はじめに近年の不況の影響で正社員が行う業務には変化が起きつつあります。今までの手順が決まっている形式的な業務から、情報と状況を加味して意思決定を必要とする業務へと変化しています。今までの「○○の画面を開く」「どこそこのボタンを押す」「××の資料から数字を転記する」といった作業だけでなく、出てきた数値と現在の状況を見ながら別の処理を行うか意思決定するシーンが増えてきています。このような業務は意思決定のポイントを整理しにくいためマニュアルで掲載しないままになってしまいがちです。くわえて、不況が進んだ結果として、企業はコストを抑制するために人員を増やさない方向にシフトしました。その結果として、1人当たりの業務は増えて新規業務のマニュアル作成も既存業務のマニュアルを改訂する時間もなくなってきました。このように、マニュアルを見直す時間さえ失われつつある状況においても我々はマニュアルを重要なアイテムだと考えています。強い会社・強いチームを作るには強い個人がいなければなりません。マニュアルを正しく活用することは強い個人を作って行くためには不可欠です。そしてマニュアルを通じて、今まで属人的になってきた作業を見えるようにして、多くの従業員に考え方や技術を徹底していかなければいけません。本書は、読者の皆さんに対して既存のマニュアルを見つめ直し現状に合った形に見直してもらうことを主眼にしています。そのため、本書は原理原則だけでなく我々がコンサルティングの現場で培ってきたエッセンスをできる限り含めて書いています。1章では、昨今の業務の変化とマニュアルの関係を整理して、マニュアルを見直す必要性を説明します。2章では、マニュアル見直しをテーマとしつつもマニュアル作成に必要な知識やポイントについて説明します。3章では、近年浸透してきたタブレット端末を加味したマニュアルの姿とその導入の手順について説明します。4章では、実際にマニュアルを見直していく方法や作ったマニュアルを運用するコツについて説明します。最後の5章では、WikiやSNSを使った新しい電子マニュアルの考え方について説明します。構成についてはマンガを使ってマニュアル見直しに関するイメージをつかんでもらいながら文章パートで細かい部分の補足をする形で理解が進むように工夫しています。本書は、これからマニュアルの見直しをする担当者だけでなく、マニュアルを利用する社員の方にもぜひ一読していただきたい内容に仕上げました。本書が、マニュアル作成・運用業務に携わる皆さんのスキルアップに少しでも貢献できれば幸いです。
マンガでやさしくわかる業務マニュアル目次はじめに第1章今あるマニュアルをもっとよくしようSTORY1外国人が多く来店する新店舗!01今あるマニュアルを見直す02マニュアルの4つの機能を確認する03見直しがもたらす3つの効果第2章使われるマニュアルにつくり直そうSTORY2なぜお店は変われないのか?01活用されるマニュアルにする3つのチェックポイント02マニュアル見直しの3つの方向性ステップ1業務手順の有無を確認するステップ2業務手順を作成・改訂するステップ3業務要領の有無を確認するステップ4業務要領を作成・改訂するステップ5例外処理を作成・改訂するステップ6チェックリストを作成するステップ7理解しやすさの向上を図るステップ8探しやすさの向上を図るステップ9更新しやすさの向上を図る
ステップ10更新タイミングを明確化するステップ11更新担当者を選定する第3章マニュアルを電子化する7つの手順STORY3料理の盛り付けにITを加えると?00マニュアル電子化の手順ステップ1運用イメージを明確にするステップ2マニュアルソフトを選定するステップ3マニュアルソフトを載せるハードを選定するステップ4ネットワークとセキュリティ環境を整備するステップ5活用に向けたリテラシー教育をするステップ6意見共有の場を作るコラムITベンダーを選考する際の手順コラムハードウェアを選定する際の手順第4章よりよいマニュアルにするためにSTORY4お店にとって痛すぎる欠員!01マニュアル作成に適した担当者とは02業務マニュアルに適した文章とは03会社全体のビジョンやクレドを組み込む04動画マニュアルの基本的な考え方05動画撮影の手順
第5章マニュアルをより有効活用するヒントSTORY5達成感の向こうで待っていたもの01マニュアル改訂後にチェックすべきこと02マニュアルの限界を知る03マニュアルにない業務への対応
01今あるマニュアルを見直す近年はマニュアルにしにくい要素を求められる業務が増えています。実際、サービス業でもメーカーでも顧客から要求される品質レベルの高さが手順などで対応できるレベルを超えてきました。つまり、今までの手順だけでなく、各作業のカンやコツの部分がより要求される品質を満たすために重要になってきました。たとえば、サービス業だと接客の際のお客様への声かけやクレーム対応、工場だと製品や機械の感覚的な調整作業などです。これらは、単純に手順の説明だけでは不十分で、状況を見極めるポイントや感覚的な対応をうまく行わなければ、事故やクレームにつながる危険性があります。実際に、私たちが数十社以上のコンサルティングを行った経験を振り返っても、このようなポイントまでカバーされた業務のマニュアルをあまり目にしたことはありません。このような要求される品質レベルが上がっていく時流は、当面続いていくと考えられます。長い不況の影響で従来の定型的な業務は、主体が正社員から契約社員・派遣社員へと変わり、最近はシステム化・国内外へのアウトソーシングも進んでいます。つまり、社員が従来のマニュアルを使って行う業務は社内から徐々になくなっていき、勘やコツによる感覚的な判断をしなければならない業務が多くを占めるようになっていくと想定されるのです。このような状況下で、今まで勘やコツが必要とされた困難な業務の考え方や技術をいかに早く他の社員へ教育していくかというのが、これからの事業競争力の強化には重要です。「難しい業務だから」「経験が必要だから」と言って後回しにしていては、事業の成長にブレーキを踏んでしまったり、事故が起きてしまうかもしれません。そうならないためにも、早期に既存のマニュアルを見直し、作り替えていくことが重要です。昨今では、タブレット端末の普及、Wiki・SNSの浸透が進んでおり、動画の活用や他のメンバーとの情報交換などこれまでの紙媒体のマニュアルでは不可能だったことができるようになってきました。これらの機能と皆さんの業務の特性を加味して、今のマニュアルをより便利で魅力あるものに見直していくことが必要です。マニュアル見直しを通じて業務の再構築に取り組むことが大切です。
02マニュアルの4つの機能を確認する前項でも述べたように、これからは一層マニュアルが重要になってくるため、マニュアルを起点としたマニュアル経営が競争を勝ち抜く1つのポイントになります。では、マニュアルとはどうあるべきなのでしょうか?そもそもマニュアルには次の4つの機能があります。①業務を見えるようにする②業務そのもの、業務上の判断の基準を作る③基準を守るようにするための行動がわかる④ベストパフォーマーを作る各機能は①~④に向かって高次元になっていきます。まずはこの機能を理解するとともに今あるマニュアルが各目的を果たしているか確認するとよいでしょう。この4つの機能を備えたマニュアルを管理していくことがこれからのマニュアル経営において重要です。
