知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48
はじめに社長「昨日、B社の社長と会合で会ったんだが、今年、東大とアメリカの何とかという名門大学の大学院の学生を採ったそうだ」人事部長「え、東京大学とアメリカの……ですか?」社長「そうだ。自慢げに話してたよ」部長「去年までは新卒採用で苦戦していたはずですが……。何か特別なことをしたのでしょうか?」社長「そんなことは知らないよ。君のルートで調べてみてくれ」部長「はい。わかりました」社長「それより、うちの会社の新卒採用はどうなってるんだ?」部長「申し訳ありません。今年も上位校の学生は採れそうもありません。中途は予定通りですが、新卒は人数も計画の7、8割といったところです」社長「去年より採用予算を増やしただろ。なんで採用できないんだ」部長「就職氷河期と言われていますが、学生たちの安定志向が高まって、うちのような知名度の低い、小さな会社は見向きもしてくれません」社長「何!どうして新卒が採れないんだ?うちの会社は彼らが選ぶ会社じゃないということか!」部長「そのような意味では……」社長「じゃあ、どういう意味だ!」この会話は、新卒採用の時期になるとどこにでも転がっている話です。私たちはリクルート社で採用業務を担当していた経験を活かして、現在は新卒採用や幹部社員のヘッドハンティングなど、人事・採用に関するお手伝いをさせていただいています。その中で、中小企業の経営者の方からよくお聞きするのは、「新卒採用はうまくいかない」という声です。既存技術の伝承、新しい技術の開発、海外での事業展開、事務作業の効率化、工場のソフト化など、小さいけれど、高い技術力を持った優秀な会社には、新たに取り組みたい課題が山のようにあると思います。そのために優秀な学生を採用しようとコストを増やしているのに、結果を出せないと嘆いている経営者の方も多いのではないでしょうか。日本経済もようやく明るい兆しが見えてきましたが、経営環境だけでなく、新卒採用に関しても、中小企業の苦しい状況がまだ続いています。でも、知名度がないから、小さいからという理由で、新卒採用がうまくいかないというのは間違いです。小さな会社でも優秀な学生は必ず採れます。
あきらめないでください。やり方を知らないだけで、あきらめるなんて本当にもったいない。これから、私たちがその方法をお教えします。ただし、優秀な学生を採る!と思った瞬間に、経営者として腹を括らなければいけないことがあります。それは、既存の採用手法に比べてコストはかかりませんが、手間が多少かかることです。中小企業が優秀な学生を採用するには、待ち(プル型・オーディション型)の採用プロモーションではなく、攻め(プッシュ型・スカウト型)の採用プロモーションが必要になります。そして、あなたの会社は、学生を一方的に選ぶ立場から、学生からもジャッジされる立場になるのです。採用という入り口だけでなく、新入社員の育成・配置など、採用後の仕組みも変えていかなければいけません。そのためには、人事部長、採用担当者、現場マネジャーだけでなく、社員全員の意識改革が必要です。採用戦略を変えるということは、組織変革の問題であり、経営変革の問題なのです。だからこそ、私たちがお話しする採用戦略を実践すれば、優秀な学生を採れるだけでなく、それを契機に社長が望む方向へ会社が成長する仕組みも作ることができます。採用プロセスを見直すことは一見すると面倒で非効率的に思われるかもしれませんが、結果から見ると実は経営効率がいいのです。社長!やりましょう!やれます!全社員を新卒採用の活動に巻き込んで、会社を変革していきましょう。2013年6月井上和幸曽和利光
知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48──目次はじめに第1章意識改革──間違いだらけの新卒採用ルール01小さな会社でも優秀な学生は採用できる!02社長が採用プロジェクトの先頭に立つ03学生を真剣に口説けば社長の情熱は伝わる04選考プロセスを改善するだけで結果が変わる05求める学生の質は妥協しない06就活生は将来の優良顧客になる07全社員を採用活動に参加させる第2章採用基準──狙う学生を定めるルール08ノーマークの優秀な学生を狙う09他人より早く行動する人はリスクテイクできる10志望動機を最初に評価するのは間違い11学生に求める条件は最小限に絞り込む12すくすく系の若者を積極的に評価する第3章仕掛け──超上位校の学生を集めるルール13会社からアプローチしないと優秀な学生に出会えない14優秀な学生には採用とは別の理由で会う15スカウト型採用は恋愛と思えばうまくいく16若手社員に学生を推薦してもらう17年齢制限の枠を広げると優秀な人材に出会える18人気企業の採用終了後にチャンスがやってくる19エントリーシートをやめると優秀な学生が集まる第4章面接選考──ポテンシャルの高い学生を見抜くルール20習慣になるまで努力したエピソードを聞く21なぜそうしたのかで優先順位力がわかる22天井の雨漏りをどうするかで問題解決能力がわかる23プロセスを次々に聞くことで発想力がわかる
24試行錯誤した経験のある人は想定外のことに対処できる25エピソードに隠れているプロセスを聞き出す26学生に求める能力の定義を共有する27初期選考では基礎能力だけジャッジする28中期選考は入社3年目までの若手社員を基準にする29最終選考では選考とフォローを一体化させる第5章フォロー──応募者を適切に口説くルール30フォローは単なる心理テクニックではない31信頼関係を作るにはまず採用担当が自己開示する32フラットに相談にのって共通点を探る33フォローで聞くのは「主観、妄想、思い込み」344つの質問でスーパールーキーを口説く35強く影響を受けている人を知る36土俵を変えれば大手企業と勝負できる37事実を見せることで自社の強みに気づかせる38人気企業を志望する学生の口説き材料39意思決定のスタイルを知っておく40「この会社で働きたい」との言葉を学生からもらう第6章人材育成──新卒社員を戦力に変えるルール41採用選考のときから人材育成は始まっている42入社前のキャリア志向をリセットさせる43新入社員は固めて配属してから散らばらせる44職務適性よりも人間関係を重視して配属する45現場のスター社員がキャリアイメージを見せる46小さな領域のすべての過程を任せてみる47辞めたい社員、辞めた社員との接し方48分不相応な採用で会社が大きく飛躍するおわりに
01小さな会社でも優秀な学生は採用できる!「就職氷河期なんて本当かね。マスコミは『就活生は中小企業も視野に入れよう』なんて書いているけど、うちのような小さな会社は見向きもされない」「技術力が高く将来性もあるのに……、もったいない話ですね」「総合商社に行くような学生が、何かの間違いでうちに来てくれないかな。来てくれたら、会社も大きく飛躍できるんだけどな」「社長、小さな会社には、小さな会社に合った採用戦略があります。いい出会いさえあれば、優秀な学生ほど御社に入りたいと思うはずです。私が採用してみせます」これは、ある金型メーカーの社長に初めてお会いしたときの会話です。自信満々の物言いに、このほら吹きめと思いつつも、もしかしたらうまくいくかもと思われたのか、新卒採用のお手伝いをすることになりました。この会社は、長い歴史を持つ老舗企業で、彫刻加工の技術はずば抜けたものがあります。誰もが知っている化粧品、食品、自動車、電気製品など、数多くの有名ブランドのラベルやパッケージの印刷に特殊技術を提供しています。最近では、アジアに進出するなど、グローバル展開していることもあって、社長は自分の右腕になれるような企画・戦略系の人材を採用し、会社をより発展させていきたいという希望を持っていました。とはいえ、資本金3000万円、売上高25億円、従業員は140人の中小企業です。上位校の大学生の目にはなかなかとまりません。特に、総合商社に行くようなアグレッシブなタイプの学生の関心を集めるにはどうしたらいいか悩んでいました。具体的な採用戦略はこれから詳しくお話しすることにして、結果だけを言うと、数人の新卒採用枠のうち、4人の京大生を採用することができました。特別な採用条件を提示するなんてことはしていません。条件はほかの学生と同じです。採用コストも、いままでと変わりません。そんなことができるのかと思われるかもしれません。でも、本当にできるのです。もちろん、経営基盤がしっかりしている、技術力が高い、将来性が期待できるという条件はつきますが。国内でトップクラス、海外でも評価が高い会社であっても、知名度が低いから、小さな会社だからという理由で、優秀な学生を採用できないと嘆いている経営者の方がたくさんおられます。
そのためか、新卒採用には力を入れずに、即戦力となる中堅社員の中途採用に協力してほしいという依頼が多くあります。でも、新卒者には、中途採用者とは違う魅力があるのも事実です。新卒者の魅力はなんといっても、若さとバイタリティです。春先に、新卒者が来るだけで、社内が活気づきます。この経験はみなさんもお持ちでしょう。いまの若者は、いままでとはタイプの違った優秀さとバイタリティを持っています。先行きの見えない、確実な答えのない時代には、その力こそが、会社の発展に寄与するのです。「自分たちよりも優秀な学生を採用しろ」──これは、リクルート社の創業者である江副浩正氏が、いつも言われていた言葉です。リクルート社では、分不相応な採用と呼んでいました。会社の採用ブランドよりも上の優秀な学生を意識して採ることをしないでいると、自分たちよりも小粒の、まるで子分のような新人ばかり採るようになるので、現場からは文句が来るし、社員の全体的な質も落ちていきます。縮小再生産の始まりです。また、環境の変化に備えて、あるいは、さらなる発展を企図して社長が会社の変革を考えていても、既存の社員たちには経営者としての視点がなく、旧態依然の組織が心地よいために、彼らは自ら変わろうとしません。だからこそ、小さな会社ほど、〝分不相応な採用〟が重要なのです。そんなことを言ったって、大卒採用が全くうまくいっていないのに、分不相応な採用なんて……。そんな嘆きは今日でおしまいです。知名度の低さなんて関係ありません。小さな会社だからこそできる〝分不相応な採用戦略〟を実践すれば、必ず優秀な学生を採用できるのです。02社長が採用プロジェクトの先頭に立つ優秀な学生を採用すると決意した社長が次にすべきことは、採用プロジェクトを社長の専管事項にすることです。つまり、社長自らが先頭に立つということです。人事部の立場がなくなるのでは?そんな疑問を持つ方がいるかもしれません。「はじめに」の会話を思い出してください。新卒採用がうまくいっていない会社で多くみられることは、新卒採用をすべて人事部に任せてしまっていることです。大会社なら、そのほうが効率的かもしれません。でも、小さな会社が〝分不相応な採用〟をするのなら、社長が先頭に立つことが重要なのです。
あなたの会社の人事部長に、「自分たちより優秀な学生を採用しろ」と指示を出したとき、それだけで事が進むでしょうか。おそらく、人事部長の答えは決まっています。「社長、そのように言われましても、努力はしますが難しいかと……」このような答えならまだましかもしれません。最悪なのは、「わかりました」と答えておきながら、結果として「採用できませんでした」という報告になることです。なぜ、人事部に任せると、そのようなことになるのか、説明しましょう。人事部と一口に言っても、いわゆる一般的な人事業務と、人を口説いて結果を残さなければならない採用業務とでは、社員に求められる資質が全く違うからです。一般的な人事業務で求められる資質は、決められたルールを運用する、給与計算をする、評価制度を運用してもらう、それに則った昇進昇格を管理する……といったことがきちんとできることです。ですから、そのような資質の人が採用を担当すると、大企業が行っているような〝待ちの採用計画〟を立て、それを忠実に実行しようとします。ところが、優秀な学生は、待ちの構えだけでは採用できません。採用の網を広げて積極的に優秀な学生に会い、スカウト活動を組み合わせていく必要があります。事務能力が高いだけでは結果を出せないのです。求められる資質は、狩猟民族的な営業タイプの人です。両者に求められる資質は全く違うのに、人事という枠で一緒にしているからうまくいかないのです。私たちが在籍していたリクルート社が1990年代半ばまで、採用業務を行う「人材開発部」とそれ以外の「人事部」とに部署を分けていたのは、そのことを理解していたからだと思います。多くの会社が人事業務と採用業務を同じ部で行っているのは、採用の重要さに気づいていないことと、人事部に対する評価が難しい点があるからでしょう。採用が一見うまくいっている会社でも、採用担当者の本当の評価は難しい。あえて厳しい物言いをすれば、採用担当という仕事は、志が低ければ、いくらでも楽をしたり、帳尻合わせができてしまう仕事なのです。なぜなら、他人からは成果が見えにくいため、適当な採用をしていても社内から明確な批判を受けることがないのです。たとえば、本当は選考途中の辞退率が高くて採用計画が未達に終わったとしても、不合格率を混ぜて報告してしまえば、「優秀な学生が少なかった」などとをつくことができます。しかも絶対にバレない。また、社長自身が優秀な学生の採用をあきらめていることが多いので、「これだけ一生懸命にやりましたが、優秀な学生が採れませんでした」と言い訳すればすんでしまうわけです。
もちろん「スーパー人事」とも呼ぶべき、志が高くて、営業的なセンスのある採用担当者がいる会社もあります。でも、世の中の会社の多くは問題だらけです。最適な採用活動をしている会社はめったにないと言っていいでしょう。だから、採用業務は社長の専管事項にする必要があるのです。社長直轄のチームにするのもいいでしょう。注意していただきたいのは、必ずしも社長自らが採用業務のすべてを行いましょうと言っているわけではありません。社長が先頭に立つことで、優秀な学生を採るということを、社内に強いメッセージとして発信することが重要なのです。03学生を真剣に口説けば社長の情熱は伝わる社長が採用プロジェクトの先頭に立つ理由は、まだあります。それは、社長の視点と採用担当者の視点が違うからです。採用担当者のゴールは、計画通りの人数を入社させることです。一方、社長のゴールは、あくまで新卒採用によって会社の業績をアップさせることです。何年も先を見据えて、来るべき変化に備えて優秀で多様な人材を確保しようと考えるのが経営者である社長ですが、それを遂行できない人事部が多いのです。もっとも、採用担当者にも同情すべき点がないわけではありません。どのような新人が欲しいかを現場にヒアリングすると、営業でも、生産でも、新人を育てる余裕がないので、「こんな社員が欲しい」という即戦力的なマスト条件をたくさんあげてきます。人事部としては、それに従うだけではいけないことは承知していますが、なにせ社内では現場の声のほうが強いので、八方美人的、足して2で割るような対応にならざるを得ません。結果として、当たり障りのない人を採用して、お茶を濁していることが多いのです。そんな状況を変えられるのは、やはり社長しかいません。私たちの経験から言っても、採用担当者は、社長が現場に「人事に協力しろ!」と指示してくれるのが一番うれしいのです。それをやらずして、人事に対して文句を言うのはお門違いです。また、人事担当者は現場から「どうしてこんな人を採用したんだ」と文句を言われることが多々あります。このようなマインドを変えていくことができるのも、社長しかいません。社長が先頭に立つ理由が、もう1つあります。
それは、社長でないと優秀な学生を口説けないことがあるからです。人事担当者では、学生に対して約束できないことがあります。たとえば、「わが社は、将来こういう事業展開を考えている。君にそれを担ってほしい」といった話は、一社員の立場ではできません。いまはまだ形すらない将来の事業を確信をもって語れるのは社長だけです。人事担当者は、いまあるものを材料にしか口説けないのです。本当に実現するかどうかは別にして、社長が「こうしたい」と夢を語ることはではありません。社長のその情熱に、社内にも賛同者がきっと現れます。効果は、優秀な学生を口説くだけでなく、二重三重にも広がります。面倒で難しそう?そんなことはありません。社長が得意な営業と同じように考えてみてください。たとえば、良質な顧客(学生)と付き合いたければ、彼らがいる場所(学校周辺)に行くはずです。ただし、飛び込みで訪ねても拒絶されてしまうので、なんらかの工夫をするか、誰か間に入ってくれる紹介者(自社の学校ОBやそのツテ)を探したほうがいいでしょう。どんな形でもいいから会うことができたら、すぐには商売(採用・事業内容の説明など)の話をもちかけず、まずは親しくなることから始めます。なぜなら、その過程で心を開いてもらえれば相手への理解が深まって、その人の価値観や大事にしていること、意思決定の仕方、影響を与える人物、気になっていること……などがわかるからです。そんな人間関係が事前にできていると、実際に口説きはじめたときには的確なプレゼンができます。相手の中で漠然としていたニーズ(志望動機)を、明確なものにするお手伝いができるわけです。だから、「ウィン・ウィン」の関係になるし、契約(内定)後は、相手のほうが感謝している場面もよく見られます。人の心を動かすという意味では、営業も採用も同じ。採用活動でもそうした手順を踏んだうえで、社長がこんなふうに口説くのです。「私は君に社運をかけている。君にとっても、これほどやりがいのあることはないのではないか。大企業に入って、優秀なライバルと競争しつつ高級な歯車になるよりもよほど面白い人生になる。幹部候補として、若いうちから大きな仕事を任せたい」社長や営業のエースが真剣に口説けば、その情熱は学生に必ず伝わります。04選考プロセスを改善するだけで結果が変わる新卒採用のコンサルティングをすると、多くの社長が新卒採用ルールについて大きな勘違いをしていることがわかります。ちょっとした立ち話の中でも、10個でも20個でも問題
点を挙げられるほどです。そこで、いま時点でのあなたの新卒採用ルールの認識をチェックするための質問を10個用意しましたので、○か×かで答えてみてください。これらの問題は、第2章以降の具体的な採用術を深く理解するために、思い込みや心理ブロックを壊すものでもあります。正直に答えてください。【QUESTION】質問Q1採用では広報・広告活動に最も力を入れている。Q2社員紹介やOB訪問などの手法は非効率だと思う。Q3意欲の高い学生を採用するため、必ず会社説明会に来てもらう。Q4質を下げたくないので、求める人材要件を増やしている。Q5求める人物像については、できるだけ自社らしい言葉で表現したい。Q6志望動機の強さは重要な選考基準だと思う。Q7採用担当には、内定辞退率を下げることを目標にさせている。Q8適性検査はあてにならないので、できるだけ面接で判断をしたい。Q9選考を途中辞退した人は志望度が低いので、追いかけるのは無駄だと思う。Q10面接では学生時代にどんな実績をあげたかを重視している。さて、どのような回答になったでしょうか。社長や、特に人事部の方に同じ質問をすると、ほぼ全問○という答えが返ってきます。ところが、私たちがご支援して結果を出している小さな会社の採用戦略では、すべてが×なのです。「え?そんなバカな」と思う方がほとんどでしょう。しかし、採用ルールの常識と思われていることが、小さな会社にとっては大きな勘違いなのです。個別の説明は、第2章以降で具体的な採用戦略と合わせて解説していきますが、ここでは、すべて勘違いなんだということを、心にとめておいてください。これらの思い込みや持論、心理的ブロックこそが、これまで採用がうまくいかなかった原因なのです。とは言っても、ここで本を閉じられてしまっても困りますので、質問1について少し解説しておきましょう。採用コンセプトの構築や各種イベントの企画立案、あるいは、ホームページの採用関連の内容を充実させることに熱心な会社は多いことでしょう。でも、その結果はどうでしょうか?これらは待ちの採用です。知名度の高い会社なら、この姿勢だけでも学生が向こうから飛び込んできてくれます。しかし、知名度の低い会社では、凝ったホームページを作成しても、面白いイベントを行ったとしても、期待するほど学生に注目されることはありま
せん。本書では何度も繰り返してお話ししますが、もし、〝分不相応な採用〟をしたいのであれば、自分たちから優秀な学生がいる場所や市場に出かけて行くことが重要です。三度目の正直ではありませんが、一度断られた候補者を時期を変えて何度も口説く、という積極的な姿勢がとても重要なのです。その際、「採用広報のコンセプト」はあまり関係ありません。どんな名目でも「会う」ことが先決になります。食事をご馳走するでも、アルバイトでも、著名人の講演でも、最初の出会いは何でもいいのです。会って、親近感を持ってもらってからが本当の勝負です。優秀な学生には「採用」とは別の理由で会う──これがスカウトの鉄則です。05求める学生の質は妥協しない新卒採用プロジェクトの先頭に立つことを決意した社長は、次に、採用する学生のレベルで妥協しないということを心得てください。採用計画の人数だけがゴールなら、そもそも社長が先頭に立つ必要なんてありません。社長が先頭に立つということは、会社をいまよりも成長させることがゴールになるはずです。そのための新卒採用です。あなたが採用したい学生は、あなたの会社を成長させる原動力をもつ若者です。ですから、〝分不相応な採用〟をするためには、絶対に妥協してはいけません。新卒採用がどれほど会社の成長に貢献するのか、私たちが在籍していたリクルート社を例にお話しましょう。リクナビ、SPIなど、採用担当者には縁の深いリクルート社は、いまでこそグループ従業員2万2000人、連結売上高1兆円の会社ですが、順風満帆に成長してきたわけではありません。同社は1960年に大学新聞広告社として創業して以来、時代を先取りした〝分不相応な採用〟を続けています。たとえば、紙媒体からインターネットに変わっていく90年代よりもはるか以前に、本来は研究者になっているようなテクノロジー志向の理系の学生を、グローバル化の波が高まる2000年よりもはるか以前に、日本語がペラペラの優秀な外国人留学生をたくさん採りました。当時の外国人留学生は、本当にもったいない状況でした。彼らの働き口が日本にはなかったのです。ほとんどが卒業すると母国へ帰っていました。そのようなときに、リクルート社は、彼らをスカウトしていたのです。いずれも、当時の社風には合わない採用です。現場からは、不満の声があがりました。コンピュータに強い新人には体育会的な営業の人間から不満が出ましたし、外国人を採用
