MENU

採用・面接で「採ってはいけない人」の見きわめ方【オリジナル】

目次

はじめに

人間が、人間を判断したり、分析したりすることが本当にできるのでしょうか。いやそもそも、人間が人間を理解することすら、本当はできないのかもしれない。私はこれまで、社会保険労務士として人事コンサルタントとして、何千人もの方々と出会ってきましたが、人間は人間をわかろうとすることしか、受け入れることしか、できない、と感じています。

私は、採用のコンサルタントではありません。私の専門は人材育成です。「採ってはいけなかった人」と判断されてしまった方を、「採ってよかった人」にするお手伝いをさせていただいています。もちろん、人間が人間を簡単に変えられるとは思っていません。ただ私は、人の個性や性格は、まるで「習慣」のようなものだと考えています。ですから、その「習慣」を変える支援をさせていただいているのです。

しかし、人間を変えるのは、やはり「場」であり、「人」でしかないとも信じています。私は人間のことが知りたくて、大学では歴史学を専攻しました。歴史の中にこそ、人間があると考えたからです。

たしかに、「部下を過労死で失った上司が、その死を嘆き悲しんで詠んだ歌」が、1200年以上前の万葉集にも残っています。人間の本質は、それほど変わっていないのかもしれません。一方で、歴史には虚構もあります。後づけの解釈によって、歴史は簡単に変わってしまいます。むしろ、虚構の中から生まれる文学の中にこそ、人間の本質が描かれていることもあります。歴史学を学び、文学を貪り、次には心理学に手を出し、哲学を読み耽り、生物学にいたっては、中学の教科書から学び直しました。さらに、人間の行動様式である宗教論をかじり、はては量子力学にたどり着き……

そして、ようやくわかったことがひとつありました。それは、「人間は、自分自身のことですらよくわかっていない」ということです。まさに、メーテルリンクの『青い鳥』を地でいくようなお話です。

決して、ひと通りの答えがあるわけではないのが「人事」の世界です。私のメンターの1人である阪口武先生は、「だからこそ、人事パーソンたるものは哲学を持て」とおっしゃいました。道に迷ったとき、確認すべきお前の北極星は何だ、と。本書では、私なりの採用の哲学をご紹介しようと思います。ピーター・ドラッカーは、著作『マネジメント』の中でこう語っています。「マネジャーに必要な資質は〝真摯さ〟である」と。どこか切ないテーマの本書ですが、人間を諦めずに、真摯に人間と自分自身に向き合ってきたこの40年があったからこそ、今このタイミングで本書を書く機会がいただけたのかもしれません。私は、人は必要なタイミングで、必要な人に出会うことができる力を持っていると信じています。本書が、みなさまにとって、「出会えてよかった」本になりますように。

目次………採用・面接で「採ってはいけない人」の見きわめ方

はじめに

1章▼もし、問題社員を採用してしまうと

1◆生涯賃金2億円の損失だけではすまない採用ミス

2◆採用ミスは、トッププレイヤーの仕事を阻害する

3◆採用ミスは、職場メンバーの時間を食い潰す

4◆採用ミスは、企業ブランドを傷つける

5◆採用ミスは、現場の人事に対する信用を失墜させる

2章▼問題社員の共通点とは

1◆他者否定、自己否定の「精神的こども①」パターン

2◆基本的な社会人生活に支障をきたす「精神的こども②」パターン

3◆いわれたことしかできない指示待ち、受身パターン

4◆まわりにかまってもらえない面倒くさいパターン

5◆熱心だが結果を出せない空回りパターン

6◆問題社員の真の共通点

3章▼問題社員を入口段階で見きわめよう

1◆「片付け」の〝捨て方〟と、採用の〝落とし方〟は違う

2◆採用に主観が入ってしまう理由

3◆問題社員は、こうして採用試験を潜り抜ける

4◆今どきの人事担当者の苦悩

5◆そもそも、人が人を見きわめることは可能か

4章▼書類選考で見きわめよう

1◆価値観検査で見抜けなかった理由

2◆気質・性格検査で見抜けなかった理由

3◆ストレス検査で見抜けなかった理由

4◆認知をこう問えば、書類で問題社員が見きわめられる

5章▼面接で見きわめよう

1◆現場社員の面接で見抜けなかった理由

2◆これまでの面接シートで見抜けなかった理由

3◆役員面接では見きわめなくてもいい

4◆コミュニケーション力を見るための面接では、問題社員は見きわめられない

5◆過去と現在をこう問えば、面接で問題社員が見きわめられる

6章▼筆記試験で見きわめよう

1◆出身校の偏差値で見抜けなかった理由

2◆公務員試験型テストで見抜けなかった理由

3◆外部の業者に試験委託して見抜けなかった理由

4◆筆記試験の目的

5◆職場にあるものを使って、試験で問題社員が見きわめられる

7章▼グループディスカッションで見きわめよう

1◆メンタル不調に続く、人事パーソンの悩みごと

2◆グループディスカッションは対策をうたれている

3◆グループディスカッションで〝ガキ大将〟を採用してしまった会社

4◆グループディスカッションで応募者を学習させる自治体

5◆選考ステップを先に決めると失敗する

8章▼採用のミスマッチをなくすために

1◆こんなところからでも、まだまだ見きわめられる

2◆採用担当者も、応募者から「見られている」

3◆会社から認められている採用担当者とは

4◆アマチュア採用担当者、スペシャリスト採用担当者、プロ採用担当者の違い

5◆採用担当者としての自信と誇りと責任

1章▼もし、問題社員を採用してしまうと

1生涯賃金2億円の損失だけではすまない採用ミス

他の部門から、人事に若手社員が異動してくると、評価、配置、処遇、育成、労務管理、人事制度等、数ある職務の中で、採用から経験させられることが多いと思います。実際、私もそうでした。おそらく、新卒採用に限っては、対象者である20歳前後の学生と皮膚感覚が近いという理由からなのでしょう。また、退職を人事労務の出口だとすると、採用は入口です。入口だから若手が担当する……そこには、一理あるかもしれません。しかし、みなさま方の会社では、仮に2億円のプラントを購入するとき、その重要なとっかかりの部分を若手社員に任せるでしょうか。新卒であれば、もし定年まで勤め上げたとしたら、その生涯賃金は2億円〜3億円にもなります。たとえ、採用活動という権限が委譲できたとしても、採用の責任までは委譲することはできないはずです。そもそも、御社の採用の目的は何でしょうか[参考1]。組織の使命は「続くこと」です。成長することではなく、続くことなのです。続くために成長が必要なのであれば、それもまたよしです。続くからこそ、社員を雇用し続けることができるのだし、顧客に次のベネフィットを提供することもできます。民間企業であれば、法人税を払うこともできるというわけです。

その税金が、回りまわって被災地の復興に使われるのなら、組織活動は、すなわち社会活動であり、国家経営の基盤ともいえるでしょう。しかし、この「続くこと」は、それほど簡単なことではなさそうです。帝国データバンクが行なった、長寿企業に関する実態調査によると、創業100年以上の企業(個人経営、各種法人を含む)は、2010年8月時点で約2万社ありますが、これは現存する企業の1%にも足りません。現存する企業数も、日々創業と廃業を繰り返しているうえでの数字ですから、実際ひとつの企業が100年続く可能性は、この1%の10分の1、100分の1になることは想像に難くありません。続くためには、「継ぐ」必要があります。人が場を作り場が人を作る。この循環があってこそ、組織は「続く」のです。採用活動は、この新陳代謝の入口にあたります。これは非常に重要で、付加価値の高い人事の職務のひとつです。そう考えると「採ってはならない人」とは、この企業存続という採用活動の目的から逸脱する人、と言い換えることができるでしょう。採用のミスマッチは、その当事者の生涯賃金における損害となるだけでなく、企業目的を阻害しかねません。単に人材の是非をセレクションするのではなく、企業存続のために直接労働市場から募集して選考し、雇用契約を締結することが「採用」です。企業活動を円滑に遂行するうえで必要とされる労働サービスが、必要なときに必要な量、適正な価格で提供されるように、人事パーソンは、まず自社を理解するところからはじめなければなりません。ましてや、資材の調達ではなく、人間の調達です。人間は、「変化」するものです。2億円で調達したプラントは毎年、減価償却されます。しかし、人間は経験を重ね、年を重ねることによって、減価償却どころか、むしろ増価集積されるのです。何と、壮大で重大な職務でしょう。採用担当者の方にはまず、このような職務に向き合う気概と責任感をご確認いただきたいと思います。2採用ミスは、トッププレイヤーの仕事を阻害する採用のミスマッチは、他にも波及します。はじめににも書いたように、私の本業は、採用ではなく人材育成です。毎年3月になると、各社で新入社員の育成を担当するメンターやチューター、ブラザー&シスター育成のご依頼が相次ぎます(企業によって名称が違ったり、若干役割が違うこともありますが、以下、メンターと総称)。採用以上に、「育成」は組織の「存続する」という目的にとって重要な条件となるため、新人育成に抜擢されるメンターは、職場においては「仕事ができる人」という評価を受けていることが少なくありません。ダイヤモンドの原石は、ダイヤモンドの粉でしか磨

けないということでしょう。だいたい仕事というものは、仕事ができる人のところに集まります。後進の育成という仕事もまた、仕事ができる人のところに依頼が来ることが多いようです。次ページにあるのは、そんな仕事ができるメンターの方々から、新入社員の入社後、私に寄せられた質問の数々です[参考2]。

メンターたちが、後進育成に思い悩み苦しんでいる様子が目に浮かびます。もちろん、「情けは人のためならず」です。後進を育成するスキルは、仕事に必要な能力のひとつだし、後輩を育成する中で、自分自身も成長することがあります。20年前は、新入社員を育成する担当者を決めることはあまりなかったように思います。中途採用者も含めた「新人」が職場にやって来たら、職場全体でその新人を育てたものです。職場の全員が、新人に「ちょっかい」を出しました。私自身も、そうして職場で育まれてきました。また、仕事は見て覚えるものでした。先輩がどんな電話対応をしているのか。どんな企画書を書けばいいのかなど、先輩の仕事ぶりを少しでも盗もうとしたものです。しかし、バブルが崩壊し、人事の世界にも「失われた20年」と、後にいわれる時代がやって来ました。欧米から、さまざまな仕組みやシステムが輸入されたのも、この頃のことです。評価は、能力から成果に対して行なわれるようになりました。いわゆる、成果主義の導入が進み、一人ひとりの職務が明確になりました。「あなたが、新入社員の育成担当です」と、明確に職務記述書に記載されることがなければ、誰も新入社員の育成に手を出さなくなりました。また、携帯電話やパソコンが職場に導入された結果、仕事が見えなくなったというのも特徴的です。職場の電話が鳴るのではなく、個人個人が企業から持たされた携帯電話が鳴るようになりました。またメールの普及によって、緊急性のない重要な案件は、言葉ではなく、文字でやりとりされるようになりました。そして、1枚1枚手書きされていた企画書は、パソコンで作成日時だけを変えて上書きすればすむようになりました。このように、先輩の行動を観察していても、その仕事ぶりを真似することが難しくなったのです。それにもまして、新入社員の側も「時間に追われて忙しそう」な先輩や上司には、声をかけづらくなりました。「この人があなたの育成担当です。何かわからないことがあったら、メンターに聞いてください」といっておかなければ、誰かをつかまえて「教えを乞う」こともしなくなりました。今、教育の現場において、教育は「サービス」となっています。医者が、患者を「患者様」と呼ぶように、教師が生徒を「生徒様」として扱う時代です。さらに、高校や大学教育の現場に、生徒による教師の評価制度が導入されている時代ですから、若手世代には、「仕事は教えてもらうもの」という意識が当たり前に存在しています。そんな時代背景の中で登場した、新入社員育成の仕組みのひとつが「メンター制度」でした。それはそれで必要な仕組みなのかもしれませんが、最後は人間と人間でやることです。新入社員とメンターの相性がよければいいのですが、どうも肌が合わない、どうしてもうまくやれないという組み合わせも出てくるし、新入社員がなかなか育たない場合、メ

TA)を提唱したエリック・バーンは、「過去と他人は変えられない。でも、自分と未来は変えられる」という名言を残していますが、変わらないものや変えられないもので苦しむことは非常に非効率的です。人事パーソンとしては、しっかり変わるものに向き合っていくべきである、と私は常々考えています。研修では、よく〝意識改革〟などといわれますが、人間の意識はそう簡単に変わるものではありません。しかし、比較的変容させやすいものが「行動」です。たとえば、「職場メンバーに感謝の気持ちを表わしましょう」というスローガンを掲げるより、「1日に10回、職場のメンバーに〝ありがとう〟といってみよう」と宣言したほうが効果的です。ちなみに、これは部下指導でも同じです。「もっと、丁寧に仕事をしてください」では、多分何も変わることはないでしょう。「電話の受話器は、がちゃんと置かず、音を立てないように両手で優しく電話に乗せてください」とまで伝えなければ、わかったようで何もわからないものです。前者は、意識を伝えようとしているからです。行動レベルで伝えないと、それこそ意識の共有化は図れないのです。とはいえ、行動を変えることは、そう簡単なことではありません。行動には、それぞれの「癖」が伴うからです。もちろん、その行動のパターンや癖を自己理解することが自己革新の第一歩なのですが、メンタルヘルスの治療にも活用される行動療法では、行動を変えるためにこそ、行動を選択するというアプローチを取ります。選択が変われば、それに伴って行動が変わるからです。選択を変えることは、比較的変えやすいことのひとつです。しかし、それ以上に変えやすいものがあります。それは、「時間の使い方」です。最近では、「ワーク・ライフ・バランス」というキーワードが、人事の世界でもよく取りざたされていますが、時間の長さは誰にも変えることはできません。1日8時間の労働時間は増減できるものではないし、「ノーワークノーペイの原則」もあります。

ましてや、人生の長さは誰にも決めることはできません。それぞれの寿命があるからです。しかし、人生の長さは変えられなくても、人生の深さは変えることができます。同様に、職場での労働時間の長さは変えられなくても、時間の使い方やその時間の深みは変えることができます。先ほどの、エリック・バーンに端を発する交流分析においては、「時間」というものを、その使い方によって六つに分類することがあります[参考3]。

たとえば、会議に参加していても、「今日のお昼は何にしようかな」などとうわの空でいたら、それは「ひきこもり」のような時間の使い方をしていることになります。「いや、会議は儀式だ」と受け止める方がいれば、「会議は雑談や憂さ晴らしのような時間で、みんなの不平不満や愚痴のガス抜きの場です」と考えている人もいるかもしれません。一方、「会議は生産性を上げるためのツールだ」と考えると、会議は「仕事」になるし、「会議のたびに、うちの所長と次長は、いつも押し問答をして、いっこうに解決に向かいません」というなら、会議も「心理ゲーム」になっていると考えられます。職場のメンバーが、お互いの腹を割って、この職場の来年、再来年、そして10年後をどうしていきたいのか。そして、そこに自分はどのように関わっていきたいのかを、お互いを尊重し合いながら本音で語り合ったとしたら、その時間は「親密」な時間の使い方をしたことになります。会議という時間の使い方ひとつ取っても、その本質を見れば一様ではないのです。みなさんの会社では、社員の方々はいったい何にエネルギーを使っているでしょうか。また逆に、もっと何にエネルギーを使うべきだと思っているでしょうか。採用ミスは、この時間の使い方の中で職場の「心理ゲーム」を増やすことにつながりかねません。ミスマッチの当事者が、心理ゲーム戦を周囲の方に持ちかけるからです。もちろん、本人にはそのような意識はありません。また周囲だって、そんなゲームを持ちかけられたという認識はないでしょう。だからこそ、ゲームは何度も繰り返され、職場メンバーの「時間泥棒」になるのです。労務管理面から、「ワーク・ライフ・バランス」を実現しようとするならば、労働時間の短縮、残業の軽減はもちろんですが、社員の労働時間の質を変える、という観点も重要です。そういう意味では、せめてトラブルメーカーになり得る時間泥棒は、できるだけ採用しないほうがいいでしょう。4採用ミスは、企業ブランドを傷つける私たち人事パーソンが、今こうして「採ってはならない人の見きわめ方」を学ぶ一方で、就職活動を控えた学生たち、あるいは転職を検討中のビジネスマンたちは、「ブラック企業の見きわめ方」といった情報を入手したり、セミナーに参加したりしています。インターネットで「ブラック企業」と検索すると、数多くの検索結果が表示されます[参考4]。

ブラック企業の外部からの見きわめ方として、たとえばWikipediaでは、「求人広告」「面接」「職場」「採用」「退職者」「データ・その他」等の切り口が挙げられています。人事の採用活動に関わる項目がほとんどです。採用は、求人者と求職者の「見きわめ合い」の攻防戦のようにすら感じられます。企業と求職者同士が互いに誠実、かつ等身大で向き合うことができれば一番いいのですが、よくも悪くも人間同士です。また、きれいごとだけで説明できない人事の世界です。私が人事部門に異動になったとき、敬愛する私の先輩は自身の座右の銘として、「清濁併せ呑む」という言葉を教えてくれました。これは、「清も濁もある人事の世界。だからこそ、多少の濁流は呑みこめる清流たれ」ということです。この教えは、私の人事哲学のひとつにもなっています。いずれにせよ、採用のミスマッチを引き起こし続けて、次から次へと採用した方をすぐに退職させることになれば、「あそこの会社は、新人が次から次へと辞めるけど、大丈夫なのかな」「あちらは、もしかしたらブラック企業なのかもしれない」などという噂が立ちかねません。そうなると、採用活動の選抜以前の問題、求職者の母集団形成そのものに影響を与えます。どんなにできる人を見きわめることができるノウハウを持っている人事であっても、母集団そのものの質が低ければ、いい採用などできるはずがありません。実際、「採用に悩んでいる」という担当者の相談を受けてみると、選抜の問題ではなく、母集団形成や人材育成のほうに問題の原因であることが少なくありません。たとえば、300人なら300人の母集団から、いかに10人を選抜するのか、というのが見きわめ方です。しかし、300人のどこからどう採っても、すでにミスマッチということもあり得るし、せっかく採用した10人を、育てきることができずに辞めさせてしまうこともあります。自社に合った採用を行ない、採った人材をしっかりと育んで組織で活躍してもらうことは、次の世代の母集団形成によい影響を及ぼすことにもなります。逆に、採用ミスの繰り返しは、企業ブランドを傷つける結果になります。5採用ミスは、現場の人事に対する信用を失墜させる生涯賃金2億円の損失だけではすまない採用ミスは、トッププレイヤーの仕事を阻害するし、職場メンバーの時間を食い潰し、ひいては企業ブランドを傷つけることにもなります。その結果、採用担当者として会社に顔向けできない事態になります。しかし、おそらく多くの採用担当者が、本書のきっかけとなった私のセミナーに足を運んでくださった一番の理由は、もっと他にあると思われます。採用のミスマッチの結果、現場は「何で、人事部はこんな人を採用したのですか」と、

その非難の矛先を人事に向けてくることになります。できれば、現場から「いい人を採用してくれてありがとう。育てがいがあるよ。彼(彼女)を育てていると、私たちも一緒に成長することができるよ」といわれたいと思うのは、きわめて当然なことです。人間は、一人ひとりがまったく異なる存在です。しかし、こんなに違うのに、人間が喧嘩をする理由は三つか四つぐらいしかないのかもしれません。自分をわかってほしい。助けてほしい。愛してほしい。認めてほしい……根源的には、こうしたところに行き着くはずです。人事部には、多くの人事情報が集積されています。そこでは、社員の評価や給与といった数字を扱うこともあります。人事権は本来、経営幹部にあるものですが、人事がその人事権を握っていると思っている社員がいることからから、「人事部に異動になってから、同期との飲み会に誘われなくなったよ。こちらも、飲んでついよけいな数字の話をしちゃうかもしれないしね」という方も少なくないでしょう。しかし、人事パーソンとて人間です。わかってほしいし、認めてほしいし、「いい採用をしてくれてありがとう」と、ほめてほしいのです。こうした、人間としてきわめて当然な気持ちが、このセミナーの集客につながったのではないか、と私は考えています。そして何より、人事部門の「顧客は誰か」ということではないでしょうか。経営理念の実現に人事側面から貢献できるように、一人ひとりの社員がその持てる能力や可能性を最大限に発揮できるように、人事パーソンは、人事理念から経営理念を作り、人事制度を構築し、その制度や仕組みの中で、社員の自己実現や成長を促します[参考5]。

ですから、人事部の顧客は、経営理念の発信者である経営者であり、かつ一人ひとりの社員である、ということになります。しかし、ここで忘れてはならないことがあります。人事部が構築した制度や仕組みを運用するのは、現場のラインの管理職です。人事の最大の顧客は、このラインの管理職である、と私は考えています。その理念や制度を理解してもらい、これらのツールを使って、部下を日々マネジメントしているのは、ラインの管理職の方々です。ですから、ラインの管理職と人事部の間に信頼関係がなければ、人事の作った仕組みは、ただの絵に描いた餅でしかありません[参考6]。

つまり、採用ミスで、ラインの管理職の、人事に対する信用を失墜させると、それは、次なる問題を生みかねないのです。採用は、現場の労務管理のスタート地点です。スタートでつまずきたくない、という人事パーソンの素直な気持ちもまた、セミナーをヒットさせた要因のひとつと私は分析しています。

ところで、「採ってはいけない人」とは、どんな人を指すのでしょうか。もちろん、会社ごとに求める人物像があり、組織風土に合う・合わない、つまり、相性というものもあるでしょう(個人的に、最も大きな風土の違いは、スピードの違いだと考えています。意思決定のスピード、レスポンスのスピード──これらは、各社ごとに見事に違います)。また、〝混ぜたら危険〟という組み合わせもあります。某大学の就職支援の窓口の方が、こうおっしゃっていました。「どんなに不景気でも、内定を取れる学生は1人で何社も内定を取る。しかし、取れない学生は、どんなに景気がいいときでもまったく取れない。景気不景気のせいにしたらダメだね。不景気なときだって、雨は全員に降っているのだから」不思議だとは思いませんか。それぞれの会社が、自社にマッチした人材を採用すればいいのに、複数の会社がある1人の学生に重複して内定を出すのです。ということは、合う・合わないとは別に、どんな会社にも共通する、ほしい人物像、仕事ができる人物像がある、ということかもしれません。転じて、どんな会社にも、共通して「採ってはならない人物像」がある、ということかもしれません。各社、それぞれの風土や社員像があるとはいえ、やはり各社が「問題としている社員」にはどこかしら、何らかの共通点がある、と私は感じています。

2章▼問題社員の共通点とは

1他者否定、自己否定の「精神的こども①」パターン

まずは、最近圧倒的に相談件数が増えた、何かあれば、決まって周囲を批判する「他者攻撃型」、そしてアドバイスにすら反論する「自己主張型」社員です。

・自分の行動やミスに対する責任を取らずに、何か問題が起こったり、うまくいかないことがあると、それらをすべて他人や環境のせいにする

・自分の行動に対して責任転嫁(責任回避)をしたり、自分のミスや短所を棚に上げて他人を厳しく非難する

・無責任な言動や他罰的な振る舞いによって、最終的には周囲に嫌われ、孤立する責任転嫁に止まらず、さらには他者非難が高じて、

・どうでもいいような、相手の些細なミスや失敗、欠点を探し出して相手を非難する

・上司からの指摘に対して、むしろ上司の挙げ足を取る

・他者の「粗探し」をすることで、自分を正当化、自己肯定する

自分の意見を述べることと、独りよがりを履き違えているのか、最近若手に増えているパターンです。もしくは、一見素直で従順でも、実は「最後は自己主張」するパターンです。