03見直しがもたらす3つの効果ここまで述べてきたように、従業員1人当たり業務量増加、正社員の役割変化、タブレット端末などの新しいビジネスツールの登場により、マニュアルを見直す必要性が高まっています。このような外部環境へ即した形へと変化させるだけでなく、マニュアルの見直しは次の3つのような成果をもたらすことが知られています。①生産性の向上マニュアルが見直されていない場合、既存の業務とマニュアルが異なる場合や、最良のやり方が載っていない場合があります。マニュアルを見直すことによって既存の業務における最良のやり方を設定するため作業の生産性が上がります。②品質の向上今まで曖昧だった業務の意志決定のポイントがはっきりするため、手順を間違えることなく業務を遂行できるようになります。また、例外への対応やフォーマットなども整備されるため、業務の品質が向上します。③組織の活性化マニュアルを見直すことにより既存の業務が見えるようになります。業務が見えることによって、他のメンバーと各自の業務について議論することが簡単になります。マニュアルを起点とした議論が行われるようになるため、経験に基づいた議論からマニュアルにある事実を確認しながら「これからどうするべきか?」という議論を行うようになります。ぜひ、本書を読み進めてもらいマニュアルの見直し方を身につけるとともに、自社の業務にあったマニュアルへと見直しを行いましょう。
01活用されるマニュアルにする3つのチェックポイントマニュアルを見直したとしても、活用されなければ意味がないわけですが、「活用される」マニュアルにするには、次の3つの原則が欠かせません。皆さんが利用している業務マニュアルを見直す緊急度はどれくらいか気付くためにも一度チェックしてみましょう。□現在のマニュアルは当初想定した目的や活用シーンに合っているかマニュアルを見直すにあたり、「なぜマニュアルを作成するのか」、あらためて目的を明確にすることが重要です。外部審査がありマニュアルが形の上で必要だった、といった活用の目的が不明確なまま、とりあえずマニュアルを作成することも少なくありません。何のために、誰が、いつ、どうやって使うのかを明確にする必要があります。ただ誰にでもわかりやすいマニュアルというのは難しく、使い手の活用シーンを想定し、利用者を限定していくことでマニュアルの活用度が向上していきます。「誰にでもわかりやすい」を目指すと、結局、誰にも中途半端でわかりにくいマニュアルになってしまいます。□わかりにくくないか、探しにくくないか、更新しにくくないか「何が書いているかわからない」「マニュアルがあったんですか?」「更新の仕方がわからない」といった言葉を聞いたことはないでしょうか。マニュアルで重要なことは、利用者によって解釈が異なることをなくし、しっかりと頭に入るように、構成とフォーマットの統一、用語の統一、ビジュアル化などの工夫をすることです。困ったらすぐに探せるように、利用者にわかりやすい業務の体系化や内容構成の工夫が重要です。業務内容が変更された際は、柔軟に内容を更新できる工夫も必要です。□理解・活用してもらうための「仕掛け」を怠っていないかマニュアルは必要なとき、使いたい人が勝手に見るだろうと思っていませんか。日々の業務の中でマニュアルを活用できるシーンはたくさんあります。業務変更時、前のマニュアルとの相違点の明示、業務量調査を行うときの業務棚卸、業務改善のミーティング、仕事全体の流れをつかむ、など積極的にマニュアルの露出頻度を増やす「仕掛け」をし、「廃れさせず」「お役立ち感」を演出することが重要です。
02マニュアル見直しの3つの方向性実際に使いこなされるマニュアルにしていくにあたっては、見直すべき方向性は3つあり、どれが欠けてもいけません。①内容構成を補完する取り組み業務マニュアルを構成する主な内容は業務手順、業務要領(コツ)、例外処理とチェックリストです。業務要領と例外処理とチェックリストが抜けがちになるので注意が必要です。②理解しやすさと探しやすさ向上の取り組み使用者がわかりやすく、探しやすいマニュアルにするために、表現上の体裁やインデックスを整えていく必要があります。③更新を容易にする取り組み更新されるマニュアルにするためには、使用者が更新しやすくし、作成したマニュアルが放置されないように更新タイミングを明確化する必要があります。以降から、マニュアルの見直しの11のステップを紹介していきます。
ステップ1業務手順の有無を確認するマニュアルには「会社が手本・模範として最もよいと定めた業務の手順(標準手順)」を記載すべきです。「最もよい」とは、最善の手順を追求することではありません。たとえば、業務品質を追求するならば、検査を何度も行い、不良品を出さないような取り組みをするはずです。しかし、検査を繰り返すと検査コストが高くなり、商品の価格アップにつながってしまいます。業務手順を定めるときには、業務品質と効率(コスト)とのバランスを取ることが必要となります。最終的にはその会社の考え方にもとづいて判断することが重要です。つまり、「最もよい」業務手順とは、「コストと品質のバランスがとれていて、会社が現時点で最もよいと判断した手順」ということになります。売上拡大に伴う業務量の増加、品質基準の変化など、会社の状況は変化しているはずです。前任者から引き継いだときから業務手順が変わっていない、など、見直された形跡がない場合は「現時点では最もよい手順とはいえない」可能性があります。業務品質、効率、個人情報保護、業務上の安全などを踏まえ、業務手順を見直してください。
ステップ2業務手順を作成・改訂する業務手順の見直しは、次の4つのポイントをチェックします。①業務の範囲が変わっていないか見直すマニュアルの対象業務の範囲を再度確認します。一部の業務が他部門へ移管されるケースがあります。他部門との境目を明確にし対象の業務範囲を明らかにしていきます。②インプットとアウトプットが明確になっているか対象業務のインプットとアウトプットが明確になっているかを確認します。その業務を行うために必要なインプットとは何か、その業務を行うことで何がアウトプットされるのか、具体的な表現で整理します。業務のインプットとアウトプットが明確になれば、対象業務は何をする業務なのか、おのずとはっきりします。③実施すべき項目がインプットからアウトプットへとつながっているかインプットからアウトプットへ変換するために、やるべきすべての作業項目を抽出できているかを確認します。製造職場であれば安全面での視点、事務職場であれば個人情報保護の視点や不正を起こさせない牽制の視点などを十分に考慮します。品質を確保するためとはいえ、工程間に何度も検査を入れ、検査項目や検査箇所が重複していることがあります。あくまでも最低限必要な作業項目を抽出することが重要です。④最も効率的と考えられる業務の流れになっているか(手順の見直し)効率を重視し、改善案を検討する気持ちで、業務手順を見直すことが重要です。たとえば、手順を入れ替えることで、「動きが最も少なくなるようにする」とか、使用していないシステム入力項目を画面上から排除し、「操作画面が最小限になるようにする」という視点です。順序づけができれば、これが新たな標準手順になります。
