はじめに
武蔵野の増収増益は、パートによって支えられている私の会社に、「パート出身」の常務取締役がいます。滝石洋子です。年収50万円でスタートした滝石の現在の年収は、1500万円です。彼女は勤続39年。各家庭にダスキン商品を交換に行くシーダー(外交員)として働きパート課長を経て、部長昇格を機に社員になりました。仕事をはじめてすぐに、新規契約を50件取ってきた滝石は、入社1年で150名のパートをまとめる統括マネジャーになった。「小山が、会社のことも仕事のこともよく
中核に据えて、戦力化してきたからです。パート全員が突然辞めた!しかし、はじめからパートの協力を得られていたわけではありません。20年ほど前、私が社長になった当初の武蔵野は、魅力的な職場とは言い難く、多くのパートが去っていきました。私は27歳のとき、武蔵野の創業者、藤本寅雄と衝突をして会社を辞めました。その後、株式会社ダスキンの社員を経て、「株式会社ベリー」という貸しおしぼりの会社を設立しました。ところが、「ベリー」の経営が堅調になった頃、病気療養中の藤本から、「会社に戻ってほしい」と頼まれた。そして1987年、私は、自分の会社の社長をしながら、武蔵野(当時は、「日本サービスマーチャンダイザー」でした)に常務として再入社しました。社長と常務の二足のわらじです。私が会社を離れていた間は、I部長(女性)が業務用部門の部長となり、私が担当していたときよりも売上を伸ばしていた。「私は、小山さんの売上を超えたのよ」得意げに言うI部長に、私はカチンときた。「ケンカを売られた」と思った私は、そのケンカを買うことにしました。再び業務用部門を任されることになった私は、自分の会社(ベリー)よりも武蔵野の仕事を優先して売上を伸ばし、半年後には、I部長の鼻を明かしたのです。I部長は、相当頭にきた。プライドを傷つけられたはずです。小山昇に対する憤りもあったでしょう。その後しばらくして、I部長は、私がまったく想像もしなかった方法で、やり返してきました。何の前触れもなく、ある日突然、家庭用部門のスタッフ(社員とパート責任者)を全員引き連れて(約10人)、会社を辞めたのです。現場は、混沌とした有様です。その場をしのぐために、業務用部門にいたK(元常務)を呼んで、「今日から家庭用部門の担当になれ。はい、君は本部長!」。アルバイトだった伊藤修二(定年後に委託勤務)を呼んで、「今日から社員になれ。はい、部長!」。中卒のYを呼んで、「今日から社員になれ。はい、課長!」と指示を出して仕事と責任を与え、なんとか乗り切りました。I部長を追い込んだのは、私の配慮が足りなかったことが原因です。先輩であるI部長に「私がいない間、業務用部門を支えてくださってありがとうございました」と感謝を伝えるべきだった。I部長がいなくなったあと、それはもう大変な思いをしましたが、「スタッフが半分以
わかっていない私に『統括マネジャーになれ』と言うので、『この人、何を言っているの?』といぶかしく思っていたら、小山がこう続けたんです。『仕事は今の半分で、給料は今の倍にする』って。私は『本当ですか!』と前のめりになりながらも、まだ信用できなかったので、近くにいたパートをひとり連れて、『小山さんが、私の仕事を今の半分にして、でも給料は今の倍にする』と言っているから、あなたも一緒に聞いて。証人になってね』とお願いしました。本当に、その通りになりましたね(笑)」(滝石)また、パートから部長に昇進し、社員の課長2名を従えていた女性もいます。佐々木佳那です(ご主人の定年退職に合わせ、佐々木も退職)。私の会社「株式会社武蔵野」(以下武蔵野)にはかつて、「事務管理部門」と呼ばれる部署があり、佐々木の発案で、「営業サポート」と名称を変えました。すると、事務管理部門のパートが「営業的な発想」で考えるようになり、仕事の質も、売上も、お客様満足度も上がりました。業務マニュアルを「新人用」と「ベテラン用」の2つに分けたのも、佐々木です。佐々木は「扶養の範囲内で仕事をする」という意向を持っていたので社員にはならなかった。ですが、武蔵野が2000年度、「日本経営品質賞」を受賞できたのは、現場を知る佐々木が、パートの戦力化を推し進めたおかげです。武蔵野は、ダスキン事業と経営サポート事業(経営コンサルティング)の2本柱で、15年連続増収、過去最高売上・過去最高益を更新しています。全従業員数は約800名。そのうち、正社員は230名。パートは約550名です。わが社の増収増益は、パートのみなさんによって支えられていると言えるでしょう。もっと言えば、5年前、武蔵野の売上は「40億円」でした。今期は「60億円」(2017年3月実績)です。わずか5年で150%成長したのは、パート・アルバイトを経営の
上辞めても会社は潰れない。けれど、お客様が半分以上いなくなったら、会社は潰れる」ことがわかったのは、いい経験でした。パートの大量離職の責任は、小山昇にあったパートが離反したのは、この1回ではありません。部門の女性半分が、「脱走していなくなった」こともあります。私がブロック部門を引き継いだとき、その部門には、女性が中心となるAグループとBグループの2つの派閥があり、実力が拮抗していました。Aグループをとりまとめていたキーマン(派閥のドン)から、「どっち(のグループ)を取るの?」と言われた私は、黙っていた。するとある日、Aグループが全員、いなくなっていたのです。当時の私は、女性の心理や女性特有の感性をわかっていなかったので、私自身が持っている「男の心理と男の感性」で女性パートをマネジメントしていました。でも、それがいけなかった。ダスキンのシーダー(外交員)のチーフとして頑張っていたパートが「辞めたい」と言ってきたときも、「どうぞ。いいですよ」と軽く返事をしました。すると辞めたとたん、彼女は、「小山昇に辞めさせられた」と言いふらしはじめた。新しく採用したパートの家にまで押しかけて、「武蔵野はひどい会社だから辞めたほうがいい」とけしかけた。その結果、噂が広まって人がどんどん辞めてしまい、それから1年半くらいは、パートの採用に苦戦しました。彼女が「辞めたい」と言ったのは、「長年頑張ってきた私の頑張りを認めてほしい」「『あなたは会社に必要だ』と言って引き止めてほしい」という気持ちの裏返しだったのに、私は気がつかなかった。女性心理がわかっていなかった私は、たくさんの失敗をしました。ですが、数限りなく失敗を繰り返し、試行錯誤を重ねた結果、「パートが社員と同等以上に力を発揮する会社」に変わることができたのです。従業員満足度約9割の「超異常」な会社わが社は、1999年以降、毎年、従業員アンケートを実施しています。パートの声をいち早く汲み上げて、現場改善に役立てるためです。パートの戦力化に取り組み、雇用環境を改善した結果、現在では、「87・7%」のパートがわが社に満足しています(参照)。2000年には、パートの満足度が「19%」しかなかったことを考えれば、「87・7%」という数字は、「超異常」です。かつての武蔵野は、パートの雇用環境が悪く、超・超・超ブラック企業と呼ばれていました。そんな武蔵野が「超異常で、超健全な会社」に変わることができたのは、パート心理
(女性心理)に基づいた「しくみづくり」に取り組んできたからです。
【パート戦力化のための主な取り組み】・「経営計画書」に「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」を明記し、給与、賞与、人事評価のしくみを透明化する・実力のあるパートにはポジション(役職)を与えるなど、社員とパートの差別をなくす・パートを経営に参画させ、自主的に現場を改善させる・社員教育の回数を増やして、会社の価値観を共有する・パート全員にタブレット端末(iPadminiなど)を配布して、残業時間を減らす・飲み会、食事会、懇親会など「楽しいイベント」を定例化して、パート同士のコミュニケーション量を増やすパートを大切にしない会社は、生き残れない2017年度税制改正大綱において、「配偶者控除」の廃止そのものは見送られました。しかし、2018年1月から、世帯主の所得からの満額控除(38万円)が適用される配偶者の所得の上限が、「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げられます。私は、上限額の引き上げによって、「優秀なパートはこれまで以上に評価される(稼げる)ようになる」と考えています。現在、武蔵野のパートの賞与は「上限12万円」ですが、「上限20万円」にすることもできる。すると、優秀なパートを採用することも、優秀なパートの離職を防ぐことも可能になります。つまり、これからの時代は、今まで以上に企業間の人材格差が生まれる。そして、「パートを公平に評価する会社」に人材が集中します。また、安倍政権は、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現のため、「働き方改革」を掲げています。改革の主軸となるのは、非正規雇用者(パート)の待遇改善と長時間労働の是正です。正規雇用者と非正規雇用者の間には、賃金や能力開発機会などの面で大きな差があるのが実情です。武蔵野は、すでに何年も前から、非正規雇用者の待遇改善に取り組んでいます。わが社にとってパートは貴重な戦力であり、パートの雇用環境を整えたことが会社の成長につながったからです。パートを「社員の手足」や「使い捨ての駒」としか考えない会社は、競争力を失い生き残ることはできないでしょう。右肩下がりの時代でも成長を続けるには、「パートを大切にして、戦力化する」ことが不可欠です。
本書では、武蔵野の「経営計画書」に明記された「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」の内容を軸に、わが社で実際に働くパートの声や、武蔵野がコンサルティングをしている経営サポートパートナー会員の成功事例などを通して、「パート戦力化」のしくみを紹介していきます。まず序章で、「パートの戦力化」の重要性と、社長の心がまえについて解説します。続く第1章~第5章では、「パートの戦力化」を実現するために必要な「ルール」「人材育成」「モチベーションアップ」「コミュニケーション」「採用」の5つのポイントから具体的な方法を解説します。本書が、ひとりでも多くの経営者の助力となれば、嬉しく思います。最後に、本書の作成にご助力いただいたクロロスの藤吉豊さん、執筆の機会をくださったKKベストセラーズの戸谷静香さんにこの場を借りて御礼申し上げます。2017年6月株式会社武蔵野代表取締役社長小山昇
儲かりたいならパート社員を武器にしなさい
目次
はじめに
序章パート社員は、一緒に夢を実現するパートナーである
パートを戦力化すると会社が儲かる
パートは「時給を高くして、短時間働いていただく」のが正しい/高時給・短時間労働の4つのメリット/パートは、「一緒に夢を実現するパートナー」
パートと社員の区別をなくしなさい
パートにも、社員と同じレベルの仕事を与える/パート戦力化の鍵は、社員とパートを差別しないこと/パートの資質を見極められないと、戦力を無駄にする/会社は、もうひとつの「家族」である/パートに、若手社員を「子ども扱い」していただく/歩のない将棋は負け将棋
第1章優秀なパートを育てたいなら「会社のルール」を教えなさい
「理解」させればパートは最大の協力者になる
「会社のルール」を教えることが戦力化の第一歩/パートの文句は、向上心のあらわれ/パートが会社を辞める「3つ」の理由/女性は、何よりも不公平を嫌う/どうして給料が下がったのに「嬉しい」と言えるのか/ルールが明確になっていれば、差をつけてもいい/女性は、仕事を正確にする能力が高い
会社の方針を「共有」、そして「実行」させる!
経営計画書を全従業員が共有し、絆を深める/新人パートは入社1ヵ月以内にオリエンテーションに参加させる/パートに自部門の実行計画を立てさせる/多数決で決めさせてはいけない/自分たちで計画をつくるから、仕事が楽しくなる
なぜ武蔵野のパートはハイレベルな提案ができる?
常務、滝石洋子を驚かせた提案とは?/「メリーメイド小金井支店」が、「売上全国第1位」を達成した理由/個人の売上目標を明確にして、やる気をうながす/社員からパートになった従業員から見た武蔵野の働き方
社長の覚悟がなければパートの戦力化は成功しない
社長が変わればパートが変わり、会社が変わる/パートがやる気を出さないのは、すべて「社長」の責任/会社がいちばん苦しいときに賞与を払う/あいまいな返事はせず「できる、できない」をはっきりさせる/パートの声を無視して、現場改善はできない
第2章パートの能力は「しくみ」で最大限引き出せる
都合の良い時間に働いてもらう
パート全員にiPadを支給して、空中戦を仕掛ける/なぜ75歳のパートまでもがiPadを使いこなせるのか?/残業改革に取り組む理由を説明し、協力を仰ぐ/ダブルキャストで臨機応変に対応する/有給休暇の日数は、パートが自分で管理する
人は動かせば動かすほど成長する
強制的に環境を変化させる/人事異動は「モンスターパート」や「派閥」を生まないしくみ/勉強嫌いのパートに勉強させる奥の手/新しい体験を与えて失敗させることこそが人材教育/パートを動かす「100回帳」
「パート課長」「パート部長」をどんどんつくる
問題意識の高い人にポジションを与えなさい/管理職を選出するときは、最古参に声をかける/役職につきたがらないパートは、口説き落とす!/99%のパートが落ちる口説き文句/潔癖すぎる人は、管理職に向いていない/夫婦仲が悪い女性を課長にしてはいけない
現場重視のしくみづくりが生産力アップの近道
個人のスキルを「数字」で見える化する/小さな改善の積み重ねで生産力アップ/外部委託よりもパートの戦力化に利がある理由
第3章やる気は「お金」で買いなさい
お金のルールが明確だとパートは辞めない
愛はお金/給与はお客様が払い、賞与は社長が払う/時給は、「少額ずつ、定期的に上げる」ほうがパートは辞めない/賞与額も「足し算」で決める/「価値観の共有」が何より重要
パートが高いモチベーションで働けるしくみ
「お楽しみ会」での非日常体験がモチベーションになる/忘年会の会費は「高いほう」が喜ばれる/「表彰制度」はパートの励みになる
第4章職場のトラブルはすべてコミュニケーションで解決できる
「社長の声かけ」がパートのモチベーションになる
パートをほめるときは、全員に、同じだけほめる/洋服の「色」をほめるだけでも、パートは喜ぶ/従業員アンケートを取ると、社長の心が折れる/飲み会や懇親会の回数が多いほど、社内のコミュニケーションは良くなる/飲み会に、社長も積極的に参加する
コミュニケーションの量に比例して組織は強くなる
言いたいことを言える環境づくりを/パートと社員のコミュニケーションが良くなれば、会社が儲かる
職場で揉め事を起こさせない武蔵野のしくみ
メリーメイド事業部にロッカーがない理由/仕事の揉め事の多くは、プロセスの違いが原因/武蔵野の法律は「小山昇」/女性同士の職場では、100%揉め事が起きる
どうして「女性組織の長」は出世が早いのか?
武蔵野では「女性組織の長」を経験しないと、部長になれない/女性組織の潤滑油
コラム満足度が高い「がんばったパート・アルバイト懇親会」
第5章「価値観」重視で採用しなさい
「能力」で採ってはいけない
能力が高い人よりも、価値観が合う人を採用する/能力があっても、仲間と仲良くできない人には辞めてもらう/パートにも、新人採用の決定権を与える
「採用」ではなく「定着」が最優先!
新しい人を採用するより、今いるパートを辞めさせないことが先決/会社がヒマなときに採用したパートは、辞めやすい/お世話係を導入して早期離職を防ぐ
「高待遇」じゃなくてもパートは集まる
求人広告のメインコピーには、自社の強みを打ち出す/働く理由は「お金」だとはかぎらない/「不人気業種」でもパートが集まる方法/シニア世代を積極的に採用し、戦力化する
序章パート社員は、一緒に夢を実現するパートナーである
パートを戦力化すると会社が儲かる
パートは「時給を高くして、短時間働いていただく」のが正しい
多くの会社にとって、パートは、雇用の調整弁になっています。非正規雇用の立場を正規雇用よりも下に位置付けて、「主婦の小遣い稼ぎ」「空いている時間を利用した副業」「軽い腰かけ」と見なす社長もいます。
「安く、都合良く使える労働力」くらいの認識で、「正社員の補助職」程度の存在として扱っている。そしてそのことを、社長はもとより、パート自身も疑問に思ってはいません。
ですが私は、パートを雇用調整的な役割にとどめておくつもりはありません。パートの戦力は、もはや武蔵野にはなくてはならないものです。
パートでも、優秀な仕事をすれば相応の地位を与えます。わが社の全従業員のおよそ4分の3は、パート・アルバイト(非正規雇用のスタッフ)です。
中には、勤続40年以上の大ベテランや、「課長」の肩書を持つパートが6人います。わが社のパートは実力派揃いで、「パートに正社員が叱られる」光景もめずらしくありません。
お客様は、パートと正社員を区別しません。どちらも同じ「会社のスタッフ」です。パートに相応の責任を担ってもらい、責任を担わせるから、しかるべき待遇も与えます。
パートの雇用に関しては、「時給を高くして、短時間働いていただく」のがわが社の基本方針です。多くの社長は、「パートの給与を高くすると、人件費がもったいない」と考え、安い時給で雇います。
パートを安い時給で使うと考えるのは、売上に対して、労働分配率が低いほうがいいと思っているからです。ですが私は、そうは思いません。
「パートの時給を高くしたほうが、会社は得をする」と考えています。
高時給・短時間労働の4つのメリット
時給を高くすると会社が得をする理由は、次の「4つ」です。
①「能力が高い人」を採用できる
②優秀な人が辞めない
③残業(残業代)が減る
④パートが子育てに時間を使える
①「能力が高い人」を採用できる武蔵野は、非正規雇用のスタッフにも、職務内容・勤務時間帯・職責に応じた給与を払っているため、優秀なパートが集まっています。能力が低い人を雇って、仕事が長引き残業代を払うよりも、時給が高くても能力が高い人を雇ったほうが生産性は上がります。
②優秀な人が辞めないパートの給与は、時給制です。ですが、一般的な会社のように、「一律給与を基本として、勤続期間に応じて昇給させる」わけではありません。
給与水準が一律だと、優秀なパートは、「私はあの人よりも大変な仕事をしているのに、時給が一緒なのは不公平だ。納得できない」と不満を抱え、辞めます。
そこでわが社では、困難な仕事や専門性が要求される仕事をしている人と、補助的な簡易労働をしている人とでは、昇給幅(時給)に差をつけます。だから、優秀な人が辞めません。
「仕事ができる人は稼ぐことができて、仕事ができない人は稼げない」が私の考え方です。人が辞めると、新たなパート採用に募集費用がかかります。
また、新人パートを一から教育すると、教育・研修費が余計にかかります。時給を高くしても、人が辞めなければ、採用コストや引き継ぎによる機会損失を防ぐことができます。
③残業(残業代)が減る
武蔵野は、「不要な残業を減らす」方向で業務改善を進めています。残業50時間以内の基準を満たしたパートは、賞与を200%(2倍)にする決まりです。
勤務時間が減ると、「時給」として受け取る額は減るが、その代わり、「賞与」が増えるので、結果的には年収(年間総可処分所得)が上がります(次の図参照)。
時給を高くすると人件費がかさむと思いがちですが、わが社は、逆です。残業改革前と比較し、たった2年強で、社員換算で「1億円」、パート・アルバイトも含めると「1億5000万円」の人件費削減に成功しています。そして、残業削減によって増えた利益はパートに還元するため賞与増額の原資に充てています。
④パートが子育てに時間を使える
「子育てが終わるまでは、家庭(子ども)最優先」が私の基本的な考え方です。子どもが帰ってくる時間は、家にいてあげるのが「母親の理想」と思っています。高い時給で短く働いてもらえば、子育てに使える時間が増えるから、家庭を犠牲にすることがありません。
本社の「コールセンター」で働く村瀬由紀子は、「武蔵野は、主婦にとってはありがたい職場」だと感じています。その理由は、「子どもに何かあったときも、融通がきくから」です。
「以前も、別の会社でコールセンターの仕事をしていました。前の会社はとても厳しくて、子どもが病気になっても仕事を休むことができなかったんです。子どもが熱を出したら、親や兄弟に頼ったり、病児・病後児保育(病気の子どもを預かってくれる保育園)に預けたりしなければなりませんでした。
ですが武蔵野は、そんなことがありません。今から4年半ほど前、面接に来たときに聞いてみたんですね、『もし子どもが急に熱を出したときは、どうしたらいいですか?』と。
すると、面接を担当された方が、こう言ってくださったんです。『もちろん、お子さんを大事にしてあげてください。子どもがいる母親なら、お互いさまじゃないですか。休んでくださっていいですよ』って。
実際にその通りでした。子どもが熱を出して私が仕事を休んでも、誰ひとり不機嫌な顔をしなかったんです。それどころか、『明日も、無理しなくていいよ』とみなさんが言ってくださいました。とても嬉しかったですね」(村瀬)
「ダスキン国分寺支店」の福田すず江も、「武蔵野は、子どもがいる主婦には働きやすい」と評価しています。「今から8年くらい前ですね、入社したばかりのとき、上司に『携帯電話はOKですか?仕事中に子どもから電話がかかってきても大丈夫ですか?』と質問をしたことがあります。
小学3年生の子どもに、『学校から帰ってきたときに私がいなかったら、自分で鍵を開けて入りなさい。そして〝帰ってきた〟と私の携帯に電話を入れなさい』と言っておきたかったんです。
すると上司は、『大丈夫です。かまいませんよ』と。職場と家も近かったので、子どもが夏休みのときは、私もお昼休みに家に帰っていました。
安否確認じゃないですけど、『何していた?』みたいな(笑)。職場にいても子どもと連絡が取れるのは、とてもありがたいですね」(福田)
パートは、「一緒に夢を実現するパートナー」
わが社の幹部社員は、毎朝駅でタクシーを拾い、持ち回りで私を迎えにきます(当番制)。自宅から会社までの所要時間は、約30分。この時間は、私にとって欠かせない情報収集の時間です。
幹部は会社に到着するまで、①「部下の情報」、②「お客様の情報」、③「ライバルの情報」の3つを、「固有名詞を入れて」私に報告する決まりです。
「部下の情報」の中には、パートも含まれていて、報告は、家族、育児、住居、恋愛、人間関係など、プライベートにまで及びます。
悩みを抱えているパートには、私が直接アドバイスを送ることもあります。悩みを抱えたまま、いい仕事をすることはできません。
以前、不登校の娘さんを持つ「ホームインステッド事業部」の金本裕美に、「こうしてはどうか」とアドバイスをしたことがあります。すると、娘さんは学校に通うようになり、成績も上がって、自信を取り戻すことができました。
娘さんが、私の本の読者だったので、『小山昇の超速仕事術』(PHPビジネス新書)に「『いつかいつかと思うなら今』小山昇」とサインを入れて差し上げたところ、金本から、お礼のボイスメール(音声版のe-mail)が届きました。
ボイスメールには、次のようなメッセージが吹き込まれていました。「『娘が学校に行くのを嫌がっている』という話を耳にされた小山さんより、直接アドバイスを頂戴し、ありがとうございました。一パートの私の家族にまで思いを寄せていただいたこと、本当に嬉しく思いました。
そのうえ、『記念に』と、サインの入った本までいただき、以前から小山さんの本を読んでいた娘は、とても感激しておりました。娘は、武蔵野に対して、そして、小山さんに対して、とても魅力を感じているようです。私も、同じ思いです。
小山さんの思いを心に留めて、『少しでも恩返しができたら』と考えています。このたびは、本当にありがとうございました」多くの社長は、パートを社員より下だと思っているから、関心を持とうとしません。中
には、パートの名前すら知らない社長もいます。武蔵野が小さな組織だった頃、私は、全社員(正社員)の氏名はもちろん、誕生日、配偶者の名前、結婚記念日などをそらんじていました。
要所でお祝いのメッセージを送ったり、勉強会や社内レクリエーション、飲み会などを積極的に催したりして、泥臭く人間関係を構築しました。
パートは人数が多いため、さすがにすべての情報を覚えているわけではありませんが、それでもできるかぎり、関心を持って接しています。なぜなら、わが社にとってパートは、「一緒に夢を実現するパートナー」だからです。
私が武蔵野の社長になったとき(1989年)、武蔵野の売上は「7億円」でした。現在、売上は「60億円」で経常利益「7億円」を超えました。高い目標を達成することができたのは、パートのみなさんが、私と一緒に夢を追いかけてくれた結果です。
パートと社員の区別をなくしなさい
パートにも、社員と同じレベルの仕事を与える
武蔵野は、パートも、社員と同じ仕事内容(仕事のレベル)を要求しています。正社員でも、パートでも、アルバイトでも、お客様から見れば、同じ「武蔵野のスタッフ」で、パートだからといって手を抜いてもいいわけではありません。
レストランでパートのホールスタッフにハンバーグを注文して、運ばれてきたハンバーグが、「パートだから」という理由で半分しかなかったら、お客様は文句を言うでしょう。
誰がつくっても、誰が運んできても、同じ大きさのハンバーグでなければお客様は当然怒ります。それと同じです。ところがパートの中には、「社員よりも給与は少ないのに、同じ仕事をするのはおかしい」と文句を言う人が出てきます。
そんなとき私は、「雇用形態に不満があるのなら、社員になってください」とお願いします。すると、ひとりの例外もなく「すみませんでした」と発言を取り消します。正社員になれば、仕事の拘束時間が長くなり、自分都合の休みが取りにくくなります。
