環境整備は経営の原理原則
現場レベルの具体的な話で言えば、その理由は、「環境整備」にあります。なんだ、お掃除かと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「環境整備」はただの掃除や片づけではありません。
それこそ会社の成否を左右する、大変奥の深い、決して侮ってはいけないものです。なぜならば、これは「経営の原理原則」だからです。
●経営の原理原則は、強い企業文化と社風をつくることから、すべてが始まること
●そして、その手段は「環境整備」であること
このように言い切れるのは、武蔵野が経営をサポートしている会員企業様をはじめ、私が、29年間、みてきた企業で、この原理原則を大切にされて、コツコツと環境整備に取り組まれたところは、ほぼ例外なく、お客様に選ばれ、業績を向上させているからです。
利益という果実は、強い根、幹、枝葉があって生まれる
「環境整備に取り組んだけれど、利益につながらない」また、「環境整備をしたいけれど、なかなか組織に定着しない」会社も多いようです。
会社を樹木に当てはめて考えてみましょう。会社は業績によって評価されます。赤字なのか黒字なのか、数字で表れますから、一目瞭然です。樹木でいえば、数字は、最も目立つ「花」「実」に当たります。樹木の価値は、美しい花や美味しい果実によって、決まります。
「経営は逆算なり」私がご縁をいただいた、一倉定先生、一倉洋先生の教えです。利益は、花と実です。豊かな実りを得るためには、逆算すると、強い枝葉、太い幹、そして最後に根にたどりつきます。決して目には見えなくとも、深く広く伸びた根が大樹を支えるのです。
会社で根に当たる部分は、「物的環境整備」・「人的環境整備」です。環境整備とは、単なるお掃除ではありません。仕事がしやすい「環境」を「整」えて、「備える」ことです。
武蔵野では毎朝30分間、全社員が物的環境整備に汗を流しています。窓を拭いたり床のワックスをかけなおしたり、傍から見れば環境整備の作業はただの掃除です。地味なことをコツコツと積み重ねるのを軽視する会社が多いのが現実です。その意味では、環境整備は習慣整備と言っても良いかと思います。
幹には根から栄養を吸い上げ、枝葉に届ける役目があります。同時に、枝・葉・花・実を支えています。この幹に当たるのが、3つ目の環境整備「情報環境整備」です。
根だけ張っても、利益につながらないのは、幹が弱いせいかもしれません。幹と根に当たる、3つの環境整備によって、良い社風が醸成されます。
すぐに花や実がなる施策や、イベントのような派手なことを好まれるリーダーの方が多いのですが、地味なことを嫌っていては、花や実を得ることはできません。
「環境整備なくして事業なし」一倉定先生の、有名な言葉です。この言葉に、環境整備の重要性は集約されていると思います。環境整備は、まさに会社の「根幹」なのです。
根が張り、幹が伸びたら、枝葉です。会社で枝葉に当たるのが、「企業文化」です。大は国家から小は家族まで、人間の集団には必ず「文化」が存在します。それは会社も例外ではありません。
たとえば「A社は若い人に積極的に仕事を任せる文化がある」とか、「B社は新規事業には慎重な文化だ」というように、企業風土や慣習を指して使うことが多いと思います。
強い企業文化とは、社員の気持ちが一致し、同じ行動指針で動けることです。リーダーがどれほど素晴らしい方針を立てても、社員の心がばらばらで向いている方向が違うようでは話になりません。
心を1つにし、同じ方向を向いて仕事をするためには、「共通化」が鍵となります。共通化するのは、「言語」・「認識」・「道具」の3つです。共通化を図ることでリーダーの方針が正しく伝わり、適切に実施されていきます。
利益を得たいと思ったら、環境整備をして良い社風をつくり(強い根を張り、幹を太くし)、「言語」・「認識」・「道具」の共通化で、強い企業文化(枝葉)をつくれば良いのです。
ただし、形だけ真似てもうまくいきません。土壌に栄養がなければ、吸い上げることができません。土壌に当たる部分は、環境整備を行う人たちの姿勢です。
このとき、「原理原則」に基づいた認識と行動がなされているかどうかがポイントです。原理原則を知っている、さらには知っているだけでなく行動しているかで、環境整備の成功、ひいては、利益が得られるかどうかが決まるのです。
環境整備で良い社風をつくり、共通化で強い企業文化をつくった会社が、美しい花、豊かな果実を得ることができるます。
良い社風をつくる環境整備とは
環境整備は、大きく次の3つに分けて考えることができます。
①物的環境整備
②人的環境整備
③情報環境整備
環境整備の本質は、仕事がしやすい「環境」を「整」えて、「備える」ことです。
美しい花や美味しい実といった豊かな実りのある木は必ず、広く深く根を張っています。
会社において、この最も重要な根に当たるのが「物的環境整備」と「人的環境整備」です。そして、幹に当たるのが、「情報環境整備」です。
幹と根に当たる、3つの環境整備によって、良い社風が醸成されます。
多くの人は、地味なことをコツコツと積み重ねる作業を軽視します。ですから、環境整備を始めれば、自社の変化を強く感じることができるはずです。