ステップ3業務要領の有無を確認する業務手順を見直して、業務の流れが最新状態になっても、よりよい業務遂行はできません。そのためには新たな手順に沿った、業務要領(コツ)を加筆・修正することが必要です。コンサルティング先の企業のマニュアルを見せてもらうと、業務手順の解説部分は充実しているのですが、業務要領が書かれていないマニュアルが驚くほどあります。手順をビジュアルに表現し、完成したら終わりにする傾向があります。ミスを発生させないため、効率的に行うため、よりよいサービスを実現するため、情報流出を起こさないためにどのような場面で、どんなことに留意しながら業務を行ったらよいのかということを知り、実務でも実践できるようにしなければなりません。実務担当者が実務を行っている際に留意しなければならないことが業務要領であり、業務をうまく行うためのコツなのです。業務要領は、「業務をうまく行うためのコツ」であり、「組織としてのノウハウ」なのです。ですから、マニュアルに業務要領をしっかりとまとめることが非常に重要なことだと認識しましょう。
ステップ4業務要領を作成・改訂する業務要領は洗い出し方を工夫する必要があり、次の3つの方法で整理します。①ベテラン担当者と一般的な担当者の違いを比較研究する同じ業務を行っている実務担当者がいる場合には、複数の実務担当者に対象の業務を順番に行ってもらい、それぞれの担当者のやり方の違いを見つけて、違いの理由を確認していくのが有効です。ベテラン担当者と一般的な担当者では、2倍以上の効率差があることも珍しくありません。業務手順や方法を分析、比較し、具体的にどの作業で効率に違いが発生しているのかを明らかにします。製造現場や事務作業であれば、時間分析や動作分析を行うことが有効です。動作や作業時間に違いがある実施事項の差が、業務要領(コツ)になります。ただし、業務要領は実際に差が出る作業にあるのではなく、前段階に行っている確認や判断の部分に隠されていることがあるので、次に紹介する方法と合わせて実施することが必要です。②ベテラン担当者に確認する実際に対象とする業務を行っているベテランの実務担当者に確認する方法です。しかし、「業務要領を教えてほしい」と言われても、実務担当者にとっては日常的に行っている業務なので、うまく回答できないことが多いようです。業務要領を訊き出すには、業務を実際に行ってもらい、それを観測しながら、気になる点を「なぜ、そのようにやっているのか」と訊くなどの工夫が必要です。そして、比較研究した結果を活用すると、インタビューしやすくなります。実務担当者にとっては無意識で行っていることでも、非常に大切な業務要領が引き出せる可能性が高まります。③管轄部門に確認する品質保証、CS、ISO対応、SOX法対応、個人情報保護、法務など専門的に全社展開を行っている部門、担当者がいる場合には作成中のマニュアルをそれぞれの専門的な視点でチェックしてもらうとよいでしょう。たとえば、「お金を扱う業務では不正を発生させないために第三者の目でチェックが入るようにしなければならない」とか、「顧客の個人情報を含むデータベースの管理は会社の認定を受けた人しか行わない」など専門的な視点でマニュアルに漏れがないかを確認してもらいましょう。
ステップ5例外処理を作成・改訂する例外処理とは、「対象業務をある程度できる人でも留意しなければならない、特別な対応が求められる処理」「標準手順、標準ルールをまとめたマニュアルには記載されていない特別な対応が求められる業務処理」をいいます。業務を行なう担当者にとっては「当たり前でなく標準的でもないと感じる業務処理」のことです。一般的な顧客対応を考えた際、重要な顧客であるからこそ特別対応をしているので、従業員も「ミスは決して許されない」と自覚しています。しかしながら、オフィス業務の場合にはさまざまなパターンがあるのでどれが例外処理なのかを区分するのは難しいものです。また過去に例外処理だったものが、通常パターンに変わっている場合もあります。通常パターンの業務になったものは、標準マニュアルとして整備し直していきます。例外処理を見直しするときは、例外処理を作成する手順と同じやり方で行います。まず、対象となる業務手順をまとめたものや関連した規則などを再度確認しておきます。その上で業務に詳しい人、ある程度の経験を持つ人を集めて、「特別な処理が必要なパターンは何か」を議論する場をセッティングします。議論を通じて「意識をして取り組まないとミスを犯してしまう危険性のある特別な処理」をすべて洗い出すようにします。特別な処理が必要な顧客、サービス、契約、時期、がないかという視点で業務をチェックしていきます。ベテランにとっては例外的な処理も当たり前になっているので、経験の浅い人がそれを聞き出すように議論を進めるとよいでしょう。実務を行っている人が、「これは例外的な処理が必要なパターンだ」と気付くようなマニュアルにすることが重要です。このため気付きにつながる例外処理の名称を付けるとよいでしょう。内容については「なぜ、そのような例外が発生したのか」「対象や期間はどうなのか」「どのような対応をするのか」という項目をまとめます。標準的な作業ができる人を前提としますので、それほど詳しく内容を書く必要はなく、できれば1ページに収まるようにします。重要なのは、標準処理と比較して留意点がすぐに伝わるようにまとめることです。一度の議論ではすべての例外処理を洗い出すことは難しいので、日常業務を通じて、「こんなパターン処理があった」などと、特別だと思われる処理を行い、気付いた時に関係者と協議したうえで例外処理対応の解説書に追加していくことも必要となります。
ステップ6チェックリストを作成するチェックリストの目的は、「うっかり忘れ」を防ぎ、確実にマニュアル通りに実施させるためのものです。マニュアルに書かれている内容を「徹底させる」ためのツールであり、マニュアルの補完的な位置付けとなります。したがって、マニュアルを改訂すると、チェックリストも改訂しなければなりません。見直しの観点は次の通りです。・チェックリストはマニュアルをもとに、実施すべき項目が適切な順序で示されているか・項目を実施したら、実施済みチェックができるようになっているか・作業者がチェックしやすいように、ミスなく、簡便に行えるものになっているか・管理者や指導する立場の人が、指導対象者の実務の実施状況を評価できるようなチェックリストを整備しているか。また、チェックリストを活用した定期的なマネジメントの仕組みがあるかマニュアルには何も記入されていないチェックリストと記入例を掲載しておき、未記入チェックリストをコピーして実務の中で使用します。
ステップ7理解しやすさの向上を図るわかりやすいマニュアルにするためのキーワードは、「見る気にさせるマニュアルづくり」です。ポイントは、「マニュアルの見た目の印象をよくして、見る気にさせること」「短時間で正しく理解できるようにすること」です。①マニュアルの構成とフォーマットが統一されているか業務別に手順と留意点が説明され、その後に作成する帳票の形式説明が書かれているというように構成が統一されていると書かれている内容が想定できます。②使用する用語が統一されているか(用語も更新されているか)同じ帳票をいろいろな人が別の名前で呼んでいるケースは少なくありません。マニュアル作成時には帳票の呼び名をはじめ、システム名などの用語の統一を図りましょう。③読み手が見やすいようにビジュアル面で配慮して作成されているかできれば文章を読まずに理解できるようにする工夫が重要です。絵、図、表を効果的に取り入れ、伝えるべきことがひと目で理解できるように工夫しましょう。