しはじめたときにも同様の軋轢がありました。しかし、いま振り返ってみると、当時入社した人たちが、その後の変革を下支えしたことがわかります。留学生は、現在、海外展開の最前線を担っている人たちです。時代の先取りということでは、リクルート社が1987年に米国クレイ・リサーチ社のスーパーコンピュータを買ったことがありました。電気通信事業の自由化に合わせて、電話回線のリセール事業を始めようとしたのです。通信事業は時代の先取りでしたが、その後、パソコンが普及して、大型コンピュータの時代が終焉。事業的には失敗に終わりましたが、思わぬ副産物がありました。このスパコンのおかげで、東京大学や京都大学の工学系の大学院生がたくさん採用できていたのです。創業以来の傾向だった「営業をバリバリこなして、対人能力の高さで仕事をする人材」だけでなく、計数系に強い理系思考の人たちがたくさん入ってきたのです。このスパコンが一番貢献したのは、理系人材を採用したことだったのでは?という声もあるくらいです。この時期のリクルート社は多難の時でもありました。1988年に戦後最大の贈収賄事件といわれる「リクルート事件」によって窮地に立ちます。当然、学生やその親からは就職先として敬遠されるようになりました。しかし、そんな時期であっても優秀な人材を採ることに関しては、全く妥協していませんでした。黎明期の無名のころからそうでした。たとえば、ほかの大企業が採用するような学生が採れないならば、同じくらい優秀であるものの就職が難しかったグループに注目したのです。当時象徴的だったのが女性です。あとは、先ほども書いたように、海外留学生や外国人です。地方大学や文学部の学生もそうです。ふつう、新卒採用がうまくいかない場合には、質で妥協するのが一般的です。でも、リクルート社では、そこだけは創業以来、絶対に妥協をしませんでした。先取り、もしくは、誰も目をつけないところを狙って、そこで最大のポテンシャル採用を行ってきたのです。だから、それによって新しい事業展開ができました。新卒採用で学生の質を妥協しないからこそ、どのような危機にあっても乗り越えることができ、時代の変化にも対応できているのだと思います。それは時代の荒波にもまれやすい、小さな会社ほど参考になることです。06就活生は将来の優良顧客になる
意外と見過ごされていることですが、新卒採用活動は、自社の事業や商品・サービスのブランディング活動の側面もあります。しかも、長い目で見れば費用対効果がかなり高いのです。これも採用担当者にはない、社長ならではの視点でしょう。たとえば、一般消費者を相手に主要取引を行うB2B(企業間取引)企業であれば、採用候補者はすべて顧客になります。採用活動中は、数百、数千人の学生に対して自社の経営理念と業務内容を深く告知できるのですから、こんなによい機会はありません。10年なり20年なり、これを続けたときの効果はものすごく大きいと言えるでしょう。しかも、採用広告の場合は、一般のPR広告と比べると費用がかなり安いので、費用対効果も高くなります。ここにお金を使わずに、PR広告ばかり打っているのはもったいないと思います。曽和が総務部長をしていたライフネット生命では、この点を明確に意識していました。同社の採用には1万人近いエントリーがありますから、これは貴重なマーケティングの場になります。なにせ生命保険の広告など、健康で若い人たちはふだん見てくれません。ところが、就職活動となると真剣に会社案内を読み、同社の保険事業についての考え方を知ってくれるのです。とはいえ、同社の採用人数は毎年数名です。1万人もエントリーを集めておいて、そのほとんどをただ落としていたのでは、学生たちからマイナスの印象をもたれる可能性は少なからずあるでしょう。そこで同社では、こんな工夫をしています。①何のために、どんな方法で採用するのか?前年度の試験では各ステップに何人が残り、最終的に何人が採用されたのか?といったことをオープンにする。②「学業を妨げない採用活動」を掲げ、できるだけ休日や休暇中に合わせて選考を実施するほか、ウェブ上で完結する説明会を行い、学生の負担を減らしている。③あえて負担の重い課題を課すことによって、学生のほうからセルフスクリーニングする(本気でなければ受験しない)ように採用プロセスを設計している。このような工夫をすることで、エントリーした学生に「いい会社だとは思うが自分には向いていない」という好印象のまま社会人になってもらい、同社の理解者(将来の契約者)として可能性を残しているわけです。このような話をすると、学生のほうから辞退してもらうなんて、そもそもエントリーもしてもらえない会社は参考にならないと思われる方も多いと思います。たしかに、知名度の低い小さな会社では、ライフネット生命と同じ戦術をとることは難
しいと思います。でも、採用活動で会う学生が少ないとしても、自社のブランディング(マーケティング)の場として積極的にとらえていくという発想は大切です。また、企業相手に取引を行うB2B企業の場合、採用活動で会った学生が他社に入ることで、のちにビジネスでかかわりが出てくることがあり得ます。いまは何の経験も権限もない学生ですが、将来のビジネスパートナーになる可能性は十分にあるのです。ですから、採用活動は、単に学生を選ぶという視点だけでなく、将来の顧客、ビジネスパートナーを開拓するという視点も重要なのです。言ってみれば「一期一会ではない出会い」「一期一会にしない」という発想です。私たちが採用をお手伝いしている会社では、優秀な学生に自社の業務内容と考え方を説明し続けることは、ブランディングの意味で効果が大きいことを意識してもらっています。あなたの会社がメーカーなら、採用試験を途中辞退していった学生たちは、将来の取引先になりうる大企業に就職していきます。ですから、自社の技術力を知ってもらい、心理的にもいい関係を作っておくことは大事というわけです。大企業を経験した後で、中途採用で戻ってくることもありえます。実際に、こんな例もあります。リクルート社で採用を担当していたとき、内定を辞退してコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに入った学生がいました。その学生が、3年後くらいに戻ってきたのです。新卒では入ってくれなかったのですが、マッキンゼーで高いビジネススキルを身につけてから来てくれたのですから、会社としてはラッキーです。これだけ雇用の流動性の激しい世の中です。誰とどこで出会うかわかりません。そうしたことも見越して、内定辞退者とよい関係を作っておくことが大事なのです。07全社員を採用活動に参加させる小さな会社が新卒採用を成功させるための意識改革という点で、社長にもう1つ申しあげたいことがあります。それは、採用活動に全社員を参加させるということです。一般的に、現場の社員は忙しいので、採用活動に協力することを嫌います。でも、〝分不相応な採用〟によって会社を飛躍させたいのなら、全社員を巻き込むことは絶対に必要
です。その理由は4つあります。[理由1]優秀な候補者をフォローする優秀層の学生を採用したいなら、全マンパワーのうち、相当部分を学生のジャッジではなく、フォロー(口説き)に割かなければいけません。人間は、単純に接触回数が多いほど親近感が湧きますし、担当者と学生の間に人間的な深いリレーションを作りやすくなります。また、優秀な学生を口説くためには、現場のエースクラスの社員に会わせるほうが効果的です。さらに、できるだけ途中辞退者を防ぐには、学生と採用担当者(面接官)の相性も細かく考慮していく必要があります。たとえば、①熱血タイプ、②知的タイプ、③素直タイプの3つのうち、今年の採用計画では、それぞれの割合を2対5対3に設定したとします。このとき、担当する社員と学生の相性を何も考えないで何度か選考を繰り返すと、どうなると思いますか?学生は、苦手なタイプの社員とあたったときに辞退してしまいます。ですから、結果的に、相性のいい学生だけが残ることになります。これでは計画通りの割合で採用するのはまず難しいといえます。しかし、全社員がかかわっていれば、その学生のタイプや価値観に合わせて同質な社員を組み合わせることもできます。計画で設定した割合と同じ比率でそれぞれのタイプの社員にかかわってもらうことで、内定者のタイプもほぼ同じ割合にすることができるのです。[理由2]会社に対するコミットメントを引き出す人間は不思議なものです。いつも会社の不満ばかり言っている社員も、外部の人に自社の話をするときには、不満を言わないものです。しかも、採用の場合、学生から質問を受けることで、その社員自身が自社のよさや目指す方向、自分のあり方などを確認できます。それによって、社員のモチベーションのアップが期待できるのです。[理由3]自信を取り戻す素直な気持ちの学生と話すことで、自信を取り戻せる社員もいます。営業職などで自信を失いかけていた社員などは、特にそうです。学生は目をキラキラさせて話を聴いてくれるので、当人も生き生きしてきます。明るい顔つきで会社に戻ってくるのです。
学生の側からいろいろ質問されることで、忘れていた新人時代の気持ちを思い出すこともあるでしょう。言ってみれば、よいリハビリになります。[理由4]全社員で育てる文化を作る〝分不相応な採用〟を始めたとたんに、これまでとは雰囲気の違う新人が現場に配置されてきます。そのとき、「なんでこんな人を採ったんですか?」と、現場が怒るような土壌では、せっかく採った新入社員が潰れてしまいます。もしくは、いまの社員と同化してしまい、とがった人材を採用した意味がなくなってしまいます。新人を育てるということは、会社を育てることと同じです。いくら優秀な学生を採用しても、即戦力になることはなかなかありません。育てる文化のもとで、大きく成長させることが必要なのです。そのためには、社長が号令をかけ、新卒を採用することの意味と意図をしっかりと伝え、全社員を採用時点からかかわらせたほうがいいのです。採用からかかわり、自分がフォローした人材なら、より責任をもって育てることにもなります。現場の社員を採用にかかわらせようとすると、「そんな時間はありません」と言ってくることが多いと思います。ですが、それは程度問題です。採用活動の専属になるわけではないし、100人に会わなければいけないとなると大変そうに感じますが、一人の社員が学生5人に会えば、20人の社員でフォローすることができる。それぐらいの時間は、やりくりすれば捻出できるはずです。
08ノーマークの優秀な学生を狙う知名度の低い、小さな会社が、優秀な学生を採用するためには、小さな会社だからこそできる採用戦略をとる必要があります。その1つが、大企業から発見されていない、あるいは、大企業の採用枠の外にいるポテンシャルの高い学生を見つけることです。私たちは、このような学生を「ブルーオーシャン学生」(競争なしに採用できる学生)と呼んでいます。彼らはどんな学生で、どこにいるのでしょうか。次の図を見てください。これは「志望度」と「顕在能力」の関係から、企業が求める人材がどこにいるかを表したものです。グラフの縦軸は、学生のその会社への志望度を表しています。つまり、上に行くほど会社への関心が高く採用しやすいということです。
次に、グラフの横軸は、その学生の顕在能力を示しています。この場合の顕在能力というのは、上位大学の学生や難関資格所有者など、誰にとってもわかりやすい能力のことです。つまり、右にいくほど、引く手あまたの「レッドオーシャン学生」(競争が激しい学生)ということになります。ただし、注意すべきなのは、グラフの左にいる人の能力が決して低いわけではないことです。左側にいる人材は、大企業から発見されていなかったり、年齢制限などで大企業の採用基準から外れているというだけです。具体的にあげると、次のような学生です。●地方の学生●女性(業界によっては逆にレッドオーシャンになる)●中堅大学、専門学校卒、高卒など●リベラルアーツ系学部(文学部、教育学部など)●既卒者(留学帰り、国家公務員試験・司法試験・公認会計士試験の受験者、大学院中退者、第二新卒など)●志望する大企業の選考に落ちた直後の学生さて、この図を踏まえて、知名度の低い、小さな会社がどのような戦略をとればいいかを考えてみましょう。まず、人気のある大企業が行っているのは、①のルートで、レッドオーシャンの学生の志望度を高めていくやり方です。誰もが認める優秀な学生を口説くのですから、この方法は理想ですが、小さな会社では大企業との競争にまず勝てません。では、②のルートのように、自社への志望度が高い学生を口説くというのはどうでしょうか。エントリーしてくる学生の中から選ぶという、この方法をとっている会社が一番多いのではないでしょうか。ところが、この方法では、会社に変革をもたらすような優秀な学生は採れません。厳しいことを言うようですが、採用は入ってくれるなら誰でもいいというわけにはいきません。計画が達成できないからといって、明らかに能力が不足している人材を入れるのは、会社として最もやってはいけないことです。〝分不相応な採用〟を目指す会社にとって、最も効果的なのは③のルートです。ブルーオーシャン学生の中から自社が求める人材を見つけ、その学生を口説くルートです。ブルーオーシャン学生は、大企業とほとんど競争することなく、志望度を高めさせる
ことができます。その場合には、学生のポテンシャルを正しく判断できる能力が必要になりますが、肯定的にとらえれば、手間をかけてアプローチをし、人間鑑定力を持ってさえいれば、優秀な学生を採用できるわけです。09他人より早く行動する人はリスクテイクできる先ほど、知名度の低い、小さな会社はブルーオーシャン学生を探して口説こうという話をしました。もちろん、大企業と直接争わない戦略が正攻法です。でも、レッドオーシャン学生の中にも、小さな会社で採用できる学生がいます。本来は引く手あまたの人材でありながら、伸び盛りの中小企業に飛び込むようなリスクテイクのできる学生がいるのです。探す際に目安となるキーワードは、たとえば、思いつくままに並べると、次のようになるでしょう。●一流大学の新設学部に行く人●上陸したてのファストフード・チェーンでアルバイトする人●有名ラーメン屋をごく初期に訪ねる人●どんな場所でも積極的な意見を言える人●フェイスブックの書き込みに最初に「いいね!」を押せる人●根拠のない自信がある人●マイナーなスポーツで結果を出している人一方、大企業に就職したい安全志向の学生は、この逆を考えればいいと思います。一流大学の新設学部の学生について考えてみましょう。その象徴的な存在が1990年に創設された慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(総合政策学部、環境情報学部など)です。同学部は、当時の大学教育改革のトップランナーであり、教育カリキュラムも学生のあり方も、ほかの多くの大学とは全く違いました。学生の勉強量からして違っていたと思います。私たちはリクルート社時代に同学部の卒業生を何人も後輩に迎えましたが、彼らはとても個性的で優秀でした。最近の話でいえば、2004年に創設された国際教養大学(秋田県秋田市)です。独自の教育(グローバル時代に対応するために教員の半分が外国人、在学中の留学を義務づけるなど)によって高い評判を得て、高い就職率で注目を集めています。そのほかにも、注目すべき新設学部が続々と誕生していますが、やはり、こうした新設
したばかりの、評価が定まっていない大学や学部に「面白そうだ」と飛び込んでいくセンスは、成長をめざす会社にとって求められる資質でしょう。ただし、こうした学部の学生だからといって、大半が興味深い人材かというとそうともいえません。これらの新しい試みが世間の評判(権威)になってから入学する人は、初期に入った人に比べて、保守的なタイプが増えてくるからです。これについては、米国の社会学者エベレット・M・ロジャースが提唱している「イノベーター理論」の分類が参考になります。ロジャースは、新商品が出たときに購入するのが早い順に、消費者を以下の5タイプに分類し、その割合を調べました。①イノベーター(革新者)2・5%②アーリーアダプター(初期採用者)13・5%③アーリーマジョリティ(前期追随者)34%④レイトマジョリティ、フォロワーズ(後期追随者)34%⑤ラガード(遅滞者)16%①と②のように、新しいものにすぐに興味を示して購買行動に移す人は、進取の気性に富んでいる人材であり、自分で情報を調べ、自分で物事の判断をしていきます。時代や環境の変化にも順応できるタイプで、新卒採用では欲しい人材です。また、何事においても他人より早く申し込んで参加する人は、平均的にレベル(意識)が高い印象があります。就職活動でもそうですし、私たちが主催する各種研修会においても、そうした傾向が見て取れます。もう1つのキーワードは、「マイナー」です。たとえば、体育会系でもマイナースポーツの学生はお勧めです。実際、私たちがリクルート社の採用担当のときには、ラクロスやアメフト、ボートなどのマイナーなスポーツで結果を出している学生を積極的に狙って採用していました。趣味においてもそうですが、やはり他人と違うことに惹かれる性格や、その分野で一番を目指そうという挑戦志向、そして、長く努力して結果を出している能力は、高く評価できます。資格をたくさん取っている人は、資格マニアの可能性がありますので要注意です。他人からの評価によって武装するために取得するのではなく、好きで好きでたまらなくてやっていた結果として珍しい資格を持っている人なら「買い」です。これらに加えて、大企業を志望するレッドオーシャン学生でも、親しい人間関係を築く
ことができれば、採用することができます。その具体的な方法については、第3章で詳しく解説します。10志望動機を最初に評価するのは間違い先ほども述べましたが、〝分不相応な採用〟をするのなら、選考初期の段階では、志望動機を評価する必要はありません。そもそも志望動機なんて聞いても、まともな答えは返ってきません。学生が志望動機として何を答えるかというと、会社のホームページを見て覚えた事業内容です。8割がそんな回答です。このおかしさは、お見合いにたとえてみるとわかります。初めて会った女性に、いきなり「なぜ僕のことが好きなのか教えてください」と尋ねる愚と似ていると思いませんか。そんなことを言われても、答えに窮してしまいます。口にはしないでしょうが、「いやいや、まだ好きじゃないですけど」としか思えないでしょう。まず聞くべきは、たとえば「どんな人が好きですか?」でしょう。採用面接でも同じです。志望動機を聞かれても、学生の本音は「まだその段階じゃない」です。なので、「選社基準」「選職基準」「就社基準」といった一般論を聞けばいいと思うのです。そこに、その学生の価値観(大事にしているもの)が潜んでいます。会社は学生が来てくれるのを待って選考しているうちに、口説くことに労力を割かなくなり、それが定着するうちに「志望度が低い奴はダメな人」ということになってしまったのかもしれません。学生は「能力」を見てジャッジすべきです。特に、〝分不相応な採用〟をしていく場合は、志望度を採用する側が高めていかなければいけません。志望動機をそのまま信じていたら、優秀な学生はみな、大手に行ってしまうからです。もっと言うと、採用担当の仕事とは、ブルーオーシャン学生からポテンシャルの高い人を見つけて、自社のPR、プレゼン、インプットをすることによって、志望度の低かった優秀な学生に、「この会社で働きたい」と思ってもらうことが本来の仕事なのです。そして、そのときは社長の出番でもあります。志望動機が必要になるのは、むしろ選考を終えて、フォローしていく段階です。詳しくは第5章で説明しますが、学生の志望動機やキャリアデザインは、よいきっかけがあれば簡単に変わります。たとえば、視野の狭いスペシャリスト志向の強い学生でも、人生の先輩として「いまの
世の中はこうだから、このような経験をしておいたほうがいい」などとじっくり話をすると、「そうですね!」と変わるのです。昔のキャリア理論では、「自分のタイプを早く見極めて、きちんとした計画を立て、早くからスピードを上げてまっすぐ進めば一番いいキャリアになる」というのが主流でした。いまだにそういうアドバイスをしている人もたくさんいます。しかしそれは、終身雇用が守られて、定年までがイメージできる世の中だったから、それも有効だったのです。いまのように、誰もが知る大企業に就職しても安心できない、先の見えない時代には当てはまりません。シリコンバレーなどでよく言われているのですが、最近のキャリア理論に「計画された偶発性」(Plannedhappenstancetheory)という理論があります。これはスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツが提唱している考え方です。かいつまんで言えば、人生の8割は偶発性に支配されているのだから、将来の目標や計画の遂行に拘泥するのは意味がない。むしろ、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心を持って、目の前の偶発的な出来事に対して真摯に対峙していくほうがよりよいキャリアを作ることができる――というわけです。自分の人生を振り返っても、学生のときにいまの立場は予想できませんでした。予期せぬ偶然に対して心をオープンにして対峙してきたからこそ、現在に至るチャンスをつかまえられた気がします。採用担当者の方は、学生の志望動機に引っ張られてはいけません。いまはキャリア観が固い学生のほうがチャンスを逃す可能性が高いこと、そして、就職後は仕事のえり好みなどできない可能性が高い中で自分のキャリア観をどうとらえていくかを教えてあげるべきだと思います。11学生に求める条件は最小限に絞り込む優秀な学生を採用しようとするとき、よく勘違いされることがあります。それは、学生に求める条件をいろいろと並べたてることです。特に、数人しか採用しないときほど、その条件が増えることが多く見られます。社長の意向、現場の希望、人事部としての考えなどを考慮すると、あれもこれもと条件が増えていくのでしょう。ところが、「こうした人物でなければいけない」というマスト条件を増やすことは、採用者の質を上げることを意味しません。むしろ逆です。マスト条件を増やして、あれもこれもと欲張りすぎると、かえって優秀な学生を採ることができなくなります。なぜなら、狭い池の中で相対的に優秀な学生を採るしかなくなるからです。結果的に必