また、賞与の評価は「相対評価」で(パートは絶対評価)、評価結果に順位がつきます。早朝勉強会などのイベントに積極的に参加をしないと、高い評価をもらうことができないため、育児と仕事の両立が難しい。
したがって「パートのまま」でいたほうが働き勝手がいいわけです。武蔵野の男性パート、「クリーンサービス立川センター」の宮崎敏弘は、一般家庭向けホームサービスの新規開拓業務を担当しています。
セールス部門の「成績優秀者」に「6度」も選ばれた、非常に優秀なパートです。週5日(あるいは6日)、9時から18時まで、フルタイムで働いてくれています。
宮崎のモチベーションを支える要因は、大きく2つあります。「従業員教育」と「雇用契約にとらわれない平等性」です。「武蔵野は、成長意欲を満たしてくれる会社です。
パートも、社員と同じように『勉強する機会』をたくさん提供してくれるので、61歳になった今でも、自分の知識やスキルが成長していくことを実感できるんです。
セールスマンとしての能力を磨いていけることに、大きなモチベーションを感じています。普通の会社なら、パートと社員の間には一線を引かれると思うのですが、武蔵野にはそれがありません。
『パートと社員の違いは、雇用形態だけ』です。セールスは歩合給ですから、成果次第では高収入も可能です。分け隔てなく力を発揮できる環境が武蔵野にはあると思います」(宮崎)
パート戦力化の鍵は、社員とパートを差別しないこと
「日昭工業株式会社」(東京都/久保寛一社長)は、特注トランス(電力を変換する機器)、半導体製造装置などの設計から製造までを行う電源機器開発メーカーです。
久保社長は、パート戦力化のファーストステップとして、「社員とパートを公平に扱うこと」を重視しています。
「パートは、『知らない』ことに対して不公平感を抱きやすいので、パートにも経営計画書を渡して、会社のルールや方針、数字を明確にしています。
経営計画書には、『どうすれば給与や賞与が上がるのか』が明記されていますから、評価に対する不満もありません」(久保社長)
久保社長は、社員であれパートであれ、隔たりなく情報をオープンにしています。パートは、「会社が今、銀行からいくら借入をしているのか」まで知っているそうです。
「先日、信金の支店長がお見えになったとき、私がパートさんのひとりに、『うちには、いくら借金があるんだっけ?』と聞いたら、『○億円です!』とビタッと答えたんです(笑)。
支店長は、『現場で製造作業をしているパートさんが、会社の借金を知っているんですか?』とビックリしていました。
また、私が『今度、銀行さんが来るから、みんな、挨拶頼むよ』と言ったら、『また借りるんですか?(笑)』と茶化されたこともありましたね」(久保社長)「株式会社エネチタ」(愛知県/後藤康之社長)は、エネルギー(サービスステーション
運営、LPガス販売など)や不動産仲介、リフォーム、フードサービス業(餃子の王将)などを展開しています。事業の拡大とともにパートの数も増え、現在、パートは200名。
6~7割が女性で、主に、飲食とサービスステーションで活躍しています。後藤社長は、「パート戦力化の鍵は、社員とパートを差別しないこと」だと考えています。
「経営計画書に、『お客様から見たら、パートと社員の差別はない』と書いておきながら、実際は私自身が、『パートと社員を差別していた』事実に気がついたんです。
『パートは面倒なことはやりたがらない』とか、『パートは教育を受けたがらない』と、先入観で決めつけていました。でも実は、パートさんの中にも、『もっと会社に協力したい』『社員の手助けをしたい』と考えている人がいるんですね。
あるパートさんが、私にこんなことを言いました。『会社がどんどん変わっていくから、店長も困っていると思う。店長を手伝いたいのだけれど、会社が何を変えようとして、どういう方向に進むのか、パートの多くがわかっていない。だから、何をどう手伝ってあげたらいいのか悩んでいる』。
私はこの言葉を聞いて、『そうだったのか。私がパートと社員を差別していたんだ』と気がつきました。それ以降、パートさんにも社員と同じ教育を受けてもらったり、ミーティングにも参加してもらっています。
人事評価のしくみも、社員と同じにしています。経営計画書も、今までは、社員用は黒いカバーが付いていて、パート用はカバーがありませんでしたが、パート用にも黒いカバーを付けました。細かいことですが『社員もパートも一緒である』という私の意思表示です」(後藤社長)
後藤社長は、「社長とパートの距離が近くなったことで、パートが力を発揮するようになった」と感じています。「お恥ずかしい話ですが、パートさんが私を見て『誰、この人?』という顔をしたことがあったんです(笑)。
無理もありません。以前の私は、地元の異業種交流会にしょっちゅう参加していましたし、『健康のためだから』と言い訳して、トライアスロンやゴルフばかりやって、会社をほったらかしていたんですから(笑)。
ですが今はまったく違います。パートさんとの距離が本当に近くなって、コミュニケーションが良くなりましたね」(後藤社長)
パートの資質を見極められないと、戦力を無駄にする
「美樹観光株式会社」(千葉県/浅川剛司社長)は、不動産事業、温浴事業を主体とした
事業を展開しています。従業員50名のうち、35名がパート・アルバイトで、温浴事業(石と光の楽園みきの湯)の受付、清掃、備品管理などに関わっています。
「美樹観光」では、各従業員の労働条件に配慮した「準社員」という雇用形態を採用し、実力のあるパートを戦力化しています。「現在、準社員は2名いて、この2名には役職を与えています。
いずれも主婦なので正社員と同じ勤務体系(勤務時間)では働くことができないが、限定された時間の中で、正社員と同じか、それ以上の実力を発揮してくれています。正社員Aと準社員Bに同じ仕事を与えたときに、『準社員Bのほうが仕事が速い』ということはよくある。つまり、正社員だからパートよりも優れているわけではないし、パートだから正社員よりも劣っているわけでもない、ということです」(浅川社長)
浅川社長は、「会社がパートの能力を発掘できていないことが、パートの戦力化を遅らせる要因になっている」と分析をしています。
「一般的に、雇用形態には、正社員、契約社員、準社員、アルバイト・パートなどがありますが、私をはじめ、多くの会社の社長が『アルバイト・パートの仕事はここまでだろう』と決めつけている気がします。
パートが力を発揮できないとしたら、それは、パートが正社員よりも劣っているからではなくて、会社側が、パート一人ひとりの能力や資質を見極めていないからかもしれません。
人には、得意、不得意があります。対面接客が得意な人もいれば、人がやりたがらない汚れ仕事を進んでやる人もいます。パートを戦力化するには、正社員だから、パートだからと差別をしないで、『その人は何が得意なのか』『どういうことをやりたいのか』をきちんと把握したうえで仕事を任せることが大切だと思います。
『パートだから、ここまでの仕事しかできない』『パートだから、ここまでの仕事をしてもらえれば十分』と決めずに、パートの能力、資質、やる気を見極めながら仕事を与えたほうが、戦力化できるのではないでしょうか」(浅川社長)
会社は、もうひとつの「家族」である
「まるか食品株式会社」(広島県/川原一展社長)は、スルメフライを主体に、海産珍味やスナック類の製造販売をする会社です。
「イカ天瀬戸内れもん味」は、「日経トレンディ2015今年のヒット商品ご当地ヒット大賞」を受賞しています。「まるか食品」の総従業員数は、106名。うち、58名がパートです。
川原社長は、「会社は家族である」と考えて、社員とパートを分け隔てなくフラットに見ています。「当社では、創業以来ずっと、女性を戦力とみなしています。時給社員がいないと成り立たないため、8時間のフルタイムパートも『社員』と呼んでいました。
基本的には、社員とパートに仕事内容の差はありません。給与のしくみ以外でパートと社員の区別はなく、パートにも、社員旅行や経営計画発表会に参加してもらっています。
以前、パートの声を拾ってみたところ、『気軽にいつでも休めるので、働きやすいです』という意見が出ました。気軽に休んでもらっては困るのですが(笑)、賞与もあるし、退職金もあるし、時間も自由だし、雇用契約はパートといえども手厚いので、働きやすい環境だと思います。
入社して3週間続けば、その人は辞めません。ですから、当社はベテランのパートさんが多く、20年以上働いてくれている方が15名います」(川原社長)
パートに、若手社員を「子ども扱い」していただく
「株式会社関通」(大阪府/達城久裕社長)は、配送センター代行業務を中心とした物流サービス・システムを提供する会社です。従業員は約540名。そのうち350名がパートです。パートの9割、そして社員の7割が女性です。
「関通」の社員の平均年齢は、約28歳。一方、パートさんの年齢層でもっとも多いのは、30代後半から40代後半です。
達城社長は、パートさんに、「社員をあなたたちの子どもだと思って扱ってください」とお願いしています。「パートさんに、『社員のほうが偉い』という思いを抱かせてはダメなんです。
『社員だから偉い』という風潮があると、面倒くさいだけです(笑)。パートさんの都合を優先して『パート』という有期雇用契約(期間の定めのある労働契約)を結んでいるだけであって、お客様から見たら、社員もパートさんも、何も変わりません。
大切なのは、お客様がどう見ているかです。だから当社には、パート部長、パート課長もいます。もうじき、パートさんから役員も誕生する予定です。
「関通」は、全国に14拠点ありますが、東大阪の通販物流センターは、女性パートだけで運営しています。社員はいません。パートだけで回せるのは、パートさんの意識の中に、『パートだから、社員だから』と区別する気持ちがないからです。
『お客様の役に立つにはどうしたら良いのか』を最優先にして仕事をすれば、雇用契約がどうであろうと関係ないんですね。『社員はなぜ偉いのですか』と聞かれたら、どう答えますか?契約書が違うだけですよね。だから、パートでも月給にしていますよ、当社は。『もう月給でいい、あなたは』って(笑)」(達城社長)
歩のない将棋は負け将棋
多くの社長は、建前として、「パートにも主体的、自発的に仕事をしてもらいたい」と言います。しかし、そういう社長に限って、パートを「駒」のように扱っています。
将棋の駒なら、パートを「歩」と見なしている。「歩」は将棋の中でいちばん身分の低い駒です。だから、戦力化する必要はないと思っています。ですが、私は違います。
「歩」を「捨て駒」として使うことはありません。たしかに「歩」は最弱の駒ですが、それでも相手陣地に入ったときは、金に「成る」。呼び方は「と金」に変わり、香車や桂馬よりも強くなります。
「歩のない将棋は負け将棋」という格言があるように、「歩」は、攻防ともになくてはならない必要な存在です。
新人社員が太刀打ちできないほどの実力がパートにあるのは、パートを戦力として大切に接して、手厚い教育を施し、「歩」を「と金」にしているからです。
第1章優秀なパートを育てたいなら「会社のルール」を教えなさい
「理解」させればパートは最大の協力者になる
「会社のルール」を教えることが戦力化の第一歩
パートを戦力化できない理由のひとつは、「会社の方針・ルール」を教えていないからです。パートも「知らないこと」「知らされていないこと」があると、不満を募らせます。
パートが頑張れるのは、「方針やルールが明確になっている」ことが前提です。私たちが野球を観て楽しめるのは、ルールがわかっているからです。
もし、基本的なルールや用語を知らなかったら、どうして得点が入ったのかがわかりません。ゲームが進んでいくのをただ眺めているだけで終わります。
ルールもスコアもわからない状態では、「頑張らないパート」がまともです。「0対0だから頑張るのか」「1対0で勝っているから頑張るのか」「0対1で負けているから頑張るのか」がはっきりしていなければ、頑張りようがありません。
ですが、会社の方針、業績、目標をきちんと説明すれば、パートは、会社にとって最大の協力者になります。女性(武蔵野の場合、パートの9割以上が女性、しかも主婦です)は男性よりも責任感が強く、「ルールを守りながら成果を上げる能力」に秀でているからです。
パートの文句は、向上心のあらわれ
パートが口にする文句には、「2種類」あります。ひとつは「後ろ向きの文句」。もうひとつは、「会社を改善してほしい」の前向きな文句です。
「後ろ向きの文句」を言う人は、文句を言われる立場を体験させると、文句を言わなくなります。以前、内勤のパートのひとりが、「外回りの担当者は、サボってばかり」と文句を言うから、ダスキンのレンタル(配達)に「1日現場同行」をさせたことがあります。
すると、お客様のところに走って配達するため、ヘトヘトになって、文句を言わなくなりました。反対に、外回りの担当者が、「内勤の人は、いつもエアコンが効いているところで仕事ができて、うらやましい」と文句を言ったときは、コールセンターで1日中電話を取らせた。
ひっきりなしにかかってくる電話の応対が終わったとき、「2度とゴメンだ」と前言撤回しました。文句を言うのは「体験がないから」です。
体験をさせると「隣の芝は、青くなかった」ことが身にしみて、文句を言わなくなります。自分の立場だけで後ろ向きの文句を言っていた人も、文句を言われる立場を経験すれば、周囲のことを考えるようになります。
一方、「会社を改善してほしい」という前向きな文句は、向上心のあらわれです。向上心のない人は、「ここを直したほうがいい」「あそこは良くない」といった文句を言ったりはしません。
ですから、前向きな文句は、見方を変えると、「今のやり方よりも、こういうやり方のほうがいいのではないか」という、パートからの改善提案として受け止めることができます。
会社改善のための前向きな文句を言われたときは、「だったら、あなたに改善してほしい」と言うことが大切です。私が社長になった当初、武蔵野のナンバー2は、創業者・藤本寅雄の奥さんの妹、多田博子でした。新人パートが入ったとき、多田が、「今度入ってきた佐々木さんは、『こうしたほうがいい』『この部分を変えたほうがいい』と文句ばかり言う」と嘆くので、私は、佐々木を管理部門のチーフにしました。
「文句を言うのは、それだけ問題意識を持って仕事をしている証拠だ」と判断したからです。その後、佐々木は水を得た魚のように業務改善に取り組み、結果を出した。多田の退任後はコールセンター事務管理の部長に抜擢し、「パート部長」として力を発揮してくれました(現在は退職)。
ご主人の扶養から外れないことが彼女の条件だったので、「昼間に要所だけ出社して、仕事をして帰宅する」という生活を送っていました。月収が10万円に満たないパートが、その数倍の給料をもらっている課長ふたりを采配しました。
佐々木の薫陶を受けたのは滝澤美佳子(現部長)です。多くの社長は、「文句を言ってくるパートは、うっとうしい」と決めつけ、話も聞かずに上から抑えつけます。だから、問題意識を持っているパート(優秀なパート)を戦力化できません。
パートが会社を辞める「3つ」の理由
従業員(社員、パート、アルバイト)が会社を辞める理由はいろいろありますが、大きく、次の「3つ」に分けることができます。①「仕事」が嫌で辞める②「上司」が嫌で辞める③「会社」が嫌で辞めるこの中で、辞めていく「パート」に多いのは、③「会社」が嫌で辞めるです。
「①『仕事』が嫌で辞める」は、人事異動を行うなどして、仕事の内容を変えることで、離職を防ぐことができます。
「②『上司』が嫌で辞める」は、上司とパートの間に、コミュニケーション不全が起きています。コミュニケーション不全は、多くの場合、上司に責任があります。面談やランチ会・飲み会のスケジュールを定例化するなど、社内の風通しを良くするしくみが必要です。
「③『会社』が嫌で辞める」のは、会社のしくみを教えていないからです。女性は、「会社のルールを知らない(知らされていない)」と不満を募らせ、離職率が高くなります。
ですから、「賞与の額はポイントによって決まる」「手当は給与時に支給する」「有給休暇はワークフローで決裁をあげる」といった会社のルールを明確にして、周知することが重要です。
女性は、何よりも不公平を嫌う
下世話な話で恐縮ですが、私は独身時代に、「歌舞伎町の夜の帝王」というあだ名がつくほど、キャバクラに精通していました(笑)。
私がキャバクラでモテたのは、どのキャストとも、平等に、公平に接したからです。モテない社長は、気に入ったキャストにだけチップを1万円渡し、他のキャストにはあげない。
だから、「ケチ社長」と陰口を叩かれます。私なら、1万円のチップをひとりにだけ渡すことはありません。「10人のキャストに1000円ずつ」渡します。歌舞伎町のキャバクラで私の悪口を言う女性がひとりもいないのは、私が、「えこひいき」をしなかったからです。
女性にものをあげるときは、どんなものでも、必ず全員平等にしなければいけません。女性が2人いたら、「目の前」で、「2人同時」に渡すことが大切です。女性が3人いるのに、どら焼きが2個しかなかったら、どちらにもあげないほうがいい。
もしくは、2個のどら焼きをそれぞれ半分に切って4等分にして、自分がひと切れ取って、残りを3人に分けるのが正しい(次の図参照)。
女性は、何よりも不公平を嫌います。一人ひとりに公平に接しないと、「あの人ばかりえこひいきして……」と不満を感じてやる気を失います。パート間の不公平をなくす努力が大切です。
どうして給料が下がったのに「嬉しい」と言えるのか
毎年安定的にパートの給与を上げていくと、「長年いるパートは仕事ができなくても給料が高く、新しいパートは能力が高くても給料が低くなる」ことがあります。
給料格差がわずかであれば不満は出ませんが、差があり過ぎると、不公平になります。「長くやっている」ことと、「能力がある」ことは別です。本当の公平とは、「チャンスは平等に与え、成績によって処遇の差をつける」ことです。
武蔵野は60歳以上のパートが多くいます。そこで、年齢や勤続年数による給料格差を是正するために、「エナジャイザー」(参照)という適性診断ツールを使って、「60歳以上で単純能力が50を下回る人」は給料を下げることにしました。
ただし、1年後の再診断で「50」を超えたときは、1年分遡って給料を払い戻す敗者復活制度を設けました。対象者13名のうち、「50」を超えたのは、ひとりだけでした。
そこで、13名全員を集めて「基準に達したのはひとりです。他の方は申し訳ありませんが、給料を規定の額に下げます」と説明しました。給料を下げられたのに、パートからは文句が出ませんでした。
それどころか、「全員の前で社長が言ってくれたことが、嬉しかった」という感想が寄せられたのです。個別に説明されると、「自分の能力が低かった」という事実を受け入れなければならず、プライドが傷つきます。
ですが、全員の前で説明されるのであれば、「給料が下がるのは、自分だけではない」ことがわかるし、プライドも傷つかない。だから、給料が下がっても「嬉しかった」と言えた。
ルールが明確になっていれば、差をつけてもいい
武蔵野はパートを公平に扱いますが、頑張ったパートと頑張らなかったパートの賞与額には差をつけます。差をつけても文句が出ないのは、「経営計画書」に、「賞与は、1年以上在籍のパート・アルバイトに上司が評価して、規定の比率で支給する。
賞与は全12ポイントによるポイント制とする」と明記してある(参照)からです。「えこひいき」はいけませんが、ルールが明確なら、差をつけても文句は出ません。
方針やルールを決めずに、場当たり的に差をつけるから「不公平だ」と文句が出ます。女性は、男性よりも、「守る能力」を持っています。母親が子どもを育てることに秀で
ているのも、守る能力が高いからです。また、男性は次から次へと新しい変化を求めますが、女性は違います。変化することよりも、「決められたことを、決められた通りに実行する」「最後まで、根気よく続ける」ことが得意です。
パートを戦力化できない理由のひとつは、会社にルールや方針がなく、行き当たりばったりの指示を出すことです。上司によって指示が違ったり、方針がその都度変わったりすることをパート(女性)は嫌がります。普通の会社は、社長と、専務と、部長と、課長と、係長の言うことが微妙に違うため、パートは「どれが正しいのか」がわからなくなって、迷います。
しかし武蔵野は、実行すべき方針や守るべきルールが「経営計画書」に書いてあるため、ブレがなく、安心して仕事をすることができます。繰り返しになりますが、スポーツや遊びにもルールがあるように、会社にもルールが必要です。
「決められたことを、決められた通りに実行したい」というパートにとって、ルールが「紙」に書かれていることは、とても大切です。ダスキン事業は、「同じサービスを同じお客様に繰り返し売る」ビジネスです。
武蔵野が優良企業になれたのは、パートが経営計画書で決められた方針に従って、同じ仕事を愚直に、誠実に、毎日繰り返した結果です。
【経営計画書】(うち、パート・アルバイト・契約社員に関する方針は次を参照)武蔵野のすべてを書き記したもの。経営理念、長期事業構想、社員教育、人事評価、採用、クレーム対応、資金運用、実行計画など、会社の方針と数字が明文化された手帳型のルールブックと、クルマの運転のしかた、タクシーの乗り方、道の覚え方に至るまで、具体的に明記した武蔵野手帳がある。
株式会社武蔵野経営計画書パート・アルバイト・契約社員に関する方針1.基本⑴雇用は期間指定する。期間は各部門で定める。①必ずパートの50%以上の賛同を得て採用する。②新人は入社1ヵ月以内に総務が主催するオリエンテーションに参加し、武蔵野を知る。受講させない上司は、反省文を提出する。③新人は入社後5日以内に上司と先輩3人で飲み会を開き、ギャップを埋める(ランチ可)。④自己都合の退職は、1ヵ月前までに上司へ報告をする。⑵給与・手当は、各事業部の基準により、部・課長の申請で上下する。⑶給与は、15日〆切・25日払い、とする。⑷賞与は、1年以上在籍のパート・アルバイトに上司が評価して、規定の比率で支給する。賞与は全12ポイントによるポイント制とする。1ポイントは、上限金額の10%(50,000円の時は1P5,000円)
⑸許可なく半期50時間以上残業した人は賞与を支給しない。①毎月5分以内でプロセス評価を行う。上司評価(4P)A評価……4PB評価……3PC評価……1P評価基準は部門毎に決定、絶対評価で良い。②環境整備(2P)……自部門の半期合計平均点116点以上………………2P111点~115点……1P110点以下………………0P※100点以下だと75%以下とする。③方針共有点(3P)社内行事に参加でポイント獲得バスウォッチング……1P早期勉強会ライブ……1P※バスウォッチング半日参加は0.5P、早朝勉強会ビデオは1回0.5P。半日の定義は、スタート(西荻窪から三鷹)から本社までと、本社から最後までとする。社内アセスメント参加……1Pサンクスカード毎月5枚以上……1P政策勉強会参加……1P
④エナジャイザー受診(上期)……1P⑤課題図書の感想文を提出(下期)……1P2.保険加入規定⑴社会保険(厚生年金、雇用、介護、健康保険)加入1日、又は1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、通常の社員のおおむね4分の3以上の人⑵雇用保険加入上記規定に満たない人で・所定労働時間が週20時間以上の人・6ヵ月以上雇用される人3.有給の申請⑴パート・アルバイトも有給残を給料明細でカウントする。⑵有給申請は必ずワークフローにて決裁をあげる。事後申請は2営業日までに行う。4.手当政策勉強会………………3時間×最低賃金オリエンテーション……3時間×最低賃金バスウォッチング………時間×最低賃金アセスメント……………時間×最低賃金
給与時に手当として支給する。交通費は別途支給する。5.社内不倫社内不倫は懲戒処分。6.その他どんなことでもわからないことは、すぐに上司に相談する(場合によっては、上司を飛び越えて相談しても良い。後でフィードバックする)。
女性は、仕事を正確にする能力が高い
「有限会社そのべ」(福島県/園部幸平社長)は、福島県内で飲食店(「幸世庵」「茅の器」)を経営しています。従業員40名のうち、30名がパートです。
園部幸平社長は、「男性よりも女性のほうが、作業が細かい」と感じています。「レシピさえしっかり決まっていれば、女性は、『これを何グラム、これを何グラム使って……』と、レシピ通りに仕事をします。
それに、時間も正確です。『この時間までに、これを30個用意してほしい』とお願いをすれば、きっちり仕上げます。一方で男性は、大雑把なところがありますね(笑)。
ですから、男性と女性に同じことをやらせたら、間違いなく女性のほうが優秀です。でも、女性は、『冒険すること』が苦手かもしれません。
『工夫してみて』とか『どうすれば味が良くなるか考えてみて』とお願いすると、悩むところがあります。当社の場合ですと、『冒険が得意なのは男性、確実に仕事をするのは女性』といった感じですね」(園部社長)
「株式会社ロジックスサービス」(宮城県/菊池正則社長)は、東北6県において、構内物流事業、ビジネス業務委託事業などのアウトソーシングサービスを行っています。従業員170名中、パートは70名です。菊池正則社長も、「女性は、方針を守ろうとする力が高い」と感じてます。
「パート課長の横山靖子さんは、会社に対する不満が部下から上がると、こう言って、みんなを納得させている。『経営計画書に社長が書いているのだから、しょうがないでしょ。他の会社とは違うかもしれないけれど、ロジックスサービスはこのルールでやるしかないのだから、みんなで協力して』。女性は、男性よりも、決められたことを決められた通りに実行する力があると感じます」(菊池社長)
会社の方針を「共有」、そして「実行」させる!