ステップ8探しやすさの向上を図るマニュアルの量が増えてくると、探す手間がかかるようになります。マニュアルがどこに保管されているか、目的のページはどこか、知りたい情報がどこに書かれているかがわからなければ、利用したい人も諦めてマニュアルを見ることがなくなります。探せるマニュアルに見直すためには、知りたい情報を探しやすくするためには、活用する人にとって、どのあたりにあるのかが推測できるように、一定の法則を持たせることが重要です。①業務の体系化ができているか業務の体系化ができていなければ、業務の一覧表を作成し、マニュアルのファイル名やマニュアルの目次を更新すべきです。業務の体系的な整理とは、ある部門で行っている業務はどのようなものがあり、それぞれの業務の範囲はどこからどこまでをいうのかを明確にしておくということです。この業務の一覧表をしっかりと作成しておけば、一覧表からどの業務のマニュアルがどこにあるかが推測できるようになります。すでに業務の一覧表があれば、マニュアルに合わせて一覧表も更新し、最新状態にしておく必要があります。②マニュアル内の構成とフォーマットは統一されているか前項でも説明したように、業務ごとに解説するものの構成が統一されていなければわかりにくくなるだけでなく、探しにくくなります。誰が見てもわかりやすく整理されていると、誰でもが探しやすくなることにつながります。業務ごとに解説する項目を統一し、フォーマットも同じもので作成するようにしましょう。③マニュアルの全体構成とファイルの保管場所の構成表をつくるマニュアルの全体構成(業務分掌)とファイルの保管場所がリンクしていると、誰でも探せ、アクセスすることができます。またマニュアルごとにどのような項目が解説されているのかを示す構成表を作成し、どのような業務の解説が、どこに書かれているか、項目の順番はどのようになっているのかなどが一見してわかるようにします。項目別に記載されているページを示せば、それが「目次」になります。最初は手間に感じるかもしれませんが、一度作成すれば更新するだけなので、後で楽になります。
ステップ9更新しやすさの向上を図るマニュアルの更新は定期的、あるいは都度行わなければなりませんが、更新作業そのものに多くの手間がかかってしまうと、また使われないマニュアルに逆戻りしてしまいます。マニュアルを簡単に更新できるようにするためには、作成者だけでなく、実務を行っている人でも気軽に更新できるような配慮が重要となってきます。①統一された標準マニュアルフォーマットは整備されているかこれまでに説明してきた、業務目的、インプット/アウトプット、業務手順、業務要領などが備わったフォーマットを整備することが重要です。フォーマットを統一しておくことでマニュアルの作成者でなくても、どこに何を書くべきかを判断しやすくなり、更新しやすくなります。②必要以上に凝りすぎて、芸術作品のようになっていないかあまりにもビジュアルを追求しすぎてしまうと、ビジュアル化が得意でない人が更新しにくくなります。今後の更新の可能性を考慮して、あまり凝りすぎないことも大切です。③更新は紙ではなく、データで管理しているか紙をベースとしたマニュアルでの内容更新は、赤ペンで修正をする程度しかできず、写真などの変更がしにくくなります。印刷物としてアウトプットするのはよいのですが、更新はデータで行います。更新しやすいマニュアルは、データで管理し、データ内容、保存場所が誰でもわかる状態にしておく必要があります。④誰でも使えるソフトで作成しているかマニュアル作成者以外の人でもマニュアルを更新できるようにするためには、多くの人が使えるソフト(Word、Excel、PowerPoint)でマニュアルを作成しておくことが重要です。⑤ページ振りを工夫しているか作成したマニュアルに1から通しでページ振りをしてしまうと、ページの追加・削除が発生した時、以降すべてのページの修正が必要になります。ファイルごと、業務ごとに区分できるように、たとえば「人事─3─2─4」といったページ振りをすると、ページの追加や削除の影響を受ける範囲を最小限に抑えることができます。
ステップ10更新タイミングを明確化するマニュアルを作成・見直しするときには作成・見直しの担当者が作成状況を管理してくれます。しかし、いったんマニュアルが完成するとそれぞれの部門でマニュアルを管理していかなければならないのが一般的です。残念ながら、マニュアル更新のタイミングが明確になっている企業は少なく、新しい業務が増えてもマニュアルは作成しないままで、業務が変わってもマニュアルが更新されないことがしばしばあります。大切なことは、いつ更新をしなければならないのかを知っておくことと、会社・部門の年次業務として組み込み、活用度の評価とともにマニュアルのあり方や活用方法を見直すことが重要です。①業務のやり方を見直すべきときに更新する業務のやり方が変わる時や新しい業務が増える時はマニュアルを更新していくことが必要です。具体的には次のようなタイミングです。a.製品・サービスの変更:新製品・新サービスの投入、一部変更、廃止b.業務で使用する設備の更新:生産現場の場合は生産設備や治工具などの更新、事務系の場合は業務システム、帳票などの更新c.外部要求の変化:顧客からの要望への対応、関連法令などの変更による対応、外部監査での指摘事項対応d.内部要求の変化:社内方針の変更、関連部門からの要求への対応e.業務改善:部門内での業務改善②マニュアルの更新の必要性に気付いたとき業務のやり方は変化しなくても、次のタイミングでマニュアルを更新しなければなりません。a.マニュアル上の間違いに気付いたとき:業務手順や業務要領などの記載内容に誤りがあったとき、更新されていないことに気付いたときb.マニュアルに加えるべきことに気付いたとき:もっとうまくやるためのコツ、例外処理などの追加が必要だと気付いたとき③定期的なマニュアル維持管理サイクル年1回、部門ごとでマニュアルの活用度と活用の問題点と対策を振り返る場を設けることが重要です。当初設定した目的に応じたマニュアル活用ができているか、維持管理する
ためのマネジメントサイクルの仕組み化と運用が必要です。