社長の決心・覚悟と地道な取り組みで会社は変わる
環境整備を実践し、驚くべき成長を遂げている会社の例 株式会社ワールド・ワン様(河野圭一社長)は、神戸の三宮で飲食店を始め、さらに発展し続けている会社です。
当初は自己流で経営を進めていらっしゃいました。しかし、事業の発展に伴い、パート・アルバイトも含め従業員の数が増えます。万が一経営が立ち行かなくなったりすれば、そのご縁のあった人たちを苦しめることになります。
そこで、「このまま自己流でやっていてはいけない」と、自らの勘だけに頼らない経営を求め、武蔵野の経営サポート事業部とご縁ができました。同社の環境整備点検は徹底しています。
まず始めるにあたり、河野社長は習慣整備という言葉を強調します。簡単に言うと「よい言葉を使う、よい行動をとる」ということです。簡単なようですが、習慣整備という言葉をごく自然に口にできる社長は一握りです。
経営者が、このような視点を持つことで、従業員はお客様に対して、またはスタッフ同士でどのような言葉遣いをしたらいいのか、絶えず細心の注意を払えるようになります。このような環境は、自然発生するものではありません。
その根っこにあたるのが、地道な物的環境整備です。同社の環境整備点検は、河野社長以下各店の店長、幹部により行われます。指摘された問題点には次々と目印の紙が貼られ、一目でわかるようになっています(これも共通の道具です)。
厨房のシンクの下、換気フードの裏側、テーブルのわずかな埃といった細かな点もチェックされます。便器には直接手まで突っ込んで確認します。店頭の盛り塩に髪の毛が落ちていた、という指摘もされます。
ここまでされれば、店長も環境整備を徹底せざるをえません。誰もここまで細かいところ見ない、と思うのは間違いです。たとえば、飲食店にとって盛り塩は、お客様にお越しいただくことを願った大切なアイ
のような店を選ばないでしょう。
何しろ神戸の三宮といえば地域きっての繁華街です。ライバルは星の数ほどあります。このように環境整備を通して、原理原則を共通認識にしていくのです。
物の点検が終わったら、開店前に人的環境整備・習慣整備のチェックです。爪や笑顔といった、お客様の目に直接触れるところはもちろん、靴下まで厳しく点検されます。
環境整備点検で高得点を獲得するためには、店全体の一致団結が必要です。多数を占めるアルバイトの協力なしには実現不可能です。すると、店長や幹部にアルバイトに対する感謝の気持ちが生まれ、必然的にお店の空気がよくなります。
ワールド・ワン様の環境整備点検がすごいのは、全店の幹部クラスが参加しているところです。点検をしながら、他店のベンチマーキングもし合っているのです。
そこで発見した良い点をお互いに真似し合い、全店がどんどん強くなっていきます。他社のベンチマーキングももちろん有効ですが、どれほど素晴らしい点があっても、「あそこは規模が違うから」「うちとは事業内容が違うから」などと言い訳ができます。
しかし、自社の他店では言い訳のしようがありません。同社の環境整備点検はまだ続きます。翌日には実行計画書という共通の道具を使い、講評を述べたり自店舗の計画達成を省みたりして、次への備えを行うのです。
初日に現場の現実について、2日目には今後について共有化を図ることで、企業文化のレベルはどんどん高まっていきます。こうした地道な取り組みをコツコツ続けていくことが重要なのです。ワールド・ワン様は、今後もさらなる店舗展開を計画しています。このようにして、原理原則を知らず、何もしないでいる会社に、どんどん差をつけていくのです。
税務署を1日早く切り上げさせた環境整備の力
次は、完璧な環境整備によって監督官庁をうならせた会社の例をご紹介しましょう。
監督官庁は、社長の言葉や書類など信頼しません。ですから、必ず現場を見ます。真実は現場の中にあるからです。実態として環境整備が、びしっとできていれば、指導も自然と甘くなるのです。
逆もまた然り。環境整備ができていない会社や、社員に覇気がない会社は、鵜の目鷹の目で調べられ、痛くもない腹を探られることになります。
岐阜県で産業用梱包機械を製造している株式会社東伸様(藤吉繁子社長)では、税務調査が1日早く終わりました。ある日、税務署の調査が入りました。「今日から4日間行います。まずは工場を見せてください」。突然ですから社内に緊張が走ります。
税務署員は、それまでの経験から次のようなイメージを持っていたことと思います。「工場は雑然として、何がどこにあるかがわからない。上手く在庫調整をしてごまかしているのではないか」それも無理はありません。そういう現場が圧倒的に多いのが事実だからです。
ところが東伸様は違いました。何しろ同社は、全国から見学者が来るくらい環境整備が徹底されているのです。在庫などごまかしようもないことは一目でわかります。物だけでなく、人も完璧です。工場に行ったところ、働いている人が笑顔で「いらっしゃいませ!」と迎えてくれます。
下手な接客業の人よりも、返事や挨拶、笑顔のレベルが遥かに上なのです。汚い、暗いが当然だと思っていた工場はぴかぴか、「いらっしゃいませ」に始まって最後のお見送りまで完璧。その効果は劇的なものでした。「4日」と言っていた税務署員が、「3日でいい」となったのです。