経営計画書を全従業員が共有し、絆を深める
「株式会社アムズプロジェクト」(茨城県/平沼正浩社長)は、パチンコホール「AMZ」、フィットネスクラブ「ヴィスポ」、ラーメン店「正元」、リラクゼーションサロン「ジャスミン」など、さまざまな店舗を展開しています。
2011年ごろからパートの戦力化に注力した平沼社長も、経営計画書の方針をパートに周知させる重要性を実感しています(「アムズプロジェクト」では、パートではなくアルバイトとして雇用)。
「以前は、会社側が社員とアルバイトの間に垣根をつくっていたので、『アルバイトは、決まった時間に出社して、限られた時間の中で、最低限の作業をしてもらえばいい』と考えていたんです。
だから経営計画書の方針は、社員だけが実行すればいいものであって、アルバイトには適用していませんでした。でも、『社員はやるけれども、アルバイトはやらなくていい』では、統率が取れないことがわかりました。
そこで現在は、アルバイトの底上げのために、垣根を取り払っています。社員もアルバイトも関係なく、すべての従業員を『家族』とみなし、方針の徹底を図っています。社員もアルバイトも関係なく、従業員一人ひとりが会社と思いを共有することが大切ですね」(平沼社長)「アムズプロジェクト」では、「朝の挨拶は1対1で、全員と握手」が基本です。
経営計画発表会など、100人単位で人が集まるときは、握手をするだけで、10分以上かかることもあります。平沼社長が「1対1の握手」にこだわるのは、「社員もアルバイトも分け隔てなく家族であり、一人ひとりを平等に、大切に扱いたい」思いからです。
新人パートは入社1ヵ月以内にオリエンテーションに参加させる
パートには入社前に、武蔵野のルールについてきちんと説明をします。そのため、入社後に「そんなことは聞いていなかった」という不満が出ません。
「政策勉強会に出る」「入社後5日以内に、上司と先輩と飲み会(ランチ会)を開かないといけない」「ホームページに写真が掲載される」とわが社の決まりを事前に説明し、「こういうことができないと、採用しません」と、はっきり伝えています。
わが社のパートは、「武蔵野はこういう会社だ」と承知のうえで入社するので、入社前と入社後とのギャップが少ない。だから辞めません。また、中途社員、パートを問わず、入社後には、「オリエンテーション」を受けてもらいます(「3時間×最低賃金」の手当を支給)。
オリエンテーションで教えるのは、武蔵野の歴史、武蔵野の取り組み、武蔵野のルールについてです。経営計画書の「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」には、「新人は入社1ヵ月以内に総務が主催するオリエンテーションに参加し、武蔵野を知る。受講させない上司は、反省文を提出する」と明記されていて、参加を義務付けています。
わが社は、「努力文2枚で反省文。反省文2枚で始末書。始末書2枚で賞与半額」に繰り上がる決まりで、上司は、「賞与が半分になるのは困る」という不純な動機で、パートをオリエンテーションに参加させます。オリエンテーションは、入社時だけなく、「誕生日月」も参加を求めます。地位や社歴にかかわらず、年に一度は必ず出席が決まりです。
オリエンテーションに参加することで、仕事の基本である挨拶や返事などをあらためて振り返ると同時に、会社の方針を再確認することができます。
「ノアインドアステージ株式会社」(兵庫県/大西雅之社長)は、全国25校とタイ(バンコク)に、生徒総数3万人以上を有する国内最大級のテニススクールです。
大西社長は、『社長!すべての利益を社員教育に使いなさい』(あさ出版)を出版するなど、社員教育に力を入れている社長としても知られています。大西社長は「早い段階で、会社の方針、価値観、理念を浸透させることがパートの戦力化につながる」と考えてます。
「スキルや仕事のやり方よりも先に、ノアイズム(『ノアインドアステージ』の考え方)やチームワークを教えることが大切と思ってます。それをしないですぐに現場に送り込むと、仕事に心がこもりません。
掃除ひとつとっても、運営方針やノアイズムを理解してから取り組めば、それは接客に変わります。けれど、何もわからないまま手を動かすだけでは、それは作業にしかなりません。
作業が続くと、パートは『自分は、使われている駒にすぎない』と感じて、モチベーションを下げます。ですから、採用面接のときも、入社後のオリエンテーションのときも、ノアの考えをしっかり説明しています」(大西社長)パートから正社員となり、現在、フロント業務を統括する「ノアインドアステージ」の責任者、小坂隆子さんも、オリエンテーションの大切さを強調します。
「私がオリエンテーションを担当するときは、理念の説明のあとで、『でも実は、すべての社員が理念を体現できているとは言い切れません。社員もまだ頑張っている途中です』と、正直に話しています。
そして、理念がうまく体現できていない事業所には『だからこそ、新人のみなさんの力が必要です。ある事業所では新人のみなさんがノアイズムを理解し、実践した結果、先輩社員が感化されてすごくいい雰囲気に変わった事例があります。
だから、変えるのはみなさんの力です。みなさんを採用したのは、事業所を変える力を持った人財だと思ったからです』と説明しています。
最初のオリエンテーションで、正直に現状を伝える。そして、『力を貸してください』と期待を込める。そうすることで、パートさんの目的意識も変わる気がします」(小坂さん)
パートに自部門の実行計画を立てさせる
わが社のパートは、積極的に経営に参画します。自社を良くする情報をもっともたくさん持っているのは、パートやアルバイトです。現場でじかにお客様と接しているので、お客様が何を思い、何を望み、どういうご要望を持っているかを肌で知っています。
真実は現場にしかないから、パートの声を拾い上げなくては、業務改善は実現しません。年2回(半期に1度)開催する「社内アセスメント」にパートが自主的に参加し、2017年4月は427名(うち社員220名)参加と過去最高人数になりました(パートが作成した実行計画の一例は、次の図を参照)。パートが積極的に改善提案をしてくれるのは、「自分がこの会社の一翼を担っている」という自覚と自負があるからです。
【社内アセスメント】「経営計画書」の方針を実現するために、各部門が上期・下期の実行計画(具体的な施策)をつくる。実行計画の作成には、全社員とアルバイト・パートも参加する。部門ごとに半年間を振り返り、実行してきた施策の中で、「成果が出たもの」「成果が出なかったもの」を検証する。成果が出たものは継続し、成果が出なかったものは新たな施策に変更する。
多数決で決めさせてはいけない
社内アセスメントでは、次のような流れで実行計画の作成をします。
1リーダーを決める
2メンバー一人ひとりに「付箋紙」を配る
3問題点や課題を各自が自由に書き出す
4付箋紙を模造紙に貼る。同じ意見は統合し、違う意見は残す
5チーム全員で「どのアイデアがいちばん良いか」を決定
6「目的」「重点方針」「目標」などを決め、実行計画策定する
7他部門に「このように業務改善をする」
と発表付箋紙を使っているのは、「現場の事実を拾い上げる」ためです。話し合いだけで終わらせると、職責上位者や、声の大きな人の意見が通ってしまい、「お客様と接している現場(パート)」の意見が上がってきません。
また、議論は形が見えませんが、付箋紙で貼り出せば目に見えるため、解決すべき問題点が明確になります。多数決はせず、合意で決めます。多数決だと少数派が納得しないので、本気で取り組みません。そこで、時間はかかっても全員が納得するまで話し合って決めています。
社内アセスメントへの参加は、賞与のポイントに連動します。不参加は、ポイントがもらえないので、賞与額が下がります。また、社内アセスメントに参加したパートには「時間×最低賃金」の手当を支給します。
自分たちで計画をつくるから、仕事が楽しくなる
社内アセスメントに臨む前の準備として、部門ごとに「プレアセスメント」を行ってます。事前に、「前期の振り返り」「現在のボトルネック部分の洗い出し」「新規の改善提案」などをまとめておく。プレアセスメントを行うと、社内アセスメント当日には参加できないパート・アルバイトも、話し合いに参加できます。
以前、あるパートが私に、「どうして私たちがプレアセスメントに参加しなければいけないのか」と嚙みついてきたので、私は、「じゃあ、出なくていいです」と言って、新卒の女性社員に実行計画をつくらせました。すると今度は、「仕事がわかっていない新卒社員が決めた計画に、どうして私たちが従わなければいけないのか」と文句を言い出した。
結局、「パートのほうが現場を知っているし、実務能力もあるから、自分たちで計画をつくりたい」と考えをあらため、彼女は社
内アセスメントに参加するようになったのです。パートが文句を言うのは、「嫌だから」というより、「知らないから」です。便利なことや嬉しいことを体験すると、文句を言わなくなります。
文句を言うことと、やりたくないことは違います。パートが社内アセスメントやプレアセスメントに参加するのは、「自分の意見が経営に反映されるのは、嬉しいことである」とわかっているからです。
多くの会社は、パートに権限を与えないので、現場からの改善提案が上がりません。しかし私は、「実務能力に社員と差がないなら、パートも経営に参加させるべき」の方針です。
人は、無意味な仕事を強制されると苦痛に感じます。ですが、「自分たちでつくった計画を自分たちで実行する」ことになれば、モチベーションが上がって、仕事が楽しくなります。
なぜ武蔵野のパートはハイレベルな提案ができる?
常務、滝石洋子を驚かせた提案とは?
ひとりのパートが、社内アセスメントの場で、常務取締役の滝石洋子にこんな提案をしたそうです。
「滝石さん、コールセンターの人件費はいくらかかっていますか?◯◯◯万円ですね。では、その金額は変えませんから、みんなの働く時間を変えてもいいですか?忙しくなる時間帯には人を多めにして、そうでない時間帯には人を少なくしたほうが効率が良くなると思うんです。お客様もお待たせしませんし」滝石は、パートから上がってきた改善提案のレベルの高さに驚いたと言います。
「今よりもパートの戦力化が進んでいなかったときのことです。パートさんを集めて、『会社を良くするにはどうしてほしいですか?』と聞いたことあります。
すると、彼女たちから、こんな提案が上がってきました。『事務所に傘立てがなくて、傘の置き場に困るから、傘立てをつくってほしい』。私は、『なるほど。私も気がつかなかった』と同意したものの、内心は、『え?それのどこか改善なの?そんな簡単なことでいいの?』とレベルの低さに驚きました(笑)。
そんな彼女たちが『人件費を踏まえながら、自分たちでシフトを組みたい』と言ってきたんです。本当に嬉しいですね。改善提案の質が上がったのは、会社の方針や価値観を理解し、自覚を持ってくれたおかげだと思います」(滝石)
「メリーメイド小金井支店」が、「売上全国第1位」を達成した理由
「ダスキンケア事業部メリーメイド小金井支店」は、2015年・2016年の「売上全国第1位」を達成しています(メリーメイドは、ダスキンとアメリカのメリーメイド社との提携により誕生した家事代行サービス)。
「売上全国第1位」を達成した大きな要因は、パートの「提案力」の高さにあります。提案力には、2つの意味があります。ひとつは、「お客様への商品提案力」です。売上全国第1位に貢献したパート、南聖愛は、「目標が遠くにあっても、できることを最後までやる姿勢が結果につながる」ことを実感しています。
「12月に入って、今年も残り1ヵ月もないというのに、目標とする売上よりも200万円足りなかった。『足りないよね、足りないよね。無理だよね』と言いながらも、『でも、何かできることがあるはずだから、やってみよう』と、みんなの意識は同じ方向に向いていました。結果的に『あれよ、あれよ』という間に達成した感じです。
店長の尾崎未佳(事業部最年少)が、『断られてもいいから、お客様にどんどん提案してみよう』と声をかけたので、私たちも、無理を承知でお客様に提案をしたんです。『こういうところが汚れているので、今日は、こちらのお掃除もいかがですか?』。
金額は安くありませんから、『お客様に、これ以上負担をかけていいのかしら』と最初は躊躇もしましたが、提案してみると、『そうね、実はあそこの汚れが気になっていたのよね』と言って、喜んでくださった。もちろん、私たちもコミッション(成果報酬)をいただけるから(笑)、みんな必死に提案しましたね」(南)もうひとつの提案力は、「業務改善に対する提案力」です。南は、「実行計画を自分たちの手でつくることで、パート同士の価値観を共有できる」と話しています。「私は入社16年目ですが、武蔵野のことを本当に理解できるようになるまで、7、8年はかかったと思います。『実行計画』をつくるときも、それまではあまり参加しないで、上の人がつくった計画を実行するだけでした。ですが今は違いますね。パートの中に『みんなでつくろう』という意識があって、みんなが同じ方向を向いて、同じ価値観を持って仕事をすることができています。以前の私たちは、『何か新しいことをしないといけない。何をすればいいのだろう?』と悩んでいました。ですが小山さんから、『成果が出ているものをもっとやって、成果が出ていないものはやらない』と教えていただいて、迷いがなくなりました。社内アセスメント(参照)の参加率もとても高いですね。支店のみんなで話し合い、その場で考えを共有できるので、ブレずに仕事ができるようになったと思います」(南)
個人の売上目標を明確にして、やる気をうながす
「売上全国第1位」を達成した「メリーメイド小金井支店」の店長、尾崎未佳が取り組んでいるのが、「営業ができる女性組織づくり」です。尾崎は54期経営計画発表会で優秀社員賞を受賞し、入社6年で部長に昇進しました。「私が店長になってから取り組んだことは、支店内で個人の数字を競う『キャンペーン』を導入したことです。パートさんに『ひとり5万円』の売上目標を与えて、『2ヵ月間で目標を達成できるように、お客様にご提案する』といったキャンペーンをしています。目標を達成できたときは、個人表彰の他に(上位3位まで)、高級レストランで食事をしたり、屋形船を貸し切るなどして、みんなで楽しめるイベントを企画します。私が『キャンペーンをやろう』と言ったとき、反発する声もあったと思うんです。でも、私には届きませんでした。なぜなら、ベテランの南さんが率先して協力してくださったからです。長く働いているパートさんの信用を得ることができれば、その方が下に伝えてくれます。南さんのほうが、私よりもずっと上手にまわりを説得してくれました。個人に売上目標を与えるときは、キャリアや出勤日数、出勤時間を考慮して差をつけるようにしています。南さんが6万円なら、新人さんや出勤数が少ない人は2万円にするなど、目標値を『頑張れば達成できる数字』にしています。具体的には、パートさんの実績の120%くらいの数字です。それと、仮に3人で現場に出て、その中のひとりが提案した場合は、3人全員にコミッションをつけて、3人で分けるようにします。すると、『この前はあの人にコミッションを分けてもらったから、今度は自分が取らないと』という気持ちになると思うんです。最初はみなさん、『キャンペーンなんて無理~』と言いますが、目標に手が届きそうになったとたん、エンジンがさらにかかってきますね(笑)」(尾崎)また、尾崎はパートに「支店の数字」を公開し、協力を仰いでいます。数字を開示したほうがパートのやる気が出るからです。「昨年末(2016年12月)は、200万円マイナスだったので、『ヤバい、ヤバい』と言ってお願いをしたんです。蓋を開けてみたら、プラス110万円になっていて、日本一を達成できました」(尾崎)
社員からパートになった従業員から見た武蔵野の働き方
「ダスキン小金井支店」の加藤あゆみは、大学卒業後に正社員として武蔵野に入社しました。結婚後いったん会社を離れ、その後、パートとして復職しています。正社員だった期間を含めると、15年間、武蔵野で働いています。社員とパート、両方の立場を知る加藤にとって、武蔵野はどういう会社に映っているの
でしょうか。「私がパートになったのは9年ほど前ですが、その頃からパートに対する評価がさらに高くなった気がします。社員だった頃は、『パートは、与えられた仕事だけをする』のイメージが残っていましたが、実際に私自身がパートになってみると、社員もパートも同じように『プラスアルファ』を求められますし、やればやっただけ評価していただけます。パートになったばかりの頃は、正直、自分がどこまで、何をしていいのかがわからなかったんです。社員もパートもやる仕事は一緒だけれど、私の中で、『社員を立てないといけないのかな。自分は一歩引いて仕事をしないといけないのかな』と迷いがありました。滝石(常務取締役)に相談してみたら、『そういうのはまったく関係ない。自分からどんどん仕事を見つけてやりなさい。見てくれる人が絶対いるし、評価もしてくれる。だから、立場を気にせずに頑張りなさい』とアドバイスをいただきました。滝石に背中を押されてからは、まわりを気にしなくなりました。自分の手が空いている時間を使って営業の手伝いをしていたら、ありがたいことに、『縁の下の力持ち賞』をいただくことができたんです。武蔵野では、私だけではなくて、パートさんの多くが自発的に仕事をしていると思います。手が空いているときに環境整備をしている人もいますし、『何か仕事はありませんか?』と自分から声をかける人もいます。武蔵野は、『誰かの役に立ちたい』という思いを持っている人にとって、とてもやりがいのある職場だと思います」(加藤)本社「コールセンター」で社員として働いていた牛島絵里奈も、結婚を機に武蔵野を退社し、2015年1月からはパートとして働いています。「自分がパートになってはじめて、『武蔵野のパートさんは、ここまでやっているんだ』と、そのすごさがわかりました。社員でも大変なことを当たり前のようにやっているのですからね」(牛島)
社長の覚悟がなければパートの戦力化は成功しない
社長が変わればパートが変わり、会社が変わる
常務の滝石洋子は、「パートの戦力化が進んだいちばんの要因は、社長の小山(私)が変わったから」と言います。
「先代の社長は、元学校の先生で温和な人でしたが、小山は真反対。だから、正直、大嫌いだったんです、小山のことが。目立ちたがりのヤンキーな坊ちゃん、みたいな感じでしたから(笑)。ところが、です。社長になってからの小山は、どんどん、どんどん、変わっていきました。一生懸命仕事をして、鍛えられて、辛酸をなめて、頑張って乗り越えて……を繰り返すと、人は変わる。言動もそうですが、見た目も変わりました。長髪でチャラかったのに、社長らしく見えるようになってきたんです。小山が変わったことで、社員も、パートも変わった。そして、会社が変わった。武蔵野のパートのレベルが高いのは、小山自身のレベルが上がったからです」(滝石)「経営サポート業務管理部」の山路浪子と「商品管理」の工藤キノは、ともに勤続37年のベテランパートです。2人とも75歳ですが、iPadを使いこなし、若手と同じように勉強をしています。山路と工藤も、私の、そして武蔵野の変化を見続けてきました。「今はもうありませんが、入社後、10年くらい、コーヒーサービスの商品管理をやっていたんです(オフィスコーヒーサービス)。午前10時から午後4時までの約束だったのに、そのうち『朝9時に来てくれない?』と言われ、最後は『朝8時30分から夜8時までやってくれ」と……。コーヒーの仕事は、当時、『本当にブラックだ』と思いました(笑)。ところが今では、iPadを持たされたり、どんどん新しいしくみが入っていって、残業も少なくなって、会社も大きく変わりましたね。経営計画書に『パート・アルバイト・契約社員に関する方針』が明記されてからは、パートの価値観が揃うようになってきたので、パートの定着率も上がって、辞める人が少なくなったと思います」(山路)「小山さんはね、意外と、あたたかみがあるんですよ(笑)。小山さんも最初は家庭を持っていなかったけれど、結婚して、お子さんができてからは、以前よりも人にやさしくなった気がします(笑)。それに小山さんは、本当に何でも知っていて、物知り博士ですよね。誰よりも勉強している。だからその分、社員やパートにも勉強する機会を平等に与えてくれます。いくつになっても成長意欲を満たしてくれる会社ですね。iPadも、まだまだ完全に使いこなせているわけではありませんし、この年齢で覚えるのは大変ですけど(笑)、最低限のことはできるようになったと思います」(工藤)
パートがやる気を出さないのは、すべて「社長」の責任
「株式会社近森産業」(高知県/白木久弥子社長)は、食品製造と施設管理の会社として
業務を拡大しています。白木社長が役員に就任したのは、2013年。それまでは公認会計士として、東京の監査法人に勤務していました。「高知に戻って経営に携わったときは、東京の上場企業のような組織をつくろうと思ったんです。そうしたら、『東京のやり方を持ち込むな!』とパートさんから猛反発を食らいまして……。『東京から戻ってきた娘が、わけのわからないことを言っている』と、まったく相手にされなかったですね。パートさんは全然言うことを聞いてくれないし、陰で私の批判ばかりしているし、夜も寝つけず、社長になりたくないと思っていたときに、小山社長の本と出会った。『もう、この人に頼るしかない!』と思って期待に胸を膨らませて実践経営塾に申し込みましたが、あろうことか、経営塾の初日に、小山社長を怒らせてしまったんです。『お金を返すから、帰りなさい』って。その日はずっと涙目でした(笑)」(白木社長)私が白木社長を叱ったのは、社長としての覚悟が足りなかったからです。白木社長は、私との面談で、こう言いました。「私には、やりたいことがたくさんあります。公認会計士の仕事も続けたいし、母親にもなりたいし、でも、会社も継がないといけないし、私はいったい何からはじめればいいですか?」社長になるということは、従業員の生活を背負うということです。だから、大きな覚悟が必要です。「あれもやりたいし、これもやりたい」という中途半端な気持ちで務まるほど、簡単な仕事ではありません。「それまでの私には、『パートさんの生活を良くしよう』という発想も、責任感もありませんでした。ですが、小山社長に叱られて、目が覚めました。パートさんの生活を守るのは、社長になる私の責任です。パートのみなさんはさまざまな事情を抱えながら、一所懸命働いてくださっている。それに報いるのが、私の仕事です。そのことがわかってからは、私もへこたれなくなりました。私の言うことを聞いてくれない従業員を集めて、『みなさんに還元するためにも、うちの会社を良くしたいんです!そのためには常に考えて努力して、改善し続けないといけないんです!』と涙ながらに訴えたら、『やりましょう!』と言ってくれる人が増えてきました。最後は泣き落としですが(笑)、全員一緒に同じ方向を向けるようになった気がします。その後、これならやっていけると自信がつき、2016年に社長に就任しました」