要な人数も確保できなくなりかねないのです。マスト条件を並べすぎると、そんな学生は世の中にいないという話にもなります。採用の基本は、「裾野広ければ、山高し」です。広い範囲から探すことで、より優秀な人が採れるのです。これは、第3章で解説するスカウト型のポテンシャル採用をするときには重要なことです。求める学生の人物像をしっかり決めておかなければなりませんが、その条件はできるだけ最小限に絞り込むことが重要なのです。それに、顕在能力の低い人=未熟な人ではありません。これから成長しようとする学生は、「ある能力は突出して高いものの、別の能力では劣る」というような荒削りな人が多いのです。マスト条件を少なくすることで、このような学生も視野に入ってきます。逆にマスト条件を多くすると、その時点では小器用に何でもこなせるのですが、小さくまとまっている人ばかり採ることになります。それでは、会社を飛躍させるための採用にはなりません。会社にとって本当に一番いい採用は、まだ完成していない学生、とがった学生を採ることです。往々にして若いうちは荒削りな人のほうが、後々大成するものです。また、育成要件と採用要件は違います。入社後に教えれば誰でも身につけることができるような育成要件を、採用時点でマスト条件にする必要はありません。たとえば、学生の場合は社会性がまだ身についていないため、面接のときのドアの開け方や閉め方、椅子の座り方などのマナーがなっていない場合もあります。冗談としか思えないのですが、「こちらが『おかけください』と言う前に椅子に座ったから、面接で落とした」という話があるそうです。そんなことは、入社後に教えればいいと思います。敬語の使い方もそうですが、入社後に教えればいいことを採用基準として重視されている例はたくさんあります。語学力もそうでしょう。たとえば、ゴールドマン・サックスのような外資系金融機関でさえ、選考中は、語学力を問わず、その代わり、内定を出してから150時間程度のプログラムを必ずやらせているそうです。内定を出してから入社するまで1年近くあるわけですから、十分にマスターする時間はあります。業界知識にしても、時事問題にしてもそうです。性格的な面でも、一例を挙げるなら「利己的な人間よりも利他的な人間がいい」という
ことも必要ないと思います。自分の力をつけてから誰かの役に立つという順番があるとすると、若い人特有の成長欲求の強いことは利己的でしょう。しかし、そんなものはいろいろなお客様や社会と接して「ありがとう」と言われる経験を積めば、徐々に利他的な人間になっていくと思います。それは学生のうちから要求するようなことだろうか、という気がするのです。一般的に、そういった思考や価値観というのは時とともに変わりますし、仕事に対する考え方も教育できると思います。逆に、変わりにくいのは、言語(国語)、非言語(数字)のような基礎能力だと言われています。特に、小さな会社での新卒採用では、経営環境が変わったときにも対応できる能力を重視して選ぶことが重要です。その採用によって会社の継続的成長につながっていくのです。あまり変化のない業界ならばともかく(現在の世の中でそうしたところがどれだけあるかわかりませんが)、これから飛躍しようとしている会社はポテンシャル採用をしたほうがいいです。だからこそ、求める人材像の必要条件は、優先順位を考えて、できるだけ少なく絞ったほうがいいのです。12すくすく系の若者を積極的に評価するポテンシャル採用では、必要条件を決めるとともに、若い人を評価する基準を変えることも重要になります。最近は「草食系男子」などと言って、淡々として欲望の少ない若者たちを「情熱がない」「意欲がない」「根性がない」などと揶揄する声もあります。でも、そうしたステレオタイプの評価はやめたほうがいいです。マスコミで流行っているような言葉で人を見ると、大事なことを見落としてしまいます。いつの時代の若者論にも共通するのは、人間は自分が過去に見てきたタイプの優秀さを高く評価するということです。いまも時代の移り変わりとともに優秀さのタイプが変わっていますので、過去の基準で評価すると、いま会社に必要な学生を見逃してしまいます。昔はコンプレックスをバネに「頑張る系」の人が成功していました。しかし、最近では、育ちがいい「すくすく系」の若者が成功するケースが増えています。すくすく系の割合が増えているのではなくて、成功している人の中にすくすく系が多いのです。それに気づいたのは、私たちがリクルート社で採用担当だったときです。
営業が中心だった時代は、「挫折経験のある人間を採れ」と言われていましたし、事実、そういう人たちが営業成績をあげていました。しかし、それは、彼らに対してわかりやすい目標や他社からの評価などのエネルギー源となるものを会社が提供できていた時代の話です。曽和は足掛け15年在籍していたのですが、設立当初のビジネスモデルをグンと伸ばしていく時代から、さまざまな新しいものを生み出していかなければいけなくなったときに、従来とは違うすくすく系の人が活躍するようになったのです。また、個々人のキャリア形成でも、すくすく系のほうが有利になっています。「どれだけ自分に負荷をかけて頑張れるか」の時代から、「自らテーマを持って何をするか」に、評価の重心が移っているのです。いま求められている能力は、正解のない広い荒野を自分の足で歩く能力です。しかも、それに動じない性格も求められます。すくすく系の人は、そもそも働く動機が違います。「楽しいから働く!」「お金のためではなく、社会のためにこれをやりたい!」という人が多いのです。このような人は自分軸で動く人です。何事に対しても自分なりの強い理由、動機を持つ人です。彼らは、会社から与えられた課題(仕事)に対して自分で意味を見出し、自分の解釈で楽しめる人です。自分が納得できなければ動かないし、時には上司や先輩の意見にも異議を唱えてみせます。マイペースですが、わがままではありません。理不尽なことが嫌いなだけで、自分が納得できれば150%の努力をします――。ただし、そうした態度は、「四の五の言わずやれ!」と言われてきた世代から見ると生意気に見えます。そのため、他人から「こんな奴……」と思われるタイプが多いのです。たとえば、サッカーの本田圭佑選手、野球のイチロー選手などは、まさしく自分軸を強く持っている人たちです。究極的な自分軸人間は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズでしょう。とはいえ、自分軸の人だけが素晴らしいのではなく、他人軸の人のほうがいい場合もあります。たとえば、小さな会社の場合では、単品の商品で業績をどんどん伸ばす時期があると思います。こういうときには他人軸の人のほうがガンガンやってくれます。努力目標もわかりやすいし、頑張ればほめられる。ほめられると伸びる。だから、経営陣としてはマネジメントしやすいと言えます。ただし、新しいものを生み出す時期になると、他人軸の人は社長が「何か新しいものを出せ」と言ったときに、「自分はこれを出したい」ではなく、「社長は何を出してほしいのか?」といったところから発想しがちです。
自分軸と他人軸は、どちらがいい悪いではありません。向いている仕事が違うだけなのです。ですので、どちらのタイプの学生を採用するかは、会社を今後どうしたいのかという戦略に合わせて決めることが重要です。
13会社からアプローチしないと優秀な学生に出会えない新卒採用の活動には、大きく分けて2つあります。プル(pull)型とプッシュ(push)型です。本書では、頭の中にイメージしやすいように、プル型を「オーディション型」、プッシュ型を「スカウト型」と呼ぶことにします。オーディション型とは、就職ナビや合同説明会などのマスメディアを使って多くの学生に広報することです。学生の側からアプローチ(エントリー)してきてくれるのを待つ、受け身タイプの採用プロモーションです。スカウト型とは、OB・OG訪問やリクルーター制度、ゼミや研究室への訪問などによって、会社側から個別積極的に学生にアプローチすることです。自社で採用したい人物像を明確にしたうえで優秀な学生を探しにいく、能動タイプの採用活動です。
この2つの型を比べると、オーディション型のほうが圧倒的に効率的です。というより、採用担当者は楽です。ただし、一度に数千~数万人単位で学生のエントリーを集めることができる人気企業と違い、知名度の低い中小企業には大勢の学生が集まりませんし、自社の採用ブランド以上の優秀な学生はそもそもエントリーしてくれません。一方、スカウト型は、自社が欲しい学生にアプローチをしていくものなので、やり方次第で優秀な学生に会えます。ただし、手間がかかる分、会える人数に限りがあるのと、上手に口説くことができなければ、辞退率が高くなるのが欠点です。それぞれ一長一短はありますが、私たちがここで強調しておきたいのは、知名度の低い中小企業にとっては、オーディション型だけでは〝分不相応な採用〟はできないということです。つまり、スカウト型の採用プロモーションも組み合わせていかなければ、優秀な学生に出会うチャンスすら生まれないということです。このことは、芸能界にたとえるとわかりやすいかもしれません。ホリプロやオスカーなど大手の芸能事務所であれば、新人オーディションを告知するだけで、芸能界に憧れる魅力的な若者たちが数万人も応募してくるでしょう。でも、小さな事務所であれば、そうはいきません。ところが、芸能界で活躍している人の中には、小さな事務所に所属している人もいます。もちろん、経営基盤、潜在能力を見抜く目、マネジメント能力、有力者とのコネクションなど、小さいながらも実力がある事務所なのでしょう。それでも、タレント募集となれば、待ちの姿勢では、才能を秘めた魅力的な人には出会えません。望む人を採用するためには、自分たちが街に出て行ってスカウトするしかないのです。スカウトする場所も、激戦区の渋谷や原宿で声をかけても難しい。そこで、ライバルが少ない郊外や地方に出かけて、その地域でトップクラスの逸材を見つけて口説き落としているのです。芸能界もビジネスです。どのような新人を採るかで将来が決まるのですから、採用活動は必死です。同じことが、あなたの会社でも言えると思います。これまでのオーディション型の採用では優秀な人材が採れなかったのなら、それに加えて、スカウト型を組み合わせるべきです。14優秀な学生には採用とは別の理由で会うここまで読まれて、スカウト型の採用プロモーションに関心を持たれた方も多いのでは
ないでしょうか。スカウト型は、オーディション型ほどお金はかかりませんが、泥臭いし、手間がかかる業務です。営業と同じで、最初の接点を持つことが難しいのです。初めて会う人には、誰でも警戒心を持っています。なので、まずは相手の警戒心を解くことから始めないと失敗してしまいます。でも大丈夫です。ここでは私たちが実務経験の中で培ってきたスカウト型採用のノウハウをご紹介します。一見非効率であっても、優秀な学生を自社に迎える確率が大きく上がります。スカウト型採用の基本は、会いたい相手のいる場所に出向くことです。小さな芸能事務所が、激戦区の渋谷や原宿で声をかけてもライバルが多くて難しいので、郊外や地方に出かけて、その地域でトップクラスの逸材を見つける――という方式です。新卒採用の場合は、会いたい相手(学校名など)がわかっているので、もっとピンポイントに的を絞ることができます。たとえば、東京大学の学生を採用したければ、東大(本郷周辺)に行く、京都大学の学生が欲しければ京大(百万遍周辺)に行く――。最上位校の学生が説明会に来てくれないなら、こちらから会いに行けばいいのです。彼らは、関心のない会社には目も足も向けませんが、採用とは別の理由の、自分たちにメリットのある用件なら意外と気安く会ってくれます。しかも、自分の庭まで出向いてきてくれるのだから、彼らにはほとんど負担がありません。では、曽和が実際にお手伝いしたケースを紹介しましょう。「はじめに」で少し紹介しましたが、数人の採用枠のうち4人の京大生に内定を出すことができた金型メーカーのケースです。スカウト型採用で学生と最初の接点をもつためのポイントがどこにあるかを考えながらお読みください。私がアドバイスした方法は、社員ОBがそれぞれ母校の学生を集めて「説明会」を開くという方法です。ただし、京都大学については、京大OBの私が担当しました。では、どうやって説明会を開き、学生を集めるのか?私が仕掛けた説明会というのは、会社説明会ではありません。「人事担当者が指南する面接の受け方」という一般的なテーマでミニ講演会を企画したのです。そこに、大学OBであり、リクルート社の元採用責任者であり、ライフネット生命の元人事責任者だった曽和利光が講師として呼ばれて話したのです。会社は、あくまでイベント協賛社の位置づけです。
場所は当初、学生たちが気軽に立ち寄れるように大学の近所の会議室で行いました。これならば、気軽に「ちょっと覗いてみようか」ということになります。結局、参加者は約30人になりました。当日は、私が1時間ほど話し、社長が簡単に自己紹介を行いました。その後は、みんなで懇親会です。そこでわいわい話して仲良くなったのが、最初の接点です。この時点での目的は、純粋に人間関係を作ることが第一です。なので、仕事の話はしていません。この会社は、高い技術力もあり、大手企業との付き合いも盤石のため、経営自体は非常に安定しています。海外展開もしていて仕事の内容も面白いのですが、この時点で、それをPRしても、京大生を振り向かせることは難しいです。彼らの志望先企業は、もっと大きな事業をしている可能性が高く、あまり関心を示さないと思うからです。この場は、あくまで後に採用の話を真剣に検討してもらうための下準備です。日本人は、何をするかよりも、誰とするかを重視する傾向があります。まずは、仲良くなって人間関係を作ってから、「ちなみに御社では何をしているんですか?」と相手に言わせるぐらいの展開でちょうどいいのです。そのうえで「だったら今度見学においでよ」と誘うのです。人間関係ができたら来てくれます。学生のポテンシャルのチェックとフォローについては、後ほど詳しく紹介します。ちなみに、このときにかかった費用は、飲食代の15万円(5000円×30人)です。新卒採用でかかる費用の多くは、学生を集める費用です。一人につき100万円程度の費用をかける会社も多い中、15万円で京大生30人と直接的な深い対話ができる接点をもてたのですから、すごい効率だと思いませんか。15スカウト型採用は恋愛と思えばうまくいくいま紹介したケースを読まれて、学生とのツテが何もない場合には、どうすればいいのか?そんな疑問をお持ちの方もいると思います。そのようなときは、恋い焦がれる恋愛と同じに考えるとうまくいくと思います。だいぶ昔にテレビで見たのですが、あるコメンテーターが、自分の若い頃の話として、興味深いことを話していました。うろ覚えなのですが、私たちの解釈も交えて紹介します。「どうしてもお嬢様タイプの女性と付き合いたかった。いろいろ考えて、お嬢様が住んでいる街の駅に行けば、出会えるだろうと思ったんで
す。それからは、その駅に出かけていっては、道を尋ねることにしました。実際に話しかけてみると親切に教えてくれる人が多いんです。恋愛願望を待っているだけで、行動しなければノーチャンスです。付き合いたい女性像がはっきりしているなら、そのような人がいる場所へ出かけていけば、道ぐらいは聞けます。話すきっかけをつかめば、何か進展があるかもしれません。チャンスがゼロではなくなるのです」これは新卒のスカウト型採用と全く同じ理屈です。私たちがコンサル先の会社の採用担当者から受けた相談と比べてみてください。「○○大学の学生を採りたいけれど、うちには現役の学生と顔見知りの若手社員が一人もいない。どうすればいいだろうか?」さあ、ここまで読まれたあなたなら、どうお答えになりますか?ちなみに、私たちはこうアドバイスしました。「そんなことは簡単です。○○大学のイベントカレンダーを見て、学園祭の日程を調べてください。そろそろ近いはずです。そこへ社員を行かせてください」「学園祭かあ……。で、行ってどうするの?」「模擬店で焼き鳥でも食べながら、代金を多めに払って世間話をするんです」「そこから採用の話はどう持っていくんですか?」「ある程度打ち解けてきたら、たとえば『いま企画しているイベントに参加してくれる学生を探しているんだ。就活イベントなので、3年生がいいんだけど、学校の近くでやるので、5人でも10人でもいいので集めてもらえないだろうか。君たちのサークルには何かしらのお礼はできると思う』というようなことを話すのです」その採用担当者は、「そんな方法があったのか……」と驚いていました。スカウト型採用をするには、新卒採用は就職ナビなどを使って学生を集め、その中から選ぶもの――という心理ブロックを取り払うことが重要です。「会いたい相手に会う」ことを目的に自由な発想で考えていけばいいのです。学生を集めるための名目は、アルバイトでもいいし、就職セミナーでもいいし、焼肉を食べさせるでもいいです。そのぐらいの柔軟さで、学生と会う方法を考えてみてください。16若手社員に学生を推薦してもらう見ず知らずの学生に声をかけるのは難しいと思われる方もいるかもしれませんので、次に、友だちの輪を広げるように、紹介を通じて芋づる式に優秀な学生と接点を持つスカウ
ト型採用の方法を紹介しましょう。最初に会うのは、自社の社員が推薦する学生なので、敷居が低くなると思います。営業で言えば、先の作戦が飛び込み営業、今回が紹介営業です。まずは、リストの作成です。最もよいリストを作成するためには、自社の若手や内定が決まっている学生からヒアリングを行います。入社3年目ぐらいまでの若手社員や、すでに内定を出している現役学生がいるのでしたら、その学生を集めて、「採用の重要性」や「自社の求める人材像」などについての説明会を開きます。この説明会では、会社の将来にとっての採用がいかに大切であるか、そして、いい人を一緒に採用することが社員全員の役割であることを理解してもらいます。会社をより発展させていく当事者として彼らを巻き込むわけです。もちろん、このとき説明するのは、人事担当者よりも社長のほうが効果的です。そのうえで、個別に面談などを行って学生を推薦してもらいます。このとき、忘れてはならないのは、個人情報保護に留意して、推薦者には学生本人に会社から連絡がいくことを事前に許可を取ってもらうことです。リストができたら、学生に会いに行きます。先ほど述べたように、会うための方法は、何でもかまいません。個別に訪ねてもいいし、食事会を企画してもいいでしょう。繰り返しになりますが、最初に会ったときに、いきなり口説かないでください。目的は人間関係を築くことです。また、もう1つ重要なことがあります。それは、友人を紹介してもらうことです。特に、ぜひ採用したいと思うような優秀な学生には、必ず友人を紹介してもらってください。類は友を呼びます。自社に欲しい学生には、同じタイプの友人がいる可能性が高いのです。優秀な学生ばかりに会えるのですから、この芋づる式の紹介で学生に会う作戦はとても効率的です。その際には、ビジネスで顧客を紹介してもらうときと同じで、紹介してくれた学生には、報告と感謝を欠かさないことはもちろんですが、迷惑をかけず、顔もつぶさないことが重要です。まずは、紹介してもらった学生には必ず会うことです。ただし、しつこく連絡したり、口説くことをしてはいけません。紹介リストをもとにした営業の新規顧客の開拓と同じで、相手に誠実な対応をしないと、「もう二度と紹介しない」というだけではなく、悪い評判が立つこともあるでしょう。
最初のうちは、友だちを紹介してもらえないことが多いと思います。そもそも、社会人であっても、個人情報保護が言われる中、誰かを紹介するのは躊躇しますし、紹介するという行為には一定の責任が発生します。しかも、学生の立場になってみると、会社の採用担当がしつこく口説きに行くのではないかと考えたら、慎重になるのは当然のことです。なので、友だちを紹介してもらうときには、その学生にどんなメリットがあるのかをきちんと伝えるようにしてください。メリットは、就職相談にのってあげるのでもいいし、OB訪問の練習をさせてあげるのでもいいし、焼肉をご馳走してあげるのでもいい。何でもいいのです。これを怠ると、紹介してもらえない可能性が高くなりますから要注意です。17年齢制限の枠を広げると優秀な人材に出会えるスカウト型の採用プロモーションを成功させる確率を高めるには、攻めるターゲットを絞り込むことも重要です。第2章で説明したように、どの会社も狙っているレッドオーシャン学生ではなく、ブルーオーシャン学生を攻めるのです。繰り返しになりますが、誤解されがちなのであえて断っておくと、他社が欲しがらない、レベルの低い学生を採るということではありません。優秀な学生なのに、他社が目をつけていない学生を採るという意味です。私たちが入社した頃のリクルート社は歴史的な事件が発生した後でしたので、大手企業から内定をいくつももらうような学生を採ることは難しい状況でした。それでも、採用の質を落とすことなく〝分不相応な採用〟を続けられたのは、前述のように、女性や地方学生、留学生など、他社が攻めないところから、優秀な学生を採ったからです。いまでいうと、「既卒可。30歳まで可」など、年齢制限の幅を広げるのも、大手は狙っていかないので、いい作戦だと思います。たとえば、ライフネット生命では、就業経験のない30歳までは、新卒として扱っています。人生を寄り道してきた人の中には、大企業の新卒採用には引っかからないけれども、とても優秀な人間がいます。海外に留学していたり、司法試験や公認会計士の勉強をして、年齢が新卒基準を超えている人たちです。このような人たちを、年齢だけで切ってしまうのはもったいないと思いませんか。私たちがリクルート社の採用担当をしていたときにも、弁護士や会計士になる夢をあき
