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社員が成長するシンプルな給与制度のつくり方【オリジナル】

社員が成長するシンプルな給与制度のつくり方

大槻幸雄. 社員が成長するシンプルな給与制度のつくり方社員10人を超えた社長は必読 (Japanese Edition) (p.231). Kindle 版.

はじめに◎会社への不満で社員が退職する以上の損失はないこのところ、指導先のお客様やセミナーに参加した社長からよく耳にすることが2つあります。

ひとつは「思っていたような社員が採れない。

それどころか応募すらない」というもの。

もうひとつは、「せっかく採用できたものの、定着しない」というものです。

現在の労働市場は、まさに売り手市場。

このような状況がこれからも続くことは、人口構成からも容易に予測されます。

「この会社は自分とは合わない」「ここではやりたいことができない」など退職理由が明らかに社員側にある場合ならいざ知らず、「給与制度についての説明がなく、昇給や昇格の基準が分からない」「自分自身の将来設計が描けない」など、社員の定着を阻む原因が会社側にあるようでは、その会社の将来はおぼつきません。

社員の賃金処遇を決める合理的なルールを確立することは、全ての経営者にとって重要な課題です。

シンプルで合理的な給与制度は、社長を社員の賃金決定の苦悩から解放するだけでなく、何より社員一人ひとりのやる気を高める働きをするでしょう。

そうした効果が期待される一方で、人事制度や賃金制度は何やら複雑で非常に難しいものだと感じている社長が多いこともあってか、社員の処遇決定ルールの見直しになかなか踏み出せない企業が多いのも事実ではないでしょうか。

ただ今日の労働市場に目を向けると、人手不足の問題がますます深刻になるのは必至です。

これからさらに厳しさを増す雇用環境のなかだからこそ、わが社にふさわしい人材の採用・定着を着実に行い、社員がそれぞれに目的意識を持って仕事に集中できる環境づくりを急ぐ必要があります。

そして、その中核に位置付けられるのが、社員が安心して働き続けられる合理的な給与制度の確立だといってよいでしょう。

◎不易流行、大切なものの基本は変わらない会社ごとに業種業態や企業規模は違っていても、また時代とともにその会社の事業内容が変遷しようとも、賃金制度の根幹をなす人事理念と基本的な枠組みが揺るぎないものであれば、その賃金制度はその企業に長く根付き、社員の成長を促し、企業の繁栄を支えるものになるはずです。

国の方針もあり、これからの時代は、今まで以上にいろいろな働き方が選択できるようになっていくことでしょう。

しかし、入社してそのまま社員が納得して、自己成長を続け、自己実現でき、定年まで働き続けることができれば、社員にとっても会社にとっても、それ以上に幸福なことはありません。

それこそが「社員を大切にする」ということの基本だと筆者は考えています。

これは太い柱、太い梁の古民家が200年以上の風雪にたえて、今なお堅固にその姿を保っていることに似ています。

基礎や骨組がしっかりしたものであれば、後に修繕や改修

が必要になることはあっても、長く安心して住み続けられる家となります。

賃金制度も、長い期間にわたって安定して運用できるものであればこそ、社員は安心して仕事に励み、その実力を存分に発揮することができるのです。

もし新しく給与制度をつくっても、4、5年で制度疲労をおこし、全面改訂をしなければならないようでは、社員の定着など望むべくもないのです。

そうならないためにも、社員の成長を促し会社の繁栄の礎を築く、しっかりした賃金制度を確立して、社員の力がフルに発揮できる強い組織づくり、生き生きとした職場づくりにつなげていただきたいのです。

本書は、シンプルで合理的な給与制度を確立することの大切さを、分かりやすく伝えることを目的としています。

経営者や人事担当の皆さんが、自社の賃金制度を整備・改善し、これから末永く正しい運用を続けていくために、本当に押さえておくべき急所はどこかを会得され、企業の繁栄につなげていただくことを心より願ってやみません。

2018年1月大槻幸雄

目次

はじめに

目次

ステップ1社員のやる気を引き出す賃金の考え方を知る

第1章なぜ給与制度を整備しておく必要があるのか?

1人材獲得競争時代は始まったばかり2「優秀社員の定着」に一番大切なこと3社員全体のやる気の総和を最大化する4基本要素は「仕事」と「人」の2つだけ5オーナー経営者が陥りやすい間違い実務現場で考えるコト①給与制度を整備することの大切さ

第2章わが社の問題をしっかり把握する

1人事理念は社員にも分かりやすいか2賃金・処遇にかかわる問題を精査する3実際に給与制度の現状分析を行う4人事サイクルの好循環を実現する

第3章担当職務・役割・職責を基準に等級を決める

1社員に任せる「仕事」基準で処遇決定2担当の仕事を責任レベルで整理する3仕事と賃金とをミスマッチさせない4責任等級制度で等級格付けをする

ステップ2社員が納得し安心して働ける給与制度を仕掛ける

第4章社員に正しく説明できる基本給体系をつくる

1賃金体系の基本–基本給と手当2現在の賃金体系を整理する3本給月額表をつくる4自社の「オールAモデル」をイメージする実務現場で考えるコト②定期昇給制度の意義を正しく理解していますか

第5章定期昇給を正しく理解し、やる気を引き出す

1社員のモチベーションを維持向上させる実務現場で考えるコト③社員のやる気を引き出す給与制度2定期昇給は人件費アップにつながらない実務現場で考えるコト④わが社の賃上げ率は適正な水準か?3昇給評語(SABCD)を決める4昇給額において適正に差をつける5賃上げ率を正しくコントロールする6昇給ルールを「見える化」する7採用初任給をバランスよく決める

第6章手当を必要なモノに限定して支給する

1必要不可欠な手当に限定する2管理職手当を正しく決定する3特技手当と特殊作業手当を設定する4家族手当に社長のメッセージを込める5住宅手当は不公平感を助長しやすい実務現場で考えるコト⑤昇格昇進運用と賃金処遇

ステップ3努力が正当に評価されれば実力社員はしっかり定着する

第7章納得性のある評価制度を確立する

1なぜ評価をしなければいけないのか2評価の基本を正しくつかむ3納得性を高める成績評価5ポイント4成績評価の基準・着眼点をつくる5評価点を正しくつける6成績調整をどのように進めるか実務現場で考えるコト⑥昇格昇進は「経営判断」7「評語Aの比率25%」を正しく理解する

第8章社長の想いを表すメリハリある賞与の決め方

1賞与の本質は利益の配分である実務現場で考えるコト⑦戦略的なベースアップを目指す2社員個人への配分方法を考える3支給時の工夫で社員のやる気を引き出す奥付

 

1人材獲得競争時代は始まったばかり~自社で育て上げた優秀な社員を辞めさせない制度をつくる

◎最も急激な変化は人材不足中小企業の人事・労務管理をとりまく環境が大きく変わってきています。

なかでも最も急激な変化は、人材不足だといえるでしょう。

その原因には、生産年齢人口の急激な減少があります。

生産活動に関わるとされる15歳から64歳までの生産年齢人口は、1995年の8726万人をピークとして減り続け、2015年には7728万人とピークより1000万人が減少し、国立人口問題研究所の予測では、2040年には6000万人を割り込むとのことです。

このところ、新規学卒者の求人倍率も、高校卒・専門卒・大学卒ともに上昇していますので、新卒採用をかけてもほとんど応募がないという中小企業が増えているのも無理のないところです。

福岡県のある電気工事会社の社長も、これまでは大学卒や高専卒の学生をコンスタントに採用できていたものが、ここ数年間は、全く新卒の応募が来なくなったと嘆いていました。

特に高専卒などは引く手あまたで、学校の就職部を定期的に訪問して情報収集をされているそうですが、担当の先生からは「業務内容以前に、初任給が世間相場並みでない会社には、学生は殆ど関心を持ちませんね」と言われて、困惑されたそうです。

「うちには新卒の学生は、はなっから来ないから、採用は専ら中途採用だけですよ」というオーナー社長のお話もよく聞くようになりました。

実際、完全失業率が3%を下回っている今日の状態は、ほぼ完全雇用状態だと考えて良いでしょう。

どんな時も求人と応募者のミスマッチはありますから完全失業率はゼロにはなりませんが、求職者にとっては十分な求人があるのです。

有効求人倍率も上昇を続けています。

「有効求人倍率といっても、非正規の求人ばかりが多くて、正社員への道はいまだ狭き門ではないか」という声もありますが、正社員の有効求人倍率も1倍を超える都道府県が増えているのです。

◎この時代だからこそ正社員にとって分かりやすい処遇体系を確立する給料の水準に目を向けてみましょう。

給料の水準は、これまでも労働需給がひっ迫している時には、採用初任給を中心に上昇する傾向が顕著でした。

ただ、GDP成長率は2%平均を達成できず、経済成長や景気回復がとても緩やかな足取りで進むなかで、大幅な賃金上昇は考えにくいところです。

人が採れないからといって、採用初任給を大幅に引き上げたり、社員給与のベースアップを継続して実施したりすることは難しいのが実情です。

ただ、パート・非正規社員の賃金水準の引上げは着実に進んでいます。

人手不足のため、パートの時給が上がりやすいという傾向は前々からあるのですが、これに加えて政府主導による最低賃金の大幅な引上げが、企業の人件費負担を押し上げています。

政府は、「毎年3%の引上げを目標に、最終的に加重平均で1,000円を目指す」としていますので、流通業や小売業などパート社員が社員の過半数を占めるような事業形態では、今後の総額人件費がどの程度増えていくのか、中期的な見通しを立て、必要に応じて、さまざまな人事施策を打って出なければいけません。

注意しなければならないのは、こうした人材獲得競争の時代は、始まったばかりであるということです。

生産年齢人口はますます減少していくわけですから、経営者として先々を見通した具体的な対策を今から立てておかなくてはなりません。

真っ先に対処しなければならないのは、正社員にとって分かりやすい処遇体系を確立することです。

人材獲得競争の時代というのは、単に「新たに優秀な人材が獲得できない」だけでなく、わが社で時間をかけて育て上げ、その将来に期待がかかる優秀な社員が社外に流出するリスクの高まる時代でもあるのです。

社員が将来に不安を感じることなく、安心して仕事に打ち込むことのできる賃金人事制度への整備の中核は、社員が正しく理解することができ、納得できる合理的な給与体系と評価制度を確立することにあります。

社員の理解と納得を得られる賃金人事制度でなければ、社員のやる気を存分に引き出して、他社に負けない力強い会社組織を作り上げることなどできません。

そのためにも、社員に対してオープンな制度であるとともに、分かりやすく設計することが大切なのです。

2「優秀社員の定着」に一番大切なこと~合理的な賃金決定で社員の生活設計が立てられるようにする

◎賃金決定における合理を押さえる新しい賃金制度への改訂を行った会社での欠かせない手続きに、全社員に向けた給与制度説明会の実施があります。

自分の給与が、これからどう決まるのかについて正しく理解してもらう場になりますが、一部の会社では「会社や社長が給与制度の変更に着手することは、すなわち処遇が下がることだ」と思われていることがあります。

社員の給与を引き下げることなど全く意図していなくとも、日頃の社内コミュニケーションが疎であったり、会社に対する不満が募っていたりすると、「給与制度が変わる=給与が下がる」と悪く考えてしまうということなのでしょう。

「給与制度の専門コンサルタントの立場から、これからの給与や賞与がどう決まるのか、社員に説明してやっていただけないでしょうか。

私もうまく説明しきれる自信がありませんし、社員も先生に話していただいた方が、よく理解できると思うのです」いざ制度導入という段になって、その会社の社長や総務部長からこのようなご依頼をよくいただきます。

そうした説明会の冒頭で、社員の皆さんに「皆さんの給料がどのように決まっているのか、給与規程を通して読んだことがある人は手をあげてください」と質問することにしています。

ある会社では誰も手があがらず、またある会社では40人中2人という結果でした。

このような状況は、どの会社でもほぼ同じです。

◎なんといっても給料は最大の関心事では、社員が給料について関心がないのかというと、そんなことはありません。

将来の給料がどうなるのか、結婚し家庭を持った時に、あるいは30代、40代の今の先輩たちの年代になった時に、いくら貰えるのかについては、皆知りたいはずです。

ただ、新卒社員にせよ中途採用者にせよ、入社前や入社直後に、先々の給料のことを会社に聞くことはタブーと感じている人も多く、会社側からも採用初任給以降の給与について具体的なことを何も伝えていないのが、多くの会社の実情のようです。

しかし、社員にとって最も重要な労働条件であるはずの給与決定が、曖昧なままでは、いずれお互いに行き違いが出てきます。

特に仕事のできる優秀な社員ほど、昨今の売り手市場の下では、処遇に関する不信や不安感が、そのまま退職につながるかもしれません。

賃金水準の高低の問題ではありません。

会社が社員を大切に思っている証として、社員に分かりやすいオープンな賃金制度を確立しているかです。

経営者が社員を大切に考えているといっていても、社員の給与が先行き不透明で、給与規程を読んでもいくら昇給するのか何も分からず、「結局は社長が鉛筆舐めながら決める話だ」と社員が思っていたら、

やる気が高まることなど期待できません。

合理とは「道理にかなっていること」。

正しく説明すれば社員のだれもが理解できるものでなくては、合理的な賃金制度とはいえないのです。

◎社長の勘や経験はモノをいうかたとえ賃金制度が十分に整備されていなくても、「自らの勘や経験に基づいて決めるのがいちばん間違いない」と考える経営者は、今も少なくないようです。

ただ、大会社の経営者が、勘や経験を頼りに会社のかじ取りをするなど聞いた試しがありません。

中小企業だからといって勘と経験が罷り通る道理はないはずです。

新規学卒者が減少する中で、採用初任給の大幅なアップも考えられますし、最低賃金の上昇による賃金相場への影響も看過できません。

また、事業そのものについても、機動的に変化していかざるを得ないとすれば、社長をはじめ経営幹部の過去の経験に基づく主観的な判断が頼りでは、今日にふさわしい処遇決定はできません。

ましてや、若い世代の社員の賃金や労働環境に対する考え方のギャップは乗り越えることができず、彼らが納得できる処遇を実現することもできないと考えるべきでしょう。

たとえ、今日のような人材不足の時代でなかったとしても、わが社に集い、同じ目標に向かって仕事に取り組む全社員の幸福の追求は、会社にとっても最重要テーマのはずです。

社員がその実力を遺憾なく発揮するには、日々の生活の糧でもある賃金処遇が納得できるものでなくてはなりません。

今まさに、多くの中小企業で、合理的な賃金制度の確立が求められているのです。

3社員全体のやる気の総和を最大化する~人事制度改革の目的をしっかり理解する

◎継続的な好循環を実現するために企業が事業を行っていくうえで求められる成果について、全ての業種・業態に当てはまるように言い表せば、「質の高い商品やサービスの提供を通じて、顧客・マーケット・地域や社会からの信頼をより多く獲得し、継続的な好循環を実現すること」と言えるのではないでしょうか。

継続的な好循環とは、お客様に対して質の高い商品やサービスを提供することによって、顧客満足と信頼を獲得し、自社の商品・サービスを選び続けていただくことで、その収益事業が安定し、そのことが人材の獲得やわが社に集う社員の幸せにつながり、仕事に喜びと励みを感じた社員の成長・能力開発が、商品・サービスの付加価値をさらに増やし、これが冒頭のお客様満足へと巡っていくサイクルを指します。

このような好循環のサイクルを継続的に回していくには、社員が安心して仕事に専念できる評価制度と、評価が正しく処遇に反映できる賃金・人事制度が整備されていることが前提となります。

社長は、こうしたわが社のあるべき姿を具体的に描いて社内に公開するとともに、」「社員全体のやる気の総和を最大化すること」を常に意識して、その実現に取り組まなければなりません。

「社員全体のやる気の総和が最大化する」というのは、優秀な社員も、平均的な社員も、やや出遅れ気味の社員も、また部長、課長、係長など職位や階層にかかわらず、それぞれの置かれた立場で、さらに品質の高い仕事を目指すべく挑戦を繰り返し、切磋琢磨する社内風土を築きあげるということです。

つまり、賃金・人事制度の整備と評価制度の確立を通じて、1より多くの社員がフルに仕事力を発揮できる仕組みの構築2仕事の品質の高さが評価される組織文化・企業風土の醸成を実現するのです。

◎場当たり対応では負のスパイラルに陥る中小企業では生産する付加価値生産額が伸びにくいなかで、人件費の比率が相対的に高くなりやすい傾向があります。

特に平成不況と呼ばれた時期には、各企業とも人員削減やコスト削減に努力をしていたものの、本業の利益が伸びにくく人件費負担が高止まりしやすい傾向にありました。

度重なる不況期に、人件費が高いからといって十分な検討もせずに賃金水準の切下げをした会社では、将来への不安から社員がやる気をなくし、かえって企業の体力を損なうこともありました。

もともと賃金水準が相対的に低めの中小企業では、労働分配率の増加→賃金ベースの引下げ→優秀な人材の流出→モラールダウン→労働生産性の低下→付加価値生産性の低下→労働分配率の増加と悪循環に陥りやすく、結局のところ人件費比率は高止まりしたまま、付加価値生産性がさらに下がる、いわば「デフレスパイラル」が起こったのでした。

次ページ図のような「やってはいけない負のスパイラル」が中小企業では起こりやすい状況が続きました。

確かにデフレの進行した時代から今日まで、日本企業の賃金政策には難しい局面が続いています。

こうした環境の下で、新しい賃金・人事制度を構築していくには、賃金処遇決定のための座標軸をどこに置くのか、実力を正しく評価し効果的に処遇に反映させる方法は何か、そして社員のやる気の総和を最大化させるにはどうすればよいかを十分に検討し、守るべき基本と機動的に対応すべき人事施策をはっきり見極めなければなりません。

変えなければいけないこと。

それは、「人」基準から「仕事」基準の人事体系への転換を図ることです。

4基本要素は「仕事」と「人」の2つだけ~守るべき基本と変えなければならない人事施策◎賃金が発生する仕組みはいかなる会社でも不変社員の賃金はどのような考え方に立って決めれば良いのでしょうか。

賃金決定を当たり前の基本に立ち返って考えてみると、社員という人が、会社という職場で仕事をすることで、その労務の対価として賃金が発生するということは、時代や賃金制度の違いによっても変わることない基本です。

つまり、賃金決定の基本となる要素は、大きく分ければ人の要素と仕事の要素の2つから成り立っているということができます。

この2つの要素をどう捉えるかによって、賃金制度の中身が決まってくるのです。

では、人と仕事、それぞれの視点からその中身をみてみましょう。

まず、人に含まれるものに、年齢、勤続、学歴などの属人要素があります。

基本給のなかに年齢給や勤続給がある場合、仕事と直接には関係しない属人要素が基本給に影響を与えることになります。

能力はもともと人に属する要素ですが、職務遂行能力に限定することで給与決定に活用されています。

この職務遂行能力が、常に「仕事上に発揮された能力」として客観的に捉えられているのなら良いのですが、どうしても「積極性」「協調性」「責任感」といった抽象的な能力判定となりがちだという問題をはらんでいます。

次に仕事について考えてみましょう。

仕事の要素は、仕事の種類、仕事の量、仕事の質に分けて、それぞれ賃金決定の在り方を整理することができます。

まず、仕事の種類とは、職種によって賃金水準を決定するということです。

わが国では、職種別の賃金相場が形成されていませんので、正社員の給与決定基準とすることはできません。

それでは、仕事の量で賃金を決めることはできるでしょうか。

仕事の出来高で決める出来高給は、一部の職種や営業形態では、賃金決定の有効な方法として用いられています。

タクシー乗務員、自動車販売の営業社員、宅配業のセールスドライバーなどがそれに当たりますが、営業職の中でも本人の実力による業績差が明確になりやすい業種に限られています。

正社員一般の賃金決定には向きません。

労働時間の量で給与が決まる時間給のパートタイマーや契約社員の給与決定方式も、定年までの長期雇用を前提とした正社員に対しては、ふさわしい賃金決定方式とはいえません。

最後に、仕事の質とは、組織の中で担当する仕事の難しさや責任の重さの度合いということであり、一言でいえば「役割責任」ということです。

仕事の間口の広さや裁量権といった、職制上の責任を根拠に賃金決定を行うことは、社員にとっても納得感をもって受け

入れられるものであり、これこそが賃金決定の基軸とすべきものです。

賃金を決定するのは、結局「人」と「仕事」の要素しかありません。

安定成長の時代にあっては、役割責任に応じた発揮能力に着目し、年齢や勤続といった「人」の要素を加味しながらも「仕事」に軸足を置いた賃金制度を目指すべきなのです。

5オーナー経営者が陥りやすい間違い~処遇決定上、よく見かける3つの誤解誤解①定期昇給など続けたら人件費が膨らんで経営を圧迫する神奈川県にあるA鉄工所の2代目社長から聞いた話ですが、地元経営者の仲間内では、「世間では、やれ賃上げだ、ベアだと言っているが、売上げも増えないのに、社員の給料を上げるなんて無理な話だ」という声がよく聞かれるとのことでした。