あの厳しい税務署が現場を見て、この会社は不正をするはずがない、と判断したのです。同社には、翌月は消防署が査察にきましたが、完璧な現場を見てやはりすぐにOKが出ました。どんな些細なことも見逃さない監督官庁のチェックすら緩ませる、現場の現実というものは、それほど説得力を持っています。
東伸様がそれほどのレベルが維持できるのも、「我ら以外、皆お客様なり」という精神が浸透している結果です。「我ら以外、皆お客様なり」と思えば、入ってきたのが宅配便や郵便局の人でも、業者様でも、自分たち以外の人間はすべてお客様であると考え、きちんと立って相手を見て挨拶します。
これを「相手がお客様なら分離礼」「業者なら会釈」などと場合分けすると、従業員はその都度、相手が誰であるか判断しなければいけません。その判断が絶対に正しいとは限りませんし、反応も遅れます。そのときは業者として訪れた方も、いつお客様になられるかはわかりません。
しかも、誇張されて広がります。東伸様の完璧な環境整備は、現場によって自分たちの会社が評価を受けるという原理原則を理解しているからできることです。それゆえ、どのような方が見えても、必ず高いレベルの応対ができるのです。
金融機関は、現場を見て融資を決める
お客様・監督官庁と並んで、厳しく会社をチェックしているのが金融機関です。現実問題として、金融機関から借入をせずに経営が成り立つ会社はごく一握りです。会社は赤字でも倒産しませんが、資金が底をついたときに倒産します。そうである以上、常に銀行とは良好な関係を維持しておかなくてはなりません。
武蔵野が経営サポート事業を通じて付き合いがある、全国の中小企業経営者・経営幹部の中には銀行出身の方がいらっしゃいます。有名銀行の支店長、副支店長、本店の審査部とご経歴はさまざまです。
経歴は違っても、銀行業務の第一線を経験された方が口をそろえて、おっしゃることがあります。「会社は書類だけでは信用できない」銀行は現場を見てその会社を判断しています。
現場チェックの典型的な例が、支店長の会社訪問です。銀行の支店長は、アポイントを取らずに突然来られるケースが大半です。そして例外なく「ちょっと近所まで来ましたので」などとおっしゃいますが、そんな暇な支店長がいるはずがありません。
目的は、「現実」「現場」「現物」の確認です。会社に行ってみたら社内は雑然として、社員はろくに挨拶もしない。中には「あのオヤジは何者だ」などという不躾な目で見る者もいる。
そんな淀んだ空気の会社がいくら立派な書類をつくっても、融資してくれる銀行などあるはずがありません。ただし、銀行は融資をしたくないのではありません。確実な相手を選びたいだけの話です。
武蔵野は、銀行の支店長の訪問を受けるばかりでなく、逆にお招きするケースがあります。それが、経営計画発表会です。発表会では社長がさまざまな方針を説明します。たとえば、環境整備についてはこういう方針で、具体的にはこのようにやっていきます、という具合です。
支店長は、発表会でどれほど感心したとしても必ず現場に足を運びます。そこで計画と実情が全然違っていたという事実を確認したら、絶対に融資はしてもらえません。
逆に、突然訪問してみたら整理、整頓、清潔も大丈夫。返事、挨拶、笑顔も明るく、分離礼は完璧だという事実があればどうなるでしょうか。発表会で社長の言ったことがきちんと実施されている会社、つまり社長のリーダーシップがしっかりしている信用できる会社だ、と支店長は判断します。
こうなると銀行の態度は一変します。これまでは「融資してやる」という姿勢だったものが、一転「融資させてください」となるのです。利率や借入期間といった条件面についても、こちらが優位に立って進められます。
銀行は、融資したくないわけではありません。貸すのが商売です。信用できる会社なら、銀行は融資したいのです。優良な顧客を、むざむざライバル銀行にとられるわけにはいきません。この点は銀行とて普通の会社と同じです。
銀行の支店長だから丁重にもてなせ、ということではありません。そもそも支店長の顔など知っている社員はほとんどいないはずです。会社には、いつ誰が来るかわかりません。だからこそ「我ら以外皆お客様なり」なのです。
売上が伸びない、銀行がお金を貸してくれない……上手くいかないことの根本的な原因は、すべて会社の現場にあります。この原理原則を知らないで、または知っても実践しないまま経営を続ければ、やがて銀行から見放されます。そうならないためにも、社長は「現実」「現場」「現物」を大切にしていかなければなりません。地道な取り組みをコツコツ積み重ねることで初めて、会社は強くなっていくのです。
「物」「人」「情報」の環境整備に取り組もう
以上、3つの環境整備と、環境整備の効果について解説しました。物的環境整備と人的環境整備を根とし、コミュニケーションを幹に、強い企業文化という枝葉を広げた樹木となったとき、初めて、会社は実りの季節をむかえます。
この仕組みが強いほど多くの花が咲き乱れ、豊かな果実がたわわになるのです。物、人、情報の環境整備が利益をもたらします。これが、経営の原理原則です。
