はじめに
「人を育てる科学」の盲点だったアルバイト・パート領域本書を手に取っていただきありがとうございます。
私(中原淳)は、企業で働く人の学び・成長を主題とする人材開発研究、いわば人を育てる科学の研究者です。
日々いろいろな企業様にお邪魔し、人事や教育担当者の方にお話を伺ったり、育成の現場を観察させていただいたりしながら、働く現場でさまざまな調査をしています。
この分野では世界中で数多くの研究がなされていますが、じつを言うと、その大半が対象にしているのは「大企業の正社員」です。
長期的に1つの職場にいる人材のほうが調査しやすいという研究者側の事情もありますが、最大の理由は、そうした中核人材の育成には企業側も積極的に力を入れてきたということでしょう。
その結果、「人を育てる科学」の研究は、正規雇用の人材にやや偏ったかたちで進展してきたというのが実情です。
一方、アルバイト・パートといった人材に関しては、いまだに「辞めたらまた採ればいい」「マニュアルどおりにやっていればいい」「育成など不要」といった認識が世間に根強くあります。
そのため、研究の世界でもなかなかはっきりした見解がなく、あまり研究が進んできませんでした。
また現場でも、それぞれの店長やマネジャーが自分なりのやり方で手探りをしている状態が続いてきたように思います。
「人が足りない!」はこれからも続くしかし、これまでは、それでなんとかなってきたかもしれませんが、近年は事情が大きく変わってきています。
なかでも看過できないのは、我が国が抱える最大の社会課題である人手不足です。
いま、どこの企業に伺っても、「人が足りない!!」「人が採れない!!」という悲痛な声が聞こえてきます。
人が足りない→慌てて採用→育成しない→すぐ辞める→また足りない…こ
このバッドスパイラルを経験したことがある人、あるいは、いままさにそれに苦しんでいる人がほとんどではないかと思います。
じつは私自身、これを痛感しながら本書を書いています。
東京大学で私が統括している研究部門でも、多くのスタッフを募集しているのですが、ここ数年、新たに人材を採用するのは本当に大変です。
なかなか優秀な人が集まらず、何度も募集を行ったりすることもあります。
といっても、私の研究部門が抱えるスタッフは十数名で、新規募集の数も決して多くありません。
数名を採用するだけでもこれですから、現場で奮闘する店長さんやマネジャーさんたちの苦労たるや、どれほどのものだろうかと頭が下がる思いです。
この「人手不足」が深刻なのは、程度の差こそあれ、今後も中長期的に続く可能性が非常に高いからです。
本書執筆時点の足元では、東京オリンピックを見越した出店ラッシュや外国人観光客の増加もあって、サービス・小売・建設などを中心にアルバイト・パート人材の特需が続いています。
ひどいケースだと、あまりにも人が足りないために、営業時間を短縮したり閉店したりせざるを得ない職場すら出ていると聞きます。
さらに、少子高齢化・人口減少の日本では、長期的にも労働力人口が減っていくのは確実です。
ということは、この状態が「続く」だけでなく、ますます「深刻化していく」可能性も考えたほうがいいでしょう。
アルバイトの「採用・育成」に特化した初の入門書そう考えると、アルバイト・パートに頼っている企業・職場は、もはや「辞めたら採ればいい」「育てるのは無駄」などとは言っていられません。
むしろ、優秀なアルバイト・パート人材を確保し、時間やコストをかけて育成する覚悟のある人、また、そのように発想を転換できる企業が、この「人手不足の時代」を生き残っていくのではないでしょうか?そこでこの本では、どうすればアルバイト・パートを効率よく採用できるか、どうすれば一人前の人材に育てられるのか、そして、どうすれば店長やマネジャーがいなくても回る職場をつくれるのかを徹底的に掘り下げました。
まさに「アルバイト・パートの採用・育成」にフォーカスした、我が国で初の入門書です。
もちろん「店長さんのための書籍」は、これまでもたくさん出版されています。
しかし、そのほとんどは、非常に優秀な成果を上げた店長やチェーン店経営者が、個人の持論や経験に基づいて書き上げたものでした。
「現場の知恵」が貴重な学習リソース(資源)になることは、私も否定しません。
とはいえ、その事例の特殊性ゆえに、別業界・別業種の店長さんにはなかなか実践しづらいものだったり、あまり役に立たなかったりすることも多かったのではないでしょうか。
一方で、本書には、私の専門である「人を育てる科学」の知見と、現場で働く人たちへの「社会科学的な調査」の分析結果の2つが盛り込まれています。
店長個人の勘・経験や精神論に頼ることなく、どのような環境でもある程度は通用する一般的な原理・原則を導き出してありますので、より幅広いジャンルの店長・マネジャーにすぐ役立てていただけるはずです。
「大手7社・2.5万人」の調査データから見えてきたこと本書のもう1つの特徴である「大規模調査」については、東京大学・中原淳研究室とパーソルグループ(テンプスタッフやインテリジェンスを擁する総合人材サービス国内大手)との共同研究のかたちで遂行されました。