そんな事情もあってか、給与規程は一応は整えてあるものの、昇給ルールが何も書いていないという会社が、中小企業には圧倒的に多いのです。

ただ、給与が増えるかどうかも分からない会社に人は集まりません。

A鉄工所では、これまでの採用の中心は、高卒18歳の新入社員だったそうですが、就職希望者が激減し、今では新卒は全く採れないとのことでした。

高卒の求人倍率が上昇するなかで、将来の給与が上がるかどうか分からない会社に応募がないのは当然のことです。

昇給の運用実態を見ると、高卒3年目(21歳)の給料が170,000円、採用初任給が164,000円だったといいますから、給料は1年あたり2,000円ずつしか増えていないことになります。

ということは、10年たっても20,000円しか増えず、28歳で184,000円にしかならないことは、社員にも容易に想像がつくわけです。

これでは、社員は将来に不安を覚えるばかりで、仕事のデキる社員から辞めていってしまいます。

経営者としては、具体的な昇給ルールがないことで、人件費の一方的な上昇を抑えられるとの安心感があるのかもしれません。

しかし、それでは優秀な社員を定着させることなどできないのです。

誤解②仕事は働いた時間ではなく結果がすべてだ「売上げや利益が上がらなければ、評価には値しない。

成果も出せずダラダラと長時間残業をしている社員に多額の残業代を支払うのは悪平等だ」という意見は、今も昔も社長のなかには根強いようです。

ただ、合理的な賃金決定の前提としては、「所定労働時間内にいかに中身の濃い仕事をさせるか」という人事管理上のテーマを無視することはできません。

労働基準法は、時間管理を会社(使用者)の義務としていますし、これを無視して、成果が上がるまで無定量無際限に働かせることなど許されていませんので、会社としての時間管理は何より大切です。

しかしながら、実際には時間管理を社員任せにしている会社が大半だというのが実情です。

なかには、一定額の固定残業手当を支払うことで、それを超える長時間残業があっても、それ以上の割増賃金を支払わないという会社もあり、労働基準

監督署の是正勧告を受けるケースも後を絶ちません。

基本に立ち返って考えてみれば、残業とは36協定(時間外勤務・休日勤務に関する労使協定)に基づいて、会社が命じて行わせるものであり、「割増賃金を払うから、この仕事は今日中に終わらせなさい」という指示をすることに他なりません。

ですから、合理的な賃金決定の前提には、まず所定内労働と所定外労働との区別が適正に行われているということが重要な要素なのです。

結果が出るまで際限なく働くことを良しとする会社では、社員のやる気を引き出す合理的な賃金決定はできないということを忘れないでください。

誤解③給料の不満は個人別に対応すれば良い社員規模が30人前後までの会社では、人材確保が難しいという事情もあって、「デキそうな人には希望額を、未経験者にはなるべく抑えた額を」という給与決定をする会社が少なくありません。

このような場当たり的な対応の積み重ねによって、ますます給与に対する不公平感が増幅されていくことになります。

社員相互の給与等の処遇バランスよりも、要員確保が優先される会社では、おのずと合理的な賃金決定の仕組みを作り上げることが後回しになりがちです。

しかし、「これから事業を発展させ強い会社に育てていこう」という社長の想いとは裏腹に、社員の安定確保とレベルアップの面からは阻害要因となりかねません。

公平な処遇決定は、分かりやすいオープンな制度に委ね、機動的かつ柔軟な対応が求められる場合に限って、社長の〝情〟による調整の余地を残すぐらいが良いでしょう。

実務現場で考えるコト①給与制度を整備することの大切さ社員の給与制度をしっかり整備するということは、企業規模にかかわらずとても重要なこと。

しかし、合理的な賃金制度が決まっておらず、その時々で社員の給料が決まっているとしたらどうだろうか。

仮に給与表があったとしても、昇給ルールがあいまいで、「業績が良ければ昇給するけれど業績が悪ければ昇給なし」というようないい加減な運用だったら、社員の納得感は低く、不平不満が充満して、決して良い人材は定着しない。

「なぜ私は、Aさんよりこんなに給料が低いのだろう」「途中入社だからといって10年も勤務しているのになぜ給料が上がらないんだ?」「毎年2000円ほど昇給しているけどこれじゃ10年たっても2万円しか増えないよ」「給料が低いと言ったら今年に限って1万円増やしてくれたけど、将来は???」「社長に気に入られた奴しか、結局、昇格できないんじゃないか」「このままじゃいつまでも安アパートから出られないし、結婚もできないな」お客様のコンサルティングの最初の作業として、社員全員の給与データを分析・精査するが、時折、このような社員の不満・不平・不信・不安の声をその数値が代わりに話しかけてくる。

1人事理念は社員にも分かりやすいか~人事制度の方向性を示す「3つのキーワード」◎人事理念が明確な会社は人事政策の軸がぶれない企業経営を取り巻く環境の変化、特に人口減少はまだその入り口に差しかかった段階であり、今日の人材獲得競争はまだ序の口に過ぎないのかもしれません。

今後も経営環境や労働市場が大きく変化していくであろうことは想像できますが、いかなる環境の変化にも揺らぐことのない賃金・人事制度づくりを目指すことが重要であり、そのためには企業として明確な人事理念があるかどうかが決め手となります。

社員に対する考え方や会社としてのスタンスを人事理念として確立している会社はそう多くはありません。

しかし、社員を大切にしている会社として世間の注目を集める会社では、社員の幸せや生きがい、人としての成長に配慮した、分かりやすい人事理念が定められていることが多いものです。

企業が新たな事業を始め、ビジネスモデルを転換する時にも、人事理念が明確に定められている会社では、人事政策の軸がぶれるということが、まずありません。

企業にとっての代表的な経営資源はヒト、モノ、カネですが、会社が扱う商品やサービスの品質にもっとも影響を与えるのがヒトだと言って良いでしょう。

◎社員の幸せにつながる賃金・人事制度を今ここに「自社の商品・サービスを通じて、お客様の生活の質的向上に貢献する」という経営理念を掲げている会社があります。

経営理念では「お客様」が真っ先に取り上げられていますが、実は、この会社の人事理念には、「社員の幸せの追求」が最初に掲げられています。

世の中の経営理念の多くは、自社が産み出す商品や提供するサービスを通じて社会に貢献するというものですが、この会社では質の高い商品やサービスは、会社に集う社員の人間性に由来するものであり、社員の幸せの追求こそが、事業永続の核となる目的だと位置付けています。

賃金制度や評価制度が企業の実情や、特性にあったものであることはもちろんのこと、社員の幸せに直結する、社員にとっても身近に感じられる賃金・人事制度であり続けるということも大切な要素です。

日々の生活に直結する〝生活の糧〟としての月例賃金、年2回評価された個々の努力と貢献が支給額に反映される賞与など、ベテラン社員から入社したての新人まで、誰もが理解できる、筋の通った合理的な制度が求められる所以でもあります。

◎「分かりやすい」「使いやすい」「長持ちする」人事制度の方向性を示す3つのキーワードは、「分かりやすい」、「使いやすい」、「長持ちする」です。

「分かりやすい」とは、すべての社員に正しく理解してもらえる制度であり、シンプルな制度であることを基本とします。

もちろん、シンプルだということは、緻密さに欠けても許されることではありませんし、社長のさじ加減でどうにでもなるといった不安定な内容でもないことはいうまでもありません。

次に「使いやすい」とは、運用のルールが簡明で、誰が人事担当者になっても毎年の定期昇給や昇格昇進制度などの運用が、適切に行えるということです。

私共のような専門コンサルタントや提携先の社会保険労務士のような専門家の手を借りなくても、安定した運用を続けられることでもあります。

そして「長持ちする」とは、10年、20年が経過しても賃金制度として陳腐化する心配のない、基本構造のしっかりした制度であることを意味します。

本書で取り上げる合理的な賃金制度が適用される正社員とは、ひとたび入社すれば定年まで勤め上げることが期待される社員です。

これだけの長期間にわたって賃金処遇に不安を感じることなく、安心して仕事に取り組めるようにするには、賃金制度が数年で制度疲労を起こすものであってはならないのです。

はたして、社員を大切にする会社の人事理念を具現化するような、シンプルかつ合理的な制度であって、しかも長持ちする制度ができるのだろうかといぶかしく思う方がいるかもしれません。

大丈夫です。

これからひとつずつ合理的な賃金制度の構築に向けたエッセンスをお話ししてまいりましょう。

2賃金・処遇にかかわる問題を精査する~社員が理解できるように説明できるかどうか◎自社の現状を徹底的に洗い出す給与がどのように決められているのかについて、社員が理解できるように説明できるかどうかという問題は、経営者にとっても重要なテーマです。

給与体系を全面的に見直して、合理的な賃金制度を作り上げようとするとき、まず最初に確認しておきたいことは、自社の賃金制度の特徴と課題がどこにあるのかということです。

まず、人事労務管理全般について、自社の良いところと悪いところ、強みと弱みを徹底的に洗い出すことから始めましょう。

◎いま何が問題なのか?では、実際に多くの会社でどのような問題が生じていて、賃金制度や評価制度を新たに構築することで、どのように個々の課題を解決できるのかについて、掘り下げて考えてみましょう。

著者の所属する賃金管理研究所に給与制度づくりの依頼をされる社長や人事総務担当からは、「社員の賃金バランスが悪く不公平感がある」「年功的な賃金カーブであるため、社員のモチベーションが上がらない」「そもそもの給与水準が低いので、新たな人材が採用できない」など、さまざまな声が寄せられます。

ただ、例えば「給与水準が低いので、新たな人材が採用できない」という場合でも、こ

れだけでは新規学卒者の初任給の話なのか、中途採用者も含めた社内水準の話なのかが分かりません。

また、採用初任給自体はやや低めではあっても、入社後の着実な昇給や福利厚生面が充実していることから、採用には事欠かない優良企業などが多数あることを考えれば、人事制度全般が体系的に整備され、社員の目に見えるように整備されていないことが一番の問題かもしれません。

また、賃金水準以上に常態化している長時間残業が足かせになっていることも考えられます。

このように最初から問題の本質を正しく捉えることはなかなか難しいものですから、まずは今、目に見えて起こっている事柄について正しく把握することから始めることをお勧めします。

多くの会社に当てはまりやすい状況を書き出してみましょう。

(次ページ図)◎目に見える問題の真因を探るまず、目の前で起こっている事柄を正しく整理してみましょう。

社内で人事上の課題の洗い出しをする場合には、社長や人事総務担当者が日頃から感じ

ている問題点を、できる限り数多く書き出してみることをお勧めしています。

個人で紙に書き出すことでも良いのですが、何人かでそれぞれが思いつく課題を、付箋紙1枚に1項目と決めて、できるだけ多く書き出すようにし、それを大きな紙の上でグルーピングするなどして整理し、問題点を共有するのも有効な方法です。

問題点の洗い出しが終わったら、続いてそれぞれの問題点の根本原因を探る作業に移ります。

目に見える問題・課題には、その真因ともいえる「根本原因」が必ず存在します。

(次ページ図)◎賃金制度の円滑な運用を妨げる4大要因社員のやる気を阻害し、賃金制度の円滑な運用の妨げになる賃金処遇上の要因は、大き

く、4つに分類できます。

【不満】賃金や賞与支給額が期待水準に達しないことに対する不満【不平】他の社員と比べて自分の賃金処遇が低いことに対する不平【不信】自分を正当に評価しない会社や上司に対する不信【不安】将来の賃金処遇が見通せないことに対する不安こうした阻害要因の解消は、一朝一夕にはいかないかもしれませんが、人事制度全体が労務管理の視点からだけではなく、経営管理の視点からも合理的(=理にかなった説明ができる)なものであれば、必ずや乗り越えることができるものです。

このような社員の負の感情を一掃するためにも、まず自社の賃金管理・人事管理上の課題について、本当の原因がどこにあるのか、根本原因を正しく認識することから、給与制度改革への第一歩を踏み出そうではありませんか。

3実際に給与制度の現状分析を行う~自社の賃金分布状況を「見える化」する◎グラフ上に全社員の賃金をプロットする問題点の洗い出しとその根本原因を探る作業をひととおり終えたら、賃金決定上の問題点をより正確に把握するためにも、グラフ上に全社員の賃金をプロットして、その分布状況を調べていきます。

プロット図は、横軸に年齢を、縦軸に所定内賃金の金額をとります。

所定内賃金とは、所定労働時間に行われる労働に対して、毎月決まって支払われる賃金のことだと考えていただければ良いでしょう。

ただし、通勤手当は除外しておきます。

次ページは、A社とB社の社員の賃金分布図です。

A社の賃金は年齢の上昇と賃金の上昇の相関関係が強く、年功的な賃金カーブを描いていることが分かります。

さらに、A社については、一定の年齢を超えると上位の職位に自動的に昇格する傾向が強いということも言えそうです。

一方のB社は、年齢が進むにつれバラツキが大きくなる傾向が確認できますから、A社に比べると年功色は弱いようです。

賃金カーブの水準自体は、B社はA社よりも低めで、昇格した社員についても賃金の伸びは大きくありません。

昇格昇進は適正に運用されているようでも、職位間の格差は小さく、特に時間外勤務手当の支給対象である係長と課長の賃金水準に差がほとんどないことが気になります。

B社がほとんど残業のない会社なら良いのですが、残業の多い会社で係長に多額の残業手当が支払われているようなら、課長と係長の手取り額に逆転が起こる可能性が高いといえるでしょう。

その点、A社は課長と係長にははっきり差がついているた

め、逆転の心配はほとんどありません。

このように、自社の賃金の分布状況は、必ずグラフ上に展開して確認することをお勧めします。

このとき、単に賃金水準だけではなく、賃金制度運用上の特徴や今までの昇格運用への基本姿勢などを確認することも大切です。

グラフは自社の賃金制度の問題を克明に語りますので、しっかり精査してください。

◎課題発見への5つの視点プロット図を用いて賃金分析をするときの5つの視点(確認ポイント)を掲げておきます。

わが社の特徴と課題を発見するためにも、しっかり確認してください。

①右肩上がりの年功要素が強いのか、適度なバラツキがあるのか先に示したA社のように、年功賃金の傾向が強い会社もあれば、B社のように職位に応じたバラツキがある会社もあります。

職種や部門による格差が顕著な会社もあるでしょう。

もし、性別による格差が顕著な場合は、男女別にプロットすることをお勧めします。

②分布図上の最上部のラインをたどっている優秀社員の賃金水準は、その仕事内容に見合った水準といえるか分布の上部に位置する社員は、今後に期待がかかる優秀社員のグループです。

他の社員の模範となり組織の牽引役として期待されている社員ですから、それにふさわしい水準であるかどうかを、金額ベースで確認します。

また、常にA評価(ここでは上位20%から25%)を取れるような社員がいた場合、年齢とのバランスを考慮しながら、どのくらいの賃金水準が社長の眼からみて適正な額なのか、制度上の上限額とも併せて確認しておくと良いでしょう。

③役職と賃金の関係はどうなっているか(昇格運用と賃金)。

一定の年齢で必ず昇格するような運用になっていないかA社のように誰もが主任、係長、課長と順調に昇格できる仕組みの会社は意外と多いものです。

ただし、社員規模の小さい会社でこのような年功運用をしていると、会社全体の仕事のレベルは上がらないにもかかわらず、給与水準だけは上昇することになり、モラールの低下につながるという問題もあります。

④平均的な成績の非監督職(一般職)の水準はどのくらいか(35歳で配偶者と子供2名がいる場合の所定内賃金の自社モデルはいくらか)春闘などで争点となるモデル賃金は「35歳、高校卒勤続17年、事務・技能職、家族構成は配偶者と子2人」という条件で比較します。

わが社の平均的な成績の社員が35歳(配偶者、子供2名)のときに受け取ることのできる所定内賃金のモデル支給額を算出し、実在社員のグラフの中でその位置付けを確認しておきましょう。

⑤非監督職(一般職)の最上位のクラス(係長など、時間外勤務手当の支給対象となる社員)と管理職の間に適正な格差があるかこのプロット図の上では、一般社員から課長や部長までがきれいにつながる賃金カーブが描かれていたとしても、残業の多い会社では、時間外勤務手当(残業手当)の支給される係長と、時間管理の対象外である課長との間で給与の手取額の逆転が起こることがしばしばあります。

管理職に昇格した時に、「責任は重くなるのに賃金は目減りしてしまう」という状況は好ましくありません。

もし、実際に手取額の逆転現象が起こっているようであれば、部下の残業手当込みの給与支給額とのバランスが取れるように、管理職手当を増額するなどの対策をとる必要があります。

4人事サイクルの好循環を実現する~社内に、いい意味での競争原理を根付かせる◎適正な競争原理を働かせる新しく賃金制度を整備し直そうとするときに、押さえておかなければならないポイントがあります。

その一つが、月例賃金、賞与、昇格昇進といった人事上の処遇決定に際して、人事評価を適正に行うことによって、社内にいい意味での競争原理を根付かせることです。

社員がお互いに切磋琢磨するような気風を社内に作り上げることだといっても良いでしょう。

一時期、わが国でも流行ったことのある「行き過ぎた成果主義」のように、「個人別の売上げや粗利を業績指標として、社員の目標達成意欲をあおり、お互いを競わせよう」ということではありません。

ただ社員の働きぶりは一様ではなく、よく「2対6対2の原則」と言われるように、おおむね優秀な社員が2割、平均的な働きぶりの社員が6割、期待を相当に下回る社員2割の比率で出現するとすれば、評価を通じてこれを正しく見極め、処遇に反映することはとても重要なことです。

◎全社員の評価を一律に扱うリスク「社員はいつもみんな頑張っているから、評価による差はつけないで、同様に処遇したい」とか、「うちの社員の実力からすれば、五十歩百歩でほとんど差などない」などと決めつけて評価による差を敢えてつけないようにしている会社もありますが、これは人事管理のスタンスとしては間違っています。

組織の〝和〟を重視しているようでいて、マイナスの側面が強く現れることが多いものです。

「今期は業績がとても悪かったから、評価は全員Cで、A評価などはあり得ない」とか、反対に「業績がすこぶる良好だったので、全員をA評価としよう」などということも、本来あってはならないことです。

会社全体の業績が良かったときも、反対に不良だったときも、勤務成績の良い社員もいれば、悪い社員もいるのが組織の常です。

にもかかわらず、全社員を一律に取り扱うとすれば、「頑張っても、ほどほどにお茶を濁しても、結果が同じことなら、必死に頑張る分だけ損でばからしい。

ほどほどにやっておけばよいだろう」と社員に思わせることになりかねません。

◎「正しい評価」の定義を理解する社員が、昨日より今日、今日より明日により良い仕事に挑戦していく、そんな社風を築いていくには、正しい評価を実践していく必要があるのです。

ここでいう正しい評価とは、社員のそれぞれの仕事ぶりが全く同じということがない以上、評価によって適正な差が生じることは当然のことであり、評価結果である成績評語(SABCD)にも、明確かつ適正な格差が生じるのは当たり前のことだということを忘れてはいけないということです。

社員を評価する場面は、どんな時も社員の育成につながっているべきものであり、賞与配分、定期昇給(査定差を反映した実力昇給)、昇格昇進に代表される人事処遇にも密接に関連付けられるものです。

採用時の人材評価と、純粋に個人の能力開発のためだけに行う適正評価も合わせて、その全体像を示すと次ページのように描くことができます。

まず会社は、社員に対して適材適所の人員配置を行い、半年ごとに社員の仕事ぶりを評価し、成績評語SABCDを決定して賞与支給額に反映します。

この6カ月毎に行われる年2回の成績評語を資料として、昇給のための評価を行い、昇給評語を決定します。

つまり、毎年4月期には「向こう1年間に発揮される能力への期待度を反映した実力査定昇給」を実施することができるようになるのです。

定期昇給時の昇給履歴は、昇格昇進のための評価にも反映されます。

昇格昇進とは、今後、中長期にわたる能力の発揮期待度にもとづいて行われる登用・人材配置と捉えることができます。

評価の流れに着目すると、賞与に反映される半年ごとの成績評価から始まり、これが昇給評語の決定に反映され、昇格昇進への展開にもつながっていくというサイクルが繰り返されることになります。

こうした評価の積み重ねを通じて、社員全体の次世代人材育成・能力開発が図られることになるのです。

1社員に任せる「仕事」基準で処遇決定~責任等級制度でシンプルかつ合理的な仕組みに変えていく賃金処遇を決定するための2大要素は、「仕事」と「人」であり、合理的な賃金人事制度へと作り変えるには、個々の社員に任せている役割責任を軸として考えるべきことはお話ししたとおりです。

では、実際の制度構築作業に入るまえに、日本の中小企業に共通する、注意すべき人事管理上のポイントについて、いま一度確認しておきましょう。

◎長期雇用を前提とした正社員が主な対象であるまず第一に、長期雇用を前提とした正社員が人事管理の中心だということです。

人材獲得競争が激化するなかでは、今後も労働市場の流動性は高まっていくでしょう。

また、企業のM&Aや業界再編等も含めて考えれば、一人の社員が定年までひとつの会社で勤め上げるといった前提はもはや崩れ去っていると言えるかもしれません。

ただそうであっても、正社員が中心の雇用管理が多くの企業で行われており、長期雇用慣行をベースとした人事管理であることに変わりはないのです。

正社員とは、通常、フルタイムで働く期間の定めのない社員であり、定年を迎えるまで継続して雇用される終身雇用が基本です。

解雇権濫用法理によって、普通解雇も限定的にしか行えない日本の会社にとっては、賃金制度を含めた人事政策が長期雇用を前提としたものにならざるを得ないのです。

長期雇用がベースである以上、定年までそのモチベーションを維持し、長い年月にわたってやる気を引き出していく仕組みが必要です。

そのためには、「成果」や「貢献度」をキーワードとした短期決済型の処遇制度(その代表は賞与配分)を取り入れると同時に、定年までの期間を見据えた長期決済型の処遇制度(その代表は定期昇給制度)をバランスよく組み込む必要があるということです。