らめた人を採用していました。同級生よりも何年か後れをとっている分、入社後は一生懸命に頑張ってくれます。グローバル化を考えている会社であれば、海外を放浪していた人のほうが、TOEICの点数だけ高くて英語が話せない人よりも即戦力になります。バイタリティもありそうです。ちなみに、このTOEICの問題点は近年よく指摘されていて、800点、900点を取っている人でも全然話せない人が多いのです。それでは全く意味がありません。また、第二新卒と呼ばれる、2、3年ほどの会社勤めで転職先を探している人も、ブルーオーシャンになる可能性があります。第二新卒は、すぐに会社を辞めていることは気になるでしょうが、それは辞めた理由次第だと思います。学生の立場になってみると、意に沿わない就職を強いられている学生も多いですし、育成体制の不備や上司との相性の悪さなど、会社側の受け入れ体制に問題があるケースもあるでしょう。人事の世界では、「中途バツイチ説」という話があります。たとえとしてはどうかと思うのですが、初婚のときは結婚に対して幻想のような憧れを抱いているので、パートナー選びに失敗することがあるのと同じように、新卒時の会社選びも、ブランド優先のミーハーな選び方をしてしまうことがある、という話です。2回目になると、自分にとって何がいい会社なのかという学びがあるはずです。社会的な望ましさよりも、自分軸に沿った本当の就職活動が第二新卒のときだった――というケースも多いと思います。「本当はこんなふうに仕事をしたかった。もっといいところはないだろうか」と思う学生は多いです。就職してすぐに見切りをつけて辞めたものの、その後、別の会社で活躍している人はたくさんいます。もちろん、単に苦しいことから逃げ出しただけの人もいますから、そこはきちんと見極めなければいけません。18人気企業の採用終了後にチャンスがやってくる新卒採用の特徴は、時期によってどんどんマーケットが変わっていくことです。なので、5月に誘って断られた学生でも、7月、8月なら入社に至るというケースが普通にあります。ですから、一度断られたからといって、候補者リストは簡単に「死にリスト」にしてはいけません。三顧の礼ではありませんが、人の気持ちは変わります。時期を変えて何回か当たってください。
では、大企業と同じ時期の勝負を避け、オーディション型にスカウトの要素を加えて多くの優秀な学生を集めている会社のケースをご紹介しましょう。いわば、時期ズレのブルーオーシャンです。この会社では、大企業と同じ時期から採用活動は行っているのですが、本当の勝負は、大企業の採用が終えた段階と考えて、二の矢、三の矢を放っています。正月明けから春先まで、まずは応募してきた学生の中から選ぶというオーディション型の採用をしていました。ただ、同社はB2B企業なので、学生の認知度は高くありません。就職のときに初めて名前を知る学生がほとんどです。そのため、4月時点では採用の目標人数には全く届いていませんでした。もっとも、4月までは大企業との競争をあえて避けていたので、志望度の高い学生の中からポテンシャルの高い人を見出すという最も簡単な方法をとっていました。5月になって大企業の波が去ってからは、志望度の低かった学生を集める作業を始めます。具体的には、「エントリーだけして、その後の説明会には参加しなかった学生のリスト」を洗い直したのです。というのも、最近の学生はエントリーをする人が1万人いるとすると、説明会や選考会に参加する人は半分もいません。会社側がさまざまなイベントや説明会を用意し、DMをたくさん送っても、3割かよくて4割しか来ないのです。すでに書いたように、残りの6割、7割の中に有望なターゲットがいます。では、どうするか?たとえば、1万人のエントリーがあるとすると、6000人は説明会に来ません。その6000人のうち、5月で内定が出ていない人は5割ぐらいでしょう。とすると、3000人もいます。その3000人のうち、上位校の学生が1000人いるとすると、1000人の有望リストがあるということになるわけです。ただし、その1000人のリストに対して、メールを送るだけでは、彼らは面接に来てくれません。そもそも志望度の低い「来てくれなかった人たち」だからです。ところが、大企業の採用が終わって夢破れた彼らに対して電話をかけると、意外とたくさん来てくれるのです。説明会にも参加していない自分に積極的に声をかけてくれるんだ、と感激するのです。こうした電話攻撃で、1日100人の面接を何回か開くことができました。1日100人の面接というと大変そうですが、面接官を5人ほど用意すれば、簡単に回ります。ある意味ですごく簡単な採用活動と言えます。私たちは、これを「二の矢、三の矢作戦」と名づけています。同社の場合、以前は「二の矢、三の矢作戦」でしたが、いまでは最初から明確な意図の下に、ファン(志望度の高い学生)をさばく時期と、非ファンをさばく時期を分けています。
そのために、説明会に来なくても選考会に参加できるようにルールを変えました。もちろん、大企業の選考の波が去った後に電話攻撃です。学生のほうも、説明会に出ていない自分に電話をかけてくれたのだから、採用してくれるだろうという気持ちで選考会に参加してきます。気持ち的には、まずは話を聞くだけということでしょうが、受かりそうで面白そうな会社だったら、「真剣に考えてみようかな」という気持ちになります。採用担当者はこの結果を見て、「ルールを変えるだけで、集まるんですねえ」と言っていました。何度も言いますが、「採用用のホームページなどいいコンテンツを作って、メールをたくさん送って、人をたくさん集めて、その中から選ぶ」のが新卒採用だという思い込みを捨てることが重要なのです。19エントリーシートをやめると優秀な学生が集まるいまお話ししたケースのように、知名度の低い会社が優秀な学生を採用するためには、選考プロセスを見直すことが重要です。新卒採用に関して、私たちが声を大にして言いたいのは、多くの会社で選考プロセスの設計があまりにもないがしろにされていることです。「優秀な学生を採用する」というゴールから逆算して考えたときに、「どうしてそんなやり方をするのだろう?」と首を傾げざるを得ないことが多すぎます。たとえば、エントリーシートは廃止してはどうでしょう?「学生が集まらない」と嘆いている会社が、エントリーシートを義務づけているのは理解できません。一度、自社のエントリーシートを記入してみてください。作成するのに、何時間もかかることがわかると思います。入り口から学生に負担をかけるようでは、応募者が減るに決まっています。ましてや、優秀な学生は、志望しない会社のために面倒なエントリーシートは書きません。エントリーシートを続けるにしても負担の軽いものに変更すべきでしょう。また、大手企業のグループ面接では、エントリーシートに書かせた志望動機と同じことを聞いていることがありますが、この段階で志望動機を長々と書かせる必要はないと思います。そして一人10分の面接で同じことを聞くのも無駄だと思います。応募するのに「ワンクリック」ですむ会社に、優秀な学生が練習のつもりで受けてきたりするのです。そこで縁が生まれて入社するケースもあります。知名度の低い、小さな会社は、少しでも多く優秀な学生と会うことが課題です。できるだけハードルを下げることを考えてください。また、説明会に参加しなくても本選考を受けられるようにしましょう。
説明会に参加していないのに受験してくれる人を排除する必要なんてありません。自分で研究し、興味を持ってくれているのだから、むしろ歓迎すべきです。面接に持ってこさせる資料も、写真だけでいいと思います。来たときに5分か10分ぐらいさっと書類を書かせればいいでしょう。リクルート社時代の面接では、簡単な用紙を用意しておき、「学生時代にしていたことを百分率で書いてください」としか言いませんでした。仮に文章で書いてもらっても、面接前に全部読む時間はないからです。シンプルな表(フォーム)を用意しておき、記入するのに5分くらいしかかからないように工夫しました。もう1つ。途中辞退率の多さに悩む会社が、内定までの選考期間をなぜか長期に設定していることがあります。選考期間は短縮し、早期受験者をいつまでも待たせてはいけません。期間が長くなれば、辞退者が増えるに決まっています。しかも、スピード感がない会社に多いのですが、長期間にわたる理由というのが、「自社の会議室の広さと数に合わせて1日あたりの面接可能数を設定しているため」とか、「役員のスケジュールが取れるのは何週か後だ」とか、「役員面接より先に部長面接が設定できない」など、会社都合の理由が多いのです。それで、面接日が伸びて、辞退者がどんどん出て……、という不手際を犯しているようでは、優秀な学生は採用できません。人事部の採用担当者は、求める人物像とは何かとか、その人たちを惹きつける広報の方法とか、面接で効果的な質問は何かといったことは一生懸命に頑張ります。しかし、何日で何人の候補者をさばくためにはどうするのか、といった一連の選考プロセスの設計ができる人がほとんどいません。また、手順を守ることを優先して、目的が優先していないケースもよくあります。ルールや慣習にとらわれるばかりに、むざむざチャンスを逃している社員は「門番社員」とでも言えます。もちろん、これは性格のタイプの問題で、その社員自身に悪意はありません。ですから、採用プロセスを見直すためには、人事部任せにはできません。社長が先頭に立って、見直していかなければ実現できないのです。無駄なプロセスを削りましょう。社長は、採用担当者に「それは、なぜやっているのか?」と全部聞くべきです。会社都合の採用プロセスが超上位校の学生を遠ざけているのです。優良顧客を開拓する営業部の話なら許されることでしょうか。「学生の労力を減らし、心理的なハードルを下げれば、優秀な学生が集まる」この鉄則は必ず覚えておいてください。
20習慣になるまで努力したエピソードを聞く採用プロセスを見直し、スカウト型の採用プロモーションを仕掛けて、多くの学生に会った後は、その学生のポテンシャルを見極めることが重要になります。採用担当者にお会いすると、「学生のポテンシャルを見抜くのは難しい」という声をよく聞きます。それは当然といえば当然です。新卒採用のポテンシャル評価が難しいのは、まだ学生なので、中途採用とは違ってビジネスにおける顕在的な成果や実績を見ることができないからです。そのため、潜在ポテンシャルを表現するときには、「地頭がいい」「コミュニケーション能力がある」といった抽象的な表現にならざるを得ないのです。では、潜在ポテンシャルを見る方法はないのでしょうか?あります。それは、その学生の「習慣」を聞くことです。人の「性格」や「能力」や「志向・価値観」は本来同じものです。たとえば、「明るい性格」(性格)と「コミュニケーション能力が高い」(能力)と「人が好き」(志向・価値観)というのは、その人の「習慣」を切り口を変えて表現しているだけです。なので、私たちは、それらをまとめたものを「無意識に起こる思考パターン、行動パターン」であると定義をして、「習慣」だと考えています。潜在ポテンシャルを見るのになぜ習慣を聞くのかというと、習慣には再現性があるからです。面接では、過去の事実しか聞けないわけです。ところが、極論を言えば過去に何をしたかは関係ありません。採用担当者が知りたいのは、そのことを入社後もやってくれるのかどうかです。なので、習慣を聞くときには、その成果だけではなく、どうしてそのような習慣を持つことになったかという「歴史」を聞くことが重要です。採用面接では「過去に何を成し遂げたか」という成果の話に焦点が当たることが多く、学生たちも、インパクトの強いエピソードをひねり出して用意してきます。でも、まだ若い学生の成果というのは五十歩百歩です。そこに微差があったからといって、評価を変えるのは違うと思います。運不運もあります。特に顕著なのは、都会の学生と地方の学生とでは、環境の差に明らかにハンデがあることです。地方の学生はせいぜいアルバイトや部活動、ボランティアで頑張るくらいで、あまり華
やかなエピソードがないのですが、だからといって地方の学生がダメというわけではありません。だから、学生にエピソードを聞く際には、短期のイベント的な話ではなく、長期にわたる反復に関するもの、つまり、その人の育ってきた歴史(生育史)を聞くのです。学生は、成果を語りたがりますが、何かの幸運で成し遂げた「一発屋」のような成功体験や、組織の成果について自分の貢献度を過度に〝盛った〟話を聞いても仕方ありません。以前、面接をした学生でこんな女性がいました。彼女は、アメリカに短期留学をした際に、現地の学校で日本についてスピーチしたことを「成果」として語っていたのですが、よく話を聴いてみると、彼女は学生時代に3年間も2つの体育会系部活を掛け持ちしていたことがわかりました。なぜその話をしないのかと尋ねてみると、彼女は「大会で上位入賞したわけでもないし、キャプテンをやっていたわけでもないので黙っていた」というのです。彼女としては、部活の掛け持ちなどは日常の一部であって大したことではなく、海外でのスピーチのほうがアピールできると考えたのでしょう。学生仲間からも、「すごい」「面接で使えるよ」などと評価されるのかもしれません。しかし、どんなシチュエーションかもわからない海外での一度限りのスピーチなどよりも、長期間にわたる部活の掛け持ちのほうがよほど評価できます。彼女は、そうした厳しい環境の中で、時間をやりくりしながら継続的に努力できる習慣を身につけていました。努力を習慣化できている彼女は、成功できる方法や条件を知っています。だから、仕事で辛いことがあっても頑張れるでしょう。もう一度言います。エピソードで聞くなら「成果」ではなく「習慣」です。「その成果をあげるために、どんなことをしてきたのですか?」「どうしてその習慣を持つに至ったのですか?」「長くしてきたことや長くおかれた環境はどんなものですか?」こういったことを質問していくと、学生の話すエピソードが、判断の材料になる深くよいものに変わっていきます。21なぜそうしたのかで優先順位力がわかる成果ではなくて習慣を聞く――。これを心がけている採用担当者であっても、実は肝心なことを落としていることがあります。ここでは、そこをもう少し深掘りしてみましょう。
たとえば、多くの面接官が聞いているのは、たいてい次の3つのステップです。問題→対策→成果つまり、どんな問題があって、どういう手を打ち、その結果どんなことを成し遂げたのかという質問です。学生も、これを話したがります。一見すると悪くない質問のようですが、実はこれだけ聞いてもポテンシャルは何もわかりません。もっと言ってしまえば、学生が就活用の武勇伝を創作しても、それを見抜くことができないのです。では、どうすれば学生のポテンシャルがわかるのでしょうか?それは問題→対策→成果という流れに隠れている潜在的なプロセスに対して質問をすることです。たとえば、学生が話したエピソードに、「なぜそうしたのか?」「なぜその問題を選んだのか?」と質問することで、その学生の優先順位づけの能力がわかります。世の中には、さまざまな問題があふれており、その中で、何をやって何をやらないか、何を優先して何を後回しにするかを判断していくことは、ビジネスマンとして欠かせない能力です。新入社員が仕事を始めて最初に怒られるのも、「もっとプライオリティ(優先順位)を考えろよ」ということではないでしょうか。それを、「いきなりこんな問題を解きました」とか「こんなことをやり遂げました」と言われても、聞いているほうはその重要度が判断できません。たとえば、大学生のA君のエピソードから考えてみましょう。「○○駅前にある飲食店でアルバイトしています。常に人手が足りないので、毎日のように昼間からシフトに入って、店長代理のような仕事をしています。ほかのアルバイトからも頼りにされています」これだけを聞くと、働き者で体力もあってリーダーシップもある立派な話にも聞こえます。ところが、「なぜそうしたのか?」「なぜその問題を選んだのか?」という質問をぶつけてみると、アルバイトを日常生活の最優先にしていた理由や、その間の学業との両立をどう考えていたのか、といった疑問が湧いてきます。それに対して彼がどう説明するか、成績から見てきちんと両立できていたのか、といった話を聞いていくことで、彼の優先順位づけの能力がわかってくるわけです。22天井の雨漏りをどうするかで問題解決能力がわかる
次に対策に対しての質問です。「なぜそれが原因だと思ったのか」と聞くことで、原因をとらえる能力を図ることができます。具体的にいうと、問題に対して対症療法をする人なのか、それとも、根本療法ができる人なのかがわかります。その問題がどれくらい深いものなのか、どれくらい深い原因から成り立っているものなのかを理解する力があるかがわかるのです。その場その場で対症療法しかできない人は、残念ながら将来伸びません。原因を突き止めて解決する能力がなければ、同じ問題に繰り返し遭遇することになるからです。たとえば、天井から雨漏りがするとします。対症療法しかできない人は、雨が降るたびに皿や洗面器を床に置きます。しかし、根本療法ができる人は、当然ですが、雨漏りの原因を突き止めて解決を図ります。屋根の穴を塞げばいいのか、リフォームするレベルなのか、といったことを探ろうとするでしょう。どちらが優秀かは言うまでもありません。では、ここで先ほどのA君のエピソードの続きを見てみましょう。「店長から客足が遠のいているという相談を受けたので、自分でチラシを作って駅前で配りました。それを何回か実施したところ、けっこう人が集まってきました」これだけ聞くと、店長に経営の相談もされるくらいに優秀で、きちんと問題を解決する能力と実行力も備わっているように思えます。そこで、「なぜそれが原因だと思ったのか?」という質問を投げかけてみます。客数が落ちた店でチラシを配ったというのは、単なる対症療法です。面接官が知っておくべきなのは、彼が、「なぜ客足が遠のいたのか?」という根本的な原因を考えていたかどうかです。たとえば、こんなやりとりです。「ビラを配るアイデアはいいね。ところで、君はなぜ客足が遠のいたと思ったの?」「店長とはどうしてだろうねとは話しましたが……」このような答えで終わったら、対症療法の人です。でも、彼がこう続けたら評価は変わってきます。「おそらく、学生街にしては単価が高いからだと思います。味は美味しいと思いますが、ランチが1000円もしますから」「学生に1000円は高いね。どうしてそんなに高い値段設定なんだろうね」「仕入れ先が悪いのだと思います。自分が見ていても、もっと安く仕入れる手段はあると思いますから。ただ、具体的な仕入れ先を紹介するほどの情報がありませんでしたし、
そこまでの話ができる立場でもありませんでした」ここまでわかっている人なら、場合によっては、もっと材料費を抑えて価格を下げたり、安いメニューを投入するといった流れになった可能性があります。ちょっと脱線しますが、エピソードを聞く際のコツを追加しておきます。面接では、「好きなこと」よりも「嫌いなこと」を、「うまくいったこと」よりも「苦労したこと」を質問するようにしてください。なぜなら、好きなことは多少苦しくても頑張ることができます。たとえば、「鉄道が好きで、何週間も野宿や車中泊をしながら全国を旅した」というエピソードも、普通の人には辛いだけの話ですが、彼らにはむしろ楽しいことだったりするので、能力を測るにはあまりふさわしくありません。プロ野球の野村克也監督の言葉ではありませんが、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」です。ラッキーが入っているような成功体験よりは、苦労したことについて、それをどう克服したかを聞いたほうがいいのです。23プロセスを次々に聞くことで発想力がわかる3つのステップに対する質問はほかにもあります。実施した対策に対して、「ほかにどんな方法が考えられたか?」という質問をするのです。この質問で、発想力、アイデアの展開力、それをまとめる力がわかります。私たちは、これを「拡散と収束のプロセス」と呼んでいます。仕事のできない人の特徴の1つに、「よし、これで行こう!」と、最初に思いついたアイデアにいつまでもこだわって、そこから別のものに展開できず、そのまま時間が過ぎてしまうことがあります。逆に、仕事のできる人は、限られたリソースの中で、思いつく限りのアイデアを並べて「こういう選択肢がある中で、時間やコストなどの制約条件を考えると、この方法がベストだ」というプロセスを経るものです。そのアイデアの多様さ、質の高さ、制約の中で選択する力といったことが質問への回答からわかるわけです。先ほどのA君のアルバイトの話でたとえると次のようになります。「チラシを配る以外に、どんなアイデアを思いついたの?」「いえ、ほかには何も考えていません。ぱっと思いついたので……、実際お客さんも増えましたし……」
たしかに、この質問は学生にとっては難しいかもしれません。価格設定が問題だということに気づいている根本治療ができる学生でも、ビジネスの経験は少ないですから、アイデアの幅も狭いかもしれません。そのようなときには、次のような質問をしてみましょう。「チラシはどのようなものを作ったの?」この質問でも、拡散と収束のプロセスがわかります。しかも、実際に作成したものなので、答えやすいでしょう。「学生は200円引!と、学割を強調したチラシを作りました」その答えに対してどんどん質問を加えていきます。「チラシの内容はどれぐらいバリエーションを考えたの?」「実際に配ったチラシは学割バージョンですが、ドリンクサービスや、大盛り無料、女性限定割引、午後1時以降の割引などを検討しました」「なんで、ほかのバリエーションを実施しなかったの?」「学生街ですから、学生が目を引くサービスがいいと思ったからです。ドリンクサービスすると長居されて回転が悪くなりますし、大盛り無料だとすべて大盛りになりそうですし、そのようなことを考えると、学生なら一律割引としたほうがいいと思ったからです」ここで質問を終えてもいいですが、どのようにチラシを作成したかについても同じように質問することができます。「チラシはどのように作ったの?手書き、パソコン?」「パソコンで作成しました。パワーポイントで作ったので、たいしたものではないのですが、結果として学生受けしたと思います」「印刷はどうしたの?」「カラーコピーだと高いので、お店のプリンターで印刷しました。1000枚ですから、用紙印刷代は2000~3000円ぐらいで収まったと思います」「へ~、コスト意識もあるんだね。それにしても、1000枚も配布したんだ」「サークルの仲間たちにも協力してもらいました。ランチ1回おごる約束で」ここまで聞くことができれば、A君の発想力、アイデアの展開力、それをまとめる力が十分にわかります。24試行錯誤した経験のある人は