今回はとくに、同グループの所属企業であるパーソル総合研究所のみなさんに全面的にご協力をいただいています。
この研究プロジェクトは2014年に立ち上げられましたが、私たちはその一環として、大手企業7社8ブランド(飲食業×4・小売業×2・運輸業×2)に関わる総勢約2万5,000人もの方々にアンケート調査をし、じつに興味深い〝現場の声〟を多数集めることができました。
しかも調査対象は、いまアルバイトとして働いている人だけでなく、面接を担当している人、アルバイト探しをしている人、すでにアルバイトを辞めてしまった人、そして店長やマネジャーとして活躍している人など、じつにさまざまです。
これは、アルバイト・パートに関する国内調査としては、過去最大規模のものだと思います。
これまでそれぞれの職場が抱えていた知恵を、調査データとして1つに結集し、徹底的に分析したのが、本書『アルバイト・パート[採用・育成]入門』というわけです。
本文は読みやすさを考慮して、私・中原の一人称で書かれてはいますが、本書全体が同プロジェクトメンバーの尽力の賜物であることはここに強調しておきたいと思います(メンバーの名前・略歴は巻末に記載してあります)。
また、アカデミックな知見や調査データに基づいた内容だとはいっても、現場で日夜激務をこなす店長さん・マネジャーさんにも気軽に読み進めていただけるよう、なるべくわかりやすい語り口を心がけました。
専門知識がないと理解できない話は出てきませんので、どうかご安心ください。
まずは「気になるところから」読みはじめてくださいここで、この本の構成をご紹介しておきましょう。
第1章では、人手不足の現状を、データとともにざっとご覧いただきます。
この事態が、みなさんの職場だけでなく、日本中で起こっている深刻なものだということをまずつかんでください。
続く第2~5章は、本書の核となるパートです。
スタッフの成長ステージに即して、それぞれの局面で発生する店長・マネジャーさんの悩みに答えています。
第2章が募集・面接といった採用ステージ、第3章が新人ステージ、第4章が一人前になるまでの中堅ステージ、そして第5章が職場リーダーへと成長するベテランステージとなっています。
忙しい読者の方は、まずはこのパートの気になる部分から読んでいただいてもけっこうです。
最後の第6章では、少し目線を変えてシニア人材の活用を扱っています。
アルバイト・パートの採用・育成を考えるうえで、これからますます重要になってくる分野です。
また、巻末には特別付録として、実際に都内某所で行われた現役店長3名による覆面座談会の様子を収載しました。
読者のみなさんが「あるある!」「なるほど!」と膝を打ちたくなるような、生々しいエピソード・目からウロコの工夫が凝縮されています。
最後に、本書の「用語」について少しだけ。
この本が主に対象としている読者は、アルバイトやパートの方をマネジメントする立場にある方々ですが、表現をシンプルにするため、本文中ではアルバイトやパート、それに類するその他の雇用形態を単に「アルバイト」、また、アルバイトを管理する立場にある人を「店長」と呼んでいます。
雇用形態や業種・業界を限定する意図はなく、あくまでも便宜上の呼称ですので悪しからず。
***アルバイトのスタッフを「短期的労働力」と考えるのをやめて、「本気で育成すべき人材」と捉え直すことには、間違いなく大きな苦労が伴うことでしょう。
しかし、冒頭でも書いた「人が足りない→慌てて採用→育成しない→すぐ辞める→また足りない…」のバッドスパイラルを抜け出すためには、必ずどこかでこの発想転換が必要になってきます。
むしろ、これこそが人手不足を解消する唯一の方法だと言ってもいいでしょう。
人手不足を社会的背景としながらも、業界はこの挑戦的課題に立ち向かうべきだと私は考えます。
こうした内部からの変革こそが、業界に対する社会からの信頼を高めることにつながります。
この本がみなさんにとって「アルバイトの採用・育成」を振り返るきっかけになれば、著者としてもうれしい限りです。
ぜひ何か1つでもヒントをつかんで、すばらしい職場をつくっていただけることを心から願っています。
中原淳(東京大学・准教授)
目次
アルバイト・パート[採用・育成]入門
はじめに
「人を育てる科学」の盲点だったアルバイト・パート領域
「人が足りない!」はこれからも続く
アルバイトの「採用・育成」に特化した初の入門書
「大手7社・2.5万人」の調査データから見えてきたこと
まずは「気になるところから」読みはじめてください
目次
アルバイト・パートの採用・育成に関する大規模実態調査の概要
第1章データで見る「人手不足」のリアル[「職場づくり」への発想転換]
TOPIC01「アルバイトが足りない」は〝本当〟なのか?データで概観する「人手不足」
深刻化するアルバイト不足
対策はさまざまありそうだが…
データで見るアルバイト不足
「3人足りなくても2人しか採れない」が現実
2025年には「583万人の人手不足」が起きる!?
