人的環境整備
物の整備が進んだら、今度は「人」です。人的環境整備の中心は、「礼を正す」ことです。前述の整理、整頓、清掃、清潔に加えて、⑤躾(しつけ)で、5Sと呼ばれます。具体的には、大きな声で明るく返事、挨拶をする、これが基本です。
- 返事
- 挨拶
- 笑顔
人的環境整備の基本である返事、挨拶、笑顔の中で、私は返事を最重要視します。お客様に与えるインパクトが最も大きいからです。まず返事ありき、そして挨拶・笑顔です。順番を間違えてはいけません。
「ラ」の音
さて、あなたは返事の声の高さを意識したことはありますか?人間の耳に最も快く感じるのは、「ラ」の音です。喫茶店でコーヒーを注文します。店員が「ラ」の音で、「はい」と答えればお客様も好印象を持ちます。ところが、ぶすっと「おう」とか「うん」などと言われたらどうでしょう。二度とその店で飲食するまいと思います。
ラの音で「はい」と言ったら、続けて「かしこまりました」と言いましょう。これが最もお客様に喜んでいただける返事です。ただし、実際にやっていただくと、ほとんどの方が「かしこみゃりました」などと、言い淀んでしまいます。
普段口にしない言葉ですから、急には使えないのです。しかし、繰り返すことで必ず言えるようになります。そして、続けるうちにどんどん上手になります。お客様の感動も、それにつれて大きくなっていきます。この返事、最初は渋々していても、やがて気持ちの良さに気づきます。そうなればどんどん積極的にするようになります。
人的環境整備は根、必ず物的環境整備の後
物的環境整備と人的環境整備、ここまでが樹木でいうと「根」に当たる部分です。これらをおろそかにしては、花も実もありません。
充実した根を張るためには、地道な取り組みを毎日毎日徹底し続けなければいけません。
環境整備とは、習慣整備なのです。人的環境整備は、物的環境整備と2つで会社の根となります。とても重要な項目ですが、物的環境整備の前に、人を変えようとすると失敗します。
人は、汚いところで明るい返事、挨拶、笑顔を、と言ってもできないのが当然だからです。それは当人の資質や性格ではありません。人間が普通に持ち合わせたまともな感覚なのです。ですから、まず場を浄めましょう。環境整備は物から始めるのが基本となります。そして、人的環境整備に取り組んでください。
お客様の判断の9割は、「見た目」と「声」
人も会社も、見た目と聴覚で9割を判断されています。一般に人間は、「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触角」の5つの感覚を持つと言われますが、中でも重要なのが視覚と聴覚で、この2つで判断の9割を決定します。
つまり、お客様はまず見た目・声で判断し、「これは良さそうだ」と思って初めてお金を払ってくださるのです。見た目と声で、9割が決まるのです。この話をすると、「レストランであれば味覚や嗅覚が重要ではないか」と質問される方がいらっしゃいます。
しかし、レストランでも、やはり見た目と声なのです。まず、汚いレストランには誰も入りません。よく「汚いけれど美味しい店」などと言われるところがあります。古びているのと不潔なのを混同しないよう注意してください。
「汚いけれど美味しい店」と言われる店舗をよく見ると、内装はたとえ古びていても床は磨かれ、食器は輝いています。従業員の制服は白が目に鮮やかで、何より表情が明るいはずです。美味しくて繁盛している汚い店はありえないのです。見た目をクリアしたら、ドアを開けます。
次は「音」です。「いらっしゃいませ」と明るく元気な声が聞こえてきました。きちんと自分の目を見ています。ここに至ってようやくお客様はその店を選ぶのです。「うちはフランスで修業したコックがいる」「店主は各地のコンクールで優勝している」などといくら「味」を強調しても、見た目と挨拶が悪ければ出て行かれます。
美味しいだけで選んでくれると思うのは、あまりにお客様を馬鹿にしています。あなたがレストランに行ったときのことを考えてみてください。良かったな、また行きたいな、というお店は、味だけではなく、外見や内装、スタッフの挨拶、清潔なテーブルクロスなどが印象に残っていないでしょうか。食事に行ったのに味以外の印象も残るのです。つまり、人があえてレストランに行くのは味以外のものも求めているということです。それが「感動」です。感情が動いているから記憶に残るのです。