◎柔軟性のある人事システムが必要不可欠日本の企業に見られる、第二の特徴は、組織と業務割り当ての関係に目を向けたとき、外国企業と比べて個人の業務範囲や責任範囲が明確ではないということです。

大企業だけでなく、中小企業の中にも「理念経営」や「クレド経営」を掲げる会社が増えており、社員を大切に考えている会社ほど具体的な経営計画・事業計画が策定されています。

ただ、そのような会社でも、個人の業務範囲や職務分担は、上司の指示命令によって決まる流動的な部分が多いものです。

組織(部や課)に与えられるミッションを、その組織のメンバーが相互に分担・協力して達成していこうとするスタイルが、日本の多くの企業に見られる特徴です。

かつての日本企業の強さを考えてみると、職務範囲が良くも悪くも不明確であるが故に、目前の課題に機動的に対処できる組織づくりをしてきたということも、その一因だったのではないでしょうか。

こうしたプラスの特性を否定して、職務範囲に厳格過ぎる線引きをし、目先の成果ばかりを追求させては、かえって企業の足腰を弱めることになるかもしれません。

◎「中小企業ならでは」の強みを生かすとりわけ中小企業においては、中小企業ならではの強みや特性を生かせるように、柔軟に対応できる人事システムを目指すべきでしょう。

中小企業の強みは、事業規模が小さいが故のフットワークの軽さや機動力にあると考えられます。

にもかかわらず、職能資格制度に代表されるような、精緻に身分資格化された年功賃金を温存しておいたままでは、そうした中小企業の強みを奪うことにもなりかねません。

労働力人口が減少し低成長が続く時代にあって、限られた総額人件費を効果的に配分していかなければならないのですから、処遇決定の基準も生産性に直結した仕事ベースに移行していかなくてはなりません。

フラットで意思決定が素早くできる機能組織を作り上げるためには賃金人事制度も仕事上の責任区分を切り口として、シンプルで合理的なものに変えていく必要があるのです。

その屋台骨を支える大黒柱にあたるのが、責任等級制度です。

それでは、具体的な等級基準のつくり方に話を進めてまいりましょう。

2担当の仕事を責任レベルで整理する~まず会社の中で担当職務を大括りにとらえる◎「責任の重さ」と「難しさ」の度合いで、等級に区分する責任等級とは、「仕事の質」すなわち「仕事の責任の重さ」と「仕事の難しさ」の度合いでまとめて区分したものです。

社員一人ひとりの職務範囲は厳密に決まっているわけではなくても、個々人が負う責任範囲はその組織のなかでは、案外認識されているものです。

分かりやすく言えば、自分の判断で処理できる仕事(自分の責任で行うべき仕事)は何か、上司の判断を仰がなければいけないような場合、言い換えれば、自分で勝手に判断してはいけない場合とはどんなときか、ということです。

これは、必ずしも明文化されていなくても一定のルールがあるのが普通ではないでしょうか。

このルール、すなわち各自の裁量で決定できる「業務範囲(権限を与えられ、責任を負う範囲)=仕事の間口の広さ」を責任の大きさの段階として整理します。

いわば、この責任段階を会社ごとのルールに従って区分したものが責任等級制なのです。

等級構成は、会社の規模や組織の大きさによって適正な規模が異なりますが、役割責任の違いがはっきり分かるように区別しようとすれば、5等級構成か6等級構成とするのが、一般的といえるでしょう。

なぜなら、それ以上細かく区分すると、責任の所在があいまいになり、等級が身分資格化してしまうからです。

◎今の役職が同じなら同じ等級とは限らない実際に、どのように等級区分を行うかについては、次ページを見てください。

社内に代表的な職位とその実際の職務内容を手掛かりに、わが社の役割責任は何段階に区切れるかを検証します。

職位が合理的に決められていれば良いのですが、例えば、課長といっても課の業績達成から部下の育成にいたるまで自身が責任を負うものと自認している管理職がいる一方で、課長という肩書はあっても年功的に付与された肩書で、実際には管理業務を全くしていない課長もいるなど、「課長は全員Ⅴ等級」というように同じ責任レベルだと言い切ることができない会社もあるでしょう。

そのような場合は、本来その職位に求められる(期待されている)職制上の役割・責任とは何かという基本に立ち返って考えてみてください。

◎社長として理想とする組織の姿を熟考し決定する前ページの図表は、役割責任の階層数を6等級構成として考えていますが、実際にわが社が何等級構成をとるべきかについては、社長として自社の理想とする組織の姿を十分検討したうえで決定するようにします。

その時は、現在の職位の数にとらわれることなく、あくまでも責任の大きさの違いを判断基準とし、かつ最小限の等級数に絞り込むのが基本です。

人事管理の基本となる等級構成は、会社の組織構成に直結しますから、社長が責任を持って決めなければならないのです。

もう少し詳しく代表的な6等級構成の等級区分と対応する代表職位を見てみましょう。

「仕事の質・職務の等級別解釈」欄には等級ごとに「~する仕事」と定めています。

人を

基準に「~できる能力」を定めた職能資格制度とは違い、責任を負うべき仕事の中身が問われているからです。

個々の仕事を課業レベルで細かく規定するのではなく、担当業務の責任レベルにしたがって、どのような成果が期待されているのかを社員に分かるように規定すれば良いということです。

実際の運用にあたっては、次項で詳解する責任等級説明書の中で等級ごとの定義をより明確にし、就業規則か給与規程に載せるようにします。

責任等級説明書は汎用性を重視して、すべての部門や職種を網羅できるように、包括的に定義してありますから、まずは職位呼称にとらわれずに自社の管理職層から、その担当する責任レベルに照らして等級格付けしてみると良いでしょう。

この責任等級が、賃金決定、昇給、昇格昇進、賞与の配分など、人事制度全般および賃金処遇決定すべての基礎となるのです。

3仕事と賃金とをミスマッチさせない~等級運用の仕組みで社長が目指す組織構成を実現する◎責任等級説明書で各等級を定義付ける責任等級説明書は、社長が自社の組織構成のあるべき姿を、社員が担当する仕事の責任段階によって表したものだと言うことができます。

この説明書は、社員の等級格付けの決定基準であるほか、昇格昇進者を選定する場合の昇格要件の基礎となすものでもあるのです。

責任等級説明書には3つの特徴があります。

それは、①仕事の内容で等級を区切る、②ライン職位と専門職位をはっきり区別する、③各等級の定義を汎用的な表現にするです。

①仕事の内容で等級を区切る等級説明書の第一の特徴は、仕事の内容で等級を区切るということです。

等級定義の内容を具体的に見ていくと、すべての等級の文末で「……する職位」と結んであることに気が付くと思います。

職能資格制度などでは、等級の定義に職能要件書を準備することが多いのですが、この場合は等級区分に応じた能力があることが前提なので、「……することができる」と表記するのが普通です。

ある業務について、できる、できないで判断すると、かなり評価者の主観が介入する恐れがありますが、責任等級制度では、会社が任せる仕事の責任レベルを等級で表すため、社員の等級格付けと等級定義に書かれている職務内容に差異が生じることはありません。

②ライン職位と専門職位をはっきり区別するⅢ等級以上の定義欄には、ライン職位の責任範囲を表す(イ)と、専門職としての責任範囲をしめす(ロ)の2種類の定義をおいています。

(ロ)に示すように、専門性の高いスペシャリストの仕事で、その専門性の高さ故に自己判断や裁量を伴う責任レベルの高い仕事をまかせることもあるでしょう。

こうした社員には、部下についての指導育成義務を負っている管理職とは期待する仕事の中身が異なるため、定義もそれぞれに分けて記載しているのです。

かつて、「そろそろ管理職にはしてやりたいが、実際には部下を持たせられない」といった社長の情を反映し、中小企業にも処遇のためだけの専門管理職が置かれたりしていましたが、ここでいう専門職の定義は、決してそのような社員を置く便宜のためのものではありません。

◎各等級の定義を汎用的な表記にする読者の中には、「等級定義というのなら、もっと具体的に、部門や職種ごとに、詳細な内容を定めた方が良いのではないか」と疑問を持たれる方がいるかもしれません。

実は、この等級定義はすべての社員に当てはまるような、大括りな表現を敢えて採用しているのです。

もちろん、部門の特殊性を反映させた等級定義を作ることもできますし、部門別に等級定義しておくことはあながち悪いことではありません。

しかし、このようなやり方にはデメリットも大きいのです。

いかに部門ごとに具体的な定義を行うといっても、そこに働く社員全員にぴったりあった定義付けをすることはできませんから、部門別・職種別の責任等級説明書をつくっても、ある程度は汎用的な表現を用いざるを得ません。

「もっと具体的に!」といっても、自ずと限界があるわけです。

また、詳細な定義付けに徹しようとすると、仕事の中身が変化すれば、等級定義もその都度改訂をしなければいけなくなります。

また、部門別・職種別の等級説明書をつくることが、部門間あるいは職種間の心理的な壁にならないとも限りません。

事業部制を採用できるくらいの組織規模がある会社であればそれほど心配しなくても良いのでしょうが、中小企業クラスでは、会社から期待される役割責任の微妙な違いを明文化することが、かえって組織間の垣根となって社員のやる気を阻害することもあるので、要注意です。

◎小さな会社では全部門を網羅できる責任等級説明書を用意する中小企業であるからこそ日々の仕事も機動的に変化していきます。

中小企業の強みは、そのフットワークの軽さ、機動力にあると考えられますが、責任等級説明書を具体的にすればするほど等級定義と職務の実態が乖離する可能性が高まります。

責任の大きさ、裁量の度合いが同等であれば、それ以上に部門や職種の特殊性を強調するような定義付けは、避けた方が良いのです。

「営業部門は、会社の売上げを一身に担っているのだから、等級別の収益責任をもっと明確にすべきだ」「開発部門は、中長期の事業戦略の重要な部分を占めるから、その特殊性を考えて定義すべきではないか」などという意見が出されることもあります。

しかし、部門や部署ごとにその特殊性を主張し始めると、組織の垣根が高くなり、社内の円滑なコミュニケーションを邪魔することになりかねません。

このようにみてきますと、組織規模の小さな会社では、全部門を網羅することのできる責任等級説明書を用意すべきだという結論にたどり着きます。

社員にとっても、会社の一員としての自分の職制上の位置付けを確認できる点で分かりやすいものであり、部門を超えた一体感の醸成するためにも望ましいのです。

自社の責任等級は給与決定の基準でもあります。

部門や職種によって内容が違うことが昇格時の運用基準の違いとなって、社員の不公平感につながることがあるので要注意です。

4責任等級制度で等級格付けをする~イチから、現在の役職名称や年功的な序列を見直す◎まったく新しいモノサシでイチから決めなおす社員一人ひとりの等級を決定する作業を等級格付けといいます。

社員の等級格付作業を進めるにあたって、常に念頭に置いておくことは、現在の役職名、資格名称にとらわれずに職務内容そのものに目を向けること。

つまり、実際に任せている仕事の中身(仕事の質=責任の重さ、難易度)で決定しなければいけません。

社員規模が100人くらいの会社でも、部長、副部長、次長、課長、課長代理、係長など、実にさまざまな役職や肩書が付与されています。

このような会社では責任等級制度に移行する際にも、「現在の役職名称や年功的な序列の〝和〟を崩さないようにしよう」という意識がつい働きがちになるものです。

しかし、職責が明確にされていない次長職を検討するときに、「次長と課長ではあきらかにキャリアが違うし、責任の重さは違うはずだ」と、現状維持の主張ばかりが罷り通れば、結局、身分資格を温存したまま、何も変わらないということになってしまいます。

等級格付を見直すときは、「まったく新しい基準、まったく新しいモノサシで一から決めなおす」というスタンスで臨むのが一番です。

◎管理職者の等級格付け――中小企業では2階層あれば十分等級格付作業は、まず管理職と一般職の間に、はっきりと線引きをするところから始めます。

通常、管理職というのは課長以上のポストを指しますが、自社の管理職の定義がどうなっているかをまず確認しましょう。

労働基準法上の「監督・管理の地位にある者」は、人事権や業務命令権などを会社から付与されている者であり、「会社と一体的立場にある者」などとも説明されます。

ところが、実際にはそんな責任や権限を持ち合わせない係長や課長代理が、管理職として広く取り扱われている実態をよく目にします。

いま一度、原点に立ち返って、労働基準法上の管理監督者と、自社の管理職の範囲が一致しているのかどうかを確認するようにしてください。

「管理職にしてしまえば、残業代がかからないから会社にとって好都合だ」という乱暴な理屈から、いわゆる「名ばかり管理職」を乱発している会社もかつては少なからずあったわけですが、これは身勝手な法の拡大解釈でしかなく、社員に過大な負担を強いているという点で、モラール面からも大いに問題となります。

いわゆる中間職位に対しても注意が必要です。

もし中間職位として次長職や課長代理などの職位を置いているなら、できる限り廃止する方向で検討すべきです。

次長や副部長を例にとると、部長が兼務取締役であり、実質的に部長代行として部長と同等の仕事をしている場合はライン部長と同じ等級でもかまいません。

部下を持たない専門管理職として部長の下に位置する場合は課長職と同じ等級にしますが、そのような場合でもライン職位を想起させる次長などの職名は避けるようにして、責任範囲が不明瞭にならないように、また肩書資格が独り歩きしないように注意して対応してください。

中小企業では、一般に、管理職として部長と課長の二階層があれば十分です。

◎一般職社員の等級格付け――役割責任に差がなければ同じ等級に格付ける一般職社員は、管理職の指示命令に従って業務を遂行するのが基であり、6等級構成では主にⅠ等級からⅣ等級に格付けられます。

定型・補助業務が中心のⅠ等級はパートやアルバイトだけに任せ、正社員はⅡ等級以上とする会社もあります。

採用との関係では、高校卒業者はⅠ等級で、短大(専門学校2年卒以上を含む)や大学卒業者はⅡ等級で採用するのが基本ですが、たとえ大学卒業者であっても最初は見習いとしてⅠ等級からスタートするという会社があってもかまいません。

ただし、もし新規学卒者に20万円を超える大卒初任給を支給しているなら、Ⅱ等級からスタートし、すぐに短期間のうちに等級と給料額に見合った仕事ができるように教育・研修をすべきでしょう。

管理監督者には該当しない課長代理や係長、主任などの職位が併存する場合は、要注意です。

社員規模が100人未満の会社では、職位間の責任範囲にほとんど差がみられないことが多いものです。

実際の役割責任に差がないのであれば、同じ等級に格付けるようにしてください。

◎スタッフ職・専門職の考え方――組織の肥大化に気を付ける企業が厳しい競争に打ち勝っていくためのフラットな組織は、一方で柔軟な組織であることが求められます。

実際、商品開発や顧客開発について、特にその道に明るい社員1人が特定の分野を担当するなど、中小企業ではよくあることです。

このように部下を持たずとも、管理職に匹敵するほどに責任が重く、難易度が高い仕事を担う社員も今後はさらに増えるでしょう。

研究開発職や特殊技術の有資格者だけでなく、ノウハウ・知的財産の管理など、高度な専門性が問われる分野は今後も広がりを見せるでしょう。

部下を持たない上級専門職は本来の管理職ではありませんが、担当職務における責任の重さや難易度(=重要度)が管理職と同格と位置付けられるなら、同じ等級に格付けてかまいません。

ただし、担当部長など処遇のための職位や、単に「部下がいないだけ」とか「その仕事しかできない」専門職は廃止し、管理職として格付けてはいけません。

組織の肥大化につながるだけでなく、責任の所在が曖昧な職位を増やすことになり、組織の活力を奪いかねないからです。

1賃金体系の基本–基本給と手当~まず現在の賃金体系を整理することから始める◎複雑になるとかえって社員相互の不公平感を助長する賃金体系は、どのような考え方を基礎とする賃金制度であっても、その基本的な枠組みは、基本給と諸手当に分けて考えることができます。

基本給は、賃金の中でも中核となる賃金項目であり、責任等級制の下では、所定内労働時間に対する基本となる賃金です。

役割責任の重さを反映して等級別に水準決定されます。

これに対し、諸手当は基本給ではカバーできない内容や項目を、補完する目的で設定される補助的なものです。

手当は、必要不可欠なものに限定して、合理的な支給基準を決定することが大切です。

経営者のなかには、社員のために、社員が働きやすいようにと、社員や組合の求めに応じて次々と新しい手当をつくっては支給している会社もありますが、さまざまな手当が乱立している状態は、かえって社員相互の不公平感を助長するので、要注意です。

◎基本給は「シンプルで分かりやすく」が基本賃金表を設計するには、それに先立って賃金体系の見直しが必要です。

賃金制度には、基本給をどのような基準で考えるかで各種手当の設定基準が影響を受けるという面もあります。

一例をあげると、本書で取り上げている責任等級制賃金制度では、担当職務に対する役割責任の重さは基本給で受け止めますので、更に重ねて役付手当を支給することはありません。

つまり、基本給がどのような要素をカバーしているかで、諸手当を設定する範囲も変わってくるのです。

ここでは、基本給と諸手当の関係を、次のように定義しておきましょう。

かつては生活給(年齢給)と勤続給、能力給などを合算して基本給とする会社が多くありました。

このような決め方は、一見、合理的に思われがちでしたが、社員からすれば、支給されるすべての金額が生活給であり、また仕事の対価なのですから、基本給を細分化して積み上げたから「合理的な賃金決定だ」とはなりません。

◎基本給はできる限り一つにまとめる基本給には、生活給としての最低水準を保障するという視点も、実力差に応じて格差を設けるという視点も必要ですが、だからといって生活給と仕事給(職能給)に分けなければいけない理由にはなりません。

たとえ、基本給を一本化しても昇給運用を通じて生活最低

保証分が約束され、そのうえで成績に応じて格差がつくように制度設計すれば良いだけのことなのです。

手当は、必要なものに限定して支給すべきであり、職務の状況によって、大きく4つに分けられます。

(詳細は、第6章を参照)

所定労働時間等を超えて行う労働に対する賃金です。

時間外勤務、休日勤務および深夜勤務をさせた場合には、法定の割増賃金で対応しなければなりません。

また事業場外労働や裁量労働に従事する社員に適用される「みなし労働時間制」の下で支給される超過勤務相当分も所定外労働に対する手当です。

時間外勤務手当の対象とならない管理職に支給される管理職手当も、時間外勤務相当分の補償的意味合いを持つ手当であり、勤務時間に関連する手当に含めて考えます。

②特殊な技能を必要とする職種に支給する手当看護師、薬剤師、建築士など公的認定資格が必要とされる職種や、デザイナー、SEなど特定の専門技術・技能職で、一般的な給与相場より高めの賃金水準を考慮する必要があるときは、特技手当(公的資格手当)で対応します。

③作業環境の特殊性に応じて支給する手当高温な場所、高所、寒冷地の屋外、危険物の取扱いなど、一般に人の嫌がる仕事、肉体的・精神的に大きな負荷のかかる作業には特殊作業手当を支給します。

④生活関連手当家族手当、地域手当、単身赴任手当などがこれにあたります。

支給基準が仕事に直結しないことから、ここでは生活関連手当に分類していますが、生活費の補助というよりは社員と会社を結び付ける人事政策的な性格を持っている手当と捉えるべきものです。

賃金表を設計するためには、まず現在の賃金体系を整理することから始めなければなりません。

不要な手当を整理統合して必要な手当だけを残し、他は本給に組み入れます。

2現在の賃金体系を整理する~各種手当の整備・統合を具体的に進める◎各種手当を整理し、基本給の充実をはかる基本給表をつくる前に必ずやっておかなければならない作業として、各種手当の整理統合があります。

まず、現在支給されているさまざまな手当を、前項目で述べた4つの区分に分けて分類してみましょう。

なかには、どこに振り分けたら良いか、判断の難しい手当があるかもしれませんし、そもそも支給基準が不明だということもあるかもしれません。

そのような場合でも、何のための手当なのかを確認して、分類してみてください。

最初に基本給を誰の目にも分かりやすいものにするために、基本給が勤続給、年齢給、職能給のように幾つかの要素に分割されている場合には、原則として本給に一本化するようにします。

◎各種手当を見直すポイント各種手当をひとつずつチェックしていきましょう。

・責任の重さに対する手当―役付手当や役職手当の取扱いまず、役付手当や役職手当の名称で、責任の重さに対する手当が支給されている場合には、その実質が「役職の責任に対するもの」なのか「実質的な時間外勤務の補償分」なのかを判断します。

時間外勤務の支給対象から外れる管理監督者の場合、職場の時間外勤務の状況に応じて

新たな管理職手当を設定することとし、それを超える部分は基本給に組み入れるようにします。

非管理監督者の場合には、原則として全額を基本給に組み入れます。

課長代理や係長など、時間管理の対象となる指導職層は、この非管理監督者に含めて取り扱います。

・営業手当など―みなし時間外手当や固定残業代の考え方事業場外労働としてみなし労働時間制を採用し、事業場外労働手当として支給される場合はそのままでかまいませんが、営業職であっても時間管理が可能な職場は幾らでもあります。