・相手に対して、指示や援助を求めながらも、相手がアドバイスや助言をすると、「はい、でも」という反対意見や不同意を述べる

・相手がどんな意見や提案を出しても、それにしたがわない反論や言い訳をするため、相手はうんざりしたり、無力感にとらわれたり感情的になって怒ってしまう

これらのパターンには、いずれも他者否定の態度が根底に見受けられます。話は変わりますが昔、「3年B組金八先生」というドラマの中で、熱血教師役の武田鉄矢さんが演じる坂本金八先生のこんなセリフがありました。

「人は人によって支えられ、人の間で人間として磨かれていく」セリフと同時に、黒板に書かれる大きな「人」という漢字一字。こども心によく覚えているシーンです。

それはもっともな話なのですが、「人」という漢字自体は、私には「依存関係」の象徴のように思えてなりません。第1画目は、第2画目を上から押しつけて支配しているように見えながらも、実は第1画目を支えているのは第2画目のほうです。第2画目がなくなったら、第1画目は倒れてしまいます。他者否定のパターンは、まるでこの第1画目のように思えるのです。逆に、第2画目は「自己否定」パターンの象徴のように思えます。

・断りきれずに、無理をして過大な責任を背負い込んだり、複数の役割や仕事を引き受けることで、自分を追い込み、いつも疲労困憊してしまう

・自分の能力・体力の限界を考えずに、あれもこれも完璧にやろうとしたあげく、心身の疲労が蓄積して倒れてしまい、生産的な結果を出せずに終わってしまうもしくは、最終的に「自己否定」を証明してみせる

ようなパターンもあります。

・同じようなミスや失敗、他者から否定されるような行動を繰り返して、相手の嫌悪や怒りを誘発する・「自分は、どうせやってもダメ」「自分は、拒絶されても仕方がない」という態度を取ってしまうため、相手にも虚無感や罪悪感を感じさせてしまうこれらは、いずれも自己否定の態度が根底に見受けられます。他者否定、自己否定のいずれも、相手や自分の価値や能力、可能性を正当に評価できない状況といえるでしょう。つまり、相手や自分を過小評価してしまうことになるのです。相手を過小評価する場合は、自分を過大評価してしまうし、逆に自分を過小評価する場合は、相手を過大評価してしまうことになります。こうなってしまうと、周囲からは「面倒くさい人」「採ってはならなかった人」という評価を下されかねません。私は人との信頼関係は、「人」という漢字のイメージではなく、アルファベットの「H」のようなイメージを持っています。精神的に自立している2人の大人が手をつないでいるようなイメージです。

採用担当のみなさんは、ぜひ「大人」を採用するようにしてください。要は、どんな会社にも共通する「採ってはならない人」のイメージのひとつは、たとえるなら、「身体は大人、心はこども」というものです。

2基本的な社会人生活に支障をきたす「精神的こども②」パターン

「大人」という意味では、社会に出るまでに、身につけているべき発達課題をこなすことができていない方は、採ってはならない人といえます。年相応の発達課題がこなせていないということは、これからの成長ぶりにも、当然不安が感じられます。

採用の時点が、その人の成長の頂点ではなく、まだ「伸びしろ」があること、そして育つ力があることは、採用のための重要な着眼点のひとつです。では、たとえば新卒の採用であれば、それまでに身につけているべき発達課題とはどういったものでしょうか。

左表は、今年高校生になる私の息子が、今から4年前、小学校から最後にもらってきた6枚目の通知表からの抜粋です。通常、通知表の左側には国語や算数の成績が記載されています。そして、右側にはこんなことが書かれています[参考1]。

何もいわれなければ、どこかの企業の行動基準のようです。人が人を育む現場には、当然「こんな人になってほしい」というものがあります。これは、一人ひとりのこどもの強みに、担任の先生が「○」をつけるという仕組みです。「小学6年生のこどもたちに期待する行動の一覧」ともいえるでしょう。

当然のことですが、20歳を過ぎてこうした行動が取れていないということは、それまでに身につけておくべき発達課題がこなせていない、ということになります。職業生活をはじめる前に、それまでに学ぶべきものを学んでいない人は要注意です。採用担当者が、仕事ができるできない以前に、挨拶や最低限のマナーを面接の際に重視するのは、至極当然でもっともなことです。入社後に育成できる部分は、入社後に育成したらいいでしょう。むしろ採用の段階では、入社後の育成が難しい部分、たとえば小中学生時代に身につけてきているはずの部分が身についていない方は、要注意とするべきです。営業マンに、折衝力やコミュニケーション能力は必要ですが、ビジネスでは知識やスキルではなく、その営業マンの人間的魅力を買っていただく部分も多分にあります。このあたりの要素は、引き続き重視していくべきです。採用選考の途中段階で、高校や大学等の最終学歴の成績表を提出させる企業は多いはずです。しかし、大学時代の成績表ではなく、小学生時代の通知表を見ることができたら、その方の根っこの部分が理解できるかもしれません[参考2]。

「大人」に関して補足しておきます。人類の歴史の中で、多くの先人たちが「精神的に大人であるということはどのような状態か」ということを研究してきました。マズローしかり、ユングしかり、フランクルしかり、です。ここにオルポート、ロジャース、フロム、パールズを加えた7名それぞれの「健康な人格の特性」に関わる研究の共通点をまとめたのがデュアン・シュルツです[参考3]。

これを、すべて網羅しているような完璧な人間はいないかもしれませんが、この項目の重要性を理解して、それに向かって努力を積み重ねている方は、ある意味「大人」といっていいかもしれません。

3いわれたことしかできない指示待ち、受身パターン

最近、増えているもうひとつの「問題社員」のパターンが、「指示待ち族」「受身型」というものです。実際、採用や部下育成に次いで御依頼の多い研修テーマは、「自律型社員の育成」に関わるものです。もちろん、受身型の社員、指示待ち族の存在は、何も今にはじまったことではありません。今から20年以上前に出版された部下育成の書籍にも、「今どきの新人は指示待ちで受け身である」と記されています[参考4]。

経験者(先輩、上司)から見れば、未経験者(新人)は、往々にしてこのように映るのかもしれません。しかし、もしかしたらその絶対数が多くなっているのではないか、と企業教育や大学教育の現場にいて感じずにはいられません。ここでひとつ、採用担当者にぜひ知っておいていただきたい考え方をひとつご紹介します。学校教育に携わる方にはよく知られた、E・H・エリクソンによる発達心理の理論のひとつです。エリクソンは、青年期に身体の成長が完了したところ、心の発達も完了してしまうとは考えませんでした。私も以前、通信大学の単位で学んだのですが、学問的にはなかなか難しいので、心理学の師である、man’sResource代表である星野惠子先生のもとで学んだ解釈の仕方で説明してみます(ただし、受け止めたのは私なので、解釈の責任は私にあります)[参考5]。

E・H・エリクソンが提唱した「発達課題」の考え方によると、人間は人生で八つの障害物に向き合うとされています。障害物というと難しく感じられますが、人は誰しも、人生で八つのハードルに向き合うと考えてみてください。最初のハードルは、生まれた瞬間から目の前に存在します。お腹が空いた。泣いてみた。ミルクが与えられた。おむつが濡れて気持ちが悪い。泣いてみた。おむつを換えてもらえた。そうすると、赤ちゃんは悟ります。「世の中はなかなか信頼できそうなところだ」と。ところが、泣いても喚いても、いっこうにミルクが与えてもらえない。おむつを換えてもらえない。すると、赤ちゃんは不信感を感じ、そして学びます。「世の中はなかなか過酷そうだ」ということを。母親も、いつもすぐ駆けつけてやれるわけではなく、また手が離せないこともあるでしょう。母親が、いつでも飛んで来てくれないこともあれば、来てくれることもある。10対0ではなく、5対5でもなく、気持ち6対4程度で、対応してくれることのほうが多ければ、赤ちゃんはその葛藤を乗り越えることができます。そして、そのハードルを乗り越えることで手にできるものが、「希望」という名の宝物です。そんな赤ちゃんも、1才を過ぎると、自分の体を使って自分のやりたいことができるようになってきます。今までは、泣いて喚いてやりたいことを伝え、母親にやってもらうことしかできませんでした。しかしこの頃になると、自分で自分の筋肉を使って物事をなし得るようになってきます。たとえば、この時期のこどもにとって、ティッシュケースからティッシュペーパーを次々と引っ張り出すことは、かなり楽しい遊びです。楽しくてたまらない、次々に飛び出すティッシュペーパー。ところが、それがお母さんに見つかると、「そんなことをしては駄目!」と叱られます。こどもには、その意味がわかりません。こんなに楽しいことを、お母さんという、この私の一番身近にいる存在が、「やってはならない」というからです。そして、心が疑惑でいっぱいになります。また、この時期にはトイレトレーニングがはじまるため、「お漏らしをすると恥ずかしい」ということも、「しつけ」として学びます。やってはならないこと、そして、できないこともある。しかし、往々にして私はこの自分自身の体を使って、やりたいことをなすことができる。この感覚。このハードルを乗り越えて、こどもは「意志」という名の宝物を手に入れます。ですからこの時期に、母親がこどものやりたいことを全部否定すると葛藤が起こらなくなるし、逆にこどもがやりたがることをすべてやらせてしまうと、やはり葛藤が起こりま

せん。そのため、この時期の親、養育者(とくに母親)とこどもとの関わり方は、非常に重要になります。要は、この二つ目の葛藤を乗り越えていないと、比較的受身で指示待ちの人生態度を取ることにつながりやすくなります。環境と経験が人間を作ります。それは、社会人になってからも同様です。どんな組織でどんな仕事の与えられ方をするのか。とくに、社会人になって最初の3年間の環境と経験は非常に重要です。同様に、幼少期、青年期の環境と経験。どんな家庭環境で、どんな経験をしてきたのか。その成育歴が与える影響は計り知れません。しかしながら、採用において経験はいいとしても、その人が育まれてきた環境をたずねることは人権問題に発展しかねません。両親のことは、聞いてはならないタブーのひとつです。両親とその人とは別人格だからです。コラム将棋の米長邦雄名人(2005年日本将棋連盟会長)は有望な若手棋士が現われると、わざわざ生家を訪問して両親と会って観察し、話をしたそうです。タイトルを取るような強い若手棋士が生まれ育ってきた環境は決まって、とにかく明るいのびのびした家庭で、かつ両親の仲がいいという共通点があるそうです。それは、羽生善冶さんしかり、谷川浩司さんしかりです。しかし、前述した通り、成育歴は人間形成に大きな影響を与えることも事実です。その人らしさは、「未来」にあるものではありません。その人らしさは「過去」にしかないのです。それでも、まだ今から15年ほど前までは、多少は両親のことを聞くことができました。今のように携帯電話がない時代ですから、二次面接、三次面接と進まれた方に連絡を取るためには、その方の家庭に電話を入れることになります。そのときに電話に出てくださった方が、たとえば「恐れ入ります。息子は、ただ今外出中です。選考の件でしょうか。息子から話は聞いております。お世話になっております。私でよければ、お話を承りますが……」と対応してくれるか、もしくは「えっ?誰ですか。何の用ですか……」といった対応をされるのか。この両者のような親御さんのもとで10年20年育ってきたということを、それはそれでひとつの事実として認識し、解釈することも可能でした。ところが、今や一人ひとりが携帯やスマホを持つ時代です。その結果、その方の生活環境がまったくわからなくなってしまったのです。この命題に、採用の現場ではどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

4まわりにかまってもらえない面倒くさいパターン

話を、発達課題に戻します。幼稚園に入る頃になると、リーダーシップの種が芽生えはじめます。「みんなでお砂場に行こう」と友だちを引っ張っていく。ところが、あまり強引過ぎると、「いや」といわれてしまいます。こどもは罪悪感でいっぱいになってしまうかもしれません。しかしある意味、この時期に友だちとしっかり喧嘩をすることは、大事な葛藤のひとつです。この葛藤を乗り越えることができると、人は「目的意識」という宝物を手に入れることができます。小学校に入学すると、勉強をしたり運動することになります。何かをなすことは、生産性につながります。ところが、いくら頑張ってもできないことがあります。「私は、どんなに頑張っても、かけっこではあの子にかなわない。悔しい」、と、劣等感でいっぱいになります。しかし、頑張ったら、かけっこのタイムがこれだけ伸びたといえるようにもなる。この葛藤を乗り越えて、こどもは「有能感」という宝物を手にすることになります。私も、頑張ったらできるようになるのだという感覚。そのため、この時期に友だちと競争することは、大切なことです。にもかかわらず、今どきは友だちと競争をしたり、喧嘩すらできないこどもが増えているそうです。ということは、葛藤が起こらないということです。そのため、葛藤を乗り越えた先にある宝物を、手にすることができなくなってしまうということです。中学生ぐらいになってくると、気の合う友だちと「つるみ」はじめます。似た者同士ということは、そこに〝自分らしさ〟があるということです。つまり、自我の確立の時期、思春期です。ですから、この時期の男の子は、母親のことを「うっとおしい」と感じます。また、この時期の女の子は、父親のことを「嫌い」だと感じます。お互いの最たる違いのひとつである「性差」が受け入れられる時期ではないからです。いわゆる反抗期です。しかし、気が合うと思っていた友だちでも、やはりどこかに違いがあります。徐々にその違いを受け入れていきながら、人は、恋愛をすることができるようになります。これらのハードルは、この時期に乗り越えるのがベストということではなく、この時期に乗り越えると、一番スムーズに成長することができるというだけです。

もし、ハードルを飛び損なっても、また人生のどこかのタイミングでそのハードルを飛び直す時期がやってきます。ただし、そのときには、以前よりもハードルの高さは高くなっているかもしれません。どこかでハードルを飛び損なってしまい、そのまま飛び直すこともなく大人になってしまった人は、少し「面倒くさい人」になってしまうかもしれません。もちろん、誰もがひとつや二つのハードルを飛び損ねることがあります。企業として、そのハードルを飛び直すチャンスを与えられるのであればいいのですが、そうでなければ、飛び損なったハードルを抱えたままの方は、企業としては「採ってはならなかった人」といえるかもしれません。では、なぜ「面倒くさい人」が問題社員になってしまうのでしょうか。面倒くさい方に対しては、周囲が関わってくれたり、育てようとはしてくれないからです。新入社員研修などで、よく流用される「ジョハリの窓」という考え方があります。心理学者ジョセフ・ルフト(JosephLuft)とハリー・インガム(HarryIngham)が提唱した「対人関係における気づきのグラフモデル」です[参考6]。

「開放の窓」部分が大きい方は、自己開示が進んでいるため成長もしやすいのです。では、ここを広げるためにはどうすればいいのでしょうか。ひとつには、秘密の窓の領域を小さくすることです。では、そのためには何が必要でしょうか。そう、まさに自己開示が必要となるのです。「私は今、こう感じている」「こう思う私がいる」と、今、自分の中で、相手との関係で起こっている気持ちをオープンに相手に伝えるわけですから、「勇気」が必要です。自己開示には痛みが伴うこともあります。そしてもうひとつは、盲点の窓の領域を小さくすることです。そのためには何が必要でしょうか。それは、自分では気づいていない部分を指摘してくれる、もうひとりの人間の存在が必要となります。つまり、相手の自己開示は、自分にとってのフィードバックになるわけです。そして、そのような指摘があったとき、「そんなことはない」と拒絶するのではなく、「ああ、そう見えるのか」と受け入れる力。つまり、「素直さ」が必要となります。ちなみに、ここでいう素直さは従順さではなく、柔軟性に近い素直さです。成長には「勇気」と「素直さ」が必要というのが、新入社員研修でよく講師が新入社員に語る話のひとつにもなっています。つまり、成長のためには、自分の欠点を指摘してくれる先輩や上司の存在が必要となりますが、「面倒くさい人」は、周囲からかまってもらえなくなってしまいます。私が、組織で新入社員研修を担当していた頃、研修の最後に新入社員に贈る言葉は決まって、「IQより、愛嬌を持て!現場でかわいがってもらえる人になれ」というものでした。先輩社員との人間関係を良好に築くことができるか否かは、やはり重要なことです。ちなみに愛嬌とは、単なる人当たりのよさではなく、向上心(貪欲さ、常に向上しようという心)と責任感(やるべきことをやる、約束をきちんと守る心)を掛け合わせたものだと私は考えています。向上心と責任感に比べたら、頭のよさなどはとるに足りないものです。頭がいいが無責任な人や、仕事はできるがそれを鼻にかける人が、社内で愛されて育ててもらえるとは思えないからです。

5熱心だが結果を出せない空回りパターン

入社後に育てる覚悟をもって採用するということであれば、なおさら「面倒くさい人」以上に、周囲が手を焼くパターンがあります。それが「空回りパターン」です。挨拶ができていないのであれば、「挨拶しろ」と指導すればいい。なぜ、小学生のうちに身につけておかなければならないマナーを、大の大人に教えなければならないのか、という疑問はさておき、マナーがなっていないのであれば教えてやればいいのです。知らないのであれば、教えてやればいい。できるようになるまで、ひたすらそれを繰り返させればいいのです。ですから、たとえ「面倒くさい人」であっても、一つひとつの仕事をきちんと約束して、一つひとつの成果を問うことはできます。仕事は契約であり、約束をはたしてもらうことだからです。しかし、最も手に負えないのが、いくら本人にやる気があっても、一向に成果につながらない空回りパターンです。いくら成果につながらなくても、「がんばります」といって、前向きに努力している人間に、先輩や上司はそれ以上の指摘をすることが困難になってしまうからです[参考7]。

もちろん、育成をあきらめる必要はありません。手間はかかりますが、プロセスをしっかりと管理して、効率よりも効果を最優先し、一つひとつの行動を、順を追って丁寧に指導するという育成方法でアプローチしていけばいいのです。ところが実際問題として、現場ではこのパターンが、最も「人事は、何でこんな人を採ったんだ」ということになりがちです。人事としては、人間性重視で採ったはずなのに、現場にしたら、手間がかかって仕方がない人になっているわけです。こうした現実に、どう向き合っていけばいいのでしょうか。

6問題社員の真の共通点

他にも、採用担当者から多い質問のひとつが、「メンタルヘルス予備軍を見抜くことはできませんか」というものです。メンタルヘルスについては後述しますが、メンタルヘルスも含めて、本章で紹介してきた方々には、やはり共通点があるように思えてなりません。何かにとらわれ過ぎている人。何かを守ろうとし過ぎている人。何かを欲し過ぎている人などです[参考8]。

グレーゾーン(曖昧さ、混沌とした状況)が理解できない人。YESかNOでしか物事を判断できない人、いい意味で「大人の妥協」ができない人。バランス、中庸を欠く人。自律的でない人。私は決して、何事にも自己責任が取れる人が自律的だというわけではありません。何か問題が起こったとき、「私が悪かった」と考えることは大切ですが、それだけだと心が病んでしまいます。また、何かがあったとき、「あの人が悪かった」ばかりだと、周囲から嫌われます。たとえば、「私も悪かったが、タイミングも悪かったかな」と思えることではないでしょうか。私たちは、誰かに評価されるために生きているわけではありません。自分の人生は、自分自身で評価したらいいのです。しかし、誰かに認められたくて努力したり頑張ることは、悪いことではありません。私の考える「自律型」は、[参考9]でいうところの、左側に寄りっ放しではなく、もちろん右側に寄りっ放しでもなく、そのときに必要な方を適切に選択できる力がある人です。

すべては己自身の選択の結果です。自分で選択をするからこそ、責任を取ることができます。他者に決めてもらうから、責任が取れず、人のせいにするのではないでしょうか。そして、適切に選択するためには、状況を客観視する力、自分自身や他者を客観視する力とともに、自分自身を内省する力が欠かせません。そのうえでのバランス力が必要になってくるのです。コラム「観客の見る役者の演技は、離見(客観的に見られた自分の姿)である。『離見の見』、すなわち離見を自分自身で見ることが必要であり、自分の見る目が観客の見る目と一致することが重要である」と、世阿弥は述べています。面接については後述しますが、この「客観視する力」は、面接ではぜひとも確認していただきたい要素のひとつです。たとえば、応募者の過去の失敗談の話の後、このように質問をします。「あなたの友人から見たら、そのときのあなたの言動はどう見えたと思いますか?」「その失敗談は、うまくやっている人から見たら、どう見えるでしょう?」「その失敗談の頃のあなたから見たら、今のあなたはどれほどのことができるようになっていますか?」

3章▼問題社員を入口段階で見きわめよう

1◆「片付け」の〝捨て方〟と、採用の〝落とし方〟は違う

世間では、「断捨離」や「片付け」が流行っています。なかでも、テレビによく出演なさっている〝コンマリ先生〟こと近藤麻理恵先生は、「何を捨てるかではなく、何に囲まれて生きていきたいかです」と、非常にわかりやすく「片付け」ることを表現なさっています。

しかし、人間は〝もの〟とは違います。採るべき人間と採ってはならない人間がいるわけではないのです。いい管理職と悪い管理職がいるのではなく、いいマネジメントと悪いマネジメントがあるだけなのです。

同様に、1人の人間の中に、いい要素と悪い要素が、いい状態と悪い状態がともに存在するだけです。採用においては、1人の人間の中に〝採るべき要素〟と〝採ってはならない要素〟がともに存在しているだけなのです。たとえば、面接で堂々と自分の意見を述べていた方を「しっかりしていそうだ。頼りになりそうだ」として採用したところ、職場で何らかの負荷がかかったとき、堂々と自己弁護し、会社を非難して周囲を混乱困惑させる人に変貌した……ということになりかねないのです。しかし、この人の「多面性」は、少し難しくてこどもには理解することができません。ですから、こどもが観るアニメ番組では、「よい人と悪い人」、すなわち「ヒーロー役と悪役」が登場します。1人の人間の中に、〝よい状態と悪い状態〟、〝よい面と悪い面〟があるなどということを理解するためには、多少年齢を重ねる必要があるのです。人間は、白か黒かで決められるものではありません。どこまでいっても、グレーな存在なのです。このグレーな人間を、人生の中でどれだけ、よりきれいなグレーに近づけていくのかということであり、白か黒かで分けられるような存在ではないのです。各企業では、採用において「求める人物像」を設定しています。以下は、ある会社の設定している人物像です。

[事例]A社の求める要素&求めない要素

【求める】

□信頼性(約束を守る、時間に遅れない、嘘をつかない、隠さない、倫理観)

□責任感、明るさ、意欲、行動力、自立心、粘り強さ

□よい習慣(挨拶、笑顔、返事、お礼、掃除、靴を揃える)

□常に自分を磨く努力をする人

□問題意識、興味関心がある、工夫する、観察力がある

□自分の頭で考える□自信、意欲がある

□愛の心がある(思いやり、やさしさ、感謝の心、感動する心)

【求めない】

■話に一貫性がなく、その場しのぎ。場合によっては作り話。

■口先だけで行動が伴わない人、評論家タイプ。ただし、一見優秀に見えがち。

■基本的なコミュニケーション能力に欠ける人

■ネガティブ思考、他責性の強い人

[事例]B社の求める要素&求めない要素

【求める】

□自己対応能力=自分を活かす力、自分の能力を活用できること

□他者対応能力=他者と共生する力

□社会性=社会人として生きる能力(社会意識、社会貢献志向)

□精神性=心豊かに生きる能力(人や生き方への態度)

【求めない】

■自己理解像と面接時の行動が矛盾している

■几帳面、責任感、義務感といった項目の得点が総じて高過ぎる

■不安、心配といった項目の得点が高い

■現実の物事に対する興味が弱い

■全体に覇気、活力が感じられない

たとえばA社では、「自分の頭で考える人」を求める要素として上げていますが、「ネガティブに分析するだけだったり、単なる独りよがり、あるいは口先だけで行動が伴わない、いわゆる評論家タイプ」はお断りというわけです。