(白木社長)
会社がいちばん苦しいときに賞与を払う
武蔵野の「ダスキン事業部第2支店」に勤務する荒井初江(74歳)は、勤続22年のベテランパートです。彼女は、「22年間で、会社の仕事が嫌だとか、人間関係が嫌だと思ったことは一度もない」と言います。「よく、『昔の小山社長は、今の何倍も怖かったんじゃありませんか?』と聞かれるのですが(笑)、私は怖いと思ったことが一度もないんです。怖いどころか、小山さんは、パートの生活を守ろうという気持ちが、誰よりも強かったと思いますね。世の中全体が不景気に見舞われて、どの会社も規模を縮小したり、賞与を出さなかったときでも、小山さんは、『会社がいちばん大変な時期だからこそ、パートに賞与を出す』と言ってくださいました。『どの会社も暗い雰囲気になっているから、うちの会社は賞与を出そうと思う。そうすれば、少しは気分も明るくなるよね』と。それは小山さんのやさしさであり、社長としての覚悟なのだと思います」(荒井)
あいまいな返事はせず「できる、できない」をはっきりさせる
パートから「こうしてほしい」という要望が出されたときは、「できる、できない」「良い、悪い」をはっきりと答えるべきです。多くの社長(上司)は、「『できない』と断ったら、辞められてしまうのではないか」と気にして、あいまいな返事でその場をしのぎます。ですが私は、できないものは「できない」と、みんなの前ではっきりと答えるようにしています。パートが辞めるのは、「できない」と自分の意見を否定されたからではありません。「自分の意見を汲み取ってもらえなかった」からです。上司が返事を濁したり、先送りしたり、いい加減な対応でやり過ごすと、女性は反発します。「汲み取る」と、「合意する」は違います。「汲み取る」は、「意見に耳を傾ける」ことです。パートの要望をきちんと受け止め、検討した結果として「できない」と言うのであれば、パートは辞めません。以前、内勤事務のパートを採用したときのことです。当初は事務だけのつもりでしたが、「お客様に電話をかける」という業務を増やすことにしました。するとパートは、「私たちの仕事は事務です。『電話をかける』とは言われていません。電話をかけるなら辞めます」と不満を口に出したのです。
私は、パートの要望を受け止めたうえで、はっきりと方針を伝えました。「今日から仕事内容を変えます。仕事が増えるので、時給も変えます。『どうしても電話をかけたくない』という方には退職金をお支払いするので、他の会社に移ってください」当時、パートは20名ほどいましたが、誰ひとり辞めませんでした。私が会社の方針を明言したから、彼女たちは納得してくれたのです。「株式会社関通」の達城社長も、「パートさんの意見を汲み取ることが大切」だと考えています。「全部マルを出さなくてもいい。ダメならダメと言ってあげることです。できないことに対しても、『こういう理由でできません』とはっきり言うことが大事です。ただ、会社は常に変化しているので、今は無理でも半年後はできる可能性があります。だから、『半年経ったらできるかもしれないから、そのときも同じ問題意識を持っていたら、もう一度言ってください』と伝えています。『何回も言ってくれ』と言っておくと、本当に何回も言ってくれますね(笑)」(達城社長)
パートの声を無視して、現場改善はできない
「株式会社低温」(奈良県/川村信幸社長)は、冷凍食品・冷蔵食品専門の物流会社です。約50名いるパート(女性は8割)は、冷凍食品の梱包作業、冷蔵食品の仕分け作業を行っています。川村社長は、「将来的に、パートの中から役職者や幹部を出したい」と考えています。その目的は2つあって、「社員の意識を変えること」と、「パートの自主性をうながすこと」です。「社員の中には、『パートやアルバイトは、社員の手足となって作業をするのが当たり前』『社員の立場はパートよりも上』と短絡的に考えてしまう人もいます。実際は、パートのほうが能力が高くても、そのことに気づかず、余計な指示を与えたり、自分の指示通りに動かそうとする。パートは現場をよく知っているから、『こうしたほうが職場は良くなる』と問題意識を持っています。けれど、上から目線の社員に気を遣ったり、発言を控えたりして、言われたことしかやらなくなってしまう。そこで、一部のパートに役職(パートリーダー)を与えました。役職を与えれば、パートはこれまで以上に責任感をもって仕事をします。自発的に活躍するパートを見れば、社員も『パートも社員も業務上の差はない』ことを理解できます」(川村社長)「株式会社ナビック」(東京都/那須直人社長)は、洋服のタグ(洋服に付いている下げ札)やプリントネームに特化した印刷会社です。那須社長も川村社長と同様に、「真実は現場にある」と考え、現場からの改善提案を進んで取り入れています。「優秀なパートさんは、生産性が高いだけではありません。私たちでは気がつかないような小さな問題も見逃さずに、『もっと、こうしたらいいのではないか』と提案してくれます。以前、私たち幹部が、『こうすれば良くなるだろう』と思って取り入れたことが、現場ではまったく逆の結果につながったことがありました。原価も安く手間もかからないと思って受注した仕事が、原価も手間もかかる結果になっていた。パートさんから、『なぜ、現場にいる私たちの意見を聞いてくれなかったのか』『実際にやるのは私たちなのに、勝手に決められると困る』と注意を受け、私も反省しました。現場のことをいちばんよく知っているのはパートさんです。パートさんの意見を無視しては業務改善は実現しないと実感しています」(那須社長)
第2章パートの能力は「しくみ」で最大限引き出せる
都合の良い時間に働いてもらう
パート全員にiPadを支給して、空中戦を仕掛ける
武蔵野では、パート・アルバイトを含め、全従業員にタブレット端末(iPadやiPadmini計600台)を支給しています。金額にして、「ウン千万円」の投資です。普通の社長は、社員に配布はしても、アルバイトやパートにまで配布することはありません。お金がもったいないから、です。でも私は、パート・アルバイトに渡さないほうが、「もったいない」と考えています。理由は、次の「4つ」です。①残業が減る②業務効率が上がる③パート同士のコミュニケーションが良くなる④パートが辞めなくなる①残業が減るかつてのわが社は、とにかく残業が多い会社でした。現場は恒常的な人手不足に陥っていたので、他の会社よりも高い給料で、パート・アルバイトの募集をしました。しかし、仕事は楽ではなく、人が定着しませんでした。結果として、残ったパートにしわ寄せがいき、繁忙期は極端に残業時間が長くなった。残業を減らさなければ、パートは定着しません。けれど、「残業しないで早く帰る」だけでは、お客様にご迷惑をかけます。お客様が離れたら、会社が立ち行かなくなります。残業を減らしながらも、仕事の成果は減らさない。そのために、ITを使った業務の効率化に取り組んだ。iPadをはじめとするITの活用によって、わが社では、残業時間を大幅に減らすことに成功しました。ピーク時には月「76時間」あった残業が、現在は、「17時間」です。しかも残業時間を5分の1以下に減らしたにもかかわらず、売上は前年対比で10%伸ばしています。残業の取り組みについて詳しく知りたい方は拙著『IT心理学』(プレジデント社)、『残業ゼロがすべてを解決する』(ダイヤモンド社)を参照してください。ダスキン商品の棚卸しも、iPadを使うことで、大幅に時間を短縮することができました。かつては、内勤のパートが実際に現物の数を数えていて、棚卸しをすると、いつも
の残業に加えて、さらに3~4時間の残業が発生していた。ですが現在は、入力されたデータを確認するだけで、30秒もあれば終わります。また、お客様からクレームが入ると、従来はコールセンターから担当者(営業スタッフ)の携帯電話にメールで連絡をしました。ですが、担当者がお客様の近くにいるとはかぎりません。現場に駆けつけるまでに時間がかかると、事態が悪化して、解約につながるおそれがあります。こうした課題を解決するため、コールセンターでは、「iPadの位置情報」を活用しています。コールセンターは、全営業スタッフの位置情報をリアルタイムで把握していて、担当者が遠くのコースを回っているのであれば、「近くにいる別の営業スタッフに向かわせ、一時対応」させています(その後、担当者が本格的な対応をする。次の図参照)。
内勤の人件費は固定費です。固定費を小さくするのが経営の基本であり、それには「給料を下げる」か「従業員の人数や勤務時間を減らす」しかありません。「給料を減らす」ことはできないから、今までやっていた仕事を効率化して、少ない人数と少ない時間で処理する必要があります。iPadを使えば残業時間が減り、残業時間が減れば人件費を抑えられて、利益が増えるしくみです。残業が減って、家に早く帰れて、家族と過ごす時間が多くなって、しかも、可処分所得が高くなる。「働き勝手」が良いため、武蔵野はパートが辞めません。②業務効率が上がる「高度なシステムを一部の社員だけが使う会社」と、「そこそこのシステムを全従業員が使いこなす会社」では、後者が業務効率が上がります。前者の場合、システムについていけない人がボトルネックになって、かえって仕事が滞ってしまうことがあります。全員がシステムを使えて、ボトルネックがない状態にしたほうが、仕事は効率的に進みます。③パート同士のコミュニケーションが良くなる「ガラケー」しか持たなかったパートが、iPadを支給されてコミュニケーションアプリの「LINE」を使うようになり、「みんなの仲間に入れてもらった」と喜んでいます。iPadは、業務の効率化のみならず、従業員同士のコミュニケーションツールとしても大きな威力を発揮しています。④パートが辞めなくなる「うちの社長は変わっているから、こんなものを持たされちゃって」と面倒そうに振る舞うパートほど、実際には「まんざらでもない」と感じています。iPadを貸与されたことを家族や友人に自慢できるからです。武蔵野を辞めるときは、iPadを返却する。一度与えられたものを返したくない。「iPadを返却したくない」という理由で仕事を頑張るパートも少なくありません。
なぜ75歳のパートまでもがiPadを使いこなせるのか?
「高度化をする」とは「高度なシステムを導入する」ことではありません。「誰もが使えるようにする」ことです。高度化をもっとわかりやすい言葉でいうと、『Simpleisbest』です。ITの高度化を図る(ツールを全員が使えるようになる)ためのポイントは、次の「3つ」です。
Ⅰ.私用を認めるⅡ.同じ端末を持たせるⅢ.ITスキルが低い人を先生役にするⅠ.私用を認める武蔵野は、ITツールを私用で利用することを許可しています。会社から貸与されたiPadでゲームをしたり、自宅で好きなWebサイトを閲覧してもかまいません。私用であっても「自分で触ってみる」ことで、ITスキルは向上します。営業サポートの横道和江は、「会社から支給されたiPadminiを自宅のパソコンの代わりにしている」と言っていますが、まったく問題ありません。「私は今、英語を勉強していますが、電子辞書よりもiPadのほうが見やすいし、学びやすいと感じています。あと、iPadで料理レシピサイトの『クックパッド』を見ながら料理をすることもあります。私用で使うことが認められていると、触れる機会が増えるから、ITツールに対する抵抗感がすぐになくなりました」(横道)Ⅱ.同じ端末を持たせる全員が同じ端末を持つので、パート同士で使い方を教え合うことができます。Ⅲ.ITスキルが低い人を先生役にするダスキンに、お店のロゴが入った「オーダーメイドマット」という商品があります。デジタルカメラが登場した当初、「お店(お客様の会社や店舗)のロゴを撮影して、マットと合成してお見せすれば、完成品をイメージしてもらいやすいのではないか」と考えました。そこで、画像合成のやり方を最初に覚えさせたのが、山路浪子です。山路は当時、60歳近いベテランで(現在は75歳)、ITとはもっとも遠い存在でした。画像合成ができるようになり、今度は、山路を社員とパートの先生役に指名しました。すると若手は、「あの山路さんでもできたのだから、自分も覚えないと、かっこ悪い」と思い、習得が早くなります。山路は「『先生をやらないと給料を上げない』と小山さんが言うので、しかたなく引き受けた(笑)」と当時を振り返っています。「社員200名の前で、先生をやったことがありました。小山さんにいきなり、『やってくれ』と言われて、どんなことをやるのかもわからないまま、スキャナーなど、機材を一
式、渡されたんです。その1週間後ぐらいに、ダスキン本社のナンバー2の方がお見えになったときも、私が説明係をすることになりました。機材のことをまだよく把握していなかったので、アンチョコを見ながら説明をしようとしたら、小山さんが無責任なことを言うんです。『スラスラ説明すると面白くない。少しくらい言葉に詰まったほうが面白いですよ』と(笑)」(山路)
残業改革に取り組む理由を説明し、協力を仰ぐ
「残業がある会社」と、「残業がない会社」では、一般的に後者のほうが良い会社だと考えられています。ですが、現場で働くパートの意見は、少し違います。「残業が多すぎるのは困るけれど、少なすぎるのも困る」が本音です。なぜなら、働く時間が減ると、時給ベースで働くパートは可処分所得が減るからです。残業改革に取り組むためには、「残業時間が減っても、可処分所得を減らさないしくみ」をつくると同時に、「なぜ、残業を減らす必要があるのか」をきちんと説明する必要があります。女性は、あいまいさを嫌い、残業改革を進める理由をきちんと説明しなければ、協力を得ることができません。では、なぜ、残業改革に取り組まなければいけないのでしょうか。理由は主に「3つ」あります。一.「月45時間以上」の残業は法令違反二.社員(パート)の「健康」を守る三.雇用・採用への変化一.「月45時間以上」の残業は法令違反労働基準法36条(36協定)によって、「労働者に法定時間を超えて働かせる場合(残業をさせる場合)、あらかじめ、労働組合または、労働者の代表と協定を結ばなくてはならない」と決められています。36協定を結んでも、無制限で残業をさせていいわけではありません。36協定で定められている「時間外労働の限度時間」(一般の延長限度)は、「1ヵ月45時間以内」です(事業や業務の性質によっては、例外的に36協定の限度時間が適用されない業務がある)。二.社員(パート)の「健康」を守る「会社は、従業員の犠牲の上に成り立つものではない」と私は考えています。残業をすればそれだけ収入は多くなるが、それが続いてパートの健康を害するようなこ
とがあってはいけません。三.雇用・採用への変化これまでは、「人が辞めても、新しい人を採用すればいい」と考えることができました。でも、今の時代は違います。消費税増税(2014年4月)以降、「辞めても次の人がいる時代」から「辞めたら次の人がいない時代」に変わりました。募集しても人が集まらない。すると、残ったパートの負担が増えます。そして、疲れ果てたパートがまた辞めていきます。だから残業時間を減らして、負担を軽くする必要があります。
ダブルキャストで臨機応変に対応する
武蔵野は、頻繁に人事異動を行います。5年以上、同じ部署で働くことはありません。営業系の若手社員は、ひとつの職場での在籍期間を3年、事務系は5年として他の部署に転属させ、多くの体験を積ませます。同じ部署に3年以上在籍する課長もいません。パートも、「同じ仕事をずっとしている人」と「いくつもの仕事を経験している人」では、後者の時給をアップさせます。人事異動を行うと、ダブルキャストが実現します。ダブルキャストで、同じ役をこなせる人を2人用意しておく。わかりやすくいえば「代役」です。代役がいれば、パートが急病で休んでも作業が止まることはありません。滞っている作業に応援を出すこともでき、時間短縮も可能です(現在、トリプルキャスト化が実現している部署もあります。次の図参照)。
また、「この件は○○さんに聞かないとわからない」「あの仕事は△△さんでないとできない」といったように、「人に仕事がつく」ことがなくなるため、不正を防ぐ効果もあります。
有給休暇の日数は、パートが自分で管理する
これまで、有給休暇は上司が管理していましたが、現在は、給与明細に消化日数などを明記しています。つまり、パート・アルバイトが自らの有給を把握・管理できるしくみです。これなら絶対に有給休暇がおろそかにされることはありません。「スピード決裁」のアプリを使い、iPad・iPhoneから有給休暇の申請ができます。事後申請は、「2営業日まで」です。
有給を取りたいときは、「休みたい人」が、自分で「この日に休んでいいですか?」と聞いて回っています。自分が休みたいとき(有給を取りたいとき)にまわりから快諾してもらうには、日頃から他のパートと仲良くする必要があり、職場のコミュニケーションも良くなります。また、各種保険についても改善を加えていて、「1日、または1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上のパート・アルバイト」については、社会保険(厚生年金、雇用保険、介護保険、健康保険)に加入できます。
人は動かせば動かすほど成長する
強制的に環境を変化させる
私は、「経営は、環境適応業である」と考えています。経営は、市場の変化に合わせていち早く自社を変えていくことです。時代は、予想以上のスピードで変化しています。時代が変わったのに、いつまでも同じところで足踏みしていると、あっという間に取り残されます。子どもの成長が早いのは、幼稚園→小学校→中学校→高校→大学と、成育環境が強制的に変えられているからです。わが社の人事異動も、それと同じです。個人の適性を生かしながら、異動させる。だからパートが成長し、組織も成長します。「フジ精密株式会社」(岐阜県/清水章社長)は、電子部品や自動車部品の製造請負、電子部品の検査業務を行う会社です。清水社長は、「変化を怖がらず、新しい仕事に対して、前向きに取り組んでくれるパートは戦力になる」と考えています。「『私が得意なのはこの仕事だから、これ以外したくありません』とか、『私は社員ではないので、そんなことまでしたくありません』と言う人は、仕事の幅も広がらないし、スキルも上がりません。お客様やマーケットは常に変化しているから、その変化に合わせて私たちの仕事も変えていく必要があります。ですから、『何でもチャレンジしてくれる人』はとても貴重ですね」(清水社長)
人事異動は「モンスターパート」や「派閥」を生まないしくみ
職場に派閥ができるのは、人事異動がないからです。
同じ部署に長くいると、「お局様」「ボス」「主」「モンスターパート」が生まれ、その人を中心に派閥ができます。派閥Aと派閥Bがあったとき、派閥Aのキーマンが会社を辞めると、メンバーも一斉に辞めてしまったことがあります。自分だけ残れば、派閥Aからも派閥Bからも、陰口を叩かれたり、無視されたり、子どもまでもが学校でいじめられたりするからです。わが社に派閥がないのは、担当する仕事を頻繁に変えたり、シフトを固定させないで、「お局様」「ボス」「主」「モンスターパート」が生まれない工夫をしているからです。「株式会社関通」の達城社長も、女性集団特有の派閥やいじめをなくすために、定期的に「人事異動」を行っています。「パートさんには最初に『私は人間関係のいざこざが嫌いなので、それをなくすために人事異動をすることがあります』と宣言しています。場所を変えるのではなく、仕事を変える。人事異動は最低でも年に1回行っていますが、社員から『○○さんと、××さんの間でトラブルが起きそうだ』という報告が上がってきたときも行っています。パート本人から、『あの人とうまくいかないから、部署を変えてほしい』と私に直接連絡が届くこともありますね(笑)。人間関係のトラブルを未然に防ぐには、定期的な人事異動が有効だと思います」(達城社長)
勉強嫌いのパートに勉強させる奥の手
武蔵野の経営サポート事業部に、「実践社員塾」のプログラムがあります。経営サポートパートナー会員(武蔵野の経営コンサルティングを受けている企業)の一般社員のためのプログラムで、「価値観の共有」と「方針の理解」を目的としています。わが社のパートも、「社員塾の第1講」を受講しなければなりません。ところが調べてみると、社員塾を受講していないパートが、「32人」もいたのです。この32人は、「上司の言うことを聞かない」という共通点がありました(笑)。上司が参加をうながすと「仕事が残っているから出られない」と抵抗する。新任の店長は、自分よりも実力のあるベテランのパートに強く言えないため、野放しになっていました。では、どうすれば、この手強い32人が社員塾に出るようになるのでしょうか。私は「奥の手」を使って32人を脅かしました。どんな手だと思いますか?「人事異動」をチラつかせた。「社員塾の第1講に出なければ、みなさんには今の部署から異動していただきます。人事異動と、勉強会に参加するのと、どちらを選びますか?」
32人が全員、「社員塾の参加」を選びました。社員塾に参加すれば、新しい学びを得るので、パートは変わります。社員塾に参加しなくても、人事異動をすれば、新しい経験をすることになってパートは変わります。私にしてみれば、どちらでもいい。なぜなら、どちらを選んでも、「変化する」からです。
新しい体験を与えて失敗させることこそが人材教育