そのような職場では時間外勤務手当として処理し、固定残業代としての営業手当は廃止する方向で検討してください。

「営業の仕事は大変だし、靴も服も早くに傷むのだから、その〝大変料〟として営業手当を支給しよう」と考える社長もいますが、このような労働時間に関係しない営業手当は基本給に組み入れて廃止するようにします。

・資格手当―公的資格保持者への特技手当通常、職位などに基づく身分資格的な性格を持つものと、資格試験に合格した有資格者に対して支給されるものと2つに大別することができます。

責任等級制度では、基本給が仕事の質(仕事の難しさ、責任の重さ)にしたがって決められます。

前者のような身分資格階層に沿って決められる役付手当のような性格の資格手当であれば、基本給に繰り入れます。

後者のような日々の仕事を行うために有用な公的資格の有資格者に限定して支給される資格手当(特技手当)であれば、仕事に直結する公的資格に限って支給するようにし、自己啓発の推奨を目的としたような、現在の仕事に関係しないものは廃止することをお勧めします。

・地域手当(都市手当)―地域差を基本給に反映させないために地域の異なる事業場間で、それぞれの地場の賃金相場の格差是正分として、適正な額であるかどうかをしっかり確認したうえで、妥当な金額であれば存続させるようにします。

・食事手当など―一律定額支給の手当への対処法諸手当の整理・統合の実例の図表には、食事手当が載っています。

この手当は、市街地から離れた工場と街中の営業所のように、社員食堂のある事業所とない事業所の不均衡を是正するための措置であれば存続してかまいませんが、中小企業で支給される場合は一律3,000円というように定額で支給されていることが多く、支給する必然性がないと思われるケースも多いものです。

食事手当に限らず、全社員一律に支給されている手当がある場合は、要注意です。

過去のベースアップの際に、退職金や賞与支給額への跳ね返りを恐れて、基本給に含めずに手当として一律定額を支給することが数多く行われていました。

しかし、退職金や賞与のバランス調整をする方法があれば良いだけの話であって、基本給に繰り入れるべきものをあえて手当として切り離すのは間違いです。

一律定額が、全社員もしくは大半の社員に支給されるような手当項目があれば、基本給に組み入れるようにしてください。

・家族手当―現状分析の時点では据え置き支給基準を確認・検証したうえで、新しい家族手当に移行するようにすべきものですが、現状分析を行う時点では仕分ける必要はありません。

・住宅手当―住宅費用に応じた手当かどうかを確認住宅費用に応じた支給額の設定であれば、そのまま住宅手当として残します。

ただし、

「賃貸住宅を利用する者のうち、扶養家族のある世帯主20,000円、単身者5,000円」というように、家族構成(扶養家族の有無)に応じて支給されている部分があれば、その金額分は家族手当に繰り入れ、一律に支給されている部分については基本給に繰り入れるというのが基本です。

(詳細は、第6章を参照のこと)・通勤手当―適正な水準なら据え置き個人別に支給額が大きく変わるものでもありますから、適正な水準で支給されていると考えられるときは、賃金制度の改定に伴う諸手当の整理統合の作業からは、外していただいてかまいません。

◎5つの視点からチェックする会社ごとに、さまざまな手当が支給されていると思いますが、現在支給されているそれぞれの手当について、次のような視点から確認してみると良いでしょう。

①個々の社員の状況に応じて支払うべきものか、一律に対応すべき性格のものか②所定内労働の要素として考えるべきものか、所定外労働として捉えるべきものか(時間関連手当)③仕事に直接関係するものか、直接の関係性は低いか④基本給では捉えられない要素を是正できているか、その手当を支給することでかえって他の社員との間に不公平感を生んでいないか⑤その手当の支給根拠や支給条件が、会社として正しく説明できるか5つの視点からすべての手当を精査し、整理統合して、必要最低限の項目に絞り込むようにすると、各種手当の位置付けが明確になるはずです。

◎基本給の本質労働条件の中で、最も重要なものが、給与の支給に関するルールであり、とりわけ、社員にとって将来不安を拭い去るのに重要なのが、これから先の基本給を合理的に決めることのできる賃金表が用意されているかということです。

責任等級制度のもと、合理的な賃金制度を構築するには、基本給も仕事に軸足を置いて考えなければいけません。

仕事の要素を、3つの視点に分解すれば、仕事の「種類」に着目するか、仕事の「質」に着目するか、仕事の「質」に着目するかのいずれかの考え方によることになるのは、既にお話ししたとおりです。

正社員の基本給は「仕事の質」を手がかりとして設計するのが最も合理的だとお話ししました。

仕事の質とは、「仕事の難しさや責任の重さ」のことです。

責任等級制度では、責任レベルにしたがって等級区分が決定されていますから、それぞれの等級ごとに給与レンジを設定することで、合理的に基本給を決定することができることになります。

もちろん、仕事の質に基準をおくといっても、その中身は生活給としてふさわしい水準

を満たしている必要があります。

Ⅰ等級のスタート金額がわが社の最低賃金となりますが、当然に法令の定める最低賃金額以上でなければなりませんし、地域の標準生計費を十分に確保できる水準であることも大切な要件です。

また、定年までという長い期間にわたって能力を発揮してもらう社員に対する賃金処遇の基本ですから、その習熟度合いを正しく反映させ、長期雇用へのインセンティブ効果をあわせ持つ昇給制度を取り入れることを視野に入れて考えなければいけません。

◎「本給・加給」方式で基本給本来の役割を機能させる定期昇給を合理的に行えるということは、制度づくりの最も重要なテーマです。

賃金水準を世間相場に合わせて引き上げることをベースアップといいますが、賃金ベース、すなわち給与の中核をなす基本給について、ベース改訂をしやすいということも、基本給を設計するうえでの大切な要素です。

労働人口がこれまでにない勢いで減少していく時代が続いていくなかにあって、人材の採用や社員の定着を意識した、戦略的なベースアップは企業規模の大小を問わず、人事管理上のテーマであり続けることでしょう。

この基本給体系では、定期昇給の合理的運用に便宜な本給とベースアップを反映するための加給に分けて構成してありますので、毎年行われる昇給計算をはじめとする実務処理も合理的に行うことができます。

賃金表をその都度書き換えるという手間が省けるという点も運用しやすいものです。

3本給月額表をつくる~責任等級制賃金制度の心臓部に着手する◎等差号俸制の賃金表は仕組みが分かりやすいいよいよ責任等級制賃金制度の基本をなす「本給月額表」と呼ばれる等級別賃金表の設計に移りましょう。

ここで紹介するのは、賃金管理研究所が代表的なモデルとして作成している6等級構成の本給月額表(大都市中位水準)で、東京近郊における中堅・中小企業の賃金水準を想定したものです。

(次ページ参照)

この本給月額表をよく見ていただくと、責任等級ごとにつくられた6つの賃金表を1枚のシートにまとめて、ひとつの本給月額表を形作っているのが分かります。

責任等級区分ごとに、スタートの金額である初号値が決められ、これに各等級の1号あたりの単価である号差金額を設定し、順次積み上げていけば等級別の賃金表が出来上がります。

賃金表としては、非常に簡明でシンプルな構造であることがお分かりいただけるでしょう。

この賃金表は号差金額が等級ごとに一定で変わらないため等差号俸制とも呼ばれます。

等差号俸制の賃金表は、仕組みが分かりやすいのが最大のメリットです。

もちろん等差号俸制といっても一律に昇給させるのではなく、昇給評語(SABCD)によって昇給号数が変化することにより、ふさわしい金額の昇給額が設定されるように考慮されています。

基本となる昇給号数は、S=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号です。

この昇給号数も年齢と習熟の関係で調整できるように設計します(詳しくは次章)。

本給月額表上での昇給は、その等級のなかで昇給評語に基づいて決まった号数分を引き上げるだけです。

また、上位等級に昇格させる場合も、定期昇給後の本給額を上位等級の号数に読み替えるだけですので、運用を誤る心配なく、長い期間にわたって使い続けることができるのです。

◎等級相互の号差金額における関係性を理解するこの等級別賃金表は、上位等級に上がるほど号差金額が大きくなるように設計されています。

責任がより重くなり、よい成績をあげた社員ほど、より大きな額の昇給金額が実現できるようになっています。

Ⅰ等級の号差金額は1,280円ですから、B=4号昇給なら5,120円の昇給となります。

これがⅣ等級職の場合には、号差金額が2,500円なのでB=4号昇給なら10,000円の昇給額になるのです。

つまり、昇格して上位等級でも実力を発揮することができれば、これまでよりもより高い昇給金額が実現できるようになっています。

実は、等級間の号差金額の関係は、図示したように1・25倍に設定します。

上位等級との格差がなぜ1・25倍なのかというと、等級区分が1ランク違う場合に、その処遇格差として十分に納得できる格差が1・25倍だからなのです。

Ⅰ×=(Ⅱ等級号差金額)

Ⅱ1,600円1.25×2,000円(Ⅲ等級号差金額)(Ⅲ等級以上も同様)以下、同様に最上位等級まで決めていきます。

ただし、端数が出た場合は、10円単位で切り上げます。

1・25倍という数字は、等級間の昇給バランスを考えていくうえでとても重要な数字ですが、その詳細は第5章「定期昇給を正しく理解し、やる気を引き出す」で改めて取りあげます。

4自社の「オールAモデル」をイメージする~等級相互の関係性を明確にする◎それぞれの等級の初号到達年齢を決める本給月額表は、各等級の役割責任に応じた初号値の水準を意識して設計しますが、上位等級に昇格させるタイミングも予め十分に考慮しておかなくてはいけません。

このとき、「常にトップクラスの優秀な成績を取り続ける社員がいた場合に、それぞれの等級に何歳で昇格させるか」という、昇格昇進の具体的な運用を想定し、それが実現できるよう設計することが基本となります。

つまり、等級ごとの昇給の積み上げと等級相互の賃金水準のバランスがうまく取れるようにするために、「オールAモデル社員の昇給・昇格の足取り」を設定して、それぞれの等級の初号到達年齢を決めるのです。

オールAモデル社員とは、毎年の定期昇給でA評価を受け続ける優秀な人材のことです。

その優秀な人材が、下位等級から上位等級に昇格する場合の標準的な年齢として設定するのが、各等級の初号到達年齢というわけです。

前ページの図表を確認しながら、オールAモデル社員の等級ごとの初号到達年齢と標準在等級年数の関係を確認してみましょう。

ここではⅠ等級のスタートを、中学卒15歳としています。

実際には多くはないかもしれませんが、義務教育を修了して就職する人の初任給を標準的な基本給表モデルⅠ等級1号として話を進めます。

オールAモデルによる在等級年数とは、「Aを取り続ける人材が何年その等級の仕事を経験すれば、一段階責任の重

い上位等級の仕事に移ってもらうことができるか」の基準となる年数です。

そして初号到達年齢は、オールAモデル社員が最短でその上位等級の仕事に就くときの年齢を示しています。

◎オールAモデル社員の昇給の足取りをたどる中学卒15歳で入社した社員の、最初の昇給は一律の4号昇給とします。

人事政策上の配慮から1回目の昇給では能力期待度に差を設けないこととするためです。

翌年からはABCで評価します。

昇給評語Aで5号昇給を続けると、20歳ではⅠ等級25号に到達します。

すべて評語Aで5年間もの経験を積めば、Ⅰ等級の定型的補助的な仕事からⅡ等級の一定範囲では自己判断を伴うレベルの仕事を任せても良いでしょう。

そこで、Ⅰ等級25号に昇給したその本給額181,920円をもってⅡ等級1号に昇格させることにします。

(このとき、端数は100円単位に切り上げています)Ⅱ等級でも、連続して評語Aなら25歳ではⅡ等級26号に達します。

同じく5年間にわたる習熟・育成期間を経て、Ⅲ等級の仕事を任せようと判断すれば、同様にⅡ等級26号の本給額222,000円をもってⅢ等級1号に昇格させることができます。

Ⅲ等級からⅣ等級への昇格も、オールAを取り続けることのできる人材なら、最低5年の経験を積んで、係長として部下を束ねることができるようになると判断できれば、オールAモデル社員が30歳で到達する26号272,000円で、Ⅳ等級初号値に昇格させて良いでしょう。

Ⅴ等級は、6等級構成の会社の課長職に相当し、高度な管理業務が要求される等級です。

オールAモデル社員といえども、課長昇格に際してはさらに1年長い6年間の経験を積ませるようにします。

30歳でⅣ等級に昇格したオールAモデル社員がその後もAを取り続ければ、6年後には36歳で31号に達しますから、その時点で「生え抜きの課長として、Ⅴ等級の仕事を任せよう」となれば、31号347,000円でⅤ等級1号に昇格させることになります。

Ⅵ等級部長職への昇格も同様に、オールA社員に6年間の経験を積ませた後、部長への抜擢が可能となるように、Ⅴ等級31号440,000円をもって、最上位等級であるⅥ等級に昇格できるように設計します。

オールAモデルでは、満42歳で生え抜きの部長が任命できるようになるのです。

いま一度Ⅰ等級からⅣ等級までAモデルの人材が昇格する本給号数を確認しておきましょう。

Ⅰ25ⅡⅣ31ⅤⅡ号26→ⅢⅤ号31→ⅥⅢ26等級初号値◎会社の特性等によって昇格のタイミングを変える

本書が取り上げる本給月額表では、オールAモデル社員の在等級年数はⅠ等級から順に5年、5年、5年、6年、6年となっていますので、本給月額表の左上に(55566)と表記しています。

実際には、その会社の特性に応じ、また人事政策に従って、何歳でどの等級に昇格させるかのタイミングを変更することもできます。

小売業・飲食サービス業のように、比較的若い年齢で店長に昇格できるように設計することが期待される事業もあれば、時間をかけて選びに選び抜いた社員を管理職ポストに登用したいというスタンスの製造業など、業種や自社の状況に応じて在等級年数を変更していただいてもかまいません。

ただ、本書で取り上げる(55566)タイプの本給月額表は、幅広い業種・業態で実際に導入されている汎用性の高いモデルですので、最初は(55566)タイプを基準に検討していただくのが良いでしょう。

実務現場で考えるコト②定期昇給制度の意義を正しく理解していますかデフレからの脱却に長い時間がかかり、急速な高齢化が進むなかでは個人消費もなかなか伸びない。

こうした環境が続くかぎり、人件費の増大につながる定期昇給について慎重になる経営者が多くなるのは当然のこと。

しかし、総額人件費をどうコントロールするかという問題と、一般に「定期昇給制度」と呼ばれる給与制度上の昇給運用ルールをどう設計するかという問題は、密接に関連するテーマではあるものの、基本的に別問題。

定期昇給は、定年まで働く正社員が、長期間にわたってモチベーションを維持・向上させるための仕掛けでもあることを忘れてはいけない。

会社として、社員の給与を将来にわたってどのように増額させていくのか?これは、雇用の安定確保の面からもとても重要なテーマだ。

定期昇給を実施している会社の80%は、評価や査定によって差のつく定期昇給を実施している。

しかし、いまだにマスコミや専門家の一部には「定期昇給=年功昇給(年齢や勤続が1つ上がることに伴って給与が上がる)」だと決めつけて、定昇廃止を訴える人がいるのも事実。

このような無責任な論調に乗っかり「定期昇給はいまどき時代遅れだ」などと、昇給ルールを廃止したりすれば、将来に不安を感じた優秀で見込みのある社員から辞めていくということにもなりかねない。

1社員のモチベーションを維持向上させる~昇給ルールが開示され、自分の将来が見えれば納得する◎定期昇給の意義を社員に理解してもらう「定期昇給」と聞いて、皆さんは、どんなイメージをお持ちになるでしょうか。

昇給をその機能から分類すると①自動昇給(=年齢や勤続年数など属人要素を基準として行う昇給)②習熟昇給(=仕事における1年間の習熟度を反映させた査定昇給)③昇格昇給(=等級や役職が上がることに伴う基本給の上昇分)に分けることができます。

マスコミのなかには、定期昇給を「年齢や勤続年数に応じて毎年自動的に昇給させる」という年功賃金の代名詞として使っている例もありますので注意が必要です。

本書では、「毎年、会社が定めた時期に(=定期)一定のルールに則って行う昇給」を定期昇給と呼ぶことに統一しています。

そもそも、なぜ大多数の企業が定期昇給を行っているのか、その意義を検証してみましょう。

まず第一に考えられるのが、生活水準を維持し向上させるためです。

賃金水準は若年時に低く、特に20代から30代前半は、その生産性に比べて賃金水準が低めであることもあって、生活向上につながる定期昇給は大きな意義を持っています。

次に、仕事の習熟や成果に応じた実力差を反映させることによって、公平な賃金処遇を実現する役割があげられます。

第三に、社員の向上心を刺激し、仕事に対するやる気を引き出す働きがあることです。

正社員という長期的な雇用環境の下では、就労へのインセンティブを長く持続させる効果が期待できるのです。

定期昇給制度の下での緩やかな賃金上昇は、経営者にとってもメリットのあるやり方です。

優秀な若手社員が、世間相場から外れることのない比較的低賃金でも意欲的に働けるのは、昇給ルールによって将来が見通せるからに他なりません。

今後の賃金上昇が見込めるからこそ、納得して就労へのインセンティブを保ち続けられるのです。

もし、定期昇給ルールがなく、将来の昇給が見込めなければ、どんなに若くてもその生産性に見合った、十分な金額を支払わなければ、定着することはないでしょう。

それが30万円、40万円といった世間水準を大きく超える額であっても、就労へのインセンティブを長続きさせることは非常に困難であるといわざるを得ません。

◎「本当に社員を大切に考える」とはどういうことか本書で紹介する責任等級制の下での定期昇給制度とは、「これからの1年間における社員の能力に対する発揮期待度に応じて行うもの」です。

その本質は、等級ごとに行う習熟昇給と位置付けられますが、当然に昇給評語(SABCD)によって昇給額差が生じることになります。

経営者側から見ると、定期昇給制度は人件費を増やす仕組みの代表格であり、常に慎重に対応しなければならないテーマだと思われています。

ただ、「将来の昇給を社員に対して約束してしまうようなことはできない」「業績がもし悪くなったときには昇給を抑えなければならない」との想いが強く、給与規程でも定期昇給の運用について、具体的なことを何も定めていない会社があまりにも多いように思います。

「昇給は、毎年4月期に、会社の業績および社員の勤務成績に応じて行う」という規定だけがあり、具体的なルールは何も書かれていないのです。

社員に対しては、会社が行き当たりばったりで決めているような印象しか与えないのではないでしょうか。

これでは、実質的には昇給制度がないのと同じですから、社員の抱く将来不安を払拭することなどできません。

私ども、賃金人事コンサルタントの眼から見て、「この会社は本当に社員を大切に考えているな」と感じる企業は、例外なく、どのように賃金処遇が決定されるかを、社員全体にオープンにしています。

「自分の給与がどのようにして決まっているのか、理解のできる説明がほしい」と社員の誰もが心の底で思っています。

この要請に応えるのが合理的な賃金制度であり、その実現なくして社員のやる気を存分に引き出せないのです。

◎仕事力の差を基本給にどう反映させるべきか社員の仕事力を評価し、それを昇給額に反映させようと考えたとき、どの程度の格差なら許されるでしょうか。

基本となるのは、「賃金制度の最大の目的は、社員のやる気の総和を最大化する」というテーマに沿っているかどうかです。

ごく一部の優秀な社員だけを高く評価して、高額な賞与を支給し、昇給時にも手厚く報いるとすれば、その評価された社員自身は大いに喜び、モチベーションもアップするでしょう。

しかし、そこから外れた大多数の社員が「大半の社員はいつもBなのだから、今後もAなど取れるわけがない」とあきらめてしまうようでは、組織に活力など生まれようはずがありません。

また、評語ランクがAとB、BとCのように1ランク違うだけで決定的な差がついてしまうとすれば、これもやる気を阻害する要因となります。

実例をあげてお話ししましょう。

社員のモチベーションがなかなか上がらないと相談にこられた、中部地方のある建設会社(正社員数60名)では、7段階評価(S、A、Bプラス、B、Bマイナス、C、D)の昇給評語のうちBプラスが30%、Bが60%と、両方で全体の9割を占めていました。

残り10%のうちAが5%、Bマイナス以下が5%です。

係長クラスの昇給額はBで4,000円、Bプラスで6,000円、Aだと8,000円の昇給でしたので、過半数を占めるB社員と20人に

一人の割合で出現するA社員の昇給額には2倍の開きがありました。

このような状況下では、「より良い評価を得られるように社員が前向きに努力し、いい意味での競争意識を根付かせたい」という経営者の思惑に反して、社員は「一部の社員を除いて、基本給に大した差はつかないのだから、高い評価を目指すより、残業手当が多くなるようにうまくやるのが得策だ」と考えるようになり、生産性の向上に背を向ける結果となっていたのです。

