲気がある□税理士・司法書士・行政書士・弁護士などのほかの士業との連携があるダメな社労士の特徴□仕事を選んでいる□顧問契約の際、契約書などを締結しない□業務の完了報告・連絡がない□対応が遅い□上から目線で、偉そうな態度をとる□補助金や助成金などの情報提供がないこのように羅列すると社会保険労務士に求めるものは、保険や労務の専門知識だけでなく、顧問先の経営に対する考え方や各種サービスの提供方法が、いかに重要であるかがおわかりいただけたでしょう。ですから、社労士を選ぶときに、価格だけを基準にするのは避けたほうが賢明です。

また、顧問契約をする場合は、どの範囲までの業務を担当してくれるのかを明確にし、納得したうえで、契約するようにしましょう。顧問契約でなくても、いい社労士はスポット(単発でお願いする)業務に対して、料金表をもっています。そういう社労士には、自社でできるものは自社内で行い、負担のかかるものだけをお願いするといった方法も可能になります。ぜひ自社にとって、最もふさわしい社労士をみつけてください。

優秀な社労士を探す方法を知る地域、目的を重視しよういい社労士、ダメな社労士、それぞれの特徴をご理解いただけたでしょう。つぎに、実際に顧問先として付き合える、いい社労士を探す方法をお教えします。第一に、会社の所在地近くに事務所がある社労士です。その地域の行政について特に詳しいからです。ネット検索であれば、「東京+社労士」「東京+品川+社労士」という複合ワードで検索すると、地元の社労士を探すことができます。また、経営者の友人、知人に顧問先を紹介してもらうよう頼むのもいいでしょう。本書籍の巻末リストから地元に近い先生を訪ねてみるのも1つの手です。第二に、自分の要望に合った先生を選ぶことです。たとえば、年金や保険の手続き代行を頼みたい場合→「社会保険手続き代行+大阪+社会保険労務士」就業規則をつくりたい場合→「就業規則作成+名古屋+社会保険労務士」給与計算をお願いしたい場合→「給与計算+京都+社会保険労務士」など「目的のワード+地域+社会保険労務士」でネット検索するとよいでしょう。友人知人に紹介を依頼する場合も同じです。「いい社労士の先生を知りませんか」という曖昧な頼み方ではなく、「従業員が増えたので、昇給などを盛り込んだ賃金テーブルをつくりたいのですが……」「はじめて人を雇うので就業規則をつくりたいのですが、詳しい先生を知りませんか」となるべく具体的にお願いしましょう。医者に内科、外科、眼科、皮膚科があるように、社労士にも得意不得意があります。自社が抱える問題を解決できる先生をイメージしながら探してみましょう。候補の先生は、最低でも3名挙げ、そのなかから選ぶようにしましょう。その3名の事務所を訪ねて、実際に話を聞き、人柄や専門知識の有無などを確認し、最終決定を下すとよいでしょう。会社を二人三脚で大きくするために社労士からサポートを受けながら自社経営を続けていくにあたって、忘れてはいけないことがあります。

それは、皆さんの会社の情報をオープンにすることです。人事や労務のことで、少しでも気になったら、仕事としてお願いするかどうかは別として、まずは何でも話してみることをおすすめします。「よく働く従業員が育児休業をとりたいと言ってきたのですが……」「日本人の応募がないので、外国人を雇おうと思うのですが」「従業員が鬱病ではないかと疑っているのですが本人が認めなくて……」「自社で使えそうな、補助金の情報はありませんか」など、どんなことでもかまいません。いい社労士であれば、相談されたこと自体を喜び、しっかりとした法的知識をもって丁寧に答えてくれるでしょう。また、人間味豊富な先生であれば、法律上の杓子定規な応対をするのではなく、柔軟な発想でもって問題解決を試みてくれるでしょう。いずれにせよ、まずは皆さんの側から「情報開示」しないと、社労士の先生は、どう対応していいのかがわかりません。言葉は悪いかもしれませんが、いい社労士を使いこなすのか、宝の持ち腐れとして終わらせるのかは、皆さんの姿勢次第だといえます。皆さんは「新たな人材を雇用しよう」としてこの本を読まれたわけですから、会社は上り調子なはずです。会社の売上や利益が上向いてきたのは、いい仕入先、いい外注先、いい顧客、いい従業員などに恵まれたからではないでしょうか。そうです、会社の発展は、いかによき人と知り合えるかどうかにかかっています。社労士をはじめとした士業の専門知識と技術を、自社にうまく取り入れ、彼らを最高のビジネスパートナーとして、会社を発展させていきましょう。そのために、ぜひ綿密なコミュニケーションをすることをおすすめします。

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