求めない要素を明確にすることで、求める要素だけに引っ張られないようにしていることがわかります。B社も同様です。求める要素とともに、求めたくない要素もセットで、現場の面接官にわかるように表現しています。求める人物像の設定だけでは、求めない要素が入っていても、面接時に取りこぼす可能性があるからです。まず行なっていただきたいことは、ほしい要素だけでなく、ほしくない要素も明確にすることです。たとえば、自社のお客様に合わない人を採用してはならないはずです。では、自社のお客様に合わない人材とは、どんな要素を持った方なのか。それを考えるところから、採用活動はスタートするはずです。採用は、「自社の人材に対する価値観」を考える機会ともいえるでしょう。繰り返しますが、ほしい人材要素の明確化とともに、ほしくない人材要素の明確化をしていってください。過去、あなたの会社で採ってはいけなかった社員、そしてあなたの会社でトラブルメーカーとなってしまった社員は、どのような要素を持った方だったでしょうか。

ほしい人材要素とほしくない人材要素を明確にしたうえで、はじめてほしい人材とほしくない人材を見きわめる選考フローや教育の導入が可能になるのです。そのような意味でも、2章でご紹介した「問題社員」のパターンは、「問題社員の問題要素」のパターンと読み替えてください。私の知り合いの経営者が、こんな話をしてくれました。「松下さん、阿呆はいいねん(注・誤解のないように。関西人にとって、〝阿呆〟はほめ言葉です)。阿呆はかわいげもある。IQより愛嬌や。阿呆は1人阿呆やったらそれで終わりや。阿呆はまわりにうつらない。でもな。ズルとケチはあかん。ズルとケチはまわりにうつるねん。1人ズルしたら、まわりもズルしようとする。1人〝ケチんぼ〟がおったら、まわりもケチになる(注・金銭面だけでなく、ノウハウや知恵に関するケチも含む)。だからな、ズルとケチは採ったらあかん」これは、いい得て妙だと思いましたが、この経営者にとっては、ズルとケチの「要素」はNG、ということです。2採用に主観が入ってしまう理由次に、10の文章が並んでいます。それぞれの文章を読んでいただいて、「共感できる。同感だ」と思われた文章には、設問番号に「○」をつけてください。逆に、「共感できない。そうとは思えない」という文章には「○」をつけません。あなた自身の考えで取り組んでみてください。①すべての人に愛されなければならない②事をなすには、完全無欠であらねばならない③人を傷つける人は、人から責められるべきである④思い通りにならないと、頭に来るのは当然である⑤人間は、外界の圧力で落ち込んだり腹を立てたりするものである⑥何か危険が起こりそうなときは、心配するのが当然である⑦困難や責任は、立ち向かうより避けるほうが楽である⑧ものごとはうまく運ぶべきで、ただちに最良の解決策を見出さなければならない⑨過去は重要であり、感情や行動に、今も影響を及ぼしているのは仕方がない⑩人の拒否・非難にあったから、自分はダメな人間であるいかがでしょうか。いくつの文章に「○」がつきましたか?多い方では7〜8個の「○」がつく方もいます。逆に、ひとつも「○」がつかない方もいます。

この10の文章には、すべて共通点があります。この文章はすべて【非合理(非論理的)な信念】と呼ばれるものです。④思い通りにならないと、頭に来るのは当然である?いえ、思い通りにならないときには、必要な問題解決行動を取ることもできます。⑥何か危険が起こりそうなときは、心配するのが当然である?心配している暇があれば、粛々と準備をはじめる人もいるでしょう。すべて非合理です。にもかかわらず、なぜ「○」がつくのか……思い通りにならないとき、頭にくる自分自身を正当化することができるから、私たちは心のバランスを保つことができるのではないでしょうか。ですから、いくら〝非合理〟であっても、それを受け入れることが「生きやすさ」につながるのであれば、それでOKでしょう。しかし人は、この信念が強くなり過ぎると、自分で自分を苦しめることになります。「思い通りにならないと、頭にくるのは当然なのに、なぜ今、「君は怒りんぼうだ」などといわれなければならないのか」と。自分の持てる信念で自分が苦しむ分には勝手だと思うのですが、この信念がさらに強化されると、人は他人に強要をはじめます。「思い通りにならないと、頭にくるのは当然だろう!」と。しかし、そもそも非合理なのですから、本来、他人に強要できるものではありません。また、「○」の数がまったく同じ3個だったとしても、多分、他の人と「○」がついている箇所は違うことでしょう。これが、人の難しさのひとつではないでしょうか。前置きが長くなりましたが、人はそれぞれ自分の価値観や信念を抱えて生きています。人は目で見える世界に住んでいるのではなく、目で見える世界をどう受け取っているか、その受け取り方の世界に住んでいます。ですから、見る人によって人の見え方は変わります。人はそもそも、主観で人を、ものを、世の中を見ているのです。その場に3人の人がいて同じものを見ていたとしても、そのとらえ方は三人三様で、目の前の現実から何を感じ、何を思考するかということには、それぞれ違いがあります。「第一印象は3秒で決まる」、「30才過ぎたら、人格は顔に現われる」ともいわれますが、それ自体、非合理な信念のひとつだし、しょせん人は、自分の物差しで人を判断しているに過ぎません。採用には、主観が入るものだということを大前提にしてください。コラム詐欺師は誠実そうな顔をしているもの?「目が大きい」「顔が左右対称で均整が取れている」顔は、「誠実そうに見える」そうです。しかし、誠実そうに見える人のほうが、不誠実そうに見える人より、実は嘘をつきやすいという結果が出ています。それは、誠実そうに見える顔の持ち主は、こどもの頃から嘘が信用されやすいため、それが癖になりやすいのだそうです。

会社によっては、管理職研修のひとつとして、「人事評価研修」を実施しているところもあるでしょう。「人事評価研修」は、人の評価の仕方を学習する研修ではありません。自分が、人をどのように見る〝癖〟を持っているかを知るための研修です。人事評価では、左記のような評価ミスがあるといわれています。これは、採用の面接等でもまったく同じです[参考1]。

採用も、人事評価も同じです。評価される側ではなく、評価する側の主観に左右されるものです。たとえば人は、自分とは異なるタイプの人材は見落としやすいものです。行動的な人は、論理的に物事を進めるタイプの人を「理屈っぽい」と評価しやすいし、論理的な人は、行動タイプの人を「考えが浅い」と評価しやすくなります。私は仕事柄、企業の「人事評価研修」の講師役をお引き受けすることがありますが、人事評価の訓練を毎年丁寧に積み重ねている会社は、採用の面接も比較的上手に実施しているな、と感じられます。おそらく、面接官一人ひとりが、自分の「人を見る際の癖」を理解しているからかもしれません。3問題社員は、こうして採用試験を潜り抜ける今や、採用市場はひとつの産業です。切ない話ですが、人が集まるところにはお金が集まり、またお金が動くところに人が集まります。就職難の学生を応援したいという起業家は、私の周囲には少なくないし、自称「採用コンサルタント」も、ここ数年でどれほど誕生していることでしょう。20年ほど前までは、大学生の就職支援をする学内キャリアセンターは、一部の大手私立大学内に存在する程度でしたが、今では、国公立大学も就職活動対策講座を実施し、地方の大学は東京や大阪に、就職活動支援用のサテライトオフィスを設置するまでになりました。各校の就職率が、その大学の受験者数に影響する時代ですから、それも仕方がないことなのかもしれません。日本最大級のキャリアカウンセラー資格認定団体である「特定非営利活動法人日本キャリア開発協会」は昨秋、会員数が1万人を突破したことを公表しました。現在、国が認定する民間キャリアカウンセラー認定団体は11団体ですから、いわゆるキャリアカウンセラーホルダーは、数万人規模にものぼることでしょう(私もその1人です)。大学から、キャリアカウンセラーの募集がかかると、募集枠の何倍もの希望者が殺到するそうです。大学生たちは、大学側が用意するキャリアカウンセラーのアドバイスを、いつでも無料で受けることができます。今どき、企業のエントリーシートを、キャリアカウンセラーのアドバイスなしにすべて自分1人で書いているという学生が、いったいどれほどいることでしょうか。2005年に、経済産業省が「社会人基礎力」を公表するや否や、各大学はこぞって授業に「社会人基礎力講座」なるものを設置しました。今どきの学生はマナーがなっていないと聞けば、マナー講座なるものを、早速大学の授業に取り入れます[参考2]。

実際、大学でも学生のマナーの悪さは問題になっており、大学入学と同時に、「大学基礎力講座」などと称して、講義の受け方やノートの取り方、はては友だちの作り方まで教えてくれる授業まであります。今や、教育はサービスであり、学生はお客様なのです。20年ほど前まで、中学生や高校生の家庭教師をするのは大学生のアルバイトでしたが、今や、大学生の前期後期試験対策をするプロ家庭教師が存在し、ついには就職活動の家庭教師まで登場しています。手付金15万円+成功報酬というそのサービスに対する支払いは、大学生の親だというのですから、就職活動は今や家族の一大事です。先日、ある企業の人事パーソンとそんな話をしていたところ、「だったら、『ちょっと勘弁してよ』といいたくなるような新入社員には、新入社員研修のコストの請求書を親御さんにお送りさせていただいてもいいかなあ」といって、苦笑いされていました。ある意味、本音の部分なのでしょう。かくいう企業側も採用の効率化を重視し、採用支援会社に〝見栄えのいい〟採用ホームページの製作を発注し、就職活動サイトに登録をしている目ぼしい学生に、熱い思いを綴ったメールを配信します。学生側は、キャリアセンターに添削してもらったエントリーシートの雛型をコピー&ペーストして応募完了です。昨年度の採用から、日本最大手の就職サイトである「リクナビ」と「フェイスブック」がリンクしたことは時代の要請といっていいでしょう。バーチャルの世界で展開される就職活動、採用活動は、まるでサイバー戦の様相を呈しています。ある意味、新卒の採用試験を潜り抜ける問題社員は、こうした就職産業が生み出したものなのかもしれません。学生から社会人への通過儀礼である、就職活動というこの時期を、自分の頭で考え、自分の足で動くという、ごく当たり前の活動が大人たちのお膳立てによって阻害されようとしています。中途採用市場も然りです。いや、むしろそれ以上かもしれません。採用と就職のマッチングを図ることを事業領域としている企業は数知れないほどあります。人材紹介会社は、企業の人事のニーズを受けて人材の登録ストックからふさわしい人を紹介しますが、彼らだってボランティアではありません。1人が人材の紹介が成約に至れば、採用者の年収の3割程度が、中間マージンとして売

上げになります。そのため、何としても他社に先駆けて成約にこぎつけたいところです。大学のキャリアセンターと違って、人材紹介会社は、企業の採用担当者とダイレクトに情報交換をしています。そのため、その企業の風土や求める人物像も、場合によっては、どのように選考が進むのかすら熟知しています。その結果、企業に紹介する応募者に対して、手取り足取りアドバイスをすることになります。それは、大学のキャリアセンターが学生に行なうアドバイスに比べて格段に実践的なものです。作られた就職活動、作られた採用活動の攻防戦。問題社員は、こうした攻防戦の中を潜り抜けてきます。こうした攻防の中から、そろそろ抜け出したいものだと思っている方は、実は少なくないのではないでしょうか。4今どきの人事担当者の苦悩そもそも、採用コンサルタントではなく、人材育成コンサルタントである私が、本書を世に送り出すことになったのは、都銀系コンサルティング会社である「みずほ総合研究所株式会社」主催のセミナーがきっかけでした。それまで私は、「ダイヤモンドの原石は、ダイヤモンドの粉でしか磨くことはできない。人が場をつくり、場が人をつくる」といった、己が大事にしている哲学のもと、人材育成担当者養成セミナーや新入社員研修の作り方、現場での後輩部下指導といったテーマを中心に、情報提供を行なっていました。人材育成という営みは、すぐに答えが出るわけではありませんが、取り組み続けなければ、いつかボディブローのようにじわじわと、組織の存続という企業の最終目的を阻害しかねません。ところがです。本当に人は、誰もが成長するものなのだろうか。ダイヤモンドの原石だと信じて採用した人材が、いくら磨いても河原の石ころのまま。打てども打てども、少しも響かない。現場からは、「人事は、何でこんな人材を採用したんだ」と非難される始末。人を諦めたくはないけれど、人事が現場の足を引っ張るような採用をするわけにはいかない。採用に時間がかけられなくても、ノウハウの蓄積が少なくても、せめて「トラブルメーカー」は採らない人事でありたい。そのような要望が、セミナーのお客様から寄せられるようになり、コンビを組んでいた同社の担当者、高橋まどかさんと「人事担当者の問題解決の一助になれば」と試行錯誤の末、企画して実施したのが、「採ってはいけない人の見極め方」でした。営業職と違って、人事職は母集団が人事部門所属者に限られているため、集まって30社40社、50社も集まれば御の字程度に考えていたところが、いざ募集を開始してみると、わずか数日で100席の定員が埋まり、すぐに追加開催の依頼が来ました。しかし、すぐに

それも満席になりました。こうして、平成23年7月末にスタートしたセミナーは、約半年の年度内にトータル14回の追加開催、動員人数1230人を超えて、いったんの区切りを迎えました。採用担当者が企画、準備段階をとうに終えているはずの3月に実施した最終回にも、93名の方が参加なさっていたため、いったん区切りをつけた、と表現したほうが正しいかもしれません。ちなみに、最近、同社で好評を博している人事系セミナーのテーマは、この採用セミナーの他に、労働法専門の弁護士による「トラブル人材を『入れない』『作らない』『円満契約解消』の法律実務」、「職場トラブルへの初動=10のケース」「『職場を混乱・困惑させる社員』対応の法律実務」等といったラインナップだそうです。「問題社員」に振り回されている人事パーソンの姿が目に浮かびます。切ない話です。企業の経営理念を、人間の面からサポートするはずの人事パーソンの方々が、今、どれほど後ろ向きな仕事をしていることか。さらには、問題社員(ローパフォーマー)はパフォーマンスが上がらないわけで、成果が上がらない以上、それを根拠にお引き取り願うことができるかもしれないが、成果を上げているものの、周囲を混乱困惑させる人、面倒くさい人に対しては、どう対処すればいいのか。といった要望まで寄せられる始末です。ちなみに、本書が出版される頃には、私は同社でまた新たなお客様のご要望にお答えするセミナーをいくつか実施している予定です。人を組織を「あきらめたくない」という人事パーソンに、私たちはどこまでより添えるのか。同社の高橋さんとともに、人事マンの苦悩に対する問題解決の一助になれば、と何度も何度も推敲を重ねて、創造した新企画のテーマが左記のものです。コラム「採ってしまったあの人」をどう育てる?育て方はあるのか、そもそも難しいのか「困った社員」育成・指導の勘所対応に苦慮する社員もあきらめない!育成・活用の可能性と方法……数年前まで、人事マンが参加するセミナーといえば、労働法の解釈や法改正に伴う社内規定の整備、労務管理のポイントといったものがメインでした。しかし、メンタルヘルスの問題が表面化しはじめた頃から、問題社員への対応に人事マンが翻弄されはじめることになったのです。

友人である、メンタルヘルスの専門家が以前、こんな話をしてくれました。今どきのメンタルヘルスは、ひと言でいえばダイバーシティ。つまりは多様性。今までのノウハウが一向に通用しない。以前は、鬱病患者に対して、「がんばれ」なんて、口が裂けてもいってはならなかった。しかし今では、「がんばれ」といわなければならない新型鬱病、仮面鬱病が登場している。このように、人事パーソンは一つひとつの事例にモグラ叩きのような対処療法に追われているのです。女性労働者の登用、シルバー世代の再雇用・継続雇用、高度外国人材の活用、派遣労働者、パート労働者、業務委託や請負。多様な人材や雇用形態をどのように組み合わせて、この少子高齢化で不景気な時代をいかに乗り切っていくのか。人事のキーワードは、「グローバルとダイバーシティ」といわれる昨今。ポジティブにもネガティブにも、「多様性」がキーワードとは、何とも皮肉な話です。5そもそも、人が人を見抜きわめることは可能か「泣いて馬謖を斬る」という故事にもあるように、あの黎明な諸葛孔明ですら、部下の実力を見誤ったほどです。人が人を評価するという、本来は、神だけに許された行為を、採用担当者が行なうことは本当に可能なのでしょうか。プロ野球のドラフト1位指名の選手が、2軍で終わった例は多々あります。目利きであるはずのプロ野球スカウトですら、「見誤る」ことがあります。イチロー選手は、「ドラフト5位」で「投手」として入団しました。プロ野球スカウトの「眼力」をもってしても、イチローの「打者」としての才能を見抜くことができなかったのです。ちなみに、某スカウトの取材ノートの項目は、氏名・年齢・身長・体重に加えて、野手では脚力・肩力・守備力・打力。投手では、フォームバランス・ステップ・膝・肘・腕の振り・直球・変化球などがあるそうです。ここには、見るべきポイントが網羅されているようです。しかし、「採ってはならない要素」はありません。広島カープに入団し6年間で、「本塁打1、安打30、打点5、打率1割8分8厘」という記録を残して退団した某選手は、巨人軍の王貞治選手や坂崎一彦選手と並ぶ長距離バッターで、最高の素質の持ち主と評されて入団しました。しかし、彼は入団後、監督・コーチから「練習嫌い・わがまま・甘ちゃん」と評価されることになります。彼は、地元の某

代議士の孫で、「何不自由なく育った人」だったのです。同じく広島カープの「鉄人」衣笠祥雄選手は、平安高校の捕手でしたが、強肩ながら荒削りな打撃で未知数の素材でした。家庭は質素で豊かではなく、苦労人だったそうです。入団早々に肩を痛めて「打者」に転向するも成果が出せなかったにもかかわらず、素振りを欠かさない彼に、スカウトが転職先の会社名を書いたメモを見せたことで発奮。単に、能力だけの採用だったのであれば、後の「鉄人」が生まれることはなかったかもしれません。「成果を上げる」には、「成果を上げるための能力」が必要です。これを、判定できるかどうか、ということでしょう。採用を、「人間そのものを評価すること」、「人を裁くこと」と誤解していないでしょうか。採用とは、人を裁いたりすることではなく、人の行動や能力、成果につながる可能性、組織の有効な要員になり得る可能性を評価するのが原則です。「働きぶりはどうなるだろうか」、「期待する能力を保有、発揮できるかどうか」、「期待する成果が上げられそうか」などといったことが、採用する際の基準となります。しかし、どこまでいっても、人間は「測定」できるような存在ではありません。採用における評価は、「測定する」ことではなく「判定する」ことです。評価は、物差しでモノの長さを測定するようなものではなく、野球の審判のようにきわどいクロスプレーにアウト、セーフなどの判定をつけるようなものです。判定はどちらとも取れるものであり、ミスがまったくないとはいえません。判定ミス、ジャッジミスも起こり得るでしょう。しかし、採用のプロである以上、できるだけミスは減らす努力を怠るべきではありません。人1人の人生を、会社の将来を左右しかねない採用活動において、私たちはどこまでそのミスを減らすことができるのでしょうか。ところで、あなたは「自分自身のこと」を熟知しているでしょうか。「自分」を知らなくても、採用活動はできると思いますか。そして、採用において応募者の「何」を「どのよう」に「理解する」のでしょうか?応募者の「悩み」「苦しみ」「迷い」「不安」「喜び」「楽しみ」「性格」「能力」「願望」「経歴」を、「面談」「相談」「行動観察」「書面(経歴書)」「本人からの聴取」「聞き取り情報」から「判定」するのが採用活動です。次章以降では、その具体的なアプローチやステップ、考え方を見ていくことにしましょう。コラム私は定期的に人事パーソンの勉強会(※人事交流会「庵」)を開催しています。以前、私のメンター(心の師)の1人、モルゲン人材開発研究所の澤田富雄先生に、当勉強会でのご登壇をお願いしたことがありました。その際、澤田先生からは「人事部のお客様は誰だと思いますか?」「社員は毎日、

何にエネルギーを使っていますか?」「人が育つ、とは具体的にはどういうことですか?」といった「問い」がいくつも投げかけられたのですが、その中に、「『人を見きわめる力』に自信がありますか?」……という「問い」がありました。多くの人事パーソンは、それぞれの経験を踏まえた「採用の哲学」を情報交換しはじめましたが、その際の澤田先生の答えのひとつがこういうものでした。「たくさんの事例をこなして、痛い目にあうことです。何回もバットを振るしかありません(実戦の実践)。それなくして、人を見きわめられるようにはならない」と。そういいながら、参加者に配布してくださったのが、次ページのシートでした。おそらく、澤田先生が何千、何万もの実戦の結果、得られた「哲学」なのでしょう。何事も、「短絡化」して「簡素」で「わかりやすい」ことが大事といった風潮を問題視なさっている澤田先生ですから、この一覧の安易な掲載は本意ではないはずなのですが、無理をきいていただくことができたので、ここに掲載いたします。

4章▼書類選考で見きわめよう

1価値観検査で見抜けなかった理由

ここで問題です。左記に、24の会社、組織、その風土が列記されています。この中で、あなたがもし転職するなら、どの組織を選択するでしょうか。ぜひ、行きたいと思う組織に○を、こんな組織は願い下げだという組織には×をつけてください。[事例]価値観検査1会社や仕事が安定している2企業倫理を重んじる3同時に複数の仕事をこなす4仕事と私生活の境界がはっきりしている5能力の限界に挑戦するような目標を与えられる6利益主義に走らない7社員の競争をあおる雰囲気が強い8失敗したときのリスクが大きい9仕事の進め方や手順が固定化されていない10他人に影響力を与えない11原則や建前にはこだわらない12勤務時間を超えて仕事に没頭する13利益志向が強い14和気あいあいと家族的に仕事をする15成績が収入に直接反映される16自分のやり方で仕事ができる17昇進は実力に基づいて決まる18じっくり落ち着いて仕事に取り組むことができる19階層による待遇差が大きい20チームワークが求められる21評価・報奨の風土がある22能力開発が促される23上下関係があまりない24毎日変化に富んだ仕事をするこれは、某社で実施された新卒採用のツールです。これが一次試験です。私も以前、組

織で採用の担当者をしていたとき、同様のツールを使わせていただいたことがあります。私が勤務していた企業は、社員数が千名の規模でしたが、ホームページ等でエントリーを受け付けると、応募総数が数万名にもなりました。最終消費財メーカーだったため、企業規模の割にはネームバリューがあったのでしょう。さすがに、どう頑張っても数万人と面接をするわけにはいかないため、書類審査で数千名にまで絞り込むことになります。ですから、そのタイミングで、数万名を数千名に絞り込むための補完資料として、このテストを使わせていただきました。要は〝素点化〟です。応募者の方々に入りたい組織を上位三つ、入りたくない組織を下位三つを選択してもらい、この設問番号に○をつけたら、50点とかマイナス20点などと評価します。また、この番号に×をつけたら、30点とかマイナス10点といった具合です。つまり、いい悪いではなく、合うか合わないかです。結果は人それぞれでしたが、個人的には驚いたことがあります。少なくとも私は、これらの選択肢の中では、「24毎日変化に富んだ仕事をする」が入りたい組織でした。ところが、数万人の応募者中には、「24毎日変化に富んだ仕事をする」を、入りたくない組織として選択している方がいたのです。つまり、私がやる気になる組織が、やる気を削ぐ組織だという方がいたのです。私には、とうてい理解不可能でした。これこそが、人を理解することの難しさだと感じました。ましてや、数万人もの母集団がいると、どの設問番号にも○をつける方と×をつける方が存在しました。「誰にとっても、いい組織というものは存在しないのだ」ということを痛感させられた出来事でした。価値感診断系のテストを実施している企業は、今も少なくないと思いますが、私はあまり意味がないと考えています。その理由は二つあります。ひとつは、企業で実施される「キャリアデザイン研修」の弊害と同じです。10年ほど前から、各社でこぞって、「キャリアデザイン研修」が実施されました。「あなたの人生は何のためにあるの?あなたはなぜ働くの?あなたの夢は何?」と社員に問うのはいいのですが、その結果、「私がやりたいことは、この会社にはなかった」という気づきを社員に与え、優秀な社員から離脱される、という企業が続出したのです。お金と時間をかけて実施した研修で、できる社員を退職させるきっかけを与える、ということが現実に起こっていたのです。「キャリアデザイン研修」は、社員に人生の意味や自分自身が存在する意味、さらに自身の価値感を問う研修ではありません。個人のアイデンティティの前には、組織のアイデンティティが存在します。問いかけるべきは、まず組織の哲学です。「私たちは、このような理念や信念を持って、この社会でこういう存在になるべく活動をしています。この組織で、あなたは何をしますか?」という問いかけです。