「1人の店長としてできること」を考える
TOPIC02あなたの職場に人が足りない「本当の理由」は?「職場づくり」こそが最強のアルバイト人材戦略
お金さえあれば、人手不足はなんとかなる?
人手が足りない店長ほど、「出口対策」が足りない
人材確保のカギは「辞めさせない仕組み」
「長く働き続けたい職場」をつくれていますか?
第2章「いい人材」に来てもらう[採用ステージ]
TOPIC03募集広告を出しても、なぜ応募者が来ない?アルバイト求職者は「どこ」を見ているのか?
「結局、ブランド・広告予算次第」は本当か?
「リクルーティング・メディア研究」の見地から考える
応募者が警戒する「ブラックバイト」
アルバイト応募者の「2人に1人」は下見に来ている!
職場こそが最大の求人メディアである
あのお客様も「将来のアルバイト候補」かもしれない…
TOPIC04なぜ「来てほしい人材」が集まらないのか?学生・主婦・フリーター…属性別に「ニーズ」を把握する
来てほしい人材の「ニーズ」を考えて募集していますか?
どの時間帯に、どれくらい長く働きたいか?
どの程度の時給を望んでいるのか?
属性別に「重要ポイント」を見てみる
「職場の雰囲気」へのニーズは全体的に高まっている
TOPIC05「友人紹介」を増やすには?「人にすすめたくなる職場」をつくる
優秀な店長ほど「人づて採用」をベースにしている
コスト削減・安定供給・定着率アップ…メリットはさまざま
最大のメリットは「信頼関係」の築きやすさ
「芋づる式離職」のリスクにも要注意
「人づて採用」にも「職場づくり」が効く
「人にすすめたくなる職場」の特徴は?
TOPIC06アルバイトの「内定辞退」を防ぐには?面接は「店長の対応」が9割
4人に1人?増えるアルバイトの内定辞退
「誤解を生む求人」を出さない
面接時に「ここ、ヤバいかも…」と思われるポイント
「ふだん見えないところ」を整える
採用活動に「リクルーター」が占める役割は大きい
店長は求職者に「見られている」
TOPIC07アルバイトの「面接辞退」を防ぐには?「応募へのレスポンス」がその後を決める
応募連絡が入ったときから勝負ははじまっている
最初はとにかくスピードが肝心
応募連絡への対応は遅くとも「翌日中」に
「今日、新人さんの面接がある」と現場に伝えていますか?
「受け入れ」のスタートダッシュは面接次第
TOPIC08「ここで働きたい!」と思わせる面接とは?「給料以外の価値」を明示する
面接も「アルバイト育成」の重要ステップ
「お金以外に得られるものがありそう」と感じてもらう
「伝えたつもり」になっていないか?
「やりがいを伝える」=「熱い想いをぶつける」ではない
職場のアピールポイントの「引き出し」を整理しておく
[COLUMN]意外な盲点!?交通費問題
第3章「すぐ辞める」はこうして起こる[新人ステージ]
TOPIC09なぜ「すぐ辞めるバイト」がいるのか?データで見るアルバイトの「早期離職」
早期離職によるロスは甚大
離職者の22%は「1カ月未満」で辞めている!?