定期昇給ルールひとつをとっても、そのやり方次第で、社員のやる気を引き出せることもあれば、反対にやる気を失わせてしまうこともあるという良い例です。

◎1年ではわずかな差でも実力差が適正に反映するようにする責任等級制賃金制度では、前章で見てきたとおり、以下のように昇給ルールの基本が決まっています。

飛び抜けて成績が良いとされるS(5%程度が目安)と、全体の足を引っ張ってしまうレベルのD(同じく5%程度)を取る社員は、常に出現するとは限りませんから、ここではA、

B、Cの3段階評価を基本に昇給の運用を考えます。

次ページの図表で、1年後の昇給額の差についてBを中心にみると、Aでプラス1号、Cでもマイナス1号ですし、AとCでも差は2号分に留まります。

ただし、評語Aを取り続けた社員と、残念ながら評語Cを取り続けた社員とでは、3年後にはその差が6号分に開きます。

5年、10年と年月を重ねれば、その間の発揮能力や貢献に応じた相応の格差となって基本給の額に反映されるようになります。

更に、常にAを取り続けられる社員は、昇格昇進のタイミングも早いでしょうから、昇格後も良い成績を取れば、昇給額も大きくなります。

定期昇給では、1年で大きな差がつかないようにするのが鉄則です。

ひとたび出遅れでもしたら、翌年に満塁ホームランでも打たない限り、逆転はおろか追いつくことさえできないというようでは、多くの社員は意気消沈してしまい、やる気を奮い立たせて、「よし、次こそは頑張ろう」と思えなくなるかもしれません。

そのような事態は会社にとっても大きな損失です。

1年ではわずかな差であっても、何年にもわたる昇給運用を通じて、実力差が適正に反映され、昇格運用と相まって職責と実績にふさわしい賃金処遇が実現できる制度であることが、正社員の意欲向上に有効な仕組みであることは、間違いありません。

改めて強調しておきたいと思います。

実務現場で考えるコト③社員のやる気を引き出す給与制度私たち賃金コンサルタントは、経営者からの依頼で制度づくりのお手伝いをするのが一般的な進め方だが、会社の製品・サービスという付加価値を実際に生み出しているのは、その会社の社員であるから、いかに社員のやる気を引き出すかがカギとなる。

その社員たちのモチベーションが上がり、強い組織をつくり、さらに質の高い商品やサービスを提供し続けることで、企業の成長と発展を確かなものにする。

そのために、給与制度を整備し、評価制度を納得性のあるものに整え、その他の人事諸制度も合理的なものに改めていく努力を続けていく必要がある。

いろいろな会社の社長とお話ししているなかで、時に私が社員の代表者として、その想いを代弁しているような気になることがある。

例えば、中途採用で入社した方のうち、賃金が低いままの社員の給与を平均レベルまで引き上げるように提案しているときなどがそう。

目先の総額人件費の増加につながる話かもしれないが、社員が将来に不安を感じることなく、意欲的に働ける環境を整えることは、会社にとってもメリットが大きい。

コストをかけて採用し、今日まで育ててきた社員が、賃金が低いことで将来の生活に不安を感じて辞めていくとすれば、会社にとってもその社員にとっても不幸なこと。

人件費低減以上にモチベーションが下がり、生産性が下がってしまっては元も子もない。

2定期昇給は人件費アップにつながらない~年功賃金とは全く別物であると考える◎総額人件費で考える中小企業のオーナー経営者からは、「定期昇給制度などを繰り返していたら人件費が膨らむ一方で大変なことになる」という声が聞かれます。

つまり「毎年、賃上げや定期昇給などしていたら、人件費がどんどん膨れ上がってしまって、いずれ人件費倒産してしまうんじゃないか」といった危惧を抱いてのことでしょう。

ここには大きな誤解があります。

確かに、毎年4月支給分の月例給与で定期昇給を実施する会社の場合、3月の給与と4月の給与を比較すれば、確実に人件費はアップします。

しかし社員のなかには、定年や自己都合で退職する者もいれば、新たに採用する新規学卒者や中途採用社員もいるのが普通です。

こうした期中の出入りも含めて、総額人件費を考えるべきであることはいうまでもありません。

次ページの図表をご覧ください。

このグラフは横軸が年齢を、縦軸が毎月の給与額を示しています。

ここでは専門学校卒の満20歳の新入社員から、満59歳の定年直前の社員まで、各年齢に一人ずつ在籍している会社があると仮定して話を進めます。

今年、入社した20歳の新入社員の給与分(グラフ上の網がけ部分)は、そっくり人件費の増額分となりますので、すべて網がけとなっています。

昨年の新入社員は21歳となり、定期昇給によって上部の濃い網がけ部分がアップしました。

同様に22歳以降の社員もそれぞれ定期昇給によって、給与額が増額改定され、上部の濃い網がけの分だけ給与がアップしています。

そして、いちばん右端にいた59歳の社員は60歳定年退職となりますので、矢印が示すように定期昇給の対象から外れています。

◎定期昇給の増額賃金額と退職者の賃金のバランスを取るこのように見てくると、満20歳の新入社員の賃金に、それぞれの年齢層の社員の昇給額の合計額を加えたもの(全員の網がけ部分の総面積)と、定年退職した社員の網がけした給与額

の面積が同じであることが分かります。

つまり、定期昇給によって増額となる賃金額と退職者の賃金のバランスが保たれていれば、定期昇給を続けても、人件費が一方的に増え続けるということにはならないということです。

確かに、定年退職者がほとんどいなければ、総額人件費は増える一方だと感じるかもしれません。

反対に、定年退職者が続けて出るようであれば、総額人件費も減り続けることがあるのです。

実際には、各年齢に一人ずつ分布しているような会社はないでしょうが、定期昇給と総額人件費の関係を理解していただくことはできたのではないでしょうか。

総額人件費のコントロールという観点からは、人件費の増加分と減少分の中・長期的なバランスを見極めることが大切です。

人件費が増える要因としては、新規採用による増加分のほか、定期昇給およびベースアップによる増加があります。

一方、人件費が減少する主な要因は、社員の退職です。

単年度では、人件費の増減のバラつきが大きく出やすいものですが、中長期の要員計画に沿って総額人件費が適正か否かを判断してください。

※社員の退職、、、65、、60◎手を打ち尽くしてもまだ不安ならビジネスモデル自体を検証する「わが社は、平均年齢も若くて、しばらくは定年退職者も出ない予定だから、やはり定昇などを続けたら人件費は膨らむばかりだ」という方もいるかもしれません。

しかしながら、毎年社員も1歳ずつ年齢を重ねていくなかで、世間並みの昇給を続けることができなければ、新たな社員の採用はおろか、現在、在籍している社員の定着すら期待できません。

そして、世間並み以下の給与水準では、たとえ採用できたとしても、それなりの人材しか集められないことになるでしょう。

定期昇給を継続して行うこと自体が総額人件費アップの主因というわけではありません。

ただし、評価に基づいた実力査定昇給ではなく、年功的な昇給を続けてきたことによって社員の生産性以上に給与額が高くなっているとしたら、「人件費倒産」という最悪の事態も皆無ではないと思います。

もし、社員の給与が世間並み以下の水準であるにもかかわらず、労働分配率が常に高く、毎年の定期昇給に不安を感じるようであれば、それは賃金管理上の問題ではなく、現在のビジネスモデル自体に問題があるのかもしれません。

実務現場で考えるコト④わが社の賃上げ率は適正な水準か?毎年、春季労使交渉のシーズンになると「わが社は食品製造業で80人規模の会社ですが、どのくらいの賃上げ率が妥当でしょうか」という質問をいただく。

こうした質問をする社長や総務部長には、きっと「業種業態、会社の規模から妥当な世間相場が判断できるに違いない」という想いで、冒頭のような質問をされるのだろう。

ただ、適正な賃上げ率は、会社の条件によって大きく変わる。

そして、賃上げ率に最も大きく影響を与える条件は、実は社員の平均年齢である。

平均年齢が低く、若年社員が多い会社は、当然に平均賃金が低くなる。

こうした会社が世間並みの昇給やベースアップを行えば、賃上げ率は自ずと高く出る。

反対に、平均年齢が40歳以上の会社では、既に賃金水準が相応の高さに到達していることもあり、賃上げ率は低めになるのが普通。

目安となる賃上げ率をあげると平均年齢24歳=3.1%、28歳=2.9%、31歳=2.5%、35歳=2.0%、38歳=1.8%、40歳=1.6%といった具合。

製造業でⅠ・Ⅱ等級社員が多い会社なら、賃上げ率はこれよりさらに低くなりやすい。

サービス業などⅢ・Ⅳ等級までは順当に昇格する会社では賃上げ率はやや高めに出る傾向に。

社長や人事担当者は、世間相場に惑わされることなく、平均年齢と等級別配置の特性を見極めて、わが社固有の数字としての適正な賃上げ率をつかむようにしたい。

3昇給評語(SABCD)を決める~仕事の成績と能力との結びつきを第一に考える◎結果から原因を推し量る定期昇給とは、いわば向こう1年間の月例賃金を決める作業ですから、これからの1年間に発揮されるであろう能力への期待をこめて、経営者から社員に送る重要なメッセージだといっても良いでしょう。

発揮能力への期待度という点からいえば、責任の重さが大きい人ほど、また、より質の高い仕事をした人ほどその期待値も大きくなるはずです。

その期待値の差を明確に昇給額に反映させることが、ここでのポイントです。

能力評価といっても、能力を直接評価することはできませんから、「仕事の成績が良かった社員には、職務を遂行するうえでの能力が備わっているものと見なす」というルールを確立しておけばよいのです。

「能力」と「仕事の成績」はいわば「原因」と「結果」の関係。

結果から原因を推し量るということです。

◎判定手順を覚えるこれから1年間の発揮能力というのであれば、過去1年間の成績評価の結果(第7章)から推し量るのが最も合理的な方法です。

夏と冬の賞与時に合わせて6カ月ごとの仕事力に対する適正な評価を行っていれば、過去2回、つまり1年分の評価結果を手掛かりとして、昇給評語を判定することが、最も合理的であり納得性も備えている方法だといえるでしょう。

昇給評語の判定は、次のような手順に従って行われます。

手順1夏冬の成績評語(賞与時の評語)がともにA、ともにBというように同じ場合は、その2回の成績評語をそのまま昇給評語に置き換えれば良い手順2夏冬の成績評語が異なる場合は、最近の成績傾向や成績が上下した原因、評

価者の所見などを参考に、今後1年間の期待値を判定する半年ごとの賞与に対する成績評価を昇給評価に連動させることによって、昇給時の手続きは簡単にして明快なものとなります。

ただし、このような業務処理をするためには、第7章で取り上げる成績評価を確立したうえで、ルールに基づく納得性の高い評価が行われていることが前提となります。

◎心配であれば補正する手続きをつくっておく現場の管理職の方から、「精いっぱい努力したにもかかわらず、成績に結びつかなかった社員に対して、直ちに能力が劣っていると決めつけて良いものか」「数字さえ上がっていれば、昇給もそれに沿って決めて良いのか」といった疑問や不満が寄せられることがあります。

「本来やればできる能力を持っているはずだから、賞与時の評価はともかく、昇給時には励みの意味もこめて、改めて能力評価をすべきではないか」という意見が出ることもあります。

しかし、このような意見は裏を返せば「努力していい成績をあげても、たまたま運が良かったからだ」となりかねず、結局仕事の成績と能力の結びつきを否定してしまうことにもなるのです。

もし、優れた能力を備えていても、必ずしも成績に結びつかない場合があり、将来の昇格昇進等への影響が心配だというのであれば、それを補正する手続きがあれば良いだけの話です。

4昇給額において適正に差をつける~定期昇給においても安易な昇格運用にブレーキを掛ける◎昇級評語・号数と昇給金額の関係を押さえる昇給評語を決めるポイントは過去2回の成績評語をもとに「昇給評価」を行い、等級別に各人別の能力期待度を昇給評語に置き換えて、昇給額に反映させることです。

評語に応じてS=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号昇給をさせますが、ルールに基づいて正しく定期昇給を続けていけば、いつも最優秀の評価を受けるようなSモデル社員には対外的にも見栄えのする金額の基本給を実現できますし、評語Dの社員にも最低限の生活給水準は維持しつつ、仕事への励みを与える最低限の昇給を実施します。

これを具体的な昇給額で確認してみましょう。

1年あたりの昇給金額の差は、同じ等級の社員同士であれば限定的なものであり、特にⅠ・Ⅱ等級の若手社員の場合は、号差金額自体がそれほど大きくはないこともあって、極端な差がつくことはありません。

次ページをご覧ください。

大卒新規学卒者として22歳で入社した社員の場合、通常はⅡ等級からスタートしますから、1年目の昇給額は一律6,400円。

次年度の昇給時から評語がAなら8,000円、Cであれば4,800円と昇給評価に応じた格差がつくようになります。

このとき、AとCの昇給金額の差は3,200円です。

◎実力差を反映する査定昇給を続ければ格差はどんどん開くしかし、基本給自体の差は、年数を経過するにつれ、より大きなものとなっていくこと

600円×3号)ちなみに、平均的な成績であるオールB社員は、30歳の時点でⅡ等級のままなら6,400円(1,600円×4号)、Ⅲ等級に昇格後なら昇給額は8,000円(2,000円×4号)となります。

能力期待度に応じた昇給額は、等級が高く責任が重くなるほど、また、より良い仕事ぶりが期待できる社員ほど大きくなるのがお分かりいただけるでしょう。

このように、実力差を反映する査定昇給を続けていくことによって、優秀な成績を上げ続ける社員は上位等級へ昇格し、さらに大きな昇給を得るようになります。

上位等級まで昇格し続ける社員と、平均的かもしくはそれ以下の成績で仕事の責任レベルが変わらない社員との間で、その昇給金額の格差は広がりますし、本給の到達号数およびその基本給額もより大きく開いていくことになるのです。

等級別の号差金額は、表中に説明のある通り、上位等級の号差金額は下位等級の1・25倍になっています。

実は、これには昇格と昇給運用が合理的かつ円滑に行えるようにするための仕掛けなのです。

通常、昇格者を選考するときは、その等級でA評価を受ける成績優秀者から選びます。

今ここでは、Ⅱ等級でA評価を受けた優秀な社員をⅢ等級に昇格させるとしましょう。

昇格したⅢ等級では、先に昇格している先輩社員たちの中に入って、相対評価されるようになりますから、Ⅲ等級に昇格したばかりのときは、次年度の昇給評語はB(=4号昇給)になる可能性が高いと言えるでしょう。

この時、昇給金額はどのように変化するでしょうか。

Ⅱ(5号昇給)×=Ⅲ(4号昇給)×=実は、下位等級でA評価(=5号昇給)であった者が、上位等級でB評価(=4号昇給)になったとしても、昇給金額は変わりません。

それは、上位等級の号差金額はすべての等級で、下位等級の1・25倍に設定されているからです。

つまり、昇格後の等級では昇給評語が1ランク下がっても、昇給金額は変わらないのです。

これに対し、Ⅱ等級ではB評価を維持するのがやっとという社員に対して、「同年代の社員はみんな昇格してしまったから、そろそろ昇格させよう」と、温情で昇格させた場合はどうでしょうか。

Ⅱ等級では何とか評語Bをとれましたが、Ⅲ等級では、期待される職

務遂行レベルには遠く、評語Cになったとします。

この時の昇給額は、次のとおり。

Ⅱ(4号昇給)×=Ⅲ(3号昇給)×=昇格させたことで、かえって次年度の昇給金額が減少してしまいました。

ここで紹介した定期昇給は昇格運用に関連付けられていて、昇格後の等級でB評価以上を取れるだけの実力がないと昇給額が減少するという、昇格昇進者に対しては厳しい運用ルールが内包されています。

昇格昇進の運用が甘い賃金人事制度では、仕事と給与のミスマッチが起こりやすくなりますので、この本給月額表には定期昇給においても安易な昇格運用にブレーキを掛ける仕組みが取り入れられているのです。

5賃上げ率を正しくコントロールする~昇給はモチベーションに直接、影響する◎「調整年齢制度」を用意して、昇給の段階的な抑制を行う定期昇給制度は、長い期間にわたって労働者のモラールを維持・向上させるという効果が期待できるものですが、人間の能力はある一定の年齢までは順調に伸びるものの、次第に鈍化し、場合によってはピークを迎え、その後は下降する面があります。

このような能力の変化に合わせて、昇給ルールも機動的に対応する必要がでてきます。

また、生活給としての最低保証上昇分と励みのための積み上げ分が当初は含まれていますが、このままでは過度の年功昇給となるため、昇給評語Dでも2号昇給させてきた分を、ある所定の年齢に達したら段階的に外すような仕組みが必要となります。

このような問題を解決するために、昇給を調整する年齢を等級別に設定した「調整年齢制度」を用意して、昇給の段階的な抑制を行うようにします。

発揮能力に見られる年齢的な限界は、仕事の質が高いほど能力のピークも遅くなるため、調整年齢のための昇給ゾーンは等級別に設定します。

一般的に、調整のためのゾーンは3段階に分けて段階的に調整していくのが望ましいので、調整前の昇給ゾーン1(調整年齢前)を含めて4つの昇給ゾーンを用意すると良いでしょう。

昇給ゾーン1を基準にすれば、昇給ゾーン2(第一次調整年齢)は1号減昇給ゾーン3(第二次調整年齢)は2号減昇給ゾーン4(第三次調整年齢)は3号減の昇給となります。

◎たとえ1号分でも昇給の余地を残しておく昇給ゾーンによる昇給抑制の考え方は、単に「年齢の上昇とともに昇給の幅を抑制する」ということではありません。

Ⅲ等級以下の社員については加齢にともなう一般的な生活給水準を確保し、さらに昇格したてで、習熟のスピードが速い段階では、それに見合った大きさの昇給額としようという発想がそこにはあるのです。

つまり、S=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号にしているのは、習熟の伸びの大きさを考慮して昇給額を幾分高めに設定してあります。

それを、習熟の伸びが緩やかになるにしたがって、賃金の上昇も緩やかにしていくのです。

このような仕組みを用意することで、等差号俸制のいたってシンプルな本給月額表も、

等級別に個々の社員の実力差を反映した定期昇給が実現し、合理的な基本給の運用ができるようになるのです。

なお、昇給ゾーン4(第三次調整年齢)でも標準的なB評語を取る社員には1号昇給分が確保されています。

会社によっては一定の年齢で一律に昇給をストップするルールを設けることもありますが、社員にとって昇給が止まるということは「今後は評価しない」「来期の仕事ぶりに期待していない」と言っているのと同じです。

たとえ1号分でも昇給の余地を残しておくことは、モチベーション最大化のための効果的な施策なのです。

6昇給ルールを「見える化」する~合理的な賃金制度があれば安定した運用に役立つ◎仕事に自信を持っている優秀社員ほど自分の処遇が気になる社員にとって、今のような成績を取りながら10年後、20年後、自分の処遇はどうなっているかということは非常に関心の高いテーマです。

特に自分の仕事に自信を持っている優秀社員ほど、このまま良い評価を受け続けることができたら、いつ、どのような待遇を受け、また責任ある職位につける可能性があるのか、大いに関心を抱くことでしょう。

社員の力を十分に発揮させようとすれば、将来が予想できるということもやる気を引き出すための重要な要素です。

将来の展望を分かりやすく示すためには、標準昇給図表というグラフを用いることをお勧めします。

というのも、基本給がどのように増えていくかについて、将来の展望が開けるほか、社員相互の賃金バランスの確認や中途採用者の賃金決定を行う場合にも威力を発揮するからです。

◎標準昇給図表を実際に活用する標準昇給図表は、等級ごとに作成します。

タテ軸に号数を、ヨコ軸に年齢をとって、SABCDそれぞれの昇給評語を取り続けたら、基本給がどのような歩みをたどるかをモデル昇給線として示しています。

Ⅰ等級・標準昇給図表は中卒の初任給を基点としてスタートし、Ⅰ等級からⅡ等級、Ⅱ等級からⅢ等級へと上位等級へと展開されていくものですが、自社の採用が20歳短大・専門学校卒が中心だという場合にはモデル昇給線は、20歳の位置から展開していけばより使いやすいものとなるでしょう。

このようにグラフ上にモデル昇給の軌跡を展開していけば、「このままBを取り続けたら5年後には○号まで昇給できるはずだ」「今のように頑張ってAを取り続けることができたら30歳には○号まで到達できるだろう」というように見通しを立てやすくなり、そのことが社員にとって励みにもなるのです。

標準昇給図表には、最上位等級以外の各等級に昇格基準線(破線で示されたもの)が設定されています。

これは昇格に必要な本給の最低基準を、年齢と本給号数の関係から表したものです。

つまり、この昇格基準線に届かなければ昇格候補者になれません。

Ⅰ等級の標準昇給図表を見ていただくと、縦軸の25号の位置から昇格基準線が伸びているのが分かります。

25号とは、中学卒で入社し、初年度は4号、2年目以降オールAの5号昇給を続けた社員が、20歳の時点でⅡ等級に昇格できるようになるときの号数であり、

このラインがⅡ等級初号値の金額と等しくなっています。

つまり、この号数より上でないとⅡ等級の賃金表に到達しないということです。

25号から横軸に平行に伸ばした線が20歳でオールAの昇給線とぶつかったら、今度はD昇給線に平行になるように線を引きます。

これによってD評語でも昇給させる「はげみ」の2号分を昇格基準に反映させないようにし、評語BやCの平均以下の社員に対しても昇格基準が厳しく働くようにしているのです。