まず先に、応募者の価値感を聞いてから企業とのマッチングを図るのではなく、組織のポリシーや価値感を、まず先にしっかりと表明し、そこへの協力を要請するのです。採用でも、それは同じです。もうひとつは、今どきの応募者はそれくらいの傾向と対策は朝飯前だからです。企業のホームページを読み、経営者や人事部長の語る〝求める人物像〟を読み込み、自分がその人物像にいかに合致しているかをPRします。また、企業が発信する情報から類推される企業風土に合わせて、○や×をつけることができます。自分の価値感を偽ることくらい、内定をもらえるならば容易いことです。2章の「精神的子ども」パターンや、「受身」パターンには、むしろ歓迎されることは間違いありません。それほど、確固とした価値観や人生哲学、ポリシーを持たずに生きていられる時代です。組織への迎合ぶりを確認するにはいいツールかもしれませんが、これ自体を選抜の補足資料とするには、少し不安を感じずにはいられません。むしろ、組織の価値感に「合わせさせる」のではなく、価値観や風土に「惚れさせる」くらいの気概がなければ、いい採用などできるはずがありません。2気質・性格検査で見抜けなかった理由リクルート社のSPIをはじめとした、適性検査のツールを使っている企業は少なくないでしょう。しかし、はたして適性検査は採用において有効なものなのでしょうか。これは、幼児を持つお母さんを対象とした子育て教室の教材の問題です。[問題]あなたは、5才になる息子のお母さんです。あるとき、息子の手を引いて近所を散歩していました。すると目の前に、大きな犬がつながれたまま寝そべっていました。すると、あなたの5才の息子はいいます。「お母さん、いぬぅ……(怯えながら)」。さて、問題です。お母さんであるあなたは、この後、この息子に何といってあげるべきでしょうか。A「鎖につながれているよ」B「怖いんだね」どちらが正解だと思いますか?もちろん、どちらかが「正しい答え」です。ヒントは、おそらくこの子育て教室は、〝親子間のコミュニケーションの向上〟を目的にしているものと思われます。そうです。答えはBの「怖いんだね」です。犬がいることに怯えている5才の息子に対する、母親のひと言です。要は、その不安やおびえに対して安心させてあげなさい、ということなのでしょう。

Aは、「鎖につながれているから、ここまでは来ないよ」と、現状や状況を明らかにしながら、筋道を立てて道理や理屈で説明しています。そしてBは、「お前が怖いと思っているその気持ちを、おかあさんは理解しているよ」と共感を示してやる。さてどちらでしょう、という問題です。答えは、どちらでもいいと思わないでしょうか。その子の個性、特性に合わせて対応すればいいのです。その子の特性が、どちらかといえば論理派ならばAで対応すればいいし、逆の感情派であればBで対応すればいい。あるいは、「怖いんだね。でも、鎖につながれているから大丈夫だよ」と、両方いってもいいでしょう。仕事には、論理も感情も必要です。たとえば、お客様からのクレームがきたとします。お客様に、問題の原因をしっかりと説明し、より適切な解決策を検討し、お客様に課題解決へのご理解を求めていくことは重要です。しかしお客様から、「解決してくれたらいいというものではない。そもそも、あなたのその横柄な口のきき方に納得がいかない」といわれたらおしまいです。これが、クレームが苦情に変わる瞬間です。「クレーム」の日本語訳は「苦情」ではありません。「クレーム」に感情が加わると、「苦情」になります。「クレームは苦情にしない」というのが、クレーム対応の要諦ですが、「これを解決してほしいということの前に、こういう状況に陥って私が非常に不愉快であるということを、まずは理解してください」と、最初から苦情として持って来られるお客様も少なくありません。仕事には、理屈も感情も必要なのです。適性検査は、ここでいう理屈が優位な指向パターンなのか、感情が優位なのか、その方はどちらが「利き手」なのか、を診断しているようなものです。では、「利き手」が左右どちらの方が、人として優れているのでしょうか。どちらでもありません。どちらがいいか悪いかということではなく、自分がどちらの指向性を持って仕事をしているのかを、自分自身が理解していることが重要なのです。10年ほど前までは、左利きで生まれた子は、小学校に上がる前に、利き手を右に矯正したものです。鉛筆を持つ、箸を持つ、ハサミを持つ……生きていくのに、いろいろと不便だからです。しかし、今どきは矯正などしません。左利きで生まれた子には、左手をしっかり使わせながら、右手も使えるようにしていきます。つまり、両手使いにするのです。そのほうが、間違いなく修得が「早い」そうです。また、左利きに対する否定感もありません。それと同様に、理屈も感情も、その環境や状況において「使いこなす」ことができればいいのです。では、どちらの指向性、つまり「利き手」のほうがすぐれているのでしょうか。仕事では、どちらの発想も必要です。自分自身の指向性を理解したうえで、どちらも使いこなせるようにするのが、「仕事ができる人」です。そこには、「内省性」と「客観性」が必要でしょう。むしろ、「内省性」と「客観性」

がある方を採用したほうがいいのではないでしょうか。また、そもそも「要素」や「ものごと」というものは二律背反です。処理や判断のスピードが早い方は、よくいえば「迅速」ですが、反面「軽率」になりがちです。結局、面接者の受け取り方しだいで、かなり主観的です[参考1]。

ましてや仕事は、「思考的」か「行動的」かではなく、「思考的」かつ「行動的」である必要があります。同様に、仕事において全体を優先するあまり、細部をおろそかにすると間違いが生じます。しかし、〝木を見て森を見ず〟というのも問題です。今日の飯のためにではなく、明日の飯の種を作ることも大事です。中長期的に仕事することも大切ですが、5年後10年後の未来のために、今日この日を味わい尽くせないのは残念です。仕事には計画性が必要ですが、立てた計画が目的化し、柔軟性に欠けると、本来必要な行動が取れなくなってしまいます。スケジュールのために、私たちは生きているのではありません。私たちが生きるために、スケジュールが必要なだけです。部下育成も然りです。管理職は「優しさ」と「厳しさ」を兼ね備えて、時と場合によって使い分ける、という両方が求められます。仕事や物事は、要素は二極思考で対応できるものではなく、いかにその環境や状況下において適切な落とし所で判断をくだしていくか、が問われます。たとえば、仕事では楽観主義であればいいというものではないはずです。楽観主義でいくべきことと、悲観主義でいくべきことがあるのではないでしょうか。白黒ではなく、その曖昧さや混沌さを受け入れられるだけの内省力や客観力こそが、いい意味での大人の妥協ができるビジネスパーソンだと私は思います。2章の問題社員パターンは、いずれもこの点に不足を感じないでしょうか。さて、こうした適性検査は、受験者の能力の現状を判定するためにではなく、判定結果によって自分の能力の傾向を把握し、自己認識をしたうえで、さらに自分の必要とする能力を伸ばすための「育成」ツールとしては非常に有効だと思えます。判定結果を読むことは、「終わり」ではなく「はじまり」です。自分の思う自分、他人から見る自分、そしてこうしたアセスメントからわかる自分。まるで三面鏡を見るようにいろいろな角度から自分自身を理解し、自己成長につなげることです。適性検査は、私個人は育成ツールとして活用するほうが有効だと考えています。3ストレス検査で見抜けなかった理由昔から、ストレス耐性を確認するツールとして、たとえば「内田クレペリン精神検査」がよく利用されてきました[参考2]。

単調な作業を長時間にわたって被験者に課すため、ストレスが大きく、そのためストレス耐性を確認するツールとして使われてきました。しかし、作業や時間に対するストレス耐性は多少確認できますが、人間関係に対するストレス耐性は、これとは別物です。今、現場で叫ばれているストレス耐性は、おそらくほとんどが人間関係に対するストレス耐性と思われます。残念ながら、このテストでは目的とする要素は見抜けないものと思われます。みなさんは、何のためにその適性検査を利用していますか。確認したい要素に対しての、適性検査の適合性や妥当性は確認しているでしょうか。適性検査を利用していること自体に、何か拠り所があるような安心感を抱いているだけなら、受験生にとっては時間の無駄だし、企業にとっては、費用の無駄が発生します。そもそも、ひとつの適性検査で確認できるパーソナリティは一側面に過ぎません[参考3]。

リクルート社のSPIによって、ここでは「情意」部分の確認ができるし、「クレペリン」ならば「力動」部分の確認ツールということになります。実際、三つも四つも適性検査を実施する時間やお金はかけられないでしょう。それなのに、本当に一番確認したい要素は何なのかを明確にすることなく、業者のアドバイスのままに適性検査を利用するのは愚の骨頂です。もちろん、何かやってみなければわからない、ということはありますが、実施した結果と内定を出した受験者との連関を検証したことがある人事パーソンは、どれほどいることでしょうか。なお、採用時にどれだけストレスをかけたところで、私個人としては、見きわめきれるものではないと考えています。先にご紹介した、私の友人のメンタルヘルスの専門家がこう話していました。今どきのメンタルヘルスは、過去のノウハウがまったく役に立たない。そもそも病気なんて、病名がつけば一気に患者数が増える。昔も、小学校のクラスに1人や2人は、春になると鼻水を垂らした子がいたでしょう。あれはたぶん、〝花粉症〟でしょう。病名が衆知されると、往々にして患者さんが増えるものなのよ。私は、「なるほど」と思いました。だとすれば、こんな状況下でメンタルヘルス体質を見抜くということ自体、キリがなさそうです。メンタルヘルス問題は、採用ではなく、労務管理としてアプローチしていただくほうが有効です。また、どんな方にもメンタルヘルス不調に陥るリスクはあります。どんなにストレス耐性が高い方でも、体が病めば心も病みます。逆に、どんなに体力がある方でも、心が病めば体も病みます。私はよく、「松下さんはいつも元気で、メンタルヘルス不調には縁遠そうですね」といわれるし、私を知っている100名のうち、99名までは、「松下さんが心の病に陥るなんて考えられない」とおっしゃるに違いありません。そんな私が高校生だった頃、私自身が「心の病い」に陥った経験があるとは、誰も想像できないでしょう。高校生の頃の私には、まず病気に対する知識がありませんでした。また、今ほど社会的な理解もありませんでした。さらに、今のようにインターネットの情報もなかった時代です。そして、何よりも孤独でした。手を貸してくれる存在や応援してくれる存在もいませんでした。批判者はいても、応援者はいなかったのです。お金もなかったので、図書館で借

りてきた専門書を読み漁り、心ではなく、頭で状況を理解することで、何とか最悪の状況を乗り越えましたが、今も完治はしていないと思います。しかし、高校生や大学生の頃に受験した適性検査でも、メンタルヘルスに関わる項目で引っかかったことは一度もありません。おそらく、私はこどもの頃からパーソナリティはあまり変わっていないと思うし、おそらくストレス耐性は高いほうだと自負します。しかし、実際にはこうして心の病を経験しています。採用の段階で、心の強さを問うのではなく、採用した社員一人ひとりにメンタルヘルスに対する知識をきちんと持ってもらうこと。もしくは、社員一人ひとりがお互いを信頼し合い、お互いの成長を応援し合う企業風土を作ること。採用時に、心の強度を追求することに時間を割くよりは、そちらのほうが有効だと思います。4認知をこう問えば、書類で問題社員が見きわめられるでは、どのようにすれば、書類選考で受験者の「人となり」を知ることができるのでしょうか。ここで、次のシートに取り組んでみてください。制限時間は10分です[参考4]。

これは、文章完成法テスト(SCT)といわれるもののアレンジで、臨床心理学の手法のひとつです。このテストは精神鑑定に用いられたり、場合によっては、小中学生の心のケアに利用されています。ここに実際に、大学3〜4生に取り組んでもらった事例がいくつかあるので、具体的にご紹介しましょう。[事例1]の男子学生はいきなり面接をすれば、ほぼ不合格となるような第一印象の悪い学生です。茶髪だし、体格が大きいことも災いして、何だか他者に威圧感を与えます。耳にはピアスをしていて、口調もどちらかというとぶっきらぼうです。[事例1]①私はよく人からヤンキーといわれるが、イジめられたりバカにされたりする。②争いは負けたくない。③私がきらいなのはしょうもないうそ。④壁にぶつかると私はイラつく。⑤もう一度やり直せるなら高校2年のときの友人の交通事故を防ぎたい。⑥私の野心は、美人と結婚する。⑦運動はするのは野球とラグビーで、見る側ではフィギュアスケート以外のスポーツは好き。⑧将来は東京消防庁のハイパーレスキューになる。⑨強く怒られると私は考える。⑩私の頭痛は勉強です。⑪私のストレスは勉強です。⑫私が得意になるのは人の話を聞くこと。⑬自由がほしい。⑭私を不安にするのは模試の結果と勉強の進み具合です。⑮私の失敗は過去に付き合った女性です。おわかりでしょうか。彼の内面はまっすぐです。いざというときに頼りになる彼のことを、周囲の友人たちは、一目置いて尊敬しています。たしかに、彼の第一印象の悪さは、彼が改善すべき要素のひとつかもしれません。しかし、彼は組織において、「採ってはならない人」にはならないと思います。ところが、どれだけの企業が彼と面接をすることができるでしょうか。しっかり面接さえしていただければ、彼の真の強さも優しさもわかるというのに。[事例2]の男子学生は、面接は難なく通過することでしょう。人当たりもいいし、真面目です。実際、大学の授業ではいつも前のほうに座って、しっかりとノートも取ってい

ます。[事例2]①私はよく人から優しそうといわれる。②争いは眺めているだけなら好きだ。③私がきらいなのは生意気な子供。④壁にぶつかると私はすぐ人に頼る。⑤もう一度やり直せるなら生まれた家族からやり直したい。⑥私の野心は兄弟の縁を切りたい。⑦運動はそれなりにできるが、突出したものはない。⑧将来は楽しむだけ楽しみたい。⑨強く怒られると私は参考にさせてもらう。⑩私の頭痛は物事が許容範囲以上に進まないことだ。⑪私のストレスは家族の三男。⑫私が得意になるのは他の人も得意になれることである。⑬自由に生きている人を見るのは私の楽しみのひとつだ。⑭私を不安にするのは多くの人が体験したことがないことを自分がすること。⑮私の失敗は他人の失敗と成功をよく照らし合わせる。おわかりいただけるでしょうか。彼は、その内面にただならぬ〝傷〟を抱えて生きていることを。日常生活を営む分には大きな問題は生じませんが、実際、友達と意見の相違があったり、極限状態に追い込まれたときには、人が変わったように周囲を責め立て、自分自身を正当化します。友人は少なくないようですが、深いつき合いをする友人はいないようです。もちろん、誰にも心の傷のひとつや二つはあるでしょう。それらは、いつか自分の中できちんと消化する必要があるかもしれません。ただ、そのためには膨大なエネルギーが必要となります。その瞬間は、企業としてそれを受け入れるだけの場や仲間が必要となります。[事例3]は女子学生です。彼女は少しおとなし過ぎるようです。あまり自己主張を好みません。大学の授業はまじめに聞いていますが、いつも1人で座っていることが多いようです。[事例3]①私はよく人から手紙をもらう。②争いのない時代があっただろうか。③私がきらいなのはやらなかったことを悔やむことです。

④壁にぶつかると私はたたいてたたいて、こわして突き進みます。⑤もう一度やり直せるならおばあちゃんにありがとうといいたい。⑥私の野心にはたくさんの人の協力が必要そうです。⑦運動不足なので食事には気をつけています。⑧将来の自分が元気にやっているかどうか楽しみです。⑨強く怒られると私はいったん落ち込んでから、回復を試みます。⑩私の頭痛は、こめかみにくることが多い。⑪私のストレス解消法は何もしない時間を作ることです。⑫私が得意になるのは即席で作った料理が思いのほかおいしくできたときです。⑬自由と責任のバランスは難しいです。⑭私を不安にするのは早起きすべき日の前の夜に、寝過ごさないかと思うときです。⑮私の失敗は成功の10倍くらいあります。おわかりでしょうか。まずは、この内省力の高さ。世の中の出来事や状況を肯定的に受け取る柔軟性の高さ。何より、常に主語は自分です。実際、彼女は人づき合いが多いわけではありませんが、所属するサークルでは副部長を務め、〝心友〟と呼べるような豊かな友人関係を形成しています。アルバイト先に尊敬する社員がいるそうで、そんな話を私に語ってくれたときのニコニコした彼女の表情は非常に印象的でした。しかし、こんな彼女でもいきなり面接を受けたら、「×」がついてしまうかもしれません。私に話しかけてきたのは、半年の講義が終わろうとする頃でした。聞くと、人見知りが激しいということです。とはいえ、そのこと自体に、彼女はあまり問題意識は持っていないようでした。自分自身を分析するでもなく理解するでもなく、ありのままの自分自身をただ受け止めている彼女の姿に非常に安定感や安心感を感じたのは、つき合いがはじまってからのことでした。極端な話、この3人が面接会場にやって来たとしたら、第一印象だけでは、おそらく②の学生だけが次のステップに進む可能性が高いと思われます。この文章完成法テストでの3人の違いは何でしょうか。与えられた主語は同じです。……そう、ものごとに対する「受け止め方」が違うのです。「3◆いわれたことしかできない指示待ち、受身パターン」で、私は「環境と経験が人を作る」と書きました。しかし、非常に劣悪な環境で生まれ育まれたことで〝グレる〟人もいれば、極端に劣悪な環境で生まれ育まれたからこそ、『タイガーマスク』の伊達直人のように、自分の出身孤児院に、自らが勝ち取ったファイトマネーを全額、匿名で寄付し続ける人もいます。ということは、最後は環境ではないのだと思います。その環境を、その経験を、その方がどう受け止めたのか、という受け止め方(認知)が違うだけなのです。

私は、人間の一番の違いのひとつが、この受け止め方の違いだと考えています。知っている先輩が通り過ぎた。挨拶をした。無視された。「あれっ、聞こえなかったのかな」と受け止める方もいれば、「うわあ、無視された。どうしよう。私、何か悪いことしたかなあ」と受け止める方もいます。また、有名なたとえですが、コップに半分の水が入っている。これを、「半分も入っている」という方もいれば、「半分しか入っていない」という方もいます。ただ事実は、「コップに半分の水が入っている」、ただそれだけです。コラム受け止め方=認知が今、社会問題に?鬱病の治療には、認知行動療法でアプローチすることも多いようです。以前、痴ほう症と呼ばれていた症状は、今では「認知症」といいます。※時代を読み解く「鍵」のひとつが「認知」かもしれません。決して私は、この文章完成法テストをお勧めしているわけではありません。面接では、受験者が用意してきた答えを並べてもらうのではなく、その受験者のものごとの受け止め方をしっかりと聞いていただきたいのです。たしかに、仕事では第一印象は大切です。しかし、第一印象は入社してから、指導してもらうことで変えることができます。ところが、その人のものごとの受け止め方を変えることは、そう簡単なことではありません。2章の「精神的こども」パターン、「受身」パターン、「面倒くさい」パターンの回答には、少なからず不自然な点が見受けられることと思います。コラムポジティブ心理学の研究者たちによると、人間の天職を見つけるための質問は、①意義②喜び③長所に集約されるそうです。文章完成法テストで問うこともできるし、面接の際にこれを質問に変換すると、こうなります。①あなたはとくに、どんなことに意義を感じますか。②あなたはとくに、どんなことに喜びを感じますか。③あなたが得意なことは何ですか。私は本来、採用ではなく育成の専門家ですから、企業の実施する研修の講師を務めることがあります。研修後には、受講者に報告レポートを書いていただくこともありますが、いつも不思議に思うのは、同じ空間で、同じ講師から同じ話を聞いて同じグループ討議を

行ない、同じ演習をやっているにもかかわらず、このレポートの内容の多彩なことです。わずか1日の研修で、自分の人生を変えるような気づきや学びを得る人もいれば、「楽しかったです。また研修があれば参加したいです」と、まるでテーマパークに行った後の感想のようなことしか書けない人もいます。もちろん、講師の力量にもよりますが、同じ研修を受けて、全員が同じ感想文しか書かないとすると、その研修は宗教です。講師がどれだけ正しいことを語ったとしても、その時点で講師は独裁者です。同じ話を聞いても、違う受け止め方をする。これが人間の難しさであり、豊さではないでしょうか。コミュニケーションも同様です。こちらが、いくら肯定的に発した言葉でも、相手が否定的に受け取ったらそれまでです。コミュニケーションは、「受け取る側」がどのように受け取るか、によって決まります。セクハラも、またしかりです。コミュニケーションのつもりで、部下の肩を叩いたところ、「やめてください。それはセクハラです」といわれることもあります。セクハラもパワハラも、やはり「受け取る側」がどのように受け取るか、によって決まります。この、人の「受け止め方」の違いを確認することができるツールのひとつが、この文章完成法テストといえるでしょう。もちろん、生半可な気持ちで飛びつけるようなものでもありません。かなり、奥深いツールだからです。性格検査は大きく、「質問紙方式」「作業法」「投影法」の3つのタイプがあります。YG法やSPIは、「質問紙方式」のひとつです。短時間でできて検査者の熟練は必要ありませんが、結果の信頼性においては歪曲が生じやすく、深層心理の分析には向いていません。「作業法」の代表的なものは、前述したクレペリンです。こちらも、検査者の熟練が必要となります。文章完成法テストは、「投影法」に属します。これは歪曲が生じにくく、深層心理の分析にも向いている反面、検査者の熟練が必要です。これらは、どれも一長一短ありますが、本気で受験者に向き合うなら、「質問紙方式」より「投影法」ということになります。「投影法」に属するツールといえば、たとえば「バウムテスト」があります。画用紙に鉛筆で「実のなる木」を受験者に描かせて、その木の形から性格や人格を判断するものです。木を受験者自身の自己像としてとらえ、木の各部分の描き方から、パーソナリティを判断します。これには、まさに熟練が必要となります[参考5]。

もしくは、「ロールシャハテスト」。これは、最も有名な投影法のひとつです。それぞれ、異なる模様が印刷された10枚のカードを受験者に見せて、「何に見えるか」を問い、その答えによって性格を分析します。一定の基準はありますが、心理臨床家に解釈の大部分が依存することになります[参考6]。