「ほかの選択肢」があると、躊躇なく辞める
「すぐ辞めない=不満がない」とは限らない!!
TOPIC10「話と違うので辞めます」を減らすには?入社後の「リアリティ・ショック」を軽減するRJP
1カ月未満で辞める人は「面接がよくなかった」と答える
「リアリティ・ショック」が早期離職の主な原因!?
面接の成否を決める「現実的職務予告」とは?
「キツさ」を強調しすぎてもNG
「リアルな期待」を生み出す面接の4ステップ
TOPIC11新人受け入れ時の「やってはいけない」とは?アルバイトの「初期定着」をつくる仕組み
「ほったらかし」は絶対NG
「ほったらかしOJT」の時代は終わった
採用した新人には「ピープル軸の育成」を意識しよう
「新人が長続きする職場」をつくる3つの施策
TOPIC12現場との「認識ギャップ」を解消するには? 店長はスタッフに応じて「演じる」
店長は「できているつもり」でも現場は…
「ギャップ」を埋められる店長は「役者」である!?
[属性別]早期離職を防ぐポイント
TOPIC13座学の新人研修は「無駄」なのか?研修・マニュアルの意外な重要性
「新人研修のクオリティ」と「定着率」の意外な関係
日頃から業務マニュアルの整理を
第4章「定着」させて、一人前に育てる[中堅ステージ]
TOPIC14「定着しない」の3つの理由とは?中堅アルバイトを離職させる「カネ・ヒト・成長」の不満
「辞めても仕方ない」と思っていませんか?
働いた期間別に「辞めた理由」の変化を見てみる
[理由①カネへの不満]額より上がり方!?
[理由②ヒトへの不満]「困ったベテラン」はいませんか?
[理由③成長への不満]「これからどうなる」を見せる
TOPIC15時給アップは「引き留め」になるか?「カネへの不満」の本質と対策
時給アップで「継続意欲」は高まるが…
時給が上がっても、「貢献したい」とは思わない
何よりもまずは「店長は見てくれている」という実感
「とにかく褒めればいい」ということではない
TOPIC16「アットホームな職場」は求められているか?「ヒトへの不満」の本質と対策
やっぱり気になる「職場の仲のよさ」
「仲良しベッタリ」な職場でも「すぐ辞める人」はいる
「真面目なニーズ」を見過ごすな
「チーム実感」を生み出した2つの仕組み
TOPIC17「これからどうなる」を示せているか?「成長への不満」の本質と対策
「成長の設計」こそ店長の仕事
経験軸の育成では「ストレッチゾーン」を意識する
優秀な店長は「小さな背伸び」を手渡している
「成長実感」をいかに演出するか
[付論]属性別に見る「評価される店長」のポイント
第5章「職場のリーダー」を育てる[ベテランステージ]
TOPIC18なぜ店長には「頼れる右腕」が必要か?「インフォーマルリーダー」の育成論
最初は誰でも「駆け出し店長」
「リーダーの育成」こそが店長のラスト課題!!
結果を出し続ける店長には「頼れる右腕」がいる
「ベテランによる育成」の比率が最も高い
TOPIC19「困ったベテラン」はなぜ生まれるか?「権限委譲」による職場リーダーの育成
「頼れるベテラン」と「やっかいな古株」は紙一重
店長と対立するベテランは、去っても仕方がない
「店長とベテランの会話」に現場スタッフは敏感
長期ビジョンを与えないと、職場のことを考えなくなる
「大胆な権限委譲」こそがリーダー候補育成のカギ
「リーダー=重たい仕事」と思わせない工夫
TOPIC20結局、「優秀な店長」はどこが違うのか?マネジャーとしての3つの仕事
店長の課題は「売上」よりも「育成」
優秀な店長がやっている「3つのマネジメント」
第6章アルバイト育成の未来へ[シニア活用]
TOPIC21シニア人材をどう活用すべきか?
アルバイト人材のブルーオーシャン
それでも働き手は減っていく…
これから増える「シニア人材」の秘められたポテンシャル
「前向き・真面目」で「つながり」を求める
シニアに好まれる職種は?
TOPIC22シニアが輝ける職場をつくるには?シニアの離職&モチベーション対策
体力面と人間関係でつまずくケースが多い
「特別扱い」はされたくない
人は何歳になっても「仕事を通じた成長」を求めている
[特別付録]現役店長3名による覆面座談会
おわりに
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