店主がいくら味ばかり追求しても、お客様は選んでくださいません。まずは、見た目と挨拶で感動を与えましょう。
良い仲間を持つことも人的環境整備
先に紹介したのは、人的環境整備の基本です。ここでは、別な観点からの人的環境整備を紹介します。
「類は友を呼ぶ」――一倉洋先生が教えてくださった原理原則です。良い仲間に囲まれていれば、おのずと良い決定ができるということです。
一倉洋先生は、1986年の11月、私が出会ったとき、すでに癌に侵されていて、その2年後に43歳の若さで亡くなられました。一倉先生には、さまざまな教えをいただきましたが、これが、最後の教えとなりました。
例を挙げて解説しましょう。たとえば本書を読んだ方が、環境整備について知らない仲間に、「こんないい話が書かれていたよ」と教えたとします。そして、「すごそうだから一緒にやってみようよ」と誘ったらどうでしょうか。
「正直なところ面倒臭い」と感じても、付き合いもあるし、とりあえず良さそうだからちょっとやってみよう、となります。そこで、一歩良い方向に進めます。ところが、悪い仲間ですと、こうはなりません。「お掃除で儲かるなら苦労はしないよ」などと、まったく的外れな批判をして終わりです。
会社は、変わらず荒れ放題です。良い仕事をし、良い人生を歩むには、前者のような人間関係が望ましいものです。ただし、周囲に不満があっても、それは仲間の責任ではありません。自分自身のレベルに合った仲間が自然にできただけの話です。「類が友を呼ぶ」のです。
いきなり仲間を説得して、「環境整備をやろう」と言っても相手にされないか、何だかんだと理屈をつけられて結局やらずじまいに終わります。変えられるのは自分しかありません。まず自分が環境整備を始め、コツコツと続けていくのです。
仲間も本心では興味がないわけではありません。新しいことを始めるのが面倒なだけなのです。ですから、仲間の誰かが環境整備を始めたとなれば、何となく様子を聞いて、「私もしてみよう」「ではわが社も」となるものです。
それでも、「お掃除なんて」と勘違いを続ける仲間とは、やがて疎遠になっていきます。類は友を呼ぶのですから、感覚が合わなくなれば自然と離れていくのです。そして今度は、環境整備を実践している人と知り合っていきます。
「悪貨は良貨を駆逐する」という有名な経済学者の言葉があるように、悪い物は影響力を広げやすいものです。したがって、悪友は簡単につくることができます。学校にはたいてい不良グループがいます。一人きりの不良など、見たことがありません。つまり、悪友は群れたがるのです。これは社会人も同じです。
自分だけでは不安なので、他人を巻き込もうとします。その仲間に入ったら悲惨です。何かといっては群れて足を引っ張り合い、お互いを低め続けます。誘い合って堕落・退歩していくのです。誰かが成長して自分が置き去りにされるのが怖いので、他人の進化を妨害し続けます。
一方、良い仲間は対照的です。助け合って共に成長・進化していきます。他人の話を素直に聞き、優れたことは積極的に真似をして、どんどん変わっていきます。良い物は広がりにくいため、このような関係を築くのは、少々困難です。
しかし、それを達成している人は確実に存在します。こうして悪い仲間との交流がなくなり、豊かな人生へと一歩近づくことができるのです。元の仲間との差は、どんどん開いていくことでしょう。良い友達を選んで交流し、お互いの会社をベンチマーキングし合いましょう。そして良いところをどんどん真似してお互いに高め合えば、会社は長足の進歩・成長を遂げます。
良貨が悪貨を駆逐するように、その企業の社風は一気によくなっていきます。類は友を呼びます。そのような関係が構築されていると、また似た感性を持った人が仲間に入ってきます。変化のスピードは集団の大きさに比例します。真似をする対象が増えるからです。
したがって、良い仲間が増えれば増えるほど、進化がスピードアップするのです。ですから、特にリーダーはどのような人と交流し、どのように相互啓発を図っていくのかを絶えず考えていかなければなりません。その判断によって、自分や会社のありようが大きく変わっていくのです。以上が、もう1つの人的環境整備の心得です。
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