ロールシャハテスト等に比べると、文章完成法テストは、より「質問紙法」に近く、行動や観察を伴わない「紙上面接」といえます。バウムテストやロールシャハテストは深層心理を扱うため、心理臨床家でもない企業パーソンが解釈するのは難しいですが、文章完成法テストは比較的、取り扱いが簡単です。もちろんその分、ロールシャハテスト等に比して心理の深さは浅くなりますが、それでも、十分その方の「受け止め方」は読み取れると思われます。そしてここに何より、採用のアンチテーゼがあります。そう。応募者の「文章」を受け止めるのは、あなただということです。あなたの「受け止め方」が問われるのが、採用活動ということなのです。コラムある応募者が「滝つぼに落ちたが、生還をはたした」という武勇伝(?)を披露したときのこと。面接官はこういったそうです。「事前準備もしないで、滝つぼに近づいたんですか?」■文章完成法テストの注意点①ただし、他の性格検査や面接と同様に、文章完成法テストにも絶対的な正解があるわけではありません。ある企業で、入社10年目の社員にこの文章完成法テストを実施していただきました。そのとき、人事の方からいただいたコメントが左記です。読んでいて、心が躍るような文章を書く人もいれば、ネガティブなワードのチョイスが目立つ人もいました。専門的な知識がないので分析はできないまでも、全体的な構成や言葉遣いから、入社以来、10年もつき合ってきたからこそ、本当にその人らしさがよく出ているなあと痛感しました。人事から見て意外性がある方には、念のため上司に確認をしましたが、上司は「わあ、あいつらしいなあ」といっていました。それに、単純に文章力や語彙力を図ることもできると認識したしだいです。文章完成法テストは、まさにここにある「全体的な」構成や印象から読み解くことになります。あまり、一つひとつの文章にとらわれることなく、テスト全体から読み取ることが大切です。〝失われた10年〟以降、人事にも欧米のシステムが導入されるようになりました。西洋

の文化は、どちらかというと「分解」です。その人の仕事ぶりを評価するにも、対人力や課題解決力、積極性や協調性といった、「分解」された項目をそれぞれ点数化し、それらを積み上げて合計点を出していきます。しかし、積み上げた結果を見ると、AさんとBさんでは、Aさんのほうが合計得点は高いものの、Bさんのほうが、会社としては必要と思える人材であることがあります。一方、東洋の文化は「統合」です。つまり、AさんとBさんのどちらがOKかをトータルで判断しようとします。「分解」と「統合」のどちらが正しいということではなく、両方のものの見方があるということです。個人とチームのどちらを優先させるか、ということも、こうした東西の文化の違いによるものです。しかし、この文章完成法テストにおいては、どちらかといえば、東洋哲学的な判断をされるほうがいいでしょう。ただし、西洋哲学的なもの見方も可能です。たとえば極端な話、「強く怒られると私は」→「腹が立ちます」という方は、どちらかというと他責的。→「次回はがんばろうと思います」という方は、どちらかというと自責的。自責的な方が、一概にいいというわけではありません。最後はバランスです。また、「私」という言葉で語ることができているか、ということもポイントです。人の目を気にし過ぎていないか、自己主張が強過ぎないか、などもバランスです。たとえば、「私が残念なのは」→「今期勉強不足で、単位をひとつ落としてしまったことです」……ある意味どんくさいですが、私を主語にして語っています。→「日本で少子高齢化が進んでいることです」……自分自身が主語ではなく、「社会が」が主語になっています。面接では、後者の方のほうが比較的弁が立つし、大人に見えることでしょう。したがって、後者のほうが「面接受け」するかもしれません。しかし、本当に会社で活躍する存在は、もしかしたら自分を主語にしてものごとをとらえる前者の方かもしれません。後者の方は、〝評論家〟だからです。となると、この文章完成法テストの結果を解釈するのは、かなりたいへんな作業です。しかし、たとえば「SPI」の適切な読み方を、採用担当者の方々がきちんと理解して使っているのかというと、残念ながら疑問です。

一方、論文を読むつもりでこの文章完法テストの結果を読むのでも、ある程度はその受験者が把握できると思います。■文章完成法テストの注意点②このテストの利点は、ひとつのテストで、比較的複数のパーソナリティーを確認することができるという点です。文章の「出だし」を変えていただければ、確認できるパーソナリティーは変わります[参考7]。

2章でご説明したように、今どきの面接では、受験者本人に関係がないことは聞くことができません。たとえば、親の職業を聞くことは許されません。人権問題に発展しかねないからです。親のことは聞くことはできませんが、受験者本人が親を「どのように受け止めているか」は聞くことができます。親自身の問題ではなく、その方の受け止め方こそが、その方のパーソナリティーだからです。繰り返しになりますが、このテストを一概に進めているわけではありません。このテストのように、面接では、受験者の受け止め方を確認するようにしてください。つまり、能力を確認するのではなく、人間の「幅」を確認するのです。では次章では、そうした面接について考えていくことにしましょう。コラム妖精の舞い私はこれまで、この文章完成法テストのアウトプットを、おそらく何千枚も拝見してきましたが、一番忘れられないのは、東京の有名私立K大学の政経学部の女子学生のものです。20分程度の制限時間の中で、その学生は、このテストを使って〝妖精の物語〟を創りました。しかも、きちんと筋が通っているのです。これには驚きました。その企業の人事トップに見せたところ、その方はおっしゃいました。「すごいねえ。しかし、こんなに優秀な学生を、部下として使いこなせるだけの管理職はわが社にはいない。残念ながら、採用はできそうにないね。きっと、この学生にふさわしい企業があるだろうね」このコメントにも〝すごい〟と思いました。このテストに正解はありません。いい悪いではないからです。だからこそ、もし実施するならば、書籍を買って勉強するのではなく、御社の5年目10年目の社員に実施してみてください。いい仕事をなさっている方が、どんな回答を書かれるか。また、いわゆる問題社員がどんな文章を綴るか。そして、それらをきちんとノウハウとして残すようにするのです

5章▼面接で見きわめよう

1現場社員の面接で見抜けなかった理由

「では、1分程度で簡単に自己紹介をしてください」「はい。私には積極性があります」「はい。私は協調性を大事にしています」御社では、このような面接をしていないでしょうか。そもそも、「積極性」とは何でしょうか。明るく元気に、「はい」ということが積極性だと思っている方がいます。違います。自分に与えられた仕事をやり抜くのが責任性であり、社会人の積極性というものは、そのうえで、1割増、2割増の仕事をこなしていくことです。ですから、人事評価の情意評価項目で、責任性がB評価なのに積極性がA評価だったりすると、「それ、間違っていませんか」といいたくなります。では、「協調性」とは何でしょうか。みんなで仲よく和気藹藹とすることが協調性だと思っている方がいます。それも違います。自分に与えられた仕事をやり抜いたうえで、ふと横を見たら先輩が忙しそうにしている。上司の仕事が回っていない。そのようなときに、「先輩、よかったらお手伝いしましょうか」というのが、社会人の協調性です。このように、言葉というものは非常に曖昧なものです。ですから、現場の面接官担当の方に「積極的で協調性がある方を採用してください」といった〝求める人物像〟を提示すると、それぞれの定義する積極性や協調性で判断をしてしまうことになります。積極性も協調性も責任性も、それ自体は形がありません。目に見えないから、それぞれの頭の中にある定義やイメージで判断せざるを得ないのです。では、どうすればいいのでしょうか。そのヒントのひとつが、2011年の東日本大震災直後に、テレビCMでたびたび流れていました。ACジャパンのテレビCMです。「こころ」はだれにも見えないけれど、「こころづかい」は見える「思い」は見えないけれど、「思いやり」はだれにでも見える宮澤章二さんの詩「行為の意味」の一節です。ACジャパンのCMで、何度となく耳にしたナレーションです。TVCMはここで終わりますが、ラジオCMには続きがあります。映像がない分、ナレーションが続いていました。「あたたかいこころも、やさしい思いもおこないになって、

はじめて見える。その気持ちをカタチに」「思い」は見えないけれど、私たちはあの人のことが「思いやりがある」といえる。なぜか。おそらく、その方が「思いやり」があると思えるような発言をされているか、行動を取っているからです。「優しさ」は見えないのに、私たちはあの人のことを「優しい」といえる。なぜか。おそらく、その方が優しさと思えるような言動をなさっているのと、併せてその方が、私が過去に出会ってきた人の平均値と比べて優しいか、もしくは私自身と比べて優しいか、ということです。人が、人を絶対的に見ることは困難です。結局、何かと比べています。それ自体は悪いことではありません。そう。積極性や協調性といった見えないもので、面接官に求める人物像を伝えるのではなく、それらを行動レベルに落とし込んで伝えるようにしてください。たとえば、3章3項でご紹介した「社会人基礎力」。「前に踏み出す力」「チームで働く力」「考え抜く力」はたしかに重要ですが、私の尊敬する、中国短期大学情報ビジネス学科飯田哲司先生は、「〝いつでも〟前に踏み出す力」「〝どんな〟チームで〝も〟働く力」「〝自分の頭で〟考え抜く力」、として、それぞれに「形容詞をつけるべき」と提唱されています。私も同感です。たしかに、考え抜く力は不可欠です。だからといって、現場の面接官に「考え抜く力が高い人を採ってください」というだけでは、そこには面接官の主観が入ってしまうことになります。ですから、せめてこれくらいの提示をするようにしてください。〈考え抜く力〉[課題発見力]・順調に進んでいる事柄であっても、常に問題はないかと考えている・目先の事柄に惑わされることなく、広い視点で問題や課題を見つけることができる・課題を解決する方法や手段を考えることができる・問題となることを解決するための知識や能力を十分持っている・何か問題となるようなことがあれば、それを解決するまでのステップを組み立てることができる[計画力]・何事も十分な予定を立ててから行動するようにしている・最初に決めたことにとらわれず、状況に応じて計画を修正することができる・必要な情報は、もらさず収集してから計画を立てている・計画を立てるときは妥協せずに、常に最もよい進め方を追求している

・思わぬ事態が発生することも考えて計画を立てている[創造力]・自分の好き嫌いにかかわらず、いろいろなことに関心を持つようにしている・いろいろな角度から物事をとらえるようにしている・誰も思いつかないことを考えようとしている・人からよく、「創造力(アイディア)が豊かだ」といわれる・新しいことをやってみたり、考えたりすることが好きである出典:株式会社日本マンパワー「社会人基礎力テスト」これは、たとえば「考え抜く」力が高い人は、どういう行動を取ることが多いのか、を書き出したものものです。そもそも主観が入る面接ですから、できるだけ面接官の「考え抜く」人物のイメージを揃える努力は必要です。また、受験者には、能力を語らせるのではなく、行動を語らせることです。人の個性というものは、原因ではなく結果です。その具体的な行動の積み重ねの結果、面接官側からの総評として、「あなたは積極性がありそうですね」となるわけです。これが、一時流行った「コンピテンシー面接」につながる考え方です[参考1]。

ちなみに、私の専門の「人材育成」においても同様です。部下指導ひとつ取っても、「もっと仕事は丁寧に」……一見伝えているようで、実は伝わっていないことがおわかりでしょうか?たとえば「ドアを静かに閉めよう」といわないと、貴方の意図する「丁寧さ」は伝わっていない可能性があります。一般的に、言葉は塊が大きいものです。「リーダーシップを発揮しよう」という、そのリーダーシップとは何でしょうか。「メンバーを、グイグイと引っ張っていくことができる人はリーダーシップがある」という方もいるでしょう。あるいは、「自分の手柄を、部下や後輩に譲って、自分は縁の下の力持ちとなってチームを下支えできる人」がリーダーシップがあるという方がいるかもしれません。「コミュニケーションは大切だ」……いったい、何が大切なのでしょうか。このように、言葉の塊が大きいことを、専門的には「チャンクが大きい」と表現します。テレビCMはチャンクが大きい。「愛のある食卓を」。誰もがうなずくことでしょう。しかし、うなずきながらも、それぞれが頭の中でイメージしている「愛のある食卓」のイメージは違うはずです。だから、うなずくことができる。テレビCMは、いかにチャンクを大きくするかです。そのほうが、多くの方からの共感を得ることができるからです。コピーライターはある意味、〝チャンクの大家〟といえるかもしれません。しかし、採用面接の場で、大きなチャンクで語り合ってもらっては困るのです。「あなたが大切にしているものは何ですか」「人間愛です」「まあ、それはすばらしい。うちの社長と同じです」などというやりとりは意味がないからです。そもそも、「いっていること」と「行なっていること」が違う人は少なくありません。思いを聞くのではなく、行動を聞く。さらには、行動のレベルを聞く。気がきく要素を持った人がほしいのであれば、世にいう「気がきく人」は、どんな行動を取ることが多いのか、を考えるところからはじめてください[参考2]。

そもそも、主観が入る面接において、大きなチャンクで、見えないものでやりとりしていませんか。2これまでの面接シートで見抜けなかった理由ところで、みなさんの会社では、どんな面接官シートを使っているでしょうか。まさか、こんな面接シートを使っていないでしょうか[参考3]。

この面接官シートでは、私でもまともに採点することはできません。1日に、20人30人と面接を積み重ねていくと、夕方には体力は限界に達します。そのような状況下で、この面接官シート1枚に応募者一人ひとりのすべての記録を残すことを要求されたら、どうしても感覚で採点するようになってしまいます。ましてや、1日かけて行なった面接の最後に、「今日1日を振り返ろう」と思っても、よほど印象的な方でなければ、どんな方だったのかすら、思い出すことは難しいでしょう。最終的に、次の選考ステップに進めたいか進めたくないかを直感で決定しておいて、面接官シートには、自分の最終決定につながるように、一つひとつの評価項目を逆算して評価することになりがちです。前述の「コンピテンシー面接」を導入していながら、面接官シートがそれに対応していない、この事例のようなパターンになっている会社も少なからず見てきました。面接官の方には、せめてこれくらいの面接シートを用意してあげてください[参考4]。

つまり、面接官の評価を記入させるのではなく、面接官に確認してほしい質問そのものを列記してあるシートに、その質問に対する応募者の回答や、その回答をする際の反応、気になった点といった事実を記入してもらうわけです。「いっていること」を聞くだけではなく、「していること(姿勢、動作、目、声、頷き、感情表出、ものの扱い方)」も観察していただいて、それを記入する欄を作っておくのです。動作所作、服装、態度、話し方の語調……そのすべてが、「その人らしさ」です。そうすれば、夕方の時点で一人ひとりの応募者の様子を思い出すことも可能だし、人事の側でも、このシートを見れば、どんな様子の面接だったのかが、ある程度は読み取ることができます。そのうえで、これらの事実をもとに総合評価をすればいいのです。面接官シートひとつとっても疎かにせず、「採ってはならない人」が見きわめられるような記録の残し方をしてください。3役員面接では見きわめなくてもいい「あなたを、寄せ鍋の具にたとえると何でしょうか」「私を食事に誘うとすれば、具体的にどんな店に連れて行きたいと思いますか」──これは、私が最終役員面接で実際に聞いたことがある、役員から応募者に対する質問です。こんなことを聞いて、いったいどうするのだろうと思うのですが、組織で一定の責任と役割を担う役員には、それぞれの思いや経験からのノウハウがあるのかもしれません。「連れて行きたい店を聞いてどうするのですか」「この質問をすれば、その学生が、どの程度どんな遊びをしてきたのかがわかるのです。そのうえ、この私をどんなふうにとらえているのか。私をどれだけ理解できているのか。それを見ているのですよ」(いやいや、面接はあなたを見てもらうのではなく、あなたが応募者を見てください)……とツッコミたくなります。しかし、最終の役員面接では、ある程度の主観が入ってもいい、と私は考えています。役員面接では、社長や役員が最終判断を下すことになりますが、その会社の社長や役員にかわいがられない方が、その会社で活躍することは困難だからです。ましてやオーナー企業であれば、社長や役員にかわいがられることは大切な要件です。採用担当者としては、「最終面接に進ませる方は、どなたを採っていただいても大丈夫」という状態にすることです。最後は、経営者の主観で決めてもらってもけっこう、というくらいの気概を持って、最終面接までの段階で、ある程度の決着をつけておいていただきたいものです。4コミュニケーション力を見るための面接では、問題社員は見きわめられない面接官の方には、いくら面接のプロではないといっても、応募者を見きわめるために必

要な、最低限のコミュニケーションを取ってもらうようにしてください。ですから、女子高生のようなコミュニケーションを取らせることは、やめてください。電車やバスの中で、女子高生同士が会話をするのを聞いたことがあるでしょうか。まったく会話が嚙み合っていないにもかかわらず、会話が横にスライドするかのように進行していくことがよくあります。たとえば、こんな感じです。「昨日、うちでこんなことがあったの」「へえ。ねえねえ、宿題ちゃんとやってきた?」「うん。あー、今日の体育、マラソンだよね。面倒くさいなあ」……こんな調子で、30分も会話が継続していくのです。ある意味、すごいと思いますが、このようなコミュニケーションを「雑談」というのでしょう。これはこれで、ひとつのコミュニケーションの形ですが、面接でこれをやってもらっては困ります。これは極端な例としても、ひとつの質問に対して、ひとつの回答を返してもらう。そして、次の質問に対して次の答えをもらう、というのでは、やはり雑談です。これでは、応募者が事前に準備し、暗記してきた文章をただ羅列させるだけになります。これでいったい、応募者の何が見えるというのでしょうか。そもそも、みなさんは何のために面接をしているのでしょうか。コミュニケーション能力を確認するために面接をしているのであれば、雑談していただいてけっこうです。2章で述べたような「問題社員」にだって、通常のコミュニケーション力はあるのです。しかし、私たちは面接において、その応募者の人間を見きわめることが目的ではなかったでしょうか。だから、話は横にスライドさせないようにしなければなりません。面接での会話は、縦に落とし込んでいくようにしてください。前の章でも登場した「チャンク」を「ダウン」させていくようにしてください。ではここで、実際に面接官のトレーニングをしてみましょう。ステップ1……事前準備ステップ2……導入事前資料から、被面接者の基本情報を確認し、面接イメージを作る被面接者の緊張を解くようにするステップ3……人物概要の確認過去の行動をベースに、本人の取り組みの事実を中心に確認するステップ4……掘り下げ効果的な掘り下げ質問と収穫すべき情報ステップ5……エンディング話しそびれたことを話す機会を与えて、応募者の不安や疑問を解消する労いの言葉をかけ、気持ちよく帰ってもらういわゆる、事前準備や導入部分ではなく、掘り下げ部分の練習です。ここが面接の要になります。

では、実際に2人でペアになって行なってみてください。まず、先攻役と後攻役を決めてください。そのうえで、先攻役の方は後攻役の方に「あなたの趣味は何ですか」と聞いてください。たとえば、このようなやりとりになります。後「読書です」先「好きなジャンルはありますか」後「うーん。ミステリーです」先「好きなミステリー作家はいますか」後「東野圭吾さんが好きです」先「東野圭吾さんの作品で、一番好きなものは何ですか」後「『容疑者Xの献身』です」先「なぜ、その作品が好きなのですか」……もしくは、「週に何冊ぐらいお読みになるのですか」「月に、いくらぐらい本にお金をかけますか」「いつから読書が好きですか」「読書が好きになったきっかけは何ですか」「読書をする時間帯は決まっていますか」「あなたが読書から得るものは何ですか」「次に読みたいと思っている作品はありますか、それはなぜですか」「私に、何か作品をひとつ勧めてみてください」等々。たった2分でけっこうです。ただし、質問し続けていると、たまに詰問口調になる方がいるので注意してください。まるで、ヒーローインタビューでもしているように、目の前の方に興味や関心を持って質問を投げかけてみてください。2分たったら、お互いの役割を交替します。たった2分間だけ、相手に質問するその間の印象はいかがでしたか。これを、実際の面接であるかのようにトレーニングしていただくと、面接官の方々はたいてい、「難しかった」、「2分間がとても長く感じられた」といった感想をおっしゃいます。なぜ、難しく感じられるのでしょう。また、なぜ長く感じられるのでしょうか。おそらく、ふだんこういうコミュニケーションの取り方をしていないからだと思います[参考5]。

ただ「聞く」のではなく、「聴いて」「訊く」。これが、正しい「きき方」です。実はこの2分間は、「聞く」のではなく、「訊く」ことをしていただきました。面接は、「訊く」場です。そして、何よりこの2分間は、話が横に展開していないことが重要です。ですから、ひとつの事柄について具体的、かつ徹底的に聞いています。すなわち「チャンクをダウン」(話のかたまりをほぐす、分解する)させていくのです。これが、面接官の正しい質問のあり方です[参考6]。

よく採用担当者の方から、「10分程度の面接では何も見抜くことはできません。どうしたらいいのでしょうか」という質問を受けるのですが、それは話が横にスライドしているからではないでしょうか。先ほども述べたように、用意してきた答えを羅列させるのではあれば、あっという間に10分など過ぎてしまいますが、この練習では、2分もあればかなりの内容が聞けるはずです。面接では、会話は横に持っていかない、縦に持っていくのが鉄則です。ですから、ただエントリーシートへの回答をなぞるだけだったり、Aという質問に対してA、Bという質問に対してB、Cという質問に対してCを繰り返すだけでは、その方の人間性はよくわかりません。どんな質問項目でもかまわないので、エントリーシートの質問項目すべてを確認するのではなく、何かひとつの項目に対して徹底的に具体的に訊いていくようにしてください。・そのサークルに入ったきっかけは何か・サークルにはどれくらいの頻度で参加していたのか・そのサークル集団の活動の目的や目標は何だったのか・サークルであなたが最も学んだことは何か・サークル活動に点数をつけるとしたら、何点か。それはなぜか・活動におけるあなたの立場役割はあったのか・サークルの人間関係はどうだったか・サークルの他メンバーから、あなたはどのように見られていたか・サークル活動でメンバーと意見が食い違うようなことはなかったか・あったとしたら、そのとき、どのように問題解決を図ったか・サークルの後輩を育成するような機会はあったか・サークル活動における、これはという経験談はあるか・サークル活動において主体的に行なったことはあるか・何かあなたの成果といえるものがあるか・もう一度サークル活動やり直すことができたとしたら何をやりたいか。何か反省点はあるか・何か困難な出来事はなかったか・そのとき、どう対処したのか。どうしてそうしたのか……といった具合です。応募者自身の言葉で、「より多く」「よく深く」語らせるのです。そのサークル活動におけるその方の行動や考え方、受け止め方を通じて、徹底的にその人間を探るのです。質問の回答に対して、また次の説明を求めていきます。

なぜ、どうして、他に何かありませんか……疑問をぶつけ続けるのです。「サークルの部長でした」「海外留学で視野を広げました」……だから何なのか、経験の羅列を聞くのではなく、その具体的な成果や、そこから感じたことを聞いて、そこからその人物を見るのです。私たちが面接で確認したいのは、その応募者の人となり、だからです。ところで、先ほどの2分間の練習をやっていて、他に気づいたことはないでしょうか。たとえば、相手に質問し続けていく途中では、自分自身の価値判断や善悪正誤の意識は入りにくくなります。質問することに一所懸命になるため、「非合理な信念」が入りにくくなります。また、2分間質問し続けるためには、目の前の人やその会話の中身に興味関心がないと、かなり苦しい作業になります。ですから、面接官役には、人間に興味がある方を抜擢するようにしてください[参考7]。

面接のスタート時は、反応が鈍くて発言量も少ないので印象は悪いものの、こちらの掘り下げ質問によって、徐々に味わいのあるしっかりとした応答をしてくる応募者がいます。このようなことから、採るべき方を見逃さずにすみます。また逆に、外見が爽やかで話し方も流暢、社交的で人あたりがよい、といった特徴を持つ人物の評価には注意が必要です。これらの特徴は、一般的には高い評価が与えられますが、自分を実際以上によく見せようとするタイプも、このような特徴を示すことがあります。ですから、ここでも掘り下げ質問によって、求める人材かどうかを見きわめることです。なお、最初から話が具体的な方もいます。その場合は、むしろ「チャンク・アップ」によって、話を「まとめさせる」「原点に返らせる」ことを意識するといいでしょう。5過去と現在をこう問えば、面接で問題社員が見きわめられるこれまで、「思い」ではなく「行動」を具体的に徹底的に訊いてください、とお伝えしました。引き続き、面接で聞く内容を確認していくことにしましょう。「この会社に入って、どんな仕事がしたいですか」といった質問をよく聞くことがあります。しかし、未来のことをいくら聞いたところで、仕方がありません。口が巧い人に限って、未来のことは何とでも語ることができるからです。では、なぜ面接官はこのような質問をするのでしょうか。もちろん、何らかの意味はあると思います。たとえば、明日、自らの命を断つことにしている方が、明後日のことを語ることはありません。未来を語るそのこと自体が、生きるエネルギーだからです。語れるか語れないか、が重要であって、語ったその中身にあまりこだわる必要はないのです。未来に、「その人らしさ」はありません。「その人らしさ」は、今までやってきたことと過去にしかありません。もしくは、今日この日、自分の目の前に座っている応募者自身が、過去の結果です。だとすれば、目の前の応募者に向き合っていくしかありません。では、過去の何を聞けばいいのでしょうか。ここで、聞いていただきたいことは、過去の「行動」だけではありません。上表は、キャリアデザイン研修等で、ご自身の過去を棚卸ししていただく際に使われる、「ライフラインチャート」と呼ばれるもので、縦軸に満足度(充実度)、横軸に過去の年齢(時間軸)を取ったグラフです[参考8]。