原理原則を知らないまま、上手に会社を育てるのは、極めて困難です。まして、原理原則を無視して、社員や部下に漠然と「とにかく利益を上げろ」「何でもいいから売上を伸ばせ」と言うだけでは、命令する側の意に反して利益は下がり、売上は落ちるでしょう。
リーダーは「もっと利益を」「日本一になりたい」「上場したい」といろいろな花を咲かせることを望みます。社員の方も、「もっと休日がほしい」「ボーナスをいっぱい」と願います。どちらも当然の思いです。
偉大な教育者、森信三先生が「現場再建の三大原理」として「場を浄め、礼を正し、時を守る」ことを挙げ、「学校の再建はまず紙屑を拾うことから――。次にはクツ箱のクツのかかとが揃うように。真の教育は、こうした眼前の瑣事からスタートすることを知らねば、一校主宰者たるの資格なし」と述べています。
同様に、物、人、情報の環境整備に取り組むことによって、初めて、会社は、経営者も、社員も望む結果に到達することができるのです。
リーダー自身が先頭に立たないと環境整備は定着しない
環境整備や「言語」「認識」「道具」の共通化を進めるにあたって重要なことがあります。それは、必ず集団のリーダーが先頭に立つことです。これは学校でも自治体でも、もちろん会社でも同じです。
新しいこと、特に環境整備に積極的に取り組みたいと思う社員はごく稀です。いないのが普通だと言ってもいいでしょう。誰もがやりたくないことを、担当者に任せたらどうなるでしょうか。上からも下からもブーイングです。そのような状態が続けば、担当者の胃に穴があくのは時間の問題です。会社にいづらくなって、退職というケースもあります。
事実、私はそんな実例を数多く見てきました。環境整備という新しいことを任せようと思った社員ですから、それなりに実力があるはずです。そのような社員をみすみす辞めさせるのはもったいないことです。
しかし、どれほど嫌なことでも、リーダーが先頭に立って進めれば、さすがに誰も嫌とは言えません。文句を言えない状況をつくっていくところから、環境整備は始まります。
リーダーの本気を伝える
はじめから環境整備に取り組みたい社員はほとんどいません。ですから、リーダーにその気がないのなら、始めない方がいいくらいです。
リーダーの言うことは聞き流していい、という事実を1つ残すだけだからです。今でこそ環境整備が進み、ぴかぴかに磨き上げられている株式会社武蔵野ですが、最初からすべてが上手くいっていたわけではありません。
取り組んではいたのですが、あまり効果が上がらず、「武蔵野の環境整備はままごとだ」とまで言われたこともありました。この一言が社長の小山の心に火をつけました。何と3週間の海外視察旅行を成田空港でキャンセルし、その期間を環境整備の徹底にあてたのです。
いわゆるドタキャンですから、旅行代金の90万円は1銭も戻ってきません。常軌を逸しています。しかし、それゆえに社長の決心が全従業員に伝わりました。「社長は本気だ」と、誰もが実感しました。
この日から、環境整備の質が一気に向上したのです。もし小山が、「旅行から帰ってきたらどうにかしよう」と考えたら、状況は何も変わらず、今の武蔵野はなかったかもしれません。リーダーの決心と覚悟は、それほど大きな力を持つのです。
本気の決定で社員を動かす
リーダーの本気の決定が、環境整備定着の鍵を握ることを示す例を、もう1つ紹介します。それが、関西を中心にインドアのテニススクールを運営しているノアインドアステージ株式会社様です。
同社は2007年から、武蔵野が提供する環境整備定着プログラムに取り組まれています。ノアインドアステージ様の環境整備への取り組みの本気度は、当初から非常に高いものでした。まず、関西11拠点と関東2拠点から、従業員総勢120名を宝塚校に集めました。
会場は、真冬のインドアテニスコート。ここに布団を持ち込み、テニスコートに寝泊まりして、環境整備の実行計画を策定したのです。大西雅之社長は、非常に勉強熱心で、それまでもさまざまな会社改善の方法に取り組んできたそうです。
しかし、いずれも長続きはしませんでした。ですから、大半の社員は、またしばらくすれば、環境整備もフェードアウトしていくだろうと、高をくくっていたそうです。しかし、3カ月たっても、4カ月たっても、5カ月たっても、大西社長は環境整備の取り組みをやめようとしません。
しばらくすると、目に見えて環境整備の効果が現れてきた拠点が出始めました。会社から出てくる空気が変わってきたのです。そして、お客様も増え始めていきました。各拠点の幹部たちは、毎月、社長と共に、他の拠点をベンチマークに訪れます。
その変化を目の当たりにすると、自分たちも本気で取り組まなければ、となり、一気に定着が加速してきました。結果、わずか2年弱で、同社の拠点数は13から17にまで増え、2010年にはさらに増える予定です。
今では、武蔵野が社員旅行で、ノアインドアステージ様に視察に行き、学ばせていただくほど、非常にレベルの高い環境整備を行っています。この取り組みには、後日談があります。
ノアインドアステージ様は、大西社長のお父様の大西壬会長が経営されている株式会社日東社様の子会社です。お父様は、当初、ノアインドアステージ様が環境整備の取り組みを始めると聞いて、その効果を疑問視していました。そして、最初のテニスコートでの研修に〝スパイ〟を送り込んだそうです。