派遣社員から契約社員となった「経営サポート事業部」の小林直子は、武蔵野の働きやすさについて、次の3つを挙げています。「人がいいこと」「雇用契約に関係なく、責任のある仕事を任せてもらえること」「失敗をマイナスとして捉えないこと」です。「とくに好きなところは、失敗をマイナスとして捉えないところですね。武蔵野で働く前の私は、失敗をすると長い期間クヨクヨしてましたが、この会社で働きはじめてからは、『あ、失敗しても、自分のマイナスにはならないんだ』とわかったんです。失敗は、何かにチャレンジした結果です。小山さんは、失敗したことよりも、チャレンジしたことを評価してくださいます。だから、『失敗したらどうしよう』とビクビクすることもなくなったし、楽しく仕事ができるようになりました」(小林直子)私は、「失敗したときにマイナスに捉えるか、プラスに捉えるかで人生が変わる」と考えています。プラスの事柄とマイナスの事柄があると、多くの人は、マイナスの事柄に気持ちを奪われます。「失敗したら困るな、失敗したくないな」と考える。ところが、「失敗したくない」と考えて行動をすると、「失敗すること」が目的になるため、本当に失敗する。私の思考は逆です。「失敗はしたくない」と嘆いたところで、うまくいくとはかぎりません。だったら早く行動を起こして、失敗したら軌道修正すればいい。行動せずに失敗しない人と、行動して会社に迷惑をかけた人、どちらが優秀かというと、後者です。
パートを動かす「100回帳」
中小企業にとって、「人の成長」が、会社の成長です。人の成長なくして、会社の成長はありえません。武蔵野のような中小企業が勝ち残るには、社員やパートに勉強し続けてもらうしかない。ところが、人間は基本的に、自主的には勉強しようとしません。そこでわが社では、「嫌々でも、勉強せざるを得ないしくみ」をつくっています。
そのひとつとして取り入れているのが、「100回帳」です。武蔵野は、早朝勉強会や上司との面談、創業者のお墓参りなど、社員が面倒がる義務がたくさんあります。社員がこの義務をひとつ実行すると、100回帳にハンコをひとつ押す。そして、ハンコがいっぱいになったら(100回の義務を実行したら)、5万円の旅行券をプレゼントしています。つまり、「ハンコ1個」=「500円」です。社員が勉強会に参加するのは、「旅行券がほしい」という、不純な動機からです。たとえ目的は旅行券であっても、勉強会に出席すれば社員のスキルや知見は上がる。それは会社にとって好ましいことです。それに、面倒なことでも50回もやると習慣になり、さほど苦もなくできるようになります。私は、「教育は、質の追求より、量の追求」と考えてます。簡単なこと、誰でもできるようなことを大量にやらせる。簡単なことができるようになったら少しずつ段階を上げていく。量をこなせば、必ず質も上がります。100回帳は、パートにも持たせています。パートは社員よりも基準を低くして、「ハンコ50個で、2万5000円分の旅行券」を差し上げます。旅行券の対象者は、半期ごとに行う政策勉強会(全従業員を対象とした勉強会。2部構成となっており、前半は各種表彰を行い、後半は会社の方針を説明する)で受け取れます。100回帳は、人材育成のしくみであり、パートを辞めさせないしくみです。嫌々ながらはじめたことでも、ハンコがたまっていくと、「こうなったら最後までハンコを押さないと、もったいない」「ここで会社を辞めると、2万5000円損する」という気持ちが芽生える。そして、旅行券を目標に頑張るうちに、自己成長が実感できて、「辞めたい」という気持ちもなくなります。「クリーンサービス事業部」の馬場一江は、「100回帳は、従業員にとって励みになるしくみ」だと感じています。
「昔よりもずいぶん、ハンコがもらいやすくなりました。以前は、早朝勉強会など、社員と一緒の行事に参加しないと押してもらえなかったんです。ですから、私のように『朝早く行くのは面倒だ』と思う人は(笑)、なかなか集められないんですね。最近はもっと簡単になって、お客様がダスキンのウェブサイトに登録してくださったらハンコが1個もらえますし、ダスキンのキャンペーン期間中に、お客様に『明日は交換日ですよ』とショートメールを送るだけでもハンコがもらえます。ハンコがもらいやすいほうが、『頑張って集めよう』という気持ちになりますね」(馬場)
「パート課長」「パート部長」をどんどんつくる
問題意識の高い人にポジションを与えなさい
仕事をする目的は、パートによってさまざまです。「お金」にやりがいを感じる人もいれば、「自分がやった仕事を評価されること」にやりがいを感じる人もいます。社長や上司は、面談などを通して、その人の働く動機がどこにあるのかをきちんと把握しなければなりません。自分が評価されることにやりがいを感じるパートは、問題意識を持っている人が多いので、チーフや上長にする。わが社は、パートでも社員でも、昇格に一切の差をつけずに登用しています。だから、社員よりも優秀なパートがたくさんいます。現在、6名の「パート課長」がいます。「株式会社本村」(埼玉県/本村真作社長)は、製本をメインに、物流、オンデマンド印刷の3つの事業を展開しています。総従業員数は200名。パート108名で、そのうち75名は、5年前に立ち上げた物流事業に携わっています。「物流事業はパートで成り立っていると言えます。今は非常に人手不足ですから、社員を集めるのはむずかしい。そこで、最初からパートの戦力化を考え、積極的に採用しています。パートに、お客様の商品を保管管理して出庫する仕事をお願いしています」(本村社長)「本村」は、「パート課長」が2人いて、チームをまとめています。「武蔵野さんを見習って、能力がある2人を課長に抜擢しています。この2人を課長にした理由は2つあって、ひとつは、『会社の方針をよく理解し、共有している』こと。もうひとつは、『コミュニケーション能力が高い』ことです。
管理職は、仕事に対する生産性が高いだけでなく、協調性が必要だと感じています。いずれは、パートの中から部長もつくっていきたいですね」(本村社長)
管理職を選出するときは、最古参に声をかける
パートの中から管理職を選出するとき、社長の頭の中に適任者(Aさん)が浮かんでいても、すぐに声をかけてはいけません。根回しが必要です。最初に声をかけるのは、「現場で最古参のパート」(Bさん)です。最古参のパートには「長く働いてきた」というメンツがあり、むげにしてはいけない。
「今度、パートの中から課長を出そうと思っているのだけれど、Bさん、あなた、課長になりませんか?」と声をかけます。「やらない」と断ってきたら、「じゃあ、Bさんは、誰を課長にすればいいと思いますか?」と質問します。Bさんに「3名」の名前を挙げてもらって、その中に意中の「Aさん」がいれば「そうだね」と言って、Aさんを課長にします。もし、Aさんの名前が出なければ、「参考にするね」と言って、いったん退く。そして時間が経ってから、もう一度、「誰がいいと思う?」とBさんに相談します。すると今度は、「前回とは違う3名」を推薦してくれるので、「Aさん」の名前が挙がりやすくなります。仮に、Bさん本人が「私がやります」と言ってきたら、組織を2つに分けて、AさんとBさんの2人を管理職にします。そして、Bさんがうまく組織をマネジメントできなければ、少しずつ、Aさんのほうに人員を移します。そうすれば、Bさんは「自分には部下を管理する能力がない」ことを自覚できて、たとえ管理職から降ろしても、文句を言いません。
役職につきたがらないパートは、口説き落とす!
常務取締役、滝石洋子は、「パートはグループで成果を上げることが大事」だと考えています。「基本的に、『パートは、みんなで仲良く、トータルで成果を出してもらえばいい』が私の考えです。誰かひとりを特別に引き上げたり、個々を厳しく鍛え抜くよりも、『グループ全体で(パート全体で)利益や、成績や、効率を上げるにはどうしたらいいか』を考えたほうが戦力化しやすいと思います」(滝石)とはいえ、どの社長も「力のあるパートに、ポジションを与えて責任ある仕事をしてもらいたい」と思うものです。では、グループの中から責任者を選ぶときは、どうすればいいのでしょうか?「実践経営塾」(経営者を対象とした武蔵野のセミナー)の講師を務める滝石は、「女性戦略」のカリキュラムで、次のようなアドバイスをしています。「どの社長にも、『このパートさんは力があるな』と思う候補がいると思います。ですが、『あなたに責任者をやってほしいんだけど』とお願いしたときに、『はい、わかりました。ありがとうございます」と快諾してくれるパートは、私の経験上、ひとりもいませんでした。昨日まで、会社の悪口や社員の悪口を言っていた人が、急に『会社側』
にはなれないからです。責任者になったとたん、パート仲間から、手のひらを返したように見られかねません。それが怖いから、『ありがとうございます』とは言えないんですね。では、どうしたら、責任者になってくれるのか、それはもう、口説き落とすしかありません(笑)」(滝石)
99%のパートが落ちる口説き文句
滝石には、99%のパートが責任者を引き受けてくれる「一撃必殺の口説き文句」があります。「あなたがたパートさんにも、会社の中で改善したいことがあると思う。でも、常務の私には、どのような問題が現場にあるのかがわからない。だから、パートの観点から、『どうすれば職場がもっと良くなるのか』を教えてもらいたい。そのための、改善担当者になってほしい。『職場を良くする向上委員会』の委員長のような立場だと思って、1年だけでいいから、引き受けてほしい」この口説き文句のポイントは、2つあります。「責任者としてパート仲間を管理してほしい」とは言わずに、「職場を良くするための窓口になってほしい」とお願いしている点がひとつ。それともうひとつは、「1年だけでいいから」と期間をはっきりさせている点です。「私自身も経験があるのですが、責任や役職を与えられると、パートは、『自分は偉くなった』と勘違いしてしまうんです。すると、どうしても『調子に乗ってしまう』ことがあります。責任者が問題を起こした場合、すみやかに交代させなければなりませんが、最初に、『とりあえず1年だけ頑張って。1年経ったら、またそこで考えましょう』と伝えておくと(必ず書面に残しておく)、万が一やる気がなかったり結果が出なければ、外しても、相手も納得してくれます。1年経って結果を残していれば『すごく頑張っていると思う。ありがとう。もう1年お願いできる?』と言って、新たに更新すればいいと思います」(滝石)
潔癖すぎる人は、管理職に向いていない
わが社には、「課長」の肩書を持つパートもいます。実力、人望、ロイヤリティー(会社に対する忠誠心)、コミュニケーション能力、勤続年数などを総合的に判断して、「最低でも2つ以上の資質を持っている人」を選んでいます。ですが、どれほど能力が高くても、「ある資質」を持っている人は、管理職には適しま
せん。それは、「(仕事に対して)潔癖症」の資質です。潔癖すぎる人は、完璧さを求めるので、「仕事ができない」ことが許せません。求める水準が高いため、仕事ができない相手に対しては、「どうしてこんなこともできないのか」と追い詰めてしまいます。「ITスキルの高度化」を進めるとき、私が、山路浪子を画像合成の先生にしたのは、彼女は「できない人の気持ち」がわかるからです。また、潔癖すぎる人は、「全体」よりも「部分」を気にする傾向にあるため、細かい粗にばかり目がいってしまう。重箱の隅をつついたところで、組織全体の発展には寄与しません。組織が疲弊するだけです。
夫婦仲が悪い女性を課長にしてはいけない
「株式会社ロジックスサービス」のパート課長、横山靖子さんは、4人の子どもの母親です。朝9時に出社して、午後3時までの勤務。彼女には、30名の部下がいます。「とても優秀な女性なので、『パート課長になりませんか』と以前から打診をしていたのですが、なかなか承諾してくれなかったんです。ところが横山さんのご主人が、こう言って、後押しをしてくれました。『おまえの会社はいいな。俺なんか、上が詰まっていて全然偉くなれないけど、おまえはパートなのに課長になれるの?給料も上がるの?すごいな』。ご主人にほめられたことでやる気を出して、ようやく課長になってくれました。パートさんでも、社員でも、結果を出している女性幹部には共通の条件があって、それは、『ご主人とすごく仲が良い』ことです。うちの会社を辞めていった元女性幹部の人たちは、ひとりの例外なく、ご主人との仲が悪かった。ですから、女性幹部には、『旦那さんと仲良くしている?』とチェックしています(笑)」(菊池社長)
現場重視のしくみづくりが生産力アップの近道
個人のスキルを「数字」で見える化する
「株式会社本村」は、パートの生産性を向上させるために、一人あたりの「MH」を見える化しています。「MH」は、ひとり1時間でどれくらいの作業ができるか(時間当たりの生産性)を示す単位です。Mは人(MAN)で、Hは時間(HOUR)です。「スキル表をつくって、○○さんは100個できる、××さんは90個、△△さんは80個で
きるといったように、『1時間で、どのくらいできるか』を記録しています。チームを3つに分けるなら、生産性が高い人を集めたAチーム、普通の人を集めたBチーム、低い人を集めたCチームと、同じスキルを持った人同士でチームをつくっています。生産性が高い人と、普通の人と、低い人をバランス良くミックスしたチーム編成にはしません。生産性が高い人と低い人を一緒にすると、低い人は自分を卑下し、高い人はまわりと合わせて自分の生産性を落とします。ですが、同じレベルの人が一緒になれば、ストレスなく仕事ができるので、結果的に生産性が上がる(参照)と感じています」(本村社長)
小さな改善の積み重ねで生産力アップ
「タカヤマ金属工業株式会社」(大阪府/高山正義社長)は、全国のハウスメーカーやビルダー、工務店に対して建築金具の製造・販売を行っています。「タカヤマ金属工業」の従業員数は、302名。そのうち110名が女性です。
創業当時から、「企業内保育園」(保育所)を設置するなど、女性が活躍しやすい職場づくりに注力しています。「会社の中に保育所があることで、『女性が働きやすい職場である』という評判が広がって、人材が確保しやすくなりました。また、子どもが近くにいると、母親は安心して仕事に集中できるので、作業効率が上がります。何よりも、保育所があるおかげで、職場がアットホームな雰囲気になっていますね。当社の保育園出身の社員も数名いて、親子で働いてくれています」(高山社長)「タカヤマ金属工業」では、「グレードアップ大作戦」という取り組みを導入し、職場の改善を進めています。「全従業員が半期ごとにテーマを決め、それに対する進捗状況を月に1回、確認しています。合言葉は、『1歩、1メートル、1秒、1円の改善』です。この改善に率先して取り組んでいるのが、パートさんです。『大きさの違う製品Aと製品Bのケース詰め作業を統一できないか検証した。Aには厚みがあったので統一はできなかったが、ケース詰めしやすい方法を新たに見つけた結果、作業がスムーズになり、1時間当たりの作業本数が680本だったのが、1時間当たり850本に向上した』といった、小さな改善を繰り返しています」(高山社長)また、高山社長は、毎月1件、「実行力強化レポート」の提出を義務付けています。「実行力強化レポートは、『どのような改善をしたら、どのような結果が出たのかを算出し、具体的に数字にする』のが決まりです。『梱包袋を捨てる際、作業を止めてゴミ箱に行くのに、1回につき13秒かかっていた。この時間が無駄と思ったので、作業台にゴミ箱を設置した。この結果、『19分4秒/月』の時間短縮が可能になり、改善効果金額は、『1961円/月』になった。小さな気づきを改善したことで、作業に集中できるようになった』とパートさんから報告を受けています。よく考えれば、『ゴミ箱を設置しただけ』ですが(笑)、こうした小さな改善に気づけるようになったのは、気づきの感度が上がったからだと思います」(高山社長)
外部委託よりもパートの戦力化に利がある理由
「株式会社川六」(香川県/寳田圭一社長)は、中四国九州に展開する宿泊特化型ビジネスホテルグループです。ビジネスホテル業態の業績不振ホテルの再生を得意とし、寳田社長は、2017年1月に『地域でいちばんピカピカなホテル』(あさ出版)を出版しています。
現在、5店舗のホテルを運営していて、パートは40名です。ホテルの清掃業務は、これまで外部に委託していましたが、2016年3月にオープンした「エクストールイン西条駅前(愛媛県)」と、2017年1月にオープンした「エクストールイン山陽小野田厚狭駅前(山口県)」の2店舗に関しては、自社で清掃業務を担当するパートを採用しています。「新しい試みとして、『西条駅前』と『山陽小野田厚狭駅前』の2店舗に関しては、『すべて自社でやってみよう』と考え、清掃のパートさんだけで『30人』を一気に増やしました。パートを増やした理由は、大きく3つあります。ひとつは、全体的な管理費を軽減させるため。もうひとつは、地域雇用に貢献するためです。客室清掃という職種は勤務時間も短いし(9時30分~14時30分)、それほど高給を払うことができないから、決められた範囲の中で仕事をしていただくには、限られた時間しか働けないパートさんとWIN-WINの関係になることが重要です。3つ目は、満足度の高いおもてなしをお客様に提供するためです。自社で雇用をしたパートであれば、私たちが直接、『お客様に対する考え方』を教育できるため、従業員の価値観が揃いやすくなります。清掃会社に委託すると、『お客様からこんな声があるので、改善してください』と言うことはできても、雇用関係がないから、それ以上は強く言えなかった。直接雇用をすれば、川六の考え方を徹底することができます」(寳田社長)本社勤務のパートは、主に電話予約やネット予約の処理を担当しています。「ホテルに、お客様が集中する時間帯と、そうでない時間帯があります。パートを採用することで、必要な時間帯に必要な人員を割り振りやすくなりました。パートさんにも『何曜日の何時から何時まで働きたい』という要望があるから、昼の部、夕方の部、夜の部と三部制で動かしながら、ホテルの都合とパートさんの都合がマッチするようにシフトを組んでいます。パートさんから上がってくる不満の中でいちばん多いのは、『勤務シフト』に関する不満で、偏りが出ないようにダブルチェックをして、これまで以上にしくみ化を進める必要があると感じています」(寳田社長)
第3章やる気は「お金」で買いなさい
お金のルールが明確だとパートは辞めない
愛はお金
「現地見学会」(武蔵野の社内を見学・体感できる参加型セミナー)にはじめて来られた方は、「武蔵野のスタッフ(パート)は全員、元気に、明るく、大きな声で、丁寧な挨拶をする」とほめてくださいます。挨拶をするときは、仕事の手をいったん止め、立たなければなりません。月末の忙しい時期に、何度も、何度もお客様がお見えになると、普通のパートなら、「この忙しいときに、またお客様?」と怒りたくもなる。けれど、武蔵野のパートは、怒らない。なぜだと思いますか?「お客様に挨拶をすると、それだけでお金がもらえる」からです。お客様ひとりにつき「100円」です。50人のお客様がお見えになれば、5000円もらえます(お金は各事業部に入り、懇親会などの費用に使われます)。はじめは、「100円のため」でもかまいません。たとえ動機は不純でも、「お客様がいらしたら、挨拶をする」という「形」を何度も繰り返すうちに、次第に「心」が追いついてきます。お客様に現場の説明をするのも、パートです。説明を担当したパートは「100回帳」にハンコひとつが押されます(順番制)。わが社のパートにとって、「愛はお金」です。お客様がお金に見えるから、元気な声で挨拶ができる。お客様が来るたび、ガッポガッポ、チャリンチャリンとお金が入ってくるので(笑)、みんな、喜んでお出迎えをするのです。「金鶴食品製菓株式会社」(埼玉県/金鶴友昇社長)は、カシューナッツ、アーモンド、ピスタチオ、ドライフルーツなどの製造、販売をする会社です。50代、60代のパートが多く、勤続年数47年のベテランパートもいます。現在85歳で、毎日8時間、元気に働いているそうです。「私が生まれる前からの従業員です。『社長、あんたのオムツ、誰が替えたと思っているのよ?』と言われると、何も言い返せません(笑)。私どもの会社では、パートさんを『パートナー』と呼んでいます。当社は、ナッツやドライフルーツの製造をする会社で、パートナーさんには、袋詰めや、ドライフルーツの選別(形や色が悪いものを選別する)の仕事をお願いしています」(金鶴社長)「金鶴食品製菓」では、パートの定着率を上げるために「紹介制度」を取り入れていま
す。紹介制度も「お金で釣る」ひとつのしくみです。「パートナーのAさんが、Bさんを紹介してくれた場合、その時点でAさんに5000円支払っています。そして、2ヵ月後にBさんが辞めていなければ、Aさんにさらに5000円支払い、6ヵ月後もまだBさんがいてくれたら、Aさんに1万円支払います。つまり、Bさんが6ヵ月働いてくれたら、Aさんには合計で2万円入ることになります。過去の統計を取ってみると、『3ヵ月いてくれたパートナーさんは辞めない』ことがわかっています。Bさんが辞めそうになっても、紹介したAさんが『辞めないで、辞めないで』と説得してくれるので、早期離職がずいぶん減りました」(金鶴社長)
給与はお客様が払い、賞与は社長が払う
私は20代のとき、給与や賞与は、「社長」が支払ってくれるものだと信じていたが、それは大きな間違いだとわかりました。給与は、社長が支払っているのではありません。「お客様」です。会社は、業績が赤字でも、給与を支払います。その原資はどこからきているのかというと、「売上」です。お客様が自社の製品やサービスを買ってくださるから、会社の売上が上がって給与を支払うことができます。では、賞与は誰が払っているのでしょうか。お客様でしょうか?違います。賞与は、「社長」が支払っています。わが社では、「毎月の給与」と「賞与」を次のように規定しています。・給与/労働対価(基本給に各種手当を加えたもの)・賞与/利益の一部配分(業績によっては支給しないことがある)お客様が賞与を支払ってくださるのなら、経営状況のいかんにかかわらず、社員に賞与を支給できる。ですが実際は、賞与が支給されるとはかぎりません。なぜなら、賞与は、労働の対価ではなく、利益の再分配だからです。赤字が続けば利益が出ないので、賞与を出す余裕がありません。利益が少ないときは、賞与ではなく「小与」になります。賞与が出るのは、会社が黒字だから(利益が出ているから)です。では、会社を黒字にするのは、誰ですか?社長です。社員に賞与を払えるかどうかは、社長の腕次第です。