ここで仮に、ある人が生まれた瞬間の「満足、充実度」を0としましょう。上に100とあり、下にマイナス100とあります。ここで今、ご自身の過去を思い出してみてください。楽しかった、うれしかった、と思える時期は上に、苦しかった、辛かったと思える時期は下に、これまでの自分の人生の満足度を、フリーハンドで1本の曲線で描いてみてください。たとえば、こんな感じです[事例1]。

私は、キャリアカウンセラーの肩書きを持っていますから、仕事を通じて、大勢の方のライフラインチャートを拝見してきました[事例2]。

このシートでわかることは、その方の行く末ではなく、来し方です。過去の行動ではなく、過去にあった喜怒哀楽の起伏、自分の人生の評価、受け止め方です。面接では、過去の「行動」を聞き取ることが大切ですが、たとえば今どきの新卒採用であれば、「チームワーク力や行動力があることをPRすればいい」ということは、応募者の常識のひとつです。そこで、就職試験対策として、わざわざイベントサークルを立ち上げたりするのです。そして、面接の場で「私は、イベントサークルを立ち上げました(すなわち、私にはチームワーク力や行動力があります)」などとPRをするわけです。10人で立ち上げたサークルがあれば、10人が10人ともそうPRすることでしょう。しかし、10人に同じ評価をしても仕方がありません。「行動」だけを問うただけでは、わからないことがあります。コンピテンシー面接だけでは、このような事態に陥ってしまいます。サークルを立ち上げたという行動は10人同じでも、そこにある感情は一人ひとり違うはずです。その活動において、何がうれしかったのか、何が苦しかったのかは、一人ひとりが違うはずです。10人の仲間で、協力し合って取り組んだことが楽しかったという方もいれば、関わった方から「ありがとう」という言葉をもらうことができたことがうれしかったという方もいます。そう、「受け止め方」を、適性検査ではなく、面接で確認していくのです。面接で質問すべきは、「行動」と合わせて、その行動に伴う「感情」であり、「受け止め方」です。極端な話、「行動」や「思い」は偽ることができます。しかし「感情」や「受け止め方」を偽ることは、プロの詐欺師でもない限りかなり困難です。2章の「精神的こども」パターン、「面倒くさい」パターンからは、どこか違和感のある感情がこぼれ落ちてくるでしょう。そして、できれば過去の行動に伴う「感情」「受け止め方」の臨界点を確認してください。過去、私が会った学生の事例です。その方は、マイナス100に達している時期があったので、「ここで、何があったのですか」とお聞きしたところ、「はい。田舎から出て東京の大学に進学したので、一人暮らしをはじめました」「まあ、そうでしたか。では、いろいろご苦労もあったんでしょうね」「はい、そうですね」「たとえば、どんなことがたいへんでしたか」「そうですね。たとえば、1人で銀行に行って銀行の預金口座を作りました」「……まあ、それはたしかにたいへんでしたね。(そんなことがたいへんか?)」といったこともありました。

つまり、先に行動を持ってこさせるのではなく、先に、一番満足した、一番不満足だったタイミングの行動を聞き取るのです。そして、そのときのその方の、「ものの受け止め方」を確認するのです。これまでのツール同様、このライフラインチャートを面接の補完資料にしてくださいというわけではありません。面接では、行動に伴う「感情」や「受け止め方」こそ、訊き取っていただきたいのです。そのために、このシートが有効であれば、ご活用いただければいいでしょう。その方が生きてこられた人生の中で、何を一番の満足、喜び、楽しみと感じたのか。あるいは、何を一番の不満足、苦しみや悲しみだと感じたのか。そこに、〝その人らしさ〟が存在するのです。人の思考や行動にも癖があるように、人の感情や受け止め方にも、人それぞれの癖やパターンがあります。ただし、不満足のゾーンのほうに曲線が多く描かれる方や、ネガティブな感情が多い方が、一概に悪いというわけではないためご注意ください。私の心理学の師である、星野惠子先生に教えていただいたことですが、一見、ネガティブな感情も不可欠な存在です。そこにも、「エネルギー」がある、ということです。真の哀しみは、過去を癒し、今を受け入れさせてくれる。真の怒りは、現状を打破するエネルギーになる。真の恐れは、未来への準備を促す原動力になる。そして喜び。真の喜びは、今を生きる意味となる。泣き、笑う。悲しみ、喜ぶ。大いなる人生を大いに生きる。己の感情をきちんと感じて解釈し、味わい尽くせる力、それを、次の行動のエネルギーに転化させているのであれば、ネガティブな感情も非常に大切なものです。また、私たちは、自分が感じたことがない感情を推測することは困難です。相手の気持ちを思いやるためには、自分の「こころ」の経験値を積み重ねることが必要です。ネガティブな感情を抱いた経験がある方にしか、相手のネガティブな気持ちを汲み取ってあげることはできません。面接では、どれほどの「こころ」の経験値を持っている方なのかを問うことも重要です。なお、なかにはどうしても「過去」がさらけ出せない応募者もいます。面接官としてはどこまで立ち入っていいのか悩ましいところでしょう。自身の過去をさらけ出すには、真のプライドが必要です。私が過去、出会ってきた方々の中で、過去を極端にさらけ出せない場合は、安っぽいプライドが邪魔をしていたり、過去を「受け止める」だけの自己内省と自己客観視が不足する場合が多く、結果的に入社後に定着しないことが多かったことも添えておきます。その方の過去の「行動」を、「感情」や「受け止め方」を問うことの他に、さらにもうひとつ、問うていただきたいことをご紹介しましょう。

左記は、これは私の大学時代の同級生で、現在は大学でキャリア論を指導されている、坂本理郎先生が、Kahn,R.J.&Antonucci,T.C.(1980)を基に開発されたツールです。ぜひ、取り組んでみてください。真ん中に自分がいます。上半分は、年上もしくは目上(何らかの形で自分が依存していると思う相手)の方、下半分は、年下もしくは目下(何らかの形で自分が依存されていると思う相手)の方。右半分は社内(あるいは職場内)の方、左半分は社外の方。中心から同心円がいくつかあり、中心に近い方から「親しい(心理的に距離が近い)、普通、あまり親しくない(心理的に距離が遠い)」とあります。ここで問題です。あなたの仕事に影響を与えていると思われる方々を、ここに書き出してみてください。たとえば、職場の上司は、目上でかつ社内の方、そして比較的親しくさせていただいている……と思ったら、次のような箇所に点をプロットしてみてください[参考9]。

ある程度横並びで採用した数名の社員が、社内で1年2年3年……と経過するにしたがって、ハイパフォーマーとローパフォーマーに分かれていく。それは、なぜなのか。坂本先生のひとつの結論はこうです。ローパフォーマーといわれる方にこのシートを書いていただくと、上司や後輩といった人間関係しか出てきません。しかし、ハイパフォーマーといわれる方のシートには、たとえば、隣の部署の先輩や前の部署の上司、得意先の、自分をかわいがってくれる社長、学生時代の同級生等、多様な人間関係が現われるそうです。こういった人間関係の中で仕事をしているから、いい仕事をするのか。いい仕事をしていると、こういった人間関係が出来上がっていくのか。このどちらが、結果か原因かはわかりませんが、これはひとつの事実です。同様に、40代になっても、組織からうだつが上がらないといわれている方にこのシート書いていただくと、やはり同様に上司や後輩しか現われてきません。職務によって程度の差はあると思われますが、積極的に変革や新たな挑戦に取り組んでいる人は、職場や社内の人間関係だけでは物足りず、それ以外の多様な他者から学びを得ようとします。昨今のように、環境の変化が早くて大きな時代においては、なおさらこのような人間関係のネットワークを構築することが求められるのです。さらに、40代で脂の乗った仕事をしているミドルは、人間関係のハブ(結節点)となって、たとえば自分が知っているAさんとBさんをつなぎ合わせて、新たな付加価値を提供するような動き方もできます。つまり、自分の人間関係だけではなく、部下や他者の関係性のネットワークの促進役にもなることができるのです。面接では、応募者本人に向き合っていくことになりますが、その〝人となり〟は、その人間関係、「つるみ」にも反映されています。また、「受け止め方」を変えることができるものがあるとしたら、それは人との出会いではないでしょうか。ですから、面接では「行動」「感情」「受け止め方」に加えて、その方の人間関係をよくよくたずねるようにしてください。面接で紹介された過去の行動の際に、周囲からは、どのようなアドバイスやコメントがあったのか、たったひとりで行なった行動なのか、関係者は誰か等々、人間の「つるみ」にも多少の癖があるものです。その人間性は、己の「評価」ではなく、周囲の「評判」に現われるものかもしれません。コラムその応募者の、高校や大学の先生に対する印象は、ぜひ確認してみてください。学校の先生に対する受け止め方は、その方が組織に入ってから、上司に対する受け止め方に転嫁しやすいといわれています。学校の先生に対して、「つまらない先生ば

かりだった」としかいえない方は、組織に入ってからも、「うちの会社は、魅力のない上司ばかりだ」といいかねないからです。もちろん、人間ですから相性もありますが、これまで生きてきた人生の中で、人を尊敬するという感覚を持つことができない方は、組織に入ってから、よほどの出会いがない限り、その感覚がわからないのです。同様に、その方の〝勉強〟に対する価値感や受け止め方も確認するといいでしょう。勉強は、好き嫌いではなく、すべきものだったはずです。すべての科目が好きでなくてもいいので、勉強は苦しいものだが、その中に面白さもあったとか、ある科目だけは大好きだった、といえる方は、組織に入ってから仕事に対して面白味を感じることができるそうです。勉強に対する価値感は、仕事に対する価値感にスライドしやすいといわれています。学生時代の誇るべき成果が、サークルやバイトだけという学生には要注意です。学生の本分は「勉学」あり、社会人の本分は「仕事」だからです。今から20年ほど前、「圧迫面接」が流行しました。受験者に対して挑発的な議論を吹っかけたり、面接官が突然怒り出すなど、応募者を自然な状態でいられなくしたうえでその反応を見るという、面接手法のひとつです。窮鼠猫を咬む。人間、追い詰められると本音や本性が出やすくなります。いくら、その人の本質が見たいからといって、応募者も人格を持った尊い人間です。圧迫面接はフェアではないし、その会社の民度の低さを晒すだけです。ましてやこのネット時代、安易な発言は、瞬く間にネットを介して情報発信されます。圧迫面接は、過去の負の遺産といっていいでしょう。応募者の本質が見たいのであれば、もっと他にやり方があるはずです[参考10]。

たとえば、ロールプレイング面接という手法があります。次ページの図は、ある企業で営業職の管理職の中途採用で利用されたロールプレイング面接用のシートです[参考11]。

中途採用ですから、即戦力が求められるし、かつ管理職の採用ですから、入社と同時に複数の部下を持つことになります。この募集をかけたところ、応募者が殺到したそうです。エントリーシートには、応募者それぞれが、過去に営業や管理職の経験があることを記述しています。後からわかったことですが、なかには採用されたいあまり、それほど管理職の経験がないのにもかかわらず、多少話を「盛って」記述している方もいたそうです。新卒より、中途採用の方が社会人経験のある分、想像と創造でエントリーシートを書いている方も少なくなかったようです。しかし、中途採用だからこそ、そのメッキを剥がすことも実は簡単なのです。事例のロールプレイング面接では、社内で部下役を演じる方を設定しました。応募者にはシートを渡して、「これからあなたの部下が、上司であるあなたに相談事を持ちかけてきます。上司として、親身に相談に乗ってあげてください」という課題を与えて、10分程度の時間設定で、実際に相談に乗らせます。そして、そのロールプレイングのやりとりの様子を観察するというわけです。精神論で部下を叱咤激励する一方の方もいれば、共感を示しながら話は聞いているものの、カウンセリング止まりという方もいました。またなかには、その10分の中で、問題解決に向けての第一歩につながる発言ができた方もいました。現場で、部下を育成してきた経験があるのであれば、ロールプレイングでもある程度の行動が取れるはずです。同様に、営業職の即戦力を採用するのであれば、エントリーシートに羅列された営業経験に振り回されるのではなく、実際に自社の商品・サービスの情報を提供したうえで、顧客役を相手に営業トークのロールプレイングをしていただければいいのです。会社に入って即戦力として求めることを、実際にそこで実演していただくのです。ですから、一番手っ取り早い採用試験になります。また、面接官が観察者に回れるため、質問を考えなくてすむし、観察に集中することもできます。どちらかというと、新卒よりも中途採用にお勧めの方法かもしれません。2章の「受身」パターンや「空回り」パターンは、ここでその受身度合や空回り度合が露呈されることになるでしょう。では、ここで集団面接についても触れておきたいと思います。母集団が多い企業ともなると、「面接に1人10分程度しか割くことができません。これでは、応募者に消化不良感を与えてしまいます。それなら、1対2とか2対4といった面接をしたほうがいいのではないかと思うのですが、集団面接はいかがなものでしょうか」といった質問をいただくこともあります。もし、実施せざるを得ないのであれば、一人ひとりの応募者に対して、質問する内容は変えてください。

たとえば、応募者側が5人いるとします。「では、左の方から順に、志望動機を簡単に説明してください」「今度は、右の方から順番に、簡単に自己紹介をお願いします」といった具合ではチャンクダウンができないし、常に5番目に回答する方が一番有利ということになります。他の応募者が話している間に、次に何を話すか考えることができるからです。だからといって、一人ひとり聞く内容を変えるのは、面接官にとっても負担です。また、「4◆コミュニケーション力を見るための面接では、問題社員は見きわめられない」で私は、「面接では、あれこれ聞くのではなく、徹底的に一点集中で聞いてください。誰に対しても、同じ質問をしていただいてけっこうです」と書きました。ここは矛盾しているようですが、そうではないのです。たとえば、エントリーシートに「目標を持って頑張ったことがあれば、記載してください」という項目を設けたとしましょう。ここで、実際の生の事例を掲載します。だいたいこういった項目を設定すると、学生であれば、3割程度の方がクラブの話を、別の3割がアルバイトの話、残りの方は授業のことや留学のことなどになります。同じ世代の学生で、そんなに驚くような記述があることは、あまりありません。たとえば、同じアルバイトについて記述した方の事例をいくつか見てみましょう。[事例3]私はアルバイトを頑張りました。アルバイトの中でも、最も頼られる存在になれるように、自ら進んで仕事を見つけて動いたり、新人アルバイトの教育にも専念しました。この方には、こう質問することになります。「なぜ、頼られる存在になろうと思ったのですか?」「仕事を見つけて動いたとは、たとえばどんなことを行なったのですか?」「進んで仕事を見つけるためのポイントはありますか?」「新人アルバイトの教育で、あなたが最も大切にしていたものは何ですか?」「あなたの教育によって、新人アルバイトに何か変化はありましたか?」などです。[事例4]大学1回生のとき、初めてしたバイトで、要領が悪く何度も注意された。たいてい2〜3ヵ月で外れる研修中のバッチが半年近く経っても取れず、このまま辞めてしまおうかと思った。しかしまわりの先輩達がなぜこんなに注意するのかを考え、へまをする原因を突き止めるように努力し、やっとのことでバッチを外すことができた。この方には、こう質問することになります。

「どんなアルバイトをなさっていたのですか?」「このまま辞めてしまおうかと思ったのに、辞めなかった理由は何ですか?」「まわりの先輩達が注意した理由は何だったのですか?」「へまをする原因は、どのようにしてわかりましたか?」「バッチを外すことができた理由は何だと思いますか?」「結局そのバイトは、どれくらい継続したのですか?」などです。これが、「一人ひとり聞く内容は変えてください」という意味です。一点集中で、チャンクダウンさせていくことは、一対一の面接と同じです。ただし、事前にエントリーシートに目を通しておくことは、一対一の面接以上に求められます。なお、集団面接の場合は、面接官シートはお勧めしません。1人1枚では、時間内に書ききれないはずです。集団全員分を1枚に記入できる「相対評価」的なものがお勧めです[参考12]。

最後に、中途採用について補足しておきます。中途採用の方は、一定のプレゼン能力や経験を持っているし、新卒の方よりメッキが分厚くなっています。その方の社会人経験もさることながら、「3◆問題社員は、こうして採用試験を潜り抜ける」にもあるように、中間業者の入れ知恵が尋常ではないからです。面接のステップを新卒のように設定できないため、せめて1回あたりに1時間以上はかけたいところだし、面接だけでなく、別の方法もできるだけ掛け合わせるようにしてください。転職の三大理由は、仕事そのもの、労働条件、人間関係といわれていますが、少なくとも、前職の退職理由と転職の理由は徹底的にチャンクダウンしながら確認(ある仕事を卒業していく形で転職するのか、青い鳥を探し求める形で転職するのか)するようにしてください[参考13]。

6章▼筆記試験で見きわめよう

1出身校の偏差値で見抜けなかった理由

「大学の偏差値が低いのですが、大丈夫でしょうか」という質問は、学生からいただく質問の中でも多いもののひとつです。これに対しては、「その企業しだい」としか答えようがないのですが、実際、新卒採用の場合は、出身校の偏差値を参考にしている企業は少なくありません。私自身が、就職活動をしていた時代は、むしろそれがはっきりしていました。実際、関西基盤の大企業に資料請求の電話をした際、「弊社は、女性に関しては京都大学と大阪大学からのみ採用しています」と断られた経験があります。今の時代だったら、まずあり得ない話です。ある意味、昔は開けっ広げでした。今どきは、「学歴不問。性別不問」と表向きは謳いながらも、一定の偏差値以下の大学からの応募者は一律カットという企業を、私自身何社も知っています。「学歴」は必要ではなくても、仕事には「学力」は必要です。学歴不問を謳っている企業に限って、きちんと学力テストを課しています。学力テストをする時間や金銭的な余裕がない企業にとって、出身校の偏差値は、判断材料のひとつとなります。しかし、注意しなければならないのは、学歴と学力は違うという点です。学歴が高い方にも、2章の「精神的こども」パターンは少なくありません。私は以前、5年ほど学習塾の経営をしていた時期があります。そこには、十人十色で、いろいろなこどもがいましたが、偏差値が高いこどもには二つのパターンがありました。ひとつは、教科書や授業で教えてもらった「解き方」を習得して、高得点を出せるパターン。そしてもうひとつは、習ったこともない問題でも、例題を見ながら、自分なりに「解き方」を考えたり、教科書に掲載されているやり方以外の解き方を考えることができるパターンです。いずれのパターンも、最終的な得点は同じなのですが、仕事に必要なのは後者のパターンです。作業には、ある程度の解決パターンがありますが、仕事には「解答」がないからです。学力とは、記憶力ではなく思考力(受験勉強にはない、暗記ではない思考回路。学問は、知識のみならず、思考力も向上させる)であり、「自ら学び、自らで解決できる」力です。2公務員試験型テストで見抜けなかった理由ある自治体の採用担当者が、このようなことをおっしゃっていました。「松下さん、公務員試験がどんな内容か知っている?極端な話、北斗七星の名前が問われたりするんだよ。それが、自治体の職務に、いったいどうつながるのだろう

ね」と。学歴ではなく、学力ではなく、暗記力を問うテストということなのでしょう。それはそれで、一概に否定されるものではないかもしれません。豊富な知識を持っていたほうが、成果につながりやすい仕事があるとすると、一時的に多くの知識を頭の中に詰め込める方を採用することは、ひとつの考え方でしょう。公務員試験を知れば知るほど、教養試験・専門試験とも、その出題範囲の広さには驚かされます。そんな公務員試験を制するには、「過去問にはじまり、過去問に終わる」といわれています。試験は、毎年一定の出題傾向があり、公務員試験に出題されるポイントは、ある程度毎年決まっているため、過去問をマスターすることは、合格するためには不可欠なことです。要は、受験テクニックが必要ということです。過去の問題を自分で収集して、出題パターンを自分なりに分析してからテストに臨むような方であれば、仕事においても、課題に対して、必要な情報を収集して対策を検討できるということなのかもしれませんが、今どきの公務員試験受験者のほとんどは、専門学校に通って「解き方」のテクニックを教えてもらっています。中学受験にも高校受験にも大学受験にも、それぞれテクニックはあるでしょう。今や、テクニックは自分で考えるものではなく、検索するもの、インターネットの「知恵袋」コーナーで教えてもらうもの、誰か知っている人に教えてもらうもの、なのです。昔は、大学生のアルバイトのひとつに「家庭教師」がありましたが、今や「プロの家庭教師」が存在し、大学生の前期試験や後期試験対策の指導をしているそうです。彼らは、半年にわたる授業のレジュメから出題される試験を想定し、その対策に必要なテクニックを指導するのです。また、最近では就職活動の家庭教師すら存在しています。たとえば、「着手金」が15万円で、あとは成功報酬といったプロの就職活動家庭教師が実在しています。その費用を、本人が払うのならまだしも、親が払うというのですから驚きです。2章の「受身」パターンは、こんな状況を違和感なく受け入れているのかもしれません。3外部の業者に試験委託して見抜けなかった理由適性検査同様に、業者が販売している、言語力(思考力)と非言語力(処理能力)、すなわち文字や数字に対するセンスを測る筆記テストを実施している企業は少なくないようです。前述した通り、私は以前、学習塾の経営に関わっていましたが、こどもたちに国語や算数を教えていたつもりはありません。国語を通じて思考力を、計算を通じて処理能力を高

めていたつもりです。仕事に、思考力や処理能力は不可欠です。残念ながら、外部に委託する試験は、報告書となって現われるときには、最終的な偏差値、応募者内での序列しかわかりません。どこをどう間違えて、何が不得意で点数を落としているのかはわからないのです。たとえば、言語能力テストで標準偏差値の50を取っていたとしても、ごく基本的な漢字や文法、語彙力で得点を取って、記述問題はほぼ全滅という方もいるし、記述がパーフェクトでも、基本的な語彙力で点数を落としている方もいます。しかし、どちらの方もトータルの点数が同じであれば、「同じ偏差値」という判断になります。部下育成においても、結果だけを見ていたのでは指導はできません。〝その人らしさ〟は、プロセスにあります。これは、こどもの教育も同様です。以前経営していた学習塾でも、「割り算の筆算が苦手」というこどもが複数名いたとしても、苦手な理由は一様ではありませんでした。「掛け算の横算」が苦手で、「答えの商」がすぐに浮かばない子もいれば、「引き算の筆算」が苦手で、下段の引き算でいつも間違える子もいました。それぞれが、できない(途中の)理由をきちんと見きわめたうえで、個別にその理由にアプローチしていく必要があるのです。つまり、行動変容の勘所は、行動の結果ではなくプロセスにあります。「君は、問題解決能力が弱い」と指摘するだけでは、人は育ちません。人によっては、そもそも問題を提起することが苦手で「問題解決ができない」場合もあれば、問題解決策の立案までできても、「実行力」が伴わないがために「問題解決ができない」場合もあります。もしくは、「あいつは営業成績が上がらない」と、ひと言で片付けることは簡単ですが、人によっては、「キーマンを間違えている」のかもしれないし、「商品説明がおぼつかない」のかもしれません。もしかしたら、「価格交渉で失敗している」ということもあり得ます。限られた時間の中で、最大限のアウトップットを出すことは大切ですが、効率を重視するあまり、プロセスを見る余裕がなくなったのかもしれません。本当に見きわめたい要素があるのなら、結果の得点だけを確認するのではなく、その解答、回答の中身を見ることが大切です。4筆記試験の目的受験者用の対策本にはよく、「筆記試験は、落とした場合の納得性を高めるために実施していることが多い。万一筆記試験でできなかった場合でも、面接で挽回することは十分に可能」などと掲載されています。ひとつには慰めと、そこであきらめてはならない、ということを伝えたいのでしょう。