しかし、大西社長の本気度と、環境整備の効果に感心し、その1年後には、日東社様でも、環境整備定着プログラムに取り組み始めたのです。プログラム開始にあたって、私は、日東社様でも、ノアインドアステージ様と同様に、講演をさせていただきました。
講演を始める前、幹部の中には耳を貸そうとされない方が何人かいらっしゃいました。そのときです。日東社様でも、社長を務めている大西社長が、普段からは想像もできない形相で「俺がやらないと思ったら大間違いだぞ!環境整備をやると言ったらやるんだ!」と、烈火のごとく怒り始めたのでした。すごい決意表明でした。
そして1年後、私が訪問させていただいたとき、日東社様は、ノアインドアステージ様と同様、人も物もまったく違う会社に生まれ変わっていました。一言で言うと、「社長のもとで自分達もやっていこう!」というまとまりが生まれていたのです。
このとき、大西会長が、母校の先生方、そして、ご自分の後任である次期PTA会長さんを連れて、環境整備プログラムの現場に現れました。あれほど、環境整備の取り組みを疑問視していたお父様が、母校を良くするためにと、先生方に環境整備を見学させるまでに変わったこと、そして、その中のある先生が、「私たち教職員は、お客様という発想がなくて勉強になります」と感想を漏らしたことが、個人的にとても印象に残っています。
日東社様は、マッチ、ポケットティッシュなどPR商品を、企画製造販売するメーカーです。それまでは、テニスの方にしか気持ちが向いていないと思っていた大西社長の、日東社様への本気が伝わったのでしょう。
また、父・息子のオーナー会社ですから、社員もいろいろと人間関係を見ているところがあったかもしれません。環境整備の成果は目に見えて明らかでした。これも大西社長が、不退転の決意で率先して取り組むことを決めた結果でした。環境整備定着の成否を握るのは、リーダーの決定と覚悟、そして実践であること、この事実を、同社の取り組みは、明確に示しているのです。
社長が先頭に立てば日本一にもなれる
どんな組織でも、リーダーの決定でいかようにも変わります。地域一、日本一になるのもリーダーの決定次第です。実際に、日本一になった実例をご紹介しましょう。
広島県に本拠を置く、自動車メーカーの販売ディーラー、スズキフロンテ福山販売株式会社様です。同社は、それまでずっと系列のディーラー内で日本一でした。ところが社長が変わったとたん1位の座から滑り落ち、以来戻ることができません。そこで佐々木通誠社長は、何としても1位に戻ろうと決心します。この決定が重要です。
2位か3位ならまあいい、と社長が決めると、二度と1位になれないのはもちろん、4位以下にどんどん落ちていきます。1位を目指すところと、1位を諦めたところとでは、社長以下全社員の取り組みが違うからです。
1位に戻る決心をした佐々木社長がまず行ったのは、原理原則の確認です。根は強いか、幹は太いか、枝葉は強いか、を徹底的に見直したのです。そして、原理原則を実践しました。経営計画書をつくり、経営計画発表会も行いました。当然、最も重要な根っこの部分である環境整備についても力を入れました。
佐々木社長自らが幹部と共に現場を回ります。店舗を展開するエリアが広いので、新幹線による移動も必要でしたが、1日かけて徹底的に点検を行いました。スズキフロンテ福山販売様は、自動車メーカーのディーラーですから、工場のように汚れやすいところがたくさんあります。点検は本当に大変です。
しかし、佐々木社長自らが工具の置き方から古タイヤの処分まで、満遍なく点検していきました。社長は現場を知り、現場は社長の生の指導を受けます。互いに実情に沿った改善を図れますし、何よりもコミュニケーションが良くなります。物的環境整備を通して、情報環境整備も高まりました。
こうして原理原則に従い、根から吸収した栄養が幹を通り、枝葉となり、最後には豊かな収穫になるよう、佐々木社長は徹底的に各所をつなげていきました。結果はすぐに出ました。何と環境整備に取り組んだ翌年に、どれほど頑張っても返り咲けなかった日本一に戻ることができたのです。
それから同社はずっと1位を維持しています。「日本一」と聞くと、カリスマ社長が天才的なひらめきで経営を行っているかのごとき錯覚に陥ります。目立つことや派手なことをしなくては、日本一などなれないような印象もあるかもしれません。実際は違うのです。原理原則に基づいて、地道なことを、コツコツとひたすら徹底することで収益が上がり、日本一にもなれるのです。
変わらなければ、お客様はライバルを選ぶ
「やるぞ」「変わるぞ」と決心したものの、なかなか上手くいかないという話をよく聞きます。しかし、心配する必要はありません。なかなか変われないのが普通なのです。
また、ここまで読まれてもなお、皆さんの中には「変わりたくない」と思われる方もいらっしゃるはずです。それも自然です。人間は元来保守的な動物です。ですから、基本的に変化を好みません。
私自身、さまざまな体験を通じて原理原則を知り、変化の大切さを痛感しています。それでも、少し気が緩むと「変わらない」ことを選びそうになることもあります。まず、変わるためには、まず目的意識が重要です。変化は人間の本能に背く行為ですから、何も目的がなくて実行できるはずはありません。