想定外のことに対処できる次に確認したいことは、試行錯誤の能力です。仕事に限らず、物事がすべて順調に進むことなどまずありません。ですから、想定外のことが起きたときに、どう対処できるかという能力は重要です。仕事ができる人は例外なく、この能力が高いです。逆に、同じ失敗を繰り返す人や、何事にせよやっていることがレベルアップしていかない人は、この能力が低い証拠です。試行錯誤能力があるかどうかがわかるのが次の質問です。「対策を成果に結びつけるまでにどんな試行錯誤があったのか?」「その経験を次は何に活かしたか?」この質問によって、いわゆるPDCA(プラン→ドゥー→チェック→アクション)サイクルの思考が身についているかがわかります。学生ですから、答えのレベルが低いこともあると思います。でも、程度に差はあるにしても、この質問に答えられるのは、真の当事者として努力し、長い間試行錯誤しながらやってきた人だけです。もう一度、A君のケースで質問してみましょう。「チラシを配ってお客を増やした後、その経験を何かに活かしたの?」「はい。私は囲碁サークルに入っているのですが、年々後輩が減っているので、今年の春は、アルバイトでの経験を活かしました」「サークルの勧誘でチラシ配りはどこでもやっているでしょ」「はい。なので、学内でチラシを配ることはやめました。華やかなサークルには勝てませんから」「で、どうしたの?」「お店の割引チラシに、いま囲碁ガールがブームという文章を書いて、サークルのブログのアドレスを書いておいたんです。お店では、サークルの後輩女子大生に、周りに聞こえるように囲碁ネタの会話をしてもらいました」「それで、結果は?」「新人が5人も入りました。ここ数年では倍の数です」学生に求めたいことは、ある経験を次に活かすかということです。その活かし方の大小を問う必要はありません。そのような習慣があるかどうかが重要なのです。もしA君が、飲食店でチラシを配ったエピソードを語ったときに、それがどんなに立派な成果だったかを語っていたとしても、その後でその経験を活かしていなければ、その話は突っ込みどころ満載の創作された武勇伝かもしれないのです。
25エピソードに隠れているプロセスを聞き出す問題→対策→成果という3つのステップのような顕在的な成果というのは、ラッキーなだけの人や、責任のないポジションで小判鮫のようにやっていた人でも語ることができます。採用担当者として面接で確認すべきことは、潜在ポテンシャルを測ることです。そのための質問が、これまで解説してきた質問です。これは重要なことですので、ここにまとめておきます。「なぜそうしたのか?」「なぜその問題を選んだのか?」「問題の真の原因は何だと思ったのか?」「どうしてその対策を選んだのか?」「ほかにどんな方法が考えられたか?」「対策を成果に結びつけるまでにどんな試行錯誤があったのか?」「その経験を次は何に活かしたか?」これらの質問には、〝潜在ポテンシャル〟の高い人しか答えられません。しかしながら、ほとんどの面接官はこのような質問をせずに、「問題→対策→成果」を聞いているのが現状です。それで結局、「印象ジャッジ」になってしまう……。もったいない話です。この質問が習慣になると、たとえ大きな成果でも表面的で穴だらけのエピソードは聞いていられなくなると思います。エピソードの内容の大小にこだわらなくなれば、極端な話、宴会の幹事や自宅で客をもてなした経験から、これらの質問を投げかけることで、その学生のポテンシャルがわかるのです。たとえば、ちょっと古い時代の例になりますがご紹介しましょう。有名な話なので、知っている方も多いと思います。昔、鷹狩の途中に寺に寄った豊臣秀吉に対して、小坊主がお茶を出しました。一杯目はぬるいお茶を湯呑いっぱいに、2杯目は少し熱いお茶を半分くらい、3杯目は熱々のものを少しだけ――。その3杯の美味しさに秀吉が興味を持ち、なぜそうしたのか尋ねると、小坊主は理路整然と理由を語ります。その答えを聞いて、秀吉はその場で家来に取り立てました。これも採用面接と言えなくもありません。後の石田三成のエピソードです。また、この本を読んでいる学生の方は、常にこれらの質問を意識して話すようにする
と、面接がとても楽になること請け合いです。なぜなら、自分の日頃の行動や、20年ほどの人生で体験したことを正直に語ればいいからです。学生同士ですごいの、すごくないのと比べあっている「成果」を即席で作る必要もありません。また、これらの質問の答えは、その学生がどの部署に向いているかの目安にもなります。たとえば、前述のA君がアルバイト先の飲食店の客数アップに貢献した話ですが、これらの質問を投げかけていくことで、こんな推測ができます。「解決策のアイデアが豊富に出るし、実際に作ったチラシの着眼点も面白いので、クリエイティブな仕事で力を発揮するかもしれない」採用担当者は、面接を通じて〝潜在ポテンシャル〟を測ることで、入社後のイメージができるということも重要なことです。ですので、面接の際には、問題→対策→成果というエピソードに隠れている潜在的なプロセスを聞き出す質問を心がけてください。26学生に求める能力の定義を共有するあなたは、「地頭がいい」と言ったときに、どんな人物を思い浮かべますか?まずちょっと考えてから、人事部と営業部と企画部の3人の会話を読んでください。営業「今年はちゃんと地頭がいい奴を採ってくれよな」人事「去年だって採っただろ。A君は地頭がいいよ」営業「全然だめ。どうして彼の地頭がいいって言えるんだよ」企画「そうかな。あいつはけっこう面白いと思うけど」人事「おまえたち、地頭がいいって、いったい何を指して言っているんだよ」営業「そりゃあ、やっぱり気が利いて、場の空気を読めることだよ」企画「それは、そつなく行動できるってことだろ。利口と地頭とは違うよ」営業「じゃあ、おまえはどう考えているんだ」企画「直観力とか連想力だろ。一見すると無関係なものをどんどんつなげて新しいアイデアを出せる奴が一番頭がいいと思うね。というか貴重だ」私たちがコンサルティングしている会社の打ち合わせにうかがうと、これに近いやりとりが当たり前のように聞こえてきます。会話の中の答えはどれも正解と言えるのですが、だからこそ、人事の世界には根深い問題が横たわっていると思います。
つまり、同じ言葉を使って会話していても、候補者のポテンシャルを評価する基準が全くかみ合っていないのです。これでは、せっかく自社が求める人物像を決めても、選考途中だけでなく、入社した後もボタンの掛け違いが続いてしまいます。実は、新卒のポテンシャル採用が難しいもう1つの理由が、これなのです。目に見える実績がない以上、潜在的なポテンシャルは抽象的な言い方でしか表現できません。ところが、人を表現する言葉には手垢がつき、どんどん意味が多様化していくのです。だから、それぞれが全く違う意味で使っているわけです。人事の世界で長らく流行の「コミュニケーション能力が高い」「論理的思考力がある」といった言葉も、やはり定義が統一されていません。では、会社(それぞれの部署)が求める人材に近い候補者を見つけていくには、どうすればいいのでしょうか。当然、最初にすべきことは、言葉の定義づけをしっかりして、社内で共有することです。次の図を見てください。
図の中の矢印は、次の4つの能力を表しています。①抽象化力:本質を見抜く力、解釈する力、場の空気や文脈を読む力。②展開力:論理的思考力(本来の意味の論理的思考力)。③具体化力:表現力、何かにたとえて説明する力。④連想力:発想力、直観力、意外なもの同士を結びつけて考える力。「地頭がいい」「コミュニケーション能力が高い」「論理的思考力がある」と言うときには、この4つの能力が混ざっていることが多いです。なので、採用で学生のポテンシャルを評価するときには、人によって意味が異なる言葉は、4つの能力に分けて、具体的に言い換えるのです。×「地頭がいい人」○「場の空気や文脈を読める人」○「直観力・連想力のある人」面接で評価するときには、4つの能力のそれぞれに5点満点で点数をつけていってもいいでしょう。その場合は、必ず、誰か基準になる人を3点にして、その人と比べてプラス・マイナスをつけます。こうすることで、主観的な採点が減らせます。社長や採用担当者は、現場社員が「コミュニケーション能力」や「地頭」と言ったとき、この図を思い出してください。そして、「それは何を指すのか」「どんな能力を期待するのか」といった確認を習慣づけてください。27初期選考では基礎能力だけジャッジする人材に求めるポテンシャルの定義が確認できたら、次は選考段階です。ここでは、より精度の高い選考をするためのポイントを、初期選考、中期選考、最終選考の順に解説していきます。初期選考では、「基礎能力」や「印象・雰囲気」などの能力面のスクリーニングを行います。なぜなら、候補者が玉石混交で、「能力の差」や「求める人物像との合致度の差」が個人間で大きいため、基礎能力などによる粗い選考で合格者を絞ることができるからです。また、この段階では候補者の数も多くて、グループ面接などで一人一人と話す時間はあまりとれませんし、面接に慣れていない現場社員が狩り出されていることも多いため、判断が難しいパーソナリティの選考を行う場には向いていません。
もし、この初期段階で、パーソナリティの選考をしてしまうと合格率が必要以上に下がる可能性があります。その理由は、面接担当者の立場で考えるとわかりやすいと思います。落とす場合は「×」を付ければそれですみます。ところが、合格をさせるとなると、「なぜこの人を上げたのか」という説明責任が発生するからです。そのため、「わからない人は上に上げる」ではなく、「わからない人は落とす」という判断が増え、優秀な人がこぼれてしまう可能性があるのです。それを防ぐには、初期選考では、「基礎能力」「印象・雰囲気」だけを見て、それ以外のパーソナリティなどについてはジャッジしないと決めることです。極端な話をすれば、「こちらが聞いたことに正しく受け答えできているか」という一点のみで選考してもいいと思っています。そんなことで大丈夫かと思われるかもしれませんが、これだけでも欲しい人材をこぼすことなく、半数以下に絞ることができます。
28中期選考は入社3年目までの若手社員を基準にする中期選考では、パーソナリティのジャッジに入ります。「行動特性」「思考特性」といった面から、その人が自社の求める人材像と合致しているかどうかを判断していきます。最終選考ほどの精度は必要ないとはいえ、基礎能力の判定よりは難しいものになりますから、担当者へのガイダンスやトレーニングにも力を入れる必要があります。これまで述べてきたように、表面的なエピソードではなく、その成果のプロセスを尋ねる質問をすることや、パーソナリティを表す言葉の定義を統一して担当者間のボタンの掛け違いを無くすこと、さらには、できるだけ多くの学生を見る経験を積むことなどです。よく「自社の実態をわかっている現場社員こそ、採用可否判断が上手にできる」という話をする人がいるのですが、それは間違いです。たしかに「人を見立てる(見抜く)力」については、人事部よりも現場の人間のほうが勝っているかもしれません。ある特定の領域に限れば、精密なジャッジができると思います。候補者を内定へと口説いていく力もあるでしょう。しかし、現場の人間は、社外の労働マーケットを知らない、つまり、いまの学生をたくさん見ていないことも多いため、その学生の市場価値(学生全体の中でどれくらいの位置にあるのか)が判断できるとは限らないのです。また、彼らは何年も経験がある社会人と比べてしまうので、学生への評価が不当に低くなってしまう傾向があります。しかも、昔の自分も美化されているので「最近の若い奴は……」とか「どうしてこんな奴を……」ということになってしまうことも多々あります。そもそも人間を評価するにあたって、音楽でいう「絶対音感」のような「絶対人感」を持っている人は非常に少ないのです。かつてリクルート社で数千名の個人面接を行ってきましたが、一次面接官として学生と対峙したときに、その人が内定に値するか判断しろと言われたら、正直答えられません。最終選考まで残った学生たちを相対的に見て優先順位をつけることはできても、特定の一人だけ見て正しいジャッジすることはできないのです。人間を評価するには比較対象が必要です。比較対象にする「具体的な誰か」は、自社に在籍している社員が最適です。人事担当者の誰もが同じ評価をしている人がいいと思います。新卒採用の場合は、自社の若手社員でいいでしょう。できれば去年採用した新人が望ましいですが、入社3年までの社員を比較対象にすればよいと思います。若い社員がいない場合は、選考中の候補者の中から合否のボーダーラインの人を決め、
その基準を担当者全員で共有するという方法もあります。なお、選考の際に注意しなければいけないのは、この段階でグループから残す割合を絞りすぎないことです。そうしないと、たまたま優秀な学生が集中したグループができていた場合に、今度は優秀な学生を取りこぼすことになってしまうからです。陸上競技の国際大会などで取り入れられているように、面接にグループから残す割合は、半分程度に設定するのがいいでしょう。29最終選考では選考とフォローを一体化させるさて、最終選考です、この段階での難しさは、主として次の3つです。①優先順位の問題優秀な層だけ残っている中で、ポテンシャルを測って優先順位づけをしなければいけません。なおかつ、何番目の人までに内定を出すのかを決めるのです。②「時期ズレ」の問題時期をずらしていくつかの集団に分けて採用活動を行っている場合に、全員の選考終了を待つわけにはいかないので、初期の集団はその中だけで評価し、内定を出していくことになります。そのため、時期(集団)ごとに内定を出す割合を決めるわけですが、これは第2章でも少し触れたように、選考期間の初期に応募してくる学生のほうが平均的に優秀で、内定が出る確率も高い――という傾向を考慮する必要があります。なので、初期の合格率を厳しくしてしまうと、優秀層を取り逃がすという事態になってしまいます。③辞退の問題ポテンシャルの高い順番に内定を出したいのに、優秀な学生ほど人気企業に流れていきやすいという悩みです。そのため、常にその時点での採用可能数の予測をしていきますが、そのベースは、内定受諾者ではなく、最終面接の1つ前の面接合格者の人数とします。つまり、採用可能数は、最終面接直前の面接合格者の人数(その時点での実数)+(その後の発生予測数)から予測していきます。〝分不相応な採用〟を始めた会社が忘れてはいけないことがあります。それは、ポテンシャルの高い学生を採用すると決めたら、いままでと同じように、自分たちが学生を選ぶという意識でいてはいけないということです。選考過程では、学生のポテンシャルを見極めることに熱心になってしまい、自分たちが
学生を選考しているという気持ちが強くなってしまいます。ところが、実は、優秀層の学生は、あなたの会社をジャッジしているのです。ですから、学生を選ぶための面接ではなく、「学生を選びつつ、学生を惹きつける面接」に変えていくべきなのです。つまり、選考とフォローをこの時点から一体化していくということです。そのままのやり方をしていたら間違いなく辞退率が上がります。社長以下社員のマインドも、行動も、運営も、質問の内容も、フォロー体制も全部変えていってください。たとえば、面接に来た学生には、そのまま返すのではなく「お土産」を持たせるのです。ここで言うお土産というのは情報のことです。「ためしに面接に行ったらいい話が聞けた」「親身になって進路をアドバイスしてくれた」「社員の雰囲気もいいし、素敵な会社だった」このような感想を持って帰ってもらうのです。実際に、面接での真剣な話し合いを通じて、「就職活動を入試と同じような尺度で競争することに違和感を持っていたのですが、自分軸で会社を選ぶ勇気をもらえました」「自分は社会に何の役に立つのだろうと不安に思っていたのですが、社長からの強い期待を感じてやる気が芽生えました」という学生の声もあります。もし入社してくれなくても、この縁は重要です。何度も述べてきたように、取引先になるかもしれないし、就活中の友だちを紹介してくれるかもしれません。もしかしたら、数年後に中途採用で入社するかもしれません。その学生を通じてよい評判を広めてもらえるような親身の対応をすべきです。学生たちの評判や口コミは軽視できません。いいことも、悪いことも、就活のときの印象は、社会人になって何年経っても、はっきり残っているものなのです。
30フォローは単なる心理テクニックではないさて、ここまで読まれた方は、優秀な学生を採用するためには、通常のオーディション型採用だけでは無理であり、スカウト型採用も導入することが重要なことをご理解いただけたと思います。ただし、スカウト型採用は手間がかかります。まずは、上位校の学生につながるツテを社内で探します。ツテがまるでなければ学園祭に出向いたり、アルバイトやイベントを企画するなどして、友だちの輪を広げます。ブルーオーシャン人材も探します。採用プロセスの変更も必要です。候補者の負担をできるだけ減らすために、エントリーシートはなくすか、簡易なものに変更し、選考会にはエントリーしていなくても参加できるようにします。エントリーしてきただけで選考会に参加しなかった学生や、選考の途中でフェードアウトしていった大手志望の学生にも、大手の選考が終わった後に、「もう一度、当社を受ける気がないか」と直接電話をして声をかけます。選考会に参加した学生の評価は、武勇伝に聞こえるようなエピソードではなく、その成果に対するプロセスでポテンシャルを測ります。その手間をかけた結果として、例年になくポテンシャルの高い学生を集めることができるのです――。しかし、本当に大事なのはむしろここからです。優秀な学生ほど「引く手あまた」ですから、選んだだけで何もしなければ、彼らはもっとよい条件を求めて目の前を通り過ぎていってしまいます。新卒採用は、「いい人に出会ったなあ」というだけでは何の意味もありません。さらに、就職は人生の一大事ですから、本人だけではなく、親や親戚の意向も影響してきます。いくら自社が優良企業であり、学生自身が気に入っているといっても、知名度の低い会社への就職を頑なに反対する保守的な親御さんもいます。そこも含めて全力でフォローしていく必要があります。その覚悟がなければ、〝分不相応な採用〟はしてはいけないと思いますし、結局、ものすごく無駄なことをしただけ、ということになってしまいます。この章では、優秀な学生をいかにフォローし、口説いていくかについて具体的なことを紹介していきますが、その前に誤解を防ぐために、どうしてもお伝えしておきたいことをいくつか書いておきます。それは、「これからする話を単なる心理テクニックとして読まないでくだ
さい」ということです。私たちが本書で主張しているのは、「とてもいい会社なのに、中小だから、知名度が低いからといった理由で、最初から学生たちに相手にされない会社が、どうやって学生に真剣に検討してもらえる場を作るか」ということです。当たり前ですが、強引に口説いてでも学生を入社させようという話ではありません。採用担当者がすべきなのは、「うちの会社に来いよ」と熱心に誘うことではなく、あくまでも「事実」だけを伝えながら、自社の志望度を上げることです。彼らが自社に入ってくれることが最もうれしいわけですが、その前提として、学生の将来について真剣に、誠実に考えてあげなければいけません。その姿勢に欠けていれば、いくらテクニックを弄しても、本人や親御さんの気持ちは動きません。仮に、採用に成功したとしても、すぐに辞めてしまうでしょう。これでは、学生も会社もお互いが不幸です。もう1つ、強調したいのは、選考合格者をフォローする際は、個別に対策を立てていくということです。初期選考は参加人数が多いので画一的な対応でも仕方ないと思いますが、内定出しの段階まで来ると少人数で、しかも、採用プロセスの中で最も重要な局面です。それなのに「うちのルールはこうだから……」と画一的に対応している会社が非常に多いのはとても不思議な感じがします。「就職は結婚、内定はプロポーズのようなもの」だと私たちは考えています。このたとえに共感してくださる人事の方は多いと思うのですが、それならばなおさら、一人一人の価値観も、個性も、環境も、出会った経緯も違う相手に対して、流れ作業のように全員一律の対応をするのは正したほうがいいと思います。その候補者に合わせて、いつ、どこで、誰が、どのように内定を出していくかを、しっかり考えていくべきでしょう。31信頼関係を作るにはまず採用担当が自己開示する料理を作るときに同じ材料を使っていても、下ごしらえや味付けの手順を間違えると、できあがりが変わってしまうように、選考合格者をフォローする際にも、手順を間違えると、全く違う結果になります。たとえば、熱心さのあまり、いきなり勧誘と説得を始める担当者は多いのですが、信頼関係ができていないうちは、何を言っても相手に信憑性を感じさせません。しかも、相手の本当の根っこの部分の価値観を聞いてないので、説得しようにも胸に刺さるような情報を提供できないということになってしまいます。では、そのプロセスですが、次の3段階で考えていきます。第1段階:信頼関係を作る