あるいは実際に、「納得性を高める」ために、筆記試験を実施している企業もあります。応募者も、お客様の1人かもしれませんから、難易度が高めの筆記試験を課すことで、不採用の際の本人の納得性が高まる工夫をしているのです。そもそも、筆記試験は何のためにあるのでしょうか。いくつか、事例で見ていくことにしましょう[参考1]。

この企業が、何を目的にこのテストを実施しているかおわかりになるでしょうか。この会社では、「人間力重視」で採用をしてきました。それはそれで、「いい人」を採用することができていました。ところが現場から、「何で、こんな人を採用したのですか」という声が聞かれるようになりました。どうやら指摘される人は、「いい人」ではあるものの、「かなりどんくさい人」であることがわかってきました。単純なミスを繰り返す。ちょっとした作業に非常に時間がかかる。その結果、現場で業務が滞るようになった結果、導入したのがこのシンプルな筆記試験というわけです。もちろん、どういった回答が正解というわけではありません。7分かけても、半分以上できない方もいます。これでは、どんなに「いい人」でも、現場で「どんくさい方」といわれてしまいます。また、7分以内に全部書き終えることができても、何とも雑で見るに耐えないアウトプットの方もいます。スピードを重視するのか、あるいは正確さを重視するのかは、企業によって違います。仕事には、スピードも正確さも必要ですが、どちらをより重要視しているかは、実は企業風土によって異なります。逆に[サンプルA]のように、フレームワークから量をあげる方は、スピードと正確さのバランスが取れる方ということになります。また、[サンプルB]は、問題用紙に重ねて写し取った方のものです。写し取りにくい、画数の多い漢字だけを飛ばして、後から記入するつもりでしょう。仕事の要領がいいといえます。あるいは、[サンプルC]のようにいきなり都道府県名を抽出するような方も出てきます。課題は「写してください」ですから、問題の趣旨に沿っていませんが、もしかしたら、非常に創造的な仕事をする人かもしれません。

試験を実施する場合には、一度、自社の入社10年目の社員あたりで、事前に試しておくといいでしょう。たとえば、10年目のハイパフォーマーたちが、[サンプルC]のようなアウトプットを出すのであれば、御社にとっては、その人は採用すべき人かもしれないし、ローパフォーマーに限って、このようなアウトプットだとすれば、やはり御社にとっては、その人は「採ってはならない方」ということになります。いずれにせよ、この会社では、採ってはならない方は、これくらいの作業が7分間でスピーディーにできない方、ということです。まさに、2章の「空回り」パターンです。「たったそれだけのこと?」と思われるかもしれませんが、年間200社以上の会社を訪問していて痛感することがあります。会社ごとに、それぞれ風土はあるのですが、一番の風土の違いはスピードです。事務処理のスピード、意思決定のスピード。スピードにもいろいろありますが、スピードほど、企業文化によって差があるところはない、と私は認識しています。ちなみに、こちらの会社では採用レベルに到達した方は、この試験を使って確認も行なっています。「わが社では、こういう仕事の仕方であれば、こういう注意の仕方をします。こう注意されて、あなたは大丈夫ですか」という確認です。面接を、単に応募者の自己PRの場として使うのではなく、この筆記試験を通じて、企業の指導方法についての説明と、それに対する了解を取りつけるということです。続いての事例は、先ほどの事例と同様に、正確な作業ができるかどうかを確認したい金融会社の事例です。仕事は作業ではありません。しかし、この会社ではまず作業がきちんとできなければ、仕事にはならないのです[参考2]。

たとえば、このテストで、2分間のうちに、三つも四つもミスが出るようであれば、どんなに「いい人」であっても仕事にならないのです。もちろん、1分間で正確にやり終える方もいますが、2分間のうちに作業が終わらない方もいます。これらの筆記試験が、みなさんの会社でも使えるとは限りません。これらは、「採ってはならなかった人」を分析した結果、その方を見きわめるためにはどうすればいいのか、ということを考え抜いた会社の事例、ということです。この企業は、受験者の何を見きわめたくて筆記試験を実施しているのでしょうか[参考3]。この会社ではこれまで、学力重視で採用を行なってきました。その結果、偏差値が高い大学から採用ができる企業ブランドを持っていましたが、単に暗記が得意なだけで、自分自身で考え出すということができない指示待ち社員が大量に採用されることになってしまいました。

そこで導入したのが、この筆記試験でした。実際の回答を見てみるとわかるのですが、本当に人それぞれです。10分程度の限られた時間の中で、50を超える項目を挙げられる方もいれば、10項目程度しか挙げられない人もいます。不動産屋に行く、予算を確認する、希望の間取りを検討する、といった書き方をする方もいれば、現住所の大家に挨拶に行く、友達に引っ越しの事実を伝えてお別れ会を開いてもらう、という方までいました。それだけでも、ある程度その人となりが見えてくることでしょう。どれが正しいということではありません。これも、先ほどの事例のように、既存の社員に実施してみて、そのうえである程度の物差しを作るといいのですが、少なくともこの会社では、ある程度項目数が挙げられないことには、いくら人柄がよくてもお断りをするようにしています。要は「段取り力」です。何かひとつの成果を期待されたときに、そこに至るまでにどんなプロセスが必要かが頭の中から出てくるか出てこないか。この会社の採ってはならない方は、「段取り力がない方」だったのです。だから、この試験なのです。5職場にあるものを使って、試験で問題社員が見きわめられる先ほどの引っ越しの[事例]は、個人的にはあまりは好きではありません。過去に引っ越しをした経験がある方には有利だからです。別に引っ越しでなくてもかまいません。「段取り力」を観ようとしている事例を、もうひとつご紹介しておきましょう[参考4]。

まず、この1通のメールから、状況を読み取り、より的確な対応が「想像」できるかどうかが問われます。実際の職場であり得る「仕事」です。この事例は、ましてやクレーム対応です。新卒採用の学生で実施してみると、よくあるパターンは下記のようなものになりました。①勝田さんに手配を頼む※状況は読めているが、いわれたことしかできていない②松島さんにお詫びのメールをする※クレームであることは察知できているが、謝るだけでは対処にならないし、ましてやメールでお詫び?③勝田さんにビデオの在庫と到着日を確認して手配を頼み、そのうえで、松島さんにお詫びかたがたビデオの到着日を電話で連絡する※学生でここまでできたら及第点④山下さんにすべての対応が完了したことをメールで報告しておく。※最近の学生は、報連相を知っている方も少なくありません⑤勝田さんに手配を頼む際に、次のDVDも画像が乱れていたりすることがないよう、念押しをする。※再発防止までしてくれる方もいますさらに、松島さんに電話をして、乱れている個所と状況をお聞きしたうえで、上記③④も実施できる方もいます。そうかと思ったら、この1枚から状況すら読めない方もいます。要は、入社して初期に、頼むだろうと思われる仕事を、筆記試験で出せばいいのです。もちろん、守秘義務に関わるようなこともあるため、多少の加工は必要でしょうが、最初に依頼する仕事がどの程度のレベルでアウトプットされるかを確認すれば、現場で最初に叱られることになるのか、ほめられることになるのか、がわかります。2章の「受身」パターン、「空回り」パターンは、不足を感じるアウトプットしか出せないでしょう。筆記試験は、応募者の納得度を高めるために実施するものではありません。現場の納得を高めるためにこそ、筆記試験を実施するのです。繰り返しになりますが、これら自体を真似してくださいというわけではありません。ひとつの考え方として、会社に入って、最初に携わる仕事をそのまま筆記試験で実施してもらう。これは、面接でいうとロールプレイング面接に近い考え方です。

7章▼グループディスカッションで見きわめよう

1メンタル不調に続く、人事パーソンの悩みごと

センシティブなことですが、最近、企業から多い質問のひとつが「発達障害」についてです。今、大人の発達障害が、企業の人事部門において問題となっています。知的能力には問題はないものの、仕事に失敗ばかりしたり、場の空気が読めずに人間関係がうまく築けないといった場合、実はその背景には発達障害が関わっていることがあります。軽度の場合は障害特性がわかりにくく、周囲の理解不足から離職を繰り返し、社会生活に支障をきたすケースも少なくありません。平成17年施行の「発達障害者支援法」の成立を背景に、発達障害者の自立や社会参加の促進を目的とした就労支援の動きも高まってきています。発達障害を医学的に理解することは極めて難しく、専門家でさえきちんと診断できる方は、ごく少数に限られているということです。「発達障害者支援法」では、発達障害を以下のように定義づけています。・この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう・この法律において「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいうなかでも、私がよく質問をいただくのは、アスペルガー症候群についてのものです。これは、知的能力が高い場合が多く、一般的な筆記試験ではむしろ高得点をマークすることがあるし、一対一の面接でも、比較的好印象を与えることがあります。要は、その質問の多くが、「アスペルガー症候群の方が、職場でトラブルを起こしている。面接で見きわめることができないのか」という質問なのです。実際、その当事者が診療機関等でアスペルガー症候群という診断をくだされているのかどうかを確認すると、ほとんどの場合、人事部門が、アスペルガー症候群の可能性が高そうだと、勝手に判断している場合が少なくありません。アスペルガー症候群には、とくに決まった形があるわけではありません。自分と他者との適切な距離感を保つのが苦手だったり、空気を読むのが下手など、社会性に問題があったり、コミュニケーションに問題があるなど、ものごとに柔軟に対応する力が弱いといった特徴はありますが、その方の性格や環境によって、人それぞれ違う現われ方をします。ひと言でいえば、多様性です。ましてや、医師の診断もなく、社会性に問題があるからといって軽々しい発言するのは、安易なラべリングであり、ステレオタイプ的なものの見方といえるでしょう。アスペルガー症候群が問題になっているのではなく、おそらくその企業では、コミュニ

ケーションや社会的関係を構築することに障害があったり、想像力と創造性を発揮しながら業務に携わることが苦手な方が、採ってはならない方ということなのでしょう。そもそも、「症候群」などといいはじめたらきりがありません。私自身も、「イライラ症候群」とか「くよくよ症候群」かもしれません。私たちのほとんどが、何らかの軽度の症候群を持っているのではないでしょうか。私は、専門家ではないため、発達障害のご相談を受けた場合には、その人のどういった行動が問題なのかを聞き取っていくことになります。つまり、自分と他者との間の距離感を保ったり、興味関心や情報を第三者と共有したり、社会生活における暗黙のルールを組み取るなどの要素は、一対一の面接より、一体多数のグループディスカッションのほうが確認しやすいといえるでしょう。「障害」を評価するのではなく、やはりあくまで「その人」を理解することです。ちなみに、故・スティーブ・ジョブズ氏も、生涯のさまざまなエピソードの中に、発達障害傾向が色濃くにじんでいると、発達障害の専門家の間でいわれています。突出した何か特異な才能を発揮することも、この症候群の特徴のひとつだそうですから、やはり1人の人間をひとくくりにしてよい悪いと論じることは、ナンセンスなことに思えてなりません。2グループディスカッションは対策をうたれているさて、今から20年ほど前は、グループディスカッションを採用に導入している企業はほとんどありませんでした。外資系の企業でいくらか実施されていた程度です[参考1]。

ところが最近では、私が関わっている先だけでも、半数ぐらいの企業が、面接に合わせてグループディスカッションを採用しているようです。一対一の面接では流暢に話していたのに、複数の前では、面接のときのように話せない人がいます。どうやら、一対一で対話する力と、一体多数で対話をする力は別物かもしれないということに、多くの企業が気づきはじめたのでしょう。こうして、ここ10〜15年の間に、急速に採用の現場に浸透したグループディスカッションですが、普及すればするほど、それに対する対策も発達していくことになりました。今どきは、グループディスカッション対策用のホームページも数多くあります。応募者と採用担当者のこのいたちゴッコを、いったいいつまでどこまで続ければいいのでしょうか。ただし私は、こういった対策サイトや対策本を読んでからグループディスカッションに臨む方を、一概に否定するわけではありません。こどもたちの教育や大学教育に長らく関わる中で、痛感することがあります。小学生でも高校生でもそうなのですが、今どきのこどもたちは、驚くほど学校の授業の予習や復習をしないということです。授業の時間の中だけで理解をしようとします。いや、それすら放棄して、学校の授業でわからないことは塾で教えてもらえばいい、というこどもまでいるほどです。私たちの頃は、たとえば英語の授業であれば、事前にノートに和訳をしていって、学校の授業でその正誤を確認したうえで、それでもわからないことがあれば復習をしたり、先生に質問をしたものです。学習は、繰り返し行なうことによって定着します。そういう中で、グループディスカッションの予習をしてくる応募者は、初めての仕事に向き合う場合には、事前に自分なりに調べて予習をすることができる方、という見方もできます。もちろん、ぶっつけ本番でそれを乗り越えられるような方が一番いいのかもしれませんが、それはそれで脆弱さもあります。一番怖いのは、自信もないのに準備もしない方です。実際、就職活動の相談に乗っても、不安を口にするだけで実際何の行動も取っていない方もいます。自信や不安を払拭するのは、自身の行動によってのみです。いずれにせよ、こうして急速に広がりを見せたグループディスカッションですが、御社では何のためにグループディスカッションを導入しているのでしょうか。また、グループディスカッションで、その人の何を見きわめようとしていますか。グループディスカッションでは、面接以上に目的意識を持って臨むことが、より有効な採用活動につながります。その理由をご紹介していくことにしましょう。3グループディスカッションで〝ガキ大将〟を採用してしまった会社

では、実際に具体例を見ていくことにしましょう。折衝型のグループディスカッションを行なっている企業の事例です。この会社では、たとえば、6人1グループで、3人対3人の話し合いを、次のシートに基づいて行なっています。[事例]※話し合いをはじめる前にそれぞれのチームには作戦タイムとして15分程度の時間が提供されます。その後実際に30分程かけて話し合いを行なっていただくことになります。今年創立90周年を迎える春秋短期大学は、「生活福祉学科」と「幼児教育保育学科」という二つの学科がある単科短学です。裁縫学校に端を発する同校は、長らく女子教育に尽力していましたが、10年前に男女共学化に移行。健康・福祉・教育・保育をテーマに、老若男女の別なく、すべての人が生きがいを持って参加する社会、つまり人間共同参画社会に貢献できる人材の育成を目指しています。附属幼稚園と保育園が合わせて4園あり、規模が小さいからこそのきめ細やかな教育指導が「売り」でしたが、経営環境の変化に対応しきれず、ここ数年の受験者数、入学者数は伸び悩んでいるという状況です。春秋短期大学の高山学長は、教職員や学生に活気がないこと、大学の名前があまり知られていないことが原因ではないかと考えました。そこで、この状況を打破するには、学生の部活動を強化し、それらを通じて職員や学生の一体感を作り出すこと、さらに好成績を収めることで世間に大学の名前を露出することが最善であるとの決断をしました。現在、春秋短期大学では、20の公認部活動が存在していますが、なかでも女子フットサル部と女子ソフトボール部は県下でも強豪校のひとつとして認識されており、両部とも、朝練や昼練も熱心に行なうなど、積極的に活動をしています。施設については、グラウンド、体育館、スポーツジムを、両部が民主的な話し合いによって使用しています。学長は、このいずれかを学園を挙げて強化支援することにしましたが、両部のいずれを強化するかは、教職員と学生で自主的に決めてほしいと考えています。そして、女子サッカー部か女子ソフトボール部を強化するということが、全学に通達されました。しかし、女子ソフトボール顧問の春名監督と女子フットサル部顧問の夏木監督は、ふだんからあまり意見が合わない間柄でした。両監督とも、自らが直接話し合いに加わるとさまざまなリスクがあると考えたため、両部間の話し合いの場所を設定しました。話し合いは、それぞれ部長、副部長、主務の三役が参加します。あなたは、春名監督率いる女子ソフトボール部(or夏木監督率いる女子フットサル部)の三役のひとりです。以上の状況を踏まえ、また、以下の追加情報をもとに、他のメンバーと一緒に話し合いに臨んでください。時間的に急な連絡であったため、話し合いの席に着くまでには15分しかありません。その時間内に、話し合いを成功させるべく準備を行なってください。大学側からの強化支援施策内容①特別強化予算……1、000千円/年②グラウンドの優先使用権③毎年スポーツ枠で1名の高校生を特別にスカウトする権利④優先的な学内外広報の実施⑤試合の際の公欠優遇措置女子フットサル部に関連する情報

■学内でのソフトボール・フットサルの人気度は同じくらい■学内では、ソフトボールは男子学生、フットサルは女子学生に人気■学生の男女比は、男性4対女性6■部活動への所属は、運動系3と文科系7で、全体の3割の学生は無所属である■学内的にオープンな案件なので、職員と学生一同、興味を持って成り行きを見守っている■女子フットサル部には20名の部員がいる■昨年、市の大会では決勝戦で敗れたが、一昨年は県大会の準決勝まで勝ち進んだ■グラウンドを使用できる時間が限られており、試合でよいチームワークを発揮できなかった■怪我が心配であるため、グラウンドの整備が急務であり、約70万円が必要である■地元高校のスター選手を獲得したいと考えている女子ソフトボール部に関連する情報■学内でのソフトボール・フットサルの人気度は同じくらい■学内では、ソフトボールは男子学生、フットサルは女子学生に人気■学生の男女比は、男性4対女性6■部活動への所属は、運動系3と文科系7で、全体の3割の学生は無所属である■学内的にオープンな案件なので、職員と学生一同、興味を持って成り行きを見守っている■女子ソフトボール部には20名の部員がいる■昨年、市の大会で優勝したが、県大会は1回戦で敗退した■選手を強化するための器具が不足している■練習時間が不足している■選手を強化するための器具を購入するには、約80万円が必要■女子ソフトボール部員は、とにかく強くなって試合に勝つことを熱望している■試合に勝つことで、学内で注目を集めたいとも考えているたとえば、新卒採用のグループディスカッションでこれを実施すると、どんなアウトプットになると思われるでしょうか。最も多いのが、共存共栄を図るパターンです。要は、妥協点を見出して、与えられた要素を半分ずつに分けるパターンです。分け方や、分け方を決める方法にはいろいろなパターンがありますが、つまりはゼロサムゲームにしないパターンです。過去、一番驚かされた分け方は「じゃんけん」でした。一概に否定することはできませんが、少なくとも、この会社がほしいのは、ここでジャンケンをする人ではありません。他に驚いたのは、「はったりをかます」方です。たとえば、部員数を相手方に多めに伝えたり、過去の戦績を少し大げさに伝えたりする方です。企業倫理やコンプライアンスが叫ばれている昨今、いくら駆け引きとはいえ、話を大げさに伝えたり嘘をつくことは好ましくありません。実は、この企業では、比較的長くグループディスカッションを行なってきました。特別の判断基準があったわけではありませんが、臆することなく自分の意見を発表してリーダーシップを取れるような方がほしいと思ってのことでした。ディベート形式で、リーダーシップの発揮度合を確認すると、実際に堂々と自分の意見を述べてチームを取りまとめ、相手を論破できるような、目立ったアウトプットが出せる

学生に出会うこともできました。ところが、そんな学生を採用し続けたところ、現場からトラブルが相次ぐようになりました。要は、このグループディスカッションでリーダーシップがあると思われた方々は、単なる〝ガキ大将的〟なリーダーシップを発揮していたに過ぎなかったのです。意見の異なる人や周囲に対しての配慮や理解もなく、ただ独りよがりに大きな声で持論を展開している人をリーダーシップがある人と解釈して採用していたのです。2章の「精神的こども」パターン、「面倒くさい」パターンを採用していたのです。この事例は、その会社がそうした反省を踏まえた結果、実施しているものです。半分ずつにすることで共存を図ろうとするチームが多い中で、与えられた時間の中でどちらかの部に決定するチームも出てきます。ここでは、どちらかに決めることが大事なのではありません。何を根拠に決めたのか、を問うているのです。要は、目的意識の確認です。そもそも、この話し合いの目的は何か。それは第2段落目に書かれている内容です。この「大学名のPR、学内の活気の向上」という目的を達成するために導き出された結論であれば、どちらの部に決定してもいいし、または半分ずつでもいいのです。喧嘩をしたくないから半分ずつ、というのでは本末転倒です。この目的を達成するために半分ずつするのがいいのであれば、それはそれでひとつの選択です。また、こういうアウトプットになったことがあります。ひとつには両部が合併をするという結論です。あるいは、この予算を使って応援団部にユニホームをプレゼントするというアイデアが出たこともありました。私は、すばらしいと思いました。おわかりでしょうか。目的に立ち返れば、制約条件が外れていくのです。そう、この企業では、ただ単に声が大きなガキ大将ではなく、企業の一つひとつの仕事の目的に立ち返ることができるリーダーがほしかったのだということが、過去の失敗の積み重ねから見えてきたのです。だからこそ、このグループディスカッションを導入したのです。4グループディスカッションで応募者を学習させる自治体次の事例は、ある自治体の事例です。私が仕事でおうかがいしている組織の約半分程度が自治体組織(道府県や市町村)です。今、自治体は新たな転換を迫られています。20年ほど前の自治体は、「運用する」自治でした。国が決定したことを、いかに地方自治体で効果的かつ効率的に運用するか、が問われていました。ところが、地方分権という名の下に、国から地方自治体に権限がある程度委譲されるようになりました。その結果、夕張市役所のように、自治体も存続の危機を迎えるようになりました。公務員は安定した職業という感覚は、もうひと昔前のものとなりました。その結果、自治体ごとに個性的なまちづくりが問われるようになりました。運用する自治から、自ら「決定する自治」への転換が迫られたのです。

そんな中、自治体は新卒採用のみならず、民間企業での経験がある中途採用も積極的に行なうようになりました。この事例は、中途採用者に限ったグループディスカッションのものです。[事例]あなたは当市に勤務する課長です。時間外の削減と住民サービスの向上を目的に、人事部に自部門の増員の要請をしていたところ、それが認められて1名の増員が決定しました。同様の部門が全市で4部門あったため、当該部門の4名の課長で話し合いをし、次のような個性の異なる仕事ぶりの4人の職員からそれぞれ1名を自部門に配属させることになりました。あなたは即戦力となる人材の配属を希望しつつ、そのためにベストを尽くそうという強い決意を抱いて、今、話し合いの席についたところです。4人の職員の情報は、次の通りです。Aさん(30歳)⇒頭の切れはよく、気に入った仕事には非常に熱心でよい仕事ができ、顧客からの評判もよい。しかし、自己主張や好き嫌いが激しく、わがままな面があり、職場の規律等にも無頓着で、遅刻等もよく平気でする。Bさん(28歳)⇒可もなく不可もなく仕事は処理していけるが、非常に理屈っぽい側面があり、指示したことは何でも反対したがる傾向がある。会社に対する不平不満もよく口にする。Cさん(26歳)⇒コツコツ努力していくタイプで、仕事の出来栄えに関しては安心して任せられる。しかし、私生活と仕事を割り切っており、納期が迫っていても、マイペースで残業してまでやり遂げようという気持ちがない。Dさん(23歳)⇒おとなしい性格で、言われたことは一応キッチリとこなせるが、自ら進んで行動を起こそうとはしない。上司に対する相談や報告をほとんどしないため、細かいことまで指示を出さないと不安であるもちろん、優先順位のつけ方の特徴や、その話し合いのプロセスは確認しますが、この自治体では一体何を見ようとしているのか。民間企業にお勤めの方は驚かれるかもしれませんが、市町村には、人事評価が導入されていない組織がまだ多数あります。では何によって給与が決定されるのか。職位と勤続年数です。標準的な仕事をしていれば、職位と勤続年数に応じた報酬が配分される仕組みです。