ステップ11更新担当者を選定する直面しがたい事実ですが、マニュアルを進んで更新しようとする人は、めったにいません。だからこそ、組織的に活用状況の振り返りの場と更新体制、ルールを決めておくことが必要となります。活用状況の振り返りでは、想定した目的を果たすツールになっているかどうかを確認します。マニュアル更新のための体制としては、課または係といった部門ごとに1名のマニュアル管理責任者を選定するとともに、業務別の更新担当者を決めておきます。このマニュアル更新担当者には、その業務に詳しい人を選定します。マニュアル更新ルールには大きく「随時更新」と「定期更新」の2つがあります。①随時更新:業務のやり方が変わったときや更新の必要性に気付いたときに随時更新していくことです。随時更新の基本は、更新担当者が確実にマニュアルを更新し、マニュアル管理責任者に報告します。更新を忘れた場合は、更新担当者の責任です。他の人が更新担当者より先に気付いた場合には更新担当者と管理責任者にそのことを伝え、マニュアルが確実に更新されるようにします。管理責任者はマニュアルが更新されたかをフォローすることが必要です。②定期更新:1年または2年といったタイミングで定期的にマニュアルの内容を総点検し、最新の内容になるように更新します。随時更新で確実にマニュアルが更新されることが理想ですが、実際にはモレが生じます。それを補うのが定期更新のねらいです。定期更新はマニュアル管理責任者が活動の統括的な立場となって、各業務の更新担当者にマニュアル内容の総点検と更新をしてもらうことになります。随時更新で、マニュアルの更新の必要性に気付くためには、半期に一度は部門のメンバー全員でマニュアルを活用しながら業務のやり方を詳細に確認し、同時にもっとよいやり方はないのか議論する時間を設ける手があります。その議論の場ではマニュアルとは違ったやり方をしている人を見つけ、その人のやり方がよいやり方なのかを議論します。その人のやり方がマニュアルに書かれているやり方よりもよいものでなければ、その人のやり方を直していきます。このほか、実務を行っていて「これはみんなで共有したほうがよい」と感じる場面があります。いわゆる成功体験、失敗体験などです。このようなことを感じた場合には、すべてマニュアルに反映するようなルールをつくることも必要でしょう。
00マニュアル電子化の手順前章では、マニュアルの有効性と見直しの必要性について、書いてきました。本章では、マニュアルを見直していく手順について説明していきます。今回は、電子化することを念頭に書いています。電子化を進めるに当たって図表のようなステップがあります。①運用イメージと電子化の対象範囲を明確にする②マニュアルソフトを選定する③マニュアルソフトを載せるハードを選定する④ネットワークとセキュリティ環境を整備する⑤活用に向けたリテラシー教育をする⑥意見共有の場を作る一般的なソフトウェアやシステムの導入とステップ上での違いはありませんが、マニュアルの電子化に特化した形で今回は説明します。
ステップ1運用イメージを明確にするマニュアルを電子化するに当たって、まずは対象範囲を明確にする必要があります。膨大な数のマニュアルが社内には存在すると思いますが、すべて電子化する必要があるか一度検討することをおすすめします。「紙のマニュアルがタブレットに載り、どこでも見られるようになる」というざっくりとしたイメージは誰でも持てるのですが、「誰が」「どのような場面で」「何のマニュアルを見るのか?」といった具体的なシーンを想定することが重要です。具体的な運用イメージに落とし込んで考えることにより、マニュアル毎の電子化する必要性を考えやすくなります。紙のマニュアルと電子マニュアルのメリット・デメリットを整理してあるので、それに照らし合わせて検討しましょう。また、対象の選定と同時に、マニュアルの運用イメージを先に練り上げることも重要です。このステップを正しく踏まないと後に続く、ハードウェアやソフトウェアの選定時に機能の要否判断が難しくなります。結果的に、コストが余計にかかってしまう要因になってしまうので、丁寧に推進することが重要です。
ステップ2マニュアルソフトを選定するマニュアルの対象範囲と運用イメージが明確になったら、そのイメージを実現するソフトウェアを選定します。大枠の手順は3つです、①複数候補を選出し、②前項の対象範囲と活用シーンを基軸として評価し、③選定となります。最初の候補選出については、iPadが登場して以来、マニュアル関連ではタブレット型端末に対応したソフトウェアが増えてきており、候補を探すことにはあまり苦労しないでしょう。一方で、選択肢が増えてきた分、複数候補の評価が難しくなってきます。一般的なコストの評価はもちろんですが、前項で明確にした活用シーンを実現できるかという点を重要視する必要があります。一般的な仕様(たとえば「動画視聴」や「ネットワーク上のファイルの参照」)は、大差がありませんが、細かい仕様ではソフトウェア毎に異なります。たとえば、動画を再生するときに必ず全画面で開くものと、マニュアルの小窓の中でも開けるもの(全画面も可のもの)という差があったとします。このような仕様差を評価するためにも活用シーンに沿った評価が重要になります。また、電子マニュアルに直接関わる仕様だけでなく「対応端末の多さ」や「最新OSへの対応状況」「サポートの充実度(電話以外にも、サイトやメールでのサポートなどをしてくれる会社もあります)」も評価の項目に加えておくとよいでしょう。活用シーンにもよりますが、筆者の過去の経験上では複数のソフトでどれか1つが万能かつ低コストで圧倒的優位ということはあまりありません。ある面が優れていれば別の面が劣っている状態はよくあります。また、仕様面で優れていてもコスト面が合わないことも多いです。そういう状況に陥ったときには、活用イメージに戻るようにしてください。目的は電子化や優れたソフトウェアを導入することではなく、それを通して作業の効率化や付加価値の向上を図ることです。そのためには、活用イメージが迷ったときの羅針盤になります。迷ったときは、一度活用イメージに立ち返り「仕様が足りない場合はどういうシーンに変わるのだろうか?」「別の仕様で対応できないか?」という点について戻って議論するとよいでしょう。ソフトウェアの選定は、見直すマニュアルの実現に大きく影響します。手戻りをいとわず、活用イメージの練り直しも含めて粘り強く推進してください。
コラムITベンダーを選考する際の手順ここでは、ITベンダーの選び方について詳細に説明しておこうと思います。電子マニュアルをベンダーに依頼する場合、大きく2つの方法があります。1つめはパッケージ化されたものを購入する方法です。パッケージ化とは、ベンダーにおいてある程度確立された機能、仕様、フォーマットが定められており、そのシステムにこちらが合わせていく形です。目的に合致していればよいのですが、業務特性、目的に沿わない場合は、追加でカスタマイズ化する必要があります。2つめは、スクラッチ開発(まったくのゼロから開発すること)できるベンダーを選定することです。既存の製品や雛形などを流用せずに、ゼロから新規に開発することを指します。反面、システム開発が伴うため予算増になる可能性が高くなります。ベンダー選定においては、費用対効果、または機能要件の評価によっての判断となりますが、一般的に中小企業の場合はスクラッチ開発する予算や時間を割くことができないため、1つめに挙げたパッケージ化されたマニュアルソフトを入れるのがベターと言えるでしょう。仕様書作成と同時にベンダーの候補の検討を始めるわけですが、要件・仕様を踏まえたうえで、どんなベンダーがあるのかを調査します。まず1次選考は、要件として提示した機能に対して充足しているかを確認したうえで価格を基準に行うとよいでしょう。機能などがどんなによくても想定している価格と対比した際に明らかに予算外のベンダーはこの時点で切り捨てます。最終選考では、価格はもちろんのこと、①仕様要件を満たしているもしくは開発が可能か、②スケジュール感として適正か、という点からも判断します。そして、ベンダーが決まったら、「はい、お任せ」ではなく、詳細に設計に入ります。詳細設計での目的は、ベンダーと調整を行いながら、これまで検討してきたい要件・仕様をより具体化しマニュアルの電子化に必要な仕様を詰めていきます。