変わる目的は、きれいな花と美味しい実(利益)をいただくためです。いただけない状態が続くと、「あなたは、必要ありません」と市場から退場、すなわち倒産を言い渡されます。
どんな会社にも、複数のライバルがいます。そのライバル各社が、日々変わっていこうと努力する中、1社だけが変わらないでいたらどうなるかは明らかです。周りが進歩しているのですから、取り残されていくだけです。現状維持でいればとりあえず今の業績が保てると思っていたら、まったくの誤りです。
変わらないでいると、ライバルとの比較で相対的に後れをとってしまいます。そうすると、お客様から見捨てられます。お金を払って仕事の仕方を教えているのに、ちっとも変わらないのであれば当然です。最後は倒産です。
周囲が変わる以上、変わらないというのはありえない選択肢なのです。では次に、なぜ変われないのかを知りましょう。理由がわかれば、対策もとりやすくなります。
1つは、変わらない方が楽だからです。整理、整頓、清掃は、やらなくていいのなら、それにこしたことはありません。返事、笑顔、挨拶など、面倒くさいに決まっています。そう感じるのもまた自然です。変わらない方がはるかに楽なのです。楽な方を選ぶのは、人間の本能です。
しかし、だから変わらなくていい、という話にはなりません。保育園児ですら、時間が来れば起きて保育園に行きます。本能に任せて、寝たいだけ寝るというわけにはいきません。
つまり、本能のおもむくままに変わらない、変わろうとしない社会人は、保育園児以下ということになります。そのような人間が集った会社の存在を、いつまでもお客様が許してくれるはずなどありません。
変われない2番目の理由は、失敗を恐れるからです。失敗することを考えると、どうしても現状を維持したくなるものです。しかし、本当に悪いのは失敗をすることではありません。変化をしないことです。失敗したら、やり直せば済む話です。失敗からは学ぶところも多くあります。積み重ねるうちにいろいろなことがわかってきます。
そうすると、案外失敗は少なくなります。変化を積極的に受け入れる人は、経験でこの仕組みを知っています。ですから、どんどん変わり続けられるのです。変わらないことの恐ろしさは、失敗の比ではありません。一見変わらないように見えて、実は退行していることは、先に述べたとおりです。
変化を阻む3つ目の要素は「抽象性」です。会社を変えようと言うときに、よく「市場の変化」「時代の変化」「業界の変化」などという言葉が使われます。これらは非常に便利な言葉で、使うと、発言や文章が重厚な感じになります。自分がいかに重要なことを考えているかというアピールにもなります。
しかし、実はこれほど曖昧な言葉もありません。「マーケット・時代・業界が変化した。我々も変わらねば」と言っても抽象的で、人によって思い浮かべるものが異なります。その結果、何もアクションを起こすことができなかったり、方向性がばらばらになって、何も変わらないまま終わることになります。変化を成功させるためには、具体的に考えなければいけません。教え上手なリーダーは、例外なく具体的な言葉を使います。たとえば、「マーケットの変化」を具体化してみましょう。
第1章で「マーケットにはお客様とライバルしかいない」という原理原則を確認しました。つまり、「マーケット」は「お客様とライバル」と換言できます。「マーケットの変化」とは、「お客様とライバルの変化」となります。
さらに具体性を高めるために、お客様とライバルの名前を考えてみましょう。紙に書くとより具体的になります。ここでは、何十社も考えずに、最も大切なお客様と、最も手ごわいライバルを各2社ぐらい挙げるのが効果的です。
すると、「マーケットの変化」とは、「絶対に失いたくない○○様の変化、手ごわい○○社の変化」というように具体的に見えてきます。顔の見える個別のお客様とライバルなら、具体的に観察することができます。観察すれば、お客様もライバルも、昨日より今日、今日より明日と変わり続けているのがわかります。
先ほど、「ライバル各社が、日々変わっていこうと努力する中、1社だけが変わらないでいたらお客様から見捨てられる」と述べました。これでピンとこなかった人も、あなたのお客様やライバルの変化を目の当たりにしたら、自分も変わらなければならないと実感できることでしょう。繰り返しますが、変わりたくないのは人間の本能です。
しかし、変わらないと、生き残ることができないのです。「変わらなくてもいい」ましてや「変わりたくない」という意思決定は、自ら「不幸な社会人人生でもいい」という意思決定をしていることに他ならない。
今から、ここから、自分から変わろう
世の中には、絶対に変えられないものが2つあります。過去と他人です。
しかし、変えられるものも2つあります。未来と自分です。
例を挙げながら解説していきましょう。過去は変えられません。起きてしまったことには手を着けられないのです。ですから、本書を読んで反省しないでください。「今までご縁のことなど考えたこともなかった」「環境整備をしてこなかった」――いくら悔いてもどうにもなりません。