第2段階:本音の就職志向を聞く第3段階:判断に必要な適切な情報を提供する第1段階では、「いきなり口説かない」のが鉄則です。最初は親しくなることを心がけて、こちらの話を真剣に受けてもらうための信頼関係を作っていきます。とはいえ、お互い、採用担当者と学生という、簡単に本音を話せない関係にあるので、短期間に信頼関係を作るといっても難しい面もあります。そこで大切になってくるのが、まず採用担当者から自己開示していくことです。ただし、自己開示と言っても、単なる自己紹介のレベルではダメです。相手の深い話を聞きたければ、自分も深い話をしなければいけません。たとえば、自分が持っている過去のコンプレックスみたいな話までさらけだすと、相手も同じところまで下りてきてくれるのです。もし、あなたが就活中の学生だとして、採用担当者が自社を好きな理由を次のように話したらどう思うでしょう。「うちの会社を好きな理由は、大きな夢に向けて、仲間意識の強い社員たちが会社と一緒に急成長していることかな」心に響きましたか?こんなレベルでは全然ダメで、学生の心を開くことはできないでしょう。同じ内容なら、なぜ大企業ではなく、小さな会社が成長していく姿に共感しているかを、自分の成育史のようなところから話していきます。「私の父親は従業員70人くらいの食品メーカーの社長をしていたんだ。もう亡くなってしまったけどね。もともとは畑違いの業種のサラリーマンで、結婚してだいぶ経ってから、義理の父親、つまり、私の母方の祖父に頼まれて転職したらしい。業績が悪い時期もあったので、大企業しか知らない父親はとても苦労したようだけど、従業員とその家族の生活を背負って頑張っている姿とか、会社が成長していく過程で新しく入ってくる従業員に家族のように接している様子とか、会社の将来や自分のビジョンを熱く語るときの真剣な表情が、子どもながらにもカッコよく見えてね。父親自身も後半生のほうが充実した人生だったと思う。だから私も、もう成熟してしまっている大企業よりも、仲間と一緒になって大きく成長していけると思って、いまの会社に入ったんだよ」こんな話をしていくと、相手も心の奥底にある本当のことを話してくれます。「実は、私の父も商売人なんです。飲食ビジネスです。子どもの頃は人に言えないくら
いに貧乏なときもありました。でも、家の中は明るかったですよ。経営が本当に苦しくなったのか、父が会社勤めをすると言い出したことがあったのですが、そのときは、母が涙をためて、押し殺した声でこう言ったんです。『私はサラリーマンと結婚したんじゃない。そんなことより、商売がうまくいくことを考えたら』小学2年生ぐらいのときだったと思うのですが、いまでも覚えています」このような話を引き出せたら、もう少し心の距離を近づけてみましょう。「君は、そういうご両親をどう見ていたの?」「お金では苦労していると思いますが、父も母もいつも笑顔でした。いつも会話があふれていましたし、将来こんなお店にするんだ、なんて、夢を語る父が好きでした」「もしかして、歴史小説とか好きでしょう」「歴史小説でも、戦国武将を描いたものは好きです。あと、ホンダやソニーなどの創業期を描いたノンフィクションをよく読みます」「ああ、私と同じだね。戦国武将と起業家って似ているよね。学生時代に、こんなことを思ったことがあるよ。豊臣秀吉だって若いときに『どの大名がこれから一番有望か』を考えて、大大名だった今川義元ではなく、若手ベンチャー社長みたいな存在だった織田信長を選んだっていうよね。自分を秀吉と比べるのもどうかと思うけど、就活だって全く同じだよね。いいお父さんとお母さんだね。君の話を聞いていると、やっぱり子どもは親の背中を見て育つんだって思うよ」これはあくまで一例ですが、こんなふうに話していくと、表面的なやりとりから会話の質が変わっていき、深いものになっていきます。最終的には、心と心の付き合いになっていくのです。32フラットに相談にのって共通点を探る相手に心を開いてもらうためには、フラットに相談にのっていくことが大事です。売る気満々の営業マンの話を多くの人が聞いていないのと一緒で、口説く気満々の採用担当者の言葉は学生の心に入っていきません。学生に対してはできるだけ中立の立場で話し、たとえば、会社に対して感じている違和感や本音もきちんと吐き出せるようにしてください。「ここではマイナスの質問をしてもいいんだ……。そういう話がフラットにできる場なんだな」ということを相手に意識してもらうことが重要になります。また、お互いの距離を縮め、信頼関係をつくっていくために有効なもう1つの手段は、
お互いの共通項探しです。たとえば、学生時代にやっていたスポーツが一緒とか、出身地や好きな食べ物が一緒といったことです。先ほどのコンプレックスを自己開示する話をしましたが、コンプレックスなら何でもいいわけではありません。相手は選考されている側の学生なので、ピントの外れた自己開示をされても、「まあ、そうなんですけどねえ」とか「そうですか……大変だったんですね」ぐらいのことしか言えないでしょう。要するに、相手の心に突き刺さっていないのです。自己開示するなら、相手が共感できることがいいのです。「えっ?本当ですか?私と一緒です!」「同じ価値観の人が会社にいらっしゃるなんてびっくりです……」こんな言葉を引き出せると一歩前進です。恋愛もそうですが、こういう偶然はすごいマジックです。奇跡を感じます。こちらはいろいろ考え抜いて共通点を探していますから偶然ではないのですが、人間関係を作るのが上手な人は、それをおくびにも出さず、その情報が出てくるように話の流れを作って、「本当ですか?」を引き出す話をしているものです。営業マンもスカウトも異性にモテる人も同じです。私たちは、この意味でも採用担当は、営業センスのある社員がいいと思っています。事実、リクルート社などは、半分くらいが営業経験者でした。さて、この段階でも、「自社に来ないか?」と誘ってはいけません。なぜ信頼関係を作ることができたのに、勧誘してはいけないのか?と疑問に思う方も多いと思います。これも高額商品を扱う営業で考えるとよくわかると思います。営業マンが、お客さんとの信頼関係を築いたばかりのときに、商品を勧めるようなことをすると、相手は、いままでの話は商品を売るためだったのかと急に熱をさましてしまいます。だからこそ、優秀な営業マンほど、この段階でも商売の話をしないわけです。優秀な学生に対しても同じことが言えます。大切に考えている彼らの気持ちをこちらに向けたければ、まず彼ら自身が大切にしている価値観や、いい意味でも悪い意味でも自社に対して気になっていること、性格などをもっと詳しく知っておかなければいけません。もう1つ大事なことがあります。くどいようですが、重要なことなので、もう一度言っておきます。自己開示したり、共通項を見つけているのは、相手の意思をコントロールするためではありません、あくまでも採用の話を真剣に聞いてもらえる場を作るためです。このことを忘れて単なる心理テクニックの話として考えてしまうと、その思惑が相手に
伝わって逃げられてしまうでしょう。33フォローで聞くのは「主観、妄想、思い込み」学生との信頼関係が築けたら、第2段階です。本音の就職志向を聞き出します。ただし、学生の話を聞く際に、選考しているときと、フォローしているときとでは、聞き出すべき情報が違います。まず、選考しているときは、第4章でも書きましたが、学生のポテンシャルを測るために、完全に事実情報を聞いていきます。たとえば、その人が過去に何をして、そのためにどんな努力をして、どういう習慣や行動特性をもっているかということです。一方、採ると決めた学生をフォローしているときには、その人の持っている主観、妄想、思い込みなどを聞いていきます。というのも、たとえば、自社に対する思い込みなどを聞かない限りは、どう説得していいかわからず、最終的にYESをもらえないからです。このとき議論してはいけません。たとえ学生が事実に基づかない思い込みをしていてもです。「ああそれは違うよ」「世の中がわかってないな」などと上から目線で言っていると、「ああ、この人には話せないな」となって、相手の本心が聞けなくなってしまいます。議論を制したところで入社に傾くわけではありません。この主観、妄想、思い込みを聞き出すために、学生とはフラットに話して、信頼関係を作っておくことが必要なのです。この第2段階で具体的にヒアリングしたいのは、次の4点です。①モチベーションの源泉②キャリア志向③自社に対するフックとネック④強く影響を受けている人まず、「モチベーションの源泉」について解説していきましょう。それを尋ねる理由は、その人がどんな欲求の種類を持っているのか、あるいは、その人は仕事が辛いときや苦しいときにどういう裏付けがあれば頑張れるのか、を知ることで、相手の気持ちを動かすための方法が変わってくるからです。モチベーションの源泉の種類は、「組織型」「仕事型」「職場型」「生活型」の4つに分類できます。まず、組織型の人は、所属する組織の知名度や成長度、組織内での自分のポジションに
よってモチベーションが変わります。このタイプには、自社が取り上げられたマスコミ媒体や実力を示す資料を見せることや、その学生が幹部候補であり、遠くない将来に重要なポジションに就ける可能性があることなどを伝えると効果的です。次に、仕事型の人は、所属している組織の知名度や待遇よりも、自分が任される仕事自体の面白さや、自分がその仕事で能力を発揮できるかどうかでモチベーションが大きく変わる人です。このタイプには、仕事の一部、たとえば、実際に使った企画書を見せたり、現在取り組んでいるプロジェクトについて話したり、あるいは、インターンシップなどで自社の仕事を疑似体験させてあげます。職場型の人は、職場の雰囲気のよさや、人間関係を気にします。つまり、何をするかよりは、誰と働くかを重視する人です。このタイプには、相性のよさそうな社員にたくさん会わせることが大切です。社員たちがプライベートでも和気あいあいとやっていることや、自分がその中に入って楽しいことが就職先を決めるポイントになるので、本人と合いそうな人たちの飲み会やレクリエーションの場に呼んであげてもいいでしょう。最後に、生活型の人は、会社や仕事よりも、自分の生活を重視する人です。このタイプには、この会社に就職した後に自分の生活レベルはどうなっていくのか?休みはどのくらいあるのか?残業時間は?福利厚生は?といった疑問に対して、自信を持って答えられる材料があれば、そこを強調して伝えていきます。このようにモチベーションの源泉ひとつとってみても、人それぞれ違います。本人のタイプを事前に把握しておかなければ、採用担当者がいくら熱心に語ってもピント外れの説得になってしまいます。344つの質問でスーパールーキーを口説く花巻東高校からプロ野球の北海道日本ハムファイターズに入団した大谷翔平選手(投手、外野手)をご存じですよね。身長193センチ、高校生ながら時速160キロのボールを投げ、打者としても非凡な才能を持つと言われる逸材です。その大谷選手は、本来であれば2012年のドラフト会議の目玉になるはずでしたが、本人が日本のプロ野球ではなく米国のメジャーリーグへの挑戦を表明していたため、多くの球団は指名するのをあきらめていました。しかし、北海道日本ハムだけは指名を強行したのです。各種報道によると、大谷選手はこの時点では「日本ハム入りの可能性はゼロ。アメリカでやりたい気持ちに変わりはない」とはっきり拒絶しています。さて、あなたが北海道日本ハムの担当者なら、彼をどんなふうに口説くでしょうか。先
ほど述べたフォローの際に尋ねるべき4つの内容を思い出して考えてみてください。北海道日本ハムが実際にどのように口説いたのかは、報道から推察する以外ありませんが、人をフォローするときのプロセスは、新卒採用もプロ野球もさほど変わらないと思います。「キャリア志向」は、先ほど述べた「モチベーションの源泉」よりも、もっと長い目で見たときに、その人のキャリア観を表すものです。採用活動のフォローにおいては「この会社に入っても自分の望むキャリアを積めないのではないか?」という違和感を持つと辞退や退職につながるので、自社がその人の希望に近いキャリアを用意できるのかを検討し、もし社内にモデルとなる社員がいるのなら、それを示していく必要があります。大谷選手のキャリア志向は、もちろんメジャーリーグという世界のひのき舞台で活躍することです。ですから、「日本のプロ野球で実力をつけてからメジャーリーグに挑戦することは十分に可能」であり、そのモデルケースとしては、「球団の先輩であるダルビッシュ有投手が日本でエースになった後、全盛期のうちに海を渡り、現在はテキサス・レンジャーズで大活躍している」ことを、内幕を交えて告げればいいでしょう。次に、「自社に対するフックとネック」です。フックとは、候補者が自社を選んでくれる理由です。わざわざこれを聞くのは、学生がフックと思ってくれていることが誤解であり、会社がその期待に応えられない事実があれば、後で話がこじれるからです。また、本人が自分の言葉で述べた「入社の動機と決意」は、とても大きな意味を持っています。会社側にとってはある意味、言質をとることになりますし、本人の覚悟も固まります。将来、仕事で壁に当たったときには、戻るべき「初心」にもなります。ネックは、自社に対してネガティブに感じていることです。この本音を知らなければ説得は無理です。ネックを聞くのが実は一番難しいのです。たとえば、「いままでお会いした方々を見て、正直社員のレベルが低そうに思えました」なんて、よほどの信頼関係がなければ言えません。でも、そのような話ができる間柄になっていれば、そのネックに対する手当、たとえば、熱血系の社員ではなく、社内の中でも知的なタイプの社員を担当にすることもできるわけです。ネックを解消するときには、相手の思い込みを簡単に否定しないことが大事です。そういう感想や印象があることをある程度認めたうえで、あくまでも具体的な事実を一つひとつ話していくことで誤解を解くしかありません。もちろん、学生の懸念が事実だったとしても、もちろんはダメです。「残念ながらそういう部分もあるが、会社は変わってきている」とか「自分はこう改善していきたい。一緒に変えていかないか」といった話をするとよいと思います。
さて、大谷選手のフックの話をすれば、北海道日本ハムは、大谷選手が、メジャーリーグ挑戦とともに、プロの世界ではほぼ前例がない「投手と打者の二刀流」での起用を希望していることをつかみます。逆に、ネックは、「気持ちを翻意することで、野球関係者にかかる迷惑と世間のバッシング」だったでしょう。だからこそ、同球団の栗山英樹監督は、「大谷君の夢を応援したい」「責任はすべて僕がとる」とマスコミで公言したのでしょう。35強く影響を受けている人を知るフォローの際に聞くべき4つの質問の最後は、「その人の意思決定に影響を与える人物」です。人間は自由に生きているようで、さまざまなしがらみがあります。特に、人生の一大事である就職先については、育ててもらった親御さんや世話になった親戚、親しい友人、付き合っている恋人などに相談し、意向を確認するはずです。既婚者の中途採用の場合は、奥さんの意向を無視して決めることはできません。ということは、その人の背後に誰がいるのかを、事前にきちんと知っておかなければいけません。それを知るには、候補者本人に「いま行っている就職活動について誰に相談していますか?」とか「その人はなんと言っていますか?」と率直に尋ねてしまえばいいと思います。技術力もあり、成長性もある会社であっても、知名度の低い、小さな会社の場合は、絶対にそれが必要です。なぜなら、親御さんが絶対に反対するからです。たとえば、「東大まで出したのに、なんでそんな会社に行くんだ?俺は知らん!」となるわけです。目の前の本人はリスクテイクできる人であっても、周りで反対する保守的な人、特に、親御さんに泣きつかれては、心が大きく揺らぎます。なので、そのような反対者を口説けるような材料を用意して、学生に渡してあげることが必要です。その材料は、新聞や雑誌の記事などが最適です。それを「社会的証明」というのですが、自分がPRするのではなく、社会が証明してくれているものを見せるのです。目の前の本人に対しても、親御さんに対しても効果があります。そのときは、影響を与える人物が先ほどのモチベーションの源泉の種類にあった4つのタイプ、「組織型」「仕事型」「職場型」「生活型」の中でどれにあたるかも、学生本人から聞いておくと、適切な資料を準備することができます。そのほか、親御さん対策として、「父母説明会」や「親子工場見学」などを企画するの
も有効です。事件直後のリクルート社は、マスコミから酷く叩かれ、親御さんのイメージは最悪でした。そのために行ったのが、親御さんに会社を見てもらうことでした。口説くためではなく、社内の事実や雰囲気、働いている社員をただ見てもらい、判断してもらおうと考えたのです。成長まっさかりの会社で、社員が潑刺と働いていますので、それを見た親御さんたちには、「なんだ、きちんとしたいい会社じゃないか」と思っていただけました。この会社を見せるイベントは、5年くらい実施しました。知名度が低く、小さな会社でも、会社の成長が期待でき、社員が活気づいている職場を見せることは、特に、親御さんは、ビジネスマンの場合もあるわけですから、言葉を重ねるよりも効果があります。社長の言葉も、うわべだけの言葉か、本物の言葉かも、ビジネス経験のない学生よりも的確に判断できます。言葉は悪いですが、自分の子どもという最高の商品を託すわけですから、張りぼての言葉ではそんな気になれません。私たちも小さな会社の経営者ですから、新卒であろうと、中途であろうと、採用する際には必要であればご家族に会うようにしています。先日も、中途採用ですが、当社で働くことを決めた男性と一緒に、彼の奥さんに会いに行きました。私の考えを話しに行ったのです。直接話をしなくても、社長が、内定者の親御さんに、「○○さんをうちで預からせていただきます」といった文章をしたためている会社もあります。成長している会社は、社長と社員の距離が近いので、気持ちの中では、若くて優秀な学生の人生を家族と同様に預かる覚悟があるのでしょう。でも、その思いはきちんと学生の家族にも伝わっているでしょうか。もし、伝わっていなければ、もったいない話だと思います。大谷選手を口説いた北海道日本ハムも、親御さんや関係者に向けて資料を渡しているのです。ご存じだったでしょうか?「大谷翔平君夢への道しるべ~日本スポーツにおける若年期海外進出の考察~」という約50ページにわたる資料を作成して渡したのです。そこには、日本と韓国のアマチュア選手が、自国のプロを経て渡米した場合と、いきなり渡米した場合とで、彼らがどんな成績を収めているかを詳細に分析した結果などがまとめられていました。内容を一言でまとめると「事実として、高校生の投手がいきなり渡米して成功するのは極めて難しい。むしろ日本のプロ野球で技術を高めてからチャレンジしたほうが成功する可能性が高い」ということです。本人はもちろん、親御さんや関係者にとって、この資料のインパクトは強かったと思い
ます。インパクトが強いだけではなく、北海道日本ハム側が大谷選手の将来を誠実に考えていることも伝わったのでしょう。北海道日本ハムはそのうえで、最大級の評価で契約金や年俸を出すこと、将来のメジャー挑戦という夢を全力で応援すること、そして、「投手と打者の二刀流での起用」という近年の球界では例のないチャンスを与えること、などを約束したのでしょう。ここまでされたら、大谷選手とその家族の気持ちが動いたのもわかります。36土俵を変えれば大手企業と勝負できる学生から情報を集めたら、いよいよ志望度を高めるための行動を開始です。では、たとえば、大手商社を志望している学生に対して、どのような話をすれば、志望度を高めることができるでしょうか。次の言い方はどうでしょう。「商社もいいけどうちみたいな人材系もいいぞ」おそらく、これでは勝負になりません。「この人は、いままで何を聞いていたんだろう?僕の想いを全然わかってないな」と思われてしまうでしょう。このようなことを言うと、知名度が低い、小さな会社は、やっぱり大手商社とは勝負にならないと、端からあきらめてしまいがちです。でも、ちょっと待ってください。知名度が低くても、小さくても、大手商社に勝負できるのです。勝負の土俵を変えて、本質的な話に持ち込むと意外と戦えることがあるのです。本質的な話とは、次のような話です。「ただ商社に入りたいだけなのか」「何かやりたいことがあって商社に入りたいのか」「やりたいこととは商社でなければできないことなのか」では、どうやって土俵を変えるのでしょうか?その手法が「動機の抽象化」と「定義のシフト」です。わかりやすい話にするために、野球をやりたいという男子学生にアメフトを勧めるケースで解説します。彼の志望動機はこうです。「野球はチームワークのスポーツなので、各人が個性と得意分野を活かして勝利を目指していく。だから僕は野球が好きです」まず、この学生の言葉(やりたいこと)を抽象化していきます。「そうか、野球もアメフトと同じで、チームワークが大事なスポーツなんだな。アメフトも役割は高度に分業化・専門化されていて、走る人は走る。壁を作る人は壁を作る。投げる人は投げる。攻撃陣と守備陣も違う」
こんなふうに、相手の言葉を肯定しながら抽象化することで、「アメフトも野球と同じなんだ……」と気づいてもらうわけです。本当は、野球を抽象化するといろいろな要素があるわけですが、野球とアメフトの「両方に通じる根っこ」の部分に気がつかせることが大事なのです。この気づきによって、野球にこだわっていた気持ちが薄れていきます。この段階で土俵が変わりましたので、後は、アメフトの練習を見てもらったり、部員に会わせることで、気持ちをさらに引き寄せていくわけです。37事実を見せることで自社の強みに気づかせる一般的に、学生の志望というのは、仮に決めた曖昧なものです。学生に「君、どこを考えているの?」と聞くと、たとえば「商社です」と答えが返ってくるのですが、続けて「なぜ?」と畳み掛けると、商社と答えた学生は「大きな仕事をしたいから」とか「海外で働きたいから」などと言います。あとは「かっこいい」とか「もてる」とか「給料が高い」とかいろいろな理由があるのでしょう。先ほどの野球部志望者のアメフト部への勧誘と同じで、志望動機の根っこを知ることが重要なのです。たとえば、商社志望の学生の動機を根っこのところまでひも解いていったときに、「大きな仕事を若いときにしたい」というものだったとしましょう。そのときに採用担当者は、「若いうちから大きな仕事をする」ということを自社との共通点になるようにするのです。ここで焦ってはいけません。「うちなら大きな仕事ができるから来い」と口説き文句にしてしまうとダメです。事実を見せればいいのです。若い社員がどんどん大きな仕事を任されている事実を見せていくのです。優秀な学生ほど、事実を見せる効果は高いです。優秀な学生は、「あ、この会社は小さいけれど、だからこそ若手が数千万円から1億円以上の案件をたくさんやっているんだ……」と自分で考えて、解釈していきます。事実だけを見せて相手に解釈してもらうというのがポイントです。普通のプレゼンは、まず「弊社はこういう会社です」とメッセージを出してから、その証明となる事実を次々に出していくわけですが、会社と学生との間には不信感のスパイラルが渦巻いているので、それが通用しないのです。「第一志望です」「うちは風通しのいい社風だよ」と言っても、お互いが「本当かよ?」と思っています。