標準昇給図表には、等級ごとにさまざまなパターンのモデル昇給線を描き込んでいますので、昇給・昇格時期の異なる個々の社員に対しても、将来を見通す一助になるのは間違いありません。

◎3つの見方をうまく使いこなす標準昇給図表に、実在者の本給号数をプロットすれば、社員相互の本給バランスも一目瞭然となり、本給の分布状況を確認しながらアンバランスを修正(凸凹調整)することも簡単に行えるようになります。

ここではⅢ等級・標準昇給図表に実在者をプロットした場合の記入例を示しました。

標準昇給図表の見方の基本は次の3つです。

①タテに見る(同じ年齢での較差を確認する)②ヨコに見る(同じ本給額の社員を確認する)③ナナメに見る(先輩社員との関係をモデル昇給線と比較のうえ確認する)①タテに見る(同じ年齢での較差を確認する)Ⅲ等級・標準昇給図表(調整モデル例:次ページ)で28歳のタテ軸を見てみましょう。

上から、山田、川田、中田、草田、木田の順に並んでおり、山田の27号から木田の9号までの分布状況が読み取れます。

この格差ははたして適正なものか、実力差以上に開きすぎてい

ないかという視点から、定期的に確認するようにします。

②ヨコに見る(同じ本給額の社員を確認する)今度は、15号のヨコ軸に目を移してみましょう。

本給15号を受けているものには、東村(25歳)、西村(26歳)がいて、中田(28歳)、下村(34歳)が1号上の16号にいるのが分かります。

本給が同額もしくは近い場合には、年齢の若い社員ほど優秀だと判断していることになります。

ただし、このモデルのようにオールSを超える東村のような社員は本来はいないはずですから、中途採用時に社員バランスを欠いて採用初任給を決定したか、昇給ルールを誤って運用したかということになるでしょう。

このような説明できないような事例が発覚した場合には、調整が必要です。

③ナナメに見る(先輩社員との関係をモデル昇給線と比較のうえ確認する)雪村(26歳)、花村(27歳)、中田(28歳)、月村(29歳)、山村(30歳)は、年齢も号数もまちまちではありますが、オールAのライン上に位置付けられるという点で一致しています。

年齢がいちばん若い雪村も、これからも頑張って評語Aを取り続けることができれば、月村や山村と同じライン上をたどることができます。

社員相互の基本給のバランス確認は、毎年1回、4月の定期昇給の時期に行います。

かつて成績の振るわなかった時期があるために本給に出遅れ感のある社員や、中途採用時の初任給設定が低かったために本給が低いまま我慢を強いられている社員など、長年の運用のなかでは、どうしても社員相互のバランスに歪みが出てきます。

これを解消するための措置として、凸凹調整を行うのです。

このように標準昇給図表で分布実態を確認しながら凸凹状態を解消できるということ

は、賃金制度の安定した運用、つまり「長く使える」ことに役立ちます

7採用初任給をバランスよく決める~新卒新規学卒者初任給をいい加減に決めないこと◎まず新規学卒者初任給を正しく決める新規学卒者の求人倍率が上昇しているなか、採用初任給をバランスよく決めることがこれまで以上に大切です。

にもかかわらず、新規学卒者初任給を決める際の基本スタンスが決まってないがために、初任給が高すぎて他の先輩社員とのバランスが悪くなってしまったり、逆にバランスばかりを重視したために初任給が低すぎて応募者が集まらなかったりといった弊害が出てきます。

初任給の決定に関しても、明確なルールを決めておきたいものです。

本給月額表は、中学卒15歳から設計されていますので、新卒初任給の本給表上のスタート位置を合理的に決めることさえできれば、他の社員とバランスの取れた初任給額(号数)となります。

新規学卒者といっても、中学卒以外はいわば本給月額表の途中から参加することになるので、その意味においては中途採用と考えれば良いのです。

ここで大事なことは、新卒者初任給と在籍者の給料のバランスをいかに取るかということでしょう。

ここでは、総合職・一般職のような採用区分を設けないという前提で考えてみましょう。

正規の採用試験を経て、わが社にふさわしい人材を採用し、将来的に基幹業務を任せていく場合の初任給ですから、オールAモデルの本給昇給線上に設定するようにします。

このように採用ルールを決めておけば、基幹業務採用で入社し、A評価を取り続けている限り23歳の時点で学歴に関係なく同じ等級号数(Ⅱ等級16号)に並ぶようにしています。

つまり、学歴にかかわらず、オールAの社員なら23歳時点で大卒社員と同額の給料が支給されます。

◎次に中途採用初任給を決める中途採用者の初任給も、原則として等級と発揮能力の期待値で決めるという点では新卒者初任給と同じです。

ただし、新規学卒者の場合は採用する等級と採用初任給の本給号数について、学歴別に一律で決めるのが合理的であるのに対し、中途採用者については採用する等級および本給号数は、人それぞれでかまいません。

具体的には以下の手順に従って、決定します。

手順1まず何等級で採用するかを決める手順2採用時の評価にしたがって本給号数を仮決定する手順3仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な等級号数を決める手順4各種手当を加算し、初任給を決定する

手順1まず何等級で採用するかを決める中途採用を行う場合、即戦力として期待できる経験者が欲しいのか、急いで人手を確保したいのか、それともマネジメント経験のある幹部候補が採用したいのか、会社が求める人物像はあらかじめ決まっているはずです。

もし、これまで人が足りないという漠然としたニーズに基づいて採用していたのだとすれば、今後はどのような役割責任を負う社員が欲しいのか、採用スタンスを明確にしてから採用活動に臨まれることをお勧めします。

中途採用には次の3パターンがあります。

a.スカウト採用(経験豊富な実力者の採用)b.一般採用(業界・特定職種の経験者を採用)

c.初級業務採用(軽易な単純作業の要員として採用)スカウト採用とは、優れた技術や技能を持っている者を、高めの処遇条件を提示して採用するケースです。

Ⅴ等級以上の管理職を招へいする場合もこれにあたります。

初級業務採用は、ごく単純な作業、軽易な業務をもっぱら担当させる場合で、本来ならばパートタイマーやアルバイトに任せるような作業ですが、労働力の安定的確保などの理由から、正社員として採用するケースです。

原則としてⅠ等級で採用します。

一般採用は、業界経験者を採用する場合や業界経験にかかわらず営業経験者を募集するような場合です。

社会人としてのこれまでの経験に期待し、即戦力として採用するのですから、採用時の等級はⅡ〜Ⅲ等級が中心となります。

手順2採用時の評価結果にしたがって本給号数を仮決定する採用選考試験の結果、入社後の発揮能力の期待度はABCの三段階評価で決めれば、等級と本人の年齢・経験から初任給を導き出すことができます。

各等級の年齢と号数の関係は標準昇給図表(図表144ページ)を用いて読み取るようにします。

例えば、Ⅲ等級営業社員を採用する場合、「33歳で平均的なB評価だとすれば、その号数はⅢ等級27号」というように、グラフ上から読みとって仮決定すればよいのです。

手順3仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な等級号数を決める最後に在籍者とのバランスを勘案して、採用初任給の号数を決定します。

上記の例で、Ⅲ等級27号に仮決定したところ、すでにⅢ等級で活躍している社員より総じて高めだとすれば、凸凹調整を行い、バランスよい号数に修正します。

本人希望額と本人の能力期待度とのバランスを総合的に判断しながら最終決定します。

手順4各種手当を加算し、初任給を決定する本給号数が決定したら給与規程にしたがって各種手当を加算し、月例賃金を確認したうえで、本人に通知します。

1必要不可欠な手当に限定する~合理的な賃金管理を考えるうえで検証すべき5つの各種手当◎手当の原則を頭に叩き込んでおく手当には、さまざまな種類のものが考えられますが、基本給では吸収できない要素を補完するものという原則を忘れてはいけません。

あれもこれもとたくさんの手当を設定することが、社員への配慮の表れだと考える方もいますが、これは間違いです。

手当が幾重にも支給されるということは、基本給が低いために手当を加算しないと世間並みにならないということに他なりません。

さらに、手当の支給条件によって支給される者とされない者がでることで、不公平感を助長する恐れすらでてくるのです。

すでに第2章で確認したとおり、基本給で対応できない要素は、次の4つに大別できます。

①勤務時間に関連する手当②特殊な技能を必要とする職種に支給する手当③作業環境の特殊性に応じて支給する手当④生活関連手当これ以外の要素は、原則として基本給で受け止めるようになります。

例えば役職について「偉くなった」からといって手当をつける必要はありません。

なぜなら責任等級制度では仕事の質、担当職務の役割責任で等級が決まるのですから、等級別に設定された本給月額表の水準には、当然に責任要素が組み込まれているからです。

次項目以降では、合理的な賃金管理を考えるうえで、すべての企業で検証していただきたい代表的な手当として、管理職手当、特技手当と特殊作業手当、家族手当、および住宅手当をとりあげます。

2管理職手当を正しく決定する~「労働時間に関係する手当」として正しく設定する◎一般的な役付手当とは本質的に異なるここで説明する管理職手当は、管理職が所定労働時間を超えて働くことを想定して、その時間外勤務の保障分としてふさわしい額を支給するものです。

責任等級制度では、仕事の責任の重さの要素は、基本給の中に組み入れて水準決定していますので、「管理職になって偉くなったから役付手当を付けて厚遇する」という考え方はとりません。

職能資格制度のもとで職能給に役付手当を付加するように、基本給と職制上の役割責任を切り離して運用する必要はないのです。

ただし、基本給はあくまでも所定労働時間内の労働に対するものですから、それを超過した分については別途保障する必要があるということです。

◎間違った運用をされがちな役付手当等級に身分資格階層が色濃くでている会社では、かなりの確率で間違った役付手当が運用されてきました。

問題となるのは、時間外勤務手当が支給される係長と課長の金額差が少ないということです。

ここでは課長55,000円、係長20,000円で、その差額は35,000円ですが、係長に支給する時間外勤務手当が35,000円以上あれば手取額は逆転する可能性が高くなります。

要は、時間外勤務手当の付く非管理職層と、時間管理の対象から外れる管理職層に対する給与上の取り扱いの違いを正しく認識していないために、このように不公平感を増長させるような金額設定が行われているのです。

役付手当の支給額の設定によっては、必要以上に昇格願望をあおったり、正しい賃金格差を歪めたりすることになります。

そうならないためにも、管理職手当を管理職に限定し

て支給する「労働時間に関係する手当」として正しく設定しなければいけません。

労働基準法41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」については、労働時間および休日の規定は適用しない、と定めています。

「管理職になると残業手当が付かなくなる」というのは、この条文からきています。

つまり、管理職は会社の立場に立って、部下の時間管理を行うのですから、そもそも時間管理には馴染まないということです。

ただそうはいっても、管理職に対しても時間外勤務の保障分としての見合う金額以上の管理職手当を支給しなければバランスが取れませんので、適正な水準で管理職手当を支給する必要があるのです。

◎管理職手当は残業時間を参考に決定する管理職手当は、等級別の定額設定が基本です。

この時、管理職手当の支給水準が適正な水準になっていないと、「管理職に昇進して時間外勤務手当(残業手当)が支給されなくなり、かえって手取額が減ってしまった」との不満が噴出することになるわけです。

仕事上の責任が重くなる一方で、給与手取額が減少してしまうのであれば、管理職になりたくない社員が続出するのも無理からぬことです。

そうならないためにも、管理職手当は、部下の残業時間を参考に決定するようにします。

次ページのように考えます。

なお、部門や職場の状況によって労働時間の実態が違うとしても、管理職手当には差違を設けず、等級定額で支給すべきものです。

部門による支給額の差は、あらかじめその部門・部署のマネジメントに対し優劣や難易度のレッテルを貼ることになってしまう可能性があるからです。

3特技手当と特殊作業手当を設定する~考え方をきちんと理解し、自社の事情にあわせて運用していく◎公的資格免許保有者等には特技手当で調整する公的な資格免許や高度な専門知識・技能を保有する方については、一般の社員に比べ、賃金相場がやや高めであることが多いものです。

そのような社員には、特技手当(公的資格手当)を支給して給与水準を調整する必要があります。

特に中途採用時、仕事に必要かつ有効な有資格者を採用するときには、特技手当が効果を発揮します。

建築士、施工管理技士、調理師、看護師や薬剤師、介護支援専門員、デザイナーなど特殊な技能・技術を必要とする職種と手当支給額は、最終的には所定内賃金総額との関係で決められるため、対象となる職種と手当の支給基準は各社の実情に応じて決める必要があります。

参考例として、ここでは実際に医療法人・社会福祉法人での特技手当の設定例を載せておきました。

運営上で注意すべき点は、次の4つです。

(1)職務遂行上、必要かつ有効な資格のみを対象とすること(2)対象となる資格を保有しているだけでなく、実際に仕事に生かしていること(3)複数の資格保有者には、最も重要な資格についてのみ支給し、重複支給はしないこと(4)取得することが前提の資格や免許、会社が取得費用を全額負担したものについては、手当の支給対象としないこと

・社員の自己啓発や能力開発のために資格取得を奨励するときこの場合、特技手当は用いません。

特に、「仕事で使わないもの」「将来は仕事に有効であるとしても今の仕事には必ずしも必要がないもの」が含まれているときの具体的な資

格取得奨励策の進め方としては、①自己啓発支援制度や資格取得奨励制度をつくって対応する②補助金や表彰金など一回限りの報奨金として支給する③資格取得費用の会社負担などの方法で対応するのが良いでしょう。

このほかに法令の要請によって、防火管理責任者など、業務上で公的な資格・免許を保持する者の届け出が義務付けられている場合に、法的責任を負う立場であることから、対象者に対して若干の特技手当を支給することがあります。

ただし、もとより管理責任を負う管理職であり、会社が取得費用を負担している場合には支給する必要はありません。

◎「きつい、汚い、危険」が伴う仕事には特殊作業手当で調整する特殊作業手当は、作業環境や作業条件が一般業務に比べて悪い職場に勤務する場合に支給する手当で、いわゆる「きつい、汚い、危険」が伴う、いわゆる3K仕事がその対象となります。

肉体的、精神的にも大きな負担のかかる環境下で行われる作業に対する、インセンティブとしての役割を持つのが、本手当です。

具体的には、高所作業、爆発物や有害物の取扱い、製鉄所など高熱職場での作業など、その適用範囲は広いものです。

廃棄物処理作業や建物解体現場のような粉塵の多い現場などで「粉塵手当」と呼ばれるものも、この特殊作業手当の一種です。

その作業に就く頻度により、支給方式も月額で定額を支給するのか、その業務に携わった日に日額で支給するか、あるいは時間単位で支給すべきか、会社ごとに状況に応じた支給基準を設定することになります。

どのような作業にいくら支給するかについて、作業条件に応じ支給額を決定するルールをあらかじめ定めておくようにします。

4家族手当に社長のメッセージを込める~勤務成績にかかわらず一定の生活水準は維持させたい◎家族手当を支払う根拠を正しく理解する家族手当を支払う根拠はどこにあるのでしょうか。

もともと家族手当が、高度成長期の生活費の急上昇にともなう生活補填費的な性格を持つものであったことは事実ですが、今では、その性格も大きく変わってきています。

「直接仕事に関係しない手当だから、廃止すべきではないか」という主張も聞かれますが、新卒入社後、2〜3年で年収が400万円を超えるような大企業とは異なり、中小企業では家族手当なしに標準生計費を維持していくことが難しい会社も少なからずありますので、大企業と同列に論じることはできません。

家族手当は、生活費の補填という性格を持ち合わせていますが、「社員一人ひとりがわが社でしっかりいい仕事をしてくれるのは、本人の努力はもちろんのこと、家族の理解や支えがあってのことであり、会社もそのことを十分に理解しているし、いつもその家族も含めた社員の幸せを考えている」という会社の姿勢を示していることが重要なのです。

扶養家族のある社員からは「会社は家族にも配慮してくれてありがたい」と感じてもらえるし、扶養家族のない社員にとっても納得できる範囲の金額ならば、家族手当への理解も十分に得られ、不公平と思われる心配もありません。

家族手当は会社と社員との関係を円滑なものにするため効果的な手当だということは、今も変わらないのです。

※家族手当①、「、、」。

※家族手当②、、、。

◎家族手当に隠された合理的な運用のための仕組み家族手当を支給する会社側のメリットはこれだけではありません。

家族手当を支給することで、若年層社員の賃金の中だるみを是正することができ、人件費原資の効果的配分に結びつけることができるのです。

現在、27歳、既婚社員の標準生計費(2人世帯)として、会社は26万円という水準を考えています。

家族手当がなければ、260,000円すべてを基本給としなければなりませ

いことになり、基本給カーブはより緩やかな傾きにできます。

家族手当がなければ、独身者に対しても世帯持ちと同様に、2人世帯での生計費がまかなえる基本給水準が必要になってきます。

それだけの水準が維持できなければ、社員の定着も中途採用もうまくいかなくなるからです。

さらに、基本給カーブの傾きを緩やかなものに修正できたら、その分の原資を賃金表のスタート金額の引上げにまわして若年社員の基本給を引き上げれば、今よりも有利な採用条件を提示することができるようにもなり、一石二鳥です。

このように家族手当は、会社にとってもメリットの大きい手当なのですが、支給水準が低すぎても、反対に高すぎても十分な効果は期待できません。

◎会社によって支給方法にバリエーションがあって良い次ページに掲げたモデル支給例には、4つのパターンがあります。

所定内賃金が、地域相場の水準を超えていると判断できれば、家族手当は例1で示した、配偶者15,000円、第一子5,000円、第二子5,000円という金額でもかまいません。

これは、ほぼ全国的な支給実態に即した金額です。

給与水準が低ければ、家族手当を高めに設定することをお勧めします。

会社の業績が向上し、賃金表(=本給月額表)のベースアップができるようになったときは、基本給を引き上げるのと同時に、家族手当を徐々に例1の水準程度まで減額すると良いでしょう。

家族手当は、社長の考え方が、最も反映されやすい手当でもあります。

ある社員50人の建設会社では、例3のように第一子に手厚い支給に切り替えました。

その会社の社長は、「自社の若手社員を見ると、たいてい結婚後も共働きをしているから、家族手当(配偶者分)の支給対象者は非常に少ない。

その半面、子供が生まれたときは、家族が増えて生計費が余計にかかるだけでなく、奥さんも産休・育児休業期間中の給与収入がなくなるから、第一子に手厚く支給したい」とのことでした。

一方、社員30人の機械部品メーカーでは、例4のパターンを採用しました。

「さまざまな事情の社員がいるから、配偶者分を止めるつもりはないけれど、金額は原則として子供と同額でいいだろう。

ただ、生計費アップに直結する一人目の扶養家族に対して手厚くしたい」というのが社長の弁でした。

そこで、扶養家族には全員一律5,000円を支給するものとしたうえで、第1順位の扶養家族には、10,000円を加算することにしたのです。

このように家族手当の支給方法には、唯一無二の正解があるわけではありません。

会社によって支給方法にもさまざまなバリエーションがあって良いのです。

大切なのは、家族も含めて社員の幸せを考えているという、会社からのメッセージが込められていること。

それは、「たとえ勤務成績が平均以下であっても、家族の状況に応じた生活水準は維持してあげたい」という、社長の想いの表れでもあるのです。

5住宅手当は不公平感を助長しやすい~手厚くしても必ずしも社員が満足するとは限らない◎各種手当の中でも比較的支給金額の大きな手当住宅取得費用が高額になりやすい日本では、住宅手当は必要不可欠な手当項目として捉えられがちです。

しかし、住宅費用について会社が公平に対応しようとすればするほど、支給基準は複雑化し、迷路に入り込むケースが多いのもまた事実なのです。

そもそも住宅に対する考え方は、社員によって大きく変わります。

本来、住宅費用は、毎月の給料の中から社員が負担すべき性格のものですが、「多少は費用が高くても広めの家で暮らしたい」と考える社員もいれば、「今は狭い部屋で我慢して、頭金ができたら、いずれ家を持ちたい」という社員もいるかもしれません。

親から受け継いだ自宅の社員もいれば、すでに家を購入して住宅ローンを払っている社員もいることでしょう。

このように住宅事情は人それぞれですから、一定の条件で支給基準を設けて住宅手当を設定すれば、その条件から外れる社員からは不平・不満の声が上がってきます。

住宅手当を手厚くしたからといって、必ずしも社員が満足するとは限らないのがこの手当の難しいところです。

会社としては、住宅手当には深入りせずに基本給を充実させることに専念し、住宅費用の取扱いは社員自身に委ねるべきでしょう。

ただし、次に解説するようなケースでは、必要に応じてバランス良く住宅手当を設定するようにします。

・住宅手当が必要な場合社宅や寮がある会社では、その入居者とのバランス上の配慮から住宅手当を設定した方が良い場合があります。

社宅や寮では、通常は本人負担が少なく、会社が半分以上の費用を負担していることが多いものです。

社宅が用意されている以上は、これを有効に活用することが望ましいわけですが、この場合には世間相場よりかなり安く住居を提供することになるため、社宅に入れない社員との間で不公平感が生まれます。