ステップ3マニュアルソフトを載せるハードを選定するソフトウェアが決定したら、ハードウェアの検討を行います。ソフトウェアのベンダーと連携して、マニュアルのソフトが載るのに最適なものを選定する必要があります。近年、マニュアルの電子化というとソフトはいろいろありますが、ハードはタブレット型端末を想定する人が多いと思います。ハードウェアの選定においても決め打ちはせずに複数の選択肢を持ち、議論しながら決定していくほうが最終的に現場にフィットしやすくなります。次図はとある企業でマニュアルの電子化を検討したときのハードウェアの検討例です。この企業も当初はタブレット型の端末に重点を置いて検討していました。しかし、我々と議論していくうちにマニュアルを使う人たちは現場での移動をほとんどせずに立ち仕事をしながら使うことが判明しました。この章ですでに紹介した図はそのときのものです。しかも、マニュアルに載せる内容は手順書から図面まで多岐にわたり、タブレット型の端末だと、見にくい懸念が出てきました。そこで、再度必要なことを議論した結果、優先すべきポイントがタッチ操作・大画面の2点に絞られ、結果としては通常のデスクトップPCにタッチ操作対応のモニタをつけてマニュアルを運用するようになりました。この例でもあるように、当初思い描いているものにとらわれず、重要なことは何かと考えながらハードウェアを選定していく必要があります。
コラムハードウェアを選定する際の手順電子マニュアル作成時には、ハードウェアの検討が必要となります。一般的なフローとして次のようなステップで行います。①現状分析まず現状の実態を正しく理解するために現状分析を行います。実態を正しく把握するためには、ヒアリングだけでなく、既存業務の洗い出しや職場を目で見て把握することが重要です。現状分析は軽視されがちですが、実は成功のカギは、実態(問題点、理想とのギャップ)をいかに把握できるかにかかっているといっても過言ではありません。②仕様検討仕様検討は、ハードウェアに求める機能を決めるために行います。つまり、こんなことがしたい、そのためには、どんな仕様が必要かを検討することになります。この段階では、あまり制約を考えずに検討できるとよいでしょう。③要求仕様書作成第3のフェーズでは、②でまとめた仕様要件をまとめ、ベンダーへ提出できる形に資料化します。どんな背景からマニュアル電子化を検討しているのか、自分たちが何をやりたいのかをベンダーに正確に理解してもらうために提案書という形でまとめます。このフェーズは、システム開発会社から良い提案をもらうために重要な要素と言われています。また、自分たちの考えを整理するうえでも何が目的でどんな機能が必要なのかを整理するため、関係メンバーの理解促進にもつながります。
ステップ4ネットワークとセキュリティ環境を整備するマニュアル電子化のメリットの一つに、ネットワーク上でファイル管理が可能になる点があります。ネットワーク上でファイルを管理するに当たって自社のネットワーク環境を確認することは重要です。また、ネットワーク上にデータを置くということは情報流出の可能性が紙より高まるため、セキュリティの状態も合わせて確認する必要があります。これらは、情報システム部門に丸投げせず、運用イメージやソフト・ハードの情報を共有しながら課題解決に当たっていくことをおすすめします。マニュアル担当者は情報システム部門とは限りませんし、自社のネットワークに関して知識があることも稀です。システムやネットワークに関する内容はアレルギーを持っている人も多く、ついつい社内の専門家に一括してお願いしてしまうケースはよくあります。しかし、社内の専門家はシステムやネットワークには精通していても、マニュアルの改訂やこれからマニュアルをどう活用していくかについては情報を持ち合わせていません。担当者はそういう部分を一辺倒に伝達するだけでなく、一緒にネットワーク環境の確認・整備を検討するとよいでしょう。ネットワークの整備と同時にセキュリティの対策も練る必要があります。マニュアルの内容にもよりますが、前章で書いたように匠の作業内容やそのポイントなどは会社にとっての重要な情報になります。日本ネットワークセキュリティ協会に機密性リスクの分類分けがありますが、それによると業務マニュアルは機密性リスクが中~大のものと扱われ、セキュリティ対策がやはり必要な領域と認識されています。セキュリティ対策をするためにはリスクの洗い出し→評価という手順で進めます。まずリスクを洗い出します。セキュリティの議論をするときは、複数メンバーで情報漏えいの事例などを調べながら洗い出すとうまくいきます。ネットワークの整備の部分と同様に、社内の情報システム部門と協力して進めていくと効率的に進めることができます。リスクを洗い出したら対策と評価を行います。なかには技術的に対策が困難なこともありますし、発生可能性から見たら稀なものもあります。それを評価をしていきながらセキュリティの対策をしていきます。この後で詳しく述べますが、技術的な対策だけでなく、使用者のITリテラシーなども情報漏えいリスクを減らすうえで一定の効果があります。このような対策を行っていくことにより安心してマニュアルを使うことができるようになりますので、苦手意識がある人も社内のメンバーと連携して進めてください。
ステップ5活用に向けたリテラシー教育をする電子マニュアルの活用という点では、マニュアルソフトやハードの使い方以外にもITリテラシーの教育も必要です。ITリテラシーとは、「PCやタブレットのIT機器、またはソフトウェアを使いこなす能力」のことを指します。教育に当たって、①使用者の確認②教育内容の設計③教育実施の手順で進めていきます。使用者の年齢層が高ければ高いほど一般的にITリテラシーは低い傾向にあります。ただし、年齢だけで教育内容を設計してしまわずに、何名か実際にヒアリングすることをおすすめします。現場の声や実態を確認して、それに合った教育内容・教育計画を立てていくと無駄なく進めることができます。主な教育内容として、電子マニュアルが搭載されている機器の使用方法、閲覧・検索するためのソフトウェアの使用方法が中心となります。基本操作面の教育にくわえて、維持管理面、誤操作に関する教育も重要です。機器(ハード)面では、機器故障対応・取扱注意事項(機器に悪影響を及ぼす粉塵などが飛散する環境に保管しない、衝撃や振動が伝わらないような保管を行うなど)が必要です。ソフトウェア面では、誤操作による削除の注意、セキュリティ対策(メモリの接続禁止、コピーや持ち出しの禁止)などが必要になってきます。直感的に操作できるように電子マニュアルを整備したつもりでも、基本的な知識教育を怠ると、思わぬ落とし穴が待っているものです。