これからご縁を強く意識し、環境整備に取り組めばいいだけです。次は「他人」です。ここでいう他人とは、自分以外のすべての人を指します。お客様に向かって「○○社では買わないでください」というお願いはできません。同様に、ライバルに対して「○○様との取り引きをやめてくれ」と命じることもできません。相手が部下であると、つい自分が教えて変えるもの、と思いがちです。
しかし、その部下も、自分で自分を変えるしかないのです。あなたは、変えられないものについて思い悩んでいませんか?過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。手をつけるべきは、ここなのです。変えられないものは変えられないのですから、なんとかしようとするのは無駄な時間です。
未来は変えられます。あなたは、未来の〝どの地点〟を変えますか?この質問は「いつから変わりますか?」と言いかえてもいいでしょう。正解は、明日でも今夜でもありません。まさに今やって来る次の瞬間から変わる、その決断こそが正しいと私は思います。今すぐがいい理由は2つあります。
1つ目は、周りが変わるからです。とにかくライバルよりも先手、先手で徹底的に変わっていかなければ、置いていかれます。また、お客様はライバル以上に速く変化します。良いものはどんどん取り入れ、駄目なものにはさっさと見切りをつけます。実に厳しい目で見て、判断をくだされます。
変わっていかない会社など、相手にしてはくれません。お客様は各社を比較して選択をしているのです。価格や品質、サービスの変化に実に敏感です。その感覚に後れを取っているようでは、お客様からの支持をいただくことは絶対にできません。
「今すぐ」であるべき理由はもう1つあります。その方が楽だからです。極端な話、変化を始めるのは明日でも3日後でも構いません。3日間何もしなくても、当面、会社はつぶれません。しかし、〝どうしてもこのタイミングで始めないと〟というものが存在しないことに関しては、いつからにするのか決めがたいですし、後回しになりがちです。すると面倒になり、やらなくなります。ですから、「今すぐ」とすればいいのです。
このようにお話しすると、「人間は急には変わらない」と反論される方がいらっしゃいます。それは事実です。しかし、それはあくまでも変化に要する時間の話です。「今、変わり始めるのは無理だ」ということではありません。時間がかかるのであれば、一刻も早く変化の実行に着手した方がいいとは思わないでしょうか。まずは簡単なことから始めるのが正しい決定です。メモをする、靴をそろえる、きちんと返事をする……。今までやっていなかったことを始めればいいのです。
お客様もライバル会社も、日々変化しています。「いつか」「そのうち」などと考えていては、差は広がる一方です。変わると決めたら、とにかく早く始めましょう。もし「今すぐ」変わるのが嫌なら、考えてみてください。
今すぐ変わるのが嫌なのはなぜでしょうか。いつならいいのでしょうか。おそらくほとんどの人は、どちらの問いにも答えられないと思います。ただ面倒くさいだけだからです。すぐに、という決断ができない人は、まだ「変えたくない」と思っているのです。
そのまま突き進むと、悪循環にはまり込んで、抜け出るのに時間がかかってしまいます。しかし、残念ながらこれも自らの意思決定の結果なので仕方がありません。
始めるタイミングは「今」「ここ」しかないのです。今すぐ、未来を変えることを決めました。では、何を変えるか。もう1つ変えることができるのは「自分」だけです。お客様、ライバル、部下、上司……他人はあなたの意思で変えることはできません。ですから、お客様に支持されたければ、お客様に喜ばれる変化をすればいいのです。
ただし、現場をよく知らないで変えると、これは取り返しのつかない失敗になってしまいます。お客様に喜ばれない変化を実施したのですから、当然の結果です。しかし、恐れることはありません。現場に赴いて、起きていることを正しく把握した上で方向性を決めれば、そのような失敗はありえないからです。
現状で部下が思うように育たないのであれば、まずリーダー自身が変わることから始めるのです。変化したあなたを見て、あなたの教えに気づいたとき、部下も変わります。これが「育った」ということです。
わが社の小山は、株式会社武蔵野の社長に就任したとき、幹部の質のあまりの低さに呆れて全員解雇しようとしました。しかし、仮に幹部を入れ替えても、同じレベルの人間しか入って来ない、つまり状況は変わらないと気づいたのです。
そこで小山は、まず自分自身が変わるところから始めました。この決定こそが、現在の武蔵野の出発点となりました。変えられないものに手を着けて、いたずらに悩むのは、無駄です。それを仕事と勘違いしてはいけません。過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。「今から、ここから、自分から」変わっていくのが正しいのです。
繰り返しを重ねれば良くも悪くも変わる
いよいよ、本書の最後のアドバイスとなりました。「続ける」ことについてお話ししたいと思います。変わろうと決意し、環境整備や言語・認識・道具の共通化を始めた。けれど、「なかなか続かない」このように悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。「続けているけれど、効果が感じられない」と思って本書を手にとられた方もいらっしゃるでしょう。