多くの社員は、賞与がもらえるのは、「自分が頑張った結果だ」と考えます。もちろんそういう側面はある。しかしそれ以前に、社長が「黒字にする」と決定し、そのための方針やしくみをつくり、社員に実行させるから、利益が出て、はじめて賞与の支給が可能になります。給与がもらえるのは、お客様のおかげです。ですから、お客様への感謝の心を忘れてはいけない。賞与がもらえるのは、社長のおかげです。ですから、社長にお礼を伝える。私が社長になってしばらくの間は、賞与を出してもお礼を言ってくる社員は皆無でした。それどころか、「額が少ない」と文句を言う社員が多くいた。ですが、今では、賞与支給日になると、社員からも、パートからも、感謝の言葉がたくさん寄せられます。社員が「賞与が少ない」と文句を言うなら、それは、「賞与は社長が支払うもの。労働対価ではない」ことを明確にしていない社長自身の責任です。
時給は、「少額ずつ、定期的に上げる」ほうがパートは辞めない
女性は、男性以上に「損すること」「減ること」を嫌います。女性の感性は「足し算」であり、「引き算」は許せません。ですから、時給や賞与の金額を上げるときには、「小刻みに、定期的に上げる」のが基本です。「業績が良かったから」「頑張って働いてくれたから」といって、一度に大幅に上げると、「下げる」ときに紛糾します。私の経験上、男性は、「時給を上げすぎたので、申し訳ないが50円下げさせてほしい」と理路整然と説明をすれば、納得してくれます。ですが、女性は、なかなか納得してくれません。引き算を好まないからです。「今年はパートの時給を50円上げる」という計画を立てたとき、多くの社長は、一度に50円上げます(次のグラフ)。ですが、私は違います。最初に「25円」だけ上げて、半年後にさらに「25円」上げる(次のグラフ)。すると女性は「足し算」で考え、「得をした」と感じます。
「1000円の時給を一度に50円上げる」のと、「25円ずつ2回に分けて上げる」のでは、後者のほうがパートの定着率が上がります。実際は、「25円×半年間の労働時間分」だけ損をする計算ですが、「25円ずつ2回に分けて上げる」ほうが「安定的に増える」と実感を味わえるため、女性は喜びます。「高い給料を払うが、その後、時給は上げません」と言うと、不満になります。ですが、「最初は低くても、半年ごとに時給を上げます」と言うと、不満が出ません。
賞与額も「足し算」で決める
わが社は、パートの賞与額も、「減点方式」(引き算)ではなく「加点方式」(足し算)で決めています。経営計画書の「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」には、賞与額の計算式を明記して、「何をすれば、何ポイント加点するか」がわかるようになっています。武蔵野では、「1年以上在籍のパート・アルバイト」に対して、規定の額で賞与を支給します。上司の絶対評価、環境整備(毎朝の清掃・整理・整頓活動)、勉強会や社内行事の参加状況などに応じて、ポイントを加算。1ポイントは、賞与の上限金額の10%です(上限金額が5万円のときは1ポイント5000円)。これまで上限5万円(半期で2万5000円)でしたが、残業削減によって利益が出たため、現在は2倍以上の上限12万円(半期で6万円)です。12ポイントを獲得した場合と0ポイントだった場合を比較すると、支給賞与には年間で12万円の格差がつくわけです。合計ポイントは、次の5つによって決まります。①毎月5分以内のプロセス評価(全4ポイント)②環境整備(全2ポイント)③方針共有点(全5ポイント)④エナジャイザー受診(上期/1ポイント)⑤課題図書の感想文を提出(下期/1ポイント)①毎月5分以内のプロセス評価(全4ポイント)プロセス評価は、仕事の基本行動・態度に関する評価です。次の6項目について毎月上司が評価をし、半期ごとにポイントを決めます。・仕事の責任を自覚し、常にお客様第一主義で仕事を行ったか・会社や上司の方針を十分に理解していたか
・仕事遂行上の工夫改善や能率向上に努めたか・上司や同僚との仕事上の報告・連絡・相談は的確であったか・幅広くレベルの高い仕事ができるよう能力の向上に努めたか・実行計画(個人)を常に意識して仕事を行っているか上司の評価が「A」のときは4ポイント、「B」は3ポイント、「C」は1ポイントと、評価によって差をつけています。ですが実際には、差がつくことはほとんどありません。なぜなら、評価をする上司は、「パートに嫌われたくない」「辞められたら困る」という理由で、全員に「A評価(4ポイント)」をつけるからです。わが社の社員は相対評価なので、全員がA評価になることはありません。ですがパートは絶対評価にしているので、全員がA評価でも問題ありません。②環境整備(全2ポイント)武蔵野は、毎朝30分、全従業員が掃除をします。窓を拭く、トイレ掃除をする、床のワックスをかけ直すなど、「今日はここだけ」と狭い場所を決めて、とことん磨き込んでいます。「毎朝30分の掃除」をはじめとする清掃活動のことを、武蔵野では、「環境整備」と呼んでいます。「ひとりの例外も、1日の休みもなく、全従業員で、環境整備をする」のが決まりです。環境整備は、単なる掃除とは違います。・掃除……掃いたり、拭いたりして、ゴミやホコリ、汚れなどを取り去る・環境整備……仕事がやりやすくなるように社内を「整」える。必要なものはすぐに取り出せるようにして、仕事に「備」える(準備する)「掃除」の目的は、「ゴミや汚れを取る」ことですが、「環境整備」の目的は、「仕事をやりやすくする」ことです。「環境整備」の「整(整える)」には、2つの意味があります。「整理」と「整頓」です。・「整理」=捨てること……必要なものと不必要なものを分け、徹底して捨てる。やらないことを決める定期的に「捨てる日」を設ける。「いつか使う」ものは、目をつむって捨てる・「整頓」=揃えること……物の置き場を決め、向きを揃え、いつでも、誰でも使える状態を保つ
色、記号、数字を使って定置管理するわが社は、4週に一度、全営業所・全支店の「環境整備点検」を実施します。環境整備点検では、チェックリストにもとづいて点数をつけ、「環境整備点検時の点数」が賞与に直結します(社員だけでなく、パート・アルバイトも賞与に連動)。【自部門の半期合計の平均点と付与ポイント】・116点以上…………2ポイント・111点~115点…1ポイント・110点以下…………0ポイント・100点以下だと75%以下とする(通常額の75%以下に減額)環境整備点検は「120点満点」で、3回の合計得点が「350点」以上なら、部門全員に「ひとり2000円相当」の食事券をプレゼントします。345点は、「敗者復活制度」が適用されます。「5点足りないので、日頃できないことをします」と申請して実行したら、敗者復活ポイントの5点がもらえるしくみです。「クリーンサービス事業部第2支店」の馬場一江が、武蔵野を辞めた元従業員に「新しい会社の環境はどう?」と聞いたことがあるそうです。すると、元従業員は、こう答えたと言います。「再就職した新しい会社は、汚い。武蔵野は環境整備をしているからキレイなのが当たり前だったけれど、今の会社は、机も、トイレも、汚くてびっくりした。だから勝手にトイレの環境整備をはじめたんだよね」③方針共有点(全5ポイント)早朝勉強会、社内アセスメント、バスウォッチングなど、「価値観を共有」するための勉強会や行事に参加した回数をポイントにします。こうして「価値観を共有」するための勉強会や行事を数多く実施するのは、方針を共有し、従業員の価値観を揃えなければ、わが社のような中小企業に勝機はないからです。武蔵野の今日があるのは、組織が小さかった段階で、価値観を共有する作業を何度も繰り返し行ってきたからです。方針共有点について、詳しくは後述します。④エナジャイザー受診(上期/1ポイント)わが社では、公益財団法人「日本生産性本部」が提供している「エナジャイザー(energizer)」というツールを使って適性テストを行っています。エナジャイザーを使うと、「情報処理能力」「性格」「モチベーション」の3つを数値化できます。この数値を見れば、「Aさんは、一見するとおとなしそうだが、実際は野心
が高いので、むずかしい仕事を任せよう」「Bさんは、職場の人間関係に不満を抱いているようなので、人事異動をしたほうがいい」といったことがわかるので、パート一人ひとりの能力や適性に合わせた組織づくりができます。個人の内面に踏み込む検査なので、基本的には結果を公表していません(懇親会などで本人に聞かれると教えます)。⑤課題図書の感想文を提出(下期/1ポイント)従業員は要領がいいので、最初の数ページだけ読んで、感想文を書きます(課題図書は、拙著の中から選んでいます)。そこで現在は、「本の中に登場する固有名詞(人物名)」を書かせます。私の本には、従業員の他にも、経営サポートパートナー会員が実名でたくさん登場しています。感想文に登場人物の名前を書くには、最初から最後まで本を読まなければなりません。わが社では、入社時に「個人情報をオープンにする」と承諾書にサインをもらいます。私が書く本に社員が実名で登場するのも、本人に承諾済みだからです。以前、パートの募集に応募してきた女性に、「会社のホームページに写真を掲載することもあるので、個人情報開示承諾書へサインをしてください」とお願いをしたら、「それは勘弁してほしい」と断られました。理由は、「男性と2人で駆け落ちをしてきた」から。ホームページに顔が出ると、身元が特定されます。「せっかく田舎から出てきたのに、身元がわかるようなことはしたくない」と言うので、残念ながら不採用にしました。個人情報開示承諾書は、「わけありの人」を採用しないしくみでもあります。
「価値観の共有」が何より重要
賞与額が決まる12ポイントのうち5ポイントを「方針共有点」に充てています。価値観を共有する社内行事に参加するほど、組織としての力が強くなると考えます。方針共有点に影響する社内行事は下記の通りです。・バスウォッチング……1ポイント※バスウォッチングの参加が「半日」のときは、0・5ポイント・早期勉強会……1ポイント※早朝勉強会が「ビデオ」のときは、0・5ポイント・社内アセスメント参加……1ポイント・サンクスカード毎月5枚以上……1ポイント・政策勉強会参加……1ポイント・バスウォッチング
従業員が営業所を見学する「社内バスウォッチング」を開催しています。大型バスを貸し切って、全営業所を視察する勉強会です(年9回開催)。1班40名程度に分かれ、幹部社員の引率のもと、全営業所を見学して回ります。参加者にとっては、自社を知る機会でもあり、また、各営業所の改善項目を横展開するしくみでもあります(子どもの送迎などもあるパートは、途中乗車、途中下車を認めています)。社員は50個以上、パート・アルバイトは20個以上の「気づき」をメモに取って、今後実行する項目をひとつだけ選びます。その内容を、当日中に私へ報告します。中には、「20個も書けない」と、泣き言を言うパートもいますが、「1個足りないと1枚の努力文。提出が遅れると提出するまで毎日、努力文」です。すると、「努力文を書きたくない」と、必死に書き出します。苦労して書き出した項目と、前年に書いた項目とを見比べてみると、書いている内容が違ってきていることに気づきます。その違いが、自分の成長です。・早朝勉強会早朝勉強会(毎朝7時30分~8時30分の1時間)の出席状況を賞与評価に連動させています。最初の45分は、経営計画書、あるいは、自著『増補改訂版仕事ができる人の心得』(CCCメディアハウス)をテキストにして、私が解説します。私の出張時などはビデオ学習です。残りの15分で、出席者が自分の気づきを発表します。・社内アセスメント参加部門ごとに半年間を振り返って、実行してきた施策の中で継続するものと、改善するものを計画に落とし込みます。全社員とアルバイトやパートの一部が参加して、「自分たちの手」によって計画を作成するボトムアップのしくみです。パートが、土曜日にもかかわらず、最低賃金で参加するのは、「自分たちの意見が、会社の政策になるから」です。・サンクスカード人を育てるには、「ほめる」ことがいちばんです。感謝されると誰でも嬉しいし、元気になるし、頑張ろうという気持ちになります。そこで考えたのが、「サンクスカード」です。「サンクスカード」とは、「○○さん、忙しいのに、手伝ってくれてありがとう」、「○○さん、いろいろ教えてくれてありがとうございます」という「小さな感謝」を伝えるしくみです。とはいえ、「サンクスカードを贈ろう」と提案したところで、なかなか書こうとしません。そこで、サンクスカードの枚数を賞与評価と連動させています。パート・アルバイトは月に5枚以上のサンクスカードを書くと、1ポイントもらえます。
サンクスカードが社内に回りはじめると、「他人の少しでもいいところ」を探す気になります。人をほめるときはプラス思考が働くので、会社の雰囲気が明るくなりました。「株式会社ナビック」の那須直人社長は、「サンクスカードは、パートの承認欲求を満たすしくみ」と考えていて、評価と連動させています。「パートさんと食事をしたり、お酒を飲んだ翌日に、サンクスカードを渡すと、とても喜んでくれます。パートさんは、私が思っていた以上に、『社長に気にかけてもらうと嬉しい』と思うようです。当社のパートさんの中には、『仕事をするなら、扶養控除枠内で』と考える人もいます。彼女たちの働く動機は、必ずしも『お金』ではありませんから、気持ちの部分で『この会社で仕事を続けたい』『役に立ちたい』と思ってもらうことが大切です。サンクスカードを使えば、『あなたがいないと困る』『頼りにしている』という感謝を伝えることができます。『ありがとう』と言えたり、言われたりするとパートさんの満足度も上がって、ひいてはお客様満足度も上がる気がします」(那須社長)・政策勉強会毎年2回、上期5月と下期11月に、全従業員(パート、アルバイト、社員)のみならず、ビジネスパートナーも含めて開催される勉強会です。上期では、その期に使用する経営計画書を配布して、重点方針を読み上げます。下期では、上半期を振り返りながら、施策の修正や成果報告を行います。政策勉強会は2部構成になっていて、勉強会の前半では、成績優秀者表彰など各種表彰を行い、(パートも表彰の対象)、後半は会社の目指すべき方向性や方針について、私が具体的に説明します。政策勉強会に参加すると、パートには手当(2700円)が支給されます。
パートが高いモチベーションで働けるしくみ
「お楽しみ会」での非日常体験がモチベーションになる
「営業サポート」のパート・横道和江は、パートから常務取締役になった滝石洋子をロールモデルにしています。「頭が良くて、バイタリティがあって、統率力があって、目の付けどころが鋭くて、お酒が好きで、たくさん食べるからです(笑)。私は今、入社して6年ですが、2年目くらいに、京王プラザホテルの最上階にあるバーに連れて行っていただいたことがあります。滝石さんがすごくおいしいワインを選んでくださって、私はもう嬉しくって、『あぁ、いい会社だなあ』と思ったことがありました(笑)。
営業サポートに、『お楽しみ会』の催しがあって、普段はなかなか体験できない場所で、普段はなかなか口にできないお酒を飲んで、おいしい食事を楽しんでいます(会社が半額負担)。屋形船を貸し切ったり、うかい亭(高級鉄板料理)に行ったり、バスをチャーターして鎌倉に行ったり……。今は少食の女性が多くなって、何でも『小』という感じですけど、何しろ滝石さんが、よく食べる(笑)。私よりひと回りも上の女性が、誰よりも仕事をして、誰よりも食べて、誰よりも元気なんですね。そんな滝石さんを見ていると、私まで嬉しくなるし、目標になります」(横道)
忘年会の会費は「高いほう」が喜ばれる
以前、男性社員が忘年会の幹事をしたときのことです。私は「会費を5000円から7000円に上げたほうがいい」と提案したのですが、彼は「高くしたら誰も来ない」と考え、会費を3000円に下げた。忘年会の会場は、なじみの居酒屋です。ところがパートは、10名しか参加しませんでした。そこで、新年会の幹事をパートにやらせて、「5000円の会費」にした。場所は、お寿司屋さんです。すると、ほとんどパートが参加しました。新宿の一流ホテルで忘年会をやったこともあります。会費は1万2000円です。男性幹部は、全員「高すぎる」と反対したが、パートは全員出席しました。翌日、パートに感想を聞いたところ、「とても豪華で楽しかった」と喜んでいました。「会費が高いと参加できない」という考えは、仕事に生活がかかっている男性の感覚であって、パートは、「贅沢にお金を使ってもいいとき」と「そうでないとき」をわきまえているものです。「会費3000円の居酒屋」は日常の出来事です。けれど、「会費1万2000円の一流ホテル」は、着飾って行けるハレの場です。だから、楽しい。こうした非日常的な場を用意することも、パートのやる気につながります。
「表彰制度」はパートの励みになる
「ダスキン国分寺支店」のパート・福田すず江は、「表彰制度は励みになる」と言います。「武蔵野では、パートでも一生懸命に頑張っていると、表彰してもらえます。私も、『縁の下の力持ち賞』を1回、『成績優秀賞』を3回いただきました。政策勉強会の当日、受付でいきなり『赤い花』を渡されて、びっくりしたことがありました。仕事をしていると、うまくいかないこともあります。気持ちが落ち込んで『辞めちゃおうかな』と思うときも、正直ありました。でも、表彰されて、みんなに認めていただけると、『せっかくもらったんだから、もう少し頑張ってみようかな』と思うんです。小山さんにうまくハメられている気もしますけど(笑)、励みになりますね』(福田)
第4章職場のトラブルはすべてコミュニケーションで解決できる
「社長の声かけ」がパートのモチベーションになる
パートをほめるときは、全員に、同じだけほめる
パートのやる気を引き出して、モチベーションを高めるためには、コミュニケーションを取ることが大切です。コミュニケーションの取り方には、声かけ、飲み会、従業員アンケート、面談など、いくつかの選択肢がありますが、もっとも簡単でお金がかからないのは、「社長の声かけ」です。声かけのポイントは、「全員に、平等に、ほめること」です。みんながいる前では、固有名詞でのほめ方は配慮する。「◯◯さん、ありがとう」と固有名詞を出すと、「えこひいき」と思われやすい。ですから、「みなさん、ありがとう」「みなさんのおかげで仕事が進んでいます」と、全員に向けて声をかけたほうがいい。私はかつて、パートの前で、「みなさんのおかげで、今日はいい天気です」と声をかけたことがあります。数人のパートが「バカじゃないの、この人」という顔をしたので、こう続けました。「私はこんなにおバカですが、それでも会社の業績が上がっているのは、みなさんのおかげです!」「自分はバカだ」と認める私に、パートは親近感を持ってくれた。それ以降、会社の雰囲気が明るくなりました。個人をほめるのは、「みんながいないとき」にすると、妬みを生みません。パート課長・塚田加陽子の息子の大学受験合格を知った私は、「階段ですれ違ったとき」に、「息子が大学に合格したんだってね。おめでとう」と声をかけました。塚田は「あ、ありがとうございます!でも、どうしてご存じなんですか!」とびっくりしながら喜んでいました(塚田の上司から報告を受けていた)。ほめる回数も、平等にすべきです。私がまだ「日本サービスマーチャンダイザー」(武蔵野の前身)の管理職だったとき、「いつ、誰に、どのような内容でほめたのか」を記録して、部下に対する「ほめの量」が均等になるようにしていた。当時部下は30名いましたが、ほめの効果は絶大でした。ほめられたことでやる気を出して、私の率いる支店は、抜きん出た業績を上げた。常務取締役の滝石洋子は、「ほめるときは、『何が、どう良かったのか』を具体的にしたほうが効果的」と考えています。
「ただ『頑張っているね』と声をかけるよりも、『この間、現地見学会でお客様がいらしたとき、あなたが説明を担当したんだってね。◯◯◯という会社の社長さんが〝すごくわかりやすい説明だった〟と感心していたよ』と具体的な内容を踏まえながらほめると、パートさんも、『次も頑張ろう。わかりやすい説明を心がけよう』と思うようになります」(滝石)「株式会社本村」の本村真作社長も、「パートにやる気を出してもらうために、ほめて、おだてる」を実践しています。「先日、パートさんを集めてミーティングをしたのですが、そのとき、ひとりのパートさんが、こんなことを言ったんです。『日曜日に休日出勤をしたのに、誰もほめてくれなかったのが悲しい』って。私は『それは申し訳なかった』と謝りました(笑)。パートさんは、とにかくほめて、おだてるのが基本ですね(笑)。『やれ、やれ!』『もっと頑張れ!』とハッパをかけるような指導は逆効果だと思います」(本村社長)
洋服の「色」をほめるだけでも、パートは喜ぶ
毎年5月に「経営計画発表会」を開催しています。会社の規模が今ほど大きくなかったときは、パートも参加していました。経営計画発表会後の懇親パーティーもビデオを撮影していたので、私は後日、ビデオを見ながら、「◯◯さんは、白い服」「△△さんは、黒い服」「××さんは青い服」……と、服の色を書き出しておきました。そして、翌年の経営計画発表会のときに、「◯◯さん、昨年の白い服も良かったけど、今年のその服もよく似合っているね」「△△さん、昨年の黒い服も良かったけど、今年のその服もセンスがいいね」「××さん、昨年の青い服も良かったけど、今年のその服もすごくいいね」と、一人ひとりに声をかけて洋服の「色」をほめた。どうしても声をかけられなかった人には、後日、「経営計画発表会に着ていた服、似合っていました」と書いたハガキを投函して、「全員を平等にほめる」ように心がけました。ほめられたパートは、「私のことをそこまで見てくれているのか」と喜んで、会社に対する忠誠心や信頼を持つようになります。また、私が毎年服装をチェックしているとわかれば、発表会のとき、昨年と同じ服は着ません。新しく服を買うとお金がかかるから、一生懸命仕事をしてくれます(笑)。
従業員アンケートを取ると、社長の心が折れる
パートとコミュニケーションが取れていない社長は、「従業員アンケート」を取らないほうがいいと思います。なぜなら、心が折れるから。