これを解消するために、社宅に入っていない社員に対しても住宅手当を支給することになるのです。

ただし、この金額はできる限り少額にとどめ、一方で社宅入居者には適正な水準の住居費を負担してもらうようにしなければなりません。

◎住宅手当と時間外勤務手当をともに支給するときの注意事項中小企業には「借家・借間に居住する社員に対し、扶養家族を有する世帯主には20,000円、独身者には10,000円を支給する」というように、家賃額にかかわらず家

族持ちの世帯主ならいくら、独身ならいくらと決めている会社が多くあります。

このような住宅手当は、住宅の取得費用に応じた支給額となっていないため、時間外勤務手当の割増単価を算出する際の算定基礎から除外することはできません。

住宅手当の有無が、残業手当の支給額にも大きな差となって跳ね返ってくるのです。

ここに2人の同年齢の社員がいて、いずれも基本給は260,000円。

一方には住宅手当30,000円が支給され、一方には支給されていないとしましょう。

月の所定労働時間を160時間として、この2人がそれぞれ月30時間の残業を行ったときの時間外勤務手当の額を計算すると、次のようになります。

時間外勤務手当の差は7,031円に達し、1回分の昇給額に匹敵する金額です。

住宅手当の支給額が大きいほど、この差は拡大します。

同じように働いて、同じ時間の残業をしても、もらえる金額がこんなにも違うのであればBさんには納得できないことでしょう。

このようなケースも、不公平感を助長することになりますので、過大な住宅手当には注意が必要です。

実務現場で考えるコト⑤昇格昇進運用と賃金処遇人事・賃金制度の運用の成否は、ひとえに昇格昇進の運用にかかっているといっても過言ではない。

「昇格」とは今よりひとつ上位の等級に格付けることをいい、「昇進」とはより責任の重い上位の仕事やポストに就くことを指す。

そして、昇格と昇進は切り離さず、昇格させるのと同時に昇進させるのが基本。

等級格付だけを引き上げて、担当する仕事の中身は今までどおりということがあってはならない。

職能資格制度の導入企業では、その等級に求められる職能レベルに対し、一定水準以上に達したと判定されれば、その等級を「卒業」して上位等級に昇格させるという運用が行われていた。

責任等級制度であれ、職能資格制度であれ、また職務等級制度であっても、等級格付けが賃金処遇決定の基準となるので、昇格をさせれば給与額は上昇する。

特に昇格時に基本給が大きく跳ね上がる「昇格昇給」を織り込んだ職能資格制度では、人件費の上昇が仕事と賃金のミスマッチの引き金となりかねない。

なぜなら、職能等級は昇格しても、昇格時点での仕事の中身そのものは昨日までと同じで、給与だけが上昇するからだ。

賃金決定のベースとなる等級制度が何であれ、昇格昇進運用が甘い会社は、人件費が高止まりしやすく、年功的な賃金分布となりやすいという傾向が強くでるので要注意。

1なぜ評価をしなければいけないのか~適正な差をつけることが人材を育てる◎誰もが認める実力社員ほど、正しく評価されることを望んでいる「なぜ私たちは評価をしなければならないのでしょうか」この根源的なテーマを考える前に、わが社の優秀な社員に注目してみましょう。

「いつも安定した結果を出す」「言われなくてもできる」「周囲からの信望が厚い」。

このようなわが社の将来を託すにふさわしい実力を備えた優秀社員について、あえて定義すれば、「自ら職務上の課題を見つけ、その解決策を考え、実行に移して成果に結びつけることができる社員」となります。

そんな優秀社員たちが、会社や上司に望むことをまとめたのが、次ページの図です。

そうなのです。

誰もが認める実力社員ほど、正しく評価されることを望んでいるのです。

◎社員相互に切磋琢磨する風土をつくるお客様の社内評価者勉強会の講師を務めるときには、その冒頭で、必ず参加者の皆さんに「評価をする目的とは何か」をお尋ねすることにしています。

「部下が認めてほしいと期待しているから」「社員の教育・OJTを進めていくため」「社員のモチベーションを高めるため」「賞与を配分するために必要だから」などと、さまざまな答えが出てくるものの、評価者の頭の中で評価することの意味が整理されていないことがよく分かります。

評価者が評価という最も重要な自分の職務の目的を端的に説明

できないようでは、正しい評価などできるわけがありません。

ポイント評価とは、適正な差をつけることである評価を実施する目的を整理すると、前ページのようにまとめることができます。

社員の働きぶりはそれぞれ違うのですから、会社の定めた評価要素や着眼点にそって採点すれば、必ずそこには差が生まれます。

つまり、「評価をする」は適正な差をつけることでもあるということを、評価者はしっかり認識しておく必要があります。

ただし、差をつけるとはいっても、たった1回の評価で決定的な格差をつけてしまい、ひとたび出遅れてしまった社員は二度と追いつけないということでは、「社員のやる気の総和」を高めることはできません。

たとえ、今回は成績が悪かったとしても、次に頑張れば、必ず追いつけると思わせるものでなければいけないのです。

分かりやすく言い換えれば、Aを取った社員は「次もしっかり頑張ってAを取り続けられるようにしよう」と考え、Bの社員は「次こそはAを取るように頑張ろう」と闘志を燃やし、残念ながらCだった社員は「このままではいられないから、次は絶対Bに入ろう」と決意します。

それぞれが来期に向けてチャレンジする風土をつくるには、評価による差ははっきりとつけなくてはいけません。

そして、人事評価を通じて、全社員が「昨日より今日、今日より明日には、より良い仕事ができるようにしよう」と思わせなければいけません。

つまり、ポイント評価とは、人材を育てるためのものであるこのことに対しても、経営者はもとより、評価者である管理職も十分に理解しておくことが肝要です。

2評価の基本を正しくつかむ~成績評価制度では評価できるのは直属上司だけ◎評価者は、被評価者の上司として明確に適正な判断をしなければいけない日々の業務に求められる評価とは、社員一人ひとりの仕事の品質について、評価者がその価値判断を下すことです。

つまり、評価者は、被評価者の上司として明確に適正な判断をしなければいけないということになります。

ところが、評価者にとっての評価業務とは、実にストレスのかかる仕事です。

「部下の仕事ぶりについては、誰よりも上司である自分がいちばん理解している」と胸を張り、自信を持って評価をつけられる管理職ばかりなら良いのですが、自分もプレイヤーの一人であり、ましてや稼ぎ頭ともなれば、部下の仕事をつぶさに観察していない後ろめたさからか、点数に差のつかない消極的な評価になることがよくあるものです。

◎常に直属上司への動機付けとそのレベルアップを図る自らの評価点によって、部下の賞与支給額に差がつくことも、評価者へのプレッシャーとなります。

評価結果を十分に説明しきれるだけの自信がなければ、評点にほとんど差がつけられないという事態に陥りやすいのです。

評価点が平均点付近に集中する「中心化傾向」という評価エラーが起こりやすいのは、そうした理由からです。

社長ひとりで、全社員の仕事ぶりを確認するなどということは不可能ですから、評価実務は管理職の手に委ねざるをえません。

本章でお話しする成績評価制度の運用の成否は、現場の管理職の双肩にかかっているのです。

このことを証明するかのように、賃金管理がうまく軌道に乗っている会社は、車の両輪ともいえる評価制度の運用も円滑に行われていて、そのキーパーソンでもある管理職への教育が継続的に行われています。

経営者が、心の底から社員の成長と幸せを願うのであれば、常に直属上司への動機付けとそのレベルアップを図りつつ、それぞれの部署での人材育成が計画的に行われるよう、意識して取り組まなければなりません。

◎成績評価制度と人事考課制度を比べて考える人事評価というと「人事考課のことですね」と聞き直されることがあります。

人事考課と人事評価は、全く同じことを指していると考える経営者も少なくありません。

それほど、人事考課という言葉は広く行きわたっています。

人事考課制度は、職能資格制度のもとで、職務遂行能力や業務適性があらかじめ定めて

いた基準に到達しているかどうかを判定するための手法で、広義の人事評価の一形態です。

一方、仕事の成績そのものを評価対象とするのが、本章で取り上げる成績評価制度なのです。

成績評価制度は、いわば仕事力評価ですから、評価の対象は「仕事の成績」です。

単に目に見える成果や業績だけを対象とするのではなく、適正なプロセスを経て職務の遂行にあたり、その結果として期待される成果をあげたことが評価される仕組みです。

より良い仕事をした社員を前向きに評価するには、相対評価の手法を用います。

これに対し、人事考課制度では、職務遂行上に求められる能力や適性が、一定の水準に達しているかどうかを判断するため、絶対評価を基本とします。

◎成績評価制度では本人評価は行わない評価手法を巡って、「絶対評価を採用すべきだ」とか、「いや相対評価でなければならない」などと侃々諤々の論争が行われましたが、このような議論は全く不毛で意味のない

ことです。

評価対象が違えば、それにふさわしい評価法も当然に変わってくるからです。

部下の能力や適性を評価対象とする人事考課の場合、いかに客観的な基準を設定しても、評価する人の目線の違いから評価誤差は必ず出てくるものです。

絶対評価だといっても、評価者によって評価結果が異なるわけです。

この問題を解消するために、複数の眼で判断してより客観性を持たせるという方法がとられます。

二次評価、三次評価を行ったり、多面評価・360度評価を用いて、評価誤差を修正するのです。

絶対評価の前提には、客観的な到達基準があるということですから、本人による自己評価も当然に行うことになります。

成績評価制度では、組織の指示・命令系統の中で仕事の成績を判断しますから、評価できるのは直属上司だけです。

実際に指示を出し、業務の進捗について報告を受ける立場にない他課の課長には、評価しようがないのです。

これは、自己評価についてもいえることです。

部下本人には他部署の同僚と比べて、自分の働きぶりを客観的に評価することなどできません。

ですから、成績評価制度で本人評価は行うことはないのです。

◎被評価者の順位を変更できるかどうか評価者のクセや評価誤差は、必ず評価点の中に含まれています。

いくら評価者研修会を行ったとしても、人生経験や職務体験も違う評価者が、全く同じ評価をすることなどありません。

「評点には評価誤差が必ず含まれる」。

そう割り切ってしまえば、あとはその評価誤差をいかに調整するかという手続きの問題です。

成績評価制度における調整と、人事考課制度における二次評価の大きな違いは、被評価者の順位が逆転する可能性があるかどうかにあります。

成績評価制度では、直属上司がつけた部下の順位が入れ替わるような調整は認められません。

一方の人事考課では、二次評価者が改めて絶対評価をしますので、一次評価者がつけた評点を二次評価者が再評価した際に、点数が変われば順位が変わる可能性も高いということになります。

両者のこうした特性の違いは、どのような場面の評価に用いられるのかも影響してきます。

社員の能力開発や採用時には人事考課の手法を用いますが、社員の半年ごとの成績は、成績評価制度によって行うべきものです。

3納得性を高める成績評価5ポイント~「客観性」ではなく「公正」「透明性」そして「納得性」がカギ◎評価制度の成否は「納得性があるかどうか」成績評価を行っていくうえで、いちばん大切なことは、評価結果に対して社員の納得が得られているかどうかです。

もっとも、いきなり100点満点の評価制度を求めるのは無理がありますから、まず公正な評価制度をつくり、透明性を維持するようにしたうえで、納得性が得られる運用を目指してください。

「公正」とは、評価方法が仕組みとしてルール化されていることです。

「透明性」とは、評価制度をオープンにして、ルールどおりの運用が行われているかどうかを、社員からも確認できるようにすることです。

そして「納得性」とは、成績評価の結果について、社員の一人ひとりが理解できるようにしっかり説明することです。

評価者である直属上司には、やや気の重い仕事かもしれませんが、部下の仕事ぶりの良いところ、悪いところを十分に理解させ、納得させることができて、初めて今後の能力開発につなげることができるのです。

ところで、よく評価制度では「客観性」が大事だといわれます。

実際に評価者である管理職からも「もっと分かりやすい客観的な基準の評価シートはありませんか」との要望をいただくことも多いのですが、はっきり言ってそのようなものはありません。

おそらく、客観的な基準というのは、評価者があれこれ考えなくともズバリ評点がつけられるような基準という意味合いなのでしょう。

その裏には、自分が価値判断を下さなくとも、定量的に判断できるモノサシはないのだろうかという意図が隠れているようです。

しかし、活力のある中小企業ほど、事業戦略も環境にあわせて変化し、日々の仕事にも機動的な対応が求められるのが常です。

評価者が目指すべきは、あらかじめ詳細に決めていた硬直的なモノサシを当てはめることではなく、どんな環境の変化があっても自信をもって部下の仕事に対して価値判断を下せるよう、日頃から自分自身を磨くことなのです。

◎限定の5ポイントで「社員のやる気の総和を最大にする」評価結果に基づく賞与配分を通じて、「社員のやる気の総和が最大になる」ようにするには、評価制度の「納得性」を高めることが求められます。

そのためには、次にあげる5つのポイント(5つの限定)に沿った運用を心掛けてください。

ポイント①評価の対象を「仕事の成績」だけに限定する成績評価は、貢献度に応じて賞与を分配するためのものであり、実際の仕事を通して顕在化した能力を評価するものです。

見えない保有能力(潜在能力)を評価対象としても周囲の納得は得られません。

目に見えて確認できる仕事の成績だけを評価対象とし、目に見えない保有能力を直接の評価対象としてはならないのです。

仕事の成績は、プロセスと成果に分けて考えることができます。

会社の定めた経営理念や信条、行動規範などに基づいた正しい業務プロセスを経て、目的とする成果を達成したかどうかが問われるのです。

仕事の成績といっても、結果だけに執着した成果主義、業績至上主義であってはならないことは言うまでもありません。

ポイント②相対評価する社員は「同じ等級」の者同士に限定する責任の重さや仕事の難易度によって責任等級は区分されていますから、同じ等級同士で評価するのが基本です。

そうでないと貢献度の高い上位等級者ばかりがいつも高い評点となり、評語Aを受けやすく、常に優遇されることになります。

同じ等級のなかで、相対評価をして、順位・序列を決定し、成績評語SABCDに割り振るようにします。

同じ部や課のなかに異なる責任等級の社員が混在している場合、責任等級の枠組みを無視して、仕事の出来映えだけで一括評価をしてしまうことがないように注意しなければいけません。

ポイント③評価期間を「対象期間の6カ月間」だけに限定する部下の大きな成功や失敗は、評価者である上司の脳裏に強く焼きついているものです。

しかし、発揮能力はその都度変化していくものですから、いつまでも過去の業績に引きずられていては、社員の前向きな気持ちを引き出すことはできません。

「社員にレッテルを貼る」ような評価は厳に慎まなければなりません。

そのために半年間の評価対象期間を決めて、その期間内に限定して評価することを徹底するのです。

過去6カ月間に限定することで常に新しい前向きな気持ちで目標に臨ませるようにするのが鉄則です。

評価対象期間は、成績評価を実施する直前の6カ月間にするのが基本です。

各社の賃金計算期間に合わせて、以下のように決めるとよいでしょう。

ポイント④評価者を「直属上司」だけに限定する評価者の仕事は、部下の成績を、後に示す成績評価基準書にもとづいて点数で表すこと。

この作業ができるのは、直接部下本人に指示・命令を与え、遂行過程を確認し、報告を受ける立場にある直属上司ただ一人です。

つまり、被評価者をいちばん近くでいつも見ている直属上司が、最も客観的で正しい評価ができる立場にあるのです。

他課の課長や同僚が評価をする360度評価などいわゆる多面評価と呼ばれるものは、職務適性や基礎能力を判定する場合のみに限られるやり方です。

仕事の成績、すなわちプロセスと成果に関しては、直属上司にしか評価できないものですから、1階層上の上司は二次評価者としてではなく、調整者として評価システムに参加することになります。

ポイント⑤評価は「部下の順位と相対的間隔」だけに限定する評価者が持っている甘辛・集中分散といった評価誤差や評価者特有のクセは、いくら訓練を重ねてもなかなか是正できるものではありません。

しかし、その評価グループ内に限っていえば、評点によって表される点数の序列と相対的な点数の間隔は、信頼性が高いものと考えられます。

他部門・他部署との間で甘辛調整や部門間調整を行う場合にも、数値で表される点数(50点、65点など)の絶対値としての大きさには重要な意味はありませんが、評価者がつけた順位と相対的な点数のバランスは、最後まで尊重するようにします。

以上の5つのポイント(限定事項)を守って評価作業を進めることが、納得性ある評価実現に向けた近道です。

直属上司が評価をつけたら、間接上司が調整者として部門間格差と評価誤差を調整し、等級ごとに一本化して順位を決めます。

同じ等級内での成績は「正規分布」を描きますから、これを一定の比率で区分し、人事担当責任者(総務部長や人事課長

においてSABCDの評語案を決定するという流れです。

4成績評価の基準・着眼点をつくる~機能重視の柔軟な組織にも運用できるように設計する◎評価基準は成績評価基準書にのっとるここでは、賃金管理研究所が、汎用的に使用できるように考案した評価ツール「成績評価基準書」の着眼点について、その詳細を見ていきましょう。

社員の仕事は、その特性から、①組織の責任者として、部下を通じて業績を達成する管理・監督的な職務(管理職)②上司からの指示・命令によって、具体的な任務を遂行する非監督的な職務(一般職)の2つに大別することができます。

基本的な機能面から整理・分類すると、前ページのようにそれぞれ5つの評価要素にまとめることができます。

ここに掲げた評価要素は、日常の仕事にはどのようなものがあるかを書き出したうえで、評価するのにふさわしい項目としてまとめ直したものです。

部門や職種を横断して使えるような成績評価基準書〔監督者用〕と〔一般職用〕の2種類を用意するようにします。

最もよく使用する〔一般職用〕について、個々の評価要素で確認し評価すべき内容をまとめると次のようになります。

1.服務……基本的な就業・勤務態度はどうだったか2.受命・段取……仕事の準備や段取りはどうだったか3.就業活動……目的を正しく理解して、適切に業務に取り組んでいたか4.業務能率……仕事の効率化への努力を続けていたか5.成果……仕事の結果を適切に取りまとめ、良好な成果をあげたか◎評価要素ごとに4つの視点から仕事内容を整理する203ページの図表では監督的な仕事と非監督的な仕事について、機能区分と評価要素の結びつきを示しています。

評価要素のそれぞれについて、評価しやすいように設定された具体的な評価基準、これが評価の着眼点です。

着眼点は、5つの評価要素ごとに4つの視点(補足欄参照)に展開して、評価すべき仕事内容を整理すると設定しやすくなります。

(具体的な設定例は、206・207ページの成績評価基準書を参照)※4つの視点①(イ)基本となる実績…各々の評価要素の基本となる内容(ロ)発展的前進的な実績…主体的・自発的に取り組んだ業務や業務改善、自己啓発への取組みなど、前向きな取組みを評価する※4つの視点②(ハ)組織活動との関連…組織や他のメンバーとどのようにかかわって仕事をしたかをみる(ニ)総括的な実績…評価要素全体の総括をする◎組織が硬直化しないようにする代表的な成績評価基準書には、〔監督者用〕(206ページ)、〔非監督者用(一般職用)〕(207ページ)を用意します。

仕事の特性に応じて、基準書をアレンジすることはできますが、機能重視の柔軟な組織ほど仕事の進め方や職務範囲も絶えず変わってゆくため、部門別・職種別あるいは階層別の基準書を作ることが、かえって組織を硬直化させる恐れもあるので注意が必要です。

標準的な様式である成績評価基準書〔監督者用〕と〔監督者用(一般職用)〕を用いても評価者が部下の習熟度や能力に応じ、また職場の実態に合わせて着眼点の内容を読み込んで適用することで、納得性の高い評価とすることは十分可能なのです。

5評価点を正しくつける~評価尺度のイメージをもち、着眼点ごとに相対評価する◎10点を中心として評点をつけられるモノサシを用意する成績評価制度では、項目ごとに、総体評価を行うために、平均を10点として上下に点数が分布するように評点をつけます。

成績評価制度は、相対比較のうえで優位に立つもの、つまり優れた仕事ぶりの社員を見つけて処遇に結び付ける相対評価を基本としますから、評価用のシートにに複数名の部下を列記して、着眼点ごとに相対評価をするという方法をとります。

このときの目盛りは、平均的な成績の10点を中心として、最も優れている者を14点、最も劣っている者を6点とし、6点から14点までの9つの目盛りを使って評点をつけます。

◎評価者の頭の中で、評価尺度のイメージをつくっておく成績評価基準書の点数メモリには秀(14点)、優(12点)、良(10点)、可(8点)、劣(6点)の文字が書かれていますが、これを絶対基準としてとらえる必要はありません。

ただ、評価者の頭の中で、評価尺度のイメージができあがっていないとなかなか評点はつけにくいものです。

「このくらいまでできたら14点」「ここまでしかできないなら6点」というように、評価レンジの上限・下限の判断基準(仕事力のイメージ)を持っていただきたいと思います。

中心の10点は、その等級としてできて当たり前の水準であり、「平均的」「期待どおり」という水準。

14点のイメージをあえて説明するなら、上位等級のメンバーに加えても遜色ないレベルの仕事ぶり。

下限の6点は、現在の等級では及第点は与えられないレベル、「劣」=「不可」ということです。

部下の人数が等級別に1人か2人という少人数の職場では、実質的な相対評価は行いにくいと考えられるのですが、そんな状況下でも、過去の自分や同僚の働きぶりを基準として、あるいは、その等級として部下に期待している仕事力のイメージを手掛かりに、相対評価はできるはずです。