なので、動機を抽象化することで、商社志望で自社には興味がなかった学生に、自社にも商社と共通する部分があることを気がつかせることが重要なのです。商社と自社に共通点があると気づいてもらえれば、土俵替えができたわけです。これが第1段階です。第1段階の動機の抽象化ができたら、第2段階の「定義のシフト」に移ります。学生が聞く耳を持ってくれるようになったことを確認したうえで、「商社になくて自社にある事実」を提示していきます。このときも説得したり、答えを誘導したりしてはいけません。動機の抽象化のときと同じように、重要なことは、事実を見せることで、学生本人に気がつかせることです。「たしかにそうですね。若いうちに大きな仕事をしたいということなら、商社に限らずできますね。むしろ、年功序列の大組織じゃないほうができるかもしれない……」学生自身が商社にこだわる理由がなくなったときに、最初に興味を持っていた「商社で大きな仕事がしたい」ということがスーッと消えていくのです。その結果、自社にしかない理由で、学生が自社をいいと思ってくれれば、商社にも勝てます。それが「定義のシフト」です。ちなみに、この方法にも注意点があります。ライバル会社を批判・否定しないことです。なぜなら、人は、「○○なんてダメだよ」とか「○○を選ぼうとしている君の選択は間違っているよ」などと他人から好きなものを否定されると、よけいに情熱が燃え上がります。いわゆる「ロミオとジュリエット効果」を招いてしまうのです。もちろん、その学生を口説きたいからといって、自社に都合のよいを並べることは絶対にしてはいけません。38人気企業を志望する学生の口説き材料人気企業を志望している学生に対して、具体的にどのような事実を提示すれば、知名度の低い、小さな会社が勝負できるのかを考えてみたいと思います。まず、一般的に中小ベンチャーの魅力は、普通の会社では部分しか経験できないことでも、全体を任されることでしょう。たとえば、大手の生命保険会社では、保険事務ひとつとっても、死亡保険の審査だけ、こういう病気の審査だけといったように、業務が細分化されています。
しかし、曽和がいたライフネット生命は小さな会社なので、一人で全体をみることができます。象徴的だったのが、同社が保険事務の採用をしたときのことです。大手の生命保険会社の人で、全体感をわかっている人はほとんどいなかったのです。あれだけの人数が保険事務をやっているにもかかわらず、本当にいないのです。結局、中小や外資系の保険会社の経験者を採っていました。これは業界問わずに言えることなのですが、大手企業というのは、分業化するから効率化が進み、スケールメリットが働きます。だから、大きいことはいいことだとなります。でも裏を返せば、働く人は何かに専門特化させられるわけです。その専門というのは、市場価値の高い専門の切り方というよりは、社内都合で決まります。あくまで社内の中での合理性で「あなたはこの専門ね」と言われているのです。なので、転職しようと思ったときに、実はすごく偏ったスキルしか持ってない人になっている、というのが大手に勤める人の現実だと思います。また、前述のように「大きな仕事がしたい」という商社志望の学生なら、「君がいう大きい仕事というのは、規模とかお金の大小ではなくて、自分で一から十までやりたいということだよね?」と、自社の強みに気がつかせるように定義をシフトしていけばいいでしょう。「海外との仕事がしたい」と希望する学生なら、海外事業部で働いている若い社員に会わせるなどして、その実現可能性の高さを見せてあげればいいのです。ところで、第3章で、「大手と同じ土俵で勝負せずに時期をずらしましょう」とお話ししましたが、時期が後ろにずれた場合の面接相手は、優秀だけれども大手の選考に落ちて傷心の学生ということになります。彼らに声をかけるときには、先ほどの部分と全体という事実を出して、「君の生きるポイントは違うよ」という話をして、まずは元気づけてあげます。本質を見れば、大きな会社が必ずしもいいということではありません。大企業というのは、結局、幹部候補生として見立てる人は別かもしれませんが、高級部品が欲しいのです。部品の人なのか、それを組み立てる人なのか、という違いは大きいです。中小の勝てる領域は「組み立てる人になれるよ」というのが、1つのポイントだと思います。もう1つ。本書では、採用側の社長や採用担当者に向けてお話ししていますが、学生の方に直接メッセージを贈るとするなら、「何が何でも大企業というのではなく、これから伸びる会社作りの方向に行こうよ」と言いたいと思います。ビジネスコンサルタントの細谷功さんが書かれた『会社の老化は止められない』(亜紀書房)という本があるのですが、その中で、「時間というのは過去から未来にしか流れな
い。人間の体の構造も同じ。おぎゃーと生まれて大人になり、どんどん老化していって最後は亡くなる。会社も全く同じ構造だ」といったことを書かれています。大手企業の状態がすべて悪いというわけではありませんが、大手企業はもう中年期から壮年期に入っています。ところが、なぜかそこに飛び込んでいくのが大手志向の学生たちです。ブランドに惹かれて入っていくという意味では、大勢に従う人間がどうしても入っていくし、細分化されていくのが組織の宿命である以上、大手に入ったら細分化された仕事しかつかみようがない。決してそれを否定するわけではありませんが、就活中の学生は、大学を卒業してから40年近く働くわけです。これからの未来を考えたときには、どちら側にいたほうがいいのか、という話だと思います。39意思決定のスタイルを知っておく的確なフォローを続けて入社意思が高まってきた際に重要なのは、その学生の「意思決定のスタイル」を押さえておくことです。内定辞退者が相次いでしまうのは、1つには、相手の意思決定のスタイルをうまく見極められていないことが原因です。口説いてはいけない相手に無理やり決めさせれば、納得していない相手は最後に逃げるでしょう。あるいは、詰めるところをきちんと詰めていないケースもたくさんあります。たとえば、「ほかの会社も受けていいですか?」と聞かれたときに、本当に欲しい学生なら「いや、うちに来てくれるんだったら受けないでくれ」とはっきり言えばいいのです。ところが、そこで妙に器の大きいところを見せたがために、ライバルにもしっかりフォローされて持っていかれる……。こんなことが実際に起こるのです。私たちがコンサルティングに入っているときは、内定出しのときには、一人一人異なる戦略を練ります。おおまかに言って、意思決定には4つのスタイルがあります。①論理型:多くの情報を集めて決める人②柔軟型:少量の情報からあれこれ考える人③決断型:少しの情報で決める人④統合型:選択肢を残す人このどれに当てはまるかで、フォローの仕方が変わってきます。たとえば、少しの情報で決断する決断型の人は押したほうがいいです。そうしないと、
押しの強い他社に決めてしまいます。多くの情報を集めて決める論理型の人には、矛盾のない、きちんと穴のない口説きのストーリー資料を作るべきです。矛盾があるとダメなので、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる式の情報提供をしてはいけません。少量の情報からあれこれ考える柔軟型の人は、妄想型とも言えるので、インターネットの掲示板に書いてあるような妄想、業界や会社の間違ったイメージを最初に消してあげる必要があります。たとえば、「あの会社は体育会系の会社だ」という情報を持っていたときに、現れた担当者が、身体の大きい元運動部の社員だったりすると、うわ、やっぱりそうかと思ってしまうタイプです。たくさん情報を提供しても選択肢を残そうとする統合型の人は、結論が出るまでほうっておきます。途中であまり詰めると逃げてしまいます。ただし、この場合は期限を決めることが大事です。そうしないといつまでも決まりません。この意思決定のスタイルを把握しておかないと、後でしっぺ返しを食らうことがあるのです。
意思決定のスタイルはどのように把握すればいいかというと、難しく考えず、本人に直接聞いてしまうのがいいのです。たとえば、大学や住まいの選び方、買い物のパターンなど、日頃の習慣を聞くことで、どのタイプなのかある程度見えてくるはずです。ちなみに、この意思決定のスタイルは、ポテンシャルをジャッジするときの基準としても使えます。たとえば、金融ディーラーなど、少しの情報で瞬時に売り買いをしなければいけない職種では、統合型では困ります。しかし、それは学者や研究者ではよい資質になります。物事を簡単に決めつけず、99%は仮説だと思いながら、違う情報が出てきたらその仮説をどんどん変えていくスタイルではないと、学者としては通用しません。また、経営者やリーダーでは意思決定が早くないといけないので決断型でしょうし、経営参謀やコンサルタントなら論理型のほうがいいと思います。クリエイティブ系は少しの情報から話を広げられるような柔軟型のタイプが向いています。40「この会社で働きたい」との言葉を学生からもらうでは、最後に、フォローの大詰めとなる内定出しの具体的な手順をまとめておきましょう。内定を出すタイミングは「学生が入社の意思を固めたとき」がいいでしょう。ここで指している内定とは、選考に合格した「学生が入社を決めたので入社枠を確保する」という意味です。先ほども述べたように、「押されて内定になった」とか「お願いされて決めた」という話では、学生の側が内定の事実を軽く考えてしまいます。入社後のことを考えても、最後は自分で決めてもらわなければなりません。そのため、会社側のスタンスとしては、「会社としては君を高く評価している。選考は合格したので、あとは君の意思だ。入社の意思が固まったら内定を出す」といった感じで伝えていくのがいいと思います。内定を伝えるのは、フォロー担当者がベストです。学生の立場からみると、これまで信頼関係を築いてきて、価値観や本音を話し、そのうえで自分を高く評価してくれる相手から内定を伝えられるのは、知らない社員から伝えられることよりもうれしいし、重く受け止めるはずです。そして、内定出しでは一番重要なことがあります。
それは、最終的に、相手から「この会社で働きたい」との言葉をもらうことです。自分で決めたという主体性が生まれることや、はっきりと言葉に出してもらうことで、それが言質にもなるからです。もし、その時点で迷っているようであれば、相談にのってあげるようにします。たとえば、「迷っているようであれば、人を紹介するから相談してみてはどうか?」とか「どんなことで迷っているか教えてくれればそのための情報提供をするよ」といった感じで、決断を促す方向に導いていくわけです。ただし、ずるずると迷い続ける学生に対しては、決断の期日をはっきり伝えることが大事です。そのうえで、後日、「御社で働きたい」という相手の言葉が聞けたら、こう言うのです。「そういう覚悟ができているのなら、うちとしては内定を出したいと思います。うちは君を高く評価していた。あとは君の意思次第でした。内定を受けてくれますか?」くどいようですが、内定をプロポーズと考えるなら、より重要感と満足感のある演出を考えていくことが必要です。相手のキャラクターやフォロー担当者のキャラクターも考慮しなければなりませんが、たとえば、よく行われているのは、次のような工夫です。●握手をする●1対1でお祝いの席を設ける●内定受託の記念写真を撮る●社員が一人一人「おめでとう」と言いに来るそして、内定辞退を防ぐために、「これで就職活動はやめてください」と明言しておきます。さらに「うちへの入社を決めたことを大事な人にきちんと伝えてあげてください。もしよければ、そのときの様子を教えてください」と伝えていきます。というのも、家族や恋人、友人の中には反対している人がいる可能性もあるので、その場合は、早めにその人たちのフォローをしていくためです。この章で述べてきたフォローに関しては、読んでいて駆け引きの要素を感じたかもしれません。また、採用担当者の方はふだんここまでのことはしていないかもしれません。しかし、知名度が低い、小さな会社が、分不相応な優秀な学生に入社してもらうためには、これぐらいのことをしなければいけないのが現実です。そうした行動も、会社の将来を背負って立つ人材を採用するためですから、御社の採用担当者の方には、堂々と取り組んでいただきたいと思います。
41採用選考のときから人材育成は始まっているさて、最後の第6章では、育成がテーマです。大手企業でも3年間で3割の学生が辞めていくという状況の中で、入社してくれた優秀な学生をどう育てていけばいいのかをお話しします。たとえば、新入社員には、「企画部へ行きたかったのに営業部に回された。開発がしたかったのに現場に行かされた。やりたかった仕事ができない……」といった、入社前のキャリアデザインが狂ったことへの不満がつきものです。ここで大事なのは「オープンマインド化」です。それが育成にも関係していきます。このオープンマインド化は、日本の伝統芸能や武道における弟子の成長過程を表す「守・破・離」という考え方に似ています。こうした世界では、初心者のうちから自分がやりたいことや自分が好きなやり方、つまり自己流(我流)で修行しても、一流にはなれません。まず伝統的な基本や型を師匠から忠実に学ぶところから始め(守)、次第に他からもよい部分を学ぶなどして工夫し(破)、最終的には、それらを昇華させてオリジナルなスタイルを創り上げる――といった段階を経る必要があります。なぜなら、先人の叡智と試行錯誤の結晶である基本(型)を身につけることで、いい意味で効率よく成長できるからです。ビジネスでも同じです。新入社員も、最初は教えられた通りに仕事を覚え、次第に自分らしい改善をしていき、最後は自分のスタイルを確立していきます。新入社員を立派な戦力として育てるためには、その手順を踏ませなければいけません。そのために、すべきことがオープンマインド化なのです。それが難しいのは、学生は就職のときに「キャリアデザイン的考え方」をさんざん聞かされているからです。オープンマインド化どころか「自分の人生をこんなふうにデザインしていこう」と教えられています。しかし、それが現実的に不可能であることは、先ほどの「計画された偶発性」論理を持ち出すまでもなく、誰もが薄々感じていることです。どんな経験や選択が将来の成功や幸せにつながっていくかは、後になってみないとわかりません。当初の計画にこだわって、好奇心や柔軟性や冒険心を失っていると、本当に大事なチャンスを逃す可能性があります。もちろん、キャリアデザインするのはとてもいいことです。それをしなければ進む方向を決められませんし、就職活動でも業種や会社を絞り込むことができません。ただ、学生は、決めたキャリアデザインに縛られて、「私はこういうことがやりたい人
だ」「こうでないと嫌だ」と強く思い込んでしまうところがあります。しかも、面接用に即席で作ったストーリーでも、何度も聞かれるたびに「自分は必ずこうでなければいけない」ということになってしまうのです。そこで、「自分はこうでなければならない!」という、ぎちぎちに締め付けられたボルトを1回ゆるめてあげる必要があります。オープンマインド化というのは、学生の志望をすべてリセットしてしまうのではなくて、学生の考え方をキャリアデザインから「キャリアドリフト」(漂流する・波が来たら乗る)へ変えてあげるということです。たとえば、スポーツで言うと、始めたばかりの頃は、野球ならピッチャーに、サッカーならフォワードやミッドフィールダーといった花形のポジションに憧れます。しかし、監督から指示があれば、別のポジションをやらなければいけません。そこでふて腐れて潰れてしまう選手もいれば、自分も知らなかった才能を発見してむしろ大きなチャンスをつかむ選手もいます。あるいは、どこのポジションでもまんべんなくできるように頑張って、ユーティリティプレーヤーとして生き残っていく選手もいます。サッカーJリーグの通算得点記録を持つ中山雅史さんが、大学時代にはディフェンダーをしていたことをご存じでしょうか。高校時代のエースストライカーからの転向です。その後、フォワードに戻るのですが、そのときの経験が中山さんを成長させているのは間違いありません。こうした結果に分かれるのは、本人の努力はもちろん、チームや指導する側がきちんと選手のキャリア観を変えてあげたかどうかも大きいのです。このキャリアドリフトができるようになると、先人たちが作ってきた型を守るというファーストステップに入ることができるのです。42入社前のキャリア志向をリセットさせる仕事選びに関して世間でよく言われるのが、「やりたいこと、できること、すべきこと」の棲み分けです。これら3つの円が重なる面積が大きな仕事選びをするのがいい、という話なのですが、たしかにそれはそうでしょう。でも、よくありがちな間違いは、「やりたいことを仕事にして、その後にできるようになろう」という考え方です。でも、これはとても難しいです。できないことから始めるわけですし、そもそも、できない人がチャンスをもらうこと自体が難しいです。なので、新入社員に対しては、やりたいことを軸に考えるのではなく、自分は現時点で何ができるのかを軸にキャリアをとらえたほうが、結果的にはやりたいことができるようになる――と丁寧に教えてあげることが重要です。いま自分にできることを仕事にすると、うまくできます。できるとほめられます。成果が出ると認められるので、また面白い仕事が降ってきてやりたくなってきます。仕事に愛
着が湧いてきます。そうやって、その時々の役割をこなしていくことで、次第に自分が本当にやりたいことが見つかっていく、あるいは、やりたかったことができるようになっていく――ということを、きちんと話していくのです。または、過去にいろいろな仕事人を見てきた会社の人から、「おまえにはこういうことができそうだ。これをやってほしい」と言われたら、それは期待されているということだから、まずその期待に乗ってみようよ――と。この段階で、キャリアデザインややりたいことに偏ったマインドをリセットしてあげられないと、壁にぶつかったときに、言い訳を作る余地を与えてしまいます。そうならないために、「何でもやります」「会社が期待してくれたことを貪欲に吸収したいと思います」という考え方ができるように、内定から入社までの間にしておくことが重要なのです。リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫さんが、かつて出された本の中で、「20代は筏下りを、30代以降から山登りをしなさい」と書かれています。まさしく「計画された偶発性」もそうなのですが、まずはここでいう「守」、徹底的に基礎固めをさせてあげるようにすることが大事なのです。最近の若者は持っている情報が多いので、どう納得させるのか一筋縄でいかないケースも多いのですが、「なぜこれをやらなければならないのか」という理屈をきちんと説明しながら、徹底的に目の前のことをやらせるのが第一歩です。ただ、その一方で、別の思いもあります。就活生や若手社員の参加者が多い講演会場で、「社長やリーダーの立場から振り返ると、若いときには何をしたらいいのか?」と質問されたことがあります。そこで、「つべこべ言わずにやればいいんです!」と言ったら大反響がありました。批判ではなく、賛同の声です。若い人には新鮮だったようで、「わかりました。つべこべ言わずにやります!」と。最近は、自分の責任でそれを迫る大人が少なくなってきています。ものわかりがいいようであって責任放棄ともいえます。子育てと一緒で、時にはこうしたやり方も必要かもしれません。43新入社員は固めて配属してから散らばらせる〝分不相応な採用〟に成功すると、いままでとは異質な人が入ってくることになるので、彼らを期待通りに育てるための環境整備が必要です。そのセオリーの1つが、新入社員をできるだけ固めて配属して育成し、ある程度強くなってから、各部署に配置することです。異分子的な存在として、価値観も文化も違う組織に一人で入っていくことの辛さ、大変
さは、転勤・転職などで経験のある人ならおわかりになると思います。そもそも、新卒に限らず、新規事業開発の仕方も「出島」みたいな組織を、通常のラインの中ではなく社長直轄の別の組織を作って行うことが多いです。それと同じに考えればいいと思います。リクルート社は、そうしたことをよくやっていました。たとえば、入社したばかりの新人たちをまとめて採用部隊に放り込み、いきなり4、5月の採用活動を手伝わせるのです。そして、それが終わったところでバラバラに本配属していました。この方法のいいところは、会社のことがある程度わかってから現場に入れること以外にもあります。それは、一緒に仕事をすることで、同期の絆が深まることです。新入社員を固めて配属できなければ、入社までに同期のインフォーマルネットワーク(非公式、プライベートのつながり)を築く場を提供する方法もあります。もう1つ、横の糸に加えて、縦の糸をつくってあげることも大事です。先日も、ある会社で、「先輩社員も交えて数十人規模で行う内定懇親会をどうしたらいいか」と相談を受けました。そこで助言したのは、社員も内定者も適当に座らせるのではなく、すべての席順を先々のことまで考えて決めることです。たとえば、彼と彼はウマが合いそうだから隣に並べようとか、彼は昨年入社した〇〇と合いそうだから近くに座らせよう――といったように決めていくのです。人間関係を偶然性に頼ってつくっていくのではなく、特に最初の人間関係や出会いは、人事部がきちんと意図をもって設計することが重要です。同期や先輩とのセーフティネットを作る場を提供することで、新人を固めて配属するのと似たような効果が得られると思います。同期のネットワーク作りで注意すべきことがあります。これは内定者の人数にもよるのですが、グルーピング、つまり、誰と誰を同じグループにまとめるか、ということです。最初に、ウマが合わない人間の中に入れられて違和感を覚えたり、また、〝分不相応な採用〟で採った優秀な学生が、グループの仲間を見て、「なんだ、こんな奴らしかいないのかよ」と失望するケースも発生します。これは、そういう採用をしている以上、仕方がない面もあるのですが、そういったリスクがあるときには、トップで採った学生には暗に「同期のリーダーになってもらいたい」などと申し渡しをすることも必要です。また、この同期ネットワークは内定者のフォローにも使えます。それを「ピア(仲間)・フォロー」といいます。採用担当者一人あたりの内定者数が多い場合、万全のフォローをしていくのが難しくなりますが、それを逆手にとって、学生同士でフォローしてもらうわけです。やり方は、まず何かのイベントで内定が集まる機会を作り、そこで価値観的にも、能力