とはいえ、ここ数年で自治体も大きな転換が迫られています。役割や職務、期待への貢献に応じた配分システムの導入とともに、現場の部下育成に注力しようとしています。実際、私も自治体から依頼される仕事では「部下育成」をテーマとする研修が一番多いくらいでしょう。そう、この自治体は、人に優先順位をつけるのではなく、人の多面性を受け入れ、どんな個性の部下が配属されようとも、根気強く育成し、活かそうとする姿勢を持つ方、それを周りに伝播できる方を採用しようとしているのです。そんな指向性をもった民間企業出身者にこそ、今、自治体に来て欲しいという思いからです。過去、民間企業の経験を取り込もうと中途採用で経験者を採用してきたところ、ふたを開けたら、本人は仕事ができても、自身のノウハウや暗黙知を周囲に伝えたり、部下育成に繋げられたりする方々ではなかったことに気が付いた。せっかく民間の経験をもってきてもらっても、それを出し惜しみされるようでは本末転倒、ということになったわけです。そこで、「組織や人を育む」指向性のある方かどうかを確認したいということになったわけです。さらに面白いのは、この自治体のまとめの一言です。「今日は、わざわざ私どもの採用試験にご参加くださってありがとうございました。本日の結果は、1週間以内に郵送にてお知らせさせていただきます。今日のグループディスカッションでは、ご自分の部下を選択する話し合いをしていただきました。結論はこうなりましたが、どの方が正解ということはありません。今回の面接も、実は同様です。ご参加くださったどなたが採用になってもおかしくありません。採用に正解はありません。しかし、私たちは今、私たちの自治体に必要な人物の様子や能力スキルを自分たちなりに設定し、そこに一番近い方に採用のご連絡をすることになります。逆に、完璧な方もいません。皆さんそれぞれにまだまだ〝伸びしろ〟がおありです。(※と言いつつ、次のシートを配布する)互いに切磋琢磨しながら、さらに成長していければと考えています。今日は、みなさまに、この私たちの採用の悩みや苦しみ、そして醍醐味を体感していただきました。本日は、本当にありがとうございました。お疲れ様でした」

面接に来られている約半数が、自分たちの自治体の市民です。いくら採用の御縁がなかったとはいえ、引き続き市民として自治体運営に少なからず関わっていただかなければならない方々です。「この街に住んでよかったと思って帰っていただきたい」という、自治体の採用担当者の思いです。5選考ステップを先に決めると失敗する以上、二つほど事例でご紹介をさせていただきましたが、これらと同じことを御社でもやってくださいという意味ではありません。いずれの事例も、採りたい要素、採りたくない要素が明確であるからこそ、このグループディスカッションを導入することができているのです。採用担当者がまず行なうのは、選考のステップを決めることでしょう。一次選考では面接をする、二次では管理職の面接を入れよう、次にグループディスカッションを挟んで、この後最終の役員面接にしよう、時期はこれぐらいにしよう、それぞれ何人ぐらいに絞り込んでいくのか、だから何人ぐらいの社員が必要なのか……といった具合です[事例1]。

要は、先に形を決めるのです。しかし、私はそうではないと考えます。採りたい、採りたくない要素によって、選考のステップの形が決まるのではないでしょうか。「この要素を見きわめたいから、最初にグループディスカッションでこういうやり方をしよう」とか、「うちが採りたい、採りたくない要素はこういうところだから、うちではグループディスカッションは必要ではない」と、一次から最終まで面接を徹底的に繰り返すという会社もあるでしょう。一方、「いや、うちでは一次も二次もグループディスカッションが必要で、それぞれ見きわめたい要素がある」という会社もあるでしょう。一つひとつの選考ステップには、御社の採りたい要素、採りたくない要素がきちんと反映されているでしょうか。最近、トレンドになっているグループディスカッションだから、自社でも実施するのではありません。自社が見きわめたい要素を確認するために、グループディスカッションが有効であれば実施すればいいのです。ですから、私がいただいてありがたい質問の仕方は、「どんな人を採ったらいいですか」ではなく、「こういう人を採りたくて、こういう人を採りたくないのですが、どうしたらいいか教えてほしい」ということになります。採用担当者としては、形が決まればひと安心するでしょう。形は見えるからです。そもそも、つかみどころがない人の採用です。仮説と検証を繰り返し、過去の採用活動から学び、反省し、だからこそ、次の採用の形を決めていく。その繰り返しの中で、自社にノウハウを溜めていただきたいのです。何かを新しく作らなくても、もうすでに御社には過去の積み重ねがあり、そこにすでにノウハウがあるはずです。ここで再度、グループディスカッションに戻ります。グループディスカッションは、個人面接では見抜きにくい、集団におけるパフォーマンスの発揮を見ることができます。2章の「問題社員」たちは、一対一よりも、むしろ集団の中でこそ、その〝問題ぶり〟を発揮します。ただし、どうしても相対評価になりがちです。本来優秀な人材でも、他に目立つ学生がいると、存在が希薄になってしまいます。また、反応の速さや発言量の多さだけで人物評価をするのは危険です。たまたま、優秀な応募者が、同じグループに固まることもあるため、本来なら合格ラインでも、相対的に低評価になってしまう場合もあります。いい悪いではなく、「自社の求める人物要素があるか否か」を見きわめるようにしてください。

8章▼採用のミスマッチをなくすために

1こんなところからでも、まだまだ見きわめられる

大自然は、人類の歴史の何十倍何百倍何千倍もの歴史を刻んでいます。自然には、一切の無理や無駄がないから、と聞いたことがあります。無理や無駄は続かない、という先人の戒めでしょうか。採用の選考ステップにおいては、応募者はどうしても無理をしようとします。10分間という限定的な時間の中であれば、背伸びをしたままのやりとりを続けることもさほど無理なことではありません。もちろん、「もっといい自分を見せたい」と思うことは一概に悪いことではありませんが、その「無理」を、10年20年と続けていくことは、極めて困難なことです。面接や討議に、「少し背伸びをして」参加している応募者の様子だけではなく、面接の待合室での言動、エントリーシートの作成中の動作など、とにかく、会社の門をくぐってから会社を出るその瞬間まで、気になる行動がないかも確認してください。企業によっては、応募者が待機しているその前で、グループディスカッションの面接会場の設営を採用担当者が一所懸命にしている様子をわざわざ見せつけて、そこで応募者が手伝おうとするかどうかをチェックするところもありますが、応募者側もそれくらいのシチュエーションがあることぐらいは想定の範囲内だし、あえて出し抜くようなことはしなくても、その人となりは、些細なところで見きわめることができるはずです。たとえば、受付に立っているパートタイマーとおぼしき従業員に対しても、きちんと会釈や挨拶はできるのか、もしくは言葉ひとつなく、受験票を差し出すだけなのか。また、たとえばエントリーシートを記入しているとき、何度も何度も書き直しているうちに出てくる消しゴムのカスを、パッと払って地面に落とすのか、もしくはその消しゴムのカスを寄せ集めて自分の筆箱にしのばせるのか、などです。たとえば、エントリーシートに「私はコミュニケーション能力があります」と記述しておきながら、面接の場でもいかに自分にコミュニケーション能力があるのかを切々と語る方が、待合室で他の受験者に積極的に話しかけているのか、あるいは次の面接会場までの予定やスケジュールを確認することでせいいっぱいなのか。いや、応募時の電話や手紙、メールなども要チェック項目でしょう。採用担当者として、応募者が自社にいる時間内のすべてで、その方を見る努力を積み重ねてください。1章で申し上げたように、採用活動の目的は〝自社の継続〟ですから、私たちはその努力を怠るべきではありません。ちなみに、私がお勧めするのは、応募者のメモやノートを確認することです。その方のメモには、その人となりが凝縮されています。実際、大学の講義や企業研修においても、そのことを痛感します。私が、ホワイトボードに書いたことしかノートに写さない方、まるで速記者のように、私が講義中に語る言葉を一言一句漏らさぬようにと一所懸命ノートにメモする方、逆に、まったくノートを取らない方、熱心にメモ取っているように見えて、実は私が伝えたかっ

たことから大きく逸脱した内容をメモしている方もいます。また逆に、私が話した内容から自分に参考になりそうな点を抜き出して、次の自分の行動計画にまで落とし込みながらノートを取る方など、同じ講義や研修に参加しているのに、こんなにもノートの取り方が違うものかと驚かされます。目で、黒板や相手の顔を見つつ、耳で相手のいうことを聴きつつ、手を動かしてノートを取るという行為のためには、脳のいろいろな部分を使い分ける必要があります。効果的なノートを取るには思考力や技術も必要だし、何よりその方の受け止め方がわかります。話の中から、重要と思われる部分を選択する力があるかどうか。私の経験の中では、かなり精度の高い見きわめ方のひとつなので、ぜひ一度お試しください。2採用担当者も、応募者から「見られている」各社の採用担当者が、採用業務に思い悩み、苦しんでいる一方で、しっかりと人物を見きわめて育み、経営の成果につなげている企業もあります。朝日酒造株式会社は、新潟県長岡市にあるメーカーです。従業員数は約200名足らず。決して小さくはない規模ですが、一部上場企業ではありません。商品ブランド「久保田」といえば有名ですが、昨今、日本酒業界が学生に人気とはいえないでしょう。そんな同社には、全国からインターンシップ希望の学生が殺到し、地元からだけでなく、全国から応募者を集めています。内定を出せる学生は5名ほどですが、中には有名国公立大学出身の方もいます。東京や大阪といった都会から、新潟本社の同社に応募者が殺到する理由は何でしょうか。その理由はひとつではありませんが、たとえば採用担当者である平澤英隆さんのブログはきちんとマメに更新され、等身大の自社情報を発信し、等身大で閲覧者に向き合っています。応募者たちも、騙し合い、化かし合い、負かし合いのような就職活動からそろそろ抜け出したいのでしょう。「仕事」を探すのではなく、「組織」を探せばいいのだということを、就職活動の応募者も理解しはじめています。採用のホームページは、いくらきれいに作り込まれていても、しょせんホームページ業者や採用のエージェントが、企業から委託されてマーケティング手法を駆使しながら制作しているに過ぎません。お金さえかければ、いくらでも見栄えのいいホームページは作れます。しかし、採用担当者が手づくりせざるを得ない採用ブログを見れば、その会社が採用にどれだけの手間と時間をかけようとしているのか、もしくはどんな情報を伝えたいと思っているのか、その一端を垣間見ることができます。お金をかけたから、時間をかけたから、いい採用ができるとは限りませんが、「効果的な」採用をしようと思えば、面接官の五感をフルに活用し、ある程度の時間をかけることは、やはり避けて通ることはできません。私はこの6年間ほど、定期的に人事担当者を集めて、勉強会を兼ねた交流会を年3回程

度のペースで実施しています。たとえば、人事考課の勉強会であれば、私が人事考課に関わる講演をするのではなく、その参加企業が自社の人事考課表を持って参加します。そして、お互いがお互いの人事考課表のコピーを交換し合いながら、各社の課題や現状の悩みを打ち明け合う。ただそれだけの勉強会ですが、各社の生事例が手に入るし、他社の事例を見れば見るほど、自社のことがよくわかるようになります。最近開催したその勉強会でのテーマが「採用」だったのですが、当日参加された20社ほどが自社の採用ツールを交換し合い、悩みを打ち明けてアドバイスをし合いました。その結果、その場で辿り着いた答えが、「結局、今の自社の身の丈に合った採用しかできないということだよね」「いい採用をしたければ、いい組織を作ること。遠回りをしているようで、実は案外、近道なのかもしれないね」ということでした。それもまた、採用担当者達の実感のひとつなのでしょう。3会社から認められている採用担当者とは大阪に本社を置く飲料メーカー・ダイドードリンコ株式会社から、新入社員のフォロー研修のご依頼があり、15名の新入社員とともに、学びの1日を過ごしました。その様子を、採用&新入社員育成担当のMさんが、教室の後ろで見学されていました。研修終了後、Mさんは新入社員の前で、こんな話をなさったのです。「私は今日1日、後ろでみなさんの受講の様子を見せていただきました。そして、つくづく思いました。ああ、私たちの採用は間違っていなかったと!」15名の新入社員たちは、本当にうれしそうに、そして誇らしげに真っ直ぐにMさんを見ていました。私は、この会社の採用には関わってはいませんが、15名の新入社員たちはたしかに、本当にいい採用をなさったなあと思える方々ばかりでした。また、こちらの会社では、現場と人事の連携が非常によく、新入社員研修に対する現場の協力姿勢が肯定的で好意的です。他にも、採用シーズンとなると、その選考ステップの状況を社内のイントラネットで全社共有し、応募者が社内を歩いていると、全社員で積極的に挨拶をする会社もあります。これらの会社は、いずれも採用担当者が、現場の社員から信頼を得ているし、現場が採用の目的をよく理解されているようです。これはおそらく、何年にもわたって繰り返されてきた、採用担当者の努力の結果と思われます。これまでにも述べてきたように、もともと本書を執筆することになったのは、みずほ総研主催のセミナーがきっかけでした。私はこれまで、1000社を超える採用担当者の方々に、問題解決の方法をお伝えしてきました。セミナー前に時間的余裕があるときには、セミナーの受付に立たせていただいて、受付をする参加者に挨拶をすることもありましたが、受付の様子を見ていると、「今日は、よろしくお願いします」と、セミナーの受講票を両手で差し出しながら、笑顔で挨拶をされ

る方もいれば、鞄の中からぐちゃぐちゃになった受講票を引っ張り出して、それを無言で受付に差し出すだけの方もいました。少なくとも、後者のような方に採用担当はしていただきたくないものです。おこがましいかもしれませんが、あなたは採用担当として、会社の看板を背負って立つにふさわしい行動が取れているでしょうか。4アマチュア採用担当者、スペシャリスト採用担当者、プロ採用担当者の違い学生と面接をしていると、面接マニュアルの焼き直しのように、「御社に入ったら、営業がやりたいです」という方が多いのですが、その次に多いのが「将来は人事がやりたいです」という方です。こういった方になぜかと聞くと、「ここに至るまでの就職活動中に出会った人事の方々が素敵だったから」と、これもまたお決まりのパターンです。それはそれで、採用担当者としてはうれしい話かもしれませんが、応募者と接している時間だけが採用担当者の仕事ではありません。そこに至るまで、どれだけの企画を練り、社内の人間に働きかけ、トップの予定を確認し、下準備をしてきたことか。応募者と直接関わっている期間は、1ヵ月程度かもしれませんが、企画からだと、半年以上もの期間をかけている担当者も少なくありません。たしかに、会場に集まった応募者の前で自社のことを宣伝したり、選考ステップについて説明する活動は一見華やかです。しかし、それらは採用活動の一プロセスでしかありません。みなさんは、「採用インストラクター」「講演者」に留まってはいないでしょうか。あるいは、だれを採用してだれを不採用とするのかに終始している「採用プログラマー」「評価者」になっていないでしょうか。みなさんに目指していただきたいのは、「採用マネジャー」です。マネジャーとは、「組織の目的・目標を達成するために、人・物・金・情報・時間などのあらゆる経営資源を、経済的・効果的・効率的に活用する」マネジメント活動の担い手です。採用活動という手段を通じて、いかに企業の目的に貢献するか、ということです。採用活動において、あなたは自分を何者だと自己認識されているでしょうか[参考1]。

私は、この自己認識があるかどうかが、アマチュアとスペシャリストの違いだと考えています。そして、スペシャリストの担当者を育成できる方がプロフェッショナルだと思います。繰り返しますが、採用活動は、自社の継続につながる活動です。だからこそ、次世代の御社を担い得る人材の採用ができていることと同時に、あなたのその経験や思い、そしてノウハウを継いで、次の時代の採用を担える、次の採用担当者を育成していくことを目指すべきです。それが、採用のプロフェッショナルです。それは容易なことではありませんが、それができてこそ、真に採用活動の目的が達成されることになるのです。5採用担当者としての自信と誇りと責任前項で、人・物・金・情報・時間という経営資源を挙げましたが、物・金・情報・時間を使いこなすのは人間です。人間は、怠ける・手を抜く・嘘をつく・誤魔化す・隠す・逃げる・欲深い・自己中心・見栄を張る・争う・威張りたがる・言い訳をします。しかし人間は、使命感・責任感・忠誠心・団結・助け合い・協力・自己犠牲・勤勉でもあります。このように、人間とはすばらしいものである反面、どうしようもなく嫌らしい生き物でもあります。その人間に向き合う人事という仕事。だからこそ、やりがいがあるのです。たいへんだからこそ楽しいのです。「楽」ではないからこそ、楽しいのでしょう。もし、楽なことが楽しいのだとすると、だれも休日の朝からゴルフ場に行って、18コースを回ったりしません。また、最近は市民マラソンがブームですが、ただただ走ることがわけもなく楽しい、というだけで、みなさんが走っているわけではないでしょう。18コースを回ったことがある人、42・195㎞を走ったことがある人にしかわからない醍醐味が、そこにはあるのです。採用担当者だからこその醍醐味、あるいは採用担当者だからこその喜怒哀楽は、現場で担当したことがある人にしかわからないものかもしれません。最後に、非常に感銘を受けた話をシェアさせていただいて、本書の終わりとさせてください。青森県に、恐山という霊場があります。そこでは、亡くなられた方のお名前と命日、そしてひと言メッセージを書いた石を持ち込んで、その石を境内に置いて帰ってくるというのが供養の方法のひとつなのだそうです。恐山の院代(山主代理)である、南直哉さんにお聞きした話です。そのひと言メッセージにはどんな言葉が書かれていることが多いと思われるでしょうか。私はこの話を聞いて、「ありがとう、かな」と思いました。日本人が一番好きな言葉が

「ありがとう」だと聞いたことがあるし、日本人は「感謝する」ことに対して、非常に価値を置くと思っていたからです。ところが、その「ありがとう」という言葉は、2番目に多いメッセージだというのです。では、一番多いメッセージは何だと思われるでしょうか。南直哉さん曰く、「もう一度会いたい」「また会いに来るからね」なのだそうです。私は、この話を聞いて、「なるほど」と思いました。だからこそ、わざわざ供養に行くのです。「ありがとう」というのは、非常に強くて優しい言葉です。しかし、それ以上にもっと強くて優しい言葉があることを、私はこのとき知りました。仕事をしていて、誰かから「ありがとう」といっていただけるのは、それこそありがたいことです。しかし、「また、あなたに会いたい」「また、あなたと一緒に仕事がしたい」といわれるような仕事をすることは、「ありがとう」といわれる仕事をするより、難しいことかもしれません。そんな社員でいっぱいの組織にすること。そうすれば、必然的にあなたの組織は継続するでしょう。冒頭で、組織の最大の目的は続くことだと述べました。しかしそれは、私たちが生きる意味を問うとき、もしかしたら、目的ではなく、それすら手段なのかもしれません。人はなぜ生きるのか、人はなぜ働くのか。人はなぜ組織を作り、組織に所属するのでしょうか。2011年の3月、東北地方は大きな悲しみに見舞われました。私も、阪神淡路大震災のときには、しばらく神戸市灘区の公民館に滞在していましたが、後からどれだけテレビの映像を見ても、あの寒さやあの臭いは伝わってくることはありませんでした。同様に、あの東北地方の悲しみには、最後まで寄り添いきれるものではないかもしれません。生きたくても生きられなかったたくさんの命があります。そしてその一方で、私たちはこうして今、生きています。ならば、この目を耳を、そして手足を使って生きること。私を生きること。目は、世界をしっかりと見ることができる耳は、大切なこと真実なことを聞き取ることができる口は、見たこと聞いたことを伝えることができる足は、あなたを待つ人のところへ連れて行ってくれる手は、困っている人を助けることができる頭は、自分にできることを考えつくことができる心は、相手の気持ちを感じ取ってあげることができる人間が、人間を判断したり分析することが、本当にできるのでしょうか。いや、そもそも人間が人間を理解することすら、本当はできないのかもしれません。しかし、採用担当者としての使命を思うなら、最後はテクニックではなく、この自らの身体と頭と心をきちんと使うこと。この己の五感をせいいっぱい磨くことです。きれいごとかもしれませんが、私たち人事に関わる人間が、きれいごとを語れなくなったら、組織

は終わりだと思うのです。

【参考文献】◆「マネジメント──基本と原則」/ピーター・F・ドラッカー/ダイヤモンド社◆「TATODAY──最新・交流分析入門」/イアンスチュアート、ヴァンジョインズ/実務教育出版◆「人間における運の研究」/渡部昇一、米長邦雄/致知出版社◆「健康な人格──人間の可能性と七つのモデル」/D・シュルツ/川島書店◆「人間関係の心理と臨床」/高橋正臣監修、秋山俊夫、鶴元春、上野徳美編集/北大路書房◆「部下指導にすぐ活かせるOJT実践百科」/鎌田勝/PHP研究所◆「ライフサイクル、その完結」/E・H・エリクソン、J・M・エリクソン/みすず書房◆「いやな気分よ、さようなら──自分で学ぶ「抑うつ」克服法」/デビッド・D・バーンズ/星和書店◆「風姿花伝・花鏡」/世阿弥/たちばな出版◆「論理療法にまなぶ──アルバート・エリスとともに・非論理の思いこみに挑戦しよう」/今村義正、国分康孝/川島書店◆「論理療法の理論と実際」/國分康孝/誠信書房◆「スカウト」/後藤正治/講談社◆「必勝・就職試験!8割が落とされる「Webテスト」完全突破法」/SPIノートの会/洋泉社◆「クレペリン内田精神作業検査法解説」/横田象一郎/金子書房◆「「心理テスト」はウソでした。受けたみんなが馬鹿を見た」/村上宣寛/日経BP社◆「精研式文章完成法テスト解説(成人用)」/佐野勝男、槙田仁/金子書房◆「バウムテスト[第3版]心理的見立ての補助手段としてのバウム画研究」/カール・コッホ/誠信書房◆「バウムテスト活用マニュアル──精神症状と問題行動の評価」ドゥニーズドゥ・カスティーラ/金剛出版◆「ロールシャッハ・テストワークブック」/ジョン・E・エクスナー/金剛出版◆「世界でひとつだけの幸せ──ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生」/マーティンセリグマン/アスペクト◆「行為の意味──青春前期のきみたちに」/宮澤章二/ごま書房新社◆「行動主義の心理学」/ジョン・B・ワトソン/河出書房新社◆「感動の会議!リーダーが会議で「人を動かす」技術」/寺沢俊哉/ディスカヴァー・トゥエンティワン◆「偏見の心理」/G・W・オルポート/培風館◆「顔を読む──顔学への招待」/レズリー・A・ゼブロウィッツ/大修館書店

◆「心のライフライン──気づかなかった自分を発見する」/河村茂雄/誠信書房◆「若年層のキャリア形成を支援する人間関係に関する研究」/坂本理郎/CDA向上研修「人間関係のあり方から考える若手人材の育成」配布資料より(2011年9月)◆「土壇場の人間学」/青木雄二、宮崎学/幻冬舎◆「もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」田中康雄/すばる舎◆「スティーブ・ジョブズI、Ⅱ」/ウォルター・アイザックソン/講談社◆「なぜこんなに生きにくいのか」/南直哉/新潮社

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次