わが社は、1999年以降、毎年、従業員アンケートを取っています。社員・パート・アルバイトは何を考えているのか、どういう不平不満を持っているのかをいち早く把握して、改善に役立てるのが目的です。従業員満足度は、年々向上していて、現在(2016年)は実に「87・7%」(参照)のパートがわが社に満足しています。にもかかわらず、会社に対する不満はなくなりません。パートの本心を知りたいので、従業員アンケートへの記入は無記名(匿名)にしているため、不平不満が出るわ、出るわ……。集計結果は、政策勉強会でフィードバックしていますが、アンケートに書かれているコメントを読んでいるうちに、具合が悪くなります(笑)。パートから寄せられた不満を改善しないと、火に油を注ぐことになりかねません。武蔵野でさえ不満が噴出するのですから、コミュニケーションが十分に取れていない会社がアンケートを取ると、不満のはけ口になるだけです。
飲み会や懇親会の回数が多いほど、社内のコミュニケーションは良くなる
「フジ精密株式会社」の清水章社長は「女性パートは37名で、上は65歳、下は25歳と年齢幅がありますが、パート同士の親密度は高い」と話しています。「経営計画書、環境整備、早朝勉強会など、武蔵野さんに倣ってやれることは全部やってきた中で、会社を変えるもっとも大きなきっかけになったのは、『部門ごとの飲み会』だと思います。65歳と25歳では世代の違いがありますが、それでも仲良くできるのは、飲み会や懇親会の回数を多くしているからです。年に4回、部門ごとに懇親会を行うことを義務付けていて、懇親会費用は社内規定により会社が負担しています」(清水社長)懇親会の参加は自由ですが、清水社長は、評価と連動させることで、参加をうながしています。懇親会に出席すると人事評価シートに「3点」加算されるので、以前は参加しなかった人たちも参加するようになったそうです。「懇親会に、社長の私と副社長(奥さん)も出席します。結構な回数で大変ですが、一緒にワイワイお酒を飲むことで、パートと社長の距離が縮まった気がします。パート40名の中の15名くらいは、20年以上勤めてくれている人たちです。懇親会で顔を合わせると『ちょっと、社長!』とタメ口ですね(笑)。けれど、『ここをもう少し変えてくれるともっと力が発揮できるよ』とアドバイスをしてくださるので、本当にありがたいですね」(清水社長)
同じように、「まるか食品株式会社」の川原一展社長も、新年会、忘年会、社員旅行などの会社の全体行事の他に、最近では「部署別」にコミュニケーションを取る機会を設けています。「職場のコミュニケーションを改善する場にしようと、部署別の懇親会(年4回)の他に、社長とパートさんのランチ会を開催しています。ランチ会といっても、外食する時間がないから、お昼休みに工場内で、パートさんと一緒にごはんを食べるだけですが……。この場で、社長に要望、要求をしてもいい決まりで、『職場が暑い、寒い』から、『上司の段取りが悪い』『物を運ぶ機材が少ない』など、さまざまな意見が寄せられます。私は言われっぱなしなので、何を食べても味がしません(笑)。すべての要求に応えられるわけではありませんが、『暑い』と言うのなら空調を改善する。パレット(荷物を載せるための荷役台)が少ないなら購入するなど、環境を整えることで、効率良く仕事ができるようになったと思います」(川原社長)
飲み会に、社長も積極的に参加する
「株式会社末吉ネームプレート製作所」(神奈川県/沼上昌範社長)は、金属プレート、シール印刷、シルク印刷の3つを軸に、ネームプレートの開発・製造を行う会社です。沼上昌範社長も、自ら積極的に声をかけ、パートとのコミュニケーションを図っています。「毎朝、環境整備をするときに、『今日はAさんと、明日はBさんと、あさってはCさんと』とスケジュールを決めて、パートと社長が同じ場所の掃除をしています。そして、一緒に手を動かしながら、会話をする。すると、『何に不満を持っているのか』『何にやりがいを感じているのか』『どんな悩みを持っているのか』『家庭の中でどんなことがあったのか』などがわかるので、相手のことをよく知ることができます。入社したばかりのパートさんは、どんな人なのかわからないから、話のきっかけをつくるために、『履歴書』をよく見ておきます。『お子さんが幼稚園に通っている』『バレーボールをやっている』といった情報をしっかり覚えたうえで話を振ると、お互いの距離を縮めることができます。また、一方的に話を聞くだけではなく、私自身の話もするので、尋問のように問い詰めてしまうことも、会話が一方通行になることもありません」(沼上社長)また、沼上社長は、懇親会や飲み会の席では、積極的にパートの隣に座ってコミュニケーションを取るように心がけています。「飲み会の場は、私からパートさんの横に座るようにします。そうすれば、いろいろな話
ができますから。『ここ、空いてる?』と声をかけると、たいていのパートは『社長、嫌です(笑)』と言いますが、『ここしか空いてないんだから、しょうがないじゃん』と座って話をしています(笑)」(沼上社長)「株式会社ロジックスサービス」の菊池正則社長は、武蔵野に倣ってパート戦力化のための取り組みを進めてますが、中でも、「飲み会の回数に比例して、パートが辞めなくなった」と言います。「飲み会や食事会を開くようになってからわかったことですが、主婦の方は、ご主人やお子さんの手前もあって、自分だけ外食をしたり、飲みに行くのはむずかしいようなんです。でも、飲み会が会社の行事になっていたり、社長と一緒だとわかれば、言い訳が出来ますよね。パートさんが参加できる食事会は年に7回ありますが、ほとんどのパートさんがすべての食事会に出席しています。一次会だけではあきたらず、夜中の1時、2時まで飲んでいるパートさんもいますね(笑)。食事会の半分以上は『全員参加しないと、会社がお金を出さない』ルールで、『みんなで行けばタダになるから、行こうよ!』と、パートさん同士が声をかけ合っています」(菊池社長)「ロジックスサービス」では、飲み会を増やしたことで、社長とパート、社員とパート、パート同士のコミュニケーションが取れるようになって、意見を言いやすい、風通しのいい環境ができています。「普段言いづらいことも、飲み会の席なら言えますよね。上司やご主人に対する不満、私への悪口も言いたい放題ですが(笑)、それでいいんじゃないでしょうか。飲み会の席で愚痴をこぼしあって盛り上がるのが、正しいパートさんだと思います」(菊池社長)
コミュニケーションの量に比例して組織は強くなる
言いたいことを言える環境づくりを
「ヤマヒロ株式会社」(東京都/山口寛士社長)は、昭和シェル石油のトップディーラーとして、首都圏で34店舗のサービスステーションを運営しています。社員数は110名、パート・アルバイトは合わせて264名です。34店舗にはそれぞれ店長がいるが、山口社長は、「昔と今では、『優秀さ』の質が変わってきている」と感じています。
「かつてのヤマヒロは、洗車やオイル交換、車検といったサービスを目先の利益で販売していました。お客様も車に詳しくないためにそれで実績が向上していましたし、数を多く売る人が優秀でした。しかし、今ではお客様満足のために、その場での販売ではなく、お客様にとって正しいタイミングで販売するやり方に変わっています。そのために必要なのは「個々の売る力」ではなく、会社の方針に合わせて行動する能力と部下をマネジメントする能力です。会社の取り組みを理解して、それに合った行動をしっかりできる人が、店長として結果を出していると思います」(山口社長)店長全員にエナジャイザー(参照)を受診させた結果、クルー(ヤマヒロでは、パート・アルバイトのことを「クルー」と呼んでいます)を戦力化できている店長は、共通して、「世話好きで、仕事に楽しさを求める」ことが判明したと言います。世話好きで、仕事の価値観に「楽しさ」を重視する人は相手の気持ちを汲み取り、合わせることができます。山口社長が信頼をする「セルフ武蔵村山SS」の下川智樹店長も、「世話好きで、仕事に楽しさを優先する店長」のひとりです。「僕が心がけているのは、素直な気持ちでクルーと接することです。僕はまだ25歳で、僕より年上のクルーも、僕より仕事ができるクルーもいますが、それでも、店長として思ったことは素直に言う。一方で、クルーから『こうしてほしい』という提案があれば、素直に耳をかたむける。いいと思ったものはすぐに取り入れますし、できなければ『できません』とはっきり伝えます。店長もクルーも、『言いたいことが素直に言える環境』をつくることが大切だと思います」(下川店長)また、山口社長は、「社長と社員、社員同士、社員とクルー、クルー同士が同じ価値観を持つ前提でコミュニケーションを取ることが大切だ」と考えています。「パートを戦力化すること」は、すなわち、「全従業員が同じ価値観を持って仕事と向き合うこと」に他なりません。「ヤマヒロ」が価値観を共有するために注力しているのが、環境整備です。「店長は店舗ではトップで、自由に仕事をしてもとがめられません。物も適当な場所に置くし、仕事も独自のやり方をするようになる。ですが、それではノウハウを横展開することも、クルーの価値観を揃えることもできません。各自が好き勝手にやっていると、業績は決して良くならないと思います。そこで環境整備を導入し、定位置管理、定数管理の徹底を図っています。環境整備を徹底すると、クルーの価値観が揃います。情報共有もしや
すい。環境整備をはじめたことで、会社の方針や決定を守る組織に変わってきた気がします。中には、環境整備に反発して辞めた人もいますが、その代わり、残った社員の連帯意識は高まっているので、結果的にはいい方向に進んでいます」(山口社長)
パートと社員のコミュニケーションが良くなれば、会社が儲かる
「株式会社近森産業」の白木久弥子社長は、「社員とパートのコミュニケーションの親密さと業務改善は比例する」と感じています。「かつて、食品製造部門では、原価計算や棚卸しがまったくできていませんでした。私が『お弁当の原価は何パーセントですか?』と聞いたら、『わからない』という返事が戻ってきたんです。原価率は高くても40%までと思っていましたが、計算をすると、なんと、70%もあって……(笑)。それ以外にも、こんなことがありました。減っている原材料の数と帳簿の数が合わないので、『おかしいな』と思ってパートさんに確認をしてみたら、『お惣菜を運んでいる途中で転んでしまって、全部床に落としてしまった。それをゴミ箱に捨てた』と言うのです。こうした原因を突き詰めていくと、社員とパートのコミュニケーション不足が明らかになりました。そこで、正社員がパートと一緒に仕事をしたり、日報を書いてもらったり、朝礼をしたり、環境整備に取り組んだ結果、少しずつ無駄がなくなって、工場の利益が500万円も上がったんです。また、近森産業では病院に併設する駐車場の管理もしています。あるとき、現場のパートさんが本社に電話をすると、『今、忙しいから、かけてこないで』と言って切る社員がいました。病院から、『駐車場の誘導係の態度が横柄だ、とクレームがこちらに届いている。近森産業さんには、近く、駐車場の管理業務から撤退してほしい』と通告を受けたこともありました。ところが今は、病院の関係者から、『パートのみなさんの態度がすごくいい。気持ちの良い挨拶をしてくれるし、側溝の泥の掃除までしてくれている』と、以前とは正反対の評価をいただけるようになったんです。別の駐車場の管理も任せていただけるようになりました。これもすべて、社員とパートのコミュニケーションが良くなって、価値観が共有できるようになったからだと思います」(白木社長)武蔵野の「クリーンサービス事業部第2支店」の馬場一江は、コミッション体系(歩合制)の従業員です。時給や日給ではなく、成果に応じて規定の営業手当を支払っています。馬場は勤続20年ですが、長く続けられた理由に、人間関係を挙げています。
「武蔵野で働いている人は、みんな、人がいいですね。私は雇用形態の関係で人事異動はありませんが、上司となる社員は頻繁に変わります。でも、『この人嫌だな』とか『仕事がやりにくいな』と思ったことは一度もないんです。めずらしいことですよね。いつの間にか20年も経ちましたが、小山さんは『定年もないし、死ぬまでいていい。自分の体が動くうちはうちにいていい』とおっしゃっているので、健康でいるかぎり、将来も安泰かな、と思っています(笑)」(馬場)また、「ダスキン事業部第2支店」に勤務する荒井初江は、毎日、「焼きおにぎり」をつくって、頑張る社員をねぎらっていました。「つくっていたのは、ずいぶん昔のことですけどね。あるとき、焼きおにぎりをつくっていったら、『おいしい』と喜んでくれたんです。それからは、毎日つくるようになって……。『他の人には言わないでね。あっちの人にはあげてないんだから』と、みんなに同じことを言いながら、結局は全員にあげていましたね(笑)。そういうことをして、名前を売っていただけですけど(笑)」(荒井)荒井本人は「私は人間がおかしいから、嫌だと思わないだけ(笑)」と笑い飛ばしますが、「武蔵野の従業員は兄弟みたいに仲良し」だと彼女が言い切れるのは、荒井自身が努力をして、積極的に他の従業員とコミュニケーションを取ってきたからです。「サービスマスター事業部東伏見支店」の小林まゆみは、正社員として入社し、結婚後に退社。10年パートとして活躍し、現在パート課長をしています。勤続年数は17年です。小林は、「朝起きたとき、『ああ、会社が嫌だな。行きたくないな』と思ったことが一度もない」と話しています。「『今日は忙しそうだな』と思うときはあっても、『会社に行きたくない』と思うことはないですね。家族的な雰囲気があって、みんなとても仲が良いので、人間関係のストレスを感じることはほとんどありませんし、『あなたはパートだから』と差別されることもありません。私はすごく上司に恵まれているので、何か困ったことがあっても、すぐに相談できました。最初に社員で入ったときの上司は、パートの佐々木部長でした。もう引退されていますが、本当に母親のような存在で、何でも相談できる方だったんです。結婚のことも相談しました(笑)。今の店長も、パートの山本有子です。それに、小山さんは、パートも社員も関係なく評価してくれています。『これをやっていなかったから、今回はこれだけしか時給が上がらない』というルールも明確になっているので、納得度が高いですね」(小林まゆみ)
職場で揉め事を起こさせない武蔵野のしくみ
メリーメイド事業部にロッカーがない理由
わが社が、「メリーメイド事業部」(家事を代行するサービス)をはじめたとき、オフィスには個人ロッカーがありませんでした。なぜだと思いますか?ロッカーを買うお金がなかったからではありません。理由は2つあります。ひとつは、大きな荷物を持ってくる人がいなかったからです。ほとんどのパートが、自転車や徒歩で身軽に通勤していたので、カバンを置けるスペースがあれば十分でした。もうひとつの理由は、パートに自慢をさせないためです。メリーメイド事業部では、お客様のお宅にうかがうときに、結婚指輪以外のアクセサリーをしてはいけない決まりです。ですが、ロッカーがあると、「外出するときだけ外せばいい。ロッカーの鍵をかけておけば安全だ」と考えて、高価なアクセサリーや時計を職場に持ってくるようになります。すると、パート同士が見栄を張り合うようになり、妬んだりするようになる。妬みや、嫉妬などの感情は、やがて陰口やいじめの原因になります。反対にロッカーがなければ、安全に保管することができないので、高価なアクセサリーをしようとは思わなくなります。ロッカーを置かないのは、「自慢ができないしくみ」です。
仕事の揉め事の多くは、プロセスの違いが原因
パートのAさんとBさんの意見が対立したとき、どちらか一方の意見を採用してはいけません。「えこひいき」と受け取られるからです。仕事上の揉め事の大半は、「プロセス」に対する考え方の違いが原因です。富士山に登るのに、「私は静岡側から登りたい」「私は山梨側から登りたい」とルートで揉めるようなものです。最終的な目的は同じなのに、そこまでの手段に違いがあると、相手を許せなくなります。当事者は「自分が正しい」「相手が間違っている」と思うので、自分に都合のいいことしか話しません。ですから、トラブルを解消するには、双方の意見を平等に聞く必要があります。AさんとBさんが仕事のやり方をめぐって対立したときは、「費用はどちらが安いか」「時間はどちらがかかるか」など、物事を細分化して検証する必要があります。2人の意見が大筋では同じで、部分的に食い違っている程度なら、「今週はAさん中心でやる。次の週はBさん中心でやる」と、1週間ごとに変えていくのもいいでしょう。
武蔵野の法律は「小山昇」
Aさんは「自分が正しい」と思っている。Bさんも「自分が正しい」と思っている。2人とも「自分が正しい」と思っているときに、意見をひとつにまとめるのは無理があります。そんなとき私は、こう言います。「Aさん、あなたの意見は正しい。Bさん、あなたの言うことも正しい。2人とも正しいことを言っているけれど、実は、どちらも正しくありません。なぜだと思いますか?この会社の法律は、『小山昇』だからです。だから私に従ってください。私に協力してください」私がこれほど強く言えるのは、社長以外に責任を取ることができないからです。「責任を取る」とは、「経済的に損をする」ことです。社長は、自分が決めた方針を実行させると、それによって発生する損害に対して全責任を負う覚悟をしています。責任を取る覚悟のある社長が示す決定と、そういう覚悟がないパートの意見では、どちらを優先すべきかは、言うまでもありません。
女性同士の職場では、100%揉め事が起きる
「ホームインステッド事業部」(高齢者のための生活支援サービス)には、オフィススタッフ24名と、現場スタッフ300名が働いています。そのほとんどが女性です。事業責任者の由井英明本部長は、「これまで、女性組織を数多く担当してきましたが、例外なく、必ず、絶対に、人間関係の問題がありました。問題がなかったことは、一度もありません」と力説します。「女性同士の問題は男性同士と違って、解決までに大変な労力が必要です。非常に根深いものがあるので、1、2ヵ月で解決することはありません」(由井)「パート同士の修羅場」をいくつも見てきた由井は、「職場の派閥を許したり、お局様、主、ボス、ドンと呼ばれる人を生み出す根本的な原因は、マネジャー(パートをマネジメントする社員)が『任せる』という怠慢をしていることにある」と考えています。「武蔵野は、人事異動が多い会社なので、社員が同じ職場に長くいることはありません。ですから、パートさんのほうが社員よりも現場をよく知っているし、実力もある。だから新任のマネジャー(社員)は、『自分よりもパートさんのほうが仕事をよくわかっているから、任せたほうがラクだ』と考える。マネジャーは、『この仕事はよくわからないから、パートにやってもらおう』『これもわからないから、パートにやってもらおう』と仕事を簡単に振ってしまう。すると、パートさんの中から、『私の天下だ』と勘違いをして、ドンになろうとする人
があらわれます。簡単に言うと、お山の大将です。本当はマネジャーが主導権を握って組織を動かさないといけませんが、パートのドンがすべてにおいて『責任者』となって、自分がやりやすいように職場を仕切ろうとします。そして、派閥やいじめがはじまるわけです。でも、最初から『職場をギスギスさせよう』とか『いじめてやろう』と思って入社するパートさんはいないわけですから、ドンをつくった原因は、私たち社員の管理能力に問題があると思います。つまり、社員が『パート任せ』にしたことが原因です。とくに、ホームインステッド事業部は、介護の知識や技術を覚えないといけないし、100名近いスタッフのことも覚えないといけないし、マネジャーには覚えることが山ほどあるんですね。そこをないがしろにしてパートに全部任せてしまうと、絶対に問題が起きます。女性は、与えられた仕事に対しては責任感を持ってやり続けるので、任せれば任せるほど責任感がどんどん増していって、最後はドンに変わるわけです(次の図参照)。『任せる』という行為は、『パートと同じようにその仕事ができる人』がすべきことであって、『自分ができないことを人にやらせる』のは、『任せる』とは言わないのではないでしょうか」(由井)
パート同士の人間関係を改善するために、由井が心がけているのは、「話をしっかり聞くこと」です。「パートさんの要望や悩みを聞く前にこちらから『こうしてほしい』と言っても、絶対に受け入れてはもらえません。ですから、先に話を聞くようにしています。いちばんいいのは、問題が顕在化する前に話を聞いてあげることです。私は定期的に各ステーションを回って、パートさんに、『どう?何か困っていることはありますか?』と声をかけています。すると、『現場の声』が聞けるので、問題が大きくなる前に対処することができます。聞いたその場で『わかりました。今からこうします』とすぐに改善指示を出すこともありました。『飲食は人の心を緩ます』と言いますが、パートさんを誘って食事に行って、『みなさん、おつかれさまで~す』と餌を撒いて(笑)、話しやすい環境をつくることもありますね」(由井)人から話を聞くときは、関係者全員に、モレなく聞くことが大切です。一部の人の話しか聞かないと判断を間違えます。なぜなら、人間は、自分に都合のいいことしか話さないからです。「自分に都合のいいことしか話さない」とは、「噓をつく」ことではありません。「自分にとって都合が悪いことは言わない」ことです。「自分に都合が悪いことは言わない」のがまともな人です。Aさん、Bさん、Cさんの3人がモメていたら、3人全員に話を聞く。そうしなければ、正しい解決は望めません。由井はかつて、コミュニケーション不全を起こしていたAさん、Bさん、Cさんの3人を集めて話を聞き、そのあと全員に付箋紙を渡して、「このステーションが良くなる方法を書き出してください」とお願いをした。そして全員の付箋紙を壁に貼って、改善点を整理し、その中からひとつだけ、ルールを決めました。そのルールは、「笑顔で、大きな声で、相手の目を見て挨拶をする」ことです。「最初はぎこちなかったのですが、少しずつ、挨拶も、対話も増えてきて、今はまったく違和感なく、全員が仲の良いオフィスに変わりました。まさかこんなに良くなるとは、正直、思っていなかったですね。3人には感謝しています」(由井)
どうして「女性組織の長」は出世が早いのか?