的にも相性のよさそうな内定者で少人数のグループを作ります。学生たちが勝手に集まって交流を深められるように、住所の近い人たちを1つにまとめる方法もあります。この方法のいい点は、会社の伝えたいことがヘンに勘ぐられることなく、素直に伝わることです。なぜなら、何とか口説こうとしている採用担当者から聞かされる話よりも、学生たちが本音で語り合い、情報交換する場で聞いたことのほうが、彼らにとっては素直に受け止めることができるからです。また、日本人の場合は、どこで働くかよりも、どちらかというと、誰と働くかを重視する傾向があります。お互いの自己紹介と志望動機を語り、親しくなっていく中で、入社に向けて自分の気持ちが固まっていく効果も期待できます。44職務適性よりも人間関係を重視して配属する新人育成に関して人事の立場から社長にお願いしたいのは、会社としての方針を経営幹部やキーマンになる社員に対してきちんと理解させることです。それがないと、配属した新人が潰れたら、現場の社員から「おまえら、もっといい奴を採れよ」と、採用担当者が責められます。社長が全面的にバックアップしてくだされば、これからは社長が現場社員に対して「おまえたちは彼を活かせなかったのか!」という話になります。人を育てていくうえで、その違いは大きいです。新人が育たなかった場合、やはり多くは現場の受け入れ態勢の不備が原因です。ましてや、これまでとは、タイプ的にも能力的にも異質の人材を育てるとなれば、これまで以上に、現場の管理職に意識を変えてもらわなければなりません。新入社員を職務適性より人間関係を重視して配属してみてもいいでしょう。つまり、どんな仕事に向いているかではなく、ウマが合いそうな上司の下に配属するのです。もちろん、これもキャリアデザインをリセット、オープンマインド化しておかないと、「僕はこんなことやりたくなかったのに……」となってしまいます。しかし、それができている場合、「この上司には彼は合うだろうな」と人間関係だけを考慮して配属したほうが結果はいいのです。実際に、当初は希望していなかった部署に配属された新人が、「この人なら!」という感じでイキイキ仕事をしている例はたくさん見てきました。逆に、希望通りの部署に配属されたのに、上司とタイプが合わなかったためにメンタルを壊して退職してしまった例もありました。上司も新人も優秀なのに、たまたま相性が悪かっただけで潰れてしまうのでは何のために採用したのかわかりません。会社を辞める原因の9割は「上司との相性」とされているのですから、上司との相性を
一番に考えてあげることは重要です。技術的にうまい組み合わせになっているAチームと、メンバーの仲がいいBチームに同じ仕事をさせると、短期(約半年間)では、Bチームのほうがうまくいくという研究もあります。しかも、プログラミングのような、スキルがパフォーマンスにつながりそうなケースでさえ、「スキル最適」よりも、「人間性最適」のほうが結果がよかったのです。この研究結果からも、まずは同質の上司の下に配属し、しばらくして新人が強くなってきたら異質の上司に付けてみる――という仕組みを作っていくことで、彼らがうまく育っていくと思います。さらに管理職の立場からも、そのほうが楽でしょう。会社では管理職のためのマネジメント研修をいろいろ行いますが、実際のところ、中年になってくると人間はあまり変わらない気がしています。もちろん、きっかけとしては非常に素晴らしいし、スキルアップもすると思いますが、「いろいろなタイプの人をマネジメントできるようにする」というテーマ自体、とても難易度が高いことです。マネジメント研修はやらないよりはやったほうがいいと思いますが、それによって上司が変わり、組織が変わるまでに時間がかかることも事実です。その前に新人が辞めてしまっては困りますし、現実として、オールマイティなマネジャーというのはごく一部しか存在しません。だとしたら、管理職の側から見ても、自分が教えやすい新人を配置するのがベストではないでしょうか。配置の方針を変えるだけで、その上司が特別なマネジメントスキルを身に付けていなくても、自分の思うままにマネジメントすることができるのです。そして、マネジメント研修よりも早く組織が変わるのです。45現場のスター社員がキャリアイメージを見せる先ほど、若い人に「つべこべ言わずにやれ!」と言うこともありではないか、という話をしましたが、そこには注釈がつきます。それと同時に、その新人が憧れるようなスター社員の姿を見せてあげるのです。「いまは大変だけれど、つべこべ言わずに頑張れば、3年後、5年後には自分も先輩のようになれるんだな」と思えれば、最初は意に沿わぬことでも頑張ることができます。たとえば、フジテレビで放映している「ほこ×たて」という番組があります。その番組で、「絶対に穴の開かない金属」と「どんなものでも穴を開けるドリル」の対決がありました。金属加工会社とドリルメーカーが会社の威信をかけて挑んでいたので
す。この対決で、金属加工会社を代表したのは、20代の若者です。こういう姿に学生はとても憧れると思います。実際、番組が放送されてから、就職希望が急増したという話も聞きました。そうしたスター社員の下で薫陶を受けながら仕事ができればいいのですが、どの部署にもスター社員がいるとは限りません。その場合は、希少資源であるスター社員が若手とふれあう機会を積極的に作っていくとよいでしょう。たとえば、新人や2、3年目の若手を集めて「この人にこんな話を聞く会」とか「スター社員を座長にした○○会」などを定期的に企画するのです。リクルート社でもそういう会合は各事業部ごとによく開かれていました。当初の目的はモチベーションアップを行うことによって退職率減とメンタルヘルスの問題を起こさないようにすることでした。ところが、その付随効果として、同期だけではないインフォーマルネットワークを作ることで、新規事業などの可能性を探ることができたのです。これはお互いにすごく効果があります。スター社員として選ばれる人も、話を聞く新人たちも、ものすごくモチベーションがアップします。できれば、スター社員が一方的に話すのではなく、何でも自由に発言できる場にするといいと思います。ただし、注意しなければいけないのは、スター社員のいる部署に憧れるあまり、「あの先輩がいる部署はいい。うちの上司や先輩は……」となってしまうことです。もしそうなってしまったら、スター社員にフォローしてもらいましょう。「僕だってこういう環境の中でいろいろやってきて、自分で切り開いてきたんだ。それができないのでは全然ダメだ」みたいなことを言ってもらうようにしてください。とはいえ、〝分不相応な採用〟の場合、新しい組織を作るために採る面もあるわけですから、先輩たちを見ても十数年後の自分をイメージできないこともありえます。そもそも会社がそう望んでいない場合もあります。そんなときは、このような動機付けも効果的です。「必ずしもいまの会社の先輩の姿が君たちの将来の姿だとは思っていない。そのためにも、いま君たちには将来のための基礎固めをやってほしい。5年後、10年後、君たちには新しいことをやっていてほしい」また、〝分不相応な採用〟でありがちなのが、新人が「俺が一番すごくて、ほかの社員はたいしたことがない」といった感想を持つことです。その対策として、曽和は「伝説の新人」養成プロジェクト(http://www.legend20.jp/)という研修をやっています。そこでは、各社の優秀な新人を集めてワークをしています。他社の優秀な新人と競い合わせることで、「君が競争する相手は他社のトップクラスの人間だ。本当に社内にたいしたことがない人しかいないと思うのなら、早く成果を出して、社長の右腕になれるように頑張れ」という話をしています。
こういう研修でもいいですし、異業種交流会でもいいですから、優秀な新人が陥りがちなマインドをケアしていく必要があります。これこそ社長の役割です。仕事の与え方、現状のキャリアパス的なイメージの持たせ方、そして、外の刺激も使って、常に引き上げ続けましょう。自社に人生をかけてくれた新人のためにも、そうしてあげるべきだと思います。46小さな領域のすべての過程を任せてみる優秀な若い社員のモチベーションを高めるためには、仕事の作り方、与える業務の切り取り方も大切です。たとえば、事業部制のように機能別組織にした場合、全容が見える視野を獲得し、ジャッジができるようになるには、部署の一番上のポジションまで行かないといけません。ですが、それを商品別組織のように全機能を横串でさすような、仕事自体はごくごく小さいけれど、開発から販売まですべての機能があるような仕事の創り方をすると、「小さい仕事だけどおまえが全部やってみろ」と任せることによって、彼らは一定の成長感や存在感を得られます。第5章で、「商社に行って大きな仕事をしたい」と言っていた学生に、「大きな仕事とは何か?」と語りかけていくという話がありましたが、それは本当にそうなのです。いくら金額が大きい仕事でも、その一部分をアシスタント的にやらされているうちは、本当の達成感と充足感はありません。また、いざ自分一人でやろうとしたときにも、十分な経験とスキルが積みあがっていないことが多いのです。それは、第4章で、ポテンシャルを測る4つの質問でも解説した通り、真の当事者にならなければわからないことがあり、大きな成長もできないからです。逆に、小さな金額の仕事でも、全体性があるような切り方で仕事を一人で任されると、大きな満足感を得られます。〝分不相応な採用〟の新人には、そうした仕事の任せ方をするといいと思います。動いているお金が10億円であろうと数千万円であろうと数十万円であろうと、実は仕事の本質の流れは変わりません。飲食店でも、3店舗回せるスキルがあれば、あとは50店舗でも100店舗でも同じと言われます。当事者として、その仕事の本質を理解し、スキルを身に付けたら、会社から大きなプロジェクトを任されてもできるようになるのです。若手社員がどんどん仕事を任されるという点は、リクルート社がまさにそうです。たとえば、採用に関する仕事なら、採用のパンフレットを作る仕事を1から10まで任せてみる。あるいは、「リクナビNEXT」や「ホットペッパー」の中の小さな広告を一人に任せたりするわけです。雑誌を一冊担当しろと言われたら大変なパワーと能力が必要になりますが、広告枠の小
さな四角だけならば、取材に行って、写真を撮って、コピーを自分で書いて……と新人にもできます。結果がわかる仕事を任されるのも、社員が若くして活躍できて成長感を持てる理由だったと思います。小さな会社は、報酬の多寡では大企業に勝てません。しかし、優秀な若者のモチベーションを高めることは、お金で勝負しなくても当たり前にできます。面白くなるように仕事を与えればいいのです。そもそも人間にとって、報酬などの外発的動機づけは、「面白いからやる!やりたいからやる!」という内発的動機づけを阻害するという有名な研究があります。つまり、自分が面白いと思ってやっている人に、金銭的なインセンティブを与えるとやる気をなくしてしまうのです。たとえば、算数が面白いと思って勉強している子どもに、テストで100点を取ってきたからといって親がおもちゃを買ってあげると、子どもは次から、おもちゃのために勉強するようになってしまいます。そのうち、おもちゃを買ってもらえなくなると「買ってくれないなら算数なんて勉強しない」となるのです。何でもお金で解決しようとするとそうなります。せっかく自分が楽しくてやっていることを汚されるという感覚にもなります。ですから、彼らに仕事を与える際には、小さくても権限を与えて全体を任せること、型にはめずに自由な方法でやらせてみること、結果だけは求めること、などがポイントになります。47辞めたい社員、辞めた社員との接し方会社側がここまで配慮しても、やはり仕事は厳しいですから、辞めたくなる人は一定割合出てきます。その主な原因は、やはり最初の入り口でオープンマインド化が失敗しているか、相性の悪い上司のところに配属されたか、だと思います。だから、そこは前述したように対応していかないといけません。同期ネットワークなどをきちんと作ってあげていると、同期同士でフォローしてくれるし、早めに人事に情報も入ってきます。また、〝分不相応な採用〟の新人について言うと、その中でも会社を1年程度で辞めてしまう人の特徴としては、意外かもしれませんが、「自信家で、学生時代に何か1つの功を成し遂げた人」が挙げられます。たとえば、キャプテンをやっていたとか、何かの大会で優勝したとか、NPOの長をやっていたような人です。
そういう人ほど、実は不安な面があります。根拠のある自信というのは、根拠があるからいいように思いがちですが、「僕はこんなことをやってきたから偉い」と自負しているのは、実は心が弱いのです。厳しい仕事の場面では、誰でも力不足とか無力感を痛感させられます。そういう場面では過去の成果は根拠になりません。すると、ポキっと、鼻ではなく、心が折れてしまうのです。むしろ根拠がない「頑張ったら報われるのではないか」とか「渡る世間に鬼は無し」のように性善説でいられるポジティブな人のほうが強いと言えます。根拠ある自信タイプの人が出す「SOS信号」には、2つの特徴があります。1つは、「帰郷」と象徴的に呼んでいるのですが、自分が輝いていたところに戻るのです。たとえば、週末にスポーツクラブのコーチをしたり、消極的な意味で昔の友人とばかり会ったりする。それで、自信を取り戻していくわけです。もう1つは、「セルフハンディキャップ」というもので、負けを認めたくないから、理由を付けて本気を出さないようになります。不良高校生が、体育の授業で100メートル競走を一生懸命走らないのと一緒です。彼らは負けたくないので、「こんなかったるいこと、やってられるかよ」と真剣に取り組まなくなるのです。仕事で言えば、「こんなつまらないことやるために僕はこの会社に入ったんじゃない」などと、言い訳を口にしはじめるのです。その対策としては、採用の時点で、根拠のない自信タイプの人をできるだけ採るということと、根拠のある自信タイプを採る場合は心が簡単に折れる人かどうかをよく見極めることです。本書でも繰り返し述べている「ポテンシャル採用をするなら、たくさんの学生を見て、人を見極める力を磨く」ということです。また、根拠のある自信タイプに、「帰郷」や「セルフハンディキャップ」の傾向が見えたら、風邪をこじらせないうちに、「この仕事や配属にはこんな意味があるんだよ」ということを、キャリアと結びつけて意味づけしてあげることが大切です。ついでに、「辞めてしまった」新人との付き合い方についてもお話しておきます。内定辞退者と同じことなのですが、きちんとした理由があって辞める場合には、快く応援してあげればいいと思います。本当に優秀な人なら、転職後に仕事でつながることもあります。もし、転職先でくすぶっているようなら、「戻ってこい」と社長が引っ張ってくる話もよくあります。そうやって拾ってもらった社員は、必死で働きます。実は、私たち2人とも、リクルート社の出戻りなのです。曽和は一度辞めて、もう一度戻ってから、人事部のGMをやらせてもらったのです。井上は、一度辞めて戻ってから、子会社の事業立ち上げと経営をやらせてもらいました。ものすごく恩義を感じましたし、頑張らなければいけないと思いました。いまでもリク
ルート社のことは、ビジネスでの付き合い以上に思うところがあります。だから、辞めた人にも、敷居の低い会社にしたほうがいいと思います。一度は同じ釜の飯を食った仲間です。憎しみ合わなくてもいいじゃないですか。48分不相応な採用で会社が大きく飛躍する本書もこのルールが最後です。そこで、もう一度、社長に申しあげておきたいことがあります。それは、「〝分不相応な採用〟をするための環境を社内に作るつもりがありますか」ということです。〝分不相応な採用〟をする場合、いい人材が見つかったとしても、採用競争が激しいので会社をあげてのフォローをしていく必要があることは何度もお話ししました。そして、入社後も、彼らの成長速度に見合うだけの仕事の与え方、刺激の与え方、あるいは、評価の仕方を用意しなければ、せっかく入社した優秀な人材が去っていってしまうことも述べました。つまり、〝分不相応な採用〟をするということは、社員の意識も、制度も、文化も、何から何まで変えていくことと同じ意味なのです。私たちは「採用8割、場が2割」だと常々思っていますので、最も重要なのは採用した人材の質だと考えています。優秀さに加えて、自社に最適な人材を採っていくということです。ひまわりの種をまかないとひまわりは咲かないし、バラの種をまかないとバラの花は咲きません。ひまわりとバラのどちらがいい悪いではなく、現在の会社に最適な人材を採らなければいけないのです。そういう人材を見つけて採用し、うまく育てれば大輪の花が咲く――はずなのです。もし、そうなっていないとすれば、買ってきた花の種類を間違えているか、2割に当たる部分の、育てるための環境や場が整っていないということになります。「この本を単なるテクニックとして読まないでください」といったことをくどいほど述べたのは、仮に上手に口説いて採用したとしても、彼らを育てる環境が整っていなければ意味がないからです。もし、オーディション型の採用しかしてこなかった会社で、社長の意識だけが変わってスカウト型採用をすると、辞退率が増えるだけで終わります。人事部の意識が変わって採用できたとしても、育成体制ができていなければ、いい人材が失望して退職率が高まるだけです。もし、会社の将来のために、全社員で新人を育てる体制を作れないのであれば、あるいは、作るつもりがないのなら、むしろ、中途採用を中心にする即戦力採用へシフトしたほうがいいでしょう。しかし、逆に言えば、全社員が、「会社の将来のために新人を育てていこう」「花を咲
かせていこう」と意識を変えることができたら、会社は大きく変わります。大きく飛躍します。そのためにも、やはり、ここは社長が先頭に立ってください。本書を読んで、〝分不相応な採用〟をスタートしようとお考えになった社長は、ここに書いてある内容をそのまま人事部に伝えてください。そして、優秀な新人を採用して、全員で育てていくことの意義を全社員に伝えてください。会社の飛躍はそこからスタートするのです。
おわりによく「人気企業」という言い方をします。「人気企業は採用が楽でうらやましい」とか「それは人気企業だからできるんでしょ?」などと思われがちです。でも、それは勘違いです。「人気」とか「いい会社」という評価は相対的なものです。人気企業であろうと、自社ブランド以上の人材を採ろうと思った瞬間に、もっと人気のある企業と比べられて「不人気企業」の仲間入りをするのです。たとえば、いまのリクルート社などは、人気企業の1つだと思いますが、その人気以上の人材を採ろうと思うと、やはり受け身の採用だけでは無理です。ここで私たちが言いたいのは、「〝分不相応な採用〟を成功させるのに、会社の人気だの規模だのは関係ありません。そのノウハウを知り、全社をあげて取り組んでいけば、知名度の低い、小さな会社であってもできます」ということです。それは、さまざまな会社で〝分不相応な採用〟をお手伝いしている私たちが自信を持って言えます。ここに面白いデータがあります。マイナビが「大学生就職企業人気ランキング」を毎年発表しています。注目すべきは2008年卒です。特定の企業の名前を書くことはしませんが、その理系版を見てみると、いま苦境に陥って大規模なリストラを進めている会社がいくつもランクインしています。一方で、この10年間の間に株価を大きく上げてきたのは、中小の成長企業です。プロ野球のオーナー会社を見ても、この10年、20年の間に、いくつかメンバーが入れ替わっています。これを見てわかるのは、学生(および親)の会社を見る目と、現実との間には大きな差があるということです。もっとも、この意識の差は過去の学生たちも繰り返してきたことであって、繊維、石炭、造船など、その時代の花形の企業に優秀な人材が流れ、それらの産業が時代の変化とともに衰退していったのはご存じの通りです。私たちが、なぜ成長企業やベンチャーなどの小さな会社が優秀な学生を採用するのをサポートしているのか――という理由がここにあります。それは私たち人材ビジネスをしている者の社会的使命だと思っています。優秀な学生は、当然のように大企業に就職しています。その優秀な人たちの多くが、大
企業の中でその能力を発揮できないままでいます。しかも、実力主義かといえばそうでもない。優秀な学生こそ、知名度とは関係なく、さまざまな成長分野の会社に入るべきだと思います。未来のトヨタ、未来の〇〇のような会社に優秀な学生が入ることで、日本経済が活気づくと思います。ところが、実際はそうなっていません。だからこそ、これから成長していこうと思う会社は、本書で述べた分不相応な採用を目指してもらいたいのです。私たちは、優秀な学生に会うたびに思います。この学生をこの会社に入れたら、売上が2倍になるかもしれない。でも、大手企業に入ったら、どんなに優秀でも2倍にすることはできないだろう。だから、私たちは、知名度が低くても、小さくても、成長している会社と、優秀な学生との幸福なマッチングができるように応援をしていきます。本書を読んで、来年の採用はスカウト型で優秀な学生を積極的に採りにいくぞと決意された社長!ぜひやりましょう!社長の決意があれば、社員も、優秀な学生も、能力を存分に発揮してくれます!
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