次ページは、成績評価報告書の一部を抜粋したものです。

実際にどのようにして点数をつけていくのが良いか確認してみましょう。

◎評価は必ずヨコにつけるように徹底する成績評価基準書の服務の(イ)「規則や指示に従い、日常の業務に精励したか」という着眼点から、着眼点ごとに相対評価によって、点数をつけていきます。

つまり、評価点は、着眼点ごとにヨコ方向につけていかなければならないのです。

もし、被評価者ごとに、服務の(イ)、(ロ)、(ハ)……と上からタテ方向につけたとすると、優秀な社員には総じて高い点数がつきやすく、反対に成績の振るわない社員には総じて低い点数がつきやすいという傾向(補足欄参照)が表れます。

※傾向(評価者のクセ)。

年2回、6カ月ごとに評価をするのは、社員の発揮能力はその都度変化するからに他なりませんが、「いい人はいつも良く、悪い人はいつも悪い」といった結果につながりやすいハロー効果はできる限り排除しなければなりません。

そうするためにも、評価は必ずヨコにつけるよう徹底する必要があるのです。

6成績調整をどのように進めるか~いわゆる二次評価ではないが、いくつかの留意事項がある◎評価者のクセは誤差を完全に取り払うことなどできない成績評価の評価点には、必ずといっていいほどに評価者の評価誤差が入り込むため、調整作業は避けて通れません。

評価者訓練をどんなに繰り返し行ったとしても、人間が行う人に対する評価にはその評価者なりの価値判断を伴います。

特に人事評価の場合には、評価者である直属上司が、今日までに仕事上で経験してきたことや、これまでに出会った、さまざまな年代層やタイプの人々にも影響を受けているはずです。

これまでの人生経験すべてが、今の評価者たる上司の価値判断に影響を与えていますから、どうしても評価者のクセは誤差を完全に取り払うことなどできないのです。

◎対人比較による投影法を用いるそこで、評価誤差は必ず評価点に含まれているものだと割り切って認めたうえで、評価者から提出された評価点を、間接上司がそれぞれの被評価者を対人比較法によって調整し、被評価者間の相対的な成績のバランスを取ることが必要になります。

つまり、評価制度のなかの必要不可欠な手順として、甘辛の誤差、集中・分散の誤差、そして評価の段階では考慮されていない部署間の成績格差を、客観的に調整する手続きを用意する必要があります。

実際の調整作業は以下のような手順にしたがって進められます。

2つの評価グループについて、代表者2名の対人比較を基本とした「投影法」によります。

このような対人比較による投影法を用いて、2課の被評価者を、1本の軸上にまとめることができました。

これを、部門別にまとめた後、全社で等級別に点数序列を決定するまで調整を行えば良いことになります。

以上が、調整作業の基本的な進め方です。

◎成績評価の調整作業と二次評価の違いを正しく理解するこれはあくまでも調整作業であり、いわゆる二次評価ではありません。

調整と二次評価の決定的な違いは、被評価者の順位を変更できるかどうかにあります。

成績評価制度における調整作業では、評価者がつけた順位は最後まで尊重しなくてはいけません。

これは前掲の「成績評価制度5つのポイント」で説明した通りです。

これに対して、人事考課制度で行われる二次評価では、例えば一次評価者である課長がつけた点数による順位は、二次評価者である部長の点数によっては入れ替わることもあり得るのです。

人事考課における二次評価のような手法では、部下の側からすれば、最も自分の仕事ぶりをよく知っているはずの上司の評価がその上位者によって覆されるため、評価制度への信頼は著しく損なわれます。

このように社員本人の仕事力を直接には観察していない二次評価者に対して、最終的な評価権限を与えるということは、かえって評価の納得性を損な

うことを忘れてはなりません。

本人の仕事力を評価対象とする成績評価制度では、たとえ社長であっても、二次評価を行ってはならないのです。

実務現場で考えるコト⑥昇格昇進は「経営判断」昇格昇進は、会社として行う適材適所の人員配置の一環であり、経営判断に基づくもの。

一定の昇格要件をクリアしたからといって、自動的に昇格できるというものではない。

したがって、どんなに優秀な成績を得た社員であったとしても、1ランク上の責任を任せても良いと、社長が判断していないのであれば、昇格させてはいけない。

責任等級制給与制度の下では、昇格して偉くなったからといって基本給を一気に引き上げるような昇格昇給も用意されていない。

上位等級に昇格して、その等級に応じた期待に応えうる実力・成果を発揮できて初めて有利な昇給運用が行われる。

このことが示すように、昇格とは本来、社員にとっても厳しいもの。

昇格社員に、「昇格おめでとう」と声をかけることはあるとしても、社長の期待を込めたメッセージの本質は、「大いに貢献してくれてありがとう。

さらに責任の重い、重要な仕事に就いてもらいたい。

今まで以上に仕事は大変になるかもしれないが、ぜひ新しい1ランク上の仕事に挑戦してほしい」。

より重い責任を負い、より大きな成果を求められる。

一定の昇格要件をクリアしたら誰でも、自動的に昇格させるという運用は好ましくない。

昇格要件を満たした者のうち、「昇格させても上位等級の責任が十分に果たせる」と確信した社員を昇格させるのである。

7「評語Aの比率25%」を正しく理解する~成績評語の決定と評語分布の関係を押さえる◎まず「2:6:2の法則」で考える調整作業を経て、等級ごとに分布調整点が決まり順位が決まれば、人事担当責任者において、所定の比率に従って評語案を作成することになります。

評語案の比率は、原則として上位25%をA、下位20%をC、残り55%をBとします。

A25%のうち特別に優秀な社員がいればSを、C20%のうち格段に劣る社員がいればDをつけることになります。

SABCDの5段階評価ですが、その基本はABCの3段階評価です。

一般に社員を大きく3つに分けると、上位2割が会社全体の牽引役として業績の大半を導き出し、それに続く6割の社員はごく一般的な仕事ぶりの社員たちであって、残りの2割が他の社員の足を引っ張る存在だというようなことがいわれます。

このことは、ビジネスの現場のさまざまな場面で語られるように、世間に広く認められる実感でしょう。

この考えに従えば、3段階評価の比率としては、Aが上位20%、Bが60%、Cは下位20%でよいことになります。

◎「社員のやる気を引き出す」という点からはAの比率の方がより大切ただ実際の運用では、SとAで25%とすることをお勧めしています。

なぜAをCより5%多く設定しているのかというと、成績評語は賞与の合理的配分のみならず、昇給評語の決定、ひいては昇格昇進にも影響を及ぼすものだからです。

昇給評語の決定の場面でも、昇格昇進者を選定する際も、ルールを守って正しい運用に徹することが大切なのは言うまでもありませんが、この場合にAが20%だけだとすると、将来を託す幹部候補生の人数としては少ないため、5%ほど比率を引き上げているということです。

「評語A以上を25%とする」。

これは、等級ごとに選びに選び抜いた優秀社員を将来の幹部候補として育て上げていくために必要な比率なのです。

端的にいえば、組織活性化の観点からは、上位25%の社員の貢献を認めていくことがとても大切なのです。

もちろん、評語C以下の20%も人件費のバランスを考えるうえでは重要なのですが、社員のやる気を引き出すという点からはAの比率のほうがより大切です。

もし「皆よく頑張ったから」といって、Aを30%以上にしたとすると、そうすると同じAの中でも上下間の業績の開きが大きくなりますから、より高い評点を受けた社員からは「なぜ私と彼とはこんなに業績に差があるのに、同じA評価なのか」と不満が出やすくなります。

◎業績が悪いときでも「評語Aの比率25%」は維持するまた、全体の業績が悪いのだから、評語Aを与えられる者などほとんどいない」として、大半の社員を評語Bとする会社もあります。

しかし、これは賞与原資を調整すべきであって、業績が悪いときもA以上の25%は正しく決めなければいけません。

厳しい環境下にあっても、成果達成に励んでいる社員はいるのであり、努力しても報われないと分かれば、たとえ優秀な社員であっても「どうせ頑張っても評価されないのなら、ほどほどにこなしておけばよい」と、意欲を後退させてしまうことでしょう。

業績が思わしくないときにこそ、評語配分は基本ルールどおりに行うべきだということを経営者は肝に銘じていただきたいと思います。

なかには、「Aは一定の比率をつけることの意義は分かるが、うちの会社には本当に優秀だといえる社員はわずかしかいないから、Aを10%程度にしたいがどうだろうか」と考える社長もいることでしょう。

ただ、逆に10%程度という比率では、Aを取れる顔ぶれが常に固定化してしまい、いつもAは同じ社員、すなわちある意味で「社員にレッテルを貼る」ことになりかねない危険をはらんでいます。

これもまた間違いなのです。

強い組織をつくり、それを維持していくためにも、「評語Aの比率25%」の持つ意味を正しく理解していただきたいと思います。

Aが多すぎても、反対に少なすぎても、いい意味での競争を根付かせ、社員のやる気の総和を最大化することはできないのです。

1賞与の本質は利益の配分である~総額決定方法をルール化しておけば労使ともにメリットがある◎社員のやる気を引き出すように効果的に配分する社員の年間賃金を、月例賃金と賞与に分けてその比率を見ると、賞与は年収の2〜3割近くを占めています。

労働の対価として明確に定義付けすることができる所定内賃金に対して、賞与は利益の配分であり、業績に連動して決められるべきものです。

賞与の本質が利益の配分である以上、社員のやる気を引き出すという賃金政策上の観点からは、会社への貢献度に応じて配分される刺激給としての位置付けが確立されました。

賞与を「利益の配分」であると明確に位置付けたうえで、社員のやる気を引き出すように効果的に配分するためには、①どのような考え方で賞与総額を決めたら良いか②どのようなやり方で社員に配分したら良いかこの2点について、会社としての基本スタンスを確立することが必要です。

◎賞与総額(原資)は、4つのポイントで総合判断するまず、賞与原資の決め方について検討してみましょう。

ひとつの分かりやすい考え方としては、今期会社が産み出した付加価値総額を基準として総額人件費を定め、そのうち月例賃金分を差し引いた残額を賞与原資とするというやり方があります。

計算式を紹介します。

労働分配率は、業種により、また個々の会社によって特徴があるため、過去5年程度を振り返って、自社に見合った水準を設定することになります。

賞与総額の決定方法をルール化しておけば、経営者が原資決定で悩むことも軽減できますし、労使ともに納得のいく水準を見いだしやすくなります。

仮に当期利益の赤字が予想される場合であっても、本業の儲けを示す営業利益の段階で利益が出ているのであれば、原則的には決定している賞与総額決定ルールに従い、営業外費用や特別損失の内容・程度に応じた減額調整に留めるべきでしょう。

実際に賞与総額を決定する際には、次のことなどを考慮して、総合的に判断します。

①前年同期比の営業利益(=本業の利益)の伸び率②一人あたり営業利益率の伸び率③利益が変動した原因の検証④過去の平均支給月数、平均支給額との増減比較社員数の少ない会社であれば、「今年の新卒採用では、良い人材が集まったので予定以上に採用した」「この2年ほどは、ベテラン社員の定年退職が続く」など、総額人件費の変動が大きい時期があるものです。

社員平均支給額や、基本給をベースとした平均支給月数だけで原資決定すると、「前年以上に頑張ったのにもかかわらず、なぜ賞与は減ってしまったのか」といった不平・不満が出やすくなります。

そうならないためにも、先に紹介した4つの経営視点から総合判断をしていただきたいと思います。

実務現場で考えるコト⑦戦略的なベースアップを目指すマスコミで報じられる「賃上げ」という言葉は、「定期昇給」と「ベースアップ」に切り分けて考えるべきもの。

定期昇給は、自社の賃金表とその運用ルールにもとづいて、昇給運用を行う。

これに対し、ベースアップは、文字どおり賃金表の水準(ベース)を引き上げることを意味する。

目的は大きく3つ、①物価上昇に配慮、②会社業績の向上、③自社水準の戦略的決定。

高度成長の時代は、物価上昇に対する賃金の目減り分の補填という性格が強く出ていたが、長期間のデフレ経済を経てベースアップはこのところ0.5%を下回る状況が続いている。

消費者物価上昇率が低ければ、物価に配慮したベースアップの必然性も当然に低くなる。

これからは給与水準の低い会社こそ生産性向上に取り組みつつも、給与水準を引き上げる努力をしていかなければ、安定的な人材の採用・定着はままならない。

優秀な技術を持っている会社でも、給与が世間並み以下では人は集まらないので、戦略的かつ段階的に給与水準を引き上げていくことを最優先に考えなくてはいけない。

中小企業の所定内賃金の平均支給額(組合員ベース)は、主要企業のそれと比べて6万円以上の開きがある。

良い人材を継続して獲得したいのであれば、合理的な給与制度を整備した後の重要テーマとして、「戦略的なベースアップをいかに実現するか」に取り組みたい。

2社員個人への配分方法を考える~評語格差がハッキリ伝われば優秀社員の定着につながる◎メリハリのある賞与配分を実現する賞与総額が決まったら、次は個人配分をいかに効果的に行うかです。

そこで、賞与支給額の基本算式を次のように定めます。

賞与を、基本給比例分と成績比例分に分けて支給するようにします。

賞与配分金額=(基本給比例分+成績比例分)×出勤係数ここでいう成績比例分とは、基本給の中に含まれている年功的な要素を一切廃し、社員の等級格付と成績だけで支給額を決定することであり、貢献度賞与としての性格付けを決定的にするもので、これによってメリハリある賞与配分を実現することができるのです。

つまり、成績比例分の比率を高めるほど、成績による差がはっきりつくようになります。

賞与の本質が利益の配分である以上、本来なら賞与支給基準のすべてが成績比例分でもかまわないのですが、これまで支給額にほとんど差のなかった会社が、いきなり成績比例分を大きくすると、これまでの支給状況が一変します。

急激な変化は、たとえそれが好ましいものであったとしても、不安をあおり、やる気を阻害するので、まずは原資の一部に成績比例分を取り入れ、段階的にその構成比を高めることで、メリハリある賞与配分を実現してほしいものです。

メリハリのある配分とは、・役割責任の軽い下位等級の者より、成果責任を問われる上位等級の者に対して・同じ等級のなかではより成績の優秀な者に対してより厚い配分を行うということです。

つまり、等級別に、また成績評語別に支給基準を決めておけば良いのです。

個別配分のための手順は次の通りです。

手順1成績比例配分の基準として等級別・成績評語別に配分点数を決めておくこの配分点数表は、責任等級と成績評語によるマトリックスです。

この表に基づいて、

社員一人ひとりに配分される点数を決めるようにします。

手順2成績評語(SABCD)に従って、各人別の配分点数を求め、全員の配分点数を合計しておく例えば、Ⅲ等級社員で評語Aなら230点がその社員に与えられます。

Ⅳ等級で評語Cなら170点という具合です。

全社員の点数が確定したら、その総合計点数を計算します。

手順3賞与総額のうち基本給比例分、成績比例分の比率を決定する基本給比例分と成績比例分の割合について、50%:50%、40%:60%というようにパーセンテージで決めるか、賞与原資2・5カ月に対して、1・0カ月:1・5カ月というように、自社の比率を決定しておきます。

手順4成績比例賞与総額を全員の合計点数で割って1点単価を求める1点単価方式と呼ばれる配分方法です。

例えば、成績比例分の原資が2,700万円、全社員の配分点数の総合計が18,000点なら、算式により1点単価は1,500円となります。

手順5各人別に基本給比例分と成績比例分(1点単価×配分点数)を計算し支給額を求める1点単価が1,500円の場合には、下図のように成績比例分の支給額が決定されます。

いま、社員100人規模の会社の、2人のⅣ等級係長について実際にいくら賞与が支給されるのか、その金額を比べてみましょう。

この会社は、基本給比例分が0・8カ月、1点単価は1,500円です。

山田係長(38歳)基本給307,000円賞与評語A田中係長(54歳)基本給394,500円賞与評語B

2人の基本給および成績評語は上記のとおりです。

各賞与支給額を計算してみると、山田係長××==230点)××=660,600円=となります。

年齢が若く基本給額が少ない山田係長でもA評価を取ったことで、標準的な成績で年齢が1回り以上も上の先輩社員を支給額で上回ることができるようになります。

山田係長の成績評語がS、A、Bそれぞれの場合の賞与支給額および田中係長がB、Dであった場合の賞与支給額は次ページ図のようになります。

かなりメリハリの効いた支給格差がつけられていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

◎賞与支給時の金額差で自身の評価を再認識するインパクトが大きい「当社はとても賞与原資を大きく増やすことなどできないし、一人の管理職が抜きんでて優秀だといっても100万円を超えるような賞与はとても無理です」とは、ある製造業の社長(社員150名規模)の言葉ですが、配分方法を変えることによって、Sを取れるような管理職には十分に見栄えのする、同業種・同規模企業の水準を超える支給額を支払うことができるようになるのです。

ひとつ言えることは、成績評価による評語格差がハッキリ伝わる支給額、支給方法は、優秀な社員の定着にとって望ましいということです。

なぜなら、成績評価後のフィードバックでは、成績評語(SABCD)を通知するだけよりも、賞与支給時にその金額差で自身の評価を再認識するインパクトが大きいからです。

賞与は、社員一人ひとりの仕事ぶりに対する会社としての評価を、処遇と共に伝える制度でもあります。

ぜひ、成績に直結した刺激給としての位置付けを明確にしてください。

3支給時の工夫で社員のやる気を引き出す~「やる気の総和を最大化する」を最大限に具現化する瞬間◎社長のメッセージもそえて、社長の想いをしっかり伝える「社員のやる気の総和を最大化する」という、重要なテーマを最も具現化しやすい場面が、賞与支給日に賞与を手渡す瞬間ではないでしょうか。

評語Aの優秀社員が「よし、次も絶対にA以上を取れるようにしよう」と前向きな気持ちを抱き、評語Bの上に位置しながらAを取れなかった社員が「次こそAをとるぞ」と決意を新たにし、残念ながら評語Cを取ってしまった社員が「次は恥ずかしい思いをしないように必ずBクラスに入ろう」と奮起するのは、評価結果が賞与明細という目に見えるかたちで確認できることも大きな要因です。

今も賞与だけは現金で支給するという会社がありますが、それも会社の業績と社員への評価を、肌で感じてもらうための仕掛けであり、経営者の狙いはよく理解できるものです。

これに対し、賞与支給日といっても、賞与明細が総務から事務的に渡されるだけの会社もあるのです。

これでは、来期に向けた動機付けなどできようはずもありません。

賞与支給日には、朝礼等の場で、業績の振り返り、今後の計画と見通し、社員への労いと激励などを、社長のメッセージに込めます。

そして、上司から賞与明細を手渡す時は、一人ひとりに声を掛け、「次はもっと上を目指せ」「来期こそは頑張れ」といった想いも伝えていただくのが良いでしょう。

◎決算賞与の支給にはマイナスの影響もあり慎重に検討する年2回の賞与支給に加えて、事業年度末に決算賞与を支給する会社は、中小企業でも珍しくありません。

当期利益に対して税金を払うよりも、社員に対して報いてやりたいという社長の想いが、形になって表れていると考えられます。

ただし決算賞与は、その事業年度内に支給対象者全員に対して支給額が決定し、実際に支払われることが前提となっているため、社員一人ひとりの貢献に応じた配分とするのが難しいという側面があります。

要するに、個々人の評価や貢献度に応じて支払うというより、等級別もしくは職位別に定額支給とせざるを得ないため、「平等」な支給基準ではあっても、「不公平」だと感じる社員が少なからず出てくるということです。

決算賞与を支給することが、社員のやる気の総和を最大化することにつながるとは、必ずしもいえないのが実情なのです。

このようなマイナスの影響も考えられるため、決算賞与の支給には慎重であるべきです。

決算賞与を支給するのであれば、夏冬の賞与をそれぞれ対所定内賃金の2・0カ月以

上、年間4・0カ月以上を支給していることに加え、個々人の勤務成績や貢献度に応じた配分をしていることが、その前提条件となります。

◎赤字会社でも最低保障額は基本給の1・0カ月を担保する賞与の本質は利益の配分ですから、会社が赤字であれば、賞与を支給できないことになります。

ただ実際には、「利益が出ていないから、賞与は出せない」と直ちに結論付けてしまったら、そこに賃金戦略・人事戦略は不在で、経営を放棄したに等しいといっても過言ではありません。

なぜなら、そのような会社では優秀な人材から社外に流出するでしょうし、社員のやる気に火を付け、来期の利益を獲得することがいっそう難しくなるからです。

もちろん賞与原資を一定の算式から導き出すことができないのですから、これまでの内部留保を取り崩すか、来期の利益を担保として最低限の賞与を支給するように努めるしかありません。

このときの最低保障額の目安は、基本給の1・0カ月です。

この最低限の賞与原資は、当初より月例賃金と同様に必要経費に含めて用意しておくべきでしょう。

賞与は利益の配分ですから、業績不振時には不支給もあり得るのですが、実際に賞与ゼロにしてしまうと社内の活力が大きく損なわれることから、最低限の原資はあらかじめ見込んでおくのです。

これは、急激な業績悪化時においても、社員の日常生活を守るための会社の備えであり、社員を大切にする会社の基本姿勢の表れでもあるのです。

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