武蔵野では「女性組織の長」を経験しないと、部長になれない
女性組織は、男性組織よりもマネジメントが大変で、女性組織の長を経験すると、管理職としてのスキルがアップします。したがって、武蔵野では、「女性組織の長を経験する」=「出世コース」です。ところが、わが社の社員は、そのことがまるでわかっていません。「女性組織への異動を命じられる」=「大変な組織へ飛ばされる」=「左遷」と考えています。現在、「ホームインステッド国分寺ステーション」のマネジャーを務める舩木友和も、女性組織の中でマネジメント能力を磨いたひとりです。舩木は入社14年目。異動が多く、本社の内勤以外は、ほぼすべての事業部を経験しています。今から10年ほど前、女性組織の「ハーティ部門」(定期的にお客様を訪問し、モップやマットなどの交換をする仕事)は、勤続45年の優秀なマネジャー、辻岡公江が担当をしていました。ところが、辻岡が体調を崩して入院することになったため、代役を立てることになった。本部長(現役員)の佐藤義昭が白羽の矢を立てたのが、舩木友和です。理由は、「いつも笑っているから」。当時の舩木は、芯のないこんにゃくのように頼りなかったのですが、「船木は何があっても笑っているから、女性にはいいんじゃないか」と言う佐藤の言葉を信じ、抜擢しました。「当時、私は30歳ぐらいでしたが、パートはみなさん、自分の母親と同じかそれ以上の年齢の方ばかりで……。私自身も女性に慣れているわけではなかったので、本当にもう、笑っているだけの状況でした(笑)」(舩木)しかし、そんな舩木を50歳以上のハーティさんたちは、息子のように育ててくれたのです。舩木は4年間在籍し、見事、課長に昇進しました。「その後、国分寺支店に異動になったのですが、そこでは部下が男性ばかりだったので、とても楽でした(笑)。女性は、『なぜやらなければいけないのか』をきちんと説明しないと動いてくれませんが、男性社員は、『やってきてね』と言うだけでやってくれましたから(笑)」(舩木)わが社の部長の多くは、女性組織のメリーメイドやホームインステッドの長を経験しています。女性組織への配属は、「部長になれるかどうかの登竜門」であり、チャンスです。
女性陣に「あーだ、こーだ」と言われたことのある人間は、やがて、より大きな組織をマネジメントできるようになります。
女性組織の潤滑油
「イワシ」という魚は、とても傷つきやすく、水槽の中で自由に泳がせるとすぐに傷がついてしまいます。イワシ同士がぶつかり合ってしまうからです。イワシ料理の専門店などでは、イワシに傷がつかないようにするため、水槽に、「サワラ」などの大きな魚を入れています。イワシがサワラのまわりを回って、一定方向に泳ぐようになるので、ぶつからなくなります。私は、女性組織にも同じことが言えると考えています。女性だけの職場は、人間関係の衝突が多くなってしまう。そこで、男性をひとり入れると、女性同士のぶつかり合いがなくなって、組織が変わります(同様に男性だけの職場に女性をひとり入れると、男性の行動が変わります)。「女性だけの組織」にサワラ(男性)を投入するとき、私の経験上、もっとも適任なのは、「妻帯者」です。いちばん向いていないのは、彼女が一度もいたことがない独身男性です。なぜなら、女性の心理がわからないからです。40代~50代のパート組織に男性上司を入れる場合、適任者(妻帯者)がいないときは、「若くて、経験が浅い男性社員」を登用しています。パートは、その上司が経験不足で能力がないことをすぐ見抜きますが、一方で「手助けしてあげたい」と母性本能が働くようです。常務取締役の滝石洋子も、「サワラ1匹(男性社員をひとり)を放り込むと、女性組織の秩序が保たれる。サワラがいるのと、いないのとでは、全然違う」と話しています。「武蔵野は頻繁に人事異動があるので、上司がすぐに変わります。パートさんも上司を冷静に見ているので、お昼休み中にみんなで集まって、『ABC評価で言うと、今度の上司はB評価だね』なんて話し合っています(笑)。私が以前、『新しく来た上司はどう?』と聞いたら、あるパートさんが『ちょっとイマイチかな』と言うので、『じゃあ、鍛えてあげてよ』とお願いしたら、『わかりました!できないって言ったって、うちの子より、マシよぉ~』と元気な返事が返ってきました(笑)。ただ、女性組織のマネジメントは大変なので、サワラもだんだん活きが悪くなってきます。そんなときは小山に、『そろそろ、新しいサワラお願いします!』と(笑)。最近の若いサワラは、女性化というか、草食化していて、サワラだかイワシだかわからないときがあります。それは困るのですけどね(笑)」(滝石)
満足度が高い「がんばったパート・アルバイト懇親会」
パートのモチベーションを上げるために、私はパートやアルバイトと食事をしたり、一緒にお酒を飲んだりして、積極的にコミュニケーションを取っています。中でも、年2回開催している「がんばったパート・アルバイト懇親会」は、パートの満足度がとても高い食事会です。各部門から選ばれたパートと私が、「おいしいイタリアン」を食べ、「おいしいワイン」を飲みながら、2時間、楽しいひとときをともにします。普通の会社では、「出勤日ではない日に会社の飲み会に参加したくない」「職場の飲み会が苦手なので、断りたい」と考えるパートが多い。ところがわが社は逆で、たくさんのパートが、「がんばったパート・アルバイト懇親会」を楽しみにしています。参加希望者が多すぎて、各部長は人選にひと苦労です。会場となるレストランは、毎回、同じお店を選んでいます。場所を変えると、「あっちのお店のほうが良かった」と不満が出るからです。料理も毎回同じです。この懇親会は、「パートからのあらゆる質問に社長が答える」ルールです。パートひとりにつき、10個~15個の質問を考えてくるため、懇親会の間中、私は、質問ラッシュにさらされます。そこで、パートから「子育て」や「健康」に関わる質問が出たときは、わが家の天皇陛下(妻)にバトンタッチして、私のかわりに答えてもらう。そうしないと、せっかくのおいしい料理も、おいしいワインも口にできないからです。質問の内容は、仕事のこと、趣味のこと、子育てのこと、恋愛のこと、なんでもOK。実際に懇親会でされた質問の一例を紹介しましょう。パートA「小山さんは学生時代、どんな部活動をしていましたか?」小山「中学のときはマラソン。高校は、放送部、生徒会役員、演劇部、女子バレー部のマネージャーの4つを掛け持ち。大学時代はマージャン。マージャンが好きすぎて、大学に9年通うことになった(笑)」パートB「わが家には、来春、新社会人になる息子がいますが、武蔵野の新人
教育で心がけていることは何ですか?」小山「セールス研修(550円の食器洗い用スポンジを飛び込み営業する)などを受けさせて、小さなストレスをかけておくこと。なぜなら、ストレス耐性が低い社員は、うつ状態になりやすいから」パートC「週1日、休肝日を設けていますが、もう1日増やしたい。良い方法はありますか?」小山「奥さんに1万円預けておいて、達成できたら戻ってくるようにすればいい」パートD「会社では小山さんがいちばん強いけれど、ご家庭では小山さんと奥様、どちらが強いですか?」小山「奥様。私の返事は次の3つのどれかしかない。『はい』か、『イエス』か、『喜んで』(笑)」パートE「小山さんがはじめて営業をやった頃の話を教えてください」小山「他の社員よりも、圧倒的に、営業力がなかった。そこで、営業成績トップの星野さんの真似をすることにした。普通の人は仕事しか真似しないけれど、私は、遊び方も、私生活もすべて、徹底的に真似をした。そうしたら、営業成績がトップになった」パートF「人前で話すときに緊張してしまいますが、どうしたら話すのがうまくなりますか?」小山「緊張するのは、『よく思われたい』という気持ちがあるから。それと、『練習をしていない』から。背伸びをしないで、自分にできることだけやればいい。それと、毎回違った話をしようとしないで、話慣れた同じ話をすればいい」パートG「女性だけで仕事をやっていくときに、コミュニケーションを円滑にする方法を教えてください」小山「話し合いをするときは、最初に、早く生まれた人や長く働いている人の意見を聞くこと。順番が大事」パートH「失敗したときに、気持ちを切り替える方法を教えてください」小山「まず、私は落ち込まない。なぜなら、落ち込んだところで事態は良くはならないから。失敗しても全部プラスに考える。コップに水が半分入っているとき、ある人は『半分しかない』と考えるが、私は『半分もある』と考える。『コップに水が半分入っている』事実はひとつ
だから、あとは、自分に都合のいいように考えればいい。わざわざ、自分に都合の悪いように考える必要はない」みんな最初は緊張していますが、10分もすると打ち解けてきて、何でも話すようになり、最後は、「楽しかった」と笑顔で帰っていきます。「がんばったパート・アルバイト懇親会」に参加したことがある「コールセンター」勤務の牛島絵里奈は、会の印象を次のように振り返ります。「仕事のことでも家庭のことでも、小山さんはどんな質問にも答えてくれますね。普通なら教えてもらえない『エナジャイザー』(参照)の診断結果も、この場でなら教えてもらえます。社長との距離がとても近いので、特別感のある懇親会です。この会の満足度はとても高いですね」(牛島)
第5章「価値観」重視で採用しなさい
「能力」で採ってはいけない
能力が高い人よりも、価値観が合う人を採用する
世間一般の会社は、「優秀な人」を採用したがりますが、私は、いくら優秀でも、「エゴが強い人」(利己的な人)は絶対に採用しません。わが社では、社員も、パートも、「能力よりも価値観の合う人」を選んで採用します。能力や資質は、二の次です。わが社のパートが辞めないのは、「価値観が合うこと」を最優先にしているからです。わが社の文化になじめないパートが入社すると、本人にとっても、わが社にとっても不幸です。スキルは、教育によって高めることができますが、性格だけは私の力では教育できません。教育できたとしても、時間がかかる。中小企業のわが社に、悠長なことをしている余裕はありません。いくら頭が良くて能力が高くても、会社の考え方に従えない人は、結果として戦力になりません。能力のある社員を集めても、価値観が揃っていなければ、組織はバラバラになる。一方で、価値観が揃っていれば、同じ優先順位で行動するため、少しくらい能力が劣っていても、組織力で勝負できる。したがって、環境整備や社内アセスメント、バスウォッチングなど、わが社の文化を違和感なく受け入れられる人材を採用しています。「株式会社アムズプロジェクト」の平沼正浩社長が実施している「お見合い研修」も、会社とパートの相性を見極めるしくみのひとつです。「アムズプロジェクトでは、新人のアルバイトが入ってきたら、先輩アルバイトと新人を『お見合い』させています。要は、先輩アルバイトを新人の教育係にするんです。そして、1週間経ったら、店長、古株、新人の3人で飲み会を開いて、お見合い研修の振り返りをしています。新人は、先輩アルバイトと終日行動をともにするので、会社や仕事に疑問があれば、お見合い期間中に解消することができます。立場や仕事内容が違う人から教わるより、同じ現場の先輩から教わったほうがわかりやすいですし、指導を受けている間にコミュニケーションも取れるので、職場の雰囲気に馴染みやすくなります。また、指導を任された先輩アルバイトも、『人に何かを教える』という経験を通して、自分を成長させることができます」(平沼社長)
1週間お見合いをして、双方ともに「気が合う」とわかったうえで一緒になるから(雇用契約を結べば)、離職率を低くすることができます(お見合い研修や経営計画書の徹底などの取り組みが功を奏し、数年前まで57・8%あった「アムズプロジェクト」の早期離職率は、32・5%にまで減っています)。
能力があっても、仲間と仲良くできない人には辞めてもらう
同じ能力なら、元気で明るく素直な人を採用します。また、コミュニケーション能力や協調性も大切です。武蔵野には、レクリエーション的な行事がたくさんあります。仮に「そんなの仕事とは関係ないので参加しません」と言うパートがいたら、場をしらけさせます。私は、能力よりも、「職場の仲間と仲良くできること」を評価しています。今から数年前、個人面談を通して、「派閥によるいじめ」が発覚しました。私はすぐに派閥のリーダーを呼んでこう言いました。「あなたには経験も能力もあるので、いなくなったら会社は困る。困るけれど、今のまま会社にいられるのはもっと困る。なぜだかわかりますか?あなたがいると、他のパートさんがやりにくさを感じるからです。わが社では、能力があることを評価しません。あなたに人をいじめる権利はない。他のパートと仲良くできないのなら、この会社を辞めて他の会社へ行ってください」すると彼女は、「すみません、気をつけます」と私に頭を下げましたが、私は許さなかった。「気をつけるだけではダメです。今まであなたがいじめてきた一人ひとりに謝って、その人たちから『一緒に仕事をしてもいい』という許可をもらってきなさい。みんなから承諾を得られたら、会社に残ってもいい」彼女は全員に頭を下げ、それ以降、いじめはなくなりました。
パートにも、新人採用の決定権を与える
多くの会社では、社長や上司だけが人事権(採用権)を持っていますが、わが社では、現場にも決定権を与えています。新しいパートを採用するときは、「働きはじめて2週間以内に、職場の人たちの半数以上が『あなたと一緒に働きたくない』と言ったら、辞めていただきます」と説明しています。「パートの50%以上の賛同を得てから採用する」のが、経営計画書に明記されたわが社の
ルールです。2週間というのは、法的に認められた試用期間であり、試用期間内であれば解雇予告が不要です。会社が従業員を解雇する場合は、基本的に、「30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」必要がありますが、試用期間中のパートには適用されません。新しく入ってきたパートは、職場の人たちから嫌われないように言動に気をつけるので、いじめや嫌がらせが起きません。私は、男性よりも女性のほうが、相手の本質を見抜く力があると思っています。相手(新しいパート)が猫をかぶっていたとしても、女性(古株のパート)は騙されません。ですが、わが社の男性社員は、コロッと騙される。新しく採用したパートがどういう人なのかを判断するには、同じパート仲間にヒアリングする。そのほうが、正確な評価が下せます。「日昭工業株式会社」でも、パートに、「新規採用の決定権」を与えています。現在、日昭工業では、ベトナム人の雇用を進めていますが、久保社長は、現地(ベトナム)にパートを派遣して、パートに採用を任せています。パートでも社員も、『やってみたい』という人に仕事を任せてみるのが、久保社長の基本的な考え方です。「『ベトナムに行って、現地で採用をしてみたい人はいない?おいしいワインも飲めるよ』と声をかけたら、手を挙げたパートがいたんです。なので、任せてみようかと。私がベトナムに行って採用を決めてくると、パートさんは他人事と考えてしまって、新人の面倒見が悪くなることがあります。ですが、自分で選んできた人材であれば、面倒を見たくなりますよね。それが狙いです」(久保社長)
「採用」ではなく「定着」が最優先!
新しい人を採用するより、今いるパートを辞めさせないことが先決
私は「新しいパートを採用すること」より、「今いるパートを辞めさせないこと」が先決だと考えています。人が採れない時代に必要なのは、採用ではなく、定着です。「今いるメンバー」が最善だと考え、「今いるメンバー」の戦力化を図るべきです。どれほど人を集めても、すぐに辞めるようだと、「あの会社はダメだから、やめたほうがいい」と口コミを広めることになります。多くの社長は、「今よりも優秀なパートがほしい」と考えますが、今いるパートも、「もっと良い会社で働きたい」と思っています。
でも、そうしないで残っているから、「会社にとって、今いるパートが最良のパートナー」です。だとすれば、今いるパートに感謝しなければなりません。多くの社長や管理職は、パートに対する感謝の気持ちが希薄です。だから、「あのパートのあそこが悪い、ここが悪い」と文句ばかり言うようになる。感謝の気持ちがあれば、怒鳴ったり威張ったりしないで、パートの「良い部分」を見つけてほめることができるはずです。
会社がヒマなときに採用したパートは、辞めやすい
「会社がヒマなとき」に採用したパートと、「会社が忙しいとき」に採用したパートでは、どちらの定着率が高いと思いますか?答えは、「忙しいとき」です。会社がヒマなときに採用したパートは、定着しにくい。なぜでしょうか。社長や幹部に時間があるので「細かいことまで教えすぎる」からです。一度にたくさんのことを教えるから、ストレスを感じて辞めてしまうのです。反対に、忙しいときは、少しずつしか教えられないので、パートは段階的に覚えることができます。花は、水をあげすぎると根が腐る。あげないと枯れる。パートも同じです。ちょうどいいのは、「手を離して、目を離さない」ことです。新人パートを指導する場合は、「自分が教えたいと思うことの3分の1程度」からはじめて、できるようになってから、教える量を少しずつ増やしていくのが正解です。
お世話係を導入して早期離職を防ぐ
「株式会社未来」(愛知県/山口俊晴社長)は、化粧品の企画、開発、通信販売を行う会社です。「未来」では、お客様からの問い合わせを受けるカスタマーサポートを「おもてなしスタッフ」と呼んでいます。山口社長は、おもてなしスタッフの戦力化に向けてさまざまな取り組みをしていますが、パートの離職を防ぐポイントとして、次の2つを挙げています。「社員とパートを同じ基準で評価すること」と「コミュニケーションの量を増やすこと」です。「パートを社員と同等の戦力としてみなしています。社員とパートを切り分けたりせず、業務内容も、評価も、同じ基準で考えています。勤務時間帯や扶養といった条件以外に、違いはありません。社員との差をなくすことでパートもやる気を出しますし、成長も早くなると思います」(山口社長)
また、コミュニケーションの量を増やすために、2ヵ月ごとのランチ会、毎月の面談、朝礼などを実施して、会社の価値観をさまざまな場面で伝えています。「『お世話係制度』を導入してから、おもてなしスタッフの早期離職はゼロになりました。入社してから3ヵ月間は、先輩スタッフが新人パートの『お世話係』になって、仕事の進め方や会社の方針などを指導しています(月1回のランチや面談などを実施)。新人パートのさまざまな悩みや不安をお世話係が解消してくれるので、新人の定着率が劇的に向上しました」(山口社長)
「高待遇」じゃなくてもパートは集まる
求人広告のメインコピーには、自社の強みを打ち出す
「株式会社エネチタ」の後藤康之社長は、「愛知県という地域柄、トヨタ系の企業に人材が集中している」と危機感を感じています。「トヨタに比べたら、当社の条件はどうしても見劣りします。ですから、条件以外の部分をアピールしなければなりません」(後藤社長)せっかく予算をかけてパート求人広告を出しても応募がないとしたら、その理由のひとつは、求人広告のメインコピーに、「自社の強み」が表現されていないことです。自社の強みや魅力がどこにあるのかを確認するには、「パート」に直接聞いてみるのがいちばんです。パートに、「どうしてうちの会社を選んだのか」を聞いてみれば、「仕事が簡単そうだから」「誰にでもできると思った」「休みが取りやすい」「時給が良さそう」と、いろいろな意見が出てきます。出てきた中でもっとも多い意見が「休みが取りやすい」なら、求人広告に、「休みが取りやすい会社です。子どもが病気になったときでも、安心して会社を休めます」と書く。すると、自社の強みや魅力が際立ちます。普通の会社の社長は、「こういう人に来てほしい」という「社長の思い」を強調しています。ですがわが社は、実際に働いている人の「現場の実感」を表現している。だから、人が集まるのです。「日昭工業株式会社」の久保寛一社長は、「子育て世代」の人材を確保するために、「自社の強み」を打ち出した採用をしています。「子どもが急に体調を崩して、母親が保育園から呼び出されたとしても、普通の会社で
は、なかなか早退しにくいと思うんです。ですが当社では、どんなに仕事が忙しくても、『はい、行ってらっしゃい!』と送り出しています(笑)」(久保社長)中小企業の中には、「子育てが終わった世代」を中心に採用する会社もあります。子どもが体調を崩すたびに、早退されたり、休まれたりすると仕事に差し支えるからです。ですが、久保社長の考え方は、反対です。「子どもの具合が悪くなったら、いつでもシフトを変えられる」ことをアピールした採用をしています。その結果、働くことを躊躇していた子育て世代の戦力化に成功しています。
働く理由は「お金」だとはかぎらない
「株式会社末吉ネームプレート製作所」の沼上昌範社長は、「30代の子育て女性には、優秀な人が多い」と話しています。「私の妻が『子育てをしている30代には、優秀な人が多い』と言うんです。『結婚して出産をすると、一度、社会から離れることになる。けれど、社会との接点を持ち続けたいと考えている人もいる。2、3時間の短い時間しか働けなくても、こうした女性を採用したら戦力になるのではないか』と……。そこで、子育て中の女性を採用したら、実際にすごく能力が高かったんです」(沼上社長)また、沼上社長は、「女性がパートとして働く目的は、必ずしも、お金がほしいからではない」と感じています。「あるパートに『時給を上げます』と言ったら、喜ぶどころか、『結構です』と断ってきたんです。理由を聞くと、『時給が上がると働く時間が減って、家にいる時間が増える。家にいるとお姑さんに気を遣う。それが嫌だ』と言うのです。本当に、働く理由は人それぞれだと思います。時給では他の会社にかなわなくても、仕事の中身、休みの取りやすさ、子育て世代がともに助け合うしくみなど、当社なりの付加価値を打ち出していけば、新しい人を採用することも、今いる人に居続けてもらうこともできると思っています」(沼上社長)「ダスキンケア事業部メリーメイド小金井支店」の南聖愛も、「社会とのつながり」を求めて武蔵野に入社したひとりです。「ずっと主婦だったので、家の中や学校など、狭い世界しか知らなかったんです。『もっと社会的につながっていたい』と思って仕事をはじめたのですが、それまで経験がなかっ
たことにたくさん直面して、『えっ?私って、こんなに何もできないんだ』とか、『やっぱり社会って厳しいんだ』みたいなことを肌で感じました。家の中ではたいていのことはできるし、大きな失敗もしませんが、社会に出ればそうはいかない。責任の大きさを痛感しましたね。でも、少しずつ『前の自分とは違う自分』を見つけられるようになって、『大変だけど、社会の中で責任を持てる人になりたい』と思うようになりました」(南)
「不人気業種」でもパートが集まる方法
「株式会社エヌエスケーケー」(兵庫県/玉田宗彦社長)は、au、ソフトバンクの代理店として、携帯電話キャリアショップ(auショップ3店舗、ソフトバンクショップ4店舗)を運営しています。「エヌエスケーケー」の従業員数は81名で、約4分の1がパートです。「ソフトバンクイオンモール伊丹昆陽」は、2017年3月に新規獲得件数で日本一を獲得、また「auショップJR六甲道店」でも過去に年間日本一を達成するなど、高い実績を上げています。携帯電話キャリアショップは、業界的に「慢性的な人手不足」と言われています。玉田社長も「意外と不人気業種なので、募集をかけても、なかなか人が集まらない」と感じています。「スマートフォンが登場してから、募集をかけても人が集まりにくくなった印象です。とくに女性の採用が厳しいですね。スマホが多機能化しているため、『携帯電話キャリアショップの仕事は、むずかしい』『専門的な知識がないと務まらない』『知識を身につけるための時間がない』と思われているようです。実際はそんなことはないのですが……」(玉田社長)そこで玉田社長は、従来とは違った採用方法を模索しています。「採用に関しては、2つの方法を考えています。ひとつは、窓口と事務作業を分けた採用です。携帯ショップの業務は、店舗接客だけではありません。単純な事務作業などもあるので、スマホの知識がなくてもできる仕事はあります。携帯ショップは、一般的に、『お客様がカウンターに座ると、目の前にいるスタッフが最初から最後まで担当してくれる』というイメージがあります。でも、窓口の人と、事務作業をする人を別々にしてもいいと思うんです。銀行がそうですよね。銀行では、窓口でお客様の対応をする人と、後ろで事務をしている人がいます。仕事を切り分けて採用をすれば、『携帯電話キャリアショップはむずかしい』という先入観をなくせるのではないかと考えています」(玉田社長)
ひとりのパートをオールマイティーにするのではなく、作業を分解して人を割り当てるという玉田社長の考えは正しい。武蔵野の業績がいいのも、業務を分担しているからです。以前の経営サポート事業部は、ひとりの社員が一気通貫でお客様の担当をしていました。このとき、新規の顧客獲得数は、「月に2件」くらいでした。ところが現在は、インターネットでお客様を集める部隊、集まったところに行く部隊、契約を取る部隊といったように、作業を分解しています。その結果、月の新規顧客件数は「10件」に増えています。携帯電話キャリアショップの営業時間は、10時~20時が基本です。ショッピングモールにある店舗だと、21時まで営業することもあります。二部制にするほど長くはありませんが、かといって、1日通しで働くと長い。主婦の場合、20時まで働くと晩御飯の準備ができないなど、家事をする時間がありません。すると、主婦のパートが集まらない。ですがこのような場合も、「午前中は主婦の人にお願いして、午後からは学生に代える」など、作業を分担することで課題を解消することができます。
シニア世代を積極的に採用し、戦力化する
玉田社長が考えるもうひとつの方法は、「シニア」の登用です。「シニア世代の落ち着きや明るさは、貴重な戦力になると考えています。商店街にあるショップだと、年配のお客様が多いんです。シニア世代がこれからスマートフォンを使おうと思ったときに、『同年代が接客をしてくれたほうが安心できる』という声もあります。携帯ショップは、基本的に扱っている商品も価格も同じで、差別化するには『人』だと思います。ですから、年配のお客様が多い店舗は、年配のスタッフで対応するのもアリだな、と考えています」(玉田社長)武蔵野には、iPadを使える70代のパートが5人います。シニアでも十分に戦力になることを武蔵野が証明しています。最初からスマホを使える人はいません。でも、教育をすれば必ず使えるようになります。「女性はITが苦手」「シニアはITが苦手」と決めつけないことが大切です。パートが戦力化できていないとしたら、その原因はパートにあるのではなく、社長のやり方、社長の考え方に問題があるからです。「これが正しい」という社長の思い込みは、多くの場合、間違っています。「パートの実力では、これくらいのことしかできない」「パートだから、ここまでしかやってもらえない」という固定概念を捨てることが、パート戦力化の大切な要諦です。
小山昇(こやまのぼる)株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業後、日本サービスマーチャンダイザー株式会社(現在の株式会社武蔵野)に入社。一時期、独立して株式会社ベリーを経営していたが、1987年に株式会社武蔵野に復帰。1989年より社長に就任し、現在に至る。「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を毎年増収増益の優良企業に育て、日本で初めて「日本経営品質賞」を2度受賞。著書に『強い会社の教科書』『残業ゼロがすべてを解決する』(ともにダイヤモンド社)など多数ある。
コメント