薬でもダイエットでもそうですが、効果が現れないと不安に陥ったり、焦ったりします。どのようなことも、効果が現れない場合、2つの原因しか考えられません。
①正しいことを、正しいやり方でしていない
②効果が出るまで続けていない
つまり、正しいことを、正しいやり方で、効果が出るまで続ければ必ず成功するということです。まず、確認です。正しいやり方で行われていますか?本書で解説してきたポイントを振り返ってみてください。
正しいことであればそこでやめてはいけません。やめてしまえば、やらなかったのと同じになります。難しいことをしなくてもいいのです。急変しようとすると長続きしません。ひたすら地道に繰り返していけばいいのです。すぐに効果を実感できない場合がほとんどですが、挑戦している限り、ゆっくりと着実に変わっていきます。毎日の積み重ねがいつか実を結びます。変わるのは難しいものです。だからこそ達成したときの効果が大きいのです。かつて私はすごい言葉との出会いを経験しました。
「人間は良いことも悪いことも繰り返せば上手になる」この言葉を残されたのは、鈴木鎮一先生です。長野県の松本でバイオリンの英才教育に長らく携わり、江藤俊哉さんをはじめ、多くの世界的バイオリニストを育てられた方です。日本よりも、海外で有名な方でたとえば、アメリカのカーター大統領が赤い絨毯を引いて出迎えたとか、イギリスの雑誌では「20世紀を作った、100人の人」という記事の中で、10人選ばれた日本人の中の一人であるなどの逸話が残っています。
変わろうとして変われないでいると、どうしてもストレスになります。くじけそうにもなります。この言葉は、そういう心を勇気づけ、励ましてくれます。一方、「悪いことも繰り返せば上手になる」という部分には、ぞっとするようなすごみが感じられます。
良いことを繰り返すのが望ましいのは誰にでもわかります。しかし、「悪いこと」については思いが至りません。この場合の「上手になる」というのは、程度がひどくなることです。いい加減な返事、おざなりな挨拶、曇った表情。これらも繰り返していると、どんどん習慣化してひどさが増していきます。
道に落ちているゴミを拾うのか、捨てるのか、その一見些細に思える行為の積み重ねが、その人の人生を決めてしまうのです。ゴミを捨てることを繰り返して上手になっている人は、絶対にゴミを拾いません。次第に、ゴミが落ちていることにすら気づけない鈍感な人になります。目に見える形あるゴミに気づけないのですから、目に見えない人の心に気づけるわけがありません。
一方、ゴミを拾うことを、繰り返して上手になっている人は、絶対にゴミを捨てません。だんだん、ゴミに気づくことも上手になっていきます。どんどん気づく感性が磨かれます。お客様の心にも、ライバルの変化にも敏感に気づく力が高まります。
無意識のうちに日々行っていることが一人の人間をつくり、その集合体が1つの会社の文化をつくりあげているのです。「人間は習慣の動物である」と言われる所以です。このように繰り返しは、非常に大きな力を持っています。
どうせ繰り返すのなら、良いことを選びましょう。私は、繰り返していくことの成果を自ら体を使って実演し、実感してもらうことがあります。靴を脱いで椅子の上に登ります。膝は曲げずに、体を前に曲げ、両手を下に垂らします。学校の体力測定で行った、立位体前屈を行います。
指の先は、足の爪先を通り過ぎ、両手首が足の爪先につきます。私は、2009年で50歳になりました。体の機能が低下する速度は増す一方です。そこで少しでもそのスピードを遅くしようと、自宅はもちろん、出張先のホテルでも柔軟体操を欠かしません。腹筋や腕立て伏せもしています。
どれも、特に難しい運動ではありません。簡単な運動を、ひたすら毎日続けているだけです。継続することの効果は大きく、最初に比べてずいぶん曲がるようになりました。正直な話、前夜飲みすぎてしまった日の朝はつらいのですが、1日でもやめたら体が味をしめ、2日、3日、1週間とさぼってしまうでしょう。
そうすると、体はすぐに硬直化してしまいます。もう50歳ですから、一度硬くなると、そう簡単には元に戻りません。私は30年余り、柔軟体操という「良いこと」を繰り返してきました。
その結果が皆さんに見ていただく柔らかな体です。一方、柔軟体操をやめるのは、良いことをやめる、つまり悪いことです。これを繰り返せば、悪いことが上達します。人様の前で実演などできなくなってしまいます。
どんなことでも、繰り返せば上達します。そしてどんなことでも効果が見られるまでには時間がかかるものです。良いことは繰り返しましょう。やめてしまうのは悪いことです。身についている習慣の善し悪しで、どのような人生を歩めるかが決まっていきます。その差は年齢を重ねるごとに大きくなります。あなたも、良いことを続けましょう。本書をきっかけに、より良い仕事、より良い会社、より良い人生をつくりあげていただけたら嬉しく思います。
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