ステップ6意見共有の場を作るマニュアルを実務で活用するためには、使い手からの情報・声が重要となることを忘れてはいけません。使い手からの情報を軽視せず、マニュアルの間違った情報や不具合、その他要望などをできるだけリアルタイムで把握し、改善・更新を行うべきです。そこで最後に、意見共有の場を作ります。多くの企業では、導入と教育を行うことで一段落と考えている人が多いのですが、マニュアルやシステムは使用時や使用後の意見や感想を共有して初めて価値が出てきます。そのためにも、意見共有の場は必要になります。最近では、SNSやWikiが出てきたのでそれを活用し意見共有を進めていくことを目指します。導入については、ソフトウェアの選定と同様に、①複数のサービスの情報収集②利用者のレベルを鑑みた評価③導入・活用という進め方になります。意見共有の場を作る上で、ありがちなことは「誰も投稿しない」「投稿しても反応がない」という過疎状態になることです。せっかく意見共有の場を作ったのにこうなってしまってはもったいないです。このような状態にならないために、場の盛り上げ役を設定しましょう。盛り上げ役の人は、みずから積極的に投稿するとともに他の投稿者にコメントをするようにします。できれば、複数人で年齢・性別・役職にバラツキを持たせて個性的なメンバーをそろえるとなお良いでしょう。「誰かが反応してくれる」「共感してくれる」ということはうれしいことであり、うれしくなるためにまた投稿したくなります。この盛り上げを根気強くやっていくことが意見共有の場を作っていく上での重要な活動です。SNSやWikiが出てきてからは、感じたことやアドバイスをSNSのページに投稿することによって、別の人の返信から新しいアイディアをもらえたり、共感をしてもらえたりします。Wikiには、成功事例や失敗事例をためることによって事例集が蓄積されていきます。これらの情報は、今までのフェイス・トゥ・フェイスや電話・メールでは断片的にしか把握できませんでしたが、SNSとWikiによって情報を集めやすくしかも情報の重要度も推し量ることも可能です。SNSやWikiの普及により、今まで以上にマニュアルに対する意見や新しいアイディアをもらえるようになっています。意見共有の場を作り、盛り上げることによってよりよいマニュアルを作っていく基盤を作っていくことが重要になります。
01マニュアル作成に適した担当者とはマニュアル作成を行う人を社内で選定する場合については、次のような人を選定するとよいと言われています。①中立的な人マニュアルは、個人の感情が過度に入ることはよくありません。問題意識を持っていても、偏った考え方をしている人では良いマニュアルはできません(文句になる場合がある)。たとえば、自分のやり方が一番正しいと考えていて、他人の意見に聞く耳も持たず断固拒否する人は向かないと言えるでしょう。②マニュアル作成業務をある程度把握している人業務もわからずの真っ白な状態では非効率であり、業務把握もかねてヒアリングや動画撮影を行うこともできますが、モデル化されたマニュアルにならない可能性があります。それは、何が正解で、何が間違いなのかがはっきりしないためです。したがって、ある程度業務内容を把握しており、業務の良し悪しが判断できる人がよいでしょう。③意思決定ができる人性格面として「ある程度の思いきりの良さ」「前向き思考」な人のほうがよいでしょう。というのも、この業務で良いのか、何が正解か……と議論になる場合があり、意思決定できる人=判断できる人がいると前進します。ただし、意思決定ができる人を巻き込む、必ず確認をするというステップを踏まえると、意思決定できない人でも補うことができます。また、1枚1枚を丁寧に作ることも重要ですが、まずは使ってみることのほうが重要です。④目的を理解している人なぜ、マニュアル化するのか、その必要性を正しく理解している人を選定するとよいでしょう。いちばん良くないのは、「押し付け業務になる」「マニュアル化について必要性を理解していない」場合です。一般的に、押し付け業務になるとアウトプットレベルが下がる傾向にあります。マニュアル作成は簡単なものではなく、適任者の選定も重要なキーワードとなります。
02業務マニュアルに適した文章とはマニュアルの文章作成はあまり考えすぎずに臨むことが大切です。使い手は、経験者よりは経験の浅い人を対象とする場合が多いです。いわば初心者に対して、やり方・手順・ノウハウを示すものだと考えることがよいでしょう。使うべきシーンで使われるに足りる品質を備えていなければいけない点を確認するようにしましょう。ここでは、文章作成におけるポイントを挙げていきます。使い手や、使用シーンに応じて必要なポイントは何かを考え、押さえるべきポイントを意識して作成するとよいでしょう。ただし、作成者がどんなに気を遣って作成していても、いざ使ってみると、思わぬコメントがある場合があります。今回挙げた8つのポイントを活かしつつ、トライ&エラーを繰り返しながら対象となる使い手にとって、わかりやすく、伝わる文章を意識して作り上げていきましょう。
03会社全体のビジョンやクレドを組み込む「クレド」という言葉をご存じでしょうか。「クレド」とは、ストーリー内で紹介したジョンソン・エンド・ジョンソンやザ・リッツ・カールトン、おもてなしで定評のある「加賀屋」などが採用している仕組みで、企業理念に基づいた行動指針を具体的かつ簡潔に記載したものです。具体的には「どのように仕事をするべきか」「どのように振る舞うべきか」などを全従業員で共通認識にし行動するために用いられています。さて、「マニュアル」の本に「クレド?」と思われた方もいるかと思いますが、実は密接な関係を持っています。マニュアルに記載されている内容は、会社の・部門の・課の標準的な手順・やり方です。一つひとつのマニュアルの記載内容がバラバラにならないように統一した指針を出すとより良いマニュアルになります。その一つの方法が「クレド」になります。共通の目的・考え方を持ち、そのうえで一つひとつのマニュアルを作成・見直ししていくと、マニュアルは何のためにあるのかがより明確になるでしょう。
04動画マニュアルの基本的な考え方紙マニュアルや電子マニュアルに置き換わる動画マニュアルが増えてきています。動画マニュアルは、文書を書く必要がなくなる反面、模範となる業務を決め撮影しておく必要があります。せっかくの動画にもかかわらず、モデルに誤りがあったり、動作がわかりづらければ意味がありません。撮影にあたり、ただ撮影するだけでは良いマニュアルとは言えません。使える・活かせるマニュアルというのは次の工夫をしているものを指します。①目的志向(何のための動画マニュアルなのかが明らかになっている)②特性・特徴を捉える(用途別で動画の撮影方法を変える)たとえば、製造現場の組立作業のような細かい作業の場合、手元がわかるように撮影をしたほうがよいでしょう。逆に、全体的な業務の流れ・動きを把握したい場合は、手元作業ではなく遠めから撮影し全体の動きを把握できるようにします。何のための動画なのかと目的をよく考え、動画の撮り方を少し工夫するだけで、実用度が大きく異なります。また、その効果も変わってくるでしょう。
05動画撮影の手順動画撮影は紙マニュアルと違い、動きを撮るものなので修正に手間がかかります。よって、動画撮影前の事前段取りが重要となります。ここでは、動画撮影時のポイントを手順を追って挙げていきます。①目的・対象選定(対象となる業務、業務範囲選定、目的明確化)対象となる業務を明確にします。特に、対象とする作業の始まり(始点)、終わり(終点)をはっきりさせることがポイントです。②事前準備・段取り(動画を撮影する機材〈ビデオカメラ、スマホ、タブレット、デジカメ〉、モデル撮影者への許可取り、撮影角度、方法の検討)動画マニュアルは撮影を行うことが前提となります。撮影にあたっては、撮影する人はもちろんのこと、まずは周辺関係者や職場の責任者へ事前案内しておくとよいでしょう。また、撮影方法(撮影角度)は①で述べた通り、目的に踏まえたうえで設定します。③実施日、実施担当者の選定(モデルとして撮影をする人、動画を撮影する人・・・・・・)目的や対象がはっきりしたら、次に行うことは、撮影日、撮影者を設定することです。日々のルーチンワークであれば決める必要がありませんが、業務内容が変則的なものを対象にする場合は、いつ発生するのかを事前に把握し撮影タイミングを決めておかなければなりません。また、モデルとなる撮影者は、目的を満たすために適任を選定しておくとよいでしょう。ここで「目的とする機能を満たす」と述べたのは、マニュアルは、「誰が・いつ・どんなときに、何のために使うものなのか」を踏まえたうえで決めるのが大切ということです。④撮影(通常業務の撮影)撮影時のポイントとしては、通常通りに業務を行ってもらうことです。あくまでマニュアル化を行うための動画撮影であるため、過度に丁寧な接客や、作業である必要はなく、通常通りの作業を撮影者には行ってもらうよう事前に説明しておくようにしましょう。また、撮影者には過度に負荷を与えないことも考慮しておくとよいでしょう。
01マニュアル改訂後にチェックすべきことマニュアルは一度作成して終わりではありません。重要なのは、日々の業務で必要なシーンで使われているかということだと何度も述べてきました。では、具体的にどのような場面でチェックをすればよいのでしょうか。モノを作っている作業現場向けのマニュアルであれば、実際にマニュアルを使用してモノを作れるかを確認するとよいでしょう。事務作業であれば、必要なシーンでアウトプットが出せるかを確認すればよいでしょう。いずれにしても、作成者は作成したことに満足することなく、使用されているか、また、間違い・不具合が発生していないかなどをチェックする必要があります。しかしながら、自分自身が作成したものであるため、主観的になりやすく、使い手が間違っていると認識されがちです。したがって、客観的な立場でチェックするよう心掛けるとよいでしょう。一般的には、マニュアルを作成するまでの作業に注力されがちですが、作成後も重要であることを理解してください。そして、マニュアル作成・見直し時には最初から力を入れすぎず、実際に使ってみて(使わせてみて)、確認・チェックの繰り返しのサイクルを回しながら、徐々に完成度を上げていくことをオススメします。マニュアルを作るということは、手順・やり方が見える化されることで、基準ができることになります。基準があれば、ものさしができるので、自分自身の良し悪しが把握できたり、正確性が上がったりします。正確性が上がるとやがて能率も上昇していきます。このように、マニュアル作成は、仕事そのものの効率化、あるいは改善にもつながるのです。
02マニュアルの限界を知る皆さんがマニュアルを作成するとき、その対象となる業務を洗い出すことから始めることになりますが、その際に「発生していない業務」「発生頻度の低い業務」は抜け落ちてしまう可能性があり、この点は業務マニュアルの限界と言えるでしょう。つまり、事前に設定されていない業務をマニュアル化することはできない、ということです。一方で、実際の業務が必要以上に煩雑で非論理的な場合、マニュアル化してもユーザーが混乱してしまうということもあります。毎回業務手順が異なり、それが問題にならないようでは、手元のマニュアルを見ても業務を再現することはできません。この場合は、業務フローをマニュアル化に適した形に改善することが求められます。マニュアル化できない職人芸に依存しているようでは、業務フローとして問題があることが多いのです。
03マニュアルにない業務への対応「マニュアル人間」という言葉があります。マニュアル通りにしか行動・判断できない人間、機械化された意志のない人間といった意味で、批判的に使われることの多い言葉です。マニュアル化に限界がある以上、マニュアルにない業務が発生したときにどう対処するかは重要ですが、普段優秀なマニュアルに頼りきって業務にあたっていると、想像力や当事者意識が乏しくなってしまう場合があります。第2章で述べたように「例外処理」をマニュアル内で述べることはできますが、マニュアルに作成された背景や作業項目として表記できないノウハウ、作り手の思いや判断基準などは書かれていません。ところが、マニュアルに書いていない業務にあたるには、この「マニュアルに記載されていない事項」が重要になります。それは、その企業の判断ルールであったり、慣習であったり、効率的な業務のパターンであったりします。マニュアルを生み出した人は、こういった事項を理解・体得したうえで作成しています。利用する側はマニュアルに沿った日常業務の中で、「自分はどう考えるか」「それは本当に正しいのか」「自分はこの仕事をどうしたいのか」「なぜそういった手順になったのか」を考えていきながら、このマニュアルの背景を理解していかなくてはなりません。業務を通じたマニュアルの理解のほかに、企業の価値観や論理、最低限守らなくてはならない法令やルールなどを明文化し、教育していくことで「ベクトルのあった暗黙知」を浸透させていくことは可能です。マニュアルを生み出せる人材になることが、マニュアルにない業務が発生した際の適切な対応につながっていきます。
【著者プロフィール】株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC〔ジェーマック〕)戦略、生産、研究開発、営業、新事業化、自治体などの革新パートナーとして60年以上の歴史をもつ日本を代表する総合コンサルティングファーム。「現場主義」「成果主義」に代表されるJMACのコンサルティングスタイルは、日本のみならず海外のクライアントからも高く支持されており、特に一人ひとりのコンサルタントによる顧客現場での革新実践力には定評がある。【執筆者プロフィール】小野甫(おのはじめ)日本能率協会コンサルティング入社後、生産領域を中心に、複数プロジェクトに参画。これまで、印刷、食品製造、自動車部品製造、製薬などの業種を中心に活動。調達のコストダウンを中心に、調達組織全体の改革活動から製造現場・ホワイトカラー業務の生産性向上まで幅広く活動を行っている。山田康介(やまだこうすけ)日本能率協会コンサルティング入社後、生産領域を中心に、複数プロジェクトに参画。これまで、印刷、住宅部材、化学などの業種を中心に様々な業種を経験。製造現場のコストダウンを中心に、現場を基軸としたQCD革新や中小企業の経営改革に至るまで幅広く活動している。大森靖之(おおもりやすゆき)日本能率協会コンサルティング入社後、新工場建設、生産性向上、在庫削減など複数のプロジェクトに参画し、生産領域を中心にコンサルティングを行っている。生産領域以外には営業マネジメント力強化やホワイトカラー業務改善の支